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23544 2.0 Little Listeners Japanese 2016.indd - Med-El
リハビリテーション
リトル・リスナーズ
人工内耳の子どもたちをサポートするために
日本語版監修:
(独)東京医療センター臨床研究センター(感覚器センター)名誉センター長 加我君孝先生
1
2
3
ようこそ
術を受け
人工内耳手 、
に してあ
たお子さん 大事なこ
番
げられる一 、
は たくさん
と――それ ションをと
ー
コミュニケ
。
ることです
いまこの冊子をお読みになっているということは、
あなたはたぶん人工内耳手術を受けた幼いお子さ
んをお持ちなのではないでしょうか。ご両親が迅
速に決断されたおかげで、お子さんは人工内耳を
活用できる素晴らしいチャンスを得ることになりま
した。すぐには分からないかもしれませんが、皆さ
んはわくわくするような冒険の旅に出発したところ
なのです。時には困難にぶつかりもするでしょうが、
行く先には素晴らしい宝物が待っています。「リト
ル・リスナーズ」に書かれている内容は、科学研究、
臨床家の経験、そして前述のプロジェクトの調査
結果から得られたさまざまな知識をまとめたもので
す。この冊子は保護者を主な対象としていますが、
人工内耳を装用する3歳未満の子どもを教える先
生にも役立てていただける内容です。
コミュニケーションができるようになるという考え
を前提としています。コミュニケーション能力の発
達には、難聴発見と医学的な診断やその後の扱い
を開始した年齢、家族、教育、学習の環境、言
語習得に影響を及ぼす問題など、さまざまな要素
が影響します。人工内耳を装用する子どもをお持
ちのご両親は、お子さんが将来コミュニケーショ
ン能力を開花させるために、どんなサポートをした
らいいのだろうとお考えのことでしょう。この冊子
は、そのようなご両親をお手伝いするために作成
されました。まず最初に大切なのは、良い結果が
出るという希望を持つことです。ただし、お子さん
の状況に応じた現実的な期待を持つことが大切で
すので、ご担当の難聴の専門の先生とよく話し合っ
て下さい。
大事なこと:人工内耳の手術を受けたお子さんに、
してあげられる一番大事なことは、心地よく、
リラッ
クスした自然な形で
(難しく考えたり不必要に身構
えたりせずに)
お子さんとコミュニケーションをとる
ことです。健聴児を相手にするのとまったく同じよ
うにお子さんに話しかけて下さい。
「リトル・リス
ナーズ」
には、
お子さんとコミュニケーションをとる
ときに気をつけることがすすめられる
「ちょっとだけ
特別なこと」
が書かれています。
また、
それを日常生
活の中で自然に取り入れるにはどうしたら良いか、
ということも書かれています。
ここに書かれている方
法やヒントが理解できたら、
ぜひ試してみて下さい。
いつのまにか、
お子さんの言語発達を助ける
「良い
習慣」
になっていることでしょう。
この冊子に書かれていることが、皆様のお役に立
つことを願っています。より詳しい情報、資料や教
材、支援などについては、お近くのメドエル・オフィ
スにお問い合わせいただくか、メドエルのウェブサ
イトwww.medel.com内の「よりよいコミュニケー
ションへのBRIDGE」のページをご覧下さい。
この冊子は、多くの重い難聴の子どもにとって人
工内耳は有効な手段であり、話しことばを使った
4
第1章
人工内耳に関する最新情報
人工内耳は、最重度難聴者のきこえを改善するた
めに内耳(蝸牛)に手術で埋め込む電子機器です。
世界で初めて人工内耳の埋め込み手術が行われて
からまだ30年ほどしか経っていませんが、今では
子どもと大人のどちらについても重い難聴の治療
法として広く一般に認められています。
人工内耳は、正常なきこえを回復させたり創り出
したりするものではありませんが、人工内耳によっ
て、適切な条件下であれば周囲の音を聴き取るこ
とができるようになります。話を理解したり電話で
会話をしたり、音楽を楽しんだりすることもできま
す。このため人工内耳によって大きな恩恵を受け
ることができます。特に幼いうちに手術を受けた子
ほど効果が大きい傾向があります。
人工内耳を装用する子どもには、その子に合った
特別なサポートや教育方法が必要です。この冊子
は、人工内耳を装用する幼い子どもに関わる方々
に、役に立つヒントや詳しい情報をお伝えする目
的で作られています。
早期手術の重要性
多くの国で新生児聴覚スクリーニング検査が広く
導入され、難聴の早期診断が進みました。現在で
は、最重度の難聴と診断されてから数ヵ月以内に
医療介入が行われています。人工内耳手術の効果
や聴覚・言語発達には、“臨界期” ないし “敏感期”、
すなわち刺激に敏感に反応する時期が存在するこ
とを示す研究も増えています(文献1, 2)。
4歳未満で手術を受けた子どもと2歳未満で手術
を受けた子どもでは、聴覚・言語発達にかなり差
が見られます(文献3~10)。また、2歳未満で手
術を受けた子どもは言語発達の一部の領域で健聴
児に追いつくことが可能だとする報告(文献5,
11~13)や、多くの子どもが小学校の普通学級に
入っているという報告(文献14, 15)が増えてい
ます。
このように、人工内耳を装用する子どもには、手
術後にできるかぎりの教育的な支援をすることが
とても大切なのです。
両耳装用について
「音を聴く」ことにとって、両方の耳があることは
重要です。両耳なら片耳よりもよくきこえるだけで
なく、小さな音を聴き取りやすい、騒音の中でも
音を理解しやすい、音源の方向を特定できる、遠
くからの話し声も理解できる、など様々な利点が
あります。両耳装用ができない、あるいはまだそ
こまで検討していないという方の場合は、人工内
耳を装用していない側の耳に補聴器の装用を続け
ることが大切です。重要な点ですので、人工内耳
担当の言語聴覚士に相談してみてください。
5
人工内耳手術を受けた子どもたちは、きこえてい
た時期がある中途失聴の大人の場合とは異なりま
す。人工内耳を装用する子どもは、通常、人工内
耳によって得られる音だけを使って「聴く」ことを
学習します。言語発達に必要な音の習得には、“臨
界期” と呼ばれる「獲得に最も適した時期」が生
後早い段階にあると言われています。外国語の習
得などを思い浮かべるとイメージしやすいかもしれ
ません。外国語は生まれてから年月が経つとだん
だん習得が難しくなることはよく知られています。
コミュニケーション方法
子どもとのコミュニケーションには、話しことばだ
けを使う家族もあれば、話しことばと手話の組み
合わせを選ぶ家族もあります。なかには、家庭内
で複数の言語を使って話す家もあります。早期人
工内耳手術を選択する保護者は、「話しことばで
のコミュニケーションができるようにさせたい」、
「そのためのチャンスを最大限に生かしたい」
と思っ
て早期の手術を決断しています。言語習得にとっ
て重要な幼少の時期を逃したくないと考えて、早
期に手術を受けさせるのです。幼いうちに人工内
耳手術を受けた子どもは、話しことばだけを使っ
たコミュニケーションをとることで、大きな効果が
期待されます。しかしながら、なかには難聴以外
にも学習を妨げる問 題を持っている子もおり、
「トータル・コミュニケーション」
(一部の国では「バ
イリンガル」アプローチとも呼ばれる)を使う方
が望ましい場合もあります(トータル・コミュニケー
ションとは、話しことばだけでなく手話、指文字、
読話、筆談、身振り、絵など多様な方法を併用し
て行うコミュニケーションのこと)。どの方法を使
6
うかは、その子をよく知っている専門家と家族が
相談して決めるのが一番です。専門家はその子と
家族にとって何が必要かをよく理解しています。こ
の冊子の中には「お子さんに○○と言いましょう」
という指示が出てきますが、通常の場合それは、
どんなコミュニケーション方法を使っているかに関
わらず、お子さんの言語能力を発達させることを
意図しています。もし手話と話しことばを併用して
いるのなら、まずことばで話しかけて人工内耳を
使った聴き取りを促し、その後で、お子さんの言
語学習を円滑に進めるために手話で同じことを表
現する必要があるかどうかを見極めてください。
ミュニケー
コ
の
と
も
だ
子ど
話しことば
、
は
に
ン
ショ
もあれば、
族
家
う
使
けを
手話の組み
と
ば
と
こ
話し
家族もあり
ぶ
選
を
せ
合わ
ます。
7
第2章
前言語期コミュニケーション
前言語期コミュニケーションとは何だろう、
いった
いそれが人工内耳を装用する子どもにどう関係が
あるのか、
と思われるかもしれません。前言語期コ
ミュニケーションは、健聴児がことばを使って意思
疎通を始める前に必ず通る段階です。人工内耳装
用前から、
ご両親はすでに良い刺激をお子さんに与
えていたかもしれません。
残聴や補聴器を使って聴
覚活用をしている場合があるからです。
人工内耳の
装用を開始した今、言語によるコミュニケーション
の前の段階のコミュニケーション発達に目を向ける
ことが重要です。
お子さんはもう、
人工内耳を使って
音声を十分に受け取ることができます。
意味のある
ことばを口にする前の段階として、
いろいろな声を
出したり喃語を言ったりし始めるでしょう。前言語
期の発達は、
後に、
うまくことばでコミュニケーショ
ンができるようになる基礎としてとても重要です。
前言語期の発達は、主に生後1歳までに起こりま
す。生後数週間から数ヵ月、赤ちゃんは基本的な
欲求を表現するために身体を動かしたり、泣いた
り、声を出したりします。たいていの親はそのシグ
ナルにすばやく反応し、おむつを替えたり、あやし
たり、授乳したり、抱っこしたりします。親の表情
や身振り、声は赤ちゃんの注意を引きつけます。
また、親がすぐに反応すると、赤ちゃんには自分
が試みたコミュニケーションが有効だったことがわ
かります。そうして、赤ちゃんは、親や世話をして
くれる人の注意を自分の方に向けることをすぐに学
習します。こうした学習の繰り返しによって、子ど
もはさらに複雑なコミュニケーション方法を発達さ
せていきます。このような生後初期の周囲とのやり
とりの中で、信頼と絆が形成されます。
生後数ヵ月の間、
赤ちゃんは特に人に興味を示しま
す。
抱き上げられたり、
抱っこされたり、
話しかけられ
8
たりすると喜びます。
親の顔を見るとうれしそうな反
応をし、
親の真似をし始めることもあります。
この他に
も、
前言語期コミュニケーションとして、
そばにいる人
を短時間見つめる、
人が注意を向けているものを目
で追う、
誰かに笑顔を向けられると反応して笑う、
知
らない人や初めての状況に気付いた様子をみせる、
疲労や空腹、
痛みをそれぞれ異なる泣き方で訴える、
などがあります。
これ以後1歳までの時期には、
このよ
うなコミュニケーションに加えて、
もっと複雑な行動
があらわれます。
たとえば、
遊びを喜ぶ、
抱っこしてほ
しい時に両手を伸ばす、
手を振る、
首を振る、
何かを
押しのける、
大人の方へ手を伸ばしながら注意を引こ
うと甲高い声を出す、
何かを取り戻そうとして手を伸
ばす、
欲しいものを指差す、
助けを求める、
などです。
赤ちゃんと両親の間では、赤ちゃんが発する
「こと
ば」がなくても、多くのコミュニケーションが成り
立っています。前言語期には、
お子さんの周囲で起
こっていることについて、
年齢に合ったやさしい話し
方でできるだけたくさん話しかけることが必要です。
健聴児の場合、
親はこれを自然にまったく意識せず
にやっています。人工内耳の早期手術を最大限に
生かすためには、
お子さんの耳がきこえなくても、
健
聴児に対するのと変わらない普通のコミュニケー
ション方法で接することが大切です。
あなたのお子
さんはまだ
「おしゃべり」
をし始めてはいませんが、
前言語期は言語発達の基礎を作る時期なのです。
るかどうか
え
こ
き
が
耳
く、子ども
な
係
関
は
に
ここは安全
「
、
て
っ
と
に
「自分
きる」
で
心
安
「
」
だ
と感
員だ」
一
の
族
家
は
境が必要で
環
る
れ
ら
じ
す。
ば、赤ちゃんにはこれから外出するということが
わかります。少し大きくなると、どこへ行くのか
知りたがることもあります。写真(おじいちゃん、
おばあちゃん、お店の写真など)を見せるのも、
行き先を教えるのに役立ちます。
好ましい学習環境を作るためのヒント
耳がきこえるかどうかには関係なく、子どもにとっ
ては、「ここは安全だ」「安心できる」「自分は家
族の一員だ」と感じられる環境が必要です。そう
した環境を整える方法をいくつかご紹介します。
・お子さんの基本的な欲求を、愛情をこめてタイ
ミングよく満たしてあげることで(授乳、おむつ
替え、着替え、あやすなど)、信頼感と安心感
が生まれます。
・一緒に遊んだりやさしく抱きしめたりすることは、
他の基本的欲求を満たすのと同じくらい重要です。
・毎日決まった生活リズムで過ごしましょう(決
まった時刻に食事、入浴、就寝するなど)。こ
れによって安心感が生まれ、ゆったり落ち着い
た気持ちになります。
・人工内耳手術の直後から、お子さんには普通に
(あたかもお子さんがきいて理解できているかの
ように)話しかけましょう。
・お子さんが声を出していたり、何かを言おうとし
ていたら、お子さんに注意を向けて下さい。た
とえば、「きいているよ」と言ったり、うなずい
てみせたりして、お子さんがそれを続けるように
励ましてあげましょう。何を言っているか理解で
きなくても、返事をするようにしましょう。お子
さんが何と言っているのか当ててみるのも良いこ
とです。
・何かをする前には、お子さんに状況がわかるよ
うにしましょう。上着を着せてベビーカーを出せ
赤ちゃんは、ことばを話し始める前でも、さまざま
な非言語的な手段でコミュニケーションをとること
ができます。なかでも最も重要なのは、アイコンタ
クト、注意の共有、模倣、役割交代(代わりばん
こ)です。また、親は自分の言語レベルを子ども
のレベルに合わせる必要があります。
アイコンタクト
赤ちゃんは生まれた時にはぼんやりとした輪郭し
か見ることができませんが、数ヵ月のうちに目で物
を追うようになります。赤ちゃんが生まれると、ご
両親は赤ちゃんに向かっていろいろな働きかけをし
ます。たとえばベビーカーやベッドの上に身を乗り
出し、特別に表情豊かに、また歌うような声で話
しかけます。生後4 ヵ月ごろになると、アイコンタ
クトに変化が現れます。赤ちゃんはしだいにあなた
を目で追い始め、さらには何か別の物を目で追っ
たりそれを指し示したりし始めます。これは、赤ちゃ
んが生まれて初めてする役割交代(代わりばんこ)
です。
6 ヵ月を過ぎると、赤ちゃんは親が見ているものを
一緒に見ることができるようになります。これは、
子どもの発達において「注意の共有」や「共同注
意」と呼ばれるもので、話しことばの発達の基礎
になります。これによって赤ちゃんは対象物と親が
言うことばとを結びつけることができるからです。
9
親
聴く
子ども
見る
見る
対象物
図1:コミュニケーション・トライアングル
ご両親は、おそらくたくさんの時間お子さんの顔
を見て過ごすことでしょう。これはアイコンタクト
の発達を促し、同時に親子の絆を生み出します。
赤ちゃんはまた、表情豊かな顔に特に強い興味を
示します。ご両親はごく自然に、表情を頻繁に変
えてお子さんの注意や関心を引きつづけようとして
いるのではないでしょうか。
それこそがコミュニケー
ションのレッスンの第一章です。コミュニケーショ
ンをとる(意思を伝えあう)ことには、互いを見る
ことが含まれているのですから。
人工内耳を装用するとコミュニケーション能力とし
てのアイコンタクトの発達に良い影響があると言わ
れています
(文献16)
。
まず、
子どもが親や対象物に
より早く目を向けるようになります。
きこえが発達し
ていくと、
子どもにとってアイコンタクトの必要性は
次第に少なくなり、
会話への参加が増えていきます。
アイコンタクトは前言語期の発達にとって
重要な要素
できるかぎりお子さんの目の高さに顔をおきましょ
う。
お子さんや、
お子さんが持っているものに優しく
触ってください。
こうすることでお子さんの注意を容
易に引くことができます。お子さんが持っている物
の名前を言ったり、それについて話したりしましょ
う。赤ちゃんにとってアイコンタクトをするのに理想
的な距離はだいたい25~30cmです。赤ちゃんを
腕に抱いたり膝に乗せたりすると、
ちょうどこの距
離になります。
おむつ替えや授乳もそうです。赤ちゃ
んが少し成長すると、
ちょうどよい距離が1.5mま
で広がります。そうなると、赤ちゃんは大人が体全
体を使ってする表現を見たり、周囲の様子を部分
的に見たりすることができます。
お子さんを膝に乗
せたり一緒に床に座ったりして、本を読んだり絵を
10
見たりしてみましょう
(この時、
お子さんからあなた
と本が一緒に見えるようにします)。子どもは
「いな
いいないばあ」
やシャボン玉遊びが大好きです。
こう
した遊びもアイコンタクトのよい練習になります。
お子さんに主導権を与えましょう(注意の
共有)
子どもとコミュニケーションをとる時、親は、子ど
もが見ている方向や興味を示している物を見ます。
それから、一緒に見ている物について親が話し始
めます。子どもが見ている物を話題にすることで、
子どもは物とことばを結び付けます。このような場
面では、親子が同じ物に意識を向けているので、
これを「注意の共有」や「共同注意」とも呼びます。
そのうちに子どもは、大人が同じ物を見ていること
を確認したり、大人の目をそれに向けさせたりす
るために、対象物を指し示すようになります。
ここで大切なのは、
お子さんにご両親の声がはっき
りきこえていることです。子どもは親の声をききなが
ら、
親が話題にしている物を見ます。
もしお子さんが
ご両親の話に反応しない時は、対象物をふたりの
間のよく見える場所に持ってきたり、
身振り手振り
で対象物を指し示したりするとよいでしょう。
子どもは親が言っていることに反応するだけでな
く、自分からコミュニケーションの主導権を取るこ
ともできます。意思を持って何かを伝えるために対
象物を指し示すことは、コミュニケーションの発達
において非常に重要です。お子さんが何か物を指
し示したら、
ご両親は、物の名前を言ったり(「ボー
ル」)、動きの特徴を言ったり(「はねているね」)
してあげましょう。
コミュニケーションと注意の共有
食事、着替え、遊びの時などには、話題にしている
物を、
お子さんが見られるようにしてください。
たと
えば、
「○○を飲みましょうね」
と言う時にはコップ
を見せます。注意を引くために、お子さんの名前を
呼びます。反応しなければ、おもちゃを使ったりお
子さんに触れたりして、
お子さんの注意をあなたに
向けさせます。お子さんがあなたを見たら、お子さ
んに話しかけます。
「お名前を呼んだのはママよ」
と
か、
「お名前を呼んだの、
きこえたね?」
などと話しか
けることができます。
こうすると、名前を呼ばれた時
に反応する、親の言うことをちゃんと注意して聴く
といった学習が強化されます。
お子さんが何かを指
し示したり、何かで遊んでいたりしたら、年齢に応じ
たことばづかいで物や状況を説明し、
さらに興味を
高めてあげましょう。一緒に遊んだり本を見たりす
る時に、今していることをことばで言うと、子どもの
言語発達の助けになります。
模倣
赤ちゃんは生後数ヵ月で、
顔の表情の模倣ができる
ようになります。
親はよく赤ちゃんの表情を真似しま
す。赤ちゃんはこの遊びをすぐに理解します。
また、
赤ちゃんが機嫌の良い時に
「クークー」
などの声を
出したり
(
「クーイング」
と呼ばれます)
、
子音や母音
を出したり身振りを始めたりすると、親はそれを真
似します。
それに刺激されて赤ちゃんの反応がさら
に大きくなります。
赤ちゃんはコミュニケーションを
とろうとして上手くいったことがわかると喜びます。
健聴の子と同様に、耳のきこえない子も5 ~ 6か
月くらいまでは前言語期の発声をします。時には
舌と唇を使って遊びながらパ行の音などを出すこ
ともあります。しかし健聴の子が喃語を話し始め
る頃(6 ~ 7ヵ月)に、耳のきこえない子は喃語
をやめてしまったり、喃語の音節のバリエーション
が減ったりすることがよく見られます。
より月齢が上がった赤ちゃんは自発 的に「だー
だー」、
「まーまー」、
「がぁがぁ」
など、子音と母音の
両方を含む喃語を言い始めます。
これは最初の単
語の基礎になります。
子どもにとって、
喃語の前には
「聴く」経験が必要です。早期に人工内耳を装用す
る大きな利点のひとつは、子どもが通常の喃語段
階をほぼ適切な時期に経験できることです。喃語の
時期に子どもが出す声や音を親が真似するのはと
ても大切なことです。親が真似をすることで、子ども
に対して
「あなたが出しているその音はとても大事
なもので、
もっときかせてほしいな」
と伝えることが
できます。
こうして、子どもにもっと喃語を出そうと
いう気持ちを持たせることができます。
模倣遊び
人工内耳で音を聴くことができるようになった今、
模倣遊びは「初めてのことば」すなわち言語の発
達に向けた大事な一歩です。お子さんが出す音を
どんどん真似しましょう。
・模倣遊びをすることで、お子さんはもっと多くの
音を出すようになるかもしれません。喃語を促
す刺激をさらに与えましょう。たとえば以下のよ
うな方法があります。
・お子さんの出した音を繰り返し、その音に少し
だけ変化をつけて返します。お子さんは最初の
うちは同じ音の繰り返ししか言えないかもしれ
ませんが、そのうちに色々な種類の喃語が言え
るようになっていきます。
・鏡の前でお子さんの出した音を模倣しながら、
おもしろい顔をしてみせます。たぶんお子さんは
それを真似するはずです。
・お子さんの顔の表情を真似して、お子さんがそ
れを繰り返すかどうか見ます。少し月齢が上の
赤ちゃんや幼児は、口の動き(舌を出す、口を
開けるなど)も真似します。そうなったら、おも
しろい顔をして遊ぶ絶好のチャンスです。この時
には鏡も役に立ちます。おもしろい顔をする時
には必ず声を出しましょう。そうすれば赤ちゃん
はあなたの口の動きとその時に出された音を結
びつけるようになります。
11
こに車
代わりばん
う。
を走らせよ
新しい音を出してきかせ、お子さんがそれを真似
するように仕向けます。
「牛さんはモーモーって鳴
くよ」というように、物と音を関連づけましょう。
おもちゃを動かしながら声で音を出して、お子さん
が音を真似るかどうか様子を見ましょう。この遊
びには赤ちゃんのお気に入りの動物や乗り物のお
もちゃを使うと喜びます。ある物にある音を当ては
めたら、同じ物にはいつも同じ音を使うようにして
ください。子どもが音を真似したり言ったりするよ
うになるには、何度も繰り返す必要があります。
この遊びは折に触れて行い、何回か繰り返しましょ
う。子どもにとっては単語よりも音の方が真似しや
すいものです。たいていの子は、初めての単語を
口にする前に、音の真似をするようになります。
役割交代(代わりばんこ)
良いコミュニケーションは、一方が話し続けるので
はなく双方(親と子)が交互に話すことで成立しま
す。
まだことばを話せない幼児でも、
「自分の番」
に、
何かを指し示したり、笑ったり、泣いたりすること
ができます。そういう場合には、お子さんが話して
いるかのように反応して下さい。「お子さんの番」
の時は少し待って、お子さんが反応するための十
分な時間をあげることが必要です。
こうした役割交代によって、子どもは会話のしくみ
──ひとりが話している時はもう片方が待ち、次
に役割が入れ換わること――を学びます。生後3ヵ
月ごろには役割交代ができるようになります。この
時期の役割交代には、必ずしも発声を伴いません。
音 声による役 割 交 代は、 最 初は母 音に似た音
(いー、えー、おー、あー、うー、など)を出すこ
とから始まり、やがて子音を伴う(ダ行、バ行、
マ行の音など)ようになります。
代わりばんこに
9ヵ月頃になると、赤ちゃんは役割交代が含まれ
た遊びをとても喜びます。
例:
・あなたが積み木などで塔をつくり(あなたの番)、
お子さんがそれを倒します(お子さんの番)
。
・お子さんが何かを床や地面に投げ、あなたが
拾って戻します。
・あなたが手でお子さんの顔を覆い、次に手をは
ずします(いないいないばあ)。
・お子さんはあなたがすることを真似るだけでな
く、
あなたの表情や、遊びの時の音も真似します。
おもちゃも役割交代を促すのに役立ちます。
例:
・ボールを転がして行ったり来たりさせます。
・おもちゃの車を代わりばんこに走らせます。
12
お子さんが経験するあらゆるものごと──お子さんが見るもの、
聴くもの、感じるもの、
かいでいる匂い──について、
お子さんと
コミュニケーションを取りましょう。
・おもちゃの電話を使って話をします。
・積み木や輪を積み重ねます。
・積み木を箱に入れます。
・いろいろな形を同じ形の穴に入れるおもちゃで
遊びます。
こうした役割交代遊びの時には、ことばを一緒に
言います。おもちゃの車を押していることや積み木
を積んでいることについてことばで示したり、積み
木の数を数えたりしましょう。
一緒に遊びながら、あなたとお子さんがしているこ
とをことばで説明してみましょう。遠慮せずにいろ
いろな単語や表現を使ってかまいません。子ども
はそうやってことばを学びます。たくさん繰り返す
ことが大切です!
役割交代の概念を教える
1歳の誕生日を迎える頃には、子どもは簡単なごっ
こ遊びができるようになります。積極的に代わりば
んこをするようになり、たとえば人形に食事をさせ
る真似をしたりします。他の子どもを見たり、その
子の真似をしたりするのも好みます。この時期以
降、役割交代が中心となる遊びをして、
「こんどは
ママの番よ」というふうに、よりしっかりと順番交
代の概念を教えましょう。これは後でもっと複雑
な構造の遊びや練習をするための基礎になります
から、特に重要なステップです。役割交代ができ
ると、お子さんに練習させたいことをまずあなたが
やってみせ(親の番)、お子さんに同じことをする
ように(子どもの番)促すことができます。役割
交代遊びの良いところは、親がある程度状況をコ
ントロールでき、楽しく遊びながらお子さんの注
意を特定の作業に集中させられるところです。
話し方を工夫する
大人は赤ちゃんや幼児に対しては、普段と違う話
し方をします。普段より音程が高めの声を使い、
ゆっくりした話し方で、大きく抑揚をつけて(時に
は歌うような声で)話します。これは赤ちゃんこと
ばと呼ばれます(「母親語」ともいいます)。親は
自分の子どもに対して自然にそういう話し方をしま
す。こうしたことばづかいや口調の調節によって、
赤ちゃんは親が話すことばにより強く関心を持ちま
す。乳幼児期のコミュニケーションでもう一つ重要
な特徴は、繰り返しが多いことです。親は毎日行
うことについて繰り返し子どもに話しかけます(た
とえば、おむつ替え、着替え、食事など)
。いず
れも、子ども自身にかかわる出来事です。その際
に使われる単語や文章は、頻繁に繰り返されます。
こうして繰り返し話されることで、言語の学習に理
想的な状況が生まれ、子どもは自分に向けて話さ
れたことばの意味を捉えやすくなります。こうした
成長初期の繰り返しには、短くて簡単な文章やフ
レーズが適しています。通常、子どもの記憶力で
はまだ長い文を扱えません。子どもが既に習得し
ている言語レベルより1段階か2段階上を上限にす
るのがよいとされています。つまり、お子さんが一
語文を話していたら、あなたは単語が2つか3つ含
まれる文章を話すとよいということです。
発達のこの段階には、子どもは単純な童謡や子守
唄をとても好みます。リズム、抑揚、単純な文、
そして頻繁な繰り返しを子どもは喜びます。子ども
は指あそびや身体の動きを伴う歌が大好きです。
少し大きな子どもは手を動かしたり一緒に歌った
りしようとしますから、模倣の力を伸ばすことにも
つながります。
13
子どもに合わせた話しかけをする
これは発達の過程でもとりわけ楽しい段階です。
というのも、子どものコミュニケーションの進歩が
はっきり見え始める段階だからです。以下の点に
注意して下さい。
・お子さんが経験するあらゆるものごと――お子
さんが見るもの、聴くもの、感じるもの、かい
でいる匂い――について、お子さんとコミュニ
ケーションを取りましょう。
・十分な声の大きさで、明瞭に、大人に対するよ
りも少しゆっくりと、話しましょう。そうすれば
お子さんにとって、話されたことばを考える時間
が増えます。
・幼児には、少し歌うような声で話してもよいで
しょう(母親語)。乳幼児は、大きな抑揚やメ
ロディーのある話し方の方に特に注意を払うと
いう研究結果が報告されています。お子さんを
高い高いする時には、動きに合わせて「ほーら、
高い高い」などと話しかけて下さい。この遊び
を繰り返し行い、お子さんにあなたのことばとそ
の時の動きを結びつけるチャンスをたくさん与え
ましょう。それからしばらく様子を見て、お子さ
んが自分の番の反応を示さなかったら、「高い
高いしたい?」などと言って、遊びを繰り返しま
す。お子さんが音や動き、簡単な単語を真似し
て遊びをねだるようにもっていきましょう。
・きちんとした役割交代になるように注意して下さ
い。お子さんが喃語を言い終えたら少し間を置
き、それからあなたの番を始めます。次にまた
短く間を置いて、お子さんが自分の番を始めら
れるようにします。
・オノマトペ(擬音語、擬声語)をたくさん使いま
しょう
(たとえば汽車の「シュッポ、シュッポ」、
14
時計の「チックタック」、犬の「ワンワン」など)。
オノマトペはお子さんの注意を引き、音を対象
物と結びつける刺激になります。時には、音と
一緒に物の名前を言ってみましょう(「ほら、き
いてごらん、犬が『ワンワン』って言ってるよ!」)。
・お子さんの名前を読んで注意を引きましょう。
名前を呼ばれてお子さんが視線を上げたら、必
ず何か続けて話をするか、お子さんが喜ぶこと
をしてください。名前で呼びかける遊びは短期
間ならいいのですが、呼ばれてそちらを見ても
何も面白いことがないと、子どもはすぐに興味
を失ってしまいます。
・童謡や表現の豊かな歌は言語学習に最適です。
同じ歌を繰り返していると、歌に含まれている
単語や身振りに反応できるようになったり、自
分から歌おうとし始めることもあります。
・本や写真を親子で一緒に見るのも、同じ単語や
文章を繰り返すよい機会になります。子どもはお
気に入りの本なら何度読んでもらっても飽きない
ようです。
お子さんに本を読みきかせるのはいく
ら早くから始めてもかまいません。
ただし、
必ずお
ーションの
ケ
ニ
ュ
ミ
コ
る主導権
め
決
を
題
話
に与えま
ん
さ
子
お
を
しょう。
います。3つのAは、
「1.
お子さんに主導権を取らせ
る
(Allow Your Child to Lead)、
2.一緒の時間
を共有するために親が子に合わせる
(Adapt to
Share the Moment)、
3.新しい経験と単語を加
えていく( A d d N e w E x p e r i e n c e s a n d
Words)」
をあらわします
(文献17)。以下にハーネ
ン・プログラムの原則をかいつまんでご説明します。
子さんの年齢レベルに合った本を選んでくださ
い。最初は赤ちゃん向けの簡単な絵本が最適で
す。そこからしだいに、より複雑な物語の本へ
進みます。簡単な本も、子どもの成長に合わせ
て親がちょっと創造力を働かせれば、より複雑
にすることができます。
前言語段階からの移行
ここまでの説明で、前言語期の子どもの発声には目
的があり、親は子どもの発声に対してできるかぎり
積極的に反応しなければいけない、
と書きました。
具体的にはどうすればいいのでしょうか? トロント
(カナダ)のハーネン・センターが開発した講座で
は、子どものニーズに最適に応えるために、保護者
がどのように言語を調節したらよいかを教えていま
す。本冊子では、前言語段階の戦略としてハーネ
ン・センターの手法を取り上げますが、
この手法は
発話と言語発達のもっと後の段階でも使うことが
できます。ハーネン・センターでは、保護者に
「子ど
ものコミュニケーション発達の促進者」
としての力
をつけてもらうために
「3Aアプローチ」
を推奨して
1.お子さんに主導権を取らせる
コミュニケーションの話題を決める主導権をお子
さんに与え、お子さんがすることやお子さんが興
味を示したものについて話をするようにしましょ
う。子どもは、自分が関心を持っていることばの
方が学びやすいものです。子どもが興味を示して
いる話題ですから、子どものリードに従って話すこ
とで、親はお子さんの言語発達の幅をさらに広げ
ることができます。親が動物園の動物のお話を読
んであげたくても、お子さんがままごと遊びの方に
関心があるなら計画を切りかえて、ままごとについ
て話をしましょう。
2.一緒の時間を共有するために親が子に合わせる
子どもは時には「わが道を行く」状態になり、心
を通わせたり、特定の目標に集中させることが難
しい場合もあります。お子さんと意味のある意思
疎通をするために、ご両親が自分の興味をお子さ
んの興味に合わせるようにして下さい。子どもの遊
びのレベルや遊びのテーマに、親の方が合わせる
ということです。子どもと一緒に遊び、子どもが熱
心にやっていることについて、子どもが喜ぶような
話し方で話します。ご両親は、自分の目的を果た
すことができる上に、この方が簡単にお子さんと
意味のある絆を結ぶことができます。
15
3.新しい経験と単語を加えていく
親子でのやりとりができるようになったら、そこに
何か新しいことを付け加えたり教えたりするチャン
スができます。子どもにとっておなじみの状況で、親
が同じことばを何度も繰り返すと、子どもはことば
を使い始めるようになります。
ある時点からはこと
ばの幅を広げて成長させなければいけません。お
子さんがよく知っている遊びに新しい単語や経験
を付け加えていきましょう。私たちはこれを
「ことば
の拡張」
と呼びます。
たとえば、
お子さんが言えるよ
うになったことばがあれば、そこにひとつかふたつ
単語を追加したり、別の説明を付け加えたりするこ
とができます。
お子さんの言っていることに何か付
け加えてあげることにより、
お子さんが言いたいこ
とをどうやって膨らませたらいいか教えることがで
きます
(右の例を参照して下さい)。
ことばの拡張は、幅広い語彙の発達や調和のとれ
た言語能力の形成のために非常に重要ですから、
この点については少し詳しくお話しましょう。
ことばの拡張
子どものことばの発達に応じて、親は子どもの言っ
ていることをいろいろな形で拡張する(広げ膨らま
せる)ことができます。その際にご両親は、お子
さんの言語レベルより少しだけ上のことばを使うよ
うにして下さい。お子さんが一語文で話している
のなら、ご両親は長い文章で話そうとしてはいけ
ません。そんなことをしたらお子さんが戸惑ってし
まいます。お子さんが一語文を話したら、2単語
か3単語の文で返事をしましょう。右にある親子の
やりとりの例を参考にしてください。
以下に、お子さんの発声に対してご両親がどう答
16
えたらよいか例を示しました。このように、お子さ
んが言っていることに情報を付け加えてあげること
ができます。
子どもの発声: 答え方の例:
「ブー。 あ ー、 受容:「あー、おー、ブー?」
おー。」
対応:「あらあら、どうしたの?
車がこわれちゃった?」
追加:「ほんとだ、タイヤがひ
とつはずれてる。」「直そうね。」
少し大きな 子
の場合:
「ドーン! くる
ま、こわれた。」
答え方の例:
受容:「おや困った、車がこわ
れちゃったね。」
対応:「ライトとタイヤがこわれ
ているね。」
追加:
「じゃあ修理してみよう。」
「別の車をさがしにいこう。」
「新しいタイヤをつけようか?」
親が子どもの言語レベルに合わせたり近づけたりし
て応じ、
さらに新たなことばを追加することで、
子ど
もは親の言うことを理解するとともに、
もっと多くの
ことばを学ぶことができます。
お手本としての親のこ
とば
(モデル)
が、
単純で、
子どものレベルより少しだ
け上のものだと、
子どもにとって理解しやすく、
より複
雑な言語への移行がしやすくなります。
また、
子ども
が主導権を取っているのですから、
話題は子どもが
話したい、
知りたいことです。
文法的に完璧な文を話
さなければいけない、
などと気にする必要はありませ
ん。
お子さんの進歩に合わせて、
ご両親の話すことば
のレベルを徐々に上げていってください。
幼い子ども
や学習を妨げる問題のある子どもと話す場合は、
特
にこういったことに気を付ける必要があります。
あらあら、どうしたの?
車がこわれちゃった?
ブー。
あー、おー
第3章
きこえの発達
「きこえの発達」
と
「発話の発達」
、
そして
「言語の発
達」
はそれぞれ別々のもののように論じられること
がありますが、
これらは互いに密接に関係していま
す。
この3つは、
どれが一つ欠けても上手くいかなく
なるという相互依存の関係にあります。
子どもは、
一
定の順番できこえを発達させていきます。
この冊子
では、
きこえの発達が、
発話と言語の発達に良い影
響を与えることを目指しています。
ですから、
以下に
記されている“きこえをよりよく発達させるためのヒ
ント”をお読みになる時は、
きこえの発達だけが真の
目標ではないことを忘れずにいて下さい。
真の目標
は、
言語の発達、
言語を通して考える力の育成です。
生後数ヵ月で、健聴の赤ちゃんのきこえは次のよ
うに発達していきます。1)一定の音を知覚しはじ
める
(検知)、2)音同士の違いを知覚しはじめる
(弁
別)、3)音を認識しはじめる(同定)、そして、4)
音に意味づけをする(解釈あるいは理解)です。
このような健聴児のきこえの発達には、少なくとも
12 ヵ月から24 ヵ月を必要とします(文献18)。
早期に人工内耳手術を受けた子どもは、健聴児と
同じ年齢で前言語期を迎えることができる場合が
あります。
このような子どもの場合は、その時点の
状況・能力をうまく活かして、
きこえと発話を自然に
発達させることがとても容易です。前述した前言語
期の刺激についてのヒントが、以下に述べる聴覚・
発話発達のためのヒントにもうまく合っていると感
じられるでしょう。一方、
もしお子さんの人工内耳
手術が前言語期(健聴児の前言語期と同じ年齢)
の途中かそれ以降である場合は、
この時期の発達
段階を意識的に再現する必要があります。
これは、
発達の初期段階(その後の言語発達の基礎として
重要な段階)
を子どもに経験させるためです。
お子
18
さんを同年代の健聴児に追いつかせたいと思った
ら、
そのプロセスを速くこなさないといけません。以
下に書かれたヒントは、
お子さんの興味を引きなが
ら楽しく練習を行うのに役立つでしょう。
聴覚の発達にはいくつもの段階があり、
その段階は
特定の順序で起こりますが、
子どもがある段階から
次の段階へ移るのに長い時間がかかるとは限りま
せん。
音を
「感じる
(検知する)
」
「
、弁別する」
「
、同定す
る」
を全部同時に発達させているように見える子ど
ももいます。
型どおりに考えずいろいろな練習やゲー
ムを自由に試し、
お子さんに主導権を与えましょう。
聴覚の発達を刺激するゲーム
背景雑音を抑えることが大切です。特に、聴くこ
とに焦点を合わせた練習の際にはこの点に気をつ
けて下さい。雑音(ラジオやテレビの音など)
を切っ
て比較的静かな環境にしてみると、お子さんが音
に集中するのに気付くことがあるでしょう。また、
お子さんの聴き取りを発達させることが目的ですか
ら、視覚的なヒントの使用はできるだけ控えるよう
にしましょう。聴き取りに焦点を合わせた練習の
時は、お子さんの隣に座るようにすると、視覚的
なヒントを最小限にすることができ、なるべく「聴
くことだけ」を頼りにさせることができます。
音への気付き
お子さんが音に気付くように促しましょう。
お子さ
んが音に反応したら、
そのたびに大げさなほどのリ
アクションをしてみせるとうまくいくものです。
お子さ
んに耳をすますように合図をし、
それから、
きこえて
いる音について教えましょう。
必ず、
それが何の音な
のかをお子さんに言います。
たとえば、
「よく聴いて、
ほら、
電話の音がする」
という具合です。
お子さんに
できるかぎ
が
ん
さ
子
お
に触れられ
音
な
様
多
り
い
の中や外で
家
、
う
よ
る
を出す試み
音
な
ろ
い
ろ
ょう。
を行いまし
あなたの声がきこえているどうか、様子を観察して
下さい。
お子さんは目を見開いたり、
あなたを見つ
めたりしていますか? 子ども自身に、親の声を聴
いているということを意識させましょう。
たとえば、
「ママの声がきこえるね、
そう、
ママはここよ」
と言い
ます。他の家族についても同様にします。
つまり、
お
子さんが父親やきょうだいの声を聴いている時に
はそのことを言ってきかせます。
お子さんが自分で音を出せる(自分の声を出す、
あるいは音の出るおもちゃや道具を使う)機会を
たくさん与えてあげましょう。幼い子どもは、キッ
チンにある鍋や蓋、木のスプーンなどで遊ぶのが
大好きです。あなたがキッチンにいる時には、低
い位置の戸棚のひとつを子ども用にして、その中
の鍋やスプーンで遊ばせてあげましょう。
その際に、
お子さんが出す音について話してあげます。音が
大きいか小さいかといった点も話してあげるといい
でしょう。こうすると、お子さんはどうするとどこか
ら音が出るのかということを学べます。
お子さんができるかぎり多様な音に触れられるよ
う、家の中や外でいろいろな音を出す試みを行い
ましょう。その際、音がきこえている時に何かが起
こっていることを、お子さんが見たり感じたりでき
るようにして下さい。音を出すと同時にライトが点
いたり振動したり動いたりするおもちゃを使うとよ
いでしょう。日常生活で何か音がした時(誰かが
ドアのチャイムを鳴らしたり、電話が鳴ったりした
時)には、まずお子さんの注意をその音に向けさ
せ、それから一緒に音源の近く(玄関や電話)に
連れて行きます。これを何回も繰り返すうちに、子
どもは音と音源の関連、そして音の意味との関連
を理解しはじめます。
19
①音に注意を払う
お子さんがいろいろな音を意識するようになった
ら、今度は、お子さんが音に長時間注意を払い続
けているか見てみましょう。聴き取りゲームで、楽
しみながら音への注意を高めることができます。
・あなたは寝たふりをし、お子さんが呼んだらパッ
と飛び起きます。
これを交代でします。
その際には、
必ず「起きて!」や「シーッ!」などと言いましょう。
・ドアを閉めてその前にお子さんと一緒に立ち、
誰かがノックする音を待ちます。ノックの音がき
こえるまでドアを開けてはいけません。
・手遊び歌や簡単な歌、
わらべ歌
(
「ひげじいさん」
な
ど)
を教えます。
幼児はこうした遊びが好きですか
ら、
音楽への注意を長く引き付けることができます。
・お子さんが家の中や周りでいろいろなものを使っ
て音を出している時に、一緒になって遊びます。
親が一緒に遊ぶことで、子どもの音への注意力
が高まります。
・リズムに合わせて足踏みしたり歩き回ったりしま
す。お子さんが太鼓を叩いたら、
その拍子
(ビート)
に乗せて身体を揺すります。あなたが太鼓を叩い
て、お子さんに同じ動作をするよう促しましょう。
②音源を探す
音を意識するようになった子どもは、音がどこから
くるのか探そうとすることがありますが、うまく見
つけられない場合もあります。
一般的に、人工内耳を両耳に装用している子ども
の方が、片側だけ装用している子よりも容易に音
源の位置を見つけます。
・音がしている方を指差して、何の音か教えたり、ま
たはお子さんを音源の場所に連れて行ったりします。
・遊びの中にうまくとりいれると、子どもが進んで音
源を見つけるように促すことができます。たとえば、
かくれんぼが利用できます。兄弟や他の大人が隠
20
れる役になり、音を出したりお子さんの名前を呼ん
だりしてもらいます。最初は、お子さんが音のして
いる所を探す時にあなたが手伝ってあげましょう。
この遊びは、役割交代の遊びとしても楽しめます。
・誰かに頼んで、ドアをノックしたり玄関のチャイムを
鳴らしたりしてもらいます。お子さんが音に気付くよ
うに合図をします。
「あれ、何かきこえるよ」とか「お
や、よくきいてごらん、誰かがドアのところに来たね。
誰だろう?」
などと言ってからドアのところに行きます。
③音の終わりと始まりに気付く
・お子さんのために音楽をかけ、リズムに合わせて
身体をゆすります。音楽が止まったら、身体を動
かすのをやめます。この遊びは、子どもが音楽の
始まりと終わりに気付くための刺激にもなります。
・音楽が鳴っている間はその場で足踏みしたり踊っ
たりし、音楽が止まったら身体の動きを止めたり
床に座ったりします。
この練習にはことばも加えます。
「あれあれ、音楽が止まった!」
、
「どうしたのかな?」
、
「音がしなくなっちゃった」などと言いましょう。
・同じ容器(小さなフィルムケースやタッパーなど)
をふたつ用意します。片方は空のまま、もう片方に
は硬貨を数枚入れます。両方の容器を交互に振り
ます。片方は音がしてもう片方はしないことにお子
さんが気付くかどうかを見ます。それから容器を
開けて仕掛けを見せ、お子さんが「音がする/し
ない」と容器の中身の有無を関連づけられるよう
にします。この時も、
ことばでの説明を加えましょう。
・あなたが、動物の鳴き声や乗り物の音を声で真
似します。お子さんに、あなたの声に合わせて
おもちゃを動かすようにさせます。あなたの声が
止まったら、おもちゃを動かすのもやめさせます。
この時も、ことばで説明するのを忘れないで下
さい。たとえば、「よくできたね! 車がちゃん
と止まった!」という具合です。
ブウ ブウ
④音源を同定する
お子さんが、音のする方を振り向いたり、きこえて
いるのが何の音かわかったりするようになったら、
次のようなことをしてみましょう。
・お子さんができるようになったことをさらに強化す
るために、お子さんが見つけた音源について説明し
てあげます。たとえば、お子さんがあなたの声をき
いて振り向いたら、
「そうそう、よくできました! ママの声がきこえたのね」などと言えます。
・お子さん自身が、何の音がきこえたのかを表現
するよう促します。音源を指差したり、
「○○が
きこえたかな」と言ったり、
「あれがきこえたね」
と言うなどするとよいでしょう。
・呼びかけ遊びをします。兄弟のうち、自分の名前
を呼ばれた人が返事をします。お子さんに、誰が
名前を呼んだのかをあててもらうこともできます。
⑤音や声の模倣
ここまで、音の模倣や役割交代の練習をしてきま
した。次に期待するのは、音節をつなげた話しこ
とばのような音(短い音節や、それをいくつかつ
なげた音)を真似できるようになることです。
・子どもに親の言う音節を真似させる楽しい練習
方法があります。鏡の前に座り、短い音節とそ
の音節をつなげたものを両方言います。「ば」と
「ばばばば」や「ま」と「ままま」など、お子
さんがすでに出すことができる音を選びましょ
う。音を出す時に面白い顔をすると、お子さん
の興味を長く引きつけることができます。
・机の上に、紙とマーカー、クレヨン、絵の具な
どを用意します。長く連続する音節と短い音節
を言う時に、紙に線を引く動作を組み合わせま
す。あなたが最初に声を出してみせ、次にお子
さんに真似させます。
22
・ここでも役割交代を利用しましょう。お子さんに
音節をつなげたものと短い音節を言ってもらい、
あなたがそれを真似します。こうすると、お子さ
んがこの練習の内容を理解しやすくなります。
・おもちゃを使って、お子さんに音を真似させます。
たとえば、おもちゃの自動車を押しながら「ブッ
ブー ブッブー」と言って真似させます。
⑥音や声の高さの模倣
ご両親はそろそろ、普通に発声する時の声の抑揚
(「いいよー」という時の語尾の下がり方や、「もっ
と?」と尋ねる時の語尾の上がり方など)をお子
さんが真似し、使えるようになってほしいと思うこ
とでしょう。
・
「音の強調」という方法を使いましょう。抑揚の
変化のお手本を示す時には、大げさにやります。
歌うような調子の声を使うこともできます。
・時には身体を左右に少し揺らしたり身振りを加え
たりすると、お子さんがコツをつかみやすくなりま
す。人工内耳を装用する幼児の多くは、声の正し
い抑揚をかなり容易に身につけることができます。
子どもは、よく使われる「いいよー」
、
「あーあ」
、
「もっと?」といった語句の抑揚変化を使って、ふ
ざけた言い方や面白い言い方をして遊ぶのが好き
です。
でいる時
ん
読
を
話
お
の絵をさが
中
の
本
、
に
させましょ
け
つ
見
て
し
う。
本を、まずあなたがやってみせます。それから
お子さんと交代で、他の人形も使いながら、大
きな音と小さな音を出し合います。
⑦音や声の大きさの模倣
こうした能力が発達してくると、子どもは自分の声
の強さ・大きさを状況に合わせてより上手に調節
できます。健聴児であれ人工内耳装用児であれ、
子どもは場所を考えずに「大きな声で話す」もの
です。多くの親御さんは、おとなしくしているべき
状況では子どもが静かに話すようにしつけたい、
適切な声の大きさを教えたいと考えます。以下の
ような遊びを利用してみてください。
・目覚ましゲームで遊びます。人形やぬいぐるみを
寝かせて、大きな声で起こしたり静かな声で起こ
したりします。これは、お子さんがぬいぐるみや
人形で遊んだり、ままごとをしている時に最適の
遊びです。この時、あなたがしていることや、そ
こで起きていることについてことばで説明するのを
忘れないで下さい。
・以前の練習でお子さんが喜んだお気に入りの遊
びを再度取り上げ、小さな声と大きな声を使っ
て模倣させます。
・太鼓や鍋を、大きな音と小さな音で交互に叩い
て遊びます。これは、「うるさい」と「静か」と
いうことを教えるのに役立ちます。
・指人形を使います。「ライオン」の指人形を大
声役、
「ヘビ」を静かな声の役にします。ライオ
ンは大きな声で吼え、ヘビは静かな「シュー」
という音を出します。両方の指人形の演技の見
⑧聴くことだけを頼りに、子どもの話し方を大人
のお手本により近づけさせる
お子さんが単語や句(フレーズ)、文を言い始めた
ら、ご両親はお子さんの話し方をより大人のお手
本に合った正確なものにしたいと思うことでしょ
う。健聴児の親はよく、子どもが言ったことばを
正しい発音や構文で「反射」するように言い直して、
話し方や文法を修正します。
・お子さんが、「見て、ネンコ!」と言ったら、あ
なたは「ほんとだ、ネコがいるね」と言いましょ
う。「ネコ」という単語を強調します。これを繰
り返すうちに、お子さんは自分で間違いを直し
始めます。
・おやつや食事、遊びなどの時間に、「二者択一」
が必要な場面を作ってみましょう。「何が欲し
い?」という幅広い選択ではなく、ふたつのうち
片方を選ばせるようにします。たとえば「おやつ
はバナナとチョコレートのどっちがいい?」と尋
ねます。この方法なら、子どもは大人のお手本
を意識するだけでなく、お手本をきいた直後に
その単語を言うことになります。お子さんがチョ
コレートと言えずに「チョトレート」と言ったら、
あなたは「よくできました、
はい、
チョコレートよ」
のように言います。チョコレートという単語を特
に強調するように言いましょう(これは「音の
強調」というテクニックです)。それから、おい
しくおやつをいただきます。
23
⑨簡単な句や指示を使った練習
このあたりまでくると、ご両親はお子さんが簡単な
句や指示に反応することを期待されるでしょう。子
どもが「指示に従う」力を伸ばすのに役立つゲー
ムや、日常生活や遊びの中で使える練習はたくさ
んあります。どんな練習をするか選ぶ時には、お
子さんに主導権を取らせ、ご両親はそれに従うよ
うにしてください。
・物をばらまいたり箱に入れたりするのが好きな
子なら、箱にブロックを入れたり、おもちゃのダ
ンプカーの荷台に別のおもちゃを載せたり、砂
場の中におもちゃを入れたりします。遊ぶときは、
親が指示を出しますが、かならず役割交代(代
わりばんこ)をして、お子さんがあなたに何かす
るように「言う」役割もさせてあげましょう。
・動物のおもちゃを小屋に入れたりワゴンに乗せ
たりします。
・動物園の動物を、檻や箱、囲いの中に入れます。
・トラックや、自動車、飛行機などのおもちゃを押
したり、箱に入れたり、テーブルの下へ動かし
たりさせます。
・お話を読んでいる時に、本の中の絵をさがして
見つけさせます。
・物だけでなく動作も指示します。たとえば、「歩
いている(走っている、ジャンプしている)のは
どれかな?」と尋ねるなどです。
・服をたたんだり運んだりするなどのお手伝いをさ
せます。こういう家事を一緒にするのも楽しいも
のです。
24
・一緒に食料品店に行った時、リンゴや卵などよ
く知っている食品をお子さんに見つけさせます。
・夕食の準備をする時に、スプーンを並べるなど
のお手伝いをさせます。
・いくつかの箱を逆さにしてその中におもちゃなど
を隠し、隠した物の名前を言いながら箱を持ち
あげて、お子さんに見せます。再び全部に箱を
かぶせ、どこに何があるのか当てさせます。
より正確な話し方を覚え、繰り返す
子どもの聴き取り力が伸びてくると、より長い話し
ことばの理解ができるようになります。長めの口頭
指示に従えれば、やがて幼稚園や保育園に入った
時に環境にうまくなじむことができます。これまで
に紹介した遊びや練習はどれも、指示を複雑にす
るなどのアレンジを加えることができます。たとえ
ば、お子さんが洗濯物の仕分けをしたがったら、
日常生活で出遭う様々なことばを教えるチャンスで
す。「お洋服を分けましょう」、「じゃあ、靴下を全
部集めようか」、「パパの大きな靴下を取って」な
どの表現ができます。あるいは、
「大きな青い飛行
機」や「小さな赤い飛行機」を見つけさせる練習
などをしてもよいでしょう。
童謡や歌
子どもと一緒に歌ったり、ことばあそび、指あそび
などをしたりするのは大切なことです。最初のうち、
子どもは歌やことばあそびの抑揚に合わせて音を
出すことはできても、単語をそれとわかる明瞭さで
言うことはできないものです。しばらくすると、動
作を真似し、いくつかのキーワードを言うようにな
ります。最後には、一緒に言ったり歌ったりできる
ようになります。同じ歌やことば遊びを反復するの
は良いことです。ただし、お子さんの発達が進ん
で歌を歌い始めたりことばを言い始めたりしたら、
新しい歌やことばあそびや指あそびを加えて下さ
い。こうした練習は子どもの聴覚記憶を伸ばし、
より長く連続した情報を覚えられるようになりま
す。
わざと背景雑音のある中で練習する
背景雑音は聴き取りの邪魔になりますが、時には
雑音の中で音を聴く練習も必要です。この世界は
騒音だらけですから、音の環境が悪いところでも
お子さんが困らないよう、折々に雑音のある場所
でも練習をする必要があります。周囲に騒音があ
る場所で聴き取り遊びをしたり、家の中であれば
ラジオをつけたりします。けれども、大部分の時
間は静かな環境の中で過ごすことが大切です。
25
第4章
発話と言語の獲得
発話と言語の発達を刺激するため、発達段階に合
わせたゲーム、本、おもちゃ、練習を利用し、ま
た日頃やっているあらゆることについて話してきか
せます。これまで以上にたくさん話をしましょう。
子どもの言語理解と言語表出を見ていると、言語
の規則(文法)を徐々に見つけていくのがわかり
ます。文章が長くなるだけでなく、構造も複雑に
なるのです。子どもは母語(日本人にとっては日
本語)の文法規則を積極的に使うことを学び、表
出語彙を増やしていきます。これを刺激するために
大事なことは、ご両親が話すことばの複雑さをお
子さんの進歩に合わせて徐々に増していくことで
す。使う語彙の選択に制限を設けないで下さい。
同じことを表すにもいろいろなことばを使いましょ
う。ただし、つねにお子さんの注意力や関心を尊
重して話をしましょう。
子どもの成長とともに、発声・発話も発達してい
きます。年齢ごとによく見られる発音の間違いがあ
りますが、ふつう、年齢が上がれば次第に間違い
は消えていきます。健聴児でも、最初のうちは、
単語を真似していても何を言っているかわからない
ことがよくあります。発話の発達に伴い、家族に
だけは言っていることが通じるようになりますが、
まだ他人には理解されません。子どもの発話の明
瞭さは時とともに増していき、健聴児の場合、3
歳頃にはほとんどの子が、誰がきいてもわかる話
し方をできるようになります。人工内耳を装用する
子どもの場合は、自分の発声と保護者のことばを
よく聴き比べることを学び、自分の発音を大人の
発音に合わせて修正できるようになると、自然に
きこえるような発音が発達していきます。
26
発話と言語の発達を刺激するためのヒント
子どもがしていることや感じていることをことばで
描写してあげます。これにより、子どもは言語と出
来事を関連付けることを学びます。これは言語理
解の発達を助けます。お手本としてご両親が言う
ことばのレベルは、お子さんのレベルに合わせて
調節して下さい。その際には、前の章で取り上げ
た「ハーネンの3A」の原則を思い出して下さい。
本を選ぶ時は、お子さんと一緒に選ぶようにして、
お子さんの興味のある本を見つけましょう。お子
さんに話しかけたり本を読んであげたりする時に
は、重要な単語や概念を強調します。重要なこと
を言ったあとに少し間を置くと、お子さんがあなた
の言ったことを考える時間が生まれます。子ども
は、繰り返し何度もきいてものごとを学ぶこともあ
れば、「意図せずに」学ぶ──ただ日常生活で言
語に触れているだけで学ぶ──こともあります。
・具体的な答えを必要とする質問(誰、何、どこ、
いつ、なぜ、どれ)にも挑戦してみましょう。最
初は正しく反応できなかったり、全然反応がな
かったりするかもしれませんが、その場合は正し
い返答のお手本を言ってあげます。
「はい」か「い
いえ」で答えられる質問はなるべく減らします。
・どこの家にもあるような品物を使ってことばの発
達を促すことができます。たとえば、ひとりが部
屋の中にある品物の説明をし、もうひとりは出
題者に質問しながらそれがどの品物かを探し当
てる遊びがあります。お子さんの回答が正解の
品物に近づいたら「だんだん近くなってきた!」
と言い、品物から遠ざかったら「だんだん遠く
なってる!」と声をかけるのもよいでしょう。
・子ども時代に多彩な経験をさせてあげましょう。
動物園へ行くのも、食料品店に行くのも、公園
の遊び場に行くのも、お子さんの語彙を増やし、
家ではあまり使う機会のない様々なことばや表
現に触れるのに役立ちます。一緒に経験してい
ることを全てことばで話してあげましょう。
・お子さんが初めてことばをしゃべったら、もっと
いろいろな単語や、語の組み合わせを使う機会
を作ってあげましょう。単語はじきに文章になり
ます。ここで、前言語期につちかった
「役割交代」
(代わりばんこ)が力を発揮します。ご両親があ
る動作について説明したら、少し間をおいて、
お子さんがことばで返答する時間を与えましょ
う。同じ話題について話を続けながら、お子さ
んのことばの発達をさらに促すためにいろいろな
質問をしてみましょう。
すでにおわかりのように、「聴覚の発達を刺激する
ゲーム」の項目で紹介した遊びや練習の多くは、
言語の発達も一緒に刺激する内容になっていま
す。言語の発達に総合的に働きかける方法を通し
て、人工内耳装用児は言語を学び、上手にコミュ
ニケーションができる人間に育ちます。
社会的・実践的なコミュニケーション
言語は、会話の中で相手と意思疎通を行うための
道具のひとつです。意思疎通をうまく行うにはどん
なことが必要でしょうか? 言語能力とは、ただ単に
「単語をいろいろ知っていて、それを組み合わせて
正しい文章を作れる」
だけの力ではありません。
また、
「正しい音を口から出す」だけの力でもありません。
子どもは言語の「正しい使い方」も学ばなければ
いけません。上手にコミュニケーションができる人
は、状況に合わせ、ことばがどのような役割(伝達
機能)を果たすかに応じて──例えば、
挨拶、
抗議、
情報提供、注意喚起、情報を求める、などの場面
ごとに──適切に発言するためのレパートリーを
持っています。上手にコミュニケーションをとるため
には、自分が住んでいる国や地域で適切とされるこ
とばやことばの使い方(伝達機能)を身に付けてい
なければなりません。たとえば、
先生に向かって「よ
う、
鈴木」のように呼びかけるのは不適切であり、
「こ
んにちは、鈴木先生」と言うのが適切です。
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第5章
いよいよ幼稚園や保育園へ!
この章では、保護者の方へお子さんの学校選びに
役立つヒントをいくつかご紹介したいと思います。
子どもが小学校に入学するまでの間、難聴児のた
めの通園施設、あるいは普通の保育園や幼稚園
を探すことになります。けれども、どの学習環境、
社会環境、支援環境がそれぞれの子にとってベス
トかを選ぶのは簡単なことではありません。
幼稚園選び
この章ではお子さんにどの幼児施設が適している
かを考えるヒントに的を絞ります。
住んでいる地域によっては、普通教育を受けるか難
聴児のための特別な教育をうけるかを選択できる場
合があります。普通の幼稚園内で特別なグループを
作ったり特別なサービスを提供したりすることが一
般的に行われている国(アメリカやイギリスなど)も
ありますが、耳がきこえない子や難聴の子のための
特殊な通園施設に入るという選択肢もあります。
満足のいく幼稚園選びで大切なのは、ご両親が広
い視野を持ち、あらゆる可能性を検討することです。
幼稚園は、
選んでしまったらそれでおしまいではなく、
その後長期に渡り、
必要に応じて再評価すべきです。
普通の幼稚園は、
すべての子どもが利用できるわけ
ではなかったり、必ずしもすべての子どもに適して
いるわけではない場合もあります。耳のきこえない
子、
あるいは難聴に加えて別の問題を持っている子
にとっては特にそうです。幼稚園側がどういう特別
対応やプログラムを用意してくれるかにもよります
が、
このような普通の幼稚園は刺激が強すぎたり、
他の子と一緒にやっていくのが困難になる可能性
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があります。子どもが快適に感じ、必要な情報(健
聴児が学ぶのと同じ情報)
を学べ、友達と楽しく過
ごせることが一番の目標です。
ですから、聴力以外
にも学習を妨げる問題があるかないかをできるだ
け早く調べることが極めて重要です
(耳のきこえな
い子を普通の幼稚園に入れようと考えている場合
には特に)。
こうした決定を下す際は、
お子さんを担
当している専門家と協力するのが一番です。
教室の背景雑音
健聴者であっても、
周りが騒がしかったり
(例:パー
ティー会場)、話し手が離れたところにいたり
(例:
ツアーグループの後ろの方で先頭にいるガイドの
話を聴く)、音響環境が悪かったり
(例:残響が大き
いホールで講演を聴く)
すると、
人の話を聞きとって
理解するのは難しいものです。難聴の場合それが
もっと困難になり、
補聴器や人工内耳もこの問題を
完全に解決してはくれません。補聴器も人工内耳
も、通常はマイクロフォンを使って背景雑音や残響
も含めてすべての音を拾います。拾った音は補聴器
あるいは人工内耳で処理されますが、邪魔な音も
全部または一部が一緒に処理されて伝えられます。
幼稚園では、こういった環境面・状況面の問題を、
教室の改装(音を吸収するようにカーペットを敷
き、窓からの反射音を抑えるカーテンやシェード
を取り付けるなど)で部分的に改善することがで
きます。また、音を反射する広い壁に壁掛けを吊
るすと雑音の干渉を減らせます。別のサポート方
法として、音声増幅システムの設置があります。
教室全体に設置(スピーカー)するか、個別対応
(FM装置、赤外線システム、テレコイル)も可能
です。こうしたシステムを使うには、先生がマイク
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と送信機を装着する必要があります。お子さんの
教室の音響環境について疑問がある場合は、お子
さんを担当する言語聴覚士に相談しましょう。
この冊子が人工内耳を装用するお子さんの支援や
教育に役立つことを願っています。人工内耳を装
用しているお子さんをお持ちの方や、そうした子ど
もたちを担当する専門家が利用できる手段はたく
さんあります。この冊子は、人工内耳やことばの
発達についての基本的な情報やお子さんの発達を
刺激するヒントを概説するために作られました。よ
り詳しい支援や資料については、お近くのメドエ
ル・オフィスにお問い合わせいただくか、メドエル
のウェブサイト(www.medel.com)内の「より
よいコミュニケーションへのBRIDGE」をご覧くだ
さい。
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van jonge dove kinderen met een cochleair implantaat:
informatie en tips voor ouders en begeleiders.
Koninklijk Instituut voor Doven en Spraakgestoorden
(KIDS), Hasselt (B) – Nederlandse Stichting voor het
Dove en Slechthorende Kind (NSDSK), Amsterdam
(NL) – Onafhankelijk Informatiecentrum over
Cochleaire Implantatie (ONICI), Zonhoven (B).
謝辞*
本冊子は、以下の方々の研究を基に作成しました。
ここに深く感謝の意を表します。
Leo De Raeve (KIDS:ベルギー王立言語聴覚
障がい者協会、およびONICI:独立人工内耳情
報センター(ベルギー))
Gerard Spaai(NSDSK:オランダ難聴児基金)
Elke Huysmans(NSDSK)
Kim de Gooijer(NSDSK)
Marleen Bammens(KIDS)
Edith Croux(KIDS)
Liesbeth Tuyls(KIDS)
「リトル・リスナーズ」は、オランダ語で出版され
たガイドブック『Begeleiden van jonge dove
kinderen met een cochleair implantaat:
informatie en tips voor ouders en
begeleiders(幼い人工内耳装用児のためのガイ
ダンス:両親および保育担当者への情報とヒント)』
(文献19)からいくつかの章を抜き出して、翻案・
翻訳したものです。このガイドブックは「バイリン
ガル環境の中で、人工内耳手術を受けた幼い聴覚
障がい児とともに歩むためのプログラム」と銘打っ
たプロジェクトの一環として作成されました。同プ
ロジェクトは、リハビリテーション基金、子ども切
手 基 金、 難 聴 児 基 金 の 助 成 によって2003 ~
2007年に行われたものです。
日本語版作成にあたり、
(独)東京医療センター
臨床研究センター(感覚器センター)名誉セン
ター長 加我君孝先生のご監修、同センター研
究員 内山勉先生のご協力を頂きました。ここに
感謝申し上げます。
www.kids.be
www.onici.be
www.nsdsk.nl
* 本冊子は、De Reave et al. (2008) の1 ~ 5章を翻案したものです。
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