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2013年1月7日 医薬品製造における次世代工場を目指して

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2013年1月7日 医薬品製造における次世代工場を目指して
C-CAST
CORPORATION
業界トピックス
(Vol.11)
株式会社 シ-・キャスト
代表
荻原
健一
医薬品製造における次世代工場を目指して
-製剤機械技術シンポジウム開催される-
1
概要
製剤機械技術学会は、11月30日に慶應義塾大学薬学部において「医薬品製造における次世代
工場を目指して」をテーマに製剤機械技術シンポジウムを開催した。同シンポジウムは副題を
「医薬品製造における技術革新の現状と今後の課題」として、最近の医薬品製造に関わる新技術
や新しいアプローチによる品質保証と生産性向上を実現するための生産技術を紹介した。また、
講演後には演者によるパネルディスカッションが行われ参加者との活発な質疑や議論が行なわれ
た。
製剤機械技術シンポジウムは今回で第13回となるが、過去には「製剤機械技術の進歩と今後の
展望」(第10回)、「PATの現状と実現に向けて」(第11回)、「製品ライフサイクル戦略」
(第12回)などのテーマで毎年行われている。
2
自動化と連続化がキーとなるか
講演は 5 つのテーマで行われたが、株式会社ツムラの橋ヶ谷氏による「製造設備の最適状態管
理による品質保証と生産性向上を実現するための生産技術」と題された講演が興味を引いた。さ
まざまな環境変化が起こる医薬品産業の状況において、従来の生産システムを継承して行くだけ
では製造コストが上昇し利益の出難い構造になるとして、同社が独自に開発した自動化技術によ
る少人化・無人化製造が紹介された。同社では既に 1991 年にはサーボモーターを包装設備に用い
る技術を開発し、さらには 2003 年にロボットを使ったケーサーや搬送ロボットなどの開発を行ってい
る。また、現在では、容器の洗浄乾燥機、デパレパレタイズ装置あるいは反転篩過装置など ロボッ
ト技術やサーボ技術などを用いた生産システムの開発を行っている。
もともと医薬品の品質保証・生産性などの更なる向上や作業者の高齢化対応を目指し、独自に
開発された生産システムであるが、これらの開発はロボットメーカやエンジニアリング会社に頼らず、
基本的に全て自社開発で行っているところに会場からも驚きの声が上がっていた。
また、日本エム・ケー・エス株式会社の荻原(秀昭)氏からは医薬品製造と類似していると言
われる半導体生産ラインの自動化の例が紹介された。半導体も医薬品と同じくクリーンルーム内
で製造され、先端産業、設備産業などの点で良く似ていると称されるが、今日では自動化の度合
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いが大きく異なっている。半導体の生産現場では早くからMES(製造管理システム)が導入されて
いたが、それでも作業者の作業ミス、製造ラインからの転落による製品の破損、設定の間違いな
どで、いとも簡単に数千万円単位の損失が度重なるような状況でもあった。その後、生産プロセ
ス中のデータ収集を行い多変量解析等による徹底したデータ解析により設備や装置の不安定要因
や予知診断などを行うことでこれらの多くの課題を解決する事が出来ている。
また、半導体産業では30年かけて生
産ラインの標準化を確立して来ている。
基本形状から製品/材料あるいは作業
手順や通信プロトコル、データ収集方
法など生産に関わる数百種類のSEMIス
タンダードを制定することにより安上
がりで融通の効く生産ラインの構築や
自動化が実現できている。このように
半導体生産ラインでは思い切った標準
化を行うことで今日の自動化が実現さ
れていることになるが、標準化が大き
く遅れている医薬品製造も見習うべき点は多い。
一方、株式会社ユーロテクノの遠藤氏からは医薬品製造の連続化という観点から新しい生産方
式が紹介された。「最新の固形剤連続生産システムの現状と今後の展望」と題して、固形剤の連
続生産プロセスの例を示した。
石油、化学、食品産業を初め多くの産業では標準的な生産プロセスとして連続生産プロセスが
確立されている。また、バッチプロセスの代表であった製鉄プラントにおいても過去には高炉で
作られた溶鋼を鋳型に流し込んで、自然に冷やして固めた鋼鉄を再び加熱して圧延機で延ばし鋼
片を作っていた。しかし、これは冷却したものを再加熱するために熱効率が悪いものだった。1970
年代に連続鋳造機が開発されると、冷やして固める分塊工程が省かれ、高炉からの溶鋼を目的の
製品である鋼片まで一度に作るようになり、生産性向上と省エネルギーが実現され、現在では世
界のほぼ全ての製鉄所で連続鋳造機が用いられている。
一方、医薬品産業では連続生産システムのメリットが認められながらも、厳格な品質管理への
要求や多品種少量生産など様々な理由から人手に頼ったバッチプロセスによる生産が行なわれて
きた。 しかし、昨今の健康産業へのニーズの高まりにより、医薬品産業でも品質レベルを維持
しつつ生産量の増大とコスト削減が必要という認識も高まってきている。このような背景もあり
GEA社が開発した最新固形剤連続生産システムは、著しく進歩した近年のプロセス制御技術を組み
込むことで、製品の品質が容易に追跡できて、フィードバックやフィードフォーワード制御によ
り、製品が不良品となる前に重要な品質特性を修正するプロセスパラメーターを自動的に補正し、
不良品の発生を大幅に減らすことを可能にしている。講演ではGEA連続生産システムの概要及びそ
の現状と今後の展望について報告された。
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ユニークなシステムも登場
日本メジフィジックス株式会社の櫻井氏からは放射性医薬品における生産設備の特徴として無
菌環境の維持と放射線管理に関する講演が行なわれた。
放射性医薬品とは核医学の分野において
診断もしくは治療目的で利用される放射性
同位元素(ラジオアイソトープ:RI)を含
む医薬品である。その多くは無菌操作法に
より製造される無菌注射剤であり、生産に
おいては日本薬局方や各種ガイドラインで
要求される無菌操作環境を維持するための
設備が必要となっている。また、RI を含む
ことからその飛散防止のための封じ込め設
備も必要となり、相反する思想に基づく設
備設計が必要である。封じ込め設備の設計思想については、基本的には高活性薬理作用を有する
薬剤の生産設備と同様であるが、これに加え RI から放出される放射線による作業者被曝防止の
ための遮蔽体設置の他、遠隔操作や自動化の技術も応用されることになる。講演では放射能・放
射線管理の特殊性の観点より放射性医薬品の生産設備が紹介された。
また、日立造船株式会社の中村氏からは、医薬品の製造管理および品質管理のサポートツール
として生産ライン映像管理システム「見レコ」が紹介された。
医薬品はGMPの観点からハード(設備)・ソフト(運用)に関し、製造管理/品質管理規制・構造
設備規制を定めて、この規制に従い製造および品質管理が実施されているが、実際、指図書とお
りに作業されていることをどのように管理・検証をするのかが難しい。何か問題が起ったとき、
「たぶん」「はず」?では検証は困難であり、裏付けのある検証ができなければ改善・解決に至
らない。
生産現場でなにが起っているのか、単にコンビニエンスストアのようにカメラで映像記録してい
るだけではなく、映像と事象の紐づけを行うことで製造現場と製品を可視化し、製造管理・品質
管理ツールとしての活用及びトレーサビリティーへの運用が紹介された。
3. おわりに
医薬品関連の学会や団体の講演会やセミナーでは、医薬品産業の特性から規制や品質に関する
ものがどうしても多い。今回の製剤機械技術シンポジウムでは、これらを差し置いて「生産、自
動化、連続化」といった切り口から取り組んだことは大変興味深い。
研究開発やGMP等に関わるテーマが多い中で医薬品製造にスポットを当てた今回のシンポジウ
ムは物づくりを得意としている日本として欠かすことのできない取り組みである。
近年、明るい話題に乏しい日本経済の中で、我が国の医薬品製造が世界に先駆けた新しい取組
みを行っていただき、大いなる成果を出していただきたいと願っている。
以上
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