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道 路 課 金 の 国 際 標 準 化 の 動 向

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道 路 課 金 の 国 際 標 準 化 の 動 向
道 路 課 金 の 国 際 標 準 化 の 動 向
~欧州の道路課金の状況~
中村 徹
Toru Nakamura
ITS・新道路創世本部
欧州委員会は、将来的に必要とされる道路課金ついて、欧州内インターオペラビリティ(欧
州統一車載器)を図るために、2004 年 4 月にEETS 1 を欧州指令として採択した。これ以降、GPS
とGSMを利用した道路課金(自律型EFC)関連の標準化作業項目が増えた。また、欧州委員会よ
り 2006 年 3 月にICT 2 Standardisation Work Programmeが発表され、標準化作業に欧州委員会
から予算が充てられるようになり、欧州内においてITSの標準化作業が活発化している。
道路課金の分野では 2004 年 4 月に欧州指令として採択された EETS が 2009 年 10 月に欧州決
定事項として採択されたため、標準化作業が急がれている。
本稿では、欧州の道路課金動向を調査し、道路課金の国際標準について報告する。
1. はじめに
欧州の道路課金は、1988 年にノルウェーで世界に先駆けて自動料金収受による道路課金が導入
され、その後、イタリア、オーストリア、ドイツなどの多くの国で道路課金が導入された。欧州
では表-1 に示すように、各国独自の道路課金方式を採用しているため、異なった道路課金シス
テム(車載器と支払い契約)が存在し、それらは互換性が無いため、欧州内を移動するトラック
は通過する国の道路課金システムに適合した車載器が必要となり、図-1 の様に数台の車載器を
搭載しなければならない。トラックはダッシュボードが広く、車載器を数台設置することは可能
であるが、乗用車のダッシュボードは広くないため、数台の車載器を搭載することは難しい。そ
こで、欧州委員会は、将来的に必要とされる道路課金ついて、欧州内インターオペラビリティ(欧
州統一車載器)を図るために、2004 年 4 月に EETS(欧州電子的道路課金システム)を欧州指令
として採択し、2009 年 10 月に EETS が欧州の決定事項として採択された。EETS の予定は、2012
年に 3.5t 以上の車両および乗車定員(運転手含)9 人以上の車両、2014 年に一般車両に対して適
用されることとなる。今後、一般車両にも車載器の設置が必要になることから、道路課金システ
ムの標準と車載器の統一化が急がれている。
道路課金の種類は、道路を傷めるトラックなどの重量車(12t 以上の重量車)を対象とした“重
量車課金”や都市内の交通渋滞の解消・環境改善を目的とした“ロードプライシング”があり、
近年では道路整備や維持管理の財源確保(税金)を目的とした道路課金が考えられている。欧州
では IT 技術を利用した様々な道路課金が導入されている。
欧州のように隣国と道路で行き来が自由な状況では、道路課金システムや車載器の標準化が急
務となっている。本調査研究では、道路課金の国際標準について報告する。
1
EETS:European Electronic Toll Service(欧州電子的道路課金サービス)
2
ICT:Information and Communication Technology
表-1 主な欧州道路課金の概要
項目
オーストリア
ドイツ
スイス
ロンドン
ストックホルム
対象車両
重量車
(3.5t 以上)
自動車道の拡
張・運用費用
重量車
(12t 以上)
自動車道の拡
張・運用費用
維持管理
自動車道路(若
干の高速国道
を含む)
距離課金
GPS/GSM
(GNSS/CN)
0.12€/ km
2,860 百万€
16%(建設費等
を含む)
重量車
(3.5t 以上)
重量車通行
の制限
全車両(一部車
両は免除)
渋滞対策
全車両(一部車
両は免除)
渋滞・環境対策
全道路
都市中心部の全
道路
都市中心部の全
道路
距離課金
DSRC/GPS/
タコグラフ
0.67€ / km
800 百万€
4%
コードン課金
ANPR
コードン課金
ANPR
8€ / day
275 百万€
48%
2.7€ / day
80 百万€
25%
主な課金
目的
対象道路網
課金の種別
適用技術
課金額
年間収入
運用コスト
収入
自動車道路(若
干の高速国道
を含む)
距離課金
DSRC
0.27€ / km
770 百万€
9%
オランダ
(トライアル)
全車両
渋滞対策
課税公平化
維持管理
全道路
距離課金
GPS/GSM
(GNSS/CN)
未定
未定
未定
※DSRC:Dedicated Short Range Communications 狭域通信
※GSM:Global System for Mobile Communications デジタル携帯電話の無線通信方式の一つ
※CN:Cellular Network セルラーネットワーク
※ANPR:Automatic Number Plate Recognition 自動ナンバープレート認識
(ECMT:European conference of Ministers of Transport 資料参照)
図-1 車載器設置例
車載器
2. 欧州の道路課金状況
欧州の道路課金は、ドイツやオーストリアなどの重量車課金、ロンドンやストックホルムなど
の都市内渋滞対策・環境改善対策を目的としたロードプライシングが実施されている。オランダ
では、世界初の道路課金の取り組みとして、自動車の保有などに関する税金を廃止し、全車両に
車載器を搭載して、道路を利用した距離に対して課金する道路利用課金(道路利用税)が考えら
れているが、政権交代によって実験や検討などは全て中断している。
ストックホルムのロードプライシングとドイツの重量車課金の事例を紹介する。
2-1. 道路課金の事例
(1) ロードプライシング
① 目的
ストックホルムでは、2007 年 8 月よりストックホルム中心部において、都心部の渋滞緩
和策や CO2 削減による環境保全対策を目的として、ストックホルム市内に出入りする車両
を対象に課金を開始した。
② 課金方式
ストックホルムの中心部へ行くには橋を通る必要があり、その該当する橋の 18 地点に課
金設備が設けてあり、車両が課金設備を通過する時、レーザーで車両を検知して前後のナ
ンバープレートを撮影するという仕組みであ
る(図-2)。
③ 支払い方法
車両の持ち主に対して月に 1 回請求書を送
り、口座引き落とし、インターネットによるカ
ード支払い、
コンビニエンスストアでの支払い
などとしている。課金の対象はスウェーデン国
内に登録されている車両とし、外国の車両
は課金されない。
出典:Swedish Transport Agency
図-2 ナンバープレート読取り設備の概略図
(2) 重量車課金の事例
① 目的
ドイツ国内を通過する重量車(トラック等)が道路を傷めていくため、重量車に対して
道路の補修費用を負担させることを目的として、2005 年 1 月に、世界初の衛星(GPS 衛
星)を利用した重量車課金システムの稼働を開始した。
② 課金方式
ドイツでは料金所がないため、GPS+GSM を用いた課金方式を採用し、仮想料金ポイン
トを設定し、ここを通過した車両から課金をしている。GPS+GSM を用いた課金方式は、
車載器に内蔵されているデジタル地図、課金情
報および GPS の位置情報によりに仮想の課金
ポイントを判定し、車載器自身で課金額を算出
する。算出された課金額は GSM を利用した通
信でセンターシステムに通知される(図-3)。
③ 支払い方法
支払は、前払いと後払いがあり、前払いはイ
ンターネットやマニュアル端末による登録、
後払いはクレジットカードである。
仮想課金ポイント
出典:ECMT2006 プレゼン資料
図-3 課金システムの構成
2-2. 欧州の道路課金
欧州の道路課金は、ナンバープレートの撮影や GPS
+GSM 方式だけでなく DSRC も利用されている。現
在は各国独自の道路課金システム(車載器と支払い契
約の関係)で運用しているため、国ごとに車載器を設
置しなければならいという課題がある。これを解決す
るために欧州では道路課金の標準化を進めている(図
-4)。
出典:ISO/TC204/WG5 国内分科会資料
図-4 欧州の道路課金イメージ
3. 欧州以外の道路課金の動向
(1) 米国
米国は 915MHz のメディアを利用した渋滞対策の道路課金が各地で実施されているが、仕様
は標準化されていないため、同一システムを採用している地域でしか利用できない。この問題
を解決するために、全米で利用できる道路課金システムを検討している模様である。標準化を
行うには時間と費用が掛かるため、欧州で作業中の標準を利用するようである。
米国では、ハイブリッド自動車や電気自動車などの普及により、ガソリンの消費が減少し、
ガソリン税の減少が予想されるので、これからは GPS を利用した距離課金を考えている。
(2) アジア地域の動き
シンガポールでは、都市内課金(ERP(Electronic Road Pricing))が実施されているが、将
来的にはシンガポール全土において GPS を利用した道路課金の実施を検討中で、2010 年に実
験を行う予定である。
中国では、DSRC を利用した道路課金を実施しているが、GPS を利用した道路課金の実験が
行われている。
インドでは、GPS を利用した課金方式、パッシブの DSRC、アクティブの DSRC の実験が
行われている。
4. 道路課金の標準化
道路課金に関する標準化は、CEN/TC278/WG1&ISO/TC204/WG5 合同会議で議論されている。
CEN/TC278 は ITS の CEN 規格(欧州規格)を ISO/TC204 は ITS の国際標準を議論する組織で
ある。この合同会議(国際会議)の出席者は、ほとんどが欧州諸国で構成され、欧州以外の常時
出席国はカナダと日本の二カ国だけである。近年、カナダは欧州と協力して標準化作業を進めて
いるため、ISO 側の国は日本だけである。国際会議はこのような状況であるため、CEN 規格とし
て承認された項目がそのまま ISO に提案されることが多い。特に、ICT Standardisation Work
Programme の発表後、一旦 CEN 規格としてから ISO へ提案されることが多くなってきた。日
本としての国際標準化対応は、道路課金の国際標準が CEN 独自の規格とならないように、CEN
で作業中の項目の内容を把握し、ISO に提案された場合には、日本にとって不利益とならないよ
うに意見提示を行っている。
道路課金の標準化の作業項目は、国際会議の出席者のほとんどが欧州諸国であることから、
CEN 規格=国際標準となりつつあることに注意しなければならない。道路課金の標準化項目だけ
でなく、他の標準化項目(例えば協調システム)についても同様の状況が考えられるため、今後
の標準化は国際標準だけでなく、CEN 規格も注視する必要がある。
5. 今後の道路課金
道路課金が導入された当初は渋滞対策、環境対策、重量車だけの課金が目的だった。しかし、
ハイブリッド車両や低燃費車両の増加、そして将来の電気自動車の普及に伴い、欧米では燃料税
が減少し、道路の維持管理費不足が問題視されている。そのため、ロードプライシング、高速道
路、トンネル、橋だけで行われてきた課金から、無料だった一般道に対して燃料税に変わる税収
入として道路利用税が考えられ、一般道への道路課金導入に向けた検討が欧米で見えてきた。一
般道からも課金することから、インフラ設備が必要な DSRC による課金方式から、インフラ設備
が不要な GPS+GSM による課金方式が標準となっている。世界の道路課金は、GPS を利用して
高速道路だけでなく一般道においても道路課金が行われる時代が来ると思われる。
GPS+GSM による課金方式は、欧州の標準になることが決まり、シンガポールでは導入に向け
た試験が 2010 年度中に行われる見込みであり、中国やインドでは既に実験が行われている。ま
た、米国は道路課金の標準化を米国独自で作業を行った場合、費用と時間が掛かるため、欧州の
標準を参考にした道路課金を考えている。欧州だけと思われていた GPS+GSM による課金方式
が徐々に米国やアジア地域にも広がりつつある。
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