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ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
目次
巻頭言
ケーヒン技報 Vol.2 発刊に際して. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1
専務取締役 入野博史
寄稿
21 世紀はサプライヤの時代. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
慶應義塾大学理工学部 システムデザイン工学科 飯田訓正
技術展望
ケーヒンにおける技術変遷とこれからについて. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5
専務取締役 渡辺政美
論文
Improvement of Spray Characteristics in Port Injectors. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9
Junichi NAKAMURA・Akira AKABANE・Koji KITAMURA・Yuzuru SASAKI
磁場中熱処理によるケイ素鋼の磁化方向の制御. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
保科栄宏・原川俊郎・白石 隆・高橋弘紀・小山佳一
小型二輪車用プレッシャレギュレータにおける異音発生メカニズムの解析. . . . . . . . . . . . . . . . . . 21
上原寿史・福重光豊
Vehicle Calibration Techniques Established and Substantiated for Motorcycles . . . . . . . . . . . . . . 27
Satoru KANNO・Koichi TSUNOKAWA・Takashi SUDA
電装品開発時の温度計測手法の提案 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 34
西澤拓磨・江口和輝
正面衝突における構造音響データの応答特性. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 41
大﨑達治・袁 方・曽 傑男
技術紹介
スポーツ車両に適合したエンジン制御システム. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 47
ヤマハ向け小型二輪車電子制御システム. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 51
直噴インジェクタ(KN-12 型)
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 55
直噴インジェクタ流体研磨機. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 58
直噴エンジン向けドライバ一体 FI-ECU. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 60
EV 向けリチウムイオン電池用セル電圧センサ. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 63
カーエアコン用 TH(Triple Header)
コンデンサ. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 66
高速スピンドル加工技術. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 69
グローバル調達システム. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 72
巻頭言
ケーヒン技報 Vol.2 発刊に際して
入 野 博 史
Hiroshi IRINO
専務取締役
ケーヒン技報第二巻が発刊されるに当たり一言ご挨拶を申し上げます.
昨年の創刊から一年を経ましたが,この短期間で弊社においては大きな進展がありまし
た.グローバルの競合環境がますます厳しくなる中,海外では,メキシコ新工場,インドネ
シア第二工場,ベトナム工場が立ち上がりました.また 14 年モデルの新機種に向けたガソ
リン用直噴インジェクタや,HEV 用の電子制御ユニット等の高い性能ポテンシャルを持っ
た製品の生産も開始されました.これらは,グローバル競争に打勝つための仕込まれたも
のであり,また弊社の高い技術レベルの証でもあります.今後もますます技術に磨きをか
け弊社のプレゼンスを高めて行きたいと考えています.
私事になりますが,今から 30 年程前に当時製品化が始まったばかりの電子燃料噴射シ
ステムに使うフューエルインジェクタの流量特性について,論文を寄稿したことがありま
す.フューエルインジェクタの磁気回路をモデル化し,理論式を作り,まだ普及し始めて
間もないコンピュータでプログラムを自作し,ニードルバルブの作動(リフト)特性と燃料
の流量特性をシミュレーションしました.実測データと比較しながら,理論式とプログラ
ムを肉付けしてそのメカニズムの解明を試みましたが,コンピュータは 16 ビットでクロッ
クスピードも 1MHz 程度で遅く,計算は大変時間がかかりました.計算している間に他の
業務を行い,休みの日は自宅に持ち帰りながら何とか完成させたものです.結果として,
フューエルインジェクタの作動メカニズムと流量特性の関係が徐々に明らかになり,当時
としては多くの技術的知見を積み上げることができました.これを論文にまとめる時は,
何度も文章を見直し,読む人がより理解し易いように,正確で且つ簡潔な日本語表現を心
がけました.当時の上司であった,故 野村俊夫さん(後に京浜精機常務)の厳しい指導をい
ただいたおかげもあり,でき栄えは我ながらまずまずのレベルだったと思います.自動車
技術会誌に掲載していただき,その次は,英語版を作成し,JSAE レビューにも掲載してい
ただきましたが,英語化もやはり同様の苦労をしました.自動車技術会の講演会でも発表
させていただきましたが,残念ながら SAE での発表までは至りませんでした.今思えば,
もう少しがんばっておけば良かったと後悔していますが,このわずかな期間で,業務の合
間を縫ってやった結果には満足していますし,大事なことを多く学んだと思っています.
その一つは,理論的プロセスを作ってシミュレーションをしても,それを証明するための
データは真実であり,そこに乖離が生まれますが,それを埋めるために新しい知見を入れ
ながら,何度も繰り返すことで最後にそれらが繋がり,より理解が深まることです.また,
-1-
ケーヒン技報 Vol.2 発刊に際して
人に正確に伝えるための文章表現等,それまであまり配慮できていなかったことが大変重
要であることや,とにかく自らやってみることで得られる知見は,そうでない場合に比べ
たら格段に違うこと等も学びました.
ケーヒン技報も今回が二回目の発刊です.多くの技術者が日常の業務で,志高い目標に
向けてチャレンジをしている中から出てきた本書の掲載論文・技術紹介は,量・質とも我社
の技術力や製品価値を示す規範になりつつあります.このことは,我社の中に特に若いエ
ンジニアが育つ環境が着実にできつつあることを感じさせますし,今後も継続させること
で,多くのジャンルの技術が,更にレベルアップしていくことを期待させるものです.ま
た,これからは海外への発信も前提とした構成とすべく,英語化を是非とも実現してくだ
さい.
昨年から自動車技術会の東北支部長を引き受け,その活動等を通じて,産学の連携のあ
り方や将来の自動車技術者の育成について考えることが多くなりました.企業内の研究・
開発は大学における研究活動とは,基本的なところで違いがあると思います.たとえば,
企業内では,将来技術の仕込みに向けて 1% でも成功すれば良い,あるいは競争力のある
独自の技術ノウハウや要素技術が構築されれば良い,といった研究テーマや,商品(製品)
開発と直結した絶対失敗が許されない開発テーマ等目的も様々です.どちらも,理論とア
イデアが重要であり,その中から,特許や論文が出て来ます.商品(製品)開発は,失敗が
許されないと同時にスピードが求められることから,技術的に証明されていること,更に
は,理論的な裏づけが間違いなくあることが大変重要であり,その観点では,論文の役割・
価値は極めて高くなります.産学連携と合わせて,引き続きより高いレベルを目指してく
ださい.
我社の得意分野は,キャブレタ,アクチュエータ,電子制御ユニット,空調ユニット等
多岐にわたりますが,とりわけ技術進化スピードが早い,ソレノイドやモータの応用領域
であるアクチュエータは,電磁気応用技術や機械工学的な知見が必要であり,電子制御ユ
ニットである ECU やセンサ,あるいはハイブリッド用の駆動ユニットは,電子工学,半導
体技術等が重要となります.また,熱力学や材料工学,流体力学等の幅広い分野の技術が
これらの製品を支えています.今後の製品は,これらの機能製品を束ねたサブシステム,
更には車載機能として完結できるシステムへ発展して行くでしょう.これらの開発過程で
は,ツールとしてコンピュータシミュレーションが広く使われ,物なし開発がトレンドと
なって行きますが,これらも含めて対応できる保有技術の良し悪しが今後の競争力につな
がります.技術はこれからも進歩し続けますし,その先には常に高い期待と厳しいニーズ
があります.技術者は高い目標を持って開発にチャレンジする精神を養い,そこから技術
革新のスピードと高い付加価値が生まれることを理解し,特に現在のような厳しい競争環
境においては,
“立ち止まる事は遅れること”を肝に銘じるべきでしょう.技術者が専門家
として主張を怠って妥協をすれば,その結果は明白です.
技報に取り組むことも,ひとつの通過点かもしれませんが,ここで多くのことを学んで
成長に繋げて欲しいですし,繰り返しチャンスがあるならば更なるレベルアップを図って
ください.今後もずっと技報の刊行は継続し,この環境の中で多くのエンジニアが成長し
続け,我社の技術競争力をますます高め,世界に通じる技術集団であり続けられるように
なることを期待します.
-2-
寄稿
21世紀はサプライヤの時代
飯 田 訓 正
Norimasa IIDA
慶應義塾大学理工学部
システムデザイン工学科
1997 年に慶應義塾大学理工学部教授.現在,同大学学
生総合センター矢上支部長を兼務.学外においては,国
土交通省や環境省等の検討会や研究会,第 22 回内燃機
関シンポジウム実行委員会等の委員長を歴任.現在も自
動車技術会の技術担当理事及び技術会議副議長,環境省
中央環境審議会専門委員等,様々な要職を務めている.
1.石油価格が決まる仕組み
一般に,商品価格は需要と供給のバランスで決まると教わるが,石油価格が決定される
過程または原理を考察してみる.産油国は石油を輸出した利益で,先ず国土の建設,すな
わち,国民の住居やオフィスの建設,道路や空港,港湾などの交通インフラの整備を行う.
次に,国民の医療・福祉に投資し,そして何より大切な教育に莫大な費用を注ぎ込む.それ
でも余った利益は,銀行を設立して石油消費国の経済に投資する.したがって,価格を高
騰させて消費国の経済を破綻させると,石油が輸出できず,投資も回収できない.よって,
政権が安定している賢明な産油国であれば,
「消費国の経済を破綻させない範囲で石油の価
格が決まる」という原理が正しいと推論してもあながち間違いではないと思われる.
2.コーニング社の事例
上述の原理は,サプライヤとOEMとの関係にも通じるものがあるように思われる.こ
の自説を展開する前にコーニング社の事例を紹介したい.特殊ガラスとセラミックのリー
ディング企業であり,世界でもユニークなコーニング社は,もともと 160 年ほど前に米国
の田舎町で工業用ガラスを生産する企業として創業された.
コーニング社のイノベーションは,1879 年,トーマス・エジソンの白熱電球に用いるガ
ラス球の開発に始まる.1920 年代には,リボン状の溶融ガラスを鋳型の穴に自重で懸垂さ
せて,電灯用ガラス球に成型する製造法を開発し,大量生産を可能にしている.1947 年,
一品一品手作りであった T V 用ブラウン管の量産技術を確立し,1960 年代には世界中の
ほとんどの TV 用ブラウン管を生産している.また,液晶ディスプレイ用ガラス基板の商
業生産を 1984 年に開始し,TV のディスプレイがブラウン管から液晶へ大きく変革した際
には,他社には供給できない大型サイズの液晶ディスプレイ用ガラス基板を世界中に供給
している.驚くべきは,これらの製品全てが世界の家庭で使われる数千万単位の大量消費
-3-
21 世紀はサプライヤの時代
製品であり,この企業のイノベーションが高価な少量製品の技術開発と必ずしも同義では
ないことであろう.
コーニング社のイノベーションは,これに止まらない.ガラスは見た目は固体でも,そ
の構造は液体であり,粘度が著しく高い状態にある.1910 年代,コーニング社の研究者
は,ガラスの冷却速度を極限まで遅くすると結晶化することを発見し,半分液体で半分固
体(結晶化)の状態を実現すると,熱や衝撃に強いガラスになることを見い出す.この耐熱
ガラスを用いた食器やフライパンが,有名な商標で世界市場を席巻したのはご存知だろ
う.また,1970 年には,世界初の低損失光ファイバを開発することで,銅線と比較して
1000 倍から 10000 倍の情報送信を可能にし,情報化時代の到来に大きな役割を果たして
いる.そして,1972 年,自動車排ガス用セラミックハニカム担体を開発し,現在では世界
の主要な OEM にセラミックハニカム担体と DPF を供給するリーディング企業としての
地位を確立している.
コーニング社の特徴は,市場ニーズの変化によって主力商品群がほぼ 10 年から 30 年
毎に切り替わる際,イノベーションを原動力にして見事に変革を果たしていることであろ
う.これは,主力製品で得た利益を生産設備等のインフラへ投資することはもとより,物
理や化学,分子結晶構造の研究,超強力磁場の研究等に,売上高の約 10% にあたる膨大な
研究開発費を投入していることから来ている.まさしく,政権が安定している賢明な産油
国の構図に通じるものがある.
3.21 世紀のサプライヤ像
さて,一部マスコミでは,OEM のコスト削減要求に喘ぐサプライヤの悲哀が報道されて
いるが,コーニング社が実現してきた上述の構図は,自動車産業のサプライヤにとって困
難な目標なのであろうか.ここで,誤解を恐れずに自説を述べる.
自動車産業の黎明期,O E M は部品製造から完成車組み立てまで自社でほぼ完結する生
産形態を取るが,モータリゼーションの拡大に伴い,性能とコストの競争に突入し,その
要求を満足するために,部品を専業生産する企業,サプライヤが多数誕生する時代を迎え
る.競争原理の中で淘汰が進みながら,開発と生産の効率化や高度化をもたらし,生産コ
ストの削減と信頼性の向上に寄与してきたサプライヤは,O E M 一社の生産台数をはるか
に超える膨大な出荷数を生産するに至り,世界中の O E M に供給する地位を確立する.こ
のような世界のサプライヤとしての地位と立場を自認できれば,先に紹介した産油国の構
図と同様に,
「OEM の経営を破綻させない範囲で部品の価格が決まる」という構図に落ち着
いても不思議ではない.
このようなサプライヤ像を目指す舵取りは,
「政権が安定している賢明な産油国」のモデ
ルに従えばよく,社内のインフラ整備や役員を含む社員の健康と福祉へ利益を還元し,そ
して何より教育や研究開発に投資することで,イノベーションを原動力に盤石な体制を築
けるであろう.21 世紀はサプライヤの明るい未来が描ける世紀であると確信して自説の結
びとしたい.
-4-
技術展望
ケーヒンにおける技術変遷とこれからについて
渡 辺 政 美
Masami WATANABE
専務取締役
1.緒言
これからの自動車部品産業には,自動車メーカの再編,系列の崩壊,それに伴うメガコ
ンペチタと呼ばれる巨大企業とのグローバル競争の更なる激化,地球環境問題などの要求
にこたえるために,新しい価値を創造する商品開発とグローバルでの迅速な商品の提供が
ますます重要となってきます.
日本の自動車の商品開発力の強さを支えてきた要因の一つに,高品質,高生産性を有す
るモノづくり力の強さ,いわゆる生産技術の強さを挙げることができます.
更なる商品競争力確保のために生産技術力の強化は不可欠であり,商品の進化,高度化
そして高品質化のためにはその分野,範囲は拡大させる必要があると考えます.
このたび,紙面をお借りすることが出来る機会を得ましたので,これまでの技術の変遷
とこれからの展望に付いてお話させて頂きます.
2.技術の変遷
●キャブレタの時代
創世記から事業の主体であるキャブレタは,その燃料噴霧精度,顧客のニーズに応える
ため,ジェットニードル(JN)のテーパ角度を組み合わせた仕様の高速加工や高出力,省燃
費に寄与するメインジェット(M J)孔の高精度加工を確立することで,二輪車の普及に伴
いケーヒンの知名度を向上させてきました.
その中で,CR レーシングキャブレタ(Fig. 1)は伝統的な円形スロットルバルブを使用し
たキャブレタでありながら,スロットルバルブの形状が空気流を妨げない構造となってお
り,全開時にベンチュリ内の吸入抵抗を最小限に抑える仕組
みが施され,二輪車業界における技術のケーヒンの地位が認
知されたと言えるでしょう.
80 年代以降では,ダウンドラフト型 C V キャブレタにお
ける油面調整技術の量産化や,燃費向上,エンジン焼き付き
防止に向けて,空気と燃料を混合する比率の精度向上のた
め,スロットルバルブに対する,ニードルジェット孔の同軸
-5-
Fig. 1
CR キャブレタ
ケーヒンにおける技術変遷とこれからについて
度 UP・倒れ抑制加工,BP ピッチ加工精度 UP,アイドリング調整精度 UP 等で,製品の価
値を高めてきました.
● FI 時代 電子制御時代へ
1982 年のシティターボに搭載された PGM-FI には,弊社製インジェクタ(INJ:Fig. 2)
が採用され,電子制御の時代がスタートすることになります.
I N J は耐久性の要求から,ガソリンを金属同士でシールする必要があることから,エ
ンジン停止中の「針弁漏れ」を如何に抑制するかが重要なポイントです.弊社は K S F
(= Keihin Super Finish)というバニッシュ加工を応用した
仕上げ加工技術により,シート部真円度をサブミクロン以下
にすることで,お客様の要望される針弁漏れ量を達成しまし
た.この技術は,新型の直噴 INJ をはじめ,全てのガソリン
燃料 INJ に採用する技術となりました.現在では針弁漏れ量
は,当時の 50 分の 1 以下に縮小するところまで進化してお
り,更なる高精度化加工技術への進化が求められています.
Fig. 2
インジェクタと ECU
●機電一体化 システム制御への進化の時代へ
1997 年のケーヒン合併(旧京浜精機製作所,旧ハドシス,旧電子技研)は,システムメー
カへの変革の開始と共に,技術領域の拡大をもたらします.燃料系部品,空調,電子の技術
が共有化されることで,製品への付加価値を向上させる可能性が飛躍的に広がり,生産技
術がカバーする技術領域は,ほぼ現在の姿になりました(Fig. 3).同様に,生産技術も加工
や鋳造,成型といった「個別工程技術」よりも,生産システム全体のレベルを追及する時代
に変化したのです.
そこで,生産システムとしての推移をみると(Fig. 4),専用,汎用機が加工,組立も単独
で独立した形で配置されていた(単独の高性能,高速化を追求する)時代から,コンベア等
での連結やトランスファ化により,大量生産が可能となることで低コスト化を実現してき
ました.その後は,省人化や危険作業回避を目的としたロボットが導入され,生産効率の
向上に寄与してきました.これまで蓄積されている技術は,先進国,新興国を問わず,そ
機構
プレス
○
鍛造
変形
除去
○
○
○
○
DC
○
○
モールド
○
○
射出成型
○
○
機械加工
○
○
電気加工
半田付け
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
ケーヒンの生産システム
事業単位
製品単位
ライン単位
○
○
○
○
○
溶着
メッキ等
○
○
○
○
改質
熱処理
○
○
○
○
○
○
・一貫生産
単独工程
○
処理
Fig. 3
電子
○
○
溶接
絶縁・接着
○
○
○
ロー付け
接合
空調
キャブ SOL INJ 燃料 インテーク コン HVAC ECU
レタ
ポンプ マニホールド デンサ
生産システムのレベル
加工技術
・専用機
・汎用機
・トランスファ
マシン
・人とロボット
混在型
・同一製品
多機種生産
・無人運転
○
現状
ケーヒン生産技術の技術領域
Fig. 4
-6-
ケーヒン生産システムの進化
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
のニーズに応答する形で,日本から発信され,お客様の最大満足を得るべく活用されてい
ます.
直近では,より生産性の高いラインを日本のノウハウを結集し立ち上げ,更にグローバ
ルに再発信し,弊社グループの競争力向上に寄与する活動へと進化し始めました.
3.これからの生産技術
今後の社会動向として,日本生産は高付加価値,技術発信等を更に強化し,世界の国々,
環境に対応した廉価な生産システムを供給することが求められます.当然の事ながら,地
域密着仕様の要求は年々高度化しています.オンデマンド生産システムを有するダイバー
シティ工場の実現が求められると推察され,生産管理の一本化や,世界中の生産状況が日
本をはじめとする各国拠点で把握できるような仕組みつくりも必要となってきます.
こういった動向に対応するために,進めるべき技術展開の分類を廉価技術,未保有技術,
要素技術と区分して考えてみます.
廉価技術の流れを生産の自動化の観点からみると,先程述べました,人と機械混合型生
産の進化が必要です.現在の人とロボットの混合ラインでは,ロボットは単純な動作を確
実にやり切るものとして位置づけられていますが,今後は単機能だが人が作業中に行う
微妙な調整を実践できるロボットが協調して生産をする.そしてロボットの多能工化(考
えるロボット)に進化し,無人化生産が可能になるでしょう.加工機も加工軸数の増加の
みならず,従来の M / C,旋盤などの機能を併せ持つ多能工設備に進化させた上で,容積
が半分以下のダウンサイジングを達成して,工場のスペース効率を U P することになり
ます.
未保有技術では,まず,環境先進技術の仕込みが必要です.車の電動化や制御の複雑化
モジュールやシステム化も加速し,これらに対応した生産技術を開発整備することはもち
ろんですが,より高度化する生産品目に合わせて,工程のリアルタイム見える化を進展さ
せることでも必要です.世界中の生産状況がわかる生産管理の一本化も重要なテーマで
す.これはどの拠点に居ても,どこの工場でどの様な製品がどのくらい製造されているか
が瞬時に把握できることになり,生産補完が飛躍的にやりやすくなるでしょう.
並行して完全 CAD/CAM 化では,試作は最終確認のみとなり,バーチャル化では現在
のライン段取り等の確認は,TV 会議で各拠点と結び,リアルタイムで検証可能とすること
で,費用,時間の大幅な削減が可能となるでしょう.
要素技術では,省エネルギの観点から,創エネルギ及びエネルギ循環型工場実現や金型
や刃具に代表される消耗品の超長寿命化の技術仕込みが必要となる.これらの取組みイ
メージをまとめると,Fig. 5 の通りとなります.
これらを達成するに当り,項目を分けて分類すると,高度化,高機能化をはじめ,製方の
転換,微細加工技術に追従する計測技術を進化させなければなりません.日本の生産技術
は環境変化を敏感に捉え,1つ1つの技術を着実に確立すると同時に,先人の築いてきた
知財(所謂これまで蓄積されてきたデータやノウハウ)を活用し,その進化を世界に発信し
ていく必要があるのです(Fig. 6).製品進化と確立技術の融合は,シーズとニーズを交換
しながら,常に新しい価値を創造しています(Fig. 7).
-7-
ケーヒンにおける技術変遷とこれからについて
ものづくりの進化
社会動向
・国内生産は下記に特化
→ 高付加価値商品
→ 生産・消費地接近商品
→ 技術発信
・リーン生産システムの普及
・リスクマネジメント
・地域密着仕様の進展
・重要技術のグローバル化,
ブラックボックス化が進み,
国際貢献と競争力強化両立
・グローバル生産管理一本化
・オンデマンド生産システム
・ダイバシティ工場の実現
・エネルギ創出の進展
・多能工MC化推進
・ダウンサイジング
・人とロボットの協調生産
・完全自動化工程の進展
・多能工ロボットの実用化
・無人生産実現
・高難度の作業ロボットの拡大
廉価
・人と機械混在型の生産
・多機種混合生産
・地域,製品別
STD の進化
未保有
・完全 CAD/CAM
・ユビキタス環境,ウェアラブル
工場の実現
装置を使った工程作業
・CAD/CAM 化進展
・技術情報のデータベース化で ・リコンフィギュラブル
・工程のリアルタイム見える化
CAE 活用し,試作レス化
生産システム
・バーチャルライン検証
・素材∼製品のトレーサビリティ
の標準化
要素
・油圧レス化
・材料での成型 CT 短縮
・希土類レス長寿命工具
・リデュースの進展
・エネルギ循環利用実現
(回生含む)
年代
Fig. 5
社会動向と生産技術進化イメージ
環境変化に対応する生産技術の構築と発信
高精度化
熱変化制御 等
高機能化
超高速切削,多能工化 等
転換・複合化
基盤技術強化
廉価・未保有・要素
計測技術
自律補正非接触測定 等
CAE技術
加工干渉,振動 等
生産ロス低減
ロス回生
知財活用
Fig. 6
レーザ複合加工 等
直行率、設備一体化 等
生産技術部門
開発部門
高精度化
技術
戦略
製品戦略
高機能化
技術
戦略
転換
複合化
技術
戦略
原料最小
技術
戦略
排熱の有効利用 等
原料最小化
リアルネットシェイプ 等
K/H数値化
モニタリングソフト 等
K/H
数値化
技術の目指すところと技術項目群
技術
戦略
Fig. 7
DE協議会
彼我比較
コスト
トレンド
開発部門との連携
4.結び
これまで,ケーヒンにおける生産技術の歴史と今後に付いてお話させて頂きましたが,
ケーヒンが今後も競争力を発揮し続けるには廉価や環境先進技術を提供できる技術を如何
に早く発信するかにかかっています.
社是にある「我々は常に新しい価値を創造し,人類の未来に貢献する」をケーヒンは目指
しています.生産活動や技術に携わる皆さんは,I T や C A E 等の道具を重視するあまり,
現場,現物を忘れることの無い様に,
「三現主義」を心がけて業務に従事して頂きたいと思
います.
目覚しく進化する世の中の技術を常に把握し,効率的に仕事を進めていくこと,そして
価値ある製品を一刻もはやくお客様にお届けすることを,今後も心がけて頂きたいと思い
ます.
-8-
Keihin Technical Review Vol.2 (2013)
Technical paper
Improvement of Spray Characteristics in Port Injectors ※
ポートインジェクタにおける噴霧特性の向上
Junichi NAKAMURA*1 Akira AKABANE*2
Koji KITAMURA*1
Yuzuru SASAKI*1
中 村 順 一
北 村 浩 二
佐 々 木 譲
赤 羽 根 明
ポート噴射インジェクタより噴射される燃料噴霧は,エンジンの出力や燃焼効率に強い影響をあたえる.
よって燃料を小さな油滴にする微粒化と,エンジンより受ける温度や負圧などの環境変化に依存しない正確な
燃料供給が求められている.本報では,ニードルバルブとのシート部下流の徹底した圧力損失(エネルギーロ
ス)の低減と噴孔位置の適正化による微粒化手法,及びシート部下流のデッドボリューム削減と燃料通路長短
縮による温度や負圧の変化に依存しないインジェクタを紹介する.
Key Words: Fuel Injector, Atomization
INTRODUCTION
flow rate characteristics
Various atomization techniques and flow rate
Lately, there have been growing demands for
stabilization techniques have been developed and
internal combustion engines for motorcycles and
put into practice. Among the currently available
other applications to have lower emissions, better fuel
techniques, this development focused on and modified
economy and higher performance insusceptible to use
the structure located under the valve seat. Effects
environments. This is because of skyrocketing fuel
of under-seat flow and pressure were clarified in
prices and greater use of fuel injection systems under
our existing injector structure so as to improve and
stricter global-scale emission control regulations in
modify a flow path from the seat to the nozzle orifice.
various countries including developing countries. As
1. Overview of injector for small
motorcycles
part of such demands, injectors need to atomize fuel
spray for lower emissions and better fuel economy
and to minimize a variance in flow rate without being
susceptible to changes in temperature and negative
Fig. 1 represents the structure of our gasoline
pressure so as to ensure a higher performance that is
injector. When current flows through a coil, a core
unaffected by the use environments.
of injector is vacuumed and a valve train integrated
Our development focused on the following three
with the core is lifted to open the valve as shown
improvements for injectors.
in the figure. Next, fuel pressure applied by a fuel
(1)Atomization
pump delivers fuel through the opened seat and the
(2)Minimization of change in temperature and flow
fuel is sprayed through multiple nozzle orifice laid
rate characteristics
out in the plate.
(3)Minimization of negative pressure and under-seat
On Fig. 2, the under-seat flow in the existing
※Received 28 June 2013, Reprinted with permission, from SAE paper 2012-32-0071 (JSAE paper #20129071). Copyright © 2012 SAE International
and SAE of Japan. Further use or distribution of this material is not permitted without permission from SAE International or SAE of Japan.
*1 Development Department 3, R&D Operations *2 Development Department 1, R&D Operations
-9-
Improvement of Spray Characteristics in Port Injectors
structure shows that fuel passes through the seat
path from the seat to the nozzle orifice and a large
toward the center of axis, then comes down to the
dead volume, fuel often tends to drip out without
vertical hole area, and radially flows from the center
being atomized immediately after the valve opening
of axis to the counter bore. After entering the counter
and closing stages in which a full fuel pressure is
bore, the fuel flows laterally along the plate located
not reached. Furthermore, fuel may be sprayed with
under the counter bore. The plate has multiple nozzle
an improper particle size at the start of spraying
orifice laid out to deliver the required flow rate. At the
if the counter bore is filled up with fuel and fuel
nozzle orifice in the plate, the laterally flowing fuel
separation is instable, such as when a change in fuel
rapidly changes its flow direction. Such rapid flow
temperature or negative pressure causes a variance
direction change separates and pulls off the fuel from
in dripping rate.
the inner walls of nozzle orifice and forms a fuel film
Fig. 4 represents a photo of the spray at the start
with external air trapped in the space produced by
of injection. This photo shows that there are large
separation prior to spraying and diffusion.
droplets at the start of injection. And, the graph of
Since the existing structure has a long fuel flow
spray particle size vs. time plotted in Fig. 5 reveals
poor atomization caused by a large particle size
Fuel pressure
of fuel dripping out at the start of injection. Also,
Power Supply
the distribution curve shown in Fig. 6 signifies the
distribution of large particle sizes.
Moving Core
Seat, valve
Nozzle orifice
Fig. 1
Cross-section view of current Injector
Fig. 3
Flow direction
Seat
Velocity in counter bore (flowing to the
nozzle orifice)
Model: 10-nozzle orifice
Hole
Counter bore
Nozzle orifice
Dead
Volume
Plate
Separate In inner walls
of nozzle orifice
Low
Fig. 2
High
Initial dripping at injection
Fuel flow direction and pressure distribution
Fig. 4
- 10 -
Current dripping
Keihin Technical Review Vol.2 (2013)
As a long fuel path from the seat to the nozzle
Meanwhile, there was an issue of a change in the
orifice causes severe pressure loss, as shown in Fig.
temperature and flow rate characteristics. After the
7 resulting in a drop in fuel pressure applied by a
valve closes, a lower pressure in the dead volume
fuel pump before reaching the nozzle orifice, the
boils the fuel. As the fuel cubically expands it is
particle size of sprayed fuel eventually becomes
pushed out. At higher fuel temperatures, a large dead
large. This is due to the lower effectiveness of air
volume under the seat causes a variance in injection
entrapment and diffusion during fuel separation from
rate in the event of a change in temperature (Fig. 8).
the hole wall as a consequence of a rapid change of
A change in negative pressure could also cause
a variance in the injection rate due to the aforesaid
flow direction in the nozzle orifice.
effects of dead volume. At a higher negative
250
pressure from an engine, fuel flows out from the
Particle size [µm]
200
dead volume (Fig. 9).
Current model
150
15.0%
Flow rate change [%]
100
50
0
0
2
Fig. 5
4
6
Time [ms]
8
10
Change in particle size over time
5.0%
0.0%
-5.0%
-10.0%
-15.0%
10°C
20
Current model
Fig. 8
15
Current model
30°C
50°C
70°C
Fuel temperature [°C]
90°C
Change in the temperature and flow rate
characteristics
10
40%
5
Flow rate change [%]
Frequency [%]
10.0%
0
0
Fig. 6
100
200
300
Particle size [µm]
400
500
Particle size distribution of current model
350
Current model
20%
0%
-20%
30
0
200
400
600
20
Current-Pressure
Current-Velocity
200
0
2. Approach to resolve issues
In light of the existing issues described under
ol
ov
eh
section 1, an approach was selected and determined
measurement position
(1)Atomization: Shorter flow path from the seat
ab
based on the three mechanisms of injectors.
al
V
ve
se
at
Se
Fig. 7
Change in the negative pressure and flow
rate characteristics
es
10
ho
le
250
Fig. 9
Velocity (m/s)
300
at
Pressure (kPa)
Pb [mmHg]
Pressure loss and velocity of under-seat
to nozzle orifice; minimized pressure loss and
- 11 -
Improvement of Spray Characteristics in Port Injectors
facilitated separation in the nozzle orifice (liquid
of gasoline. This graph signifies that gasoline
film forming)
can remain in a liquid state at an atmospheric
pressure of 101.3 kPa and starts vaporizing at its
(2)Minimization of change in temperature and flow
vapor pressure of 53.3 kPa or lower even under
rate characteristics: Smaller dead volume
(3)Minimization of change in negative pressure and
atmospheric pressure. It is also shown that gasoline
flow rate characteristics: Smaller dead volume
starts vaporizing at a temperature of 38°C or higher
even in the atmosphere. This suggests that the
2-1. Atomization mechanism
characteristics can be improved by setting a pre-spray
Generally, fuel injected by an injector splits in
pressure under the injector valve seat through the
the process shown in Fig. 10. While the mechanism
nozzle orifice to meet the requirement stated below.
shown in Fig. 10 is a generally known droplet
The distribution of under-seat flow pressure in an
mechanism, instability of this process could be a
existing injector is shown below. As seen in Fig. 11,
possible cause of failed atomization. As shown in
the pressure decreases in the dead volume under
Fig. 2, the flow in the cylinder called a counter bore
the seat and in the larger-diameter counter bore
goes into the nozzle orifice but the pattern of such
to or below the aforesaid requirement. Apparently,
flow into the nozzle orifice varies depending on their
reducing the pressure loss through an improved dead
layout. This may prevent the optimum liquid film
volume is effective as a countermeasure.
from forming. As fuel separation in the nozzle orifice
2-3. Method of approach and effectiveness
depends on the intensity of the lateral flow above
the nozzle orifice, instability of one flow direction
obstructs the separation. Such instability means it is
Atomization
hard to ensure a stable particle size in each nozzle
Fig. 12 represents the improved under-seat layout
orifice as the liquid film forming is a passive process
of this development. The developed layout shortens
that induces separation in the nozzle orifice and uses
the flow path from the seat to the nozzle orifice
air trapped in the separation area in the nozzle orifice.
and reduces the dead volume, which minimizes fuel
As a method to ensure stable atomization, it was
pressure loss before it reaches the nozzle orifice in
determined to form an active flow that would induce
the plate. It also allows fuel flowing from the seat
liquid film forming on the inner walls of nozzle
nozzle orifice.
100
Vaper pressure (kPa)
2-2. Mechanisms of temperature/Negative pressure
and under-seat flow rate characteristics
F i g . 1 1 r e p r e s e n t s a va p o r p r e s s u r e c u r ve
101.3kPa
80
60
53.3kPa
40
24°C
20
Liquid film
forming
(Thin film)
Liquid column
forming
Fig. 10
Liquid droplet
forming
(Atomization)
0
-100
Process of atomization
Fig. 11
- 12 -
0
100
Temperature (°C)
Vapor pressure curve of gasoline
200
Keihin Technical Review Vol.2 (2013)
to meet the flow returning from the center of the
In addition, the pressure decrease point is located at
axis above the nozzle orifice, and drags fuel against
a post-spray point. These achievements minimize the
the inner wall of the nozzle orifice, forming a void
effects of variance in gasoline remaining in the dead
in the center of hole and facilitating liquid film
volume, which results in minimization of any change
forming in the nozzle orifice. In addition, a smaller
or variance in the flow rate in comparison with the
dead volume allows for the aforesaid under-seat flow
currently achievable level even at high temperature
immediately after spraying, which can minimize
and/or negative pressure.
M o r e ove r, a s m a l l e r d e a d vo l u m e r e d u c e s
initial and end dripping.
Fig. 12 illustrates a flow line of under-seat flow
the time required to fill the dead volume with
as identified through fluid analysis of this layout.
fuel and contributes to both minimum (Table 1)
As seen in Fig. 12, liquid-film-formed fuel at the
initial dripping and better injection responsiveness
entrance to the nozzle orifice can actively form a
(Fig. 15).
liquid film of fuel sprayed and induce atomization.
350
30
Pressure (kPa)
flow rate characteristics
And as shown in Fig. 13, 14, the developed
injector can keep the under-seat pressure at a vapor
pressure of gasoline or higher and thus neither a
New-Pressure
Current-Pressure
New-Velocity
Current-Velocity
300
250
20
10
pressure decrease nor boiling occurs in the injector.
ol
eh
ov
ab
V
al
ve
se
at
Se
ho
at
es
0
le
200
measurement position
Fig. 14
Comparison of pressure and velocity
Table 1
Low
Fig. 12
High
Dead volume
Length of flow path
Cross-section of new injector under seat
and flow direction
Countermeasure
CURRENT
1.2mm3
3.9mm
NEW
0.5mm3
1.2mm
seat
seat
Valve seat
hole
Valve seat
hole
Above
nozzle orifice
(a) Current model
Fig. 13
Above
nozzle orifice
(b) New model
(a) Current model
Comparison of layout
Fig. 15
- 13 -
(b) New model
Initial dripping at injection
Velocity (m/s)
Temperature/Negative pressure and under-seat
Improvement of Spray Characteristics in Port Injectors
3. Result of countermeasures
and in negative pressure and under-seat flow rate
characteristics (Fig. 18, 19).
This section describes the Result of countermeasures
15.0%
Flow rate change [%]
incorporated in the developed injector. The developed
layout was more effective in the areas listed below
(Table 2).
T h i s c a n a l s o b e o b s e r ve d i n d i s t r i bu t i o n
(Fig. 16, 17).
Temperature/Negative pressure and under-seat
changes in temperature and flow rate characteristics,
64µm
85µm
Temperature
2%
flow rate characteristics
Negative pressure
+11.7%
flow rate characteristics
9%
+28%
-5.0%
New model
-10.0%
Current model
30°C
50°C
70°C
Fuel temperature [°C]
Comparison of change in the temperature
and flow rate characteristics
New model
RESULT
Improvement
25%
Improvement
77%
Improvement
58%
Current model
20%
0%
-20%
0
200
400
600
Pb [mmHg]
250
New model
200
Particle size [µm]
90°C
40%
Flow rate change
Atomization (S.M.D)
CURRENT
0.0%
Fig. 18
Result of countermeasure
NEW
5.0%
-15.0%
10°C
flow rate characteristics improvements also minimize
Table 2
10.0%
Fig. 19
Current model
Comparison of Change in the negative
pressure and flow rate characteristics
150
100
CONCLUSIONS
50
This developed injector can reduce any variance
0
0
Fig. 16
2
4
6
Time [ms]
8
10
in flow rate in the event of a change in temperature
in different engine use environments or a change
Comparison of change in particle size
over time
in negative pressure in different engine running
modes and can improve the atomization of fuel
to be sprayed. Under changing market situations
Frequency [%]
20
New model
Current model
15
in the future, manufacturers will need to develop
and offer environmentally friendly products at a
moderate price particularly in developing countries
10
where sales of motorcycles and automobiles are
5
expanding. And along with a full-fledged growth
0
0
Fig. 17
100
200
300
Particle size [µm]
400
of FI for motorcycles, these advantages can make
500
a great contribution to lower emissions and better
fuel economy, not only in developed but also in
Comparison of change in Particle size
distribution
developing countries.
- 14 -
Keihin Technical Review Vol.2 (2013)
REFERENCES
(1)Daisuke Matsuo, Akihiko Haramai, Kazuhiko
Sato, Minoru Ueda: Development of a Small
Low-cost Fuel INJECTOR to Overcome
Diversification of Requirements in Global
Markets, SETC Paper 20097055
(2)Mitsutomo Kawahara, Kenichi Saitoh, Kazuhiko
Sato: Reduction of operation noises of Injector
for small motorcycle. SETC Paper 20119625
Authers
Junichi NAKAMURA
Akira AKABANE
Koji KITAMURA
Yuzuru SASAKI
We sincerely appreciate all support we recieved
from everyone. We continue challenging the further
new technology so that it can contribute to lower
emissions and better fuel economy. (NAKAMURA)
- 15 -
論文
磁場中熱処理によるケイ素鋼の磁化方向の制御
磁場中熱処理によるケイ素鋼の磁化方向の制御※
Control of Magnetization Direction of Silicon Steels by a Heat Treatment under a High Magnetic Field
保 科 栄 宏*1
Hidehiro HOSHINA
原 川 俊 郎*2
Toshiro HARAKAWA
高 橋 弘 紀*4
Kohki TAKAHASHI
小 山 佳 一*5
Keiichi KOYAMA
白 石 隆*3
Takashi SHIRAISHI
This study has tried to control the easy magnetization direction of soft magnetic materials including a silicon
steel by a heat treatment in a high magnetic field. The heat treatment in a magnetic field was performed with
the silicon steel which was made to deform plastically in advance. As a result, it was found that the coercive
force of parallel to the magnetic field was reduced as compared with that of perpendicular to the magnetic field.
Furthermore, this reduction of the coercive force becomes the maximum in the vicinity of the recrystallization
temperature during the heat treatment.
Key Words: High Magnetic Field, Soft Magnetic Material, Silicon Steel
1.はじめに
イドの高効率化には,高性能な軟磁性材料が
必要不可欠となっている.
強磁場環境下で熱処理することによって材
そこで,我々はフューエルインジェクタ等
料の金属組織を制御しようとする試みは,ヘ
の電磁アクチュエータへの適用を考える上で
リウムフリー超伝導マグネットの開発を契機
有用な,鉄系軟磁性材料の磁気特性と熱処理
に,多くの研究,報告がなされている(1).
中に印加する強磁場との関連について調査し
たとえば“鉄系スーパーメタルプロジェク
(2)
ト”
において,炭素鋼を強磁場中で逆変態さ
せることで,磁場の印加方向に配向した特異
な組織が得られることが報告されている.そ
こで得られた組織をもとに,超微細粒鋼の創
製につながるなどの報告がある.さらに,鉄
Fuel Injector
系では,マルテンサイト変態にも磁場が作用
することが確認されている(3).こうした,強
磁場中の現象は,通常の熱処理では得られな
かった材料特性が発現し,実用面での応用が
期待されている.
Solenoid
F i g . 1 に当社製品であるフューエルイン
ジェクタの概略図を示すが,この部品は高速
に弁を開閉し,燃料を噴射する必要があり,そ
の開閉にソレノイドを使用している.ソレノ
Fig. 1
Appearance of the Fuel injector.
※2013 年 8 月 21 日受付,日本磁気科学会の許諾を得て,第7回予稿集より加筆修正して転載
*1 東莞京濱電噴装置有限公司 *2 2013 年 3 月退社(開発本部 第一研究室) *3 開発本部 材料研究部 *4 東北大学 *5 鹿児島大学
- 16 -
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
3.試験方法
た.軟磁性材料として使用される材料の中で
一般的なケイ素鋼を磁場中で熱処理できる装
置を製作し,熱処理中に強磁場を作用させて,
歪の再結晶過程に磁場を作用させるために,
磁化容易方向の制御の可能性を検討したので
まず,市販のケイ素鋼棒にロール圧延によっ
その結果を報告する.
て塑性歪を導入した.歪が導入された試料の
断面組織を Fig. 3(a) に示す.
2.装置概要
こうして得られた鋼棒を切削によって外径
5.5 mm,高さ 4 mm の寸法の円柱状に切り出
熱処理設備は,内径 100 mmφを有する超伝
し,熱処理に使用した.また,磁場中の熱処理
導マグネット(10T-CSM)と外径 50 mmφ,内
を実施する前に無磁場の焼鈍によって事前に
径 22 mmφの電気炉をベースに真空熱処理炉
再結晶温度を確認した.再結晶温度は,873K
の部位を製作した.
~1023K の範囲で 50K おきに焼鈍温度を変量
させ,試料が軟化完了した温度を測定して求
真空熱処理炉は,外径 14 mmφ,内径 12 mmφ
の石英ガラス管の一端を閉じたものを用い,
めた.
ターボ分子ポンプを用いることで,熱処理に
次に,前述の磁場中熱処理装置にて 10T
際し安定した処理が行える程度まで減圧でき
の磁場強度中と無磁場で熱処理を行った.こ
る機構としている.
のとき,焼鈍する際の保持温度時のみに磁場
が印加されるように磁場印加パターンを設定
試料は,磁場中心,電気炉の温度中心と試料
した.
中心位置が一致し,さらに均一磁場中で熱処
熱処理後の試料については,保磁力を測定
理できるように配置しており,また,試料付近
の雰囲気温度は Pt-Rh 熱電対を用いて測定し,
して軟磁特性の変化を確認した.保磁力は,保
処理炉内の温度変化を把握可能とした.磁場
磁力計を用いて測定し,その際,Fig. 4 に示す
中熱処理設備の概略図を Fig. 2 に示す.
ように,熱処理時に磁場を印加した方向に対
して角度を変えて測定して磁場方向と保磁力
Thermocouple
の大きさの相関を確認した.
Pump
Thermocouple
Cooling water
Cooling water
(a) As Rolled
Fig. 3
Platinum heater
Microstructures of (a) an as-rolled and
(b) an annealed (at 973 K) sample.
Magnetic Field
Direction during
Heat Treatment
Specimen
(b) Annealed at 973K
0deg.
90
BN Stage
Silica glass
Cryogen-free Superconducting Magnet
Fig. 2
180
Schematic illustration of heat treat furnace
in field.
Fig. 4
- 17 -
Angle definition in coercivity measurements.
磁場中熱処理によるケイ素鋼の磁化方向の制御
4.試験結果
少しており,磁場の寄与が確認された.このよ
うに磁場中で焼鈍すると磁場印加方向にのみ
無磁場中で再結晶温度を確認した結果を
保磁力が小さくなる現象は,Fig. 5(b) に示した
Fig. 5(a) に示す.また,973K で焼鈍した試料
ように一次再結晶完了温度付近で確認された.
の断面組織を Fig. 3(b) に示したが,Fig. 3(a) で
以上のことから,ケイ素鋼の再結晶温度付
見られたような歪は消失していることが確認
近で磁場中熱処理することで保磁力に異方
できる.歪の消失過程と Fig. 5(a) の軟化曲線か
性が生じることが確認された.そこで,次に
ら,973K が再結晶温度であると考えられる.
(1)磁場印加時間の影響,(2)印加する磁場
Fig. 6 に再結晶温度の 973K で,磁場を 10T
強度の影響,(3)熱処理前に導入する歪量の
影響について確認実験を行った.
印加しながら焼鈍した試料を,角度を変えて保
磁力を測定した結果を示す.無磁場中で熱処理
(1)磁場印加時間の影響
したものは角度によって保磁力の変化はない
印加磁場を 10T で一定として,保持温度
が,磁場を印加して熱処理した試料は,磁場垂
1013K で再結晶熱処理を行う際,保持時間を
直方向と比較して磁場平行方向の保磁力は減
10.8ks(3hr)と,36.0ks(10hr)に変量させて保
磁力の異方性を確認した結果を Fig. 7 に示す.
Vickers Hardness
(a)
260
240
220
200
180
160
140
120
as Roll
この温度では 10.8k s で再結晶が完了するが,
それ以降,36.0k s と,長時間磁場中熱処理し
Recrystallization
ても保磁力の異方性の大きさは変わらず,再
結晶後磁場中保持しても異方性の大きさは変
873
923
わらないことが確認された.この結果より,再
973 1023 1073 1123
結晶現象に磁場が作用していることが最確認
Temperature (K)
Anisotropy of
the Coercive
Force (%)
(b)
(2)印加する磁場強度の影響
20
Fig. 8 に磁場中に印加する磁場強度を変量
0
-20
873K
973K
させて測定した結果を示す.この結果から,磁
1073K
Temperature dependence of the (a) Vickers
hardness and (b) Anisotropy of the coercive
force.
Anisotropy of the
coercive force (%)
Fig. 5
できた.
40
100
80
Fig. 7
10T
70
60
50
Anisotropy of the
coercive force (%)
Coercivity force (A/m)
90
0T
40
30
0
45
90
50
40
30
20
10
0
135 180
10.8ks (3hr)
36.0ks (10hr)
Anisotropy of the coercive force of the
diferent heat treatment time.
0T
3T
5T
10T
18T
Magenetic Field (T)
Angle (degree)
Fig. 6
50
40
30
20
10
0
Fig. 8
Angle dependence of the coercivity force.
- 18 -
Field dependence of anisotropy of the
coercive force.
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
性の増大はない.
場強度が 3T でも異方性は発現し,それ以上の
(2)磁場強度の影響
磁場強度では異方性が飽和していることがわ
磁場強度 3T 以上で異方性が発現し,それ以
かる.
上の磁場強度では飽和傾向になる.
(3)熱処理前に導入する歪量の影響
(3)熱処理前に導入する歪量の影響
次 に ,熱 処 理 前 に 導 入 す る 歪 量 を 変 量 さ
歪み量が大きくなると,異方性が最大とな
せ,磁場中熱処理を行った.減面率が 15% と,
る熱処理温度が低下する.
77% の試料を作製し,異方性を確認した結果
を Fig. 9 に示す.減面率が 77% の試料では再
電磁弁をはじめとする電磁アクチュエー
結晶温度が低温側に移動するが,それにとも
タでは,動力などの物理エネルギーへ変換さ
なって異方性が発現するピーク温度が低温側
れない磁気エネルギー,すなわち漏洩磁束が
に移動することが確認できた.
効率低下の要因の一つであるといわれてい
Vickers hardness
(HV0.2)
る.今回,磁場中での熱処理によって軟磁特
260
240
220
200
180
160
140
120
性を制御する可能性が示されたことで,電磁
アクチュエータにおいて,特定の方向に磁化
が容易な軸を配置すれば,磁束の漏洩を防止
することができ,効率の向上が期待できると
As Rolled
823
873
923
973
1023
考える.
1073
Difference of coercive force
(Hc90°-Hc0°) A/m
Temperature (K)
Fig. 9
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
723
参考文献
Reduction of Area 15%
Reduction of Area 77%
(1)浅井滋生:入門材料電磁プロセッシング,
内田老鶴圃,東京,(2000)
(2)例えば JRCM NEWS No.191 2002.9 等
(3)
掛下知行,福田隆:鉄と鋼 V o l .91(2005)
773
823
873
923
973
1023
No.4
1073
Temperature dependence of Vickers hardness
and coercive force on the different reduction
of area.
著 者
5.結論
ケイ素鋼に歪を導入し,磁場中で焼鈍した
場合,磁場印加方向の保磁力が低下すること
を確認した.この現象は,焼鈍時の再結晶過程
に対して磁場が作用したことによって生じた
保科栄宏
原川俊郎
高橋弘紀
小山佳一
と考えられる.
また,磁場の影響する条件を詳細に確認し
た結果,下記の知見を得た.
(1)磁場印加時間の影響
再結晶段階に磁場を印加した場合,異方性
が発現するが,再結晶が完了したあとは異方
- 19 -
白 石 隆
磁場中熱処理によるケイ素鋼の磁化方向の制御
本研究の推進にあたり,社内外を含めた多
くの関係各位のご協力により本報告ができた
ことを心より感謝します.試行錯誤の連続の
なかで,産学連携で進める上での難しさ,新た
な知見が見えたときの楽しさなど,貴重な経
験をさせて頂いた.今回確認された事象は学
術的にも新たな知見であり,産学連携なくし
て得られなかったものと考える.今後,このよ
うな成果を製品開発への応用につなげられる
よう尽力したいと考える.
(保科)
今回,電磁プロセッシング研究の一環とし
て,磁場中での材料特性の変化について産学
連携して取り組むという貴重な体験をさせて
頂いた.新たな現象が確認されたときに,それ
を大学の先生方と議論しながら次の展開を考
案していくという中で,自分自身,より磁場の
不思議さと面白さを体感できた.当社は多く
の磁気を利用した製品を製造しているが,今
後の製品の研究開発に役立てていけたらと考
える.
(原川)
- 20 -
論文
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
小型二輪車用プレッシャレギュレータにおける
異音発生メカニズムの解析※
Small Motorcycle for Pressure Regulator Analysis of Noise Generation Mechanism
上 原 寿 史*1
Toshifumi UEHARA
福 重 光 豊*1
Mitsutoyo FUKUJYU
To cope with emission regulations of each country in recent years, FI of motorcycle is accelerating. Demand for
inexpensive motorcycles is high, cost containment is an important element in developing countries, Costs through
simplification and miniaturization is progressing in the FI system as a whole. Pressure regulator role to keep constant
the fuel pressure has reduced the number of parts therein, Ball valve type pressure regulator has spread around
the small motorcycles. However, ball valve type pressure regulator pressure adjustment, Ball valve has a structure
easy to swing, there is a noise problem could occur. When idling or when it is ON the ignition with less noise
especially around, it sounds remarkably has become a problem, noise reduction was necessary. By angularly narrow
valve seat, by suppressing the amount of movement of the ball valve in the present report, we report the results
and consider ways of reducing noise while maintaining the characteristics of the pressure regulator of prior art.
Key Words: Pressure Regulator, Noise, Valve Ball, Fuel Pump Module
1.はじめに
に伴いボールバルブが開弁することで燃圧を
レギュレートする.
近年の各国の排出ガス規制に対応する為,
ボールバルブ式 P / R E G を搭載している二
二輪車の FI 化が加速している.発展途上国に
輪車においては特に周りの雑音が少ない状態
おいては安価な二輪車の需要が高く,コスト
でイグニッションを O N にした際やアイドリ
抑制が重要な要素であり,F I システム全体で
ング時に乗り手にとって不快な異音が聞こえ
小型化や簡素化によるコストダウンが進んで
ることが問題となっており,異音の低減が必
いる.
要であった.
その中で燃料圧力を一定に保つ役割のプ
従 来 は ,筐 体 の 剛 性 U P や 通 路 の 形 状 変
レッシャレギュレータ(以下 P / R E G)は部品
更で異音対策を行っていたが,異音発生源で
点数を削減した,ボールバルブ式 P/REG が小
Injector
型二輪車を中心に普及している.
P/REG
Fuel Feed Pump
FI システムについて Fig. 1 に示す.P/REG
はフューエルフィードポンプ(以下 FFP)から
インジェクタに至る配管内に設置されており,
Fuel Tank
燃圧をレギュレートしている.
ボールバルブ式 P / R E G の構成について
F i g . 2 に示す.P / R E G は,ボールバルブ,
ボールガイド,スプリング,プラグ,ボディの
Filter
5つの部品で構成される.配管内の燃圧上昇
Fig. 1
※2013 年 7 月 4 日受付
*1 開発本部 第一開発部
- 21 -
FI system
小型二輪車用プレッシャレギュレータにおける異音発生メカニズムの解析
ある P / R E G の異音低減対策は講じていな
Without noise (5L/Hr)
本報では P / R E G 本体の対策を講じること
で従来のプレッシャレギュレータの特性を維
0.5
0.4
0.4
Vibration [G]
Vibration [G]
かった.
Noise generation (40L/Hr)
0.5
0.3
0.2
0.1
0.3
0.1
0
持しながら異音を抑制した検討方法と結果を
Noise impeller
0.2
0
0
1000
2000
3000
4000
5000
0
1000
Frequency [Hz]
報告する.
Fig. 3
2000
3000
4000
5000
Frequency [Hz]
Vibration characteristic
【VALVE, BALL】
Noise generation (40L/Hr)
Without noise (5L/Hr)
Material: SUS440C
Function: Air tight
【BODY, REGULATOR】
Material: POM-C
Function: Received the
valve, ball
【SPRING, COMPR】
0.02
Pulsation peak [kPa]
0.02
Pulsation peak [kPa]
【GUIDE, BALL】
0.015
0.01
0.005
537Hz
0.015
0.01
0.005
0
0
0
1000
2000
3000
4000
5000
0
1000
Frequency [Hz]
Material: SUS440C
Function: Air tight,
Retention of
each component
Fig. 4
2000
3000
4000
5000
Frequency [Hz]
Pulsation in the piping
【PLUG】
Material: SUS304WPB
Function: Pressure
regulation
Fig. 2
3.異音発生源の推測
Material: C3604
Function: Retention of
the spring
3.1. 構成部品の共振
P/REG 構成部品の共振の検証を行うにあた
Configuration of the pressure regulator
り構成部品のモーダル解析を行った(Table 1)
.
SPG 以外の構成部品の固有振動数は脈動周
2.異音事象について
波数 537Hz と大幅に乖離している.SPG の固
有振動数は脈動周波数と近いため,SPG の共
本 P / R E G の異音発生時の事象を把握し,
振特性検証を行った.共振特性検証の結果を
Fig. 5 に示す.
定量的に判断する為に P / R E G を組み込んだ
フューエルポンプモジュール(以下 F P M)に
1次の共振周波数は約 800Hz であり,脈動周
ピックアップを取り付け,振動周波数を測定
波数と乖離している為,SPG の共振が異音発
する方法と配管内脈動の周波数解析を測定す
Table 1
る方法を実施した.
Analysis of the components
Natural frequency [Hz]
前者は異音発生時に 500~2000H z に振動
の盛り上がりが見られるが,明確なピーク周
VALVE, BALL
波 数 が 現 れ て お ら ず ,定 量 的 判 断 が 難 し い
(Fig. 3).
Primary
Secondary
3 Order
619620
―
―
11345
11355
26560
686
770
927
31618
―
―
40768
―
―
GUIDE, BALL
後者は約 540Hz に明確なピークが確認され
た為,脈動ピークで定量的な判断が可能であ
SPRING, COMPR
ることが分かった(Fig. 4).よって,この脈動
PLUG
を抑制することで異音を低減できると判断し
た.脈動を発生させる要因として,「構成部品
BODY, REGULATOR
の共振」及び「ボールバルブの自励振動」が推
測される為,これらの検証を行った.
- 22 -
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
生源ではないと判断した.以上のことから内部
Fig. 7,Fig. 8 に流体解析結果を示す.色調
部品の共振による脈動発生は無いと判断する.
で流速を識別しており赤色の流速が速く,青
色は流速が遅い.
3.2. 自励振動の確認
クランク流路下流の配管内の流れをみると,
流路内で流速差が生じており,クランク通路を
異音発生時の P/REG 内部の挙動を確認する
為,BODY を透明なアクリルで製作し,高速度
通過した燃料は外周壁付近の流速がより早く,
カメラを用いて可視化検証を行った(Fig. 6).
内周壁付近は流速が遅いことが推測される.
次に P/REG 内部の解析結果に注目すると,
可視化検証の結果,異音発生時にボールバ
ルブの自励振動が確認され,揺動の周波数を
ボールバルブ左右にも同じく流速差が発生し
測定したところ,異音発生時の配管脈動とほ
ており,前述の P / R E G 上流で発生した流速
ぼ同じであることが分かった.
差をもった燃料が P/REG にそのまま流入し,
P/REG 内でも流速差が発生したと推測する.
以上のことから異音の発生はボールバルブ
以上のことから,異音は配管内の流速差に
の揺動が原因であると推測した.
よって発生したボールバルブの揺動が原因で
3.3.ボールバルブの揺動
あると推測した.よってボールバルブの揺動
ボールバルブを揺動させる要因として,配
を抑制することが異音低減に効果があると判
管内の燃料の流れが影響していると推測し,
断し,検証を行った.
F P M 内の流路をモデル化シミュレーション
<The flow of a crank piping>
ソフトによる流体解析を実施した.流路モデ
ルは,FFP から吐出した燃料が流入方向より
90°方向に曲がり P/REG に至るクランク構成
The flow
of fuel
Atmospheric
pressure
になっている.流量設定は異音が発生してい
る 40L/Hr で解析した.
SPG vibration [G]
2
Flow velocity
difference generating
Fig. 7
Electric Noise
The velocity inside the piping by a simulation
Primary (798Hz)
1.5
Secondary
1
0.5
0
Flow velocity
difference generating
0
500
1000
1500
2000
Frequency [Hz]
Fig. 5
SPG resonance characteristic
Fig. 8
Valve ball
The velocity inside the P/REG by a simulation
4.異音低減の手法
Guide ball
ボール揺動抑制での異音低減を行うにあた
り,異音低減の目標値を設定した.
Spring
今回,異音低減が必要となった車体の最大
Fig. 6
電圧時の流量が 40L / H r であることから,異
P/REG visualization
- 23 -
小型二輪車用プレッシャレギュレータにおける異音発生メカニズムの解析
音対策の目標を「流量 40L/Hr で音が聞こえな
の流速が減少し,ボールバルブ揺動が抑制さ
い仕様」とし,P/REG の基本性能である,圧力
れたことによって,異音低減に繋がったと推
勾配,残圧特性を異音低減仕様でも同等水準
測する.
しかし,I N 側絞り追加は異音タフネス向上
とすることを目標にした.
ジー音発生原因である,ボール揺動を抑え
を確認できたが,圧力損失が増加する為,基本
る方法として「ボールバルブ周り流速低減」と
性能の圧力勾配が絞り径を小さくするほど悪
「ボールバルブの水平方向拘束力 U P」に着目
化することから,異音低減の手法としては適
さないと考えた(Fig. 10)
.
し,低減仕様を考案した(Table 2)
.
異音低減効果があったのは2つあり,I N 側
絞り追加とシート狭角化である.この2仕様
4.2. バルブシート狭角化
について以下に考察を行った.
シート狭角化も角度を狭くすればするほど,
異音に対するタフネスの向上が確認できた
4.1. IN 側絞り追加
(Fig. 11)
.
また角度に対する脈動ピークを測定したと
IN 側絞り追加は絞り径を小さくすればする
ほど,異音に対するタフネスの向上が確認で
きた.
With no fluid restrictor
Fluid restrictor
メカニズムを解析するにあたり,絞りを追
加した CAE 解析を行った(Fig. 9)
.
流速の解析結果に注目すると,絞りによっ
て,バルブシート前の流速は増加しているが,
バルブシートを通過した後の流速は低減して
Velocity
いる.
次に圧力の解析結果に注目すると,絞りに
よって,ボールバルブ手前の圧力が減少して
おり,バルブシート通過前と通過後で圧力差
Pressure
が減少している.
このことから,バルブシート通過前と通過
後の圧力差減少によって,ボールバルブ近傍
The proposal which controls vibration of a
ball
View
point
Measure
Turning point to mass production
specification
Sheet acute
angle
The
measure
effect
○
Ball binding
force
Form change
of a guide ball
The flow
velocity
reduction
of the
circumference
of a flange
Fluid restrictor
addition
Diameter
change of
a flange
×
Fluid
restrictor
○
The diameter
of a flange
×
The simulation of fluid restrictor existence
8
Pressure gradient [kPa/(L/Hr)]
Table 2
Fig. 9
Fluid restrictor
7
6
5
With
no noise
4
3
2
With no fluid restrictor
1
0
0.5
Fig. 10
- 24 -
Noise
generating
generatong
1
1.5
2
2.5
3
Diameter of a fluid restrictor [mm]
3.5
4
Relation between a fluid restrictor and a
pressure gradient
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
ころ,角度を狭くするほど,脈動ピークの減少
無く,異音ピークの低減を確認できた為,異音
が確認できた(Fig. 12)
.
低減の手法として適していると考える.
シート狭角化のメカニズムとしてはシート
また,シート狭角化は角度を狭くするほど,
角が狭くなったことによって,ボールバルブ
異音発生流量のタフネスが向上する結果が得
リフト時の揺動量が減少した為と推測した.
られたが,バルブシート角度を 10°にしたと
Fig. 13 に流量に対する 30°と 60°の揺動量の
ころでボールバルブの食いつきが発生する.
関係を示す.
よって,目標流量を達成し,食いつきに対し
シート狭角化は基本性能を悪化させること
て,十分なマージンが取れる,最適なシート角
を設定することが重要である.
Noise generating discharge [L/Hr]
70
60
5.まとめ
50
40
ボールバルブ式 P / R E G の異音について原
30
因解析及び異音低減検証行った結果,以下の
20
結果が得られた.
10
0
1) 異音発生原因は P/REG 上流のクランク
20
30
40
50
60
通路で発生した流速差がボールバルブを
70
Sheet angle [°]
Fig. 11
0.02
生し,流動音が異音として聞こえていた
ことが分かった.
2) バルブシート角を狭くし,ボールバルブ
60°
50°
30°
0.015/450Hz
Pulsation peak [kPa]
揺動させたことによって,燃料脈動が発
Relation between a sheet angle and a noise
generation discharge
0.015
の揺動を低減することで,既存機種の性
能を維持しながら,異音タフネスの目標
0.011/494Hz
値をクリアできた.また,バルブシート
0.01
角の狭角化によるネガ検証も行い,異音
低減には最適なシート角の設定が重要と
0.005/463Hz
0.005
0
なることが分かった.
0
1000
2000
3000
4000
5000
著 者
Frequency [Hz]
Fig. 12
Pulsation in piping
The amount of rocking (mm)
0.25
60°
30°
0.2
0.15 18.3 (L/Hr)
(Sheet angle: 60˚)
The amount of rocking
0.1
0.05
0
47.4 (L/Hr)
(Sheet angle: 30˚)
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
The amount of lifts (mm)
Fig. 13
上原寿史
The amount
of lifts
0.6
福重光豊
ボール式 P / R E G は潜在的に脈動音を持っ
0.7
ており,発生した異音の抑制が長年の課題と
Noise generating
discharge
なっています.今までは対処療法で都度対応
していましたが,今回のジー音低減によって,
The amount of noise generation rocking
- 25 -
小型二輪車用プレッシャレギュレータにおける異音発生メカニズムの解析
メカニズムの一部が分かりましたので,それ
らを探求し,更なる商品性向上を図っていき
たいと思います.最後に本研究に対して,ご指
導,ご協力頂いた皆様にお礼を申し上げます.
ありがとうございました.
(上原)
本研究テーマに携わったことで P / R E G 異
音低減,原因解析の難しさとやりがいを感じ
ました.今後も異音を更に低減できる P/REG
を開発出来るようチャレンジしたいです.最後
に本研究を遂行するに当たり御指導,御助言
を頂きました皆様に深く感謝致します.
(福重)
- 26 -
Keihin Technical Review Vol.2 (2013)
Technical paper
Vehicle Calibration Techniques Established and
Substantiated for Motorcycles ※
モータサイクルに特化した車両適合手法の確立と実証
Satoru KANNO*1
Koichi TSUNOKAWA*1
Takashi SUDA*1
菅 野 寛
角 川 浩 一
須 田 玄
モータサイクル向け ECU は,搭載性をよくするため小型化が求められ,また,低価格な車両が多いため,そ
の構成部品である ECU にも徹底したコスト削減が要求され,内蔵 RAM 容量などは限界まで切り詰めた CPU
が選定されている.四輪車とは異なるこのような特徴が,開発における車両適合にも影響を与えている.モー
タサイクルの適合では,追加投資が必要な開発専用の ECU を用いるのではなく,量産と同じ ECU で実現で
きることが検証の観点でも理想である.本研究では,これらモータサイクル特有の課題を解決する手法として
量産 ECU を用いた車両適合を確立した.
車両適合とは,目標とする車両性能を得るためにエンジンベンチや走行テストで得られた計測データを解析
しながら,ECU のエンジン制御データを PC のアプリケーションソフトウェアで調整する一連の作業である.
一般的な開発専用 ECU を用いる方法では,ECU の ROM 上の全制御データをコピーした RAM を直接編集す
ることで達成している.これに対して本研究では,モータサイクル向け ECU の制御と同一の演算ロジックを
適合用 PC アプリケーションソフトウェアに組み込んでいる.ECU ソフトウェアでは対象となるデータを調
整する演算ロジックを切替え可能として組込み,PC アプリケーションソフトウェアからの指示に基づいて切
替えが行われる.適合時は PC アプリケーションソフトウェアで調整データの演算を行い,結果を ECU 側へ
送信し,エンジン制御データとして反映する.この一連の手順によって量産 ECU での車両適合を可能とし量
産開発に適用して,その効果と有効性を実証した.
Key Words: Motorcycle, Vehicle calibration, Mass-production ECU, Measure and analyze
INTRODUCTION
[1-4]. Comparing with four-wheeled vehicle, productsize of motorcycle is more compact in general. Since
From 2000 onward, superior fuel injection
load capacity limitation has influence on components’
system components have been developed to meet
layout which includes ECU, down-sizing of ECU
emission regulations that apply to motorcycles
also becomes essential requirement. On the other
suitable for wide engine rotational speed width
hand, functions of ECU increase explosively from a
and various environmental conditions such as high/
background like strengthening emission regulations
low temperature, wet, bad road and low quality
until quite recently. Miniaturization and multi-function
fuel. Engine ECU is used to provide the optimal
realized by high density mounting of ECU amounts
control signals to engine in order to enhance engine
to a factor of high cost. However, equivalent price to
performance maximally across diverse environments
that of carburetor-equipped vehicle is required except
※Received 1 July 2013, Reprinted with permission, from SAE paper 2012-32-0047 (JSAE paper #20129047). Copyright © 2012 SAE International
and SAE of Japan. Further use or distribution of this material is not permitted without permission from SAE International or SAE of Japan.
*1 Development Department 5, Division 3, Tochigi R&D Center
- 27 -
Vehicle Calibration Techniques Established and Substantiated for Motorcycles
some large vehicles, and perfect cost reduction of
be introduced in vehicle calibration for motorcycles
component like ECU is requested certainly. To satisfy
is ideal considering investment reduction and vehicle
these conflicted requirements, capacity of ECU is
load capacity. This research focused on establishment
reduced to limit in hardware development for fulfilling
of two-way algorithm and communication protocol
necessary performance as mass-production to obtain
for ECU software and PC application software, in
low cost. The different things from four-wheeled
order to realize vehicle calibration on mass-production
vehicle also affect vehicle calibration of motorcycles
ECU in which capacity is truncated to a limit [5-6].
in development. Vehicle calibration is sequential
Fig. 2 illustrates difference in principle between
procedure which adjusts control data of ECU by
techniques for motorcycles to be proposed in this
using PC application software to measure and analyze
paper and typical technique for four-wheeled vehicle.
bench or vehicle test information repeatedly aiming
to achieve target performance of vehicle as shown in
Fig. 1. A typical technique for four-wheeled vehicle
Typical technique
for four-wheeled
vehicle development
Proposed technique
for motorcycle
development
Control
design
Control
design
Fuel injection
map data
initially
defined
Write
Fuel injection
map data
initially
defined
Dedicated
development ECU
Dedicated
development ECU
Vehicle
calibration
Vehicle
calibration
by means of dedicated development ECU is to reflect
all control data deposited in ROM to RAM, and edit
RAM data directly. Techniques utilizing dedicated
development ECU have to use high performance CPU
in which RAM capacity is large enough for all control
data deposited in ROM to be reflected considering
Write
various models, leading to cost increase because of
investment on expensive purchase. In the meanwhile,
dedicated development ECU for common use is not
Fuel injection
map data
temporarily
fixed
superior to load capacity of motorcycles because form
and size is not in conformity with vehicle layout. For
Write
these reasons, ECU developed for mass-production to
Mass-production
ECU
Final
confirmation
on vehicle
Final Fuel
injection map
data for mass
production
Chassis
dynamo
Measurement
Fig. 2
Calibration
Comparison between typical technique
and proposed techniques
TECHNIQUE ESTABLISHMENT
Analysis
Subject, constraint and problems to be solved in
this paper are clarified as follows.
Techniques concentrated
in this paper
Fig. 1
Final Fuel
injection map
data for mass
production
Subject: establishing vehicle calibration techniques
Vehicle calibration for motorcycles
based on mass-production ECU
- 28 -
Keihin Technical Review Vol.2 (2013)
Constraint: specializing vehicle calibration on bench
application software receives parameters from ECU,
test (keeping steady state)
and searches neighbor indices in two dimensions
Problems to be solved:
respectively. Then, PC application software calculates
•constructing a system that is not dependent upon a
positional relation of the parameters and neighbor
4 lattice points, and calculates injection quantity of
certain vehicle engine model
corresponding parameters from injection quantity of
•constructing a system that can be achieved by
corresponding 4 lattice points defined in fuel injection
using less ECU/PC resource
map proportionally. This calculation method is
•constructing a system that acts in restraint of
regarded as 4-point interpolation to be introduced.
human error on vehicle calibration
Fuel injection map adjustment is an example of
As shown in Fig. 3 and 4, indices of X-axis
fundamental vehicle calibration. Fuel adjustment
and Y-axis of three-dimensional fuel injection map
is a repeating operation to approximate theoretical
denote as X i (i=1, 2, …, m), Y j (j=1, 2, …, n),
air fuel ratio by determining injection quantity,
respectively, Z (i, j) represents fuel injection quantity
i.e., fuel injection map data correction for a certain
corresponding to map lattice point that consists of
vehicle condition referring to λ sensor value at this
indices Xi and Yj. Reference fuel injection quantity
condition. Fuel injection map is a three dimensional
corresponding to arbitrary parameters X p , Y q
data, in which a set of two dimensional data is given
(Xi ≦ Xp < Xi+1, Yj ≦ Yq < Yj+1) is calculated by
by indices to indicate vehicle condition and the third
linear proportional interpolation from X-Z plane to
dimension data is defined as fuel injection quantity
Y-Z plane.
Proportion of X_ratio, Y_ratio assigned to Xp, Yq
at lattice of indices. Sequential procedure for fuel
is calculated by using formula (1), (2).
injection map adjustment consists of, REFERENCE
FUEL INJECTION QUANTITY CALCULATION
Xp
➭ TA R G E T F U E L I N J E C T I O N Q UA N T I T Y
D E C I S I O N ➭ A D J U S T M E N T P RO P O RT I O N
CALCULATION ➭ ADJUSTMENT PROPORTION
REFLECTION ➭ COMPLETED FUEL INJECTION
MAP DATA REFLECTION, to be detailed latter.
Yq
REFERENCE FUEL INJECTION
QUANTITY CALCULATION
X1
X2
Xi
Xi+1
Xm
Y1
Z(1, 1)
Z(2, 1)
Z(i, 1)
Z(i+1, 1)
Z(m, 1)
Y2
Z(1, 2)
Z(2, 2)
Z(i, 2)
Z(i+1, 2)
Z(m, 2)
:
:
:
:
:
:
Yj
Z(1, j)
Z(2, j)
Z(i, j)
Z(i+1, j)
Z(m, j)
Yj+1
Z(1, j+1)
Z(2, j+1)
Z(i, j+1)
Z(i+1, j+1)
Z(m, j+1)
:
:
:
:
:
:
Yn
Z(1, n)
Z(2, n)
Z(i, n)
Z(i+1, n)
Z(m, n)
Z(p, q)
Fig. 3
Reference fuel injection quantity in cell
consisted by neighbor 4 lattice points
Reference (or current) fuel injection quantity is
calculated by fuel injection map data preserved in PC
Z
referring to parameters that indicates vehicle condition.
Z(i, j)
X_ratio
Z(p, j)
Z(i+1, j)
Y_ratio
When searching current fuel injection quantity, situation
Z(p, q)
that parameters match with values of map indices is
Z(i, j+1)
ideal, but it is hard to accomplish on vehicle. Thus,
Z(p, j+1)
Z(i+1, j+1)
Xi
it is required that current fuel injection quantity can
Yj+1
Yq
Xp
Xi+1
Yj
Y
also be calculated as parameters deviating from lattice
Fig. 4
of indices. In order to satisfy this requirement, PC
- 29 -
4-point interpolation method
X
Vehicle Calibration Techniques Established and Substantiated for Motorcycles
X_ratio = (Xp – Xi) / (Xi+1 – Xi)(1)
Z(p, q), is calculated by formula (6).
Y_ratio = (Yq – Yj) / (Yj+1 – Yj)(2)
Z_ratio = Z’(p, q) / Z(p, q) (6)
Substituting X_ratio value in formulas (3) and (4),
ADJUSTMENT PROPORTION
REFLECTION
fuel injection quantity Z (p, j), Z (p, j+1) corresponding
to Y j, Y j+1 can be obtained from neighbor 4 lattice
points of Xp, Yq, i.e., Z(i, j), Z(i+1, j), Z(i, j+1) and Z(i+1, j+1).
Consequently, fuel adjustment value for neighbor
4 lattice points of X p , Y q , i.e., Z’ (i, j) , Z’ (i,
Z(p, j) = (Z(i+1, j) – Z(i, j)) * X_raio + Z(i, j)(3)
j+1)
,
Z’(i+1, j), and Z’(i+1, j+1), is obtained from proportional
Z(p, j+1) = (Z(i+1, j+1) – Z(i, j+1)) * X_raio + Z(i, j+1)(4)
multiplication by original map data value, as shown
in formulas (7) ~ (10).
Furthermore, applying these values to formula
(5), reference fuel injection quantity Z (p, q) can be
approximated.
Z(p, q) = (Z(p, j+1) – Z(p, j)) * Y_ratio + Z(p, j)(5)
For purpose to easily identify indices following
Z’(i, j) = Z(i, j) * Z_ratio
(7)
Z’(i, j+1) = Z(i, j+1) * Z_ratio
(8)
Z’(i+1, j) = Z(i+1, j) * Z_ratio
(9)
Z’(i+1, j+1) = Z(i+1, j+1) * Z_ratio
vehicle condition, some functions are equipped on PC
(10)
application software. For example, radar chart indicates
Proportion of target fuel injection quantity and
closed-up lattice points and surroundings to parameters
reference fuel injection quantity, i.e., Z_ratio, is
received. Simultaneously, cell cursor in map data
sent to ECU. ECU receives this value and calculates
which represents lattice points approaching to current
fuel injection quantity of 4 lattice points according
vehicle condition can move and track automatically.
to formulas (7) ~ (10) to approximate theoretical
air fuel ratio. In the meanwhile, PC application
TARGET FUEL INJECTION
QUANTITY DECISION
software implements same calculation, and stores
results in PC, replacing original map data values
of corresponding 4 lattice points formerly used for
Referring to λ sensor value, target fuel injection
reference fuel injection quantity calculation.
quantity Z’(p, q) is decided by increasing or decreasing
For purpose to easily distinguish calibrated
current fuel injection quantity. For purpose to easily
area from others, function that background color
observe λ sensor value during fuel adjustment,
of calibrated area changes automatically on screen
function for monitoring current control parameters
window is equipped on PC application software.
on screen window is equipped on PC application
COMPLETED FUEL INJECTION
MAP DATA REFLECTION
software.
ADJUSTMENT PROPORTION
CALCULATION
At the moment REFERENCE FUEL INJECTION
QUANTITY CALCULATION to ADJUSTMENT
Z_ratio, proportion of target fuel injection
VALUE REFLECTION for all adjustment area have
quantity Z’(p, q) and reference fuel injection quantity
been finished, a completed fuel injection map is
- 30 -
Keihin Technical Review Vol.2 (2013)
built-up in PC. Writing this data into ROM of ECU
adjustment target shift. Calibrated data for each
realize completed fuel injection map data reflection,
control is wholly stored in PC, and adjustment target
and thus accomplish fuel adjustment which is
shift does not cause damage to final adjustment
fundamental in vehicle calibration.
result. After all calibration completed, it is
practicable to write ROM of ECU.
Sequential procedure for fuel injection map
Fo r p u r p o s e t o r e a l - t i m e l y s h i f t m a p d a t a
adjustment is summarized in Fig. 5.
In case that number of cylinders is two or more,
according to adjustment target of control logic
reference fuel injection quantity is calculated for
in multi-cylinder motorcycle calibration, function
a target cylinder which is selected for deriving
that map data is selectable from catalog on screen
adjustment proportion, and adjustment proportion is
window is equipped on PC application software.
reflected to fuel injection quantity of this cylinder.
Fig. 6 illustrates screen widows of PC application
Target cylinder shift makes it possible to adjust fuel
software used in actual fuel adjustment as an example,
injection map of other cylinder(s).
including radar window, monitoring window, mapping
Whole control logic that becomes adjustment
window and map data window. Radar window shows
target is introduced into PC application software in
positional relation of vehicle condition parameters to
advance, ECU software and PC application software
neighbor lattice points and surroundings. Monitoring
are structured available to shift adjustment target
window indicates current vehicle control parameters
of control logic dynamically. Additional RAM area
including λ sensor value. Mapping window is
in ECU is not necessary because same RAM area
provided for adjustment target shift, volume increase
is constructed to deal with the transformation for
or decrease to approach target adjustment value. Map
data window is linked with radar window expressing
Procedure
Reference
fuel
injection
quantity
calculation
PC application software
value of lattice points for adjustment, and the color
ECU software
of calibrated area is changed automatically.
A
4-point interpolation
calculation
Adjustment
map data
Parameter
of vehicle
condition
Monitoring Window
Current fuel
value Z(p, q)
Map data Window
Increasing or decreasing
fuel value according to
λ sensor into.
Target fuel
injection
quantity
decision
Target fuel
value Z’(p, q)
Adjustment
proportion
calculation
Calculating proportion of
Z’(p, q) / Z(p, q)
Z_ratio
Adjustment
proportion
reflection
Reflecting proportion
Z_ratio to values of
4 lattice points
Reflecting proportion
Z_ratio to values of
4 lattice points
Z’(i, j), Z’(i, j+1)
Z’(i+1, j), Z’(i+1, j+1)
Z’(i, j), Z’(i, j+1)
Z’(i+1, j), Z’(i+1, j+1)
Radar Window
Fig. 6
Store 4 values in map
data
A
Completed
fuel
injection
map data
reflection
Fig. 5
No
All calibration
Completed?
Screen window of PC application software
for fuel adjustment
SUBSTANTIATION
Yes
ECU ROM Write
Mapping Window
A variety of data adjustment for control logic
ROM data
exists in vehicle calibration. Besides fuel injection
Fuel injection map adjustment procedure
map adjustment, calibration to other adjustment
- 31 -
Vehicle Calibration Techniques Established and Substantiated for Motorcycles
target of control logic is accomplished by same
From these confirmation results, effectiveness and
adjustment procedure just replacing contents of,
validation of proposed vehicle calibration techniques
control logic equipped in PC application software for
for motorcycles based on mass-production ECU have
obtaining same result as ECU, parameters received
been proved.
from ECU, and adjustment proportion sent to ECU,
SUMMARY/CONCLUSIONS
demonstrating that proposed calibration techniques
are effective for different kinds of control logic. As
stated in COMPLETED FUEL INJECTION MAP
Several controls to be calibrated simultaneously
DATA REFLECTION, number of cylinders from two
have been once raised as an idea. For human being,
to more is applicable so that proposed calibration
it is not realistic for a tester to perform adjustment
techniques are effective for various engine models of
on various control logic in vehicle calibration at the
vehicle.
same time. Thus, adjustment target of control shift
A D J U S T M E N T VA L U E R E F L E C T I O N
is proposed as solution from experiments. Applying
mentioned that PC sends only variation (proportion
this concept, target/type of vehicle calibration is
of target value to reference value) to ECU during
subdivided or simplified, and using minimum RAM
calibration regardless of control classification.
capacity in ECU becomes possible. Consequently,
Adjustment accuracy, number of cylinders and
architecture introducing ECU produced for mass-
application coverage is satisfied using minimum
p r o d u c t i o n i n t o ve h i c l e c a l i b r a t i o n h a s b e e n
RAM capacity in ECU as a result.
constructed. Proposed techniques have been applying
Functions equipped on PC application software
to Keihin’s motorcycle ECU development entirely,
can improve operability and visibility for tester,
and usefulness of the techniques has been proven
leading to reduce human error in vehicle calibration.
through mass-production development practice.
Proposed techniques have been practiced on
The most distinctive characteristic of proposed
various kinds of mass-production ECU using CPU
techniques is that, logic for obtaining same calibration
specified in Table 1 [for example, 7] and constructed
values is equipped on both sides of PC application
PC application software. Such ECU/PC-application
software and ECU software. For same control target,
combination has been implemented even in fuel
calculation result from PC application software is
injection map adjustment for motorcycles with
equal to that from ECU software if same parameter
single-cylinder engine, in which the capacity of
which indicates vehicle condition is used. In case
mass-production ECU is most reduced. In this case,
that control value is adjusted on PC application
only proportion of target value to reference value
software’s side, variation from reference value is
is regarded as necessary adjustment value, and just
calculated and sent to ECU, and then, control value
1 byte ensured in RAM area of ECU makes possible
on ECU side is modified as reflection of variation.
for vehicle calibration.
Validity of variation value is probably confirmed
in order to prevent unintended data reflection, e.g.,
Table 1
data corruption caused by communication error. A
CPU specification for mass-production ECU
Processor Type
16 – 32 bits
Frequency
20 – 120 M Hz
Capacity of RAM
4 – 32 k Bytes
Capacity of ROM
64 – 1024 k Bytes
typical vehicle calibration technique which edits
control data in RAM directly might cause damage to
vehicle, if using an unintended control data caused
by communication error or human error. Proposed
- 32 -
Keihin Technical Review Vol.2 (2013)
ABBREVIATIONS
techniques have superiority at this point of view.
However, comparing with the calibration technique
that edits RAM data directly, proposed techniques
ECU
Electronic Control Unit
have inferiority because delay for control data
RAM
Random-Access Memory
reflection restricts vehicle calibration to steady state,
CPU
Central Processing Unit
which is expected to be improved in the near future.
PC
Personal Computer
ROM
Read-Only Memory
REFERENCES
Authers
1. Kiyohara, K., Asou, R., Yuuki, T., “Development
of Low-cost Fuel Injection Control Unit for
Small Motorcycles with Single-cylinder Engine,”
SETC Technical Paper JSAE 20119631/SAE
2011-32-0631
2. Akiyama, H., Suzuki, K., Araki, K., Nakano, Y.,
Satoru KANNO
“Development of carburetors and element parts
Koichi TSUNOKAWA
Takashi SUDA
of fuel injection system for motorcycles,” SETC
It is an actual proof that our tools, which apply
Technical Paper JSAE 20056598/SAE 2005-32-
proposed new techniques to motorcycles considering
0068
calibration environment, contributes for the benefit
3. Nakano, Y., Araki, K., Akiyama, H., Ouchi, K.,
of both OEM (completed vehicle manufacturer) and
Akamatsu, S.,,“Development of the Electronic
supplier (Keihin). Tool development will continue to
Fuel Injection Control Unit of Small Motercycle,”
match a background of advancing diversification of
International Journal of Automotive Engineering.
needs in the future. (KANNO)
I have been working on research and development
36(5): 22-28, 2005 (in Japanese)
4. Robert Bosch GmbH, “Automotive Handbook
of algorithms and tools for vehicle Measurement,
Automotive Handbook (Japanese, 3rd Edition),”
Calibration, and Diagnostics (MCD) more than 20
Nikkei Business Publications, ISBN 978-4-
years. This paper introduced one of achievements
9904768-1-6: 488-533, 2011.
obtained by my colleagues and me, that is,
5. Tsunokawa, K., Suda, T., Kanno, S., “Mass-
consistent vehicle calibration techniques for ECU of
p r o d u c t i o n E C U b a s e d ve h i c l e c a l i b r a t i o n
motorcycles with single- or multi- cylinder engine,
techniques,” Japan Patent, February 6, 2012
in which the capacity of CPU is restricted. Facing
(Registered).
to daily progress of vehicle control, adaptable MCD
technology exploration and its practical application
6. Kanno, S., “Engine calibration systems and
will be continued henceforth. (TSUNOKAWA)
engine calibration methods,” Japan Patent 2010-
A p p l y i n g c u s t o m i z e d s u p p o r t iv e t o o l s i s
84544 / 2010-84569 / 2010-84631, April 15,
important for “Development Process Improvement”
2010 (Request for Substantive Examination).
7. Keihin Corporation, “Motorcycle and General-
a n d “ R eg u l a r P r o c e s s Q u a l i t y S t a b i l i z a t i o n .”
Purpose Products: Large and Small Motorcycle
Developing and supplying customized supportive
Products,” http://www.keihin-corp.co.jp/english/
tools continuously will make OEM’s vehicles
product/bike.html, April. 2012.
development more profitable. (SUDA)
- 33 -
論文
電装品開発時の温度計測手法の提案
電装品開発時の温度計測手法の提案※
Practical Method of Thermal Measurement in Development of Electric Control Units
西 澤 拓 磨*1
Takuma NISHIZAWA
江 口 和 輝*2
Kazuteru EGUCHI
As the electronic components are getting much smaller in order to be crammed into Printed Circuit Board in
higher density, techniques for temperature measurements of small electronic components with higher accuracy are
increasingly required in terms of reliability. In the temperature measurement of small electronic components by
the contact-type sensors such as the thermocouple, temperature drop of the components would be measured as an
error by heat dissipation to the thermocouples. For the reason, it is necessary to find some techniques to measure
accurate temperature of small electronic components. At first in this research, the relations between contact
conditions and measured values were examined in order to obtain the robust measurement of the small electronic
components. Then, the authors successfully measured the thermal resistance value of the thermocouples. As a
result, the correction method of measurement error of the thermocouple was proposed for the measurement of
those small electronic components.
Key Words: common infrastructure, thermal measurement, thermo couple
1.まえがき
利点が多く,様々なサイズ,形状の物が生産さ
れ最も広範囲で使用されている.歴史が古く
自動車は酷寒地での起動や灼熱の悪路走行
手軽に測定ができることもあり,実際の現場
などを想定しているため,動作を保証しなけ
では様々な測定対象への熱電対の接触手法が
ればならない環境要件が大変広い.乗客の乗
存在する.また,熱電対は接触式温度センサで
るキャビンは快適な空間となるが,エンジン
あるため,熱電対への放熱や接触熱抵抗など
ルームなどではエンジンの発熱に加え,個別
の誤差要因への注意を怠ると,測定値の連続
部品の発熱にエンジンや路面からの振動も加
性に支障をきたす可能性がある.
味され過酷な環境となる.その中で働く自動
今後,機器の小型 ・ 高密度化に伴ない熱設
車部品は,夫々の動作条件により規定された
計は高度化し,さらに温度マージンの削減が
温度,湿度,振動,各入出力電圧などで問題な
進むと開発品の信頼性を確保するため,温度
く動作するように開発され,自動車メーカに
測定精度の向上が必要となる.しかし,熱電対
供給されている.中でも温度は最も基本的な
を測定対象に一定長這わせるような,従来の
要件である.例えば ECU の開発中は日常的に
,
常識的な熱電対の精度アップ手法(3)(4)
が,近
温度測定を実施しており,対象は周囲温度を
年の微小部品では使用できないなど,測定条
はじめユニット筐体温度,内部の基板温度,個
件は厳しくなっている.そこで本研究は,小型
別電子部品温度など枚挙に暇がない.一方,温
部品の温度測定における接触式温度センサの
(1)
(2)
,
度測定には様々な手法が存在し
,測定対
測定誤差補正手法獲得を目的とし,先ず基板
象と必要な温度範囲に対し,最適な手法を選
上に実装されたチップ抵抗を対象として,熱
び測定を実施する.その中でも,熱電対による
電対の接触条件と測定値の関連を調査した.
温度測定はセンサの供給状況,コストなどで
次に,十分安定した温度測定ができる接触条
※2013 年 7 月 8 日受付,
(公社)
自動車技術会の許諾を得て,2013 年春季大会学術講演会前刷集 No.22-13, 20135306 より,加筆修正して転載
*1 開発本部 技術研究部 *2 開発本部 第八開発部
- 34 -
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
件を設定し,その上で熱電対の熱抵抗を実測
線径によって異なり,φ25μm(A N B E S M T
した.この熱抵抗を利用し,小型部品の温度測
製:K F G -25-200-100)では平板形,φ100μm
定における接触式温度センサの測定誤差最小
(Ninomiya 製:0.1×IP K-2-H-J2(K-H))はス
化の一助となる,熱電対への熱引き誤差補正
ポット溶接により自作したもので不定形,
手法を示した.
φ200μm(マルコム製:30108)は球形である.
雰囲気温度 T a の測定にはφ200μm 熱電対
2.実験方法
に 10 mm × 10 mm のアルミテープを被覆し
2.1. 測定対象とその加熱方法
て,ITS-90 温度目盛りに準拠した測温抵抗体
たものを用いた.これらの熱電対は電気炉に
(KOA 製:SDT310LTC Class A)と比較校正
測定対象として F i g . 1 に示す,2125 厚膜
チップ抵抗(KOA 製:RK73B2AT 100 Ω)を実
した.なお,測定値⊿T = T c - T a と定義し,
装した FR-4 基板(両面基板 板厚 1.6 mm 銅箔厚
φ25,100,200μm 熱電対の測定値をそれぞ
18μm)
を用意した.加熱電源(KENWOOD 製:
れ⊿T25,⊿T100,⊿T200 と表記する.
PA18-6A)を測定対象に接続し,印加電力は電
圧計(Agilent 製:34970A)
と電流計(Agilent 製:
2.3. 熱電対と測定対象の接触方法
34970A,34901A)の値から,チップ抵抗の定
電子部品の温度測定における熱電対の固定
格電力 0.125
[W]となるよう調整した.
には,一般的に接着材やテープ等が用いられ
ることが多いが,今回は測定系の校正等の都
2.2. 熱電対とその校正方法
合上,熱電対の再利用を考慮しそれらの使用
チップ抵抗表面の中心温度 T c の測定に
を避けた.接触状態を適切に管理するため,熱
は,線径の異なる3種類の K 型熱電対を用い
電対を装着した微動装置(SUSS MicroTec 製)
た.Fig. 2 に示すように,熱電対先端の形状は
を用い,測定対象への押込み量を制御した.
W/ Grease
2.4. 熱電対接触条件の設定
W/O Grease
Substrate: FR-4
φ25μm の熱電対を使用して接触面へのグ
リス有無による測定値への影響を評価した.
また,グリス介在の下でφ25μm,φ100μm,
2125 chip resistor
φ200μm の3種の熱電対を測定対象に,それ
ぞれどの程度の荷重で押し付ければ測定値が
安定するか確認した.
放熱用グリス(信越シリコーン製:G -747)
をチップ抵抗表面の中心に微量塗布した基
Fig. 1
Sample and Close up of Chip resistor
板 と ,塗 布 し て い な い 2 種 類 の 基 板 を 用 意
した.なお,温度測定前に形状測定器(A S C
international 製:150-A)を用いグリスの塗布厚
さを測定した.
Enlarged view
Fig. 3 のように冶具にセットした基板を物
理天秤(A&D 製:GH-202)
内に設置し,熱電対
500µm
ϕ25µm
Fig. 2
ϕ100µm
先端が測定位置に正しく接触するように微動
ϕ200µm
装置で調整し,チップ抵抗直上で待機させた.
Shape of each thermocouple tip to be used
- 35 -
電装品開発時の温度計測手法の提案
チップ抵抗に電力(0.125[W])を供給し十分な
空気のプラントル数は 0.719(7),グラスホフ数
時間放置後,温度計(Agilent 製:34970A)
を用
計算時の空気の体積膨張率は 3.33×10-3
[K -1],
い測定を開始した.その後,熱電対を 10μm ず
動粘度は 1.7×10-5[m2/ s]一定とした.放射に
つチップ抵抗に向けて移動させながら,その
関しては熱電対被覆の放射率を 0.9 として,ス
時の温度と荷重を測定した.また同時に,グリ
テファン・ボルツマンの式を熱コンダクタンス
スおよびチップ抵抗への熱電対の接触状態を
(8)
を求める式(3)
に変形して用いた.なお,
確認するため,マイクロスコープ(HiROX 製:
解析値は熱電対先端の球と線の付根部分の接
K H -8700)を用い観察した.なお,雰囲気温度
点値と雰囲気温度の差とした.
測定用の熱電対は測定対象の直下に設置した.
2.5. 熱回路シミュレーション
1
4π rλ
=
r θ
(1
)
2d
実 測 値 の 確 か ら し さ を 確 認 す る た め ,熱
1/θ:熱コンダクタンス
(1)
回路網法ソフト(サーマルデザインラボ製:
r:熱電対先端の球の半径
Nodalnet)を使用して解析を行った.簡単のた
λ:熱伝導率
め,発熱源をチップ抵抗表面とし,熱電対先端
d:球中心から平面(熱源)までの距離
は球と仮定した.また,線部は一本とし実際の
断面積と合わせた.接触状態の観察結果から,
hconv =
φ25μm 熱電対の場合,先端は完全にグリス
λ
Lc
· Nu =
λ
Lc
に埋没しているので,熱伝導率が分かってい
hconv:対流による熱伝達率
る物体に埋め込まれた球と平面(熱源)までの
Lc:代表長
(5)
熱コンダクタンスを求める式(1) を使用し
Nu:ヌセルト数
た.今回の条件では r = d ,グリスの熱伝導率
Gr:グラスホフ数
は 1[ W / m・K]とした.一方,φ100,200μm
Pr:プラントル数
熱電対は先端の一部のみグリスに埋没してい
1
· 0.74 (Gr · Pr) 15 (2)
hrad = σ · ε · (Ts2 + T∞2 ) (Ts + T∞ )
るので,球とみなした先端がグリスと接して
いる面積を平面と考え,伝熱距離はグリス厚
hrad:放射による熱伝達率
の 1/2 として,部品と熱電対間の熱コンダク
σ:ステファン・ボルツマン定数
タンスを計算した.また,熱電対からの熱伝達
ε:放射率
は,対流に関しては細線なのでヌセルト数は
Ts:表面温度
(6)
坪内の式
を用いて式(2)のように計算し,
Micromotion device
Atmosphere temperature
measurement Thermocouple
Thermocouple
T∞:物体から無限遠離れた位置の温度
2.6. 熱電対の熱抵抗測定
Sample
Microscope
(3)
線径の異なる3種の熱電対それぞれがチッ
Thermocouple
position control
プ抵抗の温度低下に,どの程度の影響を及ぼ
Observation
し て い る か 評 価 す る た め ,熱 抵 抗 の 測 定 を
Jig
行った.
2.6.1. 放射温度計とその校正方法
Load measurement
熱電対への熱引きが無い状態でのチップ抵
Physical balance
Fig. 3
抗表面の温度測定に,拡大レンズ(NEC Avio
Schematic of Setup to measure temperature
and contact load
製:T H91-385)を装着した放射温度計(N E C
- 36 -
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
Avio 製:TH9100MR)を用いた.この測定値と
較すると,グリス有りの場合 56.2℃,無しの場
雰囲気温度の差を⊿T T . V . と定義する.校正に
合 49.4℃ であり,グリス介在により測定値が
は,銅ブロック(100 mm × 100 mm × 10 mm)
高くなる.熱電対先端への伝熱は,グリス無し
の表面に測温抵抗体(K O A 製:S D T310L T C
の場合は空気を介した伝導,グリス有りの場
C la ss A)を貼り付け,黒体塗料を塗布したも
合はグリスを介した伝導が支配的であると考
のを用いた.これを校正温度に加熱し十分な
えると,空気と比較してグリスの熱伝導率は
時間放置した後,測温抵抗体の表面を放射温
非常に大きいので,グリス介在により測定対
度計で測定し比較校正した.これにより放射
象と熱電対間の接触熱抵抗が減少し測定値が
温度計と熱電対の温度目盛りを合わせた.
高くなったと考えられる.このように,熱抵抗
2.6.2. 温度測定
の大きなφ25μm 熱電対であってもグリスが
放射温度計でチップ抵抗表面の温度を測定
無い場合,測定値が低くなることから,より正
するため,測定対象に黒体塗料を塗布した.こ
確な測定を行うにはグリスの介在が必須であ
れを Fig. 4 に示す無風箱中の冶具に設置した.
ることがわかる.
放射温度計を設置した状態で,チップ抵抗に
F i g . 6 に,グリス介在の条件下における
電力(0.125[W])を印加し十分な時間放置後,
φ1 0 0 , 2 0 0 μm 熱 電 対 の 測 定 結 果 を 示 す .
60
12
順で行った.周囲環境を変えないように注意
50
10
40
8
30
6
Temperature ⊿T [ºC]
次に,各熱電対による温度測定を以下の手
し,最高温度箇所にグリスを微量塗布した.微
動装置を使用し熱電対がチップ抵抗に接して
から,後で述べる測定に必要な荷重を得る量
を押込み,十分な時間放置し測定を行った.
20
Temperature [W/O Grease]
10
0
-200
Micromotion device
Temperature
measurement
Fig. 5
Thermocouple
position control
Thermocouple
-100
-50
0
50
0
100
Relation between temperature, load and
indentation distance in j25μm
thermocouple with and without grease
Jig
60
Temperature [φ200µm]
3.結果と考察
3.1. 熱電対の接触条件設定
10
Load [φ100µm]
Load [φ200µm]
40
8
30
6
20
4
10
2
0
F i g . 5 にφ25μm 熱電対における測定結
-200
-150
-100
-50
0
50
Load [g]
Temperature ⊿T [°C]
Schematic of Setup to measure temperature
12
Temperature [φ100µm]
50
Fig. 4
-150
Indentation distance of thermocouple [µm]
Sample
Atmosphere temperature
measurement thermocouple
2
Load [W/ Grease]
Load [W/O Grease]
Anodized aluminum case
Radiation thermometer
4
Temperature [W/ Grease]
Load [mg]
最高温度箇所を特定し温度を記録した.
0
100
Indentation distance of thermocouple [µm]
果 を 示 す .グ リ ス 有 無 に 関 わ ら ず 押 込 み 量
Fig. 6
50μm(荷重 2.5mg)以上で測定値が飽和してい
る.また,押込み距離 100μm での測定値を比
- 37 -
Relation between temperature, load and
indentation distance in j100, 200μm
thermocouple with grease
電装品開発時の温度計測手法の提案
る(濡れる)ことで,接触面積が増加し,接触
φ100,200μm 熱電対とも押込み量 50μm
熱抵抗が減少することを確認した.
(荷重 2.5g)以上で測定温度が飽和することが
分かる.
3.2. 測定値の妥当性確認
以上から,グリス介在のもと,φ25μm では
荷重 2.5m g 以上,φ100,200μm 熱電対では
F i g . 8 実測値と熱回路シミュレーションに
荷重 2.5g 以上で安定した測温が可能であると
よる解析値の比較結果を示す.実測値と解析
判断した.
値は概ね一致していることから,今回の測定
値は妥当であると判断した.
Fig. 7 に,φ200μm 熱電対先端の接触状態
観察結果を示す.グラフ上(a)では,まだ熱電
対先端はグリスに接触していないため,発熱
3.3. 熱電対の熱抵抗算出
部からの対流と放射による温度が測定されて
熱電対の熱抵抗算出にあたり,F i g . 9 に示
いると考えられる.
(b)ではグリスに接触して
す測定点が発熱源と近似できる熱回路モデル
いるが,測定値はそれほど上昇していない . さ
を考える.2.6.2. の測定結果より,放射温度計
らに(c)まで押込むと測定値が急上昇する.こ
および各熱電対の測定値は,⊿T T.V. = 55.4℃,
れは(c)において熱電対先端へグリスの濡れが
⊿T25 =54.8℃,⊿T100 =48.2℃,⊿T200 =41.6℃
確認されたことから,グリスと熱電対間の接
であるので,放射温度計の測定値⊿T T.V. から,
触面積が急増し,接触熱抵抗が急減したため
この環境における測定対象の熱抵抗θ0 を求め
であると考えられる.その後,チップ抵抗に接
ると,式(4)よりθ0 = 443.2[℃/W]となる.
触する(d)まで測定温度は線形的に上昇する.
θ =
この結果から,熱電対先端がグリスに埋没す
60
(c)
40
30
6
20
4
10
2
0
-200
P:電力[W]
8
(b)
(a)
⊿T:測定値[℃]
10
(d)
60
Temperature ⊿T [°C]
Temperature ⊿T [°C]
Load
Load [g]
Temperature
50
0
-150
-100
-50
0
50
100
50
40
30
20
Measured value
10
Analytic value
0
Indentation distance of thermocouple [µm]
(a)
(4)
θ:熱抵抗[℃/W]
12
Thickness of grease
<85.7µm>
⊿T
P
Fig. 8
(b)
ϕ25µm
None
Fig. 7
(d)
ϕ200µm
Comparison between measured value and
analysis value
Sampling point
(c)
ϕ100µm
Thermal resistance of thermocouple
< θT.C. >
Constant heat source
<P>
Atmosphere temperature
< Ta >
Contact condition between Thermocouple
and sample in each indentation distance
Fig. 9
- 38 -
Thermal resistance of sample
< θ0 >
Thermal network model of Work
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
次に,φ25μm 熱電対を接続した場合の合
熱伝導グリス介在を条件に下記荷重を目
成熱抵抗θ0+25 を求める.測定対象の表面温度
安に対電対を測定対象物に押し着けるこ
が測定値⊿T25 であると仮定すると,式(4)よ
とで安定した測温ができることを示した.
りθ0+25 = 438.4
[℃/W]となる.
ま た ,合 成 熱 抵 抗 θ0 + 2 5 ,測 定 対 象 の 熱 抵
・φ25μm 熱電対の場合 2.5mg 以上
・φ100,200μm 熱電対の場合 2.5g 以上
(2)熱電対の熱抵抗測定
抗 θ0 ,熱 電 対 の 熱 抵 抗 θ2 5 は 式( 5 )の 関
係 と な る た め ,φ2 5 μm 熱 電 対 の 熱 抵 抗 は
測温抵抗体と比較校正した放射温度計測
θ25 ≒ 40479[℃/ W]となる.同様にφ100,
定値と熱電対測定値から,熱電対の熱抵
200μm 熱電対の熱抵抗θ100 ,θ200 を求める
抗を算出できることを示した.この手法
と,θ100 ≒ 2967[℃/ W],θ200 ≒ 1336[℃/ W]
を用い,φ25μm 熱電対の熱抵抗実測に
と計算できる.
成功した.
1
θ 0+T.C.
(3)熱電対への熱引き誤差補正手法
1
1
=
+
θ 0 θ T.C.
(5)
熱電対の熱抵抗,熱回路モデル,熱電対
測定値および供給電力から,熱電対への
θ0+T.C.:測定対象と熱電対の合成熱抵抗[℃/W]
熱引きが無い測定対象の温度計算手法を
θ0:測定対象の熱抵抗[℃/W]
示した.
θT.C.:熱電対の熱抵抗[℃/W]
謝辞
各熱電対の熱抵抗が求められたので,同じ
熱電対,測定環境の場合,Fig. 9 における測定
本研究遂行にあたり,富山県立大学助教,畠
対象の熱抵抗θ0 は,φ25μm 熱電対の熱抵抗
山友行氏に多大なる御指導御鞭撻を頂いた.
θ25,実際の測定値⊿T 25 と式(6)に示す関係
また,シミュレーション実施にあたり,株式会
であるので,それぞれの値を代入することで
社サーマルデザインラボの国峰尚樹氏の御尽
測定対象の熱抵抗を計算することができる.
力を得た.また,各実験にあたり株式会社ホン
ダエレシスの鏑木均氏,株式会社ホンダロッ
⊿T25
=
P
1
+ 1
θ 0 θ 25
1
∴ θ0 =
θ 25 · ⊿T25
P · θ 25 ⊿T25
クの多田真和氏,中島大志氏,渋谷稔氏のご協
力を得た.加えて日本精機株式会社の茂野孝
紀氏より有益な御助言を頂いた.ここに付記
しそれぞれ謝意を表する.
(6)
参考文献
また,熱抵抗θ0 と実際に供給した電力 P を
式(4)に適用することで,熱電対への熱引き
がない状態の測定対象の温度を計算できる.
(1)宮木猛:基礎講座 温度の測定方法は?,
応用物理,第 79 巻,第7号,p .656-660
4.まとめ
(2010)
(2)風岡学:接触式温度センサの基礎,株式会
社岡崎製作所 技術情報 (2010)
小型部品の温度測定における接触式温度セ
ンサの測定誤差補正手法獲得を目的として,
(3)宮野秋彦,小林定教:熱電対による温度測
熱電対の接触条件と測定値の関連を調査した.
定の誤差(第一報),日本建築学会東海支
部研究報告集,Vol.4,p.73-78 (1965)
(1)安定した熱電対接触条件の設定
- 39 -
電装品開発時の温度計測手法の提案
(4)日本工業標準調査会:温度測定方法通則 ,
JIS Z 8710, p.1-26 (1993)
(5)伊藤謹司,国峰尚樹:トラブルをさける
ための電子機器の熱対策設計 第2版,東
京,日刊工業新聞社,p.277 (2006)
(6)甲藤好朗:伝熱概論,東京,養賢堂,p.162
(1979)
(7)日本機械学会:伝熱工学資料,東京,丸
善,p.28 (2013)
(8)国峰尚樹:エレクトロニクスのための熱
設計完全入門,東京,日本工業新聞社,
p.39 (2012)
著 者
西澤拓磨
江口和輝
実際の測定を通じ,実験結果から実際の事
象を把握し,現象・原理を正しく理解する重要
性を再認識しました.今回の成果が実際の温
度測定の参考になれば幸いです.また,本研究
の遂行にあたりご尽力頂いた方々に感謝いた
します.
(西澤)
- 40 -
論文
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
正面衝突における構造音響データの応答特性※
Response Characteristics of Acoustic Emission Data in Frontal Crashes
大 﨑 達 治*1
Tatsuji OSAKI
袁 方*2
Fang YUAN
曽 傑 男*2
Jienan ZENG
Recently, the frontal crash sensing is generally based on a accelerometer in the ECU and a few accelerometers
in front of the vehicle. In this system, it is important to distinguish between the offset frontal crash assessed
by vehicle tests on the European New Car Assessment Programme and the Allianz Zentrum für Technik. In this
study, the spectrum analysis is performed for signals measured by an acoustic emission (AE) sensor on the ECU,
and the characteristics of spectra is reported concerning frontal crash tests and rough road test. In addition, in
order to judge whether airbag must be deployed, a means to distinguish the frontal crash type using only an AE
sensor and a conventional accelerometer is considered.
Key Words: safety, frontal collision, airbag control Acoustic Emission, frontal offset crash
1.はじめに
衝突判定に組み込むことにより,迅速かつ正
確な識別が可能となる.本研究では,オフセッ
乗用車へのエアバック搭載が拡大している
ト前面衝突や悪路走行などの様々な衝撃条件
近年,車両の前面衝突は一般に加速度センサ
下において,S R S 用 E C U 上の構造音響セン
を用いて検出され,主センサが S R S 用 E C U
サで検出したデータのスペクトル解析を実施
内に,幾つかの補助センサが車両前方に設置
し,衝突形態や走行状態による特徴を明らか
(1)
(
- 3)
される
にする.また,構造音響センサと加速度センサ
.このようなシステムでは,Euro
N C A P で評価されるオフセット前面衝突と,
のみで,エアバック展開が必要な衝突形態を
アリアンツ技術センタ(Allianz Zentrum für
判別する手法を検討する.
Technik,以下 AZT)で評価されるオフセット
2.車両試験方法
前面衝突を判別することが重要課題となる.
より正確に衝突を判別するには,車両の減速
度に加えて車両変形の程度を的確に検出する
本試験の供試車両は一般的な小型ワゴン
ことが有効であるが,一般的な加速度センサ
タイプであり,S R S 用 E C U は車両ダッシュ
だけでは極めて困難である.
ボード下部のセンタートンネル上に搭載され
車両構造の破壊と変形を検知する方法とし
る.この SRS 用 ECU には加速度センサが組
ては,近年,構造音響(AE:Acoustic Emission)
み込まれ,構造音響センサは ECU 上に設置さ
, 5)
を 測 定 す る 手 法 が 研 究 さ れ て い る( 4 )(
.
れる.前者は 400 Hz 以下の低周波帯域を±7%
20 kHz 近傍までの高周波振動が検出できるセ
の精度で検出可能であり,後者は 5 k~20 kHz
ンサを車両に設置することにより,衝突時の
の高周波帯域を±10% の精度で検出可能であ
構造音響を検知し,車両の変形を推定する.衝
る.それぞれの搭載位置の概略を Fig. 1 に示
突判定は,構造音響による車両変形の要因を
す.また,構造音響センサからの出力(以下,
※2013 年 5 月 15 日受付,(公社)自動車技術会の許諾を得て,2012 年秋季大会学術講演会前刷集 No.101-12, 20125768 より,加筆修正
して転載
*1 開発本部 第0開発部 *2 京濱電子装置研究開発(上海)有限公司
- 41 -
正面衝突における構造音響データの応答特性
AE 信号)はサンプリング周波数 50 kHz にて計
Table 1
測し,加速度センサからの出力はサンプリン
グ周波数 10 kHz にて計測する.
衝突試験および走行試験の種類と主な条件
Vehicle Test Conditions
Test Code
Vehicle
Speed
Barrier
Type
ODB64kph
64 km/h
Deformable Must be done
AZT15kph
15 km/h
Rigid
Airbag
Deployment
を Table 1 に示す.Euro NCAP で評価される
オフセット前面衝突試験(以下,O D B 64 kph)
においては,供試車両を速度 64 km/h,バリ
Rough Road Arbitrary -
Not must be done
Must be avoided
アとのオフセット率 40% にて,ハニカム形状
のアルミ製バリアへ衝突させる.本試験の供
3.結果および考察
試車両においては,シートベルトのプリテン
ショナ作動およびエアバック展開が必須であ
り,プリテンショナ作動は 25 ms 以内,エア
実車試験から得られたサンプリング周期
バック展開は 50 ms 以内を要求される.A Z T
50 kHz の AE 信号を Fig. 2 に示す.それぞれ
により規定されたオフセット前面衝突試験
(a)ODB 64 kph,(b)AZT 15 kph および(c)悪
(以下,A Z T 15 kph)では,供試車両を速度
路走行の試験結果である.
15 km/h,バリアとのオフセット率 40% にて,
Fig. 2(a)より,ODB 64 kph の試験において
鋼鉄製バリアへ衝突させる.尚,A Z T 15 kph
120
ンショナの作動およびエアバックの展開を必
80
Acceleration (G)
試験において,本試験の供試車両ではプリテ
須としない.また,悪路走行の試験において
は,落差が大きい陥没路面を任意の一定速度
にて走破するが,エアバックの展開は回避さ
れなければならない.ここで,O D B 64 kph お
(a) ODB64kph
40
0
-40
-80
-120
よび AZT 15 kph では,供試車両とバリアの接
120
触を検出するセンサを設置し,計測開始の基
Acceleration (G)
準を衝突時とする.また,悪路走行の試験にお
ける計測開始は手動であるため,その基準は
任意である.
(b) AZT15kph
80
40
0
-40
-80
-120
120
Accelerometer
Acceleration (G)
AE Sensor
ECU
(c) Rough Road
80
40
0
-40
-80
-120
0
50
100
150
Time (ms)
Fig. 1
Location of AE Sensor and Accelerometer
Embedded in ECU for SRS
Fig. 2
- 42 -
Raw Signals Accumulated by an AE Sensor
with a Sampling Rate of 50 kHz in Vehicle Tests
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
は,衝突後約 5 ms から加速度が増大し始め,
以降では,周波数 5 k~25 kHz の帯域におい
約 40 ms までの間は 40G 前後を示し,その後
て,-35 dB 以下の領域が大半を占める.また,
最大 80G 近傍まで加速度が増加する.約 90 ms
5 kHz 以下の帯域では,O D B 64 kph の試験と
以降は衝突イベントが終了するため,急速に
同様に,-20 dB 以上の領域が衝突イベント終
加速度が減衰する.A Z T 15 kph の試験におい
了まで継続する.Fig. 3(c)より,悪路走行の試
ては,Fig. 2(b)に示す通り,衝突後約 10 ms か
験においては,陥没路面を走破する約 60 ms 以
ら加速度が増大し始め,約 80 ms までの間は
降で,-25 dB 以上の領域が 5 k~10 kHz の周波
40G 前後示す.その後衝突イベントが終了す
数帯域に分布する.また,陥没路面を走破する
るため,加速度が減衰する.また,Fig. 2(a)に
間は,ODB 64 kph や AZT 15 kph の試験と同様
示す O D B 64 kph と比較すると,A Z T 15 kph
に,-20 dB 以上の領域が 5 kHz 以下の帯域に
の約 50 ms までの加速度は,O D B 64 kph の
おいて大半を占める.
約 40 ms までの加速度と比較的類似であり,加
以 上 の こ と か ら ,い ず れ の 実 車 試 験 に お
速度のピーク値で衝突形態を判別することは
いても,イベント開始後は,5 kHz 以下の帯
不可能である.F i g . 2(c)より,悪路走行の試
験においては,約 60 ms 以降に陥没路面を走破
するため,40G を超える急激な加速度が発生
-20
-25
-30
-35
-40
-45
-50 dB
25
する.これは,Fig. 2(b)に示した AZT 15 kph
(a) ODB64kph
Frequency (kHz)
と同程度の最大加速度であり,加速度のピー
ク値のみによる衝突形態と走行状態の判別は
不可能である.また,160 ms までに4か所の
陥没を走破するが,個々の陥没で生じる加速
度は急速に減衰する.尚,おおよそ 20 ms から
Frequency (kHz)
(a)ODB 64 kph,(b)AZT 15 kph および(c)悪
路走行を示し,各々の最大値で正規化したも
10
5
25
若干の不整地を走行したことが原因である.
間 フ ー リ エ 変 換 し た 結 果 で あ る .そ れ ぞ れ
15
0
60 ms までの間に生じる 20G 前後の加速度は,
Fig. 3 は,Fig. 2 に示した AE 信号を短時
20
のである.
(b) AZT15kph
20
15
10
5
0
Fig. 3(a)より,ODB 64 kph の試験では,衝
25
の間において,-25 dB 以上の領域が周波数
25 kHz までの全帯域にわたって分布する.ま
た,5 kHz 以下の帯域では,-20 dB 以上の領域
が衝突イベント終了まで継続する.Fig. 3(b)
よ り ,A Z T 1 5 kph の 試 験 で は ,約 2 0 ms ~
Frequency (kHz)
突後 10 ms~25 ms の間と衝突後 40 ms~90 ms
(c) Rough Road
20
15
10
5
0
40 ms の間において,-25 dB 以上の領域が周波
0
数 10 k~20 kHz の帯域に分布する.特に,周
50
100
150
Time (ms)
波数 15 kHz 近傍において,約 -20 dB の領域
Fig. 3
が集中する.衝突イベントが終了する約 80 ms
- 43 -
Short Time Fourier Transform Spectrograms
of AE Sensor Signals in Vehicle Tests
正面衝突における構造音響データの応答特性
域で -20 dB 以上の領域が大半を占め,衝突
O D B 64 kph の方が A Z T 15 kph よりも大きい
形 態 や 走 行 状 態 の 判 別 は 困 難 で あ る .一 方
が,約 40 ms 以内で疑似包絡線のピークを比
で,ODB 64 kph の試験は 5 k~20 kHz 帯域に,
較すると,O D B 64 kph と A Z T 15 kph のピー
AZT 15 kph の試験は 15 kHz 近傍に,悪路走行
クは判別し難い.悪路走行の疑似包絡線は,
の試験は 5k~10 kHz 帯域に -25 dB 以上の領
約 60 ms 以降に陥没路面を走破するため,3~
域が分布する傾向を示す.従って,周波数 5 k
4G の大きなピークが4か所で確認できる.こ
~20 kHz 帯域の A E 信号を比較評価すること
れらの疑似包絡線のピーク値は,約 40 ms 以内
は,衝突形態や走行状態の判別に有効である.
の ODB 64 kph および AZT 15 kph のピーク値
F i g . 2 に示した A E 信号の疑似包絡線を
と同等であり,イベント開始が予測できない実
F i g . 4 に示す.疑似包絡線は S R S ユニット
際の状況においては,衝突形態および走行状態
上で算出可能なように疑似的な算出手法にて
の判定を実施するには十分な差異があるとは
算出した.疑似包絡線は,加速度波形に 5 k~
言えない.特に,ODB 64 kph の約 10 ms におけ
20 kHz のバンドパス処理を施し絶対値処理を
る 4G 弱のピークと,AZT 15 kph の約 20 ms に
実施した後に,400 Hz のローパスフィルタを
おける 3G 強のピークと,悪路走行の約 65 ms
施すことにより算出した.
における 4G 強のピークは判別が困難である.
加速度センサの計測値から算出した変位
O D B 6 4 kph の 疑 似 包 絡 線 は ,約 1 0 ms ~
25 ms の間に2つの 4~5G のピークが現れ,
量を Fig. 5 に示す.ODB 64 kph において,変
その後,約 40 ms~80 ms の間は断続的に 6~
位量は約 15 ms より増加し始め,約 90 ms で
8G のピークが現れる.約 90 ms 以降は衝突イ
150 mm に到達するが,100 ms 以降は緩やか
ベントが終了するため,2G を超えるピーク
な増加を示す.A Z T 15 kph では,変位量が
は観察されない.A Z T 15 kph の疑似包絡線
約 20 ms より徐々に増加し,約 80 ms で変位量
は,約 20 ms~50 ms にかけて断続的に約 2~
が最大 40 mm となる.悪路走行における変位
4G のピークが現れ,特に約 20 ms と約 40 ms
量は全計測時間において,ほぼ 0 mm に近い値
の2か所で,3~4G の大きなピークが観察さ
を示す.これは,速度一定の悪路走行において
れる.その後,50 ms 以降の衝突イベント後半
発生する加速度が,加速側と減速側でほぼ等
では,2G を超えるピークは現れない.衝突イ
しいためである.衝突から約 15 ms 以内におい
ベント全体における疑似包絡線の最大値は,
て,O D B 64 kph および A Z T 15 kph の結果を
ODB64kph
AZT15kph
Rough Road
8
200
Displacement (mm)
Quasi-Envelope (G)
10
6
4
ODB64kph
AZT15kph
Rough Road
150
100
50
2
0
0
0
0
50
100
150
50
100
150
Time (ms)
Time (ms)
Fig. 5
Fig. 4
Quasi-Envelopes of AE Sensor Signals in
Vehicle Tests
- 44 -
Calculated Displacement from Acceleration
Measuring with Accelerometer in Vehicle
Tests
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
判別することは不可能であるが,それ以降で
で変位量が増減を繰り返し,疑似包絡線は最
は,ODB 64 kph の変位量が AZT 15 kph よりも
大で約 4G に至る.ここで,1 mm 未満の変位
常に大きい値を示す.また,悪路走行の変位量
量において,O D B 64 kph および A Z T 15 kph
は常時 0 mm 近傍を示すため,ODB 64 kph では
を比較すると,疑似包絡線は両者とも 3G 以上
約 15 ms 以降,AZT 15 kph では約 20 ms 以降に
を示し,判別は困難である.また,変位量 1 mm
おいて,悪路走行と判別することが可能であ
未満は,バリアと車両の剛体部分(エクステン
る.但し,閾値に余裕を持たせることを考慮す
ション)に衝突した直後に相当し,A E 信号に
ると,衝突から 50 ms 以内における変位量は,
及ぼす衝突相手の素材や剛性の影響が強いた
衝突形態および走行状態の判定を実施するに
め,衝突判定には適さない領域である.同様
十分な差異があるとは言えない.
に,悪路走行との比較においても,判別は不可
能であり,増減を繰り返す約 1.5 mm 以内の変
F i g . 4 に示した A E 信号の疑似包絡線と,
F i g . 5 に示した加速度センサの計測値から
位量は衝突判定に適さない.一方,変位量が
算 出 し た 変 位 量 か ら ,同 一 時 刻 に お け る 変
1.5~8 mm の領域では,O D B 64 kph の疑似包
位量と疑似包絡線の関係を F i g . 6 に示す.
絡線のみ 5G 強に達しており,エアバックの展
尚,O D B 64 kph については,変位量が 8 mm
開を必要としない AZT 15 kph や悪路走行と容
に達する衝突から約 30 ms までのデータを,
易に判別することが可能である.
以上のことから,本研究の条件において,
A Z T 15 kph においては,変位量が 8 mm に達
する衝突から約 35 ms までのデータを示す.ま
AE 信号の適切な高周波成分を抽出し,同一時
た,悪路走行のデータは,計測時間 160 ms ま
刻における A E 信号の疑似包絡線と,加速度
での全てを示す.
センサの計測値から算出した変位量を用いる
ODB 64 kph では,変位量が約 0.2 mm におい
ことで,衝突時の衝突相手の素材や剛性の影
て疑似包絡線が約 3.8G を示し,変位量 2.3 mm
響を受けずに,エアバックの展開が必要な衝
前後で疑似包絡線は 5G 強に達する.また,
突を判定できる.
A Z T 15 kph では,約 0.4 mm の変位量におい
4.おわりに
て疑似包絡線が約 3G を示すが,変位量 1.5~
8 mm における疑似包絡線は最大でも約 2G に
止まる.悪路走行では,約 1.5 mm 以内の範囲
オフセット前面衝突および悪路走行の車両
試験において,S R S 用 E C U 上の構造音響セ
Quasi-Envelope (G)
6
ンサで検出したデータのスペクトル解析を実
ODB64kph
AZT15kph
Rough Road
施し,その特徴を明らかにした.また,構造音
響センサと加速度センサのみで,エアバック
4
展開が必要な衝突形態を判別する手法を検討
した結果,以下の知見を得た.
2
(1)A E 信号の短時間フーリエ変換解析にお
いて,ODB 64 kph は 5 k~20 kHz 帯域に,
0
0
Fig. 6
2
4
Displacement (mm)
6
A Z T 15 kph は 15 kHz 近傍に,悪路走行
8
Crash Detection and Distinction Based on
Relation between Calculated Displacement from
Accelerometer Signals and Quasi-Envelope
of AE Sensor Signals in Vehicle Tests
は 5 k~10 kHz 帯域に -25 dB 以上の領域
が分布する特徴を示す.
(2)衝突イベント全体における O D B 64 kph
の疑似包絡線の最大値は約 8G であり,
- 45 -
正面衝突における構造音響データの応答特性
著 者
AZT 15 kph や悪路走行における疑似包絡
線の最大値約 4G より大きいが,イベン
ト開始が予測できない実際の状況におい
て,O D B 64 kph および A Z T 15 kph の衝
突直後における 3~4G の疑似包絡線ピー
クと,悪路走行における 4G 強の疑似包
絡線ピークは判別が困難である.
大﨑達治
(3)加速度センサの計測値から算出した変位
量は,衝突から約 15 ms 以降,AZT 15 kph
袁 方
曽 傑 男
自動車事故において,衝突検知は人命に係
よりも O D B 64 kph の方が常に大きい値
わる重要な技術の一つで有ります.
を示し,悪路走行では常時 0 mm 近傍を示
衝突をより早く検知し,かつ正確に判断す
すが,閾値の余裕を考慮すると,衝突か
ることは大変難しく,技術開発は非常に困難
ら 50 ms 以内における変位量の差異は,
でありました.
衝突形態および走行状態の判定に不十分
本研究開発の一環として S A E の国際学会
である.
に参加し,世界の最新技術動向に触れる貴重
(4)A E 信号の適切な高周波成分を抽出し,
な経験を積み上げることができました.
同一時刻における A E 信号の疑似包絡線
また本研究の成果を通し,ケーヒンで培っ
と,加速度センサの計測値から算出した
た技術を世界に PR をすることができました.
変位量を用いることで,エアバックの展
本研究にて得られた研究成果が,多くの人
開が必要な ODB 64 kph と,展開が不要な
命を救う第一歩となり社会に貢献できればと
AZT 15 kph および悪路走行を判定できる.
思います.
末 筆 と な り ま し た が ,本 技 報 掲 載 お よ
参考文献
(1)
トヨタ自動車:乗員保護装置の起動制御
び 学 会 発 表 に お き ま し て 御 指 導 ,御 助 言 を
頂きました皆様に深く感謝申し上げます.
(大﨑,袁,曽)
装置,特開平 11-59322 (1999)
(2)
本 田 技 研 工 業:セ ン サ 配 設 構 造 ,特 開
2006-62542 (2006)
(3)
遠藤淳一,他3名:新興国市場向けローコ
ストエアバッグ ECU 開発,富士通テン技
報,Vol.29, No.1
(2011)
(4)Michael Feser, et al.: Advanced Crash
Discrimination using Crash Impact Sound
Sensing (CISS), SAE Paper 2006-011590 (2006)
(5)
Sebastian Brust, et al.: Crash Type
Distinction Using Structure-Borne Sound
Sensing, 21st International Technical
Conference on the Enhanced Safety of
Vehicles, Paper No.09-0230 (2009)
- 46 -
技術紹介
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
スポーツ車両に適合したエンジン制御システム※
Engine Control System Conformed to Sport Vehicle
岩 本 善 雄*1
Yoshio IWAMOTO
Recently eco-friendly vehicles as represented by hybrid car have been common by growing the demand of
green environment. Meanwhile new-model cars are announced in sport-car market and becoming popular. With
goals of business expansion and technical capability improvement, we developed the engine control system.
Following are works we conducted this time.
1.はじめに
2.達成目標
近年,環境志向の高まりによりハイブリッ
Table 1 は達成目標値を示す.
ドカーに代表されるエコカーが普及する
Table 1
中 ,ス ポ ー ツ カ ー 市 場 に お い て も 新 型 車 が
発表され活気付いている.今回㈱ M - T E C 様
Performance goal (Customer requests)
Item
Performance
が,発売から約2年経過した C R - Z の話題性
喚起を目的にコンプリートカーの『H O N D A
CR-Z MUGEN RZ』を企画,その ECU の開
発 を 依 頼 さ れ る .弊 社 と し て は 事 業 拡 大 の
取組みと技術力向上に繋げることを目標に,
㈱ M - T E C 様主導の基,メインの基本レイア
Merchantability
ウト及び開発を㈱ M - T E C 様,弊社はその過
程における中のエンジン制御システムを開発
することとなり本報にて今回実施した内容に
Contents
· Maximum output
(Engine only)
115kw[156ps]/6600rpm
30% increase compared
to the current engine
Motor spec equivalent
to the current engine
· Catalyzer temperature
Equivalent to the current car
· Change of gasoline
· Emission (E/M)
Compliance with JC08 mode
· Settings of each driving mode
ついて紹介する.
3.性能
■出力 30%UP
ノーマル:88kw [120ps]/6600rpm
目標:115kw [156ps]/6600rpm
エンジン強度と耐久性を考慮してノーマル
に対して +30%UP を達成目標に設定.
①スーパーチャージャ(S/C)装着
・S/C 装着(客先支給 MAX 過給圧:0.5bar)
Fig. 1
インタークーラ,バイパスバルブ追加
MUGEN RZ
※2013 年 7 月 23 日受付
*1 開発本部 第0開発部
- 47 -
スポーツ車両に適合したエンジン制御システム
□は NE=7000rpm 時に必要な性能(Tint,流
量)を示す.結果,仕様 C のインジェクタを使
用することで流量を満足できる.出力目標達
成(Fig. 5)とともに,キャタライザ温度も上限
温度内に収まり問題ない(Fig. 6).
④エンジンオイル変更
0W-20(純正)→ 5W-40
(無限 VT-α)
Fig 2
S/C component parts
出力の向上と運転状況によりノーマルより
・吸気系 L/O 変更
Required injection
NE = 7000rpm
S/C,インタークーラ,バイパスバルブが追
BASE
Flow [mm3/st]
加となる為吸気系 L/O を変更.
AFTER
BASE
A
B
C
Applied voltage time [msec]
Fig 4
Air intake L/O
Torque [N.m]
Target
Power [kw]
Fig 3
Fuel flow characteristics
②使用燃料変更
S / C 装着による出力 U P の為,使用燃料を
レギュラガソリンからハイオクガソリンに変
更.耐ノック性向上により点火時期をアドバ
ンスさせることができる.
Engine speed [rpm]
③インジェクタ
Fig 5
標準品(弊社製)では,燃料流量が不足し
Engine torque curve
キャタライザの燃料冷却ができず目標に対し
て達成できない.弊社量産品の中から下記の
Limit temp
条件を満たしたインジェクタの選定を実施.
Temp [ºC]
・規定時間内に噴射可能なこと
・E/M への影響が少ない(噴霧方向)
予め選定した標準品と噴霧方向の類似した
流量バージョン違いの3仕様(A,B,C)にて
検討.必要な燃料を規定時間(Tint※1)に噴射
Engine speed [rpm]
可能なインジェクタをベンチテストにて見極
めを実施.Fig. 4 はインジェクタ流量特性を,
- 48 -
Fig6
Temperature of catalyst
Power (KW)
Torque (N.m)
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
油温上昇が見込まれる.高油温時の油膜切れ
Table 2
防止の為オイル粘度を変更.
MODE
上記(①~④)の変更に合わせて E C U デー
Mode list
MAP (image)
ECON
SPEC priority
on fuel economy
considered eco.
Intake pressure
is out of positive
pressure range.
NORMAL
SPEC with
well-balanced
driving and fuel
economy.
SPORT
SPEC featured
driving that
generates max
power.
+SPORT
Corresponded to
PLUS SPORT.
タのキャリブレーションを実施して目標性能
を達成した.
4.商品性
開発を推進していく中で出力 U P 達成の為
のインジェクタ・エンジンオイル・使用燃料の
変更に伴い,下記の不安要素が考えられる為,
テストにて確認を行った.
・IDLE 回転数の成立性
インジェクタ変更により,標準品より流量
体格が大きい為,M i n Q(※2)も増え通常アイ
ドル時に必要な燃料量以上しか噴射ができず,
結果 I D L E 回転数の不成立が起こりえる.ま
た,高地環境下では更に厳しくなる為,IDLE
回転数の変更を実施.
・始動性
その他として
インジェクタ変更とエンジンオイル変更に
・各走行モードの設定
よるフリクション増加により始動性への影響
エンジン制御システムの開発過程において
を確認する.結果は,ノーマルと同等の始動性
常に情報交換を行いながら推進する中で,特
を確保.
に各モード(ECON・NORMAL・SPORT)及び
・使用燃料による対応
限界点の取り決めなどは,共同作業にて実施.
点火時期の見直し
ドライバビリティ向上の為,C R - Z の特徴で
使用燃料変更しエンジンベンチにて M B T
もある3モードドライブシステムを活かして
ラインとノックラインの確認を行い出力 U P
ユーザ任意で楽しめるよう仕様を振り分けた.
達成の為点火時期の再設定.
今回の MMC にて追加された PLUS SPORT
ノックコントロールシステムの最適化
システムにも対応.
使用燃料変更と出力 U P によるノックセン
5.最後に
サの異常を防止する為エンジンベンチにて実
機設定後テストコースを走りこみ,実車確認
と設定実施.
今回の機種開発において,当初出力 U P の
・排気ガス
みで対応していたが,テストを重ねていく過
平成 21 年規制(JC08 mode)
に対して適合
程でインジェクタの仕様等大幅な変更をせざ
インジェクタ,エンジンオイル,アイドル回
るを得ない状況となり,期初の開発計画より
転数を変更した為確認を実施.
大幅にずれ込み非常にタイトな日程となって
以上の不安要素に対応して問題ない事が確
いった.商品性に関してもテストコース等の
認できた.
走り込みを実施して煮詰めていった.技術を
- 49 -
スポーツ車両に適合したエンジン制御システム
共有しながらの開発だった為大変苦労した開
発となったが最終的には㈱ M - T E C 様の承認
を頂いた時には何物にも代え難い満足感を得
る事が出来た.部品開発・量産をメインにやっ
てきた弊社とレース等アグレッシブな開発を
やられてきた㈱ M-TEC 様,両社初の試みとい
うこともあり苦労する部分も多々有ったが開
発が完了し,量産に漕ぎ着けることができ大
変感激している.
今回の開発においては㈱M - T E C 様の
Know-How や技術を目の当たりにし,新たに
再発見出来た事は弊社にとって大変有意義で
あり新鮮であった.本開発に微力ながら携わ
る事が出来,弊社のモチベーションの向上と
なったのも偏に㈱ M-TEC 様のおかげです.こ
の場を借りて厚く御礼申し上げます.
※ 1 Tint =1行程所要時間
※ 2 MinQ = min 流量
著 者
岩本善雄
弊社初の四輪キャリブレーション開発で
あり苦労が絶えなかった.限定 300 台と少な
い台数ではあるが量産に漕ぎ着くことができ
た.実車開発に携わることは長年の夢であり
今回このような機会を頂きありがとうござい
ました.
(岩本)
- 50 -
技術紹介
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
ヤマハ向け小型二輪車電子制御システム※
KEIHIN FI system for YAMAHA “JUPITER Z1”
田 高 健*1
Takeshi TADAKA
小 島 洋 司*2
Youji KOJIMA
木 村 淳*2
Jun KIMURA
北 村 浩 二*3
Koji KITAMURA
青 柳 理*1
Tadashi AOYAGI
In this report we explain first products about the fuel injection system to Yamaha Motor Co., Ltd.
1) Throttle body 2) Fuel Injector 3) Fuel pump module 4) Engine control unit
As a characteristic, we assumed it a product specification for warm areas and achieved low cost and high
quality in a local production.
1.はじめに
2.2. 各部品
特徴-アセアン向けとして,より低価格な
F I システムの部品供給を可能にした.そのコ
各車両メーカにおいて進展国二輪市場へ
の FI(電子制御燃料点火制御)モデルの投入が
スト低減策として,以下の施策を行った.
増加し,キャブレタ含めた当社年間生産台数
1.各部品に使用する機能部品を流用,もしく
は新規に改良.
2,724 万台に対し 477 万台(2011 年度,当社公
2.吸気温,吸気圧,スロットル開度の各セン
表)とその割合は増加傾向である.
サ一体型吸気量計測統合センサを採用.
これらの数量背景と市場実績を基に廉価な
F I 車向け部品提案を各社へ展開して来たが,
この度,ヤマハ発動機(株)様のインドネシア
市場のコミュータモデル「JUPITER Z1」に採
用された(Fig. 1).
この FI 車向け部品(吸気量計測統合センサ
内蔵スロットルボデー,インジェクタ,フュー
エルポンプモジュール,エンジン制御ユニッ
ト)について紹介する.
2.FI システムと各部品
Fig. 1
Appearance of JUPITER Z1
紹介する製品は,当社で市場実績のある小
Specification of JUPITER Z1(1)
型二輪車用燃供部品をベースとしたもので,
Table 1
開発当初より車両メーカと合同での設計検証,
Type
Displacement
Compression Ratio
Net Power
Torque
Starting System
Transmission
生産工程検証を実施,製品化した.
2.1. FI システム
Fig. 1,Table 1 諸元車両の FI システムに対
し,当社は Fig. 2 黒枠部の4製品を供給する.
(1)
Quotations from YAMAHA Motor Indonesia HP
※2013 年 6 月 3 日受付
*1 開発本部 第五開発部 *2 開発本部 第一開発部 *3 開発本部 第三開発部
- 51 -
Air Cooled, 4Stroke, SOHC2Valves
113.7cc
9.3:1
7.4kW (10.06ps)/7,750rpm
9.9Nm (1.01kgf·m)/6,500rpm
Self/kick
Rotary, 4 Speed (N-1-2-3-4-N)
ヤマハ向け小型二輪車電子制御システム
Fuel Injector
Fuel pump module
Pressure regulator
Fuel feed pump
Suction filter
Engine CNTL unit
FI control
Ignition control
Throttle body module
Throttle body
Sensor unit
Throttle angle sensor
Boost pressure sensor
Air temp. sensor
Engine speed sensor
Engine oil temp. sensor
Oxgen sensor
Fig. 2
Component of KEIHIN FI system
2.2.2. フューエルインジェクタ
3.アセアンの使用環境と車両要求に機能を
絞ったエンジン制御ユニットの新規開発.
小型二輪用としての耐久性・環境適合性を
4.上記統合センサを使用する上で,スロット
進化させた製品で,客先独自の実機適合要件
ル開度センサの組付け後調整を廃止し,学
を ク リ ア し ,本 車 両 へ の 搭 載 を 実 現 さ せ た
習制御によるアイドル基準位置算出の実施.
(Table 3)
.
2.2.1. スロットルボデー
基本構造は従来製品の技術・製法を踏襲し,
車両艤装に合わせ全長・全幅の最適化を図った
ボデーを当該車両専用に開発した(Table 2)
.
内容は,アセアン向けアンダーボーン車両
に特化させ,エアバイパス通路をボデー下側
(a) Sensor side
に構成し,又,全開空気量をワンサイズ小さい
Fig. 3
ボア径で確保する為にビス形状を工夫した.
以上の構造にて小型化・軽量化を実現した
Table 2
Throttle drive type
Idle adjustment
Specification of Fuel Injector
Specification
105 cc/min
Storage temp.
-40∼+120°C
Operation temp.
-20∼+120°C
245 m/s2
Vibration durability
(50∼500Hz)
Minimum operation voltage 6.3 V
1.33 A at Duty100%
Current consumption
(Drive voltage 14V)
Inductance
8.1 mH at 24°C
Coil resistance
10.5 Ω at 24°C
Weight
22 g
Spray angle
15 deg
Specification of Throttle body module
Loading angle
Inlet DIA.
Outlet DIA.
Bore
Throttle DIA.
Thickness
Th.Valve
Operating angle
Appearance of Throttle body module
Table 3
(Fig. 3-a,Fig. 3-b).
(b) Drum side
Specification
Downdraft
φ24.5
φ23.4
φ22
1.0 mm
79.7 deg
2 wire
Perfect circle pulley
Screw
- 52 -
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
2.2.4. エンジン制御ユニット(ECU)
他社製品に比べ,小型・軽量化であり吸気
管形状・配置自由度が高いものとなっている
アセアン向けに廉価小型二輪用の機能・性能
(Fig. 4).
に特化したハードウェアと,ケーヒン独自の
2.2.3. フューエルポンプモジュール
制御仕様をベースに,要求機能を追加し,本開
機能部品である燃料ポンプ,プレッシャレ
発車両専用のECUと開発した(Table 5)
.
ギュレータは既存品をベースとし樹脂成形筺
なお,ハードウェアは,機能を特化しサイズ
体と最小限の部品構成,既存の製法踏襲によ
を従来品から,約 20% のサイズダウンを実現
り,低コスト化を図った.
した(Fig. 6).
当該車両特有の薄型燃料タンク内への配置
に対しては,L 型構造を採用,強度とコンパク
Table 5
ト化の両立を実現した(Table 4,Fig. 5).
Specification of ECU
Specification
040 (Small size)
φ10.4
Size
77.8(D)×55.7(W)×30.3(H) Include connector
Weight
110 g
Operation voltage
6.0∼16.0 V
Operation temp.
-20∼60°C
Control engine speed 200∼12,000 rpm
33 pins
43.9mm
Number of pins
φ7.5
Fig. 4
Table 4
Fig. 6
Appearance of Fuel Injector
(boundary dimensions)
3.車両メーカとの共同による設計・
工程検証と現地生産拠点への展開
Specification of Fuel pump module
Fuel feed pump
Flow rate
Current consumption
Pressure Regulator Control pressure
Suction filter
Filtration area
Specification
13.8L/Hr (Min)
1.61A (Max)
294 kPa
Over 81cm2
Appearance of ECU
品質・コスト・供給の観点から当該部品も
例外なく客先生産拠点に近い当社生産拠点
(P.T.Keihin Indonesia)での調達,生産,供給
を行っている.開発当初においては当該各部
品は客先調達部品として初のカテゴリ製品と
なる事から,客先の「品質問題の未然防止」を
目的とした,客先の品質取り組みである「設計
段階より生産準備に着手,現地生産時におけ
る良品条件を作り込む」活動を合同で推進し
た.当社は独自開発評価システムやの全生産
拠点において「グローバルオペレーションス
Fig. 5
タンダード」
(製法標準),「グローバルクオリ
Appearance of Fuel pump module
- 53 -
ヤマハ向け小型二輪車電子制御システム
ティスタンダード」
(品質標準)に基づいた国・
地域差のない品質を維持する基準を展開して
いるが,両社合同で展開する事により,開発段
階から日本と現地間で温度差のない品質取り
組みに対する推進,展開ができた.
4.まとめ
当初提案の各部品仕様に対し,4部品合計
で大幅なコスト低減ができ,また量産開始ま
での生産拠点への生産移管をスムースに行う
ことができた.
著 者
田 高 健
本製品開発に携わる事で進展国の情勢を垣
間見る事ができ,二輪・四輪車ともに排出ガス
は以前より少ないものの,発展と共にその絶対
数の多さに,より低公害な“移動手段”の普及
が必須であると強く感じた.全世界の人々が安
全で低公害な“移動手段”を利用出来る社会の
実現を強く希望する.最後に本製品に関わった
社内外全ての方に感謝いたします.
(田高)
- 54 -
技術紹介
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
直噴インジェクタ(KN-12 型)※
Direct Injection Injector KN-12 Type
猪 又 茂*1
Yutaka INOMATA
森 谷 昌 輝*1
Masateru MORIYA
酒 井 俊 一*2
Toshikazu SAKAI
角 田 健 一*3
Kenichi TSUNOTA
阿 部 秀 章*4
Hideaki ABE
松 崎 義 和*5
Yoshikazu MATSUZAKI
宮 下 純 一*1
Junichi MIYASHITA
釜 洞 敦*1
Atsushi KAMAHORA
安 部 春 光*2
Harumitsu ABE
鈴 木 明 敏*6
Akitoshi SUZUKI
安 藤 康 幸*4
Yasuyuki ANDO
町 田 啓 介*1
Keisuke MACHIDA
INJECTOR is a critical component that supplies fuel to the engine.
In accordance with environmental demands these days, we introduce the direct INJECTOR from an
engineering perspective that allows to supply fuel directly into cylinders and to improve the engine performance.
1.はじめに
Table 1 のインジェクタ要件への対応として,
従来のポートインジェクタで培った技術を一部
踏襲し,新技術の確立を図った(Fig. 2,Table 2)
.
近年の環境対応から,車には低燃費,低エ
ミッションが求められ,エンジンの効率改善
Table 1
のため,ポートへの燃料噴射から,筒内への直
Engine Demand
接燃料噴射への置換が進んでいる(Fig. 1).
①
このため,市場競争力がある直噴インジェ
②
③
④
クタの開発が必要となった.
Fuel pressure
3.5∼20MPa
⑤
⑥
⑦
⑧
Port injection
Fig. 1
Direct injection
Engine demand and Injector requirements
Injector Requirements
Minimum quantity reduction
Emission regulation
Low penetration
microatomization
Evaporative Emission Valve seat leakage reduction
Air-fuel ratio balance Quantity variation reduction
Low fuel consumption Minimum quantity reduction
Increase injection quantity
High power
(High pressure injection)
Corrosion resistance
Flexibel fuel application
Deposit toughness
Cost
Marketability
Noize and vibration reduction
Attaching flexibility
Ease of attaching
Cylinder pressure
Max 9.5MPa
Difference between port injection and direct
injection
2.インジェクタの開発の狙い
エンジンからインジェクタへ要求される性
能は以下に大別される(Table 1)
.
KN-10 Type
KN-12 Type
mass production start in 2007.
mass production start in 2013.
Fig. 2
KN-10 Type/KN-12 Type INJECTOR
※2013 年 7 月 1 日受付
*1 開発本部 第三開発部 *2 生産本部 生産技術四部 *3 Keihin North America, Inc.
*4 生産本部 生産技術一部 *5 購買本部 第一購買部 *6 生産本部 品質技術部
- 55 -
Needle valve
直噴インジェクタ(KN-12 型)
Injector Specification
INJECTOR Type
Fuel Pressure
Outside diameter
length
KN-10 Type
0.35Mpa
ϕ17.7
64.6mm
GO
OD
KN-12 Type
3.5MPa∼20MPa
ϕ21
89.1mm
Magnetic Force
Table 2
Time
KN-12 型は,2013 年秋から上市し,拡大展
Fig. 4
開する計画となっている.
Magnetic Force Profile
HIGH
3.直噴インジェクタの特徴
■高燃圧噴射への対応
エンジンのインジェクタ搭載スペースは限
られている.
LOW
搭載上の制約から,ニードルバルブを高燃
Fig. 5
圧でも動かせる推力を得るためには,高効率
な構造が必要となる.
Magnetic Flux Density contour
■燃料微粒化への対応
KN-12 型の特色はコアとニードルを別体構
微粒化の要素として,燃料圧力と噴射場の
造とし,コアを磁力で引き上げ,コアの慣性力
圧力差を大きくすることが重要であるため
でニードルを引き上げる,高効率構造を採用
(Fig. 6),インジェクタ内部での,燃料圧力損
した(Fig. 3).
失が少ないシート構造を採用した(Fig. 7).
コアを別体構造にすることで,ニードルバ
Spray droplet size (µm)
ルブ重量の低減ができ,ニードルバルブの高
応答化が可能となる(Table 3)
.
ソレノイド部も,磁路長さの最適化をし高
効率な構造とした(Fig. 4,5)
.
1. Core is pulled up
magnetically
2. Core collides
with a needle
OD
GO
Fuel pressure (MPa)
3. Needle goes up
and injection start
Fig. 6
Pressure and the relation of droplet
Pressure
High
Core stroke
Low
Operating principle
Item
specification
Core Specification
Valve Weight Core Weight
1.8gf
2.1gf
Core Stroke
Fig. 7
57.5um
- 56 -
GOOD
Table 3
Fuel pressure
Fig. 3
Position
Pressure distribution schematic
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
著 者
■デポジットへの対応
直噴インジェクタはノズルが直接燃焼ガス
に曝され,噴孔部にデポジットが堆積すると
噴射量の低下,噴霧形状の変化を引き起こす.
デポジットは高温になると生成され易い
ため,噴孔部の温度上昇を抑制するデッドボ
リュームを設け対策した(Fig. 8).
猪 又 茂
HIGH
K N -12 型開発の大変長い道のりで,得られ
Temperature
た経験値を次の製品開発へ活かし,更に良い
物を世に送り出していきたいと思います.
本開発に携わり,御協力をしてくださった
LOW
Nozzle
Fig. 8
すべての皆様に深く感謝します.
(猪又)
Dead volume
Orifice
Temperature distribution schematic
③取付け性向上
直噴インジェクタは筒内圧力での荷重が,
燃料圧力での荷重を上回る恐れがある.取付
性を考慮し,筒内圧でのインジェクタ浮き上
がり防止と(Fig. 9),回転防止機能を有したバ
ネ構造クリップを採用した(Fig. 10)
.
Spring structure clip
Pushing force
Cylinder pressure
Fig. 9
Function 1 of clip
Fuel pipe
Rotation stop structure
Fig. 10
Function 2 of clip
- 57 -
技術紹介
直噴インジェクタ流体研磨機
直噴インジェクタ流体研磨機※
Direct Injector Fluid Polishing Machine
山 根 岳 央*1
Takehisa YAMANE
遠 藤 貴 雄*1
Takao ENDO
新 谷 絋 平*2
Kohei ARAYA
向 坂 年 光*3
Toshimitsu MUKAIZAKA
五十嵐 裕 司*1
Yuji IGARASHI
In recent years, fuel efficiency by increasing environment-oriented is accelerating. With it, the injection holes
of the injector holes, injection port hole processing technology with a precision which follows the wide flow
range is required. If the precision to satisfy can not be achieved, we introduce a fluid polishing as the achieved
method, such as electro-discharge machining and laser processing.
1.はじめに
れに伴い,加工時間の増加につながる.
B.設備構成機器の耐久性
近年,環境志向の高まりによる低燃費化が
流体研磨はある一定圧力条件にて製品を加
加速している.それに伴いインジェクタの噴
工するが,設備側の構成機器に対しても同一
口孔には,幅広い流量レンジに追従した高精
の条件が課せられる.
度な噴口孔加工技術が必要とされ,流量誤差
したがって動作条件に対し,スラリの影響
に伴う燃料効率の低下,および環境汚染への
を受けない耐久性を考慮した材質処理,および
悪影響は避けなければならない.
流体条件値を満たす設備設計が必要とされる.
噴口孔を加工する手法として,レーザ,放
電加工などがあげられるが,これらの方法に
よっても満足する精度が達成できない場合と
して,流体研磨加工を採用した.
弊社では,低コストおよび流量精度向上に
Before processing
つながる独自の流体研磨加工機を開発したの
Fig. 1
で紹介する.
After processing
Product edge portion of the before and after
processing
2.スラリによる影響
3.スラリ研磨機の開発
スラリとは砥粒と油から成る混合流体であ
前述の内容を踏まえて,流体研磨機の回路
り,微妙な割合比率を以て噴口孔の径の拡大と
システム(Fig. 2)を考案した.
出口エッジ部でのR形成を行っている.
(Fig. 1)
スラリによる影響は,下記項目に分類される.
A.砥粒磨耗からの粒径の細分化
砥粒自体の経時的な品質劣化に関しては,
加工時間の増加傾向と連動し充填のタイミン
グを判断できるようにし,スラリの密度の監
スラリの動作使用日数が増加するに連れ,
砥粒自体の磨耗が進み細分化が進行する.そ
視をすることで砥粒の充填時の割合比率の管
理にもつなげている.
※2013 年 6 月 4 日受付
*1 生産本部 工機部 *2 生産本部 生産技術四部 *3 知財・法務部
- 58 -
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
これは本圧力条件下での流量(孔径)増加が
流体研磨の加工時間は,加工圧によっても
なくなる流速の基準値を意味し,基準値以下
影響を受ける.
の流路面積を確保することが条件とされる.
本設備では,注射器をイメージした圧力供
給ユニットから加工後の流量バラツキが最も
4.まとめ
少ない理想圧力を一定に制御させているが,
加工前の工作物の初期流量が小さいものに対
しては加工時間が増大してしまう.
流体研磨機の開発により,従来型と比較し
圧力増加による制御は,加工後の流量バラ
流量精度 30% 向上,設備サイズ 45% 削減,投
ツキの増加が考えられることから,加工前の工
資 52% 削減に繋がる量産機への展開が実現で
作物の初期流量を大きく設定し,流体研磨加工
きた.
での流量増加率を少なくする必要があった.
また加工前の基準値に入らない初期流量の
工作物においては,稼働率向上のため加工動
作に入ることなく排出させるものとした.
次に構成機器の耐久性については,基準と
なる微小孔径の工作物を用意し,一定圧力条
件での流量増加データを収集した.
加工初期からは孔径増加に伴い,流速の減
Fig. 4
少傾向となるが,時間の経過につれほぼ一定
値となる.
(Fig. 3)
Fluid polishing machine that is mass
production deployment
著 者
Pump
Flow meter
Jig
山根岳央
Tank
Press Unit
Fig. 2
流体研磨加工を量産導入するうえで,製品
Fluid polishing machine schematic
精度を保ちながらスラリという特殊流体をど
Flow rate (m/sec)
う維持管理していくかの条件設定と,耐スラ
リを考慮した設備開発が非常に大変であった.
Criterion Value
最後に,本開発内容に御協力してくださっ
た皆さまに深く感謝致します.ありがとうご
ざいました.
(山根・遠藤・五十嵐・新谷・向坂)
Time (sec)
Fig. 3
Relationship of stream velocity and time
- 59 -
技術紹介
直噴エンジン向けドライバ一体 FI-ECU
直噴エンジン向けドライバ一体 FI-ECU ※
Injector Driver Integrated FI-ECU for Direct Injection Engines
森 正 光*1
Masamitsu MORI
鈴 木 隆 広*2
Takahiro SUZUKI
丸 子 和 良*3
Kazuyoshi MARUKO
北 條 直 希*4
Naoki HOJO
目 黒 隆 弘*5
Lisa Howland *6
Takahiro MEGURO
上 田 昭 寿*1
Akihisa UEDA
荻 野 大 典*6
Daisuke OGINO
Direct Injection Engines are the better choice for ecosystem, for their ability of effective combustion control.
But, to make fuel injection into the highly pressured engine cylinder, there must be a powerful fuel pump and
fuel injection valves. Electric power consumption would increase and the temperature of the Fuel Injection
Electronic Control Unit(FI-ECU) would also rise to drive the powerful actuators. For this, in our conventional
system to protect the precise microcontroller, power driver part had been separated from the FI-ECU. In this
development, the two units were successfully reintegrated, using the special heat dissipation structure. Minimal
size in the world was achieved.
1.はじめに
いる.一方,直噴システムは高圧で燃料噴射
するため,取り扱う電力が大きく発熱も大き
一般的なエンジンでは燃料を「混合気」と
い.そのため,従来は噴射量とタイミングを
して吸気ポートからシリンダ内に送り込む.
決定する部分(F I - E C U)と大電力を取り扱う
初期の自動車はこのためにキャブレタを利
部分(Electric Drive Unit:EDU)に分けて
用 し て い た .し か し ,排 出 ガ ス 規 制 対 応 や
制御を行っていた.今回,この二つを統合す
燃費向上のため燃料をより正確に供給する
る検討を行い,その中で熱の問題の解決に成
必要が生じ,燃料噴射装置(インジェクタ)
功し業界最小の統合 E C U として量産を実現
で燃料を吸気ポート内に噴射し高精度な混
した.
合気を生成する燃料噴射(F u e l I n j e c t i o n:
2.小型化対応
F I)システムが開発され,電子制御ユニット
(Electronic Control Unit:ECU)とともに主
流となった.さらに近年,企業平均燃費規制
今回開発した E C U を F i g . 1 に示す.統合
(C A F E)などの実現のために,さらに精密な
化により増加する部品数に対応するため実装
燃料の供給制御が必要となって来た.このた
密度向上に有利な面実装品の使用を徹底した.
め吸気ポートから空気だけを吸い込み,直接
コイルや電解コンデンサのようなリード品が
シリンダ内に高圧の燃料を噴射する直噴シ
主流な大型部品についても全て面実装対応と
ステムが主流になりつつある.エンジンは複
した.これらの部品のはんだ付け性をひとつ
雑な機械装置でありその制御を行う E C U も
ひとつ検証し,問題がある部品についてはそ
また高性能なマイコンを使用する精密な電
の部品をはんだ付けする銅はく部の形状を再
子製品であるので,動作温度範囲が限られて
設計することなどで対応した.直噴インジェ
※2013 年 7 月 19 日受付
*1 開発本部 第六開発部 *2 事業統括本部 第二営業部 *3 生産本部 生産技術五部
*4 購買本部 第二購買部 *5 生産本部 品質技術部 *6 Keihin Carolina System Technology, LLC.
- 60 -
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
上蓋の方に放熱させる.この方式を実現する
ために基板表面に実装する発熱部品は Fig. 2
右側のように上面から放熱できるものを採用
した.一方,基板裏面に実装する発熱部品は基
板を通して放熱せねばならないため基板垂直
方向の熱抵抗を極力小さくする必要がある.
そこで Fig. 2 左側のような基板内ビア構造を
Heat Spreader
Fig. 1
採用し基板垂直方向の熱抵抗を大幅に下げる
ことに成功した.
ECU for Direct Injection Engines developed
by authors. Device with heat conduction
to the top surface (Red circle), Large coils
and capacitors (Yellow circle).
Fig. 1 の基板表の右下コーナ部にある IC は
上面に放熱部があり,グリスを介して上蓋に
接触し放熱している.F i g . 3 に基板裏側発熱
部品の状況を示す.
クタ制御実現のため,専用 ASIC を使用した.
高密度化により発生する放射ノイズ低減のた
Bottom cover
め,部品配置や基板パターンを最適化した.
Waterproof adhesive
この中のいくつかの項目にて特許を出願中で
Power devices
ある.
PCB
3.放熱構造
Waterproof adhesive
Upper housing with Fins
高発熱の E D U 部を統合した E C U から熱
Thermal grease
を外へ逃がすため Fig. 2 のようにアルミダイ
Fig. 3
キャストの上蓋に作りこまれた放熱フィンに
向け熱流を作る放熱構造を採用した.発熱部
品が基板の表,裏どちらの面に実装されても
Upper housing with Fins
Thermal grease
Power devices
Heat dissipation structure of the ECU.
Blue Parts on the PCB are the power devices
with heat conduction to the bottom surface.
Their heat passes through the PCB and
thermal grease, then flows into the heat sink.
Heat current
Thermal grease
Heat spreader
Thermal grease
printed-circuit board
heat-generating chip
Heat spreader
Via hole construction
for heat conduction
heat-generating chip
Devices with heat conduction
to the top surface
Devices with heat conduction
to the bottom surface
Fig. 2
Heat dissipation structure of the PCB
- 61 -
直噴エンジン向けドライバ一体 FI-ECU
また,基板と上蓋の加工誤差により部品上
トにご協力いただきました皆様に感謝の気持
面と上蓋間距離にはばらつきがあるため,グ
ちを伝えたいと思います.
リスの選定,放熱構造部の異物噛み込み,放熱
「皆様の協力のおかげで,胸を張って本製品を
フィンの付いた上蓋の鋳造性,基板コーティ
世に送り出すことができました.ありがとう
ング塗布,グリス塗布など各工程ごとにばら
ございました.」
(森)
つき要因をつぶしこみ量産品質を確保した.
4.まとめ
EDU を統合した直噴エンジン向け一体 FIECU の問題点を上記手法にて解決し開発に成
功した.また,開発のプロセスにおいては,発
熱を低減する回路設計,放熱性能を向上させ
る筐体設計,その放熱構造を実現するものつ
くりの協業開発が問題解決の推進力となった.
著 者
森 正 光
近年,燃費や環境性能を向上させるべく,直
噴エンジンが急速拡大しております.そこで,
廉価な直噴エンジンシステムを実現するため
に『ドライバ一体 FI-ECU』が必要となってき
ました.
本プロジェクトでは,EDU 特有の課題に対し
・大型部品の面実装化
・直噴専用 ASIC 採用による回路集積化
・高発熱である EDU 部の熱を逃がす放熱構造
を採用し,ケーヒン初の『ドライバ一体 F I E C U』を“業界最小サイズ”で実現することに
成功しました.
これからもさらに高い要求仕様に応えつつ,
コストを両立させた製品開発を行い,社会に
貢献したいと思います.
最後に,本誌面をお借りして,本プロジェク
- 62 -
技術紹介
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
EV 向けリチウムイオン電池用セル電圧センサ※
Cell Voltage Sensor of Lithium Ion Battery Module for Electric Vehicle
槌 矢 真 吾*1
Shingo TSUCHIYA
鎌 田 誠 二*1
Seiji KAMATA
武 藤 義 弘*2
Yoshihiro MUTO
中 村 武*3
Takeshi NAKAMURA
佐 藤 宏 紀*4
Hiroki SATO
富 塚 英 樹*5
Hideki TOMITSUKA
佐 藤 賢 一*6
Kenichi SATO
山 本 健 一*7
Kenichi YAMAMOTO
福 冨 剛 之*8
Takayuki FUKUTOMI
Electric vehicles have powerful batteries for their power sources. Among many kind of batteries, latest
vehicles use the Lithium Ion Battery (LIB) modules because of their high energy density. But, the LIB modules
are difficult to control, especially in charging state. They must be charged carefully not to get overcharging,
because the overcharging may make a chance to catch fire. A set of Cell Voltage Sensors (CVS) is used to
prevent the LIB module from overcharging. An Electronic Control Unit for Battery (BAT-ECU) with which CVS
were connected measures all cell voltage of the LIB module, and control their charging status. While there are
many similar methods to get the cell voltage, the Flying Capacitor Method (FCM) was considered to have some
possibilities of low cost, high applicability and high performance. CVS with FCM was successfully applied to
realize our LIB module and BAT-ECU.
1.はじめに
セル数 432 個,総電圧約 330V になる電池モ
ジュールに使用する CVS を開発した.センサ
カリフォルニアの Z E V(Z e r o E m i s s i o n
部分はニッケル水素電池モジュールで実績の
Vehicle)規制に対応するクレジット獲得のた
あるフライングキャパシタ方式(FCM:Flying
め 100 マイル以上の航続距離を持つ電気自
Capacitor Method)を用い,LIB 応用時の問題
動車(BEV:Battery Electric Vehicle)の市場
点を回路の工夫により解決した.
投入が望まれ,それに使用する小型大容量電
2.搭載位置・構造
池パックの開発が必要となった.航続距離を
重視した E V に搭載される電池は現状では
電力密度からリチウムイオン二次電池(L I B:
今回開発した B E V のパワートレイン系
Lithium-Ion secondary Battery)の使用が主流
ECU のシステム構成を Fig. 1 に示す.CVS
になっている.例えば約 2.3V の L I B 単セル
は車室床下に搭載される電池パック内に組み
12 個を直列にしたモジュールを 12 個直列に
し,さらに3組並列にしたものが電池パック
Motor ECU
Battery ECU
with Power Control Unit
として実車に搭載される.一方,L I B は特性
上過充電を行うと発煙・発火などの事故に発展
Management
ECU
する恐れがあるため,L I B の単セルごとの充
電量を各セルの端子電圧から推測し制御する.
従って各単セルごとにセル電圧センサ(CVS:
Cell Voltage Sensor)が必要となる.今回は
LIB of 36 modules
Fig. 1
Battery Pack
ECUs for Battery EV system.
※2013 年 7 月 19 日受付
*1 開発本部 第七開発部 *2 事業統括本部 第二営業部 *3 開発本部 第二開発部 *4 生産本部 生産技術五部
*5 生産本部 宮城第二製作所 *6 購買本部 第二購買部 *7 生産本部 品質技術部 *8 知財・法務部
- 63 -
EV 向けリチウムイオン電池用セル電圧センサ
込まれている.電池パックは 36 個の電池モ
体 G N D をフォトモスリレーで絶縁すること
ジュールから構成される.電池モジュールは
から「G N D 絶縁型」F C M と呼ばれる.その回
F i g . 2 のように組み上げられる.電池以外の
路の概念を Fig. 3 に示す.LIB 用の CVS も
主な構成部品はバスバープレート,制御基板
実績のあるフォトモスリレーFCM 回路の採用
とカバーのみである.電池端子とバスバープ
を検討したが,フォトモスリレーは高価であ
レート,制御基板を直接一括はんだ付けを行
り測定するセル数が多い LIB ではコストが合
う独自の「バスプレート一体構造」により電池
わず使用できない.そこで,フォトモスリレー
と CVS をつなぐハーネスを省略した.
の代わりに高耐圧 MOSFET をスイッチに使
用することで大幅なコストダウンを実現した.
Cover
MOSFET は安価であり,スイッチを節約する
PCB for CVS
(molded bus bar)
必要がないので,測定対象バッテリの全ての
セル電圧をマイコンの G N D 電位を基準とし
Bus bar plate
た電圧にシフトして測定できる,F i g . 4 に示
す「レベルシフト型」FCM として回路を新設計
した.CVS と BAT-ECU 間はデジタル通信を
使用しているのでその部分で主な絶縁を行い,
Battery modules
Fig. 2
+5V
Cascade to Higher
Photo-MOS Relays
voltage cells
Isolation
LIB module structure.
Micro Controller
for CVS
A/D#12
Cell#12
•
•
•
•
3.フライングキャパシタ
C V S の役割の1つにバッテリ各セル電圧
IC
Tx
Rx
A/D#1
Rx
Tx
Cell#1
を測定しその情報を BAT-ECU に伝えること
Body GND
が上げられる.一方,EV 車両では安全面の配
Body GND
慮から高電圧のバッテリと車体 G N D 間は絶
Cascade to Lower
voltage cells
縁される必要がある.CVS はバッテリに接続
I/F
Body GND
I/F
Body GND
されており BAT-ECU は車体 GND に接続さ
Fig. 3
GND isolation type FCM.
れているので電気的に接続のない絶縁された
機器間での信号のやり取りが必要となる.加
Cascade to Higher MOS-FET Switches
voltage cells
えて直列に接続されたバッテリの電圧範囲は
CVS を制御するマイコンの取り扱える電圧範
+5V
A/D#12
Cell#12
囲を超えるので電圧測定には計測精度を損な
•
•
•
•
わずに各セル電圧を測定可能な電圧範囲に変
換する工夫が必要になる.この場合に従来の
Isolation
Micro Controller
for CVS
A/D#1
Isolator
Tx
Rx
IC
Rx
Tx
Cell#1
ニッケル水素電池を用いた電池モジュールで
Body GND
は,光を用いて信号を伝えつつ絶縁も行う双
Bias
Voltage
方向耐圧を持った光絶縁半導体リレー(フォ
GND
Cascade to Lower
voltage cells
トモスリレー)にて構成した FCM 回路が用い
られていた.この回路はバッテリ G N D と車
Fig. 4
- 64 -
I/F
GND
GND
I/F
GND
Level shift type FCM.
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
C V S の電源も個々に絶縁されている.また,
CVS は常時セルに接続されるため,回路暗電
著 者
流が大きいとイグニッション OFF 時にバッテ
リ残量のロスやセルの過放電を招く可能性が
ある.FCM 回路で使用している MOSFET ス
イッチに低リーク電流のものを使用すること
により,これらの可能性をなくし長期保存性
槌矢真吾
能も大幅に向上した.
LIB 特性上,過充電が発生すると「発煙,発
近年,環境対応車バッテリの L I B 化が加速
火」の危険性があることが L I B 使用上最大の
している状況にあります.従来のニッケル水
問題点であり,この事態の発生を防ぐことが
素バッテリに対し,格段にバッテリ容量が増
CVS の最大の役割となる.セル電圧を常時監
やせることや小型化のメリットがある一方で,
視し,高電圧セルを発見した場合,高電圧バッ
L I B 過充電による発煙,発火という危険性デ
テリ充放電量を抑制する.しかし,万一 C V S
メリットは否めません.LIB を安全に,かつ容
自身がセル電圧を低めに誤読みしてしまうと,
量を最大限使いこなすための,セル高精度電
高電圧セルを発見できないため,充放電抑制
圧検出技術,高信頼性製品技術は,今後も進化
を行うことができないという課題があった.
していくと考えられます.最後に本開発に関
セル電圧低め誤読み防止のため,マイコンを
わった方々へ,深く感謝申し上げます.本当に
使用した自己診断機能を持たせることによっ
ありがとうございました.
(槌矢)
て,何らかの不具合により発生する低め誤読
みが問題となる電圧レベルに至る前にフェー
ルセーフを行えるシステムを構築した.これ
によりセル過充電を防止し,製品信頼性を大
幅に向上することに成功した.
4.まとめ
バッテリ E V(B E V)用のリチウムイオン電
池(LIB)に対応したセル電圧センサ(CVS)を
開発した.セル電圧検出機能に対し,独自の改
良を加えたフライングキャパシタ方式(FCM)
によりコストと性能を両立させた.また,「バ
スプレート一体構造」により,ハーネスレスに
よるバッテリモジュールの小型軽量化,加工・
生産性の向上,信頼性の向上を実現した.そ
の結果,BEV 向けリチウムイオン電池監視ユ
ニットとして初めての市場投入に成功した.
また,本技術は BEV 向け CVS に続きプラグ
インハイブリット車(P H E V)向け C V S にも
応用され既に市場投入されている.
- 65 -
技術紹介
カーエアコン用 TH(Triple Header)
コンデンサ
カーエアコン用 TH
(Triple Header)
コンデンサ※
Triple Header Condenser for Automotive Air Conditioning Systems
藤 井 隆 行*1
Takayuki FUJII
花 房 達 也*1
Tatsuya HANAFUSA
瀬 野 善 彦*1
Yoshihiko SENO
鴇 崎 和 美*1
Kazumi TOKIZAKI
有 野 康 太*1
Kota ARINO
根 津 昌 弘*1
Masahiro NEZU
鈴 木 新 吾*1
Shingo SUZUKI
Keihin has developed a new type AC condenser of lighter weight, higher performance and lower cost. The
new condenser has the 3rd header to which bottom tubes are directly brazed and which functions as a receiver
drier. Such a construction reduces number of component as well as product weight significantly.
1.はじめに
他社をリードする製品を開発することが必要
となった.
(株)ケーヒン・サーマル・テクノロジーは,
2.従来型コンデンサについて
現在カーエアコンで主流となったパラレル
フローコンデンサを国内で最初に製品化し,
シェアを拡大してきた.しかしながら,近年は
コンデンサとはエアコンサイクルを構成す
競合他社が追従し価格競争の激化に晒され,
る部品のひとつで,コンプレッサで圧縮され
従来技術の延長では競争力を確保することが
高温高圧となったガス冷媒の熱を放出し,冷
困難となってきた.また世界的には温暖化対
媒を液化させる熱交換器である(F i g . 1).従
策によるフロンガス規制により,地球温暖化
来型コンデンサは,接続部を介しレシーバド
係数が小さい新冷媒へと移行しつつあり,よ
ライヤ(受液器)をボルトで固定する構造であ
り高性能な熱交換器が要求されてきた.この
り,部品点数が多くコスト削減が困難であっ
ような環境の中,性能とコストの両面で競合
た(Fig. 2).
A heat exchanger cooling air down inside the cabin.
Refrigerant vaporizes into gases phase inside the evaporator.
Evaporator
Refrigerant Flow
Hot/High pressure
Cold/Low pressure
Compressor
Condenser
Refrigerant
Temperature 60∼80˚C
10∼18bar
Pressure
A heat exchanger radiating heat from refrigerant to ambient air.
Gases refrigerant condenses into liquid inside the condenser.
Fig. 1
Automotive Air Conditioning System
※2013 年 6 月 26 日受付
*1 株式会社ケーヒン・サーマル・テクノロジー
- 66 -
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
1st Header
Bolt
Receiver Drier
2nd Header
1st Header
2nd Header
Receiver Drier
IN
Refrigerant: IN
OUT
Refrigerant: OUT
RD Flange
RD Flange
Fig. 2
Refrigerant Pass Arrangement
Conventional Condenser
3.新開発 TH コンデンサについて
も減少した(F i g . 4).これらの効果として冷
構造上の特徴は,最終冷媒パスを構成する
することができる為,エンジンシステムの効
チューブがレシーバドライヤ機能を有する
率を改善させることも出来る.また,熱交換
3本目のヘッダ(H e a d e r)に直接ロウ付けさ
チューブとフィン形状寸法を最適化すること
れ,部品点数の削減と軽量化を図った点であ
により,軽量で高性能の熱交換器を実現した
る(F i g . 3).構造上有効コアが拡大したこと
(F i g . 5,6).客先の要求性能を満たし,かつ
により熱交換性能が向上した.さらには冷媒
新冷媒(HFO1234yf)に適合するコンデンサの
が3本目のヘッダに直接繋がるチューブを通
開発ができた.
媒を循環させるコンプレッサへの負荷を低減
る流れ方になったことにより冷媒の通路抵抗
1st Header
2nd Header
3rd Header
1st Header
2nd Header
IN
Refrigerant: IN
Refrigerant: OUT
OUT
Refrigerant Pass Arrangement
Fig. 3
TH Condenser
- 67 -
3rd Header
カーエアコン用 TH(Triple Header)
コンデンサ
いた.しかし,機能上の最適要件を満たすため
120
12% Improve
100
100
この領域に踏み込み,部品の寸法精度見直し,
88
コア組立てに数値計算も取り入れることによ
(%)
80
り製造面での量産化への目途が立てられた.
TH Cond.
Conventional
Cond.
60
5.開発によるその他の効果
40
20
欧州の主要顧客であるフォルクスワーゲン
0
やアウディに技術レベルを認知され,主要モ
Fig. 4
Refrigerant Side Pressure Drop
デルのコンデンサ部品を受注できただけでな
く,開発パートナとしての立場を再構築でき
120
た.また,チェコ工場との綿密な連携により,
100
100
サプライヤを開拓できた.本製品は 2012 年よ
83
80
(%)
小部品の調達において競争力のあるローカル
17% Lighter
りチェコ工場にて本格量産されている.
TH Cond.
Conventional
Cond.
60
著 者
40
20
0
Fig. 5
120
Weight
6% Better
100
100
106
藤井隆行
本製品は海外拠点での生産を前提に開発を
(%)
80
Conventional
Cond.
60
TH Cond.
開始し,開発コンセプト段階から日本人スタッ
フだけでなく,チェコ工場のエンジニアを巻き
40
込んだグローバル開発モデルである.皆様のご
20
協力のもと量産を開始できました.開発に携
わった皆様に感謝申し上げます.
(藤井)
0
Fig. 6
Heat Rejection Performance
4.製造工程の変化点
TH コンデンサは,単一製品において2種類
の異なる長さの熱交換チューブを使用する構
造であり,従来よりも精密な部品加工と高度
な組立技術,ロウ付け技術が要求される為,こ
のような設計は組立性の面でタブーとされて
- 68 -
技術紹介
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
高速スピンドル加工技術※
High-speed Spindle Processing Technology
高 橋 渉*1
Wataru TAKAHASHI
小板橋 拓 人*1
Hiroto KOITABASHI
早 坂 優 真*1
Yuma HAYASAKA
笠 間 勇 也*1
Yuya KASAMA
星 勝 治*1
Katsuji HOSHI
伊 藤 正 行*1
Masayuki ITO
Recently, the spindle of a machine tool, tendency to use high speed spindle is the mainstream. Is targeted
small-diameter cutting tool in high speed spindle more than 30000rpm in particular, is not a processing area of
high resistance in the cutting and processing peripheral speed.
In our Industrial Machinery Division, for the purpose of capital investment and reduce the needs of high
peripheral speed processing of work material aluminum under a internally, we own development of high-speed
spindle, by identify of the processing system, and practical use, including the cutting tool further We have been
of deployment.
1.はじめに
・最高回転数・・・60,000 rpm
・ツールサイズ・・・φ12 シャンク
近年,工作機械の主軸は航空機部品や金型
(エンドミル)
加工用などで,高効率加工を達成するため,
・最高加工周速・・・2,000 m/min
高 速 主 軸 を 用 い る 傾 向 が 主 流 で あ る .特 に
この目標を内製開発にて達成するために以下
30,000 rpm を超える高速主軸においては主な
のような手段を用いた.
対象を主流である小径ミリング加工やボール
(1) ニーズに合わせた専用設計による専用ユ
ニット化の実施
エンドミル加工をターゲットとしており,加
工周速や切削抵抗においては高い領域の加工
・ 市場調査,実機分析等により,高速に
適したスピンドル形態を決定し,更に
ではない.
我々工機部門では,社内的なアルミ被削材
専用化することで,無駄機能排除,主
の高周速加工のニーズと,設備投資の削減を目
軸の小型,軽量化を行い,最適なスピ
的に,高周速加工に合致した高速スピンドルが
ンドルユニットの設計を行った.
市販品で存在しないことから,内製による高速
スピンドルの自前開発を行い,更に加工システ
ムでの見極めにより,高周速加工に適応した切
削工具も含めた実用化提案に繋げるべく取組
みを行っているので,ここに紹介する.
2.高速スピンドルの開発
高速スピンドルを開発するにあたり,目標
を次のように設定した.
Fig. 1
※2013 年 6 月 4 日受付
*1 生産本部 工機部
- 69 -
Spindle structure diagram
高速スピンドル加工技術
(2) CAE 解析シミュレーションによるスピン
Table 1
ドル設計へのフィードバック
Final specs
Max speed
52,000rpm
・ CAE 解析ソフトを使用し,モーダル解
Tool shank diameter
φ 12
析を行い,スピンドル回転時の挙動,剛
Max peripheral speed
1,960m/min
性バランスをシミュレートし,設計図
面に反映した.また,
この手法は実機運
Spindle diameter
φ 35
Spindle runout
1µm
Max output
25.1/11.0kw
(1min/Rating)
Preload
Constant pressure
preload
Lubrication
Oil air
Cooling
Stator outer cylinder
Bearing outer cylinder
転確認時の不具合発生時の対策検討時
にも用いた.
(Fig. 2)
(3) FFT による振動解析技術での実機評価の
実施
・ FFT を用い,ハンマリングでの運転確
認時の危険速度(固有振動数)の予想立
却部位の上昇温度の監視により,最終的なス
てとチューニングによる危険速度の回
ピンドルの仕上げ運転確認を行った.
避策の検討及び,運転確認中の動的振
3.テスト加工による見極めの実施
動の監視を行った.
(Fig. 3,4)
以 上 ,上 記 手 段 と 合 わ せ て 常 用 手 段 で あ る
フィールドバランス調整&各ベアリング,冷
簡易的な加工システムを製作し,開発したス
ピンドルの加工テストを実施した.加工システ
Hollow spindle
Solid spindle
ムについては以下の構成である.
(Fig. 5,6)
Amplitude
Full cover
Partial cover
Test work
Coolant supply
Axial deformation
×
䕿
Tip deformation
䕿
䕿
Bearing load
F-BRG䠘R-BRG
F-BRG䠙R-BRG
Fig. 2
Spindle
CNC Rotary table
CAE Analysis
Oil pan
Radial
Axial
X-Y table
Square frame
Fig. 3
Fig. 5
Hammering data
Test processing system
Acceleration
sensor
Fig. 4
Dynamic vibration data
Fig. 6
- 70 -
Processing of testing landscape
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
Table 2
Surface roughness data
Speed
Feed 0.25mm/rev
(µm) Profile curve
(Longitudinal magnification: × 2,000.00 Lateral magnification: × 100.00)
10.0
5.0
25,000rpm
Rmax 1.80µm
0.0
-5.0
-10.0
0mm
0.50
1.00
1.50
(µm) Profile curve
(Longitudinal magnification: × 2,000.00 Lateral magnification: × 100.00)
10.0
5.0
50,000rpm
Rmax 2.01µm
0.0
-5.0
-10.0
0mm
0.50
1.00
1.50
著 者
仮想被削材を想定した加工条件において加
工テストを行った結果,回転数が上がっても
仕上がり面粗さには悪影響は見られなかった.
上記に 25,000 rpm 時と 50,000 rpm 時の面粗さ
データを示す.
(Table 2)
4.実用化に向けて
高 橋 渉
今後,実用スピンドルとしての更なる熟成
高速スピンドルの開発という加工機の中で
を行うと同時に,加工 M / C として,製品ニー
もコア技術の難しいテーマへのチャレンジで
ズに合わせた最適な設備形態を構築し,また,
あり,日常の量産設備推進との両立が大変で
加工テストにより,切削工具,切削条件も合わ
したが,何とか実用化提案に繋げられる段階
せた加工技術提案を行い,実用化展開を進め
までこぎつけました.今後は,量産機展開を進
ていく.
めると共に,得た技術ノウハウを水平展開し,
コスト削減や新たなニーズ開拓に繋げていけ
るよう尽力します.
最後に本開発にご協力して頂いた方々,ご
指導ご助言頂いた方々に深く感謝します.あ
りがとうございました.
(高橋,小板橋)
Fig. 7
Spindle body
- 71 -
技術紹介
グローバル調達システム
グローバル調達システム※
Grobal Supply System
高 橋 正 史*1
Masafumi TAKAHASHI
伊 藤 務*1
Tsutomu ITO
小 形 茂 一*1
Shigekazu OGATA
鈴 木 清 悦*2
Seietsu SUZUKI
斎 藤 勉*2
Tsutomu SAITO
佐 藤 敏 男*3
Toshio SATO
今 野 幸一郎*1
Koichiro KONNO
In recent years, auto manufacturers are advancing global supply in order to strengthen themselves competitive
power. We supplier also must strengthen cost and performance competitiveness to compete with the mega supplier
in the world. Overseas, expanding demand continues, and in Japan, the demand of small car has accounted for
70 percent. In order to cope with various needs, there is a need to raise the cheapest and good quality parts from
all over the world, we constructed the “global supply system” in order to respond to current market.
1.はじめに
自で管理しており,それぞれのコストを比較
するには読み替えの作業が必要になる.また,
調達が開始されると,国内外工場間で様々な
近年,自動車メーカも競争力の観点からグ
取引上の問題が発生することが想定される.
ローバル調達を進める中,我々部品メーカも
世界のメガサプライヤを相手に,高い競争力
3.グローバル調達システムの開発
が求められている.また,海外では需要の拡
大,国内では軽・コンパクトカーが市場の7割
を占め,更なる性能とコストの競争力の高い
工場の情報をタイムリに集めるためには,
ものづくりが求められている.今後,ニーズの
すべての工場をセキュリティと通信品質・速度
多様化への対応力強化がより一層求められる
を確保したネットワークで繋ぎ,情報を収集
中,世界中の一番安いところから品質を確保
する必要がある.本システムでは通信業者が
し調達する必要がある.今回,最安値で調達す
保有する広域 IP 通信網を経由して構築される
るためのシステムを紹介する.
仮想施設通信網(IP-VPN)を採用し,インター
ネットを介さないことでセキュリティや通信
2.グローバル調達の課題
品質を確保しつつ,コストを抑えることとし
た(Table 1)
.
グローバル調達を促進するためには,国内
集めた情報をタイムリに比較するには,製
外工場の情報を一元管理し,共通のものさし
品・部品のコードが統一されている必要があ
でコストをタイムリに比較,購入先を決定す
る.製品・部品のコードは工場独自の生産部
る必要がある.現状,購入先を決定する際には
品表(M-BOM:manufacturing BOM)で管理さ
工場独自にコストを算出し,その情報をメー
れていた.生産部品表は図面をもとに技術部
ル等で集約し,条件をあわせ,再度コストを算
品表(E-BOM:engineering BOM)を作成した
出し,比較する必要がある.また情報の源泉で
後,調達・製造に必要な情報を追記し,作成し
ある部品表(BOM:Bill of materials)は工場独
ている.
※2013 年 7 月 5 日受付
*1 管理本部 情報システム部 *2 購買本部 グローバル購買部 *3 開発本部 開発管理部 - 72 -
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
また,製品のカテゴリごとに色々な種類の
(G-BOM:global BOM)を作成し,国内外の部
品表を一元管理することとした(Fig. 1)
.
図面があり,技術部品表もカテゴリ毎に作成
していた.今回,それぞれのカテゴリの図面
調達する工場を決める際,製品レベル・構成
とインターフェースを用意し,統一された技
部品レベルで工場別・サプライヤ別に調達コ
術部品表を作成した.技術部品表を元に,生
ストを比較するとともに,製品レベル構成部
産に必要な情報をあらかじめ日本で追記し
品レベルで工場別にコストを分析する必要が
た生産準備部品表(pre M-BOM:preparation
ある.その際比較する費目や工場間コスト(輸
manufacturing BOM)を作成し,工場に展開
送費・輸出入経費・管理費等)をマスタ化し,グ
することとした.工場ではその生産準備部品
ローバル部品表を元に調達コスト情報を集約
表をメンテナンスし,生産部品表を作成する
することとした.各工場ではサプライヤの見
こととした.更に生産準備部品表を元に各工
積情報を集約し,最適なサプライヤを選定し,
場の生産部品表を集約したグローバル部品表
その結果を調達コスト情報として登録し,日
Table 1
Comparing Global WAN Circuit
Internet VPN
JAPAN
JAPAN
Internet
Structure
and
features
Circuit quality
Global exclusive circuit
Global IP-VPN
JAPAN
IP-VPN Net work
Global Global Global Global Global
Plant
Plant
Plant
Plant
Plant
Global Global Global Global Global
Plant
Plant
Plant
Plant
Plant
Internet connecting
It can connect N with N
IP-VPN connecting
It can connect N with N
Global Global Global Global Global
Plant
Plant
Plant
Plant
Plant
×
○
◎
Not quality guaranteed
Quality guaranteed
(speed and delay)
Quality guaranteed
(speed and delay)
Delaying and disconnection may happen
△
○
◎
Encoding and access control are
necessary due to connecting method
There is no risk of tapping or invasion
because it is exclusive virtual circuit.
because it is exclusive circuit.
Operating
management
○
○
Running cost
◎
○
Security
△
It is required a lot of
undercarriage circuits
×
legend: ◎ very good, ○ good, △ acceptable, × bad
Category1
drawing
I/F
E-BOM
Category2
drawing
I/F
pre M-BOM
G-BOM
I/F
I/F
I/F
I/F
I/F
Fig. 1
Grobal BOM
- 73 -
<Japan>
I/F
M-BOM
<overseas plant A>
I/F
M-BOM
<overseas plant B>
M-BOM
I/F
グローバル調達システム
本でその集約された各工場の情報を元に最適
ることで,商流が複雑になり(Fig. 3),情報の
な調達工場を選定できるようにした(Fig. 2).
管理が難しくなる.そこで工場間をつないだ
分析により調達先を決定すると,
受発注を行うシステムを導入し,業務をシス
・現地で調達
テムに合わせ統一するとともに取引に関わる
・日本からの供給
一連の情報を紐付けて,取引の可視化を行い,
・海外工場から海外工場への供給
管理できるようにした.
が想定される.海外工場から海外工場への供
これらにより,情報を一元管理し,共通のも
給は国際取引のリスクや業務上の問題が発生
のさしでコストを比較,購入先を決定し,一連
する可能性がある.そこで,日本が商流に入り
の取引情報を可視化することができるように
上記リスク・問題の回避および品質・コスト・物
なった(Fig. 4).
以上のシステム開発導入により,グローバ
流を管理する必要がある.
ル調達の課題を解決した.
しかし,海外工場間の取引に日本が介入す
Global BOM
Cost comparison
【Parts】XXX
BOM
information
Plant A Plant B Plant C
Quotation (per plant · per supplier)
Quotation
information
Quotation
Cost Database
Trade Cost
Plant
Plant
Trade cost
information
Fig. 2
Components
of cost
Plant
A
Plant
B
Plant
C
material
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
Processing
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
trade
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
other
XX,XXX
XX,XXX
XX,XXX
Cost analysis system
control
(JPN)
customer
order
sale
Customs
broker
carrier
supplier
Customs
broker
: distribution
: business process
: Invoice ·Bill
Fig. 3
Ordering model
- 74 -
ケーヒン技報 Vol.2 (2013)
Global IP-VPN
Cost
Item
BOM
Ordering
G-BOM
Item
estimate
BOM
Parts Supplier purchase
price
Supplier
purchase
price
Pre M-BOM
Category1
drawing
E-BOM
Item
BOM
Supplier
Category2
drawing
purchase
price
BOM Information
Production control system
M-BOM/receiving/order/shipping/sale/payment
Fig. 4
Grobal supply system
著 者
高橋正史
本開発は,多くの部門の方々,海外の方々の
協力をいただき,構築することができました.
本開発を推進するにあたり,チームの皆さ
ん,ご指導,ご助言くださったすべての方々,
協力いただいたすべての皆様に感謝いたしま
す.ありがとうございました.
(高橋)
- 75 -
Purchase
price, route, etc.
Sale
price, etc.
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