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2007(日本語Pdfファイル)

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2007(日本語Pdfファイル)
[P 5.2.1]
産業用ディーゼルエンジンの多種燃料対応研究開発
(燃料多様化エンジングループ)
西村章広、 神田俊久
米原502研究室
1.
藤井康義、 川辺 研
研究開発の目的
総合エネルギー調査会において、エネルギーセキュリティの観点から、自国産エネルギ
ーの調達のため、エネルギー源の多様化・分散化が求められている。また、2005 年 4 月に
「京都議定書目標達成計画」の閣議決定がなされ、CO2 排出抑制が至上命題となり、FAME
(バイオディーゼル燃料)の利用が進められている。
一方、原油重質化に伴い増加する LCO の有効利用も課題となっている。CO2 排出抑制お
よびエネルギー消費バランスやエネルギーセキュリティを総合的に解決するという観点か
ら、産業用ディーゼルエンジンは、排ガス規制に対応した上で、LCO や FAME など、より
多種多様な燃料に対応しなければならない。そこで、本研究では、LCO や FAME を混合し
た燃料が産業用ディーゼルエンジンの性能に及ぼす影響について調査すると共に、これら
の課題抽出と改善を行い、石油燃料のより効率的かつ環境に適合した利用に寄与すること
を目的とする。
本研究では、A 重油への LCO や FAME の混合に伴い想定される燃料のセタン価低下や
アロマ分増加によるエミッションの悪化に対し、H14∼18 年度(米原 501 研究室)の研究
開発で得た知見に加え、燃料の一部をガス(水素、CO)に改質し吸入空気へ予混合し、デ
ィーゼル燃焼を低エミッション化する技術に着目する。この技術に加え、高硫黄含有燃料
に対応可能な後処理システムを研究開発することにより、より厳しいエミッション規制で
ある EPA4 次(Tier-4)規制に対応する産業用ディーゼルエンジンを実現する。
本研究開発の目標値は以下のように設定した。技術開発は小形エンジンで行なうが、実
証試験はコスト的に適用がしやすく小型から大型まで展開しやすい中形クラスで行い、セ
タン指数を 42 に調整した LCO・FAME 混合燃料で、EPA4 次規制のクリアを目指す(H23
年最終年)
。
表1―1 本研究開発の最終目標値
年度
供試機関
モード
H19
30kW 級
H22
H23
最終
排気エミッション目標(米国環境保護局(EPA)規制)
PM (g/kWh)
NOX+HC (g/kWh)
備考
C1
0.3 以下
7.5 以下
Tier3 相当
300kW 級
D2
0.2 以下
4.0 以下
Tier3 相当
300kW 級
D2
0.02 以下
NOX:0.4 以下
HC:0.19 以下
Tier4 相当
※
LSA(低硫黄-A 重油)を基材に、LCO,FAME を混合、燃料セタン指数 42 に調整
※
各規制の出力カテゴリーは、H19-Tier3:19∼37kW、H22,H23-Tier3,4:130∼560kW
2.
研究開発の内容
2.1 本研究開発の技術概要
LCO を燃料中に多量に添加した場合、燃料中の硫黄濃度は大幅に増加すると供に、アロ
マ分の増加によるセタン価の低下および PM の増加が想定される。そのため、これまでの
低エミッション化技術では EPA4 次規制を満足することは困難である。
FAME は、セタン価が高く、また CO2 排出量ゼロとカウントされるためその利用が望ま
れている。しかしその低温流動性は低く、燃料油への混合割合が制限される場合がある。
一方 LCO は、セタン価は低いが流動性は高い。そこで、まず FAME と LCO の混合による
エミッションの変化を明確化し、燃焼改善を行なう。さらに燃料の一部を部分改質して得
た改質ガス成分(水素、CO 等)を EGR ガス中に混入させて燃料を一部予混合化する EGR
燃焼(以前米原第 501 研究室での検討で得られた知見をさらに発展)を検討することによ
り、PM と NOX の同時低減を図り、低エミッション化を狙う。
H19 年度は、まず LCO・FAME 混合ディーゼル燃料性状と、その燃焼性能を明確化し、
そしてその混合燃料の課題を抽出する。検討は、30kW 級小形ディーゼル機関を用いた。
2.2 多種燃料対応研究開発
2.2.1 燃料性状の明確化
LCO と FAME の混合の割合が燃焼へ及ぼす影響を評価するため、燃料のセタン指数を一
定に調整する必要がある。本研究開発では、LSA(硫黄分 1%以下 A 重油)を基材とし LCO
と FAME を混合させることにより、セタン指数を 42 に調整した。LSA・LCO・FAME は
それぞれ、市場流通品・製油所からの融通品・市場流通品(廃食油由来)を用い、それぞ
れ分析した。
2.2.2 燃焼性能の明確化(基本性能)
セタン指数 42 の LCO・FAME 混合燃料、および LSA、FAME の単独の燃焼特性につい
て検討した。供試した燃料と混合割合を表2−1に示す。試験に用いた供試機関の主要緒
元を表2−2に、概観写真を図2−1に示す。供試機関は JIS#2 軽油用 EPA2 次(Tier-2)
規制対応機である。
表2−1 供試燃料とその性状
燃料
LSA (wt%)
LCO (wt%)
FAME(wt%)
セタン指数(新法)
JIS#2軽油
-
-
-
57.5
LSA(低S-A重油)
100
0
0
48.7
FAME
0
0
100
(61.0)
LSA7 LCO3
70
30
0
41.8
LSA6 LCO2 FAME2
60
20
20
42.5
LSA4 LCO2 FAME4
40
20
40
42.6
表2−2 供試機関の主要緒元
供試機関
ヤンマー製 4TNV84
燃焼方式
4サイクル直接噴射式ディーゼル機関
シリンダ数 (個)
4
ボア×ストローク (mm)
84.0×90.0
定格出力 (kW/min-1)
30.7/2800
圧縮比
19.0
過給方式
無過給
燃料噴射ポンプ
ヤンマー製 機械式ポンプ
図2−1 ヤンマー4TNV84 機関
125
W.F.=0.15
試験は、トラクターや建設機械など
19kW 以上の可変速陸用機関の試験とし
100
W.F.=0.10
5
1
W.F.=0.15
C1 モードを図2−2に示す。図中 W.F.
は重み付け係数(Weighting
Factor)を
示し、評価に用いる C1 モード値とは図
中 1∼8 の各モードに重み付け係数を掛
けた各値を合計した値のことである。
排ガス分析は、排ガス 5 成分とスモー
クに加え、芳香族分と SO2 分析に FT-IR
を、PM 分析にマイクロダイリューショ
トルク (% )
て EPA で規定される C1 モードを用いた。
75
W.F.=0.10
6
50
W.F.=0.10
7
2
W.F.=0.15
3
25
W.F.=0.10
4
W.F.=0.15
0
8
0
20
40
60
80
100
120
回転数 (% )
ントンネルを用いた。なお PM 分析は
Teflo フィルターを用いた。
図2−2 C1 試験モード
2.2.3 燃焼性能の改善(課題抽出)
燃料由来成分の排ガス成分について検討した。LCO は、硫黄、芳香族、窒素分濃度が高
く、各成分由来の排ガス性状の悪化が懸念される。しかし、一般的な排ガス計測では、硫
黄分や芳香族分を計測することはできない。そこで、今年度新たに FT-IR(フーリエ変換赤
外分光)排ガス分計を導入し分析した。
LCO・FAME 混合燃料使用による課題として、燃料噴射ノズル先端部へのカーボン付着
が挙げられた。そこで、燃料種変更によるカーボン付着の影響を検討した。評価は下記燃
料および条件にて行った。
・ JIS#2・LSA・LSA6FAME2LCO2 :C1 モード 2 サイクル(約 5 時間)
・ LSA4LCO2FAME4 :C1 モード 4 サイクル(約 10 時間)
・ FAME
:供試機関 3TNV84、回転数 1800min-1、負荷 3/4・1/4、
(各 4 時間)
3.
研究開発の結果
3.1 燃料性状の明確化
0
計測し、LCO および FAME の混合比率 0∼
0
10
代表的な混合比の蒸留特性および密度を
ma
s
20
CI42= 42
48
38
0
20
3
40
60
20:40(③)の 3 燃料を供試燃料として選
比率 70:30:0 の燃料を LSA7LCO3、60:
44
40
率、70:30:0(①)
、60:20:20(②)、40:
定した。以後、LSA:LCO:FAME の混合
2
60
本研究では、LSA:LCO:FAME の混合比
46
1
40
合比率は図中橙色で示される曲線で示さる。
s%
LC
O,
に結果を示す。セタン指数 42 の各燃料の混
s
ma
A,
LS
料の等セタン指数曲線を作成した。図3−1
80
s%
60wt%における LCO・FAME 混合 LSA 燃
40
60
FAME, mass%
20:20 の燃料を LSA6LCO2FAME2、そし
て 40:20:40 の燃料を LSA4LCO2FAME4
LCO・FAME 混合燃料の
図3−1
と表記する。
等セタン指数曲線
選定した混合 3 燃料(セタン指数 42 概算)蒸留特性を測定した。そのときの蒸留曲線を
図3−2に示す。FAME の混合割合が大きい LSA4LCO2FAME4 の蒸留温度は高く、そし
て 90wt%蒸留以降の立ち上がりが大きい。これは、FAME 単独の蒸留温度が高いこと、そ
して FAME 中の未反応のトリグリセリド(未反応植物油)が含まれていることに起因して
いると考えられる。蒸留温度特性と密度から得られた各燃料の求めたセタン指数(新法)
は、LSA7LCO3 が 41.8、LSA6LCO2FAME2 が 42.5、LSA4LCO2FAME4 が 42.6 と求ま
った。
Temperature (AET), degC
450
400
350
300
LSA7LCO3
250
LSA6 LCO2 FAME2
200
LSA4 LCO2 FAME4
150
0
10
20
30
40
50
60
70
80
Distillate, vol %
図3−2 LCO・FAME 混合燃料の蒸留曲線
90
100
次に、各燃料単独の性状を分析し、そこから各混合燃料の物性を求めた。表3−1に得
られた性状を示す。酸素分は FAME の含有割合が多いほど高い。一方、硫黄分、窒素分、
芳香族分は FAME の含有割合が少ないほど低い。
表3−1 各燃料の性状
燃料
セタン指数
(新法)
構成元素
芳香族含有率
(massppm)
(mass%)
炭素
水素
酸素
硫黄
窒素
1環
2環
<3環
合計
LSA
(低S-A重油)
48.7
87.1
12.7
0.1
1,000
180
25.0
8.6
1.5
35.1
LCO
(25.8)
89.9
10.0
0.0
1,600
350
18.5
48.7
7.5
74.7
FAME
(61.0)
76.8
12.0
11.2
9
9
ND
ND
ND
ND
LSA7 LCO3
41.8
87.9
11.9
0.1
1,180
231
23.1
20.6
3.3
47.0
LSA6 LCO2
FAME2
42.5
85.6
12.0
2.3
922
180
18.7
14.9
2.4
36.0
LSA4 LCO2
FAME4
42.6
83.5
11.9
4.5
723
146
13.7
13.2
2.1
29.0
注)LCO と FAME は JIS で定めるセタン指数算出適用範囲外,N.D. :FT-IR による分析にて検出されず
3.2 燃焼性能の明確化(基本性能)
LCO・FAME 混合燃料の燃焼性能について検討した。図3−3に NOX+THC と PM の
C1 モードにおける排ガス量の変化を示す。図中には、LSA7LCO3、LSA6LCO2FAME2、
LSA4LCO2FAME4 と、JIS#2 軽油、LSA、FAME の結果も比較のため示す。
LSA に LCO を添加すると、NOX+THC は JIS#2 軽油および LSA よりも悪化するが、
PM は LSA よりも改善される。
そして LCO 混合 LSA 燃料に FAME 添加すると、
NOX+THC
および PM はともに減少し、その減少割合は、FAME 混合割合を高めるほど大きく、FAME
単独ではさらに大きくなる。
Tier3規制値
以上より、LCO 混合 LSA への
LSA7LCO3
善することが分かった。FAME を
40wt% 添 加 し た
LSA4LCO2
FAME4 は、混合燃料の中で今回最
も良好な排ガス性状を示し、C1 モ
ード排ガス値で NOX+THC:約 6
PM (g/kWh)
FAME の添加は、排ガス性状を改
LSA
LSA6LCO2
FAME2
JIS#2
FAME
LSA4LCO2FAME4
燃料噴射時期 : BTDC5deg
g/kWh、
PM:約 0.2 g/kWh であり、
EPA3 次規制値
NOX+THC:7.5
g/kWh、PM:0.30 g/kWh よりも
低く本年度の目標値を達成すること
が分かった。
NOX+THC (g/kWh)
図3−3 NOX+THC と PM 排出と燃料種の関係
次に、FAME 添加の燃焼への影響を、C1 各モードの排出割合から検討した。図3―4
に NOX、CO、THC および PM の各モード排出量値、および C1 モード値の排出量の変化
を示す。LCO 混合 LSA に FAME を添加すると、約 40wt%添加により、NOX、CO、THC、
PM はそれぞれ約 0.73 g/kWh、約 1.03 g/kWh、約 0.26 g/kWh、約 0.021 g/kWh 減少する。
NOX はほぼ全てのモード、CO もほぼ全モードで特に低負荷の第 3,4,7 モード、THC は低
負荷モード側の第 3,4,7 モード、
そして PM は高負荷モード側の第 1,2,4 モードで減少する。
この傾向は、LSA6LCO2FAME2、LSA4LCO2FAME4 と FAME の混合割合を増加させる
ほど強まる。
2.5
7.5
LSA7LCO3
LSA6LCO2FAME2
LSA4LCO2FAME4
NOX
6.0
1.5
4.5
1.0
3.0
0.5
1.5
0.0
0.0
1
2
3
4
5
6
7
8
0.30
THC(g/∑kWh)
NOX(g/∑kWh)
2.0
0.35
THC
0.25
0.15
0.45
0.10
0.30
0.05
0.15
0.00
0.0
1
2
3
2.4
1.8
0.40
1.2
0 .0 2
0.20
0.6
0 .0 1
0.0
0 .0 0
4
5
6
7
8
合計
6
7
8
0.24
L S A 6 L C O 2 F A M E2
0.18
L S A 4 L C O 2 F A M E4
0 .0 5
0.60
0.00
PM
0 .0 6
PM(g/∑kWh)
CO ( g/ΣkWh)
3.0
0.80
3
5
LS A7 LCO 3
0 .0 7
3.6
LSA6LCO2FAME2
LSA4LCO2FAME4
2
4
0 .0 8
4.2
1
0.75
C1 Mode値
LSA7LCO3
CO
0.90
LSA4LCO2FAM E4
0.60
合計
1.40
1.00
LSA6LCO2FAM E2
0.20
C1 Mode 値
1.20
1.15
LSA7LCO3
0 .0 4
0.12
0 .0 3
合計
C1 Mode値
0.06
0.0
1
2
3
4
5
6
7
8
合計
C 1 M o de 値
図3−4 各排ガス成分のモードごと排出量
LCO・FAME の添加による排ガス成分の増減を分析するため、筒内波形を分析した。図
3 − 5 に 、 高 負 荷 の 第 1 モ ー ド ( 2800min-1/105Nm ) と 、 低 負 荷 の 第 4 モ ー ド
(2800min-1/10.5Nm)の筒内波形を示す。ここでは、比較のため LCO・FAME 混合 LSA
燃料 3 種の他、FAME 単独の結果についても示す。
高負荷での着火遅れ期間は、LSA7LCO3 で約 12.5deg クランク、LSA6LCO2FAME2 で
約 11.5deg クランク、LSA4LCO2FAME4 で約 11.0deg クランクであり、FAME40wt%添
加により約 1.5deg クランク 着火遅れ期間が短くなる。一方低負荷では、LSA7LCO3 で約
12.5deg クランク、LSA6LCO2FAME2 で約 11.0deg クランク、LSA4LCO2FAME4 で約
10.5deg クランクであり、FAME40wt%添加により約 2.0deg 着火遅れ期間が短くなる。一
方 FAME 単独の着火遅れ期間は、高負荷で約 8.5deg クランク、低負荷で約 8.5deg クラン
クであり LCO・FAME 混合 LSA(ディーゼル)燃料と比較し短い。LCO・FAME 混合 LSA
(ディーゼル)燃料は、セタン指数を約 42 に調整したにも係わらず、着火遅れ期間が変化
している。これは、FAME のセタン指数が、JIS K 2280 セタン指数算出法に定められる算
出の推奨適用範囲(蒸留留出温度(10 容量%および 50 容量%)
)から外れていることに起
因しているためかもしれない。
一般的に着火遅れ期間が短く(長く)なると、予混合燃焼割合が減少(増加)し、その
結果 NOX が減少(増加)し PM は増加(減少)する。したがって、FAME の混合で NOX
が減少したのは、着火遅れ期間が短くなったことが一因であると考えられる。このことは
燃焼騒音(AVL コンバッションメーター)値が、FAME の混合に伴い 95.0dB、93.0dB、
92.6dB、89.4dB と減少していることからも示唆された。
一方 PM は、FAME 添加により着火遅れ期間が短くなり予混合燃焼割合が減少したにも
関わらず減少している。これは、FAME は酸素分を約 11wt%含む含酸素燃料であることに
起因していると考えられる。
LSA7LCO3
着火遅れ期間
LSA7LCO3
2MPa
筒内圧
20MPa
燃料噴射圧
LSA6LCO2FAME2
噴射弁ニードル
リフト
LSA4LCO2FAME4
LSA6LCO2FAME2
LSA4LCO2FAME4
FAME
FAME
1Mode(定格:2800rpm 105Nm)
4Mode(2800rpm 10.5Nm)
図3−5 筒内波形の変化と燃料種の関係
3.3 燃焼性能の改善(課題抽出)
3.3.1 燃料由来の排ガス性状
LCO は、硫黄、芳香族、窒素分濃度が高く各成分由来の排ガス性状の悪化が懸念される。
そこで、硫黄分由来排ガス成分として SO2 を、芳香族分由来排ガス成分として C6H6 と C7H8
を分析した。
・硫黄分(SO2)
図3−6A に評価した各種燃料中に含まれる硫黄分含有質量割合と、排ガス中に含まれる
SO2 の排出量の関係を示す。SO2 排出量は、燃料中硫黄分量に伴い増加する。線形近似の
R2 係数は約 0.98 で良い相関を示し、燃料中硫黄分量と排出 SO2 量には良い相関性がある。
また、LCO・FAME 混合 LSA 燃料では、LSA4LCO2FAME4 が約 0.21 g/kWh と最も低く、
硫黄分含有量の低い FAME の添加割合が高いと SO2 排出量は低減される。
・芳香族成分(TAHC:C6H6+C7H8)
図3−6B に評価した各種燃料中に含まれる芳香族含有質量割合と、排ガス中に含まれる
芳香族成分の排出量の関係を示す。芳香族排出量は、C6H6 と C7H8 成分の合計量とし TAHC
(Total Aroma Hydro Carbon)と表記した。TAHC 排出量は、燃料中に含まれる芳香族成
分含有量に比例して増加する。線形近似の R2 係数は約 0.85 でさほど高くない。これは、燃
焼由来の芳香族成分の影響と考えられる。以上、芳香族含有量の低い FAME の添加割合を
増すと、TAHC 排出量も低減されることが分かった。
0.30
6.0
SO2 ( g/kWh)
0.25
0.20
2
LSA
LSA7LCO3
LSA4LCO2FAME4
0.15
LSA6LCO2FAME2
0.10
R = 0.851
5.0
FAME
0.05
TAHC (g/kWh)
R2 = 0.9835
JIS#2
4.0
3.0
LSA6LCO2FAME2
2.0
FAME
1.0
JIS#2
0.00
0
250
LSA
LSA4LCO2FAME4
0.0
500
750
1000
1250
燃料 中 S含 有量 ( m as sppm )
0
10
20
30
40
50
燃料中芳香族含有量 (ma ss%)
図3−6 燃料中成分量と SO2 排出量の関係(A)
・TAHC 排出量の関係(B)
3.3.2 カーボン付着による性能低下
・カーボン付着による性能劣化
LSA7LCO3 燃料を用いた試験実施時、スモーク(BSN)の急激な悪化が確認された。そ
のときのスモークの変化を図3−7に示す。図中、性能低下前は、スモークが悪化する直
前のデータを示し、性能低下後はスモークが急激に悪化した直後のデータを示す。スモー
ク悪化前までに、JIS#2 軽油、LSA および LSA7LCO3 にて約 100 時間運転している。
図より、スモークは全モードで大
幅に悪化していることが分かる。ス
燃料噴射ノズルの状態を調査した。
結果、燃料噴射ノズルにカーボンと
考えられるものが付着していた。こ
れがスモーク悪化の要因と考えら
Smoke Sd (BSN)
モーク悪化の要因を検討するため、
れたため、ノズル先端部分のカーボ
ンを掃除した。すると、スモークは
3.0
性能低下前
2.5
性能低下後
ノズ ル掃除後
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
1
2
3
4
改善され急激なスモーク悪化の主
5
6
7
8
C1Mode
要因はノズル先端部分へのカーボン
付着であることが分かった。
図3−7 混合燃料使用によるスモークの悪化
注)性能低下後の第 8Mode は計測せず
・燃料種とカーボン付着状況の変化
次に、燃料種変更によるカーボン付着の影響を検討した。結果を図3−8に示す。図よ
り、JIS#2 軽油を除く全ての混合燃料および単体の燃料で顕著なカーボン付着が認められた。
LSA と FAME を比較すると、LSA はノズル頂部周辺でのカーボン付着が認められるのに
対し、FAME ではノズル頂部外縁部周辺でのカーボン付着が認められるように見える。こ
の傾向は、LSA と FAME 含有割合が異なる LSA6LCO2FAME2 でも認められるようであ
り、FAME の蒸留性状と LSA・LCO の芳香族割合が関与しているのかもしれない。現時点
では、定量・定性的に評価できないため、次年度以降の事業にて検討する。
JIS#2軽油
LSA
LSA6LCO2
FAME2
LSA4LCO2
FAME4
FAME(参考)
C1Mode×2Cycle
約5時間
C1Mode×2Cycle
約5時間
C1Mode×2Cycle
約5時間
C1Mode×4Cycle
約10時間
3/4負荷
約4時間
上
側
※FAME は他機関での結果
図3−8 各燃料のカーボン付着状況
4.
まとめ
4.1 平成 19 年度の研究開発成果
本研究開発は、産業用ディーゼルエンジンに LCO(分解軽油)や FAME(バイオディー
ゼル燃料)を混合した際の性能変化を調査すると共に、これらの課題抽出と改善を行い、
石油燃料のより効率的かつ環境に適合した利用に寄与することを目的として実施した。H19
年度は、LCO・FAME 混合ディーゼル燃料性状の明確化、LCO・FAME 混合ディーゼル燃
焼性能の明確化、LCO・FAME 混合ディーゼル燃焼性能の改善について実施し、以下の成
果を得た。
(1)LCO・FAME 混合ディーゼル燃料性状の明確化
低硫黄 A 重油(LSA)に LCO および FAME を混合したディーゼル燃料を調整し、硫
黄分、芳香族分等の化学成分の調査、ならびに蒸留特性などの調査を行った。結果、セ
タン指数が 42 程度となる混合比を明確化し、エンジン試験に供試する混合燃料 3 種を選
定した。
(2)LCO・FAME 混合ディーゼル燃焼性能の明確化(基本性能)
LCO・FAME 混合ディーゼル燃料 3 種の燃焼性能について 30kW 小形ディーゼル機関
を用いて検討した。結果、LCO・FAME 混合ディーゼル燃料の排ガス性状は、供試機関
のベース燃料である JIS#2 軽油よりは悪化するが、EPA3 次規制値(Tier-3)内に収まり、
H19 年度目標値を満たすことが分かった。また、混合燃料の NOX、THC、CO、PM の
排ガス特性は、FAME 混合割合を多くするほど改善されることが分かった。これは、
FAME の混合により着火遅れ期間が短くなり予混合燃焼割合が減少したこと(主に NOX
の改善)
、FAME が含酸素燃料であること(主に PM の改善)に起因することが分かった。
(3)LCO・FAME 混合ディーゼル燃焼性能の改善(課題抽出)
LCO・FAME 混合ディーゼル燃料使用の課題として、スモークの経時悪化と、燃料由
来の排ガス成分(SO2、芳香族分)の悪化が挙げられた。スモークの悪化は、混合燃料使
用により燃料噴射ノズル先端部分にカーボンが付着したためであることが分かった。
4.2 今後の課題
ノズル先端部へのカーボン付着によるスモークの悪化、そして H22 年度 EPA4 次規制達
成へ向けた燃焼や燃料混合によるさらなる排ガス性状の改善が課題となる。次年度は、主
に燃料によるカーボン付着状況の調査、燃料改質ガスによる燃料の予混合化の影響につい
て評価する。
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