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量的緩和政策がマネーサプライの 伸びに与えた影響の分析

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量的緩和政策がマネーサプライの 伸びに与えた影響の分析
量的緩和政策がマネーサプライの
伸びに与えた影響の分析
-日本・アメリカ・イギリスの比較研究-
教養学部
現代社会専修 国際関係論専攻
05LL160
(論文指導
吉成
道世
永 田 雅 啓)
.
.。
.
量的緩和政策がマネーサプライの伸びに与えた影響の分析
195
【要 旨】
問題意識
近年の世界的な金融危機に際し、主要国は量的金融緩和政策に踏み切った。量的緩和に関し
ては、過去に日本が行った際のデータをもとに多くの研究がされており、その効果波及チャン
ネルは①クレジットチャンネル②インフレ予想チャンネル③為替レートチャンネルの 3 つに
分類される。本論文では①クレジットチャンネルに焦点をあて、量的緩和がマネーサプライの
伸びに与えた影響を分析する。日本の量的緩和期において充分に機能しなかった銀行貸出経路
からの効果を、現在のアメリカ・イギリスは得ることができているのか、各国の経済指標デー
タ、銀行の財務データを比較分析することで明らかにしていく。
主要な結論
世界金融危機下のアメリカが行った量的緩和においては、銀行貸出経路からのマネーサプラ
イを増加させる効果が確認できた。しかし、それは政策初期段階における効果であり、現在で
はアメリカの銀行貸出経路は弱まっている。日本の量的緩和に関しては、先行研究で資産規模
の小さい銀行の貸出を支える効果が実証されたが、アメリカの場合にはそのような効果はみら
れなかった。
アメリカのマネーサプライは量的緩和開始後に増加しており、それは①量的緩和の規模が日
本の量的緩和に比べてかなり大きかったこと。②早い段階で量的緩和に踏み切ったこと(イギ
リス・日本は銀行貸出成長率がマイナスに転じてから量的緩和開始)が関係している可能性が
ある。
国
196
際
目
経
済
次
序章 ................................................................................................................ 198
第1章
量的金融緩和政策について ............................................................. 199
第1節
量的緩和政策のメカニズム........................................................................ 199
1.1 量的緩和政策とゼロ金利政策..................................................................................... 199
1.2
量的緩和政策の理論的有効性..................................................................................... 199
第2節
効果波及経路に関する先行研究について .................................................. 201
2.1
主要な議論.................................................................................................................. 201
2.2
銀行貸出経路についての先行研究 ............................................................................. 201
2.3
銀行貸貸出による信用創造と景気回復 ...................................................................... 202
2.4 本論文の分析方法....................................................................................................... 202
第2章
世界金融危機における米英の量的緩和政策 .................................... 203
第1節
アメリカの量的緩和政策 ........................................................................... 203
1.1
量的緩和政策の概要 ................................................................................................... 203
1.2
政策に対するFRBの説明 ........................................................................................... 204
第2節
イギリスの量的緩和政策 ........................................................................... 205
2.1
量的緩和政策の概要 ................................................................................................... 205
2.2
政策に対するBOEの説明 ........................................................................................... 206
第3章
経済指標データ・市中銀行財務データの分析................................. 208
第1節
マネーサプライ・マネタリーベースと経済指標データの推移.................. 208
1.1
マネタリーベースとマネーサプライの推移 ............................................................... 208
1.2
マネーサプライと物価指標の関連 ............................................................................. 214
第2節
2.1
信用乗数の分析.......................................................................................... 214
信用乗数の推移 .......................................................................................................... 214
2.2 現金/預金比率と準備/預金比率の推移........................................................................ 215
量的緩和政策がマネーサプライの伸びに与えた影響の分析
第3節
197
アメリカ・イギリスの商業銀行財務データ推移........................................217
3.1
アメリカ商業銀行貸出の傾向と主要金利 .................................................................. 217
3.2
イギリス商業銀行貸出傾向と主要金利 ...................................................................... 219
第4節
アメリカ商業銀行の資産規模別貸出動向...................................................221
4.1 銀行資産規模別財務データの推移 ............................................................................. 221
4.2
第4章
日本の量的緩和政策期間との比較 ............................................................................. 222
結論 ................................................................................................. 226
参考文献......................................................................................................... 227
198
国
際
経
済
序章
2007 年、サブプライムローン問題から端を発したアメリカの金融危機は世界中に広まり、
今日に至るまで各国経済を苦しめている。100 年に一度といわれている経済低迷・金融不安に
対応するため、各国中央銀行はそれぞれの金融緩和政策を打ち出した。政策金利を大幅に下げ
るゼロ金利政策、さらに量的緩和の着手に踏み切り、金融緩和効果の実体経済波及を目指した。
金融政策の枠組みの中で、金利を下げて緩和効果を生み出す方法はかねてから行われてきたが、
量的緩和に関しては 2001 年から 2006 年にかけて日本が実験的な意味も含めて導入した時が
実質初の試みであり、今回の量的緩和着手はその過去の日本のケースを反面教師にしたものと
いえる。量的金融緩和政策の実体経済への効果については多くの研究がされており、アメリカ
が早期に量的緩和へ移行した背景には、日本のような失敗を繰り返したくないという意識があ
ったことは明らかである。
本論文では、米国における量的緩和政策期の銀行貸出経路が機能していたのかを、米国・英
国のマクロ経済指標データと銀行の財務データ指標を照らし合わせることで分析する。中央銀
行がマネタリーベースの拡大を行ったことで銀行の貸出には変化が見られるのか、銀行貸出成
長率とマネーサプライ成長率の推移の関連について考察する。さらに 2009 年第 3 四半期以降
にみられるアメリカの実質 GDP 成長率の回復について分析を行い、銀行貸出経路以外のチャ
ンネルからの効果波及の可能性を考察する。
第 1 章では、量的緩和政策の効果波及経路に関する先行研究について概観し、特に本論文で
焦点をあてる銀行貸出経路に関する日本の量的緩和政策期の研究についてまとめる。第 2 章で
は、世界金融危機に際してアメリカとイギリスが行った金融緩和政策を項目別に整理する。第
3 章では、各国の経済指標データと銀行の財務データを分析し、アメリカの量的緩和における
銀行貸出経路の有無と、実質 GDP 回復の量的緩和効果波及経路の関連を考察する。第 4 章で
は、第 3 章で行った分析・考察をもとに、結論を述べる。
量的緩和政策がマネーサプライの伸びに与えた影響の分析
第1章
199
量的金融緩和政策について
量的金融緩和政策の効果に関しては、日本が 2001 年に採用する前から活発な論争・研究が
行われてきた。バブル崩壊後、日本経済の長期停滞から脱却するために日本銀が 1999 年にゼ
ロ金利政策を採用した際には、さらに量的緩和に踏み切るべきかどうかどうかを巡って議論が
なされた。実際に日本が量的緩和を採用してからは実際に得られたデータを用いた実証研究も
数多く行われ、今日ではその効果について多様な見解は存在するが、鵜飼(2006)はそれらの実
証研究サーベイを行い、次のように結論付けている。
“量的緩和政策が様々な波及メカニズムを通じて日本経済に及ぼした影響をみると、企業金融
面で緩和的な環境を作り出したとの見方が多い。特に金融機関について、市場からの資金調達
コストを抑制し、資金繰り不安を払拭したとの結果が得られている。一方、総需要・物価への
直接的な押し上げ効果は限定的との実証結果が多い。その理由として、ゼロ金利制約以外に、
企業のバランスシート調整等に依るところが大きいとの分析結果が示されている。” (鵜飼
(2006))
本章では第一節で量的緩和政策のメカニズムについて概説し、金融緩和政策の理論上の効果
に関する先行研究をまとめ、本論文で行うデータの分析方法を説明する。
第1節
1.1
量的緩和政策のメカニズム
量的緩和政策とゼロ金利政策
量的緩和政策は金融緩和政策の手段の一つであり、中央銀行が金利政策ではなく市場へのマ
ネタリーベース 1を増やすことで景気回復を目指す政策である。これまで量的緩和政策が採用
されたのは 2001 年から 2006 年の日本、そして今日の世界金融危機における主要国のケース
があげられるが、金融緩和政策としては非伝統的な手段と位置付けられている。通常は金利を
引き下げることが第一の金融緩和政策として採用され、ゼロ金利政策だけでは十分な効果が得
られなくなってきた場合に量的緩和政策へと移行する。2000 年代前半の日本、今日の主要国
はともにはじめに金利を大幅に下げ、その後ゼロ金利政策と量的緩和政策を併用する金融緩和
政策を行っている。
1.2
量的緩和政策の理論的有効性
金利を引き下げても実体経済にその効果が見られず、金利政策に次ぐ金融緩和政策が求めら
れる状況下では、量的緩和政策の採用が検討され始める。量的緩和政策とは、主な操作目標を
金利ではなくマネタリーベースとする金融緩和政策である。具体的には長期国債の購入や非不
胎化政策 2にはマネタリーベースを拡大させることでマネーサプライの増加、期待インフレ率
1
2
マネタリーベース=(中央銀行当座預金+銀行券+流通貨幣)の合計額。
非不胎化政策とは、通貨量増加を容認する為替介入のことである。一般的には通貨当局が外国為替市場に介
入する場合には外貨の売買に伴う金融市場の需給の変化を、自国通貨建ての金融資産の売買オペレーション
国
200
際
経
済
の上昇、貸出・実質金利の低下を促し、投資・消費・輸出の拡大に導くことで実体経済への効
果波及を意図している。この波及メカニズムを図にしたものが図 1 である。
図 1 量的緩和政策の波及メカニズム
(資料)
村田(2002)より作成
村田(2002)は量的緩和政策の効果波及を大きく3つのチャンネルに分類している。
①クレジットチャンネル:長期国債の購入によってマネタリーベースを増加させ銀行貸出の
活性化を図り、マネーサプライの拡大につなげるものである。このチャンネルからの効果の有
無は、銀行が貸出を活発化させることができるかに依存する。景気低迷による経営状況の悪化
をうけて、銀行が貸出や投資に対して消極的になれば、マネタリーベースが増加したとしても
マネーサプライの増加を導くことはできない。つまりこのチャンネルにおいては信用乗数 3の
維持が効果波及の前提条件となる。
②為替レートチャンネル:外貨買い・自国通貨売りを行いながらも市場に放出された自国通
貨を吸収しない非不胎化政策により、マネタリーベースを増やすと同時に自国通貨安を誘導し
(公開市場操作)によって相殺する不胎化政策が行われる。
金融機関が経済活動に必要なお金を貸し出す能力を占めす指標。マネーサプライをマネタリーベースで割っ
て算出する。
3
量的緩和政策がマネーサプライの伸びに与えた影響の分析
201
輸出の増加も図る。
③インフレ予想チャンネル:これはマネタリーベース、マネーサプライの増加からインフレ
期待を醸成し、実質金利を低下、投資を拡大させ、さらに人々が将来のインフレを予想するこ
とで現在の消費を増やすという効果も誘発させる経路である。
これら 3 つの経路の中で①クレジットチャンネルと③インフレ予想チャンネルに関しては、
マネタリーベースの増加がマネーサプライの増加に結びつくことが実体経済への量的緩和効
果波及の前提となる。また②為替レートチャンネルはマネタリーベース増加の付随的なチャン
ネルと考えられるため、緩和効果波及が望まれる経済は限られる 4と言ってもいい。本論文で
は、①クレジットチャンネルに焦点を当て、中央銀行のバランスシート拡大(マネタリーベース
拡大)とマネーサプライの増加傾向を照らし合わせ、銀行貸出の活性化が促されているのかを分
析していく。
第2節
2.1
効果波及経路に関する先行研究について
主要な議論
日本の量的緩和政策の実証研究のサーベイを行った鵜飼(2006)はその効果は、①量的緩和継
続のコミットメント効果
②バランスシート拡大の効果
③中央銀行の資産構成の変化の 3 つ
に分類されるとしている。そしてその中でも波及効果が最も大きかったのが①のコミットメン
ト効果であり、マネタリーベースの増加の効果に関する検証においてはその実体経済への影響
は有意であったかどうか結果が分かれており、有意であったとしてもコミットメントに起因す
る効果と比較するとその程度は低いと結論づけられている。
日銀の量的緩和政策が実施される以前は、貨幣数量説 5に基づき、マネタリーベースを増加
させればマネーサプライが増加し、デフレーションを止めることができるという議論がなされ
ていた。しかし、日本の量的緩和政策課のマネタリーベースとマネーサプライの相関関係につ
いては、ゼロ金利下では必ずしも比例関係にはならないことを示す実証研究が多い。日本銀行
企画室(2002)は両者はもともと固定比率でリンクされたものではなく、とくにゼロ金利下では、
現金・銀行預金比率および日銀当座預金・銀行預金比率が大きく変動し、貨幣乗数も不安定か
つ予測困難な形で変化することを示している。Kuttner(2004)も、この時期のマネタリーベー
スとマネーサプライのリンクは弱いとしている。
2.2
銀行貸出経路についての先行研究
量的緩和政策の効果に関する先行研究では、銀行貸出経路について議論されることが少なか
ったことを受けて、井上(2009)は日本の量的緩和政策期間において銀行貸出経路が存在してい
4
5
すでに自国通貨の減価が著しい経済の場合にはこのチャンネルの効果は望まれないと考えられる。
物価水準は貨幣数量に比例して変化するという理論。貨幣数量方程式 MV=PT (M:マネー、V:流通速度、
P:物価、Y:取引量)で表わされる。ここで V はほぼ一定とみなし、取引高は貨幣数量と関係なく決まると
仮定するもので、貨幣量の増加は価格の比例的上昇をもたらすというものである。
国
202
際
経
済
たのかを分析した。銀行財務データを用いて、政策目標の日銀当座預金残高が変更されたとき
に銀行は総資産における貸出の比率を変化させるのか、さらにその変化の程度はどのぐらいな
のか、銀行の財務体質による相違はあるのかをパネル実証分析している。マネーサプライは市
中銀行が貸出を行うことで増加するため、市中銀行の財務状況や頑健性はその国のマネーサプ
ライ動向に影響すると考えられ、理論的には量的緩和の効果波及に関わる重要なファクターで
ある。それにも関わらず鵜飼(2006)が銀行貸出経路を議論の対象としなかったのは、日本のマ
ネーサプライ増加率が政策期間中低い水準にあり、量的緩和政策の量的な効果はあったとして
も極めて弱いという見解が理由である。
しかし、井上(2009)は日銀当座預金目標の増大という量の拡大は、銀行貸し出し成長率に有
意な影響を与えていたことを示した。具体的には、日銀当座預金残高を 100 兆円増加させた時、
平均的な銀行の貸出を 15.1%増加させる効果持っているという結果が得られ、資産規模が小さ
い銀行は大きい銀行に比べて貸出をより多く増加させており、不良債権が少ない銀行は多い銀
行に比べて貸出をより多く増加させていたことも分かった。日本の国内銀行全体でみた銀行貸
出の総額は 2005 年中盤まで一貫して低下傾向を示していたため、銀行貸出経路についての議
論は活発ではなかったが、銀行の財務体質によるグループ分けを行ってみると、銀行貸出経路
の存在は確認することができ、日本の量的緩和政策による資産規模が小さい銀行や不良債権が
少ない銀行の貸出を促進する効果が実証された。
2.3
銀行貸貸出による信用創造と景気回復
井上(2009)による銀行貸出経路の実証研究においては、日銀当座預金残高の増加による銀行
貸出の促進効果が確認されたが、実際の国内銀行全体でみた貸出額が減少し、マネーサプライ
の伸び、実体経済への効果波及につながらなかったのは、資産規模が大きい銀行や不良債権が
多い銀行の貸出の減少の影響が非常に大きかったためと考えられる。日本の量的緩和政策下で
は、平均的な銀行や資産規模の小さい銀行による信用創造がマネーサプライや実体経済に与え
る影響力が極めて小さく、量的緩和が長期化する要因となった。
2.4
本論文の分析方法
本論文では、以下の方法でデータを分析する。
①マネタリーベースの推移、マネーサプライ成長率の推移、経済指標データの推移について、
アメリカ・イギリス・日本を比較する。各国の信用乗数の分析も行う。
②アメリカとイギリスの全商業銀行貸出傾向を貸出種類別のデータの推移を分析する。さらに、
その貸出傾向と、両国主要金利の推移との関連を分析する。
③アメリカとイギリスのマネーサプライ成長率の違いについて原因を考察するために、井上
(2009)のパネルデータ分析をフォローし、アメリカの銀行財務データを資産規模の大きい銀行
と小さい銀行とで比較することで、銀行貸出経路の有無を考える。
量的緩和政策がマネーサプライの伸びに与えた影響の分析
第2章
203
世界金融危機における米英の量的緩和政策
アメリカのサブプライムローン問題に端を発した金融不安は世界各国へと広がり、昨今の世
界的な金融・経済危機を引き起こした。各国は他国との協調体制 6を重視しつつも、自国の経
済状況に応じて金融政策を推し進めてきた。アメリカ、イギリス、欧州の中央銀行など欧米 6
中央銀行は協調利下げを実施し、その後も大幅な金利の引き下げを行ったうえで、量的緩和に
も踏み切った。
本章では、アメリカとイギリスの量的金融政策を取り上げ、金融市場の安定化のためどのよ
うな対策が取られたのか、量的緩和政策に対する中央銀行の姿勢を概観する。
第1節
1.1
アメリカの量的緩和政策
量的緩和政策の概要
FRB は 2007 年に金融危機に陥ってから、早い段階でその対応策を実行に移してきた。政策
金利を短期間に 5.25%から 0~0.25%というゼロ金利と等しい水準まで引き下げ、2008 年 11
月には実質的な量的金融緩和にシフトすることを決定した。それ以前から健全な金融機関への
流動性支援、主要な借り手・投資家に対する直接的な流動性供給は行っているが、多くの金融
専門家はこの時期を、操作目標を政策金利からバランスシート拡大にシフトしたタイミングと
して位置付けている。FOMC (Federal Open Market Committee)は、クレジットカードなど
の消費者ローンと住宅ローンの金利を低く誘導し、貸出を促進するために非伝統的な信用市場
対策を発表した。下の表 1 は FRB による量的緩和の推移である。
これらの政策プログラムは、FRB のバランスシートの資産側の構成を重視しており、日銀
が過去に行った量的緩和とは異なるアプローチを採用している。これはただ単にバランスシー
トを拡大させてマネタリーベースを増加させるだけでは、市場への緩和効果波及が期待できな
いということが日銀の経験からも明らかであるという見解が存在するためである。FRB はバ
ランスシートの資産を増やすにあたり、どのような割合をそれぞれのプログラムに割り当てて
いくかに重点をおくことで、より緩和効果の期待できる構成を作り上げることを目的としてい
た。
6
欧米 6 中央銀行での協調利下げや、通貨スワップによって互いの通貨の流動性を支援し合っている。
国
204
発表時期
2007.12
際
経
済
政策プログラム
TAF 7
概要
預金金融機関にターム物資金を供給。金利はオークショ
ン形式で決定。
通貨スワップ協定
14 中銀と通貨スワップ協定締結。海外中銀によるドル流
動性供給を支援。
2008.3
2008.9
PDCF 8
プライマリーディーラー向け貸出。
TSLF 9
プライマリーディーラーに対して財務省証券を貸出。
AMLF 10
預金金融機関がMMF 11 から高格付けABCPを購入する
資金を供給。
2008.10
発行者から直接CP 14を購入する企業に対し、FRBが資金
CPFF 12
供給。
MMIFF 13
民間設立の複数の特別な企業がMMFからCD 15、CPを購
入する資金をFRBが供給。
2008.11
ABS 19保有者に最大 3 年の貸し出しを供与、財務省が
TALF 16
TARP資金で信用補完。
入
最大 1,000 億ドル。
GSE保証MBS 18購入
最大 5,000 億ドル。
住宅関連 GSE 債購入
最大 2,000 億ドルに買取枠拡大。
GSE 保証 MBS 購入
最大 1 兆 2,500 億ドルに買取枠拡大。
長期国債購入
最大 3,000 億ドル。
住宅関連GSE債
2009.3
17購
表 1 主なアメリカの信用緩和策
(資料) FRB、三井住友 UFJ 銀行経済レビューより作成
1.2
政策に対する FRB の説明
FRBはこれらの金融危機対応策を「量的緩和(quantitative easing) ではなく「信用緩和
(credit easing)」と呼び、バブル崩壊後に日本が行った量的緩和とは異なるということを強調
している。特に今回の金融危機下では、クレジットスプレッドの広がりが大きく、信用市場の
TAF: Term Auction Facility
PDCF: Primary Dealer Credit Facility
9 TSLF: Term Securities Lending Facility
10 AMLF: Asset-Backed Commercial Paper Money Market Mutual Fund Liquidity Facility
11 MMF: Money Market Mutual Fund
12 CPFF: Commercial Paper Funding Facility
13 MMIFF: Money Market Investor Funding Facility
14 CP: Commercial Paper
15 CD: Certificate of Deposits
16 TALF: Term Asset-Backed Securities Loan Facility
17 GSE: Government Sponsored Enterprises
18 MBS: Mortgage Backed Securities
19 ABS: Asset Backed Securities
7
8
量的緩和政策がマネーサプライの伸びに与えた影響の分析
205
機能不全が深刻であることを、FRBは日銀と異なるアプローチを採用した説明としている。実
際にFRBはそれぞれのプログラムについて単一の量的な目標は設定せず、市場の状況に応じて
柔軟な方針決定を行い、プログラムに対する需要に合わせたボリュームを設定してきた。それ
によって、FRBの金融緩和に対するスタンスが分かりにくくなるというデメリットも生じるが、
ホームページを利用した市場とのコミュニケーション 20を
強化することに努めることでこれに対処している。
第2節
2.1
イギリスの量的緩和政策
量的緩和政策の概要
BOE は主要国の中でも、特に積極的な金融緩和を進めてきた。政策金利の引き下げに関し
ては、時期的にはアメリカよりも遅く、2009 年 3 月より開始したが、引き下げ幅は 5.75%か
ら 0.50%と最も大きい。バランスシートもリーマンショック以前と比較して約 3.1 倍まで拡大
し、通常の政策領域を超えた措置を実行してきた。リーマンショック後の 2007 年秋には市場
への流動性供給策に着手し、長期オペの定例化、特別流動性供給スキーム(SLS)やドル資金供
給オペの導入、経営破たんに陥ったノーザンロックに対する支援を行った。さらに、2009 年 1
月、資産買い取りファシリティ(APF)を創設し、長期国債の買取の実施を決定した。BOE は量
的な目標額として当初 750 億ポンドを設定したが、その後 5 月に 1250 億ポンド、8 月には 1750
億ポンドに額を変更した。11 月にもさらに 250 億ポンド拡大の 2,000 億ポンドに変更し、BOE
のバランスシートは異例の拡大をみせ、ポール・フィッシャーBOE 政策委員は 11 月の「BOE
のバランスシートの全体的な規模は金融危機以前の水準には戻らない公算がある」という趣旨
の認識を示している。
20 FRB のホームページで、金融政策の概要や、期待される効果について解説するセクションを設け、定期的
なレポートもアップロードしている。
(Monetary Policy Report to the Congress http://www.federalreserve.gov/monetarypolicy/mpr_default.htm)
国
206
発表時期
2007.9
際
経
政策プログラム
オペ対象先の拡大
済
概要
常設ファシリティ適用先、準備預金制度適用先に対す
るターム物資金供給制度を導入。金利は入札にて決定。
2007.12
オペ適格担保の拡大
3 か月レポオペの適格担保を臨時、又は段階的に拡大。
2008.4
特別流動性供給スキ
流動性の低下したモーゲージ関連商品等を担保に国債
ーム(SLS)
を貸し出す制度を導入。適格担保の対象をすべての投
資適格債券に拡大。(2008.9)
2008.9
ドル資金供給オペ
FRB との間で通貨スワップを締結し、ドル資金供給オ
ペを開始。
2008.10
ディスカウント・ウ
SLS を恒久化し、幅広い適格担保に対して国債を貸し
インドウ(SLS)
出す制度を導入。
常設ファシリティの
制度の利用促進のため、貸出・預金ファシリティと政
制度改正
策金利のスプレッドを縮小し、利用実績の公表を日時
から月時に変更。
2009.1
CP 買取
BOE が完全子会社である資産買い取りファシリティ
(APF)が CP を買い入れる制度。
2009.3
2009.7
長期国債買取
APF が長期国債を買いいれる制度。
社債買取
APF が社債を買い入れる制度。
ABCP 買取
APF が担保付 CP(ABCP)を買い入れる制度。
表 2 BOE による主な金融危機対応策
(資料)BOE プレスリリース、三菱東京 UFJ 銀行経済レビューより作成。
2.2
政策に対する BOE の説明
BOE も FRB と同様に 2000 年代前半の日銀の量的緩和政策との違いを強調しているが、
BOE の量的緩和アプローチはアメリカの“信用緩和”とも異なるものである。インフレター
ゲット (消費者物価上昇率 2%)を採用している BOE は、今回の金融危機対応策をマネーサプ
ライと信用の拡大を通じて名目支出を CPI 上昇率 2%に見合う水準まで引き上げるための量的
緩和(Quantitative Easing)と捉えている。政策の効果波及経路については、BOE は 2009 年第
2 四半期の Quarterly Bulletin において下の図 2 を用いて次のような説明を行っている。まず
BOE による資産買い入れによってマネタリーベースを増加させ、マネーサプライを拡大、そ
の結果銀行貸出の増加や企業の借り入れコストの低下、資産価格の上昇などを通じて景気を刺
激し、インフレ目標を達成するというものである。
BOE はこの効果波及において、市場の期待による影響が大きいことにも言及しており、メ
ディアを介したコミュニケーションにも力を注ぎ、BOE のホームページには金融政策を詳し
く説明する報告書や、その動向を報告するレポートも頻繁にアップデートしている。
量的緩和政策がマネーサプライの伸びに与えた影響の分析
図 2 BOE の量的緩和効果波及経路
(資料) BOE “Quantitative Easing” より作成。
207
国
208
第3章
際
経
済
経済指標データ・市中銀行財務データの分析
今回の世界金融危機に対するアメリカの量的緩和政策の効果は実体経済にどの程度波及し
ているのだろうか。本章では、日本・アメリカ・イギリスの経済指標データの推移を比較し、
さらにアメリカの量的緩和政策期間の銀行貸出の傾向をみるために、市中銀行の財務データを
資産規模の大きさでグループごとの傾向を分析しその原因を考察する。
第1節
1.1
マネーサプライ・マネタリーベースと経済指標データの推移
マネタリーベースとマネーサプライの推移
まず、マネタリーベースとマネーサプライの推移からみていきたい。(図 3~7 参照。QE:
Quantitative Easing, 量的緩和政策が行われた期間を示している。)中央銀行がバランスシー
トを拡大させたことでアメリカのマネタリーベースは 2008 年 10 月ごろから急激に増加し、
2009 年 1 月には 2007 年 1 月の数値を基準として 2.1 倍以に拡大した。このマネタリーベース
の高い増加率は、FRB が量的緩和の効果を短期で波及させるために大規模な金融緩和プログ
ラムを組んだことに起因する。その規模は日本の量的緩和の約 1.3 倍であり、特に量的緩和初
期段階からの急激なマネタリーベースの増加が顕著である。政策初期段階(開始から 6 ヶ月後)
の拡大規模を比較すると、日本は約 1.3 倍の増加であったことに対して、アメリカはその時点
ですでに 2 倍を超えている。イギリス量的緩和もアメリカと同じような特徴を示し、その規模
に関してはアメリカよりもさらに大きく、2009 年 9 月時点では 2007 年1月時点の 3 倍以上と
なっている。
マネーサプライの前年同期比成長率の推移はアメリカとイギリスで異なる傾向を示してい
る。アメリカは 2008 年第 3 四半期以降約 10%までマネーサプライ成長率が上昇しているが、
大規模な長期国債購入を開始した 2009 年第 1 四半期以降のイギリスM1 の成長率は日本の量
的緩和初期よりも低い水準にある。特にイギリスがマネーサプライ指標として採用している
M4 の民間部門に関しては 2009 年 7 月までマイナス成長を記録していた。マネタリーベース
の拡大規模も考慮すると、イギリスの量的緩和は日本の量的緩和と同様、もしくはそれ以上に
マネタリーベースの増加によるマネーサプライを刺激する効果がみられない。 21
21
日本のマネーサプライは、量的緩和政策開始直後にマネーサプライ成長率(前年同期比)が約 30%に達した。
しかしその後のマネーサプライ成長率は 5%以下と低い水準であった。
209
量的緩和政策がマネーサプライの伸びに与えた影響の分析
図3 アメリカ (2007Q1-2009Q4)
(a) マネタリーベースと金利の推移
(%)
6
290
5
量的緩和
4
240
3
190
2
monetary base
interest rate
140
1
0
Ja
nMa 07
rMa 07
y-0
Ju 7
lSe 07
pNo 07
v-0
Ja 7
nMa 08
rMa 08
y-0
Ju 8
lSe 08
pNo 08
vJa 08
nMa 09
rMa 09
y-0
Ju 9
lSe 09
pNo 09
v-0
9
90
(%)
(b) 実質GDP成長率・CPI・GDPデフレータの推移
4
110
108
106
104
102
100
98
96
94
2
0
-2
-4
-6
Ja
n-0
7
Ap
r-0
7
Ju
l-0
7
Oc
t-0
7
Ja
n08
Ap
r-0
8
Ju
l-0
8
Oc
t-0
8
Ja
n-0
9
Ap
r-0
9
Ju
l-0
9
Oc
t-0
9
Ja
n-1
0
-8
GDP growth
GDP deflator
CPI
国
210
際
経
済
図4 イギリス (2007Q1-2009Q4)
(a) マネタリーベースと金利の推移
(%)
6
290
5
240
4
monetary base
interest rate
190
3
2
140
1
0
Ja
nMa 07
rMa 07
y-0
Ju 7
lSe 07
pNo 07
vJa 0 7
nMa 08
rMa 08
y-0
Ju 8
lSe 08
pNo 08
vJa 0 8
nMa 09
rMa 09
y-0
Ju 9
lSe 09
pNo 09
v-0
9
90
(b) 実質GDP成長率・CPI・GDPデフレータの推移
(%)
4
110
108
106
104
102
100
98
96
94
2
0
-2
-4
-6
Oc
t-0
7
Ja
n-0
8
Ap
r-0
8
Ju
l-0
8
Oc
t-0
8
Ja
n09
Ap
r-0
9
Ju
l-0
9
Oc
t-0
9
7
07
Ju
l-
Ap
r-0
Ja
n-
07
-8
GDP growth
GDP deflator
(資料) IMF Statistics, Office for National Statistics
CPI
Ja
n-0
Ma 7
rMa 07
y-0
Ju 7
lSe 07
pNo 07
v-0
Ja 7
n0
Ma 8
rMa 08
y-0
Ju 8
lSe 08
pNo 08
v-0
Ja 8
n-0
Ma 9
rMa 09
y-0
Ju 9
lSe 09
pNo 09
v-0
9
量的緩和政策がマネーサプライの伸びに与えた影響の分析
(%)
4.0
2.0
211
図5 マネーサプライ成長率-US・UK
10.0
8.0
6.0
US
UK
US
0.0
UK
(資料) BOE Statistics, FRB interactive database
GDP growth
CPI
-4
-6
-8
GDP deflator
Q3
2
Q1
2
Q3
2
00
6
00
6
00
5
005
経
Q1
2
00
4
際
Q3
2
00
4
00
3
国
Q1
2
Q3
2
240
00
3
Ja
nAp 01
r-0
Ju 1
lOc 01
tJa 01
n-0
Ap 2
r-0
Ju 2
lOc 02
tJa 02
n-0
Ap 3
r-0
Ju 3
lOc 03
tJa 03
nAp 04
r-0
Ju 4
lOc 04
t-0
Ja 4
nAp 05
r-0
Ju 5
lOc 05
t-0
Ja 5
nAp 06
r-0
Ju 6
lOc 06
t-0
6
290
Q1
2
00
2
00
2
(%)
Q3
2
Q1
2
00
1
00
1
-2
Q3
2
Q1
2
212
済
図6 日本 (2001Q1-2006Q4)
(a) マネタリーベースと金利の推移
(%)
6
monetary base
interest rate
5
4
190
3
140
2
1
90
0
(b) 実質GDP成長率・CPI・GDPデフレータの推移
4
2
0
110
108
106
104
102
100
98
96
94
92
200
0
M6
200
M1
12 0
0
M4 00
200
1
M9
200
1
M2
200
2
M7
2
M1 002
22
0
M5 02
2
M1 003
02
0
M3 03
200
4
M8
200
4
M1
200
5
M6
200
M1
12 5
0
M4 05
20
M9 0 6
20
M2 0 6
20
M7 0 7
2
M1 007
22
0
M5 07
200
M1
02 8
0
M3 08
200
9
M8
200
9
M1
Ja
n0
Ap 1
r-0
Ju 1
lOc 01
t-0
Ja 1
n0
Ap 2
r-0
Ju 2
lOc 02
t-0
Ja 2
n0
Ap 3
r-0
Ju 3
lOc 03
t-0
Ja 3
n0
Ap 4
r-0
Ju 4
lOc 04
t-0
Ja 4
n0
Ap 5
r-0
Ju 5
lOc 05
t-0
Ja 5
n0
Ap 6
r-0
Ju 6
lOc 06
t-0
6
量的緩和政策がマネーサプライの伸びに与えた影響の分析
(%
6.0
Japan
United Kingdom
(資料) IMF Statistics
United States
213
図7 マネーサプライ成長率-日本
(%)
10
8
6
4
2
0
(資料)日本銀行
図8 各国政策金利の推移
7.0
US
U
K
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
JPN
国
214
1.2
際
経
済
マネーサプライと物価指標の関連
次に、各国のマネーサプライと物価指標の関連をみてみたい。
(図 3~7 参照)アメリカとイ
ギリスはともにインフレ傾向がみられるが、2009 年第 1 四半期にはイギリスの CPI が若干落
ち込んでいる。これはマネーサプライの成長率が下がったことが原因とも考えられるが、2008
年第 3 四半期ごろに高騰した資源価格が下がったことの影響も関係している可能性を含む。ア
メリカ・イギリスのマネタリーベース拡大に反応を示すような CPI と GDP デフレーターの急
激な変動は見られないが、日本の量的緩和期には政策初期段階でマネーサプライの急激な増加
がみられた。しかしその成長率は 2003 年以降には 5%以下まで落ち込み、政策初期を含めて
CPI と GDP デフレーターは下降し続けた。よって、マネタリーベースの増加による物価への
効果はゼロに等しいと言える。
1.3
実質 GDP 成長率の推移
実質GDP変化率に関しては、アメリカは 2009 年第 1 四半期の-6.1%成長から 2009 年第 3
四半期にはプラス成長にまで回復しており、第 4 四半期についてもプラス成長の予測がたてら
れている。FRBのバーナンキ議長は、2009 年 10 月の時点で、「景気回復が確実になった時点
で、インフレ回避のため金融政策を引き締める必要がある」 22と述べ、量的緩和を解除する用
意があることを示している。日本の量的緩和政策期には、実質GDP成長率はプラス成長とマイ
ナス成長を繰り返しており、デフレ傾向、アメリカの量的緩和は規模、速度ともに日本の量的
緩和を大きく凌ぐものであったが、FRBが目指していた「短期的な量的緩和」は実現可能な範
囲にあると考えられる。一方、イギリスの実質GDP成長率は 2009 年第 1 四半期にマイナス成
長に転じて以降、まだプラス成長への回復はみられない。
第2節
2.1
信用乗数の分析
信用乗数の推移
では、各国の信用乗数はどのような推移をしているのだろうか。(図 9、図 10 参照)アメリカ、
イギリス、日本の 3 国のうち、特にイギリスの信用乗数の低下が著しい。イギリスの信用乗数
はもともと 20 以上の高い数値を保っていたが、2009 年 3 月に量的緩和を開始してからは急激
な低下をみせ、2009 年 7 月には 10 以下に落ち込んだ。イギリスの量的緩和の規模は主要国の
中でも非常に大きく、それがこの信用乗数低下の一要因であると考えられる。アメリカと日本
の信用乗数は量的緩和開始前には、10 前後を推移していた。量的緩和期においては、アメリ
カの信用乗数は 4~5、日本の信用乗数は 5~6 に低下した。両国の信用乗数は量的緩和開始前、
開始後ともにほぼ同じ水準を推移しているが、アメリカと日本のマネタリーベース拡大の規模
には大きな違いがあった。アメリカは日本と比較して大規模なマネタリーベースを行ったこと
を考慮すると、アメリカのマネーサプライは相対的に増加率が大きいことが予測できる。
22
2009 年 12 月 7 日、エコノミッククラブにおける講演での発言。
215
量的緩和政策がマネーサプライの伸びに与えた影響の分析
図9 信用乗数の推移-アメリカ・イギリス
25
US
UK
20
15
10
UK
US
5
Ja
n-0
Ma 7
r- 0
Ma 7
y-0
7
Ju
l-0
Se 7
p-0
No 7
v-0
Ja 7
n-0
Ma 8
r- 0
Ma 8
y-0
8
Ju
l-0
Se 8
p-0
No 8
v-0
Ja 8
n-0
Ma 9
r- 0
Ma 9
y-0
9
Ju
l-0
Se 9
p-0
No 9
v-0
9
0
(資料) BOE Statistics, FRB interactive database
図10 信用乗数の推移-日本
25
20
15
10
5
Ja
n-
01
Ma
y-0
1
Se
p01
Ja
n02
Ma
y-0
2
Se
p02
Ja
n03
Ma
y-0
3
Se
p03
Ja
n04
Ma
y-0
4
Se
p04
Ja
n05
Ma
y-0
5
Se
p05
Ja
n06
Ma
y-0
6
Se
p06
0
(資料)日本銀行
2.2
現金/預金比率と準備/預金比率の推移
図 11、図 12、図 13 はそれぞれアメリカ、イギリス、日本の現金/預金比率、準備/預金比率
の推移を示している。まず、図 11 を参照されたい。わずかではあるが主に預金が増加したこ
国
216
際
経
済
とによるアメリカの現金/預金比率の低下がみられ、これは人々のインフレ期待によるものと考
えられる。アメリカの準備/預金比率は約 0.01 から 0.18 まで上昇し、3 国の中では最も大きな
上昇を見せている。次に、イギリスの数値を見てみたい。図 12 より、イギリスの現金/預金比
率はほとんど変化していないことがわかる。図 13 の日本の量的緩和政策期には、現金/預金比
率の上昇がみられる。これは主に現金が伸びたことによるものであり、人々のデフレ懸念を反
映していると考えられる。
図11 現金預金比率と準備預金比率の推移-アメリカ
C/D
R/D
Ja
n-0
Ma 7
r-0
Ma 7
y-0
7
Ju
l-0
Se 7
p0
No 7
v-0
Ja 7
n-0
Ma 8
r-0
Ma 8
y-0
8
Ju
l-0
Se 8
p0
No 8
v-0
Ja 8
n0
Ma 9
r-0
Ma 9
y-0
9
Ju
l-0
Se 9
p0
No 9
v-0
9
0.18
0.16
0.14
0.12
0.1
0.08
0.06
0.04
0.02
0
図12 現金預金比率と準備預金比率-イギリス
C/D
R/D
Ja
nMa 07
rMa 07
y-0
Ju 7
lSe 07
pNo 07
v-0
Ja 7
n-0
Ma 8
rMa 08
y-0
Ju 8
lSe 08
pNo 08
vJa 08
nMa 09
rMa 09
y-0
Ju 9
lSe 09
pNo 09
v-0
9
0.18
0.16
0.14
0.12
0.1
0.08
0.06
0.04
0.02
0
量的緩和政策がマネーサプライの伸びに与えた影響の分析
217
図13 現金預金比率と準備預金比率-日本
Ja
n-
01
Ma
y-0
1
Se
p01
Ja
n02
Ma
y-0
2
Se
p02
Ja
n-0
3
Ma
y-0
3
Se
p03
Ja
n-0
4
Ma
y-0
4
Se
p-0
4
Ja
n05
Ma
y-0
5
Se
p05
Ja
n06
Ma
y-0
6
Se
p06
0.18
0.16
0.14
0.12
0.1
0.08
0.06
0.04
0.02
0
C/D
第3節
R/D
アメリカ・イギリスの商業銀行財務データ推移
金融危機下のアメリカ・イギリスの経済指標データからは、マネーサプライ成長率の傾向が
異なることがわかり、信用乗数の変動にも違いがみられた。その原因を分析するために、本節
では両国の銀行貸出傾向を比較し分析していく。
3.1
アメリカ商業銀行貸出の傾向と主要金利
まずは全商業銀行の貸出成長率の推移を見てみよう。
(図 14 参照)アメリカの銀行貸出全体
の成長率は、2009 年第 3 四半期までプラス成長を維持しているが、それ以降の増加率は鈍化
し、2009 年第 4 四半期にはマイナス成長を記録している。2009 年第 3 四半期までのプラス成
長を支えていたのは消費者と住宅関連への融資であり、法人への貸出はリーマンショック
(2008 年 9 月)以降の落ち込みが顕著である。法人への貸出成長率は 2008 年 3 月頃をピークに
急激に低下し、銀行が金融不安の中で企業に対する融資に消極的になっていることがうかがえ
る。図 15 のアメリカ主要金利の推移からも、社債につく金利が高い水準にあり、企業が資金
を得ることが困難になっていることが分かる。
FRB は政策金利目標を急激に引き下げ、2008 年第 3 四半期には債権の購入をスタートさせ、
長期金利を低く誘導しようとした。債権購入のアナウンスがあった 2008 年 11 月頃には一時的
に長期金利を押し下げる効果があったことがグラフから見てとれるが、それ以降は同じ水準を
維持している。量的緩和政策で、長期債券の購入、住宅関連債権の購入が進められているのに
もかかわらず長期金利が下がらない要因としては、マネーサプライや CPI の上昇傾向による将
来の物価に対するインフレ懸念、景気動向の不確実性に伴うリスクプレミアムの拡大があげら
国
218
際
経
済
図14 アメリカ銀行貸出成長率
25%
20%
15%
10%
5%
Ja
n07
Ma
r-0
7
Ma
y-0
7
Ju
l-0
7
Se
p07
No
v-0
7
Ja
n08
Ma
r-0
8
Ma
y-0
8
Ju
l-0
8
Se
p08
No
v-0
8
Ja
n09
Ma
r-0
9
Ma
y-0
9
Ju
l-0
9
Se
p09
No
v-0
9
0%
-5%
-10%
-15%
-20%
全体
法人
消費者
住宅関連
(資料) FRB interactive database
(%)
図15 アメリカ主要金利
9
8
7
6
5
4
3
2
1
Ja
n-0
Ma 7
rMa 07
y-0
Ju 7
l-0
Se 7
p0
No 7
v-0
Ja 7
n-0
Ma 8
rMa 08
y-0
Ju 8
l-0
Se 8
p0
No 8
v-0
Ja 8
n-0
Ma 9
rMa 09
y-0
Ju 9
l-0
Se 9
p0
No 9
v-0
9
0
Average majority prime rate charged by banks on short-term loans to business
Moody's yield on seasoned corpotate bonds - all industries
Treasury long-term average (over 10 years)
Federal funds effective rate
30-Day AA Nonfinancial Commercial Paper Interest Rate
Contract rate on 30-year, fixed -rate conventional home mortgage commitmemts
(資料)
FRB interactive database
量的緩和政策がマネーサプライの伸びに与えた影響の分析
219
れるだろう。実質 GDP は図 3 でみたように 2009 年第 3 四半期にはプラス成長に転じている
一方で、完全失業率は 10%をこえる勢いで上昇している。
(図 18 参照)GDP 成長の効果が雇
用に影響を与えるまでにはタイムラグがあると考えられるが、その期間も定かではないことも
将来の景気に対する予測を難しくしている。
3.2
イギリス商業銀行貸出傾向と主要金利
イギリスの銀行貸出成長率については、2008 年第 3 四半期の時点で住宅関連と消費者への
融資がマイナス成長に転じ、緩やかではあるがアメリカよりも早い段階から成長の鈍化が続い
ていた。(図 16)
2009 年第 1~第 2 四半期に-5%の水準まで下がったが、それ以上は大きく
低下せず、2009 年第 4 四半期にプラス成長に回復した。企業への貸出成長率は低下している
が、アメリカのような急激な落ち込みではない。2009 年第 4 四半期時点では、アメリカは-
15%まで落ち込んでいるのに対し、イギリスは-2%程度であり、融資先別の貸出成長率の程度
には差がみられる。
イギリスの主要金利推移の特徴としては、イギリス長期国債(British Government Securities
– 10 year) の金利が企業の当座貸越しにかかる金利よりも高いことがあげられる。大規模な長期
国債の買取によって理論的には低下するはずの長期国債金利が、2009 年に入ってから約 3.2%の
水準で高止まりをしている。2009 年 5 月に、イギリス政府の債務残高が 2013 年迄に GDP と同
じレベルまで近づき、その後も同様に推移していく可能性があるとして、イギリスの国債の格付
が「安定的」から「ネガティブ」に引き下げられたことが関係していると考えられる。 また、
イギリスの金利が高止まりしているもう一つの要因として、大幅なマネタリーベースの増加によ
り期待インフレ率が高まり、長期金利が低下していないことも考えられる。
図16 イギリス銀行貸出成長率
(%)
25
20
15
10
5
Ja
n0
Ma 7
r-0
Ma 7
y-0
Ju 7
l-0
Se 7
p0
No 7
v-0
Ja 7
n0
Ma 8
r-0
Ma 8
y-0
Ju 8
l-0
Se 8
p0
No 8
v-0
Ja 8
n0
Ma 9
r-0
Ma 9
y-0
Ju 9
l-0
Se 9
p0
No 9
v-0
9
0
-5
-10
-15
-20
全体
法人
住宅関連
(資料) BOE Statistics
消費者
国
220
際
経
済
図17 イギリス主要金利
(%)
9
8
7
6
5
4
3
2
1
Ja
nMa 07
rMa 07
y-0
Ju 7
lSe 07
p-0
No 7
v-0
Ja 7
nMa 08
rMa 08
y-0
Ju 8
lSe 08
pNo 08
vJa 08
nMa 09
rMa 09
y-0
Ju 9
lSe 09
p-0
No 9
v-0
9
0
loans secured on dwellings with an initial fixation over 10 years
overdrafts to private non financial corporations
official Bank Rate
Commercial paper rates - 30 days
British Govermant Securities - 10 year
(資料)BOE Statistics
(%)
図18 アメリカとイギリスの失業率
12.0
10.0
8.0
6.0
4.0
2.0
Ja
n0
Ma 7
r-0
Ma 7
y-0
7
Ju
l-0
Se 7
p0
No 7
v-0
Ja 7
n0
Ma 8
r-0
Ma 8
y-0
8
Ju
l-0
Se 8
p0
No 8
v-0
Ja 8
n0
Ma 9
r-0
Ma 9
y-0
9
Ju
l-0
Se 9
p09
0.0
UK
(資料)IMF Statistics
US
量的緩和政策がマネーサプライの伸びに与えた影響の分析
第4節
4.1
221
アメリカ商業銀行の資産規模別貸出動向
銀行資産規模別財務データの推移
アメリカの銀行貸出成長率は、量的緩和期に入ってから低下していったが、一方で、アメリ
カのマネーサプライ成長率は量的緩和開始後に約 5%から 10%近くまで上昇した。
前にも述べたように、井上(2009)の研究においては、日本の量的緩和政策期間においては資
産規模の大きい銀行と小さい銀行では貸出の増加に差があり、大きい銀行の貸出鈍化が、小さ
い銀行と平均的な銀行の貸出による効果を打ち消していたために、全体としての銀行貸出は減
少していたという結果が得られた。
(図 19 参照)この日本の銀行全体の貸出の鈍化が量的緩和
政策後期の低いマネーサプライ成長率の一要因であった。そこで、アメリカについても、資産
規模の違いによる銀行の財務データに違いがみられるのか、銀行の資産規模別には銀行貸出経
路が存在する可能性があるのかを分析したい。
図19 銀行貸出成長率-日本
25%
20%
15%
10%
5%
0%
-5%
-10%
-15%
Mar-
01
Jun01
Sep01
Dec01
Mar02
Jun02
Sep02
Dec02
Mar03
Jun03
Sep03
Dec03
Mar04
Jun04
Sep04
Dec04
Mar05
Jun05
Sep05
Dec05
Mar06
Jun06
Sep06
Dec06
-20%
全体
消費者
中小企業
住宅関連
(資料)日本銀行
図 21 はアメリカの全商業銀行を総資産 10 億ドル以上の大きい銀行と 10 億ドル以下の中小
銀行に分け、資産規模が大きい銀行と小さい銀行のそれぞれの平均値の推移をグラフ化したも
のである。
パネル(A)より、資産規模の大きい銀行のほうが全期間で総資産に占める貸出の割合が低い
ことが分かる。FRBがマネタリーベースを増やし始めた 2008 年第 4 四半期以降は、全体とし
て総資産に占める貸出の割合を減らしている。パネル(B) より、量的緩和開始前と開始後では
傾向が異なっており、開始前では資産規模の小さい銀行のほうが総資産に対する有価証券の割
合が高かったが、量的緩和政策期間においては、資産規模が大きい銀行の総資産に対する有価
国
222
際
経
済
証券の割合が上昇し、資産規模の小さい銀行とほぼ同じ割合を示すようになった。量的緩和政
策期間とそれ以前とでグループ分けを行い、平均値の差の検定を行ったところ、量的緩和期に
は有意な差は認められず 23、2009 年 8 月以降は資産規模の大きい銀行の総資産に対する有価
証券の割合が小さい銀行の値を上回っている。パネル(C )より、総資産における現金預金の割
合に関しては、量的緩和開始前は資産規模の大きい銀行の値は小さい銀行よりも低かったが、
2009 年4月以降は資産規模の大きい銀行の値のほうが高くなっていることがわかる。パネル
(D)(E)より、2009 年 1 月頃までの期間については資産規模の大きい銀行であるが、それ以降
は資産規模の大きい銀行の前年度同期比貸出成長率(パネル(E))は急激に数値が下がり、2009
年 10 月にはマイナスに転じ、資産規模の小さい銀行よりも低い成長率となっている。
4.2
日本の量的緩和政策期間との比較
日本の量的緩和政策期には、政策期間前期には資産規模の大きい銀行のほうが貸出や現金預
金よりも有価証券で資産を運用し、自己資本比率や不良債権比率を徐々に改善することができ
たため、政策期間終盤には貸出を大幅に増加させることができたと考えられる。一方で、資産
規模の小さい銀行に関しては急激な貸出成長率の低下は見られず、実証研究でも量的緩和政策
の資産銀行の貸出を支える効果が確認されたが、資産規模の大きい銀行のような終盤でのおお
きな貸出の伸びは見られなかった。
アメリカの場合には、量的緩和政策開始以降、(有価証券/総資産)の数値には資産規模の大
きい銀行と小さい銀行では差がみられず、現金預金に関しては資産規模の大きい銀行のほうが
総資産に対する割合が高くなっていることから、日本のケースとは異なる傾向を示していると
いえる。もちろん、アメリカの量的緩和は終了が示唆されているものの現時点は継続中の段階
であることと、量的緩和の規模も異なっているため日本のケースとの単純な比較は困難ではあ
るが、日本の数値の推移は期間中ほぼ一貫していることから、アメリカの商業銀行の傾向の違
いはあると考えられる。
アメリカの前年度同期比貸出成長率に関しては、量的緩和開始時点で資産規模の大きい銀行
に貸出成長率の一時的な反応がみられるが、それ以降は資産規模の違いに拘わらず成長率は低
下を続け、2009 年 8 月にはマイナスに転じている。資産規模の小さい銀行に関しても、2008
年第 1 四半期以降は一貫して貸出成長率の鈍化がみられ、2008 年第 4 四半期以降も日本の量
的緩和政策期のような貸出の増加は確認できない。日本の量的緩和期には最も低い成長率でも
-5%には達することはなかったが、2009 年 8 月以降のアメリカの資産規模の大きい銀行の貸
出成長率は-10%近くまで落ち込んでおり、アメリカの量的緩和政策期間における銀行貸出経
路は弱まってきている。
4.3
アメリカ量的緩和における銀行貸出経路
世界金融危機下のアメリカが行った量的緩和政策において、初期段階において銀行貸出経路
の効果が確認できた。アメリカのマネーサプライは増加しており、その要因としては、
23
有意水準 5%。
量的緩和政策がマネーサプライの伸びに与えた影響の分析
223
①量的緩和の規模が日本の量的緩和に比べてかなり大きかったこと。
②早い段階で量的緩和に踏み切ったこと。
(イギリス・日本は銀行貸出成長率がマイナスに転じてからの量的緩和)
これら2つが関係していると考えられる。しかし、マネタリーベースが大きく拡大する前、2008
年第 3 四半期以前のほうが銀行貸出は活発であり、特に資産規模の大きい銀行の貸出成長率は
高い水準を維持していた。現時点での銀行貸出経路からの効果波及は弱い。
国
224
図20
(A)
経
済
(2001-2006)
日本全銀行の財務データ推移
貸出/総資産
(B)
(C)
(D)
際
貸出成長率(前期比)
有価証券/総資産
現金預金/総資産
(E)
貸出成長率(前年同期比)
実線:資産規模の大きい銀行
点線:資産規模の小さい銀行
(資料)井上(2009)より引用。
Ja
n07
Ap
r-0
7
Ju
l-0
7
Oc
t-0
7
Ja
n08
Ap
r-0
8
Ju
l-0
8
Oc
t-0
8
Ja
n09
Ap
r-0
9
Ju
l-0
9
Oc
t-0
9
(C) 現金預金/総資産
0.09
0.08
0.07
0.06
0.05
0.04
0.03
0.02
(%)
-0.1
-0.15
Ja
n-0
Ap 7
r-0
7
Ju
l -0
Oc 7
t-0
Ja 7
n-0
8
Ap
r-0
8
Ju
l -0
Oc 8
t-0
Ja 8
n-0
Ap 9
r-0
9
Ju
l -0
Oc 9
t-0
9
Ja
n-0
7
Ap
r-0
7
Ju
l -0
Oc 7
t-0
Ja 7
n-0
8
Ap
r-0
8
Ju
l -0
Oc 8
t-0
Ja 8
n-0
9
Ap
r-0
9
Ju
l -0
Oc 9
t-0
9
図21
Ja
n07
Ap
r-0
7
Ju
l-0
7
Oc
t-0
7
Ja
n08
Ap
r-0
8
Ju
l-0
8
Oc
t-0
8
Ja
n09
Ap
r-0
9
Ju
l-0
9
Oc
t-0
9
Ja
n07
Ap
r-0
7
Ju
l -0
7
Oc
t-0
7
Ja
n08
Ap
r-0
8
Ju
l -0
8
Oc
t-0
8
Ja
n09
Ap
r-0
9
Ju
l -0
9
Oc
t-0
9
量的緩和政策がマネーサプライの伸びに与えた影響の分析
0.75
(A) 貸出/総資産
0.35
0.7
0.3
0.65
0.25
0.6
0.2
0.55
0.15
(E) 貸出成長率(前年同期比)
0.15
0.1
資産規模の大きい銀行
0.05
資産規模の小さい銀行
0
-0.05
(資料) FRB interactive database
225
アメリカ商業銀行の財務データ推移(2007-2009)
(B) 有価証券/総資産
(D) 貸出成長率(前期比)
5%
4%
3%
2%
1%
0%
-1%
-2%
-3%
-4%
-5%
国
226
第4章
際
経
済
結論
世界金融危機に際したアメリカ・イギリスの量的緩和は、日本の量的緩和と比較して大規模
なものであった。アメリカよりもイギリスのほうがマネタリーベースの拡大の規模は大きかっ
たが、アメリカのマネーサプライ成長率が約 5%から 10%に伸びたことに対して、イギリスの
マネーサプライ成長率は伸びず、特に M4 民間保有分に関してはマイナス成長を記録した。信
用乗数の変動要因にも違いがみられた。
しかし、第 3 章で行った銀行財務データ分析の結果から、世界金融危機下のアメリカが行っ
た量的緩和政策初期段階において、銀行貸出経路からの効果は確認できた。しかしながら、マ
ネタリーベースが大きく拡大する前、2008 年第 3 四半期以前のほうが銀行貸出は活発であり、
特に資産規模の大きい銀行の貸出成長率は高い水準を維持していたが、現時点では貸出成長率
もマイナスに転じ、銀行貸出経路も弱まってきている。日本の量的緩和においては、資産規模
の小さい銀行の貸出を支える効果が実証されたが、資産規模別に分析してもアメリカの銀行貸
出経路からの効果は弱まってきていると考えられる。アメリカのマネーサプライ増加の要因と
しては、①量的緩和の規模が日本の量的緩和に比べてかなり大きかったこと。②早い段階で量
的緩和に踏み切ったこと(イギリス・日本は銀行貸出成長率がマイナスに転じてから量的緩和
開始)が関係している可能性がある。
今後の課題として、本論文で焦点をあてたクレジットチャンネルからの効果波及以外にも、
為替レートチャンネル、インフレ予想チャンネルに関する分析が必要と考えられる。現時点で
は(2010 年 2 月)量的緩和は進行中の段階であり、この先の経済指標データ、銀行、企業の財務
データ等の動向を注意深く見ていく必要がある。
227
量的緩和政策がマネーサプライの伸びに与えた影響の分析
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菱東京 UFJ 銀行経済レビュー
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内閣府 HP
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228
国
際
経
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http://www.federalreserve.gov/
Bank of International Settlement
http://www.bis.org/
Federal Deposits Insurance Corporation
http://www.fdic.gov/
U.S. Department of Commerce
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http://www.imf.org/external/index.htm
.。
済
量的緩和政策がマネーサプライの伸びに与えた影響の分析
あ
と
が
229
き
やっと卒業論文が終わりました。長く、とても険しい道のりでした。途中、「もう…
卒業しなくてもいいか…」などというわけのわからない思想が生まれ、もうすべて
が嫌になって一週間ぐらい眠り続けた時期もありました。今、こうしてあとがきを
書いているのは奇跡に近いものがあり、本当にうれしい限りです。
夏にイギリス留学から日本に帰国して、正直なところとてもなんとなくテーマを
決めました。軽井沢卒論合宿で案として発表してみたところ、「これはもしかしてち
ゃちゃっとうまいこと書けるのでは…?」という気がしていました。しかしその淡い
期待はすぐに木っ端みじんに打ち砕かれ、自分のテーマについて勉強するにつれて、
「これはとんでもないテーマを選んでしまったのではないか」という疑念が強まり、
卒論が形になるころには、それは「これは私のキャパシティを完全に超えている」と
いう確信に変わっていました。
一瞬だけ「あのとき卒論のない学部にしていれば…」と少し後悔しましたが、今で
は教養学部・国関で卒論を書けてよかったなぁと思っています。永田先生・山本先
生・草野先生のチームワークによって、国際関係論専攻の類まれなる素晴らしい学
習環境が作り出され、おそらく自分の気付かないうちにも鍛えられ、私のような学
生でも卒論を書き終えることができました。先生方には本当に感謝申し上げます。
ありがとうございました。
話は変わりますが、私の大学生活はバドミントンと勉強とアルバイトの両立に悩
まされる日々でした。そして、実際この両立はほとんど失敗に終わり、私と一緒にバ
ドもしくは勉強してくださった皆さまには多大なるご迷惑をおかけしてしまった
と自覚しています。部活では公式戦で居眠りをして先輩を怒らせたり、ゼミでは予
習が不十分すぎて途中退室を余儀なくされたりと、我ながら究極にひどかったと思
います。大変申し訳ありませんでした。でも私にとって、とても真面目に真剣に熱心
に一つのことに取り組んでいるみんなと過ごす時間はかけがえのないものであり、
そんなみんなに魅かれていたから、どちらもやめられなかったんだと思います。…
でもちょっとバドミントンとバイトはやりすぎました。大学生の本業はやはり勉強
です。もう少し早めに気づくべきでした。
最後になりますが、私の後輩にあたる国際関係論専攻の皆さま。今は「なんでこん
なに英語読まなきゃいけないんだよ…」とか、「3・4 は起きるのがめんどくさい…」
とか思うこともあると思います。でもどうかその気持ちに負けず、国関ライフを 1
から 10 まで満喫されることを心よりお祈り申し上げます。
吉成 道世
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