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UV硬化樹脂

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UV硬化樹脂
活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス
104
UV硬化樹脂
紫外線(UV)あるいは電子線
田和徳
当社電子材料研究部ユニットチーフ
[ 紹介製品のお問い合わせ先 ]
当社樹脂・色材本部色材産業部
ジカル重合型とカチオン重合型に
装置の開発に後押しされて印刷分
分類できる。現在は種類の豊富さ、
野の製版材料、インキなどの用途
硬化技術は、室温での高速硬化性、
コスト面、供給面からアクリレー
へも展開された。さらに1980年
無溶剤で製造可能なことから、環
トモノマーが主に選択され、ラジ
代には安全性が高く、かつ多種多
境負荷の少ない硬化技術として知
カル重合型が主流となっている。
様なモノマー・オリゴマーや高性
られており、エネルギー線硬化樹
ラジカル重合型の光重合開始剤は
能な光ラジカル重合開始剤が開発
脂は従来の熱硬化樹脂に替わって
光(UV)を吸収し励起状態になり、
されたことに加え、光カチオン硬
塗料、インキ、接着剤、電子材料
開裂あるいは水素引き抜きを行う
化型が実用的に展開されると、フ
などの分野で実用化され、今やこ
ことでラジカルを発生させ重合の
ィルムを中心としたプラスチック
れら産業分野においては欠かすこ
引き金とする化合物(ベンゾフェ
および缶の保護コーティング材料
とのできない材料となっている。
ノン系など)である。一方、カチ
としても広く使用されるようにな
このうちUV硬化技術を利用した
オン重合型の光重合開始剤は光に
った。1990年代には光ファイバ
UV硬化樹脂の使用される分野は
よりカチオンを発生させ、それを
ーコーティング材に代表されるよ
その特長により大きく2つに分け
引き金とする化合物(スルホニウ
うなエレクトロニクス関連の用途
られる。1つは高速硬化性・無溶
ム系など)である。表1にUV硬化
向けが著しく成長し、2000年以
剤化を利用したコーティング・成
樹脂の重合型別構成成分を示す。
降は、フラットパネルディスプレ
(EB)を中心としたエネルギー線
型分野、もう1つはパターン形成
UV 硬化樹脂の利用分野
イ関連材料(プリズムレンズ、フ
が可能なことから主としてエレク
UV硬化技術は1960年代後半に
レネルレンズ、拡散レンズなど)
、
トロニクス関連用途で用いられる
初めてコーティング分野の木工用
精密機械分野、自動車分野など従
レジスト分野である。
塗料原料として実用化された。そ
来は展開できていなかった分野の
ここでは前者のコーティング・
の後、1970年代に反応性に富ん
用途にも適用されている。
成型分野で使用されるUV硬化樹
だアクリル系が広く採用され始め
当社の UV 硬化樹脂
脂について最近の動向をまとめる。
ると、強力な光源と効率的な照射
当社は界面活性剤メーカーとし
UV 硬化樹脂の構成成分
まずUV硬化樹脂の構成成分で
あるが、一般的には重合性モノマ
表1●UV硬化樹脂の重合型別構成成分
ラジカル重合型
カチオン重合型
重合性モノマー
アクリレートモノマー
ビニルエーテルモノマー
重合性オリゴマー
ウレタンアクリレート
ポリエステルアクリレート
エポキシアクリレート
アクリルアクリレート
ビニルエーテルオリゴマー
脂環式エポキシ樹脂
グリシジルエーテルエポキシ
光重合開始剤
ベンゾフェノン系
アセトフェノン系
チオキサントン系
スルホニウム系
ヨードニウム系
増感剤
3級アミンなど
−−
添加剤
重合禁止剤、各種フィラー
(充填材)
、染料、顔料、レベリング剤、
流動性調整剤、消泡剤、可塑剤など
ーである多官能モノマー、希釈モ
ノマー(低粘度化できるため、材
料の無溶剤化が可能)を主成分と
し、重合性オリゴマーおよび樹脂
硬化の開始剤として光重合開始剤、
場合によっては増感剤およびその
他添加剤が配合される。
UV硬化樹脂は反応機構からラ
三洋化成ニュース ❶ 2013 夏 No.479
表2●当社UVモノマー『ネオマー』シリーズ
製品名
ネオマー PA- 305
平均官能
基 数
構 造
外 観
粘 度
皮膚刺激性
mPa・(25
s
C)
15
1.0
粘度低下効果大
耐溶剤性と可とう性良好
18
2.0
硬化収縮率が小さく、
可とう性良好
1,100
0.0
皮膚刺激性が小さく、
耐摩耗性良好
83
0.3
皮膚刺激性が小さく、
低粘度で硬化速度が速い
95
0.0
硬化収縮率が小さく、
可とう性良好
7,000
0.2
皮膚刺激性が小さく、
架橋密度が高い
ポリプロピレングリコールジアクリレート
ネオマー NA-305 ネオペンチルグリコール(PO)nジアクリレート
2
ネオマー BA- 641 ビスフェノールA(EO)nジアクリレート
淡黄色液状
ネオマー TA- 401 トリメチロールプロパン(EO)nトリアクリレート
3
ネオマー TA- 505
トリメチロールプロパン(PO)nトリアクリレート
ネオマー DA-600
ジペンタエリスリトールペンタアクリレート
5
特 徴
性
状
硬化物
表3●当社UV硬化樹脂システム『サンラッド』シリーズ
項 目
製品名
外 観
ハーゼン単位色数
粘度
(mPa・s)
屈折率
サンラッドA
サンラッドB
サンラッドC
備 考
淡黄色液状
淡黄色液状
淡黄色液状
目 視
70
130
70
−
−
4,000
9,000
2,800
B型粘度計、25℃
1.55
1.56
1.50
アッベ屈折率計
透過率
(%)
90
90
90
400∼700nm
ヘイズ
0.6
0.3
0.3
−
−
密着性
100/100
100/100
100/100
PET/碁盤目試験
接着力
(N/cm)
−
−
−
−
20
オートグラフでのT剥離試験(PET/PET)
離型性
(mN)
15
17
−
−
オートグラフでの金型剥離試験
レンズ貼り合わ
せ用接着剤
−
−
推奨用途例
プリズムレンズ、フレネルレンズ、
拡散レンズなど
て従来から培ってきたポリエーテ
しており、所望の物性発現を可能
ル変性アルコールの合成技術およ
にしている。
ンキュアー』シリーズを製品化し
び種々の酸とのポリエステル化技
しかしながら近年では、UV硬
ている。特に『サンラッド』シリー
術を組み合わせることで、皮膚刺
化樹脂そのものの物性を満たすだ
ズは、フラットパネルディスプレ
激性の少ないポリエーテル変性タ
けでなく、各ユーザーで使用する
イにおけるレンズ用樹脂およびレ
イプのUVモノマー『ネオマー』シ
部材(充填材、基材など)との組み
ンズの貼り合わせ用接着剤として
リーズを上市し好評を得てきた
合わせまで考慮し、複合部材とし
。本
好評をいただいている[表3]
[表2]
。さらに時代が要望する、
て必要性能を発現させる要求が強
稿では『サンラッド』シリーズの最
より多彩な産業分野でのニーズに
くなってきている。そのような要
近のトピックスとして、金型から
応えるため、
この
『ネオマー』
シリー
求を満足させるために、当社では
の離型性に優れたUV硬化樹脂シ
ズとウレタン、エポキシ、ポリエ
各種モノマー、オリゴマー合成技
ステムについて紹介する。
ステルなどの合成技術を導入した
術に加え、界面活性剤の開発で培
金型成型上の技術課題
特長ある各種オリゴマーを配合し
った界面制御技術を応用すること
近年はフラットパネルディスプ
たUV硬化樹脂システム『サンラッ
で、UV硬化樹脂と充填材、ある
レイの高性能化に伴い、構成部材
ド』
シリーズの販売も行っている。
いは基材とのぬれ性をコントロー
であるプリズムレンズ、フレネル
特に、ポリウレタンエラストマ
ルし各種用途に適したUV硬化樹
レンズ、拡散レンズなどに微細な
ー原料の開発で培ったウレタン合
脂システムの開発を行っている。
凹凸を施し、集光特性などの光学
成技術は、種々のポリオールの分
『サンラッド』シリーズ、
『ファイ
特性を発現させる技術が導入され
子設計から分子量の制御に至るま
当社の UV 硬化樹脂システム
でさまざまな設計ノウハウを保持
当社ではUV硬化樹脂システム
三洋化成ニュース ❷ 2013 夏 No.479
ている。
これらレンズの作製は、円柱状
活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス
UV硬化樹脂
金型
離型
UV硬化樹脂
基材フィルム
タンク
金型からの離型性
巻き取り
金型ロール
特殊離型剤配合の
UV硬化樹脂
UV 照射
ノズル
冷却
基材フィルムとの密着性
基材フィルム
図 1 ●凹凸金型を用いたUV硬化樹脂の成型プロセス例
の 金 型 ロ ー ル を 用 い たRoll to
に導入したUV硬化樹脂システム
あり、硬化前は樹脂中に均一に相
Rollの連続生産プロセスにより行
を開発した。このシステムは持続
溶している。光重合により硬化す
。本生産プロセ
われている[図1]
的に優れた金型離型性を有するた
るとUV硬化樹脂のSP値が変化し、
スには高い生産性が要求されるが、
め生産性を低下させることがなく、
離型剤とのΔSP値が大きくなる
金型ロールからフィルムを剥離す
またこの離型剤は基材フィルムと
ため、離型剤は金型方向にブリー
るときの離型性が悪いと、極端に
UV硬化樹脂界面へはほとんど移
ドし、基材とUV硬化樹脂間の界
生産性が低下したり金型がダメー
行しないため、界面張力も低下さ
面張力を維持したうえで、金型と
ジを受け金型寿命が著しく低下す
せず、長期においてUV硬化樹脂
UV硬化樹脂間の界面張力を低下
るなどの課題を有していた。
と基材フィルムとの密着性を維持
。一方従来タイプの
させる[図2]
これらの課題に対して、従来で
することができる。
離型剤ではほとんどこの界面張力
は金型に随時離型剤を塗布する、
当社のUV硬化樹脂システムに
を低下させることができない。
あるいはシリコン系、フッ素系の
導入されているこの開発した離型
この開発離型剤の作用により硬
界面活性剤をUV硬化樹脂中に添
剤はリン酸エステルアミン塩系で
化後の樹脂を金型から離型する応
加するなどの方策がとられていた。
しかしながら、前者の方法では
高
高
離型剤塗布時に随時生産を停止す
る必要が生じ生産性が低下する、
また後者の方法では、基材フィル
ることができないなどの問題を抱
えていた。
離型性に優れた UV 硬化樹脂
従来離型剤使用
基材 │ 樹脂間界面張力
下し、十分な長期信頼性を確保す
目標範囲
金型 │ 樹脂間界面張力
ムとUV硬化樹脂との密着性が低
目標範囲
システム
当社は界面活性剤メーカーとし
開発離型剤使用
て培ってきた技術をもとに、金型
表面に選択的に移行する特殊離型
剤を設計し、これをUV硬化樹脂
低
図 2 ●離型剤による金型−UV硬化樹脂間の界面張力低下作用
三洋化成ニュース ❸ 2013 夏 No.479
低
活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス
UV硬化樹脂
性
状
硬化物
表4●当社開発品の物性および性能比較例
硬化樹脂を成型し、成型後の樹脂
項 目
当社開発品
当社従来品
備 考
外 観
淡黄色液状
淡黄色液状
目 視
ハーゼン単位色数
凹凸表面のリン濃度をESCA測定
。さらに、
により実施した[図3]
70
80
−
−
4,000
4,200
B型粘度計、25℃
それぞれのUV硬化樹脂に対する
1.55
1.55
アッベ屈折率計
透過率
(%)
90
90
400∼700nm
金型からの剥離応力をオートグラ
ヘイズ
0.6
0.7
−
−
[図4]
。
フにより測定した
粘度
(mPa・s)
屈折率
1.2
1.2
−
−
図3のデータより、金型側の樹
100/100
100/100
PET*/碁盤目試験
15
30
オートグラフでの金型剥離試験
脂凹凸表面のリン濃度が高いこと
色度
(YI)
密着性
離型性
(mN)
*PET:東洋紡社製 コスモファインA-4300
から、当社が独自に設計したリン
酸エステルアミン塩は選択的に金
力が低減され、離型が容易となる。
る理由はリン酸エステルと金属と
型方面にのみブリードアウトする
また基材と樹脂間の界面張力は低
の強い親和力によるものである。
ことがわかる。また図4のデータ
下しないため、基材密着性を確保
本メカニズムを裏付けるデータ
より、ブリードアウトした離型剤
[表4]
。
なお本離
することができる
として、金型を用いて種々のリン
が金型表面の自由エネルギーを低
型剤が金型面のみ選択的に移行す
酸エステル化合物を導入したUV
下させることでUV樹脂の金型か
らの剥離応力が低下し、離型性が
〈当社品〉
リン酸エステルアミン塩
金型側 基材フィルム側
0.4
向上することがわかる。なお本離
型剤を使用した製品は長期信頼性
試験
(高温85℃、低温−40℃、高
樹脂表面のリン濃度
温高湿65℃、90%)においても、
0.3
基材との密着性が確保できること
を確認している。
0.2
近年の省エネルギー、ゼロエミ
(ppm)
ッションに対する関心の高まりか
0.1
ら、UV硬化樹脂システムに対す
る期待が大きくなってきている。
0
1
1.2
1.4
1.6
UV 樹脂/リン酸エステルのΔSP 値
1.8
2
図3● UV 硬化樹脂
(硬化後)
/各種リン酸エステルΔSP値差と樹脂表面のリン濃度の関係
さらに新たな電子材料機器の普及
に伴い、材料に求められる要求性
能も年々高度化してきている。こ
35
のような状況下において、当社は
離型性
︵金型からの剥離応力︶
過去から培ってきた技術を基盤と
30
したオリジナリティーの高い技術
で新しい機能・付加価値のある製
25
品を生みだし、最新の電気電子機
器への搭載を目指すべく、これか
20
〈当社品〉
リン酸エステルアミン塩
(mN) 15
10
0.05 0.15 0.25 0.35 0.45
金型側の樹脂表面のリン濃度(ppm)
図 4 ●金型側の樹脂表面のリン濃度/離型性
(金型からの剥離応力)
の関係
三洋化成ニュース ❹ 2013 夏 No.479
らも開発に注力していく。
参考文献
1)UV・EB硬化技術IV(シーエムシー
出版)
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