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G7香川・高松情報通信大臣会合結果報告 - ITU-AJ

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G7香川・高松情報通信大臣会合結果報告 - ITU-AJ
会合報告
G7香川・高松情報通信大臣会合結果報告
やぶした
総務省 情報通信国際政策課 政策係長
ゆうすけ
籔下 裕介
1.はじめに
2016年5月26日、27日、我が国が議長国を務める「G7伊
勢志摩サミット」が開催された。また、サミットの関連会合
の一つとして、
「G7香川・高松情報通信大臣会合」が4月
29日、30日の2日間香川県高松市で開催された。
日本からは高市総務大臣が議長を務めるとともに、林経
済産業大臣、松下総務副大臣、輿水総務大臣政務官らが
出 席した。 また、G7各 国 及びEU、 国 際機 関(ITU及び
OECD)の代表が参加した。
大臣会合では、IoT、AIなどの新たなICTの普及する社会
における経済成長の推進やセキュリティの確保、ICTを利用
■写真1.栗林公園でのフォトセッション
した地球規模課題の解決等につき活発に議論が行われた。
また、あらゆる人やモノがグローバルかつシームレスにつ
ながる「デジタル連結世界(Digitally Connected World)」
の実現に向けた基本理念や行動指針をとりまとめた「憲章」
及び「共同宣言」を採択するとともに「共同宣言」の附属
書として「協調行動集」を策定した。
具体的には、
①2020年までに新たに15億人をインターネットに接続
②自由でオープンなインターネットを支える情報の自由な
流通を確保
③安全・安心なサイバー空間の実現に向けて、国際連携
によりサイバーセキュリティを確保しつつ、テロや犯罪
■写真2.大臣会合の様子
への悪用に対抗
④高齢化、防災、教育、医療などの地球規模課題の解
決に活用し、
「持続可能な開発のための2030アジェン
ダ」の推進に貢献
など、ICT分野の基本的な方針について合意し、G7として
一致したメッセージを発出した。また、会合期間中に、各
国代表との二国間会談、産学リーダーによるG7 ICTマルチ
ステークホルダー会議、ICT関連の展示、エクスカーショ
ンなどの各種イベントを実施した。
筆者は、情報通信大臣会合を開催することが決定した
2015年の夏以降、主に成果文書のドラフティングに携わった。
以下では、昨今のICTをめぐる国際的な潮流や、G7各
国の動向も踏まえつつ、G7香川・高松情報通信大臣会合、
及び関連会合・イベントの結果について報告したい。
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ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9)
■写真3.大臣会合で議長を務める高市総務大臣
2.G7香川・高松 情報通信大臣会合
際的に高まっている。
G7の枠組みにより情報通信について深く議論されるの
このような動きを背景に、イノベーションの推進や創出の
は、1995年にブリュッセルにおいて大臣会合が開催されて
ため、
IoT推進団体間の国際連携を推進することで一致した。
以来、実に21年ぶりであった。ブリュッセルでの会合名は、
また、AIについては、ネットワーク化されることにより、
「G7 Ministerial Conference on the Global Information
膨大な情報・データの処理が可能となり、大きな経済効果
Society」と題され、今や広く普及している情報インフラは、
がもたらされる一方、いずれAIの機能が人類の知能に匹敵
当時は“新しい技術”であり、これから普及を進めようと
するようになった際に、社会に大きな影響・リスクも与える
いう時代背景のもと開催された。
であろうことも踏まえ、我が国より、AIのネットワーク化が
その後、21年の間に、インターネット、モバイル通信等
社会経済に与える影響の分析を国際機関と連携し実施する
のICTの技術進歩と世界的な普及によって、経済や社会の
など、AIの開発原則の議論に着手することを提案し、各国
在り方も大きな変化を遂げた。そして、近年、ICTはIoTや
から賛同が得られた。
ビッグデータ、AI、5Gといった新しいICTとそれを支える
ICTインフラとサービスの世界的普及によって、地球上の全
②情報の自由な流通とサイバーセキュリティ
ての人とモノがいつでもどこでも、容易にグローバルかつ
インターネットは、情報の自由な流通を促し、民主主義
シームレスに接続する世界を実現させつつある。
の発展に貢献するだけでなく、経済成長に欠かすことので
このような世界を「デジタル連結世界(Digitally Connected
きない基盤となっており、その効果を最大化するためにも
World)
」と呼び、この世界へと移行する歴史的機会を捉え、
情報の自由な流通の確保が必須であることが確認された。
ICTを如何に経済成長やイノベーションに結び付けるか、
そのためにG7として、サイバー空間の政策決定に政府、企
そのためにセキュリティやプライバシーに配慮しつつどのよ
業、学会、市民社会など全ての関係者の参画によるマルチ
うに情報の自由な流通を確保するべきか、また、依然とし
ステークホルダー・アプローチを支持することを確認した。
て存在するデジタルディバイドを解消し、ICTの利益を世
また、データローカライゼーション(サーバー設備等の国内
界全体で包摂的に享受するためにはどうすべきかといっ
設置)要求のような情報の自由な流通を阻害する行為につ
た課題について、議論を行い、情報通信政策の今後の在
いて、正当な公共政策目的がある場合を除き、G7として反
り方を規定するG7としての一致した強いメッセージを世界
対することで一致した。
に発出することが、今回のG7情報通信大臣会合の目標で
また、オープンかつ安心・安全なインターネット環境を維
あった。
持・実現するため、セキュリティの確保やプライバシーの保
このような問題意識を背景に、以下の4つを大臣会合の
護が重要であることも確認された。一部の国において、セ
議題とし議論を行った。
キュリティの確保のために、インターネットへの検閲やアク
①新たなICTがもたらすイノベーションや経済成長
セス制限など、政府による規制が行われている状況も踏ま
②情報の自由な流通とサイバーセキュリティ
えつつ、自由かつ安心・安全なインターネット環境の実現
③ICTによる地球規模課題の解決
方策について議論し、サイバー攻撃傾向の分析技術に関す
④国際連携と国際協力
る研究や、サイバーリスクを客観的に把握するための指標
各議論の概要を以下に述べる。
の活用などの取組みを推進することにつき一致した。
①新たなICTがもたらすイノベーションや経済成長
③ICTによる地球規模課題の解決
日本では2015年9月以降、総務省情報通信審議会IoT政
2015年9月に国連総会で「持続可能な開発のための2030
策委員会等でIoTの議論が行われている。また、2015年10月
アジェンダ」が採択され、貧困、女性の社会進出、教育、
にIoT推進コンソーシアムが設立され、産学官の連携によ
防災といった地球規模の開発課題に関する目標が世界的に
り、IoT推進に関する技術開発や新規ビジネスモデルの検
合意されるとともに、これらの課題の解決のために、ICT
討が進められている。諸外国においても、米国において
が大きな役割を果たすことも確認された。これを背景にG7
Industrial Internet Consortiumが設立され、ドイツがイ
が先進的知見を有する、高齢化社会や防災などの分野に
ンダストリー 4.0を提唱するなど、IoTを推進する動きが国
おけるICTの活用を推進し、同アジェンダの実現に寄与す
ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9)
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会合報告
ることが確認された。
また、ICTへのアクセスの重要性も改めて確認された。
2015年9月の国連総会で米国が提唱した「グローバルコネク
トイニシアティブ」も踏まえ、2020年までに15億人を新たに
インターネットに接続可能とすることを目指すことで一致した。
また、我が国より、
「質の高いインフラパートナーシップ」も
踏まえ、質の高いICTインフラの構築の推進について、G7に
おける連携の可能性を提案、各国から概ね賛意が示された。
④国際連携と国際協力
上記の①~③を実際に実現するための国際連携・国際
協力の重要性について議論が行われた。
■写真4.G7ICTマルチステークホルダー会議で
挨拶する松下総務副大臣
上記の議論を踏まえ、G7各国の連携・協力による取組
みを強化するため、
「デジタル連結世界」の実現までの、
今後10年~ 15年先を見据えた中長期の目標や基本理念を
まとめた「デジタル連結世界憲章(Charter for the Digitally
Connected World)
」を採択するとともに、憲章を踏まえ、
デジタル連結世界の実現に向けた行動計画を取りまとめた
「G7情報通信大臣会合共同宣言(Joint Declaration by G7
ICT Ministers)
」を採択した。
また、G7各国の具体的な取組みを集め、国際機関も含
めた相互の連携・協力を図るべく、共同宣言の別添として、
「協調行動集(G7 Opportunities for Collaboration)」を
策定した。
■写真5.G7ICTマルチステークホルダー会議の様子
2017年G7議長国であるイタリアが情報通信大臣会合を
開催することが歓迎された。
②G7学生ICTサミットin 高松
情報通信大臣会合に先立ち、2015年12月にG7香川・高
なお、本会合に関する結果、概要等(表1~ 4)を本稿
松情報通信大臣会合推進協議会、香川県、高松市の主催
の最後に示す。
で「G7学生ICTサミット in 高松」を開催した。G7各国及
3.その他大臣会合関連会議・イベント
びEU(スウェーデン)から学生計10名がパネルディスカッ
ションを行い、次の世代を担う若い世代がICTの将来の課
大臣会合への機運を高めるため、会合の準備期間中、
題について議論を行った。議論の結果、
「The Future in
及び、会合中、関連会合・イベントが開催された。
Your Hands」と題された提言が策定され、同会合の代表
者によってG7情報通信大臣会合に報告された。
①G7 ICTマルチステークホルダー会議
29、30日の大臣会合と並行して4月29日に「G7 ICTマル
③二国間会談
チステークホルダー会議」が開催された。同会議では、松
大臣会合の機会に、高市総務大臣は、欧州委員会、英国、
下総務副大臣が出席し、ICTによるイノベーションと経済
米国と二国間会談を実施した。欧州委員会アンシップ副委
成長等の諸課題について日米欧の産学官のリーダーが参加
員長、英国ベイジー文化・デジタル経済担当大臣とはIoT
し、集中的に議論が行われ、その結果は大臣会合で発表・
社会に向けた更なる連携の強化を図ることに合意した。ま
共有された。会議には約300人が参加するとともに、
インター
た、米国ノベリ国務省次官とは、デジタルディバイド解消に
ネットでライブ配信が行われた。
向けて協力を進めることに合意した。並行して、松下総務
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ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9)
副大臣はイタリアと、輿水総務大臣政務官はドイツと二国
同付属文書は、関係閣僚会合で議論されたサイバーの
間会談を行った。
議論の結果がまとめられたものである。具体的には、主に
G7香川・高松情報通信大臣会合で議論されたサイバーの
④ICT関連展示
経済的側面と、主にG7広島外相会合で議論されたサイバー
「2020年に向けた社会全体のICT化」をテーマに、今回
の安全保障の面に関する議論を踏まえ、サイバー分野に関
の大臣会合の開催に合わせて、関係企業・団体のご協力
するG7の合意事項として取りまとめられたものである。
により、我が国の先端的なICTの展示会を開催した。高市
同付属文書によって、自由な情報流通と開かれたサイ
総務大臣とG7各国等の代表が展示会を視察し、地元の方々
バー空間の確保が経済・社会の発展に不可欠であるととも
を含め、延べ約3,500人が来場した。
に、その維持・確保のためにG7が一致して行動を進めるこ
とが必要であるということが首脳レベルでも確認され、世
界に示されたことは情報通信政策を進める上でも非常に意
義があると考える。
5.おわりに
先に述べたが、筆者は2015年の夏以降、主に成果文書
のドラフティングに携わった。成果文書の調整に当たって、
G7各国担当とは、メールベースでのやり取りや累次にわた
る事務レベルでの対面会合、直前期には連日のテレビ会議
などを通じて事前準備を進めた。21年ぶりのG7での議論
■写真6.ICT関連展示の視察
であり、調整は決して簡単ではなかったが、自由と民主主
義という共通の価値観を有しているG7から一致したメッ
セージを発信しようという目標を共有し、G7各国からは常
⑤地元の主催行事
に積極的な貢献・サポートが得られた。結果、4月30日、
香川県・高松市は、
「世界の宝石」とも称される瀬戸内
成果文書が取りまとまり、G7として世界に一致したメッセー
海と緑豊かな自然に囲まれ、魅力ある文化、芸術や特色あ
ジを発信した。今後の情報通信の国際的な議論の中で1つ
る産業が育まれた。会合前日に、香川県・高松市主催の
のマイルストーンとなる瞬間に携わることができたことを非
歓迎レセプションが開催され、浜田知事と大西市長からG7
常に光栄に思う。
各国代表に歓迎の挨拶が述べられた。また、会合終了後、
ICTの可能性・技術開発のスピードに鑑みると、今後も
浜田知事の案内で直島へのエクスカーションを行い、G7各
G7として継続的な議論は不可欠だと考える。来年のG7議
国代表は「地中美術館」で芸術鑑賞のひと時を過ごした。
長国はイタリアであり、イタリアからは来年、情報通信大
4.G7伊勢志摩サミット
ICT(サイバー)の重要性については、2016年5月26日、
臣会合を開催する旨が表明されている。本年の情報通信大
臣会合の議論をイタリア会合につなげ、更に議論を深めて
まいりたい。
27日のG7伊勢志摩サミットでも議論が行われた。首脳宣言
最後になるが、情報通信大臣会合の開催に当たっては、香
においてサイバーの重要性について言及されるとともに、
川県や高松市など多くの関係者の方々に多大なご貢献をいた
同宣言の付属文書として「サイバーに関するG7の原則と行
だいたものであり、この場を借りて改めてお礼申し上げたい。
動」が採択された。
ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9)
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会合報告
■表1.G7香川・高松情報通信大臣会合 開催結果
■表2.G7情報通信大臣会合 デジタル連結世界憲章の概要
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ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9)
■表3.G7情報通信大臣会合 共同宣言の概要
■表4.G7情報通信大臣会合 協調行動集の概要
ITUジャーナル Vol. 46 No. 9(2016, 9)
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