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こちら - ケアリング研究会

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こちら - ケアリング研究会
厚生労働科学研究費補助金(政策科学推進研究事業)
「介護者の確保育成策に関する国際比較研究」
分担研究報告書
アメリカにおける介護者の確保育成策
分担研究者 森川 美絵 国立保健医療科学院 福祉サービス部研究員
(平成 19 年度実施)
研究要旨
アメリカ合衆国は、福祉国家の類型において、一般的には「市場型」と分類されている。本研究
では、介護分野に限定した供給バランスおよび介護制度の体系の把握とともに、親族介護者(イン
フォーマルな介護者)への支援と、サービス従事者の確保育成という二つの側面から介護者の確保
育成策の位置付け及び実施状況を把握した。
研究結果からは、アメリカ合衆国における公的介護は「残余的」な類型である一方、介護サービ
ス費用に占める公的部門の割合が比較的高く、介護サービス事業に公的部門が及ぼす影響力は比較
的大きいこともうかがえた。介護従事者の確保育成については、連邦および州政府の政策レベルに
おける基本的な問題認識が「人材不足」であることを反映し、政策課題の中心は「人材の確保定着」
に置かれていた。興味深い論点としては、新たなケアモデルの展開(「消費者主導」モデルとしての
cash and counseling プログラムなど)と介護者の確保育成との関連、介護者の確保育成に関する連邦
政府と地方政府(州政府等)との協働・役割分担、行政と民間部門や事業者との協働・役割分担、
といった事項が抽出された。
A.研究目的
つ、より具体的な事例検討等を通じて、日本
福祉国家の類型において、一般的に「市場
への示唆を整理する(以上は、次年度の主要
型」と分類されるアメリカ合衆国について、
目的である)
。
介護分野での供給バランスの特徴を確認し、
B.研究方法
現在のアメリカ合衆国における介護制度の体
系を把握する。次に、その制度体系の中での
文献調査、アメリカ合衆国の関連分野の研
介護者の確保育成策の位置付け及び実施状況
究者からの助言・資料提供、介護関係機関の
を、親族介護者への支援、サービス従事者の
実務者からの助言・資料提供を通じ、アメリ
確保育成という二つの側面から把握する(以
カ合衆国における介護者の確保育成に関する
上が、今年度の主目的である)。
動向を把握した。
さらに、介護確保育成策と供給類型との対
応関係を検討して、我が国及びドイツ、フィ
(倫理面への配慮)
ンランド、イタリアの事例との比較研究に際
個人情報等に関連しないため不要。
しての、アメリカ合衆国の特徴を明確にしつ
113
医療休暇法 Family and Medical Leave Act
C.研究結果
①
(FMLA)(1993)と全国家族介護者支援プ
アメリカには公的で一元的な介護
保障制度は存在しない。公的制度としては、
ログラム National Family Caregiver Support
医療保険制度メディケアや医療・介護扶助
Program(NFCSP)(2000 年)が二本柱とな
メディケイドがあるが、費用・サービスの
っている。介護者のうち、就労しているも
供給に関する公的制度の役割は残余的であ
のの割合が多いなか、前者は雇用と結びつ
り、インフォーマル資源・家族資源への依
いた休暇(所得保障)制度だが、適用者の
存度が高く、個人および家族の介護の負担
範囲の限定性が課題となっている。後者は、
が非常に重い。他方で、市場を通じた個人
高齢アメリカ人法において初めて、施策直
の自助努力による問題解決に対しては、一
接的な対象として家族介護者を含めた点で、
定の公的支援が進められつつある(民間市
インフォーマルケアの公共政策上の認知と
場のサービス・保険購入への税控除など)。
して意義がある。但し、予算規模や運営上
但し、公的な介護関連費用も増加を続けて
の課題により、その効果は限定的である。
おり、政策としては積極的な介護保障より
また、メディケイドのプログラムでは、介
もむしろ施設・在宅の両面で費用の抑制・
護提供者である親族への手当が認められて
効率を重視した政策が志向されている。
いる。但し、これらは、直接的に家族介護
②
への金銭保障自体を目的とするのではなく、
介護事業について、メディケイド・
メディケアの償還を受けるためには、連邦
近年では主に「消費者主導ケア」
の法や規制の要件に合致し事業者指定を受
(Consumer-directed care)の一環として、
けること、また、各州での事業実施にあた
Cash and Counseling プログラム等の具体策
っては、州法及び州規則の要件に合致し州
を通じて行われている。
による許可(licensure)を受けることが義
④
務付けられることが多い。また、個々のサ
サービスでは、ナーシングホームについて
ービス従事者についても、特定の業務を行
は連邦の最低基準がある。最低配置水準は、
うものについては免許または登録制度が設
看護長と看護師についてのみ設定されてお
けられている。しかし、州により、メディ
り、看護助手についてはなく、州が独自に
ケイド・メディケアがカバーするサービス
定めている場合も多い。直接介護職員(看
の内容も、許可要件・従事者要件の内容も
護助手)は、連邦規則による 75 時間の研修
多様である。
とコンピテンシー・テストが要件として課
③
され、認定看護助手として州に登録される。
家族介護支援としては、親族および
114
介護サービス従事者に関して、施設
在宅サービスでは、訪問リハビリや訪問看
う観点からの業務条件の改善、4.報酬、
護などの専門的看護の従事者については、
給付、昇進機会の改善、といったものであ
免許・登録制度がある。しかし、在宅保健
る。
助手については、メディケアからの償還を
⑥
うける要件として連邦政府のガイドライン
確保定着に向けた取り組みが、連邦行政、
によるコンピテンシー・テストがあり、民
大統領府、その他財団や事業者団体・労働
間団体による認定制度もあるが、登録は必
団体等により行われている。また、政府・
須ではない(但し、州によっては免許制度
財団等からの大規模な補助金が、「介護労
を取り入れたところもある)。また、身体介
働問題」の研究や取り組みに対して流れる
護・家事援助サービ従事者については、連
ようになり、そうした資金にもとづく研究
邦レベルでの要件はなく、研修を要件とす
プロジェクト(実践をまきこんだモデル事
る州、要件のない州と多様である(民間団
業や研究・情報センターの運営など)も、
体レベルでは、75 時間研修とコンピテンシ
進められている。
2000 年以降、介護職・介護労働力の
ー・テストからなる認証制度がある)。
⑤
D.考察
介護職への雇用機会は非常に良好
ではあるが、その背景には、介護サービス
以上にもとづき、アメリカ合衆国の介護供
ニーズの増加のみならず、離職率の高さが
給バランスの特徴、介護者の確保育成策を、
ある。介護ニーズが増大する一方で、離職
主に親族介護者(インフォーマルな介護者)
率の高さ等により充分なサービスが供給で
への支援、サービス従事者の確保育成という
きない状況は、「ケアギャップ」として問題
二つの側面から考察する。
アメリカ合衆国における公的な介護制度は、
視されていた。特に 2000 年以降、直接介護
職員の不足という問題への政策的関心は、
対象者の選別性や一元的な制度の不在、ニー
連邦政府内で高まってきており、介護労働
ズのカバーされる範囲・程度がかなり限定的
力に焦点をあてた報告書が提出されたり、
であるという点で、
「公的介護制度が残余的」
対策のための補助金が大規模に措置された
な類型といえる。その結果、インフォーマル
りしてきている。ワーカーの確保定着に関
資源・家族資源への依存度が高く、家族の介
する政策課題として政府が指摘しているの
護負担は非常に重くなっている。他方で、市
は、1.新たな層からのワーカー確保、2.
場を通じた個人の自助努力による問題解決に
効果的な初期および継続的教育訓練の実施、
対する公的支援が進められており(民間市場
3.労働時間、事務作業、敬意、安全とい
のサービス・保険購入への税控除など)
、介護
115
ニーズの充足においても「市場型」への志向
認可や費用償還の要件設定等の規制的役割を
がうかがえる。
通じて実施できる余地も大きい。ただし、こ
現在の制度化された介護サービス体系にお
うした規制は、今のところ連邦レベルで統一
いて、公的部門は残余的とはいえ、費用に占
的に設定するのではなく、州レベルの裁量に
める公的部門の割合が高く、公的財源からの
任されている。介護者の確保育成に関しても、
費用補助・償還を伴った介護サービスは成長
州(地方政府)に大きな裁量を認める中で、
を続けている。サービス事業者に対する公的
連邦政府(中央政府)がどのような点につい
部門の影響力は大きいといえる。こうしたサ
てどのような手段で主導的役割を果たすのか、
ービスについて、政府は、費用抑制・効率と
州との協働関係を構築していくのか、着目さ
いう視点を重視しつつ、施設ケアから地域・
れる。さらに、公的部門が民間部門とのパー
在宅ケアへのシフト、新たなケアモデルの開
トナーシップを重視していることは興味深い。
発などを進めている。新しいモデルのひとつ
政府のみならず、民間財団からの大規模補助
「 消 費 者 主 導 モ デ ル 」 で は 、 Cash and
金を加えての、各種のモデル事業や評価研究
counseling という、親族も含めた介護者への手
プロジェクトの実施は、民間非営利セクター
当制度が導入普及され始めている。Cash and
の財政面での強さや、公私のパートナーシッ
counseling プログラムは、家族介護者に対する
プの重視を反映するものである。また、民間
間接的な支援策という側面も大きいことから、
営利事業者が多いなか、介護者の確保育成策
直接的な家族介護支援策に加えて、こうした
においても、民間事業者との役割分担・協働
新たなモデルについても、介護者の確保育成
をどのように設定するか、民間事業者に対し
という側面からの意義・課題を掘り下げる必
てどのような実効的な施策を組み立てるか、
要があるだろう。
ということを踏まえた評価事業などが実施さ
介護従事者の確保育成については、連邦お
れている点は、営利事業者の多い日本にも示
よび州政府の政策レベルにおける基本的な問
唆的な点である。
題認識が「人材不足」であることを反映し、
E.結論
政策課題の中心は「人材の確保定着」に置か
れており、「確保定着」と「育成」は独立した
今年度の研究から、アメリカ合衆国は、
「公
課題として明確に区分されてはいないようで
的介護は残余的」である一方で、介護サービ
ある。
ス費用に占める公的部門の割合が比較的高く、
介護者の確保育成への政府の取り組みで、
介護サービス事業に公的部門が及ぼす影響力
サービス従事者に関しては、事業者の指定・
は比較的大きいこともうかがえた。また、介
116
護サービス制度の体系や介護者の状況および
Policy research network (EASP) International
確保育成策の動向の整理を通じ、興味深い論
Conference, 20th-21st October 2007, Tokyo.)
点として、新たなケアモデルの展開(
「消費者
2.学会発表
主導」モデルとしての cash and counseling な
ど)と介護者の確保育成との関連、介護者の
M. Morikawa, H. Sasatani, et.al.,
確保育成に関する連邦政府と地方政府(州政
Preventive Care or Preventing Needs?:
府等)との協働・役割分担、行政と民間部門
Re-balancing Long-Term Care between the
や事業者との協働・役割分担、などが浮かび
Government and Service Users in Japan.
上がってきた。
The 4th Annual East Asian Social Policy
research network (EASP) International
今後の研究課題としては、こうした論点に
Conference, 20th-21st October 2007, Tokyo.
ついて先進事例の検討を通じた考察を行いた
い。その上で、アメリカ合衆国の介護確保育
H.知的所有権の取得状況の出願・登録状況
成策と介護供給の特徴を、一般的な福祉国家
1.特許取得
類型におけるアメリカの位置との対応関係に
なし
留意しながら考察し、我が国及びドイツ、フ
ィンランド、イタリアの事例と比較した際の、
2.実用新案登録
アメリカ合衆国の特徴を明確にする。その上
なし
で、アメリカの事例が日本に示唆する点を整
3.その他
なし
理したい。
F.健康危険情報
なし
G.研究発表
1.論文発表
M. Morikawa, H. Sasatani, et.al., (2007).
Preventive
Re-balancing
Care
or
Preventing
Needs?:
Long-Term Care between the
Government and Service Users in Japan. (Paper
presented at the 4th Annual East Asian Social
117
第四章 アメリカにおける介護者の確保育成策
森川 美絵
1. はじめに
アメリカ合衆国は、福祉国家の類型において、一般的には「市場型」と分類されている。
本研究では、
「介護分野」に限定して、供給バランスの特徴を確認し、現在のアメリカ合衆
国における介護制度の体系を把握する。次に、その制度体系の中での介護者の確保育成策
の位置付け及び実施状況を、主に親族介護者(インフォーマルな介護者)への支援、サー
ビス従事者の確保育成という二つの側面から把握する。
(以上が、今年度の主目的である。)
さらに、アメリカ合衆国の介護確保育成策と介護供給の特徴を、一般的な福祉国家類型に
おけるアメリカの位置との対応関係に留意しながら考察し、我が国及びドイツ、フィンラ
ンド、イタリアの事例と比較した際の、アメリカ合衆国の特徴を明確にする。その上で、
アメリカの事例が日本に示唆する点を整理する。(以上は、次年度の主目的である。)
2. 介護の確保に関する公私関係
(1)介護の公的定義
連邦厚生省が作成しているウェブサイト
“The National Clearinghouse for Long-Term
Care Information”(全国介護情報センター)では、long-term care(介護)を以下のように定
義している。
「介護は、長期間にわたる保健医療や身体ケアのニーズを満たすための多様な
サービスと支援です。介護の大部分は、毎入浴、着衣、トイレの使用、起床、失禁の対処、
食事などの日常生活動作を実施することの手助けのように、非専門的な(non-skilled)身
体ケアの介助です。介護サービスの目的は、あなたの自立やあなたが完全には自立できな
い場合の残存機能を最大化することの手助けをすることです。」 1
(2)公私バランス
選別主義的・残余的な公的制度
アメリカには公的で一元的な介護保障制度は存在しない。公的介護サービスを提供する
主要な制度は、連邦厚生省(HHS: Department of Health and Human Services)による社会保
障法にもとづく医療プログラム(メディケアMedicare、メディケイドMedicaid)と高齢ア
1
http://www.longtermcare.gov/LTC/Main_Site/Understanding_Long_Term_Care/Basics/Basi
cs.aspx(12Feb.2008)
118
メリカ人法(OAA: Older Americans Act)にもとづく在宅・地域中心の福祉サービスからな
る 2 。高齢者・障害者を対象にした医療保険制度であるメディケア(Medicare: 1965~)は、急
性期医療及びその後の一定期間に必要となる介護サービス費用を部分的にカバーするが、
非医療的な身体介護・家事援助サービスの費用はほとんどカバーしない。資産を使い果た
し自己負担できなくなった場合や低所得者の場合は、資産調査を伴う医療・介護扶助のメ
ディケイド(Medicaid)により、施設や地域在宅での身体介護等の介護サービスについて
も費用がカバーされる。高齢アメリカ人法によるサービスは、低所得者やエスニックマイ
ノリティを対象とする在宅地域サービスが中心である。介護ニーズに対応する公的制度は
選別的・残余的であり、公的制度の対象外となる人々については、介護サービス費用は、
私費による負担が基本である。
公的保障についての合意の不在
公的な介護保障の充実拡大を求める声は一定程度存在し、政策イシューにはなるが、公
的保障についての政府・連邦議会レベルでの同意はなかなか得られない状況である。1990
代前半には、クリントン政権の国民皆医療保険構想の中で在宅介護サービスも保障対象に
含まれていたが、構想は実現せず現在にいたっている。とはいえ、1980 年代以降、公的な
介護関連費用が増加するなか、政策としては積極的な介護保障よりもむしろ施設・在宅の
両面での費用抑制策がとられている。最初は、看護施設〈ナーシングホーム〉の費用抑制
を目的として在宅サービスの推進が目指されたが、在宅サービス事業者の増大のもと、1997
年成立の均等予算法(Balance Budget Act)では、在宅サービスについてもサービスの償還
額が厳しく押さえ込まれるなど、在宅サービス自体も抑制基調におかれた。介護関連支出
が増加するなか、2004 年には、アメリカ議会予算局(CBO)が、介護に対応する財政的問
題をまとめた報告書『高齢者の長期ケアに関する財政(Financing
Long-Term Care for the
Elderly)』
(Congressional Budget Office, April 2004)を発表し、メディケア・メディケイド財
政からの介護への支出の諸問題を整理するとともに、家族・地域の役割の重要性があらた
めて指摘されている 3 。
本人と家族による自己責任・自己負担の強調
厚生省ウェブサイトのトップページからAging欄に進むと、いくつかの項目が並んでい
るが、「データ・統計」に先立って、最初に掲載されているのが「caregivers」という項目
「Resources for Caregivers」
「Guide for Caregivers 」
である(細目は、
「A-Z Topics for Caregivers」
「Support Programs for Caregivers」など)。こうしたことからも、高齢者ケアにおいて親族
2
3
「1アメリカの高齢者と高齢者福祉の概要」 『世界の社会福祉年鑑 2001』pp.305-7。
「1 長期介護の財政問題」(アメリカ合衆国)『世界の社会福祉年鑑 2004』pp.166-7。
119
等介護者を第一の介護資源とみなす姿勢があらわれている 4 。また、上述の厚生省のウェブ
サイト、“The National Clearinghouse for Long-Term Care Information”(全国介護情報センタ
ー)では、高齢者自身およびその家族が将来的な介護ニーズへ備えるのに役立つ情報や資
源(リソース)を提供している。ウェブサイトの構成は大きく「介護の理解」
「介護への備
え」「介護の費用」からなっている。ウェブサイトの冒頭では、「何故、備えなくてはなら
ないのか?」という見出しのもと、メディケアや民間の健康保険では直接的介護(パーソ
ナルケア)といった長期ケアにおいて一番必要となるサービスの多くがカバーされていな
い点を指摘し、その上で、将来的に必要となる介護・ケアを入手するための個々人の備え
が強調されている 5 。
近年の連邦レベルでの介護に関する法制化
1993 年のクリントン政権による全国医療保障法(National Health Security Act)の成立失
敗後の、連邦レベルでの介護法制をめぐる動きとしては、以下がある。
・2000 年:介護保障法(Long-Term Care Security Act)により、連邦政府職員が民間の介
護保険を団体レートで購入できるようになった。
・2007 年:民間介護保険を購入した高齢者が保険料を税控除できるようになった。
これらは、民間市場ベースで費用負担のリスクを軽減しようとする個人に対し、税控除等
の公的な支援を行う動きである。こうした制度展開からも、高齢者の自己責任、民間市場
およびインフォーマルな資源を通じた対処という、介護に対する連邦政府の基本的スタン
スがうかがえる。
(3)介護支出の内訳
介護支出の内訳は、親族等による介護で不払いのものを除いた場合では、以下の通りで
ある(図1は合計、図2は施設サービス、在宅・地域サービス別)。
介護支出の中で最大のシェアを果たすのが、連邦政府と州政府の共同プログラムである
医療・介護扶助(メディケイド)で、支出の約半分を占める。しかし、メディケイドがカ
バーするのは、資産を使い果たし自己負担できなくなった場合や低所得者で、資産要件と
身体機能要件を満たした場合に限られている。次に大きいのはメディケアで、支出の 5 分
の1を占める。メディケアは、低所得者に限らない高齢者・障害者を対象にした連邦政府
の医療保険制度だが、急性期医療及びその後の一定期間に必要となる介護サービスを部分
的にカバーしているが、介護ニーズの大部分・中心的部分は満たされない。
とはいえ、在宅保健の進展にともない、医療に関連する部分での看護・介護サービスの
需要も高まり、地域・在宅サービスではメディケアからの支出がもっとも多くなっている。
4
5
http://www.hhs.gov/aging/index.html#hhs(12Feb,2008)
http://www.longtermcare.gov/LTC/Main_Site/index.aspx(12Feb,2008)
120
その他の連邦プログラムとしては、高齢アメリカ人法や退役軍人省が費用を出しているも
のが代表的だが、対象集団や条件がエスニックマイノリティや低所得層に絞られる傾向に
ある。
自己負担および民間保険からの支出は、全支出の 4 分の1を占める。雇用主の拠出や個
人負担からなる健康保険(HMO やマネージドケア)は、メディケアの一般ルールと同じ
で、介護のなかでカバーされるのは専門的・短期間の医療が必要なケアのみに限られてい
る。結局、介護の必要な人々は、自分の収入や資産からケア費用を部分的ないし全部負担
することになる。近年では、介護サービスをカバーする個人負担の選択肢が増加している
(民間介護保険、リバースモーゲージ、その他のオプションなど)。
121
図 1
介護支出の内訳 6 (インフォーマル・不払い分のケアを算入しない場合)
介護支出の内訳(2005年 2066億ドル)
その他, 5.3%
民間保険, 7.2%
自己負担, 18.1%
メディケイド,
48.9%
メディケア, 20.4%
図 2
介護支出の内訳(施設、在宅・地域別、2004 年) 7
メディケイド/その
メディケア
自己負担
その他民間
46.9%
13.9%
27.7%
11.5%
36.3%
38.0%
11.3%
14.4%
他公的支出
施設ケア(*)
1152 億ドル
地域在宅サービス
(**)432 億ドル
*「施設ケア」に含まれるもの・・・ナーシングホーム、リハビリ施設、(急性期と慢性期
の)中間施設。
**「地域在宅サービス」に含まれるもの・・・在宅保健・身体介護・Waiver プログラム(後
述)・その他在宅地域サービス。民間保険や完全私費で提供される介護付居住施設のケア
は含まれていない。
ウェブサイト“The National Clearinghouse for Long-Term Care information” 内、National
Spending on Long-Term Care より。
http://www.longtermcare.gov/LTC/Main_Site/Paying_LTC/Costs_Of_Care/Costs_Of_Care.a
spx(12Feb,2008)
7
‘Estimated Cost of LTC, by Payer Source,United States, 2004’ in Long Term Care: Facts
and Figures. by Charlene Harrington, Janis O'Meara, Theodore Tsoukalas and Terence Ng.
March2007, California Health Care Foudation. 原典はC. Smith, C. Cowan, S. Heffler, A.
Catlin, and the National Health Accounts Team. Health Affairs. 25(1):186 – 196, 2006.
http://www.chcf.org/documents/hospitals/LTCFactFigures07.pdf (25Feb,2008)
6
122
(4)介護サービスの種類と費用
代表的な介護サービスの一覧、サービス利用に伴う料金の目安、公的制度による費用カ
バーの関係について、以下に、簡単に示す。
サービスの種類
代表的な介護サービスについて、在宅・地域系のサービスの一覧は図3、施設系サービ
スの一覧は図4に整理している 8 。
図 3
在宅・地域系サービス概要
名称
概要
成人デイサービス
認知・機能障害のある成人、日中の社会的交流や居場所が必要な成人向
けの日中サービス。多様な健康、社会的、その他の支援サービスを提供。
ケースマネジャー
看護師やソーシャルワーカー等の保健医療専門職による、介護サービス
/老人医療ケアマ
の調整管理、ケアプラン作成、介護ニーズのモニタリング等を通じた支
ネジャー
援。
緊急対応システム
電子モニターによる医療その他の緊急事態への自動的応答システム。
友愛訪問、同席サー
虚弱や独居の人に継続的に2~3時間の短時間訪問を行う。主にボラン
ビス
ティアが担う。
在宅保健ケア
在宅保健ケア:特定の症状に応じて医師から指示された看護や理学その
(home health care)、
他の治療などの専門的・短期的サービスが含まれることが多い。在宅ケ
在宅ケア
ア:ほとんどの場合、入浴や着脱といた身体ケアに限定されることが多
(home care)
く、食事の準備や家事の支援などの家事サービス(homemaker services)
が含まれることもしばしばある。
家事サービス
食事や日常的な整理整頓といった一般的な家事活動のほか、床・窓の清
掃や雪かきといった重い家事を支援する。
食事プログラム
家庭への配食サービス、地域のさまざまな場所で提供される会食サービ
スがある。
レスパイト・ケア
家族介護者に、介護責任からの一時的な休息を与える。在宅、成人デイ
ケアセンター、ナーシングホーム等、提供場所は多様。
高齢者(シニア)セ
栄養、娯楽、社会的教養的サービス、必要なケアやサービスをみつける
ンター
ための包括的な情報提供や紹介など。
移送サービス
医療機関受診やショッピングセンターの送迎、多様な地域のサービスや
資源へのアクセスを助ける。
“The National Clearinghouse for Long-Term Care information” より。
http://www.longtermcare.gov/LTC/Main_Site/Understanding_Long_Term_Care/Services/Se
rvices.aspx(12Feb,2008)
8
123
図 4
施設系サービス概要 9
名称
概要
成人養護施設(Adult
成人養護施設では、自身では安全に生活できない、または身体機能上介
Foster Care)
助が必要な個人や少人数グループに提供される。養護家庭が 24 時間利
用可能な食事付宿泊を提供し、服薬管理や日常生活動作の介助をする。
この種の施設の許可要件や用語法は州ごとのばらつきが非常に大きい。
食事付ケアホーム
食事付ケアホーム(居住型ケア施設ないしグループホームとの呼ばれ
( Board and Care
る)は、小規模・個人的な施設で、20 名以下の居住者が普通。個室か共
Homes)
用で、入居者は食事やパーソナルケア(直接的介護)を受け、スタッフ
は 24 時間利用可能。看護や医療の提供は前提とされない。州の許可や
用語法は州ごとに大きなばらつきがある。
介助付住宅
コミュニティのなかで住み続けたい人で、身体機能の介助が必要だが、
(Assistive Living)
ナーシングホームでうける程のケアは必要のない人を対象にしている。
25 名以下の小規模のものから、120 以上のユニット規模のものもある。
入居者は個々人のアパートや部屋に住み、コミュニティで提供される支
援サービス(食事、身体介助、服薬、掃除洗濯、24 時間セキュリティや
緊急対応スタッフ、社会活動プログラム)を利用できる場合も多い。費
用もさまざまで、入居者が必要なサービスや施設の提供するアメニティ
にもよる。施設は全州において規制されているが、要件は州ごとに様々。
継続的ケア退職者コ
一箇所で、ケアの必要のない人の自立型住宅から、自宅+在宅サービス
ミュニティ
提供型、介助付住宅、ナーシングホームまで、複数レベルのケアを提供
(Continuing Care
する。料金はコミュニティのタイプによる。月額料金のほか、最初に入
Retirement
居料をとる場合もある(売却時に返還)。
Communities)
ナーシングホーム
専門的な看護、24 時間監護、日常生活動作の介助、各種リハビリサービ
ス(物理療法、作業療法、会話療法等)を含む多様なサービスを提供す
る。術後の回復・リハビリのために短期間の看護サービスを求めて入居
する場合もあれば、慢性的症状のために継続的ケア・監護が必要で長期
滞在している場合もある。家族は在宅での安全確保が難しい場合や 24
時間在宅ケアの費用負担が限界に達した場合に、入所を検討するのが普
通。州により非常に強く規制されている。州からの許可を得なくてはな
らない。
9
一定範囲の介護サービスを提供する多様な施設がある。各施設において利用可能なサービス
は、施設の位置する州により規制されることが多い。許可要件(licensure)や用語法は州ごと
にばらつきが大きい。
124
サービス利用料と公費によるカバー
個人からみた、サービス利用に伴う支払い額は、サービスの量や種類により異なる。地
域サービスの利用料は、間接経費と事業費が算定のベースになるが、多様である。施設で
は、居住費・食費などの基本料の他に追加のサービス費用が取られる場合もあれば、全サ
ービス込の包括料金の場合もある。2007 年の平均的費用(1日)は、図5の通り。
サービス種別の、公的プログラムや民間保険による費用カバー、自己負担等の関係は、
図6の通り。資産や収入がある場合には、これらの費用は自己負担となる。身体機能の資
格要件や低所得者としての資産要件を満たせば、メディケイドからの支払いの可能性が、
短期間の専門的治療的ケアを要する場合は、メディケアからの支払いの可能性がある。高
齢アメリカ人法にもとづくプログラムからの費用助成を受けられる場合もある。
図 5
サービス平均費用 10 (2007 年)
ナーシングホーム準個室/日
$181
ナーシングホーム
$205
個室/日
介助付住宅/月(1 ベッドルーム)
$2714
在宅保健助手/時間
$25
家事サービス/時間
$17
成人デイケアセンター(Adult Day Health Care Center)/日
$61
ウェブサイト“The National Clearinghouse for Long-Term Care information” 内、”Paying
for LTC”の説明より。
http://www.longtermcare.gov/LTC/Main_Site/Paying_LTC/Costs_Of_Care/Costs_Of_Care.a
spx#Who (12Feb,2008)
10
125
図 6
料金の負担・公的制度によるカバー(サービス別) 11
メディケア
民間の
メディケイド
自己負担
Medigap 保険
ナーシング 入院から専門看護施設
ホーム
メディケアの メディケイド指 直接介護か見守りケア
(Skilled Nursing Facility)に 要件を満たし 定ナーシングホ のみが必要、ないし、直
移行した場合、最初の 20 日 ていれば、1 ームであれば、 前に入院していない場
間は全額保障。専門的看護 日$128 の自己 資産要件・身体 合、メディケアやメディ
ケアが必要な場合、21~100 負担部分をカ 機能要件を満た ケイドの事業者指定を
日目までは1日$128 の自己 バーする。
せば、支払って 受けていない施設を選
負担で制度から支払い。
くれる。
介助付住宅 適用なし
適用なし
施設
んだ場合。
州によってはケ メディケイドが利用可
ア関連費用のカ 能で、メディケイドの適
バーあるが、居 用対象に含まれている
住費・食費のカ 場合を除き、自己負担 。
バーはなし。
継続的ケア 適用なし
適用なし
適用なし
自己負担
適用なし
適用の有無は州 メディケイドが利用可
退職者コミ
ュニティ
成人デイサ 適用なし
ービス
により異なる。 能で、メディケイドの適
資産・身体機能 用対象に含まれている
要件あり。
場合を除き、自己負担 。
在宅保健ケ 医師の指導にもとづきメデ 適用なし
適用あり。ただ メディケイドが利用可
ア
ィケア指定事業者から提供
し、リハビリ等 能で、メディケイドの適
される、必要最低限・一時
のサービスを制 用対象に含まれている
的な専門的看護、在宅保健
限する措置がと 場合を除き、身体介護や
助手のサービス、リハビリ
られる場合もあ 家事援助は自己負担。
に限定。日々の身体介護や
る(州による)。
家事援助のみでは適用な
し。
ウェブサイト“The National Clearinghouse for Long-Term Care information” 内、“Who
Pays for Long-Term Care?”の説明より。
http://www.longtermcare.gov/LTC/Main_Site/Paying_LTC/Costs_Of_Care/Costs_Of_Care.a
spx#Who (12Feb,2008)
11
126
3. 公的介護制度の概要と政府(中央政府、地方政府)の役割
(1)高齢アメリカ人法にもとづくサービス
高齢アメリカ人法にもとづく高齢者と介護者への在宅地域サービスは、厚生省内に設置
された高齢化対策局(AoA:Administration on Aging)が管轄している。AoA は、在宅地域
サービスの政策開発、計画、サービス提供に責任をもち、56の州の高齢対策部門、全国に
ある655の高齢化対策地域事務所(Area Agencies on Aging)、240弱の少数民族団体を代表
する出先機関、その他多数のサービス事業者やケアセンター、ボランティア等からなるネ
ットワークを形成している 12 。
AoAの2009財政年度予算要求額(2008年2月時点)は、13億8100万ドルである。内訳(概
数)は、①州・地域サービス12億6200万ドル(在宅地域サービス3億5100万ドル、地域型栄
養サービス4億1000万ドル、配食サービス1億9300万ドル、栄養サービス・意欲促進プログ
ラム1億5300万ドル、家族介護者支援1億5300万ドル)、②ネイティブアメリカン向けサー
ビス3300万ドル、③弱者保護(介護オンブズマン、虐待防止)2100万ドル、④新規試行的
プログラム3300万ドル、⑤ネットワーク支援1300万ドル、⑥運営経費1900万ドルとなって
いる。新規試行的プログラムにおける近年の中心的なとりくみは、高齢障害支援センター
(Aging and Disability Resource Centers)の設置である。このセンターは、非営利団体のネ
ットワークを基盤にした介護に関する一元的相談・サービス調整窓口を目指しており、44
州が設置している。
高齢アメリカ人法に規定されたプログラムについては、連邦政府による連邦予算からの
財政支援が、州政府や地域事務所に行われる。各地域事務所では、重点的なプログラムや
対象者の設定、サービス提供計画などの複数年地域計画を策定している。連邦レベルでは、
プログラム実施のガイドライン(サービス指導のガイドラインも含め)と補助金の配分、
州機関および各地域事務所は地域計画の策定と、計画にもとづく具体的なプログラム・サ
ービスの実施(地域内事業者とのサービス契約と事業所の監査等)を行う。同法のプログ
ラムには、高齢者の権利擁護プログラムとして、長期ケア施設のオンブズマンも実施され
ており(有給職員約1000人、ボランティア約14,000人により実施) 13 、ケア施設の質に対
する規制的役割も果たしている。
(2)メディケア、メディケイド
両プログラムについては、連邦厚生省内の機関であるメディケア・メディケイドサービ
ス庁(the Centers for Medicare & Medicaid Services: CMS)が管轄している。
メディケアは社会保険方式で運営されているが、一般財源も投入されている。保険は4
http://www.aoa.gov/prof/agingnet/agingnet.asp (25Feb,2008)
http://www.aoa.gov/prof/aoaprog/elder_rights/LTCombudsman/ltc_ombudsman.asp
(25Feb,2008)
12
13
127
つのパートからなりたつ。パート A(病院保険)は、病院、ナーシングホーム、ホスピス
など施設に対する支払いに関するものであり、パート B(補足的医療保険)は、医師サー
ビス、在宅保健サービス、パート A に含まれない医療上必要なサービスをカバーするもの、
パート C はマネジドケアにかかわるプログラム、パート D は院外処方の薬剤費の支払いに
関する保険(2003 年法制化、2005 年より本格導入)である。
パートAは、2.9%の社会保障税(労使折半)を財源として賦課方式で運営され、本人ま
たは配偶者が 65 歳までに 10 年以上の社会保障税を支払うことで加入資格がえられる(65
歳以上の保険料無し)。高齢者人口の 99%をカバーする。パートBとDは、任意加入である。
パートBは、毎月の保険料(2008 年の標準金額は$96.4 14 )と一般財源からの投入で運営さ
れており、高齢者人口の 97%をカバーしている 15 。
メディケイドは、要扶養児童のいる低所得者世帯、低所得の子どもおよび妊婦、SSI受給
者、低所得の高齢・障害者などを対象とする 16 。運営主体は州であり、連邦制度のガイド
ラインに沿って、ある程度の裁量を加えて加入要件(所得・資産の上限、傷病・障害の程
度に関する基準等)を設定することができる。連邦政府の補助金を受け取るには、加入対
象者に含まれるカテゴリーやプログラム等、連邦政府のガイドラインにしたがって、一定
の基本内容を含まなくてはならないが、その上で任意裁量が認められている。1997 年の財
政均等法(BBA)により、障害者については、メディケイドの加入資格に満たない場合で
あっても、連邦貧困基準の 250%以下であれば、州が定める保険料を支払うことにより加
入が認められるようになった(Medicaid Buy-In メディケイド購買制度)。メディケイド費
用は増加を続けており、費用増大への対応が社会保障制度の大きな問題とされている。2005
年に策定された財政赤字削減法(DRA法:2006 年 3 月適用)では、メディケイドから今後
10 年間で 261 億ドルの支出削減がもとめられ、そこでは自己負担の増加と給付内容の縮小
での対応も含められている。法では、州政府がメディケイドの保険料および自己負担を公
式貧困線より所得が高い加入者に課すことを認めている(自己負担率の上限は、公式貧困
線の 1-1.5 倍では 1 割、1.5 倍以上の人は 2 割 17 )。大部分の州において、メディケイドは州
予算の 15%程度を占める大規模プログラムであるが、資格要件、サービス内容(タイプ・
量・範囲・期間)、費用還付率は、州ごとに大きく異なる。
メディケイドでカバーする介護サービスとして、専門的看護ケア(Skilled Nursing Care)
と在宅保健ケアは、連邦レベルの規制でメディケイドでの提供が州に義務付けられている
14
http://questions.medicare.gov/cgi-bin/medicare.cfg/php/enduser/std_adp.php?p_faqid=1980
(25Feb,2008)
15 Nancy R. Hooyman & H. Asuman Kiyak (2007). Social Gerontology: a Multidisciplinary
Perspective, 8th edition, Allyn & Bacon, p.727.
16 以下のメディケイド概要の説明は、
『世界の社会福祉年鑑』2001 年版、2004 年版、2006 年
版の「アメリカ合衆国」の記載内容を参照している。
17 財政赤字削減法の概要については、
『世界の社会福祉年鑑』2006 年版、p.246。
128
が、在宅での身体介護(パーソナルケア)と地域サービスはオプションである。非医療的
な在宅ケアについては、
「身体介護サービス給付」と、
「在宅地域サービス使途変更(Waiver)
プログラム 18 」という二つのオプションがある。全州において少なくともオプションのう
ち一つは提供されている 19 。
Waiver プログラムは、伝統的に「医療的」とみなされてこなかった、在宅生活に必要と
なる 7 つのコアサービスを、メディケイドの予算から支出するできるプログラムである。
コアサービスとしては、ケースマネジメント、家事、在宅保健補助、身体介護、成人向デ
イケア、リハビリ、レスパイト・ケアがある。このほか、プログラムには連邦政府から「費
用効果が見込める」と認定されたサービスも追加できる。対象者は、低所得であり、ナー
シングホームの入所要件にかなうものである。ナーシングホームのベッド数の削減と合わ
せて幅広く Waiver プログラムを実施している州(ワシントン州、オレゴン州)、急性期ケ
アやナーシングホームと連動した効果的なマネジメントを実施し介護費用の抑制に成功し
た州(アリゾナ州、ウィスコンシン州)などがある。
(3)介護サービス事業者への規制・監督
介護サービス事業者に対する規制は、基本的に各州がそれぞれ担当し、規制対象となる
事業者の範囲から規制内容まで幅広く州に一任されている。
①連邦レベルでの規制・監督 20
事業者が、メディケア・メディケイドの受給資格者にサービス提供し、その費用償還を
受けるためには、連邦法・規則に定められた指定条件に合致し、メディケア・メディケイ
ドサービス庁の指定(certification)を受けねばならない。実際には、メディケア・メディ
ケイドサービス庁と契約した州の医療部局が監査(survey)を行い、指定条件をクリアし
ていれば指定が与えられる。指定事業者は 1~3 年ごと(期間は監査結果等を反映して決ま
る)に監査を受けて再指定を受ける。事業者に苦情がよされた場合などは、これとは別に
監査が実施される。
②州レベルでの規制・監督
介護事業者が事業を開始するためには、州法及び州規則の一定要件に合致し、州による
許可(licensure)を受けることが義務付けられていることが多い。また、個々のサービス
従事者についても、特定の業務を行うものについては免許または登録制度が設けられてい
る。
Hooyman & Kiyak(2007:739-40)
Hooyman & Kiyak(2007:739)
20 連邦レベル、州レベルの規制に関する記述は、伊原和人「アメリカ」
『世界の介護事情』中
央法規 2002 年、pp.196-201 に負っている。
18
19
129
施設に関して、ナーシングホームについては、州ごとに許可制度が設けられ、メディケ
ア・メディケイドの指定とは無関係に全施設に適用される。基準はメディケア・メディケ
イドの連邦レベルの指定基準をベースとしつつも、独自に強い規制をかけている州もある
(看護助手の研修は、連邦規則では 75 時間だが、それ以上の時間を課すなど)。州の規制
に合致しているかは、州の監査で確認される。ケア付住宅など多様化する居住型施設につ
いては、全州に規制はあるが許可要件が様々であったり(ケア付住宅)、州により許可の有
無を含めて要件が多様であったりする。
在宅サービスについては、医学的・専門的なケア提供事業者(訪問リハビリ、訪問看護
など)の場合、ほとんどの州で許可制度が設けられている。但し、在宅の身体介護・家事
援助サービスについては、サービス事業者に対する許可制度も、サービス従事者の免許・
登録制度も、設けられていない場合が多い。
③スタッフ配置に関する規制 21
ナーシングホーム改革法(Nursing Home Reform Act)は、1987 年包括財政調整法
(Omnibus Budget Reconciliation Act of 1987)により連邦議会が制定した、ナーシング
ホームへの規制に関する法である。この法では、ナーシングホームに、個々の入所者の身
体的・精神的・心理的なウェルビーイングが最大限に達成ないし維持されるようなサービ
スおよびスタッフの水準を提供することを要求している。現状で規定されているスタッフ
要件は、正看護師(registered nurses (RNs))と准看護師(licensed practical nurses
(LPNs))の配置数に関する最低基準ものと、看護助手の教育訓練に関する最低基準である。
メディケア・メディケイドの指定を受けたナーシングホームのスタッフ配置の最低基準は、
看護部長(director of nursing: DON)となる正看護師1名、その他に正看護師1名が1
日最低 8 時間・週7日勤務していること、その他の時間は1名以上の准看護師が勤務して
いること、看護助手に対する最低 75 時間の訓練、となっている。法律では、入居者が 60
人未満の施設については、看護部長が正看護師を兼務してもよいこととなっている。配置
要件を有資格看護者(正看護師ないし准看護師)からの看護時間に換算すると、100 人定
員の施設では1日 30 時間、入居者1人が1日に受ける時間を単位とした場合は、約
0.30HPRD(hours per resident day)となる。この要件では、正看護師、准看護師の配置
基準を個別に決めているわけでなはく、また、看護助手については何の配置基準も課され
ていない。「十分なスタッフ」を提供するという連邦レベルの規定があるが、定員規模が
50 人でも 200 人でもスタッフ配置要件が基本的には同じであるため、こうした連邦の配
置要件の不備を指摘する声もある。州によっては、こうした連邦要件に上乗せして要件を
21
Zhang NJ, Unruh L, Liu R, Wan TT., Minimum nurse staffing ratios for nursing homes.
Nursing Economics. 2006 Mar-Apr;24(2):78-85.
130
設定しているところもある。例えば、有資格看護師の配置人数や配置時間の要件を高める、
看護助手の最低配置基準を設定するといったことは、比較的多くの州で実施されているよ
うである。
(4)公的供給と家族介護者との関係
家族介護支援としては、①親族および医療休暇法Family and Medical Leave Act (FMLA)
(1993 年)と、②全国家族介護者支援プログラムNational Family Caregiver Support Program
(NFCSP) (2000 年)が二本柱となっている。前者は介護を含めたケアにともなう雇用労働中
断への金銭保障を行うもの(親族ケア休暇)であり、後者は介護者をターゲットとした対
人サービスである 22 。他に、家族介護に対する金銭保障的な施策として、メディケイド・
ウェイバーシステムのもとで、州によっては、親族を直接介護提供者として彼らへの支払
いを認めていることがある。(家族介護支援策の詳細は、後述。)
22
以下の説明は、Hooyman & Kiyak(2007:401-2)を参照している。
131
4. 要介護者の状況
社会老年学の教科書では、65 歳以上の要介護者(2000 年時点)は約 1000 万人とされて
いる(Hooyman & Kiyak 2007:115)。要介護者の出現割合については、障害の定義が標準化さ
れていないことから、①ADLやIADLの制限、その他、何らかの活動の制限が慢性的にある
もの、②ADLないしIADLに制限のあるもの、の割合が掲載されるのが普通である 23 。①慢
性的状態に伴い何らかの活動の制限があるものの割合(2004 年)は、全人口の 11.9%であ
り、年齢別では、65 歳以上人口の 34.1%、75 歳以上人口の 43.9%にのぼる。②慢性的に
ADL/IADLの制限がある 65 歳以上の割合は、ADLが 6.1%、IADLが 11.5%だが、女性、
75 歳以上、貧困層で、その割合は高くなっている。
図 7
要介護者の割合
①慢性的に活動制限のある者の割合(%) (2004年)
43.9
34.1
(
50
45
40
割 35
合 30
25
% 20
15
10
5
0
19.9
)
12.5
11.9
全人口
7.0
6.0
18歳未満
18~44歳
45~54
55~64
65~
75~(再掲)
年齢別
②ADL/IADLの制限(65歳以上) 2004年
25
18.1
20
9.5
6.1
2.9
9.1
6.9
4.8
5.2
非 貧 困 層 (貧 困 レ
ベル 2 0 0% 超 )
性別
貧 困 層 (1 0 0 %
貧 困 レ ベル以 下 )
女性
男性
7 5歳 以 上
年齢別
23
10.1
8.4
5.5
6 5~ 7 4歳
)
%
ADL制限 (%)
IADL制限(%)
13.6
11.5
全 6 5歳 以 上
(
15
制 10
限 5
有 0
の
割
合
20.9
貧困
Health, United States, 2006 by National Center for Health Statics Table58. より編集。
132
5. 家族等による介護
インフォーマルな介護について、家族親族のほかに、友人、近隣者や知り合いなどを含
む場合は「informal caregiving」、家族親族のみの場合は「family caregiving」と表現される
のが通常である。家族ないしインフォーマルな介護者の属性等を示す大規模調査はないた
め、いくつかの統計情報・調査結果から概況を提示する。
介護者数は、高齢化対策局(AoA)によれば、2007 年時点のインフォーマル介護者は 4400
万人、その経済価値は年間 3060 億ドル相当とされている 24 。また、家族介護者は 2880 万
人、平均的な介護者像は、46 歳、女性、就労中で年間収入 3 万 5000 ドルとされ 25 。
図8は、全国レベルの非営利団体「家族介護者同盟」
(Family Caregiver Alliance)が収集
した介護者の基本的な統計情報である 26 。女性が 59-75%、平均年齢は、20 歳以上要介護
者の家族介護者では 43 歳、50 歳以上要介護者の家族介護者では 47 歳、65 歳以上要介護者
のインフォーマル介護者では 63 歳である。また、主介護者の要介護高齢者(65 歳以上)
との関係は、子が 41%、配偶者が 23%である。要介護者と同居している場合、主介護者の
62%は配偶者という調査結果も掲載されている。
介護全国同盟(National Alliance for Caregiving) と全米退職者協会(AARP)が共同で実
施した介護者への電話インタビュー調査(2003 年、N=1247)では、介護者の年齢分布・学
歴・雇用・収入といった属性と、生活・健康に対する介護の影響を尋ねている(Care Giving
in the U.S, National Alliance for Caregiving and AARP, 2004)(図9~図11)。
調査結果によれば、介護者の平均年齢は 46 歳、介護者の 59%が就労中であり、48%が
フルタイム、11%がパートタイムと、フルタイムの割合が高い。要介護者との関係におい
ては、要介護者が 50 歳以上の場合が 79%、同居が 24% 、1 時間未満の近居・同居あわ
せて 85% 、主介護者であるものが 57%である。50 歳以上の要介護者を介護する者に限る
と、要介護者が母親である場合が 34%、父親 10% 、配偶者 6%である。介護時間は 8 時
間以下が約半数だが、同居者に限ると介護時間が 40 時間以上のものが 44% と多くなる。
介護に関わることで、友人や家族と過ごす時間の減少や、休暇・趣味・社会活動などの断
念といった日常生活への影響があると、4~5 割の介護者が答えている。また、雇用労働へ
の影響としては、就業中の介護者のうち、遅刻・早退・中断といった就業時間の調整をせ
まられていると回答したものが 6 割弱いた。
AoA 2007 Fact Sheet May2007 http://www.aoa.gov/press/fact/pdf/ss_nfcsp.pdf
(1Nov,2008)。
25 Hooyman and Kiyak (2007:386)
26 http://www.caregiver.org/caregiver/jsp/content_node.jsp?nodeid=439&big_font=true
(24Oct,2007)。
24
133
図 8 介護者の基本情報
性別
Female
平均年齢 43歳
47歳
63歳
59-75%
家族介護者(20歳以上要介護者)
家族介護者(50歳以上要介護者)
インフォーマル介護者(65歳以上)
インフォーマルケア提供者の割合(エスニシティ別)
白人
21%
アフリカ系アメリカ人
21%
アジア系アメリカ人
18%
ラティノ
16%
「主介護者」の要介護高齢者との関係
要介護高齢 介護者に占
める割合
者との関係
(要介護者が
65歳以上)
介護者に
占める割合
(要介護者
が50歳以
上)
子
41%
44%
配偶者
23%
6%
その他親族
27%
24%
親族以外
8%
14%
※要介護者と同居している介護者については、
主介護者の62%は配偶者、26%は成人子、
副介護者の46%は成人子、16%が配偶者とされている。
134
図 9
介護者の年齢分布・学歴・雇用・収入など(全介護者、人種別)
全介護者
白人
黒人
ヒスパニック
アジアン
39%
61%
38%
62
33%
67
41%
59
54%
46
26%
32
30
13
46歳
22%
32
31
15
48歳
35%
36
24
5
41歳
33%
33
24
10
43歳
38%
27
27
8
42歳
5%
29
27
3
22
13
4%
29
27
3
22
14
10%
29
27
3
22
8
8%
34
29
2
22
5
6%
12
19
1
36
25
48%
11
41
49%
11
39
51%
7
41
41%
11
46
44%
8
48
性別
男性
女性
年齢
18-34
35-49
50-64
65中央値
学歴
高校以下
高卒
カレッジ在学
技能学校
カレッジ卒業
大学院以上
現在の雇用
フルタイム
パートタイム
雇用なし
世帯収入(単位:千ドル)
<15
8%
7%
9%
12%
9%
15-30
17
16
20
20
10
30-50
26
25
30
28
17
50-75
18
17
18
21
17
75-100
9
9
6
8
18
100+
15
16
9
9
17
中央値
37,312ドル
出典)Care Giving in the U.S., National Alliance for Caregiving and AARP, 2004:table5
135
図 10
要介護者との関係
親族/親族以外
親族以外
親族
要介護者(回答多い順)
母親
祖母
父親
姑
配偶者
兄弟姉妹
子
要介護者の年齢
50歳+
18-49歳
17%
83%
14
85
25
74
28%
9%
8%
7%
6%
5%
6%
34
11
10
8
6
4
1
7
*
3
1
6
20
27
要介護者の年齢
18-49歳
50歳以上
20%
79%
同別居
同居
1時間未満
1時間以上
24
61
15
主/副介護者
主
57%
副
39%
出典)Care Giving in the U.S., National Alliance for Caregiving and AARP, 2004:table4,table7
136
図 11
インフォーマル介護者の生活・健康
介護時間/週(Figure20)
40時間+
17%
21-39時間
8%
9-20時間
23%
8時間以下
48%
健康状態(table4)
非常によい
25%
よい
30%
普通
28%
あまりよくない
12%
よくない
5%
同居44%
介護ストレス(Figure28)
1 それほどでも
27%
2
17%
3
20%
4
16%
5 非常に強い
18%
女性
男性
40%
26%
認知症有 認知症無
42%
32%
日常生活への影響(Figure30)
友人や家族と過
51%
ごす時間の減少
休暇・趣味・社会
44%
活動の断念
雇用労働への影響(Fiure31)
※介護者の59%が就労中(フルタイム48%、パートタイム11%)
就業中の介護者の62%が、介護が就業に影響していると回答
就業時間調整
57% (遅刻・早退、中断)
休暇
17%
フルタイムから
10%
パートタイムへ
就業の断念
6%
出典)Care Giving in the U.S., National Alliance for Caregiving and AARP, 2004
N=1247
137
6. 家族介護者に対する支援
家族介護支援としては、親族および医療休暇法Family and Medical Leave Act(FMLA)
(1993 年)と全国家族介護者支援プログラムNational Family Caregiver Support Program
(NFCSP)(2000 年)が二本柱となっている。前者が、介護を含めたケアにともなう雇用
労働中断への金銭保障(親族ケア休暇)、後者は、介護者をターゲットとした対人サービス
である 27 。他に、家族介護に対する金銭保障的な施策として、メディケイド・ウェイバー
システムのもとで、州によっては、親族を直接介護提供者として彼らへの支払いを認めて
いることがある。
(1)親族および医療休暇法(FMLA)(1993 年)
被用者 50 人以上の事業において、出産・養子時や家族看病時、病気により就労不能時に、
最大 12 週までの無給休暇の取得を可能とする法律。休暇中の健康保険と職場復帰が保障さ
れる。法制定以前、企業の福利厚生レベルでは、育児に関するプログラムを中心であった
ものが、従業員による高齢者介護の負担が問題化するのに伴い、高齢者介護に関するプロ
グラムが増えていた。この法律でも、子どもの養育のみならず、高齢者介護を目的とする
休業まで労働者に認めている 28 。
但し、事業者規模の限定により適用者の範囲が限定されていること、拡大家族には適用不
可のためエスニックマイノリティが不利といった課題もある。2003 年には、州による有給
休暇のパイロットプログラムを促進するため、Family and Medical Leave Extension Act
(FMLEA)が制定されたが、継続的な定着には至らない模様である。この法律のもと、カ
リフォルニア州は 2004 年にいち早く有給休暇を導入し、他の 26 州も何らかの有給休暇制
度の導入の議論が議会で行われている。最近では、マサチューセッツ州が、新生児や家族
のケアのための休暇時の給与の全額支給(最高 750 ドル/週)・最長 12 週間という、国内
でもっとも寛大な休暇制度の制定を検討した。有給休暇制度では、従業員は小額(週 1.5
~2.5 ドル)の拠出で、休暇後の雇用が保障される。これにより、離職や有給の病気休暇
が減ることで、雇用主にとってはむしろ費用の倹約になるとされている。
(2)全国家族介護者支援プログラム(NFCSP)(2000 年)
高齢アメリカ人法において初めて、州や地域高齢者福祉機関(Area Agency on Aging)の
施策対象に、高齢者だけでなく家族介護者をも含めた。インフォーマルケアがケアにおい
て中心的な位置を果たすことについて、公共政策上の認知したものである。
補助金は、70 歳以上人口のシェアにもとづき算定され、各州に割り振られる。プログラ
ムでは、全州が地域高齢者福祉機関やコミュニティサービス事業者と協働しながら、介護
27
28
以下の説明は、Hooyman & Kiyak(2007:401-2)を参照している。
「3 介護者の支援(アメリカ合衆国)」『世界の社会福祉年鑑 2001』p.309.
138
者を直接対象として、そのニーズを充足するサービスの提供を求めている。サービスに含
まれるのは、以下の5つである。
・ 情報提供:利用可能なサービスの情報提供
・ アクセス支援:介護者が支援サービスへのアクセスを得るための支援
・ 個別カウンセリング、支援グループの組織化、介護者の訓練
・ レスパイト・ケア
・ 補足的サービス(限定的だが、介護者が提供する介護の補充)
対象者は、60 歳以上の者を介護する家族介護者か、18 歳以下の子の祖父母や親族介護
者 (孫の唯一の保育者となる祖父母や、知的障害や発達障害のある子の唯一の介護者とな
る祖父母も含む)、となっている。特に、社会的経済的なニーズをもつ者(特に、低所得、
マイノリティの者)、知的障害や発達障害のあるものをケアする高齢者を、優先的に対象
とすることが州に求められている。
施行後も、その効果はあまり大きくないとの指摘もある。要因として、予算規模が大き
くない、職員の意識転換が進まない、危機的状況の前段階で介護者にリーチアウトするこ
とが困難、といった点が指摘されている 29 。ただし、予算額は増加傾向にある(2001 年度
1 億 2500 万ドル、2002 年度 1 億 4150 万ドル、2003 年度 1 億 5520 万ドル) 30 。
(3)家族介護者に対する現金給付
家族介護に対する金銭保障的な施策として、州によっては、親族を直接介護提供者とし
て彼らへの支払いを認めていることがある。これらは、メディケイド・ウェイバープログ
ラムと州の独自財源を組み合わせる場合が多い。こうした施策は近年、直接的に家族介護
への金銭保障自体を目的とするのではなく、主に「消費者主導ケア」(Consumer-directed
care)の一環として、Cash and Counseling プログラム等の具体策を通じて行われている。
具体的に「消費者主導ケア」とは、高齢者や障害者に自己決定権限を付与する形態のケ
アであり、ニーズのアセスメント、サービス内容・方法、サービス提供者の採用から解雇
に至る管理権限等が、高齢者・障害者自身に与えられる(但し、高齢者・障害者自身に直
接現金は付与されず、また、配偶者は給付対象から除外される)。
1999~2003 年には、厚生省計画評価担当次官補室(Office of the Assistant Secretary for
Planning and Evaluation:ASPE)とロバートウッドジョンソン財団が3州を対象に、モデル
事業「Cash and Counseling project(金銭給付およびカウンセリングプロジェクト)」を実施
した。この事業の概要は、以下の通り 31 。
・専門職のアセスメントにより在宅で家族を含む介護者を雇用・監督するのに使用でき
Hooyman & Kiyak (2007:401-2)
http://www.aoa.gov/prof/aoaprog/caregiver/overview/overview_caregiver.asp
(12Feb,2008)
31 Hooyman & Kiyak (2007:741)
29
30
139
る一定金額の手当が決定される(月額 400~1400 ドル)。この金額は、通常のサービ
ス事業者を利用した際の費用と同程度とされる。
・高齢者・障害者は手当額の範囲内で家族や友人を含めた介護者を雇用し、何に対して
どのようなサービスを利用するかを決定する。
・州は自己決定や事務処理に関する相談者(counselor ないし consultant)を設置し、彼
/彼女らが相談者を利用できる体制を整える。
モデル事業は、第 2 期事業が 2004 年から 3 年間実施され、第 1 期対象州の事業継続に加え、
12 州が追加され、合計 15 州で実施された。
メディケイド・メディケアサービス庁においても、2002 年に「自立プラス事業(the 2002
Independence Plus)」を立ち上げ、そのなかに「消費者主導ケア」を位置づけて以降、メデ
ィケイドの「在宅地域サービス使途変更(Waiver)プログラム」にCash and Counselingを含
めることを認め(2005 年)、さらには 2005 年包括財政調整法において、州の正規のメディ
ケイド事業のオプションにCash and Counselingを含めることを認めるようになった 32 。
このように、公的介護の分野では、施設ケア、既存の在宅・施設サービスモデルに替わ
る新しいサービスモデルのひとつとして消費者主導ケアが注目され、具体的にはCash and
Counselingという形態の事業が複数の州で採用・試行されている。このプログラムの家族
介護者への効果については、モデル事業の評価結果によれば、現金給付を通じた家族介護
への金銭的保障のみならず、介護に対する満足、介護に対する自信、人生に対する満足、
健康の面でも、プラスの効果が認められている 33 。このことから、Cash and Counselingとい
う形態のプログラムの拡大は、家族介護者への間接的支援策の拡大という側面も持ち合わ
せている。
Mahoney, K.J., N.W. Fishman, P. Doty, and M.R. Squillace. The future of Cash and
Counseling: the Framers’ View. Health Service Research, 42(1), February 2007 Part
Ⅱ:550-566.
33 Kemper, P., Commentary: social experimentation at its best: the Cash and Counseling
Demonstration and its implications. Health Service Research, 42(1), February 2007 Part
Ⅱ:577-586.
32
140
7. 介護サービス従事者の概要(業務内容、需給状況、プロファイル)
直接的な介護に従事する代表的な職としては、身体・居宅ケア助手(Personal and Home
Care Aides)、看護助手(Nursing Aides)、在宅保健助手(Home Health Aides)がある。以下
では、まず、連邦労働省労働統計局が公開している「2006-07 年版
職業概要ハンドブッ
ク」の職業分類(「身体・在宅ケア助手(Personal and Home Care Aides)」「看護助手、看護
兵および付添人(Nursing Aides, orderlies and attendants)」「在宅保健助手(Home Health
Aides)」)にもとづき、各職種の業務内容と訓練資格(教育訓練、免許・証明書、他の資格
要件、昇進)について整理した上で 34 、雇用状況や従事者のプロファイルを示す。
(1)業務と訓練資格
①身体・在宅ケア助手(Personal and Home Care Aides)
業務内容
家事支援者、介護人、同伴者、付添などとも呼ばれる。家事や日常的な身体介護のサー
ビスを提供する。利用者宅の掃除、洗濯、ベッドリネンの交換などを行う。食事(含、特別
食)の献立の計画、料理用の買い物、調理なども行う場合がある。また、起床、トイレ・入
浴、衣服の着脱、整髪等の介助をしたり、 受診やその他の用事への付添をしたりすること
もある。身体・在宅ケア助手は、利用者に指示や心理的支援も提供する。家族や利用者に、
栄養や清潔、家事等について助言する場合もあれば、単に利用者が話すのを聞くだけとい
う場合もある。
在宅保健ケア事業者においては、正看護師(registered nurse)、物理療法士またはソーシ
ャルワーカーが、身体・在宅ケア助手に特定の業務を割り当て、監督する。 身体・在宅ケ
ア助手は、利用者の状態や変化、実施サービスについて記録をつけ、利用者に状況変化が
あればスーパーバイザーないしケースマネジャーに報告する。主な協働相手は、正看護師
やリハビリ担当等の保健ケア専門職である。
訓練資格など(教育訓練、免許・証明書、他の資格要件、昇進)
州により雇用の要件は異なる。雇用主が提供する OJT(on-the-job training)のみが要件
とされる場合もあれば、コミュニティ・カレッジや職業訓練校、高齢者ケアプログラム、
在宅保健ケア事業者などが提供する正規の研修の受講が要件とされる場合もある。
教育訓練・・・ほとんどの場合、就業中に短期間の OJT を受ける。また、健康でなくて
はならず、州で義務付けている結核等の疾病検査などの健康診断が課せられる場合もある。
犯罪歴や債務、運転事故歴の確認などが、雇用の際に必要となる場合もある。
Bureau of Labor Statistics, U.S. Department of Labor, Occupational Outlook Handbook,
2006-07 Edition, ‘Personal and Home Care Aides’ and ‘Nursing, Psychiatric, and Home
34
Health Aides on the Internet at http://www.bls.gov/oco/ocos173.htm, and
http://www.bls.gov/oco/ocos165.htm (visited February 20, 2008).
141
認証・・・全国在宅ケア・ホスピス協議会(The National Association for Home Care and
Hospice:NAHC) が、全国的な認証制度を提供している。認証は NAHC が設定しており、
75 時間の講義受講、17 つの技能コンピテンシーに関する正看護師の観察と証明、筆記試験
の合格で得られる。認証は、その個人が業界の求める業務基準に達していることを自発的
に示すもの、という位置づけである。
②看護助手(Nursing Aides)
業務内容
認定看護助手(certified nursing assistants: CNA)、老人看護助手、無免許介助者、看護・
医療職の指導監督下で直接的介護や日常的業務を実施する病院助手、などとも言われる。
多面的に利用者のケア行うため、具体的な業務内容は多様である。食事、衣服の着脱、排
便の介助はよく行う。また、利用者の支援要請への対応、マッサージの実施、配膳、ベッ
ドメーキング、室内清掃なども実施する。利用者の体温、脈拍、呼吸状態、血圧等の測定
を任される場合もある。また、起床・歩行介助、診療・検査室への付添、スキンケアの提
供をする場合もある。医療機器の準備、診療手続きの補助など、他の医療職の手伝いをす
ることもある。また、利用者の身体的、精神的、感情的な状態を把握し、変化があれば看
護医療スタッフに報告する。
看護ケア施設に雇用されている看護助手は、往々にして利用者の主介護者であり、利用
者にもっとも頻繁に接触する。
訓練資格など(教育訓練、免許・証明書、他の資格要件、昇進)
高卒資格または同等の教育程度が必要とされる場合が多い。(在宅保健助手を含め、)
具体的な資格要件は、州法や雇用場所等により異なる。
教育訓練・・・看護助手の訓練課程は、高校や職業技能センターで提供されており、看
護ケア施設やコミュニティ・カレッジで提供されている場合もある。訓練課程が扱う範囲
は、身体構造、栄養、解剖学と生理学、感染制御、コミュニケーション・スキル、施設入
所者の権利である。排便や食事等の介助といった身体介護の技能も教えられる。病院が看
護助手を雇用する場合、看護助手や在宅保健助手としての経験を求める場合もある。
免許・資格・・・看護ケア施設ではたらく看護助手には、連邦政府の定めた要件があり、
州が認可した最低 75 時間の訓練の修了と、幅広い分野でのコンピテンシー・テストの合格
が求められる。このプログラムの修了者は、認定看護助手 (CNA)として、州の看護助手登
録制度で登録される。
142
③在宅保健助手(Home Health Aides)
業務内容
在宅保健助手は、保健医療施設に入所するかわりに在宅で生活をする高齢者や障害者を
支援をする。看護スタッフや医療スタッフの指導のもとで、服薬管理などの保健医療関連
のサービスを提供する看護助手と同様、在宅保健助手は、患者の脈拍、体温、呼吸状態な
どのチェックや、処方された簡単な運動の補助、さらには起着床や入浴、衣服の着脱や整
髪の介助も行う(身体・在宅ケア助手Personal and home care aidesは、主に家事や日常的な
介護を行う)。また、ガーゼ交換やマッサージ・スキンケア、歩行補助器具や義肢の利用の
介助をすることもしばしばである。経験のある在宅保健助手は、訓練を積んで、呼吸補助
具などの医療装具の介助をする場合もある。
在宅保健ケア事業者においては、通常、正看護師、物理療法士またはソーシャルワーカ
ーが、在宅保健助手に特定の業務を割り当て、監督する。 在宅保健助手は、利用者の状態
や変化、実施サービスについて記録をつけ、利用者に状況変化があればスーパーバイザー
ないしケースマネジャーに報告する。
訓練資格など(教育訓練、免許・証明書、他の資格要件、昇進)
在宅保健助手は、一般的には高卒資格が要求されない。OJT で、正看護師、准看護師
(licensed practical nurses)または経験豊富な助手から訓練を受ける。また、患者自身が、
自身が好む業務のやり方を提示する場合もある。必要とされる業務を遂行できるかの確認
のために、コンピテンシー評価が要求される場合もある。新規に雇用した助手に対して初
任者向け教室で指示を行う雇用主もいれば、免許をもった看護師や経験のある助手による
インフォーマルな OJT に委ねる雇用主もいる。
免許・資格・・・連邦政府は、メディケアから償還を受ける事業者の元で働く在宅保健
助手について、指針を定めている。連邦法では、在宅保健助手が幅広い分野でのコンピテ
ンシー・テストに合格することを要件として定めている。在宅保健助手は、このテストの
前に訓練を受ける場合もある。さらに、在宅保健助手について、全国在宅ケア・ホスピス
協議会が独自の認証制度を実施している。州によっては、在宅保健助手に免許制を課して
いるところもある。
(2)雇用推計
「2006-07 年版
職業概要ハンドブック」に掲載されている雇用推計・賃金は以下の通
りである。2006 年から 10 年の雇用の伸びは、全職種合計では 10.4%であるのに対し、直
接介護職は 35%と高い伸びを示している。中でも、地域・在宅系のサービスに携わる在宅
保健助手や身体・在宅ケア助手については、約 50% 近い大幅な伸びを示している。この
背景には、高齢化の進展や、病院・専門的看護施設ケアを抑制し在宅・地域ケアを推進す
る政策動向に伴い、地域・在宅での介護サービス需要が拡大することがある。それに加えて、
143
高い離職率など労働市場の特性により、直接介護職の雇用機会は非常によい(excellent)
と評価されている。但し、時間当たり賃金(2006 年 5 月中央値)は、全職種平均が 14.61
ドルなのに対し、看護助手 10.67 ドル、在宅保健助手 9.34 ドル、身体・在宅ケア助手 8.54
ドルと、かなり低い。
図 12
直接介護職員の雇用推計、賃金
雇用概況
職業分類
雇用数
雇用推計
2006 年
2016 年
看護助手ほか
(Nursing Aides, orderlies
収入
1,711,000
$/時間(中央値)
2006 年 5 月
2002 年(*)
US$10.67
US$9.59
1,447,000
(+18%)
and attendants)
在宅保健助手(Home
1,171,000
111.3%
US$9.34
100%
US$8.70
787,000
Health Aides)
(+49%)
身体・在宅ケア助手
1,156,000
(Personal and home care
107.4%
US$8.54
(+51%)
直接介護職員合計
全職種合計(***)
US$7.81
767,000
aides)
(3 分類合計)
100%
4,038,000(+
109.3%
US$9.85(**)
100%
US$8.70
3,001,000
113.2%
35%)
150,620,000
166,220,000
100%
US$14.61
(+10.4%)
※Bureau of Labor Statistics, U.S. Department of Labor, Occupational Outlook Handbook, 2006-07 Edition よ
り引用。但し、(*)(**)(***)については以下参照。
(*) Paraprofessional Healthcare Institute and the North Carolina Department of Health and Human Services'
Office of Long Term Care(2004). RESULTS OF THE 2003 NATIONAL SURVEY OF STATE INITIATIVES
ON THE LONG-TERM CARE DIRECT-CARE WORKFORCE, p.4.
(**) 中央値(重み付け済)Median Hourly Wages(Dollars/hour) in
http://www.directcareclearinghouse.org/s_state_pfv.jsp?res_id=52 (21Feb, 2008)
(***) 雇用推計は、Lynn Shniper and Arlene Dohm, "Occupational employment projections to 2016,"Monthly
Labor Review, November 2007.
2016 .
Table 1. Employment by major occupational group, 2006 and projected
時間当り賃金(中央値)は、Median Hourly Wages(Dollars/hour) in
http://www.directcareclearinghouse.org/s_state_pfv.jsp?res_id=52 (21Feb, 2008)。
144
(3)直接介護職員のプロファイル
直接介護職員の属性や労働状況について、全国的なセンサスやサーベイを活用して検討
した近年の研究論文としては、1997-1999 年のデータを活用したもの(Yamada
2002)、2000
年のセンサス・マイクロデータを用いたもの(Montgomery et.al. 2005)がある。以下は、
直近の研究(後者)の結果を整理したものである。
図 13 は、介護職員の基本的な属性を示している。ナーシングホームで直接介護にあた
る者(Nursing Home Aide)、在宅ケアで直接介護にあたるもの(Home Care Aide)をみると、
平均年齢は在宅ケアの職員で 46 歳と、ナーシングホームの職員の 38 歳より高めである。
両者とも 9 割以上が女性だが、結婚しているものは 4 割強、離別や非婚が多い。白人(ヒ
スパニック除く)以外の従事者が、施設で 45%、在宅で 5 割程度である。自宅で英語以外
の言語を使用する割合が在宅介護職員で 4 分の 1 以上、市民権をもつものも 4 分の3にと
どまるなど、マイノリティが占める割合が高い。教育程度は高卒未満が施設介護で 4 分の
1 以上、在宅介護では 3 割以上となっている。
図 14 は、介護職員の労働状況(1999 年時点)である。ナーシングホーム(施設介護)
では通年フルタイムが半数弱だが、在宅ケアの場合は 3 分の 2 がパートか年間の部分的な
雇用となっている。従事先では、営利企業がナーシングホームで 4 分の 3 以上、在宅で 6
割以上と、高い割合である。在宅介護の場合は自営が 16.8%と一定割合いる。就労時間は、
通年フルタイムで 42~46 時間、一時期・パートタイムでは 30 時間前後である。時間当た
り賃金は一時期・パートのほうが高くなっているが、年間収入は就労時間数を反映して、
一時期・パートでは 1 万ドル強にとどまり、貧困レベル未満の割合も約 4 分の 1 である。
また、通年フルタイムの場合の年間収入は、施設 2 万ドル、在宅 2 万 2 千ドルであり、高
い水準とはいえない。
145
図 13
直接介護職員(1999 年従事者)の基本属性
病院助手
ナーシングホーム助手
在宅ケア助手
(Hospital Aide)
(Nursing Home Aide)
(Home Care Aide)
25 歳以下
16.2
21.8
8.4
35-44 歳
25.5
24.2
24.4
45-54 歳
19.7
17.0
22.7
55-64 歳
10.9
9.6
17.7
65 歳以上
3.6
3.2
9.8
平均年齢
40.5
38.0
46.2
81.2
91.3
91.8
白人
48.4
55.6
50.3
アフリカ系
330
30.4
26.4
ヒスパニック
10.7
7.8
15.9
その他
7.9
6.2
7.5
英語のみ
80.5
84.6
74.5
その他
19.5
15.4
25.5
市民(現地生)
81.5
85.5
75.1
非 U.S.市民
7.7
7.2
12.5
結婚
46.2
42.7
44.2
未亡人
4.5
4.4
9.6
離別
19.3
20.7
24.6
非婚
30.1
32.0
21.6
年齢(%)
性別
女性(%)
人種(%)
自宅使用言語(%)
市民権(%)
婚姻(%)
146
病院助手
ナーシングホーム助手
在宅ケア助手
(Hospital Aide)
(Nursing Home Aide)
(Home Care Aide)
高卒未満
17.6
26.3
30.9
高卒
35.4
41.3
34.7
カレッジ入学
38.7
28.6
27.8
8.3
3.8
6.6
教育(%)
それ以上
※Rhonda J.V. Montgomery et. al.(2005). A profile of home care workers from the 2000 census: How it changes
より編集。
what we know, The Gerontologist, 45, 593-600. Table2.
図 14
直接介護職員(1999 年従事者)の雇用状況
合計
通年フルタイム
一時期・パート
病院
ナ ー シ
在 宅 ケ
病院
ナ ー シ
在 宅
病院
ナーシ
在 宅
助手
ン グ ホ
ア助手
助手
ン グ ホ
ケ ア
助手
ングホ
ケ ア
ー ム 助
ー ム 助
助手
ーム助
助手
手
手
手
雇用形態(%)
通年フルタイム
52.4
48.3
34.3
47.6
51.7
65.7
営利企業
63.4
76.9
61.7
非営利企業
19.0
13.4
8.2
行政機関
17.4
9.3
12.4
自営
0.0
0.3
16.8
不払家内従事者
0.1
0.1
0.9
年平均
44.0
42.5
40.7
51.8
51.8
51.8
35.3
33.7
34.9
週平均
37.0
37.2
37.0
41.8
42.0
46.0
31.8
32.6
29.0
時間当り($)
14.44
11.46
13.38
11.79
9.50
9.51
17.36
13.29
15.39
年間($)
19,922
15,751
14,369
25,294
20,430
22,002
14,007
11,380
10,803
11.4
16.4
19.3
3.5
6.8
8.7
19.9
25.3
24.9
一時期・パート
従事先(%)
就労時間(時間)
収入(平均)
貧困レベル未満
※Rhonda J.V. Montgomery et. al.(2005)Table3.より編集。
147
8. 介護サービス従事者の確保育成策
(1) 連邦レベルでの政策的関心
前節で指摘したように、直接介護職への雇用機会は非常に良好ではあるが、その背景に
は、介護サービスニーズの増加のみならず、離職率の高いことがある。介護ニーズが増大
する一方の状況で、離職率の高さ等により充分なサービスが供給できない状況は、
「ケアギ
ャップ」として問題視されていた。
特に 2000 年以降、直接介護職員の不足という問題への政策的関心は、連邦政府内で高
まってきており、介護労働力に焦点をあてた報告書が提出されたり、対策のための補助金
が大規模に措置されたりしてきている。また、多くの州でも、1990 年代末以降、介護人材
の不足を深刻な問題として認識している。
2000 年以降に出された介護労働力に関する連邦政府レベルの主な報告書としては、以下
がある 35 。
①2001 年 5 月
会計検査院「会計検査院証言-看護労働力:看護師・看護助手の確保
定着への関心の高まり」(GAO testimony: Nursing workforce: Recruitment and retention of
nurses and nurse aides is a growing concern. Scanlon, William J. May 2001. General
Accounting Office.)・・・会計検査院(GAO)が議会への証言として提出した報告書。現
状や今後の看護・介護職員配置問題に関して包括的に分析している。報告書には、看護・
介護労働力の不足分の算定、属性データ、労働に及ぼす重要な要因(賃金・労働条件・
人口構造の変化)の分析、人材不足を訴える州の戦略といった資料が含まれている。
②2003 年 5 月
厚生省および労働省「ベビーブーム世代の高齢化に伴う介護従事者の
将来的供給」
(The future supply of long-term care workers in relation to the aging baby boom
generation. Department of Health and Human Services and Department of Labor. May
2003. )・・・報告書によれば、ベビーブーム世代の高齢化に伴う介護ニーズを満たす
には、2050 年までに 570 万~650 万人の介護に従事する看護師、看護助手、在宅保健助
手、身体介護職が必要とされている。多様な介護場面において質の高い直接介護職員を
確保するための、連邦レベルでの広汎な諸施策のリストが掲載されている。ワーカーの
確保定着に関しては、1.新たな層からのワーカー確保、2.効果的な初期および継続
的教育訓練の実施、3.労働時間、事務作業、敬意、安全という観点からの業務条件の
改善、4.報酬、給付、昇進機会の改善、という 4 つの課題が示されている。
③2004 年 2 月
厚生省、医療資源事業庁(Health Resources and Services
Administration: HRSA)医療専門職局「看護助手、在宅保健助手および関連保健医療職
種―全国および地方における労働力の不足と関連データの必要性」
(Nursing aides, home
35
報告書の概要については、以下のサイトの掲載内容を参考にした。
http://www.directcareclearinghouse.org/s_state_det5.jsp?res_id=52&action=null
(22Feb,2008)
148
health aides, and related health care occupations: National and local workforce shortages and
associated data needs. National Center for Health Workforce Analyses, Bureau of Health
Professions, Health Resources and Services Administration (HRSA). February 2004.
Department of Health and Human Services. )・・・直接ケアワーカーの不足拡大につい
ての報告書。認定看護助手(certified nursing assistants :CNAs)や在宅保健助手に対する
需要が記録的に伸びている一方で、その供給が減少していることを指摘している。不足
改善の兆しがないこと、「確保・募集(recruitment)」ではなく「定着(retention)」の
問題であり、低報酬、専門職としての向上機会の少なさ、その他の要因にもとづく高い
離職率が問題であることを指摘している。さらに、人材不足の構図を正確に捉えること
の困難を、既存のデータ入手源におけるデータ制約の問題(項目の不在、定義のばらつ
き、大雑把すぎる分類項目など)と関わらせて指摘している。
④2006 年 12 月
厚生省監査局「メディケイド適用の身体介護従事者に対する州の要
件」(States' requirements for Medicaid-funded personal care service attendants. Pattison,
Brian T., et al., December 2006, Office of Inspector General, Department of Health and
Human Services. )・・・身体介護従事者に対して州が課している要件と、州の監督方
針について検討した報告書。身体介護従事者の要件が全国で 301 個、内容も非常に多様
であることが明らかにされた。最も共通的な要件として、素性調査(background checks)、
訓練、年齢、指導(supervision)、健康状態、教育の6つが指摘されている。しかし、
各事項について、州ごとに要件の内容が異なっている。また、見直し(review)の頻度
と範囲も多様である。報告書では、要件をモニタリングしやすくして質保証の向上を図
るという点から、要件の標準化の必要性に言及している。
これらの報告書をみると、連邦および州政府の政策レベルにおける基本的な問題認識
が「人材不足」であることを反映し、政策課題の中心は「人材の確保定着」に置かれて
いる。「育成」については、「ケアの質保証」という文脈で論じられるほか、「確保定着」
を実現する手段としての有効性という観点から言及されることも多く、「確保定着」と
「育成」は、独立した課題として明確に区分されてはいないようである。
(2)介護職・介護労働力の確保定着に向けた政府の取り組み
上記報告にみられる政策認識のもと、介護職・介護労働力の確保定着に向けた全国的な
広がりをもつ取り組みが、連邦行政、大統領府により行われつつある。また、政府・財団
等からの大規模な補助金が、
「介護労働問題」の研究や取り組みに対して流れるようになり、
そうした資金にもとづく研究プロジェクト(実践をまきこんだモデル事業や研究・情報セ
ンターの運営など)も、進められている。以下では、連邦政府レベルの取り組みの概要を
示し、次節(3)で、それ以外の民間財団等のレベルでの全国的な取り組みの概要を示す
149
36
。
厚生省メディケア・メディケイドサービス庁(CMS)
①「真の選択にむけたシステム改革」補助金(Real Choice Systems Change(RCSC)
Grant)・・・介護システム向上のために寄与している州および州の団体、計 20 箇所
に補助金を交付。受領団体は、直接ケア職員の確保定着(recruitment and retention)の
改善にむけた取り組みを、少なくともひとつは行っている。補助金にもとづき直接介
護労働力の向上のための取り組みを行っている州は、アラスカ州、アーカンソー州、
ジョージア州、ケンタッキー州、メーン州、メリーランド州、モンタナ州、ネバダ州、
ニューハンプシャー州、ニュージャージー州、オレゴン州、ヴァーモント州。
②2006 年
全国直接サービス労働人材センター(National Direct Service Workforce
Resource Center)の設置・・・一層拡大する直接介護従事者不足への対応として、直
接介護人材の確保定着の改善にむけた試みを支援するために CMS が設置した。直接
介護サービス労働力・人材に関する情報とリソースを提供している。
厚生省計画評価担当次官補室
(Office of the Assistant Secretary for Planning and Evaluation:ASPE)
ASPE が補助金交付している直接介護労働力の向上に関する取り組みは以下の通り。
①全国看護助手調査 National Nursing Assistant Survey ・・・ナーシングホームの看護
助手のキャリアに人々を引き込む要因、業務満足・定着意欲を引き出す要因を探るた
めに、2004 年全国ナーシングホーム調査において、付属調査として初めて認定看護助
手(Certified Nursing Assistants)調査を実施し、賃金、労働条件、職場の認識、仕事の
責任、スーパービジョンの役割等を調べる。
②在宅保健助手調査の設計 Home Health Aide Survey Design・・・在宅ケア助手労働力
の規模と特徴に関するデータ収集の調査とデザインを発展させることを目的とする。
在宅保健助手調査のデザインは、全国ナーシングホーム調査の付属調査であるとして
認定看護助手調査を当てはめたものである。
③在宅保健助手のパートナーシップ評価 Home Health Aide Partnership
Evaluation ・・・サービス事業者 「the Visiting Service of New York」が実施した、「在
宅保健助手との協働」プロジェクトの事業評価プロジェクトでは、ケアチームの一員
としての在宅保健助手の役割を高める試みが行われ、結果として、ニーズにより効果
36
以下の取り組み概要は、カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校をベースに開設された
PAS(Center for Personal Assistance Services )のウェブサイトhttp://www.pascenter.org 内
で参照した。
http://www.pascenter.org/frames/pas_frame.php?site=http%3A%2F%2Fwww.directcareclea
ringhouse.org%2Findex.jsp(22Feb,2008)
150
的にマッチングした患者サービス、患者のセルフケア・マネジメントの向上、ケアの
継続性、在宅看護助手と患者やスタッフの満足度の向上が得られた。評価事業では、
在宅看護助手の協働が、患者のアウトカムや従業員文化、組織文化に及ぼした影響を
測定する。
④現場スーパーバイザー調査 Frontline Supervisor Survey ・・・現場のスーパーバイザ
ー調査の目的は、労働力開発の試みに参加する現場スーパーバイザーの経験や視点に
ついて、政策担当者の理解を促すことにある。約 130 のナーシングホーム、介助付住
宅施設、在宅保健事業者、成人向け通所事業者を対象に、スーパーバイザー調査が実
施される。これは、the Better Jobs, Better Care モデル事業の一環である。
⑤TANF 受給者の介護従事者としての適合性
Suitability of TANF Recipients as
Long-Term Care Workers ・・・抽出した州での調査データおよび事例の分析により、
介護分野の潜在労働力としての TANF 受給者の特性と技能、TANF 受給者を介護分野
の雇用と結びつけようとした事業から得られた教訓、受給者が介護分野の業務につな
がるのを促進または阻害するような労働力開発システムや welfare-to-work 政策実践の
あり方に関して検討される。
⑥直接介護従事者の確保定着に関する全国シンポジウムの開催
Follow-up Activities:
The National Symposium on the Recruitment & Retention of Direct Care Workers・・・
2004 年の春に開催。シンポジウムの意図は以下の通り。1.これまでに得られた教訓
の政策担当者等との共有、2.シンポジウム後の成功例やギャップ把握のための会議
招集の地固め、3.革新的なパートナーシップ活動の提示、4.直接介護労働力の向
上にむけた州や地域での取り組みを通じて得られる、民間セクターが利用可能なリソ
ースの提示、5.質の高い介護労働力の確保に関する政策寄与的な研究やモデル事業
の機会の提示。
大統領の提唱にもとづく取り組み
①直接サービスの地域労働力向上のモデル事業 the Demonstration to Improve the
Direct Service Community Workforce ・・ブッシュ大統領の大統領令(13217)として、
2001 年に出された「新たな自由への取り組み
New Freedom Initiative」―障害や長期
疾患のある全ての人々がコミュニティで暮らす上での障害(barriers)を取り除くため
の取り組み―の一環として実施されたもの。2003 年度は、計 600 万ドルに及ぶ補助金
(140 万ドル3箇所、68 万ドル2箇所)が、直接介護労働力の確保・定着のための戦
略を検証するプログラム、対象を絞った人材募集プログラム、ウェブ登録制度等など
にあてられた 37 。2004 年度には、今後3年間の試行期間に、補助金受領者が直接介護
それぞれ 140 万ドルの補助金交付先は、ニューメキシコ州医療部、メーン州知事医療政策財
政室、ノースカロライナ州サービス事業者Pathways for the Future、の3者である。68万ド
37
151
職員に健康保険を提供するとして、州ないし関係機関・事業者の3者に 140 万ドルず
つの補助金が交付された 38 。また、教材、サービス従事者の研修、助言プログラム
(mentorship programs)等の開発として、2者にそれぞれ 68 万ドルの補助金が交付さ
れた。
②大統領の高成長職業訓練のとりくみ The President's High Growth Job Training
Initiative・・・12 の産業分野において、公的な労働力システム、事業・産業、教育訓
練機関のパートナーシップの発展と経済発展を目指すもの。国民が良い職業につくた
めに必要なコンピテンシー獲得へのアクセスを最大限に広げることを通じ、労働力問
題への処方箋を協働でつくりだすことが目指されている。労働省の雇用訓練庁
(Employment & Training Administration;ETA)の管轄である。ヘルスケアも該当産業
とされ、計 2400 万ドル以上の補助金が支出された。非営利の研究機関 the
Paraprofessional Healthcare Institute(「専門補助ヘルスケア研究所」)が 100 万ドル近
い補助金を受け、直接介護職員の確保定着に関連する多層的な労働問題に焦点をあて
た事業を実施している。研究所の取り組みとしては、1.人材募集・実務研修キャリ
ア向上モデルの開発、2.現場スーパーバイザーのためのコーチング法の開発、3.
問題解決型研修カリキュラムの開発、4.効果的な専門補助労働力の向上にむけたガ
イドブック、カリキュラム、教育マニュアルの公刊、5.全国的な変革をもたらすよ
うな「信頼にもとづく医療システム」との戦略的な関連付け、などである。
(3)民間部門での取り組み~財団補助金等にもとづく取り組み
介護労働力に関する研究や取り組みに対しては、近年、民間の財団からも多額の助成
金・補助金が支出されている。
①「よりより仕事、よりよいケア」プロジェクト
Better Jobs Better Care 39
・・・ア
トランティック・フィランソロピーとロバートウッドジョンソン財団からの補助金に
よる、4年間で 1550 万ドルの研究・モデル事業のプロジェクトである。目的は、直
接介護職員の高い欠員率・離職率を引き下げるための変革を介護の政策と実践にもた
し、介護労働の質向上に貢献することである。補助金によるモデル事業先として5つ
の州ベースの連合体(行政・事業者等)が選ばれている 40 。
ルの補助金交付先は、デラウエア大学、 the Volunteers of America, Inc(全国規模の地域対
人サービスを提供する非営利組織)。
38 140 万ドルの補助金交付先は、バージニア州医療補助サービス部、ワシントン州の機関であ
る「在宅ケアの質認証機関」、インディアナ州の非営利サービス事業者Bridges, Inc.である。68
万ドルの補助金交付先は、アーカンソー州福祉部、ケンタッキー州のサービス事業者Seven
Counties Services, Inc.である。
39 プロジェクトのウェブサイトは、www.bjbc.org である。
40 アイオワ州、ノースカロライナ州、ペンシルバニア州、オレゴン州、ヴァーモント州
152
②営利ナーシングホームにおける文化変革の評価事業
Evaluation of Culture Change
in For-Profit Nursing Homes: Business Innovation at Beverly Enterprises ・・・ナーシ
ングホーム産業において「文化変革」という呼び名で知られる 10 年にわたる草の根
の運動は、ナーシングホームのあり方を根本的にかえつつある。コモンウェルス財団
の補助金による評価事業では、合衆国最大の営利チェーン Beverly Enterprises により運
営されているナーシングホームで実施された、文化変革の新たな取り組みに焦点をあ
てている。文化変革による変化を把握し、ユニット、施設、事業体レベルでの改善の
促進/阻害要因を明らかにする。質的な変革が企業の事業利益も促進するという証拠
を通じて、ナーシングホームの3分の2を占める営利施設への絶大な波及効果が見込
まれることが期待されている。
③労働組合SEIU健康保険プロジェクト
SEIU Home Care Workers Health Insurance
Project 41 ・・・The Service Employees International Union (SEIU) サービス従事者国際労
働組合は、低賃金・パートタイム、中高年女性が中心となる直接ケア職員の健康保険
加入に関して、優れた実績を積み重ねてきた。ロバートウッドジョンソン財団の補助
金をうけ、SEIUはこれまでの取り組みを分析し、在宅ケア労働における高い無保険者
の割合を引き下げるための、労働組合や他組織の取り組みモデルの開発を手がけてい
る。
③介助サービスセンターの設立
The Center for Personal Assistance Services 42 ・・・カ
リフォルニア州立大学サンフランシスコ校をベースに開設されたセンター。以下のよ
うなテーマで、介助サービス(personal assistance services)に関する研究、訓練、情報
共有、技術支援を行っている。1.フォーマルおよびインフォーマルな介助、介護者
支援、介助技術(assistive technology)の相互関連、2.在宅・地域における介助サービ
スに関する政策、プログラム、阻害要因、新たなモデル、3.介助サービス労働の開
発、確保・定着、給付、4.フォーマルおよびインフォーマルな介助サービスの職場
(労働環境)モデル。
41
42
ウェブサイトはwww.seiu.org
ウェブサイトはwww.pascenter.org
153
(4)全国レベルでの研究調査報告書
介護職・介護者の確保育成をはじめとする州の介護労働力関連施策の全国的動向につい
て、近年では複数の調査が実施されてきている 43 。概要は以下の通り。
①2005 年『直接介護労働力に関する州の取り組みに関する 2005 年全国調査結果』Results
of the 2005 National Survey of State Initiatives on the Long-term Care Direct-care
Workforce.
by The National Clearinghouse on the Direct Care Workforce
and
The
Direct Care Workers Association of North Carolina, September 2005.・・・介護労働力の確
保育成に対する州政府ごとの取り組み状況は、ノースカロライナ州保健対人サービス
部と研究機関が、1999 年より定期的に全国調査を行い報告書を刊行している 44 。最新
の 2005 年調査は、ノースカロライナ州直接介護従事者協会と研究機関との共同実施
となっている(回答 38/50 州 76% 45 )。調査で、直接介護職員の不足(vacancy)が
深刻な労働力問題であると回答した州は、29(全回答州の 4 分の3)であった。
②2006 年AARP Public Policy Institute報告書『良質なケアのための支払い:直接介護従
事者への賃金・給付改善にむけた州レベルおよびローカルな戦略』Paying for quality
care: State and local strategies for improving wages and benefits for personal care
assistants.
by Seavey, Dorie and Vera Salter・・・メディケイド適用の介護サービスを
提供する直接介護従事者への賃金・給付改善にむけた州・地域の取り組みとしてメジ
ャーな7つの取り組みについて紹介し、その長所、短所を分析している。7つの取り
組みとは、「wage pass-through制度(直接介護職員という特定グループに限定した、
議会承認による特別支出の制度化 46 )」、「事業者の業績目標とリンクした償還率の
引き上げ」「償還レートの更新(updated reimbursement rates)」、 「州のメディケイ
ド機関との法定闘争」、「集団交渉」、「生活賃金の法令化(ordinances)と最低賃金
引き上げ」、「健康保険適用の取り組み」。
43
以下のURLを参照(フルテキストも閲覧可能)。
http://www.pascenter.org/frames/pas_frame.php?site=http%3A%2F%2Fwww.directcareclea
ringhouse.org%2Findex.jsp (22Feb,2008)
44 以前の調査を含め、以下のサイトで閲覧できる。 www.directcareclearinghouse.org.
45 1999 年の調査以降の回収率は、
1999 年 42/48 州 88%、2002 年 37/43 州 86%、2003 年 35/44
州 79.5%である。Results of the 2003 National Survey of State Initiatives on the Long-term
Care Direct-care Workforce. by the Paraprofessional Healthcare Institute and the
North Carolina Department of Health and Human Services’ Office of Long Term Care,
March 2004, p.5.
46 同報告書内の定義より。Seavey, Dorie and Vera Salter(2006).Paying for quality care:
State and local strategies for improving wages and benefits for personal care assistants,
AARP Public Policy Institute, p.5。
154
9. まとめと考察
これまでの内容を整理する。
①
アメリカには公的で一元的な介護保障制度は存在しない。公的制度としては、医療
保険制度メディケアと医療・介護扶助メディケイドがあるが、費用・サービスの供
給に関する公的制度の役割は残余的であり、インフォーマル資源・家族資源への依
存度が高く、個人および家族の介護の負担が非常に重い。他方で、市場を通じた個
人の自助努力による問題解決に対しては、一定の公的支援が進められつつある(民
間市場のサービス・保険購入への税控除など)。但し、公的な介護関連費用も増加
を続けており、政策としては積極的な介護保障よりもむしろ施設・在宅の両面で費
用の抑制・効率を重視した政策が志向されている。
②
介護事業で、メディケイド・メディケアの償還を受けるためには、連邦の法や規制
の要件に合致し事業者指定を受けること、また、各州での事業実施にあたっては、
州法及び州規則の要件に合致し州による許可(licensure)を受けることが義務付け
られることが多い。また、個々のサービス従事者についても、特定の業務を行うも
のについては免許または登録制度が設けられている。しかし、州により、メディケ
イド・メディケアがカバーするサービスの内容も、許可要件・従事者要件の内容も
多様である。
③
家族介護支援としては、親族および医療休暇法(FMLA)(1993 年)と全国家族介
護者支援プログラム(NFCSP)(2000 年)が二本柱となっている。介護者のうち、
就労しているものの割合が多いなか、前者は雇用と結びついた休暇(所得保障)制
度だが、適用者の範囲の限定性が課題となっている。後者は、高齢アメリカ人法に
おいて初めて、施策直接的な対象として家族介護者を含めた点で、インフォーマル
ケアの公共政策上の認知として意義がある。但し、予算規模や運営上の課題により、
その効果は限定的である。また、メディケイドでは、介護提供者である親族への手当
が認められているが、 近年では 直接的な家族介護への金銭保障が目的というよりも、
「消費者主導ケア」理念にもとづくプログラム(Cash and Counseling 等)の一部と
して具体化されている。
④
介護サービス従事者に関して、施設サービスでは、ナーシングホームについては連
邦の最低基準がある。最低配置水準は、看護長と看護師についてのみ設定されてお
り、看護助手についてはなく、州が独自に定めている場合も多い。直接介護職員(看
護助手)は、連邦規則による 75 時間の研修とコンピテンシー・テストが要件とし
て課され、認定看護助手として州に登録される。在宅サービスでは、訪問リハビリ
や訪問看護などの専門的看護の従事者については、免許・登録制度がある。しかし、
在宅保健助手については、メディケアからの償還をうける要件として連邦政府のガ
イドラインによるコンピテンシー・テストがあり、民間団体による認定制度もある
155
が、登録は必須ではない(但し、州によっては免許制度を取り入れたところもある)。
また、身体介護・家事援助サービ従事者については、連邦レベルでの要件はなく、
研修を要件とする州、要件のない州と多様である(民間団体レベルでは、75 時間研
修とコンピテンシー・テストからなる認証制度がある)。
⑤
介護職への雇用機会は非常に良好ではあるが、その背景には、介護サービスニーズ
の増加のみならず、離職率の高さがある。介護ニーズが増大する一方のなか、離職
率の高さ等により充分なサービスが供給できない状況は、「ケアギャップ」として
問題視されていた。特に 2000 年以降、直接介護職員の不足という問題への政策的
関心は、連邦政府内で高まってきており、介護労働力に焦点をあてた報告書が提出
されたり、対策のための補助金が大規模に措置されたりしてきている。ワーカーの
確保定着に関する政策課題として政府が指摘しているのは、1.新たな層からのワ
ーカー確保、2.効果的な初期および継続的教育訓練の実施、3.労働時間、事務
作業、敬意、安全という観点からの業務条件の改善、4.報酬、給付、昇進機会の
改善、といったものである。
⑥
2000 年以降、介護職・介護労働力の確保定着に向けた取り組みが、連邦行政、大統
領府、その他財団や事業者団体・労働団体等により行われている。また、政府・財
団等からの大規模な補助金が、「介護労働問題」の研究や取り組みに対して流れる
ようになり、そうした資金にもとづく研究プロジェクト(実践をまきこんだモデル
事業や研究・情報センターの運営など)も進められている。
以上にもとづき、アメリカ合衆国の介護供給バランスの特徴、介護者の確保育成策を、
主に親族介護者(インフォーマルな介護者)への支援、サービス従事者の確保育成という
二つの側面から考察する。
アメリカ合衆国における公的な介護制度は、対象者の選別性や一元的な制度の不在、ニ
ーズのカバーされる範囲・程度がかなり限定的であるという点で、
「公的介護制度が残余的」
な類型といえる。その結果、インフォーマル資源・家族資源への依存度が高く、家族の介
護負担は非常に重くなっている。他方で、市場を通じた自助努力での問題解決に対する公
的支援が一定程度進められており(民間市場のサービス・保険購入への税控除など)、介護
ニーズの充足においても「市場型」への志向がうかがえる。
介護ニーズの充足において公的部門の果たす役割は残余的とはいえ、費用に占める公的
部門の割合が高く、公的財源からの費用補助・償還を伴った介護サービスは成長を続けて
おり、サービス事業者に対する公的部門の影響力は小さくない。こうしたサービスについ
て、政府は、費用抑制・効率という視点を重視しつつ、施設ケアから地域・在宅ケアへの
シフト、新たなケアモデルの開発などを進めている。新しいモデルのひとつ「消費者主導
モデル」では、Cash and counseling という、親族も含めた介護者への手当制度が導入普及
156
され始めている。Cash and counseling プログラムの効果として、家族介護者への間接的支
援という側面も見逃せず、こうした新たなモデルについても、介護者の確保育成という側
面からの意義・課題を掘り下げる必要があるだろう。
介護従事者の確保育成については、連邦および州政府の政策レベルにおける基本的な問
題認識が人材不足であることを反映し、政策課題の中心は「人材の確保定着」に置かれて
おり、
「確保定着」と「育成」は独立した課題として明確に区分されてはいないようである。
介護者の確保育成への政府の取り組みで、サービス従事者に関しては、事業者の指定・
認可や費用償還の要件設定等の規制的役割を通じて実施できる余地も大きい。ただし、こ
うした規制は、連邦レベルで設定されたものが統一的に適用されているわけではなく、州
の裁量による追加的な規制も多種多少である。介護者の確保育成の、どのような事項につ
いて、どのような手段で、連邦政府(中央政府)が影響力を行使しようとするのか、州と
の協働関係を構築していくのか、それによりどのような成果/課題が見込まれるのか、地
方分権を進めようとしている日本との比較においても、検討を深めるべき課題といえる。
介護者の確保育成に関する公的部門内での役割分担(中央政府-地方政府の関係)に加
え、公的部門と民間部門とのパートナーシップに関して、興味深い点が多い。政府のみな
らず、民間財団からの大規模補助金を活用した各種モデル事業や評価研究プロジェクトの
実施は、民間非営利セクターの財政面での強さや、公私のパートナーシップの重視を反映
している。また、民間営利事業者が多いなか、介護者の確保育成策においても、民間事業
者との役割分担・協働をどのように設定するか、民間事業者に対してどのような実効的な
施策を組み立てるか、ということを踏まえた評価事業などが実施されている点は、営利事
業者の多い日本にも示唆的な点である。
10.おわりに
今年度の研究から、アメリカ合衆国は、「公的介護は残余的」である一方で、介護サー
ビス費用に占める公的部門の割合が比較的高く、介護サービス事業に公的部門が及ぼす影
響力は比較的大きいこともうかがえた。また、介護サービス制度の体系や介護者の状況お
よび確保育成策の動向の整理を通じ、興味深い論点として、新たなケアモデルの展開(「消
費者主導」モデルとしての cash and counseling など)と介護者の確保育成との関連、介護
者の確保育成に関する連邦政府と地方政府(州など)との協働・役割分担、行政と民間部
門や事業者との協働・役割分担、などが浮かび上がってきた。
今後の研究課題としては、こうした論点について先進事例の検討を通じた考察を行いた
い。その上で、アメリカ合衆国の介護確保育成策と介護供給の特徴を、一般的な福祉国家
類型におけるアメリカの位置との対応関係に留意しながら考察し、我が国及びドイツ、フ
ィンランド、イタリアの事例と比較した際の、アメリカ合衆国の特徴を明確にする。その
上で、アメリカの事例が日本に示唆する点を整理したい。
157
Fly UP