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伏木富山港(新湊地区)臨港道路東西線 (新湊大橋)の耐風対策について

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伏木富山港(新湊地区)臨港道路東西線 (新湊大橋)の耐風対策について
伏木富山港(新湊地区)臨港道路東西線
(新湊大橋)の耐風対策について
田邉
1新潟港湾空港技術調査事務所
文昭1・森越
技術開発課
健二1
(〒951-8011
新潟市中央区入船町4-3778 )
伏木富山港(新湊地区)臨港道路東西線における主橋梁である新湊大橋は,5径間連続の複合
斜張橋である. 中央径間部の閉合後約1年経過した頃,中央径間(鋼桁部)において,想定を上
回る鉛直たわみ振動の発生が確認された. また,本橋梁を支えるケーブルにおいても,振動の発
生が確認された.
本稿では,鋼桁部における振動抑制対策についての検討・実施結果,ケーブルにおける振動
状況ならびに今後の計画について報告する.
キーワード 斜張橋,渦励振,導流板(フラップ),レインバイブレーション
1. はじめに
臨港道路東西線(新湊大橋)は,富山県射水市に位置
し,富山市内からコンテナターミナルへのアクセス向上,
国道415号の渋滞緩和,航路によって分断された地域住
民の利便性向上のため,伏木富山港(新湊地区)に計画
整備した日本海側最大級の斜張橋(中央径間360m,橋長
600m)(写真-1)である. 車道は2車線あり,その下に
は全天候型自転車歩行者道を配置した2層構造となって
いる.
・橋梁形式 :5 径間連続鋼・コンクリート複合斜張橋
・橋
長:600m(60+60+360+60+60m)
・幅 /桁高:15.0m/4.5m (B/D=3.33)
図-1 新湊大橋橋梁一般図
P23
P22
フェアリング
写真-1 新湊大橋の全景
図-1 一般図
検査車レール
外装パネル(アクリル板)
上下端に換気用透過部
本事業は平成9年度に事業化となり,平成14年度より
工事着手している.全体事業費は485億円である.
図-2 桁断面図(中央径間部)
橋梁概要
本橋は,中央径間部(360m)が鋼桁,側径間部が PC
桁の5径間連続鋼・コンクリート複合斜張橋である.鋼
桁部は,2箱桁であり,上面に車道、箱桁間下部に自歩
道を配置している.桁側面のフェアリングおよび自歩道
側面の外装パネルにより六角形の断面形状となっている.
本橋基本諸元を以下に示す.また,一般図を図-1,断面
図を図-2 に示す.
2.
3. 鋼桁・ケーブルの振動について
3-1 鋼桁振動の経緯について
平成 22 年 10 月に中央径間部を閉合し,フェアリング
や自歩道外装パネルの取付け,融雪装置の設置など順次
工事を進めていた. そのような中,平成 23 年 11 月 30
日 15 時頃,桁中央径間部で鉛直たわみ振動の発生が確
認された. 設計段階で風による振動の発生は想定されて
振幅
図-3 振幅の定義
風向
北方向
南方向
2011年
11月 12月
1
3
0
0
1月
5
0
2月
0
1
3月
5
2
4月
0
2
5月
1
0
2012年
6月 7月
2
0
0
0
8月
2
0
9月
3
0
10月 11月 12月
5
1
4
2
6
5
※2011年11月~2012年8月までは、目視による。
2012年9月以降は、振動計にて観測された振幅5cm以上の回数。
2013年
1月 2月
7
0
3
0
合計
計
39
21
60
表-1 方向別振動発生回数
3-2 ケーブル振動の経緯について
平成 23 年 9 月 20~21 日にかけて台風 15 号が接近し,
橋面上では 10m/s 以上の平均風速が観測され,ケーブル
本体と防水ゴムカバーの振動が確認された.
平成 23 年 9 月 26 日~10 月 5 日にかけて 72 本の全ケ
ーブル及び制振装置の点検を実施したところ,高減衰ゴ
ムダンパー21 箇所に損傷を確認した.(なお,現在は補
修済みである)(図-4)
その後,平成 23 年 9 月から平成 25 年 4 月までの 20
ヶ月間に,11 回振動していた事が確認されている.
4. 臨港道路東西線技術検討委員会の設置について
新湊大橋の鋼桁部及び斜張橋ケーブルに発生した振動
現象について,実態を把握し,橋梁への影響について検
討すると共に,耐風安定性を確保するための対策を検討
するため,長岡技術科学大学長井教授(現:名誉教授)
を委員長とする技術検討委員会を立ち上げた.
4-1 第1回委員会における検討事項,結果
①鋼桁及びケーブルの揺れの観測結果
新湊大橋の鋼桁部(中央径間)において,振幅約
35cm の揺れが観測された.(表-2)
比較的低風速時の限られた風速域での規則的な揺れで
あることから,原因は渦励振(図-5,6)によるものと判
断された.なお,渦励振については,当初設計時に振幅
約 10cm を想定していた.また,主ケーブルにも揺れが
生じ,ケーブル端部の制振装置(高減衰ゴムダンパー)
の一部に損傷が見られた.ケーブルの振動原因について
は,鋼桁の揺れとの関係が未解明であることから,レイ
ンバイブレーション(図-7)も視野に入れ,今後,発生原
因と対策を検討することとした.
平成23年11月30日以降10cm以上の振幅が確認された日時
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
風速
振動を確認した日時※1
最大振幅 ※2
(橋面上) ※1
平成23年11月30日
15時~1日1時
13.5~17.8m/s
平成23年12月 1日 9時~12時
12.9~14.8m/s
平成23年12月 8日 13時~9日4時
12.0~17.3m/s
平成23年12月16日
15時~16時
11.5~15.5m/s
平成24年 1月11日
15時~17時
11.8~15.0m/s
20~30cm
平成24年 1月17日 4時~ 5時
12.2~13.0m/s
平成24年 1月23日 6時~23時
11.8~15.8m/s
平成24年 1月25日 22時~23時
11.8~13.0m/s
平成24年 1月28日 4時~ 6時
11.5~13.0m/s
平成24年 2月 1日
3時~ 5時
7.3~10.0m/s
平成24年 3月 2日
11時~14時
8.8~12.5m/s
平成24年 3月 2日
17時~19時
11.0~12.5m/s
30~35cm 11.8~14.0m/s
平成24年 3月 3日
3時~ 7時
平成24年 3月 3日
18時~19時
11.8~12.1m/s
平成24年 3月 9日
10時~12時
8.2~14.0m/s
※1 未振動時も含む
※2 トランシット及びビデオ映像等による目視計測値
※3 橋上風速計付近にエレベータ塔があるため,実際の風速より低い可能性がある.
風向
(新湊出張所屋上)
北北東~北東
北北東~北東
北北東~北東
北
北北西~北
北北東
北~北北東
北
北~北北東
南
北東~東北東
北北東~北東
北北東~北東
北北東~北東
北東~東北東
備
考
※3
表-2 鋼桁振動発生状況(抜粋)
振 幅
いたが,実橋で観測された振幅は想定値を大きく上回り,
20~30cm 程度であった. この後も桁の振動は度々発生し,
計測の結果,最大たわみ振幅は 35cm,橋面上風速が 12
~14m/s,風向が橋軸直角方向の場合に鉛直たわみ振動
が発生していることが分かった.
その後,平成 23 年 11 月から平成 25 年 2 月末までの
16 ヶ月間に,60 回振動していた事が確認されている.
(図-3,表-1)
発散振動
渦励振
風 速
各種現象の振動イメージ図
図-5 各種現象イメージ図
【高減衰ゴムダンパー】
風により生じるケーブルの揺れを、高減衰
ゴムにて吸収し、抑える為に設置
振動
主ケーブル
振動
渦励振 イメージ図
図-6 渦励振 イメージ図
振動
うず れい しん
※渦励振とは
図-4 高減衰ゴムダンパー イメージ図
構造物の周辺や背後に発生する気流の渦等に起因して起こる振動とされている。
風と構造物が起こす一種の共振現象であり、桁橋やそれを構成する部材の揺れやすい振
動数(固有振動数)と同期して規則的な振動をする。
比較的低風速時の限られた風速域で発生し、ある振幅以上に発達しないとされている。
なお、「渦励振」は、ある風速以上になると風速の増加とともに振動が急激に大きくなる「発
散振動」とは異なるものである。
水みち
図-7 レインバイブレーション イメージ図
※レインバイブレーションとは
雨と風の相互作用によりある限定された風速域で生じるケーブルの振動現象である。
②橋梁構造への影響
揺れは限定的であり,ケーブル及び鋼桁の応力を確認
した結果,仮に橋の上に大型車両が渋滞している荷重状
態で揺れたとしても,構造上は問題はない.(表-3)
ただし,こうした揺れは利用者が不快・不安に感じるこ
とが懸念されることから,制振対策を講じる必要があ
る.
項目
荷重条件等
考察
鋼桁応力
死荷重+活荷重+
プレストレス+強制変位35cm
問題なし
(発生最大応力の部分で
設計応力に対し98%)
鋼桁疲労
鋼桁変位35cm発生時の
最大発生モーメント箇所での照査
問題なし
(疲労設計指針による)
ケーブル応力
死荷重+活荷重+
プレストレス+強制変位35cm
問題なし
(発生最大張力の部分で
設計張力に対し97%)
4-2 第2回委員会における検討結果・確認事項
①風洞実験結果について
鋼桁制振対策の風洞実験については,導流板(フラッ
プ)の部材位置,部材長,部材角度等を変化させ、同調
系質量ダンパー(TMD)を含め 42 ケースの風洞実験を実
施した.
風洞実験の結果,鋼桁部(中央径間)に吹く風を整流
させるための導流板(フラップ)を取り付けることで,
渦励振の発生を抑制できることが判明した.
導流板(フラップ)
防護柵パイプ
材質:アルミ合金材
導流板(フラップ)取付支柱
アンカーボルト
図-9 導流板(フラップ)詳細図
表-3 橋梁構造への影響
③制振対策を検討するための風洞実験計画
制振対策を検討するにあたっては,主橋梁鋼桁部の断
面形状を再現した模型を作成し,風洞実験を行うことと
した.
②鋼桁の制振対策案について
今後は,風洞実験結果を踏まえ図-9 に示すとおり実
橋に幅 1m の導流板(フラップ)を設置する制振対策工事
を速やかに実施し,実橋での振動抑制効果を確認するこ
ととした.
③ケーブルの制振対策案について
ケーブルについては,レインバイブレーションと判断
できる振動発生の確認はできなかったものの,今後の揺
れ発生の可能性は否定できないことから,さらに安全性
を高めるため対策を施すこととした.(図-10)
※ケーブル振動が発生しても緩衝材により主ケーブルの損傷を防ぐ
高減衰ゴムダンパー
取付フランジ
さや管
写真-2 風洞実験模型の全景
④制振対策案
制振対策案として導流板(フラップ)(図-9)や同調
系質量ダンパー(Tuned Mass Damper:TMD)(図-8)等
の設置を検討することとした.(写真-2)
主ケーブル
緩衝材設置
取付フランジ
図-10 ケーブルの安全性を高める対策
※同調系質量ダンパー(Tuned Mass Damper:TMD)とは
錘
ダンパーと錘を構造物に
取り付けることで、構造物
に引き起こされる振動を
抑制する装置である。
ダンパー
構造物
図-8 TMD イメージ図
④【確認事項】対策工事未了時の供用方法等について
伏木富山港(新湊地区)臨港道路東西線は予定どおり
平成 24 年秋に供用開始する.
ただし,自転車歩行者道については,制振対策が未実
施の状態では,利用者が不快・不安に感じることが懸念
されることから,制振対策実施後に供用を開始する.
4-3 第 3 回委員会における検討結果
①導流板(フラップ)による鋼桁の振動対策効果について
導流板(フラップ)は平成 25 年 1 月 16 日から取り付け
始め,平成 25 年 4 月 1 日に設置が完了した.(図-11,
写真-3)
現地観測の結果,導流板(フラップ)の設置前には最
大約 35cm の振幅が発生していたところであるが,導流
板(フラップ)設置段階である平成 25 年 1 月 23 日以降
は、鋼桁部(中央径間)において 7cm を超える揺れは発
生していない.(図-12)このことからも導流板(フラ
ップ)による振動対策効果が発現しているといえる.
これにより利用者が不快・不安に感じることが解消さ
れることから,自転車歩行者道は供用して支障はない.
至 富山港
至 海王丸パーク
写真-3 導流板(フラップ)設置後全景
図-11 導流板(フラップ)設置順序
振動の対処を行う目安の100gal
図-12 橋上風速・振幅・導流板(フラップ)設置延長 時系列
6. おわりに
5. まとめ
第 1 回~3 回の委員会の検討結果を受け,平成 24 年 9
月 23 日の車道部分が,平成 25 年 6 月 16 日には,自歩
道部が供用開始された.
本橋の鋼桁部の渦励振たわみ振動については,実橋の
構造減衰が想定値より小さかったことが大きく影響して
いると考えられる.
渦励振たわみ振動については対策が完了し,効果も発
現していることから今後,渦励振たわみ振動は発生する
可能性は低いと思われる.
またケーブル振動については,本委員会では発生原因
を特定するには至らなかった.
しかし,平成 25 年度にも振動の発生しやすい時期に
モニタリングを行い発生原因と対策工法を検討する計画
となっている.
今回本橋にて発生した現象は,供用前に耐風安定性が
問題となった全国的に見ても数少ない事例であり,本橋
の渦励振たわみ振動については原因の解明がほぼ出来た
と考える.同様の事例が発生している橋梁において対策
工法の参考になれば幸いである.
また,今後はケーブル振動の原因も解明し,対策を行
うことで,ケーブル振動対策の効果が発現させるよう努
力したい.
今回,伏木富山港(新湊地区)臨港道路東西線を無事
供用出来たのも,技術検討委員会の委員および関係者の
方々のおかげであり,感謝の意を表すものである.
参考文献
1) 道路橋耐風設計便覧(平成 19 年改訂版) ,(社)日本道路協会
2) 2013-2 橋梁と基礎 P29~32「新湊大橋の鋼桁耐風対策」
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