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新しい時代の札幌都心のまちづくり

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新しい時代の札幌都心のまちづくり
講演1
新しい時代の札幌都心まちづくり
かつら
札幌市長
桂
の
ぶ
お
信雄
氏
北海道大学法経学部卒業。1953 年に札幌市役所に入所し、1972 年北区長、1975 年企
画調整局長、1979 年教育長、1983 年助役を歴任する。1991 年に札幌市長に初当選し、
現在3期目を務める。
これまでの都市づくり、まちづくり
がりではなくなった経済情勢もありますけれ
今日、お話をしようと思うことは、世界都
ど、それよりも、人々の価値観の変化があると
市・札幌を目指し、都心の魅力を、そして活力
思います。地球環境の問題も出てきました。で
を高める動きをしよう、起こそうということで
すから、これからは、急ぐ必要はないというよ
す。そのためのキーワードとして、私は環境と
りも、急がれない時代に入ってきたわけです。
文化、これをぜひ取り上げたい。そして、その
環境負荷を抑制しながら、経済成長を図ってい
ためには具体的に何をすればいいのか、それを
かなければなりません。
誰がするのだということについて触れていき
たいと思っております。
それはどういうことかというと、都市の個性
が本当に問われ、それぞれが自分はほかの都市
都心の魅力と活力を高める動きを始めるた
よりもいかに魅力があるかということを訴え
めには、これまでの都市づくり、まちづくりを
て、そして、都市間の競争に勝っていかなけれ
振り返る必要があります。札幌ばかりではあり
ばいけない、そういう時代に入ってきたという
ませんが、この20世紀にそれぞれの都市が行
ことだと思います。
ったことは、都市活動がほかよりも円滑に行わ
昨年から始まっている第4次長期総合計画
れるように、いろいろな施設整備、基盤整備に
の冒頭に、「都市としての個性と風格を高め、
励み、ほかよりも早い都市の成長、発展に重点
魅力的な世界都市を目指すための確かな歩み
を置いたまちづくり、都市づくりだったと思い
を今から始めたい」と記載しています。私は、
ます。
特に都市の風格、ディグニティを大事にしてい
札幌も計画的なまちづくりを進めてき、特に
きたい。そして、究極的には、札幌が世界都市
20世紀の後半には冬季オリンピック大会の
として、世界の人々からうらやましがられるよ
誘致というようなことがまちづくりを大変早
うなまちにしていきたいというふうに思って
めたというような幸運なこともありました。そ
おります。
の結果、現在では、100%とは言えないけれ
ども、ほとんど都市基盤整備が整ったと言える
世界都市を目指すためには
と思います。逆に、そのことによって、札幌は
どういうことが必要か
東京の真似ばっかりしている、リトルトーキョ
ーだという悪口も聞かされております。
ここで、一たんそれらの成長は停止せざるを
得ない時期がやってきました。それは、右肩上
それでは、世界都市を目指すためにはどうい
うことが必要かといえば、これまでも進めてき
た札幌のすばらしい自然環境を守っていくこ
とです。日常生活の環境をより高質、機能的、
便利なものに高めていく、そういうことももち
うふうに私は思っております。
ろん必要だと思います。ただ、それだけはなく、
それぞれの地域の魅力、環境整備は必要ですけ
環境
れども、生活が本当に楽しいかどうかは、結局
環境と言っても、いろいろなとらえ方があり
は、都心に魅力があるかどうかということだと
ますけれども、例えば自然環境で言えば、札幌
思うわけです。なぜかというと、都心はそのま
は非常に恵まれた緑、自然があります。それか
ちの特性を凝縮したものであるべきだからで
ら、四季の変化もあります。一方、地球規模で
す。そこでは、いろいろな刺激や発見、楽しみ
の環境保全や公害防止という点で見ると、これ
があって、そして、それが常に新鮮なものに置
まで、私どもにはスパイクタイヤを廃止した都
きかえられている。そして、人々は、自分たち
心部の煤煙防止の運動、豊平川をきれいにして
の日常生活を持ちながら、それにあこがれる、
サケが遡上するようになったなど、環境汚染を
そういうものが都心であるべきだと思ってお
乗り越えてきた誇るべき過去もあります。
ります。
今、私ども札幌市役所としてはISO140
また、考えてみると、札幌の場合、これまで
01の認証を取得するために全庁で頑張って
「都心計画」というものがあったでしょうか。
います。小さな市町村で認証を取得したところ
例えば、オリンピックの際に駅前通を拡幅しま
もありますし、大都市でも事業部門の一部で取
した。これは私が不勉強で知らないのかもしれ
得したところもありますけれども、役所全体が
ませんが、そのときに、駅前通を含むもっと広
というところはありません。私は、ぜひこれを
い都心のことを考えながらやったのか。どうも
実現したい。
そういうことが今になって思い返されます。あ
これは、認証取得が究極的な目的ではなくて、
るいは、建物についても、都心の中の位置づけ、
それを目標として、みんなが心を一つにして自
役割、色合についてではなく、もっと狭い範囲
分たちの仕事をもう一度見直し、それを通じて、
での議論しかなかったのではないか。
当たり前のように環境ということを念頭に置
だからこそ、今、都心というものを本当に取
きながら物事を考えていくようにするという
り上げる必要があるのです。多様性、奥深さが
ことです。ですから、目標数値達成はもちろん
あって、常に変化をして新鮮な刺激を与えてく
大事なことですが、それにとどまらない、もっ
れる都心が都市生活を楽しく、幅の広い豊かな
と奥のところを目指しているのです。
ものにするのだというふうに思います。したが
例えば、消防で環境マネジメントの基礎とな
って、都心というのは、札幌というまちを集約
るものは何かというと、これは考えてみると当
的に表現するし、都市を象徴します。だから、
たり前のことですが、火事を出さないというこ
世界都市となろうとする札幌においては、札幌
となのですね。それは、一たん火事が起きれば、
の都心を世界的なものだと誇れるようなもの
それが小さなものであっても、お金、エネルギ
にしなければいけないということにつながっ
ー、時間、これはもう大変な損失だからです。
てくると私は思っています。
そのようなことを通じて、人に優しいまちに
していきたいと思っています。
キーワードは、環境と文化
環境の問題について付け加えれば、今盛んに
それでは、それを高めるためのキーワードは、 研究されている雪の冷熱エネルギーの活用の
どういうふうに考えればいいのでしょうか。札
問題などは、札幌は非常にいい地位を占めてい
幌のまちの将来を考えれば、大事なことは環境
ると思います。
と文化だと思っておりました。そして、これは、
それから、もう一つは文化です。
まちそのものにとっても大事なように、都心に
おいては、より重要な役割を果たすべきだとい
2
文化
文化というと、非常に広い話になりますが、
通じて伝えていくことができるし、また、それ
らを加工して、今度は札幌から新しいものを世
ここでは、高邁な芸術や学術を言うのではなく
界に発信していくことができます。また、イベ
て、我々が学習なり経験をしたことによって、
ントやコンベンションを利用・活用するときに、
自分の内外に備わった生活様式で、それが集団
ホスピタリティーが高く求められるというこ
で合意されているものを私は文化と言いたい。
とももちろんあると思います。
例えば市内にイサム・ノグチの作品があった
そんなことを頭に置いて、伊藤先生のご指導
り、PMFの音楽会が毎年開催されたりしてい
もいただいて、「都心まちづくりビジョン」と
ますが、これらが私の言う文化そのものではあ
「都心交通ビジョン」をつくり上げました、こ
りません。それによって高められる気持ち、そ
れらは我々の一つの提案として市民の皆さん
れにあこがれる気持ち、それを持続しようとす
に見ていただき、そして、皆さんと一緒になっ
る努力、そして、それを誇りに思う気持ち、そ
て考えていこうと思っています。
れが市民の間に求められる文化だと思います。
そこで、具体的に何をつくるのか、何をする
また、それは、間違いなく市民の間にじわじわ
のかということですが、都心は人間に優しいも
と根づいてきていると言えると思います。その
のにしようということで、一つはハードの面で、
上で、環境問題にしろ文化にしろ、最も凝縮さ
そういう空間をつくりたい。もう一つは、ハー
れ、そういう活動が可能で、競争も行われる、
ドを補完するためのソフトを市民がきちんと
可能である、刺激も与えられる、そういう都心
身につけるようにしていきたい。人間中心の空
であってほしいと思っています。
間をつくるということに関して言えば、歩く人
たちが安心できる、そして楽しみがある、そう
具体的に何をすればいいのか
今、札幌ドームもできましたし、コンベンシ
ョンセンターもこれからできます。これらを利
用して、集客交流産業を大いに発展させていき
たいと思っています。
いうまちにしたい。そして、その場合、基軸と
なるのが駅前通、大通、創成川通、北3条通と
いうことになるのだろうと思います。
駅前通について言えば、もっと人が堂々と歩
け、立ちどまったり、商店を眺めたり、あるい
これで我々が経済的に潤い、あるいは、いろ
は楽しんだり、そういうことができる話題性の
いろな情報がもたらされるということはもち
ある通りにしていきたい。そして、駅南口と大
ろんあります。しかし、それだけではなくて、
通間の地下通路をぜひ実現したいと思います。
人、情報、技術などいろいろなことが集まるこ
目的、季節、天候によって、どういう道も通れ
とによって、札幌というものを、その人たちを
るというような選択肢の幅をこれによっても
っと広げたいと思います。
よと表示をして、札幌においでになったお客さ
それから、大通は、これはいつも言っていま
んを案内する、あるいは誘導する、そういうこ
すが、連続性があるものにしたいと思います。
とができればいいな、そして、来る人も気軽に
これにはなかなか難しい問題がありますが、8
そういう方々の助けをかりて楽しく札幌に滞
丁目と9丁目をつないだその中間にブラック
在してもらえればいいなというふうに思って
スライドマントラが置かれた前例もあります。
おります。
時間をかけて実験を進め、多くの人たちの理解
結局、都心というものは、そういうものが凝
を得ながら、私はぜひ大通の連続化を進めてい
縮され、集約されてあるわけですから、そこで
きたい。そして、そこには水路をつくりたいと
は必ず競争というものが起こり得る、また起こ
思うし、その両側のビルには居住の空間もつく
したいというふうに思います。チャレンジする
りたい。
者がそこに集まってきて、そして、すばらしい
その結果、自動車を利用する人にとっては大
もの、もっと魅力あるものをそこで提案する、
変不便になるでしょうが、これは仕方がない。
またそれを受けて、さらにまたそれに挑戦して
特にマイカーの方々には我慢してもらいたい。
いく、そういうことが公正な環境の中で自由に
大通を連続化することのメリットと、自動車で
できるような、いろいろなチャレンジが受け入
遠回りすることのデメリットを比較すれば、お
れられるような都心です。
のずから結論が出てくる話だというふうに思
それは、例えばYOSAKOIソーランもそ
います。
うですし、雪まつりもそうだと思います。初め
そして、大通と駅前通の交点は、それこそ札
は余り相手にする人たちも多くはなかったの
幌の都心の中心として、ここは相当な時間をか
ですが、彼らの熱心な運動が今のようなすばら
けても札幌をイメージするすばらしいものに
しい催しになってきています。そういうものを
したい。何もここに大きな建物とか高い建物を
みんなが温かく応援をしていく、そんなまちに
建てるということではなくて、やっぱり、札幌
していきたい。都心が持つ包容力、人への思い、
らしい雄大さというか、楽しい交流ができる、
温かさ、そういうものを都心そのものが持って
ゆとりもあるし、にぎわいもある、そういうよ
いる、そんなことを実感できるまちにしたいと
うなものをみんなでアイデアを出していきた
思います。
い。これは、時間がかかっても、役所がつくる
のではなくて、ぜひ市民がつくってほしいもの
誰がやるのか
だと思います。
そして、こういうことはこれまでは行政が旗
もう一つのソフトの部分、特に都心における
を振って、提案をしてやってきましたけれども、
ホスピタリティーの問題について言えば、我々
今や行政にはそういう力はないと言った方が
は外国に行って公共交通機関に乗るにしても、
正しいかもしれませんし、私はそこまでやる必
いろいろと不便を感じたり不安を感じたりす
要はないと思います。市民のためになるものは、
ることがあります。私は札幌ではぜひそういう
何も行政だけがやるべきものではない。それは、
ことがないようにしたい。札幌というまちを知
市民自身がまずやるべきだと思っていますし、
らない人でも全く心配は要らない、何も心配を
そして、その場合には、ぜひ多くの方々に参加
することがない、きょろきょろ悪いやつがいな
していただきたいと思うし、自分の利害という
いか緊張する必要がない、そういうまちをつく
ことだけではなくて、自分自身が多少マイナス
っていきたいと思います。そのためには、例え
を負うことがあるとしても、札幌市がよくなる、
ば店員さんだとか、あるいはボランティアでも
あるいは、みんなが来て喜んでくれる、そうい
いいのですが、外国語ができる人、道案内をで
う気持ちを少しでも持つようにしていきたい
きる人は、胸に自分はそういうことができます
と思っています。
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