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課題番号 :17指‐2 研究課題名:児童思春期強迫性障害(OCD)の実態

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課題番号 :17指‐2 研究課題名:児童思春期強迫性障害(OCD)の実態
課題番号 :17指‐2
研究課題名:児童思春期強迫性障害(OCD)の実態の解明と診断・治療法の標準化に関する研究
主任研究者:齊藤万比古
分担研究者:渡部京太、市川宏伸、本城秀次、金生由紀子、十一元三、西園 文、加藤元一郎、
清田晃生、青木省三、生地 新、北 道子、神庭重信
1.研究目的
状評価尺度として有用であり、今回作成した CY-BOCS
本研究は、児童思春期の不登校・ひきこもりをはじ
日本語版は子どもの OCD に対する治療法・支援法の
めとする諸問題の背景に在って、状態の深刻化および
有用性を証明するための研究に、今後は必須の評価ツ
遷延化をもたらす要因であり、その標準的な臨床指針
ールとなるだろう。
が長く待望されてきた子どもの OCD に関する診断と
B.子どもの OCD の特異性として、①子どもの OCD
治療指針策定を目的として計画・実施されたものであ
は自我違和感が少ないこと、②子どもの OCD は他者
る。
を巻き込む傾向が強いこと、③若年例は強迫観念より
2.研究方法
強迫行為に親和性が高いこと、④幼児期の OCD は分
本研究は児童思春期における『強迫性障害(OCD)
離不安が発症契機となりやすいことを証明するエビデ
の診断・評価』、『OCD 関連疾患における強迫性の解
ンスのある知見を複数の分担研究から得ることができ
明』、
『OCD の治療』の 3 領域にわたる分担研究課題
た。これらにはこれまでも指摘されてきたものもいく
を設定し、子どもの OCD の病態を明らかにするとと
つか含まれるが、従来の臨床的印象にとどまっていた
ともに、その評価法と標準的な支援法の開発に取り組
段階から、根拠ある子どもの OCD 像の提示を行いえ
んできた。二年度から OCD の遺伝子研究に関する研
たことの意義は大きい。
究(神庭重信分担研究者)を追加し、最終年度は各分
C.子どもの OCD とその関連障害の強迫性との質
担研究を推進するとともに、それらの成果と児童精神
的異同に関するいくつかの重要な知見を得た。①
科領域の医師(日本児童青年精神医学会の精神科医師
Tourette 障害(TS)では、従来から指摘されていたよ
会員)を対象とする全国調査から得た資料をまとめた
うに、TS と OCD との高い親和性が明らかになるとと
「子どもの OCD の診断・治療ガイドライン」の作成
もに、TS に伴う OCD と TS ではない OCD との間に
に取り組んできた。
は質的な違い(DY-BOCS により TS に伴う OCD では
(倫理面への配慮)
「その他」「攻撃」「対象性」のディメンジョンの得点
本研究班に属する諸研究は、対象となる子どもが所
が有意に高いなど)があることが明らかとなった。ま
属する各医療機関および研究機関における倫理委員会
た、99mECD-SPECT を用いた局所性脳血流量の検討
で承認を得て実施することを原則とし、「個人情報の
により、TS では前頭葉皮質(背外側部と内側部)の
保護に関する法律」、「疫学研究に関する倫理指
血流低下と、視床や基底核(淡蒼球)の血流増加が認
針」、「臨床研究に関する倫理指針」を遵守するよう努
められ、さらに TS においては Y-BOCS の強迫行為に
めた。特に対象者の個人情報保護のため、対象者の匿
関する得点と前部帯状回を含む前頭葉内側部の血流が
名性の確保には責任を持って臨んだ。
逆相関していることを見出し、TS における衝動コン
3.研究結果及び考察
トロールの障害や認知的制御の障害を示唆しているも
本研究が三年間で得ることのできた主な研究結果と
その考察を以下に示す。
のと考えられる。②高頻度に強迫的傾向がみられ、と
もに側頭葉内側構造に病理を持つと推測される広汎性
A.子どもの OCD の重症度を定量的に示す客観的
発達障害(PDD)および内側型側頭葉てんかん(難治
症状評価尺度である Children’s Yale-Brown Obsessive
性)(mTLE)における強迫症状の出現について調査し
Compulsive Scale(CY-BOCS)の日本語版の作成とそ
た結果、前者の 11.4%、後者の 56.3%という高い割合
の標準化を行った。CY-BOCS は児童思春期の OCD 症
で強迫性障害の合併が見出された。③摂食障害との関
連について、わが国の一般女子高校生を対象に行った、
功した CY-BOCS を用いた治療法の評価に取り組む必
EDI-2 および MPS を用いた、完全癖と摂食障害関連
要があるだろう。生物学的な検討については認知機能
症状の関連についての検討結果から、完全癖の強さが
に関する画像研究を通じた検討が進行しており、遺伝
1 年後の体型への強い懸念と関連する傾向が見出され、
学的研究もその実施に向けた準備作業が進んでいる。
完全癖が高い生徒の中に過食症の初期と評価できるも
4.研究発表
のも見出すことができた。④注意欠陥/多動性障害
論文発表数(書籍も含む):157 件
(ADHD)と OCD の関連について CBCL および TRF
主な論文は以下の通り
を用いた調査から、ADHD 症状と OCD 症状を併せ持
1)
つ場合は、ADHD 症状だけの場合より CBCL(TRF)
の内向尺度系の行動や情緒の問題のリスクが高く、
齊藤万比古: 強迫性障害の精神療法. 児童青年
精神医学とその近接領域 47(2); 113-119、 2006.
2)
生地 新: 強迫性障害(OCD)の診断と治療に
OCD 症状だけの場合より外向尺度系のリスクが高い
おける力動精神医学の役割について.児童青年
ことを見出した。これは両者を併せ持つことで、子ど
精神医学とその近接領域, 48(3):239-262, 2007.
もの適応上の困難さが上昇する可能性を示唆している
3)
ものと考える。
なった注意欠陥多動性障害(AD/HD)の子どもへ
D.子どもの OCD の治療に関するいくつかの研究
の対応, 児童青年精神医学と近接療育 48(3);
結果及び研究成果を得た。①Maudsley 病院で作成し
たリーフレットを参考にした強迫性障害の心理教育用
リーフレット児童思春期版を作成し、その実際の使用
を通じた修正を行い、完成版を作製した。②子どもの
渡部京太: 問題行動のために入院治療が必要に
264-275, 2007.
4)
金生由紀子: トゥレット症候群の遺伝研究. 脳
と精神の医学, 16(3): 151-160, 2005.
6.知的所有権の出願。取得状況
OCD における入院治療導入につながる要因として、
特になし
家族を確認行為や儀式に巻きこんだり、家庭内暴力を
7.自己評価
伴ったりするような「巻き込み型」強迫の場合、強迫
1)達成度
症状が遷延化している場合、「家庭内暴力」「不登校・
主なものは OCD の重症度評価ツールである CY-
ひきこもり」「希死念慮」「行為の問題」といった併存
BOCS の標準化ができ、今後の治療法の評価に道を開
障害が重篤化している場合であることを見出した。③
いた。報告書に添付したような「子どもの強迫性障害
力動精神医学的視点は治療への反応や患児の関係性を
の診断・治療ガイドライン(案)」を作成するに必要な
理解するために有用であるというコンセンサスがわが
資料を得ることができたことであろう。
国の専門家の間では存在していることを見出した。④
2)学術的、国際的、社会的意義
41 名の OCD 児の前方視的追跡研究から、1年間の治
本研究が切り開いたわが国における子どもの OCD
療介入により「巻き込み症状」が減少すること、自己洞
の研究成果は、わが国発信の研究成果を生む可能性を
察性が高まることを示唆する結果を得た。⑤日本児童
切り開いた。また、ひきこもり等の児童思春期の問題
青年精神医学会の 2006 年の医師会員 1345 名を対象に
に関連が深い OCD に対する介入法開発に道を開いた
にしたアンケート調査を行い(有効回答数 553 通、回
社会的意義はと考える。
収率 41%)、わが国の治療の現状をまとめた。これら
3)行政的意義
の結果と分担研究の諸結果をまとめ、子どもの OCD
児童思春期のこころの診療における重要な対象の一
の診断・治療ガイドライン(案)を作成した。
つである OCD に対する系統的かつ包括的なアプロー
4.結論
チへの一歩を記すことができたことは、今後の子ども
これまでわが国で系統的に研究されることのなかっ
た子どもの強迫性障害に関する総合的な研究に取り組
の心の健全育成並びに障害支援に役立つものと考える。
4 その他特記すべき事項
めた。上記のような多くの知見を得ることができた。
本研究は子どもの OCD の解明と支援法確立に向け
これらをさらに発展させ、特に日本語版の標準化に成
た最早期の一歩であり、今後さらに研究を推進する契
機となれば幸いである。上記ガイドラインは今後有志
で検討を続け、早い段階で公刊する予定である。
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