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油圧流体力学

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油圧流体力学
トライボロジーに関する実験
実験環境
平成15年5月9日 13:20∼15:00
日本大学理工学部習志野キャンパス 工作実験棟
実験者
狩野哲士、川口裕樹、金子友久、前川順、前田光、前田英幸
1.目的
トライボロジー潤滑実験装置を用いて、ジャーナル軸受の軸と軸受のような二面間で流
体に圧力を発生させ、その距離による圧力を測定し、二面間における流体(油)の効果
(流体薄膜内の圧力勾配を対象とする Reynolds 理論)を調べ、最大負荷容量の膜厚比な
どを求める。
2.理論
2−1 トライボロジーとは
トライボロジー(Tribology)とは、「相対運動をして相互に影響しあう二表面、なら
びにそれに関連する諸問題と実際についての科学と技術」と定義されており、摩擦、
潤滑、摩耗の学問と技術の開発と進歩のために各分野の研究者の協力が重要であると
し、総合的な学問・技術として取り上げられたものである。
2−2 流体潤滑理論
二表面の相対運動を円滑にし、摩擦や摩耗を防ぐには、二表面間に流体が存在し、そ
れにより二面が完全に引き離された状態にあることが理想である。そのためには二面
間の流体に圧力が発生し、それにより荷重が支えられることが必要で、これを流体潤
滑(hydro−dynamiclubrication)といい、レイノルズ(O.Reynolds)によって圧力
の発生を考慮した図 1 の流体潤滑領域における基礎方程式が作られた。
これが流体
理論の基礎となり、その後、ジャーナル軸受などへ適用された。
ここではレイノルズの二次元基礎方程式を導くこととする。この解析において、流体
は x 方向の一次元流れの場合である。
式を導くに当たっては、次の仮定をおく。
①流体はニュートン流体で、非圧縮性とする。
②流体の慣性力は粘性力に比べて小さく、無視できる。
③すきま内の流れは層流で、粘度は一定である。
④すきまは小さく、従って油膜の厚さ方向に圧力は変化しない。
⑤固体表面と流体との間ですべりは起こらない。
1
図1 潤滑領域
図2 傾斜平板の原理
運動面と固定面の間にある液体の中の微小要素(横 dx、縦 dy、単位厚さ)に働く圧力
とせん断力を示したのが図 2 であり、この微小要素は、流体内で釣り合い状態にある。
また、この時、任意の x 位置におけるすきま(油膜厚さ)を h とし、h は x の関数であ
るとすれば、次のような平衡式が成立しなければならない。

dp 
dτ 

pdy −  p + dy − τdx + τ +
dy dx = 0
dx 
dy 


dp dτ
∴
=
dx dy
(2.1)
ただし、p:圧力、τ:油から素片に及ぼされるせん断力。
また、油については、ニュートンの粘性の式が成立するので、
τ =η
du
dy
(2.2)
となる。
ただし、η:油の粘度、u:油の流速(x 方向)。
(2.1)式と(2.2)式から、
dp
d 2u
∴
=η 2
dx
dy
(2.3)
となる。
この式を y について 2 回積分すれば、
u=
1 dp 2
y + C1 y + C 2
2η dx
(2.4)
となるが、Cl と C2 は積分定数で、境界条件 y=0:u=U、また y=h:u=0 から求めるこ
とができる。
ただし、U:表面速度。
すなわち、
2
C 2 = U、C1 = −
h dp U
−
2η dx h
(2.5)
したがって、流速 u は次のようになる。
u=
U (h − y ) y (h − y ) dp
−
h
2η dx
(2.6)
流速が得られれば、位置 x における流量 Q は、次のように求めることが出来る。
Uh h 3 dp
Q = ∫ udy =
−
0
2 12η dx
h
(2.7)
ここで、流れに対して質量保存則すなわち連続の式を適用する。
これは dQ/dx=0(x 方向に Q の変化がない)であるから、式(2.7)より、
dh
d  3 dp 
h
 = 6ηU
dx
dx  dx 
が得られる。
いう。
(2.8)
この式を二次元問題(または一次元流れ)レイノルズの基礎方程式と
この(2.8)式を x で積分し、積分定数を hm とすれば、圧力変化として、
dp
h − h 
= 6ηU  3 m 
dx
 h 
(2.9)
が得られる。 圧力分布は図 3 に示すようになるが、hm は最大圧力の位置 dp/dx=0
における油膜の厚さを表すことになる。
図3 圧力分布と流体の流れ
この(2.7)式で圧力分布を求めるために、x に関して積分すると、
p = 6ηU
h − hm
dx
h3
(2.10)
任意の点における膜厚は、
3
 nx 
h = h0 1 − 
a 

(2.11)
ここで、
n = 1−
h1
h2
(2.12)
ゆえに、




hm
1

 dx
p = 6ηU ∫
dx − ∫
2
3

nx 
nx  
2
3
h0 1 −  
 h0 1 − 
a 
a  







an
an
6ηU  hm
= 2
−
+ A
2

nx
h0  2h0  nx 
1−


1 − 
a
a 



(2.13)
ここで A は積分定数であり、この式中の hm と A は、2 つの境界条件:x=0 および x
=a で p=0 を導入することによって求められる。
圧力はゲージ圧すなわち p=0 は大気圧を示していることに注意し、これら 2 つの条
件を代入すると、
0=

6ηU  hm a a
− + A
2 
h0  2h0 n n

(2.14)

an
an
6ηU  h
−
+ A
2 
2
h0  2h0 (1 − n ) 1 − n

(2.15)
および
0=
この連立方程式から hm と A は
hm = 2h0
1− n
2−n
(2.16)
および
A=
a
n(2 − n )
(2.17)
hm および A の値を圧力分布の式に代入すると、
4

x
x 
 n 1 −  
6ηUa 
a a 
p=−
2
2

h0
 nx  
 (2 − n )1 −  
a  


(2.18)
または
6ηUa
p=−
h0
2
kp
(2.19)
ここで
x
x
n 1 − 
a a
kP =
2
 nx 
(2 − n )1 − 
a 

(2.20)
ただし、kp:圧力係数。
(2.18)式の圧力をさらに積分すると、軸受の単位幅あたりの垂直負荷容量が得ら
れる。
W =∫
x=a
x =0
(2.21)
pdx
傾斜したスライダの負荷容量は
W =
log e (1 − n ) 
6ηUa 2  2
 n(2 − n ) +

2
n2
h0 

(2.22)
または
W =
6ηUa 2
h0
2
kW
(2.23)
ここで
kW =
log e (1 − n )
2
+
n(2 − n )
n2
(2.24)
最大の負荷容量は、入口と出口の膜厚比に依存する負荷容量係数 kw の値によって決
まる。
dk/dn=0 を計算することによって、最大負荷容量に対する n の値が求まる。
3.使用器具
トライボロジー潤滑実験装置(ミッチェル傾斜滑面実験装置)、粘度計、ストップウォッ
チ
5
図4 トライボロジー潤滑実験装置
装置諸元
装
置
:
トライボロジー潤滑実験装置(ミッチェル傾斜滑面実験装置)
製 造 番 号
:
TE99/8814
製 造 年 月
:
99/03/12
電
源
:
AC100V 50Hz 単相
機
:
PARVALUX
電動機番号
:
SD12CMB 620778/7K
速度調節機
:
CLAUDE LYONS REGASPEED Type:HSR 402E Volts:240
温
計
:
Zeal -10℃∼110℃
マイクロメー
:
MOORE AND WRIGHT 0∼10mm
計
:
センチストークス=0.3407×t 秒
ベルトの長さ
:
1194mm
電
動
度
タ
粘
度
6
4.実験方法
4-1.粘度測定
U 字型粘度計(SIZE E BS/U 型、60∼500cSt 用(CGS 単位))を使用して粘度を測定す
る。
測定法は、英国規格(BS188)に詳述されているが、以下のように測定する。
(1)温度の計測された油中に本券を垂直に浸す。
(2)計測したい油を本券下部の目盛位置まで充満させる。
(3)油温が一定になり温度変化のない状態で空気を押し込むか吸い上げるかして油面
を上部目盛りに合わせる。
(4)油が重力により上の目盛りから下の目盛りに移動する時間を t 秒とすると動粘度
(cst):定数×(秒)で求められる。
この試験は数回行い平均値をとる。
4-2.負荷容量を求める
(1)図 4 に示す軸受滑面の上にある①のマイクロメータの零点のセッティングを行う。
②の遍心軸をまわし滑動するベルトに対し、軸受滑面片は一様に接触しているかチェ
ックする。
マイクロメータの入口部、出口部の双方が零になるようにする。
ために支持ボルトをクランプしてゆるめたあと、両方の零点を調整する。
整はベルトを停止した状態で行う。
その
この時調
動いているとベルトは、油膜によって 0.1mm 盛
り上がるため、マイクロメータは停止している時に.0.1mm にセットする。
(2)マイクロメータに無理な力が加わって、ひずみが掛からない様にする。 滑面片
をわずかにベルトに接触させ、必要とするクリアランスにマイクロメータでセットす
る。
こうして偏心軸を回しながら注意深く滑面片を上方に持っていく。
(3)ベルトスピードは、10 回転以上回転させてから計測する。 ストップウォッチを
用いて、入口部の側面 1 カ所をベルトが通過する時間を記録して速度を計算する。
(4)ベルトスピードは、コントローラによって可変する。
コントローラは停止時、
常に零に戻すこと。スイッチを入れる前にも零になっているかチェックすること。ベ
ルトの回転は 3 秒で 1 回転の時、約 40cm/sec となっている。 ベルト速度が上昇す
ると油圧が上がり、マノメータの油面が上がるので、その時の各マノメータの値を記
録する。
7
5.結果
5-1.油の粘度
表1 粘度計の測定値(秒)
1
2
3
4
52・4・5 平均
278.41 276.99 273.54 274.29 273.70
274.99
よって、粘度=0.3407×274.99=93.69(N・s/cm2)
5-2.ベルトの速度
表2 ベルト 10 周にかかる時間 (秒)
1
2
3
4
28.37
28.31
28.27
28.19
52・3・5 平均
28.23
28.27
よって、ベルトの速度は
U=1194×10÷28.27=42.2(cm/s)
5-3.圧力測定の結果
表3 各実験のマノメータの読み(cm)
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
k=1
9.0
14.7
20.8
23.2
22.4
20.5
14.8
12.4
16.0
18.8
20.1
17.7
13.7
k=2
11.2
16.9
22.6
26.8
29.1
28.9
22.7
19.0
24.4
27.7
28.3
24.8
18.8
k=3
8.4
12.7
17.2
21.4
24.9
26.4
22.4
17.6
22.7
25.5
25.6
22.6
17.1
k=4
6.0
9.0
12.5
16.2
19.6
21.8
19.6
14.5
18.9
21.2
21.2
18.9
14.2
表3より流れ方向、流れと直角方向(x 軸方向、y 軸方向)の kp を求め表4、5にまと
め、図5、6に示す。
8
表4 流れ方向の圧力
No.
1
2
3
4
5
6
7
1.25
2.5
3.75
5
6.25
7.5
8.75
9
14.7
20.8
23.2
22.4
20.5
14.8
0.0558
0.09114
0.12896
0.14384
0.13888
0.1271
0.09176
11.2
16.85
22.6
26.8
29.1
28.9
22.7
0.06944
0.10447
0.14012
0.16616
0.18042
0.17918
0.14074
8.4
12.7
17.2
21.4
24.9
26.4
22.4
0.05208
0.07874
0.10664
0.13268
0.15438
0.16368
0.13888
6
9
12.5
16.15
19.6
21.8
19.6
0.0372
0.0558
0.0775
0.10013
0.12152
0.13516
0.12152
x 座標(cm)
k=1
k=2
k=3
k=4
H(cm)
kp
H
kp
H
kp
H
kp
表5 流れと直角方向の圧力
No.
8
9
10
6
11
12
13
-3.75
-2.5
-1.25
0
1.25
2.5
3.75
124
160
188
205
201
177
137
0.7688
0.992
1.1656
1.271
1.2462
1.0974
0.8494
190
244
277
289
283
248
188
kp
1.178
1.5128
1.7174
1.7918
1.7546
1.5376
1.1656
H
175.5
227
255
264
256
226
171
kp
1.0881
1.4074
1.581
1.6368
1.5872
1.4012
1.0602
145
189
212
218
212
189
142
0.899
1.1718
1.3144
1.3516
1.3144
1.1718
0.8804
y座標(cm)
k=1
k=2
k=3
k=4
H(cm)
kp
H
H
kp
5-4.付加要領係数 kw
負荷容量係数 kw を求め、表6、図 7 に示す。
表6 負荷容量係数 kw
k
1
2
3
4
H (cm)
10.689 13.542 11.461 9.0194
kw
0.0662 0.0839
9
0.071 0.0559
k=1
k=2
k=3
k=4
0.2
0.18
0.16
0.14
0.12
kp
0.1
0.08
0.06
0.04
0.02
0
0
2
4
6
流れ方向の座標(cm)
8
10
図5 流れ方向の圧力分布
k=1
k=2
k=3
k=4
2
1.8
1.6
1.4
1.2
kp
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
-6
-4
-2
0
2
流れと直角方向の座標(cm)
図6 流れと直角方向の圧力分布
10
4
6
0.09
0.08
0.07
kw
0.06
0.05
0.04
0.03
0.02
0.01
0
0
1
2
3
4
5
k
図7 k に対する負荷容量係数の変動
6.考察
なぜ実験結果図5、図6のような圧力分布になったかを考察する。
クエットの流れ
図8 平行に滑る流体膜の流れ(クエットの流れ)
図8のように流体隈の中に想定した薄い層が,積み重ねたカードがずれ動くのと同じ
ように滑ると考えると,上の層は下の層の速度を増すように働き,逆に下の層は上の層
の速度を減らすように働く。
平行平面間の流体膜では,どの層をみても層間距離に対する相対滑り速度の比は同じ
はずでⅤ/h に等しいから,流体の速度分布は直線的に変化する三角形状になる。また平
面に接する流体は平面に付着してスリップはないと考える。この流動モデルは流体力学
で扱う基本的なものでクエット(Couette)の流れと呼ばれる。
11
ポアズイユの流れ
図9 平行面内のポアズイユの流れ
狭いすきまを流体が押し出されるときの流れを考える。図9の平行二面のすきまの流
れは,放物線状の流速分布で固体壁に接する流速はゼロ,中央で最大流速になる。この
動モデルをポアズイユ(Poiseuille)の流れと呼ぶ。液体が断面形状の変化しない一様
なすきまを流れるとき,図9に示すように圧力は直線状に低下する。
今回の実験ではこの二つの流れが関係してるといえるので、この二つの流れを合成する
と、次の図ようになる。
図 10 くさび膜の圧力と流れ
図 10 に示すように,(a)クエットの流れによる流体輸送に(b)くさび作用による圧
力発生が伴い(c)出口と入口に向かって圧力低下するポアズイユの流れが組み合わさ
れて(d)の圧力分布と速度分布になる。これをくさび膜の流れという。最大圧力はや
や出口寄りに生じ,その点の流速分布は三角形状になるが,その他の点では三角形と
放物線を合成した流速分布になる。
ここで、流れと直角方向の圧力も考慮し全体で考える。
12
図 11 平面軸受の圧力分布
わずかに傾斜した無限に幅の広い静止板と滑り面の間に生ずる圧力分布は,滑り運
動の方向にはくさび膜作用で図 11(a)のような山になり,横方向には流れがないので
形状は変化しない。実際の平面軸受は静止板の両側端が大気圧で,横方向に漏れる流
れのために図 11(b)のようになる。
負荷容量係数 kw について
負荷容量係数は全圧力を示しているので、これが大きいほど圧力は高くなり、より
摩擦のない軸受になる。今回、膜厚さ比 k=2 で最大となった。一般に k=2 で負荷容量
係数は最大となり、設計する際は 2<k<3 の範囲で設計される。
参考文献
トライボロジー入門(摩擦・摩耗・潤滑の基礎)岡本純三他 2 名共著
幸書房
ベアリングのおはなし 錦林英一・田原久祺 共著
http://www.mech.ibaraki.ac.jp/shiohata-lab/gakubukougi/MD9th.doc
13
Fly UP