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なぜカナダ? 留学中の平成 10 年卒、池本です。現在私はカナダの

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なぜカナダ? 留学中の平成 10 年卒、池本です。現在私はカナダの
なぜカナダ?
留学中の平成 10 年卒、池本です。現在私はカナダのアルバータ州、州都の Edmonton に
ある University of Alberta(写真1、2)に留学中です。なぜこのような場所にいるかとい
うと…簡単にこれまでの流れを書き連ねてみました。
(写真1)医学部キャンパス。異常に広い。
(写真2)病院正面。大規模に拡張中です。
膵島移植
現在わが国の糖尿病患者は 740 万人、その予備軍は 880 万人で、両方を合わせた数は 1620
万人にのぼると推定されており、厚生労働省の重点疾患にも挙げられています。中でも我々
の徳島県はワースト県として知られており、同様に県の保健課題として挙げられています。
その全てが対象ではないものの、1型糖尿病の根治的治療は補填療法としての膵・膵島移
植しかありません。中でも膵島移植は比較的レシピエントに対する侵襲が小さく、次世代
の糖尿病根治療法と考えられているこの方法はわが国でも 1998 年に開始され、すでに何例
かの移植が行われています(詳しくは…膵・膵島移植研究会
膵島移植班ホームページ
→http://square.umin.ac.jp/JITR/をご覧下さい)。
しかしながら、他の臓器移植と同様に、本邦におけるドナー不足は深刻であり、残念な
がら飛躍的に移植数が増加していないのが現状です。私は 2005 年に当科の島田教授にお許
し を 頂 き Canada で 開 か れ た 5th Human Islet Isolation and Transplantation
Techniques(March 20th-23rd,2005,Banff、詳細は徳島大学臓器病態外科ホームページ内の
こちらを御覧下さい→www.tokugeka.com/topics/20050320/index.html)に参加させて頂き
ました。そこで主催者であるProf.Shapiro(写真3)と面識を持つ事ができ、どうせ行くな
らopinion leaderたるtop instituteとの思いから、島田教授のお導きで、受け入れ先の
Prof.Shapiroも快諾して頂いた事もあり、こちらに御世話になることになったのです。
(写真3)Banff にて。左から 2 番目が James Shapiro
カナダはお姉さん?
カナダは人口約 3200 万人で、首都はオタワです。公用語は英語ですが、東部カナダには
フランス語しか通じない州があります。基本的に移民国家であり、マイノリティと呼ばれ
る人種(アジア人、ヒスパニック、黒人)が大都市圏では 3 割を超え、すでにマイノリテ
ィではなくなっているのが現状の巨大なモザイク国家です。イギリスとは結びつきが強く、
いまだにエリザベス女王が統治権を持っており、カナダ人かと思うとイギリスからの移民
だったりします。この移民政策のためか他国籍、他人種に対し寛容で、露骨な差別もなく、
また英語圏にしては非常に治安の良い国です。アメリカとの関係は深いですが、お互いが
一線を引いている感があり、これを的確に表しているのがこの比喩かと思います。曰く「ア
メリカは喧嘩っ早いやんちゃな弟で、カナダは図書館で本を読んでいるようなおとなしい
姉である」。
留学準備
4 月くらいに出発という予定だけ立てて、一応Visa(Working permit)の申請をしてお
きました(カナダ大使館→http://www.canadanet.or.jp/index.html)。ぎりぎりまで病棟で
臨床を、また研究を、更には学生さん、後輩の指導をさせて頂けたので、非常に充実した
状態で出発に臨む事ができました。ただし出発準備にあまり時間が取れなかったのも事実
で、4 月に入ってから大急ぎで準備を整えました。英語圏への留学ということで、結構余裕
綽綽でしたがいざ出発前となると家族任せで何も出来ておらずかなり冷や冷やしました。
意外とエドモントンに留学している日本人の方は少なく(医学部門全体で 4-5 人でしょう
か?)、また大学側も個人情報に当たるとして国籍についての情報提供はできないとのこと
で結局「地球の暮らし方・カナダ」とインターネットを頼りに用意を進めました。
一応家族(妻、7 歳の娘)で渡航することにしていましたので、服など急がぬものは宅急
便(家内が用意をして出発 1 ヶ月前に発送したので正直よく知りませんが、カナダの居住
地が決まらなくても発送でき、倉庫止めにしておいてくれます。住所が決まったら代行で
通関させてくれ、door to doorで運んで来てくれます)で別送し、持てるだけのスーツケー
ス(8 つ!)を持ちとにかく 4 月に出発しました。関西国際空港からおよそ 10 時間でバン
クーバー国際空港に着き、Immugurationで何時間も待たされた後入国の手続きをしました。
しかし並んでいる人が多かっただけで、実際の入国審査は「ふーん、アルバータ大学で働
くんだ。がんばってね」のような感じですぐ終わりました。その後Domestic airportの方へ
移動し空路 1 時間でエドモントンへ向かいました。日本は 4 月下旬ですでに半袖だったか
と思いますが、エドモントン到着時は気温 4 度で、カナダの寒さをいきなり思い知りまし
た(写真4)
。結局Visaの手配から引越しなど全部業者に頼むことなく自分達ですることに
なりました。出国準備の詳細につきお知りになりたい方は、書き尽せませんので、直接私
までe-mail下さい→ [email protected]、または[email protected])。
(写真4)日本の春に程遠い、寒々しい街角
Edmontonについて
Edmonton はカナダ西部の Rocky Moutains のふもとアルバータ州の州都(写真5、6)
で、人口約 101 万人です。比較しやすいように日本の面積で考えると、アルバータ州には
丁度日本が 2 つ入ります。人口あたりの公園面積はカナダでも随一(写真7)で、そこら
じゅうにウサギやリスがチョロチョロしており(野生です。写真8、9)、自然が非常に豊
かです。そのせいかなにもかもがゆったりとした余裕を感じさせる都市です。
エドモントンの大まかな位置。
(写真6)街には活気がある。
(写真8)至るところにウサギがいる。
(写真 5)街の中心部では常になにかしらの催しが開かれている。
(写真7)緑と近代的建築の調和。
(写真9)リスもいる。
緯度としては北海道よりはるかに北に位置し、植生は針葉樹林(ツンドラ?)です。冬
季は最大で-40℃まで冷え込みます。ただし湿気が強くないのと豪雪ではないので、なんと
か暮らせるようですが、冬季はこちらのスノーブーツ、耐寒のスノーウエアでないと本気
で命に関ります。-20℃以下で子供が冬季に戸外でいきなり深呼吸するのも肺障害の危険が
あり注意が必要です。その一方で夏は非常に短く、皆戸外で遊ぶのに全力投球しています。
本当に短い夏を精一杯満喫しているのが感じられます。また極地に近いが故に、夏季は 5
時前に日が昇り、22時ごろに日没(写真10)なので、夕飯を食べてから子供と外に遊
びに行くことができます。8 時過ぎでも「あれ、まだ 4 時ごろ?」という感覚で、ちょっと
おかしくなります。
(写真10)午後 9 時 45 分。日没です。自宅の部屋から
U of A
私の留学先である University of Alberta(U of A)は創立 100 年を迎え、総教員・学生数約
3 万名を擁し、カナダでも屈指の名門州立大学です。医学分野では特に糖尿病、小児循環器
が世界的に有名であり、多数の研究者、臨床家が莫大な北米資本の元で精力的に活動して
います。
なかでも私の職場は Clinical Islet Transplant Program で、膵島移植を行う U of A の医
学部・病院部門です。Boss の James(写真11)からは免疫寛容(特に alloreactive T cell
と Regulatory Tcell の免疫寛容誘導の関係について)の project を進めるようにと言って頂
き、小動物を用いてこの研究を行っています(写真 12)。U of A の中の歯学部・薬学部の建
物の中(写真 13)に Surgical Medical Research Institute という Section があり(Transplant
tolerance lab とも呼ばれています)、そちらで月、水の午後、木、金と研究を行っています。
建物は実に古いですが、実験設備自体は案外最新のものがそろっており、必要にして十分
な環境と言えるかと思います。さらに、移植実験を数多くしている lab ならではかと思いま
すが、小動物専用の麻酔器があったりします(写真 14)。多数の研究者が平行して多数の
project を手がけていますが、space は十分あり(写真 15)、また効率的に手伝ってくれる
technician がいるので、意外と順番待ちなどのストレスはありません。
(写真 11)Boss の James と
(写真 13)Dentisty/Pharmacy building
(写真 12)mouse 実験中
(写真14)マウス・ラット用の麻酔器
(写真15)仲良く並んで実験中
最初に免疫学の Dr.Colin Anderson に面談して実験の打ち合わせをした時に、
「Tetsuya、
desk はあるの?」と言われ、まだないと答えると、どこかに電話して問い合わせをし、用
意をしてくれました。
「James(Shapiro)の Desk を使っても良いことになった」と告げられ、
実際見に行くと lab の一室で非常に大きな部屋の一丁前な机を与えられびっくりでした(写
真16)。
(写真16)デスクです。
臨床に直結する実験が多いだけに、その前段階としての大動物実験もかなりの規模で行
われています。主にブタ(70Kg-300Kg)が用いられていますが、数々の実験に参加するチ
ャンスに恵まれました(写真 17,18)。余談ですが、カナダではまだ実験犬が使われていま
す(ビーグルよりもハスキー犬のようですが…)。ブタの実験としては、Islet の Pig Islet
Isolation、もしくは CV を Cut down で確保したのち IVGTT、担膵島肝の摘出などを行い
ましたが、外科のスキルを持っているということで、意外と重宝がられました(他のポス
ドクは必ずしも外科医とは限らないため)。
(写真 17)ブタの膵摘出。Experimental Firm にて
(写真 18)ブタ肝臓摘出。Christian と。
火曜日は James の肝胆膵外来(PD、TP など膵切症例、lap-C、Lap-splenectomy 等の
肝胆膵内視鏡手術症例が多い)、水曜日は Islet transplantation の患者さんの外来に出てい
ます。一番最初、見学といった軽い気持ちで行ったのですが、「さあ、始めようか」といき
なりカルテを渡されて戸惑いました(写真 19,20)。予診を取るのかと思い、たどたどしい
英語でやっとこさそれなりの所見を取って James の元に参上すると「どう?元気な患者さ
んなの?」などとつっこまれ、あいまいに Oh,Yeah などと答えると、
「よし、じゃあオペの
ムンテラをしよう」と言われたりして、大慌てしました。
(今思うと James の外来に来てい
る患者さんは何かしらの紹介医を通って来ており、基本的な Physical check はほとんど済
んでいるのです。腕試しだった、と言うところでしょうか)。なにせ薬が分からないのと、
カナダの医療システムが日本のそれと根本的に異なるので、四苦八苦しています。
(写真 19)カルテまとめ中。
(写真 20)笑う余裕もなし。
カナダでは医療保険に加入している人はほぼ 100%保険で賄われます(ただし救急車、投
薬等は extra の保険を掛ける必要がありますが、働いている人はほとんど事業主が掛けてく
れています)
。病院負担になるために病院はなるべく入院期間短縮を目指しており、ある意
味露骨なほどです。PD でも前日入院(下手したら当日入院)、ドレーンが入ったままでも
退院させ、病理結果が Cancer なら Cross Cancer へ、benigin なら family doctor へ後送し
ています。医療費はすべて病院負担となるからです。外来も(定期的フォローアップも)
極めてあっさりしたもので、顔をみて終わりということも珍しくありません。ムンテラも
極めて簡潔で、書類に詳しく書いてあるからと、おもむろにサインを求めます。ひとつ強
く印象に残ったのは、患者さんがかなり深く勉強してきているところです。何も自分の病
気のことだけでなく、James のこと、U of A hospital における入院環境のことなどもです。
患者さんに尋ねると、年齢、社会的立場、知的教養の程度に関わらず、十中八九ネットで
調べたとおっしゃいます。カナダのインターネット普及率を考えれば納得出来ますが、改
めて情報の持つ力を思い知らされました。
何ヶ月か経ったところで大学からの許可が下り、膵島分離・精製に参加することを許され
ました。膵島分離用の lab は普通のビルの一角にあり、Hepa system を備えた clinical lab
です。中には何人もの technician(交代制で 24 時間呼び出しです)がおり、摘出膵臓が届
き次第 24 時間体制で膵島分離を行っています(エア・カナダが移植に協力的で、接続が良
いときは旅客機に乗ってカナダ全土から膵臓はやってきます。条件が整わない時はこちら
から小型ジェットを飛ばして膵臓だけコンテナー(写真 21)で送られて来ます)。
(写真 21)専用のバッグ
エア・カナダ内にあったら臓器です
(写真 22)入室時
Local donor(U of A Hospital で行える範囲、主として Alberta 州内)であれば一報あってか
らすぐ摘出、分離に入れますが、州外(特に東カナダ)でドナーが出た場合は下手すると
8-12 時間位待つこともあります。Lab の内部は無菌的清潔に保たれており入室時に手洗い
に準じて着替えを行った後、膵島分離の section に入室します(写真 22)。無菌的に搬送さ
れてきた膵臓の主膵管にカニュレーションしたのちバイオポンプで Serva(酵素)を注入、
膨化させ、その後用手的に破砕し、更に COBE2991 という連続比重遠心の可能な機械を用
いて精製します(写真 23,24)。
(写真 23)清潔操作です
(写真 24)ベンチ内でトリミング中
(写真)KOBE 2991。
厳格な Regulatuon があり、また shipping の条件も厳しいため、全例移植される訳ではあ
りませんが、私のいる間に丁度 U of A の移植が 100 例を数えました。このため 100 例目の
移植時はマスコミが押しかけ、大変な騒ぎでした(写真 25)。
移植は前述した如く、局所麻酔下にエコーガイド下に肝右葉の末梢門脈を穿刺し(写真 26)、
本幹にカニュレーションしたのち、点滴と同じ要領で注入します(写真 27)。その間患者さ
んは完全に alart なので移植手術というよりアンギオに近い印象です。確かに低侵襲といわ
れるのもうなずけるかと思います。
(写真 26)エコーガイド下穿刺
(写真 27)点滴のように移植
週末
月曜は”Hi,Tetsuya,How’s gone? How about the weekend?”と必ず聞かれます。週末は家
族がある人は有意義に家族と過ごす人が、また恋人と、気の会う仲間と楽しく過ごすのが
カナダ流”Cool!”のようです。意外と Civic Holiday も多く、また Halloween、Canada day
などのイベントも多いので、今週末どうしよう?と迷うことは少ないように思います。天
気が許せば戸外へ!というのがこちらの楽しみ方のようです。車で 1 時間弱の National
Erk Park へ向かうのもよし(写真 28)、夏にはプールとして開放されるダウンタウンの噴
水(写真 29)でゆっくりタバコをくゆらしながら子供の遊ぶのを見つつ読書もよし、また
バーべキューを試すの良いかも知れません(写真 30)。
(写真 28)目の前をバイソンが行く。
(写真 29)市役所前噴水。
(写真 30)肉は脂身が少なく沢山食べれます
さらにカナダ人は party 好きです。何かにつけ家で party(BBQ)をしようとします。ポット
ラックという一品持ち寄り式のもので(host が肉か魚のメイン料理を用意するという暗黙
の了解があるそうです)
、国籍がさまざまであれば、いろんな料理が楽しめます。敷地内で
あれば子供は子供同士遊んどれ、という感じで、大人同士しこたま飲んで車で帰っていき
ます(警察官主催のパーティでもそうなので、飲酒による違反自体がないのかと勘違いし
そうですが、そうではないと後で知りました。アルコール血中濃度が0でなくてもいいだ
けでした)。ドンちゃん騒ぎの予想されるパーティの翌日のカンファは予め 1 時間ほど遅ら
せてあったりします。とにかく「帰りにちょこっと一杯行きませんか?」という日本的か
つ極めて good な風習とそのような店はなく、健全な party があるだけです。
(写真)Jason と
(写真)免疫学 Boss の Colin と
サッカー
Edmonoton ではスポーツが盛んです。自分でするのも、見るのもみんな大好きです。Foot
ball only かと思っていましたが、意外と Soccer は人気のあるスポーツで、小さな子供から、
かなりのおっさんまで、びしっとユニフォーム、レガース、スパイクを履いて練習してい
ます。基本的にどこのグラウンドでも芝で、我々の学生時代を考えると非常にうらやまし
い環境ですが、はっきり言ってあまりレベルは高くなさそうです(雪が降ると練習できな
いので底上げがなされないのが最大の理由のようです)。しかし皆が楽しんでプレーしてい
る環境は羨ましい限りです。2007 年夏には FIFA World Cup U-20 が開催され、Edmonoton
でも多数の試合が行われたため、応援に行って来ました。残念ながら途中で日本が敗退し
てしまったので、君が代を歌う機会に恵まれませんでしたが、カナダナショナルチームの
試合では 1 プレーごとに拍手やため息、ブーイングといった観客全体の一体感があり、試
合も若い世代のプレーを目の当たりにすることが出来、大満足でした(写真 31)。また、U
of A Hospital 主体の indoor soccer team に参加し、毎週月曜の 21 時からリーグ戦を戦って
います(写真 32,33)。言葉が通じなくても、いいプレーを見せることで、分かり合えるこ
とも肌で感じ、スポーツの素晴らしさに改めて気付かされました。
(写真 31)カナダの応援です。
(写真 32)チーム名 Blue Scrpions
(写真 33)今でも医局のユニフォーム
休暇
カナダはやはりその雄大な大自然が魅力の一つかと思います。Post Doctoral Fellow は夏
季休暇が認められているので、夏休みを取って Canadian Rocky Mountains へ家族と出か
けました。Banff、Jasper、Lake Luise などの壮大な自然が残る国立公園で、日本人観光
客が多い場所としても有名です。確かに日本では見ることの出来ないような大自然であり、
山岳であり、湖でした。このような偉大な大自然に抱かれていると、外来でへこんでいる
ことや実験が上手く進まぬことなど、日常の雑事やストレスが本当に取るに足らぬことと
思えて来るので不思議です。Banff に宿泊しましたが、街中を Erk が普通に歩いていまし
た(写真 34-37)。
(写真 34)コロンビア大氷河。夏でも寒い。
(写真 35)雄の Erk だと思われる
(写真 36)Lake Louise にてカヌー
(写真 37)Lake Morain にて
雪
やはりエドモントン(カナダ)は雪なくして語れぬかと思います。冬季(夏は短く、9 月く
らいから一気に冬になります)は最高でも-10℃程度までしか上がらず(写真 38)、雪もさ
らさらと良く降ります。しかし理由ははっきりと分かりませんが(こちらの方によると空
気が乾燥しているためとか、防寒具がしっかりしているためとか聞きますが)、ときに日本
のほうが寒かったなと感じます。実際はピリピリするような寒さで、特に子供はきっちり
と防寒をしてやらないと容易に凍傷になるようですが、反面、室内はどこもセントラルヒ
ーティングで、中では半そでで暮らしています。その気温差は相当なものです。アイスス
ケートはそこらじゅうの学校の中(大抵ひとつはリンクを持っています)、池などで無料で、
スキーは街のすぐ近くでかなり安価に楽しむことが出来ます。自動車の運転はかなり気を
使いますが、条件の悪いときは無理に運転せずに公共機関か時間外ならタクシーを使って
います。一般家庭、町並み、公園は全てクリスマスに向けライトアップされています(写
真 39)。
(写真 38)二重サッシの外側に氷の結晶がつく
(写真 39)クリスマス前には公園がライトアップされる
日本
いままで 30 何年間生きてきてこれほど自分の Nationality を強く意識したことはありま
せんでした。良い意味でも悪い意味でも自分は日本人である、という感覚です。日本のも
のが手に入りにくい(BC やトロントでは日本人が多くそんなことはないと聞きますが)た
めにあらゆる日本のものが懐かしく、また日本的なものに惹かれます。それと同時にいか
に自分が母国について無知であるか、内省を含めいかに軽薄な価値観しか持っていなかっ
たかを痛切に思い知らされました。カナダ人、アメリカ人、他アジアの人々、ヨーロッパ
の人々と触れ合って感じるのは、やはり我々がいかに日本人としてのアイデンティティを
教えられていない、また教えていないということです。文化的、儀礼的なことのみならず、
その歴史―戦争について、その日本の功罪、さらに医学の分野においては外科の発達、移
植医療について、果てはなぜここまで脳死が受容され得ないのかという民俗学的、文化的
背景も突っ込まれると返答に窮してしまいます。また、英語教育も然りです。研究内容は
それほど大したことがないのに、英語の表現が私より上手いために重用されるというよう
な悔しい思いを何回か経験しました。論理が重視されるといっても、やはり微妙なニュア
ンスを伝えられる方が得なのです。必ずしも最初に英会話ありきとは思いませんが、他の
国の会話力(英語教育)がうらやましく思うこともありました。
今後
今後は今までと同様カナダの医療に密着しつつ広く北米の移植医療(膵島移植)を見聞
し吸収したいと思います。実験も調節性 T 細胞(膵島特異的調節性 T 細胞?)や DC の知
見を深化させつつ移植免疫を研究していきたいと思っています。
謝辞
このようにカナダで暮らし、学びかつ働くといった貴重な留学経験を御許可頂き、また
著名な施設を御推挙頂いた当科の島田教授に厚く御礼申し上げると共に、現在医局で粉骨
砕身されているスタッフの先生方に御礼申し上げます。特に、中途半端にしていることが
多く、多大なご迷惑をお掛けいたしましたことを心よりお詫び申し上げます。また、病棟、
実験など医局を支える先生方にも御礼申し上げると共に、この雑記が留学の一助になれば
幸甚でございます。今後とも先生、諸先輩方に宜しく御教導賜りますようお願い申し上げ
つつこの稿を終えたいと思います。
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