...

抄録本文PDF - Convention Linkage, Inc.

by user

on
Category: Documents
184

views

Report

Comments

Transcript

抄録本文PDF - Convention Linkage, Inc.
教育講演
A journey from the Jarvik 7 to the Jarvik
2000 of the future
EL A journey from the Jarvik 7 to the Jarvik 2000 of the future
Chairman, President, and CEO, Jarvik Heart, Inc.
○ Robert Jarvik
【Biography】
Dr. Jarvik has been active in artificial heart developments for over 30 years. In 1971, after completing
his Master s degree in Occupational Biomechanics at New York University he joined the Division of
Artificial Organs at the University of Utah where he received his M.D. degree in 1976. Throughout
his career his work has emphasized the invention and simplification of artificial heart technology with
the goal of providing a practical artificial heart for widespread application. His work has included
invention, engineering, manufacturing development, laboratory research, clinical research, regulatory
affairs, and business management.
His early research included more than a decade of refinement of pneumatically powered artificial
hearts. Dr. Jarvik invented the multi-layer diaphragm in 1973 which later allowed the Jarvik 7 heart
(designed in 1975) to pump reliably for many years whereas predecessor device diaphragms would
break within a few weeks. He developed the human anatomic configuration and surgical placement
of the Jarvik 7, which led to the first human application of a permanent total artificial heart. (Barney
Clark, 1982). In 1976 Dr. Jarvik was the first to apply a miniature axial flow pump in artificial heart
technology with the development of the reversing electrohydraulic energy converter. The Jarvik
7 Heart was acquired by Syncardia, Inc., was renamed the Cardiowest Heart, and continues to be
successfully used in over a thousand patients as a bridge to transplant. It recently received full PMA
approval by the FDA, and is expected to become more widely available over the next few years.
In 1986 Dr. Jarvik originated the intraventricular artificial heart concept utilized with the Jarvik
2000 Heart, a very small blood pump placed inside the natural heart which supports it and helps
protect it from infection. He pioneered developments in rotary blood pumps including pumps with
blood immersed bearings and miniature axial flow pumps supported by magnetic bearings. To date,
approximately 550 patients have received the Jarvik 2000 under CE mark and clinical research
programs in ten countries. The first patient treated for lifetime use was rehabilitated to an active
lifestyle, lived seven and a half years following his implantation surgery, wrote two books, did charity
work, and traveled widely to lecture and attend scientific meetings in the United States and Europe.
He was supported longer than any other patient in the world with a single implanted artificial heart.
− 27 −
シンポジウム1
補助人工心臓治療の新たなる問題点と
今後の対策
S1-1∼S1-5
S1-
1
植込み型補助人工心臓時代における体外設置型補助人工
心臓治療
1
東京大学医学部附属病院 心臓外科,2 東京大学医学部附属病院 重症心不全治療開発講座,
東京大学医学部附属病院 循環器内科,4 東京大学医学部附属病院 医療機器管理部,
5
東京大学医学部附属病院 臓器移植医療部
3
○木下修 1,木村光利 1,2,内藤敬嗣 1,近藤弘史 1,梅木昭秀 1,志賀太郎 3,今村輝彦 3,
久保仁 4,柏公一 4,遠藤美代子 5,西村隆 1,2,絹川弘一郎 2,3,小室一成 3,許俊鋭 1,2,
小野稔 1
【背景】2011 年 4 月より植込み型 LVAD が保険収載されたが、植込み型は「心臓移植適応の重症心不
全患者」にのみ保険適応とされ、移植未登録の重症心不全患者には体外設置型しかない。また、体格
の小さな患者や、両心補助が必要な患者にも不適当である。植込み型が保険収載された後に当院で体
外設置型 LVAD が用いられた例を検討し、LVAD 治療における問題点を提示する。
【対象と方法】2011 年 4 月から 2012 年 12 月までに LVAD 装着手術を行った 40 例中、体外設置型
が用いられた 17 例に関して retrospective に検討した。
【結果】年齢は 37.6 ± 18.6 歳。原疾患は DCM 5 例、AMI 3 例、ICM 2 例、劇症型心筋炎 2 例、開心
術後人工心肺離脱困難 2 例、dHCM 1 例、心筋炎後心筋症 1 例、溺水・心肺蘇生後 1 例。術前 IABP
は 13 例(76%)、PCPS 9 例(53%)、人工呼吸は 12 例(71%)。INTERMACS profile 1 が 15 例(88%)、
profile 2 が 2 例(12%)。LVAD 装着前に心移植登録されていたのは 2 例(12%)のみで、いずれも
体格が小さく植込み型の適応外であった。BiVAD は 4 例。2012 年 12 月までに 6 例が移植登録され、
うち 4 例は植込み型への BTB 手術が行われ、1 例は米国に渡航し心移植、残り 1 例は体外設置型のま
ま移植待機中である。BTB 手術が行われた 4 例中 1 例が BTB 後に死亡。移植未登録の 9 例中 2 例は
移植登録準備中で、2 例は LVAD 離脱、4 例は移植登録や離脱に至る前に死亡、1 例は移植適応外の
状態で循環補助継続中である。LVAD 装着前に移植登録済みの 2 例中 1 例は移植待機中に死亡、もう
1 例は移植待機中である。LVAD 装着後の生存率は 3 ヶ月:88%、6 か月:81%、12 か月:56% であった。
【考察】ほとんどが profile 1 であることを考慮すると、6 か月生存率 81% と良好であった。DT とし
ての植込み型 LVAD 治療の選択肢がない現時点では、心移植か自己心機能回復による LVAD 離脱を目
指すしかなく、移植未登録例では LVAD 装着前から心移植適応や自己心機能回復の可能性を考慮し、
LVAD 装着後も早急かつ計画的に取り組む必要がある。
− 29 −
S1-
2
感染コントロールの観点から Bridge to bridge,心臓移植
に備えたニプロ - 東洋紡 VAD 装着法
九州大学病院 心臓血管外科
○田ノ上禎久,牛島智基,中島淳博,平山和人,山下慶之,原田雄章,藤本智子,鬼塚大史,
藤田智,城尾邦彦,大石恭久,園田拓道,西田誉浩,塩川祐一,富永隆治
【背景】当院ハートセンターではニプロ - 東洋紡 VAD(以下,ニプロ VAD)を装着する際,心臓移植
までの長期間におよぶ待機期間中に,カニューラ挿入部の皮膚感染が,深部感染,敗血症へ増悪する
のを予防する目的にて,カニューラは腹腔内を通すように留置固定している.
【目的】今回,この Bridge to bridge,心臓移植に備えたニプロ VAD の装着法の検討を行ったので報
告する。
【方法と結果】胸骨正中層下部の腹膜に 3cm ほどの小切開を加える.ここから腹腔内を確認しながら,
脱血カニューラをペアン鉗子等で,皮膚,腹腔内,横隔膜を経由させて,心尖部に誘導する.送血カ
ニューラは,腹膜の小切開から腹腔内,横隔膜を通して,心嚢内に誘導する.横隔膜貫通部から心嚢
内まで,再開胸時の保護と過度の癒着を予防の目的にて,ゴアテックス人工血管でカニューラを被覆
する.本法の特徴は,左季肋部の剥離が不要で,手術時間を短縮でき,出血のトラブルを軽減する.
Bridge to transplant(BTT)としてニプロ VAD を装着した 16 症例中,10 症例においてカニューラ
は腹腔内を通過させ,6 症例において腹腔外を通過させた。主要感染症を認めたのが各々 6 例(60%)
,
5 例(83%),感染関連死亡が各々 2 例(20%),4 例(66%)であり,感染症増悪予防効果が示唆された。
植込型 LVAD への移行手術(bridge to bridge; BTB)の際,左季肋部に作成する腹膜前脂肪層のポン
プポケットを,ニプロ VAD カニューラと隔離することができた。この症例は術後,感染症等の合併
症なく退院した。BTB,VAD 離脱時,最近の心臓移植時に,懸念される腹腔内臓器との癒着は軽度で,
剥離は容易で,大網組織も温存されており,問題となった症例はない。
【結語】ニプロ VAD 装着時にカニューラを腹腔内に通過させる方法は,腹水貯留を認めている症例で
は施行困難で,腹腔内臓器に対する影響が懸念されるが,感染症増悪予防の観点から BTB,心臓移植
に備えた治療戦略として有効であると考えられる
− 30 −
S1-
3
国立循環器病研究センターにおける補助人工心臓治療の
現状
1
3
国立循環器病研究センター 移植部,2 国立循環器病研究センター 心臓外科,
国立循環器病研究センター 臨床工学部
○瀬口理 1,長岡紀江 1,堀由美子 1,畑中晃 3,西岡宏 3,稗田道成 1,渡邉琢也 1,佐藤琢真 1,
角南春樹 1,村田欣洋 1,簗瀬正伸 1,秦広樹 2,藤田知之 2,中谷武嗣 1
2011 年の植込型補助人工心臓(VAS)保険償還に続いて 2013 年からは心臓移植適応年齢が 60 歳未
満より 65 歳未満に引き上げられることが予定されており、Bridge to transplant としての VAD 症例増
加が予測される。
植込型 VAD 保険償還以降、国内における VAD 治療の風景は一変すると期待されていた。体外設置型
VAD 装着例はすべて入院加療を余儀なくされ、脱 ・ 送血管周囲感染や脳血管障害の合併などにより年
単位に及ぶ移植待機中に亡くなる例も少なくなかった。それに対し植込型 VAD の導入により、VAD
装着移植待機患者は次々に退院し、自宅にて家族とともに療養生活を送りながら移植待機を行い、時
に職場復帰をすることも期待されていた。国立循環器病研究センターにおいて 2 機種(EVAHEART お
よび DuraHeart)が健康保険のもとで用いられるようになった 2011 年 5 月から 2012 年 12 月まで
の 1 年 7 か月において 27 例の VAD 装着を行った。2009 年 10 月から 2011 年 4 月までの 1 年 7 か
月では 15 例にとどまっており、その数は倍増している。27 例中一期的に植込型 VAD を装着した症
例は 12 例、体外設置型から植込型へのスイッチが 4 例、体外設置型 VAD は 11 例となっている。最
終的に植込型 VAD を装着した 16 例中、死亡:1 例、脳血管障害合併例:8 例(死亡例を含む)であり、
これまでに 13 例が退院した。この 13 例中ドライブライン皮膚貫通部感染もしくはその他イベント
による再入院を要した症例は 12 例であった。12 月現在外来通院にて管理している症例は 5 例で、イ
ベント発生率や再入院率は低くはない。また Bridge to recovery の観点からは植込型 VAD16 症例中、
自己心機能の回復により VAD から離脱しえた症例はなく、VAD 装着後のリバースリモデリングの程
度についてもこれまでの当院における体外設置型 VAD 症例と比較して小さい傾向が認められる。
今後さらに新たな植込型 VAD 機種の保険償還を控え、現時点での当院における植込型および体外設
置型 VAD 管理における問題点とそれに対する当センターでの取り組みについて報告する。
− 31 −
S1-
4
補助人工心臓治療の新たなる問題点と今後の対策
∼脳合併症及び感染の頻度についての検討およびその対策∼
大阪大学心臓血管外科
○吉岡大輔,戸田宏一,宮川繁,西宏之,吉川泰司,福嶌五月,斎藤哲也,澤芳樹
<背景>定常流植込型左室補助人工心臓(LVAD)は体外型補助人工心臓に比べて長期成績が良好で
ある一方で、植込型 LVAD の普及につれて新たな問題点もクローズアップされている。特に植込型
LVAD で問題となるのは、脳血管合併症及び blood stream infection であるが、その頻度については明
確な数字は報告されていない。今回、植込型 LVAD における脳血管合併症および菌血症の頻度および
特徴について NIPRO 型 LVAD と比較検討を行った。
<対象と方法> 2005 年以降 LVAD 装着術を行った 102 人 114 症例中、10 歳以下の小児及び臓
器不全にて 1 か月以内に死亡した症例を除く 90 人 107 例を対象とした。デバイスは NIPRO54 例
(60.9 patient-years)、 植 込 型 53 例(DuraHeart:25, Jarvik2000:9, HeartWare:10, HeartMateII:2,
EVAHEART:7, 82.6 patient-years)
。明らかな神経学的所見を認め、かつ頭部 CT にて所見に一致する
病変を認めるものを脳合併症と定義し、頻度を比較検討した。
< 結 果 > 脳 梗 塞 は NIPRO18 例 25 回(0.38 event/patient-year)
、 植 込 型 7 例 12 回(0.15 event/
patient-year)
に認めた。一方で、くも膜下出血や脳出血などの頭蓋内出血は NIPRO 22 例 29 回(0.48
event /patient-year)
、植込型 15 例 23 回(0.28 event/patient-year)に認めた。3 か月、1 年、2 年
における脳血管合併症回避率は NIPRO 75%,44%,27%、植込型 88% ,77%,55%(p = 0.001)であった。
菌血症回避率に関しては、同様に NIPRO80%, 38%, 26%、植込型 83% , 78%, 68%(p = 0.004)で
あった。植込型 LVAD において菌血症と頭蓋内出血の関係について検討を行ったところ、菌血症後 2
週間以内は 0.98%/patient-day と高頻度に認め、2-4 週間以内では 0.26% /patient-day、4 週以降は
0.08%/patient-day であった。
<結論>植込型 LVAD は、従来の NIPRO 型 LVAD に比べて脳合併症の危険性は低下しているが、脳
出血を中心に依然最も懸念すべき合併症であると考えられた。また、遠隔期における菌血症の頻度は
少なく、体外型からの bridge 以外にポケット感染を認めた症例はなかったものの、装着後急性期の菌
血症の頻度は NIPRO と同様であり、装着時の感染対策が重要であると考えられた。特に菌血症発生
早期に出血の危険性が増大するため、感染を認めた際の血管評価、及び抗凝固療法の再考が必要であ
ると考えられた。
− 32 −
S1-
5
植込み型補助人工心臓保険償還後の新しい問題点とその
対策
1
4
東北大学病院 心臓血管外科,2 東北大学病院 臓器移植医療部,3 東北大学病院 看護部,
東北大学病院 臨床工学部門,5 東北大学加齢医学研究所 心臓病電子医学分野
○秋山正年 1,片平晋太郎 1,河津聡 1,秋場美紀 2,草刈亜紀子 3,清水裕也 4,中畑仁志 4,
松浦健 4,星直樹 4,本吉直孝 1,川本俊輔 1,山家智之 5,齋木佳克 1
2012 年 8 月現在、23 施設が植込み型補助人工心臓実施施設として認定を受け、補助人工心臓治療
の地域格差の改善が図られている。Japanese registry for Mechanical Assisted Circulatory Support
(J-MACS)への患者登録数は増えており、今後普及していく重症心不全治療の一つとなるであろう。
植込み型 VAD 成績の大規模臨床研究が欧米から報告されているが、社会環境基盤の異なる本邦での
成績を知るうえで参考になる。特に本邦で経験の乏しい在宅治療成績については、より重点的に検証
していく必要がある。
植込み型 VAD 治療の最大の恩恵は在宅治療が可能になることにより、患者が高い Quality of life(QOL)
を享受できることにある。しかし、2 年を超える長期移植待機期間、いかに合併症を予防するかが、
QOL の維持には大切である。体外式 VAD 治療が 30 年以上続けられてきた本邦では、様々な問題に
直面しながらも、その治療成績は向上してきた。体外式 VAD 治療と植込み型 VAD 治療の合併症頻度、
その対策と結果を比較することは、今後の在宅治療戦略の方向性を決める一つの手がかりになるであ
ろう。
当院で経験した VAD 治療症例を対象に、植込み型 VAD 治療における新たな問題点とその対策につい
て検討する。
− 33 −
シンポジウム2
これからの人工心臓開発に求められる
エンジニアリングの課題
S2-1∼S2-5
S2-
1
In vitro 抗血栓性試験のための粘弾性学的血液凝固評価
1
産業技術総合研究所 ヒューマンライフテクノロジー研究部門,2 国立循環器病研究センター
○丸山修 1,小阪亮 1,西田正浩 1,山根隆志 1,巽英介 2,妙中義之 2
【背景】人工心臓の開発において、抗血栓性を調べることは重要である。一般的には、動物実験によっ
て評価されるが、動物実験を効率的に行うには、動物実験に先立って事前評価することが求められてい
る。In vitro 抗血栓性試験は、動物実験の事前評価法として、生化学的に抗血栓性評価を行う方法である。
具体的には、溶血試験と同様の閉回路を使用し、循環する試験血液の凝固能を調整して一定時間運転し、
人工心臓内の血栓の有無を確認する。本試験を実施するにあたり、人工心臓内で生ずるせん断速度と血
液凝固能に対して、どのように血栓が生ずるのかを定量的に把握することが重要である。
【目的】二重円筒型のレオメータを使用して、せん断速度と試験血液凝固能に基づく血栓形成時間お
よび血栓形成量に及ぼす影響について、粘弾性学な定量評価を行い、in vitro 抗血栓性試験の至適条
件設定を目的とした。
【実験方法】クエン酸ナトリウムで抗凝固したウシ血液に塩化カルシウムを添加して、活性化凝固時
間(ACT)が 200s から 1,000s の試験血液を調製した。この試験血液に対して、レオメータを使用し
て、100s-1 から 2,880s-1 の範囲でせん断速度を負荷し、血栓形成時間の測定および血栓形成量を算
出した。
【結果および考察】ACT が 400s から 1,000s の試験血液に関しては、100 s-1 から 2,880s-1 のせん断
速度域において、血栓は全く形成しなかった。ACT300s の血液では、50s-1 以上で血栓形成時間は急
激に増加し、1,000s-1 以上では形成しなくなった。ACT250s の血液では、2,000s-1 付近から急激に
増加して 2,880s-1 では血栓は形成しなくなった。ACT200s の血液に関しては、血栓形成時間はせん
断速度の増加に対してわずかに増加した。一方、ACT300s, 250s, 200s と ACT が低下するに従って、
血栓形成量は、増加することが確認された。
【結論】ACT およびせん断速度に基づいて血栓形成時間ならびに血栓形成量を制御することができ、
in vitro 抗血栓性試験の至適実験条件設定に有効であることがわかった。
− 35 −
S2-
2
抗血栓性コーティングの性能および特性の定量的評価法
の検討
独立行政法人国立循環器病研究センター研究所
○水野敏秀,山岡哲二,築谷朋典,武輪能明,巽英介
本研究では,抗血栓性処理技術を使用した機器の抗血栓性について,実際に医療機器に使用されてい
る T-NCVC コート(T-NCVC)および MPC コート(MPC)を対象に抗血栓性特性の評価を行った.
【方法】
トロンボエラストメトリー(TEM)法による抗血液凝固特性評価
血液凝固測定装置として ROTEM® を用い,専用計測用カップに検討対象の抗血栓性処理を施した試料
を作成し,
内因系クロット形成能(INTEM)および外因系クロット形成能(EXTEM)について計測を行っ
た.本測定に使用する血液は 3.8% クエン酸加ヒト新鮮血液を使用し,計測項目は,血液凝固時間を
示す Clotting Tine(CT),カップ壁に付着するクロットの最大抵抗性をしめす MAX clot firmness(MCF)
およびその最大値に至るまでの計測時間(MCF-t)とした.
電気的インピーダンス(MEA)法による抗血小板凝集能性評価
本評価では,Multiplate® を使用し,専用プラスチックセルに評価対象となる抗血栓性処理を行った.
測定に使用する血液は,ヒルジン添加新鮮ヒト血液を使用し,血小板活性化アゴニストとして,ADP,
アラキドン酸,コラーゲン,リストセチン,TRAP を添加後,測定を行った.
【結果および考察】
TEM 法では,血液凝固性は両コート共に無処理カップと差異を認めなかった.一方で,器材へのクロッ
ト付着性については,T-NCVC で,INTEM,EXTEM ともに約 80%減少し,MPC では,約 70%減少
していた.また,MEA 法では,T-NCVC で無処理セルと比較し,ADP 凝集能およびアラキドン酸系凝
集能は約 20%減少し,コラーゲン,TRAP およびリストセチンによる凝集には変化が認められなかっ
た.一方,MPC セルにおいては,ADP 凝集能は約 95%,リストセチン凝集が約 90%,コラーゲン
凝集が約 60%および TRAP 凝集が約 70%抑制していることが観察された.
本実験の結果より,対象とした T-NCVC および MPC の抗血栓性効果は,血液凝固抑制作用ではな
く,器材表面で形成されたクロットが速やかに剥離することが主な効果であると考えられた.また,
T-NCVC では,血小板凝集の二次凝集系を主に抑制していることに対し,MPC は,一次凝集系を顕著
に抑制し,各コーティングのそれぞれに異なる血小板凝集抑制効果を有すると考えられた.
− 36 −
S2-
3
非接触駆動が可能なディスポーザブル遠心血液ポンプの
開発
1
国立循環器病研究センター研究所,2 三菱重工業
○築谷朋典 1,水野敏秀 1,武輪能明 1,星英男 2,大久保剛 2,巽英介 1,妙中義之 1
連続流型補助人工心臓が急速に普及した背景には、著しい小型化の実現と同時に、軸シール部に起因
する血栓形成問題に対し一定の目処がついたからであるといえる。
最大の要因は高速回転する羽根車を安定して回転させる軸受について新方式が次々と考案されたから
である。また、血栓の出来ないポンプは比較的使用期間の短い体外設置型にも多大なメリットを実現
する。具体的にはデバイスの交換を不要とすることに加え、使用する抗凝固療法を最小化する効果が
期待できる。
我々は、特殊なセンサなしで羽根車を非接触駆動可能とする動圧軸受を有するディスポーザブル遠心
血液ポンプを開発した。このポンプは磁気カップリングを通じて外部モータによって駆動する。重量
はモータ含め 500 グラムであり、寸法は長さ 123mm、直径 59mm である。羽根車は独立した 2 箇
所でケーシングと動圧軸受を形成し、安定して非接触で回転する。血液ポンプは ECMO 用血液ポンプ
として設計され、流量 5.0 L/min、揚程 400mmHg を約 5200rpm で達成する。このポンプとニプロ
社製 Biocube6000 との組み合わせて PCPS システムを構築し、慢性動物実験によって抗血栓性をはじ
めとする生体適合性を評価した。ヤギ 4 頭に対してポンプ、人工肺からなる PCPS システムを装着し、
抗凝固療法を用いずに 30 日間の連続運転を行った。一例のみ 21 日目に送血管挿入部の頸動脈が外
力により断裂する事故により死亡した以外は、予定通り 30 日間の連続運転を達成した。血液ポンプ
内部には機械的接触や血栓を形成した形跡無く、血液ポンプの優れた抗血栓性が示された。また、本
ポンプは単体で Bridge-to-decision 用補助循環デバイスとしての応用も可能であると考えられ、現在
動物実験によって補助循環デバイスとしての運転条件下での有効性・安全性を評価している。
− 37 −
S2-
4
新しい治療デバイスと磁気浮上技術
1
3
茨城大学 工学部 機械工学科,2 東京大学 大学院医学系研究科 重症心不全治療開発講座,
国立循環器病研究センター 研究所 人工臓器部,4 BiVACOR Pty Ltd
○増澤徹 1,西村隆 2,許俊鋭 2,巽英介 3,TIMMS Daniel 4
体内植込型補助人工心臓の臨床応用が始まり,新しい循環器病治療ツールとしての種々の人工心臓,
循環補助デバイスの研究開発が始まっている.その要求性能はデバイスごとの異なり,それに対応し
た軸受構造が必要となる.我々はワイドギャップによる高い血液適合性,能動制御による高安定駆動
の観点から磁気軸受,磁気浮上モータを採用したデバイスの開発を進めている.本発表では現在開発
中の 3 種類のデバイスに特化した磁気浮上技術について紹介する.
1)急性期不全自己心の治療を目標に瞬時送血量 20L/min 以上,心拍同期制御可能な体外循環ポン
プを開発している.心拍同期した瞬時の回転数変更に対応可能とするため磁気浮上制御面積を多くと
れるアキシャル型磁気浮上モータを採用している.直径 50mm と余裕を持ったモータサイズとし,使
用回転数全域にて 20/min 送血可能かつ市販ポンプと同等の溶血性能をもつポンプの開発が行えてい
る.本磁気浮上モータ技術は別途開発中の全置換型人工心臓にも応用されている.2)INTERMACS
Profile 4 の患者を対象とした,植込み容易なペースメーカーサイズの薄小低流量補助ポンプを開発し
ている.デバイス薄化のためにラジアル型磁気浮上モータ,摩擦ポンプ(カスケードポンプ)を採用
している.厚み 5mm,スタータ直径 30mm の磁気浮上モータで,最大揚程 330mmHg,最大流量
7L/min の性能を有したポンプを実現している.3)小児用ポンプへの応用を目指して小型化,成長
対応の観点から小さい体積で低流量から高流量まで対応可能な5軸制御型磁気浮上モータを開発して
いる.アキシャル型モータステータを二つ対向して配置することで小型化に伴うトルク不足の解消,
5 軸制御を可能とした.モータサイズは直径 28mm,長さ 40mm である.
以上のように新しい治療デバイスの研究開発と共に,個々に特化した磁気浮上モータの開発を進めて
いる.今後,TET システム等とのシステム化を図って行きたい.
− 38 −
S2-
5
BiVACOR - Implantable Rotary Total Artificial Heart
1
4
BiVACOR Pty Ltd, Australia,2 Texas Heart Institute, USA,3 RWTH Aachen University, Germany,
Gunma University, Japan,5 Ibaraki University, Japan
○ TIMMS Daniel 1,COHN William 2,PARNIS Steven 2,GREATREX Nicholas 3,
KURITA Nobuyuki 4,MASUZAWA Toru 5
An implantable prototype of the single device BiVACOR® rotary TAH was constructed for in-vivo
evaluation. The device integrates a MAGLEV system to actively or passively translate impeller position
to alter left and right outflow, whilst arterial pulsatility can be induced via cyclic speed changes. The
purpose of this study was to evaluate the in-vivo performance of the device in calves.
Animal trials in three calves(75-95Kg)were conducted in 2012. The purpose was to evaluate
device fitting in a closed chest and short term hemodynamic performance. To this end, maximum
outflow, the effectiveness of the flow balancing controller, and the level of arterial pulsatility was
recorded.
The first two animal trials were acute non-recovery, whilst the animal was woken and allowed to
stand for 9 hours in the third trial. During in-vivo testing, the device simultaneously provided up
to 10 L/min outflow from both left and right sides of the device. The flow balance controller could
prevent negative atrial pressures at extreme ratios of SVR:PVR. Finally, pulse pressures of 120/80
mmHg and flows of ∼ 5 l/min at 2500 RPM +/- 900 RPM at 30 cycles per minute could also be
achieved.
Sufficient, balanced, and pulsatile cardiac output can be delivered from the BiVACOR® TAH. These invivo results encourage further progression to a longer term chronic animal model.
− 39 −
シンポジウム3
植込型補助人工心臓のエビデンスに基づいた
本邦におけるDestination Therapyのあり方
S3-1∼S3-5
S3-
1
当センターにおける植込み型補助人工心臓の手術成績と
Destination Therapy の展望
1
国立循環器病研究センター 心臓血管外科,2 国立循環器病研究センター 移植部
○秦広樹 1,2,藤田知之 1,簗瀬正伸 2,瀬口理 2,村田欣洋 2,中谷武嗣 2,小林順二郎 1
【目的】2011 年春に植込み型補助人工心臓(VAD)の導入がなされ、生命予後改善や合併症軽
減、QOL 改善が期待されている。当センターにおける植込み型 VAD の成績を検討し、我が国での
Destination Therapy(DT)のあり方について考察した。
【対象】2009 年 1 月から 2012 年 11 月までに当センターで LVAD 装着術を施行した 55 例(59 手術
例)のうち植込み型 VAD を装着した、17 例(21 手術)を対象とした。手術時の平均年齢は 38.4 歳、
女性は 1 例のみ。また同時期に体外型 VAD を装着した患者群(38 例、いずれも NIPRO)とで成績を
比較検討した。
【結果】装着機種は EVAHEART 12 例(うち NIPRO からの Bridge to Bridge:BTB 2 例)、DuraHeart 4
例(うち NIPRO からの BTB 2 例)
、HeartMate II 1 例であった。手術死亡(術後 30 日以内)は認めず、
遠隔期に脳合併症で 1 例を失った。1 例が心臓移植に到達し、残る 15 例は移植待機中で補助期間は
平均 392 日であった。累積生存率は 94%(12 ヶ月)であり植込み型 VAD の生存率(92%)とは有
意差を認めなかった。脳合併症回避率は 6 ヶ月で 65%、12 ヶ月で 54%と必ずしも良好ではなく、植
込み型 VAD 群とも有意差は認めなかった(70%、52%)。ポケット感染回避率は 3 ヶ月で 76%、6 ヶ
月で 45%、12 ヶ月で 18% であり植込み型 VAD 群(58%、20%、20%)より良い傾向であったが有意
差は認めなかった。移植待機患者 15 例中 13 例が在宅管理を経験し、復学・復職が 1 例ずつおり再
入院を 10 例に認めた(感染 6 例、脳出血 2 例、動圧モード移行 1 例、ICD 頻回作動 1 例)。
【考察】当センターでの植込み型 VAD の成績は海外の成績と比しても良好であった。Profile 1 の患者
に植込み型を装着するかなど適応には議論の余地があるが、今後も BTB を含め植込み型 VAD 装着術
は一層増加すると予想される。植込み型 VAD 装着後には感染、脳血管障害、機器不調などが注意す
べき合併症であり、DT の一般化には我々の管理法向上だけでなく患者教育や管理体制の確立、新た
な機器開発が課題となると考えられた。
− 41 −
S3-
2
植込型補助人工心臓時代における当院での Destination
Therapy の経験
大阪大学大学院医学系研究科
○吉川泰司,戸田宏一,宮川繁,西宏之,福嶌五月,吉岡大輔,斎藤哲也,上野高義,
倉谷徹,澤芳樹
【背景】欧米においては、すでに心臓移植適応外の重症心不全患者に対して植込型補助人工心臓(LVAD)
を用いた Destination Therapy(DT)が広く普及しているが、本邦においては、植込型 LVAD の適応が、
あくまで心臓移植適応患者に限られている。今回、当院における植込型 LVAD の治療成績及び DT 2
症例を報告する。
【 対 象 】 当 院 の 植 込 型 LVAD 症 例 53 例(Jarvik2000 9 例 , EVAHEART 7 例 , Heartmate II 2 例 ,
DuraHeart 25 例 , HeartWare 10 例)。Jarvik2000 2 例は DT として、その他は BTT として使用した。
また、BiVAD 症例は 5 例で、DuraHeart の 3 例は Jarvik 2000 による RVAD 症例 2 例、NIPRO RVAD
症例 1 例で、その他は Jarvik2000 による BiVAD 1 例と Heartware による BiVAD 1 例であった。
【結果】LVAD 装着期間は平均 597 ± 346 日(5-1602)。手術死亡を認めず、病院死亡 1 例(脳出血)、
BiVAD4 症例を含む遠隔期死亡 5 例(脳梗塞 2 例、敗血症 1 例、MOF1 例)を認めた。植込型 LVAD
単独累積生存率は 3 年で 95% であった。心移植に至ったのは、BiVAD 症例1例を含む 17 例であった。
ただし、脳血管障害を 14 例(26.9%, 0.29 patient-year)
、デバイス感染 5 例(9.4%, 0.07 patientyear)を認め、6 例のデバイスの故障(11.3%, 0.09 patient/year)に対して 5 例でデバイスの交換を
行った。DT 1 例目は 73 歳女性で Jarvik 2000 を植込み後、術後 104 日で退院し在宅管理となった
症例で、大腿骨頚部骨折を発症し耐術しえたが、広範囲脳梗塞にて術後死亡した。合計 4 か月の在宅
治療が可能であった。DT 2 例目は、好酸球性心筋症の 55 歳男性で、慢性腎不全(Cr2.5)の状態であっ
たが、bridge-to-candidacy 目的で Jarvik 2000 を装着した。腎機能は改善したが(Cr 1.4)、ステロイ
ド治療によるアスペルギルス肺炎を発症し、心臓移植適応外と判断せざるをえず、結果として DT と
して 1077 日が経過している。
【考察】脳血管障害、デバイス感染・故障といった問題点は依然存在するが、植込型補助人工心臓は、
術後合併症が少なく、在宅管理も可能になり、患者の QOL を著しく向上させ、安全な移植待機が可
能になった。また、植込型 LVAD による DT は心臓移植適応外やボーダーラインの心不全患者に QOL
の高い生活を供給することが可能になるが、高齢者の場合、脳血管障害や骨粗鬆症など高齢者特有の
問題があり管理に注意が要すると考えられた。
− 42 −
S3-
3
日本版 Destination therapy の確立に向けて
1
東京大学心臓外科,2 東京大学重症心不全治療開発講座,3 東京大学循環器内科,4 東京大学臓器移植医療部
○小野稔 1,木下修 1,木村光利 2,内藤敬嗣 1,今村輝彦 3,志賀太郎 3,絹川弘一郎 3,
加賀美幸江 4,遠藤美代子 4,西村隆 3,許俊鋭 3
2012 年の INTERMACS 報告によると、米国の 2012 年上半期における DT 目的の VAD 装着は全体の
40% に達している。わが国は BTT 目的植込み型 VAD が保険償還され 1 年半が経過した。これまでに
100 例弱の装着に過ぎないが、植込み型 VAD 実施施設の増加と 2013 年春からの新たな軸流型連続
流 VAD の導入に伴い、症例数は急増するものと考えられる。改正臓器移植法が実施され脳死ドナー
数が増加したものの、ドナー不足は依然として深刻である。改正臓器移植法施行後 77 例の心臓移植
の平均待機期間は Status 1 で 905 日、70 例(91%)が BTT で平均 932 日の VAD 補助を受けていた。
DT 評価 endpoint である 2 年をはるかに超えた補助が行われていた。BTT70 例中 26 例(37%)が植
込み型 VAD であった。
当院における 2007 年 11 月∼ 2012 年 3 月までの植込み型 VAD20 例について解析した。2012 年
11 月までの転帰は心臓移植 6 例、離脱 1 例、補助継続 11 例、死亡 2 例であった。平均補助日数は
559 日、在宅療養日数は 455 日であった。この期間で再入院は延べ 40 回(1.60/ 患者・年)あった。
発熱・感染 15 回と最も多く、ドライブライン関連が大多数であった。脳血管障害 9 回、心室性不整
脈 4 回、抗凝固療法調整 3 回、デバイストラブル 3 回であった。在宅療養率(在宅療養日数 / 退院後
補助日数)は 0.88(0.46 ∼ 1.00)であり、ほとんどの補助期間における自宅療養が可能であった。
再入院がなかったのは 3 例(補助日数:664, 579, 572 日)に過ぎなかった。13 例は補助期間中に求
職中または職場復帰を果たした。
現在使用できる植込み型 VAD は優れた循環補助能力を有し、多くの症例で長期補助を実現し社会復
帰を可能としている。しかし、ドライブライン感染や脳血管障害のために 1.60/ 患者・年の再入院を
必要としている。DT は BTT とは異なり、「ブリッジ期間の循環補助」を超えた「QOL の高い長期循
環補助」が必要になってくると考えられる。今後のデバイスの改良と共に、ドライブライン感染を防
止する外来管理・自己管理の導入およびより適正な抗凝固療法の確立が望まれる。
− 43 −
S3-
4
我が国における植込み型 VAD の今後の適応拡大はどうあ
るべきか?
1
東京大学大学院医学系研究科重症心不全治療開発講座,2 東京大学大学院医学系研究科心臓血管外科学
○絹川弘一郎 1,小野稔 2,許俊鋭 1
植込み型 VAD の適応は現在 BTT のポリシーのもとにある.しかし,BTT 年齢の上限を引き上げるこ
とはドナー数の劇的な増加が望めないままでは不可能である.まして,60-64 歳の患者に alternate
list が適応される場合,その年齢層は実質的には DT と近い待機期間になるであろうから,年齢条項
は当分手をつけられるところではない.では,次の植込み型 VAD の適応拡大のターゲットはどこに
なるか?比較的重症の患者によく見られる中等度以上の臓器障害の合併は時として VAD 装着前に
reversible と言い切れない場合が有る.その場合に BTT として適応ありと判断するのが困難であれ
ば現状では体外式 VAD 装着後にコンバートする方針になってしまう.欧米では BTC として植込む患
者が全体の 40%を超えており,大部分は移植にブリッジされるものの中には臓器障害が戻らないこ
ともあるであろう.そのような場合に DT の受け皿がなくては保険償還上不具合を生じかねない.我
が国において,はなから移植登録の可能性のない患者に対して DT を始めるよりも将来の(すなわち
VAD 植え込み後安定期の)移植登録の可能性が likely である群を選別して未登録でも植込み型 VAD
治療を行うことから初めてはどうであろうか?その場合にもし見込み違いで移植登録に至らない状況
になっても保険償還をするという条件付きで.その選別のためには我々の報告してきた術前の様々な
因子から1年生存率を計算する TVAD スコアと術後半年での遷延する肝腎機能障害を予測する臓器不
全スコアを likely BTC の選別のための方法論として利用することも可能ではないかと思う.また,移
植登録が可能であっても右心用の植込み型 VAD が確立されていない現状では両心補助の患者は原則
は体外式 VAD2 台装着であると考える.われわれは両心補助の可能性を推定する TRV スコアも提唱
しており,これもまた判断基準の中に入れるべきところであろう.
− 44 −
S3-
5
我が国における DT 導入に当たって考えるべきこと
1
兵庫医療大学,2 北里大学循環器内科
○松田暉 1,和泉徹 2
背景:わが国でもようやく植込み型補助人工心臓(imp-VAD)が臨床現場に導入され、まずは心臓移
植へのブリッジ(BTT)として保険償還まで漕ぎつけた。米国のように永久使用(DT)が急速な発展
を遂げているなかで、我が国での DT として考えるべきことは、年齢や医学的要件の設定から想定さ
れる患者数とその予後、さらに医療費(経済)の検討が必要である。本報告では、科学研究費補助金
による調査結果の概要を紹介し、これからの DT 導入戦略について考える。
埋め込み型補助人工心臓による社会復帰を目指した長期在宅(Life-Long-Support,LLS)
調査(科学
研究費補助金、基盤B、研究代表者松田)の結果:
①遡り調査では、70 歳未満の慢性心不全患者で補助心臓治療の適応が考えられた症例のアンケート
を行い、111 例の回答があった。その中の追跡できた 52 例を分析した 結果、年齢 60 歳以上では(N
= 32)
、心不全管理ができない症例は内科・外科治療とも生存例はなかったが、症状の安定した症例
の予後は CRT、外科治療とも良好であった。
②前向き調査は参加施設 7 施設で登録症例は 32 例(年齢:平均 61.7+9.8 歳 )
、疾患は DCM 56.3%、
ICM 18.8% 、HCM 6.3%、NYHA で は IV 度 31 %、III 度 40.1%、Stage で は D 40.6%、C 34% 、
Intermacs Profile では1-2:2 例、3:6 例、4 :13 例、血清 BNP 値は 93.6-1384.1pg/ml であった。最
長3年の追跡調査で 4 例が心不全死 した。生存群と死亡群の比較では、死亡群で、年齢、NYHA 分類、
BNP 値で高値を 、LVEF で低値の傾向にあった。
まとめ:慢性心不全患者の管理において、心不全進行度は高いにも関わらず、内科治療で比較的安定
した経過を取っている症例がかなり存在するが、今回対象の群で予後不良例が約 10% 強出ていること
より、かかる症例への imp-VAD による対応が考慮される。
提案:DT 導入を考えるにあたり、慢性心不全患者の予後調査をさらに進め、BTT 以外での imp-VAD
の適用要件や時期について検討する必要がある。 なかでもこれまでの imp-VAD について、QALY
の面からの分析が重要である。以上より、DT 導入には、関係学会が集まって医師主導型の日本版
REMATCH-Trial、ないしは one-arm の prospective-study を行うことを提案したい。
− 45 −
若手研究者Award
Y-1∼Y-6
Y-
1
左心不全に合併する肺高血圧症に対する補助人工心臓を
用いた治療戦略
1
3
東京大学医学部附属病院循環器内科,2 東京大学医学部附属病院重症心不全治療開発講座,
東京大学医学部附属病院心臓外科
○今村輝彦 1,絹川弘一郎 2,皆月隼 1,村岡洋典 1,稲葉俊郎 1,牧尚孝 1,志賀太郎 1,
波多野将 1,八尾厚史 1,木下修 3,小野稔 3,許俊鋭 2,小室一成 1
【背景】
左心不全に合併する肺高血圧症に対する確立した治療法は存在しない。補助人工心臓治療の肺高血圧
症に対する効果は報告が少ない。
【方法】
2010 年 5 月から 2012 年 10 月までに当院で補助人工心臓治療(EVAHEART 13 人、DuraHeart 7 人、
HeartMate II 1 人)を受けた 21 人に対して術後 5 週目に血行動態評価を行った。
【結果】
平均年齢 41 歳、17 人(80.9%)が男性であった。補助人工心臓治療によって、平均肺動脈圧は 30.5
± 11.5mmHg から 20.8 ± 6.7mmHg まで低下し、肺血管抵抗は 2.8 ± 1.3 単位から 2.2 ± 0.9 単位
に低下した。回転数を上昇させる事で、平均肺動脈圧は 16.7 ± 6.3mmHg まで低下し、肺血管抵抗は 2.3
± 1.3 単位に微増した。心係数は 2.2 ± 0.4L/min/m2 から 2.8 ± 0.7L/min/m2 まで上昇し、肺動脈
喫入圧は 12.6 ± 5.9mmHg から 6.3 ± 4.0mmHg まで低下した。
一方我々は、EVAHEART 植込み後肺血管抵抗が 4.9 単位から 2.6 単位まで低下したものの、回転数の
上昇により 4.2 単位まで上昇し、肺高血圧症が残存していた症例も経験した。エンドセリン受容体拮
抗薬であるボセンタンを投与して 3 カ月後には、肺血管抵抗は 2.1 単位まで低下し、回転数を上昇さ
せても肺血管抵抗は上昇しなかった。
【結論】
多くの症例では補助人工心臓治療により肺高血圧症は改善しうるが、回転数を変化させる事で肺高血
圧が顕在化する症例もあり、その場合、肺動脈性肺高血圧治療薬の併用が有用な事がある。
− 47 −
Y-
2
VVECMO を効率よく行うには?カニュレーション位置か
らの検討
1
国立循環器病研究センター研究所 人工臓器部,2 兵庫医科大学大学院 心臓血管外科学
○東郷好美 1,2,武輪能明 1,水野敏秀 1,築谷朋典 1,岸本祐一郎 1,荒川衛 1,熱田祐一 1,
片桐伸将 1,角田幸秀 1,藤井豊 1,住倉博仁 1,大沼健太郎 1,妙中義之 1,宮本裕治 2,
巽英介 1
背景:新型インフルエンザなどの流行の危険性などから重症呼吸不全に対する ECMO 治療の重要性が
増している。VAECMO は酸素化効率が良く循環補助を行える利点があるが、VVECMO の方がカニュ
レーションの手技が簡便であり頻度が増えつつある。今回、効果的な VVECMO を行うための条件を
探索する目的で VVECMO のカニュレーション位置を変えた時に酸素化効率がどう変化するかを詳細
に検討した。
方法:成ヤギを用い、全身麻酔下にて、脱血カニューレを下大静脈に留置、送血カニューレは外頸静
脈から挿入し VVECMO を確立した。麻酔器の換気設定は一回換気量 400ml、換気回数 4 回 /min、酸
素濃度 21% とした。オキシメトリカテーテルを肺動脈に留置した。肺動脈の SVO2 が 40% 以下になっ
たときに、ECMO 回路へ酸素流量 4L/min、酸素濃度 100% を吹送し、肺動脈血と人工肺前後の血液
ガス(SVO2)を採取した。その SVO2 により、肺動脈への 100% 酸素化された血液の流入量について、
送血カニューレを①下大静脈、②右房、③上大静脈の 3 か所で、またバイパス流量を 1.0L/min から
4.0L/min まで変化させ比較した。また同様に、上大静脈脱血−下大静脈送血でも検討した。
結果:人工肺後の SVO2 は 99.6 ± 0.8%だった。下大静脈脱血−下大静脈送血で肺動脈への 100% 酸
素化された血液の流入量はバイパス流量が 1、2、3、4L/min それぞれにおいて 1.0、1.7、2.3、2.2L/
min だった。同様に、下大静脈脱血−右房送血では 1.0、1.8、2.4、2.9L/min、下大静脈脱血−上大
静脈送血では 1.0、1.9、2.3、2.6L/min、上大静脈脱血−下大静脈送血では 0.9、1.7、2.2、2.6L/min だっ
た。下大静脈脱血−右房送血肺動脈でバイパス流量が 4L/min のとき肺動脈への 100% 酸素化された
血液の流入量が 2.9L/min と最も多かった。バイパス流量が増えるにつれて肺動脈への 100% 酸素化
された血液の流入量が多い傾向にあった。
結語:下大静脈脱血−右房送血でバイパス流量が 4L/min のときに VVECMO の効率が最も高かった。
− 48 −
Y-
3
市販遠心血液ポンプ装置で非接触駆動可能なディスポー
ザブル式動圧浮上血液ポンプの開発
1
4
独立行政法人 産業技術総合研究所,2 東京理科大学大学院理工学研究科,3 泉工医科工業株式会社,
神戸大学大学院工学研究科
○小阪亮 1,村重智崇 2,西田正浩 1,丸山修 1,桑名克之 3,山根隆志 4
【目的】本研究では、Bridge To Decision ポンプを目指し、市販遠心血液ポンプ装置を用いて、一ヶ月
を超える非接触駆動が可能で、低価格かつ優れた血液適合性を有するディスポーザブル式動圧浮上遠
心血液ポンプを開発する。
【方法】本血液ポンプは、ポンプヘッドを使い捨て可能な形状にすることで、泉工医科工業より販売
されているメラ遠心ポンプ(HCF-MP23)と同じ駆動システム(MERA HAS-CFP)で駆動することが
できる。ポンプの外径は 72.5mm、高さは 50mm で、プライミングボリュームは 17ml である。イン
ペラは直径 57.8mm、高さ 19.1mm で、シュラウドに覆われた 4 本の直線流路を持ち、中央部に二
次流れの滞留を防止する貫通穴を有する。インペラの非接触駆動を実現するため、インペラ上下面に
スラスト動圧軸受を、内周部にラジアル動圧軸受を取り付けた。本ポンプを評価するため、レーザー
焦点変位計を用いた浮上距離計測試験、牛血を用いた溶血試験と in-vitro 抗血栓性試験を実施した。
【 結 果 】 ポ ン プ 性 能 を 評 価 し た 結 果、2,800rpm に お い て 4L/min、200mmHg、 最 小 軸 受 隙 間
103 μ m と な り、1,000rpm (2L/min, 24mmHg) か ら 5,000rpm(4L/min, 750mmHg) に お い
ても非接触で駆動した。溶血試験を実施した結果、溶血指数 NIH は市販ポンプ BPX-80 比で 1.1 倍
(200mmHg, n=3)と同等であった。In-vitro 抗血栓性試験を実施した結果、ACT=200 の条件でポン
プ内に血栓形成を認めなかった。
【結言】本研究では、市販遠心血液ポンプ装置(MERA HAS-CFP)で駆動可能なディスポーザブル式
動圧浮上遠心血液ポンプを開発し、低揚程から高揚程下での非接触駆動の実現と、良好な血液適合性
を確認した。
− 49 −
Y-
4
拍動流型 LVAS の拍動数が心拍変動及び自律神経活動へ
与える影響
1
3
国立循環器病研究センター 人工臓器部,2 国立循環器病研究センター 知的資産部,
鳥取大学医学部附属病院 器官再生外科
○岸本祐一郎 1,3,大沼健太郎 1,荒川衛 1,岸本諭 1,3,水野敏秀 1,赤川英毅 2,武輪能明 1,
西村元延 3,巽英介 1
背景・目的)
心拍変動を自律神経機能や心疾患の予後予測として活用する試みがなされている.我々はこれまで,
大動物慢性心不全モデル作成過程における心拍変動の変化や定常流 LVAS の心拍変動に与える影響に
ついて検討し,心不全患者や LVAS 装着患者における非侵襲的な心機能推定手法として心拍変動解析
を応用できる可能性があることを示してきた.本研究では,拍動流型 LVAS の心拍変動及び自律神経
活動に与える影響について,特にポンプ拍動数による変化について検討した.
方法)
国循型ニプロ社製 LVAS を装着した成ヤギに対し,術後 2 ヶ月以上経過した安定期にポンプ拍動数
を 70,80,60 bpm の順で 1 週間毎に変更し,各条件下における心拍変動を解析した.心拍変動は
MemCalc(GMS 社)により解析し,心臓交感神経・副交感神経の活動指標である LF(0.04 ∼ 0.15Hz)
と副交感神経のみの活動指標を表す HF(0.15 ∼ 0.40Hz)を算出した.また,確率微分方程式を用い
た数理工学的手法により,各条件下における心拍数の収束点を解析した.
結果)
ポンプ拍動数 70,80,60 bpm 時における自己心拍数の収束点はそれぞれ,73.2,79.8,66.7 及
び 119.9 bpm であり,80 bpm 時に最も強い自己心拍のポンプ拍動への同期傾向を認めた.また 60
bpm 時にはポンプ設定拍動数に加え,その倍の 120 bpm への収束傾向を認めた.LF 及び HF は 70,
80,60 bpm でそれぞれ,LF / HF:2042 / 1542,808 / 781,4190 / 4581(msec2 / msec2)であり,
同期傾向の強い 80 bpm の設定下で心臓交感神経・副交感神経活動は著しく低く,心拍変動幅の広い
60 bpm で最も高かった.
考察・結論)
今回観察された結果より,自己心のポンプ拍動数への同期傾向が 1 点でかつ強い場合に心拍変動及び
自律神経活動が著しく低下し,一方,2 点への収束傾向を認めた場合には両者の心拍間を行き来する
ことで,心拍変動及び自律神経活動が増加したものと推察された.本研究から拍動流型 LVAS の拍動
流は自己心の心拍変動及び自律神経活動に多大な影響を及ぼす可能性が示唆された.
− 50 −
Y-
5
連続流補助循環の長期使用が心筋内微小血管に与える影響
大阪大学大学院医学系研究科
○齊藤哲也,戸田宏一,宮川繁,西宏之,吉川泰司,福嶌五月,吉岡大輔,上野高義,
倉谷徹,澤芳樹
【背景】末期心不全患者において、左室補助人工心臓(LVAD)による左室圧・容積負荷の軽減が、左
心機能の改善につながる(reverse remodeling)と言われている。近年連続流型 LVAD の使用頻度が
高まっているが、連続流補助循環における脈圧の減少が心筋の微小循環に及ぼす影響については分
かっていない。連続流 LVAD による定常流循環が心筋内微小循環および、心筋の reverse remodeling
に及ぼす影響を検討した。
【対象と方法】LVAD 植込みを行った末期心不全患者 24 人を対象(P 群 : 拍動型 11 人、C 群 : 連続流
型 13 人)に装着。術後心超音波検査にて心機能の推移を、2 群間で比較検討。また VAD 植込み時、
心臓移植時に採取した心筋組織を 2 群間で比較検討した。
【結果】心臓超音波検査にて LVAD 装着前後での左室収縮率は P 群で 15 ± 8% から 34 ± 4%、C 群
で 17 ± 2% から 22 ± 4% と P 群で有意に改善傾向を認めた(P=0.05)
。組織学的検査では、LAVD 前
後で心筋細胞径の減少(P 群 39.1 ± 2.8 μ m から 27.9 ± 2.8 μ m, C 群 40.9 ± 2.1 μ m から 28.4
± 2.1 μ m)および心筋間の微小血管密度の上昇(P 群 730 ± 162.5/mm2 から 1463.5 ± 162.5/
mm2, C 群 787.7 ± 73.4/mm2 から 1288.9 ± 104/mm2 )を認めたが、
両群間に有意差は認めなかっ
た。さらにα SMA 染色による微小血管の平滑筋層の厚さを比較すると、C 群では平滑筋層の厚さが 9
± 0.4 μ m から 14 ± 0.6 μ m と増加を認めたが(P=0.0002)、P 群では 10 ± 1.7 μ m から 12 ± 0.7 μ m
と増加を認めなかった(P=0.28)。
【結語】脈圧の減少による微小血管平滑筋層の変化が LVAD による reverse remodeling に影響を及ぼ
す可能性が示唆された。
− 51 −
Y-
6
ロバスト性を考慮した小児用肺循環補助システムの制御
1
4
東北大学大学院 医工学研究科,2 東北大学 加齢医学研究所,3 東北大学 医学系研究科,
京都府立医科大学,5 トキ・コーポレーション
○山田昭博 1,白石泰之 2,三浦英和 2,志賀卓弥 3,HASHEM Mohamed 3,坪子侑佑 1,
森谷葵 1,伊藤拓哉 1,山家智之 1,2,山岸正明 4,本間大 5
小児重症心不全患者のため形状記憶合金線維を応用した循環補助装置の開発を進めている。現在開発
中の補助装置は、Fontan 手術で用いる心外導管を力学的に外部から収縮弛緩させ、肺循環に対して拍
動性を付加するシステムである。この拍動型肺循環補助装置は、通電加熱により収縮し、人工血管外
部から力学的に収縮制御することが可能な構造である。補助循環下において、血流拍動特性が異なる
肺循環系への入力に対して、拍動流・血圧の関係は大きく変化する。したがって、先天性心疾患に応
用する肺循環補助システム開発において、負荷としての外乱の変動に対しても、循環生理学的需要に
対して充分な循環補助を行うことができるように設計を工夫する必要がある。本研究では、特に駆動
系の変動と負荷外乱に対しロバスト性を考慮した制御系設計のため、現在開発中の循環補助装置の駆
動状態をフィードバック制御することが可能な駆動方法について検討を行った。本研究で用いる形状
記憶合金線維は、通電加熱により 5%程度収縮する。その収縮形態は、入力電力量で外部との熱移動
に依存し、多くの外乱に支配される繊維材料は高応答・高精度な制御性を有するが、本システムでは
形状記憶合金に通電する電流を駆動状態に合わせて制御性を検討し、収縮コントロールを試みた。補
助循環デバイスに圧力センサーと熱電対を取り付け、加圧、発熱状態のモニタリングを可能とした。
各センサーから取得されたデータから、マイコンを用いたフィードバック制御を行う収縮制御システ
ム構成とした。また、収縮制御系の多様化と、シーケンス駆動させることで、装置全体で高拍動数が
得られる構成とした。
本研究で開発した肺循環補助システムを用い、装置の収縮状態に沿った駆動制御システムの開発を行
なった。本装置により肺循環に効率的な拍動成分を加えることができる補助システムの構築が可能と
なると考えられた。
− 52 −
一般演題
コメディカル
O1-1∼O1-7
エンジニアリング1 O2-1∼O2-7
エンジニアリング2 O3-1∼O3-7
臨床
O4-1∼O4-7
O1-
1
植込型補助人工心臓装着患者と介護者に対する機器取扱い
のトレーニングの方法に関する検討
1
3
東京大学医学部附属病院 医療機器管理部,2 東京大学医学部附属病院 心臓外科,
東京大学医学部附属病院 重症心不全治療開発講座
○中村敦 1,柏公一 1,木下修 2,黒澤秀郎 1,高橋舞 1,古賀早也香 1,谷田勝志 1,久保仁 1,
住谷昌彦 1,西村隆 3,許俊鋭 3,小野稔 2
【背景】
植込型 VAD 装着患者に対しては、規定の退院プログラムに従って各種トレーニングを実施しており、
その中で臨床工学技士は機器取扱いに関するトレーニングを担当している。今回、トレーニング中に
行った確認テストの結果を集計し、より効果的なトレーニング方法について検討したので報告する。
【方法】
EVAHEARTTM 装着患者 14 名とその介護者 23 名、計 37 名に対して実施した初回の確認テストを集
計対象とした。筆記テストの内容は機器の名称、機器の特徴、電源管理、日常生活における注意事項、
トラブルシューティングの 5 項目に分類して集計し、実技テストの内容は日常点検、電源管理、トラ
ブルシューティングの 3 項目に分類して集計した。
【結果】
テストの合格率は患者本人が 93%、介護者が 70%であった。筆記テストにおける正解率は機器の名称、
機器の特徴、電源管理、日常生活における注意事項、トラブルシューティングの順に、患者が 99、
82、100、98、96%、介護者が 94、83、97、97、98%であった。実技テストにおける正解率は日
常点検、電源管理、トラブルシューティングの順に、患者が 100、100、96%、介護者が 96、96、
78%であった。
【考察】
機器の特徴の正解率が悪い要因として、馴染みがなく特徴をイメージしにくいということがあげられ
る。今後、視覚的に訴える教材を多用し、理解度の向上を図りたい。介護者は患者に比して合格率が
低く、その理由として高齢者が比較的多いことが考えられる。高齢の介護者に対してはトレーニング
の回数を増やすなどの対処も必要かもしれない。実技では介護者のトラブルシューティングの正解率
が低かった。今後、重要な手技を自宅で復習できるようにホームページなどを作成し、自己学習がで
きるような環境を整備する必要があると考える。
【結語】
トレーニング中に行った確認テストを集計した結果、現在実施しているプログラムを一部修正し、学
習環境を整備する必要があることが示唆された。
− 53 −
O1-
2
植込み型補助人工心臓の比較、検討 ∼教育の視点から∼
1
3
大阪大学医学部附属病院 ME サービス部,2 大阪大学医学部附属病院 移植医療部,
大阪大学大学院医学系研究科外科学講座 心臓血管外科
○近藤智勇 1,増田行雄 1,野口悟司 1,川畑典彦 1,丸山雄一 1,中西一仁 1,前田健輔 1,
高階雅紀 1,久保田香 2,戸田宏一 3,吉川泰司 3,吉岡大輔 3,斎藤哲也 3,澤芳樹 3
【背景】当院では、重症心不全に対する補助人工心臓(VAD)治療として、植え込み型 VAD の装着を
積極的に行っている。臨床工学技士は安全な在宅療養に向けて在院中に患者や介護者に対して機器の
取り扱いに対する教育を行っているが、当院では多機種の植込み型 VAD 装着を行っており、それぞ
れの機種に応じた教育を行う必要がある。
【目的】DuraHeart(D 群)
、HeartWare(H 群)
、EVAHEART(E 群)を装着したそれぞれの患者や介
護者に対して、教育に要した日数から教育における機器の違いを明らかにする事を目的とした。
【対象と方法】2011 年 4 月から臨床工学技士が患者・家族教育を実施した植込み型 VAD 患者 20 名、
平均年齢 34 ± 12.1 歳(D 群:9 名 36 ± 14.8 歳、H 群:8 名 31 ± 8.7 歳、E 群:3 名 36 ± 14.1 歳)、
及びその介護者 20 名、平均年齢 50.0 ± 13.9 歳(D 群:52.8 ± 10.5 歳、H 群:52.1 ± 15.5 歳、E 群:
35.7 ± 14.5)を対象とした。一般病棟に転棟後、患者と介護者に対して教育を開始した。教育開始、
テスト合格日までの教育に要した日数から、機器の特徴を比較し検討した。
【結果】患者本人の教育期間は、15.2 ± 13.2 日(5 ∼ 67 日)、機種別では D 群:18.6 ± 18.6 日、H
群:10.6 ± 4.7 日、E 群:17.3 ± 6.4 日であった。介護者の教育期間は、20.5 ± 14.8 日(6 ∼ 64 日)
、
機種別では D 群:19.8 ± 10.0 日、H 群:25.0 ± 20.3 日、E 群:13.0 ± 2.6 日であった。患者の初
回のテストによる合格率は、D 群:44.4%、H 群:100%、E 群:66.7%であり、介護者の機種別初
回合格率は、D 群:55.6%、H 群:75%、E 群:100%であった。D 群は、H 群、E 群に比べ、初回
合格率は患者、介護者ともに低かった。
【結語】それぞれの機種において、患者や介護者が理解しにくいポイントを把握した上で患者・介護
者教育をすることが、VAD 装着患者の早期退院を目指すためには必要であると考えられた。
− 54 −
O1-
3
看護師による体外式補助人工心臓刺入部消毒の検討 ∼ DVD 撮影による検討をおこなって∼
1
3
国立循環器病研究センター 看護部,2 国立循環器病研究センター 心臓血管外科,
国立循環器病研究センター 移植部
○小西伸明 1,角田あゆみ 1,長與愛 1,長澤陽子 1,酒井理恵子 1,藤原恵美子 1,中田則子 1,
遠水佐知子 1,堀由美子 1,坂口幸子 1,秦広樹 2,藤田知之 2,中谷武嗣 3
【背景】体外式補助人工心臓(以下、VAS)送脱血管刺入部のケアは、VAS装着患者にとって極
めて重要である。当院では、VAS刺入部消毒を外科医のみで行っていたが、2009 年から週 1 回外
科医が消毒を行い、その他の日を担当看護師が消毒を行っている。担当看護師が消毒を行うことで受
け持ち患者の全身状態を理解し、看護を円滑に進めることができる一方、感染管理を行う上で看護師
の役割がより重要であり、看護師による消毒技術の均質化を図る必要がある。そこで今回、看護師の
消毒をDVD撮影し消毒技術の検討を行ったので報告する。
【目的】看護師によるVAS刺入部の消毒技術の課題を明確にする。
【方法】基本的な清潔操作に関する 10 項目(以下、清潔操作 10 項目)と刺入部の状態アセスメント
と消毒技術に関する 13 項目(以下、消毒技術 13 項目)のチェック表を作成。同意を得られた患者
7名に対して看護師 13 名が消毒を行い、その様子をDVD撮影し、撮影者が清潔操作 10 項目のチェッ
クを行った。撮影したDVDは、カンファレンス時間に看護師で供覧し、消毒技術 13 項目に沿って
検討を行った。
【結果】清潔操作 10 項目については、ほぼ全員問題なく実施できていた。
消毒技術 13 項目については、刺入部洗浄・スキンカフ部分の浸出液などの汚れの除去、消毒操作の
徹底、の項目で半数以上が不十分であった。
【まとめ】今回の検討で、基本的な清潔操作には課題はなかったが、VAS刺入部の状態に関するア
セスメント能力や対応について課題があることが分かった。今後、看護師による消毒技術の向上を図っ
ていくため、定期的な消毒技術の確認を行っていくとともに外科医や皮膚・排泄ケア認定看護師の評
価を受け、質の高い消毒を行っていく必要があることが見えた。
− 55 −
O1-
4
埋め込み型補助人工心臓装着患者の看護における現場看
護師の学習欲求と理解度の変化
JA 長野厚生連 佐久総合病院
○長坂美重子,竹村隆広,濱元拓,望月環,伊藤裕,若林孝昭,村井由美,東城美加
【研究背景】
当院は 2012 年 6 月に EVAHEART 装着(以下 VAD)を施行し現在 3 症例を経験している。急性期か
ら維持期の看護に於いて、専門性を維持する教育方法は明確ではなく、教育内容に関する検討が必要
であった。
【研究目的・方法】
目的:VAD に関する学習項目の優先順位と理解度を把握し、学習欲求を知る事とした。
研究期間 2012 年 6 月∼ 8 月、ICU と一般病棟で導入直後と一ヶ月後で看護を経験した看護師 35 名
を対象に、VAD に関する教育項目 15 項目について、優先度が高いと判断するもの上位 6 位を選択し、
それぞれの理解度を 5 段階評価するアンケートを実施。
【結果・考察】
① VAD 観察項目② VAD アラーム対応③急変時対応④ポンプケーブル貫通部管理
15 項目の内、上記が優先度上位であった。
ICU:①前 70% から後 0%と減少、②前 30% から後 75%、③前 45% から後 70% と上昇。④前 40%か
ら後 10%と減少。
一般病棟:①から③優先順位上位であり続け、④優先順位は 5 から 10%と低くあり続けた。
ICU では実際の経験により他の補助循環機器と異なるアラーム対応や急変時の対応が重要であるとの
認識に意識が変化したとものと考える。また急性期では、異常の早期発見と対応を実践の中で経験す
るが、一般病棟では実際に経験する機会が少なく、病期の違いが影響していると考える。
【結論】
ICU と病棟では病期が異なるため学習項目の優先順位の変化に差があり、各部署における教育項目の
重点が異なることが明確となり、今後の教育計画に有用な手がかりを得た。
− 56 −
O1-
5
植え込み型人工心臓導入に対する看護師の取り組み
1
千葉大学医学部附属病院 ICU/CCU,2 千葉大学大学院医学研究院 心臓血管外科学
○高橋由佳 1,宮地なつめ 1,山里有紀 1,大田今日子 1,松宮護郎 2
当施設は非心臓移植施設ではあるが、体外式 VAS 症例を4例経験し、今年度、植え込み型補助人工心
臓実施施設の認定施設となった。今年の7月に初となる植え込み型 VAS 症例を受け入れ、9月には2
例目を経験する機会を得た。今回ここに、わたしたちが集中治療室で行った植え込み型 VAS 導入に際
しての取り組みを報告する。
植え込み型 VAS を受け入れる前の環境として、体外式 VAS 症例は4例と、決して多くはない経験であっ
たと言える。また、患者は他院からの転院例であり、手術までの準備期間は3日間と短いものであった。
この日数の中で、安全に患者が術後の経過をたどれること、また、全員が未経験という看護師の不安
が軽減できることを目標に準備を進めていった。
まず業者による説明会を依頼した。これは、機器と術後患者のイメージを持つことに大変有用であっ
た。その上で、術後受け入れまでに必要と考えられた機器チェックリスト作成や安全面での取り決め、
緊急時シミュレーション、患者観察項目のピックアップなどを、医師・臨床工学技技士とともに行っ
ていった。
実際、初症例の術後経過は大変良好であった。細かなところで手探りの部分はあったが、準備したツー
ルを用い、順調に集中治療室から一般病棟へ転棟することができた。その後、他職種間で1例目の術
後急性期管理を検討したが、特に安全管理面に変更すべきものはなく、現行のまま次の症例も迎える
こととした。このことから、安全面に於いては、準備していたもので足りうるものであったと考える。
一方で、実際患者と接し、急性期の創部管理や、リハビリ、精神面や家族への援助、術前から一般病
棟への継続的な支援といった今後の課題もみえてきた。今後も一例一例の患者さんと真摯に向き合い、
できるだけ早期に当施設に於いての看護をつくりあげていきたいと考える。
− 57 −
O1-
6
非移植認定施設の一般病棟における VAD 看護の教育
1
3
東京医科歯科大学医学部附属病院看護部,2 東京医科歯科大学医学部附属病院 ME センター,
東京医科歯科大学大学院心臓血管外科
○岩倉淳子1,石山純子1,長井暢子1,尼田昭子1,倉島直樹2,藤原立樹3,渡辺大樹3,
水野友裕3,荒井裕国3
【はじめに】当院は非移植認定施設であるが植え込み型補助人工心臓実施施設であり、移植認定施設
と連携しながら補助人工心臓治療を行っている。当病棟は心臓血管外科と循環器内科の一般病棟で、
2008 年より 6 名の体外型補助人工心臓患者を受け入れてきた。現在は補助人工心臓(以下 VAD と略
す)装着患者 3 名の看護を行っている。当病棟での教育体制について報告する。
【方法】VAD 患者の看護を行うにあたり、人工心臓管理技術認定士と看護師主催の勉強会を行い、実
践での教育を強化し病棟での VAD 管理はトラブルなく行えていた。しかし、病態と結びつけての看
護や根拠を理解した上でのアセスメントは十分ではなかった。また、看護ケア基準や手技が統一され
ていない部分があり、個人の能力に委ねる部分も多く、トラブル時の対応への不安が聞かれた。そこ
で、病態の理解を深め、管理方法の統一図る為、勉強会の見直しを行った。勉強会では、VAD の目的
や心臓移植の適応、移植までの経過等の一般知識のみならず、ポンプの仕組みや駆動管理の上での観
察の重要性を病態と関連づけた。また、血栓症や感染症等の合併症は根拠に基づいて観察する事の必
要性と治療についての理解を深めた。トラブルシューティングについては、過去に経験した事例を挙
げ、緊急時の対応を見直し予防策として取り決めた事項を含めてマニュアル化した。
【結果】的確に VAD の駆動状態を観察し、病態と関連づけたアセスメント内容が報告できるようになっ
た。また、起こりうるトラブルを具体的に警鐘することで危機意識をもつことができた。合併症やト
ラブルへの対応を具体的に示す事で自己のすべき行動がイメージでき、不安の軽減ができた。
【結語】看護師の疑問や不安から勉強会の内容を検討し実施することで、病態の理解を深めアセスメ
ント能力の向上や根拠に基づいた看護実践能力の向上が図れた。また不安の軽減と安全意識を高め、
管理の統一が図れた。
− 58 −
O1-
7
植込型補助人工心臓装着患者の退院支援プログラムに
ナースが積極的に参画できるための取り組み
1
大阪大学医学附属病院看護部,2 大阪大学医学部附属病院心臓血管外科
○川本愛子 1,廣田幸代 1,久松三希 1,加門千尋 1,久保田香 1,戸田宏一 2,吉川康司 2,
吉岡大輔 2,斉藤哲也 2,柳川千里 1,澤芳樹 2
植込型補助人工心臓(植込型 VAD)は 2012 年 4 月に保険償還され、当院では、臨床治験導入から現
在までに 52 例経験している。また 2010 年 7 月の移植法改正に伴い、心移植件数が増加し、現在ま
でに 41 例経験している。
当病棟は、総病床数 49 床で、そのうち特定集中治療室管理料が算定可能な CVCU という心血管集中
治療室を 6 床所有している。年間 500 例以上の開心手術を行っており、ナースは、術前、術直後、
回復期にある患者を担当しながら VAD 装着患者の看護にあたっている。
植込型 VAD 装着患者の退院支援は、臨床治験を導入した頃から移植コーディネーター主導で実施さ
れていたが、ここ数年では、機器の取り扱いについての指導は VAD 管理認定資格を持った臨床工学
技士が担うようになってきた。しかし、退院支援プログラムにおけるナースの介入は乏しく、患者へ
の介入がしばし遅れることもあった。その原因として、ナースの役割が明確化されていなかったこと
や、介入時期や指導内容が個々に任されており統一されていないことが考えられた。今回これらの問
題点に対し、VAD 管理の経験があるナースがコアとなり、医師、移植コーディネーター、臨床工学技
士で構成される VAD チームと協力し、ナースが主体的に参画できるように、役割を明確にした。ナー
スの役割として、退院支援プログラムの中の臨床工学技士による機器説明の開始時期の決定、自己消
毒や日常生活管理における指導といった項目がある。これらを実践していくために、コアナースは退
院支援の介入・進行時期の統一を図るための基準や、患者指導方法を統一するための手順を作成し、
導入を始めた。その結果、以前に比べて他職種とのコミュケーションが円滑になり、患者の情報共有
を行う機会が増え、ナースは患者に対し統一した指導を実施できるようになってきている。
今回、我々の経験を報告し、今後の課題について検討する。
− 59 −
O2-
1
拍動流下における動圧浮上型軸流式補助人工心臓の耐久
性評価
1
産業技術総合研究所,2 神戸大学,3 三菱重工業株式会社,4 ニプロ株式会社,5 国立循環器病研究センター
○西田正浩 1,小阪亮 1,丸山修 1,山根隆志 1,2,大久保剛 3,星英男 3,長田俊幸 3,白数昭雄 4,
巽英介 5,妙中義之 5
【目的】動圧軸受を採用した軸流型補助人工心臓の耐久性試験を 8 台について 14 カ月が経過したので
報告する。
【方法】耐久試験用の拍動流モック回路は、リザーバ、機械式人工心臓弁である一方向弁、ダイヤフ
ラムポンプ、コンプライアンスタンク、レジスタンス等から成り、回路抵抗を最小限にするために、
チューブによってこれらはすべて直列に接続し、一方向弁はダイヤフラムポンプの入口側にのみ配置
した。試験ポンプはダイヤフラムポンプの後方に取り付けて拍動流を与えた。血液を模擬する作動流
体は、液温 37℃で血液と粘度が等しくなる 44wt% グリセリン生理食塩水とした。平均流量が、設計
条件である毎分 5 ± 1 リットルとなるように調整した。ポンプ自体も 37℃の生理食塩水に没水させた。
以上までの耐久性試験装置の仕様を確定し、8 台の軸流型補助人工心臓の耐久性試験を実施した。試
験中、流量、圧力、拍動数、液温、液粘度などを計測し、それらの値から総合的にシステムの動作を
判断した。
【結果】耐久性試験装置は、拍動数毎分 72 拍において、毎分拡張期 0 ± 1 リットル、収縮期 9.5 ± 1 リッ
トルの拍動流量下を実現した。8 台の補助人工心臓に対して、耐久性試験を実施し、カ月における本
試験の実験条件の設定値は、経時的には、平均流量 4.4(± 0.1)± 0.2(± 0.1)L/min、拡張期流
量 0.23(± 0.13)± 0.2(± 0.11)L/min、収縮期流量 10.9(± 0.2)± 0.2(± 0.1)L/min、平
均圧力 80.3(± 2.2)± 3.9(± 3.8)mmHg、拍動数 72(± 0.3)± 1.1(± 0.3)bpm、
液温 37.1(± 0.2)
± 0.3(± 0.2)℃、液粘度 3.1(± 0.05)± 0.31(± 0.1)cP(カッコ内は、個体のばらつきを示す)
となり、ほぼ一定の値をとり、溶液中への Fe 成分の溶出もないことも確認した。
【結言】現状、開発中の補助人工心臓ポンプの長期信頼性が確証できており、2年間試験を継続する
予定である。
− 60 −
O2-
2
小児肺動脈弁開発のための右心系循環評価シミュレー
ション
1
東北大学大学院医工学研究科,2 東北大学加齢医学研究所心臓病電子医学分野,3 東北大学大学院医学系研究科,
東北大学心臓血管外科,5 山形大学大学院理工学研究科,
6
早稲田大学 TWIns,7 京都府立医科大学付属小児疾患研究施設小児心臓血管外科
4
○坪子侑佑 1,白石泰之 2,三浦英和 2,松尾諭志 4,志賀卓弥 3,山田昭博 1,伊藤拓哉 1,
HASHEM Mohamed 3,齋木佳克 4,馮忠剛 5,梅津光生 6,山家智之 1,2,3,山岸正明 7
本研究では,先天性心疾患の外科治療に用いられる ePTFE 製導管付き肺動脈弁の血行力学的評価シ
ミュレーションモデルの開発改良を行った.
先天性心疾患の治療用具開発においては,右心系の血圧血流波形を高度に再現し,とくに小児の循環
動態の再現においては,低圧低流量下での血行力学的応答のシミュレーションが重要である.補助人
工心臓の開発研究プロセスでは多くの血液循環シミュレータが用いられ,ポンプや人工弁の評価が行
われている.しかしながら,左心系と比べて低圧な流体管路での圧流量の再現は,両心系の補助シミュ
レーションを除いてあまり試みられていない.本研究で開発改良を進めた右心系模擬循環回路は,低
圧較差,低流量の条件下で肺動脈弁の流体力学的応答を高精度に評価を可能にすることを目的とした.
右心系模擬循環シミュレータは,弁接続チャンバ,弁挙動観測ポート,肺動脈および肺血管抵抗モデル,
静脈リザーバ,右心房モデル,右心室モデルから構成される.右房モデル,右室モデルは空気圧駆動
により動作し,生体心房−心室の連携を再現する.ポンプ駆動条件は,目的とする循環状態に応じて,
拍動数,右房右室それぞれの収縮時間比,収縮位相を任意に設定できる.
弁形状改良のため,Bulging sinus 深さ,弁葉厚み,形状といった設計パラメータに注目し,それらパ
ラメータを変化させた ePTFE 弁モデルを試作し,上記のシミュレータ駆動下にて血行動態データを取
得した.作動流体には常温水道水を用い,小児右心循環の血圧条件を再現するよう回路抵抗を固定し,
弁前後圧較差,弁通過流量を測定した.
先天性心疾患治療用具評価のための右心系循環を高度に再現することを目標として,右心駆出機能に
着目して検討を行った.本研究の展開によるモデリングシミュレーションでは,低圧系の肺循環に対
する人工的循環補助において定量評価を行うことが可能となり,補助循環治療の医工学的評価ツール
となると考えられた.
− 61 −
O2-
3
螺旋流血液ポンプの原理の検討
1
3
東京大学大学院医学系研究科生体物理医学専攻,2 北里大学大学院医療系研究科医科学専攻,
東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻
○石井耕平 1,細田享平 2,磯山隆 1,斎藤逸郎 1,有吉洸希 2,井上雄介 3,佐藤雅巳 1,
原伸太郎 1,小野俊哉 1,中川英元 1,井街宏 1,阿部裕輔 1
背景・目的
完全人工心臓用血液ポンプとして開発中の螺旋流血液ポンプ(HFP)は、基礎実験より揚程 100
mmHg に対して、最高 19.97 L/min の連続流々量が得られシステム効率は最高で 10.8% であった。
完全人工心臓としてヤギに埋め込んでの動物実験においても正常な血行動態を維持することができ、
完全人工心臓として十分なポンプ性能を有していると考えられた。今後、さらなる小型化やポンプ効
率向上を目指し流路形状の改良を行う予定である。それらのプロセスの前段階として HFP のポンプ
原理を理解する事は必須である。そこで、CFD 解析を用いて HFP のポンプ原理を検討することを目
的とした。
方法
格子生成および解析には ANSYS CFX14.0 を用い定常解析を行った。流路モデルの形状は、基礎実験
用 HFP と同形状とし、流入側ボリュート、インペラーおよび流出側ボリュートの 3 パーツにより構
成した。回転数は 1250 rpm、流量は 5L/min とした。得られた流速分布、静圧分布よりポンプ原理
を検討した。
結果
流速分布よりベーン間において流入側および流出側に回転方向の異なる二つの渦が確認された。静圧
の分布は流入ポートから流出ポートに近づくにつれて上昇傾向が確認された。特に流出ポート近傍で
の静圧上昇が大きく、ポンプ揚程 96mmHg に対して約 30 から 80 mmHg までの昇圧が確認された。
考察
ベーン間に見られた回転方向の異なる二つの渦は遠心力によるベーン根元側から先端側への流れがも
ととなり形成されたと考えられる。インペラーが直接的に運動エネルギーを与えることができるのは、
ベーン間に存在する流体のみであるが、この渦がもたらす循環によりインペラー領域とボリュート領
域の流体が入れ替わることで流路内全ての流体に運動エネルギーを与える事ができると考えられる。
さらに流出ポート近傍においてボリュート領域の流体の運動エネルギーの一部が圧力エネルギーへと
変換される事によりポンプ作用がもたらされていると考えられる。
− 62 −
O2-
4
螺旋流完全人工心臓におけるテーブル推定法による流量・
差圧推定
1
東京大学大学院医学系研究科医用生体工学講座,2 東京大学大学院工学系研究科
○原伸太郎 1,斎藤逸郎 1,石井耕平 1,磯山隆 1,李欣陽 1,井上雄介 2,阿部裕輔 1
本研究室で開発している螺旋流完全人工心臓の臨床応用における課題として、長期埋め込みに耐えう
る流量・差圧センサーが存在しない点があげられる。そこで本研究では、流量・差圧センサーを排除
した制御を実現すべく、螺旋流完全人工心臓の制御に必要な流量・差圧の推定方法としてテーブル推
定法の確立を目的とする。テーブル推定法は、電流・電圧・回転数などを入力とするパラメータテー
ブルおよび関数式を用いて流量・差圧を推定する方法である。そこで、初めに螺旋流完全人工心臓の
特性をモックで測定し、流量・差圧について電流・電圧・回転数などを入力とするパラメータテーブ
ルおよび関数式を作成した。次に、作成したパラメータテーブルおよび関数式を用いて、電圧・電流・
回転数などから流量・差圧の推定を行い、実測値との比較を行った。また、他の推定法による流量・
差圧の推定値についても実測値との比較を行うことで、テーブル推定法と他の推定法との比較も行っ
た。なお、
パラメータテーブルは離散的であるため、パラメータテーブル中に存在しない値については、
スプライン関数などの補間法を用いて、推定を行った。
現在までの研究で、テーブル推定法と直線近似を用いた推定法との比較では、テーブル推定法の方が
より正確な値が得られている。今後、パラメータテーブルおよび関数式を改良することで、制御に必
要な流量・差圧の推定を拍動駆動下で実現するとともに、パラメータテーブルの大きさについても最
適な大きさになるように改良を行う予定である。
− 63 −
O2-
5
確率的手法を用いた自律的人工心臓駆動のための基礎的
検討
1
国立循環器病研究センター,2 東京電機大学
○大沼健太郎 1,住倉博仁 1,本間章彦 2,武輪能明 1,水野敏秀 1,築谷朋典 1,赤川英毅 1,
福井康裕 2,巽英介 1
【緒言】
人工心臓制御において、生体側の複雑な挙動に起因してアルゴリズムが破綻する恐れがあるなど臨床
使用に課題がある。本研究では、生物の適応性を制御に応用する手法の一種である確率的な制御モデ
ルを用いることで、生体のように厳密なモデル化が困難な状況でも、予想外の変化に柔軟に対応可能
な人工心臓駆動法の確立を目指している。
【方法】
今回、単純な系で提案手法の有用性を探るべく、軸流ポンプ(東京電機大学と共同開発中)の実験モ
デルを制御対象として閉ループ模擬循環回路にて基礎的検討を行った。確率的制御モデル dx/dt=A・
(-dU(x)/dx)+ηにおいて、x(t): 回転数制御信号、U(x): 谷型の仮の目的関数、A:U(x)の谷
への引き込み効果を生じる評価関数、η : ノイズ(ランダムな変動)として流量制御を行った。U(x)
は A の変化に応じてパラメータを更新した。今回、任意の目標流量が得られる動作を想定して試験的
に A を設定した。また、環境変化として模擬的に吸い付きを生じさせた際の挙動を観測した。
【結果・考察】
本制御を適用した結果、ノイズ項により回転数を変動させながら目標流量付近(流量 : 5.89 L/min, 揚
程 : 87.4 mmHg)に達し、想定した動作を実現できた。また、吸い付きが生じた際、探索的に回転数
が低下し吸い付きが解除された後にふたたび目標流量に達する挙動が認められた。このとき吸い付き
解除に要した時間は 40.1 ± 32.7 sec(n=10)であった。他の手法で類似の動作を得ることは可能だが、
モデルや経験に基づいた行動則を設計することなく以上の効果が得られたことは、柔軟な人工心臓制
御に有用と考えられた。
【結語】
提案手法の可能性を検討するべく軸流ポンプの流量制御を行い、設計段階で考慮していなかった外乱
に柔軟に対応する挙動が得られた。今後、実用的な制御課題への適応を検討する予定である。
− 64 −
O2-
6
自己心拍同期回転数制御システムによる定常流型 LVAD の
拍動性増大効果 ―慢性心不全モデルにおける長期検討―
1
国立循環器病研究センター 研究所 人工臓器部,2 自治医科大学附属さいたま医療センター 心臓血管外科,
東京都健康長寿医療センター 心臓外科,4 東京大学大学院医学系研究科 重症心不全治療開発講座,
5
東京大学医学部附属病院 心臓外科
3
○荒川衛 1,2,武輪能明 1,西村隆 3,4,梅木昭秀 5,安藤政彦 5,岸本祐一郎 1,許俊鋭 3,4,
安達秀雄 2,巽英介 1
【背景】近年、重症心不全患者に対し植込み型定常流型補助人工心臓の使用頻度が増加している。今後、
長期間の補助に際してはより生理的な血行動態を再現することが必要であると考えられる。我々は、
定常流型補助人工心臓である EVAHEART を自己心拍に同期させ回転数を変化させる「自己心拍同期
回転数制御システム」を開発した。これまでに、本システムを用いた急性動物実験において、収縮期
に回転数を上昇させることで、拍動性を増加させることに成功した。今回、慢性心不全モデルヤギに
EVAHEART を植込み、拍動性の検討を行った。
【方法】成ヤギ4頭(55.3 ± 4.1 kg)に対し左冠動脈微小塞栓術および高頻脈ペーシングを 4 ∼ 8 週
間で作成した慢性心不全モデルに対し、左側方開胸下に心尖部脱血、下行大動脈送血で EVAHEART
を装着し、同時に動脈圧ラインを装着した。自己心拍に同期させ収縮期に回転数を上昇させる収縮期
補助モードと、定常回転の拍動性を比較検討した。術後、非麻酔下に平均 13.0 ± 9.6 日の観察を行い、
定常回転と収縮期補助モードを連続 12 時間施行し、1 時間のデータを抽出し解析を行った。拍動性
の指標として、大動脈平均脈圧、Energy Equivalent Pulse Pressure(EEP)/平均動脈圧 , 大動脈圧
の dP/dt を測定した。平均値の検定には Student t 検定を用いた。
【結果】定常回転においても大動脈平均脈圧は 21.9 ± 5.7mmHg とある程度の拍動性を認めたが、収
縮期補助モードでは平均脈圧 41.4 ± 8.9 mmHg と定常回転と比較して有意に高値を示した(p <
0.05)。また、EEP /平均動脈圧(102.1 ± 2.8% vs 111.1 ± 3.1% : p < 0.01)、大動脈圧 dP/dt(642.0
± 738.1mmHg/sec vs 330.7 ± 72.7mmHg/sec : p < 0.01)
といずれの指標においても収縮期補助モー
ドで有意に高値を示した。
【結論】今回、新規開発の自己心拍同期回転数制御システムを使用することで、定常流型左心補助人
工心臓使用時の体循環拍動性を大きく増加させることが示された。本制御システムは、今後長期化が
予想される定常流型補助人工心臓管理に、より生理的な血行動態の実現に寄与し得るものと考える。
− 65 −
O2-
7
定常流 LVAD の心電図同期変動回転駆動における消費電力
に関する考察
1
3
東京大学医学部附属病院 心臓外科,2 国立循環器病研究センター研究所 人工臓器部,
東京大学医学部 重症心不全治療開発講座,4 東京女子医科大学病院 心臓血管外科
○安藤政彦 1,2,西村隆 3,武輪能明 2,築谷朋典 2,水野敏秀 2,山崎健二 4,許俊鋭 3,小野稔 1,
妙中義之 1,巽英介 1
目的)我々は、定常流 LVAD の回転数変動駆動の有用性について研究してきた。今回は同駆動の消費
電力(P)に着目し、従来の定常駆動との比較、並びに変動駆動の P を規定する因子について検討した。
方法)ヤギ 11 頭(62.5 ± 6.4kg)の正常心において、EVAHEART(Sun Medical)による左心バイ
パスを作成。回路クランプ(CC)・定常回転(CM)
・収縮期補助(SS)・拡張期補助(DS)の 4 条件
を設定、後 3 条件において Half bypass を確立して P を比較。P の規定因子としては、
平均回転数(RS)、
後負荷(平均大動脈圧 , mAoP)
、ポンプ流量(PF)、心拍数(HR, 特に SS 及び DS において)等が考
えられ、これらを用いて重回帰分析を行い、P への寄与を考察。
結果・考察)CM・SS・DS において、Bypass 率、RS、mAoP、PF、HR に有意な変化なし。P は順に、
3.30 ± 0.87 / 4.29 ± 0.80 / 4.20 ± 1.30 W であり、SS / DS において、CM に比較して約 30%の P
の上昇あり(p=0.009 / 0.02)。重回帰分析の結果、P の説明変数のうち寄与が大きい因子は、CM で
の mAoP(p=0.159)、SS / DS での RS(p=0.070 / 0.013)と HR(p=0.061 / 0.146)であり、変動
回転では特に RS が P に影響していた。DS で P が大きい症例の PF 波形において、瞬間的な Sucking
を確認した。Sucking 時は RS の 2 乗に比例して P が増加するため、余剰な電力消費の原因となり得る。
小さなヤギ正常心での実験結果であるが、変動回転では回転数上昇時に Sucking を起こさない適切な
最高回転数の設定が重要である。
結論)変動回転時に必要な P は、定常回転時の 130%相当である。特に DS では、sucking を起こさ
ない適切な最高回転数を設定することで、P を 130%よりも更に低下し得る。
− 66 −
O3-
1
経皮的右心補助カテーテルポンプの開発
1
杏林大学 保健学部,2 北海道大学,3 東京大学大学院 医学系研究科,4 東京電機大学 理工学部
○福長一義 1,大貫雅也 1,星原卓弥 1,大澤翔太 1,三田村好矩 2,阿部裕輔 3,舟久保昭夫 4,
福井康裕 4
近年、LVAD を装着した患者が右心不全を合併する症例が数多く報告されるようになり、これを改善
するために RVAD の開発が望まれている。我々は、とくに右心不全急性期において 2 週間程度のパー
シャルサポートを目的とした軸流型カテーテルポンプの研究を進めている。本研究の基本コンセプト
は、 大腿静脈からポンプを経皮的に挿入し、肺動脈弁を介して右心室から肺動脈にかけて留置する 、
モータを内蔵し、磁性流体でシールする 、である。今回、軸流インペラデザインについて報告する。
血管径や脈管構造を考慮し、ポンプ部流路φ 7 mm、流路長 10 mm 程度のサイズとなるようにイン
ペラ形状を検討した。ポンプ回転数 20000 rpm のときに、ポンプヘッド 20 mmHg、流量 3 L/min
の性能が得られるように流体解析ソフト(STAR-CCM+,IDAJ Co., LTD)を用いてポンプ性能のシミュ
レーションを行った。さらに、目標の性能が得られた形状を試作し流体力学的評価を行った。
解析において目標特性が得られたデザインは、インデューサ長 6 mm、インデューサ枚数 3 枚、中心
軸径φ 3.3 mm、インペラ径φ 6.8 mm、インペラ長 5 mm、羽根枚数 2 枚、羽根の入口角 44.0°で
あった。モータをポンプ外部に設置し、流路部分だけを模擬したポンプを試作し、模擬循環回路を用
いて 5 mmHg の前負荷をかけて流量と圧力の測定を行ったところ、回転数 20000 rpm において圧力
20 mmHg、流量 2.86 L/min の性能が得られた。圧―流量曲線において、解析結果に比べ試作したポ
ンプでは同一条件において発生流量が低下したが、その傾きは近似しており、流体解析の有用性が示
された。今後は、市販小型モータを組み込むとともに、磁性流体シールを施して溶血試験モデルの開
発をおこなう予定である。
− 67 −
O3-
2
送脱血カニューレおよびドライブライン出口部周囲における
皮膚性状の経時的変化と細菌感染の関連に関する検討
国立循環器病研究センター 人工臓器部
○熱田祐一,水野敏秀,武輪能明,築谷朋典,角田幸秀,片桐伸将,大沼健太郎,住倉博仁,
藤井豊,岸本祐一郎,荒川衛,東郷好美,巽英介
【背景】補助人工心臓の送脱血管、ドライブライン出口部における感染は予後に係わる重要な要因で
ある。我々は組織適合性に優れたセグメント化ポリウレタン多孔体(SPU)による出口部デバイスを
開発し感染の抑制を目指している。一方で皮膚出口部における組織の経時的変化についての詳細な検
討は少ない。本研究では動物実験により出口部周囲部における皮膚性状の経時的変化を解析し、感染
発生との関連について検討を行った。
【方法】塩化ビニルチューブ(外径 20 mm)を SPU(厚さ約 2.0 mm、長さ 100 mm)で被覆した国
循型 LVAS 模擬カニューレを作成し、成ヤギの皮下から表皮を貫通させ留置した。模擬カニューレの
内 3 本は SPU を被覆し、1 本は対照としてポリエステル製カフで被覆した。実験期間内は消毒など
感染防止処置を一切行わなかった。出口部周囲皮膚の評価として経時的に皮膚 pH、真皮組織水分量、
表皮温度、皮膚血流量を測定し細菌検査を行った。感染の発生をエンドポイントとして摘出し、周囲
組織の病理学的評価を行った。
【結果およびまとめ】植え込み後 1 か月時には表皮と SPU カフは良好な癒着が確認され感染は認めら
れなかった。しかし 4 か月後にすべての出口部に感染が確認され摘出した。実験期間中、皮膚 pH は
経時的に上昇し、皮膚血流量は出口部周囲で常に低値を示していた。さらに、表皮温度、真皮組織血
流量は感染兆候に先立って増加する傾向にあった。出口部の細菌叢は、皮膚 pH の変化と共に常在菌
から化膿性菌、グラム陽性球菌へ変化した。今回の検討では、皮膚貫通部では周囲組織との癒着を促
進させたにも係わらず出口部皮膚性状は経時的に変化し、細菌感染が起こりやすい状態へ陥ることが
示された。出口部感染の防止には皮膚性状を長期に維持可能な素材開発とデザインの検討が必要と考
えられた。
− 68 −
O3-
3
補助人工心臓用ウェアラブル式小型空気圧駆動装置の開
発現況
1
国立循環器病研究センター 研究所 人工臓器部,2 東京電機大学 理工学部,3 株式会社イワキ
○住倉博仁 1,大沼健太郎 1,本間章彦 2,妙中義之 1,武輪能明 1,水野敏秀 1,築谷朋典 1,
片桐伸将 1,角田幸秀 1,向林宏 3,片野一夫 3,小嶋孝一 3,福井康裕 2,巽英介 1
【緒言】
国内で多く用いられている NIPRO-LVAS の空気圧駆動装置は大型で重く、バッテリー駆動時間も短い
ことから、患者の QOL を低下させている。そこで本研究では、小型・軽量で携帯性に優れたウェア
ラブル式空気圧駆動装置(WPD)を開発中である。今回、電源供給システムを組み込んだ WPD を用
いて、慢性動物実験による性能評価を行ったので報告する。
【方法】
WPD は、ブラシレス DC モータ、クランクシャフト、シリンダーピストン、非円形ギア、陽陰圧調
整弁から構成され、シリンダーピストンの往復運動により空気圧を発生し、非円形ギアにより固定の
SD 比を作り出す機構である。コアユニットのサイズは 101 × 174 × 135 mm、重量 1.35 kg である。
体重 72kg の仔牛に対し、NIPRO-LVAS を用いた左室心尖部脱血、下行大動脈送血の左心バイパスを
作成し、WPD の駆動による慢性動物実験時の実負荷条件下における長期循環維持性能、耐久性、お
よび電源供給システムによるバッテリー駆動時間に関し検討を行った。
【結果】
慢性動物実験の結果、バイパス流量は、平均大動脈圧 86 ± 10 mm Hg、拍動数 60‐90 bpm にて 4.1
± 0.4 L/min であり、仔牛の血行動態、および装置の駆動状態に過度の変化はなく、安定した駆動が
可能であった。また、試験期間中装置の故障は無く、一ヶ月間の安定した駆動が可能であり、実験後
の非円形ギアの摩耗は確認されなかった。電源供給システムにより WPD を駆動した結果、拍動数 70
bpm、バイパス流量 4.1 L/min、平均大動脈圧 88.4 mm Hg、平均消費電力 13.2 W にて、5 時間以上
の連続駆動が可能であった。
【結語】
本研究にて開発した WPD は、小型・軽量、そして安定した拍出性能と長時間のバッテリー駆動が可
能であり、補助人工心臓用空気圧駆動装置として十分な性能を備えていると考えられた。
− 69 −
O3-
4
空気圧駆動式ウェアラブル補助・全人工心臓システムの
開発
1
東京電機大学 理工学部 電子・機械工学系,2 国立循環器病研究センター研究所,3 株式会社イワキ
○本間章彦 1,住倉博仁 2,大沼健太郎 2,大越康晴 1,舟久保昭夫 1,巽英介 2,妙中義之 2,
福井康裕 1,向林宏 3,片野一夫 3,小島孝一 3
【目的】
空気圧駆動式ウェアラブル補助・全人工心臓システムの開発を目的とする。
【方法】
システムはダイアフラム型血液ポンプとそれを駆動させるための空気圧を発生する駆動装置から構成
される。駆動装置はブラシレス DC モータの回転運動をクランクシャフトにより、シリンダーピスト
ンの直線運動へ変換することで空気圧を発生させる機構となっている。SD 比はモータの回転運動を
クランクシャフトへ伝える部分に非円形歯車を用いることで実現し、駆動陽陰圧の制限と大気開放用
に弁を備えている。駆動装置の大きさは 250 × 110 × 210[mm]、重量は約 4.3[kg](電池を含まない)
である。電源にはリチウムイオン二次電池(大きさ 70 × 85 × 40[mm]、392g)を 2 個内蔵し、AC
アダプターを用いることで外部電源の使用と電池の充電が可能となっている。本システムでは、血液
ポンプの駆動原理が同じであるため共通の駆動装置を使用することが可能であり、補助人工心臓では
1 台、全人工心臓では 2 台を用いることになる。
今回、ニプロ社製血液ポンプ(容積約 70mL)を用いたオーバーフロー型模擬循環回路による試験に
より、本駆動装置における電池充放電時間の評価を行った。
【結果】
模擬循環回路において、血液ポンプの前負荷を 10[mmHg]、後負荷を 100[mmHg] とし、平均拍出流
量が 5[L/min] となるようにポンプの駆動状態を調整し、電池の放電時間を計測したところ、2 個の電
池の放電時間はそれぞれ 3 時間 16 分、3 時間 25 分であり、合計 6 時間 41 分の連続駆動が可能であっ
た。また同条件で駆動しながら完全放電した 2 個の電池の充電を同時に行ったところ 6 時間 5 分で電
池残量 100%に充電された。また、駆動無しの無負荷での充電時間では 4 時間 29 分であった。
− 70 −
O3-
5
乳児用人工心臓への応用を目指した 5 自由度制御型磁気
浮上モータの開発
1
茨城大学大学院理工学研究科,2 茨城大学工学部機械工学科,3 国立循環器病研究センター
○長真啓 1,増澤徹 2,巽英介 3
緒言 2010 年 7 月の臓器移植法改正より国内における 15 歳未満の小児への心臓移植が可能となっ
た.小児患者の救命においても,心臓移植への橋渡しとして機械的循環補助を行うことは有効である.
しかし,本邦には小児に適用可能な補助循環デバイスが存在せず,小型,高耐久かつ溶血,血栓形成
を惹き起さない小児用補助循環デバイスの開発は急務である.本研究では乳児患者を対象とした磁気
浮上型補助人工心臓を提案する.磁気浮上型を採用することにより,広いクリアランスを確保しつつ
非接触で浮上インペラを回転させることができる高耐久で血液適合性の高い人工心臓を実現する.本
稿では乳児用人工心臓のための小型な磁気浮上モータの考案と設計について報告する.
方法 提案する乳児用人工心臓は,同一形状の上部ステータと下部ステータにより浮上インペラを軸
方向上下から挟み込む構造の磁気浮上モータを駆動部とする.上下のステータには浮上インペラの軸
方向位置,径方向位置,径方向軸回りの傾きの 5 自由度と浮上インペラの回転数を能動制御するため
に 2 種類のコイルを配置する.三次元磁場解析を用いて 5 自由度制御型磁気浮上モータの設計を行っ
た.小児用人工心臓の目標性能は,浮上インペラの回転数 4000 rpm において揚程 100 mmHg に対
して流量 1.5 L/min 送出可能であることとした.これより本ポンプ性能を満たすために必要な目標回
転トルクを 4.8 mNm と算出した.
結果 外径 28 mm,高さ 41 mm の磁気浮上モータを設計した.設計したモータは入力電流 1 A あた
り 16.5 mNm の回転トルクを発生可能であることを推定し,目標トルクに対して十分な回転性能を有
していることを確認した.また,浮上インペラの軸方向中心位置から± 300 μ m の軸方向変位が可
能であることが推定でき,十分な磁気支持性能を有していることを確認した.
結言 乳児用人工心臓の駆動部として十分な磁気支持,回転性能を有する小型な磁気浮上モータの設
計が行えた.
− 71 −
O3-
6
フェライトコア平面コイルを用いた経皮的電力伝送シス
テムの温度上昇の検討
1
4
東北大学加齢医学研究所,2 東北大学大学院医学系研究科,3 東北大学大学院医工学研究科,
東北大学大学院工学研究科
○三浦英和 1,志賀卓弥 2,伊藤拓哉 3,坪子侑佑 3,山田昭博 3,
HASHEM Mohamed 2,白石泰之 1,山家智之 1,2,3,佐藤文博 4,松木英敏 3
緒言 回転式血液ポンプは拍動型のものに比べて耐久性が高くしかも小型軽量かつ低消費電力化が可
能である。また近年リチウムイオン電池、MOSFET の等電子デバイスの性能も大幅に向上している。
したがって経皮的電力伝送システム(TETS)を小型軽量化し可能であり、補助人工心臓の永久使用に
向けて完全埋込型補助人工心臓の実現可能性が高まっている。我々が開発する TETS は薄い平面型フェ
ライトコア、そして整流回路に同期整流回路を用いたことにより高効率を実現している。体内埋め込
み機器において患者への負担を減らすためにはデバイスの容積、数を減らすことが望まれるが、一方
で体内コイルは皮下に埋め込まれるため、発熱許容度は小さく、高い効率が要求される。これまでの
慢性動物実験ではコイル位置ずれ、圧迫壊死のほか、体内整流回路の電子デバイスによる局所的な温
度上昇がみられた。本研究では試作した経皮的電力伝送システムの温度上昇の評価を目的とした。
方法 試作したシステムはフィティングの向上のため緩やかな傾斜を持たせるとともに体外コイル中
心部に開口を設けている。体外コイル、体外コイルのモールド材料はそれぞれシリコーン、エポキシ
を用いた。整流回路の電子デバイスは分散配置し、配線パターンを放射状にして熱の拡散を図った。
基本的な伝送特性を測定した後、大気中、恒温水槽中等の条件でサーモカメラ(日本アビオニクス社
TVS − 200)を用いて温度分布像を撮影し熱電対をもちいてデバイス表面温度を計測した。
結果 45W の最大電力を伝送可能であった。コイル間距離 5mm において 93.4%の最大効率(DC-DC)
を得た。大気中で整流回路部分を観察すると発熱は分散され円周方向拡散されていることが分かっ
た。恒温水槽中 37℃における温度上昇はコイル間距離 10㎜、受電電力 25W のとき体内コイル背面
+3℃、体内コイル上部 +2.5℃であった。
− 72 −
O3-
7
NEW APPROACH FOR AORTIC PULSATION METHOD
USING SHAPE MEMORY ALLOY FIBERS
1
東北大学 大学院 医学系研究科 内科学専攻 心臓病電子医学,
東北大学 加齢医学研究所 心臓病電子医学分野,3 東北大学 大学院 医工学研究科 人工臓器医工学講座,
4
トキコーポレーション株式会社
2
○ HASHEM Mohamed 1,白石泰之 2,山田昭博 3,坪子侑佑 3,三浦英和 2,
家山智之 1,2,3,本間大 4
Diastolic counter pulsations are employed to provide circulatory augmentation for chronic
heart failure. However, there is no fully implantable system, which can support cardiovascular
hemodynamics without blood compatibility problems. Recently we have been developing a new
totally implantable extra aortic counter pulsation device using shape memory alloy(SMA)fibers
as an actuator. The device consisted of silicone rubber wall plates, which were serially connected
by circumferential position on the aortic vessel for radial displacement through SMA fibers. This NiTi anisotropic fiber tunnels and connects each plate to achieve its contraction by Joule heating with
an electric current supply. The special features of the device were as follows: non-blood contacting
structures, small sized device optimized for easy implantation, and synchronous control with the
native heart. We designed its structure with a wrapping mechanism on the aorta, which was similar
to the conventional aortomyoplasty and the extra aortic balloon pump. Moreover, we could eliminate
hemorrhagic and thromboembolic complication and provide similar physiological effect as the intra
aortic balloon pumping. We also examined the contractile function of the device in a systemic mock
circulatory system which was capable of simulating the natural hemodynamics. As a result, the mean
flow and peak diastolic pressure increased significantly. The results of the mock experiment indicated
its promising alternative extra aortic approach for non-blood contacting cardiovascular circulatory
support.
− 73 −
O4-
1
連続流式遠心ポンプ補助人工心臓使用症例における血小
板凝集能に関する検討
東京女子医科大学 心臓血管外科
○鈴木憲治,西中知博,宮本卓馬,市原有起,駒ヶ嶺正英,斎藤聡,津久井宏行,
山崎健二
【目的】
補助人工心臓における血栓塞栓症,出血性合併症は抑制すべき重大な課題であるが,血小板凝集能は
これに大きな関与をしていると考えられる。我々は連続流式遠心ポンプ補助人工心臓使用における血
小板凝集能の術後推移を経時的に検討した。
【方法】
2011 年 3 月から 2012 年 4 月までに連続流式遠心ポンプ補助人工心臓(EVAHEART)植込み術を施
行され,6 カ月以上の補助期間を有する患者 10 名(男 7 名,女 3 名)を対象とした。平均補助期間
320.6 日(204-524 日)で,抗凝血療法はワーファリン(2.5-6.5mg/ 日)およびアスピリン(100-300mg/
日)であった。術後 1 週,1 カ月,3 カ月,6 カ月に血液を採取し,レーザー散乱光血小板凝集能測
定装置 PA-200 を用い血小板凝集能を測定した。ADP2µM を添加し,7 分間の観察時間中に生成され
た凝集塊(small:9-25µm, medium:25-50µm, large:50-70µm)の総数を計測した。
【結果】
術後 1 週(small:2.31 ± 0.83x107, medium:1.25 ± 0.74x107, large:2.04 ± 2.11x107),1 カ月(2.97
± 1.66x107, 1.78 ± 1.24x107, 2.96 ± 3.08x107),3 カ月(3.41 ± 0.89x107, 2.53 ± 0.82x107, 5.26
± 1.75x107),6 カ月(2.72 ± 0.87x107, 1.58 ± 0.88x107, 4.20 ± 2.41x107)であり,大凝集塊は
術後 1 週間に比較して 3 カ月に有意に多い傾向にあった。(p=0.00691)
【結語】
連続流式遠心ポンプ補助人工心臓使用における血小板凝集能は急性期においては ADP 凝集の抑制を
認めるが,これは術後 3 カ月程度以降には亢進傾向を認めた。血小板機能の管理において血小板凝集
能の推移を把握することの有用性が示唆された。
− 74 −
O4-
2
体外設置型補助人工心臓におけるポンプ内血栓量の日内
変動
1
3
佐賀大学大学院 医学系研究科,2 地方独立行政法人佐賀県立病院好生館 ME センター,
佐賀大学医学部付属病院 胸部・心臓血管外科
○立川洋輝 1,2,伊藤学 3,森田茂樹 3
【背景と目的】補助人工心臓(LVAD)装着術後の遠隔期合併症の 1 つとして血栓塞栓症が挙げられる。
このため適切な抗凝固療法を行うとともに、ポンプ内血栓の動向を注視する必要がある。しかし、ポ
ンプ内血栓についての論文は散見されるが、ポンプ内血栓量の経時的変化についての報告は少ない。
今回、ポンプ内血栓量に日内変動があるかということに焦点を当て、検討を行ったので報告する。
【対象】27 歳、男性。拡張型心筋症の診断にて LVAD(NIPRO 社製)装着となった。対象期間は装着
中の 2009 年 7 月∼ 2010 年 9 月とした。
【方法】本検討は患者カルテのポンプ内血栓観察記録をレトロスペクティブに調査したものである。
まず、紙ベースであったポンプ内血栓観察記録を PDF 化した。次に、Photoshop CS6(Adobe 社製)
を用い、ポンプ内血栓量を定量化した。最後に、記録時間帯により朝(m 群)、昼(d 群)、夜(n
群)とし、ポンプ内血栓量(pixel)に差があるか検討した。解析には一元配置分散分析(One-way
ANOVA)を用い、P<0.05 を有意差ありとした。これらをポンプの表面、裏面、全体に場合分けし、
検討を繰り返した。
【結果】表面のポンプ内血栓量(平均値± SD)は m 群:3155 ± 2567、d 群:2832 ± 2185、n
群:2679 ± 2348 であった。同様に裏面は、m 群:1814 ± 1796、d 群:1761 ± 1814、n 群:
1753 ± 1788、全体では、m 群:4923 ± 3485、d 群:4593 ± 3096、n 群:4433 ± 3221 で
あった。One-way ANOVA による解析の結果、表面のポンプ内血栓量において 3 群間に有意差を認め
た(p=0.04)。
【結論】血栓量を定量化し、観察時間帯を考慮した解析することで、表面のポンプ内血栓量に日内変
動があることが示唆された。
− 75 −
O4-
3
地方自治体病院における補助人工心臓治療中の脳合併症
への対応・課題
群馬県立心臓血管センター
○伊達数馬,金子達夫,江連雅彦,佐藤泰史,長谷川豊,岡田修一,小此木修一,滝原瞳
【背景】当院では 2004 年より体外式左室補助人工心臓装着を開始,2012 年より植込み型補助人工心
臓装着を開始した.これまでに体外式 9 例,植込み型 2 例装着し現在,体外式 1 例,植込み型 2 例
の補助継続中であるが,体外式で 1 例,植込み型で 1 例脳合併症を経験した.循環器中心の地方自治
体病院である当院での対応,今後の課題を報告する.
【症例 1】44 歳男性。心筋炎後心不全に対して 42 歳時体外式補助人工心臓(Nipro)を装着.補助開
始 438 日目胸腹部人工血管置換術を施行,466 日目小脳出血を発症.抗凝固療法を中止したが,ポ
ンプ内血栓に起因すると思われる脳梗塞・梗塞後出血を発症した.頻回のポンプ交換や抗凝固療法の
調節により軽快,現在リハビリ継続中.
【症例 2】41 歳男性.特発性拡張型心筋症により IABP 離脱困難となり植込み型補助人工心臓(EVAHEART)
装着.補助開始後 67 日目自宅退院となり,外来通院中であったが 115 日目左頭頂葉脳出血発症し緊
急入院.抗凝固療法の中止により出血は改善,高次脳機能障害が残存し現在リハビリ継続中.
【対応】近隣病院の脳神経外科 Dr(2 症例とも同一)に画像を実際に見ていただき初期の治療方針を
決定した.抗凝固療法再開については当院の判断で実施した.
【課題】当院には神経内科・脳神経外科の常勤医は不在であり,病院の特性上診療科の増設は困難で
あるため近隣病院との連携が必要不可欠である.そのためには画像転送システムの構築が急がれる.
また,今回の 2 症例は保存的加療で軽快することができたが,状況によっては開頭手術が必要になる
が当院で開頭手術を行うことは不可能である.転院加療となるが転院先での機器管理が不十分となる
可能性もあり,人工心臓管理技術認定士などのスタッフの育成が急務である.
【まとめ】課題を克服しながら,北関東での重症心不全治療の一翼を担えるよう責任を果たしていき
たい.
− 76 −
O4-
4
植込型補助人工心臓手術後の大動脈弁機能不全の検討
九州大学 心臓血管外科
○牛島智基,田ノ上禎久,鬼塚大史,園田拓道,大石恭久,西田誉浩,中島淳博,塩川祐一,
富永隆治
【背景と目的】植込型補助人工心臓(LVAD)による長期管理において,大動脈弁機能不全(AI)の出
現およびその進行が問題となっている。今回,我々は植込型 LVAD 手術後の AI の経時的変化につい
て検討し,報告する。
【方法】当施設で施行した植込型 LVAD 手術は全 9 例(Bridge to Bridge:BTB の 1 例を含む)であり,
使用機種の内訳は DuraHeart 2 例,HeartMateII 1 例,EVAHEART 6 例,原疾患は拡張型心筋症 6 例、
拡張相肥大型心筋症 2 例,心サルコイドーシス 1 例であった。平均補助期間は 464 日で,最長 1101
日であった。1 例が心臓移植に到達し,他 8 例が生存の上,
在宅管理中である。術後 1 ヶ月,3 ヶ月,6 ヶ
月,1 年,1 年半,2 年,2 年半,3 年に施行した心臓超音波検査より得られた AI の重症度および逆
流ジェット幅 / 左室流出路径比(AIjet/LVOT ratio)の経時的変化,AI の重症度別の BNP 値をそれぞ
れ比較・検討した。
【結果】植込型 LVAD 手術時に存在した AI は none 6 例,trivial 2 例(BTB 例を除く)であったが,最
新の心臓超音波検査での AI は none 2 例,mild 4 例,mild to moderate 1 例,moderate 2 例であった。
全 9 例中 7 例(77.8%)で AI の新規出現または進行を認め,弁中央からの逆流が主であった。AI の
重症度は経時的に進行する傾向にあり,AIjet/LVOT ratio も漸増した。AI のある 7 例の AIjet/LVOT
ratio は平均 29.3%(13.3-53.6%)で,最大値の症例は DuraHeart 装着 528 日が経過し,経過中に心
不全治療の目的で 3 回の入院加療を要している。全 9 例の最新の BNP 値は平均 206 ± 123 pg/ml で
あり,moderate の 2 例 [AI(+)群 ] と moderate 未満の 7 例 [AI(-)群 ] との比較では,AI(+)群:
357.1 ± 49.4 pg/ml ,AI(-)群:162.5 ± 99.4 pg/ml で有意に AI(+)群で高値であった。
【結語】植込型 LVAD 補助下での AI は,弁中央からの逆流が経時的に大きくなっていく増悪形態をと
ることが推察された。AI の原因および血行動態への影響については,いまだ明らかになっていないこ
とも多く,Destination therapy を含めた今後の植込型 LVAD の長期管理における大きな課題の一つと
いえる。
− 77 −
O4-
5
機械的循環補助を必要とする小児重症心不全症例の救命
率の向上を目指して
北海道大学大学院医学研究科 循環器呼吸器外科
○大岡智学,新宮康栄,若狭哲,橘 剛,久保田卓,松居喜郎
【目的】薬剤抵抗性小児重症心不全症例に対する VAD の適用は稀であるが、その適応・方法に関して
は議論の余地が多い。当施設の経験を後方視的に検討し、課題・展望を考察する。
【対象と方法】対象は、2002 年∼ 2012 年の間に主に左室補助を目的として 2 週間以上 VAD(PCPS
を除く)を適用した 17 症例の内、15 歳未満の 2 症例。
【結果】症例 1:11 歳男児、DCM、BSA0.92m2。overlapping 型左室形成(OLVP)術後、人工心肺
離脱不能であり術中左房脱血・上行大動脈送血にて左心補助装着、翌日心尖部脱血へ変更、翌々日
RVAD 追加など MCS 構成を変更・追加。術後 16 日目 VAD 離脱可能するも 2 ヶ月後再装着。その約
2 ヶ月後に再離脱するも LOS 再増悪し再々 BiVAD 装着、最終的には初回手術より 264 日後敗血症・
MOF にて失った。症例 2:7 歳男児、急性心筋炎(病理診断は壊死性好酸球性心筋炎)、BSA0.91m2。
急性心筋炎発症後、前壁中隔の菲薄化を伴う左室拡大、MR 増悪を伴う急激な心不全症状の進行を認
め、OLVP + MVP 施行後左房脱血・上行大動脈送血で LVAD 装着。LVAD 離脱を試みたが MR 増悪認
め、術後 10 日目 MVR および LV 脱血へコンバート。その後右心不全・TR 増悪を認め術後 22 日目
RVAD 装着+ TVP +右室縫縮施行。術後 33 日目脳血管障害にて失った。VAD 回路構成はいずれも
RotaFlow を用いた。
【考察】本邦において小児例に適した VAD がなく、その方法に関しては各施設の方針による。小児例
における抗凝固療法は成人に比して困難であるとされ、本症例においても回路内血栓による頻回な回
路交換を必要とした。
【結語】遠心ポンプによる VAD を小児重症心不全症例に適用したが、救命はできなかった。小児の特
性を考慮した VAD 回路構成や周術期管理が必要である。
− 78 −
O4-
6
小児心筋症患者に対して HeartWare HVAD による両心室
補助人工心臓植込みを行った 1 例
大阪大学大学院医学系研究科 心臓血管外科
○平将生,上野高義,井手春樹,小澤秀登,杉田亮,戸田宏一,倉谷徹,澤芳樹
【背景】我が国において、現在小児重症心不全患者に対する補助人工心臓用は、使用できるデバイス
がなく、未だその症例は限られている。HeartWare 社 HVAD は小型の植込み型デバイスとして世界中
で使用されるようになり、20㎏以上の小児重症心不全患者に対する使用報告がなされている。今回我々
は、13 歳の拡張相肥大型心筋症患者に対して、HVAD を用いた両心室補助人工心臓の植込みを行っ
たので報告する。
【症例】症例は 13 歳女児。身長 142㎝、体重 38㎏、BSA1.24。Danon 病に合併した肥大型心筋症に
対して心臓移植待機患者。両心室補助の可能性も検討されたが、左心補助による肺高血圧の改善が期
待されたため、初回手術は LVAD のみを選択した。しかし、人工心肺離脱困難であったために、右室
補助として体外式遠心ポンプによる RVAD を装着した。術後約 2 週経過したが右室機能改善が認めら
れず、右心にも HVAD 装着を行った。右室への装着は困難であったために、右胸腔から心嚢方向へデ
バイスを向け、右房へ脱血管を挿入する形で、デバイスを装着。肺血流量制御を目的に RVAD 送血管
は肺動脈への吻合人工血管サイズを調整することとした。RVD 血流を調整して、最終的には 10 ミリ
の人工血管へ吻合することで、左右のデバイス flow バランスが取れ、人工心肺離脱が可能となった。
RVAD2200 回転、LVAD2600 回転で約 3L/min の流量で経過し、術後約 6 カ月で退院となり、現在
外来にて心臓移植待機中である。
【まとめ】小児に対する補助人工心臓は、世界的に見ても使用できるデバイスが限られており、様々
な合併症が考えられることが問題である。HVAD は小型の植込み型デバイスであり、比較的小さな体
格の小児期心不全患者においても、これらの問題点を改善しうるデバイスとして期待される。
− 79 −
O4-
7
植込型補助人工心臓の課題 ∼ DT 時代に向けて∼
1
4
大阪大学医学部附属病院 移植医療部,2 看護部,3ME サービス部,
大阪大学大学院医学系研究科 心臓血管外科
○久保田香 1,久松三希 2,川本愛子 2,加門千寿 2,近藤智勇 3,川畑典彦 3,戸田宏一 4,
吉川泰司 4,吉岡大輔 4,齊藤哲也 4,石田勝 4,澤芳樹 4
【背景】植込型補助人工心臓(VAD)の治療成績は向上し、心臓移植へのブリッジとしてのみならず、
心臓移植の代替治療(Destination Therapy:DT)としても使用されるようになってきた。しかしながら、
VAD の合併症を完全に回避することは出来ず、時に重篤な合併症により死に至るのみならず、重度の
後遺症により長期にわたる終末期緩和ケアを余儀なくされることもある。しかしながら VAD 装着患
者の終末期緩和ケア体制はいまだまったく構築されていないのが現状である。今回、合併症により移
植適応外となった VAD 装着患者の詳細から植込型 VAD の終末期医療について考える。
【対象】当院で 2012 年 11 月末までに植込型 VAD を装着した 66 例。男性 50 例、女性 16 例。平均
年齢 38.9 ± 12.5 歳。疾患は拡張型心筋症 51 例、拡張相肥大型心筋症 6 例、虚血性心筋症 4 例、そ
の他 6 例。DuraHeart 25 例、Novador 15 例、HeartWare 9 例、Jarvik2000 8 例、EVAHEART 7 例、
HeartMate Ⅱ 2 例。(症例)40 歳代女性、拡張型心筋症に対し 2012 年 2 月に LVAD 装着。術後経過
は順調で 1POD に抜管したが、術後 25 日目に脳出血を発症し手術適応外にて保存的加療を継続。移
植適応外となってから 27 日目に死亡した。
【結果】VAD を装着したにも関わらず合併症にて移植適応外となった症例は、植込型 VAD 装着患者
66 例中 15 例(23%)あり、適応除外後平均 114 ± 180(0-554)日間入院加療を要した。除外理由は、
脳出血 7 例、感染症 3 例、脳梗塞 1 例、その他 4 例であった。一方、23 例(35%)が移植に到達し、
現在 26 例(39%)が移植待機中、2 例が評価中である。
【考察】終末期を迎えた後も補助人工心臓を停止することは出来ず、しかも急性期病棟で長期にわた
る緩和ケアを行わざるを得ない現状は、患者・家族・医療従事者のすべてにとって大きな負担となり
える。VAD 装着患者の終末期緩和ケア体制の構築が急務であると考えられる。
− 80 −
ナイトセッション
この症例をどうする
∼治療に難渋した補助人工心臓症例の case study∼
N1∼N9
N-
1
多量の左室内血栓を伴った profile 1 症例に対する VAD
治療
佐久総合病院 心臓血管外科
○濱元拓,竹村隆広
【背景】植込型補助人工心臓が国内においても良好な成績を示しているが INTERMACS profile 1 の症
例に対する適応はなく、体外式を用いた bridge to bridge あるいは bridge to decision 等が行われてい
る。今回われわれは左室内に大量の血栓を伴った症例に対して PCPS の回路を用いて左心補助を行い、
人工肺を filter とし良好な結果を得たので報告する。
【症例】24 歳、女性。2012 年 6 月より上気道炎症状が出現。7月初めに近医で肺炎と診断され内服
加療で改善。7月 20 日に呼吸苦が出現し近医受診。肺炎として抗生剤治療が開始されたがショック
となり当院へ救急搬送された。来院時血圧は測定不能で、エコー上左室収縮能は EF10%程度と著明
な低下を認めた。カテコラミンに対する反応も乏しく PCPS が導入された。左室心筋は菲薄化し左室、
左房内に巨大な腫瘤を認めた。病歴から心筋炎が疑われたが、白血病に治療歴がありアドリアマイシ
ン心筋症や悪性疾患等の可能性も考えられた。PCPS の weaning を図ったが血圧低下、CVP 上昇が出
現し断念。悪性疾患の除外は必要であるが、当面左心補助が必要であり bridge to decision として体
外式 VAD を装着し、左室内腫瘤の精査を行う方針とした。24 日に人工心肺使用、Vf 下に左房、左
室内の腫瘤を摘出。迅速診断は fibrin 化血栓であった。続いて NIPRO VAD の送脱血間を上行大動脈、
左室心尖部の縫着。残存血栓の飛散が危惧され system は Gyro の PCPS 回路を用い人工肺を filter と
することとした。術後塞栓症の発症無く経過。6日目に NIPRO に変更した際には人工肺に古い血栓
が trap されていた。病理の結果は心筋炎、左室内血栓であった。2週間の RVAD を要したが離脱。
リハビリ、内服調整を行い徐々に心機能が回復したため LVAD 離脱に向け調整中である。
【まとめ】左室内に多量の血栓を認め塞栓症が危惧された profile 1 症例に対して PCPS 回路を用いた
LVAD を bridge to decision として施行。塞栓症を認めず人工肺に古い血栓が trap されていたことか
ら有効であったと考えられた。
− 81 −
N-
2
特発性拡張型心筋症に対してモノピボット遠心血液ポンプ
を右室補助人工心臓として 5 週間使用した 1 症例
北里大学病院 胸部外科
○入澤友輔,北村律,井上崇道,林秀憲,
健司郎,柴田深雪,板谷慶一,友保貴博,
岡徳彦,華山直二,鳥井晋三,宮地鑑
症例は 41 歳女性。2011 年 8 月に特発性拡張型心筋症と診断され、薬物療法および心臓再同期療法
を施行したが心機能の改善が得られなかったため、2012 年 10 月 1 日、左室補助人工心臓および右
室補助人工心臓の装着術を施行した。左室には体外式拍動型血液ポンプシステムである Nipro 型補助
人工心臓を装着し、右室には MERA モノピボット遠心血液ポンプを用いた補助人工心臓を装着した。
当初、心機能の回復を見込み、右室補助人工心臓の離脱テストを術後 4 週間で予定していた。しかし、
術後 3 週で虚血性腸炎に罹患し、大量の血便とそれに伴う貧血を呈した。離脱テストを延期し、抗凝
固療法の緩和を余儀なくされた。抗凝固療法の緩和として 1 週間、アスピリンを中止し、ワーファリ
ンを減量して INR を 1.5 まで低下させた。その後、出血は治まり、術後 4 週で離脱テストを施行した。
離脱テストでは右室補助人工心臓の流量を 1L/min 下げたところで、明らかに左室補助人工心臓の脱
血が不良となり、離脱困難と判定された。術後 5 週でモノピボット遠心血液ポンプシステムから左室
と同様の拍動型血液ポンプシステムに変更した。なお、抗凝固療法の緩和時に特に塞栓症や溶血を発
症せず、使用後のモノピボット遠心血液ポンプのポンプヘッドに血栓形成はなかった。現在、患者は
心臓リハビリテーションを行いながら心臓移植待機中である。
− 82 −
N-
3
術前 PCPS 補助下高度肺障害を合併した心筋炎後心筋症
に対する LVAD 装着の一例
千葉大学医学部附属病院心臓血管外科
○渡邉倫子,石坂透,黄野皓木,石田敬一,田村友作,阿部真一郎,松宮護郎
症例:23 歳女性
現症:来院 3 ヶ月前より感冒様症状が出現し近医受診、一度軽快するも 1 ヶ月後に再度症状増悪し、
肺炎及び喘息疑いで加療開始。症状改善なく、下腿浮腫出現、起立困難となり、医療施設受診。精査
で劇症型心筋炎が疑われ、前院へ搬送。意識レベル JCS30、収縮期血圧 60 台、EF15% であり、PCPS
及び IABP 導入。グロブリン、ステロイドパルス開始するも心機能改善なく、PCPS 装着後 19 日目に
補助人工心臓装着目的に当院へ搬送。両胸血気胸による肺虚脱が著明であり、入院当日に呼吸器外科
により開胸止血、血腫除去術施行するも両側肺の透過性は著しく低下した状態であった。翌日 LVAD
装着術施行となった。
手術:LVAD(NIPRO、左室心尖脱血、上行大動脈送血)装着。術中 NO 使用下でも酸素化不良。右室
の動きは良好であったため RA-PA RVAS ECMO ではなく右房脱血、右内頸静脈送血による V-V ECMO
を導入したところ循環呼吸とも安定した状態が得られた。
術後経過:呼吸状態の改善を得、POD 4に一旦 ECMO 離脱した。しかし繰り返す気胸により縦隔・
心嚢気腫発症、気管支充填術を施行。呼吸状態悪化により ECMO 再導入を要し、治療に難渋した。最
終的に POD20 に ECMO を離脱、POD58 呼吸器を離脱した。LVAD については、POD97 に off test
try したが離脱は困難と判断し治療継続の方針となった。
結語:劇症型心筋炎による急性心不全に対し PCPS 導入後、高度肺障害を来たした症例に、LVAD 装
着術と呼吸補助目的の V-V ECMO を導入し、有効な循環、呼吸補助を行うことができた。
− 83 −
N-
4
劇症型心筋炎に対して補助人工心臓を装着し救命し得た
13 歳女児の一例
信州大学医学部附属病院 心臓血管外科
○五味渕俊仁,高野環,田中晴城,市村創,毛原啓,山本高照,駒津和宜,大津義徳,
和田有子,寺崎貴光,瀬戸達一郎,福井大祐,天野純
【症例】13 歳女児。
【既往歴】6 ヶ月時 VSD に対して ICR 施行
【現病歴】2 日前から 38℃の高熱認め排便中卒倒し救急搬送となった。
【入院後経過】来院時意識レベルは GCS E1V1M1、モニター上 VT であった。ただちに CPR 開始す
るも洞調律には復帰しなかったため PCPS 挿入しその後、心臓カテーテル検査、心筋生検、IABP 挿
入した。鎮静から覚ますと意識レベルは E4VTM5 であった。心筋生検で劇症型心筋炎と診断し、14
病日の UCG で EF は 20%程度で PCPS 挿入後長期となり離脱の見込みも立たず人工補助心臓(VAD:
ventricular assist device)を埋め込む方針となり 16 病日 VAD を装着した。LVAD を上行大動脈送血、
心尖部脱血で装着したが PCPS weaning 後 CVP20mmHg で RVP20mmHg, 血圧 70mmHg まで低下
し SpO2 も 94%→ 86%まで低下したため RVAD も必要と判断し RA 脱血、PA 送血で RVAD も挿入し
た。BiVAD 挿入後は循環動態改善傾向となり、肝機能、腎機能、神経症状改善傾向となった。現在ま
で VAD 内に血栓を生じたため数回 device を交換したのみで管理は PCPS と比較し非常に容易である。
現在の意識レベルは GCS E4VTM5 で意識障害が軽度遷延しているが、現在は週に 2 回の車いす移乗
を行うリハビリを行っている。
【まとめ】本症例は、現在補助人工心臓を装着してから 1 年 10 か月と長期運用となっている。現在も
移植の適応を目指してリハビリを行っている。
− 84 −
N-
5
急性心筋梗塞による心原性ショック症例に対する補助人工
心臓治療の経験
1
3
東京医科歯科大学大学院 心臓血管外科,2 東京医科歯科大学医学部附属病院 MEセンター,
横浜市立みなと赤十字病院 心臓血管外科
○藤原立樹 1,水野友裕 1,八島正文 1,川口悟 1,真鍋晋 1,八丸剛 1,黒木秀仁 1,
渡辺大樹 1,三原茜 1,櫻井翔吾 1,澁谷千英子 1,藤田修平 1,酒井健司 1,倉島直樹 2,
長岡英気 3,田淵典之 3,荒井裕国 1
【背景と目的】急性心筋梗塞(AMI)による心原性ショックは決して稀な病態ではないが、補助人工心
臓(VAD)治療が行われたという報告は少ない。多くの症例が VAD 治療に到達することなく死亡し
ていると推測される。今回我々は市中病院にて発生した左冠動脈主幹部(LMT)完全閉塞による心原
性ショック症例に対し、IABP・PCPS 装着下ヘリコプターにより搬送し、VAD 治療を行った症例を経
験したので報告する。
【症例】59 歳男性。仕事中に意識を消失し近医へ搬送された。AMI による心原性ショックと診断され、
IABP 装着後に心カテを施行された。LMT 完全閉塞を認め PCI を施行されたが、その際に心室細動
(Vf)となり、挿管され PCPS 装着となった。その後も心機能回復は認めず、PCPS 導入より 2 日後
に VAD 導入のため当院へ搬送された。転院時の検査所見は CK/CKMB 12000/436 ng/ml、AST/ALT
1200/286 IU/l、T-Bil 2.8mg/dl、BUN/Cre 40/3.3 mg/dl で自尿は認めず、持続透析にて対応した。
術前 CT で肺炎像と多発性陳旧性脳梗塞を認めたが(脳動脈瘤破裂に対する手術既往あり)
、従命は可
能で四肢麻痺は無かった。
【手術】人工心肺心拍動下に左室心尖部脱血、上行大動脈送血にて NIPRO VAS® を装着した。CABG
(SVG-LAD)、MAP(Physio Ⅱ 28mm)を併施した。心尖部組織は梗塞のため極めて脆弱であった。
そこでウシ心膜パッチとタココンブを合わせたシートを作成し、脱血管先端より少し大きい穴を開け、
心尖部に貼布して補強した後に脱血カフを縫着した。心筋壁の肥厚が強かったが、脱血管先端部は辛
うじて心腔内に到達していた。LVAD 装着のみで人工心肺を離脱可能であった。
【術後経過】覚醒遅延があり、術後 2 日目の頭部 CT にて梗塞巣の拡大を認めた。術後 3 日目より心
室性不整脈が頻発し、コントロールに難渋した。大量β blocker 投与にて発作頻度を減少することが
できたが、発作のため鎮静剤を減量することが出来なかった。それでも術後より肝腎機能は回復傾向
を認め、約 3 週間で多尿期に至り、透析を離脱し得た。しかし術後 23 日目より VAD の脱血不良、送
血抵抗の上昇を認め、ほどなくして中心静脈圧が上昇し、血行動態が破綻した。血圧が維持できなく
なり、術後 25 日目に救命のため PCPS を装着。ポンプ失調の原因を検索するも分からず、術後 28 日
目に失った。病理的検索では送脱血管内に疣贅が充満しており、真菌(Candida parapsilosis)が検出
された。
【結語】AMI LMT shock に対する VAD 治療を経験した。AMI 特有の pitfall があり治療に難渋したが、
迅速な VAD 導入により多臓器不全から脱却できた。残念ながら感染で失ったが、AMI による心原性
ショックに対し、Bridge to recovery、
Bridge to decision としての VAD 治療は有効であると考えられた。
− 85 −
N-
6
Right infarction response to coronary artery bypass and
the Abiomed BVS 5000
1
長崎大学病院 心臓血管外科,2 長崎大学病院 循環器内科
○久田洋一 1,橋詰浩二 1,三浦崇 1,横瀬昭豪 1,谷川和好 1,橋本亘 1,尾立朋大 1,
田
雄一 1,2,恒任章 2,江石清行 1
57 歳男性、急性右室梗塞にて緊急搬送となる。IABP 挿入し緊急カテーテル検査施行。カテーテル検
査では right coronary artery(RCA)が total occlusion、Left main trunk 90%、左前下行枝、回旋枝
にそれぞれ 75% の狭窄を認めた。直ちに RCA へ PCI 施行し、右冠動脈より暗赤色血栓を吸引した。
その後より extravasaion を認めバルーン止血するも消失せず緊急開胸止血術施行。同日集中治療室に
て重度の右室梗塞となり輸液負荷、inotropic support にても血圧低下、CVP 上昇とショック状態認め
集中治療室にて Extracorporeal Membrane Oxygenation(ECMO, CAPIOX EBS Circuit integrated with
LX oxygenator; Terumo, Tokyo, Japan)を開始した。5日後 ECMO の長期管理が予想され冠動脈バ
イパス術(大伏在静脈 ‒ 左前下行枝、大伏在静脈 ‒ 左回旋枝)と ECMO を抜去し BVS5000 による、
RA 脱血 PA 送血による right ventricular assist device(RVAD)を装着した。術後より 24 時間抗凝固
療法は施行せず、ドレナージチューブよりの出血の落ち着いた 24 時間以降に ACT 200sec を目標に
ヘパリンによる抗凝固療法を開始した。徐々に循環動態は安定し、inotropic support の減量、心臓超
音波検査による心機能の改善認めたため RVAD 装着後5日目に抜去した。その後心不全、感染兆候な
く経過し外来にて術後 12 ヶ月経過している
− 86 −
N-
7
Bridge to bridge 時に Aortic valve insufficiency に対して
大動脈弁形成術を施行した 1 例
1
国立循環器病研究センター心臓血管外科,2 国立循環器病研究センター移植部
○松本順彦 1,藤田知之 1,秦広樹 1,島原佑介 1,佐藤俊輔 1,瀬口理 2,簗瀬正伸 2,
村田欣洋 2,中谷武嗣 2,小林順二郎 1
背景:Left ventricular assist device(LVAD)補助下の Aortic valve insufficiency(AI)は、LVAD 患
者の長期予後を悪化させることが知られている。AI に対して、大動脈弁形成、単純閉鎖、パッチ閉
鎖、生体弁置換などの方法があるが、その選択にはいまだ議論の余地がある。今回、虚血性心筋症の
Nipro-LVAD 患者の AI に対して、植え込み型 LVAD へ変更時に大動脈弁形成術追加した 1 例を経験し
たため報告する。
症例:55 歳男性。虚血性心筋症による重症心不全患者で CRT-D 植え込み術後。心エコーにて LVDd/s:
84/80mm、EF:10%、MR(-)
、AI slight。 心 臓 移 植 登 録 前 に INTERMACS profile 1 と な り、 緊 急
Nipro-LVAD 植え込み術施行された。術後心エコーでは大動脈弁の opening はなく、AI mild-moderate
を認めていた。術後 8 日目、院内移植適応検討会の承認をうけ、植え込み型 LVAD(EVAHEART)装
着術と大動脈弁形成術施行した。大動脈弁形成は、心停止下に Nipro 送血管吻合部の中枢よりを斜切
開し、大動脈弁尖の Arantius body に対して自己心膜 pledget 付き coaptation stitch を施行した。心
停止時間は 24 分であった。大動脈遮断解除後、Nipro-LVAD から EVERHEART へ移行した。術後 AI
は消失し、術後6ヶ月時点で再発を認めておらず、良好な左心補助を得られている。比較的簡便な手
技で AI の制御が可能であり、長期 LVAD 管理を要する患者において有用な方法と考えられる。
− 87 −
N-
8
植 込 み 型 左 室 補 助 人 工 心 臓 装 着 後、 心 室 細 動 と な り
Fontan 循環で長期管理している拡張型心筋症の 1 例
1
東京大学医学部附属病院 心臓外科,2 東京大学医学部附属病院 重症心不全治療開発講座,
東京大学医学部附属病院 循環器内科,4 東京大学医学部附属病院 臓器移植医療部,
5
東京大学医学部附属病院 医療機器管理部,6 東京大学医学部附属病院 リハビリテーション部
3
○内藤敬嗣 1,木下修 1,木村光利 2,志賀太郎 3,今村輝彦 3,加賀美幸江 4,遠藤美代子 4,
久保仁 5,柏公一 5,天尾理恵 6,絹川弘一郎 2,西村隆 2,小室一成 3,許俊鋭 2,小野稔 1
心不全患者に心室細動(VF)が合併することは珍しくない。また、左室補助人工心臓(LVAD)装着
患者において、心尖脱血管装着部周囲のリエントリーや過剰な脱血による suction event が VF を誘発
しうると考えられている。しかし、VF 下に定常流 LVAD の長期管理をした報告は少ない。植込み型
LVAD 装着後の治療抵抗性 VF のため、Fontan 循環下に長期管理している拡張型心筋症の 1 例を報告
する。症例は 37 歳男性。31 歳時に拡張型心筋症と診断され、以後、心不全増悪のため入退院加療を
繰り返した。36 歳時に心不全が増悪したため入院し、移植登録と LVAD 装着を視野に当院へ紹介となっ
た。移植登録後、植込み型 LVAD(DuraHeart®)装着術を施行した。術後 87 日目で軽快退院となった。
退院 2 ヶ月後に気分不快と歩行困難のため救急搬送された。来院時の心電図で VF を認め、電気的除
細動を施行し、洞調律に復帰した。初発の VF のため、精査目的に入院となった。入院後も VT と VF
を繰り返し、電気的除細動と抗不整脈薬の調整を行った。洞調律が維持できることを確認し一旦退院
したが、短期間で VF による入退院を繰り返した。徐々に VF が解除されている時間が短くなり、複数
回の電気的除細動でも VF を解除することが出来なくなった。PDE-5 阻害薬を導入して肺血管抵抗の
低下を図り、Fontan 循環が成立しやすいようにすることで LVAD の流量は最低限を維持できるように
なった(1.5-1.8 L/min/㎡)。また、左室腔が狭小化しすぎないように LVAD 回転数と水分管理を調整
した。左室内血栓を予防するために当院では通常 PT-INR2.5 を目標としているところ、PT-INR3.0-3.5
を目標として抗凝固療法を行っている。持続性 VF になってから半年以上が経過した現在も、通院在
宅療養を継続し心移植待機している。
− 88 −
N-
9
DuraHeart 装着後に心機能の回復を認め off-pump で離脱
に成功した 1 例
1
3
東京大学大学院 医学系研究科 重症心不全治療開発講座,2 東京大学医学部附属病院 心臓外科,
東京大学医学部附属病院 循環器内科,4 東京大学医学部附属病院 医療機器管理部
○木村光利 1,木下修 2,梅木昭秀 2,内藤敬嗣 2,志賀太郎 3,今村輝彦 3,久保仁 4,
柏公一 4,絹川弘一郎 1,許俊鋭 1,小野稔 2
遠心ポンプの植込み型左室補助人工心臓(LVAD)では、ポンプを停止すると大動脈から左室への逆
流が生じるため、off-test を行うことが出来ない。そのため、植込み型 LVAD 装着後に心機能の回復
を認めても、離脱可能かどうかの評価が困難である。今回我々は DuraHeart 装着後に心機能の回復を
認め、off-pump での LVAD 離脱に成功した症例を経験したので報告する。
患者は 34 歳、男性。2011 年 2 月に呼吸苦を自覚し前医に入院となり、拡張型心筋症と診断された。
5 月にカテコラミン依存となり当院に転院搬送となった。転院時の BNP は 1761pg/ml であり、右心
カテーテルでは CI 1.5L/min/㎡であった。カテコラミン離脱は困難であり、7 月に DuraHeart 装着術
が行われた。術後経過は良好で術後 40 病日に退院となった。退院前の LVAD の補助流量は 3.0L/min
程度であった。退院後、徐々に補助流量が低下し、1.5L/min を下回るようになった。エコー上の
LVDd の変化には乏しかったが、左室の逆リモデリンングによる脱血管の向きの変化が流量低下に影
響していると考えられた。補助流量が低下しているにもかかわらず、患者の自覚症状に悪化はなく、
エコー上左室収縮能は改善していた。2012 年 4 月に脳梗塞を発症し、低流量によるポンプ内血栓の
形成が原因と考えられた。右心カテーテルでは、LVAD の補助流量を 0.7L/min 程度まで下げて評価
を行ったが、CI 2.8L/min/㎡と良好であった。心エコーでは心拡大(LVDd 64mm)、心収縮低下(LVEF
26%)が続いていたが、低流量による血栓形成にリスクが高く、右心カテーテルおよび患者の自覚症
状から離脱可能と判断し、5 月に離脱手術を行った。全身麻酔下に再開胸を行い、ポンプおよび送脱
血管周囲の剥離を行った後に、送血管をクランプして off-test を行った。この off-test でも血圧低下や
スワン・ガンツカテーテルでの CI の低下は認めなかった。Off-pump のまま脱血管を心尖カフから引
き抜き、心尖カフ断端を縫い閉じた。送血グラフトも上行大動脈近傍で遮断・切離し、断端を縫い閉
じた。術後経過は良好で術後 33 病日に退院となり、術後 6 ヵ月の時点でも NYHA I 度で安定して外
来通院している。
− 89 −
ポスター
臨床 P1-1∼P1-8
コメディカル1 P2-1∼P2-6
コメディカル2 P2-7∼P2-11
エンジニアリング P3-1∼P3-8
P1-
1
植込み型左室補助人工心臓の重症心不全患者における栄
養障害への効果
1
東京大学医学部附属病院 心臓外科,2 東京大学医学部附属病院 重症心不全治療開発講座,
東京大学医学部附属病院 循環器内科,4 東京大学医学部附属病院 臓器移植医療部,
5
東京大学医学部附属病院 医療機器管理部,6 東京大学医学部附属病院 リハビリテーション部
3
○近藤弘史 1,木下修 1,木村光利 2,志賀太郎 3,今村輝彦 3,加賀美幸江 4,遠藤美代子 4,
久保仁 5,柏公一 5,天尾理恵 6,絹川弘一郎 3,西村隆 2,小室一成 3,許俊鋭 2,小野稔 1
【はじめに】重症心不全患者は栄養障害を伴うことが多いが、植込み型左室補助人工心臓(LVAD)の
栄養障害への効果に関しては未だ報告が少ない。
【対象と方法】2007 年 11 月から 2011 年 12 月までに当院で植込み型 LVAD を新規で装着した 17 例
のうち、術後 1 年間植込み型 LVAD 装着状態のまま経過観察し得た 14 例を対象とした。栄養状態の
指標として BMI および体表面積を用いて、術前、術後 1 ヶ月、半年、1 年における各値の変化を後ろ
向きに検討した。結果は平均値±標準偏差(最小値 - 最大値)で表し、Friedman 検定および Dunn 検
定を行った。
【結果】植込み型 LVAD 装着時の年齢は 45.3 ± 11.5 歳(19-59)で、男性 10 例、女性 4 例であっ
た。BMI の推移は術前 : 19.9 ± 2.4kg/m2(15.0-23.1)、術後 1 か月 : 19.8 ± 1.7kg/m2(17.0-22.9)
、
術 後 半 年 : 21.2 ± 2.1kg/m2(18.4-25.0)
、 術 後 1 年 : 21.8 ± 2.4kg/m2(17.0-25.6) で あ り、
BMI の推移は有意な差を認めた(P < 0.01)。また、術前と比較すると術後 1 年で有意な差を認め
た(P<0.01)。体表面積の推移は術前 : 1.63 ± 0.17m2(1.36-1.86)
、術後 1 か月 : 1.63 ± 0.16m2
(1.39-1.86)、術後半年 : 1.68 ± 0.17m2(1.45-1.92)、術後 1 年 : 1.75 ± 0.18m2(1.40-1.92)であり、
体表面積の推移は有意な差を認めた(P < 0.01)。また、術前と比較すると術後 1 年で有意な差を認
めた(P<0.01)。
【考察】植込み型 LVAD 装着後、BMI および BSA ともに有意な増加を認めた。
【結語】重症心不全患者に植込み型 LVAD を装着することにより、栄養状態は著明に改善する可能性
が示唆された。
− 91 −
P1-
2
Nipro 補助人工心臓の人工弁変更による溶血についての
検討
埼玉医科大学国際医療センター 心臓血管外科
○高橋研,井口篤志,朝倉利久,中嶋博之,上部一彦,小池裕之,森田耕三,神戸将,
池田昌弘,道本智,岡田至弘,林祐次郎,新浪博
Nipro 補助人工心臓(VAD)の血液ポンプは SORIN-Carbocast(SC)弁から Medtronic-Hall(MH)
弁に変更された。当施設でも、2010 年 10 月から MH 弁を使用した血液ポンプを使用し、NiproVAD
装着後、溶血に難渋する患者が散見されるようになった。この問題について検討した。
当施設で NiproVAD を装着した症例のうち、SC 弁の血液ポンプのみを使用していた 8 例と MH 弁の
血液ポンプを使用した 9 例を対象とした。LDH1、LDH2 が上昇し、LDH が高値(1000 IU/l 以上)
となった症例を、溶血のある症例とした。SC 弁のみを使用した症例では、溶血のある症例はなかったが、
MH 弁を使用した症例では 3 例で溶血があった。このうち 2 症例を提示する。
症例1 51 歳 男性。虚血性心筋症の診断で 2010 年 11 月に NiproVAD を装着した。LDH は 700
IU/l で経過していたが、2012 年 9 月には LDH が 1300 IU/l を超えたため、駆動条件を変更し、
%syst% を下げて経過観察した。同年 9 月下旬に LDH は 500 IU/l まで低下した。
症例2 61 歳 男性。劇症型心筋炎で 2008 年に NiproVAD を装着した。2011 年 10 月のポンプ交
換で MH 弁の血液ポンプを使用した。9 月まで LDH は 400 - 500 IU/l で経過していたが、ポンプ交
換後に LDH が高値となった。LDH 1400 IU/l 以上となったため、駆動条件を変更し 1000 IU/l となっ
たものの、更なる低下はなく対応に難渋している。
NiproVAD 装着後には、左室内での脱血カニューレの位置など、血液ポンプの人工弁以外にも溶血を
来す要因があり、人工弁のみに起因するとは断定できない。しかし、血液ポンプの人工弁変更も溶血
の原因となりうることを念頭におき、対応することが重要である。
− 92 −
P1-
3
NIPRO LVAS から一時的に遠心ポンプで左心補助を行っ
た1症例
1
群馬県立心臓血管センター 技術部 臨床工学課,2 群馬県立心臓血管センター 心臓血管外科
○戸田久美子 1,安野誠 1,前田恒 1,花田琢磨 1,伊達数馬 2,岡田修一 2,江連雅彦 2,
金子達夫 2
【はじめに】体外式補助人工心臓(NIPRO LVAS)装着後、合併症治療後に抗凝固療法に難渋し一時
的に遠心ポンプを用いて左心補助を行った症例を報告する。
【症例・経過】44 歳男性。1999 年に急性大動脈解離(DeBekey Ⅲb)発症し保存的加療を行った。
その後心不全により入退院を繰り返し、CRT − D 植え込み、ASV を導入。2010 年 10 月心不全増
悪し再入院、AR と大動脈解離の既往により IABP、PCPS の導入が困難であった。更なる治療として
2010 年 11 月 NIPRO LVAS 装着に至った。装着後約 1 年、胸部 CT にて解離性動脈瘤径の拡大が認
められ、2012 年 1 月 NIPRO LVAS 装着下で胸腹部人工血管置換術を施行。順調に経過していたが
術後 28 日目に脳出血を発症、抗凝固薬投与を中断し発症 3 日後よりヘパリン持続投与を再開。以降、
抗凝固のコントロールに難渋し、血液ポンプ内の血栓形成による交換の頻度が多くなった。脳出血の
経過から抗凝固の強化を行うことも難しくなったため一時的に遠心ポンプにて左心補助を行う方針と
なった。
【方法】血液ポンプはジャイロポンプ(Medtronic 社)
、送脱血管は NIPRO LVAS で使用していたカ
ニューレを使用。施行中の条件は NIPRO LVAS での補助流量を目標とし 3.8 ∼ 5.0L/min、1800 ∼
2200rpm で施行した。
【結果】遠心ポンプでの補助期間は 25 日間。その間の INR は2前後で脳出血の悪化なく経過した。開
始後まもなく脱血管チューブや接続コネクタ部に白色血栓が見られた。また使用していた遠心ポンプ
部には白色血栓付着等は見られなかった。送脱血チューブを長めにとり余裕をもたせたことで起立リ
ハビリなどがスムーズに行えた。
【結語】遠心ポンプを用いた左心補助は不安定な抗凝固コントロール期において脳合併症を悪化させ
ることなく安全に施行することができた。
− 93 −
P1-
4
新規植込型補助人工心臓実施施設である長崎大学病院に
おける NIPRO LVAS 装着移植待機症例の1例
1
長崎大学病院 心臓血管外科,2 長崎大学病院 循環器内科
○谷川和好 1,橋詰浩二 1,恒任章 2,武野正義 2,久田洋一 1,三浦崇 1,橋本亘 1,
尾立朋大 1,佐藤大輔 2,横瀬昭豪 1,田崎雄一 1,前村浩二 2,江石清行 1
症例は 55 歳の女性(162cm,48kg,BSA1.48m2)
。 19 歳時に VSD、42 歳時に健診を契機に DCM と診断。
47 歳より心不全入院を繰り返すようになった。50 歳時にはカテコラミン離脱困難となり、精査では
tethering に伴う severe MR, severe TR も認めた。 undersized MAP(Physio ring 24mm), TAP(MC3
ring 26mm), VSD closure 施行。術後、心不全は軽快傾向となったが、52 歳時に心不全増悪、エ
コー上 dyssyncrony を認め CRT-D 植え込み施行。その後も心拡大は増悪、MR, TR も再燃。53 歳時
に IABP 挿入となったが離脱できず、MVR(SJM standard 25mm), TVR(MOSAIC 25mm)施行した。
しかし人工心肺離脱できず同日 LVAS 装着となった(2010/9/21)。その後心移植登録(2011/4/21)。
現在 2 年をこえる長期補助となっているが、当時長崎大学病院としては NIPRO LVAS による長期補助
の経験はなく、経験のある医師、他施設の指導をうけながら管理を行った。これまでのポンプ交換は
NIPRO LVAS についてダイアフラム周辺の経年的劣化についての注意喚起が行われた際の一回のみ
でありポンプ内血栓や塞栓症などは認めていない。(PTINR 3.0-4.0)Conduit 侵入部は不良肉芽形成
を認め、局所培養は陽性であるが、現在抗生剤投与を行わず消毒と硝酸銀焼灼で対応。抑うつがみら
れたがリエゾン精神医療介入。現在改善傾向で心臓リハビリにとりくんでいる。当院は 2012 年 4 月
より植込型補助人工心臓実施施設に認定され、より安全な移植待機を期して EVAHEART への Bridge
to Bridge を検討・提案したが、これまでの LVAS 経過が順調であるため希望されず、現在も NIPRO
LAVS 継続し心臓移植待機中である。
私たちは新規植込型補助人工心臓実施施設に認定していただいたが、その現状をふくめ報告する。
− 94 −
P1-
5
IABP・PCPS 装着患者のヘリコプターによる植込型補助
人工心臓実施施設への搬送
1
3
JA 長野厚生連 北信総合病院 心臓血管外科,2JA 長野厚生連 北信総合病院 循環器内科,
JA 長野厚生連 北信総合病院 臨床工学科,4 東京医科歯科大学 循環器内科,5 東京医科歯科大学 心臓血管外科
○大井啓司 1,吉田哲矢 1,渡辺德 2,金城恒道 2,加藤秀之 2,竹田博行 3,水野裕樹 3,
阿藤正晃 3,松村卓広 3,磯部光章 4,荒井裕国 5
補助人工心臓植え込みの検討を要する患者は何処でも発生し得るが,一方で治療を行える施設は限ら
れており,地域によっては長距離搬送が必要となる.このような患者は IABP・PCPS を導入されてい
ることが多く,安全な搬送が課題となるが,搬送のコーディネートや搬送時の機器管理についての知
識は一般に普及していない.今回,劇症型心筋炎を発症した IABP・PCPS 装着患者をヘリコプターに
より植込型補助人工心臓実施施設へ搬送する経験を得たので,搬送に関する要点を含めて報告する.
【症例】33 歳女性.主訴:発熱,全身倦怠感.38.8 度の発熱,倦怠感,嘔気,頭痛出現にて近医受診
し感冒と診断される.翌々日当院受診.全身の圧痛.GOT,LDH,CK,CRP の上昇あり,心電図上
II,aVF,V1-3 で ST 上昇,心エコー上 EF34%.心筋炎疑いにて入院.第 2 病日心カテーテル / 生検
予定であったが待機中に血圧が 50mmHg に低下.心原性ショックの診断で IABP・PCPS を装着.人
工呼吸管理開始.冠動脈造影では有意狭窄なし.心エコー上 EF8%と心機能の回復兆候が見られず.
劇症型心筋炎の診断で植込型補助人工心臓を念頭に置き東京医科歯科大学へ受け入れを依頼した.台
風接近および天候不良による 2 日間待機の後,北信合同庁舎ヘリポート,東京ヘリポートを経由し搬
送した.所要時間は 3 時間 2 分であった.
【コーディネート】IABP・PCPS 装着下のドクターヘリ搬送は重量制限のため不可能であり,長野県消
防防災ヘリコプターを利用した.自治体担当部署(県医療推進課,消防防災航空センター)
,消防署,
悪天候時の中間退避施設への要請,防災ヘリ運行不能の際の自衛隊への要請準備など,各部署との協
議連絡やコーディネートが重要と考えられた.
【搬送時の機器管理】ヘリに同乗可能な医療スタッフは 2 名であり,医師と臨床工学技士が同乗した.
患者の状態,総重量,機器のスペース,電源供給,酸素供給,移動時間について精通すべくシミュレー
ションを行った.
【結語】入念なコーディネート,シミュレーションを行い IABP・PCPS 装着患者を安全に長距離搬送
できた.
− 95 −
P1-
6
LVAD を念頭に置いた PCPS・IABP 装着下ヘリコプター
搬送の経験
横浜市立みなと赤十字病院 心臓血管外科
○長岡英気,田渕典之,進藤俊介,齋藤文美恵
背景:急性心筋梗塞による死亡は国内で年間約 4 万件と言われているが、その多くは補助人工心臓な
どの高度医療資源を持たない市中病院で発生している。補助人工心臓という選択肢に至ることもでき
ずに亡くなる症例が多いのが現状である。
症例:59 歳男性。仕事中に突然意識消失し救急搬送となったが、搬送中胸痛を訴え、来院時血圧は
60mmHg とショック状態であった。心電図から急性心筋梗塞と診断し IABP 挿入後、緊急心カテを
施行した。この結果左冠動脈主幹部の閉塞と診断され、緊急 PCI 施行したがその際に Vf になり蘇生
と同時に PCPS が装着された。LMT から LAD に DES が留置されたが、翌日にも EF 10 % と心機能の
改善は認めず、広範な左冠動脈領域の心筋梗塞で自己心機能回復による PCPS 離脱は困難と考えられ
た。一方、中枢神経機能は保たれていたため、東京医科歯科大学に補助人工心臓適応の可能性を打診
したところ、同日搬送することとなった。PCPS・IABP 装着下の院外搬送は横浜市消防局もほとんど
経験がなく、搬送手段として救急車かヘリコプターが検討された。電源、スペース、搬送時間、天候
などを考慮しヘリコプターによる搬送を行った。ヘリコプターは事前に病院に来てもらい機材の設置
スペース、電源状況を確認しておいた。飛行時間は 13 分で、その間 IABP と人工呼吸器はバッテリー
駆動、PCPS と 5 台のシリンジポンプ、2 台の輸液ポンプは機載電源により駆動し搬送した。移動中
の機材トラブルはなく、PCPS 流量や血圧も安定し無事に搬送することができたが当院 ICU から搬送
先の ICU までは約 80 分を要した。
まとめ:左冠動脈主幹部閉塞による心源性ショックを呈した症例を PCPS・IABP 装着下にヘリコプター
により搬送し、補助人工心臓装着に至ることができた。搬送手段としてヘリコプターは有用であった
が PCPS などの医療機器の可搬性に大きな問題があることが浮き彫りとなった。
− 96 −
P1-
7
東洋紡 LVAS 装着患者の一時帰宅プログラムの経験
1
大分大学 心臓血管外科,2 大分大学 ME 機器センター
○首藤敬史 1,穴井博文 1,和田朋之 1,濱本浩嗣 1,廣田潤 1,佐藤愛子 1,岡本啓太郎 1,
川野まどか 1,宮本伸二 1,溝口貴之 2
昨今、植込型補助人工心臓の普及により人工心臓を装着しながら自宅で心臓移植への待機が可能な世
の中となってきた。しかし体外式 VAD 装着患者に関しては入院管理以外の方法がなく、数年にわた
る入院生活を余儀なくされている。また患者の一時帰宅など病院外への外出も難しいのが現状である。
今回我々は東洋紡 LVAD 装着患者の一時帰宅をおこなったので報告する。
患者は 46 才、男性。心筋梗塞を合併した急性大動脈解離で弓部置換、冠動脈バイパスおよび機械弁
による大動脈弁置換術を施行された。術後の低心拍出性症候群に対して最終的に LVAS 装着に至った。
その後、脳出血などの合併症で現状では植込型補助人工心臓の適応外となり、生涯の入院治療を要す
る状態となった。車いすで病院敷地内への外出ができるようになったため、自宅への一時帰宅プログ
ラムを計画することとなった。外出プログラムの実施にあたっては学内の倫理委員会の承認を得た。
以前の東大病院への LVAD 装着患者搬送の経験を生かし、事前の自宅への下見、搬送路やタイムスケ
ジュールなどの計画を医師、看護師および ME との間で綿密に打ち合わせをおこなった。当日は医師
4 名、看護師 2 名、ME1 名が同伴。移動には大学病院救急部所属のドクターカーを使用した。モバー
トをレンタルし、電源はドクターカー内ではコンセント、在宅中はバッテリーを使用した。1 年半ぶ
りの帰宅であり、約 2 時間家族と共に自宅で過ごすことができトラブルなく帰院した。
今回の一時帰宅を通して、患者とその家族が短い時間ながらも有意義な時間を過ごすことができたと
思われ、患者にとって次の一時帰宅へ向けての活力にもなったと感じられた。Destination therapy と
しての植込型補助人工心臓が認められていない現時点で生涯の入院生活を強いられる以上、今後も患
者および家族のためにこの外出プログラムを継続していきたいと考える。
− 97 −
P1-
8
腎梗塞を初発症状とした拡張型心筋症 profile1 症例に
対し、NIPRO VAS による両心補助にて救命し得た 1 例
1
3
東京医科歯科大学 医学部医学科,2 東京医科歯科大学大学院 心臓血管外科,
東京医科歯科大学医学部附属病院 MEセンター
○川原卓郎 1,藤原立樹 2,水野友裕 2,八島正文 2,川口悟 2,真鍋晋 2,八丸剛 2,
黒木秀仁 2,渡辺大樹 2,三原茜 2,櫻井翔吾 2,澁谷千英子 2,藤田修平 2,
酒井健司 2,倉島直樹 3,荒井裕国 2
【背景と目的】Crash and Burn(INTERMACS profile1)の重症心不全に対する補助循環治療におい
て、左心補助(LVAD)のみでは血行動態が成り立たず、両心補助(BiVAD)が必要となる事も多い。
本邦ではこのような症例に対し、左心補助として NIPRO VAS を装着し、急性期の 1-2 週間程度のみ
Rotaflow や Gyropump などの遠心ポンプを用いた右心補助を装着し、その後は右心補助の離脱を試み
るという治療戦略が普及している。しかし術前の肝障害、腎障害が著しい場合、比較的長期の両心補
助によってのみ臓器障害から回復できるということも経験される。今回我々は NIPRO VAS® による両
心補助にて多臓器不全から救命し得た症例を経験したので報告する。
【症例】47 歳男性。左背部激痛を認め、
当院へ救急搬送された。CT にて左腎梗塞を認めた。心エコーでは、
EF40%、MR moderate、TR mild で、左房内に血栓を認めた。左房内血栓除去、僧帽弁形成術、三尖
弁輪縫縮術を施行した。術後、心機能改善なく、経時的な EF 低下とともに腎機能、肝機能の悪化を
認めた(ピーク値は Cre 4.5mg/dl, T-Bil 6.0mg/dl)。術後 33 日目に血行動態の破綻をきたし、IABP・
PCPS を装着した。血行動態の改善は認めず、PCPS 装着より 4 日後に BiVAD を装着した。左心補助
は左室心尖部脱血、上行大動脈送血にて NIPRO VAS を装着した。右心補助は NIPRO VAS 用の送脱血
管を用いて(右房脱血、肺動脈送血)、MERA モノピボット遠心ポンプを装着した。血行動態の安定
を認め、術後 3 日目に人工呼吸器を離脱。術後 5 日目に MERA モノピボット遠心ポンプから NIPRO
VAS へ移行した。病理診断は拡張型心筋症であった。術後 2 ヶ月程度で肝機能は正常化した。腎機能
に関しては週 2 回の慢性透析は継続しているが、自尿は増加傾向にある。ADL 拡大には時間を要して
いるが、患者本人はリハビリに意欲的に取り組んでいる。
【結語】重度の多臓器障害を有する Crash and Burn 症例に対し、NIPRO VAS による両心補助にて救命
し得た症例を経験した。両心補助により最適な血行動態(low CVP, high Output)を長期に渡って維
持することは、多臓器障害の回復に有用であると考えられた。
− 98 −
P2-
1
EVAHEARTTM における摺動抵抗の上昇に対する新しい
アプローチ法
1
3
東京大学医学部附属病院 医療機器管理部,2 東京大学医学部附属病院 心臓外科,
東京大学医学部附属病院 重症心不全治療開発講座
○柏公一 1,木下修 2,中村敦 1,黒澤秀郎 1,高橋舞 1,久保仁 1,住谷昌彦 1,西村隆 3,
許俊鋭 3,小野稔 2
はじめに
今まで、EVAHEARTTM における血液ポンプの摺動抵抗の上昇と推測される事例に対する主な対処方法
は流路洗浄であった。しかし、その効果が認められないケースも散見される。摺動抵抗の上昇が原因
と推測されるアラームが頻発した患者に対して、流路洗浄以外の対処を行い、一定の有効性を認めた
ので報告する。
方法
インペラーの回転数の低下・上昇、回転のリセットに関するアラームが頻発した患者 2 名に対して対
処を行った。まず流路洗浄を実施し、ライン圧が 2 ∼ 3kPa 程度になるようにクールシール液(蒸留水)
の量を調整して、10 分間クールシールユニット(CSU)ポンプを止めた状態とした。その後、CSU ポ
ンプを作動させ、フィルター出口側のライン圧(FPout)が 25kPa 程度になるように CSU ポンプの
Duty 比を調整した。そして、消費電力と回転数の波形を観察しながら、リザーバー内に蒸留水を注入し、
FPout を調整した。対処時の患者の状態に問題は認められなかった。
結果
それぞれの症例の Duty 比を 55 と 60 に、FPout を 45kPa 程度に調整した。1 人の患者では、1 分間に 2、
3 回という高い頻度でアラームが発生していたが、対処直後はほとんどアラームが発生しなくなった。
もう 1 人の患者においては、10 分に 1 回程度の頻度でアラームが発生していたが、対処後は 1 日に
数回程度までに減少した。
考察
今回の対処法は、シール背面圧を上昇させることによって摺動抵抗を低下させることを意図した方法
である。今回、本アプローチ法に一定の効果が認められたことから、消費電力の上昇が認められるなど、
摺動抵抗の上昇が推測される事例に対しては流路洗浄とともにこの方法を施行する価値はあると考え
る。また、アラームの発生頻度の減少は患者およびその家族の QOL の改善に大きく寄与したと考える。
結論
摺動抵抗の上昇が原因と推測されるアラームが頻発している患者に対して、新しい方法で対処を行い、
アラームの発生頻度を減少させることができた。
− 99 −
P2-
2
EVAHEART-CSU 流路洗浄の標準化
1
JA 長野厚生連 佐久総合病院 臨床工学科,2JA 長野厚生連 佐久総合病院 心臓血管外科
○伊藤裕 1,上原勇樹 1,宮澤圭祐 1,川瀬健史 1,濱元拓 2,津田泰利 2,竹村隆広 2
目的
EVAHEART-CSU 流路洗浄(以下洗浄とする)は各自の判断で洗浄を行う適応や洗浄量を決定していた。
しかし、洗浄に使用した蒸留水の約半分が患者の体内に入る為、患者状態に影響することや、洗浄を
見合わせた事でアラーム(アラームは E-22、E-23、E-30 を対象とする)が連発してしまう問題を認めた。
そこで洗浄の適応、方法を標準化する目的で洗浄 Protocol を作成し使用を試みた
方法
当院に入院中の EVAHEART 装着患者で洗浄中 SpO2 が低下し呼吸苦を訴える事が時折見られた症例
①と連日アラームが発生していた症例②の 2 名に対して、月曜日から土曜日は Protocol を使用しア
ラーム発生日数、アラーム総数、洗浄実施回数を比較した。日曜日は勤務者がいない為、アラームが
連発した場合に洗浄を行うことにした。FPout は 38kpa 以上で管理し、下回った時には蒸留水を補充
した
Protocol は以下を担当者が点数化、①時折、消費電力波形に急激な変化が見られる -1 点 ②消費電力
が上昇傾向(8 W未満)-1 点 ③消費電力が上昇傾向(8 W以上)-2 点 ④血液ポンプ駆動に関係する
アラームが出る -3 点、合計点数により 0 点 - 洗浄なし 1 点 - 土曜日のみ 1000 mL 2 点 -1000 mL
3 点 -2000 mLの洗浄を行うこととした
結果
Protocol 使用前後 22 日間を比較した結果は症例① : アラーム発生日数は 4 日が 4 日、アラーム総数
は 35 回が 8 回、洗浄実施回数は 8 回が 5 回になった。症例② : アラーム発生日数は 17 日が 18 日、
アラーム総数は 120 回が 200 回、洗浄実施回数は 14 回が 17 回になった。
Protocol の使用により担当者の判断に左右されず同じ基準で洗浄を行うことができた。また、他職種
にも洗浄の必要な状況や洗浄量を明確にする事ができた。しかし、患者①を洗浄した際、呼吸苦が出
現し洗浄量を半分に減らす事象があり、洗浄量等については検討する必要があった
結語
今回作成した Protocol は標準化に有用であったので、今後も変更を加えながら使用し続けていきたい
− 100 −
P2-
3
植込型補助人工心臓装着患者が長期に安全な在宅療養を
するために
1
3
大阪大学医学部附属病院 移植医療部,2 大阪大学医学部附属病院 看護部,
大阪大学医学部附属病院 ME サービス部,4 大阪大学大学院医学系研究科 心臓血管外科
○久保田香 1,久松三希 2,川本愛子 2,加門千寿 2,近藤智勇 3,川畑典彦 3,
戸田宏一 4,吉川泰司 4,吉岡大輔 4,齊藤哲也 4,石田勝 4,澤芳樹 4
【はじめに】日本で初めて植込型補助人工心臓(VAD)が保険適応となった 2004 年の心臓移植待機
期間は 510 日であったが、現在は 949.9 日(2010 年末)と長期におよんでおり、我が国における植
込型 VAD 治療は、欧米の Destination Therapy(DT)と言っても過言ではない。今回当院で植込み型
VAD を装着した症例の在宅管理の経験から、その問題点について検討した。
【対象】2004 年 4 月∼ 2012 年 11 月末までに植込み型 VAD を装着し在宅管理を行った 46 例。装
着時年齢 39 ± 13(16-73)歳。男性 34 例、女性 12 例。使用したデバイスは、DuraHeart 20 例
(DuraHeart+Jarvik2000 1 名)、Jarvik2000 9 例、HeartWare6 例、Novacor 5 例、EVAHEART 4 例、
HeartMate Ⅱ 2 例。
【方法】在宅患者の外来診察時の所見から入院を要した事項ならびに、患者本人 ・ 家族からの医療相
談で、医学的に対応した事項について分析 ・ 検討した。
【結果】総装着期間 30452 日、平均装着期間 662 ± 338(63-1607)日、退院までの期間は、平均
126 ± 90(40-521)日であった。総在宅期間 21298 日、平均在宅経過期間は 458 ± 312(0-1521)
日、総待機期間中 70%を在宅にて過ごしていた。在宅期間中 387 件の連絡があり、
そのうち最も多かっ
たのは機器に関する事項で 99 件。また、刺入部関連 49 件、脳血管障害 22 件、その他 217 件であっ
た。再入院回数は 92 件(2 ± 2 回 /pt)あり、その理由は、デバイス感染 23 件、脳血管障害 18 件、
デバイストラブル 10 件、溶血 10 件、心血管イベント 7 件、その他 24 件であった。
【結語】植込型 VAS を装着し在宅待機する患者 ・ 家族が安心 ・ 安全に在宅生活を送るためには緊急時
に迅速な対応のできるシステムの構築が重要である。
− 101 −
P2-
4
植込型補助人工心臓時代における臨床工学技士の取り組み
1
3
大阪大学医学部附属病院 ME サービス部,2 大阪大学医学部附属病院移植医療部,
大阪大学大学院医学系研究科外科学講座心臓血管外科
○川畑典彦 1,野口悟司 1,増田行雄 1,近藤智勇 1,丸山雄一 1,中西一仁 1,久保田香 2,
澤芳樹 3,戸田宏一 3,吉川泰司 3,吉岡大輔 3,齊藤哲也 3,石田勝 3,高階雅紀 1
【背景】植込型補助人工心臓(VAD)装着件数の増加や機種の多様化に伴い、臨床工学技士に求めら
れる VAD への対応は多岐に及んでいる。その為、当部では 2012 年 4 月よりデータベース及び VAD
対応専用の PHS(VAD コール)を設けて、VAD の様々なトラブルや搬送に効率的かつ迅速に対応出
来る体制を取っている。今回、これまで我々に寄せられた要請内容を機種別にデータベースから抽出
し、それら対応内容を詳細に検討した。
【対象】2012 年 4 月から 12 月までに我々に寄せられた VAD コールを含む様々な要請に対応した
356 件。
【結果】患者・機器の搬送 112 件(VCT-50 χ 49 件・テンポラリー VAD29 件・その他 34 件)と、
対応した件数の中で 1 番多く、特にテンポラリー VAD 症例の CT 室への搬送や、VCT-50 χ装着中の
小児患者のリハビリ室への出棟の際の搬送が多かった。また、
アラーム対応は 51 件
(植込型 VAD35 件・
VCT-50 χ 8 件・テンポラリー VAD4 件・その他 4 件)で、勉強会の依頼・機器に関する質問 29 件(植
込型 VAD19 件・VCT-50 χ 6 件・テンポラリー VAD1 件・その他 3 件)
、その他 106 件であった。植
込型 VAD 症例では、アラームへの対応や勉強会の依頼、機器に関する質問が多かった。
【まとめ】VAD に関する対応を集約しデータベースにまとめる事で、院内からのニーズが明確になり、
対応した機器トラブルへの内容や病棟での疑問点がスタッフ間で共有出来るようになった。これらの
結果を現在の業務にフィードバックし、各病棟のニーズに合わせた勉強会を開催したり、患者教育に
取り入れる事により、各種機器への対応や効果的な人材育成につなげるため、今後とも継続して対応
を行っていく必要がある。
− 102 −
P2-
5
植込型補助人工心臓における治療体制の再構築
∼機器アラームを短期間で頻回に繰り返す症例の経験から∼
1
3
北海道大学病院 臓器移植医療部,2 北海道大学大学院医学研究科循環器呼吸器外科学分野,
北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学,4 北海道大学病院 機器管理センター
○小林真梨子 1,大岡智学 2,新宮康栄 2,若狭哲 2,久保田卓 2,松居喜郎 2,絹川真太郎 3,
原守 3,筒井裕之 3,寒河江磨 4,五十嵐まなみ 4,矢萩亮児 4,加藤伸彦 4
【はじめに】
2011年4月に植込型補助人工心臓が保険償還され、日本でも心臓移植への橋渡しとして使用出来
るようになった。当院では、これまで3名の患者に植込型補助人工心臓を施行し、現在外来通院し移
植待機中である。
当院の植込型補助人工心臓の在宅治療では、緊急時対応のため24時間サポートが出来る介護者を必
須としている。しかし核家族化や個々の役割があり、複数人の介護者を立てることが非常に難しいの
が現状である。24時間サポートでは介護者の責任と負担が増大するため、介護者の不安やストレス
についても留意しながら支援する必要がある。そのため2012年に介護者をサポートする役割とし
て認定同伴者制度を作り、希望者に教育及び指導を行ってきた。さらに介護者の不安やストレスを軽
減しながら、在宅治療の継続が出来るように短期入院制度を取り入れた。
今回、入院中には機器アラームの発生がなく経過されていたにも関わらず、在宅治療へ移行後に機器
アラームを短期間で頻回に繰り返す症例を経験し、治療体制の再検討と構築に至ったので報告する。
【症例】
20歳代男性。介護者は母親1名。機器アラームと共にぼっとする、視界が遮られる、意識を消失す
る等の症状を伴っていた。医師、CE、企業の検討でもアラーム発生が予測困難であることや介護者が
アラーム音に気がつくことが出来ない状況も経験され不安が増強した。そのため介護者がアラーム音
に敏感になる、十分な睡眠が確保されない、ほぼ同じ空間で生活をする状況となった。
【まとめ】
頻回な機器アラームとともに症状を伴うことにより患者及び介護者の不安が増強した。患者自身が介
護者を気遣い、移植まで入院治療の継続を希望されたため、介護者を考慮した、植込型補助人工心臓
における治療体制を再構築することに至ったため報告する。
− 103 −
P2-
6
両耳に突発性難聴を来した植込型補助人工心臓装着患者
のアラーム管理の検討
1
東北大学病院看護部,2 東北大学病院心臓血管外科,3 東北大学病院臓器移植部
○草刈亜紀子 1,岩渕麻美 1,秋山龍太 1,秋場美紀 3,衣袋静子 1,秋山正年 2,川本俊輔 2,
斎木佳克 2
【はじめに】突発性難聴を発症した植込型補助人工心臓装着患者を経験した。
【患者紹介】53 歳男性、平成 23 年特発性拡張型心筋症となり 1 月 NiproLVAD 装着。10 月に植込型
補助人工心臓(DuraHeart)に切り替え在宅療法中であった。平成 24 年 4 月右突発性難聴発症、ス
テロイドパルス療法が施行されたが、右耳の著しい聴力低下が残った。
【経過】平成 24 年 9 月外来にて正中創下端に発赤腫脹が認められ、10 月 14 日入院。入院に対する
強い精神的ストレスがあり、退院を希望していたが、退院調整中に左突発性難聴を発症しほとんど聞
こえない状態に陥った。左耳急性感音性難聴で、500Hz 以上で聴力が低下し、平均聴力は右が 70dB、
左が 15dB 前後になっていた。発症当初はアラーム音も聞こえない状態だったが、日によって聞こえ
ることもあった。翌日よりステロイドパルス療法が開始された。その後一度バッテリの接続が不十分
で中レベルアラームが作動。本人は聞こえていると言うが上手く対処できず、看護師がアラーム解除
や接続を行った。
【考察】DuraHeart のアラーム音は中レベルが 760 ∼ 840Hz、高レベルが 985 ∼ 1000Hz である。
今回の難聴発症により、本人は左耳がほとんど聞こえず、右耳は遠いところで音が聞こえるとの表現
をしている。アラーム音の音域は聞こえづらい範囲にあり、アラーム音に気付かず発見や対処の遅れ
が生じることが懸念される。今回は入院中であり、また病室も看護室から近いため、アラーム発生に
も対応できている。植込型VAD装着患者の自己管理において聴力障害は重大なインシデントに繋が
る可能性が高く、今後のサポート体制を模索中である。
− 104 −
P2-
7
EVAHEART を装着した高校生の社会復帰(復学)への環
境作り
1
3
東京大学医学部附属病院 看護部,2 東京大学医学部附属病院 医療機器管理部,
東京大学医学部附属病院 重症心不全開発講座,4 東京大学医学部附属病院 心臓外科
○加賀美幸江 1,遠藤美代子 1,柏公一 2,木村光利 3,木下修 4,絹川弘一郎 3,小野稔 4
【はじめに】
植込み型 VAD が保険償還され、在宅での移植待機が可能となった。今回、植込み型 VAD を装着して、
社会復帰(復学)を果たすことが出来た。患者・家族、学校側が互いに安心して学校生活を送れる環
境作りを援助したため、その過程について報告する。 【方法】
復学時期と学校側の受け入れ状況について確認した。退院後、学校長と担任、養護教員へ主治医より
病状の説明を行った。学校側から以下の3点の要望があった。「①近隣の施設で受け入れ先を探して
ほしい。②緊急時にドクターヘリを使用したい。③機器のトレーニングを学内で行ってほしい。
」と
のことだった。要望に答えられるように環境作りを行った。学内での過ごし方は、教員と相談しなが
ら検討し、復学前に登校して学校生活のシュミレーションを実施した。
【結果】
復学までに退院後一カ月程度の時間を要した。ほとんどの学内教員に機器指導を受けて頂くことが出
来た。消防や県内のドクターヘリの管轄病院と連携をとり、協力を仰ぐことが出来た。養護教員とは、
緊急連絡体制はもちろんのこと、その都度、メールや電話で不安な点や日常生活に関して連絡を取り
合い、日常生活の見直しを行っている。また、復学直後に、VT にて気分不快が生じた際、冷静に緊
急連絡先に電話をすることが出来、医療者からの適切な指示を仰ぎ、迅速な病院搬送が出来た。
【考察】
植込み型 VAD の利点は、移植待機をしながら社会生活を送れることである。復学するにあたり、社
会の協力を得ながら、周囲環境を整えることが重要である。また、教員と医療者の窓口を統一し、い
つでも相談が可能な環境を整えることが必要である。そして、これらの環境調整が緊急時の迅速な救
急搬送に繋がったと考える。
【結語】
植込み型 VAD 患者は、心移植前から社会復帰(復学)が果たせるように、周囲の環境を医療者と介護者、
社会の協力を得ながら調整していくことが重要である。
− 105 −
P2-
8
植え込み型補助人工心臓装着後の合併症のリスクに不安
を抱えた患者 - 家族へのケア
1
東京大学医学部附属病院 看護部,2 同・心臓外科,3 同・重症心不全治療開発講座
○堤麻紀 1,2,3,加賀美幸江 1,宇野光子 1,遠藤美代子 1,中嶋須磨子 1,近藤弘史 3,
内藤敬嗣 2,木下修 2,絹川弘一郎 3,小野稔 2
はじめに:長期に渡る心移植待機期間の中、植込み型 VAD 装着患者は介護者と共に在宅で日常生活
を送る。在宅療養中、両者の合併症への不安は大きい。今回、合併症への不安と互いのコミュニケーショ
ン不足の為に親子関係が悪化した患者 ‐ 家族へのケアについて報告する。
症例:38 歳、女性。2009 年に DCM と診断された。介護者は母親であり父親と弟のサポートがあっ
た。心不全が増悪し 2012 年 9 月 28 日に植込み型 VAD(EVAHEART)装着を行った。術後 21 と 29
日目に脳梗塞を合併した。
状況と介入:術後の退院プログラム中に脳梗塞を合併し床上安静を余儀なくした。母親は脳梗塞のリ
スクに対し不安が強くなっていた。水分摂取が少ない事で血栓形成の原因となる為、母親は摂取量を
増やすように患者を叱責していた。患者も反発した態度であり、お互いの思いを聞く為、看護師と面
談の場を設けた。
母親は患者の自宅退院が不可能かもしれない不安やわがままで食事が少ないと思い込んでいた。患者
は胸水や腹水貯留による身体的苦痛の為に食事が摂れないと訴えた。母親に患者の現状や思いを伝え
思い込み部分を修正し、患者へは叱責でなく頑張りを認めて見守るように協力を仰いだ。母親は面談
後には笑顔になり安心した様子だった。一方、患者も脳梗塞後、精神的に落ち込みは見られたが徐々
に笑顔が見られてきた。看護師間では両者への精神的援助について情報共有し対応を明記した。
考察:児玉らは「患者や家族に対して積極的にケアを行っていきたい時、面接は非常に効果的なアプ
ローチ方法である」と述べている。介護者の思い込みにより患者との関係が悪化した場合、看護師が
両者の間に入り相互した考えを修正することができ、関係悪化を防ぐことが出来たと考える。また、
各々の思いを適切に評価する事で精神的援助に繋がり不安が軽減されたと思われる。
結語:植込みVAD患者の在宅療養を支える上で、患者と介護者の関係を良好に保つことは重要である。
− 106 −
P2-
9
日常生活に介助を要する植込み型 VAD 装着患者への退院
支援 ∼術前からの長期療養と入院経過を通して∼
1
東京女子医科大学病院 看護部,2 同心臓血管外科,3 同臨床工学部
○石森千絵 1,山中源治 1,山本由理子 1,西中知博 2,市原有起 2,駒ヶ嶺正英 2,津久井宏行 2,
齋藤聡 2,山崎健二 2,南 茂 3,田口英昭 3
【はじめに】長期内科的治療後に植込み型補助人工心臓(VAD)を装着し、術後半年の長期入院の末
に退院した患者の退院支援について考察したので報告する。
【症例】49 歳男性。都外在住で平成 18 年拡張型心筋症と診断され内科的治療を開始し、その後当院
紹介となった。平成 22 年より入退院を繰り返し、平成 23 年 10 月 VAD 植込み術施行された。それ
を機に家族は東京に転居した。術後 9 ヶ月平成 24 年 7 月退院となった。
【経過】術前内科加療中は長期間のベッド上安静を要した。VAD 装着後 1 ヶ月の ICU 期間を経て一般
病棟帰室した。血行動態は安定していたが、低栄養状態と筋力低下によりリハビリが進まず、術後ベッ
ド上で生活をせざるを得なかった。低栄養に関しては濃厚流動食や間食を促し嗜好に合わせた支援を
行った。筋力低下に関しては理学療法士と協働し日常生活の中にリハビリの要素を取り入れた。当初
から退院後は日常生活に車椅子を用いる可能性があることを患者・家族と共有し退院支援を行った。
VAD を安全に管理しながら車椅子操作をする必要があったため臨床工学士や医師と管理方法を検討し
患者・家族への教育を行った。退院前に自宅の改修が必要と考えソーシャルワーカー介入を依頼し、
自宅改修に必要な手続きをした。術後約 9 ヶ月で 50 m歩行可に至り退院となった。
【考察】VAD カンファレンスを開催し、患者の病状と体力を多職種で共有し ADL の拡大目標を患者・
家族と相談したことで、患者自身が自宅での療養生活を想像することができ自立に向けた支援につな
がったと考える。ADL が完全に自立しなくても、可能な限りセルフケアが行えるよう支援し、家族へ
介助方法を指導することで自宅での安全な管理へ導くことができた。
【結語】VAD が必要な患者は体力、栄養状態などが低下していることが多いため、患者の個別性に合
わせた退院支援が必須である。また安全な自宅療養環境を整えるために福祉サービスの活用を検討す
ることが必要である。
− 107 −
P2-
10 体外型から植込型へ移行した補助人工心臓装着患者の退院
指導における病棟看護師の役割
1
3
東京医科歯科大学医学部附属病院看護部,2 東京医科歯科大学生命倫理研究センター,
東京医科歯科大学医学部附属病院 ME センター,4 東京医科歯科大学大学院心臓血管外科
○石山純子 1,岩倉淳子 1,尼田昭子 1,二井奈保子 2,倉島直樹 3,藤原立樹 4,渡辺大樹 4,
水野友裕 4,荒井裕国 4
【はじめに】当病棟では 2008 年より 6 名の体外型補助人工心臓(VAD)装着患者を受け入れてきた。
その中で、当院初の体外型 VAD から植込型 VAD への移行手術を行い、退院となった症例を経験した
ので報告する。
【症例】54 歳男性。拡張型心筋症による重症心原性ショックに対し、2009 年 4 月に体外型 VAD 装着
術を施行。2011 年 11 月に植込型 VAD(DuraHeart)への移行手術を施行し、術後 17 週目に退院。
その後は外来でフォローされ、2012 年 11 月に心移植へ到達した。
【介入と結果】患者は自宅退院への思いがあり、植込型 VAD への移行手術を強く希望された。体外型
VAD 挿入部から MRSA が検出されており、植込型 VAD 装着にあたり感染の増悪が懸念されたが、感
染予防対策を入念に行い、感染やその他重篤な合併症なく経過した。当院での植込型 VAD 第 1 例目
であり、医師、臨床工学技士、看護師等が他施設や業者からの指導を受け、治療に関わった。当院独
自の在宅治療管理マニュアルを作成し、それに基づいて機器の取り扱い、消毒、シャワー浴、外出・
外泊などの指導を実施し、患者、 家族はそれらの手技を獲得でき退院となった。しかし、自己解釈を
する傾向があり、退院後も一人で通院する、自転車に乗るなどの問題行動や、食生活の乱れから体重
増加が見られた。その度に外来通院時、医師や外来看護師が再び生活指導を行った。
【考察】当院第 1 例目であり、本人や家族だけでなく医療者側にも機器の管理や患者指導の場面で不
安や戸惑いがあった。指導面において、機器の取り扱いやドライブラインの処置に偏重した結果、生
活指導や危機意識を高めることが不足した。移植に向けた体調管理を退院後も安全に行えるよう、患
者の性格や生活背景を踏まえた指導を、外来看護師と共に継続していくことが重要である。
【結語】植込型 VAD 装着患者の指導においては、機器類や創部の管理だけでなく、退院後の生活や移
植を見据えた指導が必要であり、病棟と外来との連携が不可欠であると考えられた。
− 108 −
P2-
11 脳合併症により視野障害、空間無視を生じた植込型補助
人工心臓装着患者の問題点
1
東北大学病院看護部,2 東北大学病院心臓血管外科,3 東北大学病院臓器移植部
○岩渕麻美 1,秋山龍太 1,草刈亜紀子 1,秋場美紀 3,衣袋静子 1,秋山正年 2,川本俊輔 2,
斎木佳克 2
【はじめに】VAD装着中の脳合併症で視野障害、空間無視が生じた患者を経験した。
【症例】症例 1、70 歳男性、拡張相肥大型心筋症。徐脈をきっかけにショック状態となりIABP、
人工呼吸器管理となる。本人の希望により自費診療による植込型VAD装着。術後 8 日目に発症した
と考えられる左視床から左後頭葉にかけての脳梗塞があり、右不全麻痺、右視野障害が生じた。視野
障害は短期間で改善し、ADLが拡大するころには症状が見られなくなった。退院プログラム合格し
術後 88 日目に退院。
症例 2、59 歳男性、拡張型心筋症、AB 5000 装着後、植込型VADへの Bridge to bridge。術後
347 日目に医療スタッフと電話中に呂律が回らない症状出現。左側頭葉の脳出血で右空間無視、右片
麻痺と失語が生じた。右空間無視が残り、体を家具やカートに頻回にぶつけた。また、ドライブライ
ンを踏んでしまうこともあった。ドライブライントラブルの危険性があり、また移植体器順位が上位
のため、入院継続中。
症例 3、59 歳女性、拡張型心筋症に対して植込型VAD装着。腎機能障害や右心不全のため入院継続
中。術後 238 日目に頭痛意識レベル低下。右脳皮質下出血、脳幹部圧迫のため頭蓋内血腫除去術施
行。短期記憶障害、全般性注意障害、左上下肢不全麻痺、左同名半盲と左空間無視があり、歩行時に
VADを乗せたカートの左側を壁やドアに衝突させていた。歩行時に左側を大きく回り込むように指
導するが、注意障害もあるため「人と話していたりすると忘れてしまう」と改善が見られず、歩行時
は看護師が付き添うようにした。
【考察】空間無視はVAD患者の日常生活に多大な影響を与える。ドライブライン管理の問題もあり、
入院継続などの対応が必要なこともある。空間無視の程度を把握して患者のケアにあたる必要がある。
− 109 −
P3-
1
薄型補助人工心臓に用いる 2 軸制御型磁気浮上ポンプの
開発
1
4
茨城大学大学院理工学研究科,2 茨城大学工学部機械工学科,3 茨城工業高等専門学校電子制御工学科,
東京大学大学院医学系研究科
○村上倫子 1,増澤徹 2,小沼弘幸 3,西村隆 4,許俊鋭 4
[ 目的 ] 現在,補助人工心臓は重症心不全患者にのみ適用されている.しかし,重症になる手前で補助
人工心臓を適用し,心臓の負担を軽減できれば重症化を防ぐことができる可能性がある.よって,本
研究では重症化の予防のために補助人工心臓を適用するという新しい治療法を提唱する.そして,そ
のためのデバイスとしてポンプの外形サイズを外径 50[mm],厚み 10[mm] の薄小型化した磁気浮上
型ポンプを実現し,ペースメーカのように胸部筋層下に埋め込むことで定期的な交換を可能とし,経
済性,簡便性,長期信頼性を実現することを目的としている。
[ 方法 ] 本磁気浮上ポンプの駆動部は,薄小型化のために能動制御を径方向 2 軸のみとし,他 3 軸は
受動安定を用いたラジアル型セルフベアリングモータを採用し,ロータの内側円周部に 12 突極のス
テータを形成したアウターロータ型とした.ポンプ形状は流入口,流出口が同一平面上に配置できる
摩擦ポンプとした.また,インペラ両面に羽根を設けることでインペラにかかる軸方向流体力発生を
抑制した.ポンプ性能の目標値は揚程 100[mmHg] 時,流量 2[L/min] 送出可能とした. 開発した試
作機の性能を評価するためにポンプ性能の評価実験を行った.また,受動安定軸の多い本デバイスの
挙動解明の一指針として , ポンプ拍出時にロータに負荷されている電磁力を 2 次元静磁場解析により
確認した.
[ 結果 ] 本デバイスは,目標性能を 2000[rpm] で達成し,その時の総消費電力が 4.5[W],その時の径
方向の最大振動振幅は 18[ μ m] であった.また,その時にロータには振動的に -1.3[N] から 1.1[N]
の径方向力がかかっていることが磁場解析により推定された.今後,流体解析を行い,流体によりロー
タにかかる力を求め,ロータ挙動の解明につなげる予定である.
− 110 −
P3-
2
磁気浮上全人工心臓の流量バランス制御
1
茨城大学理工学研究科,2 茨城大学工学部機械工学科,3 BiVACOR Pty.Ltd
○太田晶子 1,増澤徹 2,西村宣彦 1,TIMMS Daniel 3
【諸言】現在,片心補助用人工心臓適用患者の 10 ∼ 20%が適用後に両心不全を併発している.今後,
片心補助用人工心臓の適用症例の増加に伴い,左右心の同時補助や全人工心臓の必要性も増す.我々
は BiVACOR 社と共に磁気浮上全人工心臓の設計開発を行っている.今回,一つの磁気浮上モータで
左右二つの遠心ポンプを駆動するコンパクトな磁気浮上全人工心臓を開発し,流量バランス制御のた
めの評価を行ったので報告する.
【方法】本全人工心臓は一つの磁気浮上モータを採用することで小型化を図った.磁気浮上モータの
両脇に左右心用2個の遠心ポンプが配置され,連結ロッド部にて繋がっている.左右心用の浮上イン
ペラは磁気浮上モータ中央を貫く連結ロッドにより連結され,同一回転数で回転する.連結ロッド部
のケーシングと連結ロッドには隙間があり,隙間を血液が流れることでウォッシュアウト効果が期待
できる.左右ポンプの送出流量バランスは,浮上インペラの軸方向位置自動制御により制御する.し
かし,浮上インペラの軸方向位置が変化することにより,左右ポンプを繋ぐ連結ロッド部での左右ポ
ンプ間を流れる流量が変化し,送出流量に影響を与える可能性がある.そこで,浮上インペラの軸方
向位置変化に対する左右ポンプ間の流量を調査した.
【結果】本ポンプは,回転数 2100rpm,左右の送出流量 5L/min の時,左心揚程 100mmHg,右心側
程 20mmHg を達成した.磁気浮上系の安定浮上位置を中心に浮上位置を左右それぞれ 0.3mm ずつ変
位させると,左右ポンプ間の流れは,向きが左心側⇒右心側,流量 628 ∼ 575 ∼ 445mL/min の値
となり,10 ∼ 20%変化することがわかった.今後,連結ロッド部のギャップやインペラに付加した
バランシングホールの位置や大きさ等を変化させることで左右ポンプ間の流量を調整していく.
− 111 −
P3-
3
内部流れからみた螺旋流血液ポンプにおける流路形状変
更によるポンプ特性変化の検討
1
北里大学大学院 医療系研究科 医科学専攻,2 東京大学大学院 医学系研究科 生体物理医学専攻
○細田享平 1,2,石井耕平 2,磯山隆 2,斎藤逸郎 2,井上雄介 2,小野俊哉 2,中川英元 2,
阿部祐輔 2,熊谷寛 1
object
螺旋流血液ポンプは完全人工心臓用に開発された血液ポンプである。特徴として、螺旋状流路を持つ
点、動圧軸受を採用した点、回転数を制御し拍出する拍動流などがある。これまでの研究から螺旋流
血液ポンプの羽根高さを大きくしていくと、圧流量特性の変化が起こることが分かった。今回はこの
特性の変化がもたらされた要因を内部の流れから明らかにすることを目的とした。螺旋流血液ポンプ
の内部流れを最適化することが出来れば、今後 HFP の開発はさらに発展すると考えられた。
method
本研究では螺旋流血液ポンプにおけるインペラ羽根高さを現在のモデルに近い 8.7 mm から 4.35・
13.05・17.4・26.1 mm と変化させ、それぞれのモデルにおけるベーン間流れを数値流体力学解析を
用いて解析した。数値流体力学解析には ANSYS CFX ver 12.1 を使用した。解析モデルは、2つの流
入出ボリュート領域とインペラ回転領域の 3 つから構成された。また回転数は 2000 rpm とし、2.5
L/min から 30 L/min まで 2.5 L/min ごとに解析した。
result
羽根高さを上昇させることで、ベーン間の渦の構成が変化することを確認した。羽根の高さの上昇に
伴い、現行モデルでは、流出ポート側ボリュート領域とインペラ回転領域、それぞれを中心にした渦
から構成された流れが、羽根高さが増加するに伴い、流出ポート側ボリュート領域に存在した渦の中
心位置が流入ポート側、羽根先端側に移動した。
discussion
羽根高さの上昇に伴う流路内のアスペクトの変化により渦の位置が変化したと考えられた。螺旋流血
液ポンプは、インペラ回転領域とボリュート領域を渦により循環することで流路内全ての流体に運動
エネルギーを与え、流路出口部分で運動エネルギーの一部が圧力エネルギーに変換されると考えられ
ている。そのため渦の中心がインペラ回転領域に移動した場合、十分にエネルギーを得た流れが流出
ポート側に出力されず、低流量側における楊程が減少しこれに伴い特性が変化したと考えられた。
− 112 −
P3-
4
補助人工心臓用耐久試験装置に関する基礎検討
―粘性流体を用いた特性評価―
1
東京電機大学,2 国立循環器病研究センター研究所 人工臓器部,3 株式会社イワキ
○舘林千尋 1,本間章彦 1,住倉博仁 2,大沼健太郎 2,大越康晴 1,巽英介 2,妙中義之 2,
福井康裕 1,向林宏 3,片野一夫 3,小嶋孝一 3
[ 背景 ]
補助人工心臓の信頼性や耐久性を評価するため,生体に近い循環状態を提供可能な耐久試験装置の開
発が望まれている.本研究では,これまでに左心室に相当する拍動流発生ポンプ,動脈の血管弾性に
相当する閉鎖型チャンバ,末梢血管抵抗に相当する比例電動制御弁,左心房に相当するリザーバタン
クからなる左心系を模擬した耐久試験装置の構築を行った.
[ 目的 ]
構築した耐久試験装置において,循環流体の粘性の変化により,拍動流発生ポンプの一回拍出量や,
配管各部の圧力波形が受ける影響について検討することを目的とする.
[ 方法 ]
構築した耐久試験装置において,左心房圧に相当するリザーバタンク内圧を 20mmHg 一定とし,心
拍数に相当するポンプ拍動数を 70
120bpm まで変化させた時,拍動ポンプの一回拍出量,動脈圧
に相当する各配管内の圧力波形の計測を行った.動脈に相当する配管内圧のコンプライアンスは,各
ポンプ拍動数において動脈圧の最大,最小値がそれぞれ,120,80mmHg となるように,閉鎖型チャ
ンバ内空気量および比例電動制御弁の開度によって調節した.循環流体には清水と粘度が約 3.8cP と
なるように調節したグリセリン溶液を使用し,上記駆動条件において比較検討した.
[ 結果 ]
ポンプ拍動数を 70bpm とし,循環流体を変えて拍動流発生ポンプの一回拍出量を比較したところ,
循環流体が清水では 82 mL,グリセリン水溶液では 78 mL となった.また,他の各拍動数においても,
一回拍出量および圧力波形に大きな差はみられなかった.
[ まとめ ]
循環流体を変えて拍動流発生ポンプの一回拍出量および各圧力波形について評価を行ったところ,装
置の特性に大きな差は見られなかった.試験対象である VAD における,粘性による負荷の影響を除
けば,循環流体の粘性により耐久試験装置側の特性は変わらないことからほぼ同様の条件で耐久試験
の実施が可能と思われる.
− 113 −
P3-
5
発散した循環系に介入する ∼超小型ペルチェ冷却による
血行動態制御の試み∼
1
4
東北大学大学院医工学研究科,2 宮城県立循環器・呼吸器病センター,3 東北大学加齢医学研究所,
東北大学大学院医学系研究科,5 防衛医科大学校
○伊藤拓哉 1,住吉剛忠 2,三浦英和 3,志賀卓弥 4,HASHEM Mohamed 4,山田昭博 1,
坪子侑佑 1,大沢上 2,近内利明 2,白石泰之 3,熊谷裕生 5,山家智之 1,3,4
重症心不全に対する最終的な循環補助手段として補助人工心臓(VAD)が用いられている。安全性や
有効性などの内外の知見もふまえて、治療応用へ期待が高まっている。近年主流の遠心型ポンプの制
御はポンプ回転数の調節にのみ行えるが、心拍数や動脈圧など負荷側のパラメータはポンプ制御に
フィードバックされていないのが現状である。左心補助人工心臓(LVAD)の装着後には塞栓症や多
臓器不全の併発が懸念される。このような VAD 装着により起こりうる合併症に対して、現在では薬
物投与により血行動態をコントロールしている。本研究では、代謝系を薬物により物理的に遮断して
血行動態を制御するのではなく、電気的な冷却プロセスにより血圧調節系に介入フィードバックでき
る可能性に着目し、今後の VAD 制御の一助となる可能性の検討を試みた。具体的には、電気的な冷
却プロセスとしてペルチェ素子を用いて、心房細動(AF)と高血圧に対する冷却治療デバイスの開発
も併せて検討した。
生体組織内の電気生理学的活動が、組織の温度低下によって低下することから、AF の本態である心
房内の電気生理学的な伝播異常を抑制できる治療可能性に着目した。開胸下で左房の接触冷却を可能
とするシステムを開発し、動物実験で冷却システム効果の検討を行った。
LVAD を装着すると血圧が上昇するという報告があるが、循環生理学的見地から腎交感神経伝達の活
動電位振幅を電気的な冷却プロセスにより血圧調節系に介入フィードバックできる可能性に着目し、
新しい高血圧治療法として腎神経冷却デバイスの開発を行い、試作した。
現在、心室収縮補助の心房収縮の重要性に着目して実験評価を進めている。AF は左心補助時におい
ても血栓形成に重要な影響を及ぼし、心筋梗塞や心原性脳梗塞を引き起こす要因となることが示唆さ
れている。血行動態制御は VAD 駆動においても生体に与える影響のみならず VAD 駆動に整合する一
選択となる点で有用となる可能性がある。
− 114 −
P3-
6
重症心不全患者に対する心房脱血両心室補助装置の臨床
応用に向けた方法論の開発
1
東北大学医学部医学科,2 東北大学加齢医学研究所 心臓病電子医学分野
○黒田健仁 1,遠藤成 1,武富龍一 1,白石泰之 2,三浦英和 2,志賀卓弥 2,山田昭博 2,
坪子侑佑 2,HASHEM Mohamed 2,山家智之 2
目的
重症心不全患者に対する有効な治療法は心臓移植であり、その代替治療として人工心臓が開発された。
重症心不全患者に対して、補助人工心臓(VAD)では左心室補助装置が最も多く汎用されてきたが、
両心室補助装置(BiVAD)に移行したところ予後が改善したとの報告が多い。そこで今回は体内循環
を目指して心房脱血の BiVAD の有用性について研究を行った。また、BiVAD を植え込むことにより大
動脈弁や肺動脈弁が役割を果たさなくなる症例も散見されるため、本研究ではこの改善を目的とする。
方法
1:模擬循環回路を用いた VAD の有用性の評価
VAD の心房モデル拍動下モデルにおいて血行力学的特性を重量法で評価した。心房モデルに様々な駆
動陽圧を加えながら拍動下で記録した。VAD は2種類の市販後補助人工心臓で、心房収縮時の計測を
行った。
2:動物を用いた BiVAD 植え込み実験
動物の実験には市販後補助人工心臓を用いた。40 ∼ 60Kg の成山羊を応用して計測した。左開胸にて
胸腔内にアプローチし,右心房 - 肺動脈、左心房 - 大動脈をバイパスとして BiVAD とした後,両心室
をクランプし、血行動態的に Total artificial heart として循環させ、時系列の血行的データを計測した。
結果
1:2種類ともに流量 、心房内圧は心房収縮に同期した時系列波形を観測した。
2:心室クランプをしたため ECG は房室伝導以下に伝わらず、Q 波が異常に深くなる傾向を認めた。
大動脈・肺動脈は心房収縮に同期して血液が送り込まれる現象を認めた。
考察
本研究の結果から、BiVAD は両心の循環維持の観点において臨床応用への展開が期待された。動物へ
の植え込み実験においても心室収縮がない時にも血行動態的に体・肺循環的に維持され,酸素飽和度
も許容範囲内でを保ち両心循環が維持されていた。
心房脱血の BiVAD は循環の観点で臨床への展開の可能性があり、市販後の安全性の確立により TAH
の実現が期待される。臨床的な使用については、コスト、サイズ、感染症、サッキングの問題を解決
する必要がある。
− 115 −
P3-
7
市販後植込型遠心式補助人工心臓を応用した完全人工循
環における左右バランス制御の評価に関する研究
1
東北大学医学部医学科,2 東北大学加齢医学研究所 心臓病電子医学分野
○遠藤成 1,黒田健仁 1,武富龍一 1,白石泰之 2,三浦英和 2,志賀卓弥 2,山田昭博 2,
坪子侑佑 2,HASHEM Mohamed 2,山家智之 2
【目的】
重症心不全患者への有効な治療法は心臓移植であるが,ドナーは慢性的な不足が世界的傾向である。
そこで現在は補助人工心臓による心機能の補償が代替療法として用いられている。しかしその課題と
して,心室→動脈バイパスでは肺動脈弁や大動脈弁の機能不全による心室への逆流の問題がある。
そ こ で, 患 者 の QOL の 向 上 の た め に は, 心 機 能 の 全 て を 代 行 す る 完 全 置 換 型 人 工 心 臓(Total
Artificial Heart : TAH)の実用化が必要となる。
本実験では植込型遠心式人工心臓を 2 つ使用し心室をクランプして TAH とし,血行動態の変化の中
で左右バランスを維持する方法論の研究を行った。
【方法】
健康な成山羊を用い,2 つの植込型遠心式人工心臓のポンプをそれぞれ右房→ポンプ→肺動脈,左房
→ポンプ→大動脈という回路につなぎ,心室上部でクランプし両心の収縮を停止した。ポンプの回転
数は血行動態が最適化するように設定した。コントロール時,メトキサミン投与後,プロプラノロー
ル投与後において心電図,左右それぞれの流量とポンプ内圧,大動脈圧の変動を計測した。
【結果】
コントロール時は流量,ポンプ内圧ともに左右バランスを維持できる時系列曲線が記録された。メト
キサミン投与したところ,両心ともに流量が低下し,ポンプ内圧が上昇する傾向にあった。プロプラ
ノロール投与後は右心の流量は増大してコントロール時に復帰した後,左心の流量はさらに増加傾向
になった。ポンプ内圧は両心ともコントロール時より低下する傾向を認めた。
【考察】
薬物の投与による血行動態の変化は,現在の制御システムでは生体の血液循環変化にポンプが対応で
きていないことを示唆している。
TAH を実用化するにあたって,人工心臓は患者の生活に最低限必要な活動を保証しなければならない。
そのためには,生体の変化に合わせた両心のポンプ自動制御システムが必要である。
− 116 −
P3-
8
溶血から検討した市販後植込み式遠心型補助人工心臓に
よる完全人工心臓の展望
1
東北大学医学部医学科,2 東北大学加齢医学研究所 心臓病電子医学分野
○武富龍一 1,黒田健仁 1,遠藤成 1,白石泰之 2,三浦英和 2,志賀卓弥 2,山田昭博 2,
坪子侑佑 2,HASHEM Mohamed 2,山家智之 2
1. 目的
補助人工心臓(VAD)は体外に駆動装置を置くため、使用者の Quality Of Life の低下が考えられ、ポ
ンプの皮膚貫通部での感染の危険性も高い。また、心臓移植のドナー数も不足していることも考慮す
ると、完全人工心臓(TAH)の必要性は大きい。
また、臨床応用後には市販後のデータ解析の follow up が必要であり、新しい手術の方法論を提案す
る場合には新たな解析を行う必要がある。
本研究では、心房脱血 TAH の急性動物実験を行い、溶血の観点から TAH の可能性について評価をお
こなった。
2. 方法
本実験では、二つの市販後 VAD を、成山羊に植え込み、右房と肺動脈、左房と大動脈をバイパスし、
心室をクランプした。この際,ポンプの回転数は血行動態が最適化するように一定値に設定した。溶
血の評価のため、開胸術開始前、開胸直後(ポンプ植え込み前)ポンプ植え込み直後(ポンプスター
ト前)、ポンプスタートから 1 時間・2 時間後・3 時間後にそれぞれ行い、それぞれのサンプルにおい
て血漿中の遊離ヘモグロビン量(fHb)を測定した。
3. 結果
手術後、血行動態を観察したところ、体・肺循環の血圧、血流、血液中酸素飽和度は正常に維持され、
特に問題は見られなかった。
ポンプスタート後の各サンプルの fHb は 5mg/dL 未満と正常値の範囲内で維持されていた。溶血指数
NIH を計算すると許容範囲内に維持されていた.
4. 考察
fHb はポンプスタート後減少する傾向を認めた。これは手術手技の影響による溶血と代謝によるもの
であり、人工心臓本体の溶血は少ないと推察される。
本研究での二つの VAD を用いた TAH のモデルは、溶血の観点では許容の範囲内であり、十分に実用
の可能性を秘めていると考えられる。
市販後 VAD において新しい手術方式を提案する場合、新たな評価が必要になるが、本研究の結果は、
今後の心房脱血 TAH の確立に有用であると考えられる。
今後、さらに多くの採血・測定を行い、他の VAD とも比較することで、より正確に評価を行うこと
ができると考えられる。
− 117 −
Fly UP