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84号 「ここまで解明された最新の脳科学」

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84号 「ここまで解明された最新の脳科学」
クリニックだより
気・心・体
第84号
平成2 2 年1 0 月1日
高森内科クリニック
「ここまで解明された最新の脳科学」
*はじめに*
最新の脳科学が、「脳のしくみ」「こころのしくみ」「精神病」
「脳疾患」をどこまで
解明しているかを解説します。“自分のこころ、精神病、脳の病気”を理解し、より
よき生活をおくるために役立ちそうな情報のみを解説しました。むつかしい内容です
が繰り返して読んでください。私もこれをまとめていて深く考えさせられました。
「N ew to n ムック 脳のしくみ」
1,脳の構造
脳をつくる細胞「ニューロン」の構造
ニューロン(神経細胞)の回路に電気信号が流れるしくみ
シナプスでは化学物質によって信号が伝わる
ニューロンどうしのネットワークが情報処理を行う
ニューロンと並ぶ脳の主役に躍り出た「グリア細胞」
大脳皮質ではニューロンの束がチームとしてはたらく
体制感覚野ではニューロンが機能的な集団を形成する
2,記憶のしくみ
1)記憶にはさまざまな種類がある
①記憶の保持時間による分類:短期記憶と長期記憶
②記憶する内容による分類:
エピソード記憶→朝食のメニューや遠足の思い出は、いつ・どこでといった個人の
経験にもとづいた出来事の記憶である
意味記憶→いわゆる知識も記憶の一種である
手続き記憶→自転車の乗り方などの体の動かし方の記憶
③記憶が意識にのぼるかどうかで分ける分類:顕在記憶と潜在記憶
④言葉で表現できるかどうかで分ける分類:陳述記憶と非陳述記憶
2)記憶を支えているのはニューロン(神経細胞)だと考えられている
ヒトの脳の中には1000億のニューロン(神経細胞)があるといわれる。ニューロ
ンには、体の細胞とは大きく異なる特徴がある。ニューロンの本体「細胞体」から細
長い突起が何本も出ている点である。ニューロンはこの突起を使ってほかのニューロ
ンと接続し、信号をやりとりしている。
突起には2種類ある。信号の送り手となる「軸索」と、信号の受け手となる「樹状
突起」である。軸索は一つのニューロンに1本しかなく、また樹状突起にくらべて細
く長いことが多い。細胞体からでた1本の軸索は、時に枝分かれしながらほかのニュー
ロンの樹状突起につながる。このつなぎ目は「シナプス」とよばれている。シナプス
の数は、一つのニューロンにつき数千から数万にのぼるという。
3)記憶とはニューロンの回路が変化して維持されること
4)「信号の伝達効率アップ」が基本的な記憶の原理
5)海馬では信号を整理し、一時的に記憶をたくわえる
海馬では新しい記憶が作られ、それは最終的には大脳皮質に貯蔵されるらしい。
6)海馬は出来事の時間と空間の流れを整理している
出来事というものは、それを経験した順番(時間)や場所(空間)がそのとおりに
記憶されなければならない。その時間と空間の流れを正確に記憶する仕組みが海馬に
あることが明らかになりつつある。
7)記憶の想起のしくみ この仕組みはまだよくわかっていません。
8)“体で覚える”小脳記憶のしくみ
自転車の乗り方、スキーの滑り方、泳ぎ方など、体で覚
える運動の記憶は小脳の仕事である。また、小脳は運動だ
けでなく思考の熟練もになうということもわかり始めた。
すなわち、小脳は学習機能によってほかの回路のはたらき
をコピーできる能力を持っているので、この能力を使えば、
小脳は大脳の思考回路をコピーできるのではないかと推測されている。また、大脳が
あつかう思考は意識にのぼりますが、小脳でおきるできごとは無意識の世界で展開し
ます。
9)記憶の不思議
ニューロンは、通常は増殖能力はありません。神経細胞が増殖して生まれ変わる
と、人格まで変わってしまうからです。ただし、海馬の中にあるニューロンの一種
「顆粒細胞」は増殖して増えることが近年になってわかってきました。ニューロンは
増えないという常識がくつがえされたのです。海馬では新たに増えたニューロンも記
憶に使われているという説が出されています。
記憶を長期記憶として覚えてしまえば二度と忘れることはないのですか?→そんな
ことはありません。P P 1 という酵素は記憶を忘れさせる働きがあります。また、近
年、非常に興味深い発見がありました。記憶は一度固定されてしまうとそのまま安定
すると考えがちですが、ところが実は、思い出すたびに一時的に不安定になっている
というのです。記憶を思い出した後にそれをもう一度固定するのには、タンパク質の
合成が必要不可欠だということです。この過程は「再固定」とよばれており、多くの
研究者が注目している現象です。
このことは P T S D の治療に応用できると期待されています。記憶が再固定される
際に一度不安定になることを利用し、P T S D の原因になっている記憶を消したり、
弱めたりすることができるようになるかもしれません。
3,感情のしくみ
1)すべての感情は脳で生み出されている
2)扁桃体を含む大脳辺縁系で感情が処理されている
感情が生まれる場所として大脳辺縁系が重要です。快・不快の判断をおこなってい
る扁桃体は、情動において特に重要だと考えられている。また、海馬は記憶を作ると
きに重要な部位であると考えられている。
3)神経伝達物質が心に大きな影響をあたえている
ニューロンとニューロンのつなぎ目には、すき間がある。このすき間でニューロン
からの情報を受け渡しているのが神経伝達物質である。主な神経伝達物質にはアミノ
酸(グルタミン酸、G A B A など)、モノアミン(ドーパミン、セロトニンなど)、ペ
プチド(オピオイドペプチドなど)がある。この神経伝達物質の量や作用の強さが、
心の働きに大きく影響している。
4)脳の中には「喜び」を生み出す回路がある
5)お酒を飲むとニューロンの抑制がきかなくなる
6)感情をともなう出来事はよく記憶される
7)ストレスは体の変化を引き起こす
ストレス反応には二つの経路がある。血液中のホルモンを介しておきるものと、自
律神経という神経のはたらきによるものがある。感覚情報は大脳皮質で処理される
と、扁桃体を経由して視床下部へ伝えられる。扁桃体で感覚情報がストレッサーだと
判断された場合、その情報が視床下部へ伝えられると、視床下部が自律神経を活性化
したり、ホルモンを出すように指令を出したりする。つまり、視床下部はストレス反
応の指令として機能している。
8)強いストレスを経験するとPT S D という精神疾患になる
P T S D になるような強いストレスでは、ストレスホルモンのグルココルチコイド
が増えて、なかなか下がらない場合がある。そのような場合、グルココルチコイドが
海馬に作用して、海馬の体積を縮小させるといわれている。
9)成育期に虐待を受けるとストレスに弱い脳になる
養育期に極度に強いストレスを受けると、海馬がストレスで萎縮しやすく、PTSD
にかかりやすくなる可能性があるといわれている。
10)ストレスホルモンがP T S D の原因かもしれない
事件や事故にあったという記憶は、しだいに新しい記憶に塗り替えられ、精神的反
応もやわらいでいきます。しかし、P T S D ではこのメカニズムに障害がある可能性
があります。具体的には、海馬や扁桃体を含む、情動をつかさどる神経ネットワーク
の異常によるものと考えられています。
11)うつ病は神経細胞の萎縮や減少が原因かもしれない
12)遺伝子はときに性格に大きな影響をおよぼす
13)前頭連合野は“ヒトを人間たらしめる脳”
14)前頭連合野は行動や感情をコントロールしている
ワーキングメモリ(作業記憶)のはたらきとは、「外界から入力する情報」「予定記
憶」「過去の記憶」などから、「選択的注意」によって選ばれた情報だけを一時的に保
持しつつ、それらを組み合わせて適切な行動を導く。
「選択的注意」とは、目や耳などから入力される多くの情報の中から、今の自分に
とって意味のある情報だけに注目する機能。
前頭連合野は、目や耳などから得られる身の周りの状況や体の内部環境(現在につ
いての情報)、将来の予定(未来についての情報)、記憶や知識(過去についての情報)
などにアクセスすることが可能である。そうした膨大な情報の中から、自分にとって
意味のある情報だけを選んで(これを「選択的注意」という)、それを一時的に保持
しておく(ワーキングメモリ)。そして、そのワーキングメモリの情報をもとに行動
を決定して高次運動野に指令を出すと同時に、情動を司る大脳扁桃体や記憶を司る海
馬などの働きを適切に調節する。前頭連合野とは、ワーキングメモリを中心にして行
動や感情を適切に調整し、脳全体を制御するコントロールセンターである。
15)知識・感情・意識は、脳の別々の場所で処理されている
知識(知)は大脳の後半部、感情(情)は大脳辺縁系、意識(意)は前頭葉と、脳
の別々の場所に振り分けられています。
「脳科学と精神疾患」
1,統合失調症研究の現状
大枠では以下のように考えられている。
発達期の脳障害により、海馬−前頭葉を基盤とする「自我」の神経基盤となる神経
回路の発達が障害され、自我同一性が確立する時期である思春期以降に、外界に適応
できず破綻し、顕在発症に至る。発症後の症状生化学的基盤の一つは、ドーパミンお
よび N M D A 型グルタミン酸受容体を介した神経伝達の変化である。発症後、次第に
神経の変性過程が進むと共に、陰性症状が進行する。
脳梗塞や外傷などにより障害されて、統合失調症に特徴的な自我の障害が出現する
ような脳部位は存在しない。脳損傷が統合失調症を引き起こさない理由については、
2つの要素が関与していると考えられる。ひとつは、統合失調症で障害される神経系
は、脳の特定の部位というよりも、特定の神経回路であって、脳梗塞や脳外傷のよう
な形でまとまって障害されることはなく、むしろ遺伝子の異常などに伴って障害され
るのだ、という点である。もうひとつは、脳の発達の中で、自我に関わる神経系の発
達が障害されたのが統合失調症であり、いったん脳が完成した後では、「自我」が障
害されることはありえない、という考え方である。
それでは、統合失調症で特異的に障害され、自我に関係する神経系とはいったい何
であろうか?残念ながら、現時点ではその答えは見つかっていない。
2,うつ病の研究の現状
うつ病にはさまざまなサブタイプがあり、それぞれの危険因子に違いがあることか
ら、すべてを統一的に理解することは難しい。
「うつ病に特徴的な認知パターン」には次のものがある。
①全てか無か思考:常に白黒をつけてしまう
②過剰な一般化:わずかな事実を取り上げて、決めつけてしまう
③ラベリング:好ましくない特徴によって、その人や物事を決めつけてしまう
④恣意的推論:思いつきで勝手に物事を推測し判断する
⑤選択的抽出:自分が関心を向けている情報ばかりに目がいってしまう
これらの認知パターンは情動の特徴そのものである。すなわち、情動とは外界の事
物に対して生物学的評価を行い、闘争−逃走のように両極端な行動のいずれかを選択
する機能である。そして、情動の中でも特に恐怖などのネガティブな情動において
は、扁桃体が主要な役割を果たす。
うつ病において、情動に特徴的な認知パターンが見られ、扁桃体の体積が増加した
り、ネガティブな情動を喚起する刺激に対する扁桃体の反応が亢進していることは、
うつ病では扁桃体を介した外界の認知が優勢になっている可能性がある。
3,PT S D(心的外傷後ストレス障害)研究の現状
P T S D には、単一の急性ストレスにより生じる単純型 P T S D と、長期反復性の慢
性ストレスによって生じる複雑型 P T S D がある。複雑型 P T S D が単純型 P T S D の危
険因子になることがあり、両者の関係は簡単ではない。複雑型は、長期にわたる児童
虐待、性的虐待などによって生じるものが多い。
P T S D の特徴的症状のうち、フラッシュバックは、強い情動を伴った体験が異常
に強く記憶され、意に反して想起されるという現象として理解されている。この現象
は記憶の再固定化の病理と考えられる。
一方、P T S D 患者では、事件の核心部分に対して健忘を残しているという解離性
障害を合併していることがある。このように、外傷体験が自己のコントロールを超え
て自動的に想起されるという病態と、外傷体験を意図的に想起することができないと
いう、一見矛盾する病態が共存していることが P T S D の特徴とも言うことができる。
これは、陳述記憶システムに対する情動記憶システムの不均衡な優勢が原因であろう
と考えられている。そのため、外傷体験がいつまでも過去のものにならず、現在にと
どまり続けるのではと考えられている。
遺伝要因あるいは発達期の環境要因により海馬体積減少などの海馬の脆弱性を有す
る者が、トラウマにさらされた時、恐怖条件付けが起きると共に、トラウマの影響に
よって前部帯状回が何らかの障害を受けた結果、条件付けられた恐怖の消去が障害さ
れてしまった状態が PTSDであると理解されている。
上記のように、P T S D には「海馬の小さい人」がなりやすく、はストレス脆弱性
が関係してくるからであろう。そのストレス脆弱性は遺伝的な要因だけでなく、胎生
期の環境と養育環境も関係しているのではと、現在研究が進んでいる。
ストレスが神経細胞の萎縮などを引き起こすことがわかってきたが、一方、成人の
脳ででも新しいニューロンが産生されることもわかってきた(1998年にはエリクソ
ンらが海馬でも神経新生が起きていることを明らかにした)。
4,発達障害の研究の現状
広汎性発達障害の基本障害は次の2つに要約できる。
(1) 対人相互的反応の質的障害(人や集団における相互的な行動・コミュニケーショ
ン・情緒的疎通性に困難をもつこと)
(2) 強迫的に限局化され反復する精神活動や行動の様式
発達障害について、脳神経科学からみた研究が進歩し、蓄積されたデータを分子
神経生物学の知識と統合できるようになった。シナプスの異常を中心とする神経回
路接続不良による高次機能不全が示唆され、この考え方によれば、子どもごとに異
なる症状の多様性や重なり、症状と個性との連続も統一的に説明できる。原因の一
つとして神経毒性をもつ環境化学物質が考えられる。この種の物質による遺伝子発
現の撹乱、シナプス形成阻害は証明されており、予防や治療にも新しい可能性が開
けてきた。
母体の汚染により、胎児や乳児の複合汚染も進行している。出産前後の周産期
は、脳の発達、ことにシナプス形成がもっとも盛んな時期であるが、成人には存在
する血液・脳関門はまだ未発達であり、化学物質が脳に移行しやすい。脳の高次機
能を担う神経回路(シナプス)の形成・維持には、時間・空間的に複雑精緻な多数
の遺伝子の発現調節が必須である。しかし、このシステムは、進化の過程でかつて
出会ったことのない人工化学物質(特にここ50年ほどの間に体内に侵入してきた
化学物質)に対してはほとんど無防備であった。
*広汎性発達障害についての神経学的仮説
①脳幹障害説(覚醒障害説)
②小脳障害説
③扁桃体システム障害説
この説は広汎性発達障害の中核的問題、すなわち「対人相互的反応の障害」を
説明できる可能性を持つ。
④感情理解に関する高次感覚連合野の障害説
⑤ミラーニューロン・システム障害説
ミラーニューロンという概念は、サルの単一細胞記録研究で、“食べ物口に運
ぶ”などの所作をサルに演じて示すことにより、その動作に対応する運動野の活
動が、所作を眺める側のサルの脳にも発生したという現象の研究からわかってき
た概念である。最近では、ミラーニューロン・システムは他者による動作の意図
の把握と関連することがわかりつつあり、共感能力も含めた社会性とも関連する
可能性が考えられている。
⑥前頭前野障害説(実行機能障害説)
「脳を鍛えるには運動しかない!」
(最新科学でわかった脳細胞の増やし方)
ジョン・J・レイティ/ エリック・ヘイガーマン
1,心血管系を強くする
運動によって心蔵と肺が強くなると、安静時の血圧が下
がり、体と脳の血管の負担が減る。
2,食べるものを調整する
スウェーデンでの老人において、血糖値の高い人はアル
ツハイマーを発症する率が77%高かった。年をとるとイ
ンスリン(細胞内へブドウ糖の取り込みを促進している)が少なくなるので、燃料に
なるブドウ糖が細胞に入りにくくなる。血液中にブドウ糖が急増すると、その影響で
細胞内にはフリーラジカルのような老廃物が生まれ、血管が傷つき、脳卒中やアルツ
ハイマー病になる危険性を高める。インスリンは脳細胞へのアミロイド斑の蓄積を防
いでいるのだが、インスリンが減るとアミロイド斑の蓄積が進み、炎症も促進され、
周囲のニューロンが傷つけられる。 3,肥満を防ぐ
体脂肪は心血管系と代謝系に重大な害となるばかりか、脳にも悪影響を及ぼす。運
動はカロリーを燃焼し、食欲を抑えるので、自然に肥満を防いでくれる。
4,気分を明るくし、前向きに生きる
神経伝達物質、神経栄養因子、ニューロンの結びつきが豊富になれば「うつや不安」
によって引き起こされる海馬の萎縮を予防することができる。また、多くの研究によ
り、いつも朗らかな気持ちでいると認知症になりにくいことが実証されている。
5,免疫系を強化する
ストレスと老化は免疫力を弱めるが、運動は免疫力を直接に強くする。免疫系は傷
ついた組織を修復する細胞を活性化する作用もある。運動すると免疫系のバランスが
回復されて、炎症を抑え、病気を食い止めることができる。
6,骨を強くする
骨粗鬆症は、脳に直接大きな影響を与えるわけではないが、年をとっても運動を続
けるには頑丈な骨格が必要である。
7,意欲を高める
幸せな老後は希望をもつことから始まる。社会とかかわり、活動的で生き生きと暮
らしたいという欲求がなければ、人はたちまち動くことをやめて孤独に陥り、死に向
かって転落し始める。運動をしていると、いつまでも向上心をもって頑張り続けるこ
とができる。
運動はドーパミン−意欲と運動システムの要となる神経伝達物質−の自然減少を予
防する。体を動かすと、ドーパミン・ニューロンどうしのつながりが強められ、自然
にやる気が増してくる。パーキンソン病の予防にもなる。
8,ニューロンの可塑性を高める
神経変性疾患を予防する最良の方法は、強い脳を作ることだ。有酸素運動は脳を強
くする。ニューロンのつながりを強め、より多くのシナプスを作って回路網を拡張
し、海馬のなかでニューロンの親となる幹細胞を続々と誕生させるからだ。また、運
動すると、ニューロンの可塑性や新生、つまり脳の成長に欠かせない栄養因子がさか
んに供給されるようになる。その栄養因子は、運動しないでいると加齢とともに失わ
れてしまう。
9,食事−軽く、体によいものを食べよう
摂取カロリーを抑えれば寿命が延びる。少なくとも、それはラットではそれが証明
されている。実験では、食事のカロリーを30%減らしたグループの方が、好きなだ
け食べることを許されたグループよりも1.4倍長生きした。
「池谷裕二による脳科学の解説1」
1,意識と無意識の境目にあるものは?
人間の体の中で意識できるものと意識できないものがある。心臓の動き、睡眠は意
識でコントロールできない。呼吸は、普段は意識してなく自然に動いているが、意識
的に止めることもできる。意識と無意識との境目に呼吸はある。
2,言葉は意識の典型
意識の定義
①表現を選択できる
②短期記憶(ワーキングメモリ)が働いている
③可塑性(過去の記憶)
:過去の経験を価値判断の基準にする
これら三つの特徴がすべて言葉には備わっているので、言葉はまさに「意識」であ
る。
3,もっとも原始的な人間の感情は「恐怖」
「恐怖」というものは、動物の脳のなかに古くから存在した。
「喜び」や「悲しみ」
よりも「恐怖」のほうが起源が古い。動物は危険なものを避けなければいけない。そ
れは生死にかかわる重要な問題である。だからこそ、動物は「恐怖」という感情を進
化の過程で最初に作り上げた。
「恐怖」という感情を生み出すのは「扁桃体」である。扁桃体が活動して、その情
報が大脳皮質に送られると、そこではじめて「こわい」という感情が生まれる。
4,扁桃体は大脳皮質のコーチ
記憶を蓄える場所は大脳皮質であり、回避する行動パターンなどはそこに蓄えられ
る。扁桃体は大脳皮質のコーチとトレーナーの役割をしており、「こういうパターン
はこわいから気をつけなさいよ」と大脳皮質に警告を送り、そのパターンは大脳皮質
に蓄えられている。
5,脳と体との関係
従来は、脳は体を支配するための総司令部だと考えられていたが、そうではなく
て、むしろ身体が脳を主体的にコントロールしていることがわかってきた。つまり、
身体が脳を決めており、脳の機能は体があって生まれるのである。
もちろん、脳は身体をコントロールしているが、それと同時に身体も脳をコント
ロールしている。だから脳と体を別々に分けることはできないのである。
6,こころは脳が生み出している
脳がなければこころはない。でも、体がなければ脳はないわけだから、結局は、体
とこころは密接に関係していることがわかる。
言葉のことをくわしく研究するとそのことがよくわかる。人間は声を自由に操れる
咽頭をもった。咽頭を持ったがゆえに、言葉をしゃべれる脳が再編成されて、いま人
は言葉を自由に操っている。これはとても大きな影響を脳に与えた。なぜかという
と、言葉はコミュニケーションの手段としてあるだけではなく、つまり信号としてあ
るだけではなく、人間が抽象的な物事を考えるのに必要なツールになったからであ
る。
7,人間はありのままを見ていない
盲点や錯覚などの実験を通じて、「見る」という行為はいかに不自由な行為であっ
て、本当はありのままを見ていないんじゃないか、ということがわかってきた。「見
る」とはものを歪める行為−一種の偏見であること。
その理由は、世の中は三次元なのに網膜は二次元であるから。二次元の網膜に写っ
たものを、脳は強引に三次元に再解釈しなければならないという脳が背負った宿命で
ある。
それゆえに「見る」という行為は、おそらく人間の意識ではコントロールできなく
なってしまった。無意識の現象であり、脳の解釈から逃げることができないのであ
る。
8,言葉・思考・記憶
人間は抽象的な思考をするが、それは何の目的があるのであろうか?おそらく生き
るための知恵として、目の前にある多くの事象のなかから隠れたルールを抽出するた
めであろう。
また、記憶は正確ではなくあいまいなことがよくある。なぜ記憶はあいまいであろ
うか?覚えなければいけない情報を有用化して保存するために、脳は事象を一般化す
る「汎化」ということをしている。その汎化をするために、脳はゆっくりと、そして
あいまいに情報を蓄えていくのであって、それが我々の記憶なのである。
その〈あいまいさ〉は脳のどこから生まれるのかといえば、神経の構造(シナプス)
にある。シナプスの結合力が重要であるが、それは記憶力と関係がある。シナプスの
結合力が変化すると、記憶力も変化することが実験で確かめられている。
9,神経回路と記憶
脳は緻密な神経回路からなりたっており、この神経回路を使って情報を管理してい
ます。回路のつながり方によって、どのように情報が処理されるかが決定されます。
神経細胞がどのようにネットワークを作っているかということが、脳にとってきわめ
て重要な問題なのです。記憶することは神経細胞のつながり方が変化することであ
り、脳の可塑性は新しい神経回路の形成によって起こるわけです。神経回路の変化こ
そが、記憶の正体なのです。記憶とは神経回路の変化であり、新たな神経回路のパ
ターンを作り上げることであるとも言えます。
10,効率的な学習・勉強の仕方
脳の記憶は、コンピューターとは異なり、永久では
なく、時間が経つと自然に消されるのが一般的です。
いわゆる「忘却」という現象です。ところで、記憶は
意識的に操作することができますが、忘却は意図的に
はできません。
テスト直前の知識の詰め込みはけっしてよい方法で
はありません。仮にやむを得ない状況になったとした
ら、前日の深夜に詰め込むより、当日の早朝に詰め込んだほうが、テストまで覚えて
いられる確率が高くなるそうです。しかも、テストまでの四時間が勝負であるそうで
す。
勉学における「復習」の大切さもわかっています。一ヶ月以上あけてしまうと、記
憶力はほとんど増強されません。どうやら、無意識の記憶の保存期間は一ヶ月程度の
ようです。これらはエビングハウスの実験結果によるものです。
現在の脳科学ではこれらの現象の原理がもう少し詳しく解明されています。海馬
は、大脳皮質の側頭葉から入ってくる膨大な情報の中から、記憶すべきものだけを取
捨選択して、ふたたび側頭葉に返すという「記憶のふるい」の役割をしています。
海馬は記憶の一時的保管場所であり、そこで記憶が整理整頓され、何が必要で何が
不要かが吟味されます。そして、海馬に記憶が保管されている期間は、長くても一ヶ
月であるといわれています。つまり、この一ヶ月こそが復習の絶好のチャンスなので
す。このタイミングを逃すと、復習の効果は得られません。効率のよい復習とは、以
前の記憶が海馬に保存されているうちに、覚えたい情報をもう一度、海馬に送信して
やることです。
エビングハウスの忘却曲線を考慮に入れると、科学的にもっとも効率的な復習スケ
ジュールは、まず一週間後に一回目、つぎにこの復習から二週間後に二回目、そして、
最後に二回目の復習から一ヶ月後に三回目、というように一回の学習と三回の復習を
少しずつ間隔を広くしながら二ヶ月かけて行うことです。そうすれば、海馬はその情
報を必要な記憶と判断してくれます。
11,夢のふしぎ
睡眠にはリズムがあり、浅い眠り(レム睡眠、急速眼球睡眠)と深い眠り(ノンレ
ム睡眠)が周期的に交互に起こっています。人が夢を見るのはレム睡眠の間であり、
眼球は激しく動き、脳波はまるで眠りから覚めているときのように活発になります。
レム睡眠のときには死んだようにぐっすりと眠っており、体は休んでいるようです。
ノンレム睡眠のときの脳波はとても静かで落ち着いており、脳が休んでいます。しか
し、体はよく動かしております。つまり、レム睡眠のときには体が休み、ノンレム睡
眠のときには脳が休むという交互の周期が睡眠中に続けられているわけです。
夢はレム睡眠の間に見るものですが、その夢は一種の「記憶」の再生です。夢は昼
間にあったことを思い起こすという行為であり、最近経験したことを夢のなかで再生
し、夢を使って過去の記憶を反芻整理しているのです。現在の脳科学の見解によれ
ば、夢は脳の情報を整え、記憶を強化するために必須な過程であるとされています。
記憶は夢を見ることによって保存されるのです。ちなみに、何か新しい知識や技法を
身につけるためには、覚えたその日に6時間以上眠ることがかかせないという、研究
結果が2000年に発表されています。
レミニセンス現象(追憶現象)とは、寝ているあいだ
に記憶がきちんと整理整頓され、その後の学習を助ける
現象です。レミニセンス現象は、勉強時間についても大
切なことを教えてくれます。それは、6時間まとめて勉
強するくらいなら、2時間ずつ三日に分け勉強したほう
が、途中に睡眠が入るため能率的に習得できるというこ
とです。毎日コツコツ少しずつ勉強をしたいものです。
12,記憶を増強させる方法
好奇心、努力、忍耐力、そしてちょとしたコツが重要である。
13,意 識
脳のなかで意識が作られる場所は、大脳皮質の前部・前頭葉である。前頭葉から側頭
葉へ神経信号が送られると記憶が再生されますが、これは、前頭葉で発生した意識が
記憶の保存庫である側頭葉を刺激して、記憶を取り出していることを意味しています。
14,海馬の重要性
海馬は「記憶を司る脳部位」でありますが、記憶は生命の高次元機能の象徴ですか
ら、海馬は生命の枢要機関でもあります。
しかし、その海馬は疾患に冒されやすく、厄介な存在でもあります。たとえば、ア
ルツハイマー病は海馬から萎縮が始まります。同様にして統合失調症の患者でも海馬
の神経細胞死が認められることが近年わかってきました。さらに、最近では糖尿病の
末期患者に見られる痴呆症にも海馬のシナプスの減少が起こっていることが発見され
ました。てんかんも海馬と深い関係があります。海馬で異常な神経信号が発せられる
と、これが脳全体に伝わりてんかん発作を引き起こすのです。そして、海馬と疾患と
の関連のきわめつけは虚血です。数分でも脳の血流が止まってしまうと、海馬の神経
細胞はいともたやすく死んでしまうのです。海馬以外の神経細胞はその程度の傷害で
は死にません。海馬の神経細胞は傷つきやすく脆弱なのです。もちろん、海馬の神経
細胞が死んでしまえば記憶力は失われてしまいます。痴呆症の半分はアルツハイマー
病ですが、残りの半分は「脳血管性痴呆症」とよばれる疾患です。つまり、脳の血管
が損傷されるために神経細胞が死んでしまう病気なのです。海馬の変性がその主要病
因になっていると推定されています。
15,思考と言葉
人間が抽象的な思考ができるのは言語をもっているからである。言葉がないと抽象
的な思考はむつかしい。意識とかこころというものは多くの場合、言葉によって生ま
れている。意識やこころは言語が作り上げたファントム、つまり抽象である。
言葉には二つの側面がある。ひとつは、コミュニケーションの手段、伝達のための
信号・記号である。もうひとつは、抽象的思考をするための道具、考えるためのツー
ルである。
人間に関して言うのなら、「言語を操るようになった」=「それをツールとして抽象
的思考が扱えるようになった」=「応用力・環境適応力の高い動物になった」と考え
られる。
16,脳科学のまとめ
1)体が脳を決めている、脳の機能は体があって生まれる
こころというものは脳が生み出している。つまり、脳がなければこころはない。
でも、体がなければ脳はないわけだから、結局は、体とこころは密接に関係してい
る。
2)ことば
人間は咽頭を持ったがゆえに、言葉をしゃべれるようになり、そして言葉をしゃ
べれるように脳が再編成されて、言葉を自由に操れるようになった。このことはと
ても大きな影響を脳に与えた。なぜかというと、言葉というものはコミュニケー
ションの手段としてあるだけじゃなくて、つまり、信号としてあるだけじゃなく
て、人間が抽象的な物事を考えるのに必要なツールになったからである。
3)「見る」とはものを歪める行為−一種の偏見である
見るとは不自由な行為であって、本当はありのままを見ていないことがわかって
きた。その理由を、世の中は三次元なのに網膜が二次元だからという点に求めた。
二次元の網膜に映ったものを、脳は強引に三次元に再解釈しなければならないとい
う脳が背負った宿命である。
それゆえに「見る」という行為は、おそらく人間の意識ではコントロールできな
くなってしまった、無意識の現象である。私たちは脳の解釈から逃れることができ
ない。
4)抽象的な思考
人間が抽象的な思考をする目的は何であろうか?おそらく生きるための知恵とし
て、目の前にある多くの事象のなかから隠れたルールを抽出するために重要であろ
う。
覚えなければいけない情報を有用化して保存するために、脳は一般化する「汎化」
ということをしている。その汎化をするために、脳はゆっくりと、そしてあいまい
に情報を蓄えていくことがわかった。それが我々の記憶である。
その〈あいまいさ〉の起源はシナプスにあることを知った。さらに、シナプスの
結合力が重要である。シナプスの結合力は記憶と関係がある。シナプスの結合力が
変化すると、記憶力も変化することが実験で確かめられている。 「池谷裕二による脳科学の解説2」
1,神経細胞(ニューロン)の特徴
神経細胞と神経細胞のつながりはネットワークをどんどん自分で書き替えてゆきま
す。脳の神経細胞のネットワークの安定は、そのつど、一回しか起こらないものかも
しれません。脳の神経細胞は活動依存的(自分の活動に影響されること)に自分で自
分を書き替えます。神経細胞のネットワークの構造そのものが変化していくこの現象
こそが、まさしく生命らしいと感じられます。生命の活動は一回性と不可逆性に彩ら
れています。
2,海馬と未来予測
海馬は記憶を担当する脳の部位ですが、最近、海馬は未来予測のために必要な部位
であると判明しました。海馬が破壊されたら記憶ができなくなることは周知の事実で
したが、「記憶がなくなれば、未来の予測ができなくなる」という研究成果は重大な
意味をもっています。確かに、なぜ進化の過程で記憶が生まれたのかという理由を想
像してみれば、未来予測のため以外には目的は考えられません。生命は未来の予測を
正確に行うために過去を記憶していたのではないかと推測できます。最近の海馬の実
験は記憶と未来を根本的に関連づけました。
海馬が損傷を受けたら認知症になることは認識されていましたが、認知症の初期症
状の一つは「未来に対して具体的なイメージが持てなくなる」です。海馬の役割は従
来は「過去」「記憶」に限定されていましたけれど、未来について大切な部位という
ことになれば、海馬の研究の重要性は倍増したとも言えます。
3,基 底 核
基底核は「手続き記憶(方法の記憶)」の座です。なにかのやり方、体を動かすこ
とに関連したプログラムを保存している脳部位なのです。
最近、無意識の能力を調べていく研究から、基底核は直感を生む場所であることが
わかってきました。
基底核は大人になっても成長を続けることがわかっています。赤ちゃんの脳はおよ
そ400グラムくらいですが、大人になると生まれてから3倍くらいの大きさにまで成
長し、それ以後は神経細胞は増えません。しかし、大人になっても成長する脳部位が
少しあることがわかってきました。それは、前頭葉・基底核・海馬です。基底核が成
長を続けるということは、「人生経験が直感力を育む」ことを意味しているようです。
4,記 憶
記憶は固定されたものではありません。記憶は積極的に再構築されるものです。と
りわけ、思い出すときに再構築されてしまうことがポイントです。思い出すという行
為によって記憶の内容は組み換わって新しいものになる、それがまた保管されて、そ
して次に思い出す時にもまた再構築されてゆきます。
記憶は生まれて変わり、生まれては変わる。この行程を繰り返していって、どんど
ん変化していく。だから「見た」という感覚がいかに怪しいかがよくわかる。
記憶の役割の一つとして、「時間の流れ」をつくることがある。記憶が残らないと、
時が止まってしまう。時計の針が進まなくて、ある特定の時間に立ち往生してしまう。
5,自分を認識する回路(自己観察能力)
側頭葉のある部位には自分を認識する回路がある。写真を見て自分であると認識す
る時に働く部位である。
頭頂葉と後頭葉の境にある角回という部位には不思議な機能がある。すなわち、世
間で言う「幽体離脱」という現象が起こるのである。体外から自分を眺めるという機
能はヒトの社会性を生むために必要な能力であるから、この能力がヒトをヒトとして
成長させていったのであろう。
6,他人観察能力
自己観察能力は「他者の存在」や「他者の意図」
をモニターする能力に転用できる。動物にはその回
路が組み込まれている。それが、高等な霊長類にな
ると、行動の模倣、つまり真似をするという能力に
進化する。真似をするというのはかなり高等な能力
である。他人のやっていることをただ眺めるだけではダメで、その行動を理解して、
さらには自分の行動に転写する必要がある。鏡に映すように自己投影する能力がない
と真似はできない。模倣の能力がある動物は環境への適応能力が高いし、社会を形成
することができる。
ヒトの場合はさらに、自分を他人の視点に置き換えて自分を眺めることができる。
そして、その能力を「自己修正」に使っている。そういうこころの構造は、長い進化
の過程で脳回路に刻まれた能力の転用であると考えられる。
7,こころの誕生
おそらく、進化の過程で、動物たちは他者の存在を意識できるようになった。そし
て、次のステップでは、その他者の仕草や表情を観察することによって、その行動の
根拠や理由を推測できるようになった。他者のこころの理解、これが社会的行動の種
になっている。
しかし、逆にこの他者モニターシステムを自分に対して使えば、今度は、自分の仕
草や表情を観察することができる。すると、他者にやっていたときのように、自分の行
動の理由を推測することができるようになる。このことが特に重要なポイントである。
こうした他者から自己へという観察の投影先の転換があって、はじめて自分にここ
ろがあることに自分で気づくようになったのでないかと想像できる。つまり、ヒトに
こころが生まれたのは、自分を観察できるようになったからであって、もっと言え
ば、それまでに先祖の動物たちが「他者を観察できる」ようになったということが前
提にある。
だから、ヒトは今でも、「身体表現を通じて自分を理解する」という不思議な手続
きを踏んでいる。
自分を知るためには、一度、外から自分を観察する必要があるが、これは「幽体離
脱」ともいえる。しかし、それによって、ヒトはこころが芽生えた。もっと厳密に言
うと、自分にこころがあることを知ってしまった。
8,睡眠の役割
睡眠は情報整理と記憶補強に使われている。この睡
眠の記憶補強効果は、目を閉じてリラックスしていた
だけでも、睡眠と同じ効果があることがわかった。つ
まり、学習促進に必要だったのは睡眠そのものではな
かったのである。環境からの情報入力を断ち切ること
で、脳に情報整理の猶予が与えられる、ちょっとし
たうたた寝でもよい。忙しくて十分な睡眠が得られな
くても脳に独自の作業時間を与えることができれば、
それで十分なのである。すると、脳の情報は自然に整理され、熟成される。
これは不眠症の人や、重要な仕事を翌日に控え緊張してなかなか寝付けない人にも
朗報であろう。眠れなくてもベットで横になるだけで、脳にとっては睡眠と同じ効果
があるのだから。眠れないことをそうストレスに感じる必要はないのだ。なお、テレ
ビを見ながらの休憩は効果がなく、あくまで外界から脳を隔離することが重要なので
ある。
9,睡眠と記憶
睡眠中の夢を見ている時(レム睡眠)、日中の記憶は数十倍の早送り再生がされ、
記憶の断片をつなぎ合わせて新しいストーリーを作り、記憶情報の整合性をはかって
います。
ノンレム睡眠時、「海馬の記憶を大脳皮質に伝えている」らしいのです。記憶の整
合性をはかる組み合わせを作り、これができたら情報を圧縮して大脳皮質に送り返し
ているらしいのです。海馬は大脳皮質を調教して、「この情報を保存しなさい」と教
えているわけです。
10,アルツハイマー病
βアミロイドが年齢とともに脳に溜まり、この物質は神経細胞を殺すぐらい強い毒
性を持っています。βアミロイドのうちでも、βアミロイド1−42という種類の毒
が溜まると認知症になるといわれています。
D H A 、カレー成分のクルミン、N S A I D という非ステロイド性抗炎症薬(アスピ
リンなど)、運動は予防効果や症状改善効果があることがわかっています。
「池谷裕二による脳科学の解説3」
1,
「年を取ったから物忘れをする」は科学的には間違い
脳の力を引き出すには、老化を気にするよりも「子どものような新鮮な視点で世界
を見られるか」を意識することのほうが、ずっと大切なのです。
2,脳の本質は、ものとものを結びつけること
3,30歳を過ぎてから頭はよくなる
あらゆる発見や創造の元である「あるものとあるものとのあいだにつながりを感じ
る能力」は30歳を超えた時から飛躍的に伸びるのです。
4,脳は疲れない 脳はいつでも元気いっぱいです。ぜんぜん疲れません。寝ているあいだでも脳は動
き続けます。一生使い続けても疲れません。「脳が疲れたなぁ」と思わず言いたくな
る時でも、実際に疲れているのは「目」です。
5,脳は刺激がないことに耐えられない
何の刺激のない部屋に2∼3日間放置されると、脳は幻覚や幻聴を生み出してしま
います。新しい刺激のないところでは、人間は生きてゆくのが難しくなります。脳は
本能的には刺激のあるほうに向かいます。
6,脳は、見たいものしか見ない
脳は、自分が混乱しないようにものを見たがります。見たいものしか見ない。脳は
疲れないぐらいによくはたらくけれど、その反面で非常に主観的で不自由な性質も
持っています。
7,脳の成長は非常に早い
実際の体験をするたびに脳にできていく回路は「二の何乗」というかたちで増えて
いきます。経験すればするほど飛躍的に脳の回路は緊密になるのです。
8,脳は、わからないことがあればウソをつく
脳は理不尽なことが起こるともっとも合理的な方法で決断します。また、海馬を損
傷して自分の記憶があやふやになると、欠けた記憶につじつまを合わせるように、自
我を保とうとして延々と作り話をしてしまいます。私たちは普段の何気ない会話で
も、知らないうちにウソを重ねています。
9,海馬は増やせる
脳の神経細胞は生まれた時がいちばん多く、その後は一秒に一つぐらいの猛ペース
で減る一方だという常識があります。しかし、脳の中で情報の選別を担当している
「海馬」の神経細胞は成人を超えても増えることがわかりました。ネズミにおいては
「海馬が大きければ大きいほど、かしこい」という実験結果が出ています。
10,旅は脳を鍛える
何もない環境にいたネズミを刺激的な環境に移すと数日で海馬が増えます。逆に、
刺激のある環境から何もないところへ移すと、ネズミの海馬は数日で駄目になりま
す。
海馬にとって一番刺激のあるものは空間の情報です。つまり、旅をするほど海馬に
刺激が与えられると推測ができます。
海馬が破壊されると、ネズミにはものすごいストレスがかかります。逆に、海馬が
発達していると胃潰瘍が少なくなります。海馬は「新しい環境はストレスではないの
だよ」と自分に伝える役割をするのです。海馬は新しいことを処理する能力に長けて
います。
11,記憶力を増す食べ物は、あることはある
イチョウ、伏苓という漢方薬の原料(生薬)は海馬の神経細胞を活性化させます。
今のところ効果があるものとしていちばんいいと思われるのは朝鮮人参です。お酒を
飲む前に摂ると記憶がとびにくいものとしては、サフランがあります。
12,やりはじめないと、やる気は出ない
やる気を生み出す場所は脳の側坐核にあり、そこの神経細胞が活動すればやる気が
出るという仕組みです。刺激が与えられると活動する場所なので、「やる気がない場
合でも、やりはじめるしかない」のです。やっているうちに側坐核が自己興奮してき
て、集中力が高まって気分が乗ってきます。「仕事をやるきがしないと思っても、実
際にやりはじめてみる」というのはかなりいい方法です。
13,眠ることで記憶が整理される
眠っているあいだに、脳は起きていたあいだの出来事を、あれこれつなぎあわせ
て、新しい組み合わせを作り出します。組み合わせた夢が現実と整合性がとれるかど
うかを検証しているのです。睡眠は、「きちんと整理整頓できた情報をしっかりと記
憶しよう」という、取捨選択の重要なプロセスなのです。眠らないということは、海
馬に情報を整理する猶予を与えないことになります。
14,失恋や失敗が人をかしこくする
実験をすると、ミスをしたサルのほうが記憶の定着
率がいいのです。脳は消去法のように、「ミスした方
向に進まないことで道を選ぶ」という性質がありま
す。間違えることは、脳にとっては飛躍のチャンスな
のです。失敗や失恋が人をかしこくさせるのは、この
せいです。
15,生命の危機が脳を働かせる
扁桃体や海馬をいちばん活躍させる状況は、生命の危機状態です。ちょっと部屋を
寒くするとか、お腹をちょっと空かせるという状態は、脳を余計に動かします。寒い
のは冬に入り餌の捕れない時期になるしるしですし、お腹を空かせるのは直に飢えに
つながるからなのです。
16,予想以上に脳は使い尽くせます
どんな年齢であっても、脳の力を伸ばしていけます。ふと「これ、おもしろいなぁ」
と感じることはとても大切なことです。なぜなら、自分の視点にひとつ新しいものが
加われば、脳の中のパターン認識が飛躍的に増えますので、新しい視点の獲得を繰り
返せば、脳はそれらの視点を組み合わせ、驚くほどおもしろい考えや発見を生み出し
ていけるのです。
17,問題はひとつずつ解こう
問題を背負い込んでしまいがちな人は、解決するべき問題をひとつずつ紙に書いて
みるといいかもしれません。問題をひとつずつ明らかにして、ひとつずつ個別に解い
てゆけば、きちんと解決することができる場合がほとんどだからです。脳は達成感を
快感として蓄えます。人生においてやりかけのことだけが募ってくると、達成感は生
まれてきません。達成感を生むためには、小さな目標を設定して、ひとつずつ解決し
ていくといいのではないでしょうか。
18,こころは脳のどこにどのように存在しているのか?
こころとは脳のプロセス上の産物にほかなりません。つまり、「こころとは脳が活
動している状態」を指し、こころは物体ではない。脳を細分化してもこころはどこに
も見いだせないであろう。
19,つながりの発見の大切さ
人のプロダクティブな活動はすべて、「つながりの発見」に根ざしているようだ。
幾多の次元で材料を編纂しながら、人は生きている。試行錯誤、探求と失敗の繰り返
し。人生はいわば編集作業だ。
外界にアンテナを巡らせることは、「つながりの発見」には必須である。情報入力
のためのアンテナ、これを認識力と言い換えてもよいであろう。入力なくしては出力
はありえない。次に問われることは、認知された情報に、いかに新規な視点を付加す
るかである。そして、従来の常識に打ち克ち、固定観念を打破して奮進する勇気もま
た必要とされるのである。
「池谷裕二による脳科学の解説:やる気の秘密」
1,脳は、もともとあきっぽくできている。三日坊主は生きていくために、脳がマンネ
リ化させるために起きる。
2,やる気は、じっとしても出てこない。カラダを動かして、初めて出てくる。
3,やる気が出るのは、「淡蒼球」という脳の部位の活動が活発になると、やる気も高
まる。
4,淡蒼球は無意識の領域にあり、自分の意志では動かせないが、連動する4つのス
イッチは自分の意志で動かすことができる。そのスイッチを入れることで淡蒼球を起
動し活性化させることができる。それが続けるコツ。
「淡蒼球を活発に動かす、4つのスイッチ」
これらのスイッチをオンにすると連動して淡蒼球が動きます
スイッチB(運動野にある)
:B o dy カラダを動かす
○カラダを動かすことで、入るスイッチ
○やる気がないときこそ、出かけてみる
スイッチE(海馬にある)
:E xp er i en ce いつもと違うことをする
○いつもと違う場所に行ったり、違うことをすることで入るスイッチ
○脳は新しいことでもすぐマンネリ化させるので、目線を変えてちょっとでも違う
ことをしてみると効果的。気分転換をしてみる。
スイッチR(テグメンタにある)
:Rew a r d ごほうびを与える
○ごほうびを用意することで、入るスイッチ
○気持ちいいことで刺激される「テグメンタ」は強いパワーを持っていて、続ける
ことの原動力になる。
スイッチI(後頭葉にある)
:I deo m o to r なりきる
○なりきることによって入るスイッチ
○思いこみが強いほど、脳はだまされやすくその気になる。
脳 の 構 造
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