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笑 - ハーメルン

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笑 - ハーメルン
提督(笑)、頑張りま
す。
ピロシキィ
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にPDF化したもので
す。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作品を引用の範囲を
超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。
︻あらすじ︼
現代から過去︵太平洋戦争︶あたりに転生させられ戦死したと思ったら艦これの世界
↑今ココ
提督︵笑︶震えて眠る │││││
提督︵笑︶試練の時 ││││││
提督︵笑︶は問題児 ││││││
1
提督︵笑︶と4人目 ││││││
提督︵笑︶と響く悲鳴 │││││
提督︵笑︶と動き出す周り │││
提督︵笑︶と白露の君 │││││
提督︵笑︶と工作員 ││││││
提督︵笑︶の休日 │││││││
13
目 次 提督︵笑︶ ││││││││││
提督︵笑︶と妹とその曾孫 │││
提督︵笑︶あれから、これから │
提督︵笑︶と駆逐艦 ││││││
提督︵笑︶と曙と漣 ││││││
30
提督︵笑︶と航空戦艦 │││││
提督︵笑︶は農業をしたい │││
提督︵笑︶と旗を立てし者 │││
提督︵笑︶と大将閣下 │││││
提督︵笑︶の武勇伝 ││││││
提督︵笑︶とお見合い │││││
44
提 督︵笑︶と 提 督 が 愛 し た 艦︵笑︶ 61
92
143 125
提 督︵笑︶と 提 督 た ち と 時 々 お 艦 提督︵笑︶とめろんタイム │││
76
109
346 331 315 300 284 267 252 238 222 204 188 173 159
│
提督︵笑︶とベストパートナー │
提督︵笑︶と大淀と ││││││
提督︵笑︶と天龍の剣 │││││
提督︵笑︶と問題と ││││││
提督︵笑︶と駆逐艦2 │││││
提督︵笑︶頑張ります。 ││││
提督︵笑︶と父と娘と │││││
提督︵笑︶とそれぞれの夜 │││
提督︵笑︶と似た者同士 ││││
提督︵笑︶と混沌と ││││││
提督︵笑︶は向き合います。 ││
提督︵笑︶の艦これ ││││││
提督︵笑︶の戦いはこれからだ │
582 566 548 530 508 488 472 455 439 422 404 384 367
提督︵笑︶の艦隊 │││││││
600
提督︵笑︶
﹁浸水、傾斜止まりません
﹂
この二度目のろくでもない人生を思い返せば始まりは唐突だった。
俺の腹部を貫いて壁に刺さる鉄骨を見下ろしながら呟く。
﹁⋮死んだな。これは﹂
││心拍数低下。腹部損傷甚大。直ちに医療機関にて治療を施すことを提言します。
﹁⋮総員退艦だ﹂
阿鼻叫喚とはまさにこのことか。艦橋でこの有様では他も大して変わらないだろう。
﹁後部甲板の火災勢い強く⋮﹂
!!
1
﹁おっし、あ号が終わった⋮。ろ号は今週は無理そうだな。さ、寝よ寝よ﹂
そんな呟きのあと起動していたブラウザを閉じようとした時に、その異変は起こっ
た。
いや異変が起こったというよりもそれを感知する暇もなかったというのが正しいか。
なんせ、瞬きした、ほんのコンマ何秒かの間にPCの画面が消え、でかでかとした日
章旗を背景に﹃大艦巨砲主義﹄と書かれた特攻服を着たリーゼント頭のおっさんが飛び
込んできたんだからな。
﹂
﹁日本がやばい救ってくれ﹂
﹁は
の体が光の粒子となって消えていくことに唖然。
そんなセリフの時点で大丈夫じゃないと言いたいわけだがそんな暇もなく徐々に己
﹁大丈夫だ。問題ない﹂
当然、こちらはクエスチョンマークだ。
特攻服+リーゼントなおっさんが開口一番それ。
?
﹁俺の考えた最強を準備した﹂
提督(笑)
2
どや顔のおっさんに結局、何も言えないまま意識が暗転。
次に意識が戻った時には赤ん坊というね。
で、悟った。いわゆる転生ですねってな具合に。
あれが神だったのか悪魔だったのか知らんがとにかく状況把握だ。
奴は日本を救えといったのだから場所は日本か、もしくは日本に関わりが深い場所の
はず。
││現在地は大日本帝国群馬県です。
頭の中に響く電子の歌姫の声。
﹂
││各システム、リンク100%完了。
﹁あう
これが落ち着いていられるか
なんぞこれ
!
﹂
││私は情報集積体で名前はまだありません。
!?
││脈拍、心拍数に異常が見られます。精神安定に努めることを推奨。
?
││声を出さずとも意思疎通は可能です。
あかん、赤ん坊だからまともに声でない。
﹁ふぁあ
!
3
提督(笑)
4
いろいろ追い付かないから待ってちょうだい。
いや、そうじゃない。それはありがたいけどそうじゃない
待って、待って
俺に整理する時間をちょうだい
おうけー。まず転生したこれはいいね
││肯定します
場所はグンマー県ね。
で、大日本帝国って何なのさ
││群馬県です
!
頃まで公式に使用され一般には1889年︵明治22年︶の
待って待ってそういうことじゃなくてさ、あー、今西暦何年
││1898年5月○日午後3時10分
それじゃあ、君は何なのさ
あなたの頭の一部を間借りさせていただき、情報面で貴方にできる限りのサポートさ
││私は情報集積体で名前はまだありません。かみ砕いていうと超すごいAIです。
?
か。その年にタイムスリップしとるのか。おうけーおうけー。
お、おう装甲巡洋艦の浅間が進水した年というより米西戦争の年と言った方がいい
?
││日本国の国号呼称の一つ。江戸時代末期に外交文書に使用され始め、1946年
!
?
!
!
5
せていただきます。
なんか一部聞き捨てならないこと言ってる気がするが、一先ず置いておくとして要は
インターネット検索みたいなものが使える感じ
どうすればいいんだ
おうけー。細かいところはとりあえず後にして、で、本題なんだけど日本を救えって
││簡潔に述べるのであればその認識でも問題ありません。
?
そうなると関東大震災の被害をどうにか軽減させるように動くくらいか。それだっ
ことないわ。海軍兵学校へ入ったとして観戦武官にくっついていけたりとか⋮ないな。
日露戦争も同じだ。WW1の時だって終結ころにようやく20歳位だろ何もできる
は伊藤博文の暗殺も10歳位じゃ防げないし、
つまり、自分で考えて歴史を変えろってことかよ、てか、1898年生まれってこと
せん。
日本を救う方法は貴方に委ねられているため現段階での回答を持ち合わせておりま
すと貴方の世界と同じ歴史を歩みます。
││ベータはいません。このまま貴方が何も起こさないと仮定して、時代が推移しま
おいおいまさかベータがいる世界とかじゃないよね、詰んでるよそれ。
ていうかこの世界どんな世界なのかもわからんしな⋮。
?
提督(笑)
6
て日本を救うってことにならんだろう。
ていうか薄々気付いてはいるんだが、やっぱり太平洋戦争だよな⋮。日本がやばいっ
てこの時代それしかなくね
ロー。物量チートの米国さん相手にどうにかしろってことですか
とんだムリゲーだ。
我輩もちと疲れたぞ⋮。しばらく、寝るっ
││おやすみなさい。
からやめた。
本当はミッキーのほうが語呂いいんだろうが夢売り王国の巨大ネズミと同じ名前だ
キーとぐぐれ先生からとって。
名前がないって言ってたからミック先生と名づけよう。電子の歌姫の名前とウィッ
どうでもいいけど最強を用意したのってこの超すごいAIのことなのかな。
!
?
ああ⋮国力差10倍、月刊正規空母、週刊軽空母 どこのデ○ゴスティーニだバー
だし⋮、
となると満州事変に海軍軍縮に五・一五事件と⋮まぁ阻止せねばならないこと山積み
?
7
そんなこんなで紆余曲折あったわけで俺は二度目の人生超頑張って生きた。ミック
と何度思ったことか。それでもまぁ、
先生が超優秀でだいぶ助けられたけども。
むしろ優秀過ぎて俺いらないのでは
らせることができたかなぁ⋮。
軍上層部の連中はどいつもこいつも頭硬くて⋮今考えてもムカムカしてくるわ
だいたい、こんな無茶な作戦考えやがって普通に死ぬわ
なくなるほど熱くなりすぎるね。
この時代来て分かったけど、民衆は良く言えば愛国心が強い、悪く言えば回りが見え
れでも史実より大分マシな状態での開戦。
最後まで開戦回避するようにも駆け回った。それが無駄になってしまったけどもそ
!
!
時には札束でビンタして政治家動かしたり、陸軍海軍の仲を改善⋮ちょっとは歩み寄
はもう寝る間も惜しんで超頑張った。
金集めたり、人集めたり、育てたり、技術向上させたり、食料自給率上げたり、それ
?
マスコミが煽って民衆も手が付けられなくなって⋮。まぁ、そうなるな。
あと人種差別がパネェわ。アメさん本当に日本と戦争したかったんじゃねと思われ
る節も結構あったしなぁ。
結局、史実通りにハワイの真珠湾奇襲から始まり今、天一号で沖縄近海、お船の上で
俺氏瀕死。
笑えないね⋮。
それでも各海戦での被害を減らしながら、今日に至っているんだ。
ああ⋮しかし、今回の海戦は甚大な被害が出たろうな⋮味方も⋮敵も⋮。
これでどうにか講和までこぎ着けられなければ日本全土が焼け野原かなぁ⋮。
もう、この体じゃどうにもできん、あとは祈るのみ⋮。
﹁儘ならんもの⋮だな﹂
﹁靖国までお供します﹂
独り言をつぶやいたつもりだったが聞かれていたらしい。
﹁主計。君は退艦しなよ⋮まだ若いんだ⋮﹂
﹂
!
戦乙女って美人さんが迎えに来てくれるそうだ﹂
﹁最後の命令だ主計。退艦しろ。あと俺は靖国には逝かんよ。欧州では勇敢な戦士には
﹁ですが⋮
提督(笑)
8
﹁な、なにを﹂
﹂
!
そろなんだろう。
これでまだよく生きてられるなと思いつつも眠気と寒気が襲ってきているからそろ
脱出していった部下を見送り艦橋に一人。
最後まで愚図っていたが何とか納得してくれて、わんわん泣きながら最後に敬礼して
﹁⋮失礼します
﹁じゃあ、頼んだよ。さぁもう行きたまえ﹂
﹁分かりました。⋮お預かりします﹂
内ポケットから取り出したお守りを部下に差し出す。あと腰に差した刀も。
﹁あぁ、主計、此れを妹に返してくれないか。頼むよ﹂
ミック先生が教えてくれた。
寡黙で無愛想っていうのが⋮。
あのリーゼント曰くぼくのかんがえたさいきょうのていとく像らしいよ、
普段は表情筋と言語数が著しく低下している。俺を転生させた奴のせいで。
死ぬ間際にようやく饒舌になれた。
ね。戦乙女が宿ってると思うんだ﹂
﹁俺は男所帯の靖国より美人がいるヴァルハラにするよ。幸い金剛は英国生まれだから
9
結局、日本を救うことは出来たんだろうか
ソ連の南下に備えて北方に捻じ込んだ長門と陸奥は仕事してくれるだろうか
れたかな
敵さんの主力艦隊には大打撃を与えることはできた。大和は座礁して固定砲台にな
?
震える手で煙草に火をつけ最期の一服。
﹁少し疲れたな⋮。金剛、ヴァルハラまで頼むよ⋮﹂
まぁ、でもやれることはやったよ。もうゴールしてもいいよね。
こんな体じゃ助からないだろうから後日談は聞けないな。
日本将兵を撤退させられれば御の字だ。
いや、海軍戦力だけ考えたらソ連は日本の敵ではない。むしろ樺太やカムチャッカの
?
?
紫煙を肺から吐き出してゆっくりと瞼を閉じる。
これはもう、いよいよらしいな。
改造巫女服着てる美女の幻覚まで見えるようになった。
﹃⋮まか⋮せるネ﹄
提督(笑)
10
11
こうして俺の二度目の人生は幕を閉じることに⋮
⋮ならなかった。
の庭先で何故か佇む三度目
﹂
の人生が始まる。
!?
なんで実家
!?
桜舞う二回目の人生の実家。
﹁あるぇぇぇぇぇ
提督(笑)
12
?
提督︵笑︶と妹とその曾孫
ズラリとジャンル別に並べられた本棚にある一つの書物をパラパラとめくりふと考
える。
これを書いた人物は間違いなく天才いや鬼才だ。そして時代を一世紀生まれるのを
間違えたのではないかとも思う。
長野 壱業︵ながの かずなり︶
日本の海軍史上最強の戦術指揮官、アメリカ海軍が最も恐れた男、戦略を戦術で覆す
チート、電探水探いらず、何でも屋、etc
いろいろと言われた人物であり私が尊敬する人物の一人。
今の職が彼に憧れてなったといっても過言ではない。
そして曾祖伯父︵そうそはくふ︶、曽婆ちゃんのお兄さんでもある。
している知識量の多さ。
なんて言う言葉を使えばいいのだろうか、軍事関係だけではなくあらゆる分野に精通
本当に⋮﹂
﹁これなんかの応用技術が今も使われているし、こっちは今なら実現可能なものだし⋮。
13
提督(笑)と妹とその曾孫
14
そして日本が戦後歩むであろう将来について大まかではあるが書いてある彼の残し
た日記を見れば先見の明を伺うこともできる。
実際にこんな人物が約七十年前に生きていたというのが信じられないし、その血が私
にも少しは入っていると思うと高揚感に似たものも覚える。
そして考えてしまうのだ。彼なら今のこの状況を打開できるのではないかと。
深海棲艦と呼ばれる未知の化け物。奴らが突如として現れ世界中の海から人類の進
出を一掃した。
大規模反攻作戦が行われる度に多くの人の血が流れたが、無駄に終わっている。海洋
国家たる日本は資源の輸入が止まりジリ貧。
食料も多くを輸入に頼っていたから一部を除き配給制。
そもそもこちらの兵器が微々たるダメージしか与えられないのだから失敗は目に見
えていた。
しかし、それでもやらなければならなかったのだ。当時は完全に追い込まれていた。
奇しくも太平洋戦争に突入した日本と同じように⋮。
そうして負け戦を繰り返すうちに≪彼女たち≫は現れた。
そっと本を閉じ棚に収める、
﹁なにか⋮ないかと思ったけど無理か﹂
そもそも曾祖伯父のこの書斎に小さいころから出入りしていたのだ真新しいものな
どあるはずも無く、深海棲艦に何か有効な手立てがないかと一応は探してみた程度の
事。
も聞いてゆっくりするとしよう。
縁側で桜を見ながらお茶もいい。うん、そうしよう
││ピピピピ
と思った矢先に携帯端末から音が鳴る。
見れば職場からの通信である。
眉にしわが寄るのを自覚しつつ通話ボタンを押す。
﹁はい長野です﹂
ピクシーなんて隠語使っているが、そもそも隠語にすらなっていないじゃない。なら
﹃少佐、お休みの所申し訳ないですがピクシーが空間の歪みを観測しました﹄
!
まぁ、ないものは仕方ない。せっかく内陸のここまで来たんだし曽婆ちゃんの昔話で
﹁流石に壱業さんでも深海棲艦ってオカルトじみた物が出現するなんて思わないよね﹂
15
一層、妖精さんでいいだろうに⋮。
﹁そう。でもそれって軍令部が動くはずでは
⋮組織に染まったというべきかな
﹂
そんな無体なことを考えながらも口は別の言葉を発するのだから私もなかなか優秀
?
珍しいこともあるもんね。
よび泊地で観測されるのだけど。
よくわからないがそういうことらしい。通常は前大戦の日本にある有力な鎮守府お
やって来たということ。
この世界を観測していた別世界の人間が、こちらの世界の妖精さんの要請に応えて
妖精さ⋮n⋮ピクシー曰く﹁ヨンダラ、コタエタ﹂との事。
年間に数名。ある条件を満たす者が突如として現れる現象が数年前から始まった。
﹁はぁ、面倒くさいなぁもう﹂
保護というよりほぼ強制的な徴兵だと思うのだけど。
象との接触および説明と保護を。 と上からの指示であります﹄
﹃はい。何時もならそうなのですが⋮。観測点が内陸部で少佐のご実家付近との事。対
?
﹁分かりましたよ⋮じゃ﹂
﹃こちらからも人員を向かわせましたのでよろしくお願いします﹄
提督(笑)と妹とその曾孫
16
通話ボタンを切り、脳裏に思い浮かぶ映像⋮。
呼ばれてきた人間っていうのが⋮個性的というか⋮癖のある人間というか⋮
条件を満たす⋮≪彼女たち≫を指揮する素質を持っているのは確かなのだが⋮短期
間の士官教育の過程で潰れる事も多く彼らの今後の扱いに関して課題にもなっていた
りする。
そして大体が私を⋮いや、海軍に所属する私たち数少ない女性提督を見る目がアニメ
でも見ているような⋮好意的な視線ではあるのだけど⋮なんて言うか苦手だ。
死んだと思ったら二度目の人生での実家の庭。
とりあえず軍服に着替えて曽婆ちゃんに声かけて出かけるとしよう。
だろう﹂
﹁あっ細かい座標聞き忘れた⋮。まぁ近所で目立つ人間がいたら間違いなく⋮その人間
17
アルェェェ
先生っ
ナンデ
ミック先生
ループ
ループなのか
状況説明プリーズ
いや待て、まだ慌てるような時間じゃない
!
今までそんな事一回もなかったじゃナイデスカーー
││システムアップデート中⋮⋮3%⋮⋮
﹁⋮⋮﹂
なんですと
な ん で よ
ああ、体は大人のままか。ループじゃないのか⋮。
最後に見たのは4、5カ月前
ホ ワ イ 落 ち 着 け 俺 氏 ⋮。深 呼 吸 だ 深 呼 吸。あ と オ ン リ ー ワ ン の 数
を数えて1、2、3、ダーーー
あれ違うな⋮。
現実逃避気味につぶやく。
!!
?
舞い散る桜。あれ庭の桜ってこんなに大きかったか
!
!?
!
!?
?
!
だったが⋮。
!?
!
!?
!?
!
﹁⋮桜、きれいだな﹂
提督(笑)と妹とその曾孫
18
んん
なして第2種軍装なんて着てるん
?
兼光まで腰に差して正に皆がイメージする帝国海軍士官って恰好じゃないですか。
んだけど⋮。
最期の時は⋮、ってかしばらくは第三種軍装もしくは略衣って呼ばれてるやつ着てた
?
に死んでたから⋮。
兄様
え
嘘だろ
?
﹂
再び、婆ちゃんが口を開く。んん
?
﹁⋮兄様
?
?
﹁⋮文乃︵ふみの︶﹂
つまりは⋮
ているわけで、
兄様と呼ばれるってことはこの婆ちゃんが呆けていない限り俺のことを兄だと思っ
?
うん。ワケワカメ。俺今回の人生で婆ちゃん見たことないんだけど⋮。生まれる前
ポロポロと皺の刻まれた頬を流れる涙。
ているのだが⋮、 縁側に座る老婆の姿。老婆といえど背はきちっと伸びているし、髪もフサフサに残っ
でした﹂
﹁⋮あぁ。⋮あぁ⋮お迎えは兄様︵あにさま︶ですか⋮。おかえりなさいませ⋮ご苦労様
19
﹁はい兄様﹂
涙を浮かべ嬉しそうに俺を見る婆ちゃん。いや⋮妹⋮。
なんだろうか、このやるせない気持ちは。あんなに可愛かった妹が絶対に嫁にはやら
んと親父殿と協定を結んだあの可憐な乙女が⋮。
いや、今でも笑った時に愛嬌があるけれども⋮、それでも最後に見た20半ばの姿か
らだとショックがでかいというか⋮、
とぅってもとっても⋮。
﹂
それなら一服してください。どうぞこちらに﹂
お。おう。回線が重いんですかね⋮。どんな回線使ってるか知らんけど⋮。
?
兼光を外して縁側へと置き、自分も腰掛ける。
ミック先生しばらく応答なさそうなんで、そうさせてもらいますわ。
ああ、そうね。
?
﹁⋮老けたな﹂
ほんまにわけわからんのだが⋮。
﹁兄様は若返りましたね⋮私もそっちの世界では若い姿になれるんでしょうか
ああ、うん。どういうことだろうか
ミック先生
?
││システムアップデート中⋮⋮3%⋮⋮
!!
﹁まだ時間があるのでしょうか
提督(笑)と妹とその曾孫
20
ええ天気やで⋮。
平成の
庭の桜も満開で少し小高い丘の上に建っている我が家は見晴らしもよくて、田植え前
だから寂しくもあるが田園風景が広がり⋮
遠くに幹線道路やビル群や工場が⋮。
家の前を走る道を軽トラが一台⋮。
﹁⋮⋮﹂
﹂
その対向車線をSUVが⋮。
﹁⋮⋮はい
﹂
あぁ
!
﹁どうかされましたか兄様
ものすごく懐かしい見慣れた風景とでもいえばいいのだろうか
﹂
世を感じさせるって奴だ
﹁今は何年だ
!
まじか
って事は元の時代に戻った
しているのはおかしいぞ
いや待て、それだと文乃が壱業と俺を認識
!?
﹁ひぃばぁ
ちょっと仕事になっちゃたから⋮って随分お迎えが早いわね﹂
壱業として未来へとタイムスリップって事なの⋮か。
?
!?
﹁⋮兄様。昭和は六四年で終りまして⋮。その今は平成という年号に変わって⋮﹂
?
?
?
?
21
!
そんな声とともに家の奥から白い軍服姿のおぜうさん。
亜麻色の髪を後ろで束ね、整った顔の造形に切れ長の緑色の瞳がとても印象的だ。
業界ではご褒美になりえる冷たさを醸し出しているかもしれないとても美人さんで
ある。カラーコンタクトに軍服⋮コスプレか
?
﹂
﹂
ソイツは私を迎えに⋮えーと、えっとあなた名前は⋮あれ 旧
﹁あぁ百合恵。最期に会えてよかったよ。嬉しい事に兄様が迎えに来てくれたんだよ﹂
⋮あっ転移⋮いっ
﹁なにいってんの
海軍服
﹂
迎えとはなんぞや
﹁ん
なんでひぃばぁ怒ってるの
﹁百合恵﹂
﹁ちょ
!?
?
﹁口答えしない
﹂
﹁いや、だって⋮その人が﹂
﹁大体⋮貴女はね⋮﹂
問答無用で文乃が美人さんに対して説教を始めた。俺氏、置いてきぼりです。
﹁あ、はい﹂
!?
?
?
?
!?
﹁正座﹂
提督(笑)と妹とその曾孫
22
!
?
ああ、うん、歳とって貫禄でたんですね。口挟めるような雰囲気じゃないけど、聞き
たいことあるから敢えてそこに突っ込む俺クオリティ
しれない⋮笑えない。
うちのひぃばぁになんて口きいてんのアンタ
﹁文乃。その辺にしなさい﹂
﹁はぁ
じゃ知らないけどね、この世界で長野を敵に回して生きていけると思わない事ね
﹂
コ
何 で い き な り デ ィ ス ら れ る ん 俺。な ん か 気 に 障 る こ と
?
スプレ野郎っ
え、え え え え え え え
言った
!?
!
がいなければ何もできない小物と存じております。
﹁⋮⋮﹂
つ ま り 俺 に 背 を 向 け て 美 人 さ ん と 正 座 で 対 面 し て い る か ら 俺 と の 間 に フ ァ イ ア ー
気のせいかな、わが妹の背後に炎が見える。
﹁百合恵⋮アンタこそ誰に向かって口を利いてるんだい
﹂
確かに選ばれた人間ではあるけれども⋮。増長なんてしてません、むしろミック先生
?
!
!
!?
だとか大層なこと思って増長してんだろうけど舐めんじゃないわよ
アンタの世界
大方、自分は選ばれた人間
空気読めない奴ともいう。こういうところが軍令部とか大本営に嫌われた理由かも
!
!?
?
23
ウォールです。
炎の向こうの美人さんが青ざめてるんだから、わが妹は見るも恐ろしい相当いいお顔
になっているんでしょう。
どうしたもんでしょうコレ。
﹁ごめんなさい⋮ごめんなさい⋮えっぐ⋮ごめんなさい﹂
俺の前で土下座している美人さん。
ほんと、どうしよコレ
﹁頭をあげなよ﹂
?
ああもっと柔らかい言い方出来ないんだろうか、おっちゃん許す超許しちゃうよ
!
提督(笑)と妹とその曾孫
24
むしろ最初から怒ってすらいないからね
﹂
な設定入れやがってあのリーゼントめ。
﹁許してくれるの
死ぬ間際はもう少し喋れたのにな。変
!
﹂
あ、せっかく泣きやんだのに⋮
﹁百合恵﹂
﹁ひぃ
﹁文乃﹂
妹よ⋮、なんでそんなに怒っているんだい
しか言わないし⋮。
﹂
﹁兄様、あとどれくらい時間はありましょうか
﹁時間
?
ミック先生は全く数字動いてないから何かやるにしてもアプデが終わるまで動けな
?
﹂
聞きたいことがいっぱいありすぎて⋮。ミック先生は相変わらずナウローディング
﹁さて、どうしたものか﹂
いや、名前呼んだだけだけど⋮まぁいいか。
?
!?
﹁兄様がいいのであればもう何も言いません﹂
兄ちゃん分からないよ⋮。
その上目使いだけでも世の男は大抵のことを許す。俺が保証する。
?
25
いから夜通し語ることもできちゃうよ
俺はあんま喋らないけども⋮。
あ、これ、俺を死神だと思ってるパターンなんじゃ
﹁できれば最期の挨拶を家族や知人にしたく⋮﹂
﹂
﹁⋮俺は生きてるようだぞ﹂
﹁え
ほら、お手手ぎゅってしてあげる。温かいだろ
?
?
﹂
﹂
﹁船で死んだと思ったら庭先にいたのだ﹂
﹁え
⋮多分な。確信は持てないとこが悲しい。ミック先生はよ。
﹁文乃を迎えに来たわけじゃない﹂
?
?
?
?
﹁あ。あの﹂
ゆりえちゃんって言ってたっけ
﹁なんだ⋮名は⋮﹂
﹁長野百合恵です。本当はユーリエと読むらしいですけど﹂
?
まぁ俺でもその立場なら同じ反応すると思うけど、それしか言いようがないんだ。
﹁はい
提督(笑)と妹とその曾孫
26
﹁独語か⋮良い名だ﹂
英語圏ならジュリア。ふふ、ミック先生が居なくともこれくらいは知っている。
というかWW1の敗戦でめちゃくちゃになってたドイツから失業した工員や技術者
なんかとその家族を数百人移住させたからだけど。
であるとも分かってはいるんですが⋮﹂
俺の事言ってたんだ⋮、ファイアーウォールで聞こえんかったわ。
えっと文乃の事を曽婆と呼んでたから文乃の曾孫で俺からするとなんて言うの
ミック先生
デスヨネ⋮
てか、どんだけ重いものアプデしてんだよ⋮。全然進んでないじゃん
?
?
││システムアップデート中⋮⋮3%⋮⋮
!
いえ、疑ってるわけではなく今はお顔を拝見させていただけば数少ない写真と同じ
﹁あ、えっと、お説教中にも散々ひぃばぁがいってましたが⋮その本当に壱業さんですか
﹁⋮⋮﹂
なるほど。それでその髪色と瞳の色か、コスプレだと思ってゴメン。
﹁いえ、クウォーターです。母がハーフで⋮﹂
﹁ハーフか﹂
﹁え、あ、はい。どうも﹂
27
!
⋮。
﹁そうだな﹂
﹂
もっとも証明するのは難しいんだよな。身分証明書なんて持ち歩いてないし。
﹁⋮⋮兼光
あれ、俺が持っているってことは主計に頼んだ方はどうなったの
家に代々伝わる家宝の日本刀。その昔、越後の軍神さんから頂いたそうだ。
何故か差していた刀、
﹁あぁ、最期の時は無かったものだが﹂
俺の傍らに置いている刀を見てつぶやくユーリエさん。
?
見える。
﹁見せていただいてもよろしいですか
﹁⋮よく斬れる。気を付けなよ﹂
?
まぁよく見てもどっちが本物偽物って俺には分かりませんけどね
そういって持ってきた刀と俺の持ってた刀を見比べている。
﹁存じてます﹂
﹂
と言って席を立ったがすぐに戻ってくる。その手には日本刀。兼光とおなじ揃えに
﹁ちょっと待っててください﹂
?
!
提督(笑)と妹とその曾孫
28
﹂
﹁両方本物⋮刃紋も反りも何もかも一緒。⋮なるほどね﹂
﹁どういうことだ
それってまさか⋮
?
現代↓過去↓艦これ世界↑今ココということらしい、本当にありがとうございます。
どう見てもイ級なんですが⋮。
携帯よりは大きいけどタブレットよりは小さい端末に映像が流れている。
﹁ええ、見てもらったほうが早いですね⋮これを﹂
だと
﹁⋮⋮深海棲艦﹂
物に海を支配されています﹂
﹁まず、今は壱業さんの最期から70年経っています。そして深海棲艦と呼ばれる化け
﹁⋮ああ﹂
りますので一から話しますね﹂
﹁えっと⋮にわかに信じられないでしょうが、いろいろ説明しなくてはならない事があ
?
29
提督︵笑︶あれから、これから
﹁⋮という感じなんですが、大丈夫ですか﹂
場所を書斎に移して、現状説明を受けております。
﹁ああ。大丈夫だ﹂
妹の文乃は席を外してもらっております。軍機に抵触するかもとの事です。
アレェ、俺はいいのかな
現在、近海の防衛だけで手一杯との事です。
突如現れて、世界中のシーレーンが破壊されてやばいって事だ。
われてないからな。
まぁ長々と説明してくれたが、深海棲艦に関して要約すればゲームと同じことしか言
?
ああ、それね。リーゼントのせいだわ絶対
今回はそれの変則という形で壱業さんが選ばれたのだと推測出来ます﹂
者 が 突 然 現 れ る と い う 現 象 が 起 こ る よ う に な り ま し た。頻 度 は 年 に 多 く て 三 回 ほ ど。
﹁数年前、深海棲艦が現れ始めて少し経ってから日本の各地でこの国の戸籍を持たない
!
﹁それで、壱業さんがこの時代に来た現象についてなんですが⋮﹂
提督(笑)あれから、これから
30
え、俺のほかに転移組が
﹂
というか⋮
!?
ただの紳士だ
ってことは一緒に駆逐艦を愛でる会を作れる可能性が
い
!
﹁⋮なんだい
﹂
憲兵さんは呼ばないでね
?
わかります。
!
待て俺はロリコンじゃな
﹁⋮肉体的にピークを迎える十代後半から20代前半の姿になるのと⋮ある⋮素質が⋮
無言で力強く頷く。
﹁⋮⋮﹂
紳士という名の変態ですね
﹁こちらの世界に来た人には特徴がありまして⋮﹂
!
どこか探るような緑色の瞳が俺に突き刺さっている。
﹁⋮あの﹂
そんな目で見てくれるなユーリエちゃん。
!
!?
となので⋮﹂
﹁はい。通常は彼ら曰く、この私たちの世界を観測していた別の世界から来たというこ
とはなんぞや。
﹁変則
?
31
あって⋮ですね⋮﹂
え、俺若返ってるの
思わず刀抜いて刀身で確認しちゃった。
労と肩こりが酷かったもんな⋮それがない。
?
﹁ええ、もう一つは特殊な艦隊の指揮能力です﹂
仮にも最後は海軍少将。二階級特進は少将じゃしないんだっけか
に毛が生えた程度の指揮する自信あるよ
?
上からは嫌われてたからなぁ。悲しいわぁ。まぁとにかく、ミック先生が居れば凡人
中将とかに⋮なってないだろうな。
一階級特進で
道理で体調がすこぶるいいわけだ。ここのところ不摂生と煙草と睡眠不足で慢性疲
二十歳そこそこくらいかな。
﹁⋮若い﹂
!?
﹁⋮そうなのか﹂
いると思うんです﹂
そんな能力を持ってこの世界にやってくるのですが⋮、恐らく壱業さんにも備わって
身につくという事案は確認されていません。
隊指揮能力とはある⋮兵器を取り扱う資格⋮、いえ能力であって、後天的にこの能力が
﹁あの、恐らく今、通常の艦隊指揮の事を想像されていると思うのですが、ここでいう艦
提督(笑)あれから、これから
32
ISに乗れたりとかそういう事なの
あれ艦娘は
?
?
超兵器使える奴はとりあえず海軍なっ
いな。
あれ、ミック先生いなくても結構いい線で予測できてんじゃね
﹁⋮また海軍の所属になってしまいます⋮⋮﹂
﹂
何故かそう言って俯く彼女。
﹁何か問題かい
だろうか。
﹁だって 散々、作戦や戦略を提案しても軍令部に無視されてきたじゃないですか
!
もしかして能力がなかったりして海軍追い出されたら実家でニートさせてくれない
?
?
そして、その超兵器が艦娘に当たるんだろう。もしかしたら機密扱いなのかもしれな
の年齢で適性試験受けさせられてんだろうな。
ってな具合なんだろう。最初の頃は全国で一斉に行ったんだろうけど、今は多分一定
!
ふむふむ。なるほど。特例海軍人事法ってのは恐らく深海棲艦が暴れてやべぇから
ば任官という形になるんですが⋮﹂
﹁それでですね、特例海軍人事法に基づき、士官教育課程を受けていただき、問題なけれ
33
!
しかも、苛烈を極める前線には何時も駆り出されて、どうにか被害を減らしながら
最期はあんなにも無謀な作戦で命と引き換えに大戦果
戦って、局地的勝利を得ながらも上は全く評価しなかった、むしろ非難することまで
あったそうじゃないですか
を挙げたのに⋮、
!
⋮もしあったら絶対見ないぞ
楽しかった。
それなりに出世もした、実家でやってた商売で大儲けして規模を大きくしていくのは
ない。一応は海軍少将だしな、最後は作戦の一部採用されたし。
まぁ彼女の言ってることもあながち間違いではないけど全然報われてないとも言え
!
キーさんに載ってたりするんだろうか。
一応、親戚だけど、それにしても随分と詳しく知ってるようだね。もしかしてウィッ
ちなみに俺のやる気スイッチは下半身にある14cm単装砲です。
お、おう。一気に捲し立てられた。この娘、急にスイッチ入るよね。
⋮﹂
戦犯として⋮裁かれて、全然報われてない ⋮そんな貴方にまた海軍に入れなんて
!
あ、今、長野商会は残ってるんだろうか、そもそも俺の死んだ後ってどんな歴史歩ん
だんだ
?
提督(笑)あれから、これから
34
ドゥーリトルを阻止から各海戦の日付も微妙にずれてたり、史実にない小規模な海戦
もあったり、坊ノ岬沖海戦なんて4月だったのが8月になったからな。
いやぁ最期の作戦はもう二度とやりたくないね。大和たち第二艦隊より先に呉から
出て南進して息を潜め、台風とともに北上。まさに神風アタック。
ほんとはあと何隻か連れていく予定だったけど補給が間に合わず置いてきた。彼ら
て思ったもの。
はあの高波︵駆逐艦にあらず︶のエンドレス強襲を受けずにすんだのは幸運だったので
はないか。やっべ戦闘前に海兵が船酔いで全滅するかもっ
﹁俺が死んだ後、この国はどうなったんだい
講和はなったかい
﹂
実際、駆逐艦一隻、航路見失って艦隊から迷子になったし、それくらい酷かった。
!
?
﹁え﹂
﹁講和はどんな内容だい
?
天皇制存続、ただし連合国側主体の民主化、元の世界の日本と同じ領土+北方領土以
﹁えぇ⋮っと⋮﹂
﹂
﹁なら、報われたじゃないか﹂
﹁⋮そ、それは、その一応は、はい﹂
な。
そうそう、戦犯で裁かれたって言ってたけど、まぁスケープゴートにされたんだろう
?
35
外の支配地域無償返還および即時撤退。
連合国軍の駐屯を認める事。日本軍の軍備制限。新兵器開発の際、その技術を連合軍
側に公開すること。
連合国の指定する人物の連合国主導の軍事裁判。
大まかにいうとこんな感じらしい。
彼女が言い淀んでいたのは事実上敗北で何も残らなかったかららしい。
元の史実知らないんじゃ当たり前だけど、無条件降伏じゃないし、軍が残ったし、航
空機開発許されてるし、北方の島と沖縄もある。史実よりマシだろ。
﹁⋮講和なったか﹂
﹁
いや、最悪、無条件降伏まで考えていた﹂
﹁⋮そうですか﹂
?
!
一応、目標達成できた。得たものは戦争の悲惨さを知ることのみ。
史実よりはマシな終わり方だ。救えたとは言えたものじゃないけど。ミック先生
俺、頑張ったよ
⋮ああ、そうっすか。
││システムアップデート中⋮⋮4%⋮⋮
!
﹁戦犯として⋮その、怒りを覚えたりとか﹂
提督(笑)あれから、これから
36
﹁何かあるのか
﹂
引っかかる言い方するね。
?
絶対だぞ
彼らの派閥の中心だった貴方に報いるために﹂
﹂
あいつらェ⋮。
﹁なに
散々、俺が死んだ後は何もするなよ
のに
!
﹂
?
と。
?
んで、いつの間にか同期の派閥っぽいのが出来てた。それが出来ると他の人も集まっ
前らニューヨーク見てこいって自腹きって旅行させたりしたら、なんか懐かれた。
ミック先生の隙のないお言葉を借りてぐうの音も出ないほど言い負かした。あと、お
たいな思想だったから、それは視野が狭量じゃね
非常に絆が強いのだけど、エリート意識も非常に強く、自分たちがいれば戦争勝つるみ
言い訳すると俺は派閥なんて作るつもりは無かった。海軍学校の同期っていうのは
﹁当たり前だ。犠牲は少ないほうがいい﹂
たと
﹁ひいばぁが説得して、どうにか収まったらしいですけど⋮。壱業さんはそれで良かっ
?
?
!
って言ったのに、振りじゃねぇ
﹁講和条件が不服ということで一部の将校が蜂起しようとしていた事件がありまして。
37
てくるわけで、どうせ無駄になる朝鮮半島の投機は最低限に留め国内に回し、併合を何
とか独立へもっていけないかと右往左往してた時期にまさか自分が五・一五の首謀者と
して担ぎ出されそうになるとは思わなかった。
事件自体は起こらなかったのだが計画があったのを知ったときは超焦った。
朝鮮に流れる金が東北に回る事にもなって大規模な農地改革もうちの会社を通して
始めたし、そもそもの世界恐慌の煽りで倒産しそうな会社には資本投資したりしていた
あれ見られたのか
ミック先生がいるから本当は必要なかったのだが、自分の頭を
整理するために未来の出来事を大雑把に書いておいた。
!?
ノストラダムスの大予言風に⋮。
﹁⋮そうか﹂
?
ので国内不況は史実ほどひどくはなかった点が諦めさせることができた要因だろう。
あれ、でもそのせいで上に情報が洩れて、睨まれて煙たがれてたんじゃね
おうっなんてこったい。いや、もうそんな事はどうでもいい、それより
﹂
?
﹁大体は壱業さんの書いた日記の予想通りです﹂
﹁戦後は
提督(笑)あれから、これから
38
黒歴史は触れないことにして目を瞑って考える。他にもアレ、ページ余ったからあと
で妹にでも歌わせようと21世紀のラブソングをその当時の言葉風にして書いたりと
かしてたんだけど⋮ご丁寧に楽譜まで書いて⋮。
ああ、目開けると泣いちゃいそうだ そっちのことは考えるな。あと何か聞くこと
あるかなぁと。
くない
どうでもいいことだけど、まんしゅうって何だか響︵駆逐艦にあらず︶きが、やらし
あ、ちなみに満州事変と海軍軍縮条約はどうにもならなかった。
!
私が声を荒げても、
ああ、この人は自分の事なんてどうでもいいんだ。
?
﹁⋮講和なったか﹂
何でもないように、ただただ穏やかにそう言った。
﹁なら報われたじゃないか﹂
39
少しだけ緩んだ頬。
﹁当たり前だ。犠牲は少ないほうがいい﹂
国を想い、人を想い、たとえ自分が犠牲になっても、どんなに理不尽な扱いを受けて
も、十全を尽くし全うしてしまうのだろう。
多分、軍人としてなら正しいのだろう、
壱業さんは生涯独身だった。死に別れたのか自分が軍人だから未亡人を作らないた
とても愛した人がいたのだ。
い話が多くあったらしいが、全て断っていたのだという。
当時はお見合い結婚が当たり前で、長野の家柄も商売で儲けた資産も合わせれば見合
彼の若い頃を知る人からも話を聞いたことがある。女学生の憧れの的だったと。
母は嫁いで来たときに教えてもらい涙したという。
ひぃばぁが、おばぁが、母がそして私。長野家の女は皆この歌を歌える。
でも、日記に書かれた悲恋の歌。私は知っている。知ってしまった。
いない。
きっと今の自分の立ち位置を理解して、またこの国の為にできることを考えてるに違
静かにそう呟いて何かを考えるように目を瞑った彼。
﹁⋮そうか﹂
提督(笑)あれから、これから
40
41
めにその人を諦めたのか知らない。
きっと大きな戦争になる事を昔から予想していたのだろう。彼は愛を捨て感情をす
り減らして帝国海軍の軍人として駆けた。
それが悪いとは言わない、いや言えない。
今があるのは壱業さんをはじめ多くの先人たちが文字通り必死になって掴んでくれ
たおかげだから。
だけど、もういいではないか。貴方は十分国に尽くした。
自分が幸せになることを願ってもいい番です。
これはきっと頑張った貴方に神様が与えてくれたご褒美なんだ。
私はそう思います。
貴方はきっと進んで海軍に入るのでしょう。
だから私にできることは貴方の力になり、貴方が幸せになれるようお手伝いさせてい
ただくことです。
しばらくして落ち着いて目を開けたら、なんかめっちゃ真剣な目で見られているんだ
けど
﹂
?
恐る恐る、といっても全く表情変わって無いのだろうけど声をかける。
﹁これからどうなる
ま、まぁ今後の予定でも聞いておくか。
?
﹂
?
ミック先生がアプデ中だからペーパーテストとかやべぇかも⋮。
﹁また⋮学校か﹂
﹁そうです。そこで短期間士官教育を受けてもらい、適性があれば任官という形です﹂
江田島とは広島湾にある島である。
﹁江田島⋮海軍学校か
ら、安心してください﹂
﹁明日、横須賀に行き、そこから船で江田島ですね。細かい手続きはこちらでしますか
提督(笑)あれから、これから
42
まって
俺金持ってないんだけど
!
ちょ、ちょ待ってください。
と言うとユーリエちゃんは俺の腕をつかんで立ち上がった。
買い物に行きましょう﹂
﹁見た目は問題ないですけどね。あ、いろいろ準備しなくちゃいけませんね。壱業さん、
43
!
ミッドウェー海戦に猛反対して第四艦隊に左遷。
○扱い辛い士官代表
る。
あとすごい金持ちだった。現、世界に名立たる長野グループの礎を作った人でもあ
写真︵40代の頃︶を見ての通り若かった頃はイケメソと推測される。︵外部リンク︶
アメリカ海軍がもっとも恐れた男の二つ名が映画の影響で有名。
日本海軍きってのチート・オブ・チート。
概要
1945年に坊ノ岬沖海戦にて戦死。
日本の海軍軍人。海軍兵学校44期生。最終階級は海軍少将。
年︵昭和20年︶8月19日︶は、
長野 壱業︵ながの かずなり 1898年︵明治31年︶5月○日 │ 1945
長野壱業
提督︵笑︶と駆逐艦
提督(笑)と駆逐艦
44
45
ドゥーリトル空襲を読んで敵空母を沈めた実績がなかったら首が物理的に飛んでた
かもしれない。
それぐらいに痛烈に軍令部を批判した。
一緒に飛ばされた上官に代わり艦隊指揮を執っていた。基本的に第四艦隊は南洋諸
島付近の警備が任務なのだが、舵が効かなかった、たまたま通りがかった、輸送任務の
途中と言い訳してミッドウェー海戦に参戦している。
○潜水艦は必ず沈める慈悲はない。
当時日米ともに対潜ソナーはさほど性能が良くなかったにも関わらず、
この人の指揮下では敵潜水艦の多くが沈められている。
○軍艦の性能と数が、戦力の決定的差でない事を教えてやる。
ミッドウェー以降大規模な南方海戦のほとんどに参加している。
そして味方を逃がすためにだいたい殿を務めて生還している。
○デュエルしろよ
坊ノ岬沖海戦では戦艦大和率いる艦隊を囮として敵の目を欺き、
別動隊を率いて台風とともに敵艦隊に突っ込んで強制的に艦隊決戦を強いた。
後に最強の寄せ集め艦隊といわれる。
最期の戦では戦艦でドリフトしたという逸話も残っている。
なんぞこれ
てドギマギして、俺の単装砲が暴発してまうやろ。
俺の持つ端末を覗き込むように体を密着させて端末を操作する彼女。距離感近すぎ
﹁そっちじゃなくて、こちらのサイトのほうが詳しく載ってますよ﹂
運転席の運転手さんとルームミラー越しに時々、目が合う。
出てくるときにいつかもらったお守りを妹にまた渡された、物持ちのいいことだ。
横須賀へ。もうすぐ着くらしいよ。
現在、車で横須賀へ移動中です。昨日は実家で過ごし今日は妹との別れを惜しみつつ
ユーリエさんの端末借りて。
ウ ィ ッ キ ー さ ん 見 る の が 怖 い か ら ニ ヤ ニ ヤ 大 百 科 の ほ う を 流 し 読 み し た わ け だ が、
?
これくらいできたと思うよ本当に。
ミック先生と歴史のカンニングでやってただけだから、他の誰かが俺と同じ立場なら
そんな大した人物じゃないのよ俺。
やっぱり見なければよかった。ちょっと言いたい事とか山程あるけど、とりあえず、
﹁いや、もういい﹂
提督(笑)と駆逐艦
46
あと別に大和を囮にしてないし
第二艦隊が沖縄に突っ込むっていうから、ならう
言ったが俺と同じ年齢くらいの更年期船は流石にお断りした。
一 緒 に 死 ん で も い い よ っ て 人 た ち 募 っ て 出 撃 し た ん だ し。八 雲 も 出 撃 し た い っ て
ちはうちでやらせてもらいますって。
!
名前に関しては文乃が大分ごねた。業の字は長野の家の男児の伝統で誉でうんたら
身分を偽って名乗っていた旗本三男坊の名前は速攻で却下された。⋮解せぬ。
本当は名前ももっと別のにしたかったんだけど、某暴れん坊な八代将軍が江戸の町で
まぁ、何でもいいんだけどね。昨日の夜に話し合った結果です。
たまたま姓が一緒ということで長野家に転移したという設定にして。
よ。
混乱を招かないために壱業ではなくて普通の転移者として現れたことにするらしい
あ、どうも長野 業和︵ながの なりかず︶です。カズナリではなくてナリカズです。
﹁⋮⋮﹂
といけないじゃない﹂
﹁別に⋮そんなことないと思うのだけど。ほら、こちらの世界の事を詳しく説明しない
運転手さんが暫く振りに声を発した。
﹁少佐、随分と短期間で仲良くなられたようで﹂
47
かんたら⋮。
長野餃子 ぶー違います
ご当地グルメかっ
それで、業和です。これギョウワが転じて餃子とかのあだ名になりそうでちょっと嫌
﹁⋮あれ、リニアか﹂
もしや、少し技術がこの世界進んでいるのか
てか運転手さんとの会話終ってたんだ。
﹁⋮やはり凄い﹂
﹂
何か言った
﹁なんだ
?
道路の上を走る高架上を物凄いスピードで抜けていった鼻の長い流線型の車両。
!
なんだけど⋮。
私の名前、漢字で書けます
!
二人の会話をよそに脳内で一人アブゥごっこをして外の風景を眺める。
?
﹁いえ、何でも。もう直ぐ到着しますよ﹂
?
?
たけどさ。
まぁ久しぶりにみる艦これキャラにワクテカしていたからさほど苦にはならなかっ
せられた。彼女の真剣さに、いや知ってますからとも言えずに。
しかし、とっても眠いです。一晩中、艦歴はともかくとして艦娘の顔と名前を覚えさ
﹁そうか﹂
提督(笑)と駆逐艦
48
問題なのは日本の経済状態から外交、関係各国の状況、今の政治形態といった現代に
関する知識。六法全書を持ち出された時は泣きそうになった。
呼ばれた連中の世界の事も聞かされてたけど、まぁ知ってるし途中からも微睡んでい
たのは内緒だ
少しうとうとしていたら目的地に到着した。
車を降りて、目の前のレンガ調の建物を見上げる。
未だに名称は横須賀鎮守府か⋮。
本来、日米の軍港として機能していたはずだけど、むかし、クルージングツアーで米
私が最後まで面倒見るわよ﹂
﹂
軍の空母が停泊していたのを見たなぁと感慨にひたっていれば、
﹁なんでよ
﹁いや、おまえはお前の仕事があるだろうが
﹂
﹁この石頭
!
そして罵り合いが始まった。
﹂
﹁帰れ馬鹿
!
ユーリエさんがお兄さんに掴みかからんばかりに詰め寄っている。
困りのご様子。
どうやらお出迎えに来てくれたらしい軍服を着た若目のお兄さんと運転手さんがお
!
!
49
﹂
﹁またか﹂
﹁⋮また
いているんだと。
で、俺を江田島まで送り届ける気満々だったのにお兄さんがその役を担うので噛み付
の不一致とかまぁ、そんな感じ。
お互いが優秀で何かとライバル視してぶつかり合うというか、意見の相違とか、性格
二人は士官学校同期で、其の頃からよくあった光景らしい。
そして根負けして話してくれた。
無言で運転手さんに視線アタック。決してそっちの気はないからな。
﹁⋮⋮﹂
えぇ⋮気になるじゃん。
﹁え、ああ。すいません。聞かなかったことに﹂
俺の隣で困り顔の運転手さんは、ぼつりと呟く。
?
いつまでも終わる様子のない二人を見て運転手さんが車に乗って逃走した。
﹁それでは私はこれで﹂
﹁なるほど﹂
﹁喧嘩するほど⋮ともいいますからね﹂
提督(笑)と駆逐艦
50
ビックリした。
﹁テイトクガ チャクニン シマシタ﹂
うお
でござる。
知的好奇心を刺激されてプニプニした頬を突っついていたら、指を掴まれて齧られた
妖精さん、まじ妖精さんだし。
いつの間にか肩の上に小型犬ほどの女の子。
!
﹁オカワリ ト グシンスル﹂
し、罵倒されるゲームなんだ深く考えたら負けかもしれない。
いや、艦これ自体ふわっとしたバックグラウンドで艦娘を愛で、突っついてセクハラ
する存在なのだが⋮果たしてこの世界での立ち位置は⋮。
しかし、見れば見るほど謎生物である。ゲームでは艦娘を作ったり、艤装を作ったり
﹁ふーむ﹂
指に歯形がついとるし⋮。
見送りの時に妹からもらった飴ちゃんが無ければ長官みたいになるとこだったな。
んに夢中になられた。
ポケットから飴ちゃん取り出してそっと差し出すと指を開放され、貪るように飴ちゃ
﹁痛いのだが⋮﹂
51
﹁遠慮ねぇな﹂
と言いつつお代わりに応える。可愛ければ何でもいいよな。という結論にここに至
レリ。
鳩が超電磁砲食らったような顔して。
そんな世界の真理にたどり着いていたら罵り合いが終わった二人がこちらに目を向
けた。
どした
何訳の分からないこと言ってんのよっ
﹂
﹁⋮なるほど。貴様、自分の派閥に取り込むつもりだな﹂
三者無言。
﹁﹁﹁⋮⋮﹂﹂﹂
?
!
どうやって見抜いた
これは隠すことは許されんぞ
?
﹂
?
せれば効率は大幅に上がる⋮。
﹁ピクシーとの親和性があるという事は乙種以上の適性だ。甲種でなくとも工廠で働か
お兄さんが再起動を果たし訳の分からないことを言った。
﹁はあ
!?
!
!
﹂
私だって驚いてるんだから⋮﹂
!
﹁⋮⋮本当に知らなかったのか
?
るわよ
﹁ああっもう 勝手に深読みすんな そんな便利な方法あったらとっくに実践して
提督(笑)と駆逐艦
52
﹁アンタ頭良いけど馬鹿よね﹂
いやいや、ちょっとお二人さん本人置いてきぼりなんですけど
﹁⋮ぬかせ﹂
説明した
﹂
﹂
﹁一通り全部﹂
﹁全部
﹁そう、全部よ﹂
﹂
現在日本の置かれた状況、経済状態から軍事関係、何から何まで全部よ﹂
﹁一日、いや揺らぎを観測した時間からして⋮半日か一晩でか
何か問題でも
と言いそうな顔だ。可愛いけどさ⋮。
おい、まてなんだその名前
?
?
﹁長野餃子﹂
﹁はぁ⋮。災難だったな君。えっと⋮﹂
どや顔だ。
﹁そうよ
?
?
?
!
君を江田島の海軍学校まで案内する。短い間だがよろしく頼む。長野、彼にどこまで
よし︶。
﹁すまない。驚かせてしまったようだな。私は日本国海軍少佐、徳田宗義︵とくだ むね
!?
53
﹁﹁は
﹂﹂
﹁ギョウザウマー﹂
あ、違った。
なりかず
﹁長野業和︵ながの なりかず︶﹂
﹁お。おう。⋮ん、長野
?
﹂
﹂
深みに嵌ったようにブツブツと言い出して自分の世界に入り浸ってしまった。
しかし⋮﹂
﹁⋮そうなのか。いや彼ら⋮彼女らの考えや行動は理解不能だ⋮そんなことも⋮いや、
﹁スゴイ ギョウザヨンダ ホメルガヨイゾ﹂
﹁いや、しかし﹂
徳田君、困惑気味だ。
﹁そう、長野。大方妖精さんが似た名前だから長野本家に呼んだんでしょ﹂
?
?
?
一緒に川下りって奴。
ああ頭良すぎて色々考え過ぎちゃうタイプね。策士、策に溺れて河童に助けられるも
﹁はい、何時もの事なので。勝手に深読みして自滅するタイプです。﹂
そして何気に俺を餃子呼ばわりする妖精さんも大丈夫なのか⋮。
﹁彼は大丈夫か
提督(笑)と駆逐艦
54
そういえば、聞き忘れたけどなんで海路なんだろうか
﹂
さっき見たリニアとか使ったほうが早いんでね
﹁今更だが⋮何故、船なんだい
?
?
﹁ご推察の通りかと﹂
ちょっと声出してないよ
読心術でももってるのアータ
!
てる。
見つめあう二人。おっさんは驚愕で固まっているだけなのだけど、彼女はにこにこし
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
!?
いつの時代も、いやこんな世界だからこそか⋮使える者はなんでも欲しい⋮か。
にやられてしまった方がマシか。
で、人の少ない海路の方が警備もしやすい、他国に奪われ脅威になるよりは深海棲艦
ああ、なるほど。つまり拉致ってことね。
能力を持つ人材はどこの国もほしい﹂
﹁はい。では、説明させて頂きますと、我々の敵は深海棲艦だけでは無いのです。特殊な
﹁いや、いいから﹂
そういって頭を下げるユーリエちゃん。そんなに改まらないでほしいのだけど⋮。
﹁ああ、そうですね。その説明してませんでした。ごめんなさい。﹂
?
55
え、何、他国の間者より目の前のこの娘が怖いんだけど
﹁おほん﹂
誰かの咳払いで体の硬直が解けた。ありがとう。
悪い癖が出た。少し考え過ぎて、周りが見えていなかった。
!
気が付いたら目の前の二人が見つめ合っている。長野のお嬢様がこんなに男に関心
を寄せていたことがあっただろうか
?
提督(笑)と駆逐艦
56
恋慕の想いか、尊敬の眼差しか、どんな感情
少なくとも海軍士官学校時代は無かった。
見つめるその男に対する感情は何だ
かはわからない。
合う二人に咳払いをしてこちら意識を向けさせる。
このまま黙っているわけにもいかず白々しいとは自分でも思いつつ目の前で見つめ
それでもマイナスな感情ではない事だけはわかる。
?
格に難があるが優秀な奴もいる。
前々回は駆逐艦に言い寄って重体になった。かといってそんな奴らだけではなく性
日々無為に過ごしている。
が、前回と前々回は最悪だった。前回の奴は教育課程で逃げ出し今は政府の監視下、
この男のような年齢に見える状態で渡ってくる。見た目に騙されてはいけない。
こちらの世界に渡って来た者は皆、
そこらにいる若者の恰好をする目の前の男。年齢は20そこそこといった感じだが、
﹁⋮ああ﹂
たら船の上で聞いてくれ﹂
﹁まぁ、その一気に詰め込まれても覚えきれなかっただろう。何か気になることがあっ
57
提督(笑)と駆逐艦
58
アタリとハズレの差が大きすぎる。
この男は一体どっちなんだろう。
長野のお嬢様が気にかける男だ、きっとこの男何か持っているに違いない。
妙に熱い視線を感じながら船上の人になりました。
夕方出港し、もうすぐお昼です。結局一睡もできなかった。
船は小型の客船で後部が貨物タイプ恐らく100トンクラス。
で客室も何室かあるにもかかわらず何故か同室で徳田君がずっと見つめてきて、非常
にお尻が心配でした。
ユーリエちゃんが許可をもぎ取ってくれた兼光が手放せません。
59
眠い、非常に眠い。でも徳田君が怖い。ということで眠気覚ましに潮風を浴びに甲板
に出てます。
右舷前方と左舷前方に洋上を走る人影が見える。恐らく護衛の艦娘です。
歯をむき出
彼女たちの間を抜けこちらに向かってくる黒
波飛沫が邪魔なのと遠いのでよく見えない。小さいから駆逐艦だと思われ、もっと近
くにおいでよ
俺に姿を愛でさせておくれ。
あ、前方に発砲した。
ターンしてこっち来た。アルェェ
光りする物体。
クジラのようなフォルムだけどお目目が怪しく光っているじゃない
いやロ級かもしれないけど
した大きな口。
イ級
!
?
!?
!
そうであれば当然、船の外へ投げ出されるわけで、
を掴んだのだけど、掴んだのは船の縁ではなくて兼光だった。
けたたましく船のサイレンが鳴り取り舵が切られる。右舷側にいた俺は咄嗟に何か
!?
提督(笑)と駆逐艦
60
そこの駆逐艦の娘さんたちはよ助けておくれ
イ級の頭に刀ぶっさしてる。柄を掴んで必死に振り落とされないように⋮⋮ロデオ
かっ
ヘイ
!
!
⋮どうしてこうなった
!?
!
提督︵笑︶と曙と漣
白と紺のセーラー服を靡かせて少女たちは海の上を駆けていた。
一方は桃色の髪を両サイドにくくり、もう一方は紺紫の長髪をサイドで一つにまとめ
ている少女。
﹂
見た目こそ年頃の娘と変わらず可憐な様子を見せるが艤装という武器を身に纏い深
徹底的にやっちまうのねっ
!
海棲艦と日夜戦う戦士たち。
﹁ぼのたん、前方イ級っ
主砲いっけぇー﹂
!
抜けちまったのねっ﹂
!
そのとき、二人は信じられないものを見る。
ること叶わず、舵を切って避けてくれるのを祈る事のみだった。
慌てて二人は回頭するが、今撃てば護衛していた船に当たる可能性もあるため発砲す
﹁冗談じゃないわっ﹂
﹁やっべ
ず。彼女たちの間を抜けてイ級は護衛する船に突っ込んだ。
二人の放った主砲はイ級に見事命中。当たり所が悪かったのか撃沈させるには至ら
﹁ぼのたん言うなっ
!
61
舵を切った船上から飛び出した人間がイ級に跨り何かを突き刺している。
金属が擦り合わさるような悲鳴をあげ、のたうち回るイ級。
﹁う、うわぁ﹂
﹂
!?
そしてもう一人の少女は元気に泳いで船にしがみ付いた男の背中を見送った。
あとに残るは満身創痍のイ級。桃色の髪の少女は無言でイ級を撃ち抜いた。
と、しばらく唖然とした後、男は大きく弧を描いて飛ばされていった。
⋮何してんだコイツ。
恐らくはこの時、船上の人間も海を駆ける彼女たちも思ったことは一つであろう。
﹁え、えぇー
提督(笑)と曙と漣
62
﹁君は馬鹿なのか
﹂
俺だってやりたくてやったんじゃないんだよっ
のかっ
﹂
その刀にどれほどの価値があるかわかっている
!
ミック先生
俺にも鑑定みたいなスキルつきませんかね
?
﹁聞いているのか
﹂
うん。知ってた。
││システムアップデート中⋮⋮8%⋮⋮
!
その刀はな貴様の命より重いと知れっ
﹂
聞いてる。聞いてる。だから近づかないで、身の危険を感じるわ。
﹁⋮⋮ああ﹂
!
?
何、君は噂の刀剣男子なのか 見ただけで銘が分かるとか⋮超すごいんですけど
!
﹁いいかっ
!
!
!
﹁それに⋮それは兼光じゃないかっ
あの後、刀とともに振り落とされた、そらぁもう豪快にね。
!
を投げかけてきたのは、俺の尻を狙う徳田君である。
甲板の上で水浸しでゼェハァ言っとる俺に罵声、いや皮肉か、まぁどっちでもいい。
?
63
ええ、そんなに
けか。
ああ、まぁでも重要文化財とかになっても可笑しくはないんだっ
いや、お前じゃない ああ、くそっ
あとでちゃんとお手入れしてあげような、潮かぶったし念入りにな。
﹂
﹁なんでこんな奴にっ長野は刀を預けたんだっ
⋮百合恵の事だ
ねぇ、なんで
長野違いですね。てかユーリエちゃんの名前言うとき何で少し躊躇ったん
!
帝国海軍の最強の指揮官の名前くらい。
とにかくその刀はな、本来はお前のような奴が持っていいものではない
﹁⋮⋮﹂
﹁くっ
お前も軍艦好きなら知ってるだろ
!
?
!
!?
!
?
りで俺の憧れなんだよっ
謝るから離して
﹂
!
やめて襟首掴まないでっ
!
﹁っちっ どうしてお前がそれを預けられたかは知らんし、お前が馬鹿な真似をして
!
その方が軍刀として愛用した歴史的価値だけではなく、旧海軍の英雄の象徴であり誇
?
!
﹁⋮すまん﹂
提督(笑)と曙と漣
死のうが一向にかまわん。だがその刀を巻き込むんじゃない。わかったな﹂
!
﹁⋮⋮ああ﹂
64
超、怒られました。
まぁ悪いのはマヌケだった俺だ、お叱りは甘んじて受けよう。
しかし、この刀、何故そこまで重いものになってるの
﹂
確かに家の家宝だし歴史的価値はあると思うよ。海軍うんたらが意味わからん。
?
24日に講和となった。ここまでは歴史の教科書にも載ってるから知っているだろう
いた帝国艦隊により撃滅。帝国海軍の被害は少なく大勝利といえる⋮。そして12月
﹁その後、ソ連が不可侵条約を破棄し、オホーツク海沖で衝突したが、これも待ち構えて
文字通り、決死隊だ。
艦隊に突っ込み撃ちまくっていた。
まぁ、当事者だから知ってますよ。味方の艦が次々と沈んでいくの横目にひたすら敵
とんどが沈むという犠牲を払ってな﹂
﹁⋮はぁ、仕方ない。⋮かつての大戦、坊の岬沖で帝国海軍は勝利した。出撃した艦はほ
頭を掻き毟る徳田君。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
所詮は人の家の刀だろうに⋮。
﹁何故、そこまで拘る
?
65
﹂
知らなかったけど頷いておく。ちょっと空気が読めてます。
話しか聞いてないからな。⋮そうか勝てたか。
そうか⋮、やはりソ連は南下してきたのか。ユーリエちゃんからは講和がなったって
?
ずっと読まれていたことで政府、軍高官に内通者がいるのではないか疑うほどだったそ
ち上げ自分をさらに持ち上げるという方法とるには犠牲を払いすぎたし、作戦、戦略を
数派で、連合国側との交渉は難航した。彼は勝ちすぎてしまったんだ、米国も相手を持
うより政界にも彼に世話になった人間は多く、これだけは突っぱねるべきというのが多
リストを提示された茶番だったが、その中に長野壱業の名前があり、意見が割れたとい
だが、一つだけ意見が紛糾したのが連合国による軍事裁判だ。事前に裁かれる予定の
件を呑んだ。
時の政権はできる限り譲歩して国の体面だけでも保てればと考えていた。大方は条
国側はまだまだ息切れ起こす様子はない。
坊の岬、オホーツクと勝ったとは言え日本はもう余力がない状態でソ連はともかく米
講和の条件を詰めるため、水面下でずっとやり取りがあった。
そういって徳田君は胸ポケットから煙草を取り出して火をつけた。
﹁そしてここからが、教科書には載っていない講和がなるまでの話だ﹂
提督(笑)と曙と漣
66
うだ。
ソ連もたった一回の海戦で壊滅させられ苦汁を舐めさせられた。
米ソともに格下の黄色人種にいいようにやられたままでは収まりが付かない。そこ
で生贄にされたわけだ。
しかも大陸、南の島々、頑強に抗戦する陸軍将兵は半包囲されている状態の所が多く、
奴らはそのカードまで切ってきた。
そんな理由があったなら仕方ないだろう。
いたさ﹂
﹁俺の爺さん、その時の政界関係者さ。死ぬ間際まで彼には済まない事をしたと嘆いて
﹁⋮詳しいんだな⋮です⋮ね﹂
﹁ああ、壱業氏の家族は受け入れてくれたそうだ﹂
﹁そうなのか⋮ですか﹂
﹁⋮どうだろうな、時の内閣は非公式に全員で長野の家に頭下げに行ったそうだ﹂
そんなの決まってるじゃないか。
﹁⋮犠牲は少ないほうがいい﹂
そういって吸い込んだ煙を空に吐き出した徳田君。
﹁陸軍将兵数十万の命と英雄の名誉どちらを取れば正しいのか﹂
67
﹁きっと⋮壱業氏も許しているさ﹂
最初から戦犯うんぬんなんて気にしてなかったし。
になる﹂
とんだ爆弾落としてくれちゃうね。
﹁どうだかな。⋮ちなみにこの話は5年後まで機密扱いだから、他に喋ると面倒なこと
聞いてないよそんな事
﹁⋮おい﹂
﹁あぁ⋮山咲岩男だ﹂
﹁徳田君⋮さん。君の祖父の名は
﹂
そっちの方が汚名をかぶってでも日本を救ったといえるんじゃないのか。
あの頃の民衆は良くも悪くも熱狂する。
その時の政権が弱腰だの国賊だの言われて批判浴びてる姿が目に浮かぶ。
でも裏の事情を知らない民衆と一部の軍人は酷かっただろうな。
!
?
⋮ですか﹂
ザキさんか。渋めの俳優さんみたいな、いい漢だったよな。
?
﹁そうか﹂
ああ、そうすごく助かります。
﹁お前、まだ軍属になってないから変な敬語使わなくていいぞ。なんか気持ち悪いし﹂
﹁墓所は福岡か
提督(笑)と曙と漣
68
﹁それを聞いてどうするつもりだ
﹁線香をあげてもいいだろうか﹂
﹁ありがとう﹂
い。
﹂
だから、当時の政権はすごい決断をしたと思うよ 線香くらい上げさせてもらいた
だ。
誰かが言っていた戦争は始めるのは簡単だが終らすのは困難だと。俺もそう思うん
﹁⋮変わった奴だな。墓は静岡だ﹂
?
なのでは
お前、いろんな思いくっつけられちまったな。
海水で光る刀身、甲板に転がる兼光を拾い上げて、空に翳してみる。
﹁あぁそういうことか﹂
﹁連合国が死んでも恐れた英雄の刀だ。そんな人物になりたいと思わないのか⋮﹂
?
戦犯うんぬんは分ったけど、それとこの刀が海軍の象徴とか言われてもねぇ、全く別
﹁いや、全く﹂
﹁⋮お前、ほんと変な奴だな。まぁいい、分かったか⋮その刀の重み﹂
?
69
そ れ か ら 徐 々 に 仲 良 く な っ て 牟 田 口 君 っ て 人 が い て お 前 陸 軍 じ ゃ ね ぇ の か
思ったけど苗字が一緒なだけの別人だったり。
ついでに軍令部も批判したし⋮。
付いてからおかしくなったんだよな。
と
ドゥーリトルまでは表面上は問題なかった。ミッドウェーに関して俺が長官に噛み
ある意味有名な主席参謀殿も同期である。奴とは分かり合えなかった。
俺はドイツに生きると独駐武官になった人とか結構、個性豊かな面々だった。
長さんなんかが同期だ。
あとは雪風で有名な第十六駆逐隊司令になった人とか鳥海の艦長さんとか大淀の艦
!
での語り合い。
懐かしさより、なんか胃がキリキリしてきた。入学して最初の頃は同期の連中との拳
今は海軍士官学校と名を変えるが建物自体は外見は当時の面影のまま。
船上から陸へと降り立ち、やってきました江田島の海軍兵学校。
まずは着替えるか。
﹁へっくしょん﹂
提督(笑)と曙と漣
70
﹁ご主人様っ﹂
生、艦娘やで
﹁クソ提督﹂
二人が徳田君の前で敬礼した。あ、艤装って消せるの不思議だねぇ。
なので安心だな。
いや、ブラック提督がいるのか知らんけど。もし、いたら全力で潰してやんよ
ミック先生がなっ
!
﹁ああ、今回のアレだ﹂
漣さん、全部聞こえてますよ。
ですか﹂
﹁それで⋮ご主人さま、そちらのイ級に生身で飛びかかる、いっちゃった人が今回のアレ
!
徳田君と二人との関係を今見る限りでは良好に見える。ブラック提督ではなさそう
ボーノことぼのたんと、なんちゃってメイド漣やで。おっちゃん感動や。
﹁フンだっ﹂
﹁うへぇ﹂
徳田君、提督だったのか。
ておけ﹂
﹁御苦労だった。が、最後のイ級はいただけない。結果、無事であったが帰ったら覚悟し
!
71
そうか俺はアレなんだ。うんアレだアレ。
アレってなんだよ
もっと罵ってくれても
?
い。
君、そんなキャラだっけ 違うだろクソ提督製造機やろ
ええんやで
?
そして、ぼのたんがじーっという擬音がつきそうなほど俺を見上げてくる。しかも近
﹁⋮⋮﹂
!?
﹁長野業和だ﹂
﹂
そうか、触って罵るっていうフリですね
﹁ながの
﹂
!
ありえないから。 とか言ってみ
何で触るの
﹂
﹁ありえないから﹂
あるぇぇ
?
?
?
いやむしろ言ってください。
そっと手を伸ばし彼女の両頬を優しく引っ張ってみる。
﹁なりかず
?
わかりました。
﹁長野、彼女たちのことは知っていると思うが、こっちが漣、そっちが曙だ﹂
?
?
﹁ふぇいふぉふ
提督(笑)と曙と漣
72
?
﹂
?
と聞かれたとき、
?
なって飲んで。
そういえばあの時、本土に帰って曙の乗員たちへいい酒を振る舞ったな。俺も一緒に
ちゃ怖いし、蒼龍は艦載機が足らないと思ったから。
もしかしたら、座礁しないかもしれないけど赤城は旗艦で無理だし飛龍は多門丸めっ
んだけど途中で座礁するからじゃあこっちでええやんって理由。
何で加賀っていうとその時期インド洋のイギリス東洋艦隊を連合艦隊で潰しに行く
俺はその時、上空で加賀の偵察機に乗ってたからよく見えたよ。
あぁドゥーリトルの時、君、エンタープライズに魚雷ぶち込んでたね。
でも俺、鳳翔に乗って新型エンジン搭載の艦載機のテストしてただけだからなぁ。
君と俺は⋮、第一次上海事変かぁ⋮。
そして彼女たちは艦時代の記憶を持っているとされている。
と答える。
かつて実在していた第二次世界大戦期の艦船がモチーフに擬人化した美少女キャラ
艦娘とはなんぞや
あと漣さんそれこの娘のセリフだよ。
漣と徳田君が驚いた顔でこちらを見ている。おれもびっくりです。
﹁なん⋮だと
73
もし敵機動部隊いなかったら腹切ってやんよっていってようやく長官がゴーサイン
出してくれたんだよ。
緊張感ねぇなお前。
﹂
ミック先生の情報でいることは確実に分かってたんだけど、やっぱり見つけるまでは
気が気でなかったもんなぁ。
あぁ⋮、酔った勢いで曙の船体の至る所、撫でまくってたわ⋮。
あとは⋮レイテか⋮。
﹁おい、長野﹂
ずっと、ぼのたん頬っぺたムニュムニュしてたわ。
﹁ああ、すまん﹂
﹂
さぁ、かまわん罵ってくれたまえ。
﹁曙もすまん﹂
漣っ
﹁あ⋮あ⋮﹂
﹁まずいっ
!
漣が目にも止まらぬ速さでぼのたんを羽交い絞めにした。
﹁ほいさっさ∼♪﹂
!
﹁あー、あんまり私たちに触らないでほしいのです⋮長野さん⋮n、んん││
?
提督(笑)と曙と漣
74
﹁ああ、すまない﹂
﹂
漣さんや、チョークが決まってるんだけどぼのたんの顔真っ赤よ
﹁あれ、うん、あれ、んん
﹁おい、長野行くぞ﹂
?
﹂
?
牙を剥くこともある﹂
セクハラが出来ないだと⋮
んなバカな。
この世界には絶望しかないというのか
!!
!?
﹁彼女たちは見た目こそ少女の姿だが大戦中の兵器だった存在だ。信頼関係がなければ
﹁なに
﹁いいか、滅多に彼女たちに触るな、彼女たちの機嫌を損ねると最悪死ぬぞ﹂
徳田君に腕掴まれて建物に入る。
﹁⋮ああ﹂
?
75
提督︵笑︶と提督が愛した艦︵笑︶
春うららかな今日この頃。窓辺からの温かい光に包まれながらセーラー服姿の少女
は頬杖をつき、事務机に置かれたパソコン画面を眺めていた。
慎ましい胸元の橙色の特徴的な大きなリボン。
光に照らされた春緑の髪は大きな緑色のリボンに結わえられ、いつもは快活そうであ
あ、またその映画見てる﹂
ろう瞳は今は少し垂れているが間違いなく美少女であろう。
﹁夕張さん、今度使う講義の資料出来ましたか
?
こちらは大分、豊かである。何がとは言わない。どこか小悪魔めいた雰囲気を持つ美
手入れが行き届いているであろう銀糸の髪を緩くふわりと両サイドテールにした
足。
そんな彼女に声をかけたのは、白い士官服にミニスカート、そこから覗く眩しいおみ
﹁私もその作品好きですけどね⋮﹂
考える。
どっかのオータムクラウドと名乗る駆逐艦が読んでるものより万倍健全だと夕張は
﹁いいじゃない、好きなんだから⋮﹂
提督(笑)と提督が愛した艦(笑)
76
少女である。
﹁はいこれ﹂
﹁⋮あの夕張さん
﹁何でしょう
﹂
試し撃ち、ご所望ですか
﹂
?
設計者が草葉の陰から泣いてると思う。
﹁でもぉ⋮じゃありません。せめて書くなら平賀氏が愛した艦ですよ﹂
﹁でもぉ﹂
い程度で済ませている鹿島である。
じゃないのか、などと本人が聞いたらぶち切れるかもしれないことを考えながらも苦笑
ていうか、お前は軽巡を代表する艦でもないだろう、どっちかというとイロモノ枠
洋艦を代表する船、長野提督が愛した艦夕張という下りは不要だろうに。
大体、艦娘の武装に関する資料なのに、軽巡の主要武装に関する項目の先頭に、軽巡
﹁長野提督がそんなこと言った記憶も記録もありません﹂
﹁えぇー、私の武装を説明するんだったら必要よね﹂
資料の見逃せないある一点に着目する。
﹁いえ、そうではなくて⋮この 長野提督が愛した艦 っておかしいと思います﹂
?
そう答えつつ、銀糸の髪を持つ少女、鹿島は夕張から受け取った資料を流し読み、
?
77
けど気持ちはわからなくもないと鹿島は考える。第四艦隊の旗艦時代、珊瑚海海戦の
直前にやってきた奴は彼女にとって衝撃だった。
良くも悪くも練習巡洋艦だった鹿島は海軍の人間はこういう者たちかというのが良
く見えていた。
その常識をぶち壊したのは間違いなく奴だった。
奴が上層部に噛み付いていた所を収めようとしたら、とばっちり食らって奴と一緒に
こちらに回されたと言った哀れな士官はアイツに関わったばかりに⋮と司令に嘆いて
いたのがすごく印象的だったのを思い出す。
良くも悪くも目立つ存在ではあった。
鹿島はトラックで第四艦隊司令部として機能していたので、奴が乗っていることは少
なかったが、夕張は奴にがっつり、こき使われていた。こき使われていたかどうかは本
人達がどう思うかであろうが⋮。
﹁なによぅ﹂
長野提督が指揮し大活躍した艦 となっていた。
﹁夕張さん﹂
鹿島がそんな思考に浸っていればいつの間にか修正された資料を手渡す夕張。
﹁はいこれ﹂
提督(笑)と提督が愛した艦(笑)
78
膨れた顔の夕張に
と鹿島は呟いた。
﹁⋮そこは譲れないんだ﹂
﹂
これ以上この話をすると不毛になりそうだったので鹿島は話題を改める事にした。
試し撃ち、ご所望ですか
﹁あ、そうでした夕張さん﹂
﹁何でしょう
どんだけ試し撃ちしたいのやら。
?
この時期に
病気か何かで入学が遅れたのかしら﹂
?
﹁あぁ∼もう∼っ。わかったわよぅ﹂
顔を顰め、何やら物騒な事を言おうとした夕張に鹿島は釘を刺した。
﹁だめですよ﹂
﹁うわぁ⋮またメロンちゃんて呼ばれる⋮試し撃ちしても⋮﹂
﹁妖精さんに呼ばれてきた方だそうです﹂
る。
季節は桜舞う時期であるが海軍士官学校の入学日からはいささか日付が経過してい
﹁え
?
設の案内よろしくお願いしますね﹂
﹁それはもういいですから⋮。今日、新しい提督候補の方がいらっしゃるそうです。施
?
79
﹁じゃあ私も講義がありますから失礼しますね﹂
鹿島の背中を見送り、窓の外を見上げる。
誰に聞かれることもない呟き⋮。
﹁私の提督はいつになったら着任するのかしら﹂
PCの画面はクライマックスを迎え、提督と金剛が沈むところであった。
というわけで、現在海軍士官学校の校長室です。
校長先生にご挨拶。
眼光鋭い壮年の階級章は中将殿ですね。めっちゃ見られてる、超見られてる。
﹁御苦労。校長の獅子飼︵ししかい︶だ﹂
観測者って俺の事か、転移組の事そう呼んでるんだ。
﹁⋮⋮﹂
敬礼する徳田君。
﹁徳田少佐、観測者を案内してまいりました﹂
提督(笑)と提督が愛した艦(笑)
80
と問われて も、 や・ら・な・い・YO と答える。断固
そらそうか、徳田君と俺なら俺の方がイケてるメンマだもんな。だが、生憎俺には衆
道趣味はない。
や・ら・な・い・か
としてである。
!
けー。
な ん だ 今 す ご く 気 持 ち が 萎 え て る ん だ け ど ⋮。あ、自 己 紹 介 ね、お う け ー お う
﹁おい長野﹂
か⋮そんな⋮まさかな。
というか徳田君といい、この中将といい海軍は腐女子が喜びそうなやつしかいないの
?
﹂
なんで急に親父殿の話だ うちの親父殿は絵描きになりたかったそう
﹁ふむ。君の父上は旧海軍好きかね
雰囲気あるらしいからあんま意味ないけど。
敬礼もしておこう。第一印象は大事だよ。まぁ俺の場合、口数少なくて威圧している
﹁長野業和﹂
?
?
?
れない。
妹が小さい時に動物を描いてと強請ったときに出来上がったUMAは今でも忘れら
だが、自分の才能の無さに絶望したそうな。
親父殿
?
81
親父殿、絵描きにならなくて正解だ。いや、今ならあのエキセントリックな絵が売れ
た可能性も⋮ないな。
﹂
てかな
日露戦争の時も日本がお祭り騒ぎの中醒めてた記憶がある。好きではないだろう。
﹁いや﹂
﹁なら祖父殿か
﹁知らな⋮知りません﹂
爺ちゃんあった事ねぇよ、幕末の志士だったって話だけど。どうだかねぇ
んでそんなこと聞くの
?
?
?
ここで過ごす間に己がどんな世界で過ごすことになったか、そして守るべきモノが、
ける事は出来ない。
だが、君たちのほとんどはどこか遊び感覚でやって来る。そんな者に大事な戦力は預
がある、それは認めよう。
確かに提督たりうる能力は高いのだろう。そして幾人かの功績には目を見張るもの
ない。
﹁まず一つ、この世界はそんなに甘くない。私は君たち観測者組にさほど期待はしてい
﹁⋮⋮﹂
﹁そうか﹂
提督(笑)と提督が愛した艦(笑)
82
どういったものか心に刻んでほしい⋮
以上だ﹂
そういって中将は退室を促した。
ふむ、彼は尊敬に値する軍人だ。衆道だと思ったことは謝ろう。
彼の言ったことは正しいし、俺も前大戦を経験してなく普通の転移者だったら彼の気
迫にビビってたと思うわ。
い や、結 構 ビ ビ っ て た ん だ け ど ⋮。当 事 者 じ ゃ な い と わ か ら な い 事 っ て あ る も ん
なぁ。
平和ボケした奴に戦闘指揮が務まるのかって話だようん。
﹁なんだ
﹂
﹁そうか、⋮少し聞きたいことがある﹂
﹁ふぅ、やはり校長の前は緊張するな﹂
廊下に出てしばらく、二人無言で歩く。どこ行くのかは知らない。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
83
?
﹁転移者、いや観測者達は皆が提督なのか
ろうか
﹂
俺も転生したとき、ミック先生が居なければビビって何も出来なかったんじゃないだ
?
も可笑しくないのでは
る。他にも色々だ。観測者組で提督やっているのは現在4名だ﹂
﹁⋮いいや。逃げ出した奴もいるし、艦娘に手を出そうとしてボロボロになった奴もい
?
そう考えるとだ、よほどのタフか、馬鹿か、艦娘愛が強くないとビビって逃げ出して
赤紙もらってどっかの戦場でのたれ死んでるのが関の山だったんじゃないだろうか。
?
﹂
?
なってる仕事しない奴。あと瑞雲至上主義﹂
﹁駆 逐 艦 を い つ も 膝 に の せ て 執 務 す る 女、厨 房 に こ も り 艦 娘 に 振 る 舞 う こ と が 仕 事 に
﹁⋮というと
﹁⋮その、なんだ。その連中も⋮決してマトモというわけではないからな﹂
出来れば駆逐艦をprprする会を作りたいしな。
だけど、残った奴らは頑張ってるんだろう仲良くしたいものだ。
度か、これが多いのか少ないのか知らない。
年間2∼3人、深海棲艦が現れたのが5∼6年前だそうだから、残るのは3分の一程
﹁⋮そうか﹂
提督(笑)と提督が愛した艦(笑)
84
﹂
なんだろう、シリアスがシリアルになってくこの感じ。
﹁あと一人は
﹂
﹁⋮優秀だが⋮ホモだ﹂
﹁⋮⋮は
何で二回言った
そんなの大事な事じゃねぇんだよ
﹁⋮優秀だが⋮ホモだ﹂
え
何を、尻を 真顔で言わないでよ超怖いんですけど
﹁お前も気を付けろ﹂
!?
!?
が喜びそうな海軍ジャナイデスカーー
やだやっぱり腐女子
!
?
いい天気だなぁ。ちょっと微睡んでもいいかなぁそこの窓際なんて絶好のお昼寝ス
敬礼して出ていく徳田君にこちらも答礼で答えておく。
﹁願わくば、お前が優秀な提督になることを祈る。では﹂
だよお。
俺はもう何か疲れたよ。精神的にも肉体的にも初日も二日目もほとんど寝てないん
﹁そうか﹂
一つの部屋に通される。中は質素な応接室だ。
﹁着いたな。ここで待ってろ。そのうち誰か来る。俺の仕事はここまでだ﹂
!
!?
!
?
85
ポットだぜ
長官は重々しく口を開く。
﹁そうだ﹂
﹁第四艦隊に異動⋮ですか⋮﹂
?
それは分かる分かるが⋮。
﹁あんだけ俺や上に噛み付いてこれで済んだ事に感謝してくれてもいいんだがなぁ
﹂
君の作戦でエンタープライズを沈めたじゃないか。
?
飛龍の4隻なんだ﹂
ミッドウェー島攻撃中に空母狙われたらどうするんだ
﹁それはそうですが⋮﹂
ワスプ76機 ヨークタウン90機+ミッドウェー島の航空機部隊もしかしたらあ
?
もし米国の空母が出てきてもワスプ、ヨークタウンの2隻こちらは赤城、加賀、蒼龍、
﹁何をそんなに恐れてるんだ
?
﹁⋮⋮﹂
提督(笑)と提督が愛した艦(笑)
86
のチート国家ならホーネットの復帰もあり得る。
赤城と加賀だけで補用含め約90機ずつ、この上更に蒼龍と飛龍70機ずつ。なるほ
ど勝てると思うわ。
だが、
エンタープライズとホーネットの攻撃でどれだけ艦載機が落とされたと思ってるん
だ。
半数だぞ加賀と祥鳳の艦載機の半数だぞ。陸軍の爆撃機を載せていたにもかかわら
ずだ。
VT信管が本格配備される前でそれだけの防空能力だ。アメさんの射撃管制システ
ムを甘く見てたつもりは無かったが見積もりが甘かったと言わざるを得ない。
全滅は無いにしても確実に痛手を負う。それは避けたい。
馬鹿な
そんなのアメリカの民意が許さない
という声を必死に抑える。
!
の完成を以て日本近海で迎え撃ち、空母総力戦ののち艦隊決戦、此れでもかなり無茶だ
米国の厭戦ムードを高め時間を稼ぎ、徐々に戦線を後退、今日本で建造中の空母全部
通商破壊と島への爆撃で
そもそも長官と俺では戦略が真逆だ。米国の部隊を適当な島に上陸させてちくちく
!
﹁俺も空母は怖いさ、だがなこれで勝てば米国も音を上げる。そうすりゃ早期講和だ﹂
87
提督(笑)と提督が愛した艦(笑)
88
が。
長官の言う戦略よりは⋮、
皮肉にもドゥーリトル阻止してエンタープライズを沈めたことがMI作戦を後押し
した形になってしまった。
結局は、何も出来ず異動。
しかも、ドゥーリトルで活躍し、搭乗員や艦載機の補充でドタバタした祥鳳に乗って
だ。
珊瑚海海戦だってMO作戦には口を出す暇もなく開戦だ。あんなの失敗して当たり
前だ。
事前の綿密な打ち合わせも訓練もなしで成功する方が奇跡。
クソやめろよ。自分の無力さを感じさせられるじゃねぇか。
第四艦隊の上の方が先の珊瑚海海戦の責任問題でごたごたしているのを良いことに
命令をミック先生に捏造してもらい、夕張に乗り天龍、龍田あと第29駆逐隊連れて護
89
衛任務についた。
部下に護衛対象と場所を聞かれたが秘密にした。
ミッドウェーに空母を護衛しにちょっと遠出だ。
途中、潜水艦一隻沈めて戦場に着いてみれば赤城は大破炎上中、蒼龍はすでに後部は
炎上、船首甲板が海に浸かってた。
魔の五分が有名だけどミッドウェー海戦は七日間あったのだ日本も決して今回は慢
心してたわけじゃないし、電探により敵の艦載機が近づいてるのは分ってた。
にもかかわらずそれだけ被害を受けていた訳だ。
搭乗員の疲労や、艦載機の損失、整備員たちの疲労だってある挙げればきりがないが
これが空母戦の恐ろしさだ。
ワスプ、ヨークタウンは沈めたらしいがホーネットはまた生き残ったらしい。
エンタープライズは沈めたものの、そっちを集中的に狙ったというのもあるが、ホー
ネットは中破判定で逃げられた。
まさか、ミッドウェー海戦までに復帰してくるとは思わなかったけど、エンタープラ
イズに代わりワスプ、ヨークタウン、ホーネット。
いま米国に動かせる正規空母は無くなった。だが、
もうすぐエセックス級の脅威が始まる。
とりあえず損傷した加賀を連合艦隊まで引っ張って最上も誰かに引っ張らせて後は
⋮
それよりもまずはホーネットを沈めろと喚いている目の前の大男か、これ死んだかも
⋮。
厭な夢を見てしまったマジであの人、人殺しの目だよ。
﹁⋮夕張か﹂
﹁そうですね。⋮でも提督頑張ってましたよデータもバッチリ﹂
﹁赤城も蒼龍も助けてやりたかったな﹂
提督(笑)と提督が愛した艦(笑)
90
91
アルゥゥェェェ
なんで俺メロンちゃんに膝枕されてんの
!?
ちょっと訳が分からない。
!?
アレ、アレェェェェ
!?
提督︵笑︶とめろんタイム
深く息を吸い込んで、これで何度目かになる深呼吸を一つ。
目の前にある扉。この先に今回、妖精さんに呼ばれた提督になるかも知れない人物が
いる。
そう思うと気が重い。憂鬱という人の身になって何度か味わったこの気分。
今回もまた漣のように﹁メロンちゃんキタコレ﹂とでも言われるのかしら。
そういえばさっき廊下を歩いていた時に、窓から彼女が見えた。
何故か﹁ピャアー﹂と叫んだ曙に両手を掴まれ振り回されていたけど。
あれは駆逐艦の間で流行っている新しい遊びなのかしら
改めてドアに向き合い⋮もう一度深呼吸。
ドアをノックして入室する。
﹂
?
壁に背を預け胡坐を組み刀を抱える青年。
部屋の中央に置かれたソファーには誰もおらず⋮暫く視線を彷徨わせれば⋮窓の下、
﹁軽巡夕張入ります⋮ってあら
?
﹁よしっ﹂
提督(笑)とめろんタイム
92
﹁寝てる⋮何ともまぁ剛毅な性格してるわね⋮え
彼に一歩近づく、ドクン。
高まる胸の鼓動。
さらに一歩、
震える足。
さらにもう一歩。
本当に
﹂
ああ、ああ頭の中がぐちゃぐちゃだ。
でも、嘘じゃない、目の前に、
ああ、ああ。嘘、本当に、まさか、嬉しい、まさか、でも、違ったら落胆、ガッカリ、
?
⋮。
長野提督が愛した艦だもの。大丈夫、大丈夫。兵装実験軽巡夕張は伊達じゃないっ
⋮落ち着け私。
心臓がうるさい位に脈打って、まるで自分の意思と関係なくガクガク震える足。
?
﹂
ないもの⋮
﹁提督っ
!
!
ダメ、落ち着いてなんていられない。だってだってこんなの、こんな気持ちデータに
﹁あぁ⋮あぁ﹂
93
なんで、どうして、理由なんてどうだっていい。そこにいるんだもん。
あ、まつ毛長い 寝てる時でも眉間に皺寄ってる。
?
飛び付いて彼の温もり匂い息遣い全てを感じる、ああ、何もかもが愛しい。
声を聴かせて
?
温かい⋮。
ずっとずっとこうしていたい。でも、ねぇ、起きて提督
不愛想な言葉数の少ない声を聞かせて
聞いてる
?
?
頑張ったなって帰還した時いつもかけてくれたその声を聞かせて
ねぇ
?
ほら提督、頭はここ。これでバッチリ寝顔が見れちゃいます。
なんだろう、今とっても幸せ。
起きたらどんな話しましょうか、あ、アニメって面白いんですよ
絶対に付いていきますからね。
想像するだけでうれしい気持ちが溢れてくる。
も提督興味なさそう。
やっぱり武装の話
?
顔が締まらないよぅ⋮。でもいいか、私と提督しかいないんだ
?
?
あっ、提督、今度は置いてかないでね
やだ、どうしよう
もんね。
あとゲームも、で
そう、起きないんだ、じゃあ私も提督の寝顔のデータいっぱい取っちゃいますからね。
?
?
﹁にへへ﹂
提督(笑)とめろんタイム
94
あれ、なんだかさらに提督の眉間に皺が⋮
⋮ああ、せっかく声が聞けたと思ったのに⋮どんな夢見てたんですか
﹁赤城も蒼龍も助けてやりたかったな﹂
﹁そうですね。⋮でも提督頑張ってましたよデータもバッチリ﹂
ごめんね赤城さん蒼龍ちゃん、でも嬉しくて⋮、今だけは許して⋮。
がにやけちゃう⋮。
うわああぁ⋮あぁ⋮、名前を呼んでもらえるだけでこんなに嬉しいなんて、ダメ、顔
﹁⋮夕張か﹂
称︶なんですから。
一緒に提督の想いを私にも背負わせてください、なんせ、私は長野提督の愛した艦︵自
だから今度はね、私も話すことできます。こうやって触れ合うことも出来ます。
てたの知ってます。
皆を救おうとして、でも零れ落ちてしまって、それでも折れずにずっとずっと頑張っ
?
95
提督(笑)とめろんタイム
96
ちょっと訳が分からない。
ちょっと微睡んで、気がついたら夕ば⋮メロンちゃんの膝の上に頭乗せてる俺氏。
ニッコニッコですね夕b⋮メロンちゃん。
えーと、どうしよう 太もも柔らか、すべすべ、あとなんかいい匂い。でもさ、徳
田君は言った。
?
しかし、後退できない。体は床の上、頭はメロンちゃんの膝の上、床をすり抜けられ
いけって、誰か言ってた。
後はそう、目を離しちゃだめだ、山で熊に遭遇したら目を見ながら少しづつ後退して
⋮⋮下手に動くと不味くね
艦娘にセクハラするとアボーンされるって⋮。
?
る特殊技能がない限りは⋮。
もちろん俺にそんな能力は備わっていない。
くっ、何という事だ。目を離さずにメロンちゃんの太ももの感触を頭部の神経を集中
させ堪能しつつ、違う退却方法を考えなくてはならんとは⋮。
駄目だ⋮。何も思い浮かばない。しばらく動けそうにないぞ。ミック先生
││システムアップデート中⋮⋮10%⋮⋮
ほらミック先生のご助力も願えない。
なら、仕方あるまい今しばらく動かないでいよう。
身の安全のために、そう仕方ない。これは仕方ない事なんだ。
あと視線の端にチラチラ見え隠れする肌色、俺、超気になります。
大体、君セーラー服の裾、短過ぎませんかね。おなか冷えちゃうよ
さ。
﹂
そのうち俺の単装砲が暴発しちゃわないか心配だ。
﹁あ、あの、提督
おっちゃんの単装砲の試し撃ちご所望だろうか
それ
まぁメロンちゃんだけじゃなくて艦娘の皆さん一部を除き、肌色面積多いんだけど
?
!
?
﹁⋮ああ﹂
なんだいメロンちゃん
?
?
97
そもそも驚かないんですか
﹂
とか疑問もいっぱいあるけど
?
ならぜひやってくれ
﹁私の顔に⋮なにかついてます
え、めっちゃ驚いてるよ なんで膝枕されてんの
?
顔に出ないだけで﹂
君も読心術の使い手なの
﹁あ、驚いてはいるんですね
え、なに
!?
?
﹁⋮⋮﹂
ちょっと今は頭部に神経集中させてるから後回しにしてるだけ。
?
?
!
無我の境地ってどうやったら至れるんだ
教えて
あ、これが提督とつながってるってことなん
?
それ不味いってさっきの単装砲のくだりは撤回させてください。
だ⋮﹂
え
やっべっよ やっべっよ
ミック先生
!
││システムアップデート中⋮⋮10%⋮⋮
﹁⋮ぬぅ﹂
﹁ここ皺寄ってますよ﹂
秘孔を突くつもりなのか
?
!?
の感情が私の中に入ってくるみたいな
﹁普段は多分わからないと思いますよ。今はこうやって触れ合ってるから何となく提督
?
!
!
!?
メロンちゃんの指が俺の眉間を叩く。秘孔か
!
提督(笑)とめろんタイム
98
熊野神拳じゃなくてメロン神拳伝承者だったのか
!
!
﹂
色々試してみても、いいかしら ﹂ってア○バ的な実験の事だったのか
頭パッカーンとか嫌だよぉ
君の﹁さぁ
!
﹁提督、混乱してます
!
?
起きようか。
それでもエッロイ感情⋮むしろそんな煩悩しかない俺なので名残惜しいが、そろそろ
あ、うん。思考が読まれてるわけではないのか⋮、ちょっと安心。
も聞いちゃってください﹂
んとなくわかるのであって思考そのものはわかりませんから、分からないことはなんで
でも大丈夫です私が全部教えちゃいますぅ。さっきも言いましたけど提督の感情がな
﹁困った顔も⋮いえ何でも⋮そうですよね。提督、こっちについたばかりですものね。
でも頭パッカーンはやめて。
口に出してくれよ。
そのニコニコ顔の裏に隠された﹁うわっコイツ、キモッ﹂とか思っちゃってる真実を
くれよ。
おっちゃん超混乱してるよ。戦々恐々としてるんだよ。もういっそうの事罵ってお
﹁⋮ああ﹂
?
99
本当に幻滅される前に⋮。
﹂
だからメロンちゃんさん僕の額に置いたお手手をどけてくれませんかね
このままでいいですよ
?
艦娘にセクハラするとアボーンじゃなかったのか
?
﹁夕張、起きたいのだが⋮﹂
﹁え
﹂
徳田君どういう事だい
﹁⋮え
⋮そうか
?
?
た。
けど、奴もまた紳士という事か⋮、なんと罪深い。
ひゃっほーい
?
﹁お、おう﹂
﹂
という事は太もも堪能してていいのだね
﹁あれ、提督今うれしい
﹂
﹁⋮そんなコト⋮ナイ﹂
﹁ほんとですか
?
やっべ思考がピンクに染まるところだった⋮気をつけねば。
?
!
自分の艦娘が俺に触られて嫉妬したんだ。なんだ男好きじゃなかったのか⋮安心し
!
?
?
﹁このままがいいです﹂
提督(笑)とめろんタイム
100
秘技、ワダイソラーシ発動
ですか
ここの卒業生ですよね
﹂
﹂
?
う。
﹁ああ。言われてみれば⋮。う∼ん、じゃあ後で案内します﹂
?
﹁今じゃないのか⋮﹂
ああ、そういや⋮
﹁だって私、いろいろ聞きたいことありますし、提督もあるでしょう
聞きたい事かぁ⋮なんぞある
?
﹂
まぁ、実際に戦争末期の頃、彼女達の存在にうちの会社はとても助けられていたと思
的で結構な人数が集まったんだよな。
卒業後の就職先は長野重工で採用するよって条件で募集したら田舎から口減らし目
理由だったけど⋮。
英語、独語が必修で男女共学の奴。戦争末期に備えて女性工員を育てるって厭な創設
そういえば、俺も学校作ったんだよな。工業高校みたいなの。
俺の感覚だと25年前とかだけど⋮。全く同じというわけではないだろう。
﹁⋮100年以上前のな﹂
?
﹁むぅまぁいいです。そういえば、私、施設の案内をしに来たんでした。でも提督に必要
?
!
﹁それより、これからどうするのか
101
﹁俺は誰だ
﹁は
﹂
﹂
私を愛した長野提督ですよね
﹁エェ⋮愛し⋮た
﹂
あんなに尽くしたのに⋮﹂
?
いやいや、ちょっと待って そういう認識なの
﹁ひどい
あるけど⋮。
﹁⋮す、すまん﹂
確かに色々無茶させた記憶は
あ、此れなんか違う。そうじゃなくてなんで俺と認識できたか聞こうとしたのに⋮。
?
なんか誤解される言い方なんですけど⋮。
!
!
よ
特に提督と深く関わりがあった娘たちには⋮﹂
﹁もぅ冗談ですよ。姿が変わっても提督は提督です。だから皆わかっちゃうと思います
!?
?
?
?
何その過度な期待
ミック先生が不在な今、俺はただの凡人なのです。
﹁ふふ、提督が居れば何も心配いりませんね﹂
今度は深海棲艦から日本を救わな、いかんらしいな。
﹁ああ、沈んだはずさ⋮。⋮人使いの荒い神がいるようだ﹂
﹁はい、そういうものなんです。あの提督はどうして⋮その⋮金剛さんと一緒に⋮﹂
﹁そういうものなのか﹂
提督(笑)とめろんタイム
102
?
﹂
学校卒業できるかもわからんのだよ⋮。ああ、今になって心配になってきた。
提督だって私の事⋮一目で夕張だって気づきましたよね
試験って何やるんだろうね⋮。
﹁⋮だといいがな﹂
﹁提督
?
もう覚えてないよ⋮。ていうか試験日いつよ
くらいほしいんだが⋮。
まさか今日ってことはないよな
せめて教科書とか読む時間を一日
兵学校の試験は数学、英語、歴史、物理、化学と国語︵漢文も含む︶地理だったっけ
がまずい。
運動能力に関しては結構な高性能ボディだから問題ないハズ。だが、ペーパーテスト
?
でも一夜漬けじゃなぁ⋮。
⋮。
いや、今はそんなことどうでもいいんだ、図書室みたいなところで教科書を見繕って
よ。
そりゃめろんちゃんはドラム缶ガン積みで東急か、北鼠のあぶぅと並ぶエースだもん
?
?
﹁夕張は夕張だ﹂
?
103
カンペ作るか⋮。でもバレたら怖い⋮。
﹁⋮⋮っ﹂
試験落ちちゃいましたてへぺろって帰ったら妹はどんな顔するのか
別れ際にお
でも、もし落ちちゃったらダメな兄ちゃんを養ってください。実家追い出されたら戸
す。小さなプライドがあるのです。
今は祖母と孫ほどに容姿が逆転してしまいましたが、お兄ちゃんはお兄ちゃんなので
で通すように頑張ってたんだ。
失望されたらお兄ちゃんつらい。親子ほど離れた妹には常にかっこいいお兄ちゃん
の笑顔⋮じゃなくて涙を必死にこらえていた顔だったけど。
守り渡されたとき、最初に渡されたときの映像がフラッシュバックしたよ。守りたいこ
?
風邪ですか
?
籍のない⋮戸籍はあるか⋮死んでるけど⋮。
メロンちゃん目が潤んで顔が赤いですが
?
とにかく、実家を追い出されたら仕事も着けずに野たれ死んでしまいます。
あれ、どうしたの
そもそも艦娘って風邪ひくのだろうか
?
?
﹂
やっぱり
あ、メロンちゃんに試験日と内容聞けばいいんだ。とにかく対応はそれからだな⋮。
﹁夕張
?
どうしたことでしょうか⋮小刻みに先ほどから震えているが寒いのか
?
提督(笑)とめろんタイム
104
風邪か
もしや
の上官
﹂
俺氏、メロンちゃんの膝枕で極楽、プルプル震えるメロンちゃん、かつて
なるほど
お手洗いを我慢しているんだね
さぁ行ってきなさい
あれ、おかしいな違ったのかな
あ、足が痺れてるんじゃないだろうか。
もう、俺はその辺、紳士だから無言で頭どけちゃうくらいの出来る男よ
!
を叩き落とすわけにもいかず、かといって直接言うのは乙女心が恥ずかし
﹁大丈夫か
﹁うぅ⋮うぅ⋮﹂
?
うおう
なんぞなんぞ
これなんぞ
!?
?
!
い。
!? ?
?
!?
!?
そうか、なら立たせてあげようじゃないか。
?
!
105
﹁ふふ、提督が居れば何も心配いりませんね﹂
うん、本当に何も心配ない。提督に言われたとおりに動けば勝利は間違いない。
﹁⋮だといいがな﹂
また、そんなこと言って、確かに相手は深海棲艦っていう存在になったけど⋮、提督
の指揮下であればどんな敵でも負ける事なんてない。今私、すごい力漲ってるんですか
ら
言っていたけど⋮
提督だって私の事⋮一目で夕張だって気づきましたよね
?
本当にこんなに違うんだ⋮一部の例外はいるみたいだけどね。
?
﹁夕張は夕張だ﹂
﹂
私 た ち は 提 督 と い う 存 在 と 繋 が ら な い と 本 来 の 力 を 発 揮 で き な い っ て 妖 精 さ ん が
提督と繋がると、こんなにも違うだなんて知らなかった。
!
﹁提督
提督(笑)とめろんタイム
106
その瞬間、心が、体が沸騰した。
﹂
暴れだす感情。
﹁夕張
﹂
?
大丈夫じゃない
もう置いていかれたりしない、もう離れない。
抑えきれない感情が体を動かし提督の胸に飛び込んだ。
﹁大丈夫か
苦しいほどに胸は締め付けられて、なにも言葉にはならない。
﹁うぅ⋮うぅ⋮﹂
ゆっくり起き上がる提督。
?
!
107
提督(笑)とめろんタイム
108
!!
抱き着かれるのは嬉しいけど限度があ
めろんちゃん、ちょっとおおおおおおおおおお
痛いよぉ 骨がミシミシ言っとるから
りますよおおおお
!!?
!?
!!
お徳用瑞雲さんが入室しました。
お徳用瑞雲:ようお前ら久しぶり、くたばってないな
雷電☆命 :おひさ︵ ^^︶ ノ
:ウホッ
ライバック:よおっす
アァーー
!
お徳用瑞雲:今日はいいネタ仕入れてきたぜっ
!
:そんなもの俺には入らない
!
死ね
アァーー
:レ級が男の子なら性的に食われる⋮それもありだな
ライバック:うわぁ
!
雷電☆命 :私のレきゅうきゅんを汚さないで
!
!
お徳用瑞雲:テメェのケツに俺の大事な瑞雲入れるかクソホモ死ね、レ級に食われて
アァーー
ライバック:師匠と好きなだけ語り合ってろ
雷電☆命 :瑞雲の話とかもういいから。いやほんとに
!
!
?
提督︵笑︶と提督たちと時々お艦
109
お徳用瑞雲:いいから聞けよ
雷電☆命 :なんなのさ日向
:や・ら・な・い・か
ライバック:どうなのさ日向
アァーー
お徳用瑞雲:ガチホモ、テメェはだまってろ
?
!
雷電☆命 :そっかぁ久しぶりだね
:男か、女か、それが問題だ。
ライバック:ソイツ使えるのかなぁ
艸`︶
シーフードが至高でしょ
?
?
アァーー
お徳用瑞雲:まぁこれから士官学校らしいから通常で半年
ころか
雷電☆命 :私は一年かかったんだけど
︵ *
ライバック:お前は馬鹿だからだろww
雷電☆命 :なんだと
´
ライバック:日清戦争の概要を述べろ
:⋮⋮
雷電☆命 :カップ麺
アァーー
!
!
!?
?
早くても三カ月ってと
お徳用瑞雲:本題、お仲間が来たらしいぜ。さっき妖精さんが教えてくれた。
!
!
!
!
提督(笑)と提督たちと時々お艦
110
111
お徳用瑞雲:うっわぁ⋮
雷電☆命 :なんだなんだ
ライバック:逆によく卒業できたと褒めてやんよ
雷電☆命 :そこは駆逐艦愛があればなんとかなるっしょ
:他に情報は
男とか男とか男特価
!
むしろ途中で逃げ出す
!
!?
とか、駆逐艦愛について小一時間
アァーー
?
雷電☆命 :ギョウザって餃子
そしたら子がついてるから女の子という可能性に
:長野餃子⋮おそらく長野壱業氏あたりから捩ったのだろう。
ワンチャンだね
アァーー
お徳用瑞雲:あー長野信者の可能性大か⋮。
もしコイツが出来る奴で仲間になったらそ
:私も彼になら掘られてもいい
ライバック:まぁ軍艦好きが一定数存在する艦これならよくある話じゃない
ガチホモっ
!
アァーー
お徳用瑞雲:それだよそれ
!
?
!
?
同レベルww
ライバック:何、その偽名wwライバックって名乗ったら速攻で偽名扱いされた俺と
ウザらしい。
お徳用瑞雲:そんな需要、お前にしかねぇよ⋮。まぁ多分、男だろ、名前はナガノ・ギョ
!
!
!
んなこと絶対に言うなよ
ライバック:確実に荒れるなww
雷電☆命 :ねぇねぇ、たまにその長野って人の話題になるけど何者なの
お徳用瑞雲:マジかよコイツ⋮
・ω・︶
:マジかよコイツ⋮
ライバック:マジかよコイツ⋮
アァーー
雷電☆命 :︵。
:水平線のダイヤという映画がある。まずはそれを観て来なさい。
?
雷電☆命 :うん。わかった、さっそく観てくる ノシ
雷電☆命さんが退室しました。
お徳用瑞雲:教育って大事だよな⋮
ライバック:あのレベルがゴロゴロいてたまるか
!
:そういえば、二人はこちらであの映画見たかね
お徳用瑞雲:いや、向こうでは何回も見てるけど
アァーー
?
!?
お徳用瑞雲:マジかよ
くわしく
ライバック:あ、俺は見た。こっちと向こうじゃラストがちょっと違うんだよね
?
アァーー
´
!
!
!
!?
ライバック:俺たちのいた世界だと最後に彼が書いた恋文が字幕で流れたじゃん
?
提督(笑)と提督たちと時々お艦
112
113
お徳用瑞雲:うむ、その後色んなアーティストがカバーしたあの名曲が流れるわけだ
よな。俺はAZUが歌うやつが好き。
アァーー :こちらだと彼が戦死した日付が字幕に出て終わる、そして曲は違う曲だ。
アァーー :そんな事があったのでな、この世界と我々のいた世界の差異ついて調べ
みに俺は柳かおるちゃん派
ライバック:まぁラスト以外は一緒だったと思うから初見なら問題ないでしょ。ちな
私はカタストロフィ派
!
お徳用瑞雲:やめろよ調子にのるだろ
か知らない。
お徳用瑞雲:ほう
お徳用瑞雲:なんで
そして封印。
ライバック:深夜のテンションに任せて書いたラブレター。翌朝読みかえして悶絶。
?
ライバック:長野氏にとっては良かったのかも
?
アァーー :まず、その曲がない。いやあるが世に出てない。基本、長野家の人間し
!
ライバック:意外と優秀なホモちゃんww
たことがある。
!
!
提督(笑)と提督たちと時々お艦
114
ライバック:封印したはずなのに学校に行ったら何故か教室の黒板にそれが張り出さ
ねぇけど気持ちは分かった。首括りたくなるな。
れている。そんな経験ありませんか
お徳用瑞雲:ねぇよ
?
アァーー :基本的には左程の差異は無かった、私の記憶違いでなければ内閣の任期
!
:だが、日米秘密会談暴露事件の存在がなかった。
が数日前後したくらいの差だ。
アァーー
お徳用瑞雲:講和条件の話し合いの奴がか
:そうだ。この世界で内容開示されるのは5年後になるのだろう。
ライバック:なら、米大使館包囲事件とかも無かったってこと
!?
お徳用瑞雲:おいおい、それじゃあこのログ漁られたら不味くね
ライバック:そんな下手は打たないから安心するがよいぞww
お徳用瑞雲:そうか、でも何で気づけなかったんだ
アァーー :うむ。公然の秘密扱いというやつだな。米政府も公式謝罪したとはい
れたとはいえ一応、機密だから。
ライバック:そもそも俺らの世界だってその事は教科書じゃ教えないじゃん。暴露さ
?
アァーー
?
!
!
!
ライバック:じゃあ、朝鮮戦争は問題なくチームブルーで参戦できたのかな
え、きちんと載るのはこちらも5年後になるんだろう、
!
115
アァーー
:おそらくな。ソ連の離間の計がなかったという事だからな。
お徳用瑞雲:スターリン、マジで恐ろしい男だな
:だからこそアメリカも公式謝罪だよ。腸煮えくり返っただろうがな。
ないくらいあるよね
ちょっとおかしくない
お徳用瑞雲:何がおかしんだ
?
こっちもあっちも超でかい企業体じゃん
:歴史の差異はそれくらいだが、もう一つ長野グループの存在。
お徳用瑞雲:長野グループ
?
世界だからだと思うし何か変
アァーー :その辺は我々の世界でも確立していたのだろうが、この世界では石油関
?
ライバック:バイオ燃料技術とか、一部はこっちの方が進んでるとは思うけどこんな
?
アァーー
お徳用瑞雲:ああ、そうか
ライバック:こっちの世界だと未だ戦犯扱い。
?
?
ライバック:なるほどねぇ。でもさ、そうなると長野氏の人気は俺らの世界と変わら
アァーー
とでその辺ながもんに聞いてみよ。
ライバック:俺らの世界だとあわやチームレッドになりかけるところだったしね。あ
!
!
!
!
ライバック:だよね。じゃあ何が変なの
?
連企業の兼ね合いとか気にしていられないからな。
!
提督(笑)と提督たちと時々お艦
116
アァーー :簡単に言えば我々のいた世界より力が強い。こんな世界だからと最初は
アァーー :うむ、その事は頭の片隅にでも置いておいてくれ、恐らく長野グループ
お徳用瑞雲:別名、変態技術企業だしな
くらいにしか思えないけど。
ライバック:まぁ長野氏が作ったチート企業だからねぇ。何かやらかしても、またか。
思ったのだが、どうやらそれだけではなさそうだ。
!
ともあるでしょねぇ。
?
はあっただろう。
ライバック:うん
てことは関東管領の部下の長野
?
アァーー :直系は安土桃山時代に全滅してるから庶流だろうけどな。備前長船の別
?
アァーー :いや、もともと長野家は在原氏の流れを組む名門ではあるのだから下地
一代でそれ引き継いで今の大きさ築くとか女帝もやべぇな
お徳用瑞雲:てかこの一族、おかしいの多くね
壱業氏が飛び抜けて変態だけど。
ライバック:女帝ふみのんは未だご存命だしね。じゃあ、この国に対して何か思うこ
で昔から長野壱業氏の名誉回復に努めていたのだろう
!
!
ライバック:うわぁ。あそこの一族は国を守るために死ぬのが定めなのか
名雷切兼光が伝わっていることから信憑性は高い
!
:ああ、私は出来れば刀剣乱舞の世界に行きたかったのだ⋮。
お徳用瑞雲:お前ら詳しいな。
アァーー
:おかえり。
お徳用瑞雲:あれ、はやいな
?
アァーー
´
ライバック:どしたん
;ω;`︶ウッ⋮
雷電☆命さんが入室しました。
ライバック:俺、信長さんの願望シリーズやりこんでたから。
!
!
雷電☆命 :もう観るのが辛い︵
﹁⋮⋮﹂
117
提督(笑)と提督たちと時々お艦
118
なんか誰かに噂されている気がする。
あれから何とか離してもらって学校の施設を案内してもらった。
メロンちゃんタップしたのに、もっと強く抱きしめて来た時には昇天しかかった。
きっとメロンちゃんは俺にこき使われていたことを恨みに思ってたに違いない。
一応、混乱を招かないために俺は偽名というか本人ではないことにしてると説明した
ら、
私と提督だけの秘密ですねと強調されたわけだが、脅すためのネタが出来て嬉しかっ
たのではないか。
いや、さすがにそれは考え過ぎだな。メロンちゃんそんな娘ちゃうよな。おっちゃん
反省。
まぁ、施設の方は多少改装とか施されてるけど昔と変わらないのでそれほど時間がか
からなかった。
試験の方も学力試験は中学卒業レベルの試験だってさ。しかも余程酷くなければ合
格になるらしい。
そもそも艦娘を指揮できる能力がある奴が圧倒的に少ないのだから多少の馬鹿でも
使えるなら使わないとやってられないとの事。
テンパって損した。
119
この海軍士官学校で提督を目指す 特殊兵器指揮運用科 なる科の入学者は10人
もいないそうだ。
目指すといってもほとんどが提督に成りたくて来た訳ではない。特別法に基づいて
徴集された者なので意欲もあまり高くないとの事。
まぁ気持ちはわからなくもない⋮。
明日、というかもう今日になるのか、あと数時間で、日が昇って朝になれば試験が始
まる。
現在深夜です。5500トン級の長女が本気出す時間。ここにはいないけど。
何をしているかと問われれば 夜の散歩さ と答えよう。
深夜徘徊ともいう。
ちゃうねん。ちょっとお昼寝しちゃったら眠気すっ飛んで目が冴えてもうたんや、全
く困った体やわぁ 24時間、寝なくても大丈夫。⋮じゃないけどまぁ昔から睡眠時間
は少ない方だし
まぁ煙草も持ってないんですけどね
これを機に禁煙でもしようかね⋮。
!
本当は煙草で一服とかしたいんだけど学校内禁煙だってさ時代かねぇ⋮。
問題ない問題ない。
?
提督(笑)と提督たちと時々お艦
120
そういえば艦娘の教員役は香取、鹿島、夕張、あと鳳翔と比叡らしい。
比叡は海軍軍縮で練習艦にされてたもんな、条約切れたら速攻で改修入って戦艦復帰
果たしたけど⋮。
そこになんで夕張 って思ったけど結構な数の艦娘の皆さんが指揮官不在の宙ぶ
明日は誰かに会えるかな
ミック先生
早く復活してくれなきゃ日本を救えないヨ
大体、俺はそんなに物事をを深く考えてないでしょうが。
ヘイ
!
おっとイカンイカンおセンチな気分でゴローちゃんになってしまった。
なんだ。
モノを考える時はね、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメ
夜の海ってなんか落ち着くんだよね。ハギィは怖いって言ってたけど⋮。
気がつけば表桟橋。空を見上げれば半月。
?
それでいいのかメロンちゃんと思ったが本人気にしてなかったし、いいか。
何となくってなんだよ⋮。
で、何となく兵装に詳しそうな奴ってことで選ばれたらしい。
らりん状態だそうです。
?
!
││システムアップデート中⋮⋮11%⋮⋮
!
これ、何か法則あるのかねぇ⋮。桟橋の先端まで行き腰掛け再び、空を見上げれる。
こういう時はアレだな。
﹁⋮月を肴に一杯やるか﹂
超ビックリしたよ
ビクッ
ってなったよ。
いや、手ぶらなんだけどね。流石に海水でってわけにはいかん⋮。
妖精さんまじ妖精さんだしっ
﹁ああ⋮ありがとう﹂
煽る。
﹂
鼻を抜ける甘い香りの割にのど越しは辛口だ、⋮悪くない。
﹁君は飲まないのか
﹁きょうはん
﹂
﹁イタダキマス。キョウハンダ﹂
?
⋮⋮おいっ
﹁サケ コウチョウカラ ギンバエ﹂
しかも共犯にしやがった
!
?
!?
何さらっと、とんでも発言してんだよ
!?
でも喉乾いてたし、有り難くいただくとする。妖精さんから受け取った一合升を一口
!?
﹁ドウゾ﹂
!
気がつけば一升瓶を抱えた妖精さんが隣に座っている。
!
121
﹁ミツカラナケレバ ヨカロウ ナノデス﹂
﹁⋮そうだな﹂
確かに見つからなければよかろう。
こんな深夜の桟橋に人なんて来るわけないんだ⋮。
あ、これフラグかも⋮。
﹁ア、ヤベェ﹂
﹂
妖精さんが何かつぶやいたが、俺には何も聞こえてないし、俺は決して後ろを振り向
かない。
何故なら常に前だけ見るナイスガイ。
﹁見つかった場合はどうするのでしょうか
なにぃ
それはないだろ
ブルータスっ
まさかの裏切りにおっちゃん驚愕。
!
﹁コイツガヤリマシタ﹂
!?
いや、俺に嫌疑が掛からなくてよかった
ゴメンナサイ ワタシガヤリマシタ﹂
もうちょっと粘れよ
!
!
折れるの早いな
!?
﹁バカナ
﹁そうですか、致し方ありませんね明日からはおやつは抜きにしましょう﹂
!
俺には後ろから女性の声は聞こえない。アーアーキコエナーイ
?
﹁⋮⋮﹂
提督(笑)と提督たちと時々お艦
122
けれども
﹁あら、⋮なんだかとても懐かしい感じが⋮って、提督
﹁⋮⋮ああ﹂
﹂
﹁貴方も今回は見逃しますから、もう寝た方がよろしいですよ
﹁ハイ﹂
﹁それじゃあ、校長先生に謝りに行きましょうね﹂
!
そもそも艦時代の記憶とはどの辺まで及ぶのだろう
れたのか
﹂
?
﹁あぁ⋮鳳翔か、久しぶり⋮になるのか
﹂
﹂
機関が止まれば記憶も途切
あらごめんよお艦。思考に沈んで無視してしまったようだ。
﹁⋮⋮あの、長野提督
船体がバラバラにされ⋮これ以上は考えるの止めよう。
それとも水底で沈んでいった時まで記憶が残っているのか⋮。
?
?
まぁ、でも天一号のお見送りの時は提督か⋮。
君に乗ってた頃は搭乗員に過ぎなかったと思うのだけど。
ね、
メロンちゃんはまだしも、ゲームじゃないのに俺の事、なんで提督って呼ぶんだろう
?
?
123
?
提督(笑)と提督たちと時々お艦
124
⋮⋮俺的には艦の鳳翔とは別れて一週間位しか経ってないけど⋮。
激動の時代すべてを見てきた彼女は今、人の身となって何を思うのだろう
?
提督︵笑︶震えて眠る
1945年︵昭和20年︶8月4日
三日月の元、飛行甲板の端、その男は酒を呷っていた。
﹁∼∼∼♪︵ドヤァ︶﹂
今のめっちゃ会心の出来だっただろ
││80点
嘘だろ
!?
ざっけんな
この一曲に何年費やしたと思ってるんだ
!
││30年8カ月です。
!
││ビブラート、抑揚、リズムを改善すると良いでしょう。
!?
125
お、おう。もうそんなに経つのか⋮。
なんて
本当はこういうバラード的なやつじゃなくてアップテンポなハードロックとかが歌
いたいねん。
その練習に費やす時間がちょっと多過ぎやしませんかね
なんでいきなり煽ってきやがった
!?
││現状、詩の朗読にしか聞こえませんので練習が必要です。
知ってます
不便な体なのさ
││ざまぁ
おい待てミック先生
!
ただ俺をディスってるだけだから
ビックリするから音も立てずに近づいてくるのやめてくんないかな
﹁⋮主計か﹂
!
ぎません。
今の掛け合いじゃないから
お、おう。あ、やっぱりいいや、もうすぐ⋮⋮な。
││情報を収集し、さらなる改善を行います。
!
﹁はい、聞いたことのない曲ですが⋮﹂
!?
││以前、掛け合いを楽しまれたいと仰られてましたので、命令を実行しているにす
!
!
!
﹁⋮良い歌ですね﹂
提督(笑)震えて眠る
126
おいおい、いたんならもっと早く声かけろよ。一人で熱唱してる痛いおっさんの図
じゃないか
!
﹂
?
遣いだよ。
マジやぞ
夏だからってそんな涼しさ求めてないんだよ、そんなのいらん気
これ以上なんか言ったら甲板から突き落とすからな
!
!
じゃない⋮しし⋮。
﹁⋮月が綺麗ですね﹂
﹁おい、馬鹿やめろ﹂
!
!
何で今そのセリフ言った言え
あ、やっぱり言わなくていい。
べ、別にビビってないし 決して両サイド見るのが怖いから月をガン見してるわけ
!
おいばかやめろ
ね。大体、ここまで来れるわけがない﹂
﹁その、長野提督に寄り添う二人のご婦人の姿が見えたような気が⋮いえ、気のせいです
﹁どうした
やめろよその言いかけてやめるの、超気になるじゃん。
﹁⋮わかりました。ところで⋮いや、⋮気のせいか、何でもありません﹂
見なかった事にしてくださいお願いします。
﹁忘れろ﹂
127
というか、咄嗟に振り返ったが、君は何で目が潤んでるんだい
いやそういう意味ではありません
⋮提督も漱石を
マジで俺ノンケなんで勘弁してくれ。いま、違う意味でゾクッとしてるんだけど
読まれたりするのですね﹂
﹁し、失礼しました。⋮あっ
!
?
!
我ながら体を壊さなかったのが不思議なほど生き急いでいたもんな。
いっても趣味に費やす時間なんてほとんどなかったけどな。
現 代 に 比 べ て 娯 楽 の 少 な い 時 代 だ か ら な そ れ く ら い し か 趣 味 を 持 て な か っ た。と
やすい。
じゃないし、伊豆の踊子なんて、開始2ページで諦めたくらいだ。その点、漱石は読み
ミック先生に聞きながらって手もあるんだけどそこまでして読むほど読書家って訳
てあんのかよくわからん。
まぁこの時代で読める書籍って多くないからな。やたらお堅い文字が並んで何書い
﹁⋮ああ﹂
!
﹁そうだな﹂
俺も主計も月明かりに浮かぶ大和を見つめていた。
﹁⋮いよいよですね﹂
提督(笑)震えて眠る
128
129
全く、イカレた世界だ。もう、残された時間は少ない。
⋮天一号作戦が実施される。
遅延させてどうなる 辛うじて本土の空襲は防いで
そもそも、大本営の戦略がもう破たんしている。
特攻による遅延作戦だと
いるものの、いつまでも持たない。
いや分っているが認めたくないのか⋮。
被害だって少ないながらもでているんだ。もう詰んでる。それを分っているのか
?
んで古い暗号使うんだよ
ようやく更新がなったと思ったら、ブーゲンビルでやっぱり長官が戦死するし⋮、な
自信持ってんだよ。
大体、暗号漏れてるって何度も言ってんのに無視しやがって、なんでそんなに絶対の
?
?
よチクショウ。
軍のプライドだけで戦争してんじゃねぇよ
!
いか。アメさんも焦ってはいるんだ。
とっとと負けを認めちまえばいいんだ。今ならまだ間に合う⋮いや、もう間に合わな
巻き込んだ泥沼の戦いだぞ。
クソが。その先にあるのは一般人を
アホかアホなんだろうな⋮。おかげでアメさんのぶっ殺したい奴ランキング一位だ
!
厭戦気分が国内で高まってきている。何としても新型爆弾落として日本に止めさし
て払拭したいのだ。
もっとうまく立ち回れたんじゃないのか
それだけは絶対に阻止しなきゃならん。巻き込まれるのは軍人じゃなくて一般人だ。
くそ、くそ
?
いっそすべては破壊した方が今後の為なんじゃないのか⋮。
考えれば考えるほど思考があちこちに飛び、纏まらない。
なんで、こんなに、こんな事に⋮。
﹁⋮提督﹂
﹁すまん忘れてくれ﹂
?
和を謳歌していたではないか。
それを考えたら⋮俺のやってきた事ってなんだったんだろうか
かせて国を疲弊させた
?
ただ、戦争を長引
後苦しい時期はあったとしても日本は世界のATMだとか腰抜けだとか言われても平
何をやっても結局無駄だったんじゃないのか。俺の独り善がりで⋮、そもそもだ、戦
ぎる。
軍人じゃなくて政治家として活躍すれば⋮、いや、それも無理か。軍の影響力が強す
!
﹁⋮この国は守る価値があるのか﹂
提督(笑)震えて眠る
130
こんな弱気な態度では士気にかかわる。弱気になるな。もう最後にかけるしかない。
﹂
絶対にあの爆弾だけは落とさせちゃならん、あとは野となれ、山となれだ。
﹁⋮何か仰られたのですか
俺の所に来て今に至ると。
﹁それで、主計。何しに来た
﹂
彼曰く、どいつもこいつも幼稚に見えるらしい。で、開戦前に五十鈴の艦長していた
なかったらしい。
へ行くという経歴を持つ。で、卒業後は色んな軍艦に乗ってたらしいがあんまり馴染め
成績は問題ないが少しだけ色弱みたいで落とされ、それでも海軍への憧れから経理学校
出来る男だね。いや本当に。この主計さん、本来は海軍学校に行きたかったらしい。
?
北にも回さにゃならんし油と搭乗員がいないというね⋮。
うまくいけばたどり着くことが出来るんじゃないか。他に稼働できる空母はあるが
これお願いと頼んだ時の堀越さんの達観した目はプライスレスだ。
しかも設計監修がミック先生で後は堀越さんに丸投げの烈風ガン積みですぞ。
まぁ、大和の方には史実と違い瑞鶴いるしな。
﹁⋮そうか、あとで礼を言っておこう﹂
﹁はっ、大佐の計らいで浦風、時津風はこちらに回していただけるとの事です﹂
?
131
本当にもういっぱいいっぱいなんだよな。
アメさんの物量がほんまにチート過ぎる。
﹂
ああ、主計をずっと立たせておくのもあれだな。
﹁一杯やるか
俺の隣に腰掛け、懐からお猪口を取り出す主計。マイお猪口
﹁では、いただきます﹂
﹁⋮美しい艦だな﹂
酒を一杯煽り、大和を眺める。
用意がいいなヲイ。
戦艦の究極形態、そこにいるだけで圧倒的な存在感。つまり何が言いたいのかという
大和を見れたことだろうな。
上が箱入り娘にしたがるのも分る。この時代に来て海軍に入ってよかった事一位は
!?
?
と超かっこいい
!
いや、冗談じゃないんだけどなぁ。
﹁御冗談を﹂
﹁⋮なら、最期に派手にやってやるさ。君は降りてもいいんだぞ
﹂
このリアリストめ。確かに航空機主体の戦に移り変わったけども。
﹁⋮そうですね。ですが、戦艦の時代は終りました﹂
提督(笑)震えて眠る
132
?
﹂
月光を浴びて静かに海を見つめるその人の哀愁を帯びた背中。
﹁あぁ⋮鳳翔か、久しぶり⋮になるのか
ないものなのか。
最期に会った時は愁いていた貴方、今もまた何かに愁いているのでしょうか
駆け寄りその背に寄り添うことを貴方は許してくださいますか
?
?
ああ⋮人の体というのはこんなにも胸を焦がすものなのか⋮こんなにも制御の利か
見間違えるはずも無い。近くにいるだけで感じるその存在が改めて本物だと告げる。
こちらを振り向くこともせず、ただただ海を眺めるその人。
?
133
﹁提督
﹂
﹂
!?
﹁サーセン﹂
﹁怒りますよ
﹂
﹁コマッタコマッタ﹂
言われて状況を確かめてみれば顔に熱がこもる。
﹁妖精さん
﹁ホウショウ、ウレシソウ﹂
﹁はぁ。もう驚かせないでください﹂
﹁ネテル﹂
る。
かくりと提督の頭が下がりそのまま海へと落ちそうになるのを走り寄って抱き止め
!?
?
﹂
!
﹁⋮はっ
いけないわ。と、とりあえずお部屋まで運びましょうね﹂
人の身になってとても言葉では言い表わすことのできないこの感情⋮。
このいたずら好きの性格はどうにかならないのかといつも思う。しかし⋮ゴクリ。
﹁妖精さん
﹁ワタシハ ナニモ ミテイマセン イマナラ⋮ゴクリ﹂
﹁でも本当に困りましたね﹂
提督(笑)震えて眠る
134
!
﹁オモチカエリ﹂
﹂
!?
﹁⋮今度は私もお力になります⋮貴方をお守りいたします﹂
そんな彼にまた茨の道を歩ませるというなら⋮
この人もまた彼らと同じように心に傷を負っているのは当然。
戦地から帰って来る者たちの多くは心に傷を抱え、発狂していた者も多くいた。
戦後、復員輸送艦として働いていたからこそ分かる。
自分の腕の中で恐怖で震える彼。
﹁あぁ⋮﹂
この世界は、また彼にこの国を守らせようとしているのか。
にこの世界の不条理さに嘆きたい。
そんな人がまた目の前に現れたのだ、勿論嬉しいという気持ちはあるけどそれと同時
ずっと苦悩の中で生きてきた彼が、それでも何かを誰かを守るために命を散らした。
どうしてこの人が⋮、最期に会った時、少しだけ漏らした本音。
眉間に皺を寄せて眠る懐かしい人を抱き抱えながら考える。
﹁妖精さん
135
提督(笑)震えて眠る
136
普段、穏やかな彼女の瞳には決意の籠った強いものだった、その腕の中プルプル震え
る男を抱いて彼女は誓う。
昨日、桟橋で一口、二口煽っただけだよな
うぅ、頭が痛いナリ⋮。
二日酔いか⋮
?
よしっ
開けちゃうぞ開けちゃうからな
目を開けるの怖いな。でも確認しないわけにはいかないよなぁ⋮。
んな馬鹿な事あるわけない⋮。
この枕、心音と悩ましい声出すのだね、おっちゃんビックリ。
﹁んっあっ⋮あっ⋮﹂
この顔をうずめてる柔らかな枕⋮。トクン⋮トクンって。
布団の中に入った覚えないんだけど⋮なんだかすごい心地がいいな。
あれ、記憶が飛んでるな⋮。
?
少し視線を上げて色っぽい鎖骨。
まず目の前に広がった肌色。
﹁⋮⋮﹂
!
終った⋮。アボーンされる。せめて苦しまないようにお願いします。
結果、ちょっと着崩れた着物姿のお艦をがっつり抱き枕にしておりました。
さらに視線を上げると困ったような顔で頬を染める⋮お艦。
!
137
え
ていうか何で
なんで一緒にお布団入っているのかな⋮。
﹁⋮大丈夫。大丈夫ですから﹂
だ。
これ、二日酔いなのか
物理的に⋮酷い二日酔いのような頭痛
アレェェェェ
そんな言葉とともに優しく頭を撫でられる⋮。
アレェェェェ
なんで
アレェェェェ
!?
そんな事よりどうするんだよこの状態
!?
やっぱり終ってる。後生や後生やから、きりんぐみーそふとりーてオナシャス。
え、知らないうちに甘い言葉でお艦を口説き落として今に至るとか⋮⋮無いな。
そっから先の記憶がないのですが⋮。
待て待て、よく思い出せ最後の記憶は⋮表桟橋で酒煽ってお艦が来て⋮それで⋮
!?
絶賛、大混乱中だよ うおおお頭も痛い
なんで
!?
﹁な⋮ん⋮だと
﹂
!
!?
全く記憶にないぞ
なんて勿体ない⋮。
声の方へ視線を向ければ妖精さんが枕もとで二ヤついている。
!?
?
!
!?
?
!?
?
?
﹁ユウベハ オタノシミ デシタネ﹂
提督(笑)震えて眠る
138
﹁ちょ、妖精さん
違いますから 提督っ
!?
﹂
﹁え
やっべ
﹂
﹁え
?
つい本音が⋮。
な、なにもありませんでしたから
!
お艦マジ菩薩だし。ありがてぇありがてぇ⋮。
しっかし頭が痛い。こんなに酒弱かったっけか
はずだが⋮。
﹁あの、提督どうかされましたか
﹁⋮二日酔いのようだ﹂
﹂
そこ
いやらしい想像しない
﹂
!
あ、
!
﹁それは大変です、お水お持ちしますね﹂
なんのこっちゃい
?
?
﹁チガウ タンジカンデ ツナガッタカラダ﹂
短時間で繋がった
!
決して強いほうではなかったが一合も飲み干さないうちに潰れるなんてしなかった
?
とにかくアボーンはされなくて済みそうなのだ余計なことは言わない方がいい。
﹁⋮いや、なんでもない﹂
!
?
﹁残念だ⋮﹂
そうか無かったのか⋮それは非常に⋮
!
?
139
俺か。
﹁何の事でしょうか
﹂
?
それを士官学校で時間をかけて鍛え、伸ばすのだそうだ。また、提督によって艦種に
のキャパシティの問題がある。
指揮下に入ることを了承しても。提督の能力、どれほど艦娘を従えることが出来るか
る。
故に、反りが合わない提督とは繋がり⋮いわゆる指揮下に入ることを拒むことがあ
が多い。
しかし、人の身になった事で艦娘本人の艦時代の影響が趣味や嗜好、性格に出ること
とってご都合主義なことだ。
だが、提督という存在がいなければそれらの力が十分に発揮できない。なんて提督に
た。
航行、砲撃、処々の判断は人の身になった事で艦娘本人と妖精さんの力で可能となっ
が必要だ。
艦娘という存在は本来は軍艦である。軍艦であるのならそれを運用し指揮するもの
そこから始まる妖精さんによる提督と艦娘の関係の講義。
﹁ツマリ﹂
提督(笑)震えて眠る
140
141
よって適性が異なり、
駆逐艦しか指揮できないもの。こいつは変態という名の紳士だ。とか、戦艦は運用で
きるが空母は無理とか、
オールラウンドで指揮できる奴が少ないのだそうだ。それで、一部を除き宙ぶらりん
の艦娘が多いのだそうだ。
で、一部というのが非常に戦闘能力は優秀なのに誰の指揮下にも入りたくないという
娘も存在するんだとか。
軍から要請があれば協力はするのだが、提督なんぞ要るかボケェの困ったちゃん達な
んだとさ。
で、教員役の艦娘たちを通して提督の艦種の適性を見極め、または適性を広げるため
訓練なども行うと。
おおよそ、こんな感じである。そんで俺氏含めた転移組もこの世界の人よりは断然大
きいがキャパと適性という枷はついてくる。
指揮下に艦娘を置くとき提督との繋がりというものが出来るのだが、これが結構提督
の体に負担をかけるらしい。
俺は一日でメロンちゃんとお艦をいつの間にか指揮下に置いていたのだが、その反動
で頭が痛いのだそうだ。
提督(笑)震えて眠る
142
なんか無料Wi│Fiスポットになった気分だわ。
ちなみにこの話を聞いていた時お艦に抱き着いたままである。
意識を妖精さんに集中してエッロイ感情が漏れ出さないように苦労したぜ。
丙判定 艦娘の艤装を触って気分が悪くならない。
乙判定 丙および妖精さんと意思疎通可能。
甲判定 乙、丙および艦娘を指揮する能力あり。
⋮何それ超怖い。
でキャハハウフフを想像したら強面のおっさんがぶち壊しに来る。
大体、高校卒業間近とかに⋮。せっかく、一流大学受かって楽しいキャンパスライフ
で、ある日突然、適性のある者はスーツ姿の強面が家にやって来るらしい。
ばどの適性なのか知らずに過ごす。
甲乙丙の適性判定を受け、結果は厳重な機密扱い。本人すらも適性があるのか、あれ
軍人事法なるもの影響で15歳くらいの時にそれが行われるらしい。
ところで、提督になるためには︵なりたくなくても︶適性試験を受ける。例の特例海
│ペキッ
芯が折れてもまたニョキっとペン尻を叩けば出てくるんだから。
シャープペンて偉大だよね。もちろん鉛筆を馬鹿にしているわけではないよ。
提督︵笑︶試練の時
143
提督(笑)試練の時
144
全国にある中学、高校に艤装の一部だけならともかく妖精さんと艦娘を連れていくの
は困難である。
それでも国の存亡がかかっていたから最初のころはそんな無茶やったらしい。
でも今はそんな問題解決した。
、
ユーリエちゃんがもっていたタブレットである。
あれ、妖精さん印らしいよ。アレは普通の人だと反応しないんだってさ、謎技術過ぎ
る。
本人に画面が見えないように触らせてタブレットの反応見て適性が一発でわかるん
だって、うむ、やっぱり謎技術過ぎる。
で、タブレットは無事に提督になれたら皆もらえるんだってさ、エッロイ動画見ると
妖精さんに筒抜けになるから気をつけろ。
まぁ、いつの間にか艦娘を2名ほど指揮下に置いた俺には関係ない話なんですけどね
⋮。
俺氏、現在は普段使われてない教室で学力試験中です。
ついでに指揮下に置いた一名様が艤装を展開して威嚇してる。誰をって
かとり⋮カトリーヌ先生をだ。
?
蒸栗色の髪、眼鏡にタイトスカート。Sっ気のある美人教師といった雰囲気を持って
﹂
いる彼女に、ちょっとセクハラでもしたら厳しく躾けてくれそうなんだよ⋮。
何しちゃってるのさメロンちゃん。
﹁あの、夕張さん。⋮どうしてこちらに主砲を向けられているのでしょうか
﹁気にしないでください﹂
いや、気にするでしょう
あと、こちらを向かないで
君がこちらを向く。
!?
﹂﹂
?
思わずハモった。
﹁﹁なんの
﹁今、緊急時なんです﹂
そうだそうだ、もっと言ってやれ。
﹁緊急時以外は室内での艤装の展開は禁止のハズですが⋮﹂
あ、またシャー芯折れた。
││ペキッ
すると、なんて事でしょう。艤装もこちらに向くのです。
!
怖いよね。俺なら向けられたら、ちびってる自信あるよ。
に似合わぬ重武装だ。
若干、顔の青いカトリーヌ先生、気持ちは分かる。メロンちゃんのコンパクトボディ
?
145
﹁私語は謹んで試験に集中してください﹂
真面目か いやそれは悪い事ではないが⋮、この状況で集中ってできるわけない
じゃん
!
すからね﹂
分 っ た か ら 艤 装 を こ っ ち に 向 け な い で
ちゃうから
│パキッ
!?
ほら、またシャー芯が折れたじゃないか。
﹁そうだな﹂
﹂
?
!
ち び る か ら。俺 の 単 装 砲 が 縮 み あ が っ
﹁⋮いいですか提督、この学校に在学中は私と鳳翔さん以外の艦娘に接触しちゃダメで
﹁⋮⋮﹂
誰のせいで集中できないと思ってるんだ⋮お前が言うな。
づかないでください﹂
﹁そうですよ提督。提督は試験に集中していてください。香取さんはそれ以上提督に近
メロンちゃんに大砲向けられてるのに、試験は全うしようとしてるんだから。
それよりもカトリーヌ先生も意外と肝が据わってるのね。
!?
﹁自分の提督が出来たのが嬉しいのは分かりますけど、ちょっとやりすぎですよ
提督(笑)試練の時
146
﹁はい、長野君は黙って試験を受けてくださいね﹂
この空間に俺に味方はいないのか⋮。
﹂
思わず素で突っ込めたわ。
﹁⋮長野君⋮。提督、私も長野君って呼んでもいいですか
﹁なんでだよ
どうしてそうなる
れたりしませんか
﹂
?
深夜アニメとか見て影響受けたのだろうか⋮。
﹂
そういや、艦これでは夕張ってアニメとかゲームが好きな設定だったんだっけ
いや、そんな事に同意を求められたって困るんだけど⋮。
?
﹂
?
?
ですよ﹂
﹁⋮はぁ、わかりました。私はこちらに座ってますから。ただし、カンニング行為はダメ
﹁⋮そうですね。すいません。でも、香取さんは私の提督に近づかないでください﹂
困るのはあなたの提督さんではなくて
﹁あの、試験に集中していただけませんか 夕張さんも大人しくしていただけないと、
かに⋮。
他は結構、忘れてることとかあるんだけど、艦これの知識の劣化だけないとはこれい
?
﹁だって、学校にいるんですよ 同級生の男の子と女の子のシュチュエーションに憧
?
!?
!?
147
足を組んで座るカトリーヌ先生。なんかエロイし超見てたい。
﹁そんな事しなくても大丈夫ですよ。ね、提督﹂
だけど、メロンちゃんが近くで俺の事ガン見してくる。
﹁今は、話しかけるんじゃない﹂
また、カトリーヌ先生に怒られちゃうだろ
本当に分からないだけだから⋮。
さっきからこんなことばっか言っているけど⋮、
んが俺の答案用紙を見ながらブツブツ言っておられる。
艤装をしまって教室の後ろに積んであった椅子を持ち、俺の真横に座ったメロンちゃ
﹁なるほど、目立たない為に敢えて高得点は狙わない⋮策士だ⋮﹂
?
言い訳させてもらえば、いきなりのぶっつけ本番だから教科書的なものを見ることも
なんだかんだで叶わなかったんだよ
!
﹁はい、それじゃそこまで。夕張さん答案用紙をこちらに﹂
提督(笑)試練の時
148
﹁はーい﹂
うか
ちぼうけである。
声を潜めてそんな事を聞いてくるメロンちゃん。
﹁ねぇ提督、香取さんと艦時代に会ったりとかしなかったんですか
それくらいの認識
彼女がクェゼリンに行く経由で見かけたと思うが⋮、ト
というかあと一日出港が遅れてたら危なかったんじゃないか
ラック空襲の際も帰還兵乗せてうまく逃げ切ってた。
トラックで一度か二度
﹁⋮香取か﹂
?
?
?
﹁すれ違った事があるくらいか﹂
だな。
﹂
そう言って俺の答案を採点を始めるカトリーヌ先生。採点が終わるまでしばらく待
さんと相性が良かったのですね﹂
﹁学力試験を受ける前に艦娘を指揮下に置いたなんて前代未聞ですからね。余程、夕張
?
はぁ、やっと終わった。まぁ、50∼70点の間位は全教科取れてるんじゃないだろ
が⋮﹂
﹁じゃあ今から採点しますね。といっても余程ひどくなければ合格間違いなしなんです
149
﹁なら一先ず安心なのかしら
なんの話だね
﹂
?
だから、何の話だ
また一人でうなり始めたぞ。
﹂
﹁あとは要注意は比叡さんかな⋮あ、鹿島さんは第四艦隊の旗艦だった⋮って事は⋮﹂
?
?
動不能。
お艦、関節決めつつ状況を説明。
?
君、授業とか受け持ってないのか とか、色々疑問には感じてたけど口にはしない。
スの如く俺から離れない。
そんな朝の穏やかな一コマがあったわけですが、メロンちゃんがシークレットサービ
お艦は強しとは言ったものである。お艦に逆らわない事を俺氏、深く誓う。
その間俺、口開けたまま固まってたと思うよ
意味が分らなかった。
メロンちゃん何故か艤装を展開。しかし艤装を展開した瞬間、お艦に関節決められ行
朝、お艦とともに部屋を出る。メロンちゃんダヨ
に遭遇。
もうその話はいいんじゃないかなぁ。散々説明したじゃん⋮お艦が。
﹁⋮提督、本当に鳳翔さんと何も無かったんですよね
?
?
﹁⋮ああ﹂
提督(笑)試練の時
150
なんか凄く、鬼気迫る迫力だったんだもの。
?
﹁採点終りましたよ。問題ないですね、合格です。おめでとうございます﹂
ほっ、妹よ、お兄ちゃんとりあえず最悪の事態避けることが出来たよ。
赤煉瓦と呼ばれる建物の一角で、
﹂
海軍服に身を包んだ三人の男が席に着き一人の男がそれらと向かい合う形で話し合
このふざけた名前は
いが行われていた。
﹁なんだね
?
海軍服に身を包む、いささか恰幅が良すぎる中年の男が手元の資料を眺め、言葉を発
?
151
した。
肩の中将の階級章が脂肪に押され悲鳴を上げている。
れで良かろう﹂
﹁仕方あるまい。この世界の経歴も戸籍もない者たちだ。本人がそう名乗るのなら、そ
﹂
同じ服装に身を包んだ高年の男性、こちらは高年期の体には思えないほど鍛えられて
いることが服の上からも分る。
階級はこの中で最も高い大将の階級章。
顎の肉を弛ませながら皮肉めいた言葉を発する。
だがねぇ﹂
﹁あの婆さんも耄碌したのではないか。こちらとしてはとっとと、くたばってほしいの
階級は中将。
こ ち ら は ひ ょ ろ り と し た 体 躯 に 眼 鏡。爬 虫 類 の よ う な 雰 囲 気 を 醸 し 出 す 男 で あ る。
﹁しかし、こんな名前をよく長野の女帝が許されましたな
?
こ鍛えてるようだが頭の出来も平凡。血筋だけが取り柄のプライドの高い小僧であろ
﹁なら、なおさら使えんだろう。平和な世界のボンボン⋮。これを見る限り体はそこそ
一人だけスーツ姿の男は無表情に会話を進める。
﹁獅子飼中将からの報告では観測世界での長野家所縁の者ではないか、との事ですが⋮﹂
提督(笑)試練の時
152
う。今回もまたハズレだな﹂
﹂
?
﹂
﹁そうか、その辺りは私が手配しよう。それで、実際どうなのかね
い。君の目から見てこの者どう思った
﹁⋮⋮﹂
んな﹂
私見でかまわな
﹁ハッ、入学早々の軍事のぐの字も知らん者たち相手に勝っていたとしても話にはなら
﹁⋮机上演習においては現在の所、負け知らずです﹂
実はこのスーツ姿の男は士官学校で教鞭をとる立場にある。
?
?
しております﹂
﹁事実のようです。この者が卒業するまでに教員役の艦娘の補充をと獅子飼中将が申請
が、本当かね
﹁この報告書によれば軽空母鳳翔、軽巡夕張がこの者の指揮下に入ったと記されている
無能どもと罵りながら。
そんな二人を冷めた目で見た後、大将は口を開く。内心、報告書を最後まで読まない
二人の中将コンビの口元は厭らしく歪んでいる。
な﹂
﹁し か し ま ぁ 駆 逐 艦 を 何 匹 か 指 揮 し て 近 海 の 船 団 護 衛 ぐ ら い で き る の で は な い で す か
153
スーツ姿の男は またか、このデブ
と思いつつも無表情を貫く。
大体、血筋云々というならテメェもコネで海軍に入ってるようなもんだろうが
内心で激しく罵りながらも完璧な無表情である。
﹂
?
アという線では
﹂
と
﹁かの世界では、彼は英雄の扱いを受けているそうですから、彼を研究していた軍事マニ
大将は腕を組み唸る。
﹁それが嘘だとして、長野所縁の者というのを隠す意図が見えんな﹂
﹁一般的家庭の会社員だったと言っておりますが﹂
?
とに信憑性を持たせているかと愚考いたします﹂
﹂
﹁旧海軍の長野少将の戦術をよく研究していると思います。獅子飼中将の言っていたこ
﹁それで直江君、何か気になることがあるのかね
内心は早く引退してその座を俺によこせクソジジィである。
三元と呼ばれた男は忌々しいと思いながらも口を噤む。
﹁はっ、失礼しました﹂
し口を慎んでいたまえ﹂
﹁君のいう事にも一理あるが、三元︵みもと︶中将、君には今は意見を求めておらん、少
!
!
﹁平和な世界の長野所縁の者か⋮。本人はなんと
提督(笑)試練の時
154
?
そこに言葉を投げかけたのはひょろりとした眼鏡中将である。
?
﹁⋮⋮﹂
結んだものだろう。売国奴といってもよかろう﹂
息のかかった政治家共が民意を無視して
﹁確かに。まだまだ日本は戦えたはずだ。それをあんな条件での講和など⋮あれも奴の
野に息が掛かっているから尚、質が悪い﹂
組織を運営するにあたっては彼のような者は厄介者でしかありませんな。色んな分
反抗心などは褒められるべきことではないかと。
﹁いえ、彼の政界への根回しや技術知識など称賛することも多いですよ ただ上への
﹁⋮細倉君は長野少将否定派か﹂
い﹂
﹁全く、忌々しい存在ですな。あの欠陥兵器共の一部は長野長野と喚いて煩くて仕方な
ら、スーツの男、直江は無表情を一貫する。
それを言ったところで、コイツもあの豚と同じように皮肉しか返ってこないだろうか
を飲み込んだ。
⋮だがアレは目の前にいる大将と同じような凄みを感じさせる。という続きの言葉
﹁はい、その可能性も否定できません﹂
155
て託して。
それを一人の男が阻止するべくあの戦争を戦い抜いたのだ。時の政権に後の事を全
されていただろう。
それが大衆に知られたら、あの時代本当に日本は最後の一人まで戦うことを余儀なく
統治、日本人を地球上から根絶やしにしようとする計画などなど。
生物兵器や新型爆弾による大量破壊と日本降伏後は愚民化政策による連合国の分割
実際は日本を⋮、人を人とは思わぬ実験場にしようとしていた計画があった。
観測者の世界は、時の政権からギリギリ漏れてもいい機密が漏れたにすぎないのだ。
それは正しいが⋮、真実ではない。
戦犯とすることで講和がなったという話が公然の秘密扱いで存在している。
観測者たちの世界では日米の秘密会談が暴露され、陸軍数十万の命と引き換えに彼を
されている変わった男である。
海軍の上層部でも賛否分かれる彼の実績。むしろ陸軍からのほうが英雄的な扱いを
いえ⋮。と、すこし悲しい気分になる大将である。
たしかに彼らの言っていることも一理あるのだ。この者たちは真実を知らないとは
二人の言葉に押し黙る直江と大将である。
﹁⋮⋮﹂
提督(笑)試練の時
156
日本も新型爆弾を保有していて、講和にならなければ必ずアメリカ本土に落としてや
ると不退転の構え。
実際に特に空母戦力を温存して、新型の長距離爆撃機まで生産していたのだから本気
が伺える。
後年、アメリカ軍関係者がその新型爆撃機と爆弾の威力を見てあそこで止めといて良
かったと語ったそうだ。
それらすべてに、彼が何らかの形で関わっている。彼がこの国にいたことを幸運に思
う。
だが、その真実を語ることは五年後までは出来ないのだ。
しかも、彼の講和に対する根回しは、政治家と陸軍の上層部の一部に対するものだっ
たというのだからとんだ皮肉である。
﹁閣下、その者、卒業後は父島に回しましょう。既に二匹も指揮下に置いたのであればあ
﹁⋮⋮わかりました﹂
中将コンビがまだまだ盛り上がっているのを尻目に、大将は直江に言葉をかける。
﹁まぁ、とりあえずだ。もうしばらく様子を見てくれ﹂
157
そこでも通用するでしょう﹂
細倉と呼ばれた中将は目を細め、厭らしく嗤った。
それが良かろう私も賛成ですな﹂
三元と呼ばれた男もそれに賛同する。
﹁おお
!
と息巻いて、士官学校の敷地内を走り回っていたりする。
れは過ちを犯す前に走って発散させねば﹂
そんな会話をされているとは露とも知らず、その件の男は﹁何だかムラムラする。こ
もし駄目でも優秀そうなら自分の所に引っ張ってこようと誓う大将であった。
全く意地の悪い事を考える中将どもだと思いながらも、適当な者がいないのも事実、
前回、あそこに送った観測者は1カ月で大怪我を負って戻ってきた。
﹁⋮父島か。仕方なかろう許可する﹂
提督(笑)試練の時
158
提督︵笑︶は問題児
混迷とした世界でも経済は回る。
帝都にある高層オフィスビル群の一角、ひと際巨大な建物が存在する。
農業、重工業、金融業、サービス業に貿易業、医療に教育機関と、おおよそあらゆる
業種を傘下に持つ長野グループ本社。
その企業の中枢のなかの中枢、社長室。
そこでは日々、社運を左右する大きな意思決定が下される。
と同時に、考えもしなかった事態の対応に追われることも少なくない。
﹂
!?
た、まさに女帝。
一人の変態が生んだ長野商会を引き継ぎ、一代で世界に名立たる大企業に発展させ
大奥様というのはこの企業にとって生きた伝説である。
何時もは冷静なこの企業のトップは素っ頓狂な声を上げる。
﹁はぁ
秘書から内線で告げられた言葉に、
﹃社長、大奥様がお見えです﹄
159
提督(笑)は問題児
160
引退したとはいえ、その影響力は未だ健在である。
そして、この男の祖母でもある。で、ついでに言うと長野家の人間は誰も頭が上がら
ない。
そんな人物であるから当然と言えば当然なのだが、この祖母が長野の男に求める基準
がおかしいのだ。
婆さんの事は嫌いではない、小さい時は可愛がってもらった記憶もあるし、本人から
強く叱咤を受けることもなかった。
自分とて無能ではない、幼少の時から利発な子供だと周囲に言われ、本人も期待に応
えてここまでやってきたのだ。
そういう自負がこの男にもある。
と仕事を始め
だが、祖母からしてようやく合格ラインにひっかかったに過ぎない、しかも甘めに見
積もってである。
本人は口にこそ出さないが、自分や親父をみて、こんなものなのか
と何度も心で突っ込んでいた。
てからは何時も問われているようであった。
その度に何で基準が婆さんの兄なんだよ
?
言い表せない⋮とにかくおかしい。
男にとって大叔父にあたるその人物は調べれば調べるほど怪物⋮いや変態、一言では
!
それでもいつか、この祖母を見返してやろうとここまで来たが、それもそろそろ限界
が来ている。
ここ最近、⋮深海棲艦という化け物が現れた頃からか元気がなくなり、本家から出る
ことも少なく時折、縁側で歌を口ずさんでいるだけだったと報告が来てる。
﹁どうかしたかい
﹂
﹁は、はぁ。わかり⋮わかったよ婆さん。うん
?
﹂
﹁いいよ、そんなに改まらなくても。もう私は引退したんだから﹂
女。
扉を開けて入ってきた背は高くないが、とても大きく見える上品そうな出で立ちの老
﹁お祖母様⋮﹂
﹁お邪魔しますよ。業雅︵なりまさ︶さん﹂
ずに別れるのではないかと考えていた矢先に急にここまでやってきたのだ。
最後に会った時、正月の席で言った言葉はどういった意味だったのか聞くことも出来
﹁あと5年は長いねぇ、兄様が怒ってしまったよ﹂
161
?
﹁あぁ、その、元気になったと思ってな﹂
﹁⋮そうだねぇ。まだまだ死ぬわけにはいかなくなってしまってね﹂
正月に会った時とは違い、どことなく活力に溢れているように見えるので業雅と呼ば
れた現、長野グループの代表は驚きと困惑が入り混じる。
革製の高級なソファを勧める。
﹁何かあったのか。いや、とりあえずそこに座ってくれよ﹂
﹁そうさせてもらうよ﹂
それを見届け、業雅は対面のソファに腰掛ける。すると秘書が飲み物を運んできた。
ベストのタイミング、大分優秀なようだ。
男の言葉に秘書は一礼して扉の向こうへ消えていった。
﹁今日の予定は全部キャンセルだ﹂
が、少しだけ希望が見えてきたところだ。
確かに深海棲艦という現代兵器が微々たる効果しかない化け物が海に蔓延っている
﹁そんなこと言うなよ。婆さんたちが頑張って守ってきた国だろ﹂
高層階から見える街並を見ながら老女、文乃の言葉はとても悲しい響きだった。
﹁私はね、この国はもう滅んでしまってもいいと思ったんだよ⋮﹂
﹁で、ここまで出てきたってことは重要な何かあったのか﹂
提督(笑)は問題児
162
破滅主義の正反対にいるこの人物の言葉とは思えない。
国民にとって
軍にとって
?
?
いてもおかしくなかった筈だ。
じゃあ兄様にとってはどうなるんだい
﹁それは誰にとっての正解だい この国にとって
?
﹁兄様はやっぱり兄様だってことだよ。お国の為に靖国⋮じゃなくてヴァルハラかねぇ
﹁⋮すまない婆さん。話が見えない﹂
よ﹂
それで深海棲艦が出てきて、やっぱり兄様が怒っているんだと勘違いしてしまった
をずっと考えてきたんだよ。
兄様はそんな事望んではいないとは分ってはいるんだけどね、それでも⋮。そんな事
?
?
連合国の駐屯している中にそんな事が起こっていたら反乱鎮圧後に分割統治されて
﹁⋮あの時、それを止めてなければ連合国の思う壺だっただろ⋮止めて正解だぞ﹂
かったと思ってしまってね﹂
終戦後、兄様を慕う方々が反乱を起こそうとしたんだけどね、それを止めなければよ
﹁⋮ああ、その通りだよ。だから、あの時の後悔がどんどん大きくなっちゃってねぇ⋮。
﹁⋮人間なんだから一度や二度、経験するだろ。ましてや婆さん長く生きてんだからさ﹂
﹁そうだねぇ⋮。でもねすごく後悔してたんだよ。あの時、ああしてればってね﹂
163
⋮。
そこから戻ってこられて、また身を捧げようとしてるんだよ。
なら今度は私も兄様が動きやすいように働かなければ、今度こそ兄様に愛想尽かれて
しまうじゃないか﹂
﹁⋮本当になんの話だか分らないのだが﹂
﹁出来る事なら穏やかに過ごして頂きたかったのに⋮あの時と同じように私の頭を撫で
ながら﹁行ってくる﹂って。本当に困ってしまうよ﹂
そういって穏やかな笑顔を浮かべる文乃に対して業雅はすごく困惑している表情だ。
内心、呆けてしまったのではないかと心配していたりする。
ねぇ﹂
﹁しばらく見ないうちに海軍さんは話の分かる方々が大分居なくなってしまったようだ
?
分の立ち位置を理解してもらう時間が必要だね。日本に入り込んだ鼠も邪魔だね﹂
﹁百合恵の言った通り、名前を変えてもらって正解だったよ。しばらくは根回しとご自
急な話題の転換にますます困惑を強める業雅である。
のに辟易しているところではあるが。
というか、なんで海軍の内情なんか調べてるんだ 難癖つけてくる連中をあしらう
﹁そりゃ、深海棲艦が現れたころに優秀な者たちから擦り減ってしまったからな⋮﹂
提督(笑)は問題児
164
﹁百合恵
いや、婆さん。悪いが本題に入ってくれないか 何が言いたいのか全く
分からないんだ﹂
?
?
﹁はぁ
何言ってんだ
そんな事あり得るわけ⋮え、まじで
!
﹂
?
と大混乱に陥る業雅。
危険物を抱えることになるんじゃ⋮。
もしそれが本当の事なら⋮、ちょっと色々と問題が⋮。ていうか、歩く戦術兵器級の
文乃の真剣な目に言葉を失う。
!?
うだけど、私は呆けていないよ﹂
﹁兄様が戻られたんだよ。さっきから貴方は私が呆けてしまったのではと思っているよ
久しぶりに変な緊張をしたと思う業雅。
﹁⋮⋮﹂
﹁まぁいいでしょう。貴方の目を信じるとしましょう﹂
する。
仮にも日本有数の企業のトップである。側近にする人物たちは信頼のおける人選を
目を細める文乃に見つめられ嫌な汗が浮かんでくる気がする業雅。
﹁⋮側近に裏切者がいない限りは大丈夫だ﹂
﹁業雅さん。ここの防諜は大丈夫ですね﹂
165
﹂
﹁あ、あの婆さん。本当に本当なんだろうな
﹁こんな嘘ついてどうするんだい
﹂
?
い。
そんな思いを秘めて業務なんてちょっと手がつきそうにない。
根回しの時間必要だわ⋮。
昔、某掲示板で彼の名前が上がると物凄く荒れていたのを思い出す。婆さんの言った
も多い。
しかも、そこそこ影響力持ってる御仁もいるし。アンチも多いが信者と呼ばれる連中
少ないが生きてる。
これが本当の事なら最悪、国が揺れる可能性がある。まだ、彼の当時の部下とか数は
?
祖父はそのせいで散々苦労したであろうなと心から同情を禁じ得ないと思う孫。
﹁婆さんを信じないわけじゃないが、こっちでも探りを入れてもかまわないだろう
﹁ああ、もちろん構わないよ。今は業和さんと名乗ってもらっているからね﹂
﹂
確かにそうだ、この婆さんが敬愛してやまない兄の事でそんな嘘ついても仕方がな
?
﹁そうか、今日の予定キャンセルしてよかったよ⋮﹂
提督(笑)は問題児
166
は高校卒業し
?
海軍学校の同期
あいつら皆、エリート意識強いし負けん気が強いからそんな俺で
も関係なく突っかかってきたよ。
まぁなんだかんだで仲良くなったからいいんだけどさ。
い や ぁ 辛 い。も と も と お っ ち ゃ ん、お し ゃ べ り 好 き な の よ。
でもね、ここの子たちは提督になりたくてここに来た子って少ない訳よ
結 果、ボ ッ チ だ よ
?
?
来てくれない。
そして内面はともかく外面は威圧感ある口数少ないお兄さん。皆、ビビッて近づいて
たばかりの年齢。
人数は少ないとは言え、提督候補の皆さん、一応同期になるのかな
海はいいよねぇ。ああ海はあんなにも青いのに⋮俺氏の心は⋮ブルーだよ。
そういった文乃の笑顔に背に冷たいものを感じる長野グループの代表であった。
﹁さあ、調略と策謀の楽しい時間が始まるよ﹂
167
!
提督(笑)は問題児
168
ミック先生居ない今、話し相手が居なくて辛い。
まぁ仮に、話しかけてきても会話は弾まない自信あるけどね
るといいんじゃないかとか教えてあげてたのになぁ。
何その自信、辛い。
それくらいの︵実力︶差があるから負けることは今のところ無いので、ここはこうす
子たち。
流石に将棋歴30年くらいセンスも一般人程度ある自分と、将棋のルール覚えたての
戦術に関しては、将棋に例えるとすると、
なんだけどなぁ⋮。
おっかしいなぁ、なるべく優しく優しく、出来る限りフレンドリーに話してたつもり
てくることなく遠巻きです。
机上演習の時に全員に何度か話したことあるんだけど、基本的に向こうから話しかけ
入学を果たしてそろそろ二週間。
で、こうやって同じ講義になったとき大体、遠巻きで見られてます。
きにもなりづらい。
他の皆と受ける講義もあるけど、一日一コマか二コマ、そんなに接点ないからお近づ
まれる。
しかも、転移組は短期で士官教育受けるから、基本一人で講義受けていろいろ詰め込
!
まぁ机上演習なんて実戦でほとんど役に立たないけどねぇ。
くっ、親切心が裏目
実際に動かすのは駒ではなく人だから、どれだけその人たちと信頼関係を結べるかだ
と思うよ。
だからか⋮余計な世話だよおっさん。とか思われているのか
にでおった。
﹁あ、あの提督さん⋮じゃなくて長野⋮君﹂
おっといかんいかん。授業に集中っだ、集中集中。
手っぽいけど。
艦これでは練習巡洋艦2隻目とか何の意味があんねん
て空気の中で彼女が登場
エロかわいい鹿島ちゃん。目の保養にはとてもいいよね。何故か彼女は俺の事、苦
!?
も多いんだけどなぁ。
海軍の中でも話が分かるお方だったし、紳士でもあった彼とは分りあっていたところ
からかなぁ。
だが、何故か俺のことは苦手のようだ。あれかなぁ井上さんと良く意見の対立してた
姿、そら人気出ますわ。
可愛いは正義とはよく言ったものである。表も裏も提督LOVE勢。そしてこの容
して、提督たちの熱い掌返しにはおっちゃん⋮納得だったよ。
!
169
ミッドウェー占領後に第四艦隊が補給担当な って言ってきた参謀にただでさえ広
い海域に空母戦力無しでアホなの
き教室に拉致って事情を説明して、現在は教師と生徒の間柄。
長野⋮君﹂
!
?
?
ヒェェもとい殺人カレー製造機の比叡は今のところバレてないっぽい
れ違うと何故か敬礼してくるのでこちらも答礼。
﹂
?
廊下です
廊下でばったり会った時、速攻でバレましたよ まぁ一緒にいたメロンちゃんと空
ていうか、メロンちゃんが接触するなって言ったけどどう考えても無理だよね。
不仲って程、不仲ではなかった筈なんだけどなぁ⋮。
だら、当たり前だよって答えてくれたんだぜ。
でも海軍学校の校長になるっていうんで別れるときは英語は必修にしてねって頼ん
普段温厚で知られてる井上さんを激怒させた長野さんとは俺の事です。
対したんだよなぁ。
でもアナベル・ガ島じゃなくてガダルカナル島に飛行場作ろうと言い出した時に猛反
とかいって一緒に追い返したりしたんだけどなぁ。
?
そして首を傾げているのが今のところのパターン。
﹁なんだ
﹁あ、あにょ
提督(笑)は問題児
170
今授業中だろ
俺、何かに目覚めちゃいそう。
なんだじゃねぇ俺
い
!?
ほらビビッて鹿島ちゃん涙目じゃん超可愛
﹂
違うの
俺は大剣太刀派なんで弓はちょっと⋮。
﹁で、では射法について説明してください﹂
しゃ、射法とな
でも、少しは知ってるぞ。
﹁最後は残心だ﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
あれ違うの
なに
!
﹁それ弓道⋮﹂
誰かがボソリと呟いた。え
ああ射法ね もう海軍なんだからそらそうよね⋮ああ
?
?
!
やだ恥ずかしい。
?
?
他に射法って⋮。あっ
恥ずかしい。
?
﹁⋮はい﹂
授業も聞かずにずっとエロイ目で見てました許してください。
﹁ちゃ、ちゃんと聞いていました⋮か
!
!?
?
171
﹁冗談だ⋮。艦砲は予想未来位置に対する﹁測距と測角﹂
︵砲の仰角と方位︶を必要とす
る。
魚雷は未来位置算定の為の測距と﹁測角﹂でよい有利さを持っている﹂
誤解
ボールを投げて落下地点の目標を捉えるか、転がして当てるか、乱暴に言うとそうい
う事。
涙目の鹿島に小声で話しかけられる。 そ、そんなつもりないよ鹿島ちゃん
だっ
!
!?
﹁あ、あの、退屈なのは分かりますが⋮虐めないでください﹂
提督(笑)は問題児
172
ひたすら走ってたまに牙突な一日。
?
で、ちょっと娯楽品の一つでも買ってみようかと思い立った訳。
⋮嫌な時代だねぇ。
さんが載ってる雑誌とか気軽に買えないじゃん。
まぁ他所のお国から狙われるからって事だけど、薄い本とかやたらと肌色の多いお姉
そんで、休日は申請すれば外出できるのだ。護衛付きだけど⋮。
から時間の使い方忘れてしまっていたね。
体若返ってるし、体力あり余ってるのもあるんだけど、前は常に何かに追われていた
おいおい、おっちゃんストイックすぎんだろ⋮って事に。
休日
平日はこのサイクルで回っているという事。
まに刀もって牙突︶↓風呂↓寝る
起床↓朝飯↓士官学校↓少し走る↓夕飯↓走る︵性欲を持て余す︶↓ひたすら走る︵た
俺の一日の行動。
俺、ある日突然、気付いたんだ。
提督︵笑︶の休日
173
提督(笑)の休日
174
基本、三食寝床付ついでに学校で使う着る物も支給なんで最低限の生活するには困ら
ない。
ただし酒保では揃えられない細々とした日用品とかもある。ついでにそれらを揃え
ようと思う。
ここに来る前に一通り買い物は済ませたんだけどね、ユーリエちゃんと一緒に。 あ
れは服装品がメインだった。
⋮耳かきとか爪切りとか酒保にないんだよね。
そして更に気付いた。
⋮⋮無一文だったという事を。
兼光を質に出そうとも考えたがユーリエちゃんに恥を忍んで電話して頼んだ。
働いたら返すから金を貸してくれと⋮。
あの時は居た堪れなかった。
でもユーリエちゃんとてもいい娘で快く、引き受けてくれた。
⋮借りた俺が言うのも何だが、将来変な男にひっかからないかちょっと心配です。
そしたら後日、通帳とキャッシュカードと手紙、暗証番号とかATMの使い方が添え
られてきた。
というか文乃のお世話係の人がわざわざ持ってきてくれた。
175
まず何から突っ込んだらいいかな。
銀 行 名 榛 名 銀 行︵長 野 グ ル ー プ︶で す。長 野 商 会 と は 関 係 な い よ ね
プってなってるし
銀行のロゴにうちの家紋入ってるけど関係ないよね
グ ル ー
?
て思ってたわけよ
なんでゼロが7ケタもあるんですかねぇ
?
もしかしたら物価が物凄い上がっていてとか考えたけど酒保での商品の値段を見る
!?
?
で、最後に通帳を見たのね 俺の中では諭吉先生が二人くらい入ってれば御の字っ
れないだろうかと⋮。
でもますます、ユーリエちゃんの事が心配になります。口の上手いホストとかに騙さ
いし。
次、名義は 長野 百合恵 になっとります。これはまぁ仕方ない。俺身分証明書な
だな。
銀行なんて創業できるわけない。た、たまたまうちの家紋︵檜扇︶に似たロゴなだけ
ら、
の場合に備えて戦災孤児基金と復興基金の法人立ち上げてそっちに回しといたんだか
坊の岬の前に文乃が食うに困らない程度のお金は残したけど、残りの現金資産は最悪
!?
!
?
そしたらなんて言った
限りそこまで上がってる形跡無かったし、嗜好品の類は2倍くらい値段が高くなっては
おっちゃん貴方の将来が心配です
﹂
壱⋮⋮業和さんの時代⋮世界⋮えっと昔より物価高くなって
るんですよ。お米は10kg6千円はします﹄
って違う違うそうじゃない
そうじゃないんだよ
元いた世界とそんな変わらないな⋮。
﹁六千円⋮﹂
!
いた気はするけどこれは多過ぎだろ。
速攻で電話したわ
とおもう
﹁なんだあの通帳の額は
!
!
すね。どれくらい必要ですか
﹂
だからと言ってこの額は多過ぎだからね
それから考えれば6000円は大金に思える。
確かに1940年頃ならサラリーマンの給料が一カ月80円くらいだよ
?
ってなやり取りがあったわけだ。もうねユーリエちゃん超お嬢様だったんだよ。
!
?
﹁ですから、これくらいが妥当だと考えていたんですが、足りないようでしたら追加しま
!
﹃足りませんでしたか
?
?
?
﹁⋮いや、十分すぎるから結構だ﹂
提督(笑)の休日
176
お父さんが大きな会社の社長さんだってさ⋮。
それでその社長さん俺の甥の子、つまり又甥って奴にあたるそうだよ。
で、俺は現実を受け入れました。
⋮わが妹は長野商会を引き継いでとんでもないモンスター企業を一代で築き上げて
しまったらしい。
穏やかに過ごせるくらいのお金を残したけどさ⋮。長野商会も優秀な人材に後を頼
んできたけどさ⋮。
まさか、あの可憐な妹が女社長やってたなんて驚愕ですよ。
通帳のお金は好きに使ってくれって言われてもさ⋮爪切りと耳かきとジャン○位し
か買うものないんだけど
﹁ひゃ、ひゃいっ
﹁⋮鹿島﹂
﹂
護衛には学校の先生かその道のプロがつくことになっているのだが⋮
そしてついに今日はその休日である。
まうのだよ。
⋮細かい物価がどうなっているか知らないけど元の世界ならワンコインで済んでし
?
何時もとは違う格好をしたエロカワ鹿島ちゃんが外出の際の指定場所におった。
!
177
太もも辺りまである白いカーディガンを羽織り、チェック柄のシャツにブルー系のボ
トムに黒のショートブーツ。
とっても新鮮ですね。超可愛いし、街中で出会ったら三度見くらいはするわ。
いやぁ、この娘はきっと何着ても似合うんじゃないかな⋮。
学校の先生だし、艦娘だし護衛には向いているけど。
﹁護衛は鹿島か﹂
艦娘はやはり人の身を持っていたとしても戦う兵器なんだよなぁ、鹿島のような娘さ
んでも艤装を展開していない状態で暴漢の2∼30人鎮圧は事もないらしいよ。
セクハラをするときは命がけである。
でも、何でこの娘ガチガチなのか
立った。
日に開いているので付いていけず、香取も比叡も補習授業の為に、鹿島に白羽の矢が
場合は自炊をしなくてはならない場合もあり、そういった者たちの為にお料理教室を休
夕張は暴走する危険が極めて高いと上が判断し、鳳翔は任官後に小さな警備府とかの
?
﹁そ、そうで、ありましぃ⋮んす﹂
提督(笑)の休日
178
夕張には威嚇されまくり、鳳翔には穏やかな笑顔で﹁くれぐれも大事がないように﹂と
脅迫⋮お願いをされ、人間側は何か考えているのか、あまり関わろうとしないしそれに
何か感じるモノもある。
ついでに、この男の正体を知ってしまったら尚更である。
この外面は威圧感あるし歴戦の指揮官然とした雰囲気の男、しかも艦時代に相手が誰
であろうと気に食わなければ噛み付きまくるイメージなのだ。
艦娘であろうとも面と向かうと緊張する。
鹿島がストレスマッハであることをこの男は知る由もなかった。
﹂
!
りする業者の車に偽装したトラックで外に出る。
馬鹿正直に海軍服を着て外に出るわけにも行かないので普段着で、そして学校に出入
﹁ひゃ、ひゃい
﹁⋮そうか。よろしく頼む﹂
179
まずはやって参りました。榛名銀行ATM前。
恐る恐る、暗証番号を押して口座残高確認。やっぱり0が7ケタある。
お久しぶりです。脱亜論は朝鮮投機を引き上げの折、当時大
手の震えを抑えながらとりあえず、諭吉先生を3枚ほど下す。
懐かしの諭吉先生
バリバリ財布とかなら安くそこらの露店で売ってないだろうか
りもしていた。
その様子がちょっと可愛いかな、などと本人には口が裂けても言えない思いを感じた
堵している様子に見えていたりする。
鹿島はそんな男を見て、初めて触る機械に戸惑い、無事にお金を引き出せたことに安
?
裸の現金とキャッシュカードを持ち歩くのはどうにも落ち着かない。
⋮まずは財布でも買うか。
早々に退散。
いかんいかん感慨に耽っている訳にはいかん。後ろに並ぶ御婦人の視線が痛いので
変、お世話になりました。
!
﹁⋮おお﹂
提督(笑)の休日
180
服にも使われているんやぞ
と可愛いと感じたりしていた。
鹿島はそんな男を見て、マジックテープに興味津々の子供のようにみえ。またちょっ
すんませーんコレください。
鹿島ちゃんの服装のセンス見ても俺よりはその辺のセンスあるだろうしな。
まぁせっかく鹿島ちゃんがお勧めしてくれるんだし、そちらでかまわんだろう。
﹁⋮そうか﹂
人類文明の偉大な発明の一つだと思うんだけどなぁ⋮。
?
女性にはどうにもマジックテープ式の財布は受けが悪いらしい。おかしいなぁ宇宙
れる財布を勧めてくる。
百貨店のお財布売り場でバリバリ財布を手に取っていたら鹿島が違うオサレ感あふ
﹁あ、あの提督さん。こっちの方がいいと思いますけど﹂
181
百貨店にて耳かきと爪切り、お財布を手に入れて、現在昼食時で鹿島が薦めるオサレ
なお店に入っているわけだが、ちょっとメニュー表を見て前の世界より割高かなと思い
つつも許容範囲の値段。
味も、前世 と変わらず大変おいしく頂けました。まぁもともとグルメじゃないけ
?
近海の防衛だけで手一杯と言っていたが、街中は悲壮感に溢れているという事もな
る。
コンビニの品揃えも食べ物関係が大分少なくなっていたが、それでも営業できてい
百貨店も途中見てきた街中も物が溢れているとまでいかないがそこそこの活気、
さて、無資源国家の日本。現在、ほぼほぼ輸入が止まっている状態にも関わらす、
ど戦時中から考えたら贅沢過ぎる味わいだったよ。
?
い。どういう事だ
﹁鹿島﹂
﹂
?
だったのは何だったのか
口に出そうとしたとき⋮
このまま愛でていてもいいのだが話が進まないので咀嚼し終わったのを見て疑問を
?
ザッハトルテを口に運んでいた鹿島ちゃん。うん可愛い、超可愛い。最初のガチガチ
﹁ふぁい
提督(笑)の休日
182
﹁はい提督さん﹂
フォークに刺さったザッハトルテを手を添えてこちらに差し出す鹿島ちゃん。
ああ、物欲しそうに見えたのね⋮でも違うんだよ。
貰うけど
⋮うん甘い。
さて本題だ。
﹁鹿島﹂
﹁⋮⋮﹂
﹂
フォーク見て固まってる。しかも無視された。
﹁鹿島﹂
﹁うひゃい
え、何その奇声。まぁいいや、本題本題。
というわけで、かくかくしかじかでして、そこのところどうなんでしょう
﹁流石、提督さんです﹂
いや、何が流石なのか知らないけど⋮。
国内の産業だけで持っている事が不思議でならないのだ。
なんかユーリエちゃんに聞いたような気もするんだけどなぁ眠くて半分の聞いてな
?
!
!
183
かった気がする。
で、鹿島ちゃんの説明曰く、
﹁⋮長野グループか﹂
﹁はい﹂
またこの企業か。この企業、海外進出はしていてもあくまで国内産業にこだわってい
たんだと。そのおかげで、現状何とかなっているんだとの事。
石油はどうにもならないけど鉄とかはリサイクルで何とかしてしまっているらしい。
石油もバイオ燃料やら何やらで国内の混乱を乗り切ってしまったんだと⋮。なんだ
この変態企業⋮。
誰がこんな企業を作ったんだと思ったけど⋮わが妹でした。
思わず頭を抱えそうになったけどまぁ悪い事したわけじゃないし深く考えないこと
にした。
どうにも居心地が悪い。昼食後に本屋に向かう途中、鹿島ちゃんと並んで歩いている
﹁⋮そうですね﹂
﹁見られているな﹂
提督(笑)の休日
184
のだが道行く人がこちらを見ていることが多い。
俺の自意識過剰じゃなければだけど⋮。
まぁ視線は鹿島ちゃんに送られているんだろうけど、こんなに可愛いんだもんそら仕
方ない。
あ、そうか⋮、
TVや雑誌に出るのは大和さん、長門さん、陸奥さんが多いですね。他の皆さ
?
なら大和はなんでだ
⋮。
宇宙戦艦の影響か
?
まぁその辺りは本屋で調べてみるか
長門、陸奥は帝国海軍の象徴的な艦だったからな。大和型は戦時中は機密だしなぁ。
かねぇ﹂
﹁私達がこの姿になる前から人気ありましたからね。あとは改陽炎型の一部も人気です
しかし長門、陸奥、大和か。
なら単に鹿島ちゃんの可愛さにみんなやられてしまっているわけか⋮。
﹁⋮そうか﹂
んが出ている話は聞いたことないですけど﹂
﹁いえ
艦娘というの存在は知られているのだ。芸能人が歩いているような感じなんだろう。
﹁鹿島はメディアに露出しているのか﹂
185
?
駆逐艦が人気⋮
ろう
艦娘の姿を知らないのに
?
なら紳士って訳ではない、なんでだ
?
なぁ。
いや、いい艦なのは乗っていた俺が保証する。だが、人気
?
あと何年か早く、艦の方に口出せていたらなぁと思わなくもない。
?
﹂
?
﹂
えへへと笑う鹿島ちゃん。可愛い⋮いや今はそんな事じゃなくて⋮、
﹁え
﹁はい、提督さんの映画です。私も初めて観た時、泣いちゃいました﹂
?
けど﹂
﹁はい、提督さんが乗って大活躍しましたからね。あと映画の影響も大きいと思います
ゲームの艦これないしな。
ど う し て も 大 和 型 や 長 門 型 よ り ネ ー ム バ リ ュ ー は 劣 る と 思 う ん だ け ど。こ の 世 界、
でも、人気
35.6cm45口径三連装砲1基を大戦前にぶち込んでみたり機関を向上させた
英国面に落ちることなく日本の得意な魔改造でいい艦になったのは確かだけど。
﹁⋮金剛か﹂
﹁一番の人気なのは金剛さんなんですけど﹂
?
﹁⋮映画
提督(笑)の休日
186
俺の映画ってなんだよ
いう事
永遠のジークみたいな
漢達の大和みたいな
?
どうせ、ある事ない事、誇張して描かれてるんでしょう
提督さん﹂
そう
?
いや、考え過ぎだな、鹿島ちゃんを
気 の せ い か あ の お っ さ ん と あ の お っ さ ん、あ と あ の お っ さ ん、お っ さ ん
﹁ああ、行くか﹂
﹁さん⋮提督さん﹂
俺を見ていた訳じゃない。そう信じよう。
見ていたに違いない。
なんで俺を舐めるように見ていたんだろうか
ばっかりじゃないか
?
とりあえずジャン○を手に入れよう。
?
?
!
ん
?
ちょっと本人の与り知らないところで黒歴史作るのやめてくれないかなぁ
!?
絶対、絶対に見ないんだからねっ
﹁あ、あれ
!
!?
!?
思わず空を見上げてしまった。何でもないと首を振る。
?
187
提督︵笑︶と工作員
あーなんでこんな事になっちゃうんだろうねぇ∼。
買い物して偽装トラックの荷台コンテナに乗り込んで、
本屋での出来事ははちょっと苦い思い出になりそうだ。
鹿島ちゃんと連れ立って入った本屋は大型書店。本の他にもゲームやレンタルビデ
オなんか置いてあったんだけど、俺の映画はまぁ鹿島に聞いたから衝撃はそこまでな
かった。
とか考えていたら、
だけどさ、タイムスリップした女子高生とのラブロマンスする少女漫画とか、俺が女
体化したゲームとかなんなわけ
長野苺ちゃんはクーデレキャラとかどうだっていいわ
﹂
!
?
あとは学校まで帰るだけって時にそれは起こった。
?
悲報 俺氏、襲撃を受ける。
﹁問題ない﹂
﹁提督さん、大丈夫ですか
提督(笑)と工作員
188
189
事の発端は何だったんだろうか
ている。
俺を視姦していたおっさんが三人ほどサイレンサー付の銃口を向けあい、牽制し合っ
しかし困ったな。
ミック先生が居なければ所詮俺は、この程度なんだよぉ。
国内の状況が落ち着いて見えたから警戒心が薄すぎた。
ていた可能性だってあった。
かったし、周りに聞こえるほどでもなかったと思うが集音マイクのような物で盗聴され
ついでに言えば、鹿島ちゃんの俺に対する提督呼び、そこまで大きな声を出していな
回っていたと考えておくべきだった。
他国にどれくらいの情報が洩れているのか知らないが、鹿島ちゃんの顔写真位、出
なるとは思いもよらなかった。
エアバッグのおかげで命に別状はなさげだが、まさかここまでデンジャラスな展開に
ら血を流している。
荷台から脱出してみれば2トンあるトラックは電柱にぶつかって運転手さんは頭か
を転がっていた。
走り出して数分で、大きなブレーキ音とともに衝撃を食らって鹿島ちゃんと荷台の中
?
ふぅむ。
このうち一人は工作員とみてもいいだろうが、残り二人は何なんだ
の工作員か
﹁そ、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないですよ
!
全員が違う国
?
鹿島ちゃんが居れば暴漢なんて鎮圧簡単だろうけ
あ、回想しようと思ったのに⋮。
だって下手に動けないじゃん
?
?
て来るだろうから、工作員はジリ貧だろう。
なるほど。まぁこのまま膠着状態でいれば、警察やらなにやらが間違いなく駆けつけ
﹁出来なくはないですけど、鎮圧中に提督さんに何かあったら⋮﹂
﹁鹿島、全員を生かしたまま鎮圧可能か
﹂
もしかしたら俺たちの護衛の可能性もないとは言えないんだもんよ。
ど、このおっさん達のうち、
﹂
そうアレは前日から降り続いた雨が止み霧の深い朝の日だった⋮。
状況は違うけど陸奥の時を思い出すなぁ。
﹁どうしたものか﹂
?
﹁とにかく提督さんは私の後ろに﹂
提督(笑)と工作員
190
最初に動き出す奴が工作員と当たりをつけて、残りの二人はどうしたものか。
﹂
ちょっと迂闊すぎやしませんかねぇ。功を焦っているのか
﹁アレは潰して構わんな﹂
だと思わせようとしているんだろうが⋮、
随分と訛りが強いというか、発音が可笑しい大陸言葉を話すね。大方、大陸の工作員
スーツ姿の中間管理職にいそうなおっさんが言葉を発した。
﹁是那里的組織的人
?
まぁ敵ではなさそうなので放置でよし。
?
﹁鹿島、スーツの男を潰せ﹂
だろう。
これが一番不気味なんだよなぁ。でもまぁ、コイツから目を離さなければ何とかなる
で、最後の一人。短髪の特に特徴がないおっさん。
﹁⋮⋮﹂
公安的な組織の人か
どう見ても堅気にみえないおっさん。
﹁おい、あんちゃんたち。とっとと逃げるか隠れるかしてくれねぇかな﹂
鹿野郎と言わずにはいられない。
大体、艦娘が護衛についているのを分ってていて一人で襲撃したとするならとんだ馬
?
191
﹁で、でも⋮はっ、はい
鹿島了解しました
﹂
!
あまりに衝撃的な光景で短髪の男から目を離してしまった。
短髪の男は一気に駆け出して街中に消えていった。何者だったんだろうか
あ、やべぇ
スーツ姿のおっさん言葉にならない悲鳴を上げて悶絶している。
えげつない、第四艦隊の旗艦えげつない。
﹁O、Oh﹂
を⋮
艤装展開して一気にスーツ姿のおっさんに肉薄、発砲された銃弾を艤装で弾いて金的
いが致し方なし。
見た目、可憐な乙女に突っ込ませるのは精神衛生的に⋮ていうか、男としてかっこ悪
俺に顔を向けた鹿島ちゃんが言い淀んだがすぐに聞き入れてくれた。
!
﹁⋮ああ﹂
﹁提督さん
﹂
﹁可愛い顔しておっかねぇなぁ。あれが艦娘か﹂
それよりそこで白目向いて泡吹いてる男を監視していなさい。
こちらに走り寄ろうとする鹿島を大丈夫だと手で制す。
!
?
!
﹁あんちゃん無事だな﹂
提督(笑)と工作員
192
﹁⋮⋮﹂
怖くはないだろ⋮えげつないとは思ったけど。
﹂
?
う⋮多分。
﹂
﹁俺からも良いか
﹁なんだ
﹂
﹁あんちゃん、名前は
?
のしかも長野か⋮。参ったねぇ。とんだVIPじゃねぇか。ご同行願えないなぁ﹂
﹁⋮なるほどねぇ。本来は調書やらいろいろ取らないとならないんだがなぁ⋮海軍所属
?
?
﹁長野業和だ﹂
﹂
いいのかそれで⋮。まぁ公安がマークしていて大丈夫っていうなら大丈夫なんだろ
﹁⋮そうなのか﹂
丈夫さ﹂
﹁⋮あぁ、あれは⋮なぁ。さっき気づいたがちょっと訳アリだ。まぁ危険はないから大
﹁逃げた者を追わなくていいのか
あ、マジで公安の人だったのか。
そういって胸から桜の代紋付の手帳を取り出す。
﹁あぁ、アイツはこっちで引き取るからよぉ﹂
193
﹁俺は長野所縁の者ではない﹂
という事になっています。ので、そこのところ訂正よろしく。
あれ、信じてないね
超ポーカーフェイスのこの顔見てよ
﹁⋮まぁ、そういう事にしておくわ﹂
﹁⋮⋮﹂
!
て帰ってくれや﹂
あれ、だからそんな特別扱いしてくれなくてもええんですがねぇ
そそくさと鹿島ちゃんの足元に転がるおっさんを公安のおっさんが拘束した。
?
俺が後は処理するからあそこでおっかない顔してこっち見てる可愛い子ちゃん連れ
るな。ほんじゃあ、
﹁通りで最近、本腰を入れて摘発に乗り出しているわけだわ。ああ、こっちの話だ気にす
!?
俺のジャン○が俺のジャン○が⋮見るも無残な姿になり果てている。
!?
耳かきと爪切りは鹿島の小さなバッグの中なので無事だが⋮一番欲しかったものが
﹁駄目ですよ。ほらまっすぐ帰りますよ﹂
﹁鹿島⋮本屋に﹂
うお
﹁⋮あぁ﹂
﹁提督さん行きましょう﹂
提督(笑)と工作員
194
⋮。
カート。
服 装 は ノ ー ス リ ー ブ の 和 服 を 意 識 し た ボ デ ィ ス ー ツ の よ う な 上 着 に 黒 の 超 ミ ニ ス
そこに入室した薄枯葉色のショートカットのどこかフランクな雰囲気を持つ美人。
﹁提督、遠征いってた娘達が帰投したわよ。はいこれ報告書﹂
横須賀鎮守府のいくつかある提督執務室の一室。
何故かご立腹のお艦とメロンが待ち受けているとも知らずに⋮。
そのまま鹿島ちゃんに引きずられて帰る俺氏であった。
││システムアップデート中⋮⋮78%⋮⋮
ミック先生、ジャン○がジャン○が読みたいです。
﹁駄目です﹂
﹁⋮鹿島﹂
195
すらりと長い脚は赤いハイソックスに包まれ、やたらと肌色面積が多い。
モデルよりスタイルが良いのではないかと思えるほどに整った体形である。
世の男が特殊な性癖でないかぎりは街中で出会ったなら間違いなく振り返るそんな
美貌と色気を持っている艦娘。
執務机に向かい書類仕事をしている女性提督。今にも鼻歌を歌いだしそうな勢いで
﹁ありがとう陸奥さん﹂
ある。
﹂
もしかしたら陸奥が入ってくる前は歌っていたかもしれない。
﹁最近ご機嫌ねぇ、何かいい事でもあったの
尊敬する人物に頼られて嬉しいのだが、人物が人物なだけに今は話せない。
﹁ふっふっふ、内緒﹂
?
これが違う人物なら教えてあげることも吝かではない。むしろ縛りがなければ小一
﹂
時間は語りたいと思っていたりする。
?
﹁あら
その鼻歌どこかで聞いたわね。もっと物悲しい感じだったけど﹂
報告書を見ながら鼻歌を歌う女性提督。
﹁内緒です。ん∼♪ん∼♪﹂
﹁あ∼ら内緒なの
提督(笑)と工作員
196
?
﹁え
﹂
﹂
﹂
?
お姉さんにも教えてちょうだい﹂
?
﹂
?
﹁聞いてますよ⋮まぁ陸奥さんならいいかなぁ。あんまり他に喋らないでね陸奥さん﹂
﹁ねぇ、聞いてる
﹁⋮う∼ん。でも他にも知っている娘もいるのかしら。う∼ん﹂
﹁なぁに
再び椅子に腰を下して腕を組む提督。
﹁⋮そうなんだ。だとすると艦時代かなぁ﹂
その時に大和が何気なく口ずさんでいたわ﹂
議中に長門や大和と一緒になったのよ。
﹁なんなのよもう∼。⋮あ、大和だわ。ほら、この間大本営に行ったとき。提督たちが会
急に立ち上がった提督に困惑な表情を浮かべる陸奥。
﹁いいから思い出して﹂
﹁急にどうしたの
﹁ちょっとよく思い出して﹂
い。
顎に指をあてて考える陸奥、その仕草にも色気を感じるが生憎この空間に男がいな
?
?
﹁どこだったかしら
197
﹁え、ええ
﹂
﹁長野提督の
﹂
﹁私も長野提督なんだけどなぁ⋮﹂
﹁大和さんが歌ったの聞いてたんじゃないの
﹁茶化さないの百合恵提督、それで詞は
﹂
﹁この歌、⋮壱業さんの手記に残ってたの﹂
?
そうして長野百合恵提督は歌いだす。
﹂
﹁仕方ないなぁ。それじゃあ一曲披露してあげましょう﹂
ちゃったのよね﹂
﹁私と長門が待機する部屋に大和が先に居たんだけどね、途中で私たちに気づいて止め
?
?
?
執務室に静寂が訪れる。陸奥も百合恵提督も無言である。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
提督(笑)と工作員
198
﹁陸奥さん⋮無言で固まられると居た堪れないのだけど⋮﹂
提督がねぇ﹂
﹁陸奥さんは壱業さんと面識があるの
﹂
﹁そうねぇ。この言い方も変だけど命の恩人
﹁命の恩人
?
?
先のソロモン海戦での活躍。戦果を挙げているものの、軍令部の示す作戦の多くに反
長官が軍神ならこの男は戦神であるという声が下士官たちの言である。
長野壱業少将である。
そんな中、いきなり陸奥に乗り込んできた男がいた。
かりだった。
ここ桂島でも霧が深いその日、停泊する艦船の乗員たちも陰りのある表情の者たちば
長官の国葬も終わり国内は沈んだ空気が流れていた。
1943年6月
﹁そう。それじゃあお姉さんも、一つお話しちゃおうかしら﹂
?
になるのかしら﹂
っていう聞き方も変かなぁ﹂
﹁⋮あら、ごめんなさい。ちょっとお姉さん感動しちゃって。⋮それにしてもあの長野
199
対して在り方自体にも批判。
と多くの
今までは長官が抑えていた部分もあったが、この先出世は無いだろうと言われ、
もしかしたら予備役に回されるのでは、とか、査問会が開かれるのでは
憶測を呼んでいて話題には事欠かない男。
その男がいきなり現れたのだ
拘束された男は時限爆弾を仕掛けようとしていたのである。
拘束したのだ。
男は壱業たちの存在に気付くと懐から銃を取り出し銃口を向けるが、壱業が瞬く間に
そして弾薬庫にて不審な人物を発見。
薬庫に突き進む。
乗員は何事かと騒ぎ出すが、近づいた乗員に一言二言、言って彼らを従えそのまま弾
?
実通りに爆沈かと思って顔が引き攣っていただけだったりする。
実はこの時、不敵に笑っていた訳ではなく、発砲されて当たり所悪ければ誘爆して史
爆弾男を床に引き落として、アクション映画みたいだったわ﹂
いう間に銃を叩き落として、
﹁ほんとに凄かったわよ。銃を向けられても不敵な笑みを浮かべて怯むことなくあっと
提督(笑)と工作員
200
本人は何とかしようと我武者羅に突っ込んで持っていた兼光︵鞘付き︶で運よく剣道
の小手が決まったような感じになり、勢いつけ過ぎてそのまま爆弾男に体当たり食らわ
せて相手が転んだところに躓いて、鳩尾に膝を入れ、自分も転びそうだから持っていた
兼光を軸に踏ん張ろうとして相手の肩に突き立てて砕くという追い打ちをかけていた
りする。
傍から見れば陸奥が言ったとおりに見えたかもしれない。
こうして歴史は本人の思いとは裏腹に歪曲されていくのである。
﹂
?
﹂
?
﹁機会があれば今度、聞かせてもらいたいわね。それにしても長野提督に想い人か⋮﹂
﹁た、たぶんひぃばぁなら知ってるんじゃないかなぁ⋮﹂
﹁そうなの。もっと意外な一面聞けると思ったのに﹂
﹁あっ、そういうわけじゃなくて⋮あはは﹂
﹁他にも何か逸話があるの
では意外と普通だったりするんじゃ⋮いや、あれ普通じゃないや﹂
﹁そうですね。でも、うちのひぃばぁ⋮妹の前では穏やかでいたみたいですし、戦場の外
作曲まで長野提督がしていたって事でしょ
﹁そうねぇ。だからそんな強いイメージしかなかったから、さっきの歌は意外よねぇ。
﹁⋮さすが壱業さん﹂
201
﹁歌を作るほどに好きな人が、何としても護りたい人がいて、ずっとその人を想って戦場
に立っていたって考えると⋮胸が締め付けられます﹂
﹁愛されていたのねぇその女性﹂
﹁そうでしょうね﹂
﹂
そういって二人はそれぞれ目を瞑る。果たして本人たちの頭に浮かぶ人物は誰だっ
たのか⋮。
﹁相手はどんな人だったの
長野家における解き明かしたい謎の一つですね﹂
の女性だった、あとは当時、長野商会のライバル企業の財閥系の令嬢だったとか。
﹁それが分からないんですよ。憶測だと何人かいるみたいですけどね。妹だった、既婚
?
﹂
﹁そうなの残念ねぇ。私もそこまで想われてみたいわねぇ⋮。あ、百合恵提督は想われ
てるものね
?
なんですかそれ﹂
?
﹂
?
﹁む、陸奥さん
﹂
﹁さぁ、お仕事頑張りましょう提督﹂
﹁え、陸奥さん
﹁あら、気付いてなかったのね。それじゃあ内緒﹂
﹁え
提督(笑)と工作員
202
!?
203
秘書官用の机に座りユーリエの言葉を流しながら仕事を始める陸奥であった。
ちなみに話題に上がった人物はというとジャン○がぁ⋮とぼやいていたりする。
成績次第だともっと早くなるかもしれないらしいし、僕たちより早く講義が始まり、
たいだし。
僕たちが2年半かけて卒業するのに対して彼は半年から1年で卒業する事になるみ
うよ。
それに艦娘の教官たちですら気を使っている様子だしね、特別な扱いされていると思
らある程度、察することが出来るんだ。
だ っ て 苗 字 が 長 野 で 名 前 に 業 が つ い て い る 時 点 で 近 代 史 と 経 済 に 強 い 人 な
じゃない。絶対斬られる。
少 し 年 上 っ ぽ い し 何 や ら 事 情 が あ る ん だ ろ う。詳 し く 聞 こ う と す る ほ ど 僕 も 馬 鹿
んて言うか僕たちとはオーラが違う。
僕たちより少し遅れて入学してきた人で、教官たちは詳しくは教えてくれないけどな
る﹂と言わんばかりの佇まい。
講義が一緒になる時に見るその人はいつも腕を組み、眉間に皺をよせ、﹁触れたら斬
うちのクラスには武士がいる。
提督︵笑︶と白露の君
提督(笑)と白露の君
204
205
遅くまで受けている。
これが特別な扱いを受けていると思う一端なんだけど、僕はやりたいと思わない。
普通はそれでヘトヘトになりそうなものなんだけど、講義が終わってからはずっと自
主鍛錬、主に走り込みをしている。
持ち込んだ真剣で鋭い突きを放っていた時は、その刀どうしたんだ より先に、ま
さか深海棲艦にそれで挑むの
!?
る様子は長年連れ添った夫婦のような雰囲気があったよ。
たまたま彼が夜に鍛錬しているときに見かけたけど、軽食とタオルの差し入れしてい
う接し方してるし。
鳳翔教官︵みんな陰でお母さんとかおふくろとか呼んでいる︶も何だか他の生徒と違
静かに怒られてしょんぼりしている。だが、懲りない。
講義にもし彼が居ようものならずっと兵装の話を彼に振っている。そして大体彼に、
ばにずっといようとして他の教官に諫められてる。
夕張教官︵みんな陰ではメロン教官と呼んでいる︶は自分の講義がないときは彼のそ
艦娘の教官たち、
長野の人は人外揃いという噂に信憑性が増すよね。
って考えが先に浮かんだよ。それほどに凄まじさを感じたんだ。
!?
しかもこの二人、いつの間にか彼の指揮下に置かれていた。艦娘の人たちを指揮下に
置くには信頼関係と僕たちの適性がある。
適性に関しては彼はすでに、空母と軽巡の適性があると判断できるけど、信頼関係を
結ぶのにはそれなりの時間がかかるはずなのに⋮。
一体何があったんだと思わずにいられない。
比叡教官︵特にあだ名は無い︶はいつも凛としているけどたまに失敗する親しみやす
い教官で、講義も分りやすくて僕は好き。
講義の時も夕張教官、鳳翔教官と違い、彼を特別な扱いをすることなく講義している
けど、たまに彼を見て眉間に皺をよせ何か考えている仕草を見る。
と
そして衝撃的だったのが、彼が廊下を歩いているときに向いから比叡教官が来て、比
叡教官が廊下の端により直立不動で敬礼している姿。
それ普通逆だから
!
それをさも当然のように受け入れて答礼して歩いていく彼。
アナタも含め僕たちは生徒で相手は教官だよね 逆
心の中で大いに叫んだ記憶は新しい。
!
香取教官︵一部で踏まれたいと言っている生徒がいる︶は可もなく不可もなく彼に接
!?
﹂と言った際、
しているけど彼の講義の姿勢で何か思うところあるらしく、うん普通そうだと思うけ
ど。﹁これはあとで教育的指導が必要かしら
?
提督(笑)と白露の君
206
﹁それは非常に楽しみだ﹂と獰猛な笑みを浮かべて返し、香取教官を引かせていた。
あれは本当に怖かった。艦娘であろうと怖かったのだろう。それ以来、彼の態度に何
も言わなくなってしまった。
そして、最後に鹿島教官。
﹁もぅ提督さん⋮じゃなくて長野君、私の事なんだと思ってるんですかぁ﹂
なんですそれ﹂
﹁⋮ユン〇ル10万本売った女﹂
﹁えぇ
その人の服の裾つまんでいるんですか
頭の中が軽くパニックです。鹿島教官、貴女、その人の事、超ビビってましたよね
撃ち落とせ
何時も講義の時は彼を指すとき涙目浮かべて恐る恐る伺ってましたよね
たまに飛び出す﹁最後は残心だ﹂とか﹁撃てば当たる﹂とか﹁航空機
ばよかろう﹂とか
冗談だか本気だか分らない言葉にいつも涙目になってましたよね
なんでそんなに仲良くなっているんでしょうか
?
おかげでこちらは次回の外出
!?
!?
!?
移動教室の最中なのだろうけど、仲良く寄り添って移動中である。鹿島教官、なんで
﹁⋮⋮﹂
?
絶対にこの間、外出した際に何かあったんですねっ
!
!?
?
207
許可取り下げられましたよ。
襲撃受けても何もなかったかのように帰ってきたから、後日教官から聞かされ、しば
危険な状況で恋心の錯覚してしまう状況があった
らくは外出不可となった旨を伝えられたとき驚きましたよ。
きっと吊り橋効果に違いない
んだ
!
﹂
?
﹂
?
く、く そ
こ ん な ん じ ゃ 駄 目 だ
し っ か り す る ん だ 僕 よ。こ こ で 何 か 言 わ な く
!
﹂くらいならセーフだよね
﹂
よし、いくぞ
でも殴り掛かられたら怖いからなるべく物騒な単語は避けて⋮。
ちゃこの先、一生駄目な気がする⋮。
良し言うぞ
﹁いい天気ですね
そう言って僕は走り去った。
!
!
僕は大きく息を吸い込んで、
!
!
?
!
す。思わず財布に手が伸びてしまった。
彼が立ち止まり、こちらに振り返った。あいかわらず整っているのにおっかない顔で
﹁⋮何か用か
﹁提⋮長野君、どうかしましたか
あぁ僕の憧れの鹿島教官が武士に拐かされてしまったぁ⋮。
!
﹁負けませんから
提督(笑)と白露の君
208
ジャン〇襲撃事件︵命名、俺︶から早三日。特に問題なく学校生活を送っております。
この世界に着て三週間ちょいで、ミック先生の進行状況も80%を超えた。
あと一週間もあればミック先生復活するのであろう現在、鹿島ちゃんと教室移動中、
あれから大分距離感が近くなったと思います。
まぁ、そこそこ濃い一日だったから、怖がられるよりは仲良くなれたのは良かったけ
どさ、物理的な距離とかも近くなったのは気のせいじゃない。
貴女の思わせぶりな態度でおっちゃんの単装砲の暴発が心配な今日この頃。
どことは言わないけど
おっちゃんの体は今は若いからすぐ
メロンちゃんもスキンシップ多目なんだけど、鹿島ちゃんの柔らかさが段違いなんだ
よ
!
もうねあまり近づかないでほしいのですわ
に反応してまうんや
!
!
!
﹁鹿島、離れろ﹂
209
腕に抱き着かないで
たるんや。
嬉しいけど当たるんや
君のマシュマロクッションが当
!
くそっ
なんて勿体ない事をしてしまったんだ。
事が事だけにあまり覚えてない。
今考えれば、襲撃時のトラックの中ではそのクッションで俺の頭は助かりましたが、
!
い。
﹂
﹁いぢわる﹂
!
﹁何がだ
そんな可愛い顔してもダメなんですから
!
ル高めよ
ここに小悪魔がおる
あらやだ、この娘、男心をくすぐるスキ
いかん、そんなこと考えたら砲身が持ち上がってしまう。とにかく離れてちょうだ
!
?
!
俺の制服の裾ちょい持ちしていらっしゃいます。小悪魔や
ぞぉ
!
なんですそれ﹂
?
﹁⋮⋮﹂
﹁えぇ
﹁⋮ユン〇ル10万本売った女﹂
﹁もぅ提督さん⋮じゃなくて長野君、私の事なんだと思ってるんですかぁ﹂
提督(笑)と白露の君
210
﹂
俺も買った口とは言わない。世の中知らなくてもいい事があるのだよ有明の女帝よ。
知ってたし
﹁⋮何か用か
﹂
優しくとか無理だと知ってたし
﹂
だけどもうちょっと声のニュア
なにか切羽詰まったような感じが見受けられるが、ここは優しく問うとしよう。
ん、視線を感じて振り返れば、同期の子がそこにいる。
﹁提⋮長野君、どうかしましたか
?
ンスとか如何にかならないんでしょうかねぇ
﹁いい天気ですね
外、雨降っとりますがな⋮。
!
?
!
ちょっと意味が分からない。⋮白露型と同じ思考なのかな
﹂
と鹿島ちゃんと俺の間に強引にカットイン。
﹂
と入れ違いにメロンちゃんが走ってくる。廊下は走っちゃだめだよ
﹁提督ーーーーー
あぁ見えなくなってしまった。
もしやボッチの俺を憐れんでお友達になってくれようとしたのでは
?
白露の君、ちょっと待っておくれ
!?
﹁鹿島さん、私の提督から離れてくれるかしら
?
はっ
え、何
そして、それだけ言って逆方向に走り去ってしまった同期の子。
!?
?
!?
?
!
!
!
211
﹂
私 たち の提督さんですよ
夕張さん﹂
なんか笑顔でめっちゃ威嚇してる。艤装は出してないだけ成長したな。
﹁私の
﹂
﹁え
?
﹂
﹁え
?
?
よ
ここは直接聞いた方が早いのではないかね
﹁⋮鹿島﹂
﹂
そ ん な こ と 鹿 島 ち ゃ ん に 関 し
提督さんの艦隊の旗艦はお任せください﹂
﹁指揮下に入ったという事か﹂
提督の体に負担掛かるんちゃうん
提督が愛した艦である私が旗艦
?
﹁そうです
いつの間に
ダメに決まってるでしょ
!
?
!?
!
!
ては無かったぞ
﹁ちょっと
!
﹁そ、そんなぁ⋮﹂
⋮その言い方は凄く卑猥な感じがします。俺の単装砲が反応しちゃうからやめて。
﹁提督さんと繋がっちゃいました えへ﹂
?
?
メロンちゃんが俺に掴みかかってくる。いや、そんなこと聞かれても存じ上げません
﹁⋮提督、どういう事ですか
?
?
提督(笑)と白露の君
212
あの勝手に愛した認定されても困るんですが、心血を注いだ生みの親の平賀さんが泣
くぞ
別にメロンちゃんの事、嫌いじゃないよ嫌いじゃないけどさ⋮。
?
﹂
!
出来れば秘書艦はお艦がいいんだけど。
?
その点、お艦はいいぞ肌色面積少ないし、落ち着いてるし、時折覗くうなじが色っぽ
題。
鹿島ちゃんなんか、もろ生足だし絶対見えちゃうよ。後なんか雰囲気がエロイのも問
本格的に警備府だか泊地だか鎮守府に赴任した場合、通常の服装だろうからなぁ。
際に触ったりしながらの物だから大体つなぎ姿だけど。
メロンちゃんの授業は兵装の説明が主で工廠施設みたいなところで艦娘の艤装を実
激しく動くと鳩尾あたりまで肌色が見えて刺激が強いの。
穿いているとは言え、上のセーラー服半袖で裾が短い。
二人の格好が問題なんだ。二人ともミニスカート、メロンちゃんは黒のストッキング
く。
一番、間違いが起こらないと思うから。決してお艦に魅力がないというわけではな
旗艦は秘書艦も務めるんだろうか
﹁実際には私に乗艦してたんだから私に決まってるじゃない
﹁提督さんがいた時、第四艦隊の旗艦を務めた私が適任です﹂
213
いし⋮、あ、最後のはダメか⋮。
まぁでも二人よりは全然、安心できるよね。後、ご飯が美味いのもポイント高い。こ
れは実際に和洋作れる一流といっていい料理人が乗艦してたからな。
上海事変の時、暇を見つけては厨房で料理教わっていたりする。実家に帰ったとき妹
に食べさせてあげるために。
も先の話だし、おいおい赴任場所が決まってから考えればい
でも、ご飯はアレか実際に考えたら食堂みたいなのがあってそこで働いてる人がいる
か。
まぁでも、まだ半年
いだろう。
﹁鹿島﹂
﹁なんですか
提督さん﹂
旗艦の話はその辺で置いておきなさい。
それよりもだ、ちょっと鹿島ちゃんに聞きたいことがあるんだ。
?
なっちゃうのだけれど⋮。
俺、喋るの苦手なんだ。
あのメロンちゃん俺の制服掴みっぱなしなんですが、そんなに強く持たれると皺に
﹁ぐぬぬぬ⋮﹂
?
頭ポンポンして離してもらおう。扱いが犬っぽいって
?
提督(笑)と白露の君
214
どうしたメロンちゃん
正直、ちょっと引くんだけどその笑い方⋮。
だから、こういうコミュニケーションとっていかないと伝わらない場合が多いのだ
よ。
﹁夕張﹂
ほら、離しなさい。
え、なに
﹁はぁい。ふへ、ふぇうへへ﹂
!?
不機嫌な顔より⋮、
なんでご機嫌斜めなんですかねぇ、その顔も可愛いとは思うけどさ。
﹁⋮むぅ﹂
﹁鹿島﹂
﹁⋮むぅ﹂
﹁鹿島﹂
よ。
いやいや、そういう事言ってる場合じゃなくて、おっちゃん聞きたいことがあるんだ
らますます小悪魔やん。
なんで鹿島ちゃんは膨れ面してるんですかねぇ。その表情すら可愛く思えるんだか
﹁むぅ﹂
!
215
﹁いつもの鹿島が好きだ﹂
いつも不機嫌そうな顔の俺が言ってもなぁとは思うけど⋮。
﹂
と言っても回りに誰もいな⋮
!?
﹂
白露の君が戻ってきてくれたぞ。しかも大股で鼻息荒く、険しい表情で⋮。
なんか怒っているのかな
いい天気ですね
!
って⋮﹂
よし、おっちゃんその話に乗ってあげよう。
いるのか。
だから、外雨降っとりますがな⋮。あれか日本人特有の天気の話で場を繋ごうとして
﹁あ、あのっ
!
?
おお
うん。ちょっと誰かどうにかしてくれないかな
涙目で俺を見上げるメロンちゃん。真っ赤になって固まってる鹿島ちゃん。
﹁て、提督ぅ﹂
あれ、なんか言葉数が足りなかった気がするんだけど気のせいかな。
﹁ふぁっ
!?
!
?
﹁て、提督ぅ⋮﹂
白露の君、一体何を言いたかったのだろうか。
なかなか情緒ある考え方だな。と言おうとする前にまた走り去ってしまった。
﹁⋮雨がいい天気⋮か
提督(笑)と白露の君
216
﹁なんだ
﹂
私の事は遊びだったんですか
﹁えへ、えへへ﹂
﹂
そして君は何を言ってるんだいメロンちゃん
﹁私は
?
?
んでしょうか
ないと決めて頑張ってたわ。
⋮ゲームの話だけど。
それよりさ、俺は聞きたいことがあるんだよ
!
﹁鹿島、いつ指揮下に入った
﹂
ってああ落ち着いてくれたのね。それじゃあ、本題に入りますよ。
ねぇ。
いい加減落ち着いてくれませんか
ていうか指揮下に入った艦娘は皆大事。艦これやってた提督の常識。誰も轟沈させ
とお艦も大事。
なんかよくわかんないけど、とりあえず赴任したらわが艦隊の大事な戦力だから。あ
﹁二人とも大事だ﹂
?
今度は表情がメロンちゃんと鹿島ちゃんで逆になったよ。これどうやったら収まる
?
?
﹁三日前のあの日ですよ。ほら、提督さんに命令されて﹂
?
217
ああ。あの、えげつない攻撃を食らわせた時ね。
﹁⋮そうか﹂
あ の 時 や っ ぱ り 何 も 感 じ な か っ た よ な ぁ。ま ぁ 指 揮 下 に 置 い て し ま っ た の は 良 い。
戦力が増えるんだから作戦の幅とか広がるし。
だけどさ、学校どうするんだ
?
﹂
ですから旗艦はこの鹿島にお任せください﹂
﹁その話は後だ。学校はどうする
!
きそうだ。
しかし、もし北上様と離れ離れになってしまったのであれば怒りの矛先がこちらに向
たよな。
大井⋮言わずと知れたクレイジーサイコレズ。そういえば艦の時は練習艦になって
香椎ですね﹂
鳳翔さんの代わりは恐らく龍鳳さんが、夕張さんの代わりは大井さんが私の代わりは
と鳳翔さんが抜けるので新しい教官は補充される予定でしたので何とか⋮。
﹁三日前に校長先生⋮中将にお話しして⋮今日、許可を頂けました。もともと夕張さん
?
﹁勿論です
旗艦うんぬん言ってたから付いてくるんだろうけどさ⋮。
﹂
﹁俺が卒業したら付いてくるのか
?
提督(笑)と白露の君
218
219
遭遇したら⋮怖いな。全力で逃げよう。大井とはあんまり繋がりないよな
性大だよアレ。
実際、あれを見るととんでもないよ 航空機からの機銃掃射だけでも誘爆する危険
反対しなかった。
本当は重雷装も反対だったんだけど、高速輸送艦にされるからまぁいいかと表立って
か、
開戦前の重雷装艦に改装の際、対潜ソナーもつけとけって進言して搭載されたくらい
?
何十人も関わってるし鋼材関係でも長野重工の鋼材を使用されてる。
大鯨が起工時も空母に改装される際も、電気溶接の工員でうちの会社の腕のいい者が
ないけど、うちでやっていた会社が大いに関わった初めての艦である。
俺自体は艦の方に口出し出来るようになったのが1939年からだから関わってい
大鯨ではなく龍鳳になっているのか⋮。
龍鳳⋮。
だから艦娘の大井はあの危険な感じがプンプンするのか⋮。
危険な艦よ。
実際には雷撃可能距離到達前にちょっとでも攻撃受けたら一発轟沈の可能性が高い
艦これじゃハイパーズと呼ばれて夜戦や開幕魚雷で重宝されたけどさ。
?
提督(笑)と白露の君
220
ただ日本はニッケルを手に入れるのは苦労したからなぁ鋼材の質は史実よりはマシ
程度。
うち以外の会社の工員の多くは電気溶接の腕がイマイチでやっぱりその過程で歪み
が発生して何度かの修正が行われる。こっちも史実よりはマシ程度の結果。
大鯨はディーゼルエンジン搭載だったがその流れで、うちも研究開発しています、ど
うぞ使ってみてくださいのノリで大鯨と潜水艦に使われるようになった。
大鯨のディーゼルエンジンは史実ではイマイチの出来だったが、ちゃんと計画通りの
出力と速力を出せたそうだ。
発動機部門の営業スゲェなぁと営業さんに金一封出したのは懐かしい。
そんな感じで長野商会が大いに関わった龍鳳︵大鯨︶である。
それ以降、会社は海軍とも陸軍とも関わるようになる。
基本的には、こんなん作ってみてと設計図と概要と起こりうる問題点なんか書いて丸
投げである。
俺が海軍所属なんで本当に重要な案件以外は会社側も連絡とってこないから後から
そういう事知ることが多くて驚く事が多かった。
で、最後に香椎か⋮香取型練習巡洋艦の三番艦⋮艦娘として存在しているのか⋮。
なんてこった、超見てみたい。
﹁提督さん、講義始まっちゃいますから、行きましょう﹂
おお、そんな時間か。鹿島ちゃんに対する疑問も解決できた。
生徒が待っているぞ。
?
艦から女の子に変わった艦娘でもそれは一緒らしい⋮。
女の子ってたまにこういう男には分からないやり取りするよね。
二人の間で意思疎通が行われているけどおっちゃんは分らないんだ。
﹁もう分ってますよ夕張さん﹂
﹁はぁーい。⋮その前に鹿島さん﹂
君も授業あったよね
﹁ああ、そうだな。夕張も戻れ﹂
221
提督︵笑︶と動き出す周り
砲撃が奏でる轟音と水柱が幾重にも上がる世界で可憐な乙女達が海上を駆る。
死と隣り合わせの円舞曲は空から来る死神の口笛により彩を添え、さらに幾重にもの
上る水柱が乙女達に降り注ぐ。
﹂
少し下がりましょう
幾らなんでも出過ぎじゃ
﹂
だが、乙女達の瞳には怯える様子もなく、ただただ強い闘志が揺らめいている。
﹁姉さん
!
!
三人は艦娘である。そして共通点がある。前者は巻き編みにした髪型が、分りやすく
たと思われる赤いミニスカートに身を包む女性も声を上げる。
肩が露出している巫女服と振り袖を混ぜたような服装の上に千早を羽織り袴を模し
髪には金に輝く電探を模したカチューシャ。
そしてそれに同調するように突っ込んでいった女性と同じような恰好、長く棚引く黒
て大きく声を上げた。
少女は艤装から魚雷を発射しながら、水柱に向かって突っ込んでいく女性の背中に対し
空色の髪に水平帽、半袖のセーラー服の袖をまくったフレンチクルーラースタイルの
!
!
﹁そうですよお姉さま
提督(笑)と動き出す周り
222
言えばドーナツのフレンチクルーラーが髪で作られていると言えばいいだろう。
後者は服装が、差異があるとすればスカートの色彩が異なる事くらいだろうか。
しかし、そんな二人のいう事などお構いなく、声を掛けられた人物は水柱の間を掻い
潜り、
飛来する艦載機を機銃で牽制、あるいは撃ち落としつつも止まる事無く突き進む。
﹂
おどりゃあーそこ退けやぁ
﹂
敵、深海棲艦の艦隊に向かって突き進む。
﹁あーもう
﹁全力で参ります
!
﹂
﹂
﹁いっちゃった⋮どうしよう﹂
﹁吹雪ちゃんしっかり
である。
標準的なセーラー服に身を包む特I型駆逐艦の面々は日本の南方を哨戒する艦娘達
!
!
﹁⋮帰りたい﹂
!
!
行っくぞぉー
﹁ぃよーし
!
深雪ちゃん私達の練度じゃ危ないよ
﹁だ、駄目
⋮とにかく私たちは回避優先﹂
三人が突出して敵艦隊に突っ込む。他の随伴艦は堪ったものじゃない。
その様子を見た二人は、後に続き全力で支援に入る。
!
!
223
今回、深海棲艦の比較的大きな規模の艦隊が侵攻中であると上に報告したところ、
彼女たち第十一駆逐隊に増援として駆けつけて来たのが今しがた突っ込んでいった
三人ともう一人である。
たった4人の増援では少なすぎるという思いもあったが、ここまでの戦いを見て自分
たち︵十一駆︶とは別次元の強さと言うのはハッキリしていた。
ちなみに余談ではあるが、突っ込もうとして吹雪に窘められた深雪は史実では太平洋
戦争開戦前に演習中、電に頭突きを食らい真っ二つにされるが、どこかの海軍士官に衝
突注意と散々言われていたのでギリギリで舵を切り左舷同士を抉り合いの痛み分けし
て仲良く入渠したという過去に変わっている。
特徴的なサンバイザーをしたツインテールの駆逐艦娘⋮ではなく軽空母の艦娘であ
﹁ええ判断やね。あいつらの真似したらあかん﹂
る。
紅い水干のような服装に黒のミニスカート。そして安定性の悪そうな厚底のブーツ
で背の高さを水増ししている。
艦で言えば吹雪の方が年上である。見た目でいっても吹雪の方が少し年上か同じく
﹁まぁ⋮ちゃんでもええけどな﹂
﹁龍驤ちゃ⋮さん﹂
提督(笑)と動き出す周り
224
らいかの容姿である。
﹂
これが陽炎型や夕雲型の駆逐艦なら一言位言っていたかもしれないが、それ以上の事
をいう事もなく⋮、
﹁さてとウチも本気でやらなぁ⋮。艦載機のみんなぁー、お仕事お仕事ー
﹂
?
﹂
!
前方から戻ってくる三人には被弾した形跡は見られず、悠々とこちらに滑ってくる。
﹁⋮終った。帰ろう﹂
﹁痺れるぜぇ
﹁すごいですねぇ﹂
﹁⋮勝ったの
海上に立っているのは艦娘と呼ばれる者だけである。
海上には静寂が訪れる。
減り、一際大きな轟音のあとに金属そのものが悲鳴を上げたような音が響き、
そうして時間が過ぎていくと飛んでくる砲弾、飛来する敵艦載機、魚雷が徐々に数が
むのであった。
その姿を横目で見ながら第十一駆逐隊の面々は飛んでくる砲弾と魚雷の回避に勤し
飛行甲板が描かれた巻物から式神が飛んでいき途中で艦載機へと姿が変わる。
そういって持っていた巻物を片手で広げる。もう片方の手には勅令の火の玉が出現。
!
225
その様子をキラキラとした目で見つめる第十一駆の吹雪、白雪、深雪、と常時眠そう
な初雪。
その三人に労いの言葉をかける龍驤。三人はそれぞれに応える形で合流する。
﹁お疲れさん。ほな帰ろか﹂
さらに特I型の駆逐艦娘達もやってきて、皆でわぁわぁとやっている中、少しだけ集
団から離れたところで空を見上げる一人。
﹁提督ぅ⋮また生き残っちゃったヨ﹂
その呟きは誰に聞かれることもなく海の風によって運ばれていった。
﹁お姉さま行きますよー﹂
妹に曖昧な笑顔で返し、今日も彼女はどこかの戦場を後にする。
眼光鋭い校長先生の巣食う一室から出て、その言葉が頭でリフレインした。
﹁一月後、父島赴任を命じる﹂
提督(笑)と動き出す周り
226
227
こんな短
最短で3カ
いやぁ、放課後に急に呼び出されてそんなこと言われたわけですよ。一緒に渡された
書類は旅のしおり的な物だろう。
おかしい⋮。通常は半年から一年くらいかかって卒業じゃないのか
月は掛かるんじゃないの
?
まだ俺氏、一カ月も経ってないのですがねぇ⋮。実質2カ月程度で卒業
い間で俺の何が分かるっていうんだい
のだって受けないのはどうなんだい
頭の中が疑問でいっぱいですわ。
?
違う科の生徒諸君は違う宿舎で共同生活を送っているらしい⋮、そういや他の科の生
屋をなるべく出さないようにと一人部屋。
人の住まない部屋っていうのは何故か劣化が早いのだよ。メンテナンス面で空き部
本当は共同生活を通して仲間意識と協調性を鍛えるとかあるんだろうけど。
てる。
ここの提督候補の皆さん、一学年に10人居るかどうかな訳だ。学生宿舎があり余っ
で共同部屋になるんだけど、
そんな事を考えながら、自分に割り当てられた部屋に帰る。普通の士官学校なら同室
いや、これから受けるのか⋮
?
もっと腹割って話した方がいいんじゃないのですかい⋮。大体、卒業試験のようなも
?
?
?
徒とあまり会わないよなぁ。
何か意図があるんだろうか⋮。
それとも・・・﹂
夕ご飯も食べてないよ
日課の
まぁ自分から志願して入ってきた者と強制的に連れてこられた者ではやる気とか考
ご飯にしますか
え方とかで摩擦が起きるだろうけど、果たしてそれだけなのか⋮。
﹁お疲れ様です。お風呂にしますか
あの、その、不束者ですが宜しくお願いしますっ﹂
﹁⋮鳳翔﹂
﹁えぇ
?
部屋に入ったらお艦がいた。あの、どこから侵入されたのでしょうか
鍵かけていったと思うんだけど⋮。
なんで布団を敷きはじめる。まだ寝ないよっ
﹁おい待て﹂
走り込み&牙突もまだしてないし。
﹁落ち着け鳳翔﹂
!
?
﹁どうやって入った
﹂
?
?
﹁夕張さんが合鍵をくれましたよ
﹂
何となくお艦が慌てている姿は新鮮なんだけど、状況を整理しようじゃないか。
!
?
!?
﹁は、はいっ。あ、あの私⋮初めてなので⋮﹂
提督(笑)と動き出す周り
228
おいメロン
何してくれてんだ
!?
だろう。
という事はだよ、有明の女帝やメロンも合鍵を持っているという事でまず間違いなし
﹁⋮そうか﹂
!
﹂
俺のプライバシーは一切無視なのか⋮。というか、学校の風紀的にどうなんでしょう
か
?
﹁そうではない⋮が⋮急になんだ
う事になって、
﹂
そこで襲撃を受けたから、これは学校内でも提督の安全を確保しなくちゃならんとい
?
?
﹁この間、鹿島さんとお出かけされましたよね
﹂
それほど広い訳ではなく、意識してしまうと俺の単装砲がね⋮。
レとシャワー室。
共同部屋であったであろうが、部屋の大きさ自体は6畳一間に簡易なキッチンとトイ
か⋮。
いきなりは困るというか⋮、あまり広くない密室に二人きりの状態は良くないという
メロンちゃんにはあとで厳しく言うとして、いやぁ迷惑ではないのだけど⋮、
﹁あ、あのご迷惑でしたか
?
229
俺の指揮下のお嬢さん方が放課後ローテで護衛しに来るとの事。
ねぇ、それ寝るときとかどうするのよ⋮
﹁と、とりあえずお茶淹れますね﹂
﹁⋮ああ﹂
だが、なんで隣に座るんですかねぇ⋮。
向かいではなく⋮横に腰掛けるお艦。冷静さを取り戻しているようで何より。
﹁⋮ああ﹂
﹁提督、どうぞ﹂
壁に立てかけられていた卓袱台を置いて、旅のしおりでも見るか。
簡易キッチンで作業するお艦を横目にしつつ、敷かれた布団は畳んでおこう。
?
これは俺に限らず提督候補の皆さん 特殊兵器指揮運用科 の生徒は一律卒業後少
一か月後には父島に任官という事で正式に尉官すっ飛ばして少佐スタートする。
父島赴任と少佐任官が書かれている。
取り出した書類の一番上は人事辞令。
﹁⋮佐官任命か﹂
あ、これ旅のしおりじゃなかったのね。
﹁辞令ですか﹂
提督(笑)と動き出す周り
230
佐からだそうだ。
この辺りはゲームでも同じだけど実際に大戦過ごしていた人間としては違和感が凄
いね。
海軍人事に関していえば、艦娘達を指揮する提督と呼ばれる者と普通の海軍軍人では
昇級の仕方が異なるようだ。
海軍だけど海軍じゃない矛盾した存在が提督や司令と艦娘達に呼ばれる者。
まぁ他の海軍属の人たちからすると、あくまで艦娘を操れる一般人に毛が生えた程度
みたいな感じのようだ。
彼らも色々と思う事はあるだろうな。本来ならば自分たちの力だけでとか、なんでこ
んな奴らを頼らないといけないとかあるだろうと理解できる。
﹂
とか思うわ。
それはいいのだが、艦娘達に少佐で提督とか司令とか呼ばれる方が内心、馬鹿にされ
てるのか
﹁ご不満ですか
?
受けたのって入学時の学力試験だけだよ
?
これが一番分らない。授業態度はお世辞にも良いとは言えないし、試験なんか今まで
﹁⋮不満は無いが、随分と早く任官になった﹂
そんな顔してないよ。常時、仏頂面なのは仕様です。
?
231
﹂
﹁それは私達のせいですね﹂
﹁なに
あ、そうですか⋮。その過剰な期待が俺には辛いのだけど⋮。
﹁⋮⋮﹂
した﹂
﹁夕張さんや鹿島さんたちと提督なら問題なく前線で指揮をとれると推薦させて頂きま
?
いく様は何とも言い難い。
最低限の⋮敵艦に体当たりするだけの訓練をした若者たちがどんどん命を散らして
まった。
とくに菊水作戦はなんとしても止めようと思ったのに⋮八号作戦まで実施されてし
ていったのだが。
まぁ太平洋戦争末期はそんな暇もなく陸軍、海軍共に若い者がどんどん前線に送られ
してから前線という流れだと思う。
確か父島は前線の一つであると授業で習った気はするけど。普通は後方で少し過ご
辞令を見て難しい顔をする鳳翔。
⋮、赴任先が父島ですか⋮﹂
﹁本来は人間側の教官達からも推薦頂かないとこんなに早く卒業とはならないのですが
提督(笑)と動き出す周り
232
効率の面で言えば戦果を見てもとても理には適っていた。だが、そんなもの俺は許容
できない。
沖縄に迫るアメさんに対して日本側もまだもう一戦位なら艦隊決戦を挑むことが出
来たはずなのに、その進言は受付られることなく敢行され己の無力さに憤った覚えがあ
る。
結局、空母はあるのに搭乗員と機体の不足で稼働できないものが港で置物になってた
んだよなぁ。
﹁提督、必ず私がお守りしますから﹂
置も⋮、お艦が俺の手を取って強い眼差しで見つめてくる。
何 も し た 覚 え な い ん だ け ど
ああ父島赴任から話が飛んでたな⋮。えぇと後方をすっ飛ばしていきなりの実戦投
入。
﹂
こ の 世 界 で も 俺 は 軍 の 上 の 方 に 嫌 わ れ て ん の か な
なぁ⋮。
﹁あの、提督
お艦は戦場より台所が似合うと思うの。赴任先の父島では一緒にご飯でも作ろうか。
﹁俺の心配より自分の身を大切にしろ﹂
まぁあと一カ月は猶予があるんだミック先生が復活すれば何とかなるだろうから⋮。
?
?
233
あ、そういや父島ってどんな具合なんだろう
書類の中に父島の状況が書かれたものとか無いかな
お艦。
あった、これだな。
なん⋮だと
提督がいないだと⋮
というわけで手を離してね
?
?
して戻ってくるような前線ていうか最前線じゃないか
?
父島にいるんですね⋮っていねぇのかよっ
いきなり泊地さんが相手になるんですかねぇ⋮。
その詳細は不明との事だが⋮えぇと⋮。
いるらしい。
父島より大体、東に1000kmの位置にある南鳥島。そこに深海棲艦が住み着いて
!
その状態が一年近く続いている。ちょくちょく誰かが行っては一月持たずに大怪我
赴任先の父島には提督が不在。艦娘達だけで何とかやっている状態みたいだ。
海域を守っているのだが、
普通は各鎮守府、泊地、警備府などには複数の提督が居てそれぞれ連携してその担当
!?
!?
戦艦娘居ないと無理じゃね あぁ
!
提督(笑)と動き出す周り
234
!
﹂
﹂
!
何いきなりどうした
でも戦艦クラスは人数が少ないから
良くこの戦力で前線維持できてるわ。逆に感心するわ
赴任までにヒェーを引き込めないかなぁ⋮
うおっ
﹂
今日のお艦はちょっと様子がおかしい。
遊びに⋮護衛しに来ましたよー
﹁⋮どうした
﹁提督ー
鳳翔さん痛いっ
今、完全に遊びにって言ったよこのメロン
痛い
!
!
俺は助けないよ
お艦には逆らわないと誓ったから、あと勝手に合鍵作った罰だ。
そして何故かいい笑顔のお艦にアイアンクローされている。
﹁イタタタタ
!
!?
?
!
?
ドアが勢いよく開けられメロンちゃんがやってきた。
!
!
代わりの教官探すのも大変だろうし⋮。
どうしたものだろう
?
吐息が当る距離ですやん
お艦近っ
!
﹁提督ぅ﹂
!?
!
?
235
提督(笑)と動き出す周り
236
観察対象に関する報告書
看視対象に大きな動きがあり。
対象を以降、苺と表記。
苺、入学以降鬼気迫る鍛錬を行っている。
剣術に関しては長野家伝来の神道念陰流の型と我流と思われる突き。
どちらも長年の修練を積んでいると思われる。
4月○○日
苺、資金援助を求め、お嬢様に通信。
この件は既に把握していると思われるため割愛。
5月○日
苺、護衛︵香取型2番艦︶と共に施設外へ。
公安、公安が張っていた諜報員、自分に気づいた様子を見受けられる。
大陸系の諜報員に偽った海軍の紐付きの襲撃を受ける。
不測の事態の為、護衛に回るが襲撃時に動揺した様子は見られず。冷静に判断を下し
ていた模様。
237
こちらを深く観察された。以降、顔が露見した為、違う者を観察員とする。
非常に注意深い為、監視には十分な配慮が必要。
以上。
提督︵笑︶と響く悲鳴
﹁この短期間に三人を指揮下。しかも全員教員役か⋮﹂
重厚な執務机で受け取った書類に目を通しながら鍛えられた肉体の壮年男性は口を
開いた。
﹁はい。香取型2番艦に代わる者の補充をと中将が⋮﹂
苦笑を浮かべる海軍のトップ。と、それに申し訳なさそうに少し頭を下げるスーツ姿
﹁以前、同じような台詞を聞いた気がするな⋮。どうにか手配しよう﹂
の男、名は直江。
ここは赤煉瓦と呼ばれる建物の一室。
﹂
?
﹁⋮⋮﹂
りました﹂
ですが彼が外出時に襲撃を受けた後から、態度が全く異なり夕張と似たような状態にな
いですね。香取は彼を恐れている感じがあります。鹿島は以前、かなり恐れていた様子
﹁夕張は彼にべったりです。鳳翔も似たような感じでしょう。比叡の様子が少し可笑し
﹁教官役艦娘達の様子は
提督(笑)と響く悲鳴
238
﹁⋮⋮﹂
二人の間に沈黙が訪れる。それは何を思っての沈黙か⋮。
いた。
﹁⋮重巡の誰かを引き合わせてみるか﹂
?
﹂
﹁適 性 を 見 極 め る だ け な ら し ば ら く 出 向 と い う 形 で 送 れ る。佐 伯 の 鈴 谷 型 な ら ど う か
﹁協力的な重巡は大方どこかに配属されているのでは
﹂
ならば戦艦、空母、軽巡︵練巡︶あと駆逐の適性もあるだろうと二人は同時に考えて
統計からみるに軽巡の適性持ちは駆逐艦の適性も大抵有していたりする。
﹁比叡からの報告では戦艦も指揮下に置けるとの事です﹂
気を取り直して咳払いを一つ入れ大将が口を開く。
﹁少なくとも軽巡と空母の適性はあるのだな⋮﹂
239
つもりか﹂
﹁頼んだ。しかし、獅子飼も随分早急だな。観測者組とは言え、あとひと月で卒業させる
﹁はっ、問い合わせてみます﹂
思い浮かべ、口にする。
比較的安定している海域かつ有事の際に他からの増援を送りやすい地にいる重巡を
?
観測者たちの事をあまり良く思っていないが、それでも日本を守る貴重な戦力になり
うる存在というのは理解し、彼らが指揮官として一人前になることを望んでいる奴だと
大将は士官学校の校長の顔を思い浮かべていた、
﹂
だからこそ、何故こんなにも早く前線に送り出そうとしているのかが不思議だと大将
は考える。
﹁以前のお送りした報告書は目を通して頂けましたか
﹁彼が襲撃された件かね﹂
もし事実なら内部に彼を狙う何者かが存在し、ならば海軍関係者が極端に少ない前線
しているそうです。
﹁はい。あれから監査局の方では海軍関係者が関わっているのではないかと疑いが浮上
?
﹂
⋮、父島の方が危険が少ないのではとの中将のお考えです﹂
実際の所は何だ
?
?
他国に比べれば平和である。
軍に対する世間の目は厳しい。どうにか戦線を維持している状態で、それでも国内は
飲み込む。
もう陸も海も空も日本軍全体で傷だらけではないかとも思えるが⋮。という言葉を
﹁もし監査局のいう事が真実で彼に万が一があれば海軍の面子が傷つく恐れが⋮﹂
﹁⋮それは表向きだろう
提督(笑)と響く悲鳴
240
大衆にとって他国の事など所詮は対岸の火事。どれだけ他国が悲惨な状態にあるか
説いてもいざ自分の身にならないと分らないものだ。
故に大衆は批判する。この閉塞感は軍が無能だからだと、国が無能だからだと。
なにかスキャンダルがあれば軍を攻撃するマスコミの恰好のエサとなることは明ら
か。
それを危惧しての事だというのは分かる。
﹁⋮長野か。彼が観測世界の長野所縁の者だとして、こちら側の長野が動く動機は何か
動き出した時期から見て、恐らく彼に何か関係があると思われます﹂
﹁⋮もう一つ。長野グループが公安や政治家に色々と手を回しているようです。
なのか⋮。
まだ伸びるかもしれないそんな彼を中途半端に追い出すように前線に送っていいもの
その点を見れば今年卒業して提督になった者達にも勝るかも知れない。学べばまだ
力面では圧倒的な差。
だが、毎日のように体を苛め抜いているともある。入学一カ月の他の候補生達とは体
態度は褒められた物ではない。
艦娘達に好かれるそれだけで才能と言える。手渡された資料によれば講義を受ける
﹁⋮それは仕方ない事なのか﹂
241
﹂
﹁ふむ。あり得るな⋮。だが少し弱いな、⋮探れるか
そうであろうなと考えながら大将は目を瞑る。
﹁⋮難しいかと﹂
﹂
﹂
下手に藪を突くと色んな所から圧力がかかってくるだろう。
国民の生活、政治家、軍部、あらゆる分野にコネクションがある企業だ。
のと思われる物しか出てこない。
創設者の壱業氏の写真ですら海軍学校時代の集合写真と最期の作戦前に撮られたも
る。
長野グループは昔からそうだ。徹底した情報管理と技術を秘匿することに長けてい
飼も苦渋の決断かと考え直す。
かの女帝の海軍嫌いは有名である。万が一があれば長野も動く可能性がある。獅子
?
換えに支援を求めたのではないでしょうか﹂
﹁あくまで推測の域ですが、向こうの世界にあって此方には無い技術提供。それと引き
?
?
﹁襲撃時も冷静だったそうだね⋮。よほど肝が据わっているのか⋮ただの馬鹿か⋮﹂
﹁これといって。⋮焦る様子も、こちら側に何か言ってくる様子もありません﹂
﹁⋮直江君、当の本人の様子はどうなんだね
提督(笑)と響く悲鳴
242
手元の資料の中に何点か普段の様子を撮った写真があり、それはどれも不機嫌そうな
顔である。
報告書の通りなら普段の睡眠時間的には3時間かそこらで常軌を逸した自主訓練を
己に課している。
ただの馬鹿にしては度が過ぎている。
包んでいる。
一人は俺氏、もう一人は香取型の礼服系士官服とでも呼べばいいのかそれに上は身を
夕暮れ時の教室で一組の男女が向かい合っていた。
実際に会ってみて前線でやれるかどうかを判断しようと思う大将であった。
せるのなら何かがあるのであろう。
この部下の観察眼はとても優れている。能力も申し分ない。その者にここまで言わ
﹁⋮うぅむ。一度、本人に会ってみるか﹂
﹁⋮あれは異常です。とても平和な時代を謳歌した人間には私には思えないのです﹂
243
提督(笑)と響く悲鳴
244
会った時は新鮮味があったが、今は慣れた金剛型スタイルではない飛影⋮ヒェー⋮比
叡。
そういえば、彼女は金剛型スタイルの今も太い帯はしてないけど下は緑色のタータン
チェックのスカートなのだが、これは英国の伝統的なスカートの柄なんだけど⋮、英国
生まれの長女を差し置いて日本生まれの妹がお株を奪うこれいかに⋮。
まぁ英国産の部品も多く使われてたし、そういう事考えたらキリがないのだけれど
ねぇ。
大体、御召艦と言えばこの娘っていう感じにも関わらず、若干アホの子だ。
それは講義を受けてみてその片鱗が見受けられるから間違いない。
まぁ、その辺が愛され要素なのかもしれないけど。そういや井上さんも好きだったよ
ね。
ところで艦時代の影響が趣味や嗜好、性格に出ることが多いといった妖精さんは出て
こい。
さてさて、そんな毒殺カレー製造娘と向かい合っているのは、個人授業も終わり、一
人で起立、礼を行った時だ。
俺が、礼をするとビシッと敬礼で返すのが個人授業の時のいつものヒェーなのだが、
今日はそこで呼び止められた。
﹁あの長野君。何で私はいつもあなたに敬礼するのでしょう
﹂
?
こっちが聞きたいわい。
!
嫁・姑問題って、何ですか ﹂って時報聞いたときと同じくらいの脱力感を味
と言われたんだけどさ⋮。知らねぇよ
﹁司令
?
た俺の純情どうしてくれるん
そういえば開戦前って一部からは技術将校だと思われてたんだよなぁ。
とした覚えがある。
名誉な仕事だけど何かあったら首がヤバイって事で俺に押し付けた本部長にイラッ
に暇そうだからという理由と、
世間が開戦止む無しムードが大分高まってきていて、何とかせねばと動き回ってた時
だった。
そ の 頃 の 俺 は 艦 政 本 部 に 出 向 扱 い で 担 当 の 駆 逐 艦 の 設 計 開 発 に 目 処 が つ い て た 時
観艦式自体は五十鈴に乗ってたし。
た時くらいかな。
比叡に実際に乗ったのは1940年の観艦式で御召艦になるっていうんで小改装し
﹁⋮知らん﹂
?
真剣な顔でこっちを見つめてさ⋮、ちょっとシチュエーション的にドキドキしちゃっ
わったわ。
?
245
ショボーンってするなよ。俺が悪いみたいじゃないか⋮、俺が悪いのか
4人指揮下に置ければ優秀みたいだけど、転移
組はキャパ大きいらしいからもう少しあるよな。あるよね
?
それでも自分の戦力が多い事に越したことはない。何度も言うけどやっぱり欲しい
相手がどんな存在か分らないんじゃこちらとてお手上げなのです。
きゃワクワク出来ない。
孫さんも言ってただろ彼を知り、己を知ればオラ、ワクワクすんぞって。敵を知らな
南鳥島の深海棲艦の情報が不足してる。いったい何がいらっしゃるんでしょうね⋮。
ど⋮。
あぁやっぱり戦艦クラス欲しいです。駄目なら重巡でもいい。適性あるか知らんけ
ないし⋮。
不安だ。俺の指揮下のお嬢さん方はお世辞にも火力が高いと言える娘さんたちじゃ
?
キャパもどんだけあるんだろうか
揮下に入りたくないって可能性だってあった⋮。
いや、それ以前に俺は戦艦を指揮下に置ける適性が有るのかも分らんし、ヒェーが指
ど、戦艦は人数居ないから引き抜きは難しいもんな。
でも、壱業って事は秘密だしねぇ。父島行きには是非ともお供してもらいたいのだけ
?
﹁⋮そうですか﹂
提督(笑)と響く悲鳴
246
な戦艦クラス。
⋮一応聞いてみようか。
聞くだけなら無料やし。
戦艦比叡のお力をお借りしたいのです
なんかとんでもない事を口走ってしまった気がするのは気のせいか
!
ご、ご好意はありがたいです。で、でも⋮私の心は、お
?
﹁比叡、お前が欲しい﹂
ななな、なにを急に
姉さまに⋮⋮﹂
﹁へ
?
伝えたかったニュアンスがちょっと違う気がする⋮。
?
か細い声でこちらに問いかけるヒェー。
﹁⋮そ、その指揮下に入れという事でしょうか
﹂
顔を真っ赤に染めているヒェー。何かがおかしいぞ。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
うん
んかねぇ。
えぇと⋮、金剛LOVEで構わないからちょっと俺の指揮下でお力を貸してくれませ
﹁金剛に対するお前の気持ちは関係ない。俺のモノになれ﹂
!?
247
?
﹁⋮そうだ﹂
﹂
時折。ヒェーという声が響いてくるが、これは上手くいったのか⋮
廊下に飛び出していった比叡。廊下は走っちゃ駄目だよ
!
だが、女子高生とラブロマンスする少女漫画は避けて欲しかったなぁ⋮。
メロンちゃんの置き土産が一番俺の心を擽る。漫画やケータイゲーム機やらである。
を感じてならない。
小悪魔鹿島ちゃんはペット雑誌とかファッション誌とか、あとぬいぐるみ。あざとさ
流石お艦はお艦である。
ン周りのモノ。
だんだん、指揮下のお嬢さんたちの私物が俺の部屋に溢れてきた。お艦は簡易キッチ
うか。⋮いるんだろうな。
んじゃ運動着に着替えに部屋に戻りますかね。ってか誰かが俺の部屋にいるのだろ
うかな⋮。
さてと、ひとっ走りして飯食ったらまた走り込むか、今日は牙突 零式でもしてみよ
考えよう。
まぁ考えるって言ってくれたし、無下にされるよりはいいだろうから何事も前向きに
?
?
﹁少し考えさせてください。失礼します
提督(笑)と響く悲鳴
248
少女漫画って意外と過激な描写があるんだね⋮、おっちゃん知らなかったよ。
見ちゃったその日はいつもより激しく牙突してたわ。もちろん零式。
案の定、部屋に戻れば誰かいた。っていうか、メロンがいた。
﹁あ、おかえりなさい提督﹂
唯我独尊やねぇ。
小型のテレビに映し出されている国民的人気配管工のカートレース。
メロンちゃん、テレビまで俺の部屋に持ち込んできたん
﹁提督もやりましょ﹂
メロンちゃん君って奴はぁ⋮。
﹁⋮⋮﹂
実家は長野商会を創める前は榛名山の麓で豆腐屋をやっておりました。
無言でメロンちゃんの隣に座る⋮勿論やるに決まってるじゃないですか。
?
偶にはいいんだよ 夕食まではわずかな時間だ問題
グンマーの豆腐屋の倅の血が騒ぐんだ仕方ない事だ。
走り込みはどうしたって
ない問題ない。
ご飯食べ終わった後はちゃんと走りますから
!
?
!
249
てか大体わかるし⋮。だからそんなに密着しな
﹁提督これがブレーキボタンで⋮こっちが⋮﹂
﹁お、おう﹂
取説貸してくれればええんやで
いで欲しいのですけど⋮。
コンコンと扉を叩くノック音。
﹁開いている﹂
るいっ﹂
﹁失礼します。提督さーんコーヒー豆手に入ったので淹れますよ⋮ってあっ夕張さんず
?
給が追い付いていない。
本州でも大型の温室みたいなところで栽培して何とかしようとしているが需要に供
る。
日本はコーヒー栽培に適した場所が少ない、故に輸入が滞っている現在、高級品であ
ない。
国産コーヒーというのは沖縄の一部と小笠原諸島の一部でしか日本は栽培されてい
か。
鹿島ちゃん登場。その手にはコーヒー豆が入っている袋とコーヒメーカーであろう
﹁ちっ﹂
提督(笑)と響く悲鳴
250
父島に赴任したらコーヒー栽培でもしようか。自分で飲む分くらいは賄えるんじゃ
ないかな。
﹂
てか今、メロンちゃんが舌打ちしたような気がするんだけど気のせいだよね。
﹁鹿島さんもコーヒーで提督釣ろうだなんてずるいんじゃないの
奇声が響き渡った。
余談ではあるがその夜、皆が寝静まった頃、学校内に﹁ヒェェェェー﹂という大きな
二人の掛け合いを眺めつつ、俺は一人ゲームでドリフトを決めているのであった。
ないでくれよと願う。
この二人仲がいいんだか悪いんだか分らないなぁ。頼むから作戦中に喧嘩なんかし
﹁そんなつもりじゃないですぅ﹂
?
251
提督︵笑︶と4人目
﹁今日、ここに集まってもらったのは重大な⋮とても重大な話があるからです﹂
のにぃ⋮。もう毎日のように三人でここ来てますよ
﹂
﹁⋮集まったって本当は交代で提督さんと過ごす為じゃないですかぁ。今日は私の番な
﹁そうですね﹂
ましかった他の二人が提督と過ごせる一緒の時間を作りたかっただけである。
表向き、自分たちの提督の警護のためにとの理由だが、鹿島が一緒に出掛けたのが羨
﹁まぁまぁお二人とも落ち着いてください﹂
﹁うっ﹂
﹁細かい事は気にしない。大体、鹿島さんだって順番守って無いじゃない﹂
ここは生徒宿舎の一室。主不在の部屋に三人の乙女が卓袱台を囲み向き合っていた。
?
す。負けません
︶﹂
?
!
﹁どうかされましたか
﹂
﹁⋮⋮︵鳳翔さん、いつの間にか提督さんの隣にいる事が多いんですよねぇ。⋮ずるいで
﹁⋮⋮︵おっとりした様子なのに鳳翔さんが一番油断ならない︶﹂
提督(笑)と4人目
252
﹂
そんな二人の心など知らない鳳翔はいつもと変わらぬ穏やかさである。
気を取り直した夕張は本題に入ることにした。
﹁何でもないです。さて、もうすぐ何がありますか
﹁はい。提督さんが父島に赴任します﹂
手を上げて答える鹿島。
?
教官の引継ぎなんです
﹂
﹂
﹁正解です。でもその前に私たちは、やらないといけない事がありますね﹂
﹁引継ぎですね﹂
﹁そうです鳳翔さん
パンパンと卓袱台を叩く夕張。
﹁私は大鯨さんではなくて龍鳳さんにですね﹂
﹁そうでした香椎にいろいろ教えてあげないと﹂
!
提督に会ったらどうなると思います
再び卓袱台を叩く夕張に残りの二人は顔を向ける。
新たに艦娘が来るんですよ
!
!
﹁⋮私は大井さん。いや、そういう事じゃないんです
﹁いいですか
!
!
提督候補1年生は座学と体力づくりが中心で艦娘に接触するのは基本的に教官艦娘
せの講義もありますし﹂
比叡さんですら気付いて指揮下に入っちゃったんですよ。そろそろ駆逐艦と顔合わ
?
253
だけである。
2、3年になると将来自分の指揮下になるかも知れない艦娘達と定期的に顔合わせの
講義がある。
今回は駆逐艦でそれが迫っていると夕張は言う。
卒業が近い彼女たちの提督も顔合わせは行われる予定である、
ゲームで言えば初期艦選びをすっ飛ばしていつの間にか艦娘が4人いる状態なのだ。
﹁⋮つまり、提督さんとあまり接触して欲しくないという事でしょうか﹂
首を捻る夕張。
﹁うぅん。極端に言えばそういう事なのかしら⋮﹂
督の安全に繋がりますよ﹂
﹁でも、戦力は多い方が提督としては嬉しいんじゃないでしょうか。それにその方が提
そこで夕張の言葉に鹿島と鳳翔は彼女が言いたいことを理解した。
﹁⋮なるほど﹂
﹁⋮ああ﹂
いんですけど⋮﹂
⋮。この際、増えるのはいいんです。比叡さんみたい︵提督にあまり興味ない︶ならい
﹁そ う な ん で す よ ね。そ れ は 理 解 で き る ん で す。赴 任 先 が 父 島 と い う 最 前 線 で す か ら
提督(笑)と4人目
254
要は提督ラブ勢の場合はどうするよ
﹂
?
という事が彼女の言いたいことなのだ。
?
まぁ、もともとおかしいと言えばそれまでなんだけど⋮。
最近わが艦隊の娘達の様子がおかしい件。
らという理由。
なんとしても司令を守らないと愛するお姉さまに殺さ⋮何を言われるか分らないか
う選択肢は彼女の中に無い。
ちなみにここに参加していない比叡は、引き継ぐ相手は居ないのだが学校に残るとい
くのであった。
そして何かあれば、とりあえず邪魔する。という場当たり的な答えに三人とも行き着
三者は考えるが良い解決策は思い浮かばない。
﹁そうですねぇ﹂
﹁う∼ん﹂
﹁どうしたらいいかしら
255
肉体言語を結構、駆使しているお艦。
やたら他の娘︵特に鹿島︶に噛み付くメロン。 最初のガチガチは何だったのか、あざとさ全開の有明の女帝。 あぁやっぱり最初からおかしいか⋮。
⋮ちゃうねん。
そんな感じ。
おかしいのは認めるけどそういうおかしさじゃなくて⋮、なんて言うかコソコソ
ソワソワ
?
俺をハブるんなら他でやればいいのにぃ⋮。なんで俺の部
?
﹂
おいちょっと面貸せよと言われ前日と同じように向き合ったんだよ。そこで、
ちょっと力を貸してくださいと言った次の日の放課後。
先日、夜中に奇声を上げていた金剛型2番艦ヒェーこと比叡。
そしてこの度、そんな混沌としている我らが艦隊には新しい娘をお迎えしました。
からん。
おっちゃん悲しいわぁ。あと、なるべく一人で行動することを禁じられた。意味が分
屋なん。
何だ新手のいじめか
よく俺の部屋で三人で俺をハブってガールズトークしてやがんの。
?
﹁司令なんですか
!?
提督(笑)と4人目
256
なんて言われたから、
とお答えしてやった。大体、君の司令だったこと一度もないですし。
﹁学生だ﹂
俺は間違った回答をしていないと今でも自信をもって言える。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹂
そして見つめ合う事数秒後、
﹁長野司令なんですか
﹁⋮⋮﹂
!
そして再び沈黙が起こる、
長野苺提督なんですかっ
!?
﹁⋮⋮﹂
﹁いち、壱⋮いちごっ
﹂
まぁ艦これ的には少佐でも司令や提督って呼ばれるけど。
艦の艦長ってところだろう。
今はただの学生なのである。もうすぐ任官するとは言え、少佐であれば良いとこ駆逐
﹁⋮確かに長野だが、司令ではない⋮学生だ﹂
ヒェーはもう一度口を開いた。
!?
257
﹁誰が苺かっ
﹂
﹂
しかし苺チョイスは許せん、なぜそれ知ってるし
﹁ヒェーっ
!?
こいつ恐らく俺が壱業って事に気づいたが、名前まで覚えてなかったのだろう。
!
﹁⋮え
﹂
﹁あの、司令。私、指揮下に入ってしまいました﹂
俺は頭痛により比叡から手を放し、顔を顰める。もともとしかめっ面ですけども。
﹁⋮⋮﹂
ヒェーが目を見開く。
﹁あっ﹂
ここで俺氏にかき氷を一気食いした時に起こる片頭痛が発動する。
勝手にクーデレキャラにするんじゃないと思わずヒェーの頭を掴んでしまった。
!
なんかアホの子オーラが強いから念入りに説明して黙っとけよと申しつけておいた。
わが艦隊の娘さんたちと同じように壱業じゃないよ業和だよと説明した。
今思えばあの頭痛が指揮下に入るときに起こる提督の負担て奴だったんだろう。
?
﹁口外厳禁だ﹂
﹁そんな⋮そんな⋮あの司令﹂
提督(笑)と4人目
258
﹁そんな⋮そんな⋮﹂
で、指揮下から外すのってどう
ちょっとショックなんですけど⋮。
そしてヒェーはフラフラした足取りで時々、机とか扉とか壁とかにぶつかりながら
去っていった。
次の日から目に見えて元気が無くなった。
そんなに俺の指揮下に入りたくなかったのか
?
?
でも、それなら言ってくれれば外れてもええのよ
するんだろうか
って話をヒェーにしたんだけれども
?
いのが辛いんです。大体、あんな強引な⋮お姉さまに⋮言えない﹂
私にも提督が出来ました的な報告できないのが辛いって事かな
だそうだ。
アレかな
?
で、現在校長室に呼び出されて眼光鋭い中将殿と向かい合ってる状態です。
目下の悩みはヒェーに元気が無い事だ。
以上の経緯を持ち、わが艦隊に高火力な戦艦クラスが参入したのである。
に話せないらしいけど。
どちらにせよバーニングラッバーさんは色んな戦場を飛び回ってるそうなんで簡単
?
﹁指揮下に入ってる事が辛いのではなく、指揮下に入ったことを金剛お姉さまに話せな
259
﹁⋮何故、呼び出されたか理解しているかね
﹁⋮はい﹂
ンプリートだ。
お前何してくれてんの
﹂
って感じだろうね。
教官艦娘達を根こそぎ掻っ攫っていく勢いですもんね。あとはカトリーヌ先生でコ
半端な奴には大事な戦力は預ける事は出来ないとか仰ってましたし⋮。
事だけじゃないか。
授業態度が悪いとか色々あるけど、今回はたぶんヒェーの事だよね。いや、ヒェーの
?
楽しみです
﹂
って言ってから目も合わせてくれなくなったけど⋮。
くれるんだろうか⋮。
カトリーヌ先生と言えば、あとで教育的指導してくれるって言ってたけど。いつして
?
ます。
ところで校長先生、貴方の後ろの方の棚によじ登っている妖精さんが自分、気になり
って言うのが精一杯なんですけどねぇ。
﹁自分は自分⋮です﹂
そんな哲学的な問いに対する答えは、
?
!
﹁君は一体何者だね⋮
提督(笑)と4人目
260
そして何か物色してますよ⋮
﹂
こちら向いてドヤァ顔するんじゃない
妖精さんが手に取ったそれは桐の箱に達筆な漢字が書かれている物体。
しろ
おい聞いているのか
間違ってない
って喋ってなかった。こっち見ろ妖精さん。
妖 精 さ ん は 俺 と 自 分 を 交 互 に 指 さ す。⋮ お 前 ⋮ 俺 で
そっと返しなさいっ
あ、あれは前世では1本3万円オーバーの大吟醸じゃないかっ
それは拙いだろ
何 だ そ の ジ ェ ス チ ャ ー は
そして乾杯の身振り手振り。一緒に飲む
?
!?
おい、それは俺に酒をパクる片棒を担げと言っているのか
﹁⋮妖精﹂
!?
⋮って事か
!
?
?
!
!?
そんなウキウキ顔で取り出すな、しかも音を立てずに完璧な隠密スキル。使いどころ
!
!
待て、待つんだ、妖精さん。ここで箱から開けるんじゃない。せめて脱出してからに
!
?
!
そいつをどうするつもりだ
!?
絶対、それ高級な日本酒だろ
おい馬鹿やめろっ
!
﹁⋮ふむ。では、この短期間で艦娘達を指揮下に置けた理由は何だね
?
261
サムズアップするんじゃない俺はまだ了承してないからっ
言った
あれ、校長先生何か
!
君は彼女たちに信頼を寄せられているのだね
﹂
ほっかむり&唐草模様の風呂敷。
何がどういう事
何そのドロボースタイル
校長先生。何言っちゃってんの
ワタシはカタチから入るタイプなんだ。って知らんがな
あと妖精さん
?
!?
!?
まれてるんですけど
!?
妖精さんが気になりすぎて校長の話が全然頭に入ってこない⋮、めっちゃ怖い顔で睨
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
まう自分が悲しいわ。
思わず突っ込んじまった。このわずかな時間で妖精さんのジェスチャーを分ってし
﹁知らん﹂
!?
!?
?
﹁要請か⋮。艦娘達側から要請されたから応えたというわけか⋮。ならば何故そこまで
?
と言っても何も言えることないし。
!?
素直に退室しましょう。
めっちゃ怒ってるよ
﹁わかった。退出したまえ﹂
提督(笑)と4人目
262
扉を開け。一度振り返り⋮、
﹁⋮失礼しました﹂
﹂﹂
﹁ヘヘ ヤリマシタネ ボス﹂
﹁﹁なっ
コイツ⋮コイツ⋮。主犯を俺にしやがった
そして扉を閉める妖精さん。勿論、風呂敷には日本酒。
!?
の。
というか、呼び出された理由がイマイチよくわからなかったな⋮。
あぁ、とりあえず逃げよう⋮。
宿舎に入って部屋に戻る前に俺はいつも入口の前の掲示板を見る。
何かイベント事とかあっても誰も教えてくれないの。だってボッチだから
!
今、校長先生は大変ご立腹のご様子だったのでクールダウンの時間が必要だと思う
弁解する言葉を発することも出来ずに扉が閉まった。
!
263
でもね白露の君が、同じ授業の時は挨拶してくれるようになったんだ。
いつもすごい気合が入っててさ、こちらも返そうとするんだけどその前に自分の席に
戻ってしまうのだ。
卒業までには何とか話せるようになりたいものだね。ってもう、ひと月位しかないけ
ど⋮。
さてさて、掲示板には何かあるかな⋮、
あぁ。近々新しい教官の艦娘が来るんだ⋮って前、鹿島が言ってたか。
香椎ってどんな娘だろうか。楽しみだねぇ。大井っちにはあんまり関わりたくない
なぁ。
龍鳳には﹁て・い・と・く﹂と耳元で囁いてもらいたい。
この中で、一番関わりあるのは、間違いなく龍鳳やし、これはワンチャンあるか
そんな事を考えながら、肩に日本酒持った妖精さん乗せて自室に入る。
?
4人
何という事でしょう。私の部屋なのに4人のお嬢さん方がいるではありませんか。
まぁ最近はよくある事なんだけど⋮。あれ
?
?
﹁提督さんお疲れ様です。どうぞ﹂
ゲームやってるメロンちゃん。呼び出されてたんだからしょうがないじゃない。
﹁提督お帰りなさーい。講義終ったらまっすぐ戻ってこないと駄目ですよ﹂
提督(笑)と4人目
264
雑誌読んでた小悪魔は。座布団を敷いてくれた。ありがとう。
﹂
おそらく、夜の走り込みの後のお夜食を作ってくれていたであろうお艦。
﹁お疲れ様です。お茶淹れますね﹂
﹁司令⋮、お邪魔してます﹂
で、最後にヒェーが正坐して座っている。
﹁どうした比叡﹂
敷いてくれた座布団に着席。
﹂
﹁司令。私、今出来る事を考えました。それはズバリ監視です
﹁お、おう
鼻息荒くそう仰ったヒェー。
ちょっと意味が分からないけど、なんか元気出たみたいだからいいか。
﹂
肩の上から飛び酒をもって卓袱台に着地する妖精さん。
﹁サッソク ノムカ ボス﹂
﹁⋮⋮﹂
何も言ってないよ。ただちょっと見てただけじゃないの。何でそんなに焦るのよ
﹁な、なななんですか
!?
あ、日本酒どうしようか。
?
?
!
265
﹁あら、お酒ですか
﹁⋮モ、モラッタ﹂
﹂
﹂
どうしたんです
こっちを見るな妖精さん。
﹁提督、このお酒どうされたんですか
1本3万円。飲んでみたい誘惑には勝てなかった⋮。
﹁も、貰った﹂
?
﹁そうですか。でも、まだ駄目ですよ夕ご飯食べてからにしてくださいね
入れときますね﹂
﹁⋮ああ﹂
冷蔵庫に
?
?
?
んだらきっと返すから⋮。
お艦に嘘をついた胸が痛いです。ごめんよお艦⋮。ちょっとだけ。ちょっとだけ飲
﹁サスガ ボス﹂
提督(笑)と4人目
266
提督︵笑︶とお見合い
海上に立ちうつろな瞳で此方に手を伸ばす人々。
どうしてお前だけ
何故助けてくれない
人殺し
熱い⋮手が⋮足が⋮燃える⋮
苦しい⋮助けてくれ⋮
長野⋮艦長⋮提督⋮
あーくそっ
やっぱり体動かす時間を削るのは良くないな。
ている妖精さん。
周りを見渡せばようやく見慣れはじめた自分に与えられた部屋。卓袱台で突っ伏し
掛かっていた掛布団を蹴り飛ばし不快な汗を無視して荒い息を落ち着かせる。
﹁⋮はぁ⋮はぁ⋮ふぅ⋮ふぅ⋮﹂
267
!
提督(笑)とお見合い
268
残ってた酒、無理して飲むんじゃなかったぜ。
カーテンの隙間からは朝の光が漏れてきている。時計を見れば起床時間には早いが、
何かするには中途半端な時間。
とりあえずシャワーでも浴びよう。
頼むぜミック先生。最近、結構きついんだよ。
││システムアップデート中⋮⋮96%⋮⋮
あ と 二 日 か 三 日 っ て と こ ろ か。も と も と 進 行 遅 か っ た け ど こ こ 最 近 は さ ら に 遅 く
なってきた。
99%で止まったりとか勘弁してくれよ⋮。
最悪、父島赴任までには⋮ほんと頼むぜ。
大体なんでいきなり最前線に送られにゃならんのだ。
俺が一体何したっていうんだよ⋮。異例の早さで艦娘達を指揮下に置いたって
ゲームじゃないんだぞ
鳳翔や鹿島、あと比叡は⋮まだいいとしよう。
なんで皆、そんなに俺に対して好意的なんだよ⋮意味わからねぇよ⋮。
ていうんだよ。
知らねぇよ⋮。いつの間にか勝手に繋がりが出来てるんだから⋮。俺にどうしろっ
?
夕張、お前はなんでそんなに俺に対して⋮、散々扱き使って、無理もさせて⋮、どう
?
して好意的でいられる⋮。
無能だとか屑だとか罵ってくれた方がまだ楽だ。
ああ嫌になるなぁ。俺に関わって沈んでいった艦がどれほどあると思ってるんだ⋮。
ほんとは関わりの薄い艦とテキトーに過ごせてりゃよかったんだ⋮。
何でこうなっちゃうんだよ⋮。そんなに俺に期待を寄せないでくれ⋮。俺はそんな
大した人間じゃないんだよぉぉぉ
!
今日もまた頑張れる。
イ。
ほら調子戻ってきた。よしっ大丈夫、大丈夫、俺は前向きでちょっと無口なナイスガ
ウホッいい体。
大丈夫。いつも通り、いつも通り。絶対、大丈夫。そう自分に言い聞かせて体を拭く。
鏡を覗けばヒドイ顔をしている事もなく、いつも通りの不機嫌そうなマイフェイス。
バラバラに飛んでいた思考がいつものように戻ってくる。
も深呼吸を繰り返す。
シャワー室で水を被りながら徐々に水がお湯に変わっていく感覚を感じながら、何度
﹁ふぅ⋮ふぅ⋮ふぅ⋮﹂
269
﹁はっはっは。それで秘蔵の酒を盗まれてしまった訳か﹂
眼光鋭い中将が目の前の大将を睨みつける。
﹁⋮笑い事ではないぞ。酒の事はいいが戦艦はどうするつもりだ﹂
二人の壮年男性が向かい合う雰囲気は気心知れた仲に思え、剣呑さはあまりない。
﹂
もっとも会話の内容はそれほど穏やかではないのだが⋮。
﹁⋮代えは今いないからな⋮。比叡は何と言ってるんだ
来た記憶は中将にとって新しい。
どこか少し抜けている所があった彼女が悲壮感のある決意の籠った瞳でそう伝えて
﹁絶対に付いて行くそうだ﹂
?
﹂
?
﹁ほぅ。何か言い含められているのか⋮。相当な信頼関係を築いていないと出来まい。
﹁奴の指揮下の艦娘達は皆、指揮下に入りたいと思ったの一点張りだ﹂
うだ
程度、依存する傾向はあったが⋮彼に対しては執着とも言えるほどだな。その辺りはど
﹁ならば、戦艦クラスを交替で送るしかないだろう。⋮艦娘達が提督という存在にある
提督(笑)とお見合い
270
それを一ヶ月という短期間で築くか⋮﹂
だがな﹂
?
﹁監査局がうろちょろしてるのはお前の査察に合わせてか
﹂
海軍内部で不正や不祥事が無いか取り締まり海軍内で事件があった場合は捜査する
は警察で言うところの内部監査室に当たる組織である。
内容的には海軍省と軍令部に相当する訳であるが、この世界の海軍監査局という組織
自衛隊がある世界線で監査局と言えば海上幕僚監部を指すことがある。
?
苦労したわ﹂
﹁貴様が早々に卒業させようとするからだ。気になって当然だろう、色々と理由付けて
﹁ふん。いきなりの査察。わざわざここまで出張ってきた理由はそれか﹂
﹁会うのが楽しみになったな⋮﹂
まった経緯がある。
最初の侵攻を防げなかった事から後方に回され、若い者たちを置いて生き残ってし
この二人、深海棲艦出現当初に艦隊の指揮を執っていた者たちである。
﹁⋮アレは鉄火場を踏んできた者特有の空気だ。前線でもある程度何とかなるだろう﹂
﹁直江君も言っていたがそこまでか
﹂
﹁何かある事は間違いあるまい。それが何かが分からん。尤も一般人ではない事は確か
271
機関である。
馬鹿馬鹿しい﹂
﹁そちらは与り知らぬよ。儂とお前が会って悪巧みでもしてるんじゃないかと疑ってる
のではないか﹂
﹁⋮奴を襲撃したのが我々と
﹁確かにな。だが全てを疑ってかかるそういう組織だ。仕方あるまい﹂
?
今日は何かあるのか⋮
校舎に入る前に﹁おはようございまっ
せめてこちらにも挨拶させてほしいのだけど⋮。
!
?
露の君を見送り、自分も続いていく。
﹂と最後まで言い切らないままかけていく白
なんかドタバタしているような気がするな。
考える獅子飼中将であった。
と思うと同時に派閥争いが激しい海軍内でまともに機能している組織ともいえると
﹁気に入らん⋮﹂
提督(笑)とお見合い
272
で、今日はしばらく個人授業の時間が続く。
﹂
?
﹂
?
ど。
あと、苦しゅうない。なんて言ったこと一度もないからな。
!
﹁⋮⋮﹂
﹁司令に普通に挨拶されるとこの辺がキュッとなって⋮苦しいですっ
胸の少し下辺りを抑えるヒェー。恋煩い⋮の訳はないか⋮。
﹂
なんか俺の声真似してふわっと説明するヒェーだが、イマイチ要領を得ないのですけ
﹁もっとこう、ああ、おはよう。とか、苦しゅうない。とかあるじゃないですか﹂
﹁は
﹁司令⋮。お願いですから偉そうにしていて下さい﹂
﹁なんだ
そして固まる比叡。
﹁⋮⋮﹂
こちらも挨拶をする。
﹁おはようございます﹂
教室に入り、暫く一人でぼーっとしていれば比叡教官がやって来る。
﹁おはようございます司令﹂
273
﹁え、エェ⋮﹂
もう困惑の声しか出ないよ。
﹁そういう事でお願いします﹂
﹁今は教官と生徒なんだが⋮﹂
くていいんじゃ⋮﹂
﹁司令の指揮下に入っていますから問題ありません。うん 司令相手なら講義もしな
ウンのショートヘアにキリリとした眉、
むむむと腕を組んで考え出すヒェー。こう見るとやっぱり美人なんだよなぁ⋮、ブラ
?
シアン系の透明感のある瞳。紛うことなき美人である。若干アホの娘だけど。
﹂
違う、見惚れている場合じゃない講義はしろよ。
﹁どう思います司令
?
けなのだが、
ドリルとかロマンですよねぇ。とか、パイルバンカーってどう思います
やっぱりロケットパンチですよね
?
などなど、物凄く話が脱線する。兵装についての授業だから脱線ってほど脱線でもな
!
最後は
ちなみにメロンちゃんと二人になる授業は、彼女がひたすら武装の説明をしてくるわ
﹁⋮講義はしろ﹂
提督(笑)とお見合い
274
いのか⋮
?
﹂
さらりと通達する事じゃないのでは
それでは本日も気合い入れていきましょう
えぇ
!
?
当大変な思いだったんじゃないかなぁ。
まぁ名称はいいか、あれの成功のせいで主戦派が勢いづいていたかもしれないから相
見たニヤニヤ大百科では坊の岬だったか。
一応、坊の岬⋮成功してるから沖縄近海戦とでも名が付いているのか⋮いや、いつか
将っていう人選しかないだろう。
まぁでも政治家の方には根回ししておいたし、あの後は終戦工作には海軍では井上大
はまだ兵学校の校長してたか。
海軍大将か⋮。井上さんには大変な役回りを押し付けてしまったかな。いや、あの時
んなもんか顔くらい見に来るかも⋮。
わざわざ、ボッチでいる俺の所になんか⋮来るわけ⋮。いやぁ転移者って訳だからど
?
﹁⋮⋮﹂
?
色々な場所巡るんだろう⋮。
まぁ、査察ってことだから学校内の
問 題 起 こ し ち ゃ だ め で す よ 午 後 は 駆 逐 艦 と 顔 合 わ せ し て も ら う 講 義 が あ り ま す。
﹁⋮そうですか。じゃあ今日の連絡事項です。今日は大将閣下が査察で来るそうなので
275
一度、線香くらい上げにいこう。
﹁あの、司令。⋮金剛お姉さまの事なんですけど⋮﹂
﹂
金剛かぁ⋮。眉間に皺が寄る。やっぱり俺の事⋮だろうか。
﹁何でもない⋮です﹂
言い淀んで止める比叡。
﹁それより駆逐艦と顔合わせとは
なんか気まずい空気が流れたから話題を変える。
?
年々、来る娘が減って
?
一定数居るって言ってたから。
なんの気概もなくいきなり軍に入れられて耐えられなくてドロップアウトする者が
そこはやはり軍隊。
でも毎年、十人前後⋮もっと少ないか。他の学科の生徒たちと比べて温いとは言え、
艦娘側が気に入らなければ拒否できるみたいなこと言ってたし⋮。
いうと艦娘達による提督選びなんじゃないかと思う。
艦これユーザーなら初期艦選びって言葉だけで察するな。ただこの世界、どちらかと
いてこの先どうするんでしょうね﹂
徒の最初の部下になる艦娘とのお見合いみたいなものですか
﹁通称、初期艦選びって言ってですね⋮2、3年になると行われる講義で、提督になる生
提督(笑)とお見合い
276
半分の五人が卒業して提督になるとする。一人に一人の艦娘が着くとしても⋮、香椎
の件もあるから俺がやってた時の未実装艦も艦娘になってる可能性あるな⋮。
なら今は大丈夫そうか。でも、そう遠くないうちに宙ぶらりんの娘はいなくなるか
⋮。
確かにどうするんだろうな⋮。
まぁ、その辺は俺が考える事じゃないな。駆逐艦は誰だろう⋮、極力は関わりない娘
がいいなぁ。
何なら今からドロップアウトして⋮どっかの鎮守府で雑用でも⋮。
途中でリタイアした生徒はもっと温い環境で海軍関係の仕事に必ず回されるらしい。
といってもやっぱり海軍なんだけど⋮。
俺の場合は指揮下に4人も置いてるんだから今更やめたいなんて言えない⋮ていう
か多分却下されるだろうから頑張るしかないんだろうけどさぁ。
気が重たいよね⋮。いかんいかん。ネガティブ思考なんてポイッ。
﹂
ちょっと気を抜くとすぐ弱気が顔出してきやがる。
﹁司令
﹁何でもない﹂
さてと気合い入れていきましょう
!
?
277
という訳で何事もなく、あっという間に午後になったわけです。
駆逐艦とのお見合いは一人じゃないんだね⋮。もう他の学年とのお見合いは終了し
て、
教官が比叡からお艦へと変わり今日の授業はもうすぐ終わりという時に彼女たちは
やってきた。
ついでに良いお年に見えるが背筋は伸びて体も引き締まっている事が軍服の上から
も分かる大将閣下と校長先生&その他。
入って来たときお艦がこちらにアイコンタクトした。
事前にお艦は彼女達に言い含めてくれていたらしい。流石、お艦出来る女や。
目の前に並ぶ3人の乙女。
握手を求められて応じる。はて、お世話になる⋮
大阪生まれなのに江戸っ子口調。陽炎型14番艦。中、大破画がとてつもなく犯罪臭
?
﹁た、たたた谷風だよ⋮これからお世話になる⋮ます﹂
艦娘として会うのは初めてだから間違ってないハズ。
﹁⋮初めてお目にかかる。長野業和だ﹂
提督(笑)とお見合い
278
279
漂う黒髪のおかっぱに白いカチューシャ。
空
母
だ。
セーラー服の黄色いスカーフが特徴的で他の陽炎型に比べると何故か小柄な娘さん
である。
軽
俺的には駆逐艦のRJさんの口調と並んでナセナゼ
じゃね
という命令で俺氏艦政本部に出向です。
アイツ航空機の設計や発動機開発に関わってたんだから艦の方もある程度いけるん
も4隻追加で建造されることになる。
マル4計画で陽炎型の改良型の夕雲型が次期主力駆逐艦に設定されるのだが、陽炎型
さて、そんな彼女とは⋮、というか陽炎型10番艦以降はある程度関わりがある。
?
武装は12.7cm連装砲を一基減らして高角砲一基装備。ほんとはもう一基高角
手作りだからね、多少の誤差って奴だろう。
速度の方の上昇はミック先生でも想定外だったらしい。まぁ一艦一艦造船所違うし
費と速度がちょっと良くなった。
たまにご機嫌斜めになる機関が安定するようにしたのと機関室と缶室の浸水対策、燃
手を加えたのが10番艦の時津風からである。
施工が間もないのもやっちまおうということで、
計画の追加の四隻の陽炎型の担当になった、だったら未だ建造始まってない陽炎型と
?
提督(笑)とお見合い
280
砲か連装機銃装備させたかったんだけどなぁ。
まぁとにかくそんなわけで陽炎型と夕雲型の間の改陽炎型として書類上分類された
り、されなかったりすることになるのだ。
でだ、この谷風さんはミッドウェー海戦の折、損傷した加賀と最上、飛龍︵自力で航
行可能だった︶を引っ張りながら主力艦隊に向かい撤退している時、迎えに来てくれた
艦だ。
三隈と最上は味方空母部隊全滅︵誤報︶という連絡を受けてはいたのだが撤退命令は
上手く伝わらずに戦場に向かってしまう。その時、最上が潜水艦にやられてしもうたの
だ。
谷風さんは生存者救出の為にこちらに向かっていたようでミッドウェー島から飛ん
でくる敵機の攻撃を躱しまくって結果的に敵を釘づけにしてこちらの撤退を支援して
くれた形となる。
勝見君、まじ神懸かってる。
谷風が合流してからも空襲は2度ほど受けたが、全艦どうにか逃げ切ることが出来た
のよね。
谷風からすると合流した後、艦隊の指揮を実質的に執り見事な迎撃態勢を整えつつ、
夕張に乗って自らは殿やってた人間である。
それも敵に真っ先に狙われるように艦隊から落伍したように見せかけて、敵の攻撃を
集中させて無傷だったのも自分の艦長と同じくらいパネェよと思っていたりする。
主力艦隊と合流した時、谷風の所まで来て艦長はじめとした乗員たちにお礼を言いに
来て、最後は艦だった自分に対しても礼を言って去っていった男が今目の前に。
鳳翔から何があっても驚くな余計な事を言うなと事前に言われていたが、そんなもの
無理である。
ただただ、名前を言うだけで精一杯であった。
待て待て待てーい
いきなり
で見つめるの止めような
潤んだ目
ほら、後ろのお偉いさん方がみんなフリーズして
﹁駆逐艦、浜風です。これより貴艦隊所属となります﹂
いるじゃん。
!?
ちょっと落ち着こうな。両手でつかんだ俺の手をとりあえず放そうな
!
左の方は髪留めで止められ、綺麗な空色の瞳が覗いている。けしからんのは駆逐艦に
隠れ、
乳風⋮、じゃなくて浜風さんは銀の髪が肩口くらいまでのセミロングで右目が前髪で
?
?
281
あるまじき胸部装甲である。
セーラー服の上からわかる胸元を押し上げている二つのふくらみ。けしからん⋮と
てもけしからん。
マスター
こねくり回し⋮嘘ですから⋮そんなに潤んだ瞳で見ないで、いけない事考えちゃいそ
うだから手もそろそろ放そうよ
も手を放そうな
やったね両手に花だよ⋮。ほら、後ろのお偉いさんたちが口あんぐりさせてるから君
何、その腹ペコ王みたいな台詞。で、貴女も俺の手を掴むのですね。
﹁陽炎型駆逐艦。磯風。貴方が私の司令だ﹂
?
瞳か。え、涙が浮かんでるのは気のせいじゃないよね⋮、どしたん
谷風にもバレてるっぽいしなぁ。お艦は本当にナイスだ。
はバレてるよなぁ。
浜風と磯風は天一号の大和組だからなぁ、他にも色んなところで関わってるし、これ
?
黒髪ロングのストレート。一部、赤の髪結いで前に流している。特徴的なのは真紅の
である。谷風と浜風が半袖に対して磯風は長袖だ。
三人ともセーラー服に黄色のスカーフ。グレーのプリーツスカートという出で立ち
?
ところで体に負担は掛かってこないから、指揮下に置いたわけじゃないのか
?
提督(笑)とお見合い
282
283
流石に3人一緒にとかだったらかなり負担あると思うんだけど、今のところない。そ
ういや浦風がいないな。
まぁ俺としてはちょっとホッとするところであるけど。
さて、此方を見て固まっている後ろの方々をどうしたものかねぇ⋮。
提督︵笑︶の武勇伝
﹁私達もそろそろ提督を持つ時かもしれませんね﹂
とある鎮守府の食堂。片目が銀の髪に隠れた艦娘、浜風は口を開いた。
﹁⋮本気か﹂
﹂
食事を終えて一息ついていた黒髪の乙女、磯風は紅い瞳を浜風へと向ける。
﹁昨日の戦闘で何か感じませんでしたか
る。
今回は、とある鎮守府で応援要請があり、前日に大規模な戦闘が終わったばかりであ
いた。
三人は今までどこかに所属するという事もなく、要請に応じて各地の戦線へと赴いて
二人より小柄なおかっぱ頭に白いカチューシャを付けた谷風が付け加える。
﹁タ級だったけど、目が黄色く光ってる初めて見る奴だったね﹂
﹁やはり浜風も感じたか。敵が手強くなっている﹂
?
参加したのは彼女たちだけでなく他の鎮守府や警備府からも応援は来ていた。
﹁タフラだね。あれは焦ったねぇ﹂
提督(笑)の武勇伝
284
そこに現れたのはこの鎮守府の提督の一人である女性である。
駆逐艦を横抱きにしている彼女の姿に三人は何とも言えない表情を浮かべるが、一
応、立ち上がり敬礼する三人。
﹁司令官。おろしてよー。レディーは一人で座れるんだからっ
﹂
昨日の作戦行動中の無理な前進、心配したんだゾ。そこで反省してなさ
!
だ。
顔は美人というより可愛い系。学校一番じゃないがクラスで一番と呼ばれる顔だち
多くの日本人の特徴である黒髪と少し茶の入った瞳。
の世界では観測組と呼ばれる者だ。
この女性提督の名前は 星崎 美琴︵ほしざき みこと︶である。そして転移者。こ
そこにいる事が反省になるのかと思う三人。
﹁うぅ⋮﹂
い﹂
﹁ダメーッ
ロングストレートな髪に薄紫色の瞳をもつレディー︵笑︶の暁である。
膝の上に置かれた駆逐艦⋮特型の21番艦か特III型の1番艦と呼ばれる紺色の
!
それを遮って着席を施す女性提督。
﹁ああいいよいいよ。座って座って。私も同席させてもらうねー﹂
285
﹂
ちなみにハンドルネームは雷電☆命である。
﹁あのタフラとは何ですか
﹂
谷風がニカッと笑みを向け、浜風、磯風も続くように頭を少し下げる。
﹁どういたしましてと言っておくよ﹂
そして同時に純粋にお礼を言われ磯風、浜風はどう返したものか困った。
者の下でならば戦う事も吝かでないと思うのだった。
そう言って笑みを浮かべる女性提督に三人はそれぞれ多少の違いはあれど、こういう
﹁それでもだよ。ありがとう﹂
武人らしく答える磯風に、
﹁要請に応えただけだ。礼を言われるほどの事ではない﹂
そういって頭を下げる提督、その体に押されるため一緒に暁も頭を下げる。
﹁それより三人にはお礼しに来たんだった。助けに来てくれてありがとう﹂
う浜風である。
と言われても、そもそも自分たちは初めて見るタイプの敵なので返しようがないと思
﹁⋮はぁ﹂
﹁えっとタ級フラグシップ。こんな近海に出て来るなんてビックリだよね﹂
?
﹁うんうん。ところで三人は自分の提督をお探しかな
?
提督(笑)の武勇伝
286
﹁聞いていたのか
﹂
?
葉を飲み込む。
?
ありがとう﹂
!
さすがレディー︵笑︶である。 ﹁わーい
谷風が星崎提督の膝の上に載る艦娘にデザートを差し出す。
﹁プリンたべるかい
﹂
他にも、色々とこの国や軍に対して割り切れない思いを持っているのだが、そこは言
浮かんでしまう。
自分たちの提督像というのが、どうしてもあの戦いで金剛と沈んでいった提督が思い
督に求める条件というのは他の艦娘達より厳しいものがあった。
あの壮絶な戦いを経て、現代に女性の体をもって生まれてきた二人にとって自分の提
闘に参加した艦である。
もともと三人⋮、というよりは磯風と浜風の二人は太平洋戦争における最終局面の戦
それを見た浜風は女性提督⋮星崎提督に事のあらましの説明をする。
﹁別段、隠すような事でもないでしょう。それに⋮﹂
胸を張る女性提督。悪びれた様子はない。
﹁聞いていましたとも﹂
287
プリンが日本に伝わったのは、江戸時代後期∼明治時代初期と言われている。
と首を傾げないように。
洒落で 風鈴 と漢字当てする場合もあるので老舗洋菓子店など見かけたらスイー
ツのプリンの事なので涼しげな音色を出すアレが何故
閑話休題。
⋮。
﹁ふ む ふ む。提 督 に 求 め る 基 準 が 高 い 娘 達 が い る っ て こ な い だ ラ イ バ ッ ク 言 っ て た ね
次いで話も聞かれていたので、なら話してしまっても構わないと思ったのである。
その事についてこれから話そうとしていた折、この星崎提督がやってきた。
ワーアップしたいと考えたのだ。
さて、そんな二人も先の戦闘で色々と思うところがあり提督の指揮下に入ることでパ
?
となると色んな提督に会うしかないだろうけど⋮うーん。あっ、餃子⋮﹂
﹂
?
﹂
提督としての能力は高いと思うんだけど﹂
?
﹁その人の名が餃子ですか
﹁うん。餃子﹂
﹁﹁﹁⋮⋮﹂﹂﹂
?
たらどうかな
﹁そうそう、餃子。今、士官学校に私達のような違う世界から来た子がいるから会ってみ
﹁餃子
提督(笑)の武勇伝
288
三人とも微妙な表情であった。
という経緯があり、彼女たち三人は士官学校に赴くことになる。
﹂
あいつ等許さん。こっ
この間、掲示板でスレ立てしたら、ボロ
クソ言われちゃってさ。⋮思い出したら頭に来た⋮ムキッー
ちは当時を知る子が今目の前に、絶対ギャフンと書かせてやるぜ
!
?
?
ればいいからね﹂
自分が死んだ話なんて普通は出来ないが、あまり触れては欲しくない事なんじゃ
と
﹁そっかそっか。うんうん。私、最後の戦いの話ききたいなぁ⋮。あ、でも話したくなけ
そんな二人に苦笑いを浮かべながらも、谷風が続く。
﹁武装を強化してくれた恩人かな。とにかく凄い人だよ﹂
こちらも同じような仕草で応じる磯風。
﹁⋮あの方は最高の武人だ﹂
目を瞑り、胸に手を置いて答える浜風。
せない特別な存在です﹂
﹁後半の言っている意味が分かりませんが、長野提督は⋮そうですね。言葉では言い表
彼女たちの考えなどどこ吹く風の星崎提督は、己の欲望のまま口を開く。
!
ね。三人にとってどんな存在だったのかな
﹁ねぇねぇこの間映画見てね、それからちょっと勉強したんだけど、長野提督ってすごい
289
喋っているうちに思い至った星崎提督は言葉を慌てて追加した。
雪風 朝霜 初霜 霞︶
第二艦隊 戦艦大和 空母瑞鶴 軽巡矢矧 駆逐艦8隻︵冬月 涼月 磯風 浜風 日本側の戦力
いた。
また、敵攻撃機の数を見るに、別動隊を率いていた長野艦隊は全滅したと考えられて
は遠く夜間にどれだけ近づけるかと大和内で指揮官達は議論していた。
太陽は水平線に沈みつつあり、第3波攻撃は明朝からと判断された。未だ、沖縄の地
も有り、どうにか凌ぎ切り大和率いる第二艦隊は一息つけたところであった。
坊の岬沖で度重なる敵艦載機の攻撃。第2波攻撃を陸軍航空隊と瑞鶴航空隊の奮戦
不敵な笑みを浮かべる少女の瞳がきらりと光った。
﹁そうか、聞きたいのだな。ならばこの磯風知る限りのすべてを話してやろう﹂
提督(笑)の武勇伝
290
291
臨時艦隊 戦艦金剛 榛名 軽巡大淀 駆逐艦5隻︵時津風 浦風 夕立 時雨 長
波︶
連合国側の戦力
戦艦6隻 空母8隻 軽空母4隻 巡洋艦12隻 駆逐艦30隻以上
瑞鶴搭載戦闘機の数は45機、艦爆 艦攻の数は6機づつであり、
陸軍航空隊は60機、おおよそ100機で400機近い敵を相手に奮戦する。
しかし瑞鶴航空隊の数は半数に減らしていた。
この時、陸軍航空隊は基地に、ゲスト、帝国ホテルニ予定通リ と洒落た電文を送っ
ている。この事から見て陸軍航空隊はおおよそ敵がこの位置で襲撃があるという事を
読んでいた事になる。航続距離の関係で第二艦隊の直掩を出来たのはおおよそ2時間
程であるにも関わらず、第二艦隊は軽微な被害で済んだのだ。
連合国側としては日の入りまでには決着をつけておきたいところであったが、天候も
悪化しつつあり断念。明朝になれば一隻の空母艦載機を相手にするだけでよいという
判断もあった。
日の出とともに攻撃を再開するという事になる。
提督(笑)の武勇伝
292
そして日本にとって運命の日。米将校曰く、わが国海軍史上最悪の一日。
台風接近に伴い、連合国機動部隊は久高島の西沖に展開していたがさらに西へと移動
を開始。
これが、のちに最悪の一手だったのではないかと米国内で議論されるがここでは割
愛。
深夜未明。台風による大雨で視界の効かない中。砲撃音と共に連合国艦隊の悪夢が
始まった。
エセックス級空母フランクリン、イントレピッドが立て続けに轟沈するのを皮切り
に、艦隊に被害が出始める。
連合国艦隊のど真ん中に日本の艦隊が出現していると報を受ける。ただちに反撃を
開始しようにも小型船舶は下手に舵を切れば転覆の可能性。
また移動に伴い艦隊陣形に乱れが生じていて連携も難しく、ましてや視界がほぼ効か
ない、風と雨音に消されて艦隊外部は敵の位置も分らず、
同士撃ちの可能性、まさに最悪。組織だった反撃が不可能であった。
零距離射撃︵※水平射撃で的に中る距離︶から正確に撃ち込まれる砲撃、いくら最新
鋭の戦艦でも堪ったものではない。
日本の艦隊は同士討ちなど頭にないように暴れ回り、被害は拡大の一途をたどる。よ
293
うやく嵐も収まり敵の全容が見えてきたのは黎明時。
﹂という声がとある戦艦の中で響いたという。
高波など物ともせずに30ノット近い速度で暴れるコンゴウ型を見て﹁天候すらも操
るかナガノッ
すぐさま、突撃をかけようとするが、
逸れていた時雨が到着。
その時、魚雷の次発装填の為に戦域から離脱していた時津風と台風の影響で艦隊から
あった。
多勢に無勢で徐々に長野艦隊は追い詰められ、残すところ金剛と夕立を残すだけで
かったであろう。
旧 時 代 の 艦 隊 決 戦 を す る こ と に な る と は こ の 時 ま で 連 合 国 艦 隊 将 官 は 考 え も し な
た。その虎の子の一隻が北へ向かい、
もっとも被害の出ていない艦の方が少なく、空母は残すところ1隻という有様であっ
戦艦1隻、空母1隻、巡洋艦1隻、駆逐艦6隻が北進。第二艦隊へと向けて舵を切る。
連合国側としては南下してくる第二艦隊の対処もしなくてはならなく、
う。
敵も味方も次々に沈んでいく。だが、長野艦隊は驚異的な強さを発揮していたとい
そして、泥沼の消耗戦へと移っていく。
!
提督(笑)の武勇伝
294
││北進シ、大和ヲ援護セヨ
との金剛からの命令を受け、北進開始。
2隻を追いかけようとする連合国艦の前に金剛は急速反転して間に滑り込む。
この時、主砲を放って無理やり体勢を整えていたと記録が残っている。
かくして第二艦隊も意図せず艦隊決戦を行う事になる。
戦況は一進一退を極めるが、長野艦隊より北進してきた時津風、時雨が到着すること
で天秤は傾き、大和の主砲がついに敵戦艦を捉え、撃沈させる。
アイオワ級戦艦ウィスコンシンは就役から4カ月という短い艦生を終える事になる。
また大和もこの時、中破判定の損害を受け速力が10ノット以下になるが、現、与論
島、空港近くに座礁する事に成功する。
沖縄本土の北半分を射程に収める。もっとも、座礁した角度により1番主砲と2番主
砲しか使える状態ではなく、1番主砲も
砲身損傷により使えなかった。そして2番主砲斉射を2回行った後、座礁と損傷の影
響から電源が落ちてしまい、置物と化してしまう。
だが、連合国側はその事実を知ることは無く、大和の脅威により連合国上陸部隊は沖
295
縄島南方へ戦線を後退させる。
こ の 戦 闘 に お け る 戦 果 は 撃 沈 戦 艦 1 撃 破 巡 洋 艦 1 駆 逐 艦 4 中 破 空 母 1
駆逐艦2
第二艦隊で無事であったのは浜風、磯風、雪風の三隻のみで、霞が小破、矢矧が大破
着底、他の艦も中・大破している。
大和の座礁で作戦は一応成功をおさめるが、
瑞鶴艦載機により金剛、孤軍奮闘セリと伝を受ける。
浜風、磯風、雪風、時津風、時雨が救援に向かう。この時、座礁した大和より燃料を
補給していたが、もっと早く辿り着けていれば金剛は沈まなかったと乗員の多くが語っ
ていた。
霞は近海で救助活動の為に同行せず。
そして5隻がたどり着いた時、金剛は一隻で敵戦艦2隻を含む艦隊と砲撃戦の真っ只
中。
援護しようにも巡洋艦2隻駆逐艦6隻が邪魔をし、それらと死闘を繰り広げる事にな
る。
強引に突破した時津風が魚雷を戦艦に発射し見事命中、大きな損傷を与える。しかし
他からの砲撃雷撃により
あっという間の轟沈。次いで、時雨が巡洋艦に衝突し、文字通り零距離射撃を敢行し
てから沈没。
轟音の後、損傷を与えていた戦艦ニュージャージーが金剛の砲撃を受け轟沈。連合国
艦隊は撤退を始める。
日本艦隊側はこれを追撃し、結局、連合国艦隊で撤退に成功したのは戦艦アイオワ1
隻と空母1隻駆逐艦6隻︵空母、駆逐艦2隻は中破︶という悪夢のような数字であった。
そして夕日と共に満身創痍であった金剛が沈んだ。
﹂
こうして無謀に思えた天一号作戦は幕を閉じる。
?
そういって星崎提督はハンカチを磯風に差し出す。
﹁あの映画、ほんとに誇張無しだったんだ⋮。むしろ控えめ
とりあえずハイ﹂
と鼻息荒く語りだしたのだが最後の方は涙を堪えながら語る磯風。
﹁⋮どうだ、すごい⋮だろう
提督(笑)の武勇伝
296
?
ついでに膝の上でグスグス言っているレディー︵笑︶の頭を撫で宥める。
何人かの提督候補と面談するもイマイチ三人の琴線に触れる者はおらず、少し辟易と
そして迎えた士官学校でのお見合いの日。
るのである。
こうしてトークショーを終えた数日後に士官学校にて思わぬ再会を果たすことにな
ロリとしてしまいそうになっていたりする。
とは言いつつも話す度に磯風の語りが上達していることもあり、場面場面で危うくホ
ているのだ。
それに浜風とて当事者である。誰かの言葉を借りずとも、その戦いの事は鮮明に覚え
感極まる事は無くなった。
実は谷風と浜風はこの話を何度も聞いているので思いを馳せる事はあれど、そこまで
﹁やれやれですね﹂
﹁何時もの事だけど﹂
素直に受け取り目元を拭う磯風。
﹁⋮すまん﹂
297
した気分になっていた。
それは提督候補の生徒達との面談だけが原因ではない。
初対面でいきなり指揮下に入ってもいいと思える人物に会えるとは思っていない。
時間をかけるしかないと三人とも考えていたから。
では、何故か
そんな人物が、途中からこちらを監視するように付いてくるのだ。
そこの組織の長に対して複雑な思いが胸中で絡み合う。
かの腐敗具合だ。
先人たちが必死になって残した国が、組織が、戦争末期のあの頃と変わらず、なかな
だが、隔意は無いとも言えない。
る。
彼に何かされたわけではない。大将自身は軍人らしい軍人だというのも分ってはい
大部分は査察という名目で訪れている海軍大将の存在。
?
小休憩中、食堂の外にあるベンチに三人は腰掛けていた。
﹁だが、あと一人で終わりだ。もう少しの我慢だ﹂
﹁そうですね﹂
﹁何だか息苦しいねぇ﹂
提督(笑)の武勇伝
298
海軍のお偉方は食堂の中でお茶をしている。つかの間の心安らぐ時である。
そこに穏やかな笑みを浮かべた空母の母がやってきて、変なお願いというより要請を
してきた。
三人が了承したのを見届け、
三人は思わぬ再会を果たす。
﹁⋮初めてお目にかかる。長野業和だ﹂
休憩も終わり、最後の一人との面会に望むべく、とある教室に赴いた。
﹁そうだな。まぁ会えば何かわかるだろう﹂
﹁私に聞かれてもわかりませんよ﹂
﹁一体なんだろうねぇ﹂
と念を押して去っていった。
﹁くれぐれもお願いしますね﹂
299
⋮今回は連行されてきたわけだが。
その時、まぁひと悶着あったが磯風の﹁この方をどなたと心得る
たわ。
俺を勝手に放浪癖のある元副将軍にするんじゃないよ。
⋮待てよ。あながち間違いでも無いんじゃね
!?
弥七は谷風
?
八兵衛はヒェーか
か
?
それともメロンちゃんか
?
助さん格さんは暫定で磯風浜風
湯煙の中、お艦の後ろ姿から覗くうなじ⋮超見たいし超似合う。
な。
⋮俺がご隠居だとして、うちの艦隊で配役を決めるとしたら、お銀はお艦で決まりだ
各地で武力行使で事を収める御一行。と階級の肩書。
?
﹂には苦笑いが出
お偉いさん達が固まっていた時間が動き出し、こうしてまたもや校長室に呼び出し、
今日この頃。
おそらく、海軍学校史上最短で校長室の呼び出し回数記録してるんじゃないかと思う
提督︵笑︶と大将閣下
提督(笑)と大将閣下
300
?
鹿島ちゃんは⋮悪代官にさらわれる町娘とかで⋮。
貴様聞いておるのかっ
﹂
う∼む。しっくり来てるようなそうではないような⋮。
﹁おいっ
!
とあとは知らんおっさんが二人。
?
﹁はじめまして﹂
おっさん二人は入口の前に陣取ってる。
官。
普段、校長先生の腰掛けている席に座っている大将殿、その両隣に校長先生と直江教
柳本だ﹂
﹁そんな大したものではないよ。さて、はじめましてだな長野業和君。私は海軍大将の
あったよな。
やだねぇ。良い思い出無いよ。当たり前だけどさ⋮、山本長官が亡くなってから一回
﹁⋮査問会か﹂
なんかアレだな⋮さながら⋮。
けか
現在、校長室に俺氏、で向かい合う形で大将殿、校長先生殿と、えっと直江教官だっ
あーはいはい。現実逃避してましたよ。すみませんねぇ。
おっさんが一人唾を飛ばして大声を上げている。
!
301
はて、柳本
うーむ
似てるっちゃ似てるか⋮
?
?
ん事、思い出してしもうた。
多聞丸マジ多聞丸。
?
!?
って事は⋮、
護国の英雄を呼び捨てとは何たる態度か
﹂
んで息子が出来たって天一号の前に同期で集まったときに言ってた気が⋮。
ような⋮。
しかも一回り以上年下の⋮。酒の席でもげてしまえと言った覚えがあるような、ない
んで、蒼龍艦長のあいつは奥さんに先立たれて、後妻は戦時中に娶ったっけ
その後は飛龍に乗り込んで⋮敵空母を沈めろと叫んでいるお方の説得を⋮って、いら
れて帰ったんだよなぁ。
ミッドウェーで蒼龍と共にしようとしてたからぶん殴って無理やり夕張に乗せて連
?
﹁しかし閣下
﹂
﹁やめろ。君らは外に出ていたまえ﹂
護国の英雄か⋮。まぁ北方派遣の空母雲龍の艦長だからなソ連から守った英雄か。
入口に陣取ったおっさんの一人が吼える。あ、本当に息子なのか。
﹁貴様っ
!
﹁⋮柳作の息子か﹂
提督(笑)と大将閣下
302
!
﹁出ていたまえ﹂
失礼します﹂
!
が艤装は展開してないけど、
剣呑な雰囲気でスタンバってるけど大丈夫かな
けが、何故か顔色悪かったけど⋮。
あと今日会ったばかりの駆逐艦三名様も。
喧嘩しちゃ駄目よ
ヒェーだ
?
﹂
?
とは思えないほどにね﹂
﹁困惑している﹂
?
本当に困惑している。何であんなにもこちらに好意的なんでしょうかねぇ
?
﹁今は⋮か。君は随分と艦娘達に慕われているようだが⋮ しかも今日初めて会った
全く皆して哲学的な禅問答が好きだよね。
﹁⋮今は長野業和と名乗っている。それだけだ⋮です﹂
者だね
﹁⋮いかにも、私の父は柳作だが、そういう君はただの歴史好きには見えんな⋮。一体何
?
扉の向こう側には何処からともなく駆けつけて来た、わが艦隊の指揮下の娘さんたち
つめられても困るのだけど⋮。
有無言わせぬ大将の態度で二人のおっさんは外に出ていく。おっさんにそんなに見
﹁くっ
303
﹁⋮ふむ。君が今日、指揮下に置いた三名の駆逐艦⋮うち二名は少々、提督に求める基準
が高くてね。今まで、
指 揮 下 に 入 っ
こういう場に赴く事も無かったのだが、それが会って間もない君に自ら指揮下に入る
え、何
!?
?
という⋮。何かあると思うのが普通ではないかね﹂
そ れ に 関 し て は こ ち ら が 一 番 驚 い て い る ん で す け ど
全然、負担感じてないよ
ちゃったの
嘘やん
﹂
何かの間違いじゃないのか⋮
﹁⋮負担は無かったが
?
!?
なら扉の前にいる三人に聞いてみるか﹂
からな⋮。
﹁指揮下に置いた時の負担が無かった⋮と ⋮しかし、三名同時など今までなかった
?
?
!
?
何故か、俺を守るような陣形ですが⋮。
で、一言二言、何か扉の向こうで話していたと思ったら件の三名様、御入室である。
扉を開ける直江教官。
少し考えたような素振りを見せた柳本大将は直江教官に目を向ける。それを察して
﹁⋮⋮﹂
提督(笑)と大将閣下
304
﹁⋮我々に対しては何かないのか司令﹂
﹁⋮⋮﹂
そう言って此方に向けられる紅い瞳と、無言で見つめてくる空色の瞳。
谷
で、磯風、浜風、君らは何でそんなに警
﹁⋮彼をどうこうしようとは思っておらん。そう此方を睨むな。老体の肝が冷えるわ﹂
大してビビってるように見えませんがね
戒心剥き出しなん
﹂
﹂
風さんは二人に引きずられるような感じだけど。
﹁⋮司令、無事か
﹁提督、御無事ですか
﹁提督、何か大変なことになってる⋮ますね﹂
﹁⋮という事で君の指揮下に入っているのは間違いなさそうだが
﹂
﹂
今にも艤装展開しそうな勢いだけど⋮、室内での艤装展開は緊急時以外駄目よ
?
そうみたいですね⋮。わざわざ確認ありがとうございます⋮。
とりあえず、
粋だねぇ
﹁谷風。喋りやすい口調で構わん﹂
﹁さっすが提督っ
!
?
?
これだけ気になった。なんか無理して敬語使おうとしてる感じが⋮。
!
?
?
?
305
﹂
え、えっと⋮
﹁ご、御苦労
なんか言わなきゃ駄目なのか
?
うんと⋮
?
﹁同じく。提督をお守りします﹂
?
﹁二人と同意見﹂
﹁はい、磯風の言う通りです﹂
﹁司令が司令だからだ﹂
故、彼の指揮下に入ろうと思ったのかね
﹂
﹁さて、君たち三名が彼の指揮下に入ったという事は確認できたわけだが、君たちは何
え、ああ。うん。ありがとう
なんやこれ。
﹁うむ。この磯風。司令の為なら苦労など厭わないさ﹂
?
?
いんじゃないか⋮
ユーリエちゃんや文乃には悪いけど、奴の倅ならまぁいいんじゃないの
海軍大将が流石に他国と通じていたり⋮。
陛下の側近にいたな、そういえば⋮。
?
?
まぁでも海軍の中に俺の事を一人くらいきちんと知っといてもいい人物がいても良
ほら、大将閣下困った顔しているよ。俺も同じ立場ならそんな顔すると思うけど⋮。
﹁⋮⋮﹂
提督(笑)と大将閣下
306
307
あかん、やっぱり誰が信用できるかわからん。
そもそも海軍上層部に対してあんまいいイメージ無いんだよなぁ。
なんだよ大本営発表のあの戦果は。それを信じちゃう陸軍も陸軍だけどさ。
あの戦争の被害が拡大した一端は間違いなくあの発表だろ。
頭悪過ぎだろって何回も思ったわ。あと陸軍との仲が悪過ぎ。薩摩、長州のいざこざ
何時まで引きずってんねん。
陸海軍あい争い、余力を以って米英と戦う
ってその通りだよ本当に。勝てる戦も勝てんわ⋮。
えらいね﹂なんて陸軍の事
いや、そもそもアメさんと戦争になった時点でもう終ってたんだけどさ、それにし
たってもうちょっと何とかならんかったのか。
長官ですら次官時代に﹁陸軍の航空機もやっと飛べたん
になると皮肉言ってるし。
皮肉をバネに頑張ったのかな
まぁでも戦争中は陸軍航空機の方が優秀な機体多かったんじゃないかって思うから
いや、あれはメモ大好きな陸軍大将の事が嫌いだっただけか。
?
何で、それぞれのいいとこを持ち合わせないかなぁ。もう過ぎてしまった事だけど、
零戦はあれはもう一つの完成された形で伸びしろほとんどないからなぁ。
?
提督(笑)と大将閣下
308
こっちはせめて兵器の共同規格持とうぜって頑張ってたのにさぁ、ほぼ成果なし。
別に陸軍がいいとは言ってないよ。三国同盟は陸軍が強硬に推し進めたし、アレで米
英に目をつけられたのは間違いない。
でも陸軍とそれなりに仲良かった俺が目障りだったってのもあるんだろうけど、海軍
それをさぁあの主席参謀殿ったら⋮愚痴愚
はそんなに俺の事嫌わなくたっていいじゃない。
結構俺お役立ちな存在だったでしょ
痴何かにつけて言いやがって⋮。
⋮何の話だっけ
そうそう、海軍の上の方に対していいイメージ無いって話か。
全長が55メートルじゃなくて64メートルになったけど⋮。
まるゆさんと呼ぶように。
海軍関係者も招待して潜航試験で海軍が騒めいたらしい。モグラちゃんじゃなくて
渡してやったわ。
頭来て、ミック先生作の三式潜航輸送艇の設計図と操艦マニュアルをそっと陸さんに
?
いや、そもそも俺はそんな大した人物じゃないんだからええんじゃない
史実に対して少しは日本の面子保てた位の事しかしてないんだから。
大体、信じてもらえるかもわからんしな⋮。
?
でも、あの頃から70年経ってるわけだし知り合いの倅やし信用しても⋮。
?
とりあえず、大将閣下、ちょっと二人でお話しませんか
?
目の前の男は今、何と言った
﹂
?
自分の声ながらも間抜けな声が出た。
﹁⋮は
││嘗て長野壱業という名で太平洋戦争を戦い金剛と共に沈んだ。
?
校長室を覗いた大将の随伴の者たちは、机の上で頭を抱えている大将を目撃した。
その男の指揮下の艦娘達を率いて去っていく。
その後、小一時間ほどで校長室から若い男が出て来る。
﹁三人も外へ出ろ﹂
﹁⋮よかろう。二人とも外へ﹂
﹁閣下、出来れば二人だけで話したく﹂
309
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
なるほど、会った時から分かってはいたが、今こうして向き合っていると分かる。
一般人ではあり得ない凄味を感じさせる。だが、だからと言ってそれを信じる事など
出来るわけがない。
一度、彼の生まれ変わりだと名乗る観測者が居たが、その者は艦娘達にそっぽを向か
れていた。
なら今、目の前にいる男はどうだ 少なくとも驚くべき速さで艦娘を指揮下に置い
ている。
で、目の前にいた男に対してさっきの態度はどうだ
﹁⋮⋮﹂
磯風、浜風は彼に関わりのあった艦だ。そして夕張、第四
?
⋮なるほど。では、比叡と鳳翔は
艦隊の旗艦であった鹿島。
では、繋がりはどうだ
⋮可笑しいな。この者の言う事を否定できないではないか。
﹁⋮⋮﹂
?
とくに磯風と浜風は今日会ったばかりの筈で、その二人は壮絶な戦いを経験した者達
?
?
提督(笑)と大将閣下
310
﹂
﹁もし仮に、それが真実だとしよう。鳳翔と比叡が君の指揮下に入った理由は何だと思
う
﹁なら、彼女たちとどういった関わりがあった
そうポツリと呟く目の前の男。
﹂
そもそも自分がどうして艦娘達に好かれているのかも分からない。
﹁それは分からない﹂
?
?
││海軍人事局の同期に頼んで若い連中を違う艦に異動させて、わざと補給を遅らせ
││アイツはお前が生まれたからな。俺を北に送りやがった。
きやがって、気が付いたら違う船だ。
││俺が死ぬ気でいたら炎の中からいきなり現れてよ、そんで思いっきりぶん殴って
いか⋮。
何か本人しか知りえぬ事⋮、儂の親父と、かの御仁しか知りえぬような事⋮。何かな
そのメリットがないからな⋮。しかしますます⋮。
デタラメ言っている訳ではないな。
⋮よく調べているというべきか この辺りは後でこちらで調べるしかあるまいが、
田が艦長か⋮﹂
﹁⋮鳳翔には上海事変の折、搭乗員だった。比叡は観艦式の際、御召艦改修に⋮同期の西
?
311
て置いていったんだ。かっこつけやがって⋮。
親父が酒を飲むとよく言っていた愚痴。しかしこれでは弱い。
﹂
が、どれだけ彼の事を調べていようが、多少は本人で無ければ考えるはずだ。
﹁父を北方艦隊に送った理由は
﹁本当の理由は
﹂
一瞬だが、何かを躊躇ったな
﹁⋮彼が適任だと思ったからだ﹂
?
?
﹁⋮補給が間に合わなかった﹂
﹂
こちらも先ほどと同じで、美談として残ってるのではないか
﹁若い者は未来がある﹂
えば調べがつくだろう。
﹂
?
どれも調べようと思
﹁で、では、最期の戦いの折、連れていくはずだった艦を置いて行った訳は
儂の生まれた頃の事まで⋮、いや、美談としてどこかに残っている話かもしれない。
﹁⋮君が生まれたばかりだったから⋮全くの私情だ﹂
?
?
知識量が多い。
しかしこれが芝居ならすごい役者だと言うしかあるまい。そしてかの御仁に対する
?
﹁本当の理由は
提督(笑)と大将閣下
312
家の中をひっくり返せばもしかしたら一枚くらい出て来るのではな
手元の書類に目の前の男の写真が紛れ込んでいる。
同期の写真
いか
?
一先ず、事情を聞こう。そして真実かどうかはそれからだ。
?
﹁では、これで失礼する⋮します﹂
胃と頭が痛くなってきたような⋮。
何故だろうか、希望と同時に引退したいと湧いてくるこの気持ち。
これは本当に⋮、そういう事なのか。
た様子もない。
この男が嘘を言っているようには見えず、女帝の事を呼び捨てにするのに何ら躊躇っ
﹁いや、それはそうだろう﹂
内密に頼む⋮お願いします﹂
﹁文乃に話をしておく。少しは信じてもらえるだろう。だが、事を大事にしたくない。
そこから語られた内容に顔を顰めて儂は頭を抱えた。
くれ﹂
﹁なら、そういう事にするにして、経緯を、どうして今こうして生きているのか説明して
313
提督(笑)と大将閣下
314
儂、このゴタゴタが片付いたら孫と遊ぶことを誓う。
提督︵笑︶と旗を立てし者
おいおい、ちょっと待ちたまえ君達。
ここ俺の部屋。
なんで当然のように皆で入ってくるんでしょうか
﹁司令。寝る時は一緒の布団でかまわんな﹂
部屋を見渡している浜風、磯風、谷風。
﹁いやぁ一組の布団に4人は無理でしょ﹂
華やかなのはいいけど酔う
新しく加わった駆逐艦の娘さん達は何を言ってるんでしょうか
もしかしてこの部屋に住み着こうとしているんでしょうか⋮。
女酔
!
?
とりあえず、現状維持で終ったんだから解散しろ解散。
六畳間だよここ。8人も入ったら狭いよっ
いする
!
﹁⋮狭いですね。幸い、私達の荷物は少ないですが⋮﹂
!
ちょっと想像してみる⋮。
?
315
﹁おはようございます提督。体がベトベトですね﹂
止めてください
事案が発生してしまうではないですか。
﹁おはよう司令。昨日は激しかったな﹂
はっ
﹁腰が痛いよ﹂
!
鎮 ま り 給 え 単 装 砲 煩 悩 退 散 煩 悩 退 散 ど ー ま ん せ ん ま ん 陰 陽
!
﹁ちょっとちょっと
師っ
鎮 ま れ ぇ
とりあえず座って俺の単装砲が臨戦態勢なのを悟られないようにしなくては⋮。
!?
何をうらやま⋮こほん、勝手な事を決めてるのかしら﹂
!
もしそんな事になったら⋮あぁお姉さまぁ⋮ヒェーー﹂
!
メロンちゃんが噛み付き、鹿島ちゃんがそれに同調してヒェーはヒェーしている。
﹁勝手は比叡が許しません
﹁そうですよ。そんなうらやま⋮こほん勝手な事許しません﹂
!
!
﹁⋮そうですね。提督に抱きしめられて眠るとすごく幸せな気持ちになります﹂
﹁鳳翔さんも何か言ってあげてください﹂
この安心の安定感。でもやっぱり隣に座るのね。
卓袱台を前にゲンドースタイルでいる俺に、そっとお茶を差し出すお艦。
﹁⋮忝い﹂
﹁どうぞ提督﹂
提督(笑)と旗を立てし者
316
何言ってるの
﹂
﹂
なんでお艦をそんなに威嚇してるん
言わせんな恥ずかしい。
ま
えっ何言っちゃってんの そんな事した覚え⋮ありまし
両頬に手を当てて赤らむお艦。
え
た。
あったけど、なんで今それ言うの
どういうことですかっ
ヒェーが掴みかかってくる。
﹁司令っ
涙を浮かべる鹿島ちゃん。何故に
﹁て、提督さん⋮そんなぁ⋮嘘ですよね
﹁ぐぬぬぬ⋮﹂
メロンちゃんは事情知っているだろ
た関節決められちゃうよ
とにかくこの状況どうにかしてください。
ゲンドースタイルを堅持する俺。何故って
﹁⋮鳳翔﹂
?
そう言いながらもきちんとあの夜の事を説明してくれはるお艦。
!?
?
﹁⋮ふふふ。冗談でも無いのですけど⋮﹂
?
?
?
! !?
!?
?
!
!
317
あれは護衛だったんじゃ⋮。
﹁なーんだそれなら私、提督さんとデートしましたし。あーん、もしましたし。でも添い
寝⋮うぅ﹂
デートだと
よく思い出してみ
デートかっ
⋮しまったぁ
もっと楽しんどけばよかった⋮。
一緒に買い物する、食事もする。だんだん打ち解けていく⋮。
?
!?
!
ヒェーは腕組んで目を瞑って唸ってる。
そしてお艦はいつものニコニコした顔なのになんか威圧感ある。
なんだか井上さんに文句言っている俺を幻視できるのは何故だろうか。
メロンちゃんが第四艦隊の旗艦だった娘に掴みかかっている。
﹁ひっ﹂
﹁私も気になりますね﹂
﹁鹿島さん⋮その、あーん、の話聞いてないんだけど﹂
!
﹁まっ、辛気臭いよりはいいよ﹂
﹁そうですね﹂
﹁にぎやかな艦隊だな﹂
提督(笑)と旗を立てし者
318
おいっ
だからなっ
﹂
元はと言えば君らが変なこと言ったからこのカオスな状況が生まれたん
なに我関せずなスタイルでいるんだい
﹁ところで司令。なぜ偽名を使っているのだ
!
!
!
か
﹂
!
う。
はっはっは、⋮何それ超怖い さっき会った大将閣下の胃に穴が開きそ
⋮うん、偽名は大事だな。
?
﹁⋮なるほど。反乱だな。何時決行するのだ
﹂
!
?
多聞丸
他にも色んなぶっ飛んだ人も結構いたし⋮吉川君とか⋮。
田中さんとか木村さんとか松田君とかめっちゃ頼りになるだろ。
が蘇ったとしたら、
どういう意味だヒェー。人を危険物のように言いやがって⋮、大体、あの当時の軍人
像したくないです
﹁それは司令が司令とバレたらどうなるかよく考えたらわかります⋮ヒェー⋮怖くて想
!
俺は君の胸部装甲が気になります乳風さん。ゲンドースタイルを崩せないではない
﹁そうですね。気になります﹂
?
319
ね
急に何物騒な事言ってるのよ⋮。そんな事しないよっ
﹁腕が鳴りますね﹂
は
お願いだからそんな怖いこと言わないでね
!
冗談だと言っておくれよ
?
﹁⋮つまらん冗談だな﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
なぜ黙って俺の事を見るのでしょうか
?
そう解釈。勝手に勘違いしていたりする。
な﹂
そして二人は、﹁国を守るためなら汚名など厭わない。だから、くだらない事を言う
れまくっていたりする。
いなくとも繋がりは確かにあり、提督の命令には従うという本能のようなモノが刺激さ
提督の指揮下に入ることで接触していればある程度の感情が伝わるのだが、接触して
この時、磯風と浜風は背中に冷たいものが走っているがこの男は気付いていない。
!
?
?
﹁と、というか、提督。お初になんて言ってたけど私達の事、最初から分かっていなかっ
提督(笑)と旗を立てし者
320
たかい
﹂
君たちを手に入れるのにどれだけ堀で苦労したと思う
分らんはずなかろうって。
そういえばユーリエちゃんに艦娘達の顔と名前を覚えさせられたけど⋮、香
椎いたか
あれ
?
やったんやぞ。
艦これをゲームやってた時はシルエットだけでも判るほどの艦これ好きの提督さん
﹁⋮当然だ﹂
谷風さんがそんな事を言うのだけど、
?
?
んだもん。
一人当たり、2秒くらいよ それくらいのスピードでユーリエちゃん説明していく
ないと思うの。
⋮いたな。流石、俺氏。変なところの記憶力パネェ。でもね、忘れていたのは無理も
姉妹に比べて胸が⋮、サイドテールの黒髪⋮。可愛いけどなんか地味目⋮。
?
﹁﹁﹁⋮⋮﹂﹂﹂
変な男には引っかかりそうだけど⋮。
なのかもしれない。
あっ、と思う瞬間には次の子に行ってるわけよ。思い返せば、あの子意外とスパルタ
?
321
﹁⋮なんだ﹂
ちゃうん
大型の貨物船を守るように海原を走る乙女達。
ヒェーはあいかわらずヒェーだけど一体どうしたのさ
?
その瞳は空に向けられている。
頭部の髪は跳ね、犬の耳の様。無邪気さと狂気を同時に孕んだ紅い瞳。
濃くしている。
紺色に白いラインの入ったセーラー服、桜色の長い髪。毛先に進むにつれ、その色を
その艦隊から少しだけ離れる形で艦隊の最後尾にいる二人の少女。
何度かの深海棲艦の襲撃を撃退し、もうすぐ目的地に到着する予定である。
?
?
な ん で 皆 し て 固 ま っ て る の よ メ ロ ン ち ゃ ん や お 艦 は 鹿 島 ち ゃ ん を 弄 っ て た ん
﹁⋮ヒェー﹂
提督(笑)と旗を立てし者
322
﹁夕立。今日も頑張ったぽい
艦長も提督さんも見ててくれたかなー﹂
!
何時だったか夕立が言っていた。
?
﹂
!
そこに確かな絆が存在していた。
とも壮絶な終わり方をしている。
史実では左程、繋がりは強くなかった二人だが、この世界ではあの最期の戦いで二人
時雨の内心を悟ったかのように時雨の言葉を真似て夕立は無邪気に笑う。
﹁きっと大丈夫っぽい
提督は⋮、僕の事も迎えに来てくれるかな⋮。
その言葉が時雨の胸の中を複雑な思いにさせる。あの時、どうして僕は⋮。
﹁敵をいっぱい倒したら提督さんがいつか迎えに来てくれるっぽい﹂
しかし、自分は
そして髪飾りがアクセントになり彼女の美少女振りを何割増しかにしている。
なっている。
頭頂部の髪は触角のように立っており、側頭部の髪が跳ねて、こちらも犬耳のように
リボンで括っている。 愁いの帯びたような海色の瞳。セミロングの黒髪は三つ編みにして一つに、先を赤い
そんな白露型4番艦の夕立に応えるのは、同型の2番艦の時雨である。
﹁きっと大丈夫さ﹂
323
﹂
﹁ありがとう。⋮僕も頑張らないとね﹂
﹁夕立負けないっぽい
報告書を机に投げ捨てるように置くと、それを持ってきた部下を睨みつける。
﹁もう少し使えると踏んだが⋮所詮は三下か﹂
葉を発した。
無駄に広い執務室で、無駄に肉のついた男はとある報告書に目を通して皮肉めいた言
お互い笑いあい彼女たちは今日もどこかの海を行く。
!
立ちを募らせている。
だが、想定外に公安、監査局、あとはよくわからん連中の介入が早かった。それが苛
ない。
元より切り捨てるための捨て駒。それを失った事も襲撃が失敗した事も痛い訳では
﹁当然だ﹂
﹁奴の家族の方は処分しました﹂
提督(笑)と旗を立てし者
324
この観測者の反応を測りたかったというのが一点。しかし、
もし今回の襲撃で何らかの責任問題を大将に突き付ける事が出来れば⋮。
甘い見積もりだとは分っていたし、失敗する事も想定済みではあった。
だから、隣国の間者を捕まえ、奴の家族を人質に襲撃犯に仕立て上げた。
此方の罠に捕まるような間抜けだ、しかも尋問により色んな情報を吐いてしまう無
能。
捨て駒としては丁度いいと思って飼っていた。
大した役に立つことは無いとは分っていたが、帰還ルートを流してやって怪我すら負
わすことの出来ないこの体たらく。
公安でも恐らく情報を吐くだろう。もっとも、ここまでの繋がりまで分らないであろ
うと考えている。
﹂
それでも、やはり苛立つものは苛立つのだから、この男の性格の問題であろう。
﹁それで、これを持って俺を不快にさせに来ただけじゃねぇだろうな
﹂
﹁件の男が新しく比叡を傘下に入れたそうです﹂
﹁⋮チッ何なんだソイツは
﹁⋮⋮﹂
部下に悪態をつきながら三元中将は苛立ち紛れに煙草に火をつける。
?
?
325
提督(笑)と旗を立てし者
326
何もかもが苛立たせる。海軍の体制も艦娘の運用もなにもかもが生温いのだ。
そうこの男は考えている。
艦娘など、どんどん前線に送り出して突撃させ深海棲艦と共にすり減らしていけばい
いのだ。
それを人道的観点やまずは近海シーレーンの確保が優先だと宣う馬鹿共。
何時からこの国の軍は腑抜けた組織になったのか
民衆の自由主義だとか責任転嫁は辟易するのだ。
もうるさい事。
平和主義を謳う頭の中に糞でも詰まってる左派や大陸の赤旗が大好きな連中の何と
がボロボロになっていくのに気づかない。
競り合いが何度も発生し、その度に我が国の腐った政治家共は軍の高官を更迭し、内部
新兵器を開発すれば技術は抜かれていく。駐屯する連合国の一部の馬鹿のせいで小
おかげで終戦後はこの国の軍は連合国側に徐々に牙を抜かれていった。
だが、政治センスは無かっただろう。事実上敗北に近い講和条件。
奴に終戦工作まで政治家を通して仕組まれた。奴が英雄と言うのは認めてやろう。
だ。
考える間もない。あの長野という狂犬を飼い慣らせなかった前大戦の大本営の失態
?
もう一度、あの強い帝国海軍を復活させる。
その為に、他の派閥の切り崩し、工作を重ねてきたのだ。
そこに現れた忌々しいあの男と似たような名前を騙る観測者の男。
襲撃されたにも関わらず、微塵も動揺した様子が見られず、驚くべき速さで艦娘とい
う兵器を指揮下に置いている。
この先奴を派閥に置くことで勢いを吹き返すところが現れるかもしれない。
気に入らん。が、
﹂
!?
顎の贅肉を弛ませ三元中将は嗤う。
﹁ふざけた名前を名乗る自分を恨め。くっくっく﹂
取り込めないのなら消すしかあるまい。奴が行くのは最前線の父島だ。
獅子飼のジジィも何かを掴みやがったな。
父島に送るのは早計だったか。しかしまさか後一月でとは誰もが思うまい。
﹁なんだと
﹁それと父島赴任が来月中にも行われるそうです﹂
﹁チッ、ジジィめ動きが早いな﹂
﹁⋮長官が現在、士官学校査察に行っております﹂
﹁⋮取り込むか﹂
327
小笠原諸島、硫黄島に次いでの大きさを誇るその島は面積23.45km
た。
﹁あーくそっ
﹂
全然終わりが見えねぇ。早く提督よこせよなぁ﹂
。
海軍の父島警備府が置かれ、その建物の一室で事務処理に追われる二人の女性が居
現在は深海棲艦と争う最前線の基地となっている。
められ、
地続きになった事のない島で多くの固有種が生息し、1920年代頃から要塞化が進
²
世界水準軽く超えてると自称する彼女のプロポーションはかなりいい。
が、
指ぬきグローブと眼帯が思春期特有の病気を発症しているのではないかと伺わせる
服装は女子高生のようなブレザー型の制服。
為一つしか見えない。
一人は紫がかったショート黒髪に角みたいな艤装を装着し金色の瞳は左目の眼帯の
?
!
﹁そんな事言って来たらどうせ強く当たるんでしょう
提督(笑)と旗を立てし者
328
八八艦隊計画の3,500トン級巡洋艦として建造された、天龍型のネームシップで
ある。
通称、おっぱいのついたイケメン。
もう一人は男らしい口調の天龍とは対照的におっとりした喋り方をする女性である。
天龍よりも紫が強いセミロングヘアーでその頭上に天使の輪の様なものが浮いてい
る。
ドーナツ型の蛍光灯から、通称、パ〇ックと呼ばれている。瞳は髪と同じ色で左の泣
き黒子が妖艶な雰囲気を醸しだしているかもしれない。
﹂
どいつもこいつも根性がねぇんだから。⋮って この間のは龍田
体形は姉 ︵竣工は妹のが早い︶と比べると一部控えめであるがスタイルはとても良
い。
﹁仕方ないだろ
が煽って勝手に怪我して帰っていったんじゃねぇか
﹂
﹁あら、そうだったかしら﹂
﹁そうだったよ
!
?
PCを使い作業をしていた龍田はポップアップされたウィンドウを開く。
﹁あら、電文が届いたわよ天龍ちゃん﹂
そう悪態は吐きながらも書類を片付けるのだから根は真面目なのだろう。
!
!
!
329
﹁あん
﹂
﹁ふふっ、良かったわね天龍ちゃん。近々、提督が赴任してくるそうよ
名前を騙ってるから確かめてだって﹂
﹁また勘違い野郎か。ふふ、怖がらせてやるぜ﹂
しかも提督の
ちょいと絞めてやって後は机に縛り付けて書類仕事を任せようと考える天龍だった。
?
?
﹁あんまり無茶なことしちゃ駄目よ﹂
提督(笑)と旗を立てし者
330
提督︵笑︶は農業をしたい
夏の日差しが照り付けるその日。
﹂
あと数時間で出航するという時にその男は、ある艦の艦長のもとに訪れた。
﹁これはこれは戦神と謳われる長野提督ではございませんか﹂
﹁⋮⋮﹂
男は眉間に皺を寄せいつも以上の仏頂面。
内心はその思春期特有の病に罹ったような名前で呼ばないでおくれと。
悶えているだけだ⋮。
﹁⋮悪かったよ。全く冗談が通じん奴だな。もうすぐ出航だが何しに来た
﹁艦隊を見回ってきた。ここで最後だ﹂
男は、これから率いるすべての艦を回ってきたと言う。
﹁⋮お前らしいな﹂
﹁格。俺は心配性なんだ﹂
﹁あぁ、そうかい﹂
?
331
格と呼ばれた男は目の前のこの男の事を最後まで測りきる事は出来なかったと思う。
何が心配だ。どうせその頭の中には勝利への道筋が描かれているのだろうと。
どこまでもどこまでも、同期の誰よりもいや海軍の誰よりも先を見ていた。
若い頃はなんとしても負かしてやろうと息巻いていたが、こいつはそんな事端から考
えていなかったのだ。
自分とは視点が違うのだ。だからこそ惜しい。この国にはこの男が必要だ。
米国の戦略を悉く読み、戦前からあらゆる手を打ち、誰よりもこの国の為に身を捧げ
ていた。
例え上には理解されなかったとしても、腐る事無く前だけを向いてここまで来た男な
のだ。
それ故になんとしても生きて帰したいと願う。
しかし、それは難しいのだろうな。ようやくだ、ようやくこの男の作戦が立案実行さ
れる。
それが自身の死も計算に入れての最期のものとなるとは形容しがたい思いが膨れ上
がる。
ちゃんと台風来るよね
ミック先生
?
マジ来るよね
!?
ちなみに格と呼ばれる男がそのような事を考えているとき、その目の前の男は、
マジ大丈夫だよな
?
!
提督(笑)は農業をしたい
332
と本当に心配していた。
まぁとりあえず、あのリーゼントに祈る
神は自分の内に宿るとか言うじゃん。あ、でもあのリーゼン
?
とか割とどうでもいい事を考えていた。
という事は結局あのリーゼントに⋮なんたるジレンマっ
トがミック先生を使わしたのか⋮。
?
﹂
﹁すまんが、横須賀に行ってくれんか﹂
﹁横須賀ですか
?
!
なら、ミック先生か
のだけはありえねぇっす。
あれこれはなんかの漫画の台詞だったか
﹁俺はそんな大した者じゃない。神と呼ばれる人間は⋮一体誰に祈ればいいんだ﹂
この男は妙に具体的に戦争の推移を語っていた。それが、今現実になっている。
若かりしき頃、もし米国と戦争になったら、そんな討論をした覚えがある。
﹁結局、お前さんが言った筋書き通りだな。さすが戦神だな。ありがたやありがたや﹂
333
﹁うむ。提督業務を教えて欲しい者がおる﹂
数日前、そんな命令を海軍の長から直々に受けた女性はその時の事を思い出す。
にして欲しい﹂
﹁今は大々的に事を動かせんのだ。出来る限り内密に、とくに艦娘達に知られないよう
少し疲れた顔でそんな要請をする老人に女性は内心、訝しながらも了承する。
﹁すまんな。事が事だけに⋮いずれ時期を見て艦娘達には必ず知らせよう﹂
﹁はぁ﹂
少し取り乱しているように見える柳本海軍大将。
﹁それまでは困るのだ⋮いや本当に⋮マジで⋮﹂
﹁それで、どのような方なのでしょう﹂
を奪うように持ち上げ、
激しく高鳴る胸の鼓動を抑え、あくまで冷静に彼に近づき、彼の持っていたバーベル
目についた。
案内された一室で汗を滴らせながら必死でバーベルを持ち上げようとしている男が
そこで衝撃的な展開が待っていた。
そう言われ、女性は横須賀に赴く。
﹁おそらく会えばわかる⋮。そして儂が内密に頼む理由も賢い君なら分るはずだ﹂
提督(笑)は農業をしたい
334
そう挨拶した。
なんで壱業すぐ異動してしまうん
父島へ移動するときには合流予定。というか、あと数日で父島へ参ります。
お艦やメロンちゃんや有明の女帝は新任教官への引継ぎの為に学校に残っている。
まったから。
理由は提督業務を教える為との事と、街に出かけた際に国家権力にお世話になってし
す。
そして現在、はみ⋮よこチン⋮横須賀鎮守府内の建物の一角に押し込められていま
した。
またもや校長室に呼び出されて、海軍士官学校を出て行けと次の日には追い出されま
あれは大将さんが帰って三日後の事だった。
?
﹁お久しぶりです提督﹂
335
そろそろ合流するんじゃなかろうか。
赴任先に先任が居ないから業務内容教えて貰わなきゃならないのは分かるし問題起
こしたのもあるが、そこまでせんでもええやないかと思うわけですよ大将さん。
このゲストハウス的な建物から出る事を禁じられています。
あれは俺にどうしろというのだい
まず第一に畑でも耕そうと思った訳だ。
ろうからな。
物資は本土から定期的に送られてくるのだろうが、きっと不足しているものも多いだ
で、俺は考えました。色々と準備して買っていかないといけないと。
娘達。
現在、島にいた住民は本土に避難しているので父島にいるのはわずかな軍関係者と艦
まぁそれはいい。
出迎えに来てくれたのはユーリエちゃんだった。横須賀までの付き添いで直江教官。
て色々調べていた時の事。
事の始まりは、横鎮着いた日にユーリエちゃんに挨拶とかしてひと段落。父島につい
?
そこで俺はお野菜を育てるのだ。あと出来ればコーヒー栽培。
そしたら先ず、どうする
?
提督(笑)は農業をしたい
336
337
この時は外に出るなとは言われていなかったから近くにいた谷風を護衛として連れ
て街に出るだろ。
ユーリエちゃんにちょっと出かけて来るとはちゃんと言って来たよ。
ホームセンター行くやろ。肥料下さいって買うだろ。
艦娘達の分も考えてそこそこ畑は大きめを想定してそれなりの量を確保しようとす
るだろ
ほら、意味が分からないだろ
その日は平日だったんだけど、中学生
氏。
くらいの女の子連れたやたら威圧感ある俺
いや、恰好をどうにかしたところでどうにもならないか、ちなみに俺氏はちゃっかり
ても遅かった。
なんか色々、勘繰られるだろ。先に谷風の格好をどうにかするべきだったとか後悔し
?
ろ。
ついでに、護衛の艦娘との関係を聞かれるだろ。連れていたのはセーラー服の谷風だ
なかなか信じてもらえないのは何故なのか。で、名前とか色々聞かれるだろ。
そこで、警察に事情を話すだろ。
?
何故か、警察を呼ばれるだろ。
?
私服だったんだ。
まぁ何言っても信じてくれなくてあわや事案ですわ。
身分証明書なんてないだろ
らなくて、
結局、何事もなく色々と買い込んで解放されたのだけど、ユーリエちゃんの機嫌が直
ゴメンね。こんなくだらない事で呼び出して、本当に申し訳なかった。
ユーリエちゃんが激おこプンプン丸だろ。
⋮おっちゃん居た堪れないだろ。
ユーリエちゃんが来るだろ。
身元引受人みたいなの呼ぶ事になるだろ。
?
そこで、お店の人と警察に八つ当たりか。ほんとにすまなかった。後でもう一回謝ろ
気を使って俺には何も言わなかったんだろう。
いや、あれは俺の間抜けさに対してかな。一応、親戚のおっさんみたいなもんだから
の人も謝って帰っていったからいいじゃない。
君が来てから馬鹿丁寧にホームセンターの人が接客してくれてたじゃないか。警察
のが大変だったよ。
﹁潰してやる﹂とか﹁管轄の警察署長の名前は⋮﹂とかブツブツ言って、もうご機嫌とる
提督(笑)は農業をしたい
338
339
う。
不幸中の幸いは磯さんや浜さんだともっとややこしい事になってた予感がするから
谷さんで良かった。
彼女は事の成行きを静観してくれてたから助かった。
まぁそんな経緯があって外出禁止言い渡されるだろ。
おかげで走り込みが出来なくて悶々とするところだった。
幸いにもトレーニング器具が何個か置いてあったのでそれを使う事が出来た。
毎晩、バカみたいな回数の筋トレしこなしているのだけど、ついにベンチプレス10
0kg上げられる様になってしまった。
今は110kgに挑戦中です。
自分の体重の倍を持ち上げられると凄い奴扱いされるらしい。
俺氏、175cmで70kくらい。140kgか⋮。まだまだ先は長いな⋮。
そうそう、ミック先生のアップデートが終わった。
││再起動中⋮⋮再起動中⋮⋮
お分かり頂けただろうか、この状況が何日か続いている。
システムアップデート完了した時、丁度ベンチプレス上げてたんだけど、大声上げて
しまった。
おっしゃ
これで勝つる
ってな具合に内心、裸踊りだよ。
!
⋮まぁ手遅れかも知れないけど。
無様な姿はなるべく見せたくないでしょう。
もんよ。
艦娘達と比較したらあかんとは思うのだけど、いかんせん見た目は可憐な乙女なんだ
おっちゃん男としての、なけなしのプライドが⋮。
またしても居た堪れないだろ。
たわけだが、
危うく落としてしまうところで、近くにいた艦娘がひょいっと片手で持ち上げてくれ
そしたらその後、これだ。
!
にアホの子を見る温度だろう。
!
だけど、男にはやらねばならん時があるのだ。
君と出会った数日前と今の俺を比べてもらっては困るっ
ツオ君だ。
野球しようぜぇぇっ
!
男子三日会わざればカ
抑揚のない声で俺を見下すお嬢さん。その眼鏡の奥の瞳は心なしか⋮いや、あきらか
﹁提督、あまりご無理をされない方が⋮﹂
提督(笑)は農業をしたい
340
﹁⋮⋮ぐっ
﹂
ぬぉぉぉぉ
あっがっれぇぇぇぇ
!!
!
ぐ伸びる高さまで持ち上げる。
そのまま取っ手に引っ掛ける。
持ち上げられただろ
!
﹁⋮⋮﹂
ふぅ、ふぅ、見たかっ
一回で限界だったけど。
己の腕を生まれたてバンビの様に小刻みに震わせて、0.11tの重りを腕がまっす
!
造中止で就役しなかったけど、
この世界だと就役していたりする。名前を波平がいいんじゃね
却下された。
!
?
ちなみに長波の時も波平押ししたけど却下された。おのれ大本営ぇ
部か。とにかくおのれぇ
さて眼鏡の艦娘で最初に思い浮かべるのは誰だろうか
タケゾーかイタリアの首都か、はたまた四女のネキか。
?
いや艦政本
って言ったけど
そういやカツオ君で思い出したけど、夕雲型の20番艦妙風︵たえかぜ︶、史実では建
けど。
俺のドヤァ顔︵仏頂面︶を見ても相変わらず、アホな子を見る目で俺を見下している
!
!
341
提督(笑)は農業をしたい
342
それともなんか地味だけどナイスバディな鳥海さんやカトリーヌ先生
いやいや、駆逐艦は最高だぜの諸君はモッチーや萌え袖マッキーかな
う。
知らない娘ですね。
!
そんな彼女が何故に俺の所に今来ているのか。
艦娘達の間を取り持ったりとか色々と大変な役回りっぽい。
大淀さんは現在は統合参謀本部に名を変えた大本営付きの艦娘さんだそうで、人間と
腰骨が⋮実にけしからんスカートである。
行灯袴や女袴と言われるものを模したと思われるミニのプリーツスカート。
控え目な胸元には花弁の形をした厨子飾り。左腕の腕章には毘の一文字。
セーラー服の中にはライトブルーの長袖ワイシャツを着込み、赤いネクタイ。
アンダーリムの眼鏡の奥は綺麗な海色だ。改造したセーラー服に肩には階級章。
てんのか。
艶のある黒髪は長く、青いヘアバンドではなくて白い鉢巻き。あ、今更だが改になっ
はい、俺を見下しているのは、Oh
よどさんです。
まぁ色々あると思うけど、大体の提督は任務娘こと大淀さんを思い浮かべる事だろ
沖波
スク水大好きな方々はドイツかぶれのはっちゃん
?
?
?
?
343
提督業務を教える為だ。差し金は大将さんで間違いないだろう。
あと徳田君やユーリエちゃんなんかも業務の合間を見て教えに来てくれている。
基本的な提督業務は、まぁ書類仕事だな。
ぶっちゃけ艦これも兵站ゲーだし⋮。いかに資材を多く確保して大型の作戦を乗り
切るかだもんな。
その合間に艦娘にセクハラして癒されるというゲームなのだから。
戦闘指揮も行うんだけど、
ゲームの艦これならば、パソコンの画面見ながら陣形選んで艦娘達を戦わせて進撃か
撤退かを選ぶだけだ。
だが、ここは現実それだけで済むわけがない。いや多くの提督は鎮守府とか施設内で
それに似たような事をしてるんだそうだが、
かなり少数派だけど前線に出て陣頭指揮を執る提督もいる。
エーワックス⋮AWACSといえば空中警戒管制機の事を指すわけだが、
それの船版、シーワックス︵seaborne early warning an
d control ship︶なる艦が存在する。
それに乗って前線で指揮を行う。
前提として、ある程度の人数を指揮下に置いた提督に限られるそうだが、まぁ指揮系
統の問題から船頭多くしてって奴だな。
メリットは提督が近くにいるほど艦娘達は力を発揮できるんだとかで士気向上と、途
中で艦娘達に補給を行えることか。
艦これ提督的な言い方をするなら艦隊司令部の乗った速吸みたいな枠か。提督はお
にぎりかさんま缶だな。
デメリットは命の危険、これに尽きる。
妖精さんの協力で謎技術が使われた艦なので、提督一人いればあとは妖精さんが何と
かしちゃうらしいよ。
排水量3500t、全長104mで全幅14,40mって事だから見た目は駆逐艦よ
りちょっと小型で太い感じだな。
さて、なんでこんな話するかというと、俺に貸し与えられるそうだ。
いや、まぁ、そういう事なら使うんだけどもさぁ⋮、大淀さんからその話を聞いたの
だけど、
﹂ そ れ と も 大 淀 さ ん が 俺 の 事 嫌 い な ん
もう前提として俺が前線に出る事は決定なのか。﹁こういう船があるんですけど使っ
てみます
大 将 さ ん 俺 の 事 嫌 い な ん
?
とか聞くのすっ飛ばして機能の説明してくれちゃうわけよ。
何 で だ
?
?
?
提督(笑)は農業をしたい
344
まぁ大淀さんには嫌われてても当然だと思うけど⋮。
ほら、今も硬い表情で俺を見下しておられます。ベンチプレスの台に寝そべってる訳
だから見下されるのは当然なんだけど。
無言が一番きついのよ
⋮もう少し近くによって来たらスカートの中が見えるかな。
﹁⋮⋮﹂
とプンスカしていた艦娘がいたとか⋮。
﹁この私を呼び出しておいて、とんぼ返りさせるとはありえませんわ﹂
?
﹁⋮⋮﹂
⋮ごめんなさい。そんな冷めた目で見ないでおくれっ
﹁提督。明日から2日間休暇が許可されました﹂
﹁そうか。ありがとう﹂
おっちゃんの胃がキリキリして痛いのです。
?
余談、海軍士官学校に赴いたとある重巡艦娘が
何故、君は俺に何も言わないの
わざわざ、それを伝えに来てくれたのね。律儀というか⋮なんというか⋮。
!
345
おっさん達を見てそそくさと退散してしまい、貸し切り状態になってしまった。
むしろ逆の存在なわけだが、ドライブデートで寄っていたのであろうカップルが、
別にトラブルに巻き込まれたわけじゃない。
周りには黒服のおっさん達。
さてさて、そんな場所で隣には妹。
るんじゃなかったかな。
冬は来たことないから知らないけど、もっと上の方にある沼ではワカサギ釣りができ
れば燃えるような紅葉が、
春には千本の桜が咲き誇り、今から夏にかけては緑の濃い匂いを感じられる。秋にな
訪れた場所だ。
生前に何度か。といっても戦時中ではなく、平成時代の生前にバイクのツーリングで
山頂ではなく中腹でドライブがてら寄れる展望公園。本日は快晴なり。
赤城の山から関東平野を望む。そうここは日本の秘境グンマー。
提督︵笑︶と航空戦艦
提督(笑)と航空戦艦
346
347
この人たち警備会社の方々なんだけど、セ〇ムとかアル〇ックとかとはちょっと違
う。
スーツの上から分る奇妙な膨らみ。あれ、完全に銃吊るしてますよね。ってな具合で
す。
終戦後に日本に進駐した連合軍の一部が悪さをするっていうので自警団を作って対
応したのがこの警備会社の始まりだそうだ。
一応は講和で終戦だからなぁ、軍縮させられたとは言え国家は存続している訳で、
それが分からずに敗戦国だと思って何してもええやろと一部のアホが問題を起こし
たというわけだ。
直接戦っていたアメさんは日本を過大評価した部分があって、その辺の統制は厳しく
していたらしいけど、どんな軍隊でも問題を起こす奴というのはいるし、どさくさ紛れ
に自称独立戦争しかけて勝利した国とか酷かったようだ。
そんな経緯と軍縮の煽りで仕事を失くした軍人の受け皿となって誕生した。
名前に長野は付いていないけどグループ会社だそうです⋮。
となりの妹を見やる⋮。
その穏やかな笑顔は人に安心感を与える。
激動の時代を生き抜いたからこそできる笑顔なのか⋮。もともとの妹の気質なのか
⋮。
苦労をかけないように俺に出来る事は考えられる限りやっておいたと思うが、それで
も大変な思いをしたのだろうな。
親父殿もお袋様も文乃を生んだのが結構歳を食ってからだったからなぁ。
文乃が17か18歳の時に兄妹の家族になってしまったし、寂しい思いもあっただろ
うな。
俺は軍と商会の運営とかでほとんど家に帰れなかったし⋮。
﹁⋮苦労をかけたな﹂
と胸張って言ってやろう。
!
グンマーと妹よ私は帰ってきた
!
関東平野に向かって心の内で叫ぶ。
ン、ああ何が悪い
き、﹁あにしゃまあにしゃま﹂と懐いてくれた妹を何としても守ろうと思った。シスコ
同年代の若者達の国想う熱いモノに感化された面もあるが、すくすくと成長してい
しかし思いかえせば、あそこまで頑張れたのは妹の存在があったからに違いない。
俺にはミック先生という強い味方がいたからなぁ。
﹁⋮兄様。私の苦労など兄様に比べたら⋮﹂
提督(笑)と航空戦艦
348
すぐに横須賀戻るけど⋮。
兄が内心でガトーごっこしているとは知らない妹は背を向けている兄に声をかける。
﹁兄様﹂
﹂
そして最期は自分の命すら割り切って⋮
なんせ全て自分で出来てしまうのだから兄は自分の中で完結してしまう。
気負いもなく答える兄は頼もしくもあり、寂しくもある。
﹁そうだな﹂
﹁また戦地に赴かれるのですね﹂
約二月振りの再会を果たした兄の少し伸びた髪は今の風貌によく似合っていた。
此方を振り向く事をせず遠く関東の平野を見下ろす兄の背中。
﹁⋮なんだ
?
349
﹁今度は必ず帰ってきてください。文乃はもうあんな想いは⋮﹂
その年。初めて雪降る日に玄関に佇む一人の男性。黒の軍衣に身を包み、白の布に巻
かれた長物を両手で抱える。
それを見て全て理解したあの日の想い。涙を堪え、兄の最期を語られるあんな想いを
もう二度と⋮。
﹁⋮戻って来ただろう﹂
﹁⋮70年は待ち疲れました。そろそろお迎えが来てしまいますよ﹂
そう言って自分の頭に手を置く兄。
﹁⋮なら今度はすぐ帰ってくるとしよう。兄が帰るまで壮健でな﹂
あぁ⋮この人は本当に⋮仕方がない人だ⋮。
本気見せてきますね﹄
﹃てーとく聞いてます いっぱい獲れたら分けてくれるそうですよ。ちょっと夕張の
提督(笑)と航空戦艦
350
?
いやなんかお前ら楽しそ
聞こえてるって。さっきから用も無いのに数分おきに通信してくるんじゃないの。
電話じゃないんだからね。海上を滑ってるだけで⋮暇
うだな⋮。
?
縦書きにしておけばと後悔しても遅い。大淀さんの心なしか得意げな顔に何も言え
かったんだよ。
気 を 利 か せ て 平 波 に し て く れ た ⋮。違 う ん だ そ う じ ゃ な い ん だ ⋮。そ の ま ま で 良
のだけど、
大淀さんが艦名つけていいよって言ったから渡された紙に横書きで波平って書いた
この船の名前 平波︵ひらなみ︶ 命名は俺。
しかし船が船に乗るこれはいかに。
そして大淀さんはこの艦に乗船し、色々とこの艦の事を教えてくれている。
この平波を漁船が囲み、さらにその外を艦娘達が水上を滑って哨戒している。
る。
観音崎灯台が見えなくなってからいくらか時間が経ち、右舷にうっすらと大島が見え
現在はシーワックス 平波︵ひらなみ︶の艦橋です。
ほら、大淀さんに怒られてる。でも、メロンちゃんそんなのお構いなしみたい⋮。
﹁夕張さん。真面目に哨戒を﹂
351
なかったよ。
これは商会の造船所で作った快速タンカーと同じだな。武尊丸︵ほたかまる︶平波丸
波平に乗るフネという意味深なネタを今回やりたかったのにぃ⋮。おのれぇ⋮。い
︵ひらなみまる︶っていう船を作ったのだけど、平波丸の命名の時に同じ現象が起きた。
つか必ず⋮。
ちなみに武尊丸と平波丸は最高速力20ノット出る。戦時中に武装させるために設
計したので艦橋上部に高角砲設置両側に連装機銃が配備された。当時の技術力で出来
る限りの工夫を凝らした長野商会の渾身の2隻だ。
船を艦首正面から見ると艦橋の上部に高角砲が伸びてる様がまさしく磯野さんちの
大黒柱を彷彿させる。
武尊丸、平波丸共に生き残り、大戦を通して武尊丸が敵撃墜6と平波丸が5を記録し
ている。
と、正式に配布された提督用タブレットで平波丸の概要を流し読みしている俺氏。
﹄
?
だって、今は暇なんだもん。
﹁却下です﹂
磯風さんからの通信です。
﹃司令、爆雷投下してくれと漁船の船長が言ってるが、どうする
提督(笑)と航空戦艦
352
353
大淀さんが速攻でお断り。さっきから何度か同じようなやり取りをやっているのだ
けど⋮。
すると違う艦娘からまた同じような通信が入ってくる。漁師の爺さん達も懲りない
というかしつこいというか⋮。
通信が切れる前に﹁ケチじゃのぉ﹂とか﹁税金泥棒﹂とか﹁石頭﹂とか﹁おっぱい揉
ませてくれ﹂とか聞こえてるんですけど。
艦の周囲を映すモニターを見るとメロンちゃんが地引網みたいの持って滑走してい
る⋮。漁師のおっさん共がそれを応援してる。
何してるんだ彼女は⋮。
他にもすごい勢いで一本釣りしている漁船。カツオの群れでもいたかな⋮。谷風さ
んが大漁旗振り回して応援している。
浜風さんは愛でられているのか⋮。どことは言わないけど確実に愛でられてるな。
そらまぁ艤装を背負うたすき掛けのベルトが食い込んでエロ⋮えらい強調されてい
るものね。
女子のたすき掛けはパーセント︵%︶掛けという造語を作ったらいいんじゃないかな。
と彼女を見ていると思うわ。
横須賀から出港して浦賀水道を抜けた辺りで中型、大型の漁船が数隻何故かくっ付い
てくる。
で、暫くしてその漁船の一つから通信が入る。
要約すると少しの間でいいから護衛しろとの事だ。
深海棲艦が現れてから遠洋漁業が難しく、国に掛け合ってもたまにしか艦娘達を派遣
してもらえない。
それだけじゃ稼ぎが少なくて生きていけねぇってな訳で漁師達は鎮守府を監視して
いる事が多い。
で、輸送任務や出撃で出ていく様な事があれば、くっ付いて行き同じような事をして
いるらしい。
何とも逞しい海の男たちである。
帰りはどうするんだよ。そこまで面倒は見切れないぞってな事を言ったのだけど。
!
!
あと漁師のおっさんたちはアグレッシブ過ぎて大淀さんがさっきから頭痛めている。
艦娘の皆さんが漁師の皆様に人気な事。まぁ可愛いもんね気持ちは分かる。
受けたわけだけど。
との事です。なら、特別急ぐわけでもないからと、しばらく移動がてらに護衛を引き
らぁ﹄
﹃てやんでぇ こちとら帝国海軍の生き残りでぇい 漁中じゃなけゃ逃げ切ってや
提督(笑)と航空戦艦
354
﹁あの提督。本当に宜しかったのですか
ん、漁の護衛の事かい。
﹂
?
ぜぇ
例えばお艦の装備はゲームだと3スロットで固定されていたが、この世界は合計最大
でゲームと違って装備は結構融通効く。
のが数値化して表示されている。
編成画面とか改装画面に載ってるあの数値だ。火力とか装甲とか回避とかそういう
ならすぐわかる。
このタブレットで指揮下の艦娘達のステータスを見れるんだけど、ゲームやってた人
か⋮。
さてとタブレットの使い方っと。妖精さんにバレずにエロイの見る方法とか無いの
貰ってもいいと思うの。
実際にこの国を守ってるのは君達、艦娘達なのだからちょっとくらい美味しいもの
!
と偉そうな事言うけど、あとでお裾分けしてくれるそうだし、刺身にして食べよう
﹁臣民を守るのが軍人の務めだ﹂
﹁今のところは⋮ですが⋮﹂
﹁周囲に敵性反応は無いのだろう﹂
355
提督(笑)と航空戦艦
356
42機の艦載機⋮つうか矢
先に配備されるようだから。
父島でしばらく過ごせばそれなりのものが回ってくるかな
?
しかも建造失敗もあり得るんだとか⋮。大建回して、まるゆさんすらも出ないとかリ
ないらしい。
艦娘の建造は呉、横須賀、舞鶴、佐世保の4か所の妖精さんが作った工廠でしか出来
か。
それとも自分で作る
うぅむ⋮微妙だ。まぁ今までお艦は後方にいたからな。良い装備は前線にいる者に
なっている。
お艦の装備は零式艦戦三二型20機 天山9機 彗星9機 二式艦上偵察機4機と
まぁ強い艦載機が搭載出来るのはいいことだ。
なってとその辺は問題解決してしまったのか⋮。
ましてや零戦すら甲板の長さ的に運用が難しいのだが、人の身になって艦載機は矢に
実艦のほうもそうだ。
ていうかお艦も改になってんのね。改装前は20機も運用できなかった気がするし、
いく。
の中なら好きに組み合わせられるようだ。1本の矢から3機∼4機になって飛んで
?
スキー過ぎて禿げるよね。
装備の方は父島の警備府の方にも工廠があるので資材と上に許可さえ取れば可能と
の事。
﹂
何このタブレット超便利。提督マニュアル付だよ。でもアレ⋮どっかに載ってない
のかな⋮。
﹂
ふぅむ。気が進まないけど⋮。
﹁大淀﹂
﹁なんでしょう
﹁父島警備府の備蓄関係の数字はどこで見れる
胃が痛い。ん この艦橋に周囲の海域図及び艦娘達の位置情報が光点として示さ
さ⋮。
だから俺もなるべく自分で調べるようにタブレット使いこなそうとしてるんだけど
引き攣ってるんだよね。
こうやって質問すると答えてくれるんだけど⋮、大淀さんに話しかけると時々、頬が
﹁正確な数字は向こうに着かないと⋮3カ月前の数字がこちらになります﹂
?
?
357
﹁比叡、少し離れすぎだ。速度落としつつ旋回しろ﹂
れるテーブル型のモニターが設置されている。
?
戦艦にとって一番厄介な存在って何だろうか
えている。
俺は潜水艦⋮正確には魚雷だと考
?
だ け ど 艤 装 に 振 り 回 さ れ る と い う か ⋮ な ん
だからあんまり遠くに行ったら駄目よ。戦艦娘は潜水艦に対しては無力なんだから
⋮。
でぇぇ﹄
﹃司 令 っ 分 っ て は い る ん で す っ
!
ピコーン
馬力の桁が違うもんな⋮。
他の艦娘達は影響なさそうだけど⋮。あぁ比叡は戦艦だからな。他の艦と比べたら
メタリックなスライムを倒して急激にパワーアップってところかな。
します﹂
﹁提督の指揮下に入った事で出力が向上⋮。艤装本来の力が発揮されているのだと推察
とは言いつつ光点はゆっくりと旋回を始めている。
!
ミック先生不在でも俺の高性能な脳はいい事を思いついた。
!
魚雷が怖い だが、そんなもん当らなければどうという事は無い。赤い人もそう
?
提督(笑)と航空戦艦
358
言っていたし。
﹁比叡﹂
﹃何でしょう司令﹄
﹄
﹁跳んでみろ﹂
﹃え
﹄
?
﹄
?
﹃え、えぇぇ﹄
﹁できんのか﹂
﹃で、出来ますっ
い、いきますよ。とぅ
声を上げたと同時に比叡は跳躍。すかさず
!
﹁ジャンプをしろと言っているのだ﹂
﹃いや、えぇと
﹁1番と4番主砲は後方に向けろ﹂
﹃え、は
﹁跳んでみろ﹂
?
﹃ヒェェェーーーーーッ﹄
﹄
そう命令をされ、条件反射の様に比叡の主砲が火を噴いた。
﹁1番4番斉射﹂
!
359
その日、比叡は飛んだ。
やったね。これぞ立体機動。魚雷も回避できるし距離を詰める事も出来て一石二鳥
!
だぜ。
ただし、相手が潜水艦の場合は意味は無いな。だが、魚雷は回避できるはずっ
﹁⋮やはり時代は航空戦艦か﹂
大淀さんの引き攣った顔が印象的でござる。
﹁⋮⋮﹂
お艦はいいねぇ。何時の時も⋮比較的⋮おおよそ⋮落ち着いているもんねぇ。
﹃提督、漁師の方がご挨拶したいと仰ってますが﹄
だけどさ、俺はさっき見た。弓に番えずに、直接手で矢をぶん投げたのを⋮。
よしじゃあ甲板に出てお魚投げ渡してもらおう。
一隻の漁船がこちらに近づいてくる。
﹁お供します﹂
﹁アイサー﹂
﹁そうか受けよう。両舷停止﹂
提督(笑)と航空戦艦
360
お、おう。そのままつける気かよ。甲板に出たら漁船が接船してきた。
お見事な操船技術だが、無茶な事しますなぁ。漁師や妖精さん達がロープを投げ渡し
ながら両船を固定していく。
ロープを伝ってこちらによじ登ってくるご老人の姿。なんて元気なジジィだ。
アンタがここの艦長さんか﹂
艦娘収容用のクレーンあるんだけどなぁ⋮。
﹁おうっ
!
﹂
俺は辰と呼んでくんなぁ だがアンタ、ケチだな。爆雷の1個や2個で
!
いや、爆破漁はダメだろ。漁師というのはぶっ飛んだ頭の連中が多いのか
騒いでるようじゃ出世しねぇぞ
!
なにより、
て命と引き換えに爆破漁してしまったんだから。
戦時中、鎮守府付近で夜中に漁船が無断侵入して密漁してたけども⋮。機雷に接触し
?
?
﹁おうっ
﹁⋮あぁ。長野と言う。平波へようこそ﹂
な元気だなぁ⋮。
今飲んでる、その水筒の中は絶対お酒だよね この国の俺の知っている老人はみん
が赤らんだ歯が何本か欠けていらっしゃるジジィだ。
焼けた肌に年季の入った皺。捩じり鉢巻きの角刈り。とそれに続いてもう一人。顔
!
361
﹁⋮違法だろ﹂
﹂
﹁フンっ 今の海は魚で溢れ返ってらぁっ 一発や二発でゴトゴトぬかすなってん
だ﹂
!
える大淀さん。
と酒で真っ赤なジジィは嫌らしい笑みを浮かべている。
あぁアンタ命知らずだなぁ⋮。
﹁大淀﹂
﹂
殴ったら死んじゃうからね。殴っちゃ駄目よ
﹁くっ
超睨らまれてるのにどこ吹く風のジジィ。
﹂
﹁馬 鹿 梅 オ メ ェ ま た ど う し ょ も ね ぇ こ と し や が っ て
﹂
﹁オメェこそ俺の生き甲斐にケチ付けんじゃねぇ
﹁おいおい﹂
簀 巻 き に し て 沈 め ん ぞ っ
と大淀さんの悲鳴。見ればお尻を抑えて羞恥と怒りで顔が真っ赤にしてプルプル震
﹁きゃぁっ
!
!
!
?
!
!
!
!
﹁⋮へっへっへ﹂
提督(笑)と航空戦艦
362
俺の制止も聞かずに喧嘩をはじめる、辰︵捩じり鉢巻き︶と梅︵セクハラアル中︶の
ご老体二人。
小学生の喧嘩のような罵り合いをしている間に大淀さんは俺の背中に隠れてしまわ
れた。
妖精さん達は漁船にいる漁師さん達からお魚を貰って冷蔵庫に運んで行っている。
﹂
俺は肩で息するまで罵り合いが終ったところで声をかける。
﹁気が済んだか
でまたきつく言っておくからよぉ﹂
﹁⋮はぁ⋮なんじゃ⋮はぁ。尻の一つや二つ減るもんじゃねぇのに﹂
!
﹁おめぇ、じゃああそこにいる鳳翔にケツ触らせろと言って来い﹂
おめぇこそ鳳翔さんと呼べ。鳳翔さんと
!
?
いや、艦娘達にセクハラすること自体、命がけなんだけどさ⋮。ところで、おんせん
えない。
お艦は確かにさん付したくなるよね。お艦の尻を触る⋮関節決められる未来しか見
儂の恩船じゃろうがっ﹂
﹁そんな事言えるわけねぇじゃろがっ
﹁⋮はぁ⋮はぁ。まだまだ言い足りねぇが、嬢ちゃん済まなかったな。この馬鹿には後
?
363
﹁ん、あぁ。こいつは鳳翔⋮さんに乗って帰って来たんだ﹂
﹂
あぁ復員船の時に乗っていたのか。てか、そうすると年齢的に90前後という事だろ
元気だなぁこの人ら。
﹁嬢ちゃんすまんかったのぉ。だが、そんなスケベなスカート履いとるのが悪いっ
一理ある。が、ジジィもう少し反省しろ。
﹁⋮⋮﹂
﹁よぉおし
テメェら獲った魚を運び⋮なんでぇい。もう終ってやがんのかい﹂
ところで艦長さんよぉ。言いたいことがあんだがよぉ﹂
!
﹂
が一歩前に出ようとするが、
?
手で制して爺さんの話を促す。
﹁大淀。⋮なんだろうか
?
嬢ちゃんあの長野艦隊にいた大淀なのかい
﹂
辰という爺さんの雰囲気が少し鋭くなった気がする。その気配を察してか大淀さん
﹁おうっ
今日は新鮮なお魚料理がたらふく食えるぞい。ごちそうさまでち。
﹁そのようだ。有り難くいただく﹂
!
い⋮。
そして俺の背中越しで何も言わずに口を尖らせ睨んでいる大淀さん。ちょっと可愛
!
?
﹁⋮大淀⋮だと
?
提督(笑)と航空戦艦
364
﹁そうですが﹂
?
﹁⋮なんだろう
﹂
﹁なおさらおめぇさんに言っときてぇ事があんな﹂
ある程度慣れたら本土に帰還する予定だから。それまでに⋮うぅ胃が痛いなぁ。
してくれるらしいけど、
現在、大淀さんは大本営から出向という扱いで。父島着いたらしばらく業務の手伝い
それより、先ずは大淀さんとちょっと話し合おうか⋮。
かないよなぁ。
あの戦いの事は出来れば調べたくないんだが⋮、何時までも目を背けてるわけにもい
ろうな。
坊の岬組の生き残りかぁ。ん 大和は固定砲台になったのか⋮恐らくなれたんだ
﹁そうでしたか﹂
﹁ああ。すまねぇ俺はよぉ、あの時大和に乗っていたんだ﹂
﹁えぇと⋮﹂
そう言って大淀さんに頭を下げる辰爺さん、
らだ﹂
﹁そうか⋮。ありがとう。今俺がこうしていられんのは嬢ちゃん達が頑張ってくれたか
365
?
そして大淀さんは何で笑いを堪えるように俯いているのでせうか
⋮嘘。
あらやだ⋮。
という訳だ。
﹁随分とスゲェ武勲艦を何人も連れているようだがなぁ。アンタが下手な指揮執って彼
女たちに何かあったら俺はアンタを許さねぇぜ
﹂
お願いだから反乱なんかしないでね。俺ホワイトな提督目指すから
﹁⋮肝に銘じよう﹂
わかったな⋮えぇと⋮艦長さんよぉ
大淀さんよぉ。コイツが無茶な事言ったら反乱でもおこしてやんな
!
これは早急にお話し合いをしなければ⋮いかんのではないのか。
まずは話し合い大事だと思うの。
!
!
!
あぁカモメが飛んでる⋮。俺も今飛んで逃げたい⋮。
?
﹁⋮⋮﹂
提督(笑)と航空戦艦
366
!
ど、とにかく只管に素振り。
日課の運動を行って寝転んでみた所。今日は感謝の素振り一万回⋮もやってないけ
Wow
星が綺麗だねぇ。人工光がないと夜空はとても明るい。
聞こえるは荒い男の吐息と船が切る波の音。
そんな男を陰から見つめる一人の女性。
だろう。
月の形を見るに今が有明月の頃。あと何日かすれば月が完全に隠れる新月になる事
届かぬと分っていながらも求めてしまうのは人の性か。
甲板で男は大の字に寝転びながら、月へと手を伸ばす。
満天の星空に弓形の月。
提督︵笑︶とベストパートナー
367
気分だけなら今なら海が割れるんじゃないかと思うわ。
ご飯食べすぎちゃったからなちょっと張り切った訳だ。
なかなかに均整のとれたマイボディを維持するには運動は不可欠である。
ところで、本日の夕食は俺氏とお艦が作ったわけだけど、ほらお艦は空母だから夜は
置物になるじゃん
お断りしたわけですが、
敵と戦う事だからそういう事は俺に任せておきなさい。とそれはもう本当に丁重に
仕事は飯を作る事ではない。
某駆逐艦さんが休憩兼夕食の時に今度ご飯づくりを手伝うと言われましたが、君らの
晩御飯は ごはん あら汁 刺身 焼き魚 漬物 と見事に和のお食事になった。
というか、特に俺氏にすることがないだけだったとも言う。
哨戒を交代しながら我が指揮下の艦娘の皆さんを餌付けして気分高揚を狙います。
手伝ってもらった訳よ。
だから夜間は平波に収容です。疲れてるところ悪いとは思ったけど、晩御飯の支度を
?
?
てほしい﹂
﹁⋮料理したことはあるのか
﹂
﹁司令。この磯風にその様な気遣いは無用。手伝わせてほしい。いや、私に御馳走させ
提督(笑)とベストパートナー
368
﹁無いっ
磯風の力が必要ないというのか
だが、戦闘に比べれば料理など⋮﹂
﹁⋮却下﹂
﹁何故だ司令
﹂
!
!
いや時報だと普通に夜はヒエッカレー作っていたか
?
大型艦ほど食料保管には困らないから駆逐艦などより良い物食ってたはずだが。
しかし、御召艦であった彼女が何故メシマズ勢になってしまったのか⋮。
でって条件付けなきゃな。
父島の厨房はその辺りの事情次第では比叡の飯作り禁止。もしくは誰かの監督の下
⋮。
ならば安心できるのでは⋮
いうのがパターンではなかろうか。
まぁしかしだ⋮、彼女の場合はお姉さまの為に何か作ってそれの実験台にされるって
慄を覚えた。
そしてもう一人。わが艦隊には飯作りを極力させてはいけない娘さんが居た事に戦
きっと教えれば普通に作れるはずだ⋮俺はそう信じてるよ磯風さん。
いか。
いきなり料理出されるわけではなく一緒に作るところで落ち着いたのが不幸中の幸
なんてやり取りをしつつ、最後は涙目で訴えられたらもう折れるしかないよね。
!
369
まぁ陛下のお食事は専属の料理人がやってたけど⋮あぁ食中毒騒ぎ起こしていた影
響かな⋮。
てか、姉妹艦の中で一番大きいはずなのに人の身になってる比叡は恐らく姉妹の中で
一番身長が小さい。
﹂
もうわけわからないよね。だから深く考えたら駄目なんだよ。
﹁司令のバカ、アホ、アンポンタン。おかわりっ
茶碗を突き出す。ヒェーに黙ってご飯を盛り渡す。
﹁⋮⋮﹂
そんな彼女はご飯中ずっと俺をディスっていた。
!
何故、彼女がプンスカしているのかは跳ばせたから⋮。相当怖かったらしいよ。
茶ですよ
おかわりっ
﹂
!
﹁心が籠ってない
おかわりっ
﹂
!
それは無理だ。この体は感情が表にあまり出ないのだから。
!
﹁大変遺憾に思う﹂
﹁はぁーい。って司令。ちゃんと反省してください﹂
﹁口の中を空にしてから喋りなさい﹂
!
﹁何が航空戦艦ですか⋮モグモグ⋮魚雷が避けられる⋮モグモグ⋮ですか。司令滅茶苦
提督(笑)とベストパートナー
370
そして俺はすまぬとは思っていても反省はしていないのだから⋮。
ヒェーちゃん。後で遺憾の意味を調べるがよいぞ。政治家のような言い回しをしつ
つ三杯目のあら汁を渡す。
この時、比叡の脇の下を見て気づく。決して厭らしい目で見てた訳じゃない。
改までは脇の下で巫女服と振り袖が繋がっていたはずだが、ノースリーブである改二
の服装じゃないかという事に。
金剛型は改二の違いが分かりづらいのだ仕方なし。まぁ強いのだからいいか。
いですかね
﹂
ヒェーと一緒に休憩兼ご飯のメロンちゃん。
﹁⋮飛ぶメロン﹂
提督にメロンって言われたぁぁ
これしか思いつかない。
﹁うわぁぁん
おかわりっ
﹂
!
?
!
皆真似するんじゃないよ。
で、メロンちゃん何気に立体機動マスターしていやがる。それはいいのだけど勝手に
のか立体機動をやりだした。
ていうかヒェーが飛んだのを見てメロンちゃん達も漁船が離れて行った後、暇だった
!
﹁なら航空軽巡夕張の名は私が⋮提督。語呂が悪いです。もっとこうグッと来る名前無
371
提督(笑)とベストパートナー
372
弾薬もタダではないんだからな。せめて、一言言ってからやろうよ
ぎんだろ皆。
││眠れませんか
さて、もうちょい素振りでもするかな。
あぁ煙草吸ってないんだった⋮。
フリーダムす
と、終始賑やかな夜ごはん風景を思い出しながら胸のポケットを漁る。
楽しそうだったから止めなかった俺も悪かったけど⋮大淀さんが頭抱えていたぞ。
?
││嘘乙。
う、嘘じゃないし
お前は優柔不断な政治家か
││大変遺憾に思います。
おいっ
知ってるよっ
忘れてねぇし
逆に50年近く頭に寄生されてて忘れる奴の頭
││私は情報集積体。貴方にミック先生と名付けられた存在。お忘れですか
!
って随分遅かったじゃないか。
ああ。眠れないよムラムラしちゃってさ。
?
!
!
復帰を果たしました。
││それは何よりです。私、ミック先生はアップデート再起動完了し2分40秒前に
どうなってのか知りたいねっ。
!
?
!
373
ああ。うん、おかえり
でいいのか。
頭に響く懐かしい声。こういう場合はもうちょっと感動的な再会
ずではないのか
と言いつつ、これまでの経緯を説明するミック先生。
││私に非はありません。
再開
まぁいいや、それじゃあここまで待たせた訳を聞きましょうかねミック先生
?
?
のは
無理にアプデすると俺の頭がパンパカパーンになっていたんだとか⋮何気に恐ろし
しでミック先生も大変だったご様子。
日に日に増える艦娘達のせいでアプデは進まんし自分の領域を確保しなきゃならん
くるそうだ。
艦娘さんである。俺が指揮下に艦娘を置くことでミック先生のいた領域を圧迫して
そんでもってミック先生の居た脳内領域を侵してくる存在が現れる⋮。
短いし眠りが浅い。
少しづつアプデするつもりだったが俺がなかなか寝てくれない。寝たとしても時間
きている間は脳への負担が大きく寝ている間に
ミック先生は俺の頭の中に寄生している訳で脳が活発に活動している間⋮つまり起
当初の予定では10日もあれば復帰を果たせると予想していたらしいが。
?
?
?
い。
そしてそれがこれからも続くと予想し、アプデを何とか終わらせて最低限のバック
アップと俺との通信機能を残して外部領域を確保することにした。
アプデが終わる前に後何人か艦娘達を指揮下に置いていたらミック先生消滅の結構
やばかった状態らしい。
そんで、その外部領域ってのがコレ
﹁肯定﹂
何その緑のやーつ
腰には緑の細長い物体。
ようなフレンチクルーラー編み。
第二種軍装⋮白い海軍帽に白の詰め入り学ラン下は白の短パン。頭は何故か金剛の
何処からかやってきた妖精さん。俺の腹の上に乗り見下している。
?
コイツ頭に直接⋮
えっとどこから突っ込めばいいんだ
││私も肉体を手に入れました、ドヤァ。
!?
⋮。
お、おう。おめでとう もうおっちゃんどこから突っ込めばいいのかわからないよ
!?
?
﹁⋮⋮︵九条ネギです︶﹂
提督(笑)とベストパートナー
374
?
﹁アキラメンナ
ヤレバデキル
!
いている。
コメハシロイ﹂
逆に褒められると思った根拠は何
││少しは気分は晴れましたか
⋮お見通しですか。
⋮⋮そうでした。
││何年貴方と共にいたとお思いですか。
!?
いやいや、褒める要素は無いんですけどっ
││褒めていただいても構いません
マジでどうでもいい機能だなヲイ。
フラワーなロック
﹁⋮⋮﹂
いや、水飲み鳥の方が近いか⋮。
すると腰から九条ネギを抜き上下に振り出した。ペチペチと俺の腹を九条ネギが叩
そう言われるがままに妖精さんverミック先生の頭を押す。
││頭を軽く押してみてください。
あぁそうっすか。色んな機能があるんすね⋮。
!
?
!?
?
375
提督(笑)とベストパートナー
376
腹をぺチぺチと叩くミック先生妖精から夜空へと視線を移す。
こうやって大自然を前にするとありきたりの言葉だけど、人間って小さいとつくづく
感じる。
だからと言ってそのちっぽけな人間代表の俺の悩みが払拭されるわけじゃない。
ずっと悩んでいた⋮。
思い描いた理想は妥協と我慢に置き換わっていく。
相反する海軍陸軍組織。求めるモノが違う政府と軍部と民衆。
どれが最善なのか。どの答えに行きつけば日本という国のより良い未来が作れるの
か。
悩んで妥協して我慢してその中で自分にできる精一杯の事をして、やっぱり俺みたい
な人間じゃ限界が来て⋮最期は⋮アレだ。
結局は後の事を他人に丸投げ。
何であのリーゼントは俺なんかを選んだんだろうか⋮。
俺よりももっと事をうまく運べた奴がいたはずだ。なぁミック先生。
衝撃の新事実
って事は俺の他に転生者が居た訳か
?
││私の創造主は貴方以外に107人の者を選出しています。
えぇ
││肯定であり否定。
?
!?
377
矛盾してんぞおい⋮あぁなんだ、この時空⋮いや世界線には俺しかいないって事
?
?
そもそも108って中
ある時間線を起点にそこから108の平行世界に広がったみたいな
││肯定。
で、108個の世界を観てあのリーゼントは満足したのか
いやいやこの際、煩悩云々はいいよ。
途半端な数はなんだよ煩悩かよ。
││肯定。
合ってんのかよっ
?
ちゃってるのさ
何言っちゃってるのさ
満足したんなら何で俺はまた艦娘と深海棲艦が蔓延ってる素敵な世界に再登場しっ
!
││貴方が望んだからです。
望んでないよっ
!
?
⋮⋮待て待て。どう考えてもここヴァルハラじゃないよね
うわぁなんか嫌な予感というか考えが⋮。
?
││ヴァルハラに行きたいと死の間際に願ったのを創造主が聞き届けました。
いやいや、それならもっとゆるくて平和な世界を望むハズ。
とか俺ぬかしたか
それとも記憶がないだけであのリーゼントに会って褒美として艦これ世界きぼんぬ
!
?
提督(笑)とベストパートナー
378
あのリーゼントどう見ても日本贔屓だったろ。という事は八百万もいるという一柱
の可能性。
ヴァルハラは北欧の神話、管轄外です。
ってな事で戦乙女を艦娘達に例えて、昼は深海棲艦をぬっころしながら夜は艦娘に晩
酌させる。
クーリングオフは適用できんのか
お、おう。ある意味日本のヴァルハラですね、無理やり解釈すればだけど⋮。
││冴えてますね。
当たって欲しくなかったんですけど
││不可能。
!
││艦娘は
てない感が半端ない。
俺が言いたいのは他の奴がボーナスステージ満喫してるのに俺だけボーナスになっ
あぁそうですか⋮。そこは別にどうでもええねん。
立場や生まれや環境など違います。
││長野壱業はあなただけしか存在しません。他の平行世界では転生者のそれぞれ
を謳歌しているかもしれんのに⋮。
あぁなんて無慈悲な⋮。他の107人の長野壱業さんはそれぞれ好きな世界で死後
!?
379
可愛い
駆逐艦prprしたい。憲兵さん俺ですっ
!
けどさ⋮散って逝った者たちの事を考えると⋮なんか違うだろ
││最近のストレス値の原因はそれです。
言われなくても分ってるよ。嫌な夢ばかりで寝れないし。
こと出来なくなった⋮
出来るか出来ないかを聞いているのよ。
?
││可能。ただし、以前の様に繊細に電気信号を送ることが出来ません。
答えになってないよ
││本来、あの行為は脳に負荷が掛かるため推奨できません。
?
もしかして大戦中によくやってもらってた俺の意識の強制シャットアウトみたいな
たよね。
⋮ねぇミック先生。俺の頭から追い出されて外付けHDDのミック妖精さんになっ
?
しかもメロンちゃんみたいに好意的な態度をとってこられると男の部分では嬉しい
彼女たちを見ているとどうしても戦友⋮乗っていた乗員⋮部下⋮色んなもんがさ⋮。
⋮そうじゃないんだよ。
になるけど。
確かに出会った艦娘達はみんな可愛いし美人だし恰好エロイ子もいるから目の保養
って何言わせんだよ。
!
それって規格以上の電力でブラックアウトさせるような
何でだよ
﹁オコトワリシマス﹂
最悪の場合は介錯頼むよミック先生。
こりゃ、さっさと深海棲艦ぬっころして妹との約束果たさないとな⋮。
恐らく前者だろうな⋮。体は結構丈夫だもんねぇ。
あぁ⋮参ったなぁ俺が狂うのが先か、それとも体が壊れてしまうのが先か⋮。
それ⋮脳が壊死するよね⋮。
││肯定。
落雷による停電とか電気の使い過ぎでブレーカーが落ちるみたいな感じなのか。
?
壊れない為のシャットダウンが使えない
?
自動車保険かよっ。
││24時間何時でも何処でも対応可能。
なんだい時間をかけてカウンセリングでもしてくれるってかい。
││それだけが解決策ではないと推察。
のに随分勝手じゃないか。
だから勝手に壊れる事は許さないって
││私の存在意義は貴方をサポートする事です。
!?
俺のベストパートナーってか
?
提督(笑)とベストパートナー
380
││私の存在意義は貴方をサポートする事ですから。さしあたり胸に溜まっている
思いを吐き出してください。
そ れ で 解 決 す る と は 思 わ な い け ど ね。付 き 合 い の 長 い ミ ッ ク 先 生 が そ う 言 う な ら
やってやるけどさ。
マジで無理そうなら深海棲艦と刺し違えてやるからな。
﹁ダイジョウブダ モンダイナイ﹂
フッ、それ駄目な時のフラグじゃないか。あと何時までネギで俺を叩き続ける気だ
││貴方は要らないモノを背負おうとする生き方を改めるべきです。
要らないものか⋮。
それじゃあさぁ
それを何もなかったように忘れて生きら
﹁救えたもの⋮救えなかったもの⋮。天秤にかけたらどちらに傾くのか⋮﹂
それとも切り捨てたものか⋮。
俺が関わって多くの人が死んだんだぞ
?
貴方が救った者も多くいる事を自覚するべきです。
置いています。
││自ら天秤の例えを出しているにも拘らず、貴方は死んでいった者への比重を重く
れはしない。
?
381
救えた者か⋮。
正直、ミック先生に話したところで何にも変わる事は無いと思っていた。
だけどとにかく色んなものをぶちまけた。
なんか以前より人間らしさの様なものが出てきている。
そうするとほんのちょっとだけ気持ちが楽になったのも事実。
しかも彼女
まずは、
そんな君たちが提督や司令と言って慕っている人間はこんな男なんだと話をしよう。
彼女たちはこの世界の日本、人類の希望だ。
深海棲艦が負の感情で生まれたのなら艦娘達は人の希望が生んだものだと思うから。
いや、今はそんなことどうでもいい。
深い深い海底にあったパンドラの箱を開けたのは一体誰だろうか。
例え罵られて愛想を尽かれても俺はヘタレな臆病者だと話をしよう、
はならない。
それは目を逸らして問題を先送りにしていた事。彼女たちを腹を割って話さなくて
そうだな。
││艦娘達ともっと向き合って話すべきです。
?
﹁大淀に夜這いだな﹂
提督(笑)とベストパートナー
382
383
そんな甲斐性も無い癖にとミック先生の声を無視して⋮ていうか何時までそのネギ
で俺を叩きつけているんだ。
ミック妖精を抱き抱え立ち上がる。夜空の星は心なしか先ほどより輝いて見えた。
そんな男を陰から見ていた者は顔を真っ赤にして静かに風の様に走り去っていった。
提督︵笑︶と大淀と
大淀は休憩室に駆け込みバクバクと高鳴る鼓動を抑え、壁に背を預けて何度も深呼吸
をする。
﹁ふひっ﹂
乙女が人前で出してはいけない声を抑えることも出来ずに⋮いや抑えようとしたか
らこその声か。
それが口元を抑えた手の間から漏れる。
幸いだったのはそれを聞く者が誰もいなかった事。
平然を保とうとすればするほどに先ほど提督がポツリとつぶやいた言葉が過ぎり顔
に熱がこもる。
ら⋮と囁く。
人の身に、女性になった部分が、そうは思ってももし本当に提督が⋮私を求めて来た
冷静な部分では、自分が居た事に気づかれそして揶揄われたと思うのだが、
﹃大淀に夜這いだな﹄
提督(笑)と大淀と
384
﹁ぬふっ﹂
と再び人前では出してはいけない声が漏れる。
艦娘達にとって彼はあまりにも大きな存在であった。
大将がしばらくの猶予を求めるのも納得である。
もし彼の存在を知られたなら、彼のもとに馳せ参じる者が殺到するだろう。
そ う な っ た ら 海 軍 は 大 混 乱 に 陥 る。下 手 を し た ら 提 督 の 意 思 を 無 視 し て 反 乱 が 起
こってもおかしくない。
それほど多くの者たちを救い、あの戦争後期の絶望的な時期に精神的支柱であった存
在なのだ。
そして自身も参加した最期の戦いで絶望を覆してしまった、まさに戦神。
本人は
もしその人に求められたら⋮と。少なくとも、あのとき指揮下にいた艦娘なら喜んで
一部では神格化されている、そんな存在なのだ。
した、誰よりも強い人物。
提督もきっと誰かに縋りたかったに違いない。それでも誰に縋ることも無く事を成
と言っていた艦時代に聞いた言葉。
﹃俺はそんな大した者じゃない。神と呼ばれる人間は⋮一体誰に祈ればいいんだ﹄
385
提督(笑)と大淀と
386
受け入れる。
少しでもそれで提督の気持ちが楽になるなら⋮、そうやって自分を頼ってくれるなら
⋮。
しかし、そうやって正当化することで気持ちを抑えようとしてもなかなか火照る体が
収まらない。
大淀自身は提督に嫌われていると思っていた。
女性の体を得て初めて会った時に彼の持っていたバーベルを取り上げた。
自己鍛錬の邪魔をして自分の抑えることの出来ない気持ちを優先させた。確かに褒
められたことではなかったかもしれない。
後になって悔やんだが、それでも自分にとっては想定外の嬉しい再会だったのだ。
彼は一瞬、驚いた顔をした後に﹃大淀か﹄と一言だけ。後は何も言わない。
もともと口数は少ない人であったが、もっと何か言ってくれてもいいのではないかと
思った。
名前を呼ばれただけで歓喜した自分が居た堪れないと。
その後も彼はあまりにも自分に対して無関心ではないかと。
最低限の受け答えだけ。なにか自分に粗相があったのだろうかと。
確かに最初の鍛錬を邪魔した出会い方は悪かったが、だけどそれだけじゃないはずだ
と大淀なりに必死に考えた。
そして思い当たる節があった。
あの最期の戦い。
夜が明け、嵐が過ぎ去り敵艦隊の反攻も強くなりつつあった時、金剛より再三に渡り
下った﹃離脱セヨ﹄の命令を無視して戦域にとどまり続けた。
提督の的確な砲撃指示を通して敵空母群には壊滅的な被害を与えていた。
それだけでもその時点で日本にとって夢のような大勝利と言えた。しかし、あのとき
離脱すれば提督は必ず殿を務めたはずである。
いや、殿というよりは金剛だけを囮として残して艦隊を撤退させようとしていたのだ
ろう。
としても大淀自身命令を無視したであろう。
?
た艦の乗員の意見の大半だったはずだと大淀は思っている。
数々の海戦で生き残ってきた貴方でもこの数の敵では⋮。それがその時に艦隊にい
離脱すれば提督の艦隊指揮に対して負担は減る。だけど、貴方はどうなるのだ
大淀自身が命令無視したわけではないが、もしあのとき今のような実体を持っていた
いった艦長の言葉。
﹃とんだくわせもんだ。撤退命令は無視しろ。次の砲雷撃の指示をよこせと伝えろ﹄と
387
提督(笑)と大淀と
388
それでも命令違反をして沈んでしまった自分を快く思っていないのではと考えたの
だ。
当時、大淀がなぜ艦隊に組み込まれたのか、大淀艦長が提督の同期であったというの
も大きいが優秀な通信設備を有していたからという理由もあった。
あの時、提督からの命令を他の艦へと正確に伝えるべく大淀が選ばれたのだ。
ならば、名誉挽回すべく提督に忠実であろうと。
その後、以前にもまして提督の言葉を聞き逃さないように、口数のすくない提督の言
葉から真意を読み取れるように。
なるべく近くで、何時でも何に対しても対応できるようにと努力を重ねてきた。
相変わらずこちらをあまり見てはくださらないけど、短い間でうまくやってきたとい
う自信はあった。
この艦の命名の時だって気配りして提督の本意を汲んだ筈だし、聞かれるかもしれな
いと思った物はあらかじめ予習してすぐに答えられるようにしていた。
ただ、誤算だったのは提督の優秀さ。タブレットも艦も一度の説明ですぐさま把握し
てしまわれた。
だから、提督はあまり大淀を頼らなかった。
それでも何か質問される度に、感謝の言葉を頂く度に、込み上げる感情を押し殺しな
389
がら今日まで来たのだ。
今思えば、
﹃やはり時代は航空戦艦か﹄という言葉もそんな自分を気遣っての提督なり
の洒落だったのかもしれない。
何故、あそこで私は何も言えなかったんだと大淀はとんでもない方向に反省している
が、一先ずそれは置いておく。
そして昼間、漁師たちとのやり取りの時、臀部を触られ思わず握りしめた拳を提督の
一言で止められ、喧嘩し始めた老人たちを避けるために提督の背中に隠れてしまった。
色々なモノを背負ってきた大きい背中。
伸びそうになる手を必死に抑えていた。
そんな折に、漁師の一人が提督へと敵意に似た何かを向け、提督を守ろうとしたが手
で制された。
前に出ようとした体を止めようと思わず伸びてしまった手は提督の腕に。
その瞬間、全身に電流が走った。
提督との繋がりを然りと感じる。
そうです。私は長野艦隊の大淀なんです。
艦娘である私を守ろうとする貴方に、指揮下に置いてくれた貴方に、反乱なんか起こ
すわけがない。
そ れ よ り も 爆 発 し そ う に な る 歓 喜 を 抑 え る 事 が こ ん な に 苦 し い こ と だ と は 思 わ な
かった。
大淀にとって特別な日となったその日の夜に﹃大淀に夜這いだな﹄と提督が呟いたの
だ。
それはもう乙女心が揺れて奇声も漏れるというものである。
何故かボロボロになっている妖精さんにより回想を終える大淀。
﹁オオヨド テートク ヨンデル カンチョウシツ﹂
そして。妖精さんの言葉に再び頭が沸騰しそうになった。
かない。
そして足早にシャワーを浴びに向かう。鼻から赤いものが垂れていたが本人は気付
ますとお伝え下さい﹂
﹁⋮わかりました。申し訳ありませんが少しお時間を頂きますが、なるべく迅速に伺い
提督(笑)と大淀と
390
扉の前で此方に向けて軽快なステップを踏み、ジャブを
とりあえず船内に戻り自分の部屋、艦長室の前に至る。
えーと、何だろうコレ
﹁⋮⋮﹂
放っている妖精さんが一匹
﹁シュッ シュッ﹂
一人
風切り音を自ら発して、⋮これは威嚇されているのだろうか
これまでそのようなことは一度も無かった。
ないか。
よく見ればこの妖精さん校長先生の酒を盗み出し、俺の事をボスと呼ぶ妖精さんでは
が⋮。
どちらかというとトラブルには巻き込んでくるが好意的な態度だったように思える
?
妖精さんの単位は何だろうかと場違いな事を考えながらも、しばし観察する。
?
?
?
391
﹁⋮⋮︵私に対しての威嚇のようです︶﹂
肩に乗るミック先生妖精ver。略してミック先精⋮読み方一緒だからもうミック
先生でいいや。
は、肩から飛び降りて腰に差したネギを抜く。
え
そこ
何か譲れないアイデンティティーがあるのかい
会う妖精さんみんな仲良くやってるように見えたが、今度よく観察してみよう。
序列って⋮妖精さん達の中にも序列があったのか。
﹁⋮⋮︵序列を決めたいようです︶﹂
どこぞの駆逐艦のような奇声を上げてめっちゃ威嚇してる妖精さん。
?
﹁⋮⋮︵訂正を求めます。九条ネギです︶﹂
いやいや、それよりもなぜに威嚇されてる訳
?
﹁オウ オウ オウ﹂
?
?
その、物理的なお話し合いで上か下かを決めるのかい。ちょっと穏やかじゃな
それより先生は戦えるの
いんですけど大丈夫か
?
﹁⋮⋮︵神道葱陰流免許皆伝です︶﹂
?
?
え
﹁オアイテ イタシマショウ﹂
提督(笑)と大淀と
392
うちの家系に伝わる剣術の名前と微妙に被ってるんですがそれは⋮。
いや、もう深くはツッコまない事にして、
﹁無茶するなよ﹂
あんまりミックミックしちゃ駄目だよ
葱を振って答えるミック先生。
﹁カシコマリ﹂
しばらくして大淀さんの声が扉の前から聞こえてくる。
﹁提督。大淀参りました﹂
俺氏は艦長室で一息つくよ。
そういうところは仲いいんだ。まぁじゃあ頼んだ。
﹁カシコマリ﹂
﹁カシコマリ﹂
﹁終ったら大淀を呼んでくれ﹂
荒ぶる鷹のポーズで答える酒好き妖精さん
﹁ヒョー ヒョー ヒョー﹂
?
393
ついに来たか⋮。
深呼吸を一つして、
﹁⋮入れ﹂
﹁失礼します﹂
大淀さんが入室してくる。
﹂
この私を踏み台にっ
﹂とか聞こえてくる声なんだけど⋮。
ちょっと気になるのが、大淀さんが扉を開けた時に通路のほうから﹁奴は四天王の中
で最弱﹂とか﹁馬鹿な
﹁⋮通路が騒がしいようだが
ちょっとミック先生なにしてるんですかね
││大丈夫だ。問題ない。
おいっ
何が起きてるのかくやしく説明
││私に敗北という言葉はありません。
俺が欲しい答えじゃないからっ
!?
まさかの棒読み。ネタぶっこんだ俺も悪いが、全く悔しそうじゃないね
││序列争いも終盤に差し掛かっています。悔しいです。
!?
いや、もういい。そっちに構ってると頭の中カオスになりそうだ。
!?
!
!?
?
?
!
﹁妖精さん達が戯れているようで﹂
提督(笑)と大淀と
394
﹁⋮提督
﹂
なんで
⋮ベッドに。
うん
おいおい、どうすんの
夜這いと言った件を。
もしかして⋮、聞かれたのか⋮。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
だけどなんでそこをチョイスしたのかな
おっさんそこの所聞きたいです。
そりゃまぁ人間は基本的に一人しか乗らんからって理由とかもあるんだろうけどさ、
いや、そもそも艦長室にベッドがある事自体おかしいんだけどさ⋮。
?
大淀さん思索に耽た後に腰掛けた。
﹁⋮はい。⋮失礼します﹂
﹁あぁすまん。かけてくれ﹂
?
?
大淀さんと目が合う。
?
!?
395
やらないからな
!?
あぁ馬鹿だった。
やりたいけれども
なにその覚悟は完了してます的な決意の籠った瞳は
やらないよ
この状況。
!
君は俺の事嫌いなんじゃないのかい
俺が何か質問するたびに頬を引き攣らせていたよね
か思ってたんじゃないの
内心話しかけんなボケェと
?
?
ていうか、そもそも何で夜這いを受け入れる方向なのよ
えっとどうすんだ
謎の三段活用が出来ました。って馬鹿か俺は
!
こういう時こそミック先生っ
もう意味が分からないよ⋮。
そうだ
!
?
?
?
!
!?
い。
おおいっ
24時間何時でも何処でも対応って言ったのは誰だ
!?
││恐れ入りますが現在取り込み中です。時間を置いてから再度、お問い合わせ下さ
!
い。
!
││恐れ入りますが現在取り込み中です。時間を置いてから再度、お問い合わせ下さ
!
使えねぇなヲイッ
﹁⋮⋮﹂
提督(笑)と大淀と
396
﹁⋮⋮﹂
大淀さんと見つめ合う。
今俺が腰掛けている執務机があってその前にソファーとテーブルがあってさらに奥
にベッド。
判断に迷うところではあるけど。
大丈夫だ。この距離なら何か問題が起こる事はあるまい。
﹁⋮⋮﹂
ならば、逆に良かったのか
﹂
さ、さすがに初めてでそれは⋮いえ 決して嫌なわけではなくて⋮﹂
﹁⋮大淀。こっちに腰掛けろ﹂
﹁⋮て、提督
﹁⋮お前は何を言っている
大淀さん
それ以上はいけない
﹁大淀。少し話したいことがある。そこのソファーに腰掛けてくれないか﹂
!
﹁ですから椅子に座る提督に跨ってするそういう⋮﹂
?
!
!?
!
が、
駄目だ、このままじゃ話が進みそうもないというか変な方向に行きそうだ⋮仕方ない
君は何を言っちゃってるの⋮。
﹁⋮あの、提督。⋮明かりは消して頂けると⋮﹂
?
397
﹁え
﹂
﹁なんだ
ど⋮。
﹂
気持ちはキリッとした顔を大淀さんに向ける。多分いつも通りの仏頂面だと思うけ
﹁そんな事はしない。させる気も無いから安心しろ﹂
一度、眼頭に手を当て深く息を吸う。
﹁あの⋮提督﹂
俺にはそんな根性ないんだよ。
そもそも夜這いなら俺が大淀さんの所に行かにゃならんだろ⋮。
だよ⋮。
あのとき物陰で潜んでたのかたまたま出くわしたかは知らないけど、冗談で言ったん
﹁⋮やはり聞いていたか﹂
﹁え、えっと、その、よ、よば⋮夜伽では⋮﹂
?
?
大体君は俺の指揮下にすら入ってないじゃないか。いや指揮下にいる娘さんになら
えないけど口元がモゴモゴと何やら動いている。
安心したのか何なのか知らんがソファーに深く座り込む大淀さん。俯いて表情は見
﹁そ⋮そう。⋮ですか﹂
提督(笑)と大淀と
398
手を出していいという事でもないけど。
﹂
││昼間の段階で指揮下に入った模様。
﹁あぁ
序列争いは終ったのかミック先生⋮。
いやいやそれよりいつの間に大淀さんが指揮下に⋮
だけど大淀さんは⋮
お、おう⋮。大淀さん俺の腕掴んどったね⋮。
漁師の爺さんたちが喧嘩してた時に後ろに隠れた時か⋮。
?
おうけー見事に接触しているわ。
会い頭に握手してましたね⋮。
ヒェーは苺呼ばわりしたから頭掴んだか⋮。浜さん磯さん谷さんの駆逐トリオは出
は襲撃された時にマシュマロクッション。
待て待て、接触って言ったってメロンちゃんは⋮膝枕。お艦は⋮抱き枕。有明の女帝
水量によるところが一般的には大きいようです。
││艦娘達の意思と貴方への接触により繋がりを確認。負担に関しては艦の時の排
奴の条件も。
てかイマイチ指揮下に入る時の条件が分からんのだけど。あと俺に対する負担って
?
?
399
││ヨッ 艦娘ホイホイ。ちなみに負担が無かったのは貴方には特殊条件がある
ってなんだよ特殊条件ってさ
!
模様。
変な二つ名つけるの止めてくれませんかねぇ
い。
おいぃぃ
都合が悪くなるとそれか
﹁し、失礼しました﹂
説明せいやっ
背をシャキッと伸ばして姿勢よく座りなおす大淀さん。急にどうした
!
?
にお話ししましょうか。
恨んでいるか
?
一つ深呼吸して口を開く。
﹂
とりあえず、艦娘達を指揮下云々は置いておこう。さて、それじゃあちょっと真面目
?
!
││恐れ入りますが現在取り込み中です。時間を置いてから再度、お問い合わせ下さ
!?
!
!
﹁⋮大淀。俺が憎いか
提督(笑)と大淀と
400
恨んでいるか
﹂
?
歴戦の勇士たる男は何故自分にその様な事を聞くのか
大淀は息が詰まったが、少し前の事を思い出す。
嬉しかったと。
少なくとも私は貴方を恨んだり憎んだりしてなどいない。貴方に再び会えて本当に
ないか。
貴方は多くを救ったではないか。最後の最後まで諦めずに足掻いて事を成したでは
を整理する為に動けなかった。
何と言って言葉をかければいいか分らない。違う。いろんな言葉が溢れだしてそれ
風に乗って大淀の耳に届いたその言葉はその時、確かに胸を締め付けていた。
﹃救えたもの⋮救えなかったもの⋮。天秤にかけたらどちらに傾くのか⋮﹄
?
嘘も誤魔化しも許さないと正直に答えろとその瞳は物語っているようであった。
真っ直ぐ見つめる瞳。先ほどまでの空気が一瞬にして変わる。
﹁⋮大淀。俺が憎いか
?
401
ただ、その後の発言ですべてすっ飛んでしまったが。
だから、今一度あの時思った言葉を口にしよう。
部下達は我関せずだ。
一応佐官の俺にその詰め所の代表の大尉さんが挨拶してくれたのだけど、それ以外の
の歓迎ぶり。
途中、軍関係者の詰め所みたいなところに寄ってきて挨拶してきたんだけどなかなか
うちの配下の艦娘達は艤装の整備と補給の為にそういう施設に。
日が西に傾いた頃ようやく父島警備府に到着しました。
また後日の話。
そのまま大淀が長野指揮下に入り、大本営に帰還拒否して大将の胃を痛めさせるのは
得意そうな顔を浮かべる大淀に困ったような笑みを浮かべる提督であった。
大丈夫ですよ、長野艦隊は最強なんですから﹂
言おうとも全てを敵に回しても私は貴方に従います。
﹁提督。私、大淀は提督の指揮下でまた戦えることを嬉しく思います。例え誰かが何か
提督(笑)と大淀と
402
普通、立ち上がって敬礼を一度くらいするんじゃなかろうかとも思ったが、俺も人の
事言えるほど態度良くない事に気づき黙った。
でもなんか嫌な感じがするんだよなぁ。
まぁ追々やっていこうと気を改めて警備府の建物内に入り、提督執務室前。
これからここが俺の職場かぁと扉を開けようとしたところ事件は起こった。
俺の頬を掠めて扉に刺さる刀のようなモノ。
振り返れば、
!
中二病患って眼帯付けた世界水準軽く超えてる軽巡娘さんが居た。
﹁ヨウっ アンタが新しい提督か。オレの名は天龍⋮。⋮フフ⋮怖わっ⋮わわわわ﹂
403
ヤバイ
提督︵笑︶と天龍の剣
ヤバイ
!
ヤバイ
!
て。話せばわかる。
ねぇ、ちょっと待って
さっきよりカチカチ具合が大きくなってるんだけど待っ
視線を戻せばカチカチとその刀を震わすご本人。
マジヤベェよ。視線だけ左に移せば扉に刺さる天龍ちゃんの艤装の刀のようなモノ。
いきなり刀を突き付けられたでござる。
二人の再会はお互いが最悪な心理状況で幕を上げた。
もう一方は女子高の制服かとも思えるものを身に着けた眼帯女。
一方は白い海軍服に身を包む男。
理由は違えど向き合う二人の心の叫びは同じであった。
!
﹁わ⋮わ⋮﹂
提督(笑)と天龍の剣
404
!
わってなんぞ
いきなりバッサリやらないって事は話し合う余地があるんだよね
そして気づいて壁ドン⋮ならぬドスドンである。
そうだよね
こりゃかなり恨まれてるのか憎まれてるか、ご立腹されている様子である。
思い当たる節は⋮ある。
下手になんて出れるわけがない事知ってたしっ
﹁⋮久しいな。天龍﹂
⋮知ってたし
かな期待にかけて試してみたいお年頃。
!
﹁お、お、お、おお、おう﹂
それでもわず
なるべく刺激しないように下手にね、やぁ天龍ちゃん久しぶりだね。
まずは、挨拶からだよね。コミュニケーションに必須だと思うの。
バッサリ逝かれてしまう。
そ れ よ り カ チ カ チ 音 が さ ら に 大 き く な っ て き た。そ ろ そ ろ ヤ バ イ マ ジ で ヤ バ イ。
それは俺に対して逝ってらっしゃいと笑いを堪えてる奴ですかね⋮。
ていますが、
あ、天龍ちゃんの斜め後ろに龍田さんがいる。プルプル震えながらこちらに敬礼され
!?
?
今まであった艦娘さん達から推測するに天龍ちゃん確実に気づいてる。
!?
!
405
⋮こ、これはビビらせるはずが、全然ビビらなくて動揺しているな
ハッハッハ、残念だったな内心ビビりまくっても顔には出ないのだ。
?
天 龍 ち ゃ ん が 気 を 取 ら れ て る う ち に 話 題 を 色 々 逸 ら し て こ の 刀 の よ う な モ ノ を 仕
﹁⋮龍田も壮健か﹂
舞ってもらおう。
お久しぶりです。またお会いできて光栄です
﹂
最悪ちょっとお預かりさせてもらって落ち着いたら返す方向で。
﹁はい
!
うか
﹂
あ、よく見れば天龍ちゃんもだな。
﹁顔色が悪いようだが
大丈夫かい
?
おいおいもうシャレにならないぐらい震えてるけど大丈夫なのか
?
まずいぞ。全然気を逸らすことできてないじゃないか。
ますがな⋮。
でも、とりあえず刀の様なものから手を放して欲しいの。扉までガタガタ言い出して
?
姿勢はすごくいいのだけど小刻みに震えている。あれ、もしかして具合が悪いのだろ
!
?
﹁⋮あ⋮あ⋮あ﹂
提督(笑)と天龍の剣
406
や、やむをえん。
うっそーん
そっとそおぉっと天龍ちゃんの刀に手を伸ばす。
て重っ
!
今だっ
獲ったどぉ
!?
えっと、なんだコレ
刀は天龍ちゃん頭数センチ手前。
﹂
なんだコレ
﹁どうした
﹁⋮⋮﹂
﹂
天龍ちゃんもう気を失ってますから許してあげてください どうかど
あれえええ
龍田さんのキャラってこんな感じだっけあ
!
﹁⋮⋮﹂
うか﹂
?
?
!?
﹁て、提督
﹁聞いているのか
二人して全く動かない。
?
!?
!
あるぇぇ コレどういう状態なの
れ
?
?
そして何故か天龍型姉妹が二人して目の前で土下座している。さらにぶっ刺さった
抜いた刀が予想していたよりも重くて勢いよく廊下の床にぶっ刺さってしまった。
!
!
?
407
もう一度言う。なんだコレ
?
そこのところは忘れる事に、いや梃子摺らせた苛立ちをぶつける事にした。
違いになっていたのだが、
最初からここで待っていればよかったものの居ても立ってもいられなくなって行き
ころだった。
たのでいよいよかと思い、新しく着任して来た提督の面を拝んでやろうと探していたと
というよりは数時間前より提督が来る報を受けており、さきほどから港が騒がしかっ
げている白の海軍服を着た男を見つけた。
龍田と警備府の廊下を歩いていた天龍は提督執務室の扉の前でそのプレートを見上
﹁おい龍田。見ろよ新しい提督だぜ﹂
提督(笑)と天龍の剣
408
﹁おぉし
ちょっくら挨拶してやるか﹂
アンタが新しい提督か。オレの名は天龍⋮。⋮フフ⋮怖わっ⋮わわわわ﹂
ナンデ、ナンデホンモノがいんの
聞いてねぇよ
と。
振り返る男の顔を見て一瞬で何者かを理解した。理解してしまった。
﹁ヨウっ
か悪い事かは置いておく。
それが今回は全うにドスを効かす本来の役目が叶った。それが天龍にとっていい事
組と書かれた旗をつけているものに成り下がっている。
深海棲艦に対して振るった事は無い。もっぱら遠征時に駆逐艦たちの引率時に天龍
る。
さて、この天龍の持っている刀のようなモノ。ここでは天龍剣と呼称することにす
に突き立てた。
そして未だに呆けっと扉の前に立っている男の背後に近づき、艤装の刀を掠めるよう
﹁おう﹂
﹁ふふ、天龍ちゃん。ほどほどにね﹂
実は非情である。
もしこれがもっと早く邂逅がなっていれば違う未来があったかもしれない。だが現
!
!
!?
!
心の内は盛大なパニックである。
アレェ
!?
409
提督(笑)と天龍の剣
410
それと同時に蘇る艦時代の記憶。
ミッドウェーに乱入する前。
航行中、突如夕張が発砲。海上に水柱が上がる。
あの辺に潜水艦が潜んでるから沈めてこいと随伴の駆逐艦に命じる。
第29駆逐隊から3隻そこに向かい、爆雷を投下し始める。
実際に存在した事にも驚いたが、なかなか仕留める事が出来ず、業を煮やしたのか投
下を止めさせて夕張が全速でその域に突入。
天龍、龍田と残った駆逐艦も後を追う。
何をトチ狂ったのか投錨。
大きく夕張の船体が揺れたあと碇を巻き上げ、敵潜水艦を釣り上げた。
艦隊が唖然とする中とっとと砲撃して沈めろと命令を受け一番近くにいた天龍が砲
撃して無事仕留める。
艦隊に新しく来たばかりのその男に対してあった少なからずの不満がこの時消えた。
と同時に﹁あ、コイツ、ヤベェ奴だ﹂との認識が艦隊に生まれる。
ミッドウェー到着後も沈みそうな蒼龍から一人担いで出てきたり、飛龍に乗り込み二
航戦司令官と物理的な話し合いの末に撤退を承認させたらしい。
その後も輸送任務や警備任務でお前の目と勘は正直おかしいと思うほど潜水艦を見
つけては沈める事3度。
そして後に第一次ソロモン海戦と呼ばれる海戦。
もともと史実においても日本側の大勝利を収めた戦いではあるが、夕張、天龍、29
駆の夕凪は強引に参加している。
連合国側は駆逐艦4隻を残し全て沈没という史実よりも被害を広げる事になった。
壊滅状態の連合国側艦隊が深夜のスコールの中に逃げ込むも逃がさず食いつく夕張
と天龍により被害が拡大した。
追撃後サボ島北に再集結した艦隊での敵輸送船団に対して再突入を行うかの話し合
いで、
敵の機動部隊は壊滅状態だ空母なんか出てこない。出てきたとしても商船改造の空
母か軽空母が少数だから再突入をと鳥海の艦長と共に強く進言。
鳥海艦長は﹁司令部移せ。鳥海だけでもやる﹂と言うが参謀は首を縦に振らず。
だが、そいつが艦隊に居た時期にあまりにも色々おかしいだろという命令を聞いてい
結果は大戦果と言って過言ではないものを上げた。
艦隊の半分で行われることになった。
結局、司令部を鳥海から移し再突入部隊は鳥海と夕張、天龍の三隻を含むもともとの
﹁なら此方だけでも行う。沈んでも惜しくない旧式艦なら問題ないでしょう﹂と件の男。
411
る艦時代の天龍。
彼女の中ではすごい人だけどヤベェ奴筆頭となっている。
とその言葉が頭の中で何度もリフレインしている。
で、そんなヤベェ奴に天龍剣を掠めさせてしまったのだ。
ヤベェヤベェどうしよう
﹁わ⋮わ⋮﹂
何だよその獰猛な笑み。怖えぇってさっきから震えが止まらねぇ。
﹁⋮久しいな。天龍﹂
うわぁ超目つき鋭い、絶対キレてるよコレ怖えぇよマジで怖えぇよ。
意味にならない言葉が漏れるも自覚は無い。
!?
ちゃんと挨拶しろ俺の口ぃぃ
﹁お、お、お、おお、おう﹂
おう。じゃねーよ
﹁⋮龍田も壮健か﹂
!
﹁はい
お久しぶりです。またお会いできて光栄です
俺はお前のそんなきちんとした敬礼初めて見るぞぉぉ
!
﹂
そ、そうだ龍田だ。た、龍田助けてくれ。と念を込めて見やる。
!
!
!
提督(笑)と天龍の剣
412
︵天龍は気付いていなかったが龍田も龍田で向けられた獰猛な笑みと言葉で体が硬直し
ていた。︶
そして龍田の目が物語っていた﹁天龍ちゃんそれは無理﹂と。
龍田ぁぁぁぁぁ
﹂
という思いと共に⋮。
!
﹂
そんな覚悟で俺に剣を向けたのか
床に刺さる天龍剣。少しでも顔を上げれば斬れることは間違いない。
しかしどうやら許してはくれなかったらしい。
ごめんなさいアナタだとは思わなかったんです
溢れそうになる涙を必死でこらえ、その場で勢いよく土下座した。
全身から変な汗が滲み出る。自分の意思とは関係なく震える体。
深海棲艦と殺り合っていた方がまだマシなほどの恐怖。
長野提督マジ怖い。
﹁顔色が悪いようだが
!!
かかってこないのか
?
﹁どうした
もう終わりか
?
?
はは。すまねぇ龍田どうやら俺はここまでのようだ⋮。
としなかった。
そう問われているようであった。もともとアナタだと知っていればこんなバカなこ
?
?
413
提督(笑)と天龍の剣
414
天龍は気を失った。
お徳用瑞雲さんが入室しました。
サーモンかな
かな
?
だぁぁぁ超疲れた。
?
お徳用瑞雲:おいっす
雷電☆命 :おかえり^^お土産はカニかな
ライバック:北方輸送作戦お疲れさん
?
!
415
アァーー
:いいのかい
マジで黙れ
俺は平気でノンケでも食っちまう男だぜ
お徳用瑞雲:ガチホモ労いの言葉もなくいきなりそれか
土産は無い。
雷電☆命 :使えねぇ奴。
:私は君の体で構わんがね
ライバック:俺、超カニ好きだったのに。
アァーー
結果知ってるけど。
大事な
ちなみに
?
んな暇なかったわ。あとガチホモ、マジで黙れ
事だから二回言っている。
お徳用瑞雲:うっせぇ
?
ライバック:まぁ冗談はともかくどうだった
!
?
マジやめろ
しい態度にキュンキュンした。
お徳用瑞雲:やめろ
▽`*︶
まじやめて
超見たいんですけ
そしてクソホモお前は死ね
ライバック:上がってる。あとでURL送ってやろう
ど︵*
雷電☆命 :え、何それ私知らない。ネットに動画上がってる
!
雷電☆命 :わーい。さんきゅ︵^^♪
?
羞恥で
!
!
!
お徳用瑞雲:止めてください。死んでしまいます俺が
!
アァーー :メディアも大分取り上げていたからな。帰還後の取材会見での君の初々
?
!
!
!
!
!
!
´
提督(笑)と天龍の剣
416
アァーー :悶えるのは勝手だが、もう手遅れだろうな。それより委細報告したまえ
お徳用瑞雲:はぁやってらんね⋮。てか委細つったって大体把握してんだろ
き。
お徳用瑞雲:お前、俺のPCハッキングしやがったな
んて俺は知らないから大丈夫。
A`︶人︵
A`︶人︵
そしてお前は死ね
A`︶ナ
'
お徳用瑞雲:それ全然大丈夫なように聞こえないからな
︵
'
A`︶ナカーマ
雷電☆命 :どうせ駆逐艦prprしたいんでしょ。今更 ︵
カーマ
:ガチムチプロレスだと
お徳用瑞雲:お前と一緒にしないでくれますかね
アァーー
お徳用瑞雲:お前と一緒にしないでくれますかね
'
アァーー :南方航路が壊滅しているからな。ロシアかアメリカからの北方航路しか
ら石油満載で日本へ。
ライバック:タンカー13隻からなる輸送作戦。北方航路を辿りアラスカへ。そこか
!
'
!?
!?
?
?
!
ライバック:大丈夫大丈夫。見たのは上にあげた報告書だけだから、お徳用の性癖な
!?
ライバック:まぁそうなんだけど俺らが知ってるのは作戦概要と結果とかだから表向
?
!
!
ないというのは分かるが⋮。
!
417
お徳用瑞雲:油の備蓄が枯渇寸前なんだから政府も無茶するだろ。あと話をぶった
切って進めるお前らぐう鬼畜。
ライバック:それを成功させてくるお徳用も大概だよね。
お徳用瑞雲:まぁうちの師匠と伊勢が居ればな。と言いたいところだがうちの艦隊以
あとうちのながもん。
外から提督お断り勢から何人か付いてたし。ちょっとあいつ等おかしい。
ライバック:二航戦と五航戦付いてたんだっけ
キュー。
ライバック:お、おう。お徳用がデレた。
つーかデレてもいねぇし
:私にはツンしか見せないがどういうわけだ
雷電☆命 :ツンデレ乙
アァーー
お徳用瑞雲:お前にデレる要素なんてねーよ
ライバック:ハイハイ。それより何度か戦闘はあったんでしょ
!
?
お徳用瑞雲:長門には礼言っといたけど。お前にも言っとくわマジ助かったわサン
?
よ。アメリカ艦娘の映像もあんぞ
モもいるでしょ
一応みことにも送っとく。
ライバック:あ、見つけた。こっちで編集しておくから上にあげる分だけいいよ。ホ
?
お徳用瑞雲:あったよ生きた心地がしなかったぜ。映像データ編集して送ってやる
?
!
!
?
アァーー
:あぁ頂こう。
雷電☆命 :うぇーい
現在進行形で俺のPCが覗かれてる件について
:そういえばライバック。餃子氏にコンタクト獲れたのか
お徳用瑞雲:おい待て
アァーー
で、餃子がどうしたって
に着任したんだってさ。
?
ライバック:⋮まぁ一応。
お徳用瑞雲:無視か
雷電☆命 :餃子ちゃん父島だっけ
!?
?
!?
!
!
:電子戦は少なくともライバックと同じ程度にできるという訳か。
!
アァーー :君は輸送作戦で知らなかったか。実質2カ月と少しだ。ついでに言うと
?
お徳用瑞雲:それも凄いけど3カ月で卒業じゃ提督としてもけっこう優秀って事だろ
アァーー
ライバック:裏からコンタクト取ろうとしたらセキュリティ突破できなかった。
?
何それ。
?
│∀│︶=3ドヤッ
指揮下。父島勢もどうなってる事やら。
ライバック:比叡、鳳翔、夕張、鹿島、谷風、磯風、浜風。と今現在で判ってる彼の
お徳用瑞雲:え
教官の艦娘を悉く連れ去る案件が発生。
!
雷電☆命 :駆逐艦は私の紹介だ︵
´
提督(笑)と天龍の剣
418
419
お徳用瑞雲:え、何ソイツ
:コンタクト取れたのであろう
それで彼は何と
?
い。一波乱ありそうな予感がするんだよね。
アァーー
?
ライバック:士官学校の成績は普通。運動能力は高い。上がこそこそ何やらきな臭
?
アァーー :それにしても父島とは。上は何を考えているのやら。いや指揮下に置い
したくなかったんだけどさ。
ライバック:普通に。向こうに詰めてる軍人通してメールした。色々勘繰られるから
お徳用瑞雲:ちなみにどうやってコンタクト取ったんだ。
よ。
ライバック:今は業務と警備府の把握に忙しいから落ち着いたら連絡してくるそうだ
!
やら。
アァーー :政府もロシアからの艦娘派遣要請は完全無視は出来まい。何時まで持つ
の石油も貴重だからね。
ライバック:だね。中華と半島はいつもの事だから無視するにしても今はロシアから
しいな。
お徳用瑞雲:輸送作戦完了でロシア相手には一息つけたと思ったが、そうでもないら
た艦娘の数を考えれば妥当か。
!
!
提督(笑)と天龍の剣
420
ライバック:人類生存をかけて戦っているのに内部のゴタゴタと国家外交と考える事
多くて嫌になるよねぇ。
:せめて軍の派閥争いが収束すれば遣り様が見えてこようというものだ。
お徳用瑞雲:なるほど。となると父島にいる餃子とは友好的な関係を築いておきたい
わけか。
アァーー
くないだろ
:石油欲しいなら艦娘寄越せという国がいっぱいある。
雷電☆命 :なるほど。なんとなく把握した。
ライバック:これだけ分りやすくして 何となく なのかよ
:餃子氏はいい男だろうか⋮。
お徳用瑞雲:手遅れだ諦めろライバック。
アァーー
お徳用瑞雲:ガチホモは黙ってろ
!
!?
お徳用瑞雲:それは嫌だから俺たちで何とかしよう。お前の指揮下の駆逐艦を渡した
いる。
ライバック:日本は内部で喧嘩中。この中に艦娘なんか外国にあげちまえと言う奴も
アァーー
雷電☆命 :おいお前ら。分かりやすく三行で説明汁。
!
!
?
!
421
今日も提督達は仲が良いのであった。
よっこらセ〇クス、よっこらセ〇クスもういっちょ
ふぅー。大分、畑の体を成してきたかな。
こはもう夏かな。
さてさて、この警備府に着任して早2週間。季節はすっかり夏らしくなってきた。こ
そろそろ植え付けしていこうかね。
今からの時期だとキャベツ、小松菜、ニンジン、ジャガイモ、大根、ネギ辺りかな。
!
ただ只管、無心に⋮いや雑念に囚われながら鍬を振るう。
警備府の一角に割り当てられたそこで大地を掘り起こす。
その手に握るは一本の鍬。
朝日が昇る前に起床し、身支度を整え外へ出る。
父島警備府の提督の朝は早い。
提督︵笑︶と問題と
提督︵笑︶と問題と
提督(笑)と問題と
422
おはようございます
﹂
もともと父島は年を通して温暖な気候であるのだから冬でも一枚何か羽織れば大丈
夫な地域。
﹁て、提督
!
天龍﹂
?
傍から見たら、どう見えると思うよ
どう見てもおっちゃん悪者に見えるよね。
そこに運悪く、うちの艦隊の娘さんたちがお出でになる。
大淀さんが絶対零度のそらもう冷たい視線を向けているだろ。
小悪魔鹿島ちゃんとメロンちゃんが天を仰いでいるだろ。
お艦は扉に空いた穴を見て﹁あらあら、どうしましょう﹂と困り顔だろ
でもね、そっちは俺じゃないんだとも言えないし俺も床に穴あけたから責任あるし居
?
?
天龍ちゃんの刀の様なものを床に突き刺してその前には土下座する姉妹。
彼女と龍田さんと出会った時、まぁ色々あったわけだが、あの後大変だったな⋮。
﹁そういう訳には行かねぇ⋮いかないです﹂
畑耕し始めてから毎日毎日と朝手伝いに来てくれている。
中二病が抜けきらない世界水準軽く超えてる︵自称︶の天龍ちゃんだ。
﹁⋮おはよう。無理に手伝わなくてもいいのだぞ
鍬を肩にかけて明るくなった空を見つめる俺に声をかけてくる女性。
!
423
た堪れない。
ヒェーは一人うんうん唸ってた。⋮アイツよくわかってなかっただけだと思う。
駆逐艦達は視線を向けたら全力で逸らされた﹁女の子に土下座させるとかあり得な
い﹂とか思ったんだろうか。
それともそういう性癖だと思われて関わりたくないとか⋮。
まぁ、何にせよ皆して数分か数十秒か、体感では大分長く感じたけど固まった。
で、俺はどうにか意を決して口を開くわけだ。
とりあえず、ごめんなさい許してください。って言おうと思ってさ。でも出てきた言
葉が、
あれはちょっと怖かったよ俺。
事しないで欲しかったな。
大淀さんは俺と執務室で業務説明とか備品の有無を確認してた。そんなに淡々と仕
くて医務室辺りで休ませるためだ。
天龍ちゃんと龍田さんは大淀さん以外の皆に連れていかれた。きっと保険室、じゃな
その言葉で一応再起動果たした皆が動き出したんだけど。
皆呆れてたなぁ。
﹁許してやれ﹂ってどこまでも上から目線で、参っちゃったよ。
提督(笑)と問題と
424
425
次の日から、皆なんでもないような顔で接してくるから戸惑ったよ。
しばらく口を聞いてもらえないんじゃないかと思ってたもんね。
まぁ、天龍ちゃんと龍田さんだけなんかやたらキビキビと話してたけど⋮。
その辺ことミック先生にどう思うか聞いたけど、人の感情の機微についてはデータ収
集中との事で分らず仕舞い。
まぁ、とりあえずは天龍ちゃんと龍田さんにはいつも通りの口調にしてもらう事が目
下の目標となっている。
あとは他の艦娘達にも会っているのだけど、まぁ、うん、なんか凄く懐かれてる。
そっちに関しては嬉しさより戸惑いが大きい。
それよりも、やはり問題を抱えていた警備府をどうしようかと頭を痛めている。
と。
件の男がそんな微妙な勘違いをしていると思っていない天龍は目の前にいる男を見
て何とも言えない感情を抱いている。
まず、何でアンタが農家の真似事してるんだ
麦わら帽子の上に妖精を乗せて、肩に手拭い、ツナギスタイル。これが何故かちょっ
?
と似合ってるのが腹立たしい。
そして一緒に作業するのがちょっとだけ楽しいと思ってしまう自分にも腹立つ。
そもそも何でこの様な事になったかは自業自得なわけだが⋮、その時の事を思い出す
と背筋に嫌な汗が流れる。
気が付いたら、ベッドの上。ニコニコ顔の鳳翔、腕を組んでこちらを見下す鹿島と夕
張。
﹂
?
は畏敬の念があったことも否めない。
全て目の前の男がその原因なわけであるが⋮。
!
もっと辛い過酷なモノを想像していた身としては少々拍子抜けしたところである。
そこで奉仕活動が罰として与えられて、こうして畑仕事を手伝う事になったのだが、
まぁ兎に角、私たちの提督に何してくれてんだボケェ
である。
例え旗艦交換の流れがあったとしても大戦中はそうであった。とくに夕張に対して
時代に上司に位置づけられていた艦だ。
それでも生きた心地がしなかったのは事実。鳳翔はともかくとして夕張と鹿島は艦
提督が許してやれと言ったらしいからそれ以上の事はなかったが⋮。
と鳳翔の笑顔で洗いざらい吐かされた。その時、龍田は白くなっていた。
﹁何があったか詳しく説明してくださるのですよね
提督(笑)と問題と
426
最悪、夜の相手を⋮なんて口を滑らせれば、
﹁それはご褒美でしょ馬鹿なんですか
と夕張に罵倒され、鹿島はクネクネしていた。
鳳翔も頬を両手で押さえて﹁あらあら、まぁまぁ﹂とブツブツ言っていた。
﹂
?
﹂
?
この日、天龍はどことなく上の空であった。
微笑する男の顔を見て、手に持った鍬を落とした。
﹁あぁ。それでいい﹂
﹁⋮お、おう
﹁お前はお前らしくあればいい。⋮無理に言葉を直さなくても構わん﹂
﹁なんでしょうか
﹁あぁ助かる。だが、その前に一つ﹂
腕をまくり畑の隅に立てかけてある鍬を手に持つ。
﹁はい。すぐ手伝います﹂
呼ばれて我に返る。
﹁天龍﹂
427
﹂
!?
広い室内に重厚な執務用の机。その横には旭日旗と日章旗が交差して掲げられてい
る。
備え付けの調度品は高級そうに思えるが、どれも落ち着いた色合いをしているので厭
味な感じを受けることは無い。
そんな一室で海軍服を身に纏った高年の男は顔には出さないが胃を痛めていた。
﹂
!
まだ話は終って⋮﹂
!
同時に再び扉が開く。
椅子に深く腰かけて天井を見上げて溜息をつく。
えていった。
言葉を遮るように勢いよく扉が閉まった。胃を痛めた原因の一つが扉の向こうに消
﹁おい待て
﹁休暇はもう十分と言ってるネ
提督(笑)と問題と
428
﹁どうしたの
金剛さんすごい剣幕で出てったけど﹂
﹁あはは面目ない﹂
﹁⋮蒼龍。ノックくらいしたらどうだ
ゆがけ
﹂
戦闘時はいつも右手につけている弓懸と鉢巻は平時という事もあり外されている。
カート。
緑色の着物にはボリューム満点の夢が詰まっており、下は暗緑色の袴を模したミニス
髪は短めのツインテール。
そんな声と共に入室して来たのは、青みが掛かった黒髪と瞳を持った女性である。
?
﹂
?
再び、溜息をつく柳本大将である。
が⋮﹂
﹁お前たちがいない間の穴埋めでいろんな場所で連戦続きだったから休ませていたのだ
蒼龍は海軍大将の指揮下の一人である。
﹁それで金剛さんと何かあったの
﹁そうだったか⋮。年を取るとどうにも⋮な﹂
﹁あはは、それ何度かもう言ってもらってるんだけどなぁ⋮長官もお疲れですね﹂
﹁まぁいい。この間の護衛任務ご苦労だったな﹂
反省している態度が見受けられないが彼女は気にしている様子もない。
?
429
﹁早く戦場に出すネー
て言われたのかな
﹂
?
ちゃうんだよね﹂
﹁らしいと言えばらしいけど⋮。なんだか金剛さんを見てると死に急いでるように見え
蒼龍を見ながらそのような事を考える。
艦娘を兵器とみるか、兵士とみるか、未だに論争に終結は見えないが。
は否めない。
中将たちが欠陥兵器だなんだと喚いていたが、一部は制御しきれない存在であること
﹁⋮そういう事だ﹂
ある。
あまり似ていない物真似を披露する蒼龍。彼女なりに大将を気遣っての茶目っ気で
!
まだまだ測りかねているのだ。果たして汚名を着せたままでいるこの国に対してあ
もし、あの男が反旗を、なんて事になったら目も当てられない。
戦闘力を一提督に預けてしまうのもどうかと思う。
何とかしなくては思うものの、いや、何とかできるであろう人物はいるのだが彼女の
らという理由で。
彼女は義務感だけでこの国に協力している。あの男が死んでも守ろうとした国だか
﹁⋮⋮﹂
提督(笑)と問題と
430
の男はどう思っているのか。
せめて5年後に現れて欲しかったと思うも、5年後は恐らくこの国はもっと疲弊して
いるだろう。
若ーい﹂
そして自分も流石に引退しているだろう。後釜に据える人物によっては大混乱を招
きかねない。
﹁お、これ艦長だよね
﹂
?
ものである。
﹁借り物だ。雑に扱うな﹂
!
先ほど自分が雑に扱ったことは棚に上げるのである。
﹁あぁ、これは長野提督だ。この頃にはもうこの目つき。あはは怖っ
﹁やはり分かるか﹂
﹂
ある伝手を使って、というよりはこの国の最大手企業の名誉会長の老婆から預かった
大将の父。蒼龍艦長を務めた男と他何人かの男が写った写真である。
﹁お疲れの長官の肩でも揉んであげようと思って、そしたら何やら怪しいものが⋮﹂
﹁何している
子の後ろからそれを翳している。
金剛が来た時に思わず書類の下に隠した写真を目敏く見つけた蒼龍は、大将の座る椅
?
431
﹁分かる分かる。こんな写真あるなら金剛さんに見せてあげればよかったのに﹂
﹁⋮そうだったな﹂
確かに写真だけなら見せても良かった。それで金剛が落ち着くならばと、少し後悔す
る大将である。
父の若かりし頃の写真を見て燥ぐ見た目は若くて美人な女性。
﹁見て見て、まだまだ子供っぽさが残ってるね艦長﹂
何とも複雑な気分を味わう大将。
そんな思いと共に、そういえば父はよく酔うと蒼龍が沈んだ時の話をしていたと思い
だす。
ん忘れてくれ﹂
﹁蒼龍が沈みそうな時に父を助けに長野氏が来たというのは本当の事か いや、すま
このところの胃と頭を痛めさせる出来事が多くて思考が鈍っていたらしい。
自分が沈んだ時の話をさせようとしたことに気づいて、しまったと思うのであるが、
?
ヤダヤダって駄々を捏ねる艦長と殴り合って、気絶させて担いで出ていったんだよ﹂
しばらくしたら今度は長野提督が飛び込んで来て一言﹁⋮帰るぞ﹂だもん。それでも
て、燃えてる艦橋の中に入ってきてさ⋮。
﹁あ ぁ ア レ は 凄 か っ た ね ぇ。艦 長 が 自 分 を 無 理 や り 連 れ だ そ う と し た 部 下 た ち を 殴 っ
提督(笑)と問題と
432
大将の気遣いにあっけらかんと答える蒼龍。それが彼女の魅力の一つなのかもしれ
ない。
自分があと40年若かったらなどと思ってしまうのである。
﹂
?
﹂
?
てくれませんかと思うのである。
提督に求める基準が山口提督や長野提督レベルという、もうちょっとハードルを下げ
ないという艦娘ではないのだが、
先日行われた大規模輸送作戦に参加した一人でもある。金剛の様に提督なんていら
艦時代の影響か蒼龍の相方になっていることが多い艦娘を思い浮かべる。
﹁部屋でゴロゴロするって﹂
﹁そういえば飛龍はどうしてる
その言葉を聞いて考えるのを止めた大将である。
﹁⋮⋮﹂
﹁飛龍がそう言ってたよ
﹁⋮記録だと山口提督が体調不良により指揮困難となり⋮となっていたと思うが﹂
だよね﹂
﹁うん。その後、飛龍に行って山口提督ともやりあったんだって。どんだけ∼って感じ
﹁⋮そうか、事実か﹂
433
蒼龍が指揮下にいる事により大将の指揮下にいるような扱いになっているが、提督不
在である。
いや、派閥を形成するうえで下手なところには行かれないほうがいいのだが、という
﹁早く誰かの指揮下に入らんものか﹂
ジレンマもある。
﹁そのうち諦めて長官の指揮下に入ってくれるといいね﹂
﹁⋮そうだな﹂
諦めなくてあの男に出会ってしまったらどうなるのか⋮という事は考えないように
したのである。
﹂
?
?
よ﹂
何
ボソリと小声で呟く。
﹁⋮って⋮ない﹂
﹁え
?
﹂
﹁はい、肩揉んであげるから頑張って。やらないと机の上の書類採決の山は片付かない
﹂
?
その言葉にピクリと反応を示す大将。
﹁あははは⋮大淀はどうしたの
﹁そう思うのなら手伝ってくれてもいいのだぞ
提督(笑)と問題と
434
﹁もう戻ってこないんじゃ
﹂
!?
あの野郎っ
!
次から次へと仕事増やしやがって
!
﹂
!
だが、だからと言って暇なわけではない。
く、その点が大淀にとってはちょっと不満であった。
とりあえず暫くは秘書艦として大淀が付いているのだが、その手が煩わされる事も無
受けられない。
もっともこちらは超優秀なパートナーがいる事によって左程苦労している様子は見
長野壱業改め長野業和も、頭に駆逐艦を乗せながら盛大に溜息をついていた。
父島警備府の提督執務室でパソコンと書類と格闘している男。
海軍大将、海軍司令長官の肩書を持つ男が叫んでいた頃。
孫と戯れる潤い日はまだ遠い。
ストレスの原因は8割9割がアイツのせいじゃねと思ったら叫んでいた。
﹁ちょっと長官
435
提督(笑)と問題と
436
提督の執務机︵妖精さん曰く提督の書斎机という名らしい︶の上には採決済み、保留、
未処理の置き場が作られ、
未処理がどんどん減っていき採決済みのところと保留に溜まっていく。
大淀は済みの物を関係各所に通達したりとなかなか忙しく、執務室との往復を何度も
重ねていた。
優秀過ぎるのもどうかと思うのであった。
どう考えても、どう計算しても、備蓄資材の数量が合わない件。
││着服、中間搾取、横流し。お好きなのをどうぞ。
もともとお役所仕事には書類がやたらと多いけど、この数は異常だよね。重複した書
類とか結構あるし。
書類の山を築いて気を逸らし混乱させて正確な数字を分らなくしていたという訳か。
提督不在で不正の温床になってたという事ね。
資材を運んでくる輸送船も一部グルだよなぁ。
酒 の 一 本 や 二 本 な ら 目 を 瞑 る ん だ け ど、油 に 鉄 に 弾 薬 と ち ょ っ と 目 を 瞑 れ な い よ
なぁ。
机の上で葱を振るうミック先生を見ながらどうしたもんかと考える。
437
││裏帳簿を発見しました。こちらのパソコンにダウンロードします。
仕事が早いね。紙媒体ではなく電子データだったのは助かったな。帳簿を抑える手
間がなくなったからな。
まぁこれを上に提出するにしても、これだけの規模だと上の誰かが関わっていると思
うんだけどね。
上の人間の誰が信用できるか分らんもんねぇ。後でユーリエちゃんにでも相談して
みるか。
でも麻取法ってどうなってるんだ
もう一つ厄介なのが、ミック先生がネギでぺシぺシ叩いてる葉っぱである。
うん
?
それは末期ガンとかで余命幾ばくかの人とかかな
││肯定。
っても、あれが医療用に使われる為の物を栽培しているのではないと思うのだが。
?
││大麻は極一部のみですが医療用として用いられています。
あぁそれでもやっぱり法規制したのね。ってことはあの大麻畑は違法って訳だな。
││日本主導で1946年3月に制定されています。
ど⋮。
講和になってるのだから連合国が史実ほど憲法、法律に口出ししてきてないと思うけ
?
島を散策していたら見つけてしまった大麻畑。
さてさて、資材の横流しと大麻と⋮、
ラノベのタイトルみたいに言ってみたけど、本当にどうするか。
この警備府には問題が多い。
ねぇお嬢さん。
は い は い。今 忙 し い か ら ま た 後 で な。っ て か い い 加 減 頭 か ら 降 り て く れ ま せ ん か
﹁しれぇしれぇ﹂
提督(笑)と問題と
438
提督︵笑︶と駆逐艦2
父島警備府の提督の朝は早い。
畑仕事が一段落すると軍服に身を包み食堂に向かう。
そして厨房に入りエプロンを身に着ける。
女性向けのピンクのエプロンに﹁最強十八戦隊﹂のワッペンが付けられている。
⋮なんともシュールな姿の完成である。
割烹着姿の鳳翔と並び、朝食の準備に取り掛かる。
所属の艦娘達は少なからず不満であった。
三食のうち一、二食抜きや、戦闘糧食の様なもので済まされることも多々あり、父島
ていた。
彼女たちの担当となっていたが、今までは戦闘や遠征任務もあり彼女たちの負担になっ
もともと天龍と龍田が人間たちを警備府建物内に入れることを嫌い、もっぱら料理は
鳳翔にとっては至福の時である。
﹁⋮ああ。おはよう﹂
﹁提督おはようございます﹂
439
提督(笑)と駆逐艦2
440
だからと言って人間に頼むという選択肢は無かった。
全員がそういう訳ではないが、父島所属の艦娘達は本土から問題児扱いされていたの
もあり、この島に詰めている軍人たちも決して友好的ではなかった。
その現状を知り鳳翔が自らの提案で厨房を一手に引き受ける事となる。
だが、それでは負担が多かろうと、鳳翔も前線に出なくてはならないのだからとこの
男は朝食の手伝いを買って出た。
昼、夜に関しても手空きの者が手伝う事になった。
但し、比叡と磯風に関してはもし手伝うのであれば現在の所、鳳翔と提督がいる朝食
の準備の時のみとなっている。
もっとも本人たちは何故か不満げであった。
トントンと軽快なリズムで葱を刻む。お昼の分も下拵えもしといた方がいいよな。
午後はお艦にもちょっと哨戒活動に出て貰いたいしなぁ。そろそろ本腰入れて南鳥
島攻略も視野に入れて、
その前に横流しと大麻かぁ。早めに妹との再会を果たさねばならないしねぇ。やる
事山積みだねぇ。
﹁ふふ、相変わらずお器用ですね﹂
﹁君で鍛えたからな﹂
﹁まぁっ。お役に立ててたなら嬉しいですね﹂
鳳翔の乗員だったころは厨房に暇な時と気分転換に料理の手解きをして貰ってたか
らな。
そういや、わが妹は実家に戻って作ったビーフシチューを大層気に入っていたな。
もちろん肉じゃがではなくてちゃんとした奴だぞ。
東郷元帥が留学してた時に﹁これうめぇな﹂って食ったのを帰国後、艦上食として作
らせようとして出来たって説あるけど、
本当の事はどうだったのか聞いとけばよかったな。
でもバレないように作っ
海軍軍縮会議が開かれていた頃に話す機会があったんだよなぁ。
あれはどういう経緯だったか、軍縮反対派だったからか
たらいいじゃない派だったんだよ俺。
⋮殴り掛かられたけど。
いに行ったんだっけ。
元帥にちょっと相談に行くっていうんで何故か末次さんに連れられて他何名かと会
?
441
かまた
機関科の改善案がどうたらって誰かが言いだして、
元帥が﹁罐焚きどもなんかほっとけ﹂言うて、
﹁船の心臓を扱う者を下に見るとかワロ
ス﹂とか内心思ってたら口に出てたらしい。
マジギレされたんだよなぁ。いやぁ∼良い思い出だよね
﹁提督
﹂
日露戦争の英雄に怒られるとかなかなかできる体験じゃないもんな。
!
﹁⋮それはまた争いになりそうだな﹂
﹁ふふ。そうしましょうか。お肉は少なめになってしまいますけど﹂
変なこと思い出したらなんか食べたくなったな。
﹁あぁ、すまん。昼の献立はビーフシチューにするか﹂
?
大豆の自給率は元の世界でも低かったがこの世界でも同じか。今や納豆が高級品扱
制なのは驚いたな。
穀物や野菜はともかく肉類は一部除き配給制になってるようで後、醤油や味噌が配給
食欲旺盛なのは結構だが一度昼食を一同に会して摂ったときは酷かったなぁ。
肉が入ってないとか、少ないだとか、あいつは多いだとか。
﹁そうですね﹂
提督(笑)と駆逐艦2
442
いだ。
まぁそれでも口に出来ないほどではないのだから国もよくやってる方だろう。
﹂
戦 時 中 の 末 期 は ほ ん と 酷 か っ た も ん な ぁ。そ れ を 考 え た ら 俺 は 全 然 問 題 な い け ど
なぁ。
鳳翔さんもおはようございますっ
だけどそれを知らない食には煩い日本人世代はさぞ不満だろう。
﹁しれぇ。おはようございますっ
!
危なかったぞ
げっ歯類。
短い本当に短い。よく見えているし、おっちゃんが変態という名の紳士だったら今頃
頭に乗る測距義に胸のスカーフは黄色のワンピースなセーラー服。
少しだけ赤みを帯びた茶色の髪。髪と同じ色の瞳は愛らしい。
べる少女。
厨房と食堂を隔てるカウンターにキラリとまぶしい白い歯で屈託のない笑顔を浮か
!
││貴方はそうではないのですか
?
事前に知っていたけどこの警備府の駆逐艦達は艦これで言うところのレア艦揃いだ。
もう一人と共に俺の頭によじ登ることを生業にしている駆逐艦の艦娘さんである。
幸運のビーバーゆきかじぇもとい陽炎型8番艦 雪風 である。
俺はただの紳士ですから問題ないんです。
?
443
﹁おはよう雪風﹂
﹁はい。おはようございます﹂
彼女とは色んな戦場で会っているからな。彼女は数々の海戦を通してほぼ無傷で生
き残った幸運艦である。
呉の雪風佐世保の時雨と、海軍内では有名であった。
あの最期の戦いでも敵から受けた魚雷が不発だったらしくほぼ無傷で生き残ったよ
うだ。
そんな笑顔眩しいげっ歯類との出会いは着任初日に遡る。
まぁ警備府に着いてからそのうち挨拶をするだろうと思っていたのだが、天龍と龍田
とうちの艦娘達が医務室に行っていた頃。
大淀さんと執務室で今後の予定や業務内容を話し合っていた時だ。
﹂
!
﹁ちょっ、なんでこっちくるのよ
﹁雪風。先に行くよー﹂
﹂
?
!
﹁アイツら元気だなー。どうした雪風
﹂
﹁だから競争なんてしないって言ってるじゃない﹂
﹁おっそーい
提督(笑)と駆逐艦2
444
よし買ってやる
﹂
!
﹁執務室に誰かいます。波平さん﹂
﹂
﹁な、波平って⋮。喧嘩売ってるんだな。そうなんだな
﹁ち、違います
!?
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
可愛い少女たちの絡み。うん。悪くない。
うつ伏せに倒れる雪風を容赦なく擽り続ける波平
﹁おらおらどうした降参か﹂
﹁⋮いやっちょっ待って﹂
込んできた。
廊下が騒がしくなったなぁとか思ってたら雪風と波平
さ。
が執務室に勢いよく飛び
なんでか扉に穴が開いててさ、ついでに立て付けも悪かったから廊下の声が丸聞こえ
!
した
││憲兵さん。この人です。
﹁続けたまえ﹂
?
組んず解れつ転がりながら、そして執務机の前まで来た彼女たちは、固まった。どう
?
?
445
ばっ
ちげーし
言ってんのちげーし
﹂
﹂
﹁⋮しれぇ
﹁⋮提督
﹂
あげるから機嫌直しいや。
﹂
﹂
ちげーし
﹁あ、はい。頂きます。って、そうではなく挨拶されてはいかがですか
ああ、そうか。そうだよね。よしっ
﹁何で言い直した
提督っ
!?
﹂
!
何
!
ほら飴ちゃん
どうしてくれんのさ
全然そんな邪な考えとか、そんなのねーし
おっと予想外に物騒な事してるぅ
﹁こほん。提督
!?
││誰が上か、この警備府の妖精たちに教え込んでいます。
というか、ミック先生何処にいんのさ
ほら、なんか誤解された目で見られてんじゃん
! !?
大淀さんが咳払いをしてこちらを見ている。まだ機嫌直らないの
?
!?
?
!
﹂
?
?
!?
!
?
﹁要らんのか
?
﹁今日着任して来た長野業和という。よろしく頼む。⋮雪風、ながな⋮波平﹂
!
?
?
﹁え
提督(笑)と駆逐艦2
446
﹁しれぇっ
﹂
締め付ける。
﹁しれぇ、雪風も飴欲しいです﹂
﹂
﹁そうか、ほら⋮。長波にもやろう﹂
﹁ありがとうございます
!
うん、まぁ後でゆっくりお話ししよう。
﹁こんなんで、こんなんで騙されないんだからな
﹂
やっぱり速攻でバレているらしい。そして慕ってくれているのであろう態度が胸を
しがみ付く雪風と涙を堪えて俺の胸を叩く長波。
﹁しれぇ﹂
﹁こんのっ﹂
耐えた。
机を飛び越え掴みかかって来る二人。椅子ごと後ろに転がらないように超頑張って
!
﹁しれぇ﹂
とは思いつつ未だにきちんと話していないわけだけど⋮。
なんか大淀さんが冷たい視線向けてくるからさ、とりあえず後でな。
!
447
雪風は見てます﹂
﹁雪風。朝食にはまだ早い。座っていろ﹂
﹁いえ、大丈夫です
それじゃあ、ビーフシチューでも仕込むとしよう。
見てても楽しいものでもないだろうに⋮。まぁ本人がいいならいいか。
!
俺も暇ではないんだぞ﹂
横須賀鎮守府 とある提督の執務室。
﹁おいなんだ長野
?
﹁え
なんで
﹂
?
長野百合恵提督と
?
戦艦陸奥と
﹁あら。お姉さんは邪魔かしら
﹂
軍服を身に着けた男女と並の男なら目のやり場に困るような格好の女性。
﹁ちょっと徳田に聞きたいことがあるんだけど﹂
提督(笑)と駆逐艦2
448
?
﹁⋮⋮﹂
徳田宗義提督である。
﹂
﹁はぁ。頑張ってね徳田君﹂
﹁⋮なにをだ
﹁なに
﹂
溜息をつく陸奥にぶっきら棒に答える徳田提督。
?
﹁で、何で俺は呼ばれたんだ
﹂
﹁単刀直入に聞くけど父島って誰の派閥
﹁⋮父島⋮またアイツの事か﹂
?
﹁アイツって⋮まぁいいわ。で、どうなの
﹂
﹂
百合恵提督を見つめてやれやれと言った表情を浮かべる陸奥。
﹁なんでもないわよ﹂
?
そこに映るは普通のメールである。それと送付された写真。
パソコン画面を覗く徳田提督と陸奥。
﹁これは⋮﹂
﹁ちっ、融通効かない奴。まぁいいわこれを見なさい﹂
﹁どうと言われてもな。お前が何をしようとしているのか教えないなら答えん﹂
?
?
449
横須賀ではお世話になりました。
父島では勉強の日々ですが何とかやっています。
最近は暑くなってまいりましたが夏バテには気を付けてお過ごしください。
短いながらも普通の近況報告のメールである。
その文字の下に父島警備府の建物の前で艦娘達と写真に写る送り主である男。
﹁あ、間違った。これじゃない﹂
﹁いや待て待て﹂
﹁ねぇちょっと百合恵提督コレ﹂
﹁二人とも煩い。見せたいのはこっち﹂
この時、徳田提督も陸奥も写真を見て驚いていた。
徳田提督はなんで父島所属の艦娘達が全員写っているのか。少なくとも写真に写る
くらいは協力的な艦娘達。
そもそもここから出ていった時点で艦隊編成が可笑しなことになっていたが、さらに
艦娘を率いる大勢力になってるんじゃ⋮と。
陸奥は駆逐艦に集られる件の男の顔に。
﹁⋮あ、あぁ⋮﹂
﹁おーい徳田。これを見ろ﹂
提督(笑)と駆逐艦2
450
次に見せられたのもメールである。
百合恵たん。百合恵たん。
父島警備府は闇がいっぱい︵︵︵︵;゜Д゜︶︶︶︶ガクガクブルブル
マジ、パナイの見つけちゃった︵・ω<︶ テヘペロ
エロイ人に教えたいんだけどどうしたらいいかな
送付した資料と画像はグロだから注意ね|ω・︶
を操作し始めた。
それを見て徳田提督の顔が歪んでいく。そして百合恵提督を退けるようにパソコン
と、パッとみるとふざけた内容だが、送付された帳簿情報と写真。
?
まず、このふざけた文とアスキーアートに驚き、送付された横流しの帳簿と大麻畑の
彼女自身もこれを見た時色んな意味で衝撃を受けた。
曖昧に答える百合恵提督。
﹁⋮ああ。まぁ、間違いではない⋮のかな﹂
ジニアだったのか﹂
﹁⋮ああ、すまん。あの男、これがどれだけ危険なモノか⋮と思ったが、向こうではエン
﹁ちょっと痛いんだけど﹂
﹁なっ﹂
451
写真に驚き、そしてこの裏帳簿どこから見つけてきたのだと驚いて、こんなん見られた
らヤバいと思い、サーバー見たら第三国の通信衛星から送られていたのに驚き、それ以
上の痕跡は全く分からなかったことに⋮。
﹁完全に痕跡が消えてる。このPCが見られない限りは問題ないと思うが⋮﹂
﹁知ってるし⋮。アンタが慌てた理由も分るけど⋮。いやぁ本当に﹂
規格外過ぎて言葉も出ないという言葉は飲み込んだ。
まぁ見ただけでリニアをリニアと判断したような70年前の何の予備知識もない人
なんだけど。
とも思うのだが、わずか半月足らずでパソコンの使い方はおろかハッキング技術まで
身に着けるとは誰も思うまい。
きっとアスキーアートやふざけた文も変な所から知識を得たんだろうと考え、
それを件の男が真面目な顔して打ち込む姿を想像してちょっと微笑ましい気持ちに
なるのであった。
件の男がそんなことを知れば馬鹿な男に騙されるんじゃないかと心配するであろう。
りだ
﹂
﹁まぁ、父島が誰の派閥か知りたいという理由は分かったが⋮、これを一体どうするつも
提督(笑)と駆逐艦2
452
?
﹁より良い環境づくり
﹁あん
﹂
﹂
警察にホームセンターで世話になった件を見ても。
考えていることが分かる。
本人が全く気にする様子もなく、父島に長く居座る事も前提でどこか斜め上に物事を
色々すっ飛ばし過ぎだからと。
実 際 に 即 戦 力 と し て 父 島 に 送 ら れ る こ と に な っ た の だ が ⋮。違 う、そ う じ ゃ な い。
優秀過ぎてすぐにでも即戦力としてなんていう理由だと思っていたのだ。
流石に教官の艦娘達を片っ端から指揮下に置いて追い出されたとは思わなかった。
いた。
横須賀に戻って来たとき、てっきりしばらくは横須賀鎮守府附になるものだと思って
大体においていきなり父島に送られるとは百合恵提督も考えていなかった。
?
﹁あぁ
﹂
そんな風に思う百合恵提督である。
一人でやってしまいそうな気がしてきた。
幸せになれるようにお手伝いするとは誓ったけど⋮。助力なんて必要なのか、なんか
﹁私、必要なのかな⋮﹂
?
453
?
﹁あぁ、うん。なんでもない。で、派閥は
だ。とりあえず2,3日時間をくれ﹂
﹁別に手伝ってくれって言って無いけど
﹁お前なぁ⋮﹂
﹂
﹂
﹁あの男は三元中将より狡猾だからな。これを上に上げた所で本人は尻尾切して終わり
﹁なによ。ハッキリしないんじゃない﹂
顎に手を当て思案する徳田提督。
﹁答えになっていないような気もするが⋮、父島はおそらく細倉中将派閥だろうな﹂
?
﹁お。おい﹂
題頑張ってね。じゃ﹂
﹁はいはい百合恵提督手伝ってもらいましょうね。それじゃあ徳田提督は与えられた宿
?
それまで沈黙を保っていた陸奥は徳田提督を扉の外へ追いやる。そして鍵を閉める。
﹂
?
﹂
?
自分の秘書艦の態度に得も言われぬモノを感じるのであった。
﹁え、なにどうしたの急に
﹁さぁて、百合恵提督。お話しし・ま・しょ﹂
﹁どうしたの陸奥さん
提督(笑)と駆逐艦2
454
提督︵笑︶頑張ります。
ここは父島警備府。時間は深夜。
﹁開かないねー﹂
﹁開きませんね﹂
﹁むぅ。いっそ蹴破るか﹂
﹁駄目に決まってるじゃない﹂
提督の私室の前でそれぞれ寝間着に身を包んだ駆逐艦達は唸っていた。
時津風、雪風、長波、天津風である。
﹂
﹂
この場にいない島風は昼間テンションが上がりすぎて走り回り今は熟睡している⋮
初風に抱き着いて。
﹁あなた達何しているの
﹁あ、比叡さんこんばんわです
?
﹁しれぇーと一緒に寝ようと思ってたんだけど﹂
﹁はい、こんばんわ。ってそうじゃないでしょ﹂
雪風がぺこりと比叡に頭を下げる。
!
455
時津風が未だに鍵穴をガチャガチャとやりながら答える。
﹁あ、あたしは止めたんだぜ﹂
と長波と天津風。⋮嘘である。
﹁わ、私も止めたのよ﹂
絶対ダメ。さ、自分の部屋に戻って﹂
で島風と駆け回り、さすがに疲れたのか気が付かなかった。
躊躇うことなく寝ている提督に抱き着く。普段、眠りの浅い提督も今日は父島を全力
障害物の無くなった時津風はいの一番に部屋へと突入。
言われていた時の話は機会があれば語ろう。
夕張が﹁そこ、代わりなさい﹂と言って提督に少し本気目に﹁何言ってんだお前﹂と
もっとも最近は時津風か雪風が頭によじ登っていることの方が多い。
る。
そこからひょこりと顔を出したのは、提督の肩や頭によく乗っている妖精さんであ
その時、ドアがゆっくり開いた。
﹁だ、駄目ですよ
?
﹁あぁ私も勝手にぃー﹂
﹁あぁ体が勝手にぃー﹂
﹁あ、ちょっと﹂
提督(笑)頑張ります。
456
長波、天津風も部屋に突入。
だけど油があればなって言われたので、取ってくることにする。
天一号作戦実施に伴い一部、作戦に口出すことに成功。
ちなみにこの中で一番早く眠ったのは比叡であった。
雪風はどこでもいいと辞退したが⋮。
寝る場所で揉めたが、最終的にじゃんけんで、何故か比叡も参加した。
駆逐艦に窘められる戦艦である。
﹁ヒェッ﹂
﹁比叡煩いよ。しれぇーが起きちゃうじゃん﹂
﹁ヒェェェー。お姉さまに殺されるぅぅ﹂
雪風に手を引かれ比叡も突入。
﹁比叡さんも一緒に寝ましょう﹂
457
ソ連の南下に備えて北方派遣艦隊と沖縄への第二艦隊、自分の艦隊、油の備蓄を計算
したら全然足りない。
いや、自分の艦隊は今の所金剛しかいないんだけど⋮。それでも足りない。
⋮マジでジリ貧だし。
準備期間が一月あるのが幸いか。策源地は未だに日本占領下だ。
シンガポールまで行ってヒ船団ホモ船団と合流して日本の門司を目指す。
修理が終わったばかりの阿賀野が使えるのは助かった。
行きは軽巡阿賀野、駆逐艦は長波と時津風、海防艦2隻、武尊丸と平波丸。
比較的高速なこの編成でシンガポールを目指し出発する。
ルートとしては門司↓台湾↓シンガポール↓ニャンチャン↓香港│台湾↓門司とい
う予定。
出航前に瑞鶴艦長だった同期が﹁あり得んだろっ﹂って詰め寄って来たけど、確かに
あり得んよな。
ホモ船団って名前は無いと思うよ。
いやいや、それよりあり得んのは君が何故、青森じゃなくてここにいるのかという方
が俺は気になったんだけど。
﹁⋮何で野元がここにいる﹂
提督(笑)頑張ります。
458
﹁瑞鶴は俺が乗る。竹二に⋮そんな事はどうでもいい
同期の人事局長の苦労が伺えますな。
﹂
!
無謀だと言っている﹂
!
幸運だった。
後に推測できた事だがアメさんが台湾と門司間の往復だと読み違えたらしいことは
海防艦が2隻とも大分酷くやられた。ここで戦線離脱だな。
シンガポールに着いた頃には阿賀野の爆雷を使い切ってしまった。
途中で空襲が1度、潜水艦に4度も遭遇した。マジでアメさんの物量おかしい。
機雷封鎖された海域を突っ切ってまずは台湾を目指す。
﹁大丈夫だ。問題ない﹂
﹁⋮必ず帰ってこい﹂
多分、大丈夫。
﹁⋮馬鹿言え。俺が死ぬわけなかろう﹂
﹁死ぬ気か貴様っ
その瑞鶴を動かす油だって厳しいんだからなぁ。
﹁だが、やらねばなるまい﹂
459
提督(笑)頑張ります。
460
爆雷を海防艦から頂いてタンカー2隻に重油満載。ヒ船団と合流。
油の補充と整備等でちょっと手が空いたから長波と時津風に4日程交互に乗って近
海の機雷掃除をして過ごす。
そしてまずはベトナムのニャンチャン。可愛い名前の港町を目指し、やっぱり潜水艦
に2度も遭遇。
両方とも沈めたのだが、なんか阿賀野の乗員たちが、隠れて俺を拝んでくるように
なった。
夕張の時の様に無茶な真似していないというのに⋮解せぬ。
ニャンチャンでホモ船団という嫌な名前の船団と合流し香港を目指す、
8隻の輸送船と駆逐艦、天津風、海防艦4隻加わり、
船団編成が阿賀野、長波、時津風、天津風、輸送船10隻となった。
しかしホモ船団⋮。
いや、分かっている香港↓門司間から取っているのは。だがもっと他の無かったのか
と問いたい。
香門船団とか⋮、よけいお下劣になったな⋮駄目か。
南シナ海の制空権は握られている。まぁ制海権もほぼ無いけど⋮。
だが、あえて南シナ海のど真ん中を突っ切る事にする。
461
どうにかアメさんの哨戒機コースの網を潜り抜けながらも、海南島の東300km地
点で敵の哨戒機に発見される。
あ、これ史実だとヒ88船団に相当するのかと場違いな事を考えながら、
船団には気付かない振りをさせつつ、欲をかいて近づいて来たところを一斉射撃。
航路を北から東に変え、一気に台湾を目指す事に。艦隊速度が10ノットくらいだか
ら冷や冷やものだ。
また潜水艦を発見しては沈めを繰り返し、潜水艦からの情報をシャットアウト。
撃ち落とした敵哨戒機が香港に向かっていると打電してくれたことで、こちらを見
失ってくれることを願う。
まぁ無理でしたけど⋮。
台湾から南西200kmの位置で航空機に捕捉された。
煙幕張りまくりで史実よりは護衛の駆逐艦は対空戦能力が向上しているとは言え、輸
送船の足は遅い。
輸送船10隻のうち3隻が沈没⋮クソッ。阿賀野とニャンチャンで合流した天津風
だけ残し残りを全速で台湾まで逃がす。もうちょい行けば台湾航空隊が出張ってくる
はず。
対空戦闘を繰り広げながら救助活動を続ける。
マジで執拗に狙われ続ける。本当にマジで執拗に⋮。
現代に来て知った事だけど俺が乗ってたかららしい。
いやまぁ囮という事なら正しいし結果良かったんだけど作戦漏れてんじゃん⋮。
アメさんのぶっ殺したい奴ランキング1位のネームバリューがこんなところで役に
立つとは思わんよね。
おかげで天津風での救助活動が捗ったけど。
呪詛でもかけているのか
最近は隠れずに拝んでくる者まで出てきた。
なんなんだ君らちょっと本当に怖いからやめて
200隻くらいになったんだっけ
⋮おい、だから拝むなお前ら。
全艦稼働できる訳ではないけど何でこんな国と戦争始めようと思いやがった。
絶望しか感じねぇ⋮。
アメさんマジ物量チート、陽炎型19姉妹に対してフレッチャー級は175姉妹とか
?
香港から門司までやっぱり潜水艦一隻に遭遇。どんだけいるんだ潜水艦。あぁ最大
?
!
阿賀野での居心地の悪さがマジでパナイ。おいおい、なんなんだ君ら拝むな拝むな。
﹁⋮⋮﹂
提督(笑)頑張ります。
462
463
まぁアメさんも日本がどっかで折れて頭下げると開戦前は思ってたんだろう。
だけど日本の大和民族というものを見誤っていたんだろうな。
マジでアジア人なんて言葉喋る猿くらいの感覚の奴が欧米諸国には一杯いた時代。
アメさんの対日分析官はこれ以上圧力かけると戦争になるって報告してた筈だけど、
んな馬鹿な事あるか、と一蹴。
そらねぇ、経済的にもアメさんに依存してたもんねぇ戦争するとは思わんよね。
まぁ我が国の国民性は平成の世なら理性的で穏やかであるのだけど、この頃の国民
性って座して死を待つよりは一戦して散るのみ。
てな具合だもんなぁ。徳川時代は平和が続いたけどそれ以外はドロドロの内戦繰り
広げてたんだから、基本戦闘民族なんだろう⋮。
で、身の丈に合わない相手に殴り掛かった。どっちが先に喧嘩を吹っ掛けたとか置い
ておく。
結局何がいいたいかというと、敵が多すぎて死にかけました。
修理したばかりの阿賀野が小破状態で帰投でーす。
潜水艦9隻撃沈、航空機十数機撃墜、味方輸送船3隻沈没。海防艦中破ないし小破3
さらに2隻はシンガポールで離脱。
⋮輸送船が3隻も沈むという結果だクソッたれ。本当にすまん。許してくれとは言
提督(笑)頑張ります。
464
わない。
俺のせいだ⋮。恨んでくれて構わない。
ミック先生って優秀な存在が居てもこの有様だ。チクショウほんとに自分が嫌にな
る⋮。
それでも出撃分の石油は持って帰れた。これで軍令部も文句は言うまい。
と思ってたらあの仙人参謀めぇ⋮。
嫌味を言わないと気がすまんのか。
流石に温厚な長野さんもブチ切れちゃうよ
帰ったら日記に文句書いてやるからな
?
夏の寝苦しさが、なんか変な夢を見させたのか。最後、仙人に抱き着かれたような⋮。
最初に感じたのは暑さ。その次に体を覆う重さ。
!
⋮悪夢やな。
てか、体中が重い。右を見る。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮むにゃ⋮お姉様⋮カレー⋮むにゃ﹂
俺の腕を枕にしている寝ているヒェー。
紺色のジャージ姿。半分隠れて見えないが左胸に金剛型2番艦 比叡 と恐らく刺
繍が入ってる。
可笑しい⋮あんな夢見るなら普通は参加した駆逐艦娘がこの場所にいるべきだろ。
いやいやそもそも何でお前ここにいるねん
白くなりグラデーションがかかっている。イメージとしてはタレた犬の耳といった
りその毛先に行くに連れて
肩位まであるもみあげ。側頭部からところどころ跳ねた、ふわっとした髪が伸びてお
ダークブラウンの髪色をしたショートボブ。今は閉じられている瞳はブラウンの瞳。
俺の胸に頭を乗せ覆いかぶさるように眠る、
自分の体の上を見る。
﹁⋮れー⋮﹂
あ、ゆきかじぇがヒェーに抱き着くように寝とる。小動物的でかわいいなヲイ。
?
465
感じ。
本人の性格も相俟ってちょっとおバカな子犬の様な艦娘だ。
今は犬の着ぐるみの様なパジャマ姿だが、服装は雪風同様の大きめな白地に前止め式
のセーラー服。
スカートは履いていない黒ストッキング。セーラー服の左端を裾結び そこからち
らっと白い紐が見えてたりする。
この幼げな容姿で紐パンとか⋮アリだな。 また、首には鎖付きの小さな錨が掛けられており、それに首元の黄色いスカーフを巻
きつけるようにして固定している。
まぁもっとも今は着ぐるみパジャマに身を包んでいるのだが⋮。その名を時津風と
いう。
うん。重いし暑いし意味わからん。
閉じられている瞳は橙色。昼間は髪型のせいか猫っぽく見える。あぁ今もか。
吹き流しも付けていない。
左腕を抱き枕にしている銀髪ロングのストレート。今はツーサイドアップは解いて
今度は左を向く。
﹁⋮い⋮んだ⋮か⋮ら﹂
提督(笑)頑張ります。
466
467
今はダボダボな長袖の裾の長いTシャツを着ている。Tシャツには﹃Comfort
able wind﹄とプリントされている多分。
昼間着ている制服は雪風の着ている制服の色違いというべきものに白の縁取りした
ブラウン色のワンピースセーラー服。
この娘もスカート履いてない。ガーターベルトに白のラインが二本入ったニーソッ
クスを着用している。
いや桃色か
今は良い風Tシャツだけど⋮。天津風さんである。
さらにその天津風に抱き着く黒髪
?
本当に意味が分かりません。どうしてこうなってる
寝た時は確実に一人であった。ミック先生ー。
?
とは言え、今はピンクのパジャマ姿の長波。
首元はエメラルドグリーンのリボンを結び、下は白いストッキング。
服装は夕雲型共通の白のブラウス。赤紫色のミニスカワンピース。
こうしてみると可愛い少女だ。⋮普段も可愛い少女か。
いつもは勝気そうに見える透明感ある琥珀色の瞳は閉じられている。
ばした少女。
日の当たる方が黒で当たらない方が桃色という何とも不思議な配色の髪を腰まで伸
?
良くないでしょうそういうの。軍の風紀的にもさ⋮。
││ドアの前でピッキングしてましたので開けてあげました。
おいぃぃ
││生理心理学の実験で人肌に包まれて眠ると安眠効果があると出ています。
お、おう⋮。包まれるって言っても限度あるよね 文字通り包まれてるよねコレ
!?
いや、いい聞きたくないわ。
?
使いまわされたお涙ちょうだい小説家かよ⋮。
?
そんな事ばっかり考えてる後向き野郎なんだぞ俺は。
どれだけ殺して、どれだけ死なせて⋮もっとうまくやれた、もっとどうにかできた⋮。
だからさ。
彼女達の為に俺が出来る事なんてないんだよ⋮。そんな器も包容力も俺にはないん
やめてくれよ。聞きたくないって言ったじゃん。
⋮朝起きたら夢だったってか
││貴方が居なくなってしまうのではないかと不安に感じているようです。
⋮どういう事
││勘違いしています。貴方ではなく駆逐艦達です。
知れないね。
めっちゃ暑いんですけど、そして重い。冬はともかく夏でこれで安眠できる奴の気が
?
!
││なら、貴方が望む世界に転生しますか
?
提督(笑)頑張ります。
468
469
⋮え
この世界は
妹は
?
?
世界に⋮。
⋮ちょっと待って。それじゃあこの娘達はどうなる
││すべて忘れて貴方が望む世界に。
目だろ。
││この世界が苦痛なのでしょう
何だよもう。意味わかんねぇクソッ
そうだよ⋮。だけど、そんなの駄目だ。
あーくそっ
!
ひゃほーいだってできる。
それがいい⋮。そうしてしまえ⋮。
本当にいいんだな俺
なぁ本当にその選択でマジで後悔しないな
?
でも⋮。
おい、いいのか俺よ
今、俺はとんでも無く馬鹿な真似をしようとしているぞ
?
?
あぁ我ながら本当に馬鹿だな⋮。
?
あー分ってるよ。逃げちまえば楽だよな⋮。そんでもって俺の望む世界だ、ハーレム
!
?
そんなのアリかよ⋮。ふざけんなよ⋮。⋮それは駄目だろ。うまく言えないけど駄
?
││私の創造主と相談した結果、転生の権利をもう一度頂けるそうです。貴方の望む
?
提督(笑)頑張ります。
470
││どうされますか
残るよ。この世界に⋮。
││本当にいいのですね
本当に未練たらたらだけどな
嘘つけ
提督︵笑︶頑張ります。だバーロー。
都合悪いと取り込み中って言うくせに。
││そうですか。では頑張ってください。私も24時間何時でも貴方のサポートを。
!
?
分ってて聞くんだもんな意地が悪いよなミック先生も⋮。
?
なんだと
からです。
一応聞くけど、どっから
││貴方が望む世界に転生しますか
⋮⋮。
?
││お好きなように。ちなみにさっきのは全部嘘です。
⋮後で頭百叩きしてやる。
││大変遺憾に思います。
!
今見えないけど、妖精の方がドヤァ顔してるのが、ありありと思い浮かぶわ⋮。
あぁ⋮。
せん。
││望むと言われたらどうしようかと思いました。創造主ともコンタクトは取れま
?
!?
471
百回叩く
そして葱を取り上げる
!
マジでムカつく。
!
││貴方の葛藤する思考は滑稽でした。
マジでムカつく⋮。絶対叩く
!
││訂正を求めます。九条ネギです。
やかましいわ
!
提督︵笑︶と父と娘と
﹁おい司令。この磯風も、かまえ﹂
執務室で書類をファイルに纏めて棚に収めていた時だった。
振り返れば、いつの間に入って来たのか、腰に手を当てて何処か偉そうな磯風さん。
﹁⋮⋮﹂
はて、彼女はいったい何を言っているのだろうか。
さらに彼女の後ろというか開いた扉の隙間からこちらを覗く浜風さんと谷風さん。
しているとでも思っているのだろうか
そんな事は無いぞ。俺は皆を平等に愛でているのだからな
さん。
しかし、父島勢駆逐艦はツチノコこと、妙高姉さんにギロチンチョップ食らった初風
だけである。
只、父島組駆逐艦はやたらと向こうから絡んでくるのであって、それに対応している
!
?
えぇっと、これは元々いた父島組の駆逐艦達に集られていることに対して、俺が贔屓
﹁島風達ばかり、ずるいではないか﹂
提督(笑)と父と娘と
472
473
彼女は同じ駆逐隊に所属していた経緯からこの島にいる谷さんと同じような境遇の
娘さんだ。
他がちょっと情緒不安定なんじゃないかと思う。
あの寝苦しい数日前の夜明け。小一時間かけて引っ付いていた駆逐艦達を比叡に擦
り付けて脱出した後だ。
何時ものように畑仕事に精を出し、結構色々なお野菜さんの苗や種を植え、ひと段落
したころ。
天龍ちゃんの頭についたあの角の様な艤装が超気になって、後でぶん殴られること覚
悟で両手で鷲掴みして撫でまわしてた。
龍田さんの頭に浮かぶ方も超気になるんだけど、触ったら手首斬られそうだからそん
な事できないじゃん
で、速攻で土下座しようと身構える。
まぁ案の定、顔を真っ赤にしてプルプルと怒りに震える天龍ちゃんの出来上がりな訳
よ。
天龍ちゃんなら怒っても、一言言ってからぶん殴って来るって勝手な予測を立てた訳
?
男の子やもん。
なら、最初からやらなければいいじゃんと女性は言うかもしれない。だけど、仕方な
いじゃないか
!
提督(笑)と父と娘と
474
気になったら満足するまで触るやろ普通。
天龍ちゃんが何か言おうとしたそんな時に、比叡にくっ付けておいた筈の駆逐艦 s
が裸足で向って来た。
すわ何事かと思ったら、そのまま飛びかかって来るんだもんよ。おっちゃん驚くわ。
なんか今にも泣きだしそうだったから、さらに驚くわ。
天龍ちゃんと一緒に宥めるのに苦労したわ。
ミック先生が言った事も俺が思ってた事も結構マジやった。
一緒に寝てた筈なのに起きたら居なくなってたもんだから、軽くパニックに陥ったよ
うだ。
あと、季節柄というのもそれに拍車をかけた要因にあるみたいだ。
⋮夏だからな。どうしても艦時代のあの夏の戦いを思い出してしまうようだ。特に
ゆきかじぇと天津風が酷かった。
片や、金剛が沈んだのを目の当たりにした艦。片や補給と整備が間に合わず置いて行
かれた艦。
俺的には生き残ることが出来て良かったじゃないかと思っていたが、残された者の気
持ちっていうのを軽く見ていた訳だ。
その辺はやっぱり自分の事で手一杯だからと言い訳して考えんようにしてたから反
省した。
その辺があったんで、平等なつもりでいたが、もしかしたら父島組に対して比重が傾
いてたかもしれんね。
それならば、構って欲しいというのならば全力でお相手いたしましょう。
﹁⋮そうか﹂
﹁お、おい司令﹂
彼女の両脇に手を差し込み、持ち上げる。
ほら、たかいたかーい。
しかし、体重的に普通の娘さんと変わらない重さなのに、人外の力を発揮できる艦娘
の体って神秘だよなぁ。
よっこいしょ。どうだ、楽しんでもらえたかね
﹁いえ、その﹂
﹁そうじゃない。そうじゃないよ提督﹂
遠慮せんでもおっちゃん持ち上げたるよ
?
執務室におずおずと入室してくる二人。
なんだい。いいのかい
?
か、ゆきかじぇとかとっきーは喜んで飛び込んでくるんだけど。
ぜかましと
そして、未だに此方の様子を窺っている、浜さんと谷さんに向けて手を広げる。
?
475
その3人に比べると、この3人は精神的にもう少し大人なのか
大人顔負けだもんなぁ。
おう。サラサラや
サラサラやでぇ。それに、
磯さんの頭に手をおいて、撫でまわしてみる。
しかし、構ってと言われてもだな⋮。
特に浜さんはもう
しれない⋮実に残念⋮ではなく白い目で見られる事がなくなって良かった良かった⋮。
もし飛び込んでくるようなことがあれば誤って鷲掴みしてしまうところだったかも
?
そこまでにするのにどん位かかるか知らんけど⋮。
でもしてみようかな。
今は重力に逆らって逆立ってる。なんか提督組は髪の規定が結構緩いから、アフロに
て来たなぁ。
おっちゃんの髪なんて、パッサパサでもないか⋮。そういや坊主頭からちょっと伸び
まさに艦娘の神秘。
なんでや毎日毎日、潮風に当たっているというのに痛むことなくサラサラの艶々や、
﹁綺麗な髪だ﹂
!
よし、触らせてもらったお礼にこの飴ちゃんも上げようでわないか。
﹁⋮ぅ⋮ぁ﹂
提督(笑)と父と娘と
476
まて包装紙は食べられない。
上着の左ポケットに常備している梅風味の塩飴だ。紙の包装紙に巻かれた一粒を指
で掴み、磯さんに差し出す。
すると包装紙ごとパクリと⋮、え
というかコレどうしよう
ろうか
ここでprprしたら流石に皆ドン引きするよね
さて、俺の持っている飴の抜かれた包装紙⋮ゴクリ。一体、いくらの高値が付くんだ
﹁⋮むぐ﹂
と思ったら、飴ちゃんだけ抜き取る器用な真似をされた⋮。
!?
⋮いかん。全く反論できん。
というか磯さん顔をめっちゃ真っ赤にして超睨んでるんだけど⋮。
あ、やべぇ。接触してるとなんとなく感情が伝わるんだった⋮。
慌てて頭から手をどける。
俺のヤベェ感情が伝わってしまったか⋮。
しかし、どういった感覚で伝わってるんだろうか。
そんな様子は⋮あかん。超睨まれてますやん⋮。
流石にクンカクンカとかprprとかだとぶん殴られるような気もするんだが⋮。
?
?
││思考が完全に犯罪者です。
?
477
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
そして二人からの無言の視線が⋮。
﹁浜風、谷風﹂
飴ちゃんが欲しかったんだな。君らにも上げようね。
﹁これもちょっと違う気がするよ﹂
﹁⋮そうですね﹂
とは言いつつも、俺から飴ちゃんを受け取る二人。
そして磯さんの分泌液が付いた包装紙を、そっとポケットに仕舞おう。
││それを何に使うのですか
⋮え、ほら、そのうち捨てるんじゃないかな⋮。
近くにゴミ箱がないから本当に仕方なくの緊急処置だし
││どうぞ
⋮⋮。
?
?
ミック先生が小さなごみ箱を抱えて俺を見上げている。
││どういたしまして。
﹁⋮すまんな﹂
提督(笑)と父と娘と
478
おいなんだそのドヤァ顔⋮。腹立つなぁ
﹂
ネギ⋮九条ネギ取り上げんぞ
!
!
る。
何度も言い聞かせているのに直らないからな。
そのため編み出した技なのだ。くるりんぱと名付けた。
﹁⋮飛び付くな島風﹂
多分、言ってもまたやるんだろうなと思いつつも一応、釘はさしておく。
﹁ふふふん﹂
紺色の大きなうさ耳リボンに銀に近い亜麻色の長い髪。少し眠そうな緑いや黒
黒が掛かった緑
この娘さんをはじめ、全力で飛び込んでくる娘さんは受け止めるとかなりの衝撃があ
俺は学んだのだ。そのまま抱き止めると何時か俺の体が死ぬという事を⋮。
ろす。
磯さんの様に持ち上げて軸足を後ろに一歩下げて一回転。その勢いを殺して床に下
ミック先生に手を伸ばそうとした時、勢いよく飛び込んでくる駆逐艦一名。
﹁パパーーっ
!
そこから下へ服装に目を向ければ、袖の無いセーラー服。かろうじて隠す程度の磯野
その瞳はまっすぐ俺に向けられている。
?
?
479
家次女にも負けない超ミニスカート。
黒い細い布地⋮見せ下着でいいのだろうか
見せ下着にしては際どいと思うが⋮。
まぁ、紅白のハイソックスに包まれている太ももと共にガン見するんですけどね
えば武装したモーターボートみたいのだな。
島風の他に設計開発に関わったのは大発の改良型とか、対魚雷艇の駆逐艇、簡単に言
いま目の前に本当のママがいるのだが、まぁそれはいいや。
⋮ミック先生が。
た。
俺にやらせてください。ってお願いしたら許可をもらったので、頑張って設計しまし
本型として建造された彼女。
史実においても次世代型艦隊駆逐艦の最高峰を目指し、高速・強雷装の駆逐艦として
彼女のパパ呼びは確かに間違っていない。表向き設計開発、責任者は俺だ。
公の場では提督と呼ぶようにと言いつけてからはもう諦めた。
が、何度言っても直らない。
さて、そんな彼女は俺をパパと呼ぶのだが、最初は提督と呼びなさいと言い聞かせた
!
Z旗を模したデザインと言われているが⋮おっちゃんはただただ目のやり場に困る。
?
││一体、どこで育て方を間違えたのでしょうか こんな破廉恥な格好になるなん
?
提督(笑)と父と娘と
480
て。
親の顔が見て見たいと言うのなら、鏡見たらいいと思うよ
﹁だって皆遅いんだもん﹂
﹁⋮また皆を置いて来たのか﹂
そんでまぁ、困った事にぜかましは本日、哨戒任務に就かせていた訳だけど、
いやいや、速いの作れというたやないかいってツッコミを入れずにはいられない。
で、速過ぎて艦隊駆逐艦としては使えねぇっていう流れは一緒という。
あと起工も竣工も史実より半年くらい早い。
船体の大きさそのものは変わっていないが艦橋部が幾分シャープになっているかな。
燃費も史実よりはちょいとだけ良くなってる。
級にも引けを取らない。
キロメートルに直すなら時速約80kmというところ。フランスのル・ファンタスク
44ノット。
まぁ、その結果。史実の島風より速度が速くなったよ。燃料弾薬満載の状態でも最高
?
任務完了で帰投となると、一緒に組んだ艦娘達を置いて一人突っ走って帰ってきてし
まう。
││誰に似たのでしょうか
?
481
⋮間違いなく俺ではないね
俺のポリシーは和をもって豆腐と茄子だよ
このフリーダムぶりはミック先生の影響受けてますね確実に
﹂
!
!
?
を軍人として見ていいのか
お母さん。
?
さん。
﹁パパッ
﹂
││私は貴方の考え方を支持しますので、お好きなように。頑張ってください。お父
そこんとこどう思います
これは甘い考えなのかねぇ⋮。
軍律で縛ってしまうというのも何か違うような気もする⋮。
いるって考え方も出来るんだ。
確かに軍に所属しているという事にはなっているが、深海棲艦を倒すことに協力して
?
軍として考えたらきつく言って懲罰も考えないといけないのだろうが、果たして艦娘
がいいのか。
これは俺が来た影響もあるわけで、そのうち落ち着くのか、それともきつく言った方
事は無かったらしい。
俺が着任するまでは、言葉で他の娘さん遅いという事はあっても、置いていくなんて
﹁⋮パパ
?
!
提督(笑)と父と娘と
482
﹁なんだ
え
﹂
﹂
それはちょっと勘弁して欲しいんだけど⋮。
﹁⋮わかった。我慢する。我慢するからまた一緒に駆けっこしたい⋮です﹂
島風の頭に手を乗せて諭すように⋮、何だか本当に父親になった気分だわ。
﹁⋮怒ってはいない。だが、皆と仲良く帰ってきてくれた方が嬉しい﹂
⋮。
目じりを下げてこちらを伺う島風。心なしかうさ耳リボンが垂れている気がするな
﹁⋮怒ってる
?
?
そんなうるうるした瞳で見られたら断り辛いジャマイカ
そうだよな母さん
抱えていたゴミ箱を落とすミック先生。
﹁バカナ﹂
﹁⋮わかった。この妖精も一緒に走りたいそうだ﹂
て、てめぇ⋮。他人事だと思って⋮。
││頑張ってください。お父さん。
!
一蓮托生でしょ俺たちはさぁ
?
や、やめて
まじで手を取られて島中駆け回ったときは死ぬかと思った⋮。
!?
││これが孔明の罠
!?
!
!
483
﹂
君は何言ってんだい
﹁やったー
?
すまない島風。汚い大人の俺を許してくれ。
そして先ほどから⋮、
﹁⋮お屋形様⋮父⋮父上。うむ。父上これだな﹂
﹁父さん⋮お父さん⋮お父様。これですね﹂
﹂
﹁父ちゃん⋮親方⋮違うね⋮親父⋮親父だね﹂
どうしたもこうしたも、彼女達は何を話し合っているのでしょうかねぇ
?
おっちゃんちょっと気になります。だけど、聞きたくないそんな感じ。
?
だが、俺はきっとなんだかんだ理由をつけてなるべく先延ばしにすることだろう、
!
﹁どうしたのパパ
提督(笑)と父と娘と
484
帝都にある高層オフィスビル群の一角、ひと際巨大な長野グループ本社ビル。
﹁徳田も座んなよ﹂
そんなことにお構いなく、娘はソファーへと腰掛ける。
それを認めるとだんだんと男、業雅の目が鋭くなっていく。
一人は男の愛娘である百合恵。そしてもう一人は娘と年の頃が同じくらいの男。
少し間をあけて、二人の人物がやって来る。
﹁失礼します﹂
﹁⋮あぁ﹂
﹁お父さん久しぶり﹂
そして今日はその約束の時。
受けた。
数日前に娘より、大切な話があるから時間をくれと長野グループの代表の男は連絡を
入室して来た秘書は一礼して扉を閉めて出ていった。
﹁かしこまりました﹂
﹁通してくれ﹂
﹁社長。お嬢様がお見えになりました﹂
485
﹁⋮あぁ、失礼します﹂
業雅に一度礼をして百合恵の隣へと腰掛ける男。最低限の礼儀は弁えている。
お父さん
あの、話があるんだけど⋮何でそんなに徳田を睨んでるわけ
﹂
?
ちなみに急に百合恵提督の執務室から追い出された時、暫くして中からなまめかしい
からず、という訳である。
海軍内で動き回るより自然に接触できる点と言うのも大きく、他に思いつく手も見つ
もあったが、
そこで目を付けたのが百合恵の実家。百合恵には実家の力に頼るのはという気持ち
した。
あの日受け取った爆弾を、結局二人とも自分たちだけで解決するには手に余ると結論
心していた。
ちょっかいを受け流す一方で、海軍監査局やその他政府関係者などとの関係強化に腐
をこまねいていた訳ではない。
最近、長野グループにちょっかいをかけて来る軍の一部に対して、長野グループも手
本日ここに来た目的は父島に赴任した爆弾が爆弾を放り投げて来たからである。
?
だが、そんな事は業雅にとってはどうでもいい事である。
?
訝しむ娘。
﹁⋮
提督(笑)と父と娘と
486
﹂
﹂
声が聞こえてきて、徳田が顔を赤らめ、若干前かがみでその場を後にしたことはどうで
もいい事である。
﹁⋮駄目だ。許さん。話は終わりだ。徳田君といったね
﹁あ、はい﹂
﹂
お父さん
徳田を親の仇の様に睨みつける業雅。
﹁帰りたまえ﹂
﹁ちょっとちょっと
﹁許さんと言ったら許さん
!?
何か盛大に勘違いしている長野グループの代表であった。
!
!?
?
487
提督︵笑︶とそれぞれの夜
大企業の社長室で、父と娘のすれ違った認識を起こした頃より時間は少し遡る。
父島警備府の提督執務室。
を発見したんだから俺も思い入れはある。
この世界でも、前半は無敵を誇ってたし、ドゥーリトルの時はコイツに乗って敵艦隊
パイロットが乗ればそれなりに活躍できる。
史実では最後の方まで一部で使われてたし、航続距離はとてつもなく長いし、歴戦の
いやぁ、艦これ的には能力はイマイチなんだけど、決して悪い機体ではないのだ。
執務机の上に置かれたラジコン飛行機程のソレを撫でながら思う。
結果、零戦二一型。
そこで今日はお艦に艦載機の開発を頼んでみた。
しばらくかかりそうなので、とりあえず今は出来る事がない。
連絡待ち。
南鳥島攻略に向けて準備を進めているわけだが、大麻畑の方はユーリエちゃんからの
﹁⋮ふぅむ﹂
提督(笑)とそれぞれの夜
488
まぁそれでも1000馬力のエンジンでは限界があるのだよ。
徐々に優位性を欠いて⋮ってな具合だ。
出撃時は今、お艦が装備している三二型の方がええよなぁ。
そういや、この世界の一航戦の二人はゲーム通り、赤城は大食いキャラで、加賀さん
は無表情の感情豊かなキャラなのだろうか
でも、鹿島は最初なん
?
流石にもうみんな寝たよな
⋮ちょいと眠い。1時か。
﹁⋮ふぁぁ﹂
ただし、今現在燃料が全力出撃一回分くらいしかないのだけど。
な。
まぁ、そんな事考えても詮無き事か。とりあえず空母艦娘がもう一人欲しいところだ
﹁⋮ふぅむ﹂
か俺見て怯えてたっけか⋮。
今まで出会って来た艦娘達はおおよそゲーム通り⋮だよな
赤城は兎も角、加賀は艦時代の記憶から、もしかすると俺の事怖がったり⋮ないな。
?
せた。
時計の針が天辺指すころまでは秘書艦として大淀さんがいたのだけど、流石に下がら
?
489
最近は秘書艦を交代制にしようと色んな娘さんが言ってきているので、それもどうに
かしないとなぁ。
俺的にはお艦固定で良かったんだけど、厨房の件もあるしそういう訳に行かないから
なぁ。
大淀さんが頑なに拒んでいるけど、彼女にも休息は必要だろうから、交代制を取る事
はこの際仕方ないか⋮。
ただ、駆逐艦に秘書艦が務まるのだろうか⋮。特に時津風とか島風とか⋮。
⋮とてつもなく不安である。
﹂じゃないんだよ寝てんだろうが⋮。
?
あと、警備府の風紀の引き締めもしないとなぁ。
寝てません寝てませんよ
なんでヒェーはいつも俺の部屋で寝てるんだろうか
!?
!?
っと、いかんいかん。思考があちこちに脱線するな。
⋮あの時の怒った顔はちょっと面白可愛かった。
やった。
あまりにも気持ちよさそうに寝ていたものだから、その時は鼻をつまんで口を押えて
ている。
あの寝苦しい夜の次の日くらいからだな。部屋に入ると俺の布団でお休みになられ
﹁はっ
提督(笑)とそれぞれの夜
490
491
引き出しを開けて小さな瓶に入った琥珀色の液体を気付け代わりに一口。
この警備府の倉庫の奥の方で眠っていたウィスキーの瓶。見つけた時は超嬉しかっ
た。
こうやってちょっとづつチビチビ飲んでいる。毎晩の密かな楽しみである。
さぁて、南鳥島攻略計画でも練るとするかぁ。
加賀に艦長として着任してはや数日。
おかしい⋮。前任者が風紀の引き締めを図っていたはずだが、荒れている。
航空機搭乗員の態度がでかく、機関科の連中を下に見ているものが多く、食糧庫から
銀蠅する者も多い。
?
大改修を終えて居住性は大分マシになったはずなんだが⋮。
芸者を呼び込んで乱痴気騒ぎをしていないだけマシと考えるべきか⋮
しかし何でだ
そこから来る鬱憤て訳じゃないだろう⋮。
?
提督(笑)とそれぞれの夜
492
ミック先生なんかいい考えない
艦政本部にも出向かなければならんから加賀に付きっ切りて訳にはいかんぞ
どうする
?
?
⋮あぁうん、帝国海軍の中でも実戦経験豊かな艦だもんな。脳筋が多いって事かな⋮
││強い者には従う風潮があるようです。
?
せるか⋮。11月の海だ流石に頭冷えるだろう。
そんでもって悪さする体力も奪っちゃえば大人しくなるんでね
没しそうになった時の脱出訓練とかにしとけばいいんじゃないか
な。
を帯びてきたから本当に僅かでも生き残る可能性を増やすという意味ではいい訓練だ
特に空母の航空機搭乗員は育成に時間がかかるからな。アメさんとの戦争が現実味
?
文句言ってきたら理由は﹁諸君は精鋭で簡単に死ぬことは許されない﹂とか、もし沈
?
⋮今度問題行動を起こした奴見つけたら全員、飛行甲板から叩き落して陸地まで泳が
増長するのはいただけない。
その自負が今の時期から加賀の人員にはあるのだろう。間違ってはいないがそれで
まぁ実際に開戦時の練度で言えばナンバーワンだったろうよ。
後に一航戦のヤバい方とか言われちゃうもんね。
?
493
但し、これをやるには問題点が一つ。
俺が率先してやらなければならん。
で、誰よりも一番速く泳ぎ切ってドヤァ顔で﹁君達のせいで私の貴重な時間が失われ
た﹂とか言ってやらなきゃならんのだ。
マジかよ⋮。考えた奴も相当な脳筋だなって俺か⋮はは⋮マジか。
これ本当に何度かやったんだよな⋮。マジできつかったわ。
って挑発に乗ってしまった。
それでも納得できないパイロットの方々が数名いらっしゃって、ならお前らの土俵で
戦ったる。
身分も何もかもないから掛かってこいやぁ
ただちょっとやりすぎた感はあったので、艦内に目安箱を設置して、文句あるなら聞
ミック先生搭載の弾道回避コースの分かる俺に死角などないのだ。
その後、ちゃんと模擬戦して1対3で勝ってからは皆大人しくなったけど、馬鹿め
して引かせたのは良い思い出だ。
皆、超怒ってたな。卑怯だとか意気地なしだとか、戦争に卑怯も糞もあるかと逆ギレ
擬弾ぶち込んでやったんだっけ。
そして模擬戦を行う事になるのだが、相手より先に発艦して、飛び立つ前の相手に模
!
いてやるからここに出せって対応取ったけども。
で、何度か腹割って話し合ったと思うのだけれども⋮。
それでも戦闘機乗りの皆さんは俺に何か思うところがあったらしい。
あれは空母に中型爆撃機乗せて東京空襲を企むアメさんが来た時だ。
長官を説得して艦隊を編成し、小笠原諸島の父島の東に無線封鎖して展開。
あの時の長官の困った顔はちょっと面白かった。
特に加賀を持っていくと言ったらすげぇ渋い顔されたんだよなぁ。
そんなこんなでドゥーリトル空襲の折、加賀に参謀として舞い戻った俺は、
頭おかしいんじゃないの
﹂
航空本部勤務時代に一緒に働いていた艦長さんに敵見つけて来るから艦載機貸して
参謀自ら
?
?
と言って零戦二一型を借り受ける。
?
逃げ回って、逃げ回って、超逃げ回って、戦闘機を振り切る為に敵の艦隊の真ん中に
⋮まぁ、敵の戦闘機に追い掛け回されるわけです。
そこでミック先生の予想位置どおりに敵機動部隊を発見するわけだけど、
ついでに艦隊に東への移動を開始させる。
うし。
とか言われたけど、気にしたら負けだと思う。陸軍の丸眼鏡参謀の方が可笑しいと思
﹁え
提督(笑)とそれぞれの夜
494
突っ込んでホーネットに一機残っていて飛び立とうとした爆撃機と艦橋に20mmぶ
ち込んでみたりと、
我ながらよく生きていたなと思う機動をして踏ん張ってた。
20mmぶち込んだ爆撃機は煙吐きながらも飛んで行ってしまった。
本土防空隊に爆撃機は丸投げせざる得なかったんだよな。
そろそろ帰る燃料も危なくなってきたころに、ようやく味方の航空機が続々やってく
る。
相変わらず、野良猫共に追い掛け回される鼠の図をやっている俺は正直、助かったと
﹄
思った⋮ら、無線が入ってきて、
﹃援護は必要ですか
﹁見ての通りだ﹂
まずは俺を助けてください。
と思ったら、全然違う方向に行きやがんの
だから助けてくれと願う訳だ。
﹃了解﹄
おっしゃ助かった
待て、そっちじゃない
で、これ幸いにバレルロールを決めて一機落としてトンズラした。
という願いも通じず、だが、俺を追い掛け回してた野良猫が何匹か向こうに行ったん
!
!
?
!
495
加賀にたどり着く前に燃料切れで着水してしまったので、見える位置まで来ていた加
賀に迎えに来てもらった、締まらない格好だったな。
そ し て 加 賀 の 戦 闘 機 の 搭 乗 員 の 皆 さ ん は こ ん な 形 で 俺 に 意 趣 返 し し な く て も い い
﹂
じゃんと徐々に沈みゆく零戦の上で一服しながら思ったのだ。
なんなんだくそっ
!
くっ
!
﹂と思わずに居られない。
天龍自身は隠せていると思っているが、声も丸聞こえだし、身悶える姿も誰が見ても
その様子を同室の龍田は面白そうに観察をしている。
るを繰り返す天龍。
しばらく前から顔を赤くしたり、ゴロゴロと横たわるベッドの上で転がり、時折落ち
﹁ふぁっ
!
?
このまま挙動不審な天龍を見ていても飽きることは無いだろうと思う一方で、何故こ
だが、そこが愛しいと思える龍田である。
﹁どうした
提督(笑)とそれぞれの夜
496
のような状態になったのかは聞いてみたくもある龍田である。
言葉こそ男勝りな物だが、根は面倒見のいいお姉さんなのである。
駆逐艦の娘や他の艦娘と何かあったという訳でもないだろう⋮薄々⋮大方は新しく
﹂
着任して来たあの提督のせいだろうとも予想している。
﹁どーしたの天龍ちゃん
あぁとんだ醜態晒しちまったぜ⋮﹂
!
にした龍田。
大丈夫、それは貴女の魅力の一つだからという言葉を飲み込んで、本題へと移ること
﹁なら早く声かけろよ
かれこれ一時間は観測していた龍田である。
﹁さっきからずーっと、ずーっと見てたもの﹂
正に愛するべき、ば⋮姉なのだ。
だが、そんな彼女がとても愛しいのである。
あれを気づかれていないと思う方が余程のアh⋮大物である。
﹁⋮き、気付いていたのか龍田﹂
﹁さっきから何度ベッドから落ちれば気が済むのかしら﹂
そんな訳はない。
﹁⋮いや、なんでもねぇ﹂
?
497
﹁提督と何かあったの∼
﹂
﹂
今回もその例に漏れず、全て吐かされることになるのである。
間での黄金パターンである。
こうなると後は、天龍が耐えられなくなり洗いざらい吐くという事になるのが二人の
ニコニコとした顔の龍田の顔を見てさらに目が泳ぎだす天龍。
﹁ふぅ∼ん。そう、なにもない。ふぅ∼んそうなんだ∼﹂
目が泳いで、吹けもしない口笛を吹こうとする。
なんとも分かりやすい反応をする。
﹁べ、別に何もねぇ⋮よ
いつも通り間延びした言葉で問いかければ、
?
?
そして、軍からは問題児扱いされてこの前線の島に送られ、戦い続けてきたのだ。
だからこそ、偽物が現れた時に怒りがこみ上げてきて危うく殺しかけた。
そこで改めて知る提督の異常な程の戦勲と戦後、この国の彼に対する仕打ち。
艦娘という新たな体を得たことで自分の戦没以降の情報も手に取ることが出来た。
この姉妹、提督と初見での一件以来、常に提督に対しては真摯な態度をとって来た。
つまり、提督の指揮下に入ったという事である。
﹁て、提督と繋がった﹂
提督(笑)とそれぞれの夜
498
その中で、自分たちと同じように島流しにあう艦娘達と非友好的な人間たち。
掴んで⋮﹂
﹁へぇ∼。そうなのぉ∼
﹂
その時の状況詳しく聞きたいなぁ∼
﹁あ、いや、だから、お前今なんかちょっと怖いぞ﹂
﹁え∼そんな事ないよ∼
﹁お、おい何でにじり寄ってくるんだよ⋮﹂
﹁うふふ﹂
?
?
?
ビビりまくる天龍にとても良い笑顔で近づく龍田。
﹂
﹁いや、た、龍田。アレは⋮そう不可抗力って奴だ。て、提督が俺の頭の艤装をいきなり
先にぃ∼。ふ∼ん、そう﹂
﹁提督に剣を突き付けた天龍ちゃんが∼。天龍ちゃんの為に一緒に謝ってあげた私より
それを先に天龍が、というのが龍田にとっては少し気に入らない。
この提督の下でならと天龍も龍田もそういう思いがあった。
者にとって提督の存在は極めて大きい物だった。
艦娘達によっては程度の差こそあれど、彼と関わりのあった者、特に戦争末期を知る
また懲りずに名を騙る偽物が現れたと思ってたら今度は本物がやってきたのである。
﹁へぇ∼。そう、繋がったのねぇ∼﹂
499
提督(笑)とそれぞれの夜
500
天龍型姉妹の夜はこうして更けていくのである。
後日、提督の指揮下に置いてくれと頼みに行った際、頭上の輪っかの艤装を撫でまわ
されて赤面する龍田である。
この時、ひゃっほーい パ〇ックを合法的かつ手を切り落とされる心配もなく触る
チャンスじゃー
!
同じような状態であった。
天龍たちが戯れている一方、父島警備府所属の艦娘達も割り当てられた部屋でどこも
るのは仕方のない事なのだ。
時折、刹那的に生きる男と、乙女と戦船の心を持つ艦娘との間に全く違う感情が生じ
あるが。
と妙にハイテンションになっていた男の嬉しいという気持ちが龍田に流れるわけで
!
﹁納得いかない
﹂
かというのが議題であるらしい。
!
﹂
なんで私には肩車してくれないんですか
なんて羨ましい
いやいや、それは間違ってないだろうかと思う鹿島と鳳翔。
卓袱台をパンパンと叩く、自称長野提督が愛した艦。
﹁だってズルいじゃないですか
!
﹁それに比叡さんと駆逐艦達が一緒に寝たって⋮くぅ
!
﹂
事の発端は提督が駆逐艦娘達に甘いというのが夕張の認識であり、どうにか出来ない
夕張が吼え、鹿島と鳳翔は困り顔である。
﹁そうですね。私もそろそろ提督にお夜食作りたいのですけど﹂
﹁私にそう言われましても﹂
!
?
夏ですから⋮。と続ける鳳翔のその言葉に夕張も鹿島も納得せざるを得ない。
﹁まぁまぁ、比叡さんは兎も角、他の子達はしばらくは甘えさせてあげてください﹂
大分妄想力が豊からしい。
た練習巡洋艦。
その言葉の後に何故か体をクネクネさせる違う世界で栄養ドリンクをバカ売れさせ
けませんよこんな所で﹂
﹁夕張さん、完全に本音が出てますよ 確かに羨ましいですけど⋮あぁ提督さん⋮い
!
501
ここの所属の艦娘達は一人を除いて特に提督と関わりが深い者達なのだ。季節柄と
今まで艦娘として過ごした時間。
不安になるのは仕方ないと納得するのである。
提督が関わらなければ教官をやってた彼女たちは基本的に優秀なのだ。
寝てませんてばぁーっ
﹂
そして、鳳翔はさらに初風が疎外感を味わっているのではないかと一歩先まで見据え
ているのである。
やはり彼女は艦隊のおかんなのである。
寝てません
・・
!
何ですか
!?
そして、提督の私室にて
!
ら冷たい眼光で見下してくる大淀に焦る比叡。
﹂
自分が提督の部屋に訪れた事は棚に上げる大淀と、微睡みから覚めて司令だと思った
﹁何故、提督のお部屋に比叡さんがまた寝ていらっしゃるのでしょうか
!
?
﹁んぅ⋮ はっ
提督(笑)とそれぞれの夜
502
お前が言うなという返しは思いつかない。
そもそも比叡が何故このような事をしているかといえばすべては姉の為である。
もし万が一に他の娘達とナニカが有ったら姉に合わせる顔がないと彼女なりに考え
た結果が司令の監視である。
﹂
﹂
彼女なりに考えた結果の行動なのである。それが良いか悪いかは別として⋮。
﹁ズバリ監視です
﹁⋮そうですか﹂
﹁え、ちょっ待ってくだ⋮グエッ⋮私にはやらなければならない事がぁぁーー
﹁どうだ
この艶、磯風に相応しかろう﹂
さらに、浦風を欠いた17駆の部屋では、
来るのである。
そして、この日より大淀に引きずられて提督の部屋から追い出されるという習慣が出
!
!
503
?
それまで、最低限の身だしなみにしか気を付けなかった磯風が、髪の手入れや肌の手
入れにも気を遣うようになった。
そして、何かにつけて自慢する姿に
﹁はいはい綺麗ですよ﹂
適当に相槌を打つ浜風と谷風である。二人は大人の対応である。
﹁んだんだ﹂
それにはそれぞれ理由がある。
﹂
浜風はたまたま提督と二人きりになったときに、
﹁何故片目を隠すのか
と答え、
﹁特に理由はありませんが⋮﹂
?
終了
そうっすか⋮両目出てた方が見やすくね
?
せっかくきれいな瞳なんやし⋮。
と心の中で思ってたことが口に出ていたのである。
?
!
実際は、何で片目隠してん と気になってたこと尋ねたら理由ないという事で会話
と言われていたりする。
﹁澄み切った空のような瞳だ。勿体無い﹂
提督(笑)とそれぞれの夜
504
と聞かれて一緒に探したり
谷風はホームセンターで一緒に買い物したり、その時に昼飯を奢ってもらったり、
この警備府に来てからもその時買った品どこだっけ
とそれなりに提督と接しているのである。
そういう事で二人は大人の対応な訳である。
﹂
?
で、どうよこの計画
そうじゃなくてさ、もっとこう⋮なんかあるだろ
││成功するように全力でサポートさせていただきます。
?
││貴方が推し進めるのであれば私に異存はありません。
?
作戦計画を立てた後に気が緩んで寝落ちしたのか⋮。
凝り固まってた体を解しながら机の上の懐中時計を見やれば3時を過ぎた頃。
意識落ちてたわ⋮。椅子の上で背筋を伸ばして一息つく。
﹁⋮ふぁっ
!?
505
そうっすか⋮。
﹁しれー﹂
﹂
こんな夜更けに﹂
扉が開き、そこから現れたるは犬の着ぐるみみたいなパジャマ姿の時津風。
﹁⋮どうした
﹁しれー、寝ないの
うん
﹂
なぁにこの状況
﹁しれぇ﹂
?
トコトコと近づいてくる時津風。俺と机の間を無理やり開けて膝の上に収まった。
﹁⋮⋮﹂
﹁もう休む。時津風も部屋に戻って休め﹂
?
?
いいのか。
さぁ、この世界で頑張ると決めた以上、どうやって彼女たちの気持ちを受け止めれば
目の前で壮絶な死を見せられた俺の気持ちにもなってほしいのだけれど⋮。
せっかく、北進させて生き残れる可能性高めたのに戻ってきてしまってさ⋮。
おいていくって⋮艦時代の事を言っているのなら先に沈んだのは君だろう。
﹁もう時津風をおいてったら駄目だかんね﹂
?
?
﹁⋮なんだ
提督(笑)とそれぞれの夜
506
507
これは本当に作戦前に皆とじっくり話し合わないとなぁ⋮。
膝の上で机にいるミック先生の頭を叩いている時津風を見ながら、そう思うのであ
る。
そろそろ復帰してくるか⋮。
2カ月経っている。
ホーネットも中破だ。復帰までしばらくは掛かるはず⋮待て、ミッドウェー海戦から
エンタープライズもワスプもいない。
しかし、流石に八月中に第二次ソロモン海戦は起きないだろう。
攻略の為だった陸軍一木支隊がガ島に転用され上陸か。
ガ島に進攻したアメさんの海兵隊が予想外に粘っている。そろそろミッドウェー島
げたと思ったんだが、
これでガ島の飛行場を再奪還して、しばらくは優位に、そして立て直しする時間が稼
第一次ソロモン海戦は帝国海軍の完勝に終わったと言える。
1942年 八月 トラック諸島
提督︵笑︶と似た者同士
提督(笑)と似た者同士
508
509
しかし、空母一隻で⋮あっ、レディーサラの存在忘れていた。
伊27号じゃなくて26号潜水艦に魚雷撃ち込まれるのは第二次ソロモンの後じゃ
ねぇか
事か。
ミック先生
両空母はフィジー辺りに展開中か
││肯定。ホーネットが2日前に合流しました
!
だから完成していない。ロングアイランドが飛行機輸送に使われることは無い。
飛行場設営地にも念のため砲撃を加えておいた。
となると、あとはロングアイランド級を入れれば機動部隊としての体は成せるか。
トーチ作戦とかどうすんだって話になるしな。
流石にレンジャーがこっち来ることは無いだろう。
もともと史実で日本が勝ってたから慢心してた、クソッ。
ていうのは運が良かっただけか⋮。
てことは、輸送船団ボコボコにした後の帰りに散発的に何機かの攻撃を受けただけっ
?
一隻で来るという事は先ず無いだろうからホーネットも復帰を果たしているという
そもそも、空母が居なけりゃソロモン方面で反攻作戦なんて実行しない。
!
提督(笑)と似た者同士
510
クソッ
となると後4日で第二次ソロモンか
どうする考えろ何か良い手を⋮。
?
か踏み止まれたという形か⋮
いや踏み止まれているのか
?
止めてくれと言ったけど、これは正解だったのか
分んねぇ⋮。第二次ソロモンは最悪どうにかして乱入しないとな、そ
!
⋮一旦落ち着け。
れでも時間がないぞ⋮堂々巡りだな。
あぁクソっ
?
しかし多聞丸にお願いして空母を失ったパイロット達をラバウルに転属させるのは
いか⋮。
そうすりゃラバウルからの航空支援だってガ島よりはマシだ。いまさら言っても遅
ガ島じゃなくてどうせならポートモレスビー攻略をもう一度やってみるべきだった。
?
史実を知っている俺だから言える事か⋮。結果は⋮まぁ、ギリギリのところでどうに
だろう。
すはずなく、後者はソロモン諸島の重要性をアメリカ側がもう少し軽視すると思ったん
前者はもし仮にミッドウェー島を攻略できたとしてアメリカ国内の世論がそれを許
でも二人とも読み違えているんだ。
のも分かる。
長官の短期決戦早期講和も切実に分かるし、井上さんの米豪遮断のガ島飛行場という
!
511
整理しよう。
ガ島攻略の戦略的な意味は米豪の遮断にある。
何故そこまで遮断に拘るのかと言えば、コアラとカンガルーの国が物資面でアメさん
を支援しているからである。
アメさんも自前で用意しようと思えばできるんだろうが、距離的に戦場に近い位置で
補給が受けられた方が何かと便利だ。
中継地点があるのも助かるという事もあるが、連合国側はフィリピンへの侵攻ルート
にニューギニアを抑えておきたい。
日本としては豪州には本土に引き籠っていて欲しいし、ニューギニアを抑えてフィリ
ピンへの侵攻ルートを塞いでおきたい。
ここに来て豪州の対日戦術が防衛主体の消極的なものから反攻、いや、ニューギニア
なんかを死守する構えへと変わってきている。
それを変えたのはコレヒドールから脱出したコーンパイプのダグおじさん。
やはりフィリピンに釘付けにしておくか脱出する時にでも海の藻屑にするべきだっ
たのか
なった場合が全く読めない。
しかし、戦後の事を考えると最悪の場合はなぁ、このおっさん以外がGHQ司令に
?
提督(笑)と似た者同士
512
考えが纏まらんうちに脱出していた。
嘘か誠かは知らんが豪州は日本を過大評価しまくってオーストラリア大陸の北東部
なんかは人口多いとこ以外切り捨てるつもりだったって話もある。
なら、豪州本土に艦砲射撃でもぶち込んだら、豪州の混乱に乗じて時間を稼げるん
じゃないか
けだから。
軍令部には⋮立案は井上さんがした事にして⋮。良し
井上さーん。
認してちょうだーい。
ちょっと第二次ソロモン海戦とカンガルーとコアラを見に行きたいから、この作戦承
!
言葉は悪いがアンタらの尻拭いしたんだ。俺にもちょっとやらせろってな具合なわ
長官も井上さんも今回は承認してくれる可能性が高いハズ。
これは井上さんに話してみよう。
となると比較的戦線が落ち着いている南西方面艦隊か。
きるのではないか。
それでもコーンパイプのおっさんと豪州との間で対日戦略に隔たりを持たす事はで
上手くすればニューギニアからも豪州軍撤退⋮は、虫が良すぎるか⋮。
?
ち ょ っ
どけぇ
やめろぉぉぉ
な ん だ こ の ム キ ム キ の カ ン ガ ル ー は
やめろっ
俺 は 井 上 さ ん に 用 が あ る ん だ。
!?
!!
な、何をおっ立ててやがる
こっちに来るな
!
!
!
拒むといった雰囲気を持つ。
弓道衣と青い袴スカートに身を包み、張り詰めた空気を作り出し、他者の介入を一切
短めの黒髪をサイドテールにして纏め、矢の刺さった的を見る瞳は冷徹。
残心を解き、的を見据える一人の女性。
シュッと言う風切り音の後にトンッと軽い音が響く。
!
!
彼女が息を吐いたと同時に空気が幾分和らいだ。
﹁⋮ふぅ﹂
513
的には会心から僅かに横にずれた矢が刺さる。
今のはいけない。
五航戦の片割れが、これ見よがしに艦戦を自慢する顔が思い浮かんでしまったと、外
面には出ないながらも反省する彼女。
正規空母の艦娘、加賀。
﹁加賀さん。またこんな時間まで訓練して⋮、いくら私達艦娘が強靭な体を持っている
とはいっても休息も大事ですよ﹂
そんな彼女に物怖じしない女性。加賀と同じ服装で色違いの赤い袴を模したスカー
ト履き、
此方は加賀とは逆におっとりとした雰囲気を醸し出す。
長くて艶のある髪を持つ女性。
﹁⋮もぅ。仕方がないですね。加賀さんが無理しないように私がここで見ています﹂
と答え、ハンカチを取り出して、赤城の口元をやさしく拭う。
﹁すいません。⋮寝付けませんでした。もう少し射たら休みます﹂
それを見て、加賀は
私怒ってますっという態度を出す赤城であるが、口元には餡子が付いている。
﹁⋮赤城さん﹂
提督(笑)と似た者同士
514
羞恥を覚えたのか赤城は目線を逸らしながら答え、邪魔にならない位置で正座した。
それを見届けて加賀も矢を番えて構える。
心を無心にする前に加賀は色々な事を考えてしまう。大体は破天荒な一人の男の事。
男が艦長として着任して数日した頃。問題行動を起こした下士官がいた。
彼は最低限の人員を置いて、残りの乗員を士官も含め全て飛行甲板に集める。
その人。
それでもどんな時でも慌てることなく、不動の心を持つ誰よりも強かった艦長だった
言葉少なく誤解される不器用な人。
﹁私を煩わせてくれるな﹂
三度目で誰かが問題を起こすと遠泳が待っていると理解した。
二度目は文句を言った者から投げ飛ばされて強制的に泳がされた。
一度目は渋々と従った。
眉一つ動かすことなく淡々と告げる男に乗員は唖然とする。
﹁⋮全員で泳ぐぞ。飛び込め﹂
515
﹁ラムネを持っていくべきだった⋮﹂
と沈みそうな零戦の上から引き上げた時に漏らし、乗員たちを大笑いさせた参謀だっ
たその人。
あれは本気で言っていたと思うのだけど⋮。
そしてそのまま第二次攻撃隊と一緒にラムネを持って飛び立っていったその人。
﹁参謀とはなんだ⋮﹂と当時の艦長が漏らした言葉に艦橋には忍び笑いが響いていた。
そして沈む事を覚悟したあの時、再び乗員たちを大笑いさせて勇気づけたあの人。
﹁⋮たまたま通りかかった﹂
息を止めて的を見据える。
余分な力が消える。
視界が鮮明になる。
番えた矢が指から離れ、風切音共に的を目掛け進む。
トンッという音と共に矢が的の中心に刺さる。
﹁お見事です﹂
﹁⋮⋮。︵やりました︶﹂
提督(笑)と似た者同士
516
パチパチと拍手を送ってくれる赤城を見ながら加賀は思う。
もう二度と赤城さんを一人にしない。
この世界には、もうあの人はいないのだから、一航戦の誇りと先に逝かせてしまった
赤城さんを今度は私が守らなくては。
鋼の精神を持ったあの人の様に⋮。
そんな風に⋮。
甲板の火は消えた。後部に至近弾を受けた影響でスクリューも損傷して速力は低下
したが航行可能。
敵は去った。憂いは無い。
﹁瑞鶴は本土に戻られよ﹂
517
与論島近海で合流した瑞鶴に大和の司令部はそう命令を下した。
矢は尽き、弓も折れかかっている空母に何が出来るというのか。
敵が退いたとはいえまだまだ予断を許さない時である。その判断はまさしく正しい。
﹂
﹁ふざけるなっ 奴が血路を開き作戦を成功させた 救助に向かわずに見捨てろと
いうのか貴様らはっ
!
﹁話にならん
一人でも俺は行くぞ
抗命罪にしたければすればいいっ
聞いたな貴様ら 降りたい者は降りろと伝達しろ
それよりわずか30分足らずで瑞鶴は南進を開始する。
﹂
ただしす
残っていた艦のうち第二艦隊併せこの二隻をおいて他にまともに動ける船は無く、
駆逐艦雪風と霞は懸命に救助活動を続けていた。長野率いる臨時艦隊は全滅。生き
そして僅かに欠けた月の元に辿り着いた久高島西沖。
!
!
﹁⋮⋮﹂
ぐ判断しろ﹂
?
!
尤も、空母一隻で航空戦隊とは笑わせてくれると皮肉っていた艦長である。
大和の艦長が自ら瑞鶴に赴き一航戦の司令を説得しようと試みる。
﹁野元司令⋮。なにも救助に向かわせないとは言っておりません。既に霞が⋮﹂
!
!
艦橋に響く司令の怒声にそれまで沈黙を守っていた士官たちが動き出す。
!
!
﹁話は終わりだっ
提督(笑)と似た者同士
518
金剛の救援に向かった駆逐艦、時津風と時雨は沈み、浜風、磯風は久高島にて座礁着
底した。
瑞鶴も搭載艇を全て出して救助活動に加わる。
浮いているだけで奇跡のような有様の艦や、煙を吐き続けて横転している艦。浮遊物
﹂
にしがみ付き身を寄せ合っているもの。
﹁司令。米兵も助けるのですか
わせていた。
金剛の主計長だった男に艦隊を率いていた男の最期の顛末を聞き終え、誰もが肩を震
﹁⋮⋮﹂
皆が疲労の色濃く、とても勝利したとは思えないほど空気は重かった。
長室。
雪風、霞と合流し生き残った金剛の士官たちと共に甲板の上まで人に溢れた瑞鶴の艦
が真上に上る頃には救助活動は終了した。
東の空が明るくなってきた頃に憔悴しきった金剛の乗員を何名か救助し、真夏の太陽
それから、どれくらいの時が経ったか。
そう問いかけて来た士官に静かに答える。
﹁⋮奴ならそうする﹂
?
519
そんな中で一人の男が口を開く。
﹁奴の死は口外するな。いいか徹底的に秘匿しろ﹂
その言葉に誰も口を挟まない。
﹂
誰もが分かっていた。男の死で間違いなく海軍の⋮現場の人間たちは動揺するとい
う事を。
﹁聯合艦隊司令部の連中にもだ。わかったな
無言で頷く士官たちを下がらせた後。
嗚咽交じりの罵声が力なく艦長室に響いていた。
﹁⋮貴様は死なんと言ったではないか⋮馬鹿野郎め﹂
?
空母艦娘だが、今はどこか頼りなく見える。
昼間は巫女装束の様な弓道着を纏い、戦場の空を不利な状態からでも覆す歴戦の正規
髪は解かれ一部が頬に汗で張り付いている。
未だに焦点の定まらない瞳は何時もの勝気さとは程遠く、ツインテールにしている黒
肩を揺すられてぼやけた意識が浮上する。
﹁⋮かく⋮ず⋮く。瑞鶴﹂
提督(笑)と似た者同士
520
﹁⋮翔鶴姉﹂
随分魘されていたみたいだけど大丈夫
﹂
?
﹂
﹁⋮あぁ⋮うん⋮大丈夫﹂
﹁⋮本当に
そうして気丈に笑顔を姉に向ける。
﹂
彼女も昼間は瑞鶴同様な服装に身を包み、深海棲艦と戦う正規空母の艦娘である。
性である。
そんな彼女を覗き込む琥珀色の瞳と長い銀髪を持つおっとりとした雰囲気を持つ女
﹁起きた
?
﹁大丈夫だって。ちょっと暑くて寝苦しかっただけだから﹂
?
カーテンの隙間から覗く月を見ながら⋮。
私の嫌いな季節が⋮。
夏が来た⋮。
まずは大好きな姉を心配させないように⋮笑顔を作ろう。
﹁無理なんてしてないって、翔鶴姉は心配性だなぁもう﹂
だから無理でもなんでも、自分に出来る事は、やれることは全部するんだ。
今度は守るんだ⋮。翔鶴姉も⋮皆も私が必ず守って見せるんだから。
﹁⋮そう。それなら良いのだけど⋮、瑞鶴、無理していない
?
521
そんな風に⋮。
ゆらりゆらりと覚束ない足取り、表情が抜け落ちた顔。胸中に渦巻くのは心無い言葉
の数々。
﹁あの戦争狂の船か﹂
﹁命令に従わぬ問題児振りはあの男と一緒だな﹂
﹁貴様のようなものを指揮下におけるか死にたがりめっ﹂
月明かりの下、何処からか微かに聞こえる歌声に、フラフラと当てもなく歩いていた
足を止めて耳を澄ます一人の女性。
それぞれが皆、楽しそうに何かを忘れるように騒いでいた。
腕相撲をしどちらが勝つか賭ける者達。
肩を組み合い勇ましく軍歌を歌う者。昼間釣った魚に舌鼓をうち盃を交わす者。
士官も下士官も無く無礼講となって乗員達が騒いでいた時に聞いたもの。
聞き覚えのあるその歌は艦時代⋮、嵐に突入する少し前の食堂。
﹁⋮この歌﹂
提督(笑)と似た者同士
522
この裏切り者めっ
﹂
?
男は最後の抵抗とばかりに、
駆逐艦の艦長たちも次々と声を上げ始め、追い込まれる。
忌々しく睨む男に利と格と呼ばれた男たちはどこ吹く風のニヤリ顔。
﹁利︵とし︶、格︵かく︶、貴様ら⋮﹂
﹁自分も聞いてみたいですな、牟田口艦長﹂
﹁ほう。それはそれは⋮。俺も聞いてみたいですな。どう思いますかな、島崎艦長﹂
!
﹂
艦隊の各艦の艦長たちに囲まれて、いつもより険の取れた表情で喧騒を眺める男。
貴様っ
!
と珍しく声を上げた男。
﹁⋮主計っ
!
﹁司令。私は鳳翔の甲板で聞いた歌を今一度拝聴したく﹂
そこに主計長の男が口を挟む。
言葉の応酬に回りの者達は面白そうに見守っていた。
﹁いやいや、戦神と謳われる司令がやってこそ戦意向上に繋がるのです﹂
と白々しく返す。
﹁⋮生憎と私は何の取柄も無いのでね。君が代わりにやってくれたまえ﹂
と敬意の感じられない容易い口調で提案する大淀の艦長だった男に、
﹁おい、司令官殿。お前もここは戦意向上の為に何か披露したら如何だろうか
523
﹁⋮ギ、ギターを弾きながらではないと歌えない。実に残念だ﹂
酒が入っていた為か珍しく顔に動揺が見て取れた。
﹂
最後の最後まで女々しい歌だから戦意向上には繋がらないなどとごねていたが⋮。
歌う事になった。
逃げ道を塞ぎにかかる男たち。結局、誰かが持ち込んでいたギターを渡されて渋々と
﹁誰ぞ、ギターを持っている者はおらんか
?
いつの間にか止まっていた足が歌に導かれて再び歩み始めていた。
波止場に座り、月を見上げて歌う女性。
﹁⋮大和﹂
﹁⋮金剛さん﹂
提督(笑)と似た者同士
524
恐ろしい夢だった⋮。
⋮夢か。
あぁせっかくの高級品がなんて勿体ない⋮。ん
しかしよく起きなかったなこの娘。
?
若干、のけ反った姿勢なのは俺が叫んだせいか
﹁⋮初風か。見苦しいところを見せた﹂
?
そして対になっているソファにツチノコがおる。
﹁魘されてたみたいだけど大丈夫なの
﹂
俺の体に乗る時津風。これはまぁいいとしよう。良くは無いんだけどね⋮。
?
二つ一組のソファの間に置かれたローテーブルの上のコーヒーが完全に冷めている。
一日に2回も寝落ちする事なんてなかったのになぁ。
おかしいな⋮。
執務室に置かれたソファで寝てたようだ。
!?
﹂
﹁やめろぉぉぉ
!
はっ
カンガルーッ
!
525
驚かせたよね。ゴメンよ。
﹁⋮別に﹂
あら、クールね。
髪は水色のセミロング、毛先を切りそろえたぱっつんな髪型。瞳の色は翡翠色であ
る。
今はナイトキャップとTシャツに短パン姿だが、Tシャツにヒャッハーって書かれて
るけど、それは君の趣味なん
陽炎型の7番艦の艦娘さんだ。
あんどローファーという出で立ち。 下もブレザーと同じ黒色のミニスカートにベルトを二重に巻き。白のハイソックス
首元には黄色いリボン。 ブレザーベスト、
昼間の服装は陽炎型の基本型というべきか、白のカッターシャツ。その上に黒っぽい
何気にちょっと俺もほしいのだけど、それ。
?
﹂
ところで、こんな時間にっていうかもう空が明るくなり始めてるか⋮。
?
﹁ちょっと早く起きてしまっただけよ。時津風も見当たらなかったし、どっか変なとこ
﹁どうかしたのか
提督(笑)と似た者同士
526
﹁⋮信頼されてるのね﹂
?
ブーゲンビル島沖海戦か。
﹁私もあの戦いでアナタが居れば皆と同じような態度をとってたのかしら﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮嬉しそうじゃないのね﹂
まぁ、それも受け止めにゃならんと心新たにしたわけだけど。
態度をひどく重荷に感じる事がある。
かつて無謀な作戦で艦隊を全滅させた俺に。時津風をはじめ彼女達が慕ってくれる
確かに懐かれているのは分かるんだ。これは信頼なのか。
﹁信頼⋮か﹂
心外な。
ろで寝てるんじゃないかと思って探してみたのよ。そしたら⋮﹂
トッキーは俺の上です。何だ俺が変な奴とでもいうのか
││事案発生ですね。憲兵を呼びますか
止めてください。てか、ちょっと黙っててくれる
││かしこまりました。
?
?
さて、じぃーっと見つめられると照れるのだけど。
﹁⋮そうか﹂
527
その時、俺は本土に出頭させられてたからなぁ⋮。会議が開かれるからついでにって
なんだよ。
それにおそらく、あの場にいたとしても第二襲撃部隊の司令は兎も角、第一襲撃部隊
の司令とは折り合いがつかなかっただろうからなぁ。
今更考えても仕方がない事。
あと、皆と同じような態度されると常識人枠が居なくなる可能性があるのでやめて欲
しい。
﹂
相変わらず俺の上で熟睡している時津風を見ながら答える。
﹁そうなったら誰がこいつ等を止めるんだ
?
お、ツチノコが笑いおった。これは珍しい。
﹁ふふふ、それもそうね﹂
﹂
?
﹁しれー、よくない。よくないなー。あたしを置いて楽しそうにするのはよくないな∼﹂
やはり胃袋を掴む︵朝食的な意味で︶事、即ち餌付けによる作戦の効果は抜群だな。
あらま、顔を背けちゃって可愛い反応。
﹁⋮知らない﹂
﹁そういう顔も出来るのだな。君から少しは信頼されたのか﹂
﹁⋮何よ
提督(笑)と似た者同士
528
﹁⋮起きたのか﹂
﹁じゃ、私は戻るわね﹂
﹁そうか。ならこれも連れていけ﹂
擽るなっ
ちょっマジで
おふぅっ
そろそろ俺の上からどいてください。暑いです。そして鋼の理性が崩壊しちゃうか
もしれんから。
⋮下半身的な意味で
││憲兵さんこの人です
だからまだ何もしてないだろうが
!
!
!
﹁あたしをこれ扱いとかよくないなー﹂
おいやめろ
!
いやぁはふんっ
!
!
初風さんこの娘さんも連れてってーーー
!
﹁頑張ってね﹂
待って
!
!
!
529
に﹁非理法権天﹂の文字が書かれる。 足には左右非対称の紺の靴下を履いており、右は普通の、左はニーソックスで外側面
見える。 下は紅色のミニスカート。両腰の部分が露出しており、黒紐パンの紐のようなものが
れている。
胸元にはスカーフではなく金の注連縄が巻かれ、左腕にはZ旗を模した腕章が着けら
した前留め式の紅白のセーラー服で、肩部分は露出し、脇の下で七部袖に繋がっている。
首元に艦首を意識した首輪のような金属輪を着け、服装は、上体のラインにフィット
膝くらいまである焦げ茶色の髪をポニーテールにまとめ、瞳の色も茶色。
艦娘という依り代を得た姿は、
もう一人は大日本帝国が生んだ世界最大最強を誇った戦艦、大和。
片や巫女の様な装束に身に包む金剛型一番艦の金剛。
浮世離れした姿を眺めるものがいたとしたなら息を飲むほどの物だろう。
夜、月明かりの下、波の音が静かに響き渡り波止場に寄り添う二人の乙女は幻想的で、
提督︵笑︶と混沌と
提督(笑)と混沌と
530
どこか日本神話の女神を思わせる。
それが大和という艦娘である。
二人は月が浮かぶ海原を静かに見つめる。
﹂
﹂
そうして幾分かの時を刻んで口を開いたのは大和である。
﹁⋮金剛さんは、こんな夜更けにどうしたんですか
﹁ちょっと眠れなかったネ。大和こそ、どうしたんデスカ
﹁私もです﹂
﹁⋮そう﹂
会話は途切れ、再び波音だけの静寂が訪れる。
﹂
?
に守られて、守られ続けてようやく艦隊決戦を行えて、作戦は成功したものの自分を
最期の戦いでさえ、主砲を撃つ事無く終るのかと思えば、金剛を始めとする臨時艦隊
艦時代は戦場に出ても戦域の後方。物見遊山しに来ているのか、と皮肉られ、
私はずっと守られてきましたから今度は全力で使命を全うしたいです﹂
﹁⋮護る為、でしょうか。護る為に私達は生まれてきたのではないでしょうか⋮。
愁いを帯びた声に何かを感じ取った大和はゆっくりと言葉を選んで月を見上げる。
﹁⋮大和は何のために戦うノー
幾分かの時を再び刻み、口を開いたのは金剛からであった。
?
?
531
守った者達は悉く沈んでいった。
大和の胸中は後ろめたさと後悔、無力感が占めていた。
だからこそ、艦娘という姿を得た今は、全力で国を、民を、誰かを護りたいと願う。
﹁⋮そう。大和は強いですネ。⋮ワタシはもう分らないヨ﹂
﹁⋮金剛さん﹂
﹁⋮戦って戦って戦い抜いテ皆を護ッテ、テートクとヴァルハラに⋮。だけどドーシテ
私だけ戻ってくるデスカ テートクと約束したんダヨゥ。一緒に逝くって約束した
お か し い デ ス。ワ タ
もうわからないデス。テートクに逢いたいヨ﹂
ん だ ヨ。こ の 国 に テ ー ト ク は い な い し 冷 た い ヨ ー。ど ー し て
それは彼女にしか知ることの出来ないもの。
の意地か。
膝を抱え込む金剛。大和に涙を見せぬようにしたのは最年長戦艦としてのせめても
シは何の為に戦えばいいノ
?
?
?
ち ゃ ん と 長 野 提 督 に 感 謝 し て い る 人 も 大 勢 い ま す。艦 娘 の 皆
!
表情を一度だけ見せたあの時と、今の金剛の姿が被って見えてしまう。
自分の信念を貫いていた男が、
﹁⋮この国は守る価値があるのか﹂と鳳翔の甲板で憂いの
どんな時であろうと、たとえ相手が上官であろうとも大和の知る限り何者に対しても
だって金剛さんを頼りにしてるんです。⋮そんな悲しい事言わないでください﹂
﹁そ ん な 事 な い で す
提督(笑)と混沌と
532
とてつもなく不安ばかりが募る大和。
﹂
?
?
誰に聞かれる事も無く、運命の羅針盤は回り始める。
許してくれるヨネ
﹁いいですよねテートク ワタシはテートクに逢いに行くネ。テートクは優しいから
呟く言の葉は誰に聞かれる事も無く夜の闇に溶ける。
﹁あとは大和たちに任せるデース﹂
大和を背に歩きはじめる金剛。
微笑みを浮かべる金剛に一抹の不安を抱える大和。
﹁Thanks大和 それじゃgoodnight﹂
﹁あっ、はい。もう忘れてしまいました﹂
の事は忘れてくれると嬉しいヨ﹂
﹁sorry。ちょっと感傷的になったデース。みっともないところ見せたネー。今夜
﹁⋮金剛さん﹂
﹁⋮⋮﹂
533
提督(笑)と混沌と
534
▽`*︶
苺入り餃子さんが入室しました。
お徳用瑞雲:お、おおお
雷電☆命 :餃子ktkr︵*
アァーー
:アァーーーーーッ
!
ライバック:どもどもはじめまして
´
!?
その人は硫黄島にいるらしいので今回の作戦時、父島居残り組と共に哨戒活動の協力
海の哨戒活動をしているのが転移組の提督の一人って事が判明した。
待って。色々待って。南鳥島攻略に当たり俺が赴任する前から父島と連携しつつ近
苺入り餃子:どうも、はじめまして
!
を要請しようと思ってこのチャットルームに来たのだけど。
チャットルームのアドレスは硫黄島から父島方面へと哨戒していた艦娘さんがうち
の警備府の艦娘さんにメモで渡してくれたもの。
そのメモを渡されたのがツチノコこと初風さんで、そう説明をしてくれた。
いや、まぁそんな事はこの際どうでもいい。ハンドルネームおかしくね
駄目ですよ叩いたら可哀そうじゃないですか﹂
てかメロンちゃん何で隣座ってんの
秘書艦用の机そっちにあ
大淀さんが働きすぎっぽいので遂に秘書艦交代制が採用されました。
コンニャロー
﹂
﹂
ブラインドタッチとかで
?
﹁ソウダソウダ﹂
るでしょ
﹁何故、夕張は隣にいるのか
!
代わりに私がやっちゃいますよ
?
?
?
?
?
﹁パソコン使うんですよね 提督はまだ初心者ですよね
きます
?
?
机の上で九条ネギ振り回している妖精さんにチョップする。
俺一切設定してないよ
││ドヤァ
お前の仕業か
?
﹁提督、急にどうしたんですか
!?
メロンちゃんは本日の秘書艦。
?
535
提督は最近、駆逐艦の娘達ばかり構ってズルいです。私も構ってくださ
﹁大丈夫だ。戻りなさい﹂
いよー﹂
子供か己は
!
だがそれ以上は駄目だ。
毎日警備府の工廠につなぎ姿で
特に鹿島とか小悪魔とか有明の女帝とか、結局、全部鹿島じゃねぇか
兎に角メロンもダメなんだよ。おかしいじゃん
?
籠もってるにもかかわらず、何で甘い匂いがすんねん
!
い。
駆逐艦以外で大丈夫なのはヒェーと龍田さん。
ヒェーはどういう訳かゆきかじぇとかトッキーとかと同じ感覚なのは何故なのか
やり過ぎたかもしれない。すっごい距離感を大事にしているから大丈夫なだけだけ
をなでなでして以降、ちょっと怖い。
龍田さんは指揮下に入りたいって真剣に言ってこられたからバッチコイとパルッ〇
?
メロンちゃんが本当にメロン並の物を持ってたら今頃、襲い掛かっていたかもしれな
ドキがムネムネしちゃうだろ。
!
近いねん距離感が。駆逐艦はギリ耐えられるんだ、一部ちょっと危ないけど⋮。
!?
﹁ブゥーッ
提督(笑)と混沌と
536
ど。
そういや中二病の天龍ちゃんはいつの間にか指揮下に入ってたな。
││頭部の艤装をいやらしく撫でまわしてましたが
﹁おい、夕張﹂
手が勝手に動いてしまうという、とても悲しい事故だったのだ。
あっ、そんな事もあったねぇ。あれは悲しい事故だった。
?
頬を膨らませたって可愛くなんて⋮、可愛くなんて⋮、チクショウ可愛いなヲイ
﹂
﹁わぁいふうんえうか︵なにするんですか︶﹂
え、何だって
?
なんてこと言うんだね君は
!
││上官の権力を傘に部下にセクハラを強いる下種の極み。
おいぃ
!?
!
﹁ブゥー﹂
﹁ぶふぅるるっ
﹂
!?
おお意外と伸びる。
﹁ひょっ
頬っぺたプニプニやな。
思わず、両頬を突いてしまった。
!?
537
思わず、両手あげて痴漢しませんアピールしてしまったではないか。
﹁⋮⋮﹂
あぁメロンちゃんメッチャ睨んでる。
﹂
頬が赤くなっちゃってる。ゴメンよメロンちゃん
﹁⋮許せメロ⋮夕張﹂
﹁今、メロンて言おうとした
﹁⋮そんな事⋮ない﹂
そ、逸らしてないし⋮。
﹁なんで目を逸らすんですか
﹂
お徳用瑞雲:あれ、反応ないな
?
アーアー聞こえないたっら聞こえなーい。
﹁ちょっ、無視しないでくださいよー﹂
﹁⋮⋮﹂
!?
!?
雷電☆命 :まさかの一言で寝落ち
!?
提督(笑)と混沌と
538
539
:ふむ、というと
ライバック:あーもしかしたら、俺のせいかも
アァーー
ライバック:秘密
チャットが些か不穏なんだけど⋮
?
?
マジでか
狙いは何だ
お宝画像なんて入ってないぞ
とりあえず、止めてくれと頼んでみよう。
それとミック先生、このハンドルネーム変えられんの
││何か問題でも
?
?
し。
あぁうぜぇ。この情報なんちゃらうぜぇ。もういいや苺入り餃子で⋮めんどくさい
?
?
││ハッキングしようとしていますのでその都度撃退してます。
?
!
!?
苺入り餃子:どなたか存じませんが、侵入するの止めていただけますか
雷電☆命 :おいぃライバック
`
うい。宜しく頼むわ。
﹁そうだな﹂
﹁相手はどなたなんでしょう
﹂
﹂
?
今度の作戦実行に当たってだね、硫黄島の提督さんと協力したいってか、
?
?
︶ごめんよ。ちょっと腕試ししたかっただけだから悪
:合意なしでそれはいかんぞ
!
!
お徳用瑞雲:何してんだお前っっ
アァーー
ライバック:てへぺろ︵
意は本当にないから許して
苺入り餃子:はぁ。
ミック先生。大丈夫
?
││ハッキング停止しました。必ず阻止しますのでご安心を。
?
?´?
!
﹁提督、それってチャットですか
提督(笑)と混沌と
540
硫黄島父島間の防衛ラインを今まで通り協力よろしくみたいな挨拶かな。
﹂
父島が手薄になる時にこちらの防衛もちょっと協力してくれると嬉しいみたいな感
じか。
﹁いよいよ提督の伝説が始るわけですね
⋮。
!
と思うけど⋮。
雷電☆命 :じゃあ色々あったけど自己紹介でもしとく
お徳用瑞雲:だな
?
じゃ、作戦概要カッコカリ見てていいから大人しくしてて。ものの数分で読み終わる
あぁうん。メロンちゃんはやる気十分なんだ。
﹁腕が鳴りますね
﹂
そしたら、伝説どころかじゃないんだけど⋮。てか、伝説作るつもりも無いんだけど
全員が嫌だって言えば別の手を考えなくちゃならんのだけど。
作戦にあたって誰が参加するのか編成を本人たちの意思を確認しながらになるから、
!
541
提督(笑)と混沌と
542
アァーー :じゃあまずは私からしよう。硫黄島で提督をやっている、ここの皆から
くー
雷電☆命 :私はしゅくもうわんで駆逐艦愛でてる。よろしく︵*
´
雷電☆命 :餃子ちゃんは固いなー。ところで餃子ちゃんは女の子かな
苺入り餃子:男です。
雷電☆命 :くっ、髪は死んだ。
ライバック:また髪の話してる⋮。
なんか濃ゆいなこの人たち。
付けるに至った。
の指揮下にいる艦娘さんの話になったりしたんだけど硫黄島にいるホモに協力を取り
その後、何度も話が脱線しながら、お互いのこの世界に来るまでに何してたとか自分
?
苺入り餃子:先日、父島警備府所属になりました。宜しくお願いします。
お徳用瑞雲:→宿毛湾︵すくもわん︶な。俺は単冠湾所属。
▽`*︶
ライバック:次俺ね、呉所属。最強のコック目指して日夜、料理研究してる。よろし
はホモと呼ばれている。よろしく頼む
!
543
徳田君が何時だったか言ってたっけ。まともなのが居ないとか。
うん、本当だね。久しぶりに肉体とは違う疲れかたしたわ⋮。
彼らの事を簡単にまとめるとだ、
お徳用瑞雲
ツッコミ役で一番まともに思える人。単冠湾所属。
転移前は地方公務員だそうな。
指揮下の艦娘
戦艦︵伊勢、日向︶軽巡︵多摩︶第21駆逐隊︵初春、子日、若葉、初霜︶
雷電☆命
アホの子で駆逐艦prpr宿毛湾所属。
転移前は大学生。コスプレイヤーもやってたとか。
指揮下の艦娘
第6駆逐隊︵暁、響、雷、電︶
濃いけどちょっとキャラ分からん。電脳に強い。呉所属。
ライバック
料理人
?
提督(笑)と混沌と
544
転移前はシステムエンジニア。ブラック過ぎる会社から解放されて今は生き生き。
指揮下の艦娘
戦艦︵長門︶重巡︵青葉︶軽巡︵名取︶第5駆逐隊︵朝風、春風、松風、旗風︶
アァーー
という感じになる。
モも戦艦特性あるけど大和を指揮下におけるキャパは無かったということらしい。
大和は誰かの指揮下に入りたいんだそうだが、適合する提督が居ないようで、このホ
んだとか。
他にも一時的に預かっている艦娘さんが居るとのこと。ちょっと前まで大和が居た
宝の持ち腐れ艦隊とはライバック氏の言葉。
卯月︶
軽空母︵千歳、千代田︶重巡︵高雄、愛宕︶第30駆逐隊︵睦月、如月、弥生、望月、
指揮下の艦娘
転移前は出版関係、だがホモだ。
優秀だがホモだ。硫黄島所属。
!
﹂
深く椅子に腰掛けて目頭をもむ。
﹁提督﹂
﹁なんだ
なん
!
と思うのだけど。
﹂
﹁伝説の釣り師メーロンって一体何なんですか 全然可愛くないじゃないっ
か色黒の逞しい男の人っぽい
﹁落ち着け、メ⋮夕張﹂
パンパンと執務机叩くメーロン。
うちの所属艦娘さん達を紹介した時に誰かがそんな事言ってたね。
!
!?
それにメロンちゃんだってどっちかというと彼らの持つ趣味とか近いんじゃないか
だから毒されては駄目という言葉はもう遅い。遅すぎるのだ。
来は俺は彼ら側の人間。
しかしだ、今日は初対面という事もあり、終始ですます口調でチャットしてたけど、本
まぁ濃ゆいかったものね。
﹁毒される⋮か﹂
﹁毒されちゃ駄目ですよ﹂
顔を呼ばれた方に向ければ真剣な目で俺を見つめるメロンちゃん。
?
545
﹁提督っ﹂
﹂
おい服を掴むな。そしてシェイクしないで。
﹁そんなにメロンが嫌いなのか
﹂
﹂
﹁⋮なんだ
﹁え
﹁夕張は美味しいだろ﹂
いいじゃないか夕張メロンは甘くて美味しいだろ。
言葉を巡らせ胸元を見るメロンちゃん。
﹁メロンは甘くて好きです。だけどそうじゃなくて⋮なんというか⋮﹂
?
﹁え
ええええええええええ
何だそんなに楽しみなのか。
?
﹂
!?
﹁今度、夕張を食べよう﹂
そうだ、今度夕張メロンを取り寄せられたらみんなで食べようじゃないか。
﹁⋮⋮っあ﹂
﹁俺は好きだぞ﹂
いやいや、前世と変わらない味なら俺は好きだぞ。
美味しいか⋮どうかは⋮その、提督次第じゃないですかね⋮﹂
﹁いや⋮え
?
?
?
提督(笑)と混沌と
546
﹁楽しみだな
﹂
取り寄せできたらいいよねぇ。
?
その日、メロンちゃんは執務室に戻ってこなかった。
まぁいいか、残った仕事片しながら待つとしよう。
執務室から出て行ってしまったけど⋮。
あれ、どうしたんだいメロンちゃん。
﹁うわああああああああああああああ﹂
547
提督︵笑︶は向き合います。
どこかの学校の教室を思わせる室内で、教壇に立つ男。
よぉーし、お前ら席につけー。
さて、教壇に立つのは俺、
そしてそこに集められたのは父島警備府にいる艦娘全員である。
まぁ、なんて言うのこれから南鳥島攻略に当って艦娘の皆さんとちょっと真面目に話
をしようと思う。
?
いざ、皆の前に立つと第一声がなかなか出てこないものだね。
﹁⋮⋮﹂
?
おい君達そんなに見つめるなよ、緊張しちゃうだろ
学校で校長の話なんて下向いて眠ってただろ
って艦娘さん達だから関係ないか⋮。
はぁ、いつまでもウダウダやってられんな。
よしっ。
﹁少し君達と話したい事がある﹂
提督(笑)は向き合います。
548
俺の何時もと違う空気を感じ取ったのだろうか。
時津風とかあたりが声を上げるかと思ったが、全員、黙ったままだ。
何でだろうか
?
だ。
﹁だが、私は君達の信頼に値する男なのだろうか⋮
?
そう、俺は大して強い人間じゃないんだ。きっと君達は俺を過大評価している。
﹁私は君達が寄せてくれる信頼をとても重荷に感じる﹂
だからもっとよく考えて欲しいんだ。
﹂
だけど、君たちの影に俺はいつも上司や部下や友、そういったものを感じてしまうん
⋮。
こんな俺に何でか知らないけど⋮。可愛い女の子に頼られるのは悪い気はしないさ
﹁君達の多くは私に信頼を寄せてくれていると感じている﹂
うか。
他の提督だって経験を積めば俺レベル以上になるのなんて多くいるんじゃないだろ
だが、それだけ。
﹁⋮他の提督達に比べれば場数は踏んできている事だろう﹂
クソッたれの神様のせいで、またこうして生きてこの場に立っている。
﹁嘗て君達が戦船であった時、私は君達と共に戦場を経験した﹂
549
﹁ずっと悩み悔やみながらも、自分を誤魔化して戦っていた﹂
時には泣いたり、膝が震えて何かに掴まってないと立っていられなかった。夜は怖く
なって眠れなかった。
﹁とてもじゃないが勇敢な軍人とは言えない男だ﹂
﹂
?
精一杯の強がりだけで、どうにか走ってきた。
﹁何より、私のせいで沈んだ君達に私はどういう償いをすればいい
どういう顔で接すればいい
?
死なせてしまった者。彼らは今こうやってのうのうと生きている俺に対して何を思
うだろうか
?
今日はこれで解散かな。
さて、すぐには答えが出せない娘さんもいるだろう。
﹁⋮⋮﹂
誰も残らなければ文乃と一緒に隠居生活かな。それも悪くないか。
きちんと向き合うって言うのは俺がこういう人間だと知ってもらう事だから。
それで全員が指揮下から離れるというならそれでもかまわない。
一度考えて欲しい。そんな男に命を預けていいのかと﹂
﹁君達が提督や司令と呼ぶ人間はこんな情けない男だ。それを理解してくれ。そして今
提督(笑)は向き合います。
550
﹁提督。それでお話は終わりでしょうか
んんーーー
﹂
﹂
?
何でいつも通りなん
﹁聞いてましたよ
﹁⋮話聞いていたか夕張
﹂
まぁ一応、作戦書カッコカリを持ってきてはいますけど⋮。
﹁そうですね﹂
﹁じゃあ次は作戦会議ですよね﹂
あるぇぇ
﹁⋮あぁ﹂
鳳翔がいつも通りの穏やかな微笑みを浮かべている。
?
?
?
﹁お、おう﹂
﹁鹿島さん私もお手伝いします﹂
俺が可笑しいのか
?
鹿島と大淀が紙を配り始める。
司令﹂
可笑しいな、何でノーリアクション
﹁ハイッ
?
﹁提督さん、そちらの紙を皆さんにお配りすればよろしいのでしょうか
!?
﹁どうした比叡﹂
!
﹂
?
?
551
﹁良く解りませんでした
さい﹂
とりあえずお姉さまに会うまで何があっても生きててくだ
うのだけど、その辺考えていらっしゃるのでしょうか
ニカッと笑みを浮かべる谷風。ほんまかいな。
﹁大丈夫だよ、提督。誰も沈む気なんてないからさ﹂
?
いやいや、俺を守って磯風や浜風が死ぬような事あったらもう俺、立ち直れないと思
﹁そうですね。必ずお守りします﹂
﹁司令、私が守ってやる。安心しろ﹂
比叡は通常運転だな。うんアホ可愛いぞお前。
!
﹁なぁにが罪を償うって 提督は重く考えすぎ。あたしは最後に提督の指揮下で戦え
あらやだツンデレ。ちょっと違うか⋮。
﹁天龍ちゃんだけじゃ心配だから私も持ちますねぇ﹂
あら、やだ惚れそう。
天龍様なら楽勝だぜ﹂
﹁提督が俺たちのこと重荷って感じるなら一緒に持ってやるよ。世界水準軽く超えてる
提督(笑)は向き合います。
552
あん時みたいに、強がりだろうとどーんと構えててくれりゃあとはこっちで何とかす
たことを誇りに思ってんだからさ。
?
るっての﹂
他の皆も沈みませんっ
くっ、ちょっとそのニヤニヤした顔が腹立つな長波。
﹁しれぇ雪風は沈みませんっ
そうか、そうだといいなほんとに⋮。
﹂
﹂
﹂
!
﹁貴方、今度私を置いて行ったりしたら許さないんだから
﹁置いてったら駄目だかんね﹂
本当に天津風に時津風は話聞いてたのか
﹁まっ、頑張りなさいな﹂
﹁提督さん。配り終わりましたよ
あぁうん。もう何か気が抜けてしまったよ初風。
?
一、規模によっては敵勢力の撃滅を狙うものとする。
一、南鳥島における深海棲艦勢力規模の把握
作戦方針
作戦名 船で来た
﹁そうか、なら各自、作戦書に一通り目を通して欲しい。質問等は随時受けつけよう﹂
?
!
!
553
提督(笑)は向き合います。
554
一、敵勢力規模が現時点で対応不能と判断した場合、即時撤退する。
要は今回は強行偵察といった感じ。
実際、自分で深海棲艦の勢力下の海がどんなもんか見ないと判断できないし、見てか
ら判断しましょって作戦。
作戦とも呼べないような作戦だ。
艦隊編成
南鳥島に行き隊
旗艦 平波 航空戦艦 飛叡 空母 お艦 軽巡洋艦 メロンフライ 中二病 DTキラー
駆逐艦 波平 セイバー パーセント 江戸前 ぜかまし
父島に残留し隊
軽巡洋艦 たっちゃん
駆逐艦 初風 ビーバー 天津飯 座敷犬
とまぁこんな感じの艦隊編成だが、異論は認める。
ただ、初風は俺の指揮下に入っているわけではないから、お留守番かな。
流石に一人だけ残すというわけにはいかないから同じ駆逐隊だった雪風、天津風、時
津風を残そうかなと言った感じ。
事前に、俺が赴任する前の事を中二病の天龍ちゃんに畑仕事しながら聞いておいた。
軽巡1駆逐3で艦隊を二つに分けて遠征と哨戒を行ってたようだ。
よくもまぁそれでどうにか回っていたものである。
おっちゃん感動して﹁よく頑張った﹂なんて上から目線で褒める事しかできなかった
けど。
それでも天龍ちゃんちょっと誇らしそうに照れてた。
思わず、角撫でまわしてまたぶん殴られそうになったけど⋮。
あと漢字間違ってますよ
﹂
硫黄島のホモ提督にもお願いしたし、これでどの程度出来るのか計りたいね。
﹁ハイ司令﹂
元気良く手を上げるヒェー
﹁なんだ比叡﹂
﹁私、航空戦艦じゃないですよ
?
仕様です。ボケにまじめにツッコミを入れないでいただきたい。
?
555
﹁ではこの字に改名しろ﹂
﹁そんな馬鹿な⋮﹂
冗談に決まってるじゃないですか。アホ可愛いなコイツゥ。
﹁あぁ⋮毒されてる⋮﹂
メロンちゃんがブツブツなんか言ってる。
﹂
﹂
秘書艦していたあの日から、メロンちゃんがちょっと余所余所しい。
理由は分からない。
今度はお艦が挙手している。
﹁あの、提督、宜しいでしょうか
﹁お艦というのは私の事でしょうか
?
ないでしょうか﹂
﹁ですが、やはりこういった作戦書は普通に書かれる方が皆さんも分かりやすいのでは
﹁⋮うむ﹂
手を打って納得と言った表情を浮かべるお艦。
﹁あぁ、それで空母の母と掛けているって訳ですね﹂
﹁そうだ。関西では母の事をおかんと呼ぶそうだ﹂
?
﹁どうした鳳翔﹂
提督(笑)は向き合います。
556
﹁⋮そうか。こういうのが流行っていると思ったのだが、後で修正しよう﹂
お艦は純粋で真面目やな。もうおっちゃん何も言い返せないよ。
﹁ツッコミたい⋮とってもツッコミたい﹂
﹂
﹂
キラーついてるやつだと思うけどな Dは
またもやメロンちゃんがブツブツ言っている。
﹂
﹁おい、それ絶対間違ってる知識だろ
キラーの前は言葉に濁している鹿島ちゃん流石だ、あざとい。
﹁提督さん。それじゃあ私が、そ、その⋮キラーなんでしょうか
いや、多分そんなに間違ってないと思うんだけど⋮。
!?
!
突っ込んでくれてええんやで
Tってなんだ
﹁なぁ提督。俺はちなみにどれなんだ
ドラゴンだろ
DTキラーは小悪魔鹿島さんです。
﹂
﹁天龍は中二病だな﹂
﹁え
?
?
?
残念。天龍ちゃんは中二病です。
?
﹁眼帯して、指貫の手袋している者は中二病だ﹂
?
﹁練習艦だったのだ。初めて乗るという意味で間違ってないと思うのだが﹂
?
557
﹂
香取と違って鹿島は実際には練習巡洋艦として活躍はしてないけど。
﹁あぁそういう意味で⋮いや納得できませんよ
﹁まぁいっか速そうだし﹂
﹁⋮そうだな﹂
﹁島風は逆から読んだだけなの
﹂
流石波平さんもとい長波様。分かっていらっしゃる。
﹁あ、あたしはどれだかわかるからいいわー﹂
!?
かったんだもん。
ちょっとその理論は理解不能だけど、あとはあからさま過ぎる言葉しか思い浮かばな
?
﹂
⋮語彙の無い俺を許しておくれ。
?
よね⋮。
いや、どういうことか知らないけど⋮。ちょっと襷掛けの胸の食い込みとか言えない
﹁パーセント⋮可能性⋮そういう事ですね提督﹂
あぁそう。気に入ってくれたならよかった。
﹁ほう。セイバーか。うむ気に入ったぞ司令﹂
﹁磯風はセイバー、浜風が%、谷風が江戸前になる﹂
﹁司令。私はどれだ
提督(笑)は向き合います。
558
﹁なんだか納得できるような出来ないようなモヤモヤするねー﹂
そら、貴女大阪生まれなのに江戸っ子口調つこうてるから仕方ない事でしょ。
何だコレ。
?
﹁座敷犬﹂
﹁しれー﹂
ゆきかじぇはほんまにいい娘や。
﹁ハイ。わかりましたっ﹂
﹁ビーバー﹂
﹁しれぇ﹂
全然しっくりこない。
うん
﹁はぁ∼い﹂
﹁⋮たっちゃん﹂
﹁提督∼。このように呼んで頂いてもいいですけど∼﹂
ヘタレということなかれ。
龍田さんの場合は他の候補が身の危険を感じたので一番柔らかいのをチョイス。
﹁そうだな﹂
﹁それじゃあ、たっちゃんって私の事ですね∼﹂
559
﹁えー
なんでー
﹂
?
﹂
﹁⋮そういう訳では無い﹂
﹁じゃあ何でさー
心なしか少し悲しそうか
﹂
﹁初風は俺の指揮下に入ってくれるか
﹁初風あなた繋がってなかったの
天津風が驚きの声を上げる。
﹂
?
意地悪はよくないよー、よくない﹂
﹁待て、天津風。指揮下に入るかは艦娘本人の意思なのだろう
はならん。本人が納得して入ってこそだ﹂
ならば無理に勧めて
?
!?
?
?
?
?
いや本当にハブってるつもりは無いんだけどなぁ。
﹁しれーなんで初風に変な名前付けないのー
ツチノコさん君は指揮下に入ってないからしょうがないじゃない。
﹁私はそのまんまなのね﹂
あまつんはまぁ結構、そのまんまだしな。
いわ﹂
﹁貴女にはピッタリじゃない時津風。私なんか中華料理になってるのよ 信じられな
いや、けっこうそのまんまだと思うんだけど。
?
﹁時津風⋮。いいわよ別に﹂
提督(笑)は向き合います。
560
﹂
﹁司令。私は結構強引に指揮下に置かれましたけど
おいアホの子。空気読め
﹁私は⋮その⋮﹂
お艦に諭されるヒェー。
﹁ヒェッ﹂
﹁比叡さん、少し黙ってましょうね
!
﹂
!
ほらさっさと指揮下に入れなさい﹂
場の空気に流されてないか
?
﹁⋮いいわよ。入っても﹂
﹁本当にいいのか
﹁あーもうっ、大丈夫よ
!
?
うん
何ともないな。
?
これ本当に指揮下に置けているのかい
?
初風に近づき向かい合う。座っている初風の頭の上に手を乗せる。
﹁そうか﹂
﹂
指揮下に入って無くても普通に哨戒活動とかしてくれてるし、何も問題ない。
追い出す気なんてさらさらないから、好きにしたらええんや。
しよう﹂
﹁⋮初風。俺の指揮下に入らないからと言っても、今までと何ら変わらない生活を約束
?
561
││大丈夫だ。問題ない。
そうっすか⋮。
なら、
初風改めツチノコよ。
﹁これからよろしく頼む。ツチノコ﹂
﹂
﹂
何を驚いた顔をしているんだね
﹁⋮え
﹁ツチノコってなんでしょう
ツチノコ本人には不評らしい。
!?
﹂
?
あぁ、その事か。
﹁どうして私の名前がないのでしょうか
﹂
大淀さんが凄く真剣な顔で俺を見ている。
﹁どうした大淀
﹁提督。お訊ねしたいことがあります﹂
﹂
ゆきかじぇの言葉に天津風が答え、
﹁幻の珍獣だったハズよ﹂
?
?
?
﹁ちょっと気に入らないんだけど
提督(笑)は向き合います。
562
?
そういう話じゃなかったっけ
﹁大淀は一度本土に戻ると言っていたから、そろそろ戻る頃かと考え、念のために今回は
除外しておいた﹂
﹂
﹁⋮戻りませんよ﹂
﹁え
あれ、そうなの
﹁戻りませんよ﹂
?
?
﹁そうか﹂
﹁はい。なので私は出撃組でお願いします﹂
黒板にそれぞれの名前を書き込んでいく。
﹁⋮分かった﹂
で、大淀は出撃組っと
﹂
?
﹁⋮⋮﹂
﹁まだ何かあるか
﹂
﹁あだ名﹂
﹁え
?
?
﹁私だけないのは不公平ではないでしょうか
﹂
まぁ戻らないならそれで全然構わないんだけど⋮。
?
563
﹁え
﹂
﹁私だけないのは不公平ではないでしょうか
﹂
﹂
同じこと二回言ってる。そんなにつけて欲しいの
﹂
えっと、じゃあ⋮
﹁⋮委員長
﹁委員長ですか﹂
﹁あぁ⋮ぽいですね
全員が出撃希望とは⋮。
じゃあ皆で話し合いましょうか。
あぁまぁ初風指揮下に入ったし、出撃組でも構わないのだけど、
﹁しれー時津風を置いて出撃なんてあり得ないよー﹂
そう思うだろメロンちゃん。
!
?
?
?
?
﹁どうすんだ提督
﹂
あれ意外と天龍ちゃん計算強いの
?
﹁いや、そこまで燃料はねぇだろ。最低3人は残る事になるな﹂
﹁この際、全員で行ったらいいじゃない﹂
提督(笑)は向き合います。
564
?
そうねぇ
﹂
!?
そう作戦名 船で来た とは平波に乗って行ったらいいじゃないという意味なのだ。
﹁父島の警備をどうにかしなくてはならんが、平波に全員乗っていけばよかろう﹂
﹁ほんとかよ
硫黄島のホモ提督に頼んでみてになるけど⋮。
だけどそれをすると父島どうするのってなっちゃう。
﹁全員で出撃出来ないわけでもない﹂
565
システムエンジニアとして納期に追われる日々、二徹、三徹は当たり前。そんな生活
ルが今の彼を形成してしまったのである。
男のそんな態度を擁護するのであれば、この世界に転移する前の習慣、ライフスタイ
規律を重んじる者からすれば、それがさらに苛立たせる。
一部では昼行燈などと揶揄される。本人に至ってはそんな言葉どこ吹く風であるが、
るこの男。
海軍服の襟元を開けて着崩して、いつも眠そうな濁った瞳を携え飄々とした態度でい
と続く。
題を正しく理解しているのかと疑問を抱かざるを得ない。
さらに続けるのであれば、果たして彼らはこの国を救う気が、この国が瀕している問
りである。
暑い日差しを避けながら呉鎮守府内を歩く男の胸中を占める心境を語れば前述の通
会議は踊る、されど進まず
提督︵笑︶の艦これ
提督(笑)の艦これ
566
567
を何年も続ければ自然と瞳は曇り、歩く背中を見れば哀愁が漂うというものである。
仕事で擦切れた精神は転移の際に若返りという恩恵を受けたとしても、どこかからと
もなく達観した雰囲気が滲み出てしまうのである。
この男、呉鎮守府所属の転移組提督の一人。
名を 後上 雷蔵︵ごがみ らいぞう︶と昭和の終わりの年に生を受けたにしては些
か古風な名を親から賜った。
ちなみに転移組同士のチャットでのハンドルネームはライバックである。
退役間近の戦艦アイオワが乗っ取られ、元特殊部隊のコックが活躍する映画と、自分
の名前を掛け合わせたものである。
転移直後にライバックと名乗って嘘つけと言われ、本名を名乗ればこれまた嘘だと決
めつけられた、些細な過去を持つ男である。
他国に艦娘を派遣するねぇ⋮。
自分の手駒にならない厄介者をお払い箱にしたいってだけじゃないかと思えてしま
うけど。
と先程の会議の様子を思い出すライバック。
細倉中将という爬虫類を思わせるような眼を持つ上官と正義感の強い若手将校と提
督達が激論を交わしていた。
提督(笑)の艦これ
568
それを早く終わらんものかと口を開くこと無くずっと様子見に徹していた。
ここでそんな会議開いても何も決まる事無く、海軍上層部の判断と最終的には政府判
断である。
不毛な会議だ。
それを分かってあの中将はやっているのではないかとライバックは考えていた。
会議は最終的にもしも派遣するにあたっての場合、誰を送るかという候補のピック
アップで終ったが、それすら艦娘が否と言えば頓挫するのだから、本当にこの会議を開
く意味があるのかと問いたい。
硫黄島のホモあたりならあの中将の真意を推測することが出来るのだろうが、自分は
生憎と技術屋で、陰謀、謀略は専門外。今日の事を早速そのホモに相談しようと歩みを
進める。
苺入り餃子は今日は来るだろうかと思いながら、先日は終始固い言葉を崩すことはな
かった。
転移前は船乗りだと言っていた。もし今日、彼が訪れる事があれば長野壱業の事をど
う思っているか聞いてもいいかもしれない。
長野信者の可能性を考えて初日はその辺り触れないで行こうと意見を固めていたが、
今日はもう少し踏み込んでみよう。
それにあれだけのプロテクトを組む電脳戦の腕、色々と話したい。
自分の執務室までもう少し、廊下を歩きながらその様な事に思いを馳せて、それでも
背中には哀愁が漂っているが⋮。
そしてようやく自分の城に戻ったライバックを出迎えたのは彼の指揮下の艦娘の一
人。
腰まであるロングストレートの黒髪と真紅の瞳。
頭には艦橋を意識したヘッドギア、首には首輪のようなパーツ、SFチックな裾の短
い和装は袖なしのフィット感あるもの。
腰は艦首を模した大日本帝国の菊の御紋をあしらったベルトにミニスカート。
アスリートの如く鍛えられた腹筋が上着とスカートの間から覗き、健康的であり魅力
的である。
しかも胸部装甲も大きくまさにわがままボディ。 大日本帝国が世界に誇る戦艦ビックセブンの一人、長門 である。
﹂
?
⋮。声が届かなかったのか無視したのか⋮。
﹁うむ。さきほど金剛が凄い形相で走っていったのでな。呼び止めようと思ったのだが
﹁どしたの長門
﹁提督よ。戻ったか﹂
569
とにかく尋常な様子ではなかったので少し気になってな﹂
せっかく良い知らせを持ってきたというのに言いそびれてしまったで
﹁⋮あぁ。ちょっとまずいかも﹂
はないか﹂
﹁何があった
﹂
まぁいいやさっきの会議でさ﹂
?
!
は長門へと懸念を話す。
!
﹁おい、きちんと説明しろ﹂
長門に答えながら、自分の机のパソコンに電源を入れ、操作し始める。
それか。思ったより事態は切羽詰まってるかもしれない﹂
﹁まぁね。俺らがいくら言ったところでどうにかなる問題じゃないんだけど⋮。狙いは
ふざけるなッ
﹂
大分大きな声で言い合いになったからねぇと飄々とした態度を崩さずにライバック
しまったかもしれないと。
もちろん決定事項ではないし、自分たちにそんなことする力も無いがそれを聞かれて
先程行われていた会議で、海外派遣する艦娘の候補として金剛の名が挙がった。
﹁提督に隠し事は良くないよ
﹁それは提督は知らなくていい事だ。それより何があったか話せ﹂
﹁良い知らせ
?
?
﹁その様な事をっ
提督(笑)の艦これ
570
﹁分かってるよ。とりあえず落ち着きなさいな﹂
長門には分からないことを口走りながら、カタカタとキーボードを叩き続ける提督。
一頻りして、長門に少し視線を向け、話し始める。
ここ数日、不毛な会議を行っていた事。
細倉中将の狙い。
何らかの切っ掛けでその会議の内容が金剛の耳に入るようにしていたのではないか。
細倉中将は表立って艦娘を否定はしていないが、扱い辛い者は遠ざけるように仕向け
ているのではないか。
これは確証を持てないが、一定数の艦娘が僻地に追いやられている現状を見ての推
測。
どうにか硫黄島のホモはその受け皿になろうとしている。
そこの一時預かりしている艦娘から何か聞ければと今、その硫黄島の提督と連絡を
取っている。
そして金剛に会議の内容を聞かせてどうするつもりなのかを硫黄島の提督の憶測を
聞いた所。
それを一気に長門に話す。
﹁あぁ⋮ミコトじゃ当てにならんかも知れない﹂
571
宿毛湾の女性提督を思い浮かべ天井を見上げる。
﹂
思えば、大和や金剛が何故内海である呉に移動して来たのか考えるべきであったかと
後悔するも遅い。
﹁今から追いかけたとして長門なら止められるかい
そして、
相討ちにでもなれば本末転倒ではないかと悔しそうに、口惜しそうに言葉を紡ぐ。
は無いが、ただで済むとも思わん﹂
を紡ぎだせるとは思わん。そうなれば力づくという事になろう。私とて負けるつもり
﹁私と彼女とでは速度が違う⋮。よしんば追い付いたところで私に彼女を説得する言葉
その長門は唇を噛み締め、強く強く拳を握り締めているのに気づく。
もう少し声を荒げて反論してくると思ったライバックは長門へと視線を向ける。
﹁⋮無理だな﹂
?
その二人の様子を陰から重巡艦娘が覗いている。
天井を一度睨みつけ、キーボードを再び叩きはじめるライバック。
⋮恨むよ長野さん。貴方は大きすぎたよ。
その言葉は自分に言い聞かせるように執務室に響く。
﹁この長門は託されたのだ。護らねばならんのだ﹂
提督(笑)の艦これ
572
照り付ける太陽はもうすぐ本格的な夏の到来を予感させていた。
線を後退させた。
その折にマリアナ諸島の放棄も決定し、マリアナの住民を引き連れハワイ諸島まで戦
艦発生から一年、日本から駐屯軍撤退を決定。
さらに南へ行けばグアムやサイパンを含むマリアナ諸島があるが、アメリカは深海棲
本国海軍の軍事基地が置かれている。
もともと無人島であったが、太平洋戦争時は日米の激戦が繰り広げられ、現在では日
原諸島の南端近くの島である。
ここは硫黄島。帝都東京から南へと1250km。東西8km南北に4km。小笠
トップ姿で執務に励む。
何時もの様に哨戒活動の定時連絡を聞きながら、その男はいつも通り上半身タンク
﹁ご苦労﹂
﹃本日も異常なしにゃっしい﹄
573
今では深海棲艦が蔓延る赤い海が広がっている。
米軍撤退の折、日本側も協力し少なくない日本国海軍の犠牲があった。
その際、呉の海軍ミュージアムに記念艦として係留されていた長門が復帰し撤退作戦
に従事、没するという事もあった。
﹂
ライバックの指揮下である長門はそこまでの記憶があるというのだから驚きである。
﹁なぁ君、これの続きは何処なん
どっからだしてんねんっ
﹂
提督としても優秀である。だが、ホモである。
気である。
形のいい眉、涼し気の目元と、柔らかく微笑む口元は上品でまさに優男といった雰囲
問われた男は硫黄島所属の提督の一人、
軽空母の艦娘、龍驤の左手には﹃水平線のダイヤ・上﹄と書かれた一冊の本。
たのかタンクトップ男に問う。
駆逐艦かと見紛う姿を持つ軽空母の艦娘が本棚を眺め、目当ての物が見つからなかっ
?
!
実際は龍驤の見えない位置の引き出しから取り出して、そう見せるようにしたのだ
龍驤には男が股間から取り出したように見える。
﹁うげぇ
!?
﹁それならここに﹂
提督(笑)の艦これ
574
が、
何故そのような事をしたかと言えば単にそうして相手の反応を見たかったからであ
﹂
自分の指揮下にいる艦娘達とではこうはいかないのである。
男は違う話題を振る事にした。
﹁君は意外と歴史に詳しいのだな﹂
﹂
﹁あぁ∼。たぶん艦長の影響やね。艦長、歴史小説ちゅーの
﹁それは実に興味深い。他に何かないのかね
?
﹁せやね⋮。あとは、よう長野提督に文句言っとったで﹃あの野郎の無茶振りでいつもド
?
好いとったからね﹂
込まれたところで、お目当ての本を手渡し、その際若干受け取りを躊躇っていた龍驤に
そうして一通り会話を楽しみ、股間から出していないことを言えば﹁アホかッ﹂と突っ
!
る。
男の名は 本多 丈一郎︵ほった じょういちろう︶ハンドルネームはアァーー
転移組の提督の一人でもある。
﹁君の為に温めておいた﹂
アンタはサルかっ
引き出しから取り出したのでもちろん嘘である。
﹁草履と一緒にすんなや
!
打てば響くこの艦娘との会話を男は楽しんでいた。
!
575
サ周りだ﹄てなぁ。ウチもそう思うわ。まっ、一番無茶しとったのが長野提督なんやけ
どな⋮﹂
タハハと笑う龍驤はどこか懐かしむような笑みである。
﹁君の艦長と長野氏は同期だったか﹂
手渡された本の背表紙を撫でる龍驤。
﹁せやね。だからウチの沈んだ後どんだけ無茶やったんかと思ってな﹂
﹁映画だとどうしてもカットせざる得ない場面も多々あるからな﹂
もっとも小説という形式をとっている以上エンターテインメント性も盛り込まれて
いるから、それがすべて真実と鵜呑みにするのも良くないのだが、
実際本物を知る彼女ならそこまで気にしなくてもいいのではないかと思い直し、言葉
を飲み込んだ。
そうして龍驤は読書をはじめ男も執務を再開する。
絶対嘘やん﹂
時折、一言二言言葉を交わし龍驤は小説に突っ込み入れながら時を刻む。
?
男は目を通していた書類を置き、小説の内容を思い出す。
どうやら、小説はこの島を舞台にした話に差し掛かっているようだ。
﹁硫黄島より北は内海だと思うてたって。絶対確信犯やろコレ﹂
﹁漂流して座礁
提督(笑)の艦これ
576
内海待機を命じられた長野だが、呉は艦船が多くいざという時に身動きが取れなくな
ると具申して移動した。
その前に硫黄島を巡る方針で上層部に噛み付いたこともあり、厄介払いできたと上層
部も思っていたのに違いない。
金剛と榛名、時雨と夕立、機雷敷設艦高栄丸を引き連れ、何故か父島へと赴く。
榛名と高栄丸を父島へと残し、榛名から燃料を抜き、マーシャル諸島で米国輸送艦隊
を襲い、中型タンカーと物資輸送船を拿捕してくるというウルトラCをやってのけ、食
糧と医療品を積んだ輸送船を硫黄島に届ける。
ただし、日本側史料ではマーシャルでの戦闘は一切記載されていない。
その際の硫黄島の最高指揮官との会話はなかなか面白いものだった。
﹂
?
﹁暫くはブレット食で将兵には我慢して頂くことになるかと思いますが﹂
﹁はっはっは。そうか漂流して座礁か﹂
﹁漂流して座礁した米国の輸送船がおります。物資の運搬に人手をお借りしたく﹂
﹁そうかね。本日はどのような赴きかな
戦前より付き合いのあった二人の会話は終始穏やかであった。
﹁お久しぶりです栗林閣下。私も妹も息災であります﹂
﹁久しぶりだね長野君。妹君は達者かな﹂
577
そんな感じの会話文であった。
この後、戦略の話になり、硫黄島への米軍来襲した際、海軍の協力は難しい事に長野
が申し訳なさそうに伝える。
数日のうちに来襲されるであろうと予測を伝え、それと共に硫黄島に長野たちが駐留
していた事にして欲しいと願い出てそれを最高指揮官が承諾するという形であった。
実際には父島に引き返す。その際上陸予測地点付近の海域に機雷をばら撒いて、硫黄
島に米軍が攻め込み暫らく経った新月の夜に榛名、夕立、時雨を率いて夜間艦砲射撃を
行っている。
本土に戻った長野に対して上層部は﹁内海待機と命じたはずだ﹂と呼び出し﹁硫黄島
より北は内海だと思った︵キリッ﹂と返すのである。
手土産に中型タンカーがあるのと艦船は無傷であったことから大事に至らなかった。
また陸軍から珍しく感謝されて強く言えなかったというエピソードだ。
﹂
小説の内容を思い出し終り、再び書類に目を通し始める男。
?
と龍驤が問う。
?
﹁海軍学校2カ月で卒業。現在、16人指揮下に置いているそうだ﹂
これは転移組の提督の事を指している。
君らと同じような奴なんやって
﹁せや、新しい提督が父島に着任したやんなぁ
提督(笑)の艦これ
578
﹁は
なんやねんソイツ﹂
?
﹁⋮金剛が暴走したかもしれない﹂
る。
パソコンに向き合う男に龍驤は不完全燃焼だが、次の言葉で天井を見上げる事にな
﹁っと、すまない。緊急事態らしい。話は後で﹂
﹁待ちぃな。あそこはここにいる娘らより問題児扱いされとった娘がいる場所やん﹂
﹁こちらに来る前は船乗りをしてたそうだ﹂
579
提督(笑)の艦これ
580
南鳥島まで660海里 キロメートルに直せば1250km 15ノット︵時速27
km︶で艦隊行動すれば二日で着く距離。
ホモ提督に承諾貰えて、父島の軍人さんにちょっと哨戒活動の一環として深海棲艦勢
力下覗いて来ていいかとお伺いを立て、好きにしたら︵意訳︶と頂きましたので、
なんやかんやと余裕をもって平波で行く6日間船の旅。
そんな船旅の中、私はとても混乱いたしております。
この世で起きる全ての物事には、結果があり、過程があり、切っ掛けがある。
それらをそこから更に突き詰めていけば箱の中の猫だったり悪魔だったり宗教や哲
学という思想が生まれるのではないか。
人は旅人であり、探求者である。
そう言ったのは誰の言葉であっただろうか
さて、長々と御託を並べてしまったが、結局のところ俺が何を言いたいのかと述べさ
の前の現象と言えるのではないだろうか。
切っ掛けは俺という存在で、過程は俺が過去に行ったことになり、結果として今の目
いびぃ⋮、
目の前︵モニター越し︶で行われている現象を紐解いていけば、多分⋮、恐らく⋮、め
?
せていただく。
俺の知っている艦これと違う。
どうして、メロンちゃんは
﹁おりゃああああ﹂
?
という掛け声とともにアンカーチェインを振り回し、アンカーを海にぶち込んで、ヨ
﹂
級を釣り上げているのでしょうか
﹁おっしゃああ
三枚に下しているのでしょうか
﹂﹂﹂
?
どうして天龍ちゃんはそれを当然のように受け止め、釣り上げられているヨ級を刀で
!
皆々様方、爆雷という装備は御存じでしょうか
いるのでしょうか
どうしてそれを甲板の上から見ている艦娘の皆さんは拍手をして平然と受け止めて
﹁﹁﹁おーっ
!
私は今、とても混乱しています。
?
?
581
提督︵笑︶の戦いはこれからだ
深海棲艦勢力下の赤い海に突入して何度かの戦闘を終えた所。
﹂
長波は前方を悠々と行く平波を見ながら考えていた。
﹁なぁ雪風﹂
﹁なんでしょう
側の攻勢圧力が増して、今の状態になっている。
もともと深海棲艦勢力下に入るまでは一分艦隊で哨戒を行っていたのだが、深海棲艦
哨戒、一分艦隊を待機休息としている。
現在、長野艦隊は艦娘16人という事で4人で一分艦隊として4つに分け、三分艦隊
僚艦になっている艦娘へと問いかける。
?
何度も魚雷を避け、航空機を落とし続けている。
出し続ける。
魚雷が流れていこうが、敵航空機から狙われようが自身の提督は慌てず騒がず指示を
﹁雪風もそう思います。しれぇは凄いです﹂
﹁提督って変わってるよなぁ﹂
提督(笑)の戦いはこれからだ
582
シーワックス平波の武装に関して説明すると、艦前方に127mm単装速射砲1基、
後部に20mm連装機銃1基︵妖精さん用︶である。
あとはレーダーとソナーと言ったものと対魚雷デコイ。劣化イージス艦のような艦
である。
現代の兵器が深海棲艦に効かないとされているが、厳密に言えば微々たる効果はあ
る。
深海棲艦航空機であれば撃ち落とすことは可能である。本土が保たれているのはこ
の影響が大きい。
また、魚雷に関してもデコイは効果を発揮する。
ただし、リンクシステム、イージスシステムと言ったものは全く役に立たたない。
つまり長波たちの提督は手動で迫りくる深海棲艦航空機を撃墜していることになる。
﹁そりゃそうなんだけどさ⋮﹂
敵の攻撃が平波に向かったことを謝れば﹁気にするな。誰か被弾した者は ﹂とこち
らを心配する始末。
出撃する少し前の指揮下の前で漏らした言葉は⋮。
自称、自分は情けない人間だと言っていたあの言葉は何だったのかと考えてしまう。
?
583
島風の速さ﹂
提督としてはこれ程頼りになる者はいないと思えるのだが、何かが長波には引っか
かっている。
﹁パパ見てた
そんな提督に何が引っかかるのか。
もっとも提督の慌てる姿というのも想像しがたいものがある。
たが今ではいつも通りの口調で返す提督。
無邪気に通信で呼びかける島風にパパと呼ばれることに若干の戸惑いを見せてはい
﹃⋮警戒していなさい﹄
?
﹂
﹁⋮長波さん﹂
﹁あん
?
心配事って言うんじゃなくてな。何か引っかかるていうかさ﹂
?
る。
頭を掻きながら唸る長波の言葉を雪風は考え始め自身の首にかかる双眼鏡を手に取
﹁ほんと、うまく言えないんだけどさ﹂
る。
長波は自身がはっきりと把握していない引っ掛かりを拙いながら雪風へと説明をす
﹁う∼ん
﹁心配事があるなら話してください﹂
提督(笑)の戦いはこれからだ
584
艦時代に色々と見て来たものが蘇る。
楽しかった思い出も辛かった思い出も⋮。
自身が何も出来ずに仲間の沈む姿を何度も焼き付けて、それでも絶望しなかったのは
南方では必ずしれぇがどうにかしてくれていたから。
ずっとずっとそうやって誰かを守って助けて⋮、最期は⋮。
⋮あぁ、そういうことなんだ。
長波の引っ掛かりというのに雪風は気が付いた。
﹂
主要な海戦に何度も参加したからこそ気が付いてしまったのかもしれない。
どっか被弾したか
!?
﹁⋮長波さん﹂
ど、どうした
!?
ちょ、ちょっと待て。ゆっくり分かるように説明しろよ。ほら、深呼吸しろ﹂
!?
﹁そうだな﹂
言ってました﹂
﹁しれぇは最期の戦いで金剛さんと沈んだと思ったらこの時代にいつの間にか居たって
長波が宥め、雪風はそれに従う。そして自身の考えをポツリポツリと話し始める。
﹁うぇ
﹁しれぇは⋮壊れちゃってます﹂
泣きそうな顔で呼びかけて来る雪風にギョッとする長波。
﹁うぇ
!
585
﹁しれぇはあの時のままです﹂
れない。
もしかしたら、あれがもっと固い文章で色々書かれていたら誰かが止めていたかもし
だが、あのふざけた作戦書のせいで注意が逸れた。
この作戦だってもともとおかしかった。
考えてみたら当たり前の事だった。
提督は自分の命っていうものは全く考慮していないんだ。
い。
でいった者達に対しての自責の念で、決して自分が死ぬことが怖いからという訳では無
だけど、悩み悔やんだのは仲間の死で、情けない男と言ったのは自身の指揮下で死ん
きっとあの出撃前に言った事、それは提督の本音だったのだろうと。
そこに自身を顧みるという余地はなく、常に戦いに身を投じ続け戦果を上げていた。
提督は護国の鬼となり、国を救おうとした。
その言葉だけで長波は自身が何に引っ掛かっていたのか理解をした。
﹁⋮あぁ。そういう事⋮か﹂
提督(笑)の戦いはこれからだ
586
﹁ったく、戦は上手くても生き方が下手なんだから。⋮何としても提督を守って帰った
ら説教だな﹂
﹁上官に噛み付くのは提督の十八番だろ ならあたし等がやったっていいさ。もし聞
雪風は決して幸運だけで生き残った艦ではないのだ。
普段はアホっぽいのにやはり歴戦艦だなと思い直す長波。
﹁しれぇは聞いてくれるでしょうか﹂
587
?
こっち見ろ雪風﹂
かなかったらそれじゃあ軍令部と同じじゃないかって言ってやりゃいい﹂
今、わざと間違えたろ
﹁⋮波平さん﹂
﹁おいっ
!
呉鎮守府 ライバック執務室内
時は少しだけ遡る。
吹けない口笛を吹いて明後日の方向を向く雪風である。
!?
﹂
苛立った様子の自身の配下の艦娘、長門を見ながら後上雷蔵ことライバックは何度目
かの溜息をついた。
提督、私を出撃させろっ﹂
﹁ちょっとは落ち着いたらどう
﹁落ち着いていられるかっ
?
しょ
他の提督達にも掛け合ったけど何処もうちと同じような感じで人手不足﹂
﹁出撃させてあげたいのは山々なんだけど、うちの子達は青葉以外船団護衛の遠征中で
!
態だけは避けられるのではないか。楽観的過ぎは良くないとは思うけど。
それでも榛名と浦風がすぐに追いかけて行ったから、どっかで追い付ければ最悪の事
一部は非協力的だし⋮。という言葉は飲み込んだ。
?
﹂
?
金剛は紀伊水道を超えて東に向かっているところまでは把握できている。
だが、それはハズレた。
豊後水道︵四国と九州の間︶を抜けて、沖縄方面へと季節柄も考慮して網を張ったの
そしてまたライバックはため息をつくのである。
同じようなやり取りをかれこれ数回は行っている。
るから⋮ってこれ何度目だ
﹁青葉と二人でというのは認められないからね。 あと数時間でうちの子達が戻って来
提督(笑)の戦いはこれからだ
588
沖縄には正規空母艦娘が張り付いているから、哨戒網を抜ける手間を嫌ったのか。
本人にしかわからない事だが、激情に身を任せているとは言え意外と考えなしで動い
ているという訳でもなさそうだ。
﹂
?
だ﹂
?
が入る。
何故だ
この時期にやることはまぁ間違ってないだろうけど⋮。
?
ちょっとホモに通信繋いでみようかと考えた所で、通信端末に着信の文字
だけどこの世界で
クリスマス前とか夏になるとその手の番組は結構やってたけどね⋮前の世界だと。
事は起こさせんぞ﹂
が⋮。まぁ偶には妹に顔を見せてやれという事だろう。尤ももう会えな⋮いや、そんな
﹁⋮陸奥にそう言われたのだ。あとは父島にいる比叡に必ず会いに行けとも言っていた
﹁それ隠す様な事なの
﹂
定的なものになるそうだから、金剛にも少しは慰めになると思ったのだが⋮こんな事態
﹁⋮ふぅ。今度、長野提督の特集番組をやるそうだ。⋮あの日に合わせてな。だいぶ肯
﹁そういえば、良い知らせがどうとか言ってたけど、それなんなの
長門を落ち着かせるためにも何か違う話題をと考えるライバックは
﹁硫黄島のホモ⋮本多提督に頼んだってこれも何度も言っているか﹂
589
?
﹁はいはい﹂
﹃落ち着いてる場合かっ
﹄
﹂
いや、良かったのか あぁもうっ とりあえずホモに
!
んの事話してしまって⋮﹄
﹁みなまで言うな。頭が痛くなってきた。このアホッ
﹂
こめかみを抑えて天井を仰ぐ。
﹂
?
!
﹃⋮ごめんなさい﹄
伝えるっ
﹁そうじゃねぇよアホッ
﹃その辺は駆逐艦を愛でる者として抜かりなく﹄
?
!
そうして通信を切り、今度はホモへと通信するのであった。
﹁⋮大人しくしておいて﹂
イバックの指示を仰げって﹄
﹃⋮それはもう伝えた。超グサグサくる言葉で責められましたとも⋮。それであとはラ
!
﹂
﹃⋮ぐぬぬ。さっき白露型のわんこちゃん達がうちの鎮守府着いてさぁ、つい金剛ちゃ
通信相手は星崎美琴こと雷電☆命である。
﹁いや、いきなりなんなのさ
?
!
﹁⋮あれ、補給はどうした
提督(笑)の戦いはこれからだ
590
軽空母龍驤は海を滑り、頻りに自身の艦載機を発着艦させていた。
それに答えるのは膝まである銀色の髪をもつ少女。
﹁もぅまたそんな事言ってぇ﹂
朝潮型駆逐艦9番艦の霞︵かすみ︶。
ちの艦娘。
白いシャツの上に紺色のジャンパースカート。首元には赤い紐リボンという出で立
勝気そうな瞳はオレンジと黄色の中間といった不思議な色彩。
毛先の方は少し青みを帯びている。
灰色の髪を右側に流したサイドテールは青緑色のリボンに結わえられ、
﹁ったく。ほんとにどいつもこいつも﹂
その龍驤に同伴するのは、
﹁ほな、いっといでぇ﹂
591
その髪を淡黄色のリボンで後ろで二房にくくっている。そしてアホ毛が一本。
前髪は顔にかかるくらい長く、特に右のもみあげの辺りは先を切りそろえた状態で胸
元くらいまで伸びている。
また、長波と同様に髪の内側が深青色になっている不思議な髪質でもある。 瞳は薄い茶色。
服装は夕雲型共通の白いブラウスと赤紫のワンピーススカート。 夕雲型20姉妹の19番目清霜︵きよしも︶である。
史実においては清霜が末妹であるが、この世界において20番艦の妙風が就航してお
り彼女が末妹である。
彼女たちは硫黄島より北上している、
龍驤が艦載機を繰り出して空から暴走した金剛を探し、その龍驤の護衛として二人
が、という具合である。
﹁⋮あかん。否定できへん自分が辛いわ⋮﹂
﹃きっと君はそういう星の下に生まれたのだろう。諦めたまえ﹄
硫黄島にいる提督の一人から通信が入りそれに答える龍驤。
﹁⋮次から次へと厄介な注文やね﹂
﹃時雨、夕立も金剛を追った様だ。追加で二人も見つけてくれ﹄
提督(笑)の戦いはこれからだ
592
そう答えながらも龍驤は目を瞑り集中している。
艦載機や水上機を運用できる艦娘達はそれらに乗る妖精さん達と意思疎通を交わせ
るだけではなく視覚情報を得ることが出来る。
つまり遠く離れた艦載機から見える景色を意識して集中すれば見れるのだ。
あぁ輸送船かー。護衛は特Ⅱ型︵綾波型︶4人⋮って、こら関係あらへんな﹂
﹂
?
﹂
?
﹂
一応聞くが、君は分身出来たりしないだろうか
﹁できるかっ
!
﹄
?
頼みたかったんだが⋮、さてどうしたものか。
﹃全員引き連れていったよ。今現在、父島に艦娘はいない。しばらくそちら側の面倒も
﹁父島の留守番は
通信を試みているのだが赤い海に入ったのか、それに近い海域のようで繋がらない﹄
﹃哨戒活動の一環として深海棲艦勢力下の海がどうなっているか見に行った。
そして気になった事をホモへと通信をつなげて聞いてみた。
﹁なぁ、父島の提督はどないしたん
時雨や夕立のようになられても困ると思い止めた。
島か母島あたりに辿り着きそうな辺りである。
一瞬、彼女達にも今回の事伝えた方がいいのか考えたが、進路からするともうすぐ父
﹁ん
?
593
提督(笑)の戦いはこれからだ
594
龍驤は何だかとんでもない貧乏くじを引かされた気分になるのである。
姉さん事件です。深海棲艦勢力下の海はとても赤いです。
そしてなんか嫌な感じがするところです。
常時、薄い雲が空を覆いミノ粉でもばら撒かれてるのか、GPS機能はダウンし、無
線とかの通信機能も軒並み低下。
艦の搭載レーダー︵妖精さん印︶が頼りの状態。
の時代で戦ってきた身としてはねぇ⋮。
まぁだから何だって話なのだけれども。
戦術リンクシステムってなんぞや
かは知らんが、アレなら落とせる。
現代兵器が効かないとされている深海棲艦も航空機⋮あれを航空機と呼んでいいの
ミック先生も敵探知距離は大幅に下がっているようだけど行動見てると余裕そう。
?
たこ焼き型だと一発じゃ落ちない場合もあるそうだが、それでも落ちる。大戦時と
違って自分で操作できる分、楽だしな。
平波の武装の単装三擦り半砲が火を噴きまくっているぜ。
││正気を疑うネーミングセンスです。
サーセン。
しかし、なんか集中的に狙われている様な気がする、
島風の速さ﹄
やっぱり大きいから目立つからなぁ。
﹃パパ見てた
直ぐに交代するし、意味も無く激しい機動するし、とにかく燃料が予定より食いそう
わなかったか。
まぁそんなかで皆フリーダムにやるもんだから、ちょっと燃料と弾薬⋮はほとんど使
とりあえず、平波を4マンセルで守りましょうって大淀さんの提案受けて了承して、
この赤い海に入ってくる前は皆、自由にやっておった。
それより警戒はしててね念のために。怪我でもされたら困るから。
﹁⋮警戒していなさい﹂
すまぬ。飛んでくる奴倒すので手一杯でそんな暇なかった。
島風から無線。
?
595
提督(笑)の戦いはこれからだ
596
な勢いだったから止めさせて、4つに班分けして護衛時間をきちんと設定した。
班分けは
第一班 夕張 磯風 浜風 谷風
第二班 鳳翔 鹿島 飛叡 龍田
第三班 天龍 初風 天津風 時津風
第四班 大淀 雪風 長波 島風 理由は特にない。
そして今はこのうちの3つが周りを警戒しつつ迎撃。一つが半休息待機という状態。
深海棲艦勢力下はやっぱり敵が多くなって1つの班だけじゃ対応しきれない事が分
かった。
予定では昨日のうちに南鳥島ついている筈なのにまだ200海里向こうだ。そして
日が暮れ始めている。
余裕を持ってきたとはいえ燃料と弾薬の消耗が多いしそろそろ潮時かもな。
ソナーに今反応出たか
何故だか知らんが攻勢圧力が大分減って来たけど罠の可能性もあるわけだから。
おやぁ
?
││30海里前方深度200にてロシア海軍籍941アクーラ型原子力潜水艦が徘
?
597
徊しています。
知ってたなら教えてよっ
アクーラってNATO呼びだとタイフーン型だっけか。
って、おいっ
!
一体何がしたいんだ
?
あぁでも深度200m
!?
排他的経済水域だって徘徊してるだけじゃ罪にはならんわけだ
一応警告しておくか⋮。
となると浮上してくる前に叩くか
海面近くまで上がらないと駄目だったよな確か。
じゃ無理か。
って目標が南鳥島の場合、何時でも打てる距離じゃないか
だからわざわざ射程の短い戦術核持って深海棲艦勢力下まで出張ってきたわけね。
大陸間弾道ミサイルを使わないって言うのはバレたら国際世論的に大変だからか。
にする任務をアクーラ級は受けているようです。
││現在、断片的な情報しか収集できませんが、戦術核を使用し深海棲艦を一網打尽
?
及びヨ級に囲まれつつあるようです。
││深海棲艦勢力下では私の能力も低下しています。ちなみに深海棲艦潜水艦ソ級
!
理由はどうする
し。
?
ミック先生。ここでアクーラ級沈めてしまったとしてロシアにバレると思う
││可能性は極めて低いと思われます。
それなら、とりあえず警告して爆雷ぶち込んでやろう。
﹁これより無線の出力を上げる。無線の感度に気を付けるように﹂
ロシア語って発音がむずかしいんだよなぁ
?
﹁Скажите Россия национальность подводна
я лодка││︵ロシア国籍潜水艦に告げる││︶﹂
││あっ、ソ級に齧られています。
え
そっと無線の出力戻して。
?
﹁なんだ
﹂
﹃⋮そうですか
?
あの提督。少し気になる事があるのですが⋮﹄
﹁なんでもない。気にするな﹂
お艦の声が無線越しに聞こえる。
﹃提督、どうかされましたか
﹄
││船体が逆さまになり沈んでいってます。
?
﹁⋮⋮﹂
提督(笑)の戦いはこれからだ
598
?
﹃艦戦が一機多いんです。何かご存知でしょうか
﹄
?
││私からもいいですか
なんだよ
前世も前々世も含めて姉は居たことないけど⋮。
姉さん今夜は長い夜になりそうです。
あぁ大淀さん、そうですか⋮。
﹃提督。微弱ですが友軍の救難信号を受信しました﹄
もう何か疲れた。帰ろうか。
⋮凄くどうでもいいです。
││機体色と同化して見えません。
あぁ、そう。
││両翼と尾翼に九条ネギを描きました。
?
?
お艦が無線越しに訝しんだ声を上げてるけど、気にしなくていいんだ。
﹃⋮はぁ﹄
﹁⋮それは何も問題ない。気にしなくていい﹂
599
提督︵笑︶の艦隊
時折途切れる薄い雲の隙間から満月が覗く。
﹂
その中、赤い海を駆ける二人の少女。
﹁どけぇぇぇっ
﹂
黒髪の三つ編みは解け、汗と血で汚れたそれを顔に張り付かせながらも時雨は叫ぶ。
!
!
その水柱から少女たちは飛び出し、ネ級を肉薄。それぞれ左右に分かれてほぼ零距離
深海棲艦、重巡ネ級が放った砲撃、彼女たちの前方に着弾し水柱が上がる。
それしか戦い方を知らないかのように。
だが、それでも二人の少女は生存の見込めない戦場を突き進む。
愚直なまでのその行動は一人の男に刻まれた呪縛に等しい。
燃料、弾薬そのような事後先を考えない無謀な吶喊。
進む。
服は煤け、破れ、体の至る所に傷を負いながらも、それでも二人は止まる事無く突き
薄紅色の髪を煤と己の血で汚し、獣の様な咆哮を上げる夕立。
﹁がああああっ
提督(笑)の艦隊
600
から砲撃。
爆音と鉄の擦れた様な悲鳴が響くが、振り返る事無く二人は赤い海を駆ける。
そんな戦いを何度も何度も繰り返し、身を削る。
そんな呪縛を刻んだ男が最期を共にした艦を救うために。
しかし、突き進めば進むほどに阻む敵は多くなり、遂に限界が訪れる。
﹂
﹂
とうに魚雷は打ち尽くし、身に纏う艤装も黒煙とギシギシと悲鳴を上げている。
構える連装砲は火を噴くことなく沈黙したまま。
﹁もうっばかぁぁぁどいてよぉぉ。どいてよぉぉっ
﹁⋮また僕は⋮守れないの﹂
取り囲む深海棲艦。二人は無力感に苛まれる。
ここで終ってしまう未来に⋮。
だが、時に運命というのは思いもよらぬ出来事を起こす。
連装砲ちゃんいっくよー
突撃す⋮って先に行くんじゃないっ島風っ
いっちゃってー
!
﹁五連装酸素魚雷
﹁全艦、長波に続け
!
﹁⋮はぁ。仕方ない方々ですね。大淀参ります﹂
!
﹂
!
!
!
601
﹁艦隊をお守りします
﹁⋮助かったぽい
﹂
﹂
そこから現れたのはかつて戦場を共にした戦友達。
敵の一角から爆発音が響き、崩れる。
!
大淀は誰かと通信していたのか、それが終わり時雨と夕立の前に来る。
ですね依然救難信号は⋮。はい、わかりました﹂
﹁提督。制圧完了しました。ええ二人とも大事には至っておりません。⋮はい。⋮そう
救援に来たのは彼女達だけではない。
そこからは形勢逆転するまでにそれほどの時間はかからなかった。
だが、次の瞬間にまた深海棲艦の一角から爆発音が響き崩れる。
けて来たものだと思った。
時雨は助けに来てくれた面子を考えると自分たちと同じように独断で金剛を追いか
見渡せば艦種は様々だが30はいるであろう深海棲艦、多勢に無勢である。
﹁⋮そういうには少し早いかな﹂
?
途切れた雲の間から満月の光が漏れる。
大淀の指す方向を見やる二人。
﹁時雨さん、夕立さん、あちらでお話を聞かせていただけますか﹂
提督(笑)の艦隊
602
月光に照らされ近づく船影はシーワックス平波。
進路を調整して救難信号に向かう平波、それを守るように展開した艦娘達。
平波の艦内を慌しく走り回る妖精。それを横目に前を歩く大淀と長波。
前に行く二人に時雨は複雑な表情を浮かべたまま付いて行く。
﹁まずは傷の手当てですね、その後何か召し上がった方がいいかもしれませんね﹂
時雨はその辺り上手く抑えているが、
特に気負った様子も無く歩く二人に時雨も夕立も苛立ちが募る。
﹁⋮考え過ぎて無茶言いださなければいいけど⋮﹂
います﹂
﹁そろそろ撤退を視野に入れている所でしょうから、その辺りを見極めているのだと思
周りの妖精たちの雰囲気を見て長波は口を開く。
﹁あー提督、ピリついてるのか﹂
603
平波には艦娘用の応急手当室も完備されている。
﹂
あくまで応急である。ゲームで言うところの耐久値を2∼3回復させる程度の物で
ある。
﹁そうだなー。あたしも小腹減った。二人ともお腹減ってるだろ
?
﹂
﹂と元気よく声を上げると思ったのだ。
振り返る長波に、夕立は噛み付かんばかりの表情で、それを見て長波はギョッとする。
﹂
てっきり夕立は﹁ごはんっ
﹁な、なんだよ
掴みかからんばかりの夕立に、
﹁⋮二人は誰かの指揮下に入った⋮の
!
よ﹂
﹁ま さ か 再 出 撃 す る つ も り で す か
お 二 方 の 状 態 か ら 提 督 は 決 し て 許 可 さ れ ま せ ん
時雨は出来るだけ感情を押し殺して告げる。
﹁⋮夕立、駄目だよ。長波、ごめん。艤装の方に補給だけしてくれれば僕達は十分さ﹂
?
?
?
﹁うるさいっ裏切り者っ
﹂
﹁そうだぞ。ちょっと落ち着け、な
!
とりあえず傷の手当てしよう。うん﹂
﹁まずはお話を聞かせていただきませんと﹂
﹁なら、君達の提督に直接話させてくれないかな﹂
提督(笑)の艦隊
604
?
ついに我慢の限界を超えた夕立が吼える。
﹂
﹁二人とも落ち着きなさい
﹂
お互いの認識のズレが歯車を狂わせる。
﹁なんだとっ
!?
てください。
そのうえで判断を仰ぎましょう。宜しいですね
﹁⋮わかったよ﹂
?
を秘めていた。
時雨、夕立の胸中はいざとなったら無理やりにでも言う事聞かせてやると過激な思い
﹁⋮ぽい﹂
﹂
﹁⋮そうですね。では時雨さん、夕立さん何故この場にいたのかきちんと提督にお話し
まぁ何でこんなところにいるのか理由がわからないけど﹂
もな。
﹁⋮そっか、そうだよな。考えてみたらあたしが二人の立場だったら同じことしてたか
二人と二人が睨み合う。が、すぐにそれは終わりを告げる。
﹁大淀、無理にでも行かせてもらうよ﹂
!
605
戦闘指揮室の水密扉を大淀が押し開ける。
中央に置かれた電子海図台には定規やコンパスが転がる。
それを腕を組み睨むように見ている男。
こちらに気づく気配すらなく熟考の様を見せている。
男が気付かなくても、そこに入った二人の少女は息を止め固まった。
一秒か、はたまた一分か、それほど長い時間では無かったにせよ、喉元から声を絞り
﹂
﹂
出すまでの間、やけに心臓の鼓動が高鳴っていた。
﹁⋮提督
﹁⋮ていとく⋮さん
時雨、夕立﹂
?
しがみ付き、縋り、やがて嗚咽が漏れる。
その声を聞いた瞬間、二人は駆け出し男の胸に飛び込む。
﹁⋮傷の手当はどうした
二人の上げた声にようやく、男は二人に顔を向けた。
?
?
粒の涙を零し大声をあげて泣いた。
親と逸れた幼子が、ようやく再会を果たしたかのように誰に憚る事無くボロボロと大
堰を切って号泣へと変わる。
﹁﹁ああああああああああ﹂﹂
提督(笑)の艦隊
606
時折漏れる月明かりが浦風と榛名を照らした。
二人の姿は痛々しいものだった。服装も艤装もボロボロで、榛名の使える砲塔は既に
残り一つだけという有様。
浦風も武装は同じようなものだった。
頭に乗ったトレードマークの水兵帽も青色のリボンもどこかに飛んで行ってしまい、
髪は解けて白いセーラー服は血で滲んでいる。
それでも二人は幻想的なまでの美しさを醸し出していた。
ろうそくの灯が最後の瞬間に燃え上がるよう。最後の命の灯を燃え上がらせるよう
に。
﹁⋮浦風。そんなの駄目よ﹂
﹁榛名ねえさん。ここはうちが引き受けるけん、金剛ねえさんを﹂
607
﹁ここまで来たら地獄の片道切符じゃ。ちぃと先に逝くだけじゃて﹂
一度は水平線に微かではあるがポツリポツリと砲火が見えるところまで来た。
もう少し、あと少しで追いつける距離まで来ている筈だと二人は考えていた。
今度こそ最期は一緒に居たかったんじゃが⋮と浦風は思うも目前の敵を見るとそう
も言ってられない。
せめて一隻でも多く道連れじゃ。と括っていた腹を再度括る。
浦風自身、初めて見る相手も多いのだがヤバさをヒシヒシと感じていた。
重巡棲姫、ル級エリート、他10隻ほどの深海棲艦の艦隊。
﹁⋮ごめんなさい。⋮ごめんなさい﹂
そうして榛名が謝りながら囲みを突破しようとした時だった。
深海棲艦が爆ぜた。
﹁おう景気いいな﹂
﹂
?
二人の前に滑り込む磯風は手に持っていた水兵帽を浦風の頭に乗せる。
﹁浦風、忘れ物だぞ
聞き覚えのある声に榛名と浦風は振り返る。
﹁うむ。壮観だな﹂
﹁53本の魚雷による槍衾ですか﹂
提督(笑)の艦隊
608
﹁先に帽子をかぶせたらリボンを付け辛いじゃないですか﹂
浜風は浦風の後ろに回り浦風の髪を結う。
﹁十七駆ふっかーっつ。これで勝つる﹂
ニカッと人好きのする笑顔を浮かべる谷風。
撃ちますっ
﹂
﹁磯風、浜風、谷風⋮なんでじゃ⋮﹂
﹁榛名ーっ
!
わずか数分で決着がついた。
﹂
?
!
﹂
?
!
比叡の指さす方向にはシーワックス平波の姿。そして比叡は妹との再会もそこそこ
ねー﹂
﹁さ ぁ、二 人 は あ れ に 乗 っ て 休 ん で て。さ ぁ 金 剛 お 姉 さ ま 今 助 け に 行 き ま す か ら
﹁比叡お姉さま
一抹の願いを込めて発信した救難信号は確かに届いたのだった。
た﹂
それより早く金剛お姉さまをっ えぇ、もっと先に居るようです。⋮分かりまし
?
﹁比叡お姉さま⋮どうして
あ、無線だ。⋮司令。ハイ二人とも無事です
さらに比叡が前に飛び出て、残敵に砲撃を叩きこむ。
!
﹁救難信号出したのは榛名でしょ
!
609
に海をかけていった。
徐々に大きくなる船影を見ながら、磯風は口を開く。
﹁ふふふ、浦風。この磯風の提督を紹介してやろう﹂
﹁それでは磯風だけの提督のように聞こえるのですが⋮﹂
﹁⋮聞いちゃいないよ﹂
﹁⋮皆、提督を見つけたんじゃね﹂
眩しそうでどこか寂しそうに漏らす浦風に
浜風はそう答える。
﹁ええ。浦風も会えばきっと﹂
﹁うちは操を立てたお人がいるけんね。浮気はしないんじゃ。でもお礼を言わんとね﹂
﹁⋮⋮﹂
ニヤニヤと笑みだけ浮かべる谷風であった。
そして二人は平波に乗り込む。
胸中、どうにか補給してもらって再出撃できるようにという思いを秘めて⋮。
艦内で案内してくれた鳳翔。比叡が居たことに若干引っかかるものを感じながらも。
﹁いえ、できれば⋮﹂
﹁まずは傷の手当てをしましょうか﹂
提督(笑)の艦隊
610
﹁先にお礼させて欲しいのぅ﹂
榛名は要求を通すために自分の体でさえ売るつもりでいた。
浦風は最悪脅してしまえと白露型と同じような事を考えていた。
しかし、あの三人の提督ならそこまで悪い仕打ちにもならないのではないかと淡い期
待を込めていた。
鳳翔は二人に何か感じ取ったのか、そのまま戦闘指揮室に連れていく。
どうか金剛お姉さまを救うために私に補給を﹂
指揮室の扉を開けて鳳翔は提督に口を開く。
﹁提督。お二人が挨拶されたいそうです﹂
﹁お願いしますっ
﹂と頭を下げる。
君達は﹂
?
提督の声を聞き顔を上げる二人。
二人の姿を観止め、提督は口を開く。
﹁⋮何故手当を先にしないのだ
それに続くように浦風も﹁お願いじゃ
鳳翔を押し退けて床につくのではないかと思うほど頭を下げる榛名。
!
匂いのアンバランスが提督を襲う。
二人の反応がない事に訝しみ、首を傾げようとした瞬間、血と硝煙と女性特有の甘い
そのまま訪れる静寂。
!
611
﹁⋮大丈夫なのか
﹂
﹁⋮榛名は⋮榛名は⋮大丈夫⋮じゃないです﹂
飛び込んできた二人を抱き止め、しかめっ面をしながら問う。
?
この国に私はもう必要ないネ。
青い海は赤く変わり、深海棲艦を沈める作業をこなしていく。
駆けて、
呉を激情に身を任せ飛び出したのは何時だったか、時間の感覚も忘れただ只管に海を
││ロシアに渡すのは第一候補を金剛型一番艦金剛とする。
その様子を鳳翔は穏やかに、時雨と夕立は寄り添うように見守っていた。
﹁ほんにいけずなお人じゃ﹂
提督(笑)の艦隊
612
613
ワタシは戦艦。
体に痛みなどまるで感じないのに胸の奥だけがズキズキと何かを蝕むように疼き続
けている。
どうしてこんな痛みを感じるノ
どうシテ
オカしいデス。
敵を沈めるために生まれた鋼の塊。
?
Oh、マタ被弾シマシタ。
第三砲塔が被弾する。大戦前、実験的に乗せられた三連装砲が。
ダレガテートク⋮ヲウバッタ。
シズメ、ミンナ、シズメ。
自身も被弾を重ねながら。
表情の抜け落ちた金剛は機械的に的確に深海棲艦を撃ち沈めていく。
ホラ、シズメ。
アンナニ⋮イッパイ⋮クウボデス。カナラズ⋮シズメマス。
アァ前方に敵影デス。シズメなキャ。
?
逢いたいよテートク。
テートクニモラッタ大切なソウビ⋮。
テートク
﹁サァ⋮シズミナサイ⋮﹂
急に視界が開けた。
﹁俺のいないところで勝手に沈むな﹂
はいワタシも疲れました。そろそろ迎えに来てくだサーイ。
﹃少し疲れたな⋮。金剛、ヴァルハラまで頼むよ⋮﹄
?
放たれる砲弾を身を屈めて紙一重で躱す。
が砲口を向けていた。
目の前には巨大な深海棲艦を首元の管を伝って従える角の生えた白い女。戦艦棲姫
それまでの朦朧とした意識が覚醒した。
﹁誰ですカ。アナタ﹂
提督(笑)の艦隊
614
そこからは壮絶な砲弾の殴り合いが始まる。
あまりにも距離が近い為に取り巻きの深海棲艦達は手が出せず。
それは金剛が本能的に感じ取って掴んだ死と隣り合わせの安全地帯。
どれだけの時間がたったか、遂に終わりの時は訪れる。
月は沈み、太陽が夜の終わりを告げる。
金剛は失れゆく意識の中で、曇る空に手を伸ばす。
だが、満身創痍の金剛に止めを刺さんと、水母棲姫が近づいている。
棲艦は多くは散り散りになって逃げていく。
赤い海が徐々に青く変わっていくがそれに気づく余裕すらなく、取り巻きでいた深海
だが、それも残りわずかな時間であろう。
艤装はあちこちがボロボロだったが浮力を生み出すだけの力は残っていた。
膝から力が抜け仰向きになって水面に倒れた。
正に満身創痍。
顔も上げられぬほどに疲弊しながらも、勝利をつかんだのは金剛であった。
﹁⋮勝ったネ﹂
615
遥か彼方の水平線は色づき始めた。
提督、もうすぐ会えるネ⋮。
﹂
!
あぁ⋮。戦乙女というのは比叡に似てるんですネ⋮。
﹁司令のアホおおおおお姉さヒェェェェーッ
提督(笑)の艦隊
616
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