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98徳島大会報告書

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98徳島大会報告書
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
2
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
第9回日本サイン学会'98徳島大会報告書発行にあたって
●
太田幸夫
日本サイン学会会長
日本サイン学会の第9回徳島大会が10月9日∼10日の両日、
大塚トマトホールおよび大塚国
際美術館を会場に開かれた。
現地在住の会員がいなかったため、
地元に大会実行委員会が設けられず、
東京の企画事業
部(東京事務局)
がすべての準備に当たった大会は本学会設立以来今回が初めてであった。
事前に決定していたテーマ「サインと素材」の具体的可能性の一つを”サイン陶板”の視点か
ら見てみよう、
というのが、
徳島決定の動機であった。そこには西洋美術史の至宝1000点余り
の原寸陶板複製画を誇る大塚国際美術館が6ケ月前に開館していたからである。
その美術陶板の技術を担った大塚オーミ陶業の玉見満氏(本学会正会員)
からは、
幸いにも
徳島での大会開催のお誘いを受けていた。
初日の研究発表の会場は、
設備の整った大塚トマトホールを使わせていただいた。一本で数
万個の実をつけるという巨大なトマトの木が、
エントランスホールの吹き抜け空間いっぱいに、
幅
20∼30mの枝をはっていた。
さらにりっぱな国際会議場をもつ隣りのヴェガホールには、
まっすぐ
に延びるはずの杉の巨木が屈折していて見る人の常識をくつがえす。
ともに大塚グループ研
修場の主旨をシンボライズしていた。
夜の懇親会では鳴門海峡の美味な御馳走にあずかり、
またその会場を兼ねた宿泊先の潮騒
荘でのもてなしなど、
30名もの参加者はそろって大塚オーミ陶業からの多大な協賛にあずかっ
た。ここに厚く御礼申し上げる次第です。
今回もまた、
時間が足りなくて駆け足のスケジュールになった。
そのため研究発表にも、
シンポジュームやエキスカーションにも時間的しわ寄せが出てしまった。
ミニマムな学会とは云え会員は全国から集まる。交通に結構時間をとられて、
1泊2日のスケジ
ュールでは実質1.5日しか使えない。それにもかかわらずプログラムはいっぱい。
もう1泊加える
時間と費用は容易でない。
今回は直前になって発表を一部こちらから依頼したにもかかわらず、
ほとんどが打てば響く反
応でいずれも内容が濃い。サインに寄せる情熱や実績にも裏打ちされ、
研究あるいは教育と実
践が一体となっての強みという印象を受ける。
わが国サイン界に於ける本学会の立場と役割を一歩進めるため創立10周年を期して、
発表
内容の事前審査制度や年2回の大会開催の可能性などを検討する時期に入っていと言える
かも知れない。
3
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
研究発表
環境と調和 今後のサインデザインの考察
木村幸夫
東洋美術専門学校デザイン科
近時、大都市においては都市環境が著しく
変貌し、
ますます過密化する都市機能の開
発は、景気や政治の低迷にもかかわらず前
進している。
しかし、
その反面“ゆとり”
“やす
らき”
というものが失われてきているように思
われる。
わが国は国土面積が狭く大都会に人々が
密集し、産業経済の活性化が急激に進み、
一時期経済大国といわれたこともあった。
“形態は機能に従う”L・サリウァンの言葉に
あるが、機能と心の調和も大切なことであろ
う。
科学技術の急速な進歩は、
あらゆる機能へ
コンピュータを導入し、人間生活に大きな変
革をもたらした。
私の関与するデザイン系学生教育において
も、
機器により表現力は進歩したが、
それらを
操作する以前問題として、初年度において
庭園は勅使門を中心として、静寂の庭・躍動の庭・調和の庭に作庭されている
(写真は調和の庭)
は徹底したハンドワーク・ヘッドワークにより、
自ら考える能力など“デザインの原点”を指
導している。
また、
商業的活動に偏重した今までのデザイ
ン活動には、
未来に向かって文化面や人間
性を重視する方向が望まれる時が来ている
ように思われる。
英国ロンドン王立キューガーデン日本庭園
のサイン
わが国においては、
名所旧跡や伝統文化が
開発のため、取り壊されているのはまことに
残念なことである。そうした折に昨年の夏機
会を得て、
英国ロンドン郊外にある王立植物
園キューガーデン内に日英関係者の協力に
より、
“日本庭園”が造営され、
そのサイン計
画に関与した。
総合設計管理は(財)都市緑化技術開発
機構で、
第1回打ち合わせの際、
すでに造園
工事進行中の写真をもって説明を受けた。
この日本庭園は、勅使門を中心とした面積
約5,000平方メートル、
庭園は三つの空間で
構成され、
それぞれが多様な特徴を持つ庭
園として設計されている。
全体構成は回遊式“枯山水庭園”で、
この
4
日本庭園入口「総合案内サイン」原図版下(板面寸法1.0m×1.2m)
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
入口部静寂の庭より勅使門を望む
躍動の庭 枯山水
勅使門のモデルとなった京都西本願寺の唐
記した。
このような経緯のもと、
わが国の伝統文化遺
門が造られた、16世紀後半の桃山時代庭
また、庭園全体が回遊式通路のため、
その
産が英国ロンドン“王立キューガーデン”に
園様式に基づき築造された。
他のサイン類(誘導・規制サイン)
は極力抑え
おいて築造され、広く外国の人々に鑑賞さ
庭園正面入口部は“静寂の庭”で静かな雰
て“サインレスサイン”
として庭園環境を保持
れ友好親善に寄与する意義は大きいものが
囲気を漂わせ、灯籠や蹲踞 が延段や飛び
した。
ある。
石の要所々々に置かれている。
よってサインの設置は、①庭園総合案内板
勅使門の南側斜面は“躍動の庭”で、枯山
②勅使門説明板 ③顕彰碑の3基に決定
総合案内サインの設計デザインと素材につ
つくばい
水により滝・山・海洋等の雄壮な自然風景を
された。
いて
表現している。また白砂や岩石と水の流れ
桃山時代の枯山水庭園に調和を重んじ、
サ
庭園案内板の設計については、
図の様に身
や瀑布の力強い動きを表わしている。
イン礎石は自然石を加工、簡素な形態とし、 長(180cm-160cm)
よりの板面視線(視角)
庭園北東部の“調和の庭”は静と動の庭を
標記文字は英文オールドローマンと調和を図
を基準にして、板面地図・設明文の視認可
結ぶ役割を担い、西側の斜面は灌木と石に
るため、
すべて手書きの筆描文字を使用し
読性を計算し、
且前方庭園景観を十分視野
より日本の山々を表現している。
て可読性を自然とした。
に入れられるよう配慮した。
サイン計画では、
このような全体構想の説明
板面は長期保存耐久性に優れ、品格美観
従来多く用いられている直立型では、説明
を受け、
庭園全体の案内板に庭園主要スポ
維持のため美術陶板(耐久品質保持約
文の判読時前方景観を遮断することになる
ットを標記し、
入園者にその主要スポットをあ
1,000年/大塚オーミ陶業(株)調べ)
に決
ので、
特に庭園などの案内板においては、
説
らかじめ理解せしめるため、英文・和文を併
定制作された。
明文の判読と共に前方視界に展開する風
物も観察できる方法が良いと思われる。
礎石本体は自然石を加工、板面は美観・耐
候性から美術陶板で製作された。
(陶板の
色調、
細部特に王室紋様は精密に表現され
ている)
英国王立植物園
(Royal Botanic Gardens KEW)面積
120ha。18世紀王室の庭園として発足。
日本庭園総合計画・管理:
(財)都市緑化技術開発機構
サインデザイン・文字制作:木村幸夫・東洋美術学校協力
サイン美術陶板制作:大塚オーミ陶業株式会社
勅使門説明サイン原図版下(板面寸法1.2m×0.7m)本体自然石・板面美術陶板(総合案内サイン共)
筆者略歴/旧制工専機械設計専攻
前/木村設計デザイン(株)代表取締役(1947-1983)
日本サインデザイン協会本部事務局長(1985-1993)
現/専門学校 東洋美術学校講師
(基礎デザイン・サインデザイン担当)
日本サイン学会・日本建築美術工芸協会会員
5
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
研究発表
C I 計画とサイン(佐伯中央病院)
縄田健次
プラスアルファコーポレーション
広島からやってきました縄田です。
これは塔屋のサインですが、
田舎ですからネ
います。これはエレベーターが1基しかない
私の場合も先ほどの伊東先生と同じく、
4,
5
ンオ管を使用すると虫による害がひどいと思
ので健康な人は階段を昇って欲しいという
日前に、
時間があるから発表してください。
と
い下からの照明にしました。入口の案内看
願いで寒色から暖色へと試みました。最上
のことで全く発表の準備をしておりませんで
板です。これはH鋼をそのまま使用し塗装、 階はオレンジです。
した。せっかくの機会ですのでこれまでの仕
ステンレスとアクリルとスコッチカルで仕上げ
次お願いします。これは病室です。
どこの病
事の中から、
多少まとまったものをスライドにし
ています。
院の病室も壁は白が圧倒的です。清潔感は
て持ってまいりました。
次に病院のエントランスですが待合室の右
ありますがなんだか痛々しい感じがします。
こ
皆様のお手もとにお配りしたCI計画とサイン、 の壁面には版画家の笠井正博氏にお願い
こでは患者の住居空間に近い色彩を考慮
スーパーマーケット株式会社ユアーズのサイ
して、
ヨコ3m×タテ1,
5mのキャンバスに桜の
して土壁に近い色とうすいベージュにしまし
ン計画。それに佐伯中央病院のCI計画の
花弁を描いていただきました。また、左の上
た。元気が出る黄色をラインで入れました。
印刷物についてご説明させていただきます。
の少しブルーに見えているところは天窓で自
最後は塔屋サインの照明をつけた状態のも
太田先生からお電話をいただいて、今回の
然光が入るようになっています。左側のカウン
のです。
テーマは「サインと素材」なのでそのつもりで
ターは素材を変更してもらい木製にしました。 素材に関しては施工業者と相談し、限られ
と言われました。さてどのように料理をしよう
ここでは特に椅子を見ていただきたいので
た予算内で収まった。サインに限らずドアーノ
かと戸惑っています。発表の時間がないの
すが、
痛さや苦痛が少しでも和らぐように暖か
ブや色々の部分で木を使用したかったが製
で詳しくはレジメの事例1、
事例2を後で読ん
くて少し派手な色を選びました。
品が高価であったり、
特注製作にしても他の
でみて下さい。
これは受付のサインです。
ピクトグラムを7∼8
素材に比べて確立されていないように思う。
この佐伯中央病院は非常にラッキーな環境
案開発しました。このデザインには老人や子
次に最近のコラボレーションの例をみていた
で仕事ができました。施主の理事長が知人
供にやさしい病院にしょうとした思いがこもっ
だきます。
でございまして、建物の設計が理事の同級
ています。
建築家とマーケッターと私とで取り組んだVI
生、
そして施工が私の指定した建設業者と
これはフロアー案内です。縦の導線に対して
計画です。これからは病院の経営が大変な
いうことで大変楽に仕事が出来た例です。
は上方に、
個々の入口には2カ所サインをとり
時代です。新しい病院の開設に対して取り
立地条件は広島県と山口県の県境に近く、 つけました。これは先ほども申し上げました
組んでいます。このスライドはレディスクリニッ
市内との温度差が4∼5度。全くの田舎の田
が、子供や老人にやさしい配慮です。普通
クのものですが、
ベーシックデザインとアプリケ
んぼの中の病院です。患者さんのことを考え
の大人ですと床上150cm位の位置で良い
ーションデザインをしっかりしておけば、
ベスト
ると農作業中に急に具合が悪くなって病院
のですが子供や老人には見ずらい。そこでド
コミュニケーションが可能です。
に駆け込む、
その時にわざわざ着替えをしな
アーノブのすぐ下(床上80cm)
にサインを表
フルカラーもの、
1色使いは媒体特性に対応
くてもすむように。暖かい気取らない病院づく
示しました。これで自分が目的としている部
できるようピンク・グリーン・ブラックと3パターン
りを目指しました。
屋へ不安なく入ることができます。
用意しました。
これは病院とサインです。次は
しかし、病院としての威厳もそこそこ考える
次をお願いします。
サインのアップで、最後にご覧いただいたの
必要はありました。ハードの設計以外は内装
このようにドアーのすぐ下に表示することでい
が壁面のサインです。
のカラーリング、什器備品の選定、
インテリア
ちいち上を見て確認する必要がないわけで
次は事例2になります。
まで全てをやらしていただきました。
また、
サイ
す。病院にはストレッチャーガードというものが
流通小売業(スーパーマーケット)
の株式会
ンに関しては眼科医の先生と相談しながら
ありますが、
そのラインにそってドアー部分に
社ユアーズのCI計画の一部です。会社設
老人視力や視界範囲なども考慮して設計し
ホスピタルカラーのグリーンをスコッチカルで貼
立時のCI計画から10年目の見直しを手掛
ました。
りサインを表示しています。
このスライドは病院の全景で正面から見たと
休憩室の椅子もグリーンのものを捜してシン
「サンユアーズ」
と
「マックス」
という業態の違
ころです。サインが3つあります。次がもう少し
ボルとして配置しました。階段の手摺りは最
う店舗展開から
「ユアーズ」への統一を行う
アップしたところです。左のほうに桜の木が
初の設計ではスチールでしたが木製に変更
ことになりました。当初は店舗の統合計画の
見えますが、八重桜を植えました。この仕事
しました。
ためのVI計画でしたがCI計画に変更となり
を始めたときに理事長からどうしても桜の木
これは階段のステップの部分なのですが、
各
1年間の導入期間を経て実施しました。
40
を植えたいという要望がありそれに応えたも
階ごとに左端30cmは色が違っています。
1
店舗のサイン計画がメイン作業となるため、
のです。
階のグリーンから階を上がる毎に暖色にして
施工業者を先に決定し全店舗の写真や図
6
けた関係でVI計画は当社が担当しました。
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
面を揃え検討しました。
40店舗が標準化さ
れておらずマチマチでベーシツクデザインも3
パターン制作しました。サインの量が膨大で
あることからベーシックデザインのカラーリング
は住友3Mのスコッチカルで決定しました。そ
のためサインに関しては非常に満足のいく
仕上がりとなりました。逆にグラフィック・ツール
のカラーでは微妙にサインのカラーとはズレ
が生じました。
しかしグラフィックはグラフィック
としての色指定が明確にしてあるので問題
にはなりませんでした。
次をお願いします。
これからご覧いただくスライドは先ほど申しま
した3つのパターンの展開例です。
次お願いします。
時間がないようですのでいい足りないことが
多くありますが終わります。有難うございまし
図1
た。
*問題点=デジタル処理のため形状の再現
性は向上したが、
ペイントに比べ色の再現性
とビッグサイズの場合のつなぎ部分が気にな
る。またサインのベース工事次第で汚れが
発生することが不満として残る。
事例−1
(図1、
図2、
図4)
新設「佐伯中央病院」平成2年4月開院
広島県の西方で山口県との県境に近い山間地
敷地面積 3,346m2
建築面積 2,945m2 5階建
ベット数
98床
診療科目 内科、
外科、
成形外科、
小児科、
泌尿器科
事例−2
(図3)
「株式会社ユアーズ」設立昭和53年 CI計画導入平成7年9月
流通小売り業(スーパーマーケット)
業態の違う店 SM「サンユアーズ」 DS
「マックス」の
統合を機会にCI計画を導入
展開店舗数 40店舗(広島県内)
図3
図2
図4
7
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
研究発表
サインの表示面素材としての陶板
佐藤優
九州芸術工科大学
1.サインと素材
年に設計参加した福岡市町名街区案内板
あるとのことで試作をしてもらったところ、
サイ
の頃からの念願だった。当時はブリキ板に
ンに十分に利用できることがわかった。そこ
大きな問題は耐久性の欠如だった。それは、 白塗装をして手描きかスクリーン印刷で仕上
で、
1987年の福岡市都市サインに早速採用
これまでの屋外空間におけるサインの最も
耐久性のある表現用の素材が未開発であ
げる方法が一般的で、表現の精度が甘く、 した。これは色指定で多色刷陶板を使った
るという技術的な問題であると同時に、
もう
腐食も早かった。設置して1∼2年もすれば
最初の案内サインであり、地図は7色印刷で
一方では、
耐久性のある素材はぜいたくだと
錆が浮いてきて、都市の景観にとっても好ま
ある。最小文字サイズは、和文11級、英文7
考え安易な素材で良しとする風潮があった。 しいものではなかった。それを克服しようと考
級(大文字のみ)を使用したが、明瞭に再現
恒久的な表示では、
「 都市の急速な変化に
え、
エッチングやガラスや陶板などの素材の
できた。生地表面は、九州の強い日差しを
対応できないし、無駄だ」
というのである。デ
検討をしていたが、
かねてから小プレートとし
考慮して目に優しく乱反射するテクスチュア
F
ザイナーの中にもそれに同意する者がいる。 て使われていたアルミ写真板に注目した。
を開発採用した。耐久性があり、精密な描
30年の耐久性があ
この考え方には、長い間疑問を感じてきた。 社の試験結果によれば、
写ができ、
しかも親しみやすい。ただし、最初
そうしたすぐに劣化するようなものに人々が
り塩害にも強いということで、福岡市町名街
の陶板で採用した乱反射表面は、
実際に設
愛着を感じるはずがなく、都市にとって必要
区案内板に採用した。アルミを腐食させて
置してみると細かい凹凸を持つ表面がほこり
な情報を無駄だとする考え方は、
サインの根
封孔処理をするもので、
表面硬度が高く、
製
を吸いやすく、次年度分から通常の鏡面仕
本的な目的の大きな障害になる。
版技術をそのまま応用して精密な描写がで
上げに戻した。
屋外における代表的な表示材として使わ
きることが特徴だったが、実際に使ってみる
れるスクリーン印刷やシート材は、概ね5∼6
と、仕上がりは美しいものの、結局スクリーン
年の耐久性を有する。商業施設における5∼
印刷と同程度の耐久性しかないことがわか
6年は、
原価償却や改修を考えるサイクルに
った。
しかも、製造ロッドによるむらが大きく、 反応を調べた。サインを利用している人、福
およそ一致し、過不足がない妥当な耐用年
実用性には欠けるものだった。
数だが、公共的な空間ではそれでは短かい。
公共施設の改修にかかる年限は、商業施
その試 用 結 果 がまだ出ていなかった
2.追跡調査と結果
都市サインの素材について、利用者等の
岡市の市民モニター、及び福岡市職員、
を
対象にした3種類のアンケート調査を行なっ
1981年の海の中道海浜公園のサインでも、 た。ここでは、
そのうちから素材に関係する
設の倍から3倍程度が目安ではなかろうか。 再びアルフォトを使用したが、海浜性の厳し
部分を抽出して説明する。
1)
利用者へのアンケート調査
サインもそうした一般的な感覚に合わせる必
い条件や台風による飛砂なども災いしてさら
要がある。
ところが、
それだけの期間維持で
に短期間で劣化した。基材となっているアル
41基設置した都市サインのうちから、
福岡
きる表示素材はあまりない。その結果、公共
ミそのものの本質的な問題でもあると推測さ
市天神交差点(以下天神)
とJR博多駅(以
施設の表示物はほとんど例外なく汚く朽ちて
れる。設計案の別案では陶板を検討してい
下博多駅)に設置した都市サインを選び、
いる。構造物の耐久性に対して明らかに劣
たが、当時はカラー表現の開発試験を行な
1994年5月15日(日曜日)と5月16日(月曜
るために、公共施設そのものの老朽化を促
っていたものの、満足できる結果が得られず
それ
日)の2日間、9:00から17:00までの間、
していると言っても過言ではない。利用者が
に断念した経緯がある。
ぞれの利用者各50人に調査票を示し、
面接
頻繁に利用しないような施設では、
利用者が
公共サインの黎明期とも言える時代で、
海
特にサインデザインの
何度も目にしない間に醜い姿になってしまう。 の中道海浜公園では、
によるアンケート調査を行った。
利用者へのアンケート調査の結果は、次
デザイナー側の見解も分かれるところで、構
考え方と設計方法を地道に研究し、理論的
の通りである。
造物とバランスのとれた耐久性を追求すべ
には大きな飛躍を遂げたが、素材が未熟で
ア)都市サインのイメージは、「シンプルな感
きだとする意見と、短期間で更新すべきだと
あるために結果的に意図した成果が上げら
じ」、「自然な感じ」、「気楽な感じ」、「親し
いう意見がある。後者の意見も正しいが、
実
れなかった。
みやすい」。天神の平日に「どっしりとした感
際に更新した例がほとんどないという現実に
こうした長年の経験や反省に基づいて、 じ」が特別に多い。天神博多駅共、休日に
も着目すべきではなかろうか。また、素材を
以後は耐久性の向上を最優先の課題にし
「地味な感じ」と答えた人が多い。
安易にみることは間接的にデザインのソフト
ていた。その頃、
O社がカラー写真を陶板に
イ)福岡市にふさわしいデザインだと答えた
の軽視にもつながる。ここでは、技術的な側
転写する技術を開発したという報告を受け
人はおよそ半数。平日は福岡市にふさわしい
面を追究し、耐久性を向上させる努力を支
た。確かめてみると色の再現性が良く、
生地
と答えた人が多く、休日はどちらともいえない
持する。
の収縮が少ないために精密な表現も可能で
と答えた人が半数。福岡市にふさわしくない
あることがわかった。分色・色指定も可能で
と答えた人は 8.5%と少ないが、天神より博
耐久性のある表現素材の模索は、1978
8
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
多駅の方でそう思う人がやや多い。
3.考察
2)
市民へのアンケート調査
1)設計意図と現状について
福岡市の市民モニターを対象に、
1994年
第1期の福岡市都市サインを設置してか
6月8日から6月17日までの間、
アンケート調
ら7年経過後の1994年に設置した41基を
査を行った。回答者数は109人である。年令
点検したところ、破損したものは1基もなかっ
も20代以上から70代以上の各年代にわた
た。陶板表面のガラス質部分に亀裂が入っ
市民に対するアンケートで、都市サインを
知っていると答えた人が61%、利用したこと
がある人が54%もいたことは、予想をはるか
に越える認知度・利用率だった。
4.将来の素材と展望
っていた。ただし性別は、
男19%に対して女
たものが数枚あったが、
そのうちの1枚は鋭
これまでの経験から、
あるいは全国の事例
81%と偏った結果になった。
利なものをぶつけたものと思われる。いずれも
を調べてみた結果から、現時点では、表示
判読には支障がない。耐久性については全
面の素材として陶板が耐久性と美しさの点
く問題がなく、
表示面の陶板はいつも心地良
で最もすぐれた素材のひとつであることは疑
市民へのアンケート調査の結果は、
次の通
りである。
ア)過半数の人が都市サインを知っていて、 く利用でき、
都市景観上も好ましい結果が得
いない。問題は、
コストの高さ、
衝撃に対する
およそ半数が利用したことがある。周辺の地
弱さ、
納期の遅さ、
製造業者が少ないこと、
で
理を把握するために利用する人が多く、施
られていることが確認できた。
7年経過後の地図は、
作成時と現状とのく
ある。要するに値段が高くて手軽にできない、
設をさがすために利用した人は意外に少な
い違いが目立ちはじめていた。市の職員2
い。
人が更新の必要を指摘しているが、一般利
というのが最も大きな欠点である。
これに対して、
ステンレスやガラスに陶板と
イ)大半の人が都市サインのデザインは福岡
用者からの苦情はなく、危惧していたより問
同様のセラミックスを焼き付ける方法や、
あら
にふさわしいと思っている。
題が少なかった。地図作成年月日を明記し
かじめ焼成されたタイルに絵柄を転写する
ウ)
その他、美しい、
はじめて福岡市の地理
たことと、
利用者が地図と現状との違いにつ
方法などが開発されてきた。前者は、
まだ技
がわかった、
小さくて目立たない、
などの意見
いて理解しているためと思われる。設計時に
術的に安定していないし、
ステンレスの場合
があった。
は5年毎に点検・更新するよう要望したが、 は下地の影響でやや青味が強くなる欠点が
3)
福岡市職員へのアンケート調査
実際にはやや遅れて7年後の1994年に予
ある。ただし、
割られる心配がなく、
転写後の
算化された。更新期間については感覚的な
加工が容易で、
ビス止めなどができるために
許容限度も考慮してさらに検討を要する。
構造を薄く軽快にできる長所がある。ガラス
福岡市職員に調査票を渡し、
アンケート調
査を行った。回答者数は33人で、各部局か
ら回収された。年令も10代から50代まで各
設計当時は陶板の採用について、
高価な
の場合は、透過光を使うことができ、夜間の
年代から回収された。性別は、
男58%に対し
印象を与え情報の変化に対応できないので
内照式のサインや、食堂のメニューのように
て女30%とやや男が多かった。
はないかという反対があった。
しかしそれら
湿度が高かったり、薬品などによって退色し
福岡市職員へのアンケート調査の結果は、 の意見には、
公共的な設備は贅沢な印象を
やすい環境での使用が可能になる。
また、
タ
次の通りである。
避けた方が無難だという発想と、定期的な
イルへの転写は、
安価で安定して生産できる
ア)都市サインのイメージは、「近代的な感
維持管理をするよりも使い捨てを好む発想
メリットがあり、
一般的な活用においては陶板
じ」、「高級感がある」、「シンプルな感じ」、 が根強くある。これに対して、耐久性や素材
とほぼ同等の使い方ができるが、陶板に比
「地味な感じ」、
「どっしりとした感じ」と答えた
などの都市景観上の配慮と、陶板のみを交
べると表面硬度が劣り、
しっとりとした深みに
人が多い。利用者は、
身近かなイメージで受
換していく場合の経費比較及び刷版の合
欠ける。
けとめられているのに対して、
市の職員は重
理化等を主張し、理解を願った。市担当者
表面コートなどの保護材による表面処理
近代的、
理知的
厚感を感じている。高級感、
の努力にも支えられて、当時としては画期的
は、
現時点では屋外での長期間の使用に耐
な感じ、
などの項目では、
利用者と市の職員
な天然石と多色刷陶板による質感豊かなサ
えるものはなく、成功しているとは言えない。
の反応が対称的である。
インが誕生した。また、我が国ではまれな維
最も大きな欠点は、表面に傷がつきやすいこ
イ)
デザインは、福岡市の都心部にふさわし
持管理費が付けられ、陶板の更新費も認め
とで、白濁したり、汚れが付着してとれにくく
いと思われている。本体の石は、
ほとんどの
られている。
なる。改善されてきたが、
コート材と表示面の
人(9割)が適切な素材だと思っている。表示
2)設計意図と調査結果について
間に空気や水滴の泡ができて、表示面を劣
面の陶板も、
ほとんどの人(8.5割)が適切な
都市サインの形態については、調査結果
化させていく場合がある。その反面で、最も
素材だと思っている。ウ)他の都市で都市サ
では好ましいと思われており、
福岡市にふさわ
手軽で、印刷やシート加工の延長上で作業
インを利用したことがある人は約5割であり、 しいとも思われている。素材についても石、 ができるという長所がある。
全く利用したことがない人は1/4いた。
陶板共に好ましいと思われている。利用者
エ)
その他、立派なデザインで好感が持てる、 が感じた「自然な感じ」、「気楽な感じ」、「親
夜もライトアップしたらどうか、地域の特性を
今後は、
カラーガラス粉の塗布や、立体的
な表現素材の出現を待ちたいところである。
新しいメディアが次々と出現しているの
しみやすい」、
などの印象も意図通りである。 また、
考慮してほしい、
存在を主張するものが良い、 ただしこの点は市職員と異なり、市職員は
で、
それらと対応した表現素材や、蓄光材の
内容が変化したものはできるだけ早く取り替
「近代的な感じ」、
「高級感がある」、「どっしり
ようにそれ自体が発光する素材の活用など
えてほしい、
センスが良く見やすい、
石と陶板
とした感じ」と答えた人が多い。素材を観念
を検討してみたい。
が自然な感じで良い、
などの意見があった。
的にとらえているのではないかと思われるし、
さらに、
今後のテーマとして、
バリアフリーを
設置者側としての意識や期待もあるかもしれ
考えた環境づくりのための表現と、
そのため
ない。
の素材の開発が急務である。
9
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
研究発表
景観形成とサイン(岩手県の景観)
千葉代子
デザインルーム千葉
今回、大学の先生がたにお話しをする機
観軸から構成されています。東部海岸線沿
会をいただきましたことを感謝いたします。私
いはリアス式の三陸海岸で国立公園になっ
的な意味も込められている。
一瞬、
従来私たちが指向していたソフィス
は実際に現場に出て行かなければならない
ています。西部に位置する奥羽山脈は、東
ティケートされた都市型サインと趣を異にする、
立場であることから、
現場はどういう状態なの
北の背梁と言われ太平洋側と日本海側を
骨太でストレートな形がこのダイナミックな自
か、
行政サイドの取り組みはどうかという現状
分断しています。三陸海岸から内陸部に広
然景観にはふさわしい。
と同時にむしろやさ
を報告いたします。
大な北上山地が横たわり、平野部は、奥羽
しささえ感じさせるサインでもある。
岩手県では、
平成5年度に景観形成に関
山脈と北上山地にはさまれた北上川流域と
モータリゼーションの普及は、人間の行動
するガイドラインを作成しました。更に景観形
いえます。
ここで重要な景観軸の一つである
パターンを変革したと同時に、内外という日
成のガイドラインの衆知徹底を計るための条
北上川は、日本で唯一、南北に貫流してい
本人の意識と生活様式を、同様に解体して
例を作成し、行政システムとして県の条例を
る一級河川です。
いった。
この地区でも生活道路がそのまま観
各市町村におろしていく段階で、景観行政
を推進するための契約をすることになります。
光道路になる現状である。コミュニティー内
岩手県の広域をカバーする条例の制定と
それは、
各市町村と県サイドが同一レベルで
ともに、特に重要な地域の景観を保全する
景観行政に対する認識を統一する必要が
目的で景観形成重点地域を指定していま
あるからです。
す。
のプライベートサインはそのままパブリックな面
も合わせ持っている。
スライドを紹介します。
「ミルクの里のサイン」
岩手県景観条例の骨子は、
岩手県の景観に対する取り組みとは
景観形成重点地域とは
岩手山を背景に美しい牧場が広がる。サ
山岳、高原、河川、海岸等優れた自然の
インから新鮮なミルクの香さえ漂ってくる気が
景観は、
私たちを取り巻く環境に対する眺
風景の骨格を有する地域
する。
めであるが、
それぞれの地域の歴史、文
神社、寺院、遺跡等歴史的文化遺産を
化、
生活が醸し出す雰囲気など視覚以外
有する地域
にも深く関わっており、
また長い歴史の中
良好な市街地を形成している地域その
で、人々が社会的、経済的、文化的な活
他県土の景観形成を図る上で特に重要
動を積み重ねることにより形成されてきた
と認める区域
ものである。
美しい景観は、人々の生活にうるおいや
「岩清水公民館前の斜め交差点に立つ馬
のサイン」
この十字路は斜め交差でしかも片側が坂
になっていることから非常に事故率が高い
所のようです。そこで遠くからでも確認し易い
重点指定区域にあたる市町村では広域
ものは何か?.....
確かに、
真っ黒いものがどーんとある。
安らぎをもたらすとともに、
日々の生活に活
にわたり、指定以降に建造する建物、開発、
力を与えてくれるものであり、
また、人間形
造成、屋外広告物、私有建造物などは高さ
「何あれ! 馬だ」
と徐行する。ユーモラス
成にも良好な影響を与えてくれるものであ
制限や色彩など条例に基づいた規制がか
でインパクトがある。非常に確度の高い視認
る。
かります。
この条例の目的は、
こうした地域の特性
岩手県景観形成重点地域指定の第一
が生かされた優れた景観を保全するとと
号は、
「岩手山・八幡平山麓周辺地域」の自
もに、
新しい価値を加えながら、
より一層優
然景観がメイン。
性の高いサインであるといえるし、
反面、
夜間
はどうなるか...杞憂か。
「ミルクと大根の里 花平」
自然の立ち木を加工し牛乳の缶を下げる。
れた景観となるよう創造し、
また新たな都
市づくり、
まちづくりなどにおいても地域の
山麓景観とサイン
全体に木版に白文字が彫刻されているが、
特性を生かした優れた景観を形成するこ
岩手山麓・姥屋敷地域のサインの場合
晴天の時より雨天で水分を含んだ時のほう
とにより、県民が誇りと愛着をもつことがで
きる美しい県土を実現することである。
姥屋敷地域は岩手山の裾野に広がる酪
農地帯で、入植以来55年になる70戸(200
が、白文字がはっきり浮き上がる。生活を楽
しんでいると同時に見る人も楽しくなるサイン。
∼300人)からなるコミュニティー
(花平地区
岩手県の立地と位置関係を説明します。 と沼森地区)
を形成している。この看板(サ
「みずばしょう群生地」
丁度、面積は四国四県を合わせた広さに同
イン)
は55年の足取りを外部に主張した形で
じ。
という小さな
あり、地域内の個々(一戸当り10町歩平均) 期的に「水芭蕉は終わりました」
縦長の長方形を縦に四分割した四本の景
の生活者が持つ共通認識としてのシンボル
10
このサインは普通の案内板であるが、時
情報ボードが重要な意味を持ってくる。
「花
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
ミルクの里
岩清水公民館前の斜め交差点に立つ馬のサイン
ミルクと大根の里 花平 ミルク缶がアイキャッチャー
の季節は終わったのでむやみに沼地には入
らないでほしい」
というコミュニティー内の共
通認識が外に向けて送るサインにもなる。受
信する側にも相当の意識が要求されると同
時に、
サインは人間の意識を喚起し、行動を
誘導するという重要な意味を持つ。サインの
情報に感動したのは始めてである。
「はるこ谷地」
岩手山の裾野に広がる広大な谷地牧場
である。55年の歴史がこんな美しい牧場に
結実しているのです。
どうぞ見てください....
と胸をはっている景観は、岩手山が一番雄
大に見える地点でもある。
このサインは地域内に自生していた曲が
り木を加工したもので、自然の形状を最大
限生かすようにした。何十年も生きた木を切
みずばしょう群生地の案内サイン 期間と情報がやさしい
ってこの地に立てた時点で、木は素材となり、
新しいサインという生命を吹き込まれて倍に
生きることになる。
ここに掲げたサインはデザイナーや造形作
家が創造したサインではない。コミュニティー
内の生活から自然に形作られてきた、
いわ
ば土から生まれたサインとでも言えるものであ
る。
はるこ谷地の案内サイン 自然木の形がユニーク
11
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
研究発表
りょく
「サイン力」の考察 Part 1 カナダ モントリオール
伊東寿太郎
伊東デザイン研究所
1
1:自由を標榜するケベック大学モントリオール
近所の老人がエスカレーターに乗って上層
が、取り立てて見るほどのサイン計画も、
サイ
校
階まで行きベンチに座っていたりする。そのく
ンボードも見当たらない。
しかし、
前述したよう
ネオゴシック様式の高い鐘楼がそびえて北
らい自由で開放的な空間ができてしまって
にこの大学の理念は、学内関係者のみなら
国の碧空を断ち切るような風景、近づくにつ
いる。今日ではカナダでさえも以前とは比較
ず、
市民や訪れる外来者にも極めてスムーズ
れてそれが大学のモダンなキャンパスの一
こならないほど治安が悪くなっているから、
自
に伝わってくるのである。なまじサインシステ
部であることに気付く。ケベック大学の本部
由を続けてゆくためのコストは大変高くつく。 ムが前面に突出しているだけで、
何かしら空
は、最初そんな違和感にとらわれる。
しかし
昼間は気付かないけれど警備はガードマン
虚さのみが漂うような、近頃よく見られるわが
見慣れてくると、
この組合わせが大学の歴史
を増やしての二十四時間態勢である。特に
の国の風景とは、
天地の隔たりが感じられる。
を解くカギであったことが理解される。縦横
夜間はチェックが厳しい。
しかし、
それほどの
我々のサインデザインの概念を転換すべき
の道路に囲まれたキャンパスを半周ほどする
犠牲を払ってもオープンにしている。
これは一
だろう。本当に自分達の都市を愛し、
人種の
と、
建物の壁に埋め込まれたかのようなカテド
体、何故だろうかと考えてみると、前述したよ
壁を取り払い、様々な障害を排除しながら、
ラルの本堂が現われ、道路の反対側のキャ
うにここが移民の国であることにたどりつくよ
永い年月をかけて市民のための大学を創る
ンパスに挟まれて、
別のロマネスク風のカテド
うである。
という大学当局の一貫した姿勢と情熱が、
ラルがのぞいている。十五年前に客員教授
文化のクレオール化とでもいったような、多国
見事と言ってよい結実をもたらしていることに、
として招かれて以来、
これが三度目の訪問
籍多民族が混じり合うことで生まれる混血文
皆は感動するのである。この総合化された
となるが、
十年前には建設の途上であったキ
化が存在していて、思想、政治、宗教、学問、 「サイン力」の強さに読み取れるのである。
ャンパスが今回はほぼ完成しており、
その様
芸術に影響を与えている。大学の教員もそ
相にふれて色々と考えさせられるものがあっ
れぞれ出自は多様であり、
その開放的な空
2:モントリオール市の特質、
フランス色の強い
た。
気は、各国で活躍する著名デザイナーを招
混血文化
いて毎年夏に開講される国際デザイン講座
移民の国カナダの中でも
「ケベック州」は住
■キャンパスの横造的特徴
が、
もう二十年も続いているという実績にも表
民の90%がフランス系で占められているが、
この大学本部は街の中心部に位置してい
われている。
モントリオールは人ロ330万人に達する、
パリ
て、南北1,700m、東西1,200m(地下鉄は
に次ぐ世界第2のフランス語都市である。
し
感動
学校の端から端まで四つの駅にまたがる)、 ■サインを超えて語りかける、
かも、
あらゆるところにボーダーレスは進行し
広大な街中に約三十箇所のキャンパスが散
こうした特徴ある文化を持ち、
昼夜を問わず
ているようで、
ホモセクシャルの人口が増加
在している。
まさに人種のモザイクといわれる
絶えることなくメッセージを発進し続けている
の一途をたどり、
ここモントリオールも今では
多民族国家を地図上に描いたような大学で
ある。唯一のケベック州立大学として、
いくつ
かの学校を統合して設立した三十年の歴
史が、
結果として今日の形を成したわけだけ
れど、
まるで都市に浸み込んでいるかのよう
な大学と街との共棲が興味深い。大学のキ
ャンパスといえば、
塀に囲まれた四角い空間
の中に閉じこもって、外界と隔絶しているよう
な象牙の塔のイメージが通例ではあるが、
こ
こではビジネスゾーンもあれば、
ショッピングタ
ウンも、非常にいかがわしい猥雑な一角も全
て取り込んでというか、
それらと仲間のように
同じ空気を呼吸しているのである。
キャンパス入口はどこと決まっている訳では
なく、
地階は地下鉄の駅になって、
四方八方
から自由に出入りできる。日曜日でもメイン
ホールなどは、
エスカレーターが稼働し続け、
12
2
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
3
4
6
5
7
世界三大ホモ都市の一つに数えられるとい
ールという都市があることを実感し、都市環
う。最近では「ホモの人権」
をプラカードに掲
境がかなりのスピードで変わりつつあることを、
げるデモ行進がメインストリ−トを埋めたそう
路上観察学的に取材した。
である。ホモ人口が増えれば、他方のレズも
3.雑然とした壁付けのサイン類が多いけれども、人間の
営みが空間に表情を与えている。木枠、鉄材、
ビニール
シートなど多様な素材本来の記号性がいきいきと息づ
いている。計算されたサインではこうはいかない豊かな
意味を伝えてくるようだ。
4.巨大な女の顔がビル一面に描かれて、静かな周辺にビ
増えるとあって、
街中を仲良く手をつないで歩
ジュアルショックをもたらすサン・カテリーヌ通りの一角。
く若い女性のペアはそうだという。
中はソフトクリームのテイクアウト店。
5.町角が絵で埋め尽くされている。圧倒的なバイタリティ
■モントリオールのサイン環境
を感じるし、非常にうまい。これなどは立派なアートでは
ないか。こんな落書きだったら楽しくなると思う。
都市景観に彩りを与えるスーパーグラフィック
スも、
日本では考えられない大胆さで刺激に
満ちたシーンを形成しているし、
メインストリー
トからほんの一歩横道に逸れると、
どこにでも
1.大学本館とカテドラルの堂々としたたたずまい。鐘楼
が、地域のランドマークとして機能している。
6.個性的なデザインのメールボックス。左右の店のドアと
も壁に重ねられたビラとも不思議と調和している。
ドニ通りパリのカルチェラタンのような学生のたま
2.サン・
7.石壁にスプレーされた落書き。ジャクソン・ポロックのア
り場、
カフェテリアやレストランが軒を連ねる。こうした
クションペインティングもどきのうまさがある。色彩も石
ありがちな落書きに遭遇するが、不思議なこ
雑然とした界隈性が地域の特色である。ノイズが多い
の色とミックスして非常によい。
とに美しい。
まるでアクションペインティングで
ようだが、視認性は良好で、心を安らげる町全体の雰
街を埋め尽くしたような場面も目に入ってくる。
開気を演出している。ユトリロや佐伯祐三の絵のようで
調和と破壊、
秩序とカオスの只中にモントリオ
ある。
13
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
研究発表
わかりやすい道路標識に関する研究
武山良三
高岡短期大学
はじめに
国各地で噴出するだろう。
設置されている。
1998年4月5日、着工から10年の歳月を
ここでは、
明石海峡大橋周辺道路の案内
経 て 明 石 海 峡 大 橋 が 開 通した 。全 長
表示に対する問題点から、
道路標識全体が
車の運転者を誘導するためだけのサインで
3,911mは世界一の吊り橋である。京阪神
抱えている問題点を抽出し、今後の「わかり
はない。従って標識令には一部歩行者用サ
及び播磨と淡路∼徳島が陸路によって結ば
やすい道路標識の整備」へ向けた方向性
インの基準も設定されているが、
標識令にお
れたことで、地域全体の活性化には大きな
を探る。
ける歩行者サインは、
まちの公共サインや観
期待が寄せられている。
1.道路標識の設置基準
光案内地図として駅前などに設置される歩
大橋の開通に際しては、周辺道路を含め
た総合的な道路整備計画が行われ、既存
の第二神明道路、山陽道と結ぶための阪
道路標識は道路利用者を対象としており、
道路標識には道路管理者が設置するも
行者サインとは一線を画している。
のと、交 通 管 理 者が設 置するものがある。
(図2参照)
交通管理者が設置する道路標識は警察
(公安委員会)
が道路交通法に基づいて設
道路管理者が設置する道路標識は道路
置するもので、最高速度表示や駐車禁止な
神戸淡路鳴門自動車道が建設された。垂
法第45条第1項の「道路管理者は道路の
どの規制標識がある。
また、
交通安全施設と
水ジャンクションを核に、網の目のような高速
構造を保全し、又は交通の安全と円滑を図
して、信号機、電光式の道路標識などが整
神高速5号湾岸(垂水)線、
同7号北神戸線、
道路網が完成したが(図1参照)一方で、
急
るため、必要な場所に道路標識または区画
備されており、
これらも道路標識の一種であ
激な整備計画は聞き慣れない地名、路線名
線を設けなければならない」
という条文を元
る。
を増加させた。
また、
走行経路が複雑になっ
に策定された「道路標識、
区画線及び道路
たことから、
ドライバーが正しい経路を判断す
標示に関する命令」
(昭和35年総理府・建
2. 明石海峡大橋に至る経路案内での問題
る上で、
負担がかかる状況がつくられた。
設省令第3号。以下「標識令」
とする)
に基
点
2-1. 背景
こうした条件の下、
わかりやすく案内する
本事項が定められている。具体的には道路
べく、道路標識においては新しい試みが導
標識設置基準・同解説(社団法人日本道
「はじめに」でも触れたように、
明石海峡大
入された。シンボルや色が大胆に採用された
路協会 昭和62年1月)
に詳しく記述され
橋の開通に伴って既存の道路との連絡道
が、
これらは従来の道路標識の基準を大きく
ており、
本稿でも以下の関連箇所でこれを要
が建設されたが、
これによって地元の人でも
越えるものとなっている。
約する。
なじみのない地点名、路線名が増えた。さら
都市が密になるにつれ、
あるいは生活が
主な国道、県道、
あるいは高速道路等は
多様化するにつれ、道はそれらを反映して
すべてこの基準に則した整備が行われてい
路線を走っているという状況をつくり出した。
複雑になる。困難な経路誘導という課題は
るが、市町村レベルでは、必ずしもこの制約
周辺は山が海に迫り、谷間を縫って住宅開
何も大橋周辺に限ったことではなく、
今後、
全
に従う必要もないようで、
地域独自の標識が
発が行われたことから、道路は地形的に困
種類
にこれらは路線が短く、
いつの間にか別の
案内標識
警戒標識
規制標識
指示標識
設置者
案内項目
・経路案内
・地点案内
・付帯施設案内
道路管理者
すべて
交通管理者
両者
図1
14
図2
情報盤
・道路形状
・路面状況
・沿道の気象
・動物の飛び出し
すべて
・危険物積載
車両通行止め
・最大幅
・自動車専用
など
情報盤
・追い越し禁止
・駐停車禁止
・最高速度
・警笛を鳴らせ
など
・駐車可
・中央線
・停止線
・横断歩道
など
・通行止め
・車両通行禁止
・一方通行
・徐行
など
・規制予告
など
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
難な場所に建設されており、実際の走行に
際しては様々なストレスがドライバーにかかっ
b. 路線名表示
f. 色彩
アメリカ等で採用されている方式で適切
視認性、
識別性、
注意喚起の効果を考慮
ている。
な付番方法と相まって効果的な誘導が可能
し、各標識別に赤、黄、緑、青、白、黒が定め
2-2. 問題点
であるが、道路網が密で、複雑なときには規
られる。地の色は高速道路では緑、一般道
本件の案内表示については、
「明石大橋
則性が失われる。県道では以前はまったく番
では青地又は白地を用いる。一般道での高
のドライブ環境」
(武山良三:Signs in Japan
号案内がされなかったが、最近は基本的に
速道路案内には上部の道路名が白地、下
1998 NO.2、
社団法人全日本屋外広告業
番号を表示するよう指導されている。
部の矢印、
または指示表示に緑地が用いら
団体連合会)
に詳細が記されているので、
こ
路線名に関する付番方法は以下の通り
れる。
こでは省略するが、要約すると以下の問題
・路線番号:一般国道...政令で定める
g. 書体
点に集約される。
a. 判断に迷う
a-1. なじみのない地名、
路線名
a-2. 明石海峡大橋の標示がない
b. 画面が読みづらい
b-1.標示要素の視認性
路線名
一般道路標識: 丸ゴシック
・主要地方道:1から原則として連続し
た番号
高速道路等 : 角ゴシック
規制標識等 : 丸ゴシック
・一般都道府県道:101から
c. 通称名
標識令では以上のとおりであるが、
具体的
な書体名については触れられていない。丸
通称名については併記すると有効である。 ゴシックと角ゴシック、
どちらが視認性の良い
b-2.レイアウトの煩雑さ
交差する道路に通称名がある場合は案内
書体か。また、和文と英文で混在する書体
b-3.標示項目の多さ
するが、直進方向の通称名については案内
に疑問がある。
b-4.内照式器具の輝度の高さ
しない。また、一般道路の標示に高速道路
h. シンボルマーク
c. 行動時間/距離にゆとりがない
の通称名を入れることができる。
板面には必要に応じてシンボルマークが
c-1. 充分な予告表示が成されていない
d. ローマ字
c-2. 交通量が多く、
地形が複雑
昭和61年の改訂より原則として併記する。 れる例は3例で、付録に東京都で使用され
併記できることになっている。
しかし、挙げら
d. シンボルの扱いがあいまい
標記はヘボン式を用い、
「River」
を「Riv.」な
e. 色彩による誘導
どと省略することも認められている。
f. 情報の連続性
f-1. 前後の表示間での項目、
表現の統一
f-2. 管轄の違う案内における情報の
継続性
次に本件の問題点が固有の問題である
か、
また、
道路標識例そのものが抱える問題
道路標識には公共施設や観光地、歴史
街道などをからめて様々なシンボル及びピク
3-2. 表示基準
トグラムが登場している。両者を混同した使
a. 漢字の大きさは車の速度によって基準値
用例、
あるいは、
不適切な使用例も見受けら
が変わる。
れる。
70km以上
: 30cm
40,50,60km : 20cm
3. 道路標識例の基準
ているピクトグラムが掲載されている。
30km以下
: 10cm
文字間隔=大きさの1/10以上とする。
b. ローマ字
4. 分析
明石海峡大橋の問題点を標識例の基準
に照らし合わせ、
それが大橋での固有の問
題かどうかを分析する。次に、道路標識全
かについて考える。道路標識設置基準より
大文字 : 漢字の1/2
体の問題点として捉えるべき点について考
関連箇所を要約し、
検討を加える。
小文字 : 大文字の3/4程度
える。
3-1. 表示項目の特定
a. 地名表示
現行の道路標識には主として地名方式に
よる表示が用いられている。地名方式は道
c. 拡大率
高速道路等では全標識1∼3倍の拡大率
4-1. 明石大橋との照合
a. 判断に迷う
を用いる。
a-1. なじみのない地名、
路線名
d. 判読距離
(l)
→これだけ一度に新しい名称が付けられる
l=f(h*)
と、問題は避けられない。できるだけ関連性
はなじみのない地名や2本以上の道路が同
h*=k1・k2・k3・h
のある付番とし、
また、地図帳への掲載など
じ地名を案内する場合に混乱する。
h*:有効文字高
広報に努力すべき。
地名表示における分類は以下の通り
h :実際の文字高
→「阪神高速5号湾岸(垂水)線」はイメージ
・重要地
k1:文字の種類による補正計数
と
しにくい路線名...「阪神高速5号湾岸線」
k2:文字(漢字)
の複雑さによる補正係数
関連無く、
「湾岸線」
と言いながら第二神明
路網の変化に対応し易いが、
不案内な者に
県庁所在地、
政令指定都市、
地方生活圏の中心都市
・主要地
・一般地
・一般地著名地点および主要地点
(表示板中、
最も複雑なものを対象とする)
k3:走行速度による補正係数
e. 図と地
青地白文字は白地黒文字に比べ15%程
道路より山側を走る。
a-2. 明石海峡大橋の標示がない
→「明石海峡大橋」は巨大なランドマークな
ので、当然、
その名前で案内されるのではと
交通、
文化、
観光、
公共施設
度視認性が劣る。白抜き文字の場合は黒字
いう期待感がある。
図書館、
名所、
橋、
トンネル、
河川
空港、
に比べ10∼20%線の太さを細くする方が見
→基準では橋も地点名として案内して良い。
やすい。
(建築設計資料集成より)
→まず、
「明石大橋・淡路島」
、
淡路に渡って
・行政境界
15
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
から
「徳島」
という表示ではないのか。
討の必要がある。
用されるようになってきている。公的な施設で
→明石海峡大橋には「パールブリッジ」
とい
d. シンボルの扱いがあいまい
あっても
「目立ちたい」
といった欲求があり、
う愛称がつけられているが、現在のところ認
→大橋を示す方面にシンボルが付加される
それが独自性に拍車をかけている。
知されていない。中途半端な使用は混乱を
が、表現にシンボル性が乏しく、効果を上げ
e. 道路標識の種類、様式、設置場所等は
招くだけ。
ていない。
標識令によって定められ、
日本道路公団をは
b. 画面が読みづらい
→ハイウェイオアシスのシンボルが2カ所で表
じめとする高速道路でも、
この基準をベース
示されるが、
連続性に欠ける。
このシンボルは
に設置されている。明確な設置基準が設け
b-1. 標示要素の視認性
→情報量が多い分、基準値より小さいので
「ハイウェイオアシス」共通のものではなく、
淡
られているが、
上記のような社会的変革の中
はないか。
路特有のグラフィックであるため、
理解には学
で、現状に対応できないケースも発生してき
→白地の場合、
文字に補正が必要ではない
習が必要である。
ている。
か。
e. 色彩による誘導
f. 検討に際しては、車に対する情報と歩行
b-2. レイアウトの煩雑さ
→淡路島から垂水方面の案内に関して経
者に対する情報、例えばタウンマップや歩行
→縦書き、横書きの併用など、空いている部
路案内に色彩が用いられている。
ここでも各
者サインなどが連続して情報が表示されるこ
分に文字をはめ込んだといったレイアウトは
サインの表示に関連性が見いだしにくい。
とが望まれる。また、外国人利用などを含め
読みづらい。
→道路標識の色彩には禁止や注意を告知
た対策も必要である。
b-3. 標示項目の多さ
する目的の他、
いくつかの基準が設けられ
→経路が複雑になり、分岐が増えれば避け
ている。色彩の利用に関しては慎重な取り
ようがない。
組みが望まれる。
→分岐ではできる限り二者択一の表示が望
f. 情報の連続性
ましい。
f-1. 前後の表示間での項目、
表現の統一
じめ各方面でITS(Intelligent Transport
→複数の分岐経路がある場合、図式標識
→情報の連続性はそれが読みとられて始め
System=高度道路交通システム)
に関する
が用いられるが、
一回の掲示では理解しきれ
て、判読される。単に項目が同じというので
研究が進んでいる。次世代交通インフラの
ない。
はなく、一瞬で捉えられる画像のイメージとし
確立を目指し、大きな投資が行われている
→文字の判読距離の公式から30cmの「島」
て連続することが必要である。
が、
ITSが実現した社会においても道路標識
の文字を読み取る距離として75mが算出さ
f-2. 管轄の違う案内における情報の継続性
がなくなることはない。 道路標識において
れる。
→ハイウェイオアシスで案内された「橋の博
は過去に様々な実証的研究が行われたが、
l=5.67
(0.6×0.9×0.82×30)
=75m
時速80kmで走る車の秒速は約22mであ
おわりに
車載道路案内システムであるカーナビを
搭載する車が200万台を越え、建設省をは
物館」が垂水インターを出ると案内されてい
近年は低調で、
データも古くなってきている。
ない。案内する項目については、関連する
道路標識を相対的なサイン計画の一環とし
経路についても確認がいる。
て捉え、
取り組み直す時期にきている。
るから、標識を読みとる時間は3.4秒である。
実際には、
ある程度接近すると読めなくなる
ポイント「消失点」があり、仮に標識手前
4-2. 相対的な問題点
明石海峡大橋の分析点から、道路標識
10mで読みとれなくなったとすると、3秒弱の
全体に及ぶ問題点についてまとめる。
時間しかない。この時間内にどれほどの情
a. 都市部では高速道路のネットワーク化が
参考文献
報量が読みとれるかは実験データが必要で
加速するが、
それは一方で地下鉄のように
1)道路標識設置基準・同解説、社団法人日本道
ある。
複雑な乗換動線を生み出している。今後は
路協会、昭和62年1月
b-4. 内照式器具の輝度の高さ
高速道路と一般道路との関連性も再構築さ
→トンネル内の白地の画面で文字が読みと
れることとなるが、
利便性の高い経路を設定
れない。これは輝度が高すぎること、文字の
する際、
今までには考えられないような複雑な
性能が表示の形式に対応できていないこと
道筋になってしまう可能性も考えられる。
が要因と考えられる。
b. ハイウェイオアシスのように高速道路にお
c. 行動時間/距離にゆとりがない
いても交通を補助する施設から生活拠点と
参考ホームページ
c-1. 充分な予告表示が成されていない
して機能する施設が今後増加するものと予
1)建設省道路局(道路標識から道の駅まで)
→高速道路の出口では通常ノーズ手前
測される。そこではドライバーに対する案内と
http://www.moc.go.jp/road/index.html
2km、1km、及びテーパー端から400mの3
生活者に対するそれが混在することになる。
2)警察庁交通規制課
箇所に予告標識が出されるが、
ここではそれ
c. 深刻な道路事情、
公害問題などから今後、
が徹底されていない。
「レイル・アンド・ライド」などの交通手段の複
2)武山良三:明石大橋のドライブ環境、Signs in
Japan 1998 NO.2、社団法人全日本屋外広告業
団体連合会
3)建築設計資料集成/技術10、日本建築学会編、
丸善、昭和58年7月
http://www.npa.go.jp/koutsuu2/index.htm
3)愛知県トラック協会(交通標識一覧掲載)
http://www.cjn.or.jp/aitokyo/guide/do01.html
c-2. 交通量が多く、
地形が複雑
合化が促進されると考えられる。
→運転そのものに多大な注意を要する路線
d. 近年、
まちづくり、観光や歴史街道などに
http://www.hsba.go.jp/
だけに、標識の読みとりが通常以上に困難
特化した道路標識が増加してきた。そこで
5)日本道路公団
である。従って、基準以上のサイン設置も検
は独自のシンボル、
ピクトグラム、
色彩等が使
http://www.japan-highway.go.jp/index.html
16
4)本州四国連絡橋公団
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
研究発表
ホームページへのアクセスから見える状況について
木村浩
筑波大学芸術学系
ホームページをデザインするとき、閲覧者の
の操作が好きな人たちは新しい物へ移行し、
使用するコンピュータや閲覧ソフトは何かとい
一方、コンピュータを購入した時点のままで
うことがが知りたくなる。閲覧ソフトの初期バ
利用している人もかなりいることがが分かる。
ージョン
(Netscape 1.1やExplorer 2.0)
で
利用者の閲覧ソフトのバージョンは様々なバ
はシンプルな表示しかできない。閲覧ソフトの
ージョンが混在する状況が生まれている。こ
初期バージョンの利用者はどの程度いるの
うした状況から、制作者が意図したホーム
か、数値的な把握を目的に調査をはじめた。 ページが閲覧者に再現されない場合が生じ
「COOKIE LAND」
「ボタニカリウム(水戸市植物公園)」
「日本美術館・博物館・植物園のURLリスト」
以上3つ総合のアクセスの状況
1997年5月1日∼1999年4月30日
プラットフォーム
(OS)
の推移
100
%
80
今回の調査では、
コンピュータのタイプ、使用
ている。
調査は、筆者が運営しているサーバーのロ
40
グ( 記 録 )から行った。ホームページは
20
インターネットは、1992年にスイスのCERN
「Cookie Land」
「Botanicarium」
「日本の
0
研究所が考案したWWW(World Wide
美術館・博物館・植物園のホームページ」の
Wed)により一般化した。WWWは、ハイパ
3つを対象とした。その期間は1997年5月か
ーテキストを使用しページの移動が容易に
ら1999年4月末まである(註)。
そのバージョンを調査項目とした。
行え、文章、画像、音声、動画を表示でき、
ホームページの閲覧ソフトはMOSAICを前
用できる記述方法である。ホームページの
身とするN e t s c a p eが圧倒的であったが、
閲覧ソフトMOSAICが1993年にイリノイ大
Microsoft社 の Internet Explorerが
1999
ブラウザーソフトの推移
Windows 98の発売を契機に利用者が増
60
Netscape
20
others
0
ネットのアクセスをみるとMacintoshの利用
ごく一部に限られていたが、1995∼6年は
者は20%を割り、Windowsの利用者は
多くのプロバイダーが誕生し、自宅からインタ
60%以上を越えている。MacとWindowsで
100
%
ーネットへの接続が容易になり日本でも急速
は、文字表示の方針が異なるため、表示さ
80
に普及した。
れたホームページの表情は驚く程大きく違う。
60
デザイン分野でのコンピュータはMacintosh
40
1992年のWWWの誕生から現在までの短
の利用者が多いがWindowsのことをまった
20
い間に、WWWの記述方法や各種の閲覧
く無視することができなくなってきた。
ソフトが機能の拡大を計り、より豊富な表現
閲覧ソフトは多くの機能を持ち様々な表示
が可能になってきた。その中にはグラフィック
ができるようになっているが、再現できる表示
デザイナーからの意見を反映したと思われる
なそのバージョンによって異なる。閲覧ソフト
内容もある。
の初期バージョンを使用している利用者へ
閲覧ソフトは無料で配付され、コンピュータ
の配慮が問題であったが、今回のデーター
からは無視しても構わないと判断できる。し
Explorer
40
えている。閲覧者のコンピュータは、インター
5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4
1997
1998
1999
Netscape のバージョンの推移
0
v. 4
v. 4.5
v. 3
5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4
1997
1998
Internet Explore のバージョンの推移
100
%
80
v. 4
60
かし、ホームページをデザインする時の検討
40
項目は、使用者のコンピュータや閲覧ソフト
20
とそのバージョンなど新たに発生している。
800
誰に何を伝えたいのかが重要であり、コミュ
600
v. 2
v. 1
1999
v. 5
v. 3
Museum
1000
v. 4.5
0
5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4
1997
1998
v. 2
1999
ニケーションデザインの役割を明確にするこ
400
Botanicarium
CookieLand
200
0
1998
100
%
1993∼4年は、インターネットへのアクセスは
サイトへのアクセス数の推移
5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4
1997
普及しはじめた。ホームページが始まった
1200
Mac
others
Windows NT
80
様々な機種のコンピューターでも共通して利
学で開発され、ホームページは広く一般に
Windows
60
しているプラットフォーム、
閲覧ソフトの種類と
5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4
1997
1998
1999
とがより重要になってきた。
(註:本稿は発表後のデータを更新し、加筆した)
17
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
シンポジウム
「やきものの新しい波:サイン陶板の可能性」
パネリスト : 垣内泰三(大塚オーミ陶業専務取締役)
的場幸雄(同・製造担当専務取締役)
北山廣司(日本サイン株式会社取締役社長)
伊東寿太郎(伊東デザイン研究所)
司会進行 : 太田幸夫
会場
: 大塚国際美術館別館2階オープンスペース
■大型陶板理解のための4つのテーマ提起
特性とかいろいろな特性のあるものをほんの
のができなかった。それが先ほどもいいました
その1:素材
少し添加して、意図的な素材を作るというこ
ように、
ローラーハースによって非常に均一に
─従来の陶板とはどこが違うか/大型陶板
とですが、
私どもの場合は、
どちらかというとオ
焼けるようになった。それでは成型の方法は
ノウハウの蓄積/サイン陶板の特性
ールドセラミツクですね。その中でもかなり理
どうするかということになってくるわけですが、
論的に予測できる方法でやっております。
それは土の種類、
それから融度組み合わせ
太田:本日お話をいただく大塚オーミ陶業
ご存じのように焼物の原料は大きく分けまし
ですね。それを非常にシビアに管理すること
の垣内専務、信楽工場の現場トップ責任者
て粘土と、
プレート・ストーンがございます。石
によって、
初めて大きいものができているわけ
の的場専務をご紹介します。
(拍手)
ですね。私どもの場合は、
今日見ていただい
です。
まず私から、話題の提起という意味で4つの
た名画陶板に使っている大きな板、
これはス
今度は釉薬の問題ですけれど、
これが非常
テーマを上げさせていただきます。その1番
トーン、石を主体とした組成をしております。 に微妙なものでございまして、人間でいいま
目が材料、
素材そのものの問題。2番目は表
この床に使っているものは、
それよりも粘土が
すと素材が体になる部分で、釉薬の方が服
示内容、
あるいは表面加工の問題。3番目
多くなっております。それともう一つ従来から
になるものですけども、
これはどちらかと言い
が少し話題が広がりまして施工とか設計上
のハコモノといいますかフクロモノ、
こういう
ますとガラスの世界ですね。
これは理論的に
の問題。そこにはメンテナンスなども入ろうか
焼物は粘土が多いんです。
まあコシを強くす
やっていると、
どういう風に発色するというの
と思われますが、
合わせて経済性の問題。そ
るとか、
そういう形でやっておりまして。あとは
が分かります。難しいのは膨張係数ですね。
して最後の4番目が今後の問題、将来に渡
一つは焼物の場合、
原料の他に焼成方法と
個々の調整の過程、
また冷却の過程で、各
る問題を展望するということで、
アトランダムに
いうのがございます。焼成方法におきまして
物質によりまして膨張・収縮しますので、
その
話題を出させていただきます。
は、昭和43年にこれは日本で初めてローラ
下の生地と表面にかかる釉薬、
これをどのよ
まず1番目の材料、素材という点で、最初に
ーハースキルンというものが開発されまして、 うに調整するかによって曲がったり、凸状に
提起したい問題は何かと申しますと、今日こ
それを主体にして製造しています。
なったり、
反ったりします。
のように素晴らしい成果を見せていただいた
焼物は、生地と釉薬ということで構成されて
この辺の知識と経験を踏まえて、
トライ&エラ
陶板とは、一言でいえば焼物なんだと。土を
いますが、
まず生地でいいますと基本的な組
ーで究明する場合がほとんどです。教科書
固めて焼いただけ。
とすれば瓦然り、煉瓦然
成は、無機の世界ですから従来と基本的に
を見ましても参考文献を読みましても、焼物
その組み合わせと、
そ
り。だったら何も今に始まったことではない。 変わっておりませんが、
の場合非常に「適切に」
という言葉が多くあ
焼物という素材はいくらでも世の中に存在し
れから焼き方に新しい工夫がなされていま
りますが、
やはり非常にファクターが多いんで
てきたしその活用方法も一つの文化、
あるい
す。
すね。土のファクター、
成型のファクター、
それ
は文明を作ってきた素材である、
と。歴史的
例えば、周辺機器の発達で大きなものが焼
から焼くファクターですね。ファクターが非常
にそう要約できるわけです。
けるようになった。昔からハコモノというのは、 に多いので、
まず試行錯誤を通して基本的
にもかかわらずここで話題になっている陶板、 焼くときも均一に焼け乾燥のときも非常に均
な組み合わせを解明し、
応用していく以外に
これが従来の焼物と比べてどう違うんだ。片
一に冷めやすいということで、
フクロモノの大
や同じような焼物であってもできない。片や同
きなものができやすくなっておりますけれども、 着彩については、従来は大量にやる場合は
ありません。
じ焼物であっても不可能を可能にしている。 平物になりますと焼くときも周囲から焼け、冷
分色をして印刷だけで済ましてしまうという
一体これは何だ、
と。こういうプリミティーブな
めるときも周囲から冷めていく。乾燥のときに
場合が多いのですが、
私共の場合の印刷に
問題提起から始めさせていただきたいと思
必ず周囲から乾燥するということで大きいも
関しましては従来の分色による製版をきらい
どうぞ。
います。的場さんから、
的場:いま、焼物の材質といいますか、
それ
が従来の焼物と違うのではないか、
というお
話しでございましたけれども、
焼物には大きく
分けまして、最近いろいろな特性のあるもの
が開発されてきていますニューセラと、
オール
ドセラミツクといった意味の従来どおりの焼き
物がございます。ニューセラの場合は非常に
純粋なものを反応させて、
その中に電気的
18
シンポジウム風景 左から的場氏、垣内氏、太田会長、伊東会員、北山会員(*)
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
まして、
基本的には4色製版をやっております。 し時系列的に説明しましょう。
それを元にしてその表面にいろんな着彩をし
大型陶板という大きなタイルは製造可能にな
ています。大量にやる場合は、
分色した上で
ったものの、
生産のためのコストは高く、
一般
印刷だけで済ましてしまう場合が多いんです
建材としての市場性が限られておりましたの
けれども、私共のような1点のみの製作の場
で、
どのようにこの素材を世に出し、
我が社を
合は、
その4色製版の上にレタッチで加工・着
成り立たせるかというのが、
今から25年前の
彩をして、
さらに焼いて最終の作品に仕上げ
我が社のテーマでした。ちょうどオイルショック
ています。
の頃だったことも背景にあります。そこでこの
美術の方には私共は素人であったのですが、 大きなタイルにうわぐすりで絵を描いたら、
とい
数多くの製作を通じてさまざまな表現方法を
うことになった。私共の工場は信楽という伝
こなしていくノウハウが増えて、
かなり専門的
統的な焼物の生産地にあり、伝統的な職人
になってきています。専門的になり過ぎると、 技術には恵まれていたこともあります。大きな
頭の中だけで解釈しようとして、経験的な苦
陶板使用例:宮崎市科学技術館(**)
インに使ったら良いのではという要望、
注文も
陶板にうわぐすりで絵を焼き付けるという技
出てくるようになりました。セラミックサインを商
労を生かそうとする努力を省略しようとするよ
術はありませんでしたので・・・・今でもありま
品にしようと思ったのではなく、
大きなタイルか
うになります。やはり昔から、
焼物の世界とか
せんが、少しづつ壁画として採用されるよう
ら、
大きな絵を描いたタイル、
すなわち大型美
無機の世界というものは、
まだなかなか理論
になってきた。
術陶板、
そしてその応用であるサインと段階
的に解明されていないということがありますの
そうすると、
陶板にする原画を描かれた作家
的に発展してきました。
で、
とりあえず考えられることを実際にやって
の方々が、
自分の原作を生かすために色や
サインにするに当たっては、
今日ご出席の佐
みて、
その中から一つの小さい光を求めてい
質感について、
我々に細かい指示や希望を
藤優先生など、
多くの方々のご指導をいただ
くということが大事であると思っています。
次々に言ってくるようになり、我々もそれらの
いております。作家の方々のご指導で美術
太田:ありがとうございました。
この陶板がそ
注文に限りなく忠実に応えて行かざるを得な
陶板が発展してきたように、
サインにおいても
こに新しい視覚文化のページを開こうとして
くなりました。私共の釉薬が他社と比較して
さまざまのご要望に応じることで、私共の技
いるという解釈を、私は個人的にするわけで
異常に多くならざるを得なかったのは、
こうい
術は発展して来ました。これが、他には真似
す。それは視覚コミュニケーションの世界でも、 う経緯があったからこそで、初めからあった
のできないほんとの違いかもしれません。
常にそのメディアの在り方と使い方、
あるいは
技術ではありません。絵の作家との対話を通
太田:ありがとうございました。素材のお話し
可能性と限界が、
歴史上の視覚コミュニケー
じて、釉薬の種類やその表現方法を手探り
を伺って結論は、
一つはサイズの問題。それ
ションをコントロールしてきたということ。今あ
で開発し蓄積してきたわけです。
から釉薬の種類の豊富さ、
それを使い分け
る種の限界を、
破ろうとしているような息吹を
さて、
これら3つの違いをバックアップしてくれ
るノウハウの蓄積というようなところにポイント
感じるわけです。で、
そのポイントは何なのか。 る、
窯業技術の進歩も大事です。その中でも
がある。
一つはサイズの問題なのか。その辺をちょっ
先ほど話に出た、
ローラーハースキルンという
と垣内さんから補っていただければ・・・・。
窯が開発されたことは大きな意味があります。 体をベルトコンベアの上で動かして、温度の
垣内:これまでの焼物との違いは、
まず第1
従来の窯はいわば箱型で、中に焼く物を閉
にそのサイズが大きいということです。60cm
じ込めて焼くというのが一般的でしたが、
そ
材料の成分は石と粘土のミックス。それによ
角ぐらいのタイルのサイズであれば、
国内でも
の後トンネル窯という窯の開発があり、
それを
る平板の上に上着を着ている。その上着が
2∼3のメーカーで製造可能ですが、
畳1枚以
さらに進歩させたのがローラーハースキルン
釉薬である、
と。そうすると断面に切ってその
の大きさになると世界的に作っている会社は
です。これは焼く物がベルトコンベアーのよう
そういう体の上
組成を説明してくれといえば、
ありません。1枚だけなら作れても、
同じように
に窯の中を流れて焼かれていきます。閉じ
に1枚、釉薬という着物を着ているだけだと。
歩留りよく作る技術は他にはありません。
込めるタイプの窯が温度管理が極めて難し
すごくシンプルですね。その耐久性を増すた
第2にその大きな焼物の板、
私どもは大型陶
いのと異なり、
1個1個の品物を全く同一の条
めに、
コーティングするとかマスキングとか、
そ
板と言っていますが、
それを精度よく、
ねじれ
件で焼いていくことが可能になったわけです。 ういうことは特にない?
や割れなどない形で量産できる技術の確立
これによって私共の大型陶板は、寸法精度
垣内:はい。全く釉薬一つの皮ですね。です
寸法が大きくできる技術的な違いは、
焼物自
コントロールその他を完璧になさっておられる。
がありました。大型陶板は主としてうわぐすり
が良く、色ムラも起こらず、歩留りが良いとい
から普通の焼物と・・・・
で絵を焼成した美術陶板として製作してい
う特徴を獲得することができた。いくらトライ&
太田:変わらない、
と。ではなぜ大塚さんの
るわけですので、
精度が悪かったり、
焼いたら
エラーでさまざまな技術を確立しようにも、窯
陶板が、世に注目されるようになったのか?
しばしば割れてしまうのでは売り物になりませ
の方が不安定ではできなかったことでしょう。
その辺りを皆さんの方からもどうぞ。
ん。先ほど的場が話したように、
トライ&エラ
私共の大型陶板は、
このようにして3つの特
佐藤:それは、
さっきの膨張収差が少ないと
ーの試行錯誤の繰り返しの中で、精度や品
徴を持つようになり、
また1000度以上の高温
いうことなんです。つまり使う立場の我々とし
質、
歩留りの技術を確立してきたわけです。
焼成により強度が強く凍害もない。そして紫
ては、
精密な製版であるとか、
あるいはデザイ
というセラミッ
第3に豊富な釉薬、
うわぐすりの種類を持ち、 外線に当たっても褪色しない、
ンの技術をそのまま展開できるという、
すごく
原画に即した色の再現性を実現できるという
クの大きな板ができあがりました。芸術的な
大きな強みがあったんです。まずそこが第1
ところに、他社との違いがあります。それを少
壁画にもなるわけですので、
これを外部のサ
点。つまり精密なデザインができるということ。
19
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
もうひとつは、先ほど4色製版という話をされ
し上げたような、
不可能を可能にしたポイント
太田:私は8mmまでは認識していたんです
ましたけれど、
これは印刷と同じように色の
をわれわれの手中に納めたい。理解と認識
が、作品の下のキャプションに使われている
表現ができるということ。釉薬では今までそう
をしっかり持って、我々の実践にそれを生か
5mm厚の矩形パネル、
これも陶板なんだとと
いうことができなかった。
どういう色が出てくる
していく。それがまた、陶板の可能性という
いうお話しをうかがいました。大きさは制約さ
のか分からなかったんです。そういうことが
扉を開くことにつながるんじゃないか。北山さ
れるのかもしれません。
大塚オーミさんの技術によって明確に、
チャン
んはどうお考えで?
北山:これで1mぐらいのものができればかな
と計算してその色が出るようになった。それ
北山:そうですね。確かにこの20年30年で
り使える。
からまだ触れられていないけれど、
工法の問
新しい技術、新しい素材の開発で、
このよう
太田:今までのお話しを、材料としての素材
題として、
昔は湿式だったのが今では乾式に
なサイン関係ではたいへんな進歩があったと
に焦点をおいて要約してみると、長尺ものの
なってきたという施工法の進歩。それは技術
思うんです。いま振り返ってみますと昔のサイ
技術の可能性を開いたということと、
さらに膨
的に我々のやり方をすごく変えていったもの
ンの表示とはガラスにペンキ加工するとか、 張率、
収縮率の差が少ない。つまり精密なデ
です。それから陶板で何が可能になったかと
過去にはこうしたことをやっていたんです。ガ
ザインを期待できる精度。それプラス釉薬、
いうと、
再生産が可能だということです。陶板
ラスから塩ビ樹脂板になり、
それから遥かに
着物の方ですね。それは色数にすると何色
の特徴は一品生産というのだけではなく、
基
高度なアクリル板という風にどんどん変わって
あるのか。
本的には大量生産ができる。
ということは何
きまして、
それに対する加工法も当然、切り
牧谷:その前に単純な質問を一つ。焼成中
を意味しているのかというと、
ソフトを蓄積で
文字・箱文字、
シート加工とか印刷加工とか
にねじれや割れはいっさいできないんです
きるということなんです。いま世界中の名画を
いう風になってきたんですが、
逆にずっと過去
か?
ここに集めていますけれど、
その名画を集大
までさかのぼりますと、看板とか道標には木
的場:最初のころは、
やはり最高温度で軟化
成したこの建物よりも、
そのソフトの価値を着
材・石材などが使われ、
歴史にも残る文化財
しておりますので、
当然曲がったり、
内と外の
実に定着させてきた蓄積は、
すごく大きいと
的なものが現存している。
生地の膨張係数の差によりまして反りが出た
思うんですね。
やはり耐久性があり褪色しないということが、 りとかありましたけれども、
いまは生地、素材
ただ問題点はあります。競合がない。90cm
とくに公共サインの場合要求されます。現在
に釉薬、
そして焼成の窯ですね、
この3つの
以上ということになると、
競合他社がない。指
でも街の中では歩行者案内標識、
いわゆる
条件を全部クリアしてますから、
それは大丈
定することはできるのですが、競合がないと
歩行者のためのサインというものがわりと充
夫です。
公共的には使いにくい場合がある。我々とし
実してきて、大阪の場合は主要な交差点で
牧谷:じゃあ全くそのおそれはないと。逆に
ては大版でこれだけの精度が必要だ、
という
はほとんどあるのですが、地名とか通り名と
いうと、
一番薄いので最大どこまでができるん
場合もある。そうすると1社指定になりますか
か周辺の案内地図といったものが街区のサ
ですか?
らね。工事の方を幾つかに分ける方法もあり
インシステムとして確立してきた。特に何か
的場:いまのものでこの美術館では、900×
ますが、本質的な解決にはならない。良いも
の災害の場合には学校とか広場、公園など
1400で6mmというのをやっておりますが、
こ
のを良いと言い切れないところに悩みがある。 公共の避難所へ誘導するサインとして、
当然
れに関してはまだ吸水率の問題があります
そこのところが問題点ですね。
これ等は必要になってくる。
ので、
内壁だけですね。
つまりは技術的な意味では、
先に言った膨張
それから一般的には、
ビルの社名板にしても
牧谷:アウトドアはダメなんですか?
収差がないといったことが機械化を可能にし
会社の
そうなんですが、
建設の時点で礎石、
的場:アウトドアに関しては今8mmで600×
たし、
デザインとして計算できるものが作れる
社名板も大切なものです。今までは金属、真
900というのが最薄手です。ただ取り付けの
ようになった、
というのは大きい。それからもう
鋳とか銅に腐食をしたりいろんな手段でやっ
方法により、
どうしても厚みが必要なものとか
一つは文化的な意味として、
こうして表現し
てきたんですが、阪神・淡路大震災のような
が出てきますので、
その辺は工法とのからみ
たものを蓄積できるようになった。今までは全
災害のときは、
家屋も倒壊するし、
街区のサイ
で13mmが今基本になっております。
部使い捨てだったでしょう。サインにしてもね、 ンも町名・地名・商店名のほとんどのサインが
牧谷:でも、
8mmも可能ですか?
的場:可能でございます。
作ってそれが朽ちたらもう壊していくという。
と
焼け落ち、通りの区別もつかない状態になっ
ころがこの技術ができたことによって、
我々が
た。
もし陶板が使用されていれば、
たいへん
武山:あの、焼物というと割れるというのが
作ったものを蓄積することができるようになっ
な効果があったのかもしれない。陶板技術
基本的に頭にあるんですね。で、
お薦めする
た。歴史が始まったということです。それから、 は将来へ向けて、求められるものを提供でき
ときお客さんにその辺をどうクリアして話をす
私がどうして陶板をずっと使ってきたのかとい
るんじゃないかと思うんです。
ればいいのか、
その辺を。
うと、
その触覚性なんですね。これは感覚的
ただこのパンフレットで施工例を見せてもらう
的場:はい。一般的にですね、通行量の多
な問題ですけども、
表面的な視覚だけではな
と、厚さ13mmですか、
その辺が主のようだ
いところで傘の柄とかそういうものによって、
くて、皆さん触って見てくれるんです。今まで
けれども、
われわれとしてはもう少し薄手のも
少々いたずらされても大丈夫です。ただハン
のいろんな素材には、
そういう現象はなかっ
の、何とか薄いもので丈夫なものができない
マーでですね、
故意にこれをやられるとやはり
た。今日の会場でもそうでしょう、皆さんやは
かという疑問も少しございます。
割れます。
り触って見ています。
太田:さきほどの会場にあった説明キャプシ
武山:それは下地の問題とも関係してくるん
太田:ありがとうございました。全体を総括し
ョンの平板、
あれは5mmですよ。
ですか?
てくれたようなお話しかと思います。始めに申
北山:5mmですか。すばらしいですね。
的場:そうです。ですから今回の薄い 6mm
20
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
太田:その色そのものが釉薬だ、
という意味
を試すということは?
なんですね。
的場:いや。白い板でやりますと、
1回で終わ
的場:はい、
そうです。
る場合もあります。また次の色を用意してお
太田:先ほどの4色分解の重ねとは、
オフセッ
いて2回でやる場合とか、3回でやる場合と
トのインクのように透明だという前提なんです
かがあります。内容によって全部使い分けを
ね。例えばシルクのインクならば、4色の色は
しております。
重ねたところで下の色は上に出てこない。原
太田:その白い板というのは、
私は何度か手
則、不透明ですから。その辺はいかがです
に取らせていただいたのですが、紙の種類
か?
でいいますとマットコート紙ですね。非常にき
的場:焼物の場合は、
やっぱり不透明になっ
めの細かな平らな面で、何でも書いてくださ
ております。
いという表情をしている。あれは一度焼いた
太田:焼物の場合は不透明?
状態を我々は見たんですか。
的場:はい。いわゆる無機の顔料ですね。
的場:そうです。それは下のベースと我々は
太田:オフセットは4色に分版して、色を重
言ってますけれど、
焼き物の場合は金銀だけ
ねれば、必ず下の色と上の色が影響しあっ
は付随的に焼き付ける、
というだけで反応さ
て、第3の色が見えるわけです。
しかし釉薬
せていないわけです。だから洋皿とかもカッ
陶板使用例:福岡市案内板(**)
は不透明、
シルクと同じだと。その辺の表面
プでも、
金銀は何回も拭いているうちに薄くな
の内装板ですね、
これは全部バックアップを
加工──情報をいかに乗せるかという技術
ったり色落ちしたりします。他の色に関して
してあります。そうしないと止め方がないんで
のことをもう一歩。コンピューターを使った製
は、化学的に高温をかけて反応させて初め
す。
版技術と、
もう一つは転写ですね。子供のこ
て色が出せる。極端にいえばガラスの世界
太田:そう、
背中に薄いメタルのプレートが入
ろ絵の画いてあるシートをツバを付けて皮膚
をその中に作る、
という風に考えていただけ
ってますね。それで壁に固定する。
に張って、
シートをこすって消すと、絵だけが
ればいいですね。
的場:はい。それで接着パックをやっておか
残って入れ墨のようになる。私などもよく遊ん
太田:それと4色分解、
つまり重ね合わせの
ないといけない。ですから外になりますと、接
だ記憶があります。この原理を大塚オーミさ
関係はどうなるんですか?
着だけでというのはなかなか難しい。それで
んもお使いになっているということで、
こんな大
的場:先ほどオフセットの話が出ておりました
当然13mmの場合は、建築の工法と同じで
きなシートを拝見したこともありますが、
その辺
が、
これはベースの上に転写という方法でや
裏に溝を確保したり、小穴を開けてアンカー
りをお話しいただければと思います。
るんですけれども、
一般の釉薬の場合ですと
で止めたりしています。逆に薄くなると必ずバ
的場:表面の化粧の仕方というか表現の仕
光沢釉とかガラス釉、
マット釉とかありまして、
ックアップして工事をするという必要が出ま
方は、筆で塗る場合、
エアスプレーでする場
それは基本の釉薬なんです。その中に顔料、
すので、
その辺は工事との絡みですね。それ
合、
マスキングをしてやる場合、4色製版によ
それから金属酸化物を添加して初めて発色
と施工の部位。それによって素材の選択とい
その
る場合、今おっしゃった転写ということ、
させているわけです。顔料というのは、
一度こ
うことが出て来ると思います。
前に素材の状況として、釉薬をかけるのに
ういう金属酸化物を高温で加工したもので
一度焼いたものにやるのか、
焼かない前にや
すから、発色の状態といいますのはこのガラ
■その2:表面加工
るのかでまた全然変わってきます。
ス層の中で懸濁して初めて色ができるという
─生地と釉薬の関係/釉薬の色数3∼4万
ちょっと話を戻しますけど、
一般的に焼物とい
ことです。
色/コンピューター分版からレタッチ仕上げ
うのは1度焼いて終わりなんですね。2度3度
太田:ケンダク?
までの精密工程/テクスチュアの表現
というのは、焼物の世界の常識にはありませ
的場:懸濁とは、
ちょうど泥水のような状態で
ん。それをどうしてもという場合には、
2度3度
すね。顔料の粒子がその中に均一に分散し
太田:施工のことはまたあとで伺いたいと思
焼いても割れないような組成を組んでおくわ
ているわけです。ですから、顔料の発色とい
います。
もうすでに話が表面加工、
あるいは
けです。一度焼いた上に、
今度はもう一度色
うのは非常に安定しております。薄く塗っても
それに盛り込む情報などの表示内容に移っ
あまり色が変わらないということ
を主体にした釉薬を乗せて焼いて色を出す。 厚く塗っても、
ていると思いますが、先ほどの長尺ものを精
普通の印刷物と比べると、
シャープさというの
になる。いわゆる窯変釉というのは金属酸化
密に仕上げる、狂いが少ないその技術と、
そ
はやはり劣ってきます。印刷物の場合は当然
物です。これはこの釉薬の層の中で化学反
れから上に乗せる着彩のノウハウ。
この両方
アミ版で印刷した色が出てきますけれど、焼
応する。ですから化学的にいうと、SiとかOと
の工業所有権はもう確保されているんです
き物の場合は1度目を焼く場合も2度目の場
かですね。金属酸化物がイオンに結合して
か?
その多い分の金属酸化物が表面
合も反応させて色を出しているわけですから、 いるので、
的場:いや、
それはやっておりません。大きな
少しにじんだ状況となる。ですからこのままの
に出まして、
ラスターだとか窯変だとかいうの
板を作るのはやっておりますが。
状態ではやはり印刷物と比べますと、
よく見る
が出てくるんですね。
太田:じゃあオープンですね。ちなみに何色
とちょっとシャープさが劣りまして、
それをクリ
太田:例えばイタリアとかフランスとかに行っ
なのか?
アーするためにそういう方法を取っている。
て、
8×10のフィルムで写真を撮ってくるでしょ
的場:一応、
3∼4万色ぐらいです。
武山:それは1回で再現できるのですか、色
う。で、
そのフィルムをコンピューターで色分解
21
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
して、4色の分版にする。それで濃淡はアミ
クですか?
するか。あるいは転写シートという素材の上
点でもって普通のオフセットのような転写シー
的場:分解の段階でもう一つ難しいのは、
ベ
に焼き付けるか。そこからが分れてくるわけ
トを用意するわけ、
4色分。そしてそれを4回
ースの釉薬によって発色の条件が変わってく
ですね。
上に乗せて、
重ねた色で元の原画の色再現
るわけです。ですから、
この釉薬の場合はこ
的場:そうですね。それでアミ版のフィルムを
ができるかと思いきや、
そうじゃなくて今のよう
ういうスキャニングをして、
この絵の具を使い
作りまして、
それからシートの刷版にしますね。
に化学反応をして色が決まるんだ、
と。
なさいという風にやってます。
それを転写紙にとりまして、
それは膨張収縮
的場:4色製版の場合は発色成分を多くし
太田:ベースの釉薬とは、着色の材料という
の少ない紙の上にノリがついているものです
ないと、
反応させると色が飛んでしまうわけで
ことですね?
が、
その上に絵の具があって、
それから樹脂
す。
とくに赤系統ですね。それをうまく調整し
的場:それは先ほど言いました、
一番最初に
でコーティングしてサンドイッチにしてしまう、
と。
ないとダメなんです。普通の釉薬ですと発色
かかっている白の釉薬ですね。
これは水貼りの転写ですから、
水につけます
成分というのは、0.0数%から多いもので10
太田:えっ! 一番最初にかかってる? 1
とノリのついている絵の具が今度は樹脂側
数%で色を出しているわけです。オフセット印
回焼くとおっしゃった? ああ、
だから土があ
についてきますので、
それを陶板に貼るという
刷で普通の状況で印刷して転写紙を作って
って着色材があって、
それで終わりですか、
と。 ことです。
これを焼きますと、
樹脂は有機質な
焼いても、絵の具が少ないからほとんど色が
今こうやってこだわってみたら、
何と着色材と
ので焼けてなくなりまして無機質の顔料──
なくなってしまう場合がある。ですから私共の
の間にもう1層ある。すると4色重ねると5層じ
絵の具だけが、
ベースの陶板の釉薬と反応
場合は、発色成分が非常に多いわけで、
そ
ゃないですか。
して発色するということになります。非常に簡
れでシルク層の厚みの中で勝負して色を出
的場:ですから、先ほど言いましたように非
単な理屈なんですけれども、
このベースの組
しております。
常に複雑でございましてね、
まあベースの色
成とかいろんな条件、
そこに印刷したい顔料
太田:化学反応するんですか、
しないんです
の白を、同じ白でも光沢の白、
マットの白、
そ
がどういうものか。それによって発色の条件と
か?
れから少しアイボリー系の白と、組成にもよっ
いうものは、
全部変わってきますから。
的場:しております。ですから、釉薬の層と
たりしましていろんな白がある。それに同じ転
伊東:それは今までの何年かに渡る経験が
反応しているんです。
写紙をやりましても、
色が全部変わってくる。
あって、
こうすればこの窯変が得られるとか
太田:すると御社としては、
化学反応する前
太田:ああ、
アート紙と上質紙で、
インクの色
が分かってきているわけですね。普通のオフ
から化学反応した結果を予測して、
それで4
の出方が違うようなもんだ。
セット、
あるいはシルクの印刷なんかに比べる
色分版しているということですか?
的場:作品によりまして、
この白とかあの白を
と、
何十倍、
何百倍と難しいところがあるわけ
的場:そうです、
そうです。
使うということです。その辺の調整。それから
だ。
太田:これはすごい発見ですよ。着色のノウ
その釉薬によってスキャニングの状況が違い
的場:そうですね。その辺は私どもいろんな
ハウがすごい、
と先ほど垣内さんはおっしゃっ
ますので、個々の作品を見ましてどういう方
要求がありますので、
それにより近付けるには
一番最初に考え
た。そのノウハウというのが一体なんなのか、 法にしていくかということを、
どういう風にするか、
ということでやっていま
ようやくその一端をつかんだ思いですよ。伊
るんですね。それでさらに深みを出す場合は、 すので。
東先生いかがですか?
一度転写して焼いてから、透明の釉薬をか
太田:原稿といいますかオリジナルから複製
伊東:今のお話しでは印刷インクのような透
けてサンドイッチにして、
もう一度焼くとか。そ
をつくるわけだけれど、同じ方法でまた他の
明なインクと違う。要するに釉薬といっても、
イ
れは作品によって技術的にいろんな技法を
ものをやったなら、
結果がまた全部同じという
ンクとは全然材料的にも違いますから、
それ
採るわけです。
んじゃなくて、
そのつど釉薬の調合や何かで
をどうやって混色できるかという点もあったと
オリジナルに近い色は出
太田:いずれにしても分版するところまでは、 やっていかないと、
思います。分かり易い例でいいますと、赤の
シルクだろうと転写だろうと同じてある、
と。マ
てこないということですか?
釉薬とブルーの釉薬、
これが重なり合えば印
スキングで何とかというのはあまり例は多くな
的場:ただ、
その上にもう一つありますのは、
刷では紫になるんですが、
それが化学反応
いと思いますので、
2種類。つまりシルクか、
あ
今回の場合ですと1点だけしか作りませんの
で紫が出るということなんですか?
るいは転写か。そのいずれも4分版は必要で
で、一度焼いた上に今度はレタッチでもう一
的場:赤の場合でもですね、
特にセレン系の
ある、
と。4色のフィルムに分けるんですね、
ア
度やっています。
赤は、
他のものを混ぜるとこれはもう全然発色
ルミをかけたフィルムに。
太田:30年イタリアで修行して、向こうの国
しない。黒くなります。我々の場合はどちらか
的場:工程的には全く印刷と同じです。スキ
宝を修理してきた人が他の若い人たちと一
というとピンク系のもので、
混ぜ合わせて色を
ャニングのデータなんかは全然違いますけど
緒にレタッチしてる。20人も30人も。苦痛に
出している。
も、
工程的には全く同じです。
歪んだ顔で仕事しているのかと思って覗きこ
伊東:青と混ぜ合わせて紫になる。それなら
太田:ではコンピューターによるスキャニング
んでみたけれど、
皆さん喜々として、
こんな小
ば、黄色と重ねた場合にきれいなグリーンが
の結果、
アミもかかってるんですね。
もちろんオ
さなスペースを、1ケ月も2ケ月もかけてレタッ
出来るというのは、
どういうプロセスになるん
リジナルどおり。つまり濃淡の差がアミのグラ
チしている。
ですか?
デーションになって、
フィルムに撮れるというの
的場:ですから、
もともと印刷というのは大量
的場:それは基本的にはあの4色で、大体
が今の分版。4色に分けるフィルムの仕上が
に同じものをいかに安く刷るかということが基
混ぜ合わせればうまく色が出ます。
り。次にそのフィルムを、
シルク印刷の感光剤
本ですけれども、我々の場合はその基本を
太田:その混ぜる技法は、
転写ですか、
シル
を塗ったシルクの刷版の上に密着焼き付け
無視して1点だけというのをやっておりますの
22
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
なかなか使えない。
太田:皆さんの方から質問があればどうぞ。 150万円ということで、
武山:もう一つしつこいようですけれど、釉
例えばここにりっぱなパンフレットをいただい
薬で反応させるということは、普通のオフセッ
ているわけですが、
あとの方を見ますと施工
ト印刷では見られるようなドットパターンが、
ル
事例、
その中には自治体も少なからず。それ
ーペで覗きこんだときに一切見えないというこ
は多分サイン関係だと思いますが、
こういうパ
とですか?
ンフレットにまとめるだけの実績はたいへん
的場:少し残ります。滲むていどには。
結構なことだと思います。
しかしサイン界全
武山:もう一つは、CMYKというのが普通、 体に於ける陶板の利用率を数字にしてみる
印刷のような分版になりますけれども、
釉薬が
と果たしてどうか。1%にも満たないんじゃな
コバルト版・マンガン版みたいな形で、
例えば
いか。何かそこに横たわっているネックがあ
コバルトがかかったときにこれくらいの色でカ
るんじゃないか。そんなことを推測するわけで
ーブするということをコンピューターに記憶さ
すが、
いかがでしょうか。
せて、
それから逆算してスキャニングされてい
的場:このパンフレットには、
こういう価格表
るんですか?
が入っております。
リストに出ているものには
そのつど見
的場:いや。CMYKの分解なんですけども、 いろいろな技法がございまして、
記憶させてというよりは原稿を見てスキャニン
積りをさしていただくという形で、
ほとんど1件
陶板使用例:大塚国際美術館のトイレ表示(***)
グするものが全部で。
1件どういう風に設定されたか、
どういう仕上
で、
あとは手で修正してもう一度焼くというこ
武山:えっ、
スキャナーは使わないんですか?
げにするかということでお値段が変わって参
とをしています。
的場:スキャナーの入力のデータは行ってい
ります。先ほどの墨の話しで、
白いところに墨
太田:どう色を再現するかという話に加えて、 るんです、全部。でも非常にいい原稿とか、 の濃淡で文字なり何なりを描くと、
けっこう簡
テクスチュアの話がありますね。日本画と油
悪い原稿とかありますから、
それは原稿を見
単そうにみえてこれが大変だったりします。サ
絵、水彩画と墨絵と、版画、
リトグラフ、
フレス
て全部入力しなおす。で、
難しいものになると
インの業界に対しましてはある程度この価格
コなど、
そういうテクスチュア。
これもどうなさっ
最終的にはどういう判断をするかといいます
をはっきりさせる必要があり、
価格表を挟んで
ているのか。
と、
修正しやすい分解ですね。それで修正し
ございますが、
この価格は逆に私どもが「高
的場:今の中で違うのは、
どちらかというとフ
やすいスキャニングをする。オフセットと違うの
いですか?」
とお聞きしたいと思っているんで
レスコ、
それからテンペラですね。これはまず
は、
オフセットというのは非常に中間調がきれ
すけれども。
下絵からそういうイメージを作っていかなくて
いに出ますよね。いかんせんシルクの世界で
太田:ええ、
高いですね。
はダメですから、
若干の凹凸を付けたり板目
すので、
なかなかそれを出すのは難しい。
垣内:高いという風におっしゃる方は、
私ども
を付けたりというのは、
あるていど生地の状
太田:ちなみに線数はどのくらい?
の接しておりますお客さまではどちらかという
態でやっております。その上にシルクを張って
的場:最終の印刷の線数は1インチの中に
と多うございます。まあ、
ステンレスの焼き付
焼き上げ、
さらにレタッチして焼く。
300あります。
け塗装なんかに比べて実際のところどうなの
で、
さっき墨絵というお話もありましたけれども、 太田:300!
か。それから実際のサイン・シエアの中では
一番発色で難しいのが黒、黒といいますか
的場:上では350とかあるんですけれども、
逆
どのくらいあるんだ、
ということになりますと、
薄いグレーですね。これも顔料の世界で基
に今度はそれ以上に細かくすれば発色しな
1%もないと思うんですね、
公共サインの中で。
本的に黒の出しかたがいろいろあります。マ
くなる。現状の技術では350。
以前、
サインの業界のいろいろな市場調査を
ンガン系の黒か、
コバルト系の黒かなど。マン
伊東:そうとう細かいですね。一般のオフセッ
そういう機関に頼んでやってもらったことがあ
ガン系の黒であれば濃いところは真っ黒に出
トなみの精度です。
りますが、建築材料の分野──ここの床に
ますけども、薄いところは赤みのあるグレーに
敷いてありますタイルとか、
こういうものに比べ
なるようです。コバルト系であれば薄いところ
てどうも市場が未分化といいますか、
はっきり
は青みのかかったグレーになる。その辺がと
■その3:設計・施工上の問題
してない。いろんな業者が、
いろんな形でお
くにシンプルなものほど難しい。
─サイン陶板のコストは果たして高いか/イ
やりになっていて、
素材とか金額とかシェアと
太田:我々、前回は京都の『名画の庭』を
メージに反して割れない陶板/流通面のネ
かが市場的に把握しにくい。
見に行ったんですけども、
あの中の墨絵の絵
ック
ただ、
こういうちゃんとした意味でのセラミック
のサイン、
1000度以上で焼いているというサ
巻物なんかも実際は難しいんですね。
的場:あの中で一番難しかったのが「鳥獣
太田:3番目に話題にしたいのは設計上の
インをやっているのは、基本的に我が社しか
戯画」ですね。ベースの質感と、
それから墨
問題。施工とかメンテナンスの問題を我々が
ないところが、逆に我々にとっても悩みなので
の滲みです。あすこまで出すのに、
だいぶい
承知して、今後サインに陶板を生かしていく
す。2社以上がやっていますと官公庁にも話
ろいろ試行錯誤しました。当初はあの下地
という道を持つことができればそれに越した
ができやすいですし、市場も膨らんでくるので
の布目の感じを出すのが難しいんじゃない
ことはない。それにしても従来は、陶板イコー
すが、現在は1社だけですから。先ほどの市
かなと思っていたけれど、
それはけっこうすん
ル高いということですね。例えば私も記憶し
場が未分化であるということも、拡販ができな
なりいきましたが。
ておりますが、1平米で色数によりますが、約
い原因のひとつです。建築業界のように施
23
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
主があって設計があってゼネコンがあり、
そ
とは、
比較上はありません。
識がどうしてもあるんです。特に役所の方に
の下請けやメーカーがあるというような地図
ところが陶板、
焼物とは割れやすいというイメ
は。贅沢なものはやめよう、
というようなね。
とこ
がない。いろんな業者がいろんなサインをや
ージがあって、食わず嫌いというか、
そういう
ろが皆さん実際にシルクスクリーン印刷で、
同
っていて、自治体の発注形態や発注先もマ
危ないことをするのは止めておこう、
というの
じ6色なり7色で印刷したら幾らになるかちゃ
チマチのようです。大型陶板によるセラミック
が現状でしょう。そういう辺りに対する我々の
んと計算したら、
しかもそれが3年とか5年し
サインを広げていこうということになりますと、 PR、
説得、
あるいは資料づくりというのは遅れ
かもたないということを勘定に入れたら、
はる
全国的にやるならどの流通を通してやればよ
ていると言わざるを得ません。
かに安いってことが分かると思うし、
逆にプラ
いか、この地域だったらどうしたらいいか、
と。 また企業経済的な採算の観点からいいます
スチックなどの素材と同等に扱うということは
それがたいへん企業としては難しゅうござい
と、大きなものですと例えば都市サイン、
ある
まちがいです。陶板というのはそういう質の
ましてね。
いは史跡を全面的にこれに変えるんだという
商品じゃないんです。安上がりな素材と同等
それとは別にセラミックサインが一般化しない
風に、
多くのサインが一度に発注になれば良
に競争すべき商品ではなくて、
別の機能があ
のは、
先ほど割れやすいという風におっしゃい
いのですが、
1点だけの注文というのはコスト
って、
しかもランニングコストが安いという、別
ましたが、
これもイメージとして足を引っ張っ
高になります。的場から説明したような色とか
種の商品だということをよく理解していただき
ている。それは、
こういう風に申し上げたら分
版下の問題についても、
いちいち全部打ち
たい。
かるんじゃないかと思うんですけれども。確か
合わせして決めていかなければならないの
ただし代理店によっては、
だいぶコスト差があ
に陶板というのは曲げ強度とか圧縮強度と
で、
割高につくわけです。従って、
小サイズの
るのも事実です。
というのは、陶板のための
かは非常に強いが、衝撃強度はやはり弱い
サイン陶板1点というような受注をしていくた
デザインをしきれない所だとやっぱりどうして
と言える。お皿が弱いというのと同じように。 めには、
やはり流通そのもの、
ネットワークを確
も高くなりますね。一方大塚オーミの方の難
これをカバーする方法は、基本的にいうと他
立していかねばなりません。セラミックサイン
点は、自社の中にデザイン機能が比較的少
の材料でバックアップするのが一般的です。 に精通したネットワークづくりは、
これまた難
ないんです。職人さんの団体なんです。です
従って金属板に全面接着でもって張り付け
事業でして、
サインの業界が未分化なことも
からそこを外注すると、
やっぱりそれなりに高
て衝撃に耐えられるようにする。あるいはモル
あり苦戦しております。普及すればコストも下
くなる。納入も遅くなるし。だから、頼む方の
タルで土台に張り付けて、
コンクリートと一体
がるのですが・・・・。
理解や技術革新に負うところが大きいです
化する、
というような形態をとることによって、 太田:ありがとうございました。流通の問題、 ね。それをよく考えていただくと素材としては
衝撃強度に耐えるようにする設計する必要
それから官公庁にみられる先入観の問題な
があります。
しかしバツクアップすれば、
そうい
どが、
ネックになっているというようなお話しだ
本当にいい素材です。
う薄い陶板でも一般的な衝撃には耐えられ
ったと思います。研究の姿勢を全面的に打
■その4:今後の展望
るようになります。
ち出しながら幾つもの優れたサイン計画を実
─サイン陶板の可能性と課題/バリアフリー
研究発表してくだ
例えば人が突撃して大丈夫なのかというと、 践してきたという立場から、
もちろんこれは大丈夫なんですね。人がぶつ
に最新の開発アイテム
さった佐藤優さん。ちょっと今の話にプラスし
かって怪我する方が、
割れるよりも先になりま
てコメントしていただければ、
と思いますが。
太田:今日は非常に良いお話しをうかがえ
極端な場合ですとハンマーであると
す。あと、
佐藤:今の割れるという話に関しては、
九州
て納得できましたので、
最後のまとめとして今
かバットで打つ、
あるいは石を投げ付けてみ
では大体200点以上・・・・300点くらいになっ
後の展望という話になるんですが、
私が一言
る・・・・金属板でバックアップした場合ですと、 てるかもしれないような施工実績があるんで
触れてみたい。つまりこれまでに建築陶板・
子供が小石を投げ付けたていどでは斑痕も
すけれども、
その中で割れたというのは1枚し
美術陶板というのはりっぱに立ち上がってい
残りません。大人が握りこぶしぐらいのをぶつ
か知らない。
これはね、
故意に割られたもんな
ることは、我々も確認できたんですが、
サイン
けると、
ちょっと斑痕が残る程度です。ハンマ
んです。傘の柄か何かで。ただヒビが入った
陶板となりますと、今後にかかる割合が大き
ーあるいは金属バットでもってたたくと斑痕が
ものが10枚くらいあります。初期に10mm厚
い。それをどのようにクリアーしていくのか。
つき、
一部亀裂状に割れが走る。
しかし全面
で湿式でやったのが、
表面が欠けていった。
営業努力も然り。いろいろな先入観、
イメージ
接着している部分もありますので、
欠け落ちる
太田:裏にバックアップはなくて?
の是正というのも必要といえるけれども、
もう
ということはございません。
佐藤:接着剤で止めているものです。
ところ
一つはデザインでしょう。その点での日本サイ
従って、例えば子供が河原なんかで野球の
がね、
乾式にしてからはそういうことは一切な
ン学会の存在意義というのを、
大塚オーミ陶
ついでに石を投げるていどでも、
かなりの衝
い。今は20mmくらいのちょっと厚めのものを
業さんに理解していっていただいていいんじ
撃に耐えられます。あるいはそれをステンレス
使っていますが、全く破損はないですね。そ
ゃないかと思うんですよ。
で作る、
いわんやホーローで作った場合と比
れから張り紙もないというのが面白い。
といいますのは、大学でいう産学協同のよう
べると、
ホーローならこれはもう完全に、石が
太田:いたずらもないですか?
なプロジェクトの立ち上げが、学会との絡み
当たったら表面のガラス質が欠け飛んで錆
佐藤:いたずらもありませんね。これはもう、 で可能になるんじゃないか、
という事です。学
が出る。ステンレスの場合でも斑痕もありへこ
100%ない。素材に魅力があるんじゃないで
会のメンバーの皆さんにも今初めて聞いてい
みもあり、焼き付け塗装が落ちるということか
すかね。大事にしたいという気持が出てくる。
ただいているわけで、
どうするかは今後の問
らすると、施工をちゃんとしていただければ、 あとは経験的にいうと、割れないということは
題ですけども、
将来を展望して垣内さん、
ある
実証できるけれども、一方で贅沢だという意
いは的場さんの方から、
どのように持っていく
セラミックサインが弱いとか割れ易いというこ
24
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
対応していくのかが解明できない。流通、
ネッ
たら厚みのある10mmぐらいの浮き出し文字
トワークの構築が必要ですし。
をつけたように見えるんですね。
しかし触って
もう一つは佐藤先生がおっしゃいましたデザ
みたら平面でツルツルだと。そのくらいのてい
イン面で、
クライアントの希望に合うようなデザ
どまで可能なんですか?
イン提案を陶板の技術を知った人間が提案
垣内:できますよ。それは写真的にできます。
するシステムを作ることが極めて重要です。 それとレリーフでやる場合でしたらテラコッタ
それからさっきの版下の制作がですね、
コン
の素材を使いまして、
手彫り風にするか、
サン
ピューター等により非常に進歩しております
ドプラストするかという事ですね。そういう方
けれども、
流通をからめた形でいかに基本的
法もできます。
なコストを安くサイン陶板のためのシステムが
牧谷:曲面のものはできないと聞きますが、
そ
作れるか。例えば東京では自社でその部門
れは技術の問題ですか、
コストの問題なんで
を持つのか、
どこかと提携してやるのかとか、 すか?
そういう問題も悩みのひとつです。
垣内:いや、
それは可能です。実績もありま
一つは流通面、一つは例えば版下の問題、 す。
陶板使用例:大塚国際美術館銘板とフロア案内(***)
一つは本当のソフトのデザイン面。これを陶
Q:矩形でなくて、
不定型というのも自由です
板の知識を持った人間がやっていくシステム
か?
づくりが私共の課題のようです。
もう一つは、 垣内:それは簡単にできます。曲面に関して
お心づもりであるかという辺りを一つ。
公共サインという市場に入り込むためには、
ダ
は、
そういう素材をまず作ります。その上に加
佐藤:いまコストの問題が言われてきました
イレクトメールなどで自治体の担当者に、陶
工する手間がかかるので、
コスト的には若干
が、私がデザインした大学のインフォメーショ
板とはこういうものだというその機能面を知っ
高くなります。
ンが、
これは仮設的に作ったものですが、
5年
てもらう必要があります。決して大塚美術館
Q:では、
目地は出るけれども円柱のようなも
対応と言われ、
いま3年目なんです。で、
値段
の芸術的価値を宣伝するのではなくて、機
のも可能ですね。
の方はあまり変わらないんです。ただひとつ
能的なものであり、褪色もしないし、割れにく
垣内:そうです。最後に皆さんに一つご説明
問題なのは、部分的に配置の変換があった
い。ロングランではコストも割安ということを、
広
しておきたいのは、
タイルでございますので、
ときに、
そこの修正がきくかどうかですね。
く知ってもらうことも必要だと思っています。
床に敷いて上を人が歩いても大丈夫なんで
太田:インフォメーションの可変性の問題で
太田:はい、
ありがとうございます。皆さん、
い
す。例えばこの写真(会社案内パンフレット
すね。
かがでしょうか? 時間が来ましたけれど、
ご
中の)
は滋賀県の航空写真を使った琵琶湖
的場:それが難しいですね。何べんもやるこ
質問があればどうぞ。
博物館の陶板床面なんですが、上を皆さん
とは可能なんですけれど、
それは既に施工し
Q:外国にマーケットを広げていくという可能
歩きます。
しかもシャープな航空写真ですの
てあるものをきれいに剥がして、
あるいは剥が
性はありますか?
で、
例えば当社の信楽工場なんかも写ってお
しに工場へ持っていけば全く不可能とは言
垣内:現在のところは、
日本の物価は海外の
ります。家もだいたい見えるので、
お子さんが
えませんけれど、
しかし描いてあるものを消す
ものとらべて非常に高うございます。建築材
歩きながら自分の家を発見できる。これは室
ということは難しいんですね。
料も日本のものが出て行くという事は、
ほとん
内ですので、写真の上にガラスを敷いたりと
佐藤:それと、
いまインテリアと建築の方にも
どなくなっております。従って今の国際的な
かいう形で実現させるような方法はあろうか
サインの需要は出ておりますけど、小店舗の
経済差、
為替レートの差、
こういうものによって
と思いますけれど、単一の素材で写真を焼
陶板というのは非常に安くしなければならな
日本の輸出というものは基本的には難しい
き付けて、例え外部であっても人が歩けると
い。そこで10mmないし13mmという、
そこま
おそらくこれ以外にないんじゃない
状況です。ただ技術を移転すればですね、 いうのは、
での厚さ=量が要りますか? 先ほど5mmと
例えば中国に移転する、
あるいは東南アジア
かと思います。
か7mmという話がありましたが、
大手の建設
等に移転するということでやれば、不可能で
牧谷:その場合に釉薬は、
かかっております
会社ではなく中小の工務店やデザイン事務
はございません。
よね、
当然?
所などで、小規模の店舗設計のためにかな
Q:つまり工場を海外に作れば可能性があ
垣内:かかっています。
りサインを作るわけですね。そういう場合にも
る、
という事ですか?
牧谷:要するに滑りの問題をお聞きしたかっ
う少し合理的にコストを切り詰めると、
相当に
太田:ええ、我々大塚オーミ陶業が海外に
たのですが。
可能性はあるように思いますね。
工場を作れば、
マーケティングの可能性はあ
垣内:滑りはですね、
滑り留めの一種の砂を
垣内:そうですね。外部だけではなく内部に
ります。そうでない限りはちょっと無理ですね。
釉薬に入れて焼成することによって防ぐこと
も需要はあります。
しかし先ほど申し上げたよ
太田:他にいかがでしょう。
ができます。
うに、
各方面にいろいろなタイプの市場が、
と
Q:商社のメイバンなどでは、真鋳のエッティ
牧谷:そうですか、
そういう技術が別にある
かく組み合わさり重なりあっている市場のよう
ングなんかで文字が浮き出ているものができ
んですか。
な気がします。従ってその枠をつかんでいく
ていますね。ああいうふうな立体感のあるもの
Q:一つお聞きしたいのは、今日ここまでタイ
というのはなかなか難しい。
さまざまな需要が
を陶板で、
写真的なテクニックでできるんでし
ルの床を踏んで歩いてきましたけれど、途中
あるのは分かっているんですが、
それにどう
ょうか? 実際は平面だけれども、離れて見
で何カ所か、
鉄板の上を歩いているような、
ち
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第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
ょっと浮いた感じがしたんですが、
あれは何
Q:先ほどの薄い板の話ですが、6mmとか
ですか?
7mmとかでできるとおっしゃっていたけれど、
垣内:あれはですね、
20cmの陶板を裏側で
それは大きさと関係あるんですか?
角パイプて補強して、下は中空になっており
的場:そうですね。あの中に関しては900か
ます。20cmですから音がするわけですね。
ら1400まで大丈夫です。
Q:それは構造上の問題でそうしたのです
Q:ああ、薄いものもできるんですか。それか
か、
それとも陶板の技術の問題なんでしょう
らところどころ矢印の入ったタイルがあります
か?
ね。あのタイルは何mmですか?
垣内:大型陶板をコンクリートに密着させる
的場:床の場合は13mmです。
と、
コンクリートのひび割れによって陶板も割
Q:13mm。はい、
分かりました。
れるということがありますので、
構造上の問題
太田:どうもたいへん貴重なお話の数々をあ
です。
りがとうございました。それでは時間となりまし
的場:先ほど佐藤先生がおっしゃった割れ、 たので、
シンポジウムはこれで終了します。垣
幾つかの自然的な割れといいますかね、
コン
内さん、的場さんお2人に対して、我々の感
クリートにクラックが入ると、陶板も一緒にひ
謝の気持ちの拍手をおくりたいと思います。
び割れが入ります。従って構造体と陶板とい
それから2日間に渡って本当に全面的にご
うのは必ず、絶縁体というのが一層あってく
配慮・ご協力をいただき、
おかげで成功裡に
っついいるのが一番いい状態なんです。
全プログラムを消化することができましたのは、
従って乾式、
つまり金物で止める。全面的に
ひとえに大塚オーミ陶業さん全社あげてのご
くっつける必要があれば、弾性の接着剤で
協力の賜物と思います。中でも玉見さん、木
張り付ける。
これは建築陶板としてやっており
村さん、
それから中西さんには、
1日前から東
ますので、超高層160mくらいの実績がござ
京から馳せ参じて、
すべての準備に当たっ
います。そういう建築技術の進歩に支えられ
ていただきました。改めて感謝申し上げたい
て、
サイン陶板の施工についても、乾式工法
と思います。
どうもありがとうございました。
を全面的に採用するようになってきておりま
(拍手)
す。
したがいまして、
昔はまだそれほど進歩し
ておりませんでしたので、過去にはそういうク
(本稿まとめ担当:坂野長美)
ラックが発生することもあったという、佐藤先
生の話と整合すると思います。
佐藤:いま大塚オーミに協力をいただいて
註:
質問者が特定できないところはQとしました。
技術開発をやっている。点字ブロックです。
写真:
身障者のための。今まで問題は、黄色だと
* 坂野長美
景観的に汚い。それから白い床に黄色い点
** 大塚オーミ陶業株式会社「CERAMIC SIGN」
より
*** 木村浩
字ブロックを張ると、
弱視の人には見えにくい。
また老人がつまづく。そんな風にいろんな問
題がありましてね。それでいま開発している
のは、
プレートの基盤に黄色が入ってはいる
んですが、
その点々の立ち上がりを今までは
5mmぐらいあったのを少し浅くして、
しかし少
し急傾斜にしている。そうすることによって歩
いてもチャンと知覚できる。
しかもこの上の面
を擦り切ってグレーを出しているので、点々
がグレーになって点字ブロック自体の中でコ
ントラストが出る。そういう風な新しい感じのも
のを開発していて、
まだ実際に使用例がない
ので発表しなかったんですけど、
これが最も
新しい、
技術的にはかなり努力してもらってい
る参考例です。
太田:いつごろ我々も見られるんですか?
佐藤:もうサンプルはあります。できれば皆さ
んにも使っていただけるといいでがね。
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左から的場氏、垣内氏、太田会長(*)
大塚国際美術館テラスの池(***)
第9回日本サイン学会 '98 徳島大会報告書
エキスカーション報告
鳴門から淡路そして神戸
印刷した名画より、
よほどリアリティがあった。
西国八十八ヶ所一番札所と淡路瓦の御原
エル・グレコの「大祭壇衝立復元」ではナ
橋の見学は残念ながら流れたものの、一行
ポレン戦争で失われた祭壇画が世界で始め
は阪神大震災の震源となった野島断層を
大会2日目のエキスカーションは「大塚国
て推定復元されたというが、
現存している歴
見学に北淡町震災記念公園を訪れた。
際美術館」の視察で幕を開けた。同館は大
史的絵画の中にはすでに保存状態が極め
倒壊した阪神高速からトラックが転がり落
塚製薬グループが創業75周年を期に平成
て悪いものも多い。
「陶板画はそれを後世に
ちたシーンを再現した衝撃的なエントランス
10年3月開館したもので、日本最大の常設
伝え、
また一般にも公開できる」
という同館の
ホールを抜けると長さ140mに及ぶ「断層保
展示スペースに古代壁画から現代アートま
主旨にも共感を覚えた。
存ゾーン」があり、係員による説明に熱心に
で、
1000点あまりが展示されている。大塚オ
耳を傾けた。
また、
「トレンチ展示」では大きく
ーミ陶業が開発した特殊技術によって、極
「大塚のボンカレー」
をおいしくいただいた
ずれ込んだ断層の地中断面が見られるよう
彩色の名画が忠実に大型陶板に焼き込ま
後は、
カフェテリア2階の研修室で太田幸夫
に工夫されており、
自然の力の驚異を感じる
れている。
会長をコーディネーターに、
サイン学会からは
ことができた。
展示は大きく3つのブロックで構成されて
北山廣司氏、伊東寿太郎氏、大塚オーミ陶
公園駐車場は大型観光バスを含め各地
いる。古代遺跡や教会などの壁画をそれら
業からは専務取締役・垣内泰三氏、
同じく専
からのマイカーで賑わい、
ちょっとした観光地
が設置されている環境空間ごと再現した
務取締役・的場幸夫氏を交えて「やきものの
と化しているのにビックリ。見ればパンフレット
「環境展示」。古代から現代に至るまでの西
新しい波・サイン陶板の可能性」
と題したフォ
にも
「国指定 天然記念物」
と記入されてお
洋美術史がわかりやすく紹介される「系統
ーラムが開催された。まず、垣内・的場両氏
り「
、今や野島断層もニホンカモシカ並になっ
たか...」
と震災を実際に体験した者としては
展示」。人間にとって根元的、
且つ普遍的な
から陶板の製作サイズ、色表現、画像印刷
主題を時代を越えて古今の画家達が描い
についてカタログ資料を参考に説明を受け、 複雑な心境であった。
た代表的作品を展示する「テーマ展示」で
次にパネラーから陶板素材の可能性につい
最後は夕暮れ迫る明石海峡大橋をドライ
ある。圧巻はなんといっても環境展示。
ミケラ
て意見が述べられた。また、福岡市の公共
ブして新神戸駅へ、盛りだくさんの一日なが
ンジェロの描いた「システィーナ礼拝堂天井
サインなどですでに陶板サインの使用経験
ら参加者一同疲れた様子もなく、徳島大会
画および壁画」やジョットの「スクロヴェーニ
が豊富な佐藤優氏からは陶板を使用した際
も無事お開きとなった
礼拝堂壁画」ではその圧倒的なスケール感
の問題点やそれを克服するための対策など
が、
また、
「 鳥占い師の墓」では狭い墳墓の
が紹介された。その後は会場からも盛んに
冷たく湿気た空気までが感じられた。
質問が寄せられ白熱したフォーラムとなった
「まあ、美術の教科書が実寸になったよう
が、
「どうやってフルカラー処理をしているの
なもんですよ...」
という解説に思わず「なるほ
か」
というポイントはついに明かされず、企業
ど」
とうなずいてしまったが、
「なんで名画の
秘密というベールの中に逃げ込まれたようで
複製なんか...」
という見学前に抱いていた
あった。
しかし、
サイン陶板が大きな可能性を
疑問も、実際に間近で見て説明を聞けば納
持っていることは、
美術館の見学とこのフォー
得できた。
とにかく、色表現が思っていた以
ラムを通して十分理解された。
(武山良三)
上に素晴らしく、
また絵画によってレリーフ、
表
面処理などが使い分けられており、
ただ紙に
予定を30分も越えての討議となったため、
編集後記
今回の発行は、編集作業が遅れにお遅れ、
やっと漕ぎ着けることができました。前回の
97筑波大会報告書に次いでの発行となりま
す。
このことは素直に嬉しく思います。
学会の活動は多くの知識が集まり力が生じ
ています。少しでもエネルギーを貯えることが
できれば、
サインコミュニケーションデザインに
関わる情報を整理する力になれるのではな
いかと思いは馳せます。
(木村浩)
大塚国際美術館正面入口と内部
野島断層保存館内部
27
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