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脳機能の発達には、家族や自然との
様々な接触の機会が重要
津本 忠治
(理化学研究所脳科学総合研究センターユニットリーダー)
親、兄弟など周りの人と「顔」や「目」を見つめて、言葉を交わすこと
が脳機能の発達に、大きく影響すると想定されている。
【これまでの研究から分かること】
大脳皮質側頭葉や扁桃体と呼ばれる領域には、「顔」だけによく反応する神経細胞が集まる
領域が存在し、「顔」に関する情報がコミュニケーションに重要であることが知られている。
【主張】
○ コミュニケーションは相手の「顔」に表れる情動(感情の変化が表情や行動に表れること)
の認知にもとづく場合が多いが、高度情報化の進展で、「顔」を合わせることが少なくなり、コミュ
ニケーション力を健全に発達させられない子どもが増加している。
○ 子どもがテレビやゲーム等を一人で見る機会を減らしたり、テレビを見る場合は家族一緒に見
ること、また、個食をせずに家族で顔を合わせて食事をする機会を増やすことが重要。
乳幼児期の健全な脳発達には、様々な刺激、訓練が必要。多くの自然、
社会環境を提供できる地域の役割は重要。
【これまでの研究から分かること】
脳機能の健全な発達には、乳幼児期に偏らない豊富な刺激を受けることが重要である。
多様な体験活動の減少やゲーム機器等特定のパターンの刺激のみ受ける子どもが増加。
【主張】
○ 多様な自然環境で遊ぶ、あるいは近所の人たちと顔を合わせ、言葉を交わすという機会は
大事。
○ 地域で子どもが遊べるような自然環境豊かな空き地や遊園地を残すこと、歩行者天国のよう
な車がいない地域や時間帯を放課後に設けること、放課後の子ども会活動を活発化すること
などは、子どもの脳の発達に良い刺激を与えると思われる。
飼育環境と脳の大きさ。刺激に富む環境で育った
ラットは乏しい環境のラットより脳が大きい
(資料 Rosenzweig et al、Sci Amer 226, 222, 1972)
人とのふれ合い、あたたかい抱きしめが
乳児期の信頼関係を築く
橋本 武夫
(久留米大学小児科臨床教授)
乳児期は、親子の基本的信頼関係(愛着)を作る時期。これを経て、次
の発達過程へつながる。
【学問的な事実・根拠】
(ア) 子育てにおいて、子育ちの基本的な課程をしっかり理解することが重要。その土台は乳児
期にある。乳児期の基本的信頼関係が心の安定を作り、次の自主性の発達過程、社会性の
発達過程へとつながる。
(イ) 母乳とミルクの物質的な差ではなく、それよりも授乳する行為がホルモンを刺激、母性行動
の発現に働き、子どもの信頼関係に結びつく。
【主張】
○ 乳児期の赤ちゃんは甘えの感情が
豊富であり、これを満たしてあげるこ
とで、愛着=基本的信頼関係が形成
されていく。
○ 父親の乳児期の育児参加の本当
の意味は、お母さんを精神的面も含
め、支え、Hug することである。
○ 母乳育児により愛着形成は強まる
が、母乳をやれないお母さんへの支
援を忘れてはならない。
子どもの時の「戯れ」、
「遊び」の重要性
【学問的な事実・根拠】
(ア) 人間の発達にとって前頭葉が重要。情緒、感性、我慢、善悪の判断は、前頭葉が司り、これ
は、人と人とのふれ合い、関わり、そして戯れ、遊びにより発達する。
(イ) 子どもの発達過程において育児の3∼4層構造(家庭→子ども集団→地域→学校)が重要
であるが、これが崩れ、その分家庭での育児負担が増加。家族が寄り添い、ふれ合い、育児
負担を軽減することも大事。
【主張】
○ 幼稚園での遊び、けんか、多くの子どもとのふれ合いなどの体験は、前頭葉の発達を促す。
○ 保育園、幼稚園で子どもが遊ばせられなくなっている現状は、捕虜収容所に等しいともいえ
る。
○ 読み聞かせも少なくなっているが、子どもの前頭葉の発達に大きく関わる。
○ 一方、子どものメディアづけは前頭葉の退化につながる。今こそ 面授 すなわち、息がふれ
合うほどの距離での人間同士の顔と顔とのふれ合いが求められている。
家族との時間を増やす努力が、
コミュニケーションを深める
坂元
章
(お茶の水女子大学大学院人間文化創成研究科教授)
親子共通の趣味は、家族との時間を増やし、子どもとのコミュニケーシ
ョンを深める
【これまでの研究から分かること】
首都圏在住の小・中学生の子どもを持つ家庭に対する調査によれば、子どもと共通の趣味を持
つ親は5∼6割、持たない親は4割であった。共通した趣味のない親は、家族との時間より自分の
時間を優先する傾向がある。
【主張】
共通した趣味を持っていれば、子どもとのコミュニケーションがとりやすい。子どもの行動もチェ
ックできる。例えば、インターネットやテレビゲームの問題性のある情報やシーンも子どもと遊んで
いると分かる。
オンラインゲームなどは、ユーザーをのめり込ませ、家族のつながりや
コミュニケーションに影響を及ぼす場合がある
【これまでの研究から分かること】
メディアにはよっては、ユーザーをのめりこませるものもある。中でもオンラインゲームの多数の
ユーザーが「ほかにしなくてはならないことがあってもオンラインゲームを始める」「オンラインゲー
ムをしていないときに、オンラインゲームのことを考えてぼんやりとする」と答えている。
【主張】
○ メディア使用に極端に時間をとられることにより、家族とのつながりやコミュニケーションが阻害
される場合やメディア依存によって離婚や育児放棄などにつながることもある。
○ メディアにのめり込み過ぎないように、使用のルールを決めるなど、家庭における啓発が大
事。
脳の発達は、遺伝子と環境の相互作用の結果である
桃井 真里子
(自治医科大学小児科学教授)
胎内でも出生後でも遺伝子に環境が働きかけて、個体の内面や外面が形
成される
【発達障害の研究から分かること】
子どもは、父親と母親の遺伝子を半分ずつ受け継ぐが、その発現の仕方は他の遺伝子や
環境の影響を受ける。
脳の発達、とくに認知機能の発達への影響は遺伝子だけでないことが研究のなかで判ってき
ている。
(1)原因遺伝子の多くは、脳のシナプス機能と関連している。
(2)同じ発達障害の遺伝子変異を持っていても、発達障害が顕在化する場合としない場合があ
る。
(3)同じ遺伝子変異で脳の発達が異なるのは、他の多数の遺伝子の組み合わせと、脳の発達
時期の無数の環境要因の相互作用に因る。
(4)ある遺伝子変異が特定の環境要因に脆弱性を示して発達に影響すると推定される。
(5)遺伝子要因が大である場合と、環境要因が大である場合とがある。1 遺伝子の変異だけで
発達障害になる場合もあるが、人との関わりが少ない乳幼児を過ごしたため発達障害になる
場合もある。通常の環境要因についてはよく解っていない。
(6)1 歳から 2 歳までにストレス等の環境要因が作動して獲得した脳の発達が失われ、発達障
害にいたる場合がある。これは、1-2 歳が社会性、言語に関する脳の形成に最も重要な時期
であることと、環境要因が極めて重要なことを示している。
遺伝子という脳の材料の部分を基盤として、それらの遺伝子発現に関わる無数の環境因子
によって脳形成がなされる。環境は胎内からずっと働き続ける。遺伝子そのものは、変更不可避
でも、その遺伝子発現は食物、環境物質、ストレス環境、ホルモン環境、などで発現が異なるこ
とが示されている。遺伝子は変更不可能だが、環境は変更可能である。遺伝子の特性を知るこ
とは、脳形成にどの環境が重要かを知る第一歩でもある。
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