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2009年11月 - 三菱東京UFJ銀行

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2009年11月 - 三菱東京UFJ銀行
平成 21 年(2009 年)11 月 24 日
~ユーロ圏経済は後退局面を脱するが回復力は脆弱、英国経済の本格回復は 2011 年以降に~
1.ユーロ圏
(1)景気の現状
輸出の回復と在庫
調整一巡により、6
四半期振りのプラ
ス成長
第 3 四半期のユーロ圏実質 GDP 成長率(速報値)は前期比 0.4%と、6
四半期振りのプラス成長となった(第 1 図)。需要項目別の内訳は未発表
だが、輸出の回復と在庫減少幅の縮小が、成長に寄与したものとみられる
(第 2 図)。他方、買換え促進策の効果で自動車販売が好調だったにも関
わらず、個人消費はドイツで前期比減少、フランスで同横這いと伸び悩ん
だ。設備・建設投資もドイツなど一部の国を除けば減少が続いた模様だ。
国別では、ドイツ(前期比+0.4%から同+0.7%へ加速)、フランス(前
期比+0.3%で横這い)が 2 四半期連続のプラス成長となったほか、イタリ
ア、オランダ、ベルギー、オーストリア、ポルトガル、スロバキアも景気
後退を脱した。しかし、不動産バブル崩壊後の調整が続くスペインやギリ
シャ、キプロスは依然マイナス成長が続くなど、域内経済にはまだら模様
が残る。年率換算した成長率を比較すると、米国 3.5%、日本 4.8%に対し、
ユーロ圏は 1.5%と出遅れている(第 3 図)。
第 1 図:欧州主要国の実質 GDP 成長率
2
第 2 図:ユーロ圏の域外貿易収支と輸出入
(前期比、%)
10
8 ( 億ユーロ)
(前年比、%)
6
1
20
4
0
10
2
-1
-2
-3
-2
07
-10
-4
-6
-8
08
(資料) Eurostat より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
09
06
(年)
貿易収支
-20
輸出金額〈右目盛〉
-30
輸入金額〈右目盛〉
-10
-4
06
0
0
ユーロ圏
ドイツ
フランス
イタリア
スペイン
英国(非EM U)
07
08
-40
09
(資料)Eurostat より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
1
30
(年)
(2)今後の見通し
<概 要>
2010 年も緩やかな
回復にとどまり、他
地域に比べ低成長
が続く見込み
ドイツ・フランス
と周縁国との間で
二極化が進行
ユーロ圏経済は、戦後最悪の景気後退を脱して緩やかな回復過程に入
ったものの、2010 年も他地域に比べて低成長にとどまるとみられる。足
元の景気は昨年末以降に各国で導入された景気刺激策に支えられており、
こうした対策の効果は 2010 年にかけて段階的に縮小していく見込みだ。
さらに、銀行のバランスシート調整に時間がかかること、過剰設備・雇
用や一部の国の住宅市場調整の下押し圧力も残ることも、内需主導の回
復を困難にしている。他方、主要輸出先である米国、英国や欧州新興国
の景気が力強さに欠けることに加え、春先から続くユーロ高の影響も今
後顕在化してくることから、外需の牽引力にも多くは期待できない。銀
行のバランスシート調整や企業部門の調整に目途がつき、自律的な回復
が見込めるのは、早くても 2010 年半ば以降となろう。ユーロ圏の実質
GDP 成長率は、2009 年に▲3.9%まで落ち込んだ後、2010 年も 1.1%と緩
やかな回復にとどまると予想される(第 4 図)。
国別にみると、2 カ国でユーロ圏 GDP の約 5 割を占めるドイツ、フラ
ンスが、引き続き回復の牽引役になるとみられる。相対的に景気が堅調
なアジア新興国向けの輸出が好調なこと、政府による景気対策の規模や
財政の自動安定化機能が大きいことが、その理由である。一方で、不動
産バブル崩壊の後遺症が残るスペイン、アイルランドや、財政面の制約
と国際競争力に不安を抱えるギリシャなどの周縁国は、回復に時間がか
かる見込みだ。EU 諸国は遅くとも 2011 年から財政再建に向けた出口戦
略に着手することで合意しているが、2010 年はドイツ、フランスがさら
なる減税措置の導入を計画する一方、財政事情が苦しい周縁国の一部は
先行して財政引き締めに転じる予定だ。こうした主要国と周縁国の財政
スタンスの違いは、域内経済の二極化に一層拍車を掛ける可能性があり、
注意が必要である。
第 3 図:日米欧の実質 GDP 成長率
8
第 4 図:ユーロ圏の実質 GDP 成長率
(前期比年率、%)
4.0
6
3.0
4
2.0
2
(前年比、%)
当室見通し
1.0
0
-2
0.0
-4
-1.0
ユーロ圏
-6
-8
米国
-10
日本
-2.0
-12
個人消費
政府消費
-3.0
総固定資本形成
在庫投資
-4.0
純輸出
実質GDP成長率
-5.0
-14
01
02
03
04
05
06
07
(資料)Eurostat より三菱東京UFJ 銀行経済調査室作成
08
09
01
(年)
02
03
04
05
06
07
(資料)Eurostatより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
2
08
09
10
(年)
<詳 細>
① 家計部門の動向
かつては構造的な低成長・高失業に苦しみ、二桁台の失業率が続いた
大陸欧州だが、90 年代半ば以降は各国の労働市場改革の効果で趨勢的な
失業率の低下が続いた。しかし、戦後最悪の景気後退の影響で、9 月の失
業率は 9.7%とユーロ導入以来の水準へ上昇している。7-9 月期に生産が
底入れしたことを踏まえると、雇用が今後さらに急激に悪化するリスク
は後退したといえるが、米国に比べて雇用調整のスピードが遅いユーロ
圏は、単位労働コストや労働分配率が急上昇しており、企業の雇用調整
圧力が強い。ユーロ圏の失業率は、来年半ばにかけて上昇を続け、10%
台半ばに達すると予想される。
所得環境をみると、足元では雇用者所得の減少が続くなかで、インフ
所得環境は厳しく、
家計貯蓄率の上昇 レ率の低下と社会保障給付の拡大が実質ベースの家計所得を下支えして
いる(第 5 図)。2010 年は、雇用調整の継続に加え、インフレ率の上昇
も消費を抑制
と景気対策効果の一巡が重しとなり、回復感の乏しい状況が続こう。さ
らに、家計のバランスシート調整が進むスペインを中心に貯蓄率の上昇
が続くことも、消費の抑制要因になるとみられる(第 6 図)。
加えて、短期的なリスク要因として懸念されるのは、昨年末から各国
懸念される廃車奨
で導入された廃車奨励金制度(買換え促進策)の反動による、自動車販
励金制度の反動
売の落ち込みである。予算規模が最も大きいドイツでは、9 月初めに申請
受付が終了しており(申請済み分の納車は年末頃まで続く)、その他の
多くの国も年末までに予算枠の消化、ないしは期限切れを迎える(第 1
表)。小売売上(自動車を除く)の減少幅が拡大するなど、消費の基調
が極めて弱いことを考慮すると、足元の自動車販売の好調は需要の先食
いに過ぎず、2010 年入り後はかなりの反動減が避けられないものとみら
れる(第 7 図)。
景気後退後も雇用
情勢の悪化が継続
第 5 図:ユーロ圏実質個人消費と家計可処分所得
(2Q移動平均、前期比、%)
第 6 図:ユーロ圏各国の家計貯蓄率
ネット社会保障給付(名目)
1.0
0.8
0.6
ユーロ圏
スペイン
イタリア
19%
実質可処分所得
18%
実質個人消費
17%
ドイツ
フランス
16%
0.4
15%
0.2
14%
0.0
13%
-0.2
12%
11%
-0.4
10%
-0.6
00
01
02
03
04
05
06
(資料) Eurostatより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
07
08
00
09
01
02
03
04
05
(注)データは 4 四半期平均
(資料) Eurostat より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
(年)
3
06
07
08
09
(年)
第 1 表:EU 諸国の廃車奨励金制度
国名
期限
補助金額
予算枠
上限台数
第 7 図:ユーロ圏とドイツの自動車販売
備考
30
2009年12月
1,500€
0.45億€
3万台
オーストリア
2010年12月 1,000€、700€、500€ 6.2億€~ 38万台~ 減額して延長
フランス
2009年12月
2,500€
50億€ 200万台 9月に受付終了
ドイツ
2009年12月 1,500~5,000€
12億€
10年3月登録分まで
イタリア
750~1,750€
オランダ
未定
2009年12月 1,000~1,500€
ポルトガル
約900€
6万台
ルーマニア(※) 2009年12月
2010年4月
2,000€
20万台 10月に受付終了
スペイン
ルクセンブルク 2010年10月 1,500~1,750€
675~1,700€
キプロス
未定
2010年2月
2,000£
4億£
20万台
英国(※)
2009年12月 1,000~2,000€
スロバキア
2012年12月
500~3,200€
ギリシャ
(注)※印はユーロ不参加のEU加盟国
(資料)ACEA等より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
(前年比、%)
ドイツ
その他ユーロ圏
20
ユーロ圏合計
10
0
-10
-20
-30
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09* 10*
(注) 09 年は 10 月までのデータを年率換算。
10 年は販売台数が 00 ~08 年の平均に戻ると仮定した場合。
(資料) ACEAより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
(年)
② 企業部門の動向
各種企業サーベイによると、受注・在庫バランスの改善が進んでおり、
今後数四半期は、在庫の減少幅縮小~積み増しの動きが生産及び実質
GDP の押し上げ要因になる見込みだ。
しかし、来年初にかけては、廃車奨励金制度終了に伴う自動車生産の
反動減が、生産回復の勢いを削ぐ要因になるとみられる。また、春先か
ら続くユーロ高(実質実効ベースで前年比 7.4%上昇し、過去最高値圏)
の輸出への影響も、ラグを伴って顕在化することが予想される(第 8 図)。
世界経済の回復を前提とすれば、ユーロ圏輸出の腰折れはないものの、
それでも世界貿易の伸びに比べれば相当に抑制された状況が続こう。
設備投資についてみると、ユーロ圏製造業の設備稼働率は第 4 四半期
も 70.7%と歴史的低水準にあり(長期平均:81.4%)、借入コストの上昇
などから企業の資金需要も低迷している。設備稼働率が 80%近辺へ回帰
して過剰設備の整理に目途がつくのは、早くても 2010 半ば頃とみられ、
設備投資の本格回復は 2010 年後半まで期待できない。
在庫調整は進展し
たものの・・・
廃車奨励金の反動
とユーロ高が輸
出・生産の回復ペ
ースを抑制
設備投資の本格回
復は 2010 年後半か
ら
第 8 図:ユーロ圏域外輸出とユーロ実質実効相場
20
(前年比、%)
第 9 図:ユーロ圏の実質設備投資と設備稼働率
( 99 年Q1 =100 )
140
ユーロ高の影響で
世界貿易の伸びに劣後
15
10
130
10
(前年比、%)
(%) 90
5
85
0
80
-5
75
120
5
0
110
-5
100
-10
90
世界貿易
ユーロ圏域外輸出
-15
-20
80
ユーロ実質実効相場〈右目盛〉
-25
99
00
01
02
03
04
(注)実質実効相場は対41 カ国、CP Iベース。
05
06
07
08
(資料) CP B Netherlands Bureau for Economic P olicy Analysis 、ECBより
三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
-10
総固定資本形成
70
設備稼働率〈右目盛〉
70
65
-15
09
92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09
(年)
(資料) Eurostat より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
4
(年)
③ 金融及び銀行貸出の動向
欧州中央銀行(ECB)が 3 カ月ごとに実施している銀行貸出調査によ
金融危機後の貸出
基準厳格化に歯止 ると、政府・中銀の政策対応の効果により銀行の資金調達環境が改善し
たのをうけて、貸出態度厳格化の動きにもようやく歯止めが掛りつつあ
め
る。3 カ月前に比べ貸出態度を厳格化した銀行から緩和した銀行の数を引
いたネット厳格化超の比率は、直近第 3 四半期にかけて大きく低下し、3
カ月先の見通しは、2007 年夏の金融市場混乱の勃発以来初めてネット緩
和超となった(第 10 図)。
しかしながら、9 月の民間向け銀行貸出残高は前年比▲0.3%と、統計
しかし、実際の融資
拡大には時間がか 開始以来初めて前年比マイナスを記録し、実際の貸出の落ち込みには歯
止めがかかっていない。設備・在庫投資の大幅な落ち込みをうけて企業
かる見込み
の資金需要が低迷していることに加え、①金融危機後のバランスシート
調整が道半ばであること、②今後も企業倒産や失業の増加・高止まりに
伴う不良債権の増加が予想されること(第 11 図)、などから銀行が融資
拡大に慎重なことも、貸出低迷の要因とみられる。ECB の分析によると、
過去の景気回復局面において、企業向け貸出の回復は景気サイクルに約 3
四半期遅行していたが、今般の金融危機の深さ・広がりや欧州銀行の相
対的なレバレッジの高さなどを考慮すると、今次局面での融資拡大には
従来以上に時間がかかる可能性が高い。
なお、10 月初旬には、EU 当局による欧州主要銀行(EU 域内の銀行総
ストレステスト実
施後も、欧州の金融 資産の 6 割を占める 22 行)を対象としたストレステストの結果が発表さ
システム不安は払 れた。判定は、域内大手銀行の自己資本は実体経済の急速な悪化にも耐
えうる水準にあるとの内容であったが、個別行の資本不足の解消を目的
拭されず
とする米国のストレステストとは異なり、具体的な銀行名や損失率等は
開示されていないことから、金融システム不安が完全に払拭されるには
至っていない。
第 10 図:ユーロ圏の銀行貸出基準(企業向け)
第 11 図:ユーロ圏の企業倒産件数
(「厳格化」-「緩和」、%)
80
12
実績
60
(ネット厳格化超)
(千件)
(千件)
1.8
1.6
10
1.4
見通し
40
8
20
1.2
1.0
6
0
ドイツ
-20
(ネット緩和超)
0.8
フランス〈右目盛〉
4
0.6
スペイン〈右目盛〉
0.4
2
0.2
-40
03
04
05
06
07
08
(資料) ECB銀行貸出調査より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
09
0
10
0.0
02
(年)
03
04
05
06
07
(資料)各国統計より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
5
08
09
(年)
④ 物価と金融政策
インフレ率は 2010
年も低位安定が続
く見込み
ECB は非標準的措
置の出口戦略に着
手する方針を表明
流動性供給策は段
階的に廃止される
が、政策金利は当面
据え置き
ユーロ圏の消費者物価上昇率(前年比)は、7 月の▲0.7%を底にマイ
ナス幅が縮小し、10 月は▲0.1%であった。今後は、エネルギー価格が前
年同月比で物価押し上げ要因に転じる一方、エネルギー・食料品を除く
コア・インフレ率は、需給ギャップの拡大に伴い緩やかに低下すること
から、インフレ率は 1%台での低位安定が続くと予想される(第 12 図)。
ECB は金融危機対応の非標準的措置の出口戦略にむけ、舵を切りつつ
ある。11 月の定例理事会後の声明では、金融市場の改善を考慮して「異
例の流動性供給策をタイムリーかつ段階的に廃止する」との方針が示さ
れ、年明け後は、危機後に追加された長期オペの頻度引き下げや期間短
縮化、金利スプレッド上乗せなどの形で段階的に過剰流動性の吸収が進
められる見込みだ。他方、週次オペの固定金利・金額無制限方式と適格
担保の拡大は、保険的意味合いから 2010 年末まで継続されよう。また、
2010 年も景気回復の勢いが鈍く、インフレ圧力が抑制された状態が続く
ことから、政策金利は 2011 年初まで据え置かれる公算が大きい。
⑤ ユーロ為替相場
ドル安・ユーロ高
基調が継続
対ドル相場は 3 月に上昇に転じた後、①投資家のリスク選好の回復、
②米国の財政ファイナンス懸念や基軸通貨ドルの信認不安、③米国に比
べたユーロ圏の政策金利の高さ、などから堅調に推移している。
もっとも、購買力平価などでみるとユーロの割高感は強く、目先の上
昇余地は限られる。新興国の外貨準備多様化などを背景とする中長期的
なユーロ高の流れは不変だが、2010 年は米国の相対的な高成長や利上げ
観測に焦点が移ることで、ユーロが一時的な下落局面に入るとみられる。
他方、1 ユーロ=130 円台での揉み合いが続く対円相場は、日米欧 3 極で
日本の超低金利脱却が最も遅れるとの観測から若干のユーロ高となろう。
第 12 図:ユーロ圏の消費者物価上昇率
第 13 図:ユーロ圏為替相場の推移
(前年比寄与度、%)
5.0
1.65
エネルギー
4.0
1.60
食料品・タバコ
当室見通し
コア
3.0
(円/ユーロ)
180
(ドル/ユーロ)
対円相場〈右目盛〉
対ドル相場
1.55
HICP総合
1.50
2.0
1.0
150
1.40
140
130
1.30
120
1.25
-1.0
1.20
-2.0
99
00
01
02
03
04
05
(資料)Eurostatより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
06
07
08
09
08/7
10
110
08/9
08/11
09/1
09/3
09/5
(資料) Bloombergより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
(年)
160
1.45
1.35
0.0
170
09/7
09/9
09/11
(年/月)
(中村 明、武南 奈緒美)
6
2.英国
(1)景気の現状
英国の第 3 四半期の実質 GDP 成長率は前期比▲0.4%と 6 四半期連続の
マイナス成長となった(第 14 図)。事前の見通しでは、前期比プラス成
長になるとの見方が多かったことからサプライズな結果であった。前年
比も▲5.2%と 4 四半期連続で前年水準を下回った(第 15 図)。まだ、需
要項目別の詳細については、不明だが、総固定資本形成、個人消費が引
き続き不振であった可能性が高い。
個人消費は、足元、伸び悩んでいる。小売売上は、6、7 月は好天と店
頭価格の値下げで前年比 2%台後半の伸びを、8、9 月は値下げで 2%台前
半の伸びを維持したが、伸び率自体は低い水準にある(第 16 図)。個人
消費不振の理由の1つは雇用情勢の悪化である。失業保険申請者ベース
の失業率は 10 月に 5.1%に達している。もう1つの理由はバランスシ―ト
調整である。家計部門の債務残高の対 GDP 比率をみると、1997 年には
0.63 倍であったものが、2008 年にはほぼ 1 倍まで上昇しており、この間、
第 3 四半期は予想
外のマイナス成長
個人消費は伸び悩
み
雇用情勢の悪化と
バランスシート調
整が消費を抑制
第 14 図:実質 GDP 成長率(前期比)
第 15 図:実質 GDP 成長率(前年比)
(前期比、%)
2.0
6
1.5
1.0
(前年比、%)
4
2
0.5
0.0
-0.5
0
-2
-1.0
-1.5
-4
-6
-2.0
-2.5
-3.0
-8
2003
2003
04
05
個人消費
在庫
06
総固定資本形成
純輸出
07
08
政府最終消費
実質GDP
09
(年、四半期)
個人消費
04
総固定資本形成
09
(年、四半期)
政府最終消費
在庫
純輸出
実質GDP
第 16 図:小売売上と失業率の動向
(前年比、%)
07
08
第 17 図:家計部門の債務残高
(%)
12
小売売上指数
06
(資料)ONSより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
(資料)ONSより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
10
05
失業率(右目盛)
8
6
(倍)
5.5
1.1
5.0
1.0
4.5
0.9
4.0
0.8
4
3.5
2
0.7
3.0
0
0.6
1995
2.5
-2
2.0
-4
02
03
04
05
06
07
08
(資料)Ecowinより三菱東京UFJ銀行経済調査室
作成
97
99
01
03
05
(注)家計ローン残高÷GDPの値を表示
(資料)BOE、ONSより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
09
(年、月次)
7
07
第 18 図:家計貯蓄率
12
第 19 図:英国の実質実効為替レート
(%)
(2005年=100)
110
10
105
8
100
6
95
4
90
2
85
0
80
-2
1997 98 99 00 01
02
輸出は低迷
生産は低水準で推
移
04
75
06 07 08 09
(年、四半期)
(資料)ONSより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
家計貯蓄率は上昇
03
05
04
05
07
08
(資料)OECDより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
09
(年、月次)
家計の債務残高は急激に拡大した(第 17 図)。その後、住宅価格の下落
等も相まって、家計は債務残高の圧縮を始めている。その証左として、
家計貯蓄率の急上昇があげられる(第 18 図)。家計貯蓄率は、2008 年第
1 四半期の▲0.5%から今年第 3 四半期には 5.6%まで上昇している。こう
した状況下では、個人消費の回復には時間がかかるとみられる。
企業部門については、ポンド安を生かした輸出の増加が期待されると
ころであるが、その兆しはみられない。実質実効為替レートは、相当低
い水準にあるが、輸出は金額ベース、数量ベース、いずれも底ばいの状
態にある(第 19、20 図)。個人消費が低迷していることもあり、鉱工業
生産は低水準で推移している(第 21 図)。その結果、今年第 3 四半期の
設備稼働率は、72.4%と過去 20 年近い期間でみても最低水準にある(第
22 図)。設備投資の回復は、当面見込みにくい。
第 20 図:輸出金額・数量の推移
(10億ポンド)
06
第 21 図:鉱工業生産の動向
(2005年=100)
110
110
18.0
(2005年=100)
105
17.5
105
100
17.0
100
16.5
16.0
95
90
95
85
15.5
90
80
08
15.0
85
14.5
14.0
07
輸出金額
08
09
輸出数量指数(右目盛)
鉱工業生産
非耐久消費財
80
(年、月次)
09
資本財
中間財
(年、月次)
耐久消費財
(資料)ONSより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
(資料)ONSより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
8
第 22 図:設備稼働率の動向
10
第 23 図:企業向け貸出の動向
(前年比、%)
(%)
90
25
(前年比%、10億ポンド)
20
5
85
0
80
5
-5
75
-5
15
10
0
企業向け貸出残高伸び率
-10
-10
70
-15
65
ネット貸出額(フロー)
-15
-20
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09
製造業設備稼働率(右目盛)
鉱工業生産
(年、四半期)
(資料)ONSより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
2006
07
08
(資料)BOEより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
09
(年、月)
(2)銀行貸出の動向
企業向け貸出は低
迷
個人破産件数、企
業倒産件数は増加
銀行貸出をみると、企業向けが低迷している(第 23 図)。BOE の調査
では主要銀行以外の銀行の残高減少幅が大きくなっている。一方、住宅ロ
ーンのフローは緩やかに増加している(第 24 図)。9 月は住宅購入目的
以外に借換も増加した。ただし、増加幅は小さく、銀行貸出は、まだ、全
般的に弱いといえる。
個人破産件数は高水準で推移している。企業倒産件数も今年 7-9 月期に
やや減少したものの、依然、水準は高い(第 25 図)。このため、銀行貸
出は、今後、特に企業向けを中心に低迷が続くとみられる。
第 24 図:住宅ローンの動向
12
第 25 図:企業倒産・個人破産の動向
(10億ポンド)
5.5
10
5.0
8
4.5
6
4.0
4
3.5
2
3.0
0
2.5
(千件)
(千件)
個人破産件数
(右目盛)
企業倒産件数
20
18
16
14
12
09/1
2
3
住宅購入
4
借換
5
6
7
その他
8
9
(年、月次)
ネットフロー
10
8
6
2.0
2000 01
(注)大手6行の貸出動向調査、季節調整済値
(資料)BOEより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
02
03
04
05
06
07
4
08 09
(年、四半期)
(資料)ONSより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
(3)物価の動向
消費者物価上昇率
はやや上昇
インフレ率についてみると、10 月には、前年比 1.5%と前月より 0.4%
ポイント上昇した(第 26 図)。原油価格の水準が前年とほぼ同水準とな
ってきたことから、電気ガス等公共料金の下落率が縮小したほか、ガソリ
ン価格を含む個人の輸送機械関連費用が前年比+0.7%と 11 ヶ月ぶりにわ
9
第 26 図:消費者物価上昇率
20
(前年比、%)
(前年比、%)
50
15
40
10
30
5
20
0
10
-5
0
-10
07
08
総合
個人輸送機械関連費用
通信
-10
09
(年、月)
食料品
電気・ガス等(右目盛)
(資料)ONSより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
インフレ率の上昇
は限定的
ずかながらもプラスの伸びに転じた。また、通信費の上昇率も前年比
+2.6%へと加速した。原油価格は当面、現状程度で推移するとみられるこ
とから、前年水準を上回る状況が続くが、物価全般については需要減に伴
う下押し圧力が強く、消費者物価上昇率は 2%を下回る状況が続くであろ
う。
(4)今後の見通し
①実体経済
2009 年 の 実 質
GDP 成長率は▲
4.7%。2010 年は
0.8%
総選挙の結果で
は、財政政策の大
幅変更も
今年第 4 四半期に底入れし、2010 年第 1 四半期以降、緩やかな回復過
程に入るとみられる。2009 年の実質 GDP 成長率は前年比▲4.7%、2010
年は同 0.8%となろう。当初の成長は、在庫減少幅の縮小、輸出以上の輸
入の落ち込みによる外需のプラス寄与度の増加によるもので、個人消費
等が回復に転じるのは、それ以降となろう。
財政政策については、現状のままだと、来年以降、高所得者の所得税
率、及び VAT 税率の引き上げ等増税措置がとられるが、ブラウン首相は、
最近、経済対策の継続の重要性を認める発言をしており、11 月下旬から
12 月初旬の間に発表される「プレバジェット・レポート」では経済対策
の継続等が含まれるとみられる。それらは、2010 年の景気下支えに寄与
するものと考えられる。
しかし、来年 6 月までに実施される総選挙では、現在のところ、野党
の保守党が優位にある。財政赤字は 2009 年度に GDP 比で 12.4%に達す
るとされているが、保守党は早期の財政健全化を目指すとしている。し
かし、実際にそうした施策が実施されるのは 2010 年の第 4 四半期頃から
とみられ、その影響が経済に現れるのは、2011 年以降となろう。
10
②金融政策
利上げは 2010 年
第 4 四半期
インフレ率は、2010 年末頃に BOE のターゲットである 2.0%に達し、実
体経済は、2010 年第 2 四半期から個人消費、続いて、総固定資本形成が持
ち直しに転じる見通しである。このため、第 2 四半期には、資産買取等非
伝統的な政策のさらなる拡大は打ち止めとなるが、巻き戻しに転じるのは、
もう少し後になるであろう。2010 年第 4 四半期には、景気全体に弱いなが
らも浮揚感が出てくるとみられることから、そのタイミングをみて、BOE
は利上げに踏み切ると考えられる。
(ロンドン駐在 本多 克幸)
第 2 表:西欧経済の見通し
(1)総括表
実質GDP成長率(%)
GDP規模
ユーロ圏16カ国
消費者物価上昇率(%)
経常収支(億ドル)
2008年
2008年
2009年
2010年
2008年
2009年
2010年
2008年
2009年
2010年
(10億ドル)
(実績)
(見通し)
(見通し)
(実績)
(見通し)
(見通し)
(実績)
(見通し)
(見通し)
13,646
ドイツ
3,673
フランス
2,867
イタリア
英 国
2,314
2,680
0.6
1.0
0.3
▲ 1.0
0.6
▲ 3.9
▲ 4.8
▲ 2.3
▲ 4.8
▲ 4.7
1.1
2.2
1.5
0.8
0.8
3.3
2.7
3.2
3.5
3.4
(2)需要項目別見通し
実質GDP
<内需寄与度>
<外需寄与度>
個人消費
政府消費
総固定資本形成
在庫投資
純輸出
1.2 ▲ 1,485
1.1
2,436
1.2 ▲ 643
1.5 ▲ 788
1.7 ▲ 411
▲ 958
1,405
▲ 545
▲ 582
▲ 390
▲ 100
2,063
▲ 544
▲ 568
▲ 438
(単位:%)
ユーロ圏16カ国
名目GDP
0.3
0.3
0.1
0.6
1.9
英 国
2008年
2009年
2010年
2008年
2009年
2010年
(実績)
(見通し)
(見通し)
(実績)
(見通し)
(見通し)
2.9 ▲ 2.7
0.6 ▲ 3.9
0.5 ▲ 2.9
0.0 ▲ 1.0
0.3 ▲ 1.0
2.1
2.5
▲ 0.6 ▲ 10.6
135 ▲ 270
1,209
420
2.4
1.1
0.2
0.9
▲ 0.4
1.7
▲ 1.6
20
1,087
3.5 ▲ 4.0
0.6 ▲ 4.7
0.0 ▲ 5.9
0.5
1.2
1.0 ▲ 3.6
2.5
2.1
▲ 3.3 ▲ 15.8
7 ▲ 161
▲ 389 ▲ 236
2.3
0.8
0.1
0.7
▲ 1.0
1.9
▲ 6.7
10
▲ 141
(注)1.ユーロ圏は2008年にキプロス・マルタが参加し15カ国、2009年にスロバキアが参加し16カ国。
2.内需・外需は実質GDP成長率への寄与度、それ以外は前年比伸び率。
3.在庫投資、純輸出は実質値(ユーロ圏は2000年価格:億ユーロ、英国は2003年価格:億ポンド)。
経常収支は名目値(億ドル)。
4.消費者物価は、EU統一基準インフレ率(HICP)。
照会先:経済調査室
(次長
佐久間) TEL:03-3240-3204
E-mail: [email protected]
当資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、金融商品の売買や投資など何らかの行動を勧誘するも
のではありません。ご利用に関しては、すべてお客様御自身でご判断下さいますよう、宜しくお願い申し上げます。
当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、当室はその正確性を保証するものではありま
せん。内容は予告なしに変更することがありますので、予めご了承下さい。また、当資料は著作物であり、著作権
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