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2009年01月号Vol.8 No.1

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2009年01月号Vol.8 No.1
2009 年 1 月号 Vol.8 No.1
年頭のご挨拶
東京女子医科大学東医療センター
外科教授 小川健治
明けましておめでとうございます
先生方には健やかに新年をお迎えのこととお慶び申し上げます。
旧年中は医療連携などに大変お世話になり有難う存じました。心よ
りお礼申し上げます。
謹賀新年
今年もどうぞ
よろしくお願い申し上げます
2009 年 元旦 東京女子医科大学東医療センター外科一同
今年は丑年
今年は丑年、十二支の第二番目にあたる年、象徴する動物は牛
です。神様が十二支の動物を決めるとき、牛は歩くのが遅いので
早く出発し、一番に門前に着いたのですが、背中に乗っていた鼠
が飛び降りて一番になった…という話があります。動物の性格を
よく表して面白いですね。また、高村光太郎の詩に「牛」という
のがあります。長いので私の感覚で少し抜粋してみますと、「牛
はのろのろと歩く ― 自分の行きたいところへはまっすぐに行く
―、牛は急ぐことをしない ― ふみ出す足は必然だ ― 出したが
最後 牛は後にはかへらない、― 牛はがむしゃらではない けれど
もかなりがむしゃらだ ― 牛は非道をしない 牛はただしたいこ
とをする ― 牛は判断をしない けれども牛は正直だ、何処までも
歩く ― 遅れても先になっても 自分の道を自分で行く ―」、人の
一生、他人との関わり、社会との関わり、こうした人いますね…、
何か納得し、うまく形容できないのですが、感慨を覚えました。
そこで丑歳の性格判断、「温厚堅実、マイぺース、忍耐強い、内
気だが時として激情…、内面に強い剛気、神経質な面も…」 とあ
ります。責任感が強くじっくり仕事に取り組むタイプ、要領や臨
機応変が苦手でそれが頑固や強情ともとられる、好き嫌いもはっ
きり…、長所と短所は裏表です…。実は私の娘は丑歳、私自身は
戌歳、まったく違う性格ですが、こうした丑歳タイプの人は、社
会の根っこの部分を受け持つように思います。
翻って今の社会状況、医療や雇用は急激に崩壊し、経済は百年
に一度の恐慌状態です。先になって効いてくる丑歳タイプの堅実
な施策も重要ですが、現実には、速効性のある対策が切望されて
います。速効性で、しかも医師や医療現場に犠牲を強いない医師
不足対策、偏在対策、あるのでしょうか…?。今年は牛にも少し
走ってもらって、こうした速効性の医療改革を考えていく必要が
あると思っています。
Laugh Love Life
今年は医局の目標に 「Laugh Love Life」 を掲げました。語呂
合わせは 3L ですが、メタボリック ・ シンドロームではありませ
ん。対患者関係、対人関係とも、笑って、愛して、和やかにやり
ましょう。そして、患者の生命を救い、その質(quality of life ;
QOL)も向上させましょう。さらに、自分たちの QOL の向上に
も取組みましょう…という目標です。
私たち医師は、前述のように、どうしても自分自身(ひいては
家族も…)を犠牲にし、長時間労働をしてきました。それで研修
になる、経験が積める、勉強になる…それは事実ですが、そのた
めに過重労働となりバーンアウト…、最近の医療崩壊の構図で
す。患者を診るのは 「医師の本能」、私がよくいう言葉です。「医
療の基本精神は利他主義」 だそうです。同じ意味かもしれません
が、ニュアンスは違うように思います。利他…馴染みのない言葉
ですが、仏教からきており、他人のためを第一に考えること…辞
書にありました。これが義務、しかも医師と患者、個人対個人の
関係で…という医療現場。私たち凡人医師には少し辛いものがあ
り、医療者側の犠牲と患者側の利益に均衡がとれ、効率良く医療
を提供できるシステムの構築…病院レベルで必要ですね。無論、
一朝一夕にはできません。それで今年はとにかく、医局員一同 3L
で、医師の本能だけは忘れないように頑張りたいと思います。
東医療センター外科
外科の昨年の新入医局員ですが、四月に岡山幸代君、島崎朝子
君、宮内竜臣君、遠藤 貢君の四名が入局し、九月に山口晶子君
が心臓血管外科から転入して計五名です。また、本年四月には二
名の入局が内定しています。乳腺診療部も立上り、医局も人手不
足で、この若いマンパワーは本当に貴重です。色々な面で期待し
ていますが、反面、以前にはなかった女性医師への対応という問
題も浮上しています。本年を含む三年間の入局者八名のうち六名
が女性のため、こういう状況となりました。
これは女性医師増加に伴う医療界全体の問題でもあります。女
性外科医育成カリキュラムの作製、研修や労働環境の整備、結婚
・ 出産 ・ 育児への配慮、先にも述べた医師 QOL 向上などを対応
策とし、医局も期待される女性外科医の育成に努めたいと思って
います。なお、医局医師の出身大学の内訳をみますと、すでに女
子医大が最大勢力です(いつの間にか…)。
今年もより安全、確実、高度な医療を目指し、丑年にちなみ、
医局員一同牛のように堅実に、そして 3L で頑張っていきたいと
思っています。関連病院の先生方、地区医師会を始めとする近隣
の先生方には、本年も変わりませずご指導、ご鞭撻、ご協力を賜
りますよう重ねて宜しくお願い申し上げます。
特 集
当科における乳癌治療
はじめに
乳癌は、女性のがん罹患の第 1 位で、年間約 4 万人
が発症し、1 万人以上が死亡しています。年齢調整罹
患率は、この 20 年で約 2 倍になり、今や女性の 20 人
に1人の割合で乳癌に罹るとされています。乳癌によ
る死亡率は、欧米では 1990 年代以降低下を示してい
ますが、わが国ではいまだ増加傾向です。EBM に基づ
く薬物療法や乳癌検診の取り組みにより、今後はわが
国でも死亡率の低下が期待されます。
本特集では東京女子医科大学東医療センター外科の
1996 〜 2005 年における乳癌手術症例の推移と治療成
績、2006 年までの乳房温存療法の治療成績を報告し、
乳癌治療の現況について解説いたします。
当科における乳癌手術症例と治療成績
当科における乳癌治療の流れを図に示しました(図
1)。乳癌治療あたっては、画像診断でしこりの大きさ、
転移の有無、がんの広がりを検討し、腫瘍の病理診断
や生物学的マーカーを診断します。これらの診断結果
で手術か術前薬物療法かを選択します。術後の治療も
同様に決定しています。
さて、乳癌の手術は年々縮小化が進み、乳房切除術
から乳房部分切除術に、腋窩郭清からセンチネルリン
パ節生検による腋窩郭清省略へと移行しています。年
次別手術件数は 100 件前後ですが、乳房部分切除術は
年々増加傾向で、2005 年には 70 例、74%に行ってい
ます(図 2)。この理由として適応の拡大と画像診断
能の向上があげられます。術前薬物療法で縮小した症
例、整容性が保てる場合は腫瘍径 3㎝以上でも可能に
なり、MRI や MDCT、乳腺超音波検査による多発病変
やがんの広がり診断が正確になりました。
治療成績を病期別とリンパ節転移個数別に生存率で
比較しました。乳癌のステージは他のがんと同じよう
に TNM 分類で決定されます。T はしこりの大きさ、N
はリンパ節転移の状況、M は遠隔転移の有無で、0 期か
らⅣ期に分けられます(表 1)
。ステージ別頻度は 0 期
6%、Ⅰ期 34%、Ⅱ期 48%、Ⅲ期 9%、Ⅳ期 3%となり
(図 3)、Ⅰ期、Ⅱ期が多く 8 割を占めています。ステー
ジ別 5 年および 10 年生存率は、0 期 100% /100%、Ⅰ
期 96 % /89%、Ⅱ期 91% /86%、Ⅲ期 74% /40%、Ⅳ期
38% /24%でした(図 4)。また、リンパ節転移個数別
に 10 年生存率をみると、転移なしが 89%、転移 1 ~
3 個 86%、転移 4 ~ 9 個 74%、転移 10 個以上 21%と転
移個数に比例して予後不良でした(図 5)
。
1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
図 1 乳癌治療の流れ
T
(
0
(
)
54
47
39
51
56
50
60
50
36
25
乳房部分切除
13
20
27
44
34
33
36
51
61
70
図 2 年次別手術件数
M
N
)
(
乳房切除
)
(
)
2cm
2.1 5.0cm
5.1cm
表 1 乳癌のステージ
図 3 ステージ別頻度
当科では乳房温存療法を 1987 年より開始しました。
ニュースレターの特集 「乳房温存療法ガイドライン」
(Vol.6 No.1)に掲載しましたが、根治性と整容性を
確保するために腫瘍の大きさが 3㎝以下を適応として
います。ただし乳房のサイズとの関連で整容性が保た
れると判断されれば 4㎝まで、大きい腫瘍に対しては
術前化学療法を行い腫瘍の縮小後に行うなどで適応も
広げています。多発病巣も整容性と安全性が保たれれ
ば適応になります。10 年生存率は 87%(図 6)、10 年
乳房内再発率 8.1%(図 7)で良好な成績でした。
乳癌の薬物療法
手術療法とは比較にならないぐらい大きく変貌し
たのが乳癌の薬物療法です。薬物療法はホルモン療
法、化学療法、抗体療法に分けられ、EBM に基づい
た治療が選択されます。ガイドラインとしては日本
乳癌学会編乳癌診療ガイドライン、NCCN(National
Comprehensive Cancer Network)ガイドライン、ザン
クトガレン会議の治療指針などが広く用いられていま
す。われわれはザンクトガレン会議で提唱されるリス
ク分類と治療指針をベースに他のガイドラインも参考
にしながら治療にあたっています。治療選択の決定に
は患者さんの特徴や医師の裁量も加味されますが、腫
瘍の生物学的マーカーに基づいた targeted therapy が
重要です。すなわち、ホルモンレセプター(エストロゲ
ンレセプターやプロゲステロンレセプター)陽性では
ホルモン療法、HER2 蛋白過剰発現もしくは HER2 遺
伝子の増幅があればトラスツズマブ投与を行います。
化学療法も病理学的因子や生物学的マーカーを参考に
施行しています。化学療法は再発リスクに応じて術前
あるいは術後に 3 ヶ月から半年かけて行います。当科
で行っている基本的な化学療法のレジメンは、EC 療
法と EC 療法後タキサン(3 週ごとドセタキセルあるい
は毎週パクリタキセル)になります(図 8)
。本稿では
紙面の関係で各治療法の詳細を解説できませんので、
機会がありましたら解説したいと思います。
おわりに
EBM に基づいた治療を行うことで欧米同様、わが国
の乳癌死亡率も低下していくと思います。今年の乳癌
学会のテーマは 「標準化から個別化へ」 でしたが、乳
癌治療はますます個別化に向かっていくでしょう。欧
米ではすでに OncotypeDxTM や MammaPrint® などを
利用し、腫瘍の遺伝子発現プロファイルを個別に検索
して、化学療法が不要な患者さんを選別しています。
わが国でも自費診療で検査できるようになりました
が、高額なことが難点です。医療経済の立場も考慮し
つつ、日常診療で汎用できるようなシステムができる
ことを願っています。
最後に、昨年 11 月、東医療センター外科に乳腺診
療部が誕生しました。今まで以上に乳癌診療の充実に
努めていく所存ですので、今後も変わらずご指導賜り
ますようお願い申し上げます。 (文責:清水忠夫)
図 6 乳房温存療法の生存率
(%)
100
20
80
(3.4%)
60
40
20
8.1%
0
0
10
5
図 4 ステージ別生存率
図 7 乳房内再発率
(%)
C
E
EC
100
E
80
C
3
60
EC
40
E
20
3
C
0
0
5
10
3
1
図 5 リンパ節移転個数別生存率
図 8 化学療法レジメン
外科研修医の週間勤務時間制限で
腹腔鏡下胆嚢摘出術の合併症が減少
Conference Topics
といってもこれは当科の話題ではな
く、今年の Archives of Surgery(143:
の減少、治療継続性の妨げ、コミュニケー
ション断絶の可能性が増加するといった
理由から、この勤務時間制限には否定的
紹介します。ハーバー UCLA 医療セン
な見解でした。しかし、勤務時間制限前
ター(カリフォルニア州トランス)の (2000 年 1 月∼ 03 年 6 月:1353 例)と
Arezou Yaghoubian 医師らは、外科研修
制限後(2003 年 7 月∼ 06 年 6 月:1117 例)
医の週当たり勤務時間が 80 時間に制限
に手術が施行された 2470 例を詳細に解
された以降に、腹腔鏡下胆嚢摘出術を受
析した結果は次の通りでした。
けた患者は胆管損傷などの合併症の発症
2群の背景因子では、勤務時間制限後
が有意に減少したと報告しました。
に胆管損傷リスクと相関する急性胆嚢炎
同センターでは入院患者の安全と研修
患者の割合が多かったにもかかわらず、
医の激務に伴う健康状態の悪化を懸念
制限後は制限前に比べ胆管損傷または合
し、2003 年 7 月に外科研修医の週当た
併症を発症した患者は有意に減少し(そ
り勤務時間を 80 時間に制限しています。 れ ぞ れ 0.4 % vs 1.0 %、2.0 % vs 5.0 %)、
当初、外科研修医の教育担当者は、頻繁
勤務時間制限は多変量解析の結果、胆管
な勤務交替、研修医の患者との接触機会
損傷と全合併症の発症率低下と深く関連
外
科 午
・
乳 前
腺
科
外 午
来 後
担 ︵
専
当 門
外
医 来
︶
月
消
化
器
・
一
般
村山 実
乳
腺
平野 明
上村万里
(胃)
火
小川健治
水
塩澤俊一
木
勝部隆男
浅香晋一
(教授診)
(肝・胆・膵)
(大腸・肛門)
大澤岳史
松本敦夫
(大腸・肛門)
(大腸・肛門)
清水忠夫
濱口佳奈子
平野 明
後藤直美
金 達浩
吉松和彦
横溝 肇
大澤岳史
(胃)
(食道・門亢症)
土
成高義彦
(食道・門亢症)
碓井健文
(肝・胆・膵)
金 達浩
(肝・胆・膵)
(肝・胆・膵)
消
化
器
(大腸・肛門)
塩澤俊一
(肝・胆・膵)
平野 明
上村万里
成高義彦*
(食道・門亢症)
碓井健文
勝部隆男
村山 実
山口健太郎
横溝 肇
宇津木忠仁**
(肝・胆・膵)
(ヘルニア)
(大腸・肛門)
乳
腺
金
横溝 肇
吉松和彦
(大腸・肛門)
していました。加えて、研修医の勤務時
間制限後に手術を受けた患者では、同院
が設定したアウトカムの改善効果も認め
られました。勤務時間制限は患者のケア
と研修医教育に悪影響をもたらすと懸念
されていましたが、今回の分析では明ら
かにその予想を覆す結果でした。
休養を充分にとる外科医ほど手術成績
が改善するか否かはさらなる研究が必要
ですが、本論文は腕の良い外科医となる
には不屈の精神と根性だけでは駄目で、
近い将来 the better-rested surgeon leads
to better surgery and surgical outcomes
となる可能性を科学的に示唆した内容と
いえるでしょう。 (塩澤俊一)
(胃)
(小児外科)
清水忠夫
後藤直美
受付時間
午前 8:30−11:00
午後 11:30− 2:30
第 3 土曜日は休診です。
2009 年 1 月∼
*第 1、3 金曜日
**第 2、4 金曜日
午前中は新患・再診、午後は専門外来(予約)となります。
あけましておめでとうござい
ます。今回の特集は「乳癌治療」
でした。乳癌の生存率は 5 年以
降も低下します。そのためホル
モン治療を 10 年間も続ける場合があります。乳癌撲滅のピ
ンクリボンキャンペーンは、乳癌検診の必要性を啓蒙して
います。検診受診率は欧米に比べるとまだ低いようですが、
少しずつ効果が現れ、当科でもマンモグラフィ検診によっ
て発見される乳癌が増加しています。
乳腺診療部が開設されました。乳癌撲滅の両輪である早
期発見と最良の治療に努めていきたいと思います。本年も
よろしくご指導のほど、お願い申し上げます。
(T.S)
東京女子医大東医療センター外科ニュースレター Vol.8 No.1
■編集発行:東京女子医科大学東医療センター外科
〒 116 − 8567 東京都荒川区西尾久 2 −1−10
電話 03 − 3810 −1111 FAX03 − 3894 − 5493
◆ 乳癌患者様の著しい増加に対応する
◆ 高度で安全な乳腺診療をより合理的に提供する
◆ 患者様の利便性の向上をはかる
以上を目標に乳腺診療部を開設しております。
宜しくお願い申し上げます。 診療部長:小川健治
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