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譲型シニアマンションの問題点と対応策(その2

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譲型シニアマンションの問題点と対応策(その2
第4 科会 一般報告
譲型シニアマンションの問題点と対応策(その2)
マネジメント的
増永久仁郎
1 はじめに
察
北井秀夫
ジメント導入の必要性を提案している。
2012年4月に設立された「管理組合のマネジメ
ントを研究する会(通称マネ研)
」は、主に京阪
神で活躍するマンション管理士や弁護士等の専門
家に加え、管理組合の理事・役員経験者等が毎月
2
本件シニアマンションの居住者像
本件シニアマンションの居住者像は以下のとお
りである。
集い、管理組合運営をヒト・モノ・カネの観点か
ら
析、問題点を抽出し実践的な対応策の討議を
してきた。
その成果物として2013年の神戸大会では「高齢
竣工時期
:2006年1月竣工
戸数・ 物の概要:89戸15階・地下1階 て
調査時期
:2014年3月
化マンションのマネジメント」
、2014年仙台大会
空室率
:12.4%(11戸/89戸)
では「 譲シニアマンションの問題点と対応策」
居住者数
:92人(回答者の全員が区
を発表した。
今回広島大会では、昨年(2014年)に引き続き
「
所有者であった)
アンケート回収率:62%(57人/92人)
譲シニアマンションの問題点と対応策」を取
り上げ、その2」を発表することにした。
なお、本誌48号(177∼184頁)に① 譲マンシ
⑴
居住者の年齢構成比
居住者の年齢構成比は以下のとおりである。
ョンの基本的な管理業務、②シニアマンション特
有の管理業務、③シニアマンションとファミリー
65歳未満
:3.7%(2人)
マンションの管理業務の比較、④シニアマンショ
65∼70歳未満:9.4%(5人)
ンの経費 析、⑤シニアマンションの問題点と対
70∼80歳未満:34.0%(18人)
応策、として発表しているので、それを参 に本
80∼90歳未満:49.1%(26人)
稿に目を通していただくと幸いである。
90歳以上
:3.7%(2人)
本稿の内容は、ある 譲シニアマンション(以
下、
「本件シニアマンション」という)について、
本件シニアマンションの区 所有者の86.8%が
実際に購入した区 所有者や住んでいる居住者に
70歳以上、80歳以上になると全居住者に占める割
アンケート調査を実施し、その実態の 析からス
合は52.8%となる。
タートし、その高コストの要因や将来の資産価値
筆者が居住者の聴き取り調査を行ったところ、
の動向を検証したものである。そのうえで、ファ
区 所有者は企業経営者や金融機関・上場企業の
ミリーマンションよりスキルが要求されるシニア
リタイア組等の比較的リッチな高齢者が多く、多
マンションのマンション管理を通して、管理組合
くは住宅ローンを利用することなく現金で購入し
のリテラシーや非営利組織である管理組合のマネ
ていた。
*マンション管理士・NPO 法人近畿マンション管理士協会
**マンション管理士・管理組合のマネジメントを研究する会
105
マンション学
第51号(2015年)
⑵ 居住者の男女構成比
(食事に一部介助が必要。排泄、入浴な
居住者の男女構成比は、男性33%、女性67%で
どに全面的な介助が必要。両足での立位
ある。
保持がほとんどできない)
。
⑶ 世帯構成比
⑦
居住者の世帯構成比は、単身者54%、夫婦46%
要介護5:最重度の介護を必要とする状
態(日常生活を遂行する能力は著しく低
である。
下し、日常生活全般に介護が必要。意思
今回のアンケートでは単身者の男女比まで調査
の伝達がほとんどできない)
。
ができなかったが、下記〔表1〕を参 にすれば、
当該マンションの男女比も男性1に対し女性2の
当該マンションの要支援者は11人(要支援1は
割合と思われる。
9人、要支援2は2人)であり、回答者に占める
⑷ 全居住者に占める要介護、要支援者
割合は19.3%であった。
全居住者に占める要介護、要支援者は30%(17
人)であった。
一方、要介護を必要としている者は6人(要介
護1が3人、要介護2が2人であるが、最重度の
要介護および要支援の認定の目安は下記のとお
介護を必要とする要介護5は1人)であり、回答
りである。
者に占める割合は10.5%であった。
このように全居住者の3 の1が要支援、要介
① 要支援1:日常生活の一部について介助
護状態であり、加えて要介護5の居住者(区 所
を必要とする状態(入浴や掃除など、日
有者)がいる中で、医療関係者や介護福祉関係者
常生活の一部に見守りや手助けが必要)。
の常駐もなく、その施設もない状態をどのように
② 要支援2:生活の一部について部 的に
解決するかが今後は問われる(調査時点では介護
介護を必要とする状態(食事や排泄など、
施設がなかったが、2014年8月、近隣の介護業者
時々介助が必要)。
が空きテナントに入り介護業務を始めた。しかし
③ 要介護1:介護予防サービスにより、要
夜間は不在となる)
。
支援2の維持や改善が見込まれない状態
なお、訪問介護を受けている人数は12名、その
(悪化が予想される)。
うち週1回の介護が4名、週2回が3名、週3回
④ 要介護2:軽度の介護を必要とする状態
が3名、週4回が1名、週5回が1名であった。
(食事や排泄に何らかの介助が必要。立
3
ち上がりや歩行などに何らかの支えが必
要)
。
譲シニアマンションの高コスト体質
の要因
⑤ 要介護3:中程度の介護を必要とする状
益社団法人全国有料老人ホーム協会の下記資
態(食事や排泄に一部介助が必要。入浴
料(「
『住まい』選択のための確認のポイント」
)
などに全面的に介助が必要。片足での立
によれば、高齢者は有料老人ホームやサービス付
位保持ができない)
。
き高齢者向け住宅(サ高住宅)等の共同生活か、
⑥ 要介護4:重度の介護を必要とする状態
自宅を改造し外部介護サービスを受けるかの選択
〔表1〕 1人暮らし高齢者の動向
単身世帯に
占める男%
単身世帯に
占める女%
1980年
1990年
2000年
2010年
2020年
2030年
4.3
5.2
8.0
11.1
13.9
15.4
11.2
14.7
17.9
20.3
21.9
23.1
「高齢社会白書〔平成25年版〕
」より
106
第4 科会 一般報告
をすることになる。
したがって、共同生活を選択する層の中でも
譲シニアマンションの区
所有者は、賃貸型共同
住宅の生活ルールの制約や入居条件等を嫌い、比
較的自由な所有権型を選んだ人たちである。ちな
みに 譲シニアマンションの販売パンフレットを
繙けば「相続や譲渡、賃貸としての活用」や「入
居条件がない」
、「自 たちの意見が反映される管
理・運営」を謳い文句にしている。
賃貸型と 譲型の大きな違いは、その管理運営
権である。
前者の運営権は事業主がもっているが、後者は
管理組合が管理運営を行う。この両者の違いは次
のような結果となって現れる。
賃貸型共同住宅を経営する事業主は、
「老人ホ
ーム等の管理・運営のプロ」として事業の採算性
や経営資源の効率化等マネジメントを活用してい
る。
マンションもある)
。
しかし1日の利用者が数人であっても、運行間
一方、管理組合はファミリーマンションの 長
線上に 譲シニアマンションを位置づけ、管理会
社に管理業務を委託するも、管理会社は高齢者専
用の共同住宅の必須施設である食堂や介護施設の
隔を間引くとかタクシー会社で代替する改善の提
案は否決される。
なぜこのような無駄が温存され、費用対効果を
上げることができないのか。
管理運営業務の委託は受けていない。むろん管理
ひと言でいえば、管理組合は継続的なイノベー
会社は介護施設についての経営ノウハウももって
ションを行える組織体ではないし、改善を決断で
いない。したがって、管理会社は管理組合の最高
きる理事・役員制度をもっていないからである。
議決機関の 会や執行機関である理事会の議決を
その顕著な例が食堂運営である。
ただ実行するだけである。
たとえば、理事会で、省エネ・経費削減問題と
先のアンケート調査による食堂関係の結果は下
記のとおりである。
して大浴場が取り上げられたとしよう。
譲時に利用時間を16時から22時と決めてしま
①
食事に満足しているか?
うと、役員の1人が管理員人件費や光熱水費の削
満足
:18%
減目的に利用者がほとんどいない21時以降の浴場
不満足
:31%
のクローズを提案しても、
「たいして節約できな
利用していない :51%
い」とか「 会で反対者が出る」等の理由から理
②
不満足者や食堂を利用していない人の理
事会で否決されてしまう(実際に22時で閉めたと
由
しても、浴室内の異常確認や給湯器の電源オフ、
まずい
浴槽の水抜き等を行う必要上、管理員が業務を終
品揃えが少ない :19%
了する時間は23時前後になる)
。
不
:7%
高い
:3%
その他
:26%
また管理員業務として、ディベロッパーの販売
施策から近隣の医療機関や行政の窓口、最寄り駅
等へのシャトルバスの運行が 譲時から行われて
いることが多い(外部運行会社に委託するシニア
③
:45%
多少高くてもアンチエイジングやおいし
い料理であれば利用するか?
107
マンション学
第51号(2015年)
はい
:86%
シニアマンションの構造上の問題点もさることな
いいえ
:14%
がら改善すべき点は多々ある。
たとえば水道料に関していえば、 譲シニアマ
驚いたことにこのようなアンケートは管理組合
ンションの場合、専有部
水道料の収入は208万
発足以来7年間1度も実施されていなかったらし
2091円であるにもかかわらず専有部 、共用部
い。そのうえ、利用者が年々少なくなっていたに
の支払いは311万5313円と約100万円の赤字である。
もかかわらず、管理費全 体 の23.5%(約1452万
共用部
の電気・ガスに至っては合わせて約
円)が食堂運営委託金として業者に7年間支払わ
990万円の出費(管理費全体経費の16%)となっ
れていた。
ている。
管理規約はその目的に「区 所有者の共同の利
企業の経営診断はまず固定費にメスを入れるが、
益を増進し、良好な住環境の確保」を掲げている
譲シニアマンション特有の食堂運営委託金や電
にもかかわらず、組合員の半数しか利用していな
気・ガス・水道料などの44.5%を占める固定費の
い食堂に、それを運営する業者への損失補塡に管
削減は管理組合の誰も手を付けることができない。
理費を充当することを誰も問題視しなかったか、
それとも火中の栗を拾う区 所有者がいなかった
ここに管理組合運営にマネジメント導入の必要
性を感じるのである。
のか。
このような経費(管理費)の無駄遣いは、 譲
〔表2〕 タイプ別構成比対比表
譲型シニアマンション
89戸15F て、地下1F
管理費
収
入
支
出
74戸11F て
¥45,024,000
75.0%
¥6,222,000
62.0%
駐車・駐輪
用料
¥1,697,600
2.8%
¥1,606,560
16.0%
レストラン
用料
¥10,330,652
17.2%
水道料
¥2,082,091
3.5%
¥2,063,346
20.5%
その他
¥859,375
1.4%
¥151,451
1.5%
計
¥59,993,718
100.0%
¥10,043,357
100.0%
管理委託費
¥14,666,400
23.7%
¥2,913,120
37.7%
食堂運営委
託金
¥14,525,208
23.5%
レストラン
利用料
¥10,411,302
16.8%
電力料
¥3,940,470
6.4%
¥792,272
10.3%
ガス料
¥5,955,593
9.6%
¥8,860
0.1%
水道料
¥3,115,313
5.0%
¥1,709,508
22.1%
設備保守費
¥4,248,405
6.9%
¥723,240
9.4%
その他
¥4,944,745
8.0%
¥1,575,153
20.4%
¥61,807,436
100.0%
¥7,722,153
100.0%
計
収支
108
ファミリータイプマンション
¥−1,813,718
¥2,321,204
第4 科会 一般報告
4
譲シニアマンションの資産価値
格の30数%になり、同年9月(築6年半後)に30
まず本件 譲シニアマンションの新築販売価格
%を切った。その後少し値は戻したものの、2013
と売買が成立した中古の
譲シニアマンションの
年9月に値下がり率89.7%、何と築7年半後には
価格の資産価値実態調査に目を通していただこう。 新築価格の10%で取引されたのである。
2006年(平成18年)1月に竣工した当該マンシ
ここで一般的な新築マンションと中古マンショ
ョンは、2014年11月現在11戸が転売された。
ンの価格の推移を 察してみたい。
竣工から3年半後に初めて当該マンションの1
株式会社東京カンテイの調査によれば、築年の
室が中古市場に出回り、新築販売価格の80%の中
違いにおける流通価格差は東京都、大阪府、愛知
古価格で売買された。その後しばらくは静かであ
県では少なくとも築19年くらいまでは流通価格差
ったが、築6年後には一気に流通価格差が新築価
が激しいもののそれを過ぎるとほぼ横ばいになる
〔表3〕 本件
譲シニアマンションの新築販売価格
西面
15F
東面
3053.3万円
(53.74㎡)
2742.8万円
(45.13㎡)
3239.6万円
(54.68㎡)
3156.8万円
(53.11㎡)
3808.8万円
(62.75㎡)
14F
3053.3万円
(53.74㎡)
3032.6万円
(53.74㎡)
2722.1万円
(45.13㎡)
3218.9万円
(54.68㎡)
3136.1万円
(53.11㎡)
3788.1万円
(62.75㎡)
13F
3032.6万円
(53.74㎡)
3011.9万円
(53.74㎡)
2701.4万円
(45.13㎡)
3198.2万円
(54.68㎡)
3115.4万円
(53.11㎡)
3767.4万円
(62.75㎡)
12F
3011.9万円
(53.74㎡)
2991.2万円
(53.74㎡)
2680.7万円
(45.13㎡)
3177.5万円
(54.68㎡)
3094.7万円
(53.11㎡)
3746.7万円
(62.75㎡)
11F
2991.2万円
(53.74㎡)
2970.5万円
(53.74㎡)
2600.0万円
(45.13㎡)
3156.8万円
(54.68㎡)
3074.0万円
(53.11㎡)
3726.0万円
(62.75㎡)
10F
2970.5万円
(53.74㎡)
2949.8万円
(53.74㎡)
2639.3万円
(45.13㎡)
3136.1万円
(54.68㎡)
3053.3万円
(53.11㎡)
3705.3万円
(62.75㎡)
2949.8万円
2929.1万円
2618.6万円
3115.4万円
3032.6万円
3684.6万円
(53.74㎡)
(53.74㎡)
(45.13㎡)
(54.68㎡)
(53.11㎡)
(62.75㎡)
9F
2039.0万円 2018.3万円 2018.3万円
(35.65㎡) (35.65㎡) (35.65㎡)
2597.9万円
(45.04㎡)
2183.9万円 2142.5万円 2121.8万円
(36.64㎡) (35.65㎡) (35.14㎡)
3663.9万円
(62.75㎡)
2018.3万円 1997.6万円 1997.6万円
2577.2万円
2163.2万円 2121.8万円 2101.1万円
3643.2万円
(35.65㎡) (35.65㎡) (35.65㎡)
(45.04㎡)
(36.64㎡) (35.65㎡) (35.14㎡)
(62.75㎡)
6F
1997.6万円 1976.9万円 1976.9万円
(35.65㎡) (35.65㎡) (35.65㎡)
2556.5万円
(45.04㎡)
2142.5万円 2101.1万円 2080.4万円
(36.64㎡) (35.65㎡) (35.14㎡)
3622.5万円
(62.75㎡)
5F
1976.9万円 1956.2万円 1956.2万円
(35.65㎡) (35.65㎡) (35.65㎡)
2535.8万円
(45.04㎡)
2121.8万円 2080.4万円 2059.7万円
(36.64㎡) (35.65㎡) (35.14㎡)
3601.8万円
(62.75㎡)
1956.2万円 1935.5万円 1935.5万円
2515.1万円
2101.1万円 2059.7万円 2039.0万円
3581.1万円
(35.65㎡) (35.65㎡) (35.65㎡)
(45.04㎡)
(36.64㎡) (35.65㎡) (35.14㎡)
(62.75㎡)
1935.5万円 1914.8万円 1914.8万円
(35.65㎡) (35.65㎡) (35.65㎡)
2494.4万円
(45.04㎡)
2080.4万円 2039.0万円 2018.3万円
(36.64㎡) (35.65㎡) (35.14㎡)
3560.4万円
(120.4㎡)
8F
7F
4F
3F
2F
1F
B1
康管理室・ケアルーム レストラン
サブエントランス
車庫
自転車置場
管理事務室
電気室
レストラン・厨房
風除室
浴室
AV ルーム・コミュニティルーム
エントランスホール
リラクゼーションホール
テナント
浴室
109
マンション学
第51号(2015年)
〔表4〕 中古販売価格推移表
シニアマンション
中古価格推移表
物件概要:竣工2006年1月 89戸地上16F地下1F
売買年月
新築販売価格
(万円)
㎡
中古価格
(万円)
場所
値下がり率
(%)
2009年9月
2,101.1
35.14
1,630
東7F
20.0
2012年4月
2,535.8
45.04
650
東5F
74.4
2012年4月
2,080.4
35.65
600
東5F
71.2
2012年9月
3,705.3
62.75
690
東10F
81.4
2012年10月
2,018.3
35.65
590
西8F
70.8
2012年12月
1,997.6
35.65
580
西7F
71.0
2013年1月
2,059.7
35.65
470
東4F
77.2
2013年8月
2,059.7
35.14
498
東5F
75.8
2013年9月
2,142.5
36.64
220
東6F
89.7
2013年10月
1,956.2
35.65
470
西5F
76.0
2013年11月
1,956.2
35.65
290
西4F
85.2
三井住友トラスト不動産ウェブサイト不動
産マーケット情報「中古マンション 築年
別の価格と経年劣化」)
。
・下落率は築16年以降一段落して緩やかにな
る(出 典:All About[マ ン シ ョ ン 購 入
術]
「築年数でみる
あなたに合うマン
ション1.価格」
)。
図> 東京都・大阪府・愛知県2011年中古マンショ
ン築年別平
価格(坪単価:単位/万円)
・マンションに致命的な欠陥があれば、たい
てい築10年以内に露呈する。したがって、
最初の10年間で大きな欠陥が発見されなけ
ことがわかる( 図> 参照)。
れば、その後の10年あるいは20年も大 夫
大阪の不動産業界の関係者に話を聞くと、
「青
である可能性が高いといえる。つまり、10
田売りのマンションは、竣工時にはすでに販売価
年を過ぎた物件が買っていいかどうかを判
格の80%に価格が下落し、それ以降は築20年まで
断する基準になる(出典:MSN トピッ
新築販売価格の半 程度まで下がり、20年を超え
クス「マンション異常 賃貸の家賃下落加
るとほぼ横ばいとなる」と言われているが、それ
速、5万円台が続々? 購入するなら10年
をこの資料は裏づけている。
その他、ウェブサイトで調べただけで以下の情
報を入手できる。
超の中古?」
)
・首都圏および近畿圏における新築
譲マン
ションの中古売買単価の比率は、首都圏で
ほぼ60%前後、近畿圏でほぼ55%前後の数
・築19年くらいまでは比較的グラフの傾きが
字になる(出典:東京カンテイプレスリリ
大きく、築後20年を経ると価格の下落が緩
ース2009年5月7日号「マンション価格イ
やかになる、ということは明らか(出典:
110
第4 科会 一般報告
〔表5〕 東京都・大阪府・愛知県の築年別中古マンション坪単価(2011年流通物件)
築1年
築2年
築3年
築4年
築5年
築6年
築7年
築8年
築9年
築10年
東京都
261.4
279.7
256.6
251.8
232.1
234.9
230.2
220.9
224.3
203.8
大阪府
愛知県
163.2
153.3
159.1
131.2
151.6
147.0
134.4
109.4
137.4
109.2
141.4
105.1
129.7
106.2
120.7
103.5
111.7
95.1
109.0
88.6
築11年
東京都
大阪府
愛知県
204.1
111.0
86.6
築21年
築12年
193.6
103.8
87.4
築22年
築13年
築14年
193.5
97.1
82.9
築23年
築15年
190.5
97.1
76.6
築24年
築16年
175.0
89.6
72.8
築25年
166.0
82.3
67.6
築26年
築17年
159.9
74.9
66.9
築27年
築18年
149.9
69.0
61.1
築28年
築19年
築20年
161.2
81.2
52.4
築29年
149.9
69.3
56.7
築30年
東京都
137.4
142.6
146.9
133.3
139.3
154.2
157.2
158.0
148.5
147.6
大阪府
愛知県
67.0
59.5
71.1
55.2
67.3
50.9
65.2
55.8
64.1
53.8
63.9
56.8
68.4
55.1
69.0
55.3
67.3
50.6
64.0
52.3
築31年
東京都
大阪府
愛知県
144.7
64.6
51.9
築32年
147.9
61.9
49.2
築33年
築34年
155.8
65.6
50.6
築35年
154.7
62.2
49.7
築36年
148.4
57.3
48.8
128.9
59.5
37.6
築37年
127.0
53.0
39.6
築38年
126.7
52.7
43.0
築39年
築40年
140.4
50.0
38.3
142.1
49.9
40.3
出典:三井住友トラスト不動産ウェブサイト
ンデックス」
)
。
の保管等)
④
このような中古マンション売買価格のデータと
比較すると、本件シニアマンションは築6年を超
コミュニティ=安全性
a
⃝
マンション内のコミュニティ
b 地域コミュニティ
⃝
えての下落率は異常な数値であることがわかる。
当該マンションを例にとれば、組合員の委任状
しかし、他のシニアマンションの例を持ち合わせ
を除く 会出席率は毎回優に80%を超えている。
ていないので、この現象が当該マンション特有な
毎月開催される理事会の出席率もほぼ100%であ
のか、それとも構造上の致命的な欠陥なのかは判
ることを えれば、管理組合は自立化していると
断できない。
受け取れる。
なお、不動産業界のファミリーマンション購入
の基準は以下のとおりとされている。
しかし、当該マンションは「資産価値の落ちな
いマンション」、
「誰もが住みたいと思うマンショ
① 資産価値の落ちないマンション
ン」であるか?
② 誰もが住みたいと思うマンション
は推論している。要するにシニアマンションに併
③ 選ばれる条件
設された食堂、介護施設、大浴場等のマネジメン
a 立地条件=利 性
⃝
という点に問題がある、と筆者
トをできる状況になっていないのである。
b デザイン性・機能性=快適性
⃝
外観、間取り、住宅設備等
c 維持・管理状況
⃝
ところで、本誌48号では 譲シニアマンション
が今後ますます販売されるだろうと予測されてい
るが、実態は大きく違い、統計資料から次のこと
劣化診断・耐震診断・アスベスト調査、
がわかった。
大規模修繕履歴、長期修繕計画(修繕積立
2004年から2012年まで 譲シニアマンションと
金シミュレーション含む)
、修繕積立金・
して発売された近畿の物件は21である。年次ごと
管理費・駐車場 用料の 別管理、管理組
の内訳は〔表6〕のとおりである。これを見る限
合運営(理事会・
り2011年をピークに販売は急減している。とりわ
会の定期開催、議事録
111
マンション学
第51号(2015年)
〔表6〕 近畿圏のシニアマンションの
№
マンション名
譲一覧表(2013年12月31日時点)
初回販売
竣工
譲
管理費/ 販売 売れ残
戸数 階高
坪
期間 り戸数
所在地
1 エイジングコート三宮
2004年10月2日 2006年1月1日 神戸市中央区 80
15
¥2,928 4
0
2 ナチュラリー西神中央
2005年11月1日 2006年2月28日 神戸市西区
209 19
¥1,358 5
0
3 エイジングコート堺東
2006年1月7日 2007年9月2日 堺市堺区
89
15
¥2,950 9
0
156 15
¥2,938 6
0
園 2007年9月1日 2008年9月13日 京都市伏見区 156 10
¥3,079 31
0
4 エイジングコート琵琶湖プ 2007年2月1日 2008年4月1日 大津市
レミアムビュー
5 エイジングコート淀城
6 エイジングコート奈良新大 2008年1月5日 2009年1月31日 奈良市
宮
156 8
¥3,169 39
0
7 ユニエス宇治
120 7
¥2,887 17
0
8 マスターズステージ泉ヶ丘 2008年4月5日 2009年3月15日 堺市南区
270 15
¥874 50
0
9 エイジングコート有馬
225 8
¥2,885 44
0
10 エルグレース神戸三宮タワ
2008年7月1日 2009年11月30日 神戸市中央区 174 29
ーステージ
¥1,233 63
0
2008年3月23日 2008年12月31日 宇治市
2008年6月1日 2009年11月15日 神戸市北区
マスターズマンションひま
11 わり
2008年10月1日 2009年11月5日 堺市堺区
130 18
¥992 62
24
12 サンミット生駒ザゲート
2009年3月1日 2010年10月30日 生駒市
144 13
¥2,871 57
0
13 エイジングコート千里丘
2009年5月1日 2010年2月28日 摂津市
134 15
¥3,278 45
0
100 13
¥2,019 28
0
15 ウィズフィール京都山科
2010年2月14日 2010年8月31日 京都市山科区 153 7
¥3,383 46
2
16 ユニエス南千里丘
2010年6月19日 2011年1月5日 摂津市
128 13
¥2,978 42
22
17 ビジュール琵琶湖京阪浜大
2010年7月1日 2011年4月30日 大津市
津
130 14
¥2,199 23
0
18 エイジングコート姫路
2010年7月1日 2011年3月5日 姫路市
123 10
¥3,713 41
15
19 ワコーレハート明舞
2010年7月17日 2011年3月30日 明石市
102 10
¥2,975 35
0
20 セントアージュ奈良
2010年8月10日 2011年9月1日 奈良市
123 8
¥3,998 40
6
63
¥2,829 21
34
14 マスターズマンション東岸
2010年2月1日 2010年9月5日 岸和田市
和田駅前
21 ディナスマチュレ吹田千里
2012年3月17日 2012年3月31日 吹田市
丘
7
出典:有限会社エム・アール・シー
け2013年以降はゼロである。不動産業界関係者に
よれば、シニアマンションは 床面積に比し専有
部
5
リテラシーの欠如
近畿圏のシニアマンションの管理組合と区 所
が占める割合が低いため、どうしても坪単価
有者は、このような状況を自覚していないので、
販売価格が高くなり売れがたい。また管理費や修
必然的に危機感を持ち合わせていないといえる。
繕積立金がファミリーマンションに比較して高額
このまま手をこまねいていると、近いうちに 譲
であり、専有面積が小さくて い勝手が悪い等の
シニアマンションは近年のリゾートマンション化
悪条件と相まって中古価格が下落しているとのこ
してしまうおそれが強い。
とであった。
ところで、筆者は2002年春からマンション管理
士として現場に足を運び、数多くの管理組合の相
112
第4 科会 一般報告
談に応じている。場合によれば管理組合の現状を
会の開催頻度、意見箱の活用等はファミリーマン
析し適正なマンション管理を指導しているが、
ションの比ではない。それにもかかわらず管理会
改革に成功した管理組合でも数年も経たないうち
社への依存性が高く、決して本来の自立化したマ
に自立化が崩壊してしまう場面を何度も経験して
ンションとはいえない。
いる。
筆者がいろいろと えあぐねているときに橘玲
この原因はどこにあるのだろうか。
『臆病者のための株入門』
(文春新書、2006年)に
もしかすると私たちの指導方針が間違っている
出会った。橘氏は同書の中で、同じ日本語で会話
のではないか、という疑問が強く生じるのである。 しているはずなのに「ぜんぜん話がかみ合わない
わが国の管理組合のほとんどが民主的に運営さ
れていることに異論を挟む者は誰もいない。しか
し、 会開催前からすべての議案が白紙委任状で
決まってしまう管理組合民主主義が
全であると
はいえない。
な」と不安になることがあるとリテラシーの欠如
を述べていた。
われわれが携わっているマンション管理の世界
でもまさにそのとおりである。
橘氏によれば、リテラシーの欠如とは「議論の
管理組合の理事・役員は自薦・他薦・輪番制・
前提になる知識が欠けている」ことと「知識が欠
抽選で選ばれるが、中でも輪番制が最も多いので
けていることに無自覚である」ことだそうだが、
はなかろうか、と体験的には感じる。ただ残念な
マンション管理のイロハを知ることなく、1人ひ
がら、輪番制による理事・役員就任を一種の義務
とりが自説を展開する場と化していることに問題
としてとらえる区 所有者も数多くいることは否
があることに筆者は気づいた。
めないことから、彼らが積極的に事前に区 所有
少なくとも「マンション標準管理規約およびマ
法や管理規約・ 用細則に目を通すことは期待で
ンション標準管理規約コメント」や「マンション
きない。
管理標準指針」を理事・役員には全員配布される
あえて言わせてもらうなら、彼らの願いは大過
べきではないか。
なく理事・役員の任期が終了するのみである。そ
また必要に応じてマンション管理士や 築、設
の結果として、理事・役員はシャンシャンの 会
備等の専門家に相談したり、指導を受け、業者か
を願い、理事会は井戸端会議と化してしまう。こ
ら最新の情報を得るなどのコミュニケーションを
れでは長期的視野に立った、いわゆる痛みを伴う
図ることが、管理組合のリテラシーの醸成につな
マンションのライフサイクルプランの樹立はとう
がるのではないだろうか。
ていできない。
それでもせめて理事長にリーダーシップがある
なら救いがあるが、定期
6
マネジメントの必要性
会後の第1回の理事会
私たちが管理組合の人たちやマンション管理士
では、理事長や会計担当理事等の要職の押し付け
等に「管理組合のマネジメントを研究する会」の
合いとなるので、それも期待できない。
設立趣旨や目的の説明をすると、そのほとんどが
しかるに、マンション購買者の利
性や い勝
怪訝な表情をすることが多い。彼らの頭の中は
手のよさの飽くなき追求に対応するディベロッパ
「マネジメント=ビジネス=企業経営」の固定概
ーは次々と新しい設備を導入するが、そのメンテ
念があり、
「非営利組織の管理組合にもマネジメ
ナンスや 新工事は管理組合の負担となる。その
ントが必要」との認識に至っていないと予想され
うえコンシェルジュ業務等の「あったらいいな
る。
∼的な」サービスを付けてくるので、理事長のマ
しかし、P・F・ドラッカーは、実は非営利組織
ンション管理の知識取得の重要性は増すばかりで
にこそマネジメントは必要であると言っている。
ある。
現にドラッカーは1990年に『非営利組織の経営』
本件シニアマンションの例をあげれば、理事長
を1999年には『非営利組織の成果重視マネジメン
は自薦・他薦であり、 会への直接出席率や理事
ト』(日本版はダイヤモンド社発行)を発表して
113
マンション学
第51号(2015年)
いる。もっとも同書は大学、病院、ガールスカウ
⑵
ト、救世軍、協会、さらに NPO 等を取り上げて
管理組合も適切なマンション管理サービスを提
いるので、直接的にはマンション管理組合にピタ
供することで管理費を徴収し、 物設備の維持保
ッとあてはまらないかもしれないが、同じ非営利
全に修繕積立金を準備している。それでは区 所
組織としてはなかなか示唆に富んだ内容である。
有者だけが顧客か? となるとそうでもなさそう
えてみれば従来マンション管理の関係者は仏
管理組合・理事会の顧客とは誰か
だ。
作って魂入れずではないが、区 所有法や管理規
管理組合の「第1の顧客」は管理組合運営の直
約、マンション管理標準指針等を整備したが、魂
接的な恩恵を受ける人、いわゆる居住者である。
であるマネジメントを入れていないのではないか、 生ごみが落ちていないマンション構内、年2回の
という思いを禁じ得ない。
マンション管理の現場での混乱の多くは、ここ
に原因があるのではないかということがマネ研の
永遠のテーマでもある。
消防設備点検が与える安心感、清潔な生水が飲め
る幸せ等、マンションに住んでいると苦労せずに
快適な生活を楽しめる。
しかし、実は「第2の顧客」もいる。管理組合
さて、マネジメントはマンション管理の専門家
運営に無償で参画している委員会メンバーやコミ
にとってなかなか馴染みが薄い概念であるが、内
ュニティ活動を行っている自治会(ほとんどがボ
容的にはそんなに難しいことを言っているのでは
ランティア活動)
、管理会社の管理員や清掃員も
ない。
居住者の笑顔や感謝の言葉が彼らのエネルギーの
要点は次の5つである。
源泉となる。その他に設備保守会社の社員や大規
⑴ 管理組合や理事会、理事・役員の 命とは
模修繕工事の作業員も同様である。彼らに自己実
何か
管理組合の
現や顧客満足というサービスを与えている点で、
命は? と問われても答えに窮す
る。しかし 命がない組織体はないといっても過
マンション管理に携わっている人たちも顧客なの
である。
言ではない。マンション標準管理規約では1条に、
⑶
区
価値観の多様化した現代社会では、顧客の価値
所有者の共同の利益を増進し、良好な住環境
顧客が求めている価値とは何か
の確保をその目的と規定されているが、それでは
観もライフスタイルやライフステージ、その業務、
区
めざす方向、時代の変遷等によりさまざまなもの
所有者の同居する家族は?占有者は? と疑
問が生じてくる。
がある。
しばしば耳にする言葉は「安全と安心」である
それを画一化することに無理があるが、現実に
が、 命感は具体的な言葉に表すことが必要であ
は管理組合は顧客が求めている価値に十 に対応
る。たとえば、病院の集中治療室では「私たちの
できていない。その結果として管理組合運営の参
ミッションは患者を安心させること」、ガールス
加者が減る悪循環を起こしている。
カウトの団体は「誇りと自信に満ちた女性を育て
⑷
ること」
、救世軍は「社会の落伍者を市民社会に
マネジメントは必ず成果を求める。企業では社
戻すこと」と明確である。
管理組合運営の成果とは何か
員の安定した給与や福利厚生、株主への配当、経
同時に 命感は与えられるものではない。区
営者の役員報酬、税金、地域社会の雇用増等のス
所有者が、理事会が、理事・役員が1人ひとり
テークホルダーと収益である。非営利組織の管理
えて文章化しなければ絵に描いた になる。
組合の第1の成果は周辺地域で際立った資産価値
企業は 命感を社是や理念として壁に掲げてい
る。
そんなことをしている管理組合に、少なくとも
私は出会ったことがない。
114
の高いマンションではないかと えられる。
資産価値の高いマンションになるためには、ま
ず良好なコミュニティが要求される。次に強固な
財政基盤とヴィンテージ化であろう。
第4 科会 一般報告
⑸ 管理組合の目的を達成するための計画とは
何か
指摘した。
しかしながら、区 所有者には問題意識が希薄
何事も計画がないと決して目的は達成できない。 であり、また、その解決を管理会社に求める傾向
析)A
にあり、あえて管理会社とは別にコンサルタント
(修正)である。管理組合で計画といえば長期修
こ れ が P(計 画)D(行 動)C(差 異
は不要であるとの意見も強いことから、改善への
繕計画であるが、これは
物・設備の維持管理に
道は悲観的である。
関することであり、マンション管理に関するもの
この状況では、 譲シニアマンションにおいて
ではない。計画は 命によって変わる。その 命
は、従来の理事会中心の運営管理方式がはたして
は時代と共に変わるので、管理組合は超長期計画
適当であるか否かについて真剣に検討する必要が
(ライフサイクルプラン)
、長期計画、中期計画、
あると思われる。施設運営にも精通したプロのマ
短期計画を立てなければならない。
ネージャーを管理者あるいは管理者補助として、
管理の実務は管理会社に委託して管理運営する第
7 最後に
三者管理方式の検討である。また、もし、現在の
私たちは2012年9月以来、継続的に本件シニア
マンションの管理組合と接触してきた。
そして、昨年(2014年)3月に区
理事会方式を続けるとしても、管理実務を委託す
る管理会社とは別に、アドバイザーとしてマネジ
所有者のア
メントができるマンション管理士(管理会社でも
ンケート調査を行うことで、区 所有者の半数以
かまわない)を依頼することが必要と思われる。
上が80歳を超える高齢者であることや、日常生活
管理会社とアドバイザーとしてのマンション管理
全般に介護が必要な要介護5の人が居住している
士はそれぞれの役割があり、どちらか1つがあれ
が、はたして彼は管理組合運営に参画できるのか、 ばよいということにはならない。
また、シニアマンション特有の食堂運営、介護施
今後、本件シニアマンションの区 所有者がど
設との連携活動を管理組合が担うことを知ったう
のような選択をして、どのような道をたどってい
えで購入を決断したのか、等の問題点を私たちは
くか、さらに見極めていきたいと える。
115
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