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スポーツ競技戦略決定支援のための 移動軌跡のマイニングと可視化

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スポーツ競技戦略決定支援のための 移動軌跡のマイニングと可視化
DEIM Forum 2014 E1-6
スポーツ競技戦略決定支援のための
移動軌跡のマイニングと可視化システム
谷
俊廣†
黄
宏軒††
川越
恭二††
† 立命館大学大学院 情報理工学研究科 〒 525–8577 滋賀県草津市野路東 1-1-1
†† 立命館大学 情報理工学部 〒 525–8577 滋賀県草津市野路東 1-1-1
E-mail: †[email protected], ††[email protected], † † †[email protected]
あらまし
本研究は,スポーツ競技の過去の試合データからチーム戦術や傾向を理解,発見するための,プレーデー
タの複合的可視化システムを提案する.スポーツ競技では,過去の試合内容からチーム戦術を分析することは,競技
水準の向上のために非常に大切である.チーム戦術分析には計数データと選手の動き (移動軌跡) が重要視される.し
かし,スポーツ競技でも容易にデータを取得できるようになったため,大量の計数データと選手の動きを集約し,直
感的に分かり易く表示するための技術が求められている.そこで本研究では,アメリカンフットボールを対象とした
スポーツ競技戦略可視化システム (SportsVis) を提案する.本システムでは,コーチや選手等の利用者が入力したプ
レー状況を満たすプレーを求め,そのプレーでの選手の動きパターンを可視化することができる.本システムにより
シーン別の戦術や傾向を見つけ出せるため,次戦術の決定や新戦術の立案に活用することができる.
キーワード
移動軌跡, マイニング, スポーツ, 戦略分析, 可視化
Visualization system for play strategy decision support
using trajectory mining
Toshihiro TANI† , Hung-Hsuan HUANG†† , and Kyoji KAWAGOE††
† Graduate School of Science and Engineering, Ritsumeikan University
Nojihigashi 1―1―1, Kusatsu, Shiga, 525―8577 Japan
†† Colledge of Information Science and Engineering, Ritsumeikan University
Nojihigashi 1―1―1, Kusatsu, Shiga, 525―8577 Japan
E-mail: †[email protected], ††[email protected], † † †[email protected]
Abstract In this paper, a sports strategy decision support system for ball games, called SportsVis, is presented.
The important task to strengthen a sports team is to analyze past games from various viewpoints. There are two
types of methods on sports strategy analysis in a ball game: the statistical analysis method and the motion analysis
method. The main point on our system is that it can visualize both statistical analysis results and player motions
in an integrated way, which is effective for easy decision making. Our system, SportsViz, was developed in order to
support strategy decisions usually done by a team coach. We also propose and develop more efficient mining method
to enable a coach use it by dynamically visualizing motion aggregates and by integrating with scoring information.
This system is used mainly for a football play strategy decision made by a football coach. We plan to evaluate the
system through the usage.
Key words Trajectory, Mining, Sports, Strategy analysis, Visualization
1. は じ め に
本研究は,スポーツ競技の過去の試合データからチーム戦術
スポーツ競技では,過去の試合内容を分析し,その分析結果
によって競技水準の向上を行うことが非常に大切である.ここ
で,スポーツ競技の中でも,ゴール型球技種目におけるチーム
や傾向を理解,発見するための,プレーデータの複合的可視化
戦術分析には大きく二つの手法がある.一つは,得失点や時間,
システムを提案する.
スコアなどの計数データに統計処理を行う手法である.もう一
つは,コート上の選手の位置や動きのパターンを記述するこ
とでチーム戦術を分析する手法である.しかし,スポーツ競技
でも容易にデータを取得できるようになったため,大量の計数
データと選手の動きを集約し,直感的に分かり易く表示するた
めの技術が求められている [1].
3. 関 連 研 究
3. 1 可視化アプリケーションの評価と分類
可視化の手法や技術はあらゆる分野で利用されている.多種
多様のデータを視覚的に表現することで利用者が概念や状況を
そこで本研究では,アメリカンフットボールを対象としたス
より深く理解することができる.スポーツにおいても,テレビ
ポーツ競技戦略可視化システム (SportsVis) を提案する.本シ
や新聞,ネット上などの身近な場所での視覚的情報を得る機会
ステムでは,コーチや選手等の利用者が知りたい状況を入力し,
が増えた.チームスポーツにおける可視化では,扱うデータの
その状況に当てはまった選手の動きの戦略パターンを可視化す
種類や選手,審判,観客といった利用者のカテゴリなどの複雑
ることができる .これにより,計数データからの統計的な戦術
な要素を持つ.そのため,データを視覚化する際に,誰にどの
傾向だけでなく,選手の動きなどから,攻撃の方向の傾向や,
データをどのように表示するかを決定しなければならない.ま
状況別の動きのパターンなどが理解できる.本システムの使用
た,多く存在する可視化手法やアプリケーションの有用性を理
により,次なる戦術の決定や新たな戦術立案が望める.
解しなければならない.
2. スポーツ競技における戦略分析
そこで,使用データや表現方法,エンドユーザ,アプリケー
ションの使用場所などを考慮した可視化アプリケーションの評
2. 1 分析と予測
価モデルを提案する [4].さらに,過去と現在の可視化アプリ
競技において戦略を決定するには,まず対戦相手がどのよう
ケーションをこの評価モデルの概念的な軸に沿って分類し,批
な戦術で挑んで来るのか予測を行わなければならない.過去の
評を行った.提案したモデルにより,複数の可視化アプリケー
試合データから特徴や傾向を把握することで,対戦相手が次回
ションを定量的に計ることができ,これらの関係性や差異を明
の試合で用いる戦略の予測ができる.スポーツ競技では技術
らかにした.今後は,チームスポーツにおける今後のアプリ
の向上だけでなく,過去の試合内容を分析し,その分析結果に
ケーションや未開途中のアプリケーションを分類可能となる.
よって競技水準の向上を行うことが非常に大切である.戦術を
3. 2 統計データの可視化
分析する際,試合全体やシーズンを通しての包括的な予測を行
スポーツにおけるチームの強化にはデータによる分析が必
う場合が多い.しかし,試合の中での特徴的な場面での戦略や
要不可欠になっている.多くのアナリストは,R,SASや他
似た場面ごとの戦略など,さまざまな状況下において断片的な
の統計ソフトウェアパッケージを使用し,試合内容や成績を定
シーンでの戦術を予測することも必要である.
量的に分析している.しかし,より選手の理解を深めるために
2. 2 スポーツ競技におけるデータの活用
は,データの可視化が必要である.ここで,統計処理により得
スポーツ競技の中でも,ゴール型球技種目におけるチーム戦
られた分析データをグラフで表現するのはなく,コートの図を
術分析には大きく二つの手法がある.一つは,得失点や時間,
用いる [5] [6] [7].たとえば,ゴール型球技種目では,位置や距
スコアなどの計数データに統計処理を行う手法である [2].発
離によってシュートの頻度をヒートマップにより表示する.こ
生状況が似ているプレーや特定の計数データが偏って発生する
れにより,コートに対してどの位置からのシュートが多いのか
状況などがこの手法によって予測することができる.このよう
といった傾向がわかる.また,分析結果を数字やグラフといっ
な統計処理を利用し,次の戦略を新たに決めるための多基準意
た表現よりも容易に理解できる.
思決定の方法がある [3].この手法は,多く用いられているが,
3. 3 図形記号による可視化
ゲーム中にプレーが出現した意味やその関係性について理解で
最近ではリアルタイムスポーツパフォーマンス分析はスポー
きない.
ツの試合分析にとって重要な要素となっている.例えば,サッ
もう一つは,コート上の選手の位置や動きのパターンを記述
カーやラグビーチームのアナリストは,特定のアクションとイ
することでチーム戦術を分析する手法である.実際に攻撃を
ベントを関連付け,試合中にビデオへのタグ付けや注釈付けを
行った方向,ルートといった情報や選手同士のコンビネーショ
行う.この作業からアクションとイベントの対応するスプレッ
ンのような計数データではわからない情報を抽出できる.また,
ドシートの作成が,動的な試合の記録を静的な試合の記録へと
同じ攻撃意識を持ち行われたプレーは選手の動きが似ているこ
要約する基本的な手順となっている.しかし,スプレッドシー
とが多く,戦術の傾向に大きく影響している.しかし,この手
トから表示される統計データは,ボール支配率の割合などの詳
法は多くの意味合いを持つにもかかわらず,一般化されてない
細な情報が欠けており,監督や選手にとって意思決定に利用で
ため,分析結果に分析者の主観性や恣意性を含んでいる.
きる十分な記録とはならない.また,これらの記録をからアク
このように,有効的な戦術や傾向の発見には,複数の手法を
ションとイベントの関連性や意味を抽出するには,多くの時間
用いて様々な観点から分析しなければならないが,手間と時間
がかかり,リアルタイムでのスプレッドシートに基づいた意思
がかかってしまう.よって,スポーツ競技における戦術解析の
決定は不可能である.
ために,計数データとスポーツ動作を同時,かつ,直感的に分
かり易く表示するための技術が求められている.
リアルタイムのスポーツパフォーマンス分析における問題に
対して,可視化ソリューションを提案する [8].コーチングス
タッフやアナリストが一目にしてアクションとイベントの関連


 f (i − 1, j − 1)
性を理解できるように,図形記号の視覚化デザインを用いた.
図形記号とは,走る,パスをするなどの選手の動きを模した図
f (i, j) = f0 (i, j) + min
であり,どのよな場面であるか,選手が何をしているのかとい
う情報が理解できる.複数要素の中から意味合いの関連の高い
ものを一つの集合とする.その集合と関連する図形記号を選び,


f (i − 1, j)
(2)
f (i, j − 1)
(i = 1, · · · , n; j = 1, · · · , m)
図形記号が一つの意味集合を表す象徴として用いる.同様にし
ただし,f (0, 0) = 0, f (i, 0) = f (0, j) = ∞
て,複数の図形記号に対して,意味集合をマッピングさせた.
ここで,f0 (i, j) は 2 点間の距離を計算するユークリッド距
このようなマッピング表を作成することで,多種多様かつ大量
のデータを図形記号で表現できる.これにより,試合中に得ら
離を用いて,以下のように定義する.
f0 (i, j) =
√
(xαi − xβi )2 + (yαj − yβj )2
(3)
れたアクションとイベントの情報から,リアルタイムに試合状
況を把握可能となった.よって,コーチが意思決定を行うこと
4. 2 プレー間の類似度算出
や,選手へのより的確なアドバイスなどが試合中に行える.
2 つのプレーの類似度は,プレー間の距離によって定める.
4. 移動軌跡を用いたプレー間の類似度算出方法
1 つのプレーに対す選手 n 人の移動軌跡の集合を P =
{T1 , T2 , · · · , Tn−1 , Tn } とする.この集合を用いてプレー間の距
ゴール型球技種目のスポーツ競技では,ボールや選手の位置
離を計算する.プレー間の距離はプレー A とプレー B の類似
や動きをデータ化するために,コートに対しての座標を用いて
する選手の軌跡間距離の総和と定義する.以下の式で表せる.
表現する.特に,ボールや選手の動きのような変化のある情報
は,連続する座標点のデータである移動軌跡データとして扱う
D(Pa , Pb ) =
n
∑
D(Ci )
(4)
i=1
ことができる.
このようなデータを利用し,ボールや選手の動きによる試合
の比較や分析が可能となる.例えば,選手の動きが似ているプ
レーを見つけ出せると,1 つの試合の中での特徴的なプレーが
何回発生したか,または似ているプレーのが何種類あるかと
ここで,Ci (i = 1, · · · , n) はプレー A とプレー B の類似する
選手のことであり,以下の方法によって定義する.
Step 1
2つの集合 Pa , Pb の要素同士の総当たり Pa × Pb での軌跡間
いったプレーの傾向を理解できる.そこで,移動軌跡を用いた
距離 D(Pa × Pb ) = D(T1 , T1 ), D(T1 , T2 ), · · · , D(Tn , Tn−1 ),
プレー同士の類似度を求める手法を提案する.
D(Tn , Tn ) を 求 め る .た だ し ,こ こ で 計 算 す る 軌 跡 間 距 離
このプレー間の類似度は,選手間の移動軌跡の類似度によっ
て定める.チームスポーツでは,1 つのプレーに対して複数の
選手の移動軌跡データが含まれるため,2 つのプレーを比較す
ると,複数の選手間の移動軌跡類似度が得られる.ここで,複
D(Ti , Tj ) は 4. 1 項で説明した Ddtw (Ti , Tj ) である.
Step 2
Step1 で得られた D(Pa × Pb ) の中からもっとも軌跡間距離の近
い選手同士を対応する選手 C = {(Ta , Tb )|min(D(Pa × Pb ))}
とする.
数の移動軌跡類似度の総和をプレー間の類似度とする.
選手間の移動軌跡類似度は移動軌跡データのデータ間距離によ
り定めることができる.この移動軌跡間距離は DTW(Dynamic
Time Warping) 距離 [9] の手法を用いて算出する.
Step 3
Step2 で得られた対応する選手 C を除く集合を作成する
上記の手順を n 回繰り返すことで,n 個の C1 , · · · , Cn がで
きる.
4. 1 DTW 距離を用いた移動軌跡間距離の算出
2 つの移動軌跡データ間の距離を求めると,距離の短いデー
5. スポーツ競技戦略可視化システム
タ同士は類似性が高い,距離の長いデータ同士は類似性が低
い,ということが理解できる.よって,算出されたデータ距離
5. 1 概
要
本システムは,アメリカンフットボールを対象とした,ス
によって移動軌跡同士の類似度を定めることができる.
DTW は,時系列のデータ間の類似度を測るアルゴリズムで
ある.データ間の距離を最小化するように時間軸方向に時系列
データの長さを調整する性質を持っており,各々の時系列デー
タの中で時間軸の変化に柔軟に対応することができる.よって,
=
[(xα1 , yα1 ), · · · , (xαm , yαn )] と Tβ = [(xβ1 , yβ1 ), · · · , (xβm , yβm )]
のベクトル間の DTW 距離 Ddtw (Tα , Tβ ) は,式 (1) から算出
する.
や選手,アナリスト等が,自分または他のチームのプレー傾向
や特徴を発見するために利用することを想定している.複数の
プレーの選手の位置や移動軌跡,ボールの移動軌跡等を可視化
することで,視覚的かつ直感的にプレーの比較や戦術の理解が
長さの異なる移動軌跡データに対しても適用可能である.
長 さ n と m の 2 つ の 移 動 軌 跡 デ ー タ Tα
ポーツ競技戦略決定支援のための可視化システムである.監督
できる.利用者がプレー状況の入力を行うことで,全プレーの
中から断片的なシーンのみでの分析が可能となる.また,選手
の移動軌跡を用いて選択された複数のプレーを分類し,入力さ
れた状況下での戦術パターンを得る.これにより,計数データ
と選手やボールの移動情報を複合的に扱うことで,計数データ
Ddtw (T1 , T2 ) = f (n, m)
(1)
上で似ている複数のプレーを実際の意味や目的といった観点か
ら分析できる.
5. 2 システムの流れ
移動軌跡データベースには,全プレーの選手の動きやボール
本可視化システムの構成を図 1 に示す.
の位置が含まれいている.格納されている情報はコートに対す
る座標点である.攻撃側の進行方向に対して,コートの左前端
䝴䞊䝄
䝅䝇 䝔 䝮
ධຊ
^ƚĞƉϭ
を原点とする.原点から進行方向と垂直な方向に x 軸,進行方
向と水平な方向に y 軸と定める.このようなコートに対する座
^ƚĞƉϮ
᳨⣴ᶵ⬟
ධຊ㡯┠䛸
ධຊ್䛾㑅ᢥ
䝕䞊䝍
ᢳฟ
䝥䝺䞊EŽ
ƉůĂLJϭϬ
ŽǁŶ䠖䠖΀ϭƐƚ΁
ヨྜ
グ㘓
ƉůĂLJϭϮ
指定する状況は 5 項目の中から任意で選択できる.
^ƚĞƉϯ
,ĂƐŚ䠖䠖΀>ĞĨƚ΁
䝟䝍䞊䞁ศ㢮ᶵ⬟
dLJƉĞ
䜽䝷䝇䝍䞊
䝥䝺䞊EŽ
ƉůĂLJϭϬ
ƉůĂLJϭϮ
䠖
䠖
ƉůĂLJϭϭϳ
⾲♧
る.それぞれのデータにはプレー番号が割り当てられており,
5. 4 状 況 入 力
ƉůĂLJϭϭϳ
&Žƌŵ
の動きは移動軌跡といった連続する座標点によってデータ化す
プレー番号によって検索することができる.
䠖
ŝƐƚ
標を用いて選手の動きやボールの位置の情報を表現する.選手
•
ダウン数
1 回の攻撃権につき 4 回連続して攻撃を行うことができる.4
ศ㢮
⤖ᯝ
回を順に 1st,2nd,3rd,4th ダウンといい,この 4 種類の中
⛣ື
㌶㊧
^ƚĞƉϰ
䝥䝺䞊⾲♧ᶵ⬟
から選択できる.
•
残り距離
プレー開始時のボールの位置からエンドゾーンまでの距離の
ことであり,距離に応じて 7 種類の範囲から選択できる.
•
フォーメーション
試合記録データベースに格納されているフォーメーション一
図1
システムの構成
覧から選択できる.
•
利用者による入力後,可視化までの流れを説明する.
ハッシュ
プレー開始時のボールの位置である.進行方向に対しての
Step 1
コートの右側,左側を表す.コートの右側から Right,Middle,
画面から利用者が知りたいプレーの入力項目と入力値を選択
Left と選択できる.
する.
•
Step 2
攻撃方法のことである.ボールを受けた選手が走って前進を
プレーの種類
システムの検索機能がプレーデータベースから,選択された入
狙うランプレー,前方にいる選手に対してボールを投げるパス
力項目の入力値を満たすプレーデータを抽出する.抽出された
プレーの 2 種類がある.
データからプレー番号のみを取り出し,保存する.
上記の 5 種類の入力項目を 1 つから複数選択し,知りたい状
Step 3
況を定めることができる.たとえば,ダウン数が 2nd ダウンの
移動軌跡データベースから Step2 で得られたプレー番号をも
場合だけでなく,ダウン数が 2nd ダウンかつハッシュが Right
とに,該当する移動軌跡データを抽出する.この移動軌跡デー
の場合のプレーデータも抽出することができる.この選択方式
タを計算し,プレー同士の類似度を定義する.類似度によって
により,より利用者の要求に柔軟に対応できる.システムの入
複数のプレーを分類し,結果をクラスターとプレー番号の対応
力画面を図 2 に示す.
表として出力する.クラスターの数はプレーの数によって変化
5. 5 出
する.
5. 4 節にて入力された情報を用いて,試合記録データベース
力
Step 4
から該当するプレーのプレー番号を得る.得られたプレーの中
Step3 で得られた対応表をもとに,プレーの表示を行う.選手
で,4. 章で説明した類似度算出手法を用いて,プレー類似度を
の位置,移動軌跡,ボールの移動軌跡の画面出力を行うため,
算出する.このプレー類似度によりプレーを分類し,プレーパ
移動軌跡データベースから必要なデータを取得する.取得した
ターンを得る.画面の上部にパターンの数のタブを用意する.
データに含まれている座標情報から,線やマーカーを用いたプ
タブを選択すると,同じパターンの中のプレーの情報を見るこ
レーの再現を画面上に表示する.
とができる.ここで,画面での出力情報は,ボールの開始位置
5. 3 データベース
とボールの移動軌跡,選手の位置と移動軌跡である.コート画
MySQL を用いてデータベースを実現した.試合記録データ
面上に上記の情報を出力することで,プレーを一目で把握する
ベースには,試合中の全プレーの計数データが含まれている.
ことができる.システムの出力画面を図 3,図 4 に示す.
1 つのプレーに対して,そのプレーが行われたプレー番号,ダ
5. 6 実 行 環 境
ウン数,攻撃権取得までの残り距離,エンドゾーンまでの距離,
本システムの実行環境は表 1 に示す.
プレー開始ポイント,フォーメーション,プレーの種類,プレー
結果等の状況情報が格納されている.
図2
入力画面
図 4 出力画面 2
データはアメリカンフットボールの 1 試合分のデータを取得し
た.このデータの中には 62 プレーの計数データと選手の位置
と移動軌跡データ,ボールのパスルートが含まれている.
6. 2 実 験 目 的
評価の目的は以下に述べる.
•
本システムを利用し,画面上に可視化された情報からプ
レー内容が理解できるかを調査する.
•
複数のプレーの情報を可視化し見比べることで,プレー
同士の比較を行いやすいかを判断する.
•
画面やボタン等のインタフェースが利用者にとって使い
やすいかを調査する.
6. 3 実 験 方 法
実際にアメリカンフットボールの経験者 3 人,アメリカン
フットボール部のアナリストチームに所属している人 1 人の合
図 3 出力画面 1
表1
実行環境
計 4 人に本システムを利用してもらう.
被験者は,可視化された情報からプレーの詳細を推測する.
OS
Windows 7
次に,推測したプレーの実際のプレー動画を見て,被験者の推
測と実際のプレーでの差異を確認する.これにより,可視化さ
CPU
CORE i7
メモリ
6G
使用言語
Java,R 3.0.2
データベース
MySQL
れた情報によるプレー内容の理解度を求めることができる.
また,複数のプレーを可視化し,被験者は可視化されている
情報のみからプレー同士の比較を行う.本システム上でのプ
レー傾向や特徴が発見可能かを判断することができる.
6. 評 価 実 験
システムの有効性を示すために,本システムを利用し,アン
ケートに回答してもらう.
被験者に使用してもらった後,使用した感想をアンケートで
調査した.
6. 4 評 価 項 目
アンケートの詳細について説明する.まず,アンケートの項
6. 1 テストデータ
目として以下の 4 点を挙げる.
本システムを利用するため,テストデータを用いる.テスト
質問 1
可視化された情報をみて,プレー内容が推測,または
理解できるか.
質問 2
複数プレーの可視化により,プレーの傾向がつかめや
すいか.
質問 3
可視化システムの操作性は良いか.
質問 4
今後,可視化システムを使用したいか.
6. 5 評 価 方 法
被験者はアンケートの質問に対して a) 大変そう思う,b) だ
いたいそう思う,c) どちらともいえない,d) あまりそう思わな
い,e) そう思わない,の 5 段回評価 (5∼1) で回答する.
6. 6 結
果
評価実験の結果を表 2 に記述する.
表2
評価結果
被験者 A 被験者 B 被験者 C
被験者 D 平均
質問 1
5
4
4
3
4.0
質問 2
4
2
3
4
3.3
質問 3
4
4
5
4
4.3
質問 4
5
4
4
5
4.5
結果において,可視化された情報はプレーの内容を反映して
いることが分かった.また,システムの利用性と今後の可能性
について高い評価を得た.複数プレーの比較においては平均値
がどちらともいえないという評価になった.
7. お わ り に
本稿では,計数データとスポーツ動作を用いた可視化システ
ムを提案した.スポーツ動作には移動軌跡を用いることでパ
ターン分類を可能にした.求める状況下において,攻撃パター
ンの種類やそれぞれのパターンのプレーが視覚的に理解できる.
今後は,入力項目や計数データを追加し,よりユーザが求める
断片的な状況でのパターン抽出を実現する.また,パターン分
類手法と比較,出力方法を改良し,特徴的なパターンの差異表
示と傾向抽出を目指す.
謝
辞
本研究の一部は JSPS 科研費 24300039 と文部科学省私立大
学戦略的研究基盤形成支援事業(2013 年∼2017 年)の助成を
受けたものです.
文
献
[1] 稲葉 洋,瀧 剛志,宮崎慎也,長谷川純一,肥田満裕,山本英弘,
北川 薫. スポーツ動作分析の支援を目的とした人体センシング
情報の可視化提示法. 芸術科学論文誌, Vol.2, No.3, pp.94-100
(2003)
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を応用したバレーボールの戦術分析プログラムの開発. 順天堂ス
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