...

肺既存構造を進展する疾患の画像診断

by user

on
Category: Documents
16

views

Report

Comments

Transcript

肺既存構造を進展する疾患の画像診断
肺既 存構 造 を進展す る疾 患の 画像 診断
肺既存構 造 を進展す る疾患 の画像診断
香川 医科大 学放射 線 医学教 室(主 任:田 邉正 忠教 授)
佐藤
功,影
山
淳 一,川
水 川 帰 一 郎,田
邉
正忠
瀬
良 郎,児
島
完治
高松 赤十 字病 院内科
小
笠
原
望
高松赤 十字病 院呼 吸器外 科
森
田
純
(昭和63年9月6日
Key words:
pulmonary
intimal
tuberculosis,
緒
sarcoma,
allergic
mucoid
二
受稿)
bronchopulmonary
aspergillosis,
impaction
胸 部X線 写真 に合 成 され て認 め られ た もの と推
言
画像 診 断にお い ては,そ こに表 れた陰影 の形
察 され た.気 管支鏡 では,右B3か らの亜 区域支
の狭窄 は認 め る もの の粘 膜 面は正常 で,生 検 で
態 を主体 とした解 析法 が従 来 か ら行 われ ていた.
は確 診 は得 られ なか った.開 胸生検 で結 核の 診
しか し,各 種の 胸部疾 患 は,血 管や 気管支 など
断 が得 られた.
肺内 の いわゆ る既存構 造 と関連 しなが ら進 展や
症 例2)
消退 し,そ れ ら肺 の既存構 造 と陰影 の関係 を読
3)で,左
56歳,男
性.検
診 の 胸 部X線
肺 門 の 腫 大 を指 摘 さ れ,他
写 真(図
院の精検
影す るこ とが疾 患 の診 断のみ な らず病態や 病期
を把握 す る上 で重要 とされ る1).特に既存構 造 そ
の もの,あ るいは それ に沿 って進展 す る場 合 に
は,そ れ らが気 管支 や血 管の別 で各 々特徴 的 な
像 が得 られ る もの と思 われ る,今 回われ われ は,
肺既 存構造 に沿 って進展 した疾 患 を経験 し,そ
れ らの画像 診断 の有 用性 を検討 したの で報告 す
る.
症
症 例1)
62歳,男
例
性.胸
部X線
写 真(図1)で
右 肺 門 か ら肺 内 に 伸 び る,分 葉 した よ う な塊 状
影 を思 わせ る 異 常 影 を 認 め た. X線CT(以
CT,図2)で
は,右 上 葉B3a,
下
B3bの 狭 窄 とS3bll
の 中 心 に 一 致 す る 太 い 棍 棒 状 の 陰 影 と と もに,
そ の 周 囲 に は 粒 状 陰 影 も認 め た.こ
の ように肺
図1 症例1胸
部X線 写真,右 肺 門 か ら肺 野 に 向
か っ て分 葉 状 の結 節影 を認 め る.
門 か ら既 存 構 造 に 沿 っ て 進 展 す る複 数 の病 巣 が,
1117
1118 佐藤
功:他7名
で肺癌 の 可能性 が 高い と言 われ た,左 側 面 断層
棒 状 の 陰 影 を認 め る. S3b, S3c, S1+2bな どの 中 心
写真(図4)で
に 一 致 し,し か も気 管 支 の 透 亮 像 は な く,そ れ
は,肺 門か ら放 射状 に伸 び る棍
ら亜 区 域 の 間 の 肺 静 脈 は 異 常 な く認 め られ る.
図2 症 例1CT.右S3内
の血 管,気 管 支 に沿 った
棍 棒状 陰影.狭 窄 した気 管支 が 認 め られ る.
図4 症 例2側
のmucoid
面 断 層 写 真.
impaction.そ
B3b, B3c, B1+2bな ど
れ らの 間 の 肺 静 脈 は
正 常 で あ る.
図5 症例3胸
図3 症例2胸
め る.
部X線 写 真.左 肺 門部 の腫 大 を認
部X線 写 真.左 肺 門か ら下 肺 野 に
か け て辺 縁 明 瞭 な 多発性 結 節 影 を思 わせ る陰
影 と,右 上 肺 野 にV字 形 の陰 影 を認め る.
肺既 存構 造 を進 展す る疾 患の 画像診 断 1119
す な わ ち こ れ らの 陰 影 は気 管 支 の 走 行 に 一 致 す
て 診 断 す る の は 短 絡 的 で あ り,し か も,個 々 の
るmucoid
症 例 が 持 つ 病 変 の 独 自性 が 失 わ れ る こ と を挙 げ
impactionで,現
病 歴 に喘息 があ り
末 梢 血 の 好 酸 球 増 加 や 血 清 沈 降 抗 体 反 応 か ら,
て い る2).と こ ろ が,既 存 構 造 と し て の 血 管 や 気
ア レ ル ギー 性 気 管 支 肺 ア ス ペ ル ギ ル ス症 と診 断
管 支 そ の も の,あ
し た.
中 心 に 病 変 が 生 ず る と,病 変 の 進 展 範 囲 に よ っ
症 例3)
32歳,男
し,胸 部X線
大 を,特
性.労
作 時 の呼吸 困難 で受 診
写 真(図5)で
は 両 側 肺 門 影 の腫
に 左 側 で著 し く下 肺 野 へ 向 か う多 発 性
結 節 影 と し て 認 め られ る.さ
らに 右 上 葉 で 胸 壁
るい は それ に 隣 接 す る領 域 を
て は 診 断 は 困 難 に な る.
症 例1で
は,気
管支 の狭窄 はあ るが粘膜 面 は
正 常 で,気 管 支 と肺 動 脈 の 周 囲 間 質 を主 体 と し
た 変 化 で あ る こ とか ら,癌 性 リ ンパ 管 症3)や マ イ
の 方 向 に 開 くV字 形 の 陰影 を も認 め る.断 層 写
コプ ラ ズ マ肺 炎4)な どの 特 殊 な 型 の 炎 症 を疑 っ た
真(図6)で
が 確 診 が 得 ら れ ず,開
は,左
肺 門 か ら下 肺 野 へ の 多 発 性
結 節 影 と見 え た もの は,一
連 の 蛇 行 しな が ら連
続 す る構 造 物 で あ り,右 上 葉 のV字
形 はA2bか
ら
断 され た.こ
胸 生 検 に よ っ て 結 核 と診
の病変 の座 は血 管や気 管支周 囲間
質 と そ こ に 隣 接 す る肺 組 織2)と推 察 さ れ,そ の 肺
さ らに 亜 々 区域 支 へ 分 岐 す る方 向 に 一 致 し,気
組 織 はB3bな どの 主 軸 の親 気 管 支 か らほ ぼ 直 角 に
管 支 は 開 在 して 無 気 肺 は な く,こ れ ら の こ とか
不 同 大 分 岐 す る気 管 支 娘 枝 に 支 配 さ れ る5).つま
ら肺 動 脈 そ の も の の 腫 大 した 連 続 影 と考 え られ
り病 変 が 既 存 構 造 を 中心 と した縦 方 向 に 進 展 し,
た.こ
横 方 向 へ の 拡 が りに 乏 しい と言 え る. retrospec
の 陰 影 は 急 速 に 増 悪 し患 者 は 死 亡 した.
剖 検 後 の右 肺 の伸 展 固 定 標 本 のX線
で は,肺
写 真(図7)
動 脈 が 腫 大 し蛇 行 す る の が 明 瞭 に 認 め
られ る.病 理 診 断 はintimal
考
sarcomaで
あ っ た.
察
鈴 木 は,限 局性 陰影 を肺 動脈や 肺静 脈 あ るい
tiveに 見 る と, CTで
の 棍 棒 状 の周 囲 の粒 状 影 は
小 葉 中心6)の 結 核 の 散 布 巣 と考 え られ た.
症 例2は
左 肺 門 の腫 大 に つ い て,他 院 のCTで
肺 癌 の 可 能 性 が あ る と さ れ た.症 例1と
同様 に
棍 棒 状 の 陰 影 が 肺 門 か ら末 梢 へ 向 っ て伸 び て お
り,肺 静 脈 が 正 常 に 描 出 さ れ,そ
れ らの間の 区
は気管 支 な どを同定 しなが ら,そ れ らの関連 性
域 や 亜 区 域 の 中心 に 位 置 して い る.本 症 例 は 臨
を解 析 し陰影 の 質 的 診 断 を得 る方 法 を確 立 し
床 診 断 を含 め て ア レ ル ギー 性 気 管 支 肺 ア スペ ル
た1).これ をも とに,伊 藤 らは 多 くの伸 展 固定肺
ギ ル ス 症 で あ っ た7)が,画 像 上 の 陰 影 はmucoid
におけ る病理 所 見 とCTを
impactionで
詳細 に対 比検討 し,
拡 張 した 気 管 支 内 の 粘 液 栓 子 で あ
画像 上 の陰影 を肺 の既 存構 造 との関連 で解 析 し
り, gloved
ない こ との 欠点 として,パ ター ン分類 す る こと
様 の 棍 棒 状 陰 影 で あ るが,異
fingerと
も言 わ れ る8).症 例1と
同
な るの は 気 管 支 の
自体 は誤 りで はない が,即 病理 学的用 語 を用 い
図6 症 例3正
面 断 層 写真.肺 動 脈 の走 行 に一 致
す る腫 大 した陰 影 を認 め る.
図7 症 例3伸
展 固定 肺 の軟X線 写 真.気 管支 の
開存 と肺 動 脈 その ものの腫 瘍 性増 大 を認め る.
1120 佐藤
功:他7名
開 存 が 認 め ら れ な い こ と で あ る.一 方, mucoid
impactionが
壁 の 内 外 と言 う正 反 対 で あ る に もか か わ らず,
喀 出 され る と気 管 支 は拡 張 したま ま
同 様 な 棍 棒 状 陰 影 を呈 し て い る.こ
残 り7)9),他の 肺 野 に も認 め られ る 可 能 性 が あ る.
つ ま り,症 例1と
主 で,そ
異 な り病 変 の 座 は 気 管 支 内 が
ス 症 の 場 合, mucoid
こ に 隣 接 す る 肺 組 織 へ の 連 続 した 病 変
は 当初,左
impactionと
finger陰 影 と言 わ れ る が,症
は ほ とん ど認 め な い7).
症 例3で
れ ら を表 現
す る用 語 は ア レ ル ギー 性 気 管 支 肺 ア ス ペ ル ギ ル
かgloved
例1の
結 核 の場 合
に は 特 に そ の 陰 影 を表 現 す る用 語 は な い.文
献
肺 門 か ら下 肺 野 へ か け て
的 に も,結 核 の 病 変 の 場 が こ の よ う な 表 わ れ か
の 多 発 性 結 節 影 と見 え た 著 しい 変 化 の み で の 読
た をす る こ とに つ い て は 我 々 は 検 索 し得 な か っ
影 は 困 難 で あ っ た が,病 変 の 軽 度 な右 上 葉 のA2b
た.症 例3も,気
に 注 目す る こ と と伴 走 す る 気 管 支 の 開 存 を認 め
れ,気
る こ とか ら,肺 動 脈 そ の もの が 腫 大 して い る こ
異 常 影 が そ の 分 峡 に 従 って 進 展 す る,正
とが 読 影 で き た.左 肺 の 変 化 は 肺 動 脈 が 急 速 に,
脈 の 部 分 的 な 腫 大 で あ り,既 存 構 造 を 読 影 す る
か つ,種
こ と に よ り容 易 に 診 断 で き る.
瘍 性 に 増 殖 して い き,限
ら れ た肺 内 に
管支や 肺静 脈 は正常 に描 出 さ
管 支 に 伴 走 す る肺 動 脈 の 走 行 に 一 致 す る
パ タ ー ン分 類 に よ る 陰 影 の 解 析 は,過
収 ま る た め 著 明 な 蛇 行 を呈 し た もの で あ っ た.
に肺 動
去多 く
剖 検 に よる組 織 学 的 検 討 では 肺 動 脈 原 発intimal
の 優 れ た業 績 の 蓄 積 が な さ れ て い る.し か し,
sarcomaと
そ れ の み に依 存 す る こ と に よ る弊 害 も否 定 は で
さ れ,種 々 の 特 殊 染 色 に よ っ て も さ
らに 詳 細 な 発 生 部 位 の 同 定 は で きな か っ た.本
きず,既
存 構 造 を読 影 す る こ と で さ らに 確 定 診
症 例 の 詳 細 は小 笠 原 が 別 に報 告 す る予 定 で あ る.
断 に 近 づ く もの と考 え られ る.
肺 の 既 存 構 造 に 関 して 従 来 の 画 像 診 断 上 使 用
結
さ れ る用 語 に,“肺 紋 理 の 増 強"が あ る.し か し,
M肺 紋 理 の 増 強"が 部 分 的 で あ
っ た り,程 度 の
強 弱 が あ る 場 合 に は,そ
肺 既 存 構 造 あ る い は それ に 沿 っ て 進 展 す る疾
こ に 生 じて い る変 化 を
表 現 す る こ と は 困 難 で あ り,さ
論
患 と して 肺 結 核,ア
ル ギ ル ス症,肺
らに 実 際 の 病 変
レル ギー性気 管支 肺 アスペ
動 脈 原 発 のintimal
sarcomaを
の 把 握 に は 直 接 的 に 結 び つ か な い こ と も考 え ら
経 験 し た.肺 動 脈,肺
れ る.ま た,“肺 紋 理 の 増 強"は 血 管 か 気 管 支 か,
造 を読 影 す る こ と で,パ
さ ら に 血 管 の 動 静 脈 の 差 に つ い て も あ ま り考 慮
られ が た い 質 的 診 断 や 病 態 の 把 握 が 容 易 で あ っ
さ れ な い.症
た.
例1と2で
は,病
変の場 が気 管支
文
1) 鈴 木
2)
5)
恵:び まん性 肺 疾 患 のCT診
片桐 史朗,宍 戸 信 司,和 田雅 子,中 島 由槻,杉 田博 宣,高 瀬
胸 部X線 所 見 につ いて-病
4)
田中裕 士,小 場 弘之,森
理 所 見 との対 比 よ り-.日
拓 二,森
断-総
2,
631-637.
孝 英,大 島俊 作,人 見 滋樹,伊 藤
論-.呼
吸(1987)
6,
153-160.
昭,河 端 美 則,岩 井 和郎:癌 性 リンパ 管症 の
胸 疾 患会 誌(1983)
雅樹,常 松 和則,名 取
21, 364-371.
博,浅 川 三 男,鈴 木
明,土 井幹 夫:マ イ コ
プ ラズマ 肺病 変 のCT像.臨
放 線(1985)
佐藤
勉,細 川 敦之,松 野慎 介,瀬 尾裕 之,田 邉 正 忠,水 川 帰一 郎,川 瀬 良郎:画 像
功,坂 本 和 裕,宮 本
30, 979-986,
か らみ た気 管支 娘 枝 と関 連 疾 患.気 管支 学(1988)
6)
献
伊 藤春 海,金 岡正 樹,村 田喜 代 史,野 間恵 之,西 村 浩 一,北 市 正則,泉
仁,古 田睦広,故 倉
管 支 な ど既 存 構
タ ー ン分 類 の み で は 得
明,藤 井 伸 一,我 妻 千鶴:胸 部X線 写真 に よ る限局 性 陰影 の解 析.呼 吸(1983)
岡,浅 本
3)
静 脈,気
10,掲 載 予定.
藤堂 義 郎,村 田喜 代 史,伊 藤春 海,鳥 塚 莞 爾:び まん牲 肺 病 変 のCT像.日
医放 線会 誌(1986)
46, 1281-
1295.
7)
宮本
勉,佐 藤
功,坂 本 和 裕,細 川敦 之,松 野 慎介,田 邉正 忠,千 田彰 一,井 下 謙 司:高 分 解 能CT像
経過 観 察 を した ア レル ギー 性 気管 支 肺 ア スペ ル ギル スの1例.臨
8) Rosenberg M,
Patterson
R, Mintzer R, Cooper BJ,
放線(1988)
で
33, 1019-1022.
Roberts M and Harris KE: Clinical and
肺 既 存構造 を進展 す る疾 患の画像 診 断 immunologic criteria for the diagnosis of allergic broncho-pulmonary
1121
aspergillosis.
Ann. Intern Med
(1977) 86, 405-414.
9)
江藤
尚,松
原
環,坂
元 隆 一,源
管 支 肺 ア ス ペ ル ギ ー ル ス 症 の2例,日
馬 仁,金
谷 雄 生,ホ
胸 疾 患 会 誌(1985)
多 淳 郎,平
23,
田 唯 夫,寺
814-818.
沢 亥 佐 吉:ア
レ ル ギー性 気
1122 佐藤
Pulmonary
功:他7名
diseases in relating
and vascular branching
to inherent bronchial
in the lung
Katashi SATOH,Junichi KAGEYAMA,
Yoshiro KAWASE,
Kanji KOJIMA,Kiiciro MIZUKAWA,Masatada TANABE,
Nozomi OGASAWARA1)
and Junji MORITA2)
Department of Radiology, Kagawa Medical School,
1750-1Ikenobe, Miki-cho, Kita-gun
Kagawa 761-07,Japan
(Director: Prof. M. Tanabe)
1) Department of Internal Medicine, Takamatsu Red Cross Hospital
2)Department of Respiratory Surgery , Takamatsu Red Cross Hospital
We reported one case each of pulmonarytuberculosis,allergicbronchopulmonaryaspergil
losis and intimal sarcoma of the pulmonary artery. In pulmonarytuberculosisand allergic
bronchopulmonaryaspergillosis,werecognizedglovedfinger like shadows.In the former,the
shadoesextendedto the adjacent bronchoarterialsheathand alveolarspaces,and in the latter,
it extended to the ectatic bronchial lumen. In the intimal sarcoma, the lesions resembled
multiplenodularshadows;however,the pulmonaryartery markedlyincreasedin diameterand
elongated.We emphasizedthe relation of the lesionsto inherent structuresof the lung instead
of pattern recognitionin order to interpret chest radiogramas.
Fly UP