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障害児の地域支援の充実に向けた提言案

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障害児の地域支援の充実に向けた提言案
2014.4.14
障害児の地域支援の充実に向けた提言案
奈良県自立支援協議会療育ワーキングチーム
(療育・教育部会、生活部会で共同設置)
2013年度、本ワーキングチームは、児童発達支援センターなど13カ所のヒアリン
グを実施してきた。その結果を基に、地域における障害児の療育・支援体制整備のために、
有効で不可欠な対処策を整理する。これは今後数年間に実現すべき差し迫った課題であり、
今ならその実現可能性がある。
(1)現状評価
2012年4月、障害児支援が児童福祉法に一元化され、支援の枠組みが大きく変化し
た。
障害種別等に分かれていた障害児通所施設が児童発達支援センター
(医療型または福祉型)に
障害児入所施設は医療型または福祉型障害児入所施設に
児童デイサービスが児童発達支援(医療型または福祉型)に
変わり
放課後等デイサービス
保育所等訪問支援
が新設された。
これにともない児童発達支援事業は「未就学児対象」と性格替えが行われた。
法施行以降、奈良県でも国が地域の核と位置づける児童発達支援センターがいくつかの
地域で立ち上がったが、絶対数の不足、地域格差などいくつもの課題を抱えている。また
放課後等デイサービスの事業所が爆発的に増えたが、重度の障害児、密度の濃い支援が差
し迫って必要な障害児の受け入れはほとんど進んでおらず、待機状態は改善されていない。
国の構想は、発達支援センターを地域の核として、児童発達支援事業や学校・保育所な
どと連携した支援ネットワークをめざしているが、この状況の延長上にその実現は不可能
であると評価し、根本的な打開策が不可欠であると考える。
(2)地域戦略の検討
市町村を中心に広域ではないエリアを基盤とし、児童発達支援センターを核とした療育
支援のネットワークづくりのプランを具体化する。
地域ネットワークは、児童発達支援センターという<核>がなければ成り立たない。課
- 1 -
題は2つである。
<第1>
まずはその核を、地域の中にどうやって立ち上げていけるのか
<第2>
そのセンターが「発達支援事業所のひとつ」でなく、地域の他の事業所(児
童発達支援事業、放課後等デイサービス事業所)や保健師、保育所、学校、学童保育をつ
ないでいく組織者として育っていくようにどうやって支えていくのか。具体的には「施設
支援」機能の強化である。
各地域ごとにこの二つの課題を実現していく戦略を立て、官民が一体となって資源開発
を進めていくことが必要である。
県内の状況を大まかに整理してみると以下のようになる。
□
既にある程度の基盤が作られている地域
1.奈良市中部
地域センター:児童発達支援センター奈良仔鹿園
児童発達支援事業:
「いっぽ」など多数
カバーできるエリア:奈良市中部・東部・仔鹿園については県内全域対象
2.生駒市
地域センター:児童発達支援センターあすなろ
児童発達支援事業:あすなろ以外にもあるが、不足している
カバーできるエリア:生駒市および周辺市町村
□
これから基盤整備を始める地域
3.香芝市および周辺市町村のエリア
地域センター:新規に設立の動きあり
児童発達支援事業:香芝市、大和高田市他数ヶ所
カバーできるエリア:香芝市、大和高田市、葛城市、王寺町、上牧町など
4.奈良市西部
地域センター:新規に設立の動きあり
児童発達支援事業:多機能型ではあるが数ヶ所
カバーできるエリア:奈良市西部、大和郡山市など
5.天理市
地域センター:新規に設立の動きあり
児童発達支援事業:重症心身障害児の児童発達支援事業を新規に設立する動きがあるも
のの専門的に事業を展開できていない
カバーできるエリア:天理市など
6.磯城郡周辺
地域センター:なし
- 2 -
*なお近隣に、わかくさ愛育園(奈良県障害者総合支援センター)がある
児童発達支援事業:三宅町に拠点 1 カ所
カバーできるエリア:磯城郡全域、北葛城郡東部など
7.橿原市
地域センター:橿原市立子ども総合支援センター内かしのき園
(センターではなく児童発達支援事業)
カバーできるエリア:橿原市(明日香村、高取町)
8.南和圏域
地域センター:吉野学園
児童発達支援事業:十津川村で放課後等デイサービス事業が4月から立ち上がる
カバーできるエリア:吉野学園が所在する大淀町周辺市町村・吉野郡部
□
基盤整備の方針の整理が必要な地域
9.桜井市
地域センター:(桜井市公立)クローバー学園(センターでなく児童発達支援事業)
児童発達支援事業:現在は多機能型の事業所があるが新規事業所を立ち上げる動きあり
カバーできるエリア:桜井市・宇陀市等周辺地域
10.宇陀市および東和圏域の東部山間部(山添村、曽爾村、御杖村)
11.葛城市、御所市、五條市などの中和南部・南和北部
12.南和圏域
- 3 -
(3)公的施設の役割を明確にし、整備する
1.県立登美学園
①緊急時支援の最後の受け皿となり、地域に資源を育てていくセンターとなる(全県対
象)
特に行動障害をともなう自閉症の児童の受け皿が県内に乏しいので、県立施設への期待
は大きい。
緊急一時保護から始まり、地域に帰してくステップを<本人の支援>、<地域の受け皿
の育成>の両面から組織していく役割を担う。
<地域の受け皿の育成>がなぜ必要かというと、「最後の受け皿」から地域に帰る道が作
られないと、登美学園は孤立し疲弊していくからである。
②そのためにも上記の役割を先導する相談支援事業の併設が不可欠である。
2.県障害者総合支援センター
①医療の機能(奈良県総合リハビリテーションセンター)については、引き続き全県のセ
ンターとして機能してほしい
②発達支援センターについては、全県規模でなく、磯城郡など近隣エリアの地域センター
と位置づけ直す方が良いのではないか
わかくさ愛育園(児童発達支援センター)
①包括的なセンター
40名
②医療型センター
60名
③重心児センター+生活介護
計15名
となっているが、医療機関と併設されている立地の優位性を生かし、自閉症など発達障害
の児童の支援、重症心身障害児の支援は引き続き期待されるであろう。
全県における障害児支援の基盤が弱い中で、現在は全県のセンターとして位置づけられ
ているが、全県から通うのは大きな困難をともなっている。各地域での資源の充実を図り、
「通える範囲での地域センター」としていくことをめざすことが自然ではないか。
また県立施設の事業である以上、地域支援は必須の課題である。他の発達支援事業所や
保育園・学校などの「施設支援」の機能の増強が求められる。現在の「子ども地域支援事
業」は、専任の職員配置はなくニーズに追いつけていないとのことなので、大幅な改善策
が必要である。
また母子通園以外の受け入れ方も検討が必要ではないか。
(4)地域の一般資源との連携を確実なものに育てていく
小学校、中学校、保育園、幼児園、行政が中心となる保健福祉活動、療育教室などの地
- 4 -
域の一般資源との連携は、インクルージョンを受け入れられる個々の資源の質的充実が連
携の条件となる。しかしそれは、自然に育っていくとは考えにくく、発達支援センターか
らの意識的で継続的な働きかけがあって可能となるものであろう。
生駒市にある発達支援センター「あすなろ」はゼロから実績を積みながら幼稚園保育所
支援等を軌道に乗せており、地域の組織者としての役割を果たしている。
また葛城市の保健師を中心とした保健福祉活動は、新生児から大人になる前までの切れ
目のない支援をつなぎつつ、節目節目で専門家による保育所・学校の訪問指導(施設支
援)や療育教室など集中的支援の仕組みを実施されており、無いに等しい福祉資源を作る
ことができれば地域のネットワークづくりに結実する可能性がある。
また地域の障害児相談支援事業との役割分担と連携の仕組み作りも必要となる。
(5)山間地(南和圏域など)での支援方針の確立をめざす
南和圏域の山間地は広域の支援なので、大淀町の吉野学園の発達支援センターに通所事
業で集めて支援することには限界がある。
すでに吉野学園で実践がある山間地の村への出張型の療育活動が不可欠だが、センター
の自主努力では明らかに限界がある。山間地でのセンターの活動スタイルの整理と支援方
針を、全県的な標準的なものとは別枠で整理していく必要がある。
例えば山形県では、各小学校へ出張型の児童発達支援事業を展開している事例がある。
制度の枠組みを柔軟な運用で、地域の資源として使えるようにしていく工夫も必要だ。
(6)この基盤整備のために、県と市町村が果たすべき役割を示す
今最も大切なことは、発達支援センターを文字通り「地域のセンター」として機能させ
ることである。
①集中的な支援が必要なケースをセンターが受け入れて、成果を上げること
②施設支援を行うこと、近隣の各事業所の現場に出向いて療育の知識とスキルの実践を
通して事業所に伝えていくこと
③保育所や小学校など地域の一般資源への訪問・支援を通して地域の連携を組織してい
くこと
④障害児相談支援事業所との役割分担と連携を作り出していくこと(圏域マネージャと
の連携を含む)が必要である。
各センターの明確な理念と自主的努力が基本であることは間違いないが、それを強力に
後押しする枠組みが必要である。
今、もっともネックになっているのが、かつての地域療育等支援事業の施設支援のメニ
ューが大幅に後退し、「資源を育てる」ための補助事業が貧困であることだ。保育所等訪
問支援は個別給付なので、①障害を受け入れている家族と障害児しか支援の対象になら
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ないこと、②実際の事業内容についても対象児童の直接支援の事業であるので、保育所
等のスキルアップにつながりにくいことが問題である。
この結果、①障害受容に至らない子どもと家族への支援ができない、②資源の育成につ
ながらないという構造がある。
具体的には
1.市町村
地域の核となる児童発達支援センターを障害福祉計画に明確に位置づけ、小規模の市町
村においては近隣市町村と合同で資源の育成の施策を進めるべきである。
資源がないところでは、公的な建物を使った指定管理など、実現可能な誘導策はある。
2.奈良県
国の施策は補助事業を個別給付化していく流れにあり、施設支援の機能を持った国事業
はどんどん細ってきている。これは現状を悪化させるものであり、見直すべきであるこ
とを明確にし、国に働きかけるべきである。
しかし児童発達支援センターの設立の動きがあるここ数年が、センターに地域支援の核
として機能するよう働きかけるチャンスであり、この時期を逸すると再起は難しい。当
面短期的にでも、発達支援センターに施設支援機能を付加し強化する県の事業拡充をぜ
ひ検討してほしい。
またかつて南和圏域で試みられた療育コーディネーターの仕組みは、各センターが自主
的に施設支援機能を強化しようとする努力を援助する上で有効であり、その復活も検討
してほしい。
就学前の子どもの療育支援とは何か、切れ間のない障害者支援のシステムを構築する為
には最初の一歩が重要ではないか。どこで子どもを育てるのか、誰に相談し、支えを求
めて行くのか、地域支援が叫ばれる中、明確にすべきチームシステムの体制整備に提言
をします。
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