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美的グループのブランド戦略

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美的グループのブランド戦略
経営学研究論集
第36号
2012.2
美的グルー プのブラン ド戦略
The Brand Strategy of Midea Group
博 士前期課程
蘇
経営学専攻 2010年 度入学
知
詢
SU Zhiyun
【論 文 要 旨】
After 30 years'development,Chinese household appliance industry has reached a rnaturity stage.
The price competition has turned to the brand competition.Brand strategy is particularly important
for the Chinese household appliance companies to enhance their competitive advantage in the nerce
market completion.
This article analyzes the brand strategies v″ hich are taken by A/1idea Group.Through these brand
strategies,PIidea Group has successfully built up a strong brand― ―“A/1idea'' At irst,this article
revie、vs
the history of the development and the brand consciousness formation process of Chinese
household appliance industⅣ .Then this article analyzes the brand strategies which have given the
high speed groM″ th to WIidea.
【キー ワー ド】 中国家電産業 (Chinese hOusehold appliance industry),中 国家電企業 (Chinese
household appliances company),美 的グルー プ (Midea group),ブ ラン ド戦略
(Brand strategy),プ ラン ドカ (Brand power)
I.は じめ に
1978の 年改革 ・開放以降 ,中 国の家電産業は急速 に発展 し,今 や中国の支柱産業の一つ となっ
た。供給過剰や価格競争の激化 ,消 費者の家電 に対するプラン ド志向への変化 ,競 争のグ ローバル
化など,家 電企業を取 り巻 く環境はます ます厳 しくな りつつある。 このような厳 しい環境の中で勝
ち残 るために,プ ラン ド戦略を通 じて競争力を強めてい くことはあ らゆる中国家電企業が直面 して
い る最 も重要かつ緊急な課題である。
論文受付 日 2011年 10月 3日
大学院研究論集委員会承認 日 2011年 11月 9日
-21-
近年 中国家電産業 が 目覚 しい発展 を遂 げたため ,同 産業発展 の軌跡 ,技 術革新及 び企 業 の経営戦
略 な どに関わ る研究 は ,国 内の みな らず海 外 において も盛 んに行 われて きた。 それ らの研究 の中
,
ブ ラン ド戦略 に着 目す る研 究 も少 な くな い。 しか しなが ら,中 国家電 企業 のプ ラン ド戦略 に関す る
研究 の中 ,ほ とん どの研究 は中国家電業界の トップ企業 であ るハ イアールのプ ラン ド戦略 を対象 と
す るものであ り,他 の家電企業 のプ ラン ド戦略 に関わ る研究 は少な い。
本稿 は ,組 承立 て工 場 か ら大手家電企業 にまで成長 して きた美的 グル ー プ が どの ようなプ ラン ド
戦略 で 今 日の ような成 功 を収 めたかを研究 す るこ とに した い。本稿 では まず ,中 国家電産業 の発展
史 を踏 まえなが ら中国家電企業 のブ ラン ド管理意識 の形成 や プ ラン ド戦略 の展開 プ ロセ スを考察 す
る。 そ して ,そ の背景の も とで成長 して きた美的グルー プのプ ラン ド戦略 を分析 す る。
工 .中 国 家 電 産 業 競 争 の 背 景
:.中 国家電産業 の発展 プ ロセ ス
中国家電産業 は新 中国が成立す る前の空 白状態 か ら発 展 し始 め ,量 産期 ・技術導 入期 を経 て ,今
日の成熟期 に至 った 。 ここでは ,中 国家電 産業 の発展 プ ロセ スを 4つ の歴 史的 な段階 に分 けて 考
察 す る。 これを通 じ,中 国家電 企 業 が どの ような発展 の段階 を経 て ,今 日まで至 ったのかを明 らか
にす る。
(l)萌 芽期
(!949年 一1978年 )
重化学 工 業発展優先 の産業政策 も実施 されて いた この時期 ,電 力供給不足 や国民の消費 レベ ノ
ンの
低 さ とい った原 因 もあ ったので ,家 電産業 の発展 は政府 に よって長年制限 されて いた。極少量 で生
産 された洗濯機 ,冷 蔵庫 や テ レビな どの家電 製 品 もほ とん ど企業 ,病 院や商店 な ど集 団向け業務用
に使 用 され ,個 人や家庭 の消 費対象 には な らな か った 。 70年 代 末頃 ,一 般 家庭 の主 流家電製 品 は
扇風機 ,電 気ア イ ロン ,ラ ジオな どの技 術 レベ ルが低 い家電製 品であ った [陳 (2005),3頁 ]。
この時期 の中国家電産業 にお いて は ,地 方 に散在 して いた 中小家電 メー カー しかなか った。 これ
らの中小家電企業 は ,製 品の開発能 力を持 たず ,外 国 メー カーや国内他社 の製 品 を模倣 す るこ とし
かで きず ,作 った製 品 もかな り粗末 であ った。製 品 がい ったん市場 に出た後 もよ く壊 れ ,常 に修理
しなければ な らな いた め ,家 電企業 は長 年専 門の修理 チ ーム を持 っていた [陳 (2005),5頁 ]。 こ
の ように,当 時 の中国家電産業 は生産規模 も技術 も,先 進 国 と比 べ ,あ らゆ る面 で著 し く遅 れて い
た。
(2)技 術導入期
(1978年 -1992年 )
1978年 に改革 ・開放 路線 が打 ち 出され る とともに,従 来 の重 工 業優 先 の発展戦略 が見 直 され
家電製 品の生産 が政府 の支持 を受 け られ る ようにな った [天 野 (2005),117頁
]。
,
供給不足 の市場
環境 の中 ,家 電生産 の収益 率 はかな り高 か ったの で,数 多 くの企業 が家電生産 に参 入 し,家 電製 品
―- 22 -―
の組み立てを始めた [陳 (2005),5頁 ]。
供給不足の市場の中で,企 業間の競争はあま り無かった。消費者側 もブラン ド名を問わずに,家
電製品を入手できれば満足に繋がったため,各 家電 メーカーは品質管理 ,プ ラン ド構築な どにはほ
とんど関心を持たずに,技 術導入だけに専念 し,技 術導入ブーム を生ふ出した。
その後 ,中 国家電市場は生産過剰にな り,企 業間の競争 も激化 した。競争力が弱 い家電企業は継
続的な経営 ができな くな り,倒 産 した り,他 の有力企業に買収 された り,家 電企業数の減少が始ま
った。例 えば,1988年
[余 (2005),22頁
]。
,全 国に冷蔵庫の企業数は114社 あったが ,1992年 には72社 まで減少 した
このような激 しい競争の中で生 き残るために,家 電企業は生産現場管理のほ
か,製 品の販売ネ ットワー クの構築 ,マ ス コミによるプラン ドの宣伝な どのマーケテ ィング活動 も
強化 し始めた。例えば,自 ら消費者 への流通ル ー トを開拓す るため,家 電企業は消費地の卸売企業
や小売店 にアプ ローチするよ うになった。また,24時 間ない し48時 間以内の訪間修理サービスを
実施 した。 さらに,国 内の多様かつ独特なニーズに応えるため,家 電企業は自ら技術開発を行 った
[陳
(2005),9頁 ]。 こうして,家 電企業間の競争重点は生産規模の拡大 か ら製品の品質向上 ,新
製品や新技術 の開発 と,サ ービスの レベルの向上に移 った。
(3)市 場開放期
(1992年 -2001年 )
1992年 は郡小平による南巡講話が行われ た年 であるが,主 要製品 で輸 入代替化を達成 した こと
もあ り,家 電製品の市場は順次開放 された。 これを受け,多 くの外国企業が現地生産 ,販 売拠点の
設立などの ような直接投資 によって市場 に参入 した。 1995年 か ら1997に かけ,松 下電器産業 ,三
洋電機 ,ソ ニー,東 芝 ,シ ャープが合併企業を設置 した。フィリップス,サ ムスン電子 ,LGな ど
も現地生産を展開 した [天 野 (2005),122頁 ]。
外国企業の参入の増加により,そ もそも過剰だった生産能力がさらに拡大 した。中国の家電製品
の生産量は1996年 に既に世界 トップレベルに達 した。1999年 に,中 国の テレビ,冷 蔵庫 ,洗 濯機
の生産量が世界の家電生産量 に 占め るシ ェアはそれぞれ36.7%,17.1%,24.5%と なった [天 野
(2005),118頁
]。
そ して中 国企 業は有限 な市場 を争 うために,従 来の国内家電企業間 との競争 だ
けでな く,外 国家電企業 との競争 も始めた。
低価格戦略は中国家電企業 によ く使われる競争手段 であった。90年 代末頃 ,多 くの家電製品の
価格は90年 代の半ばより20-30%下 が り, とりわけカラー テレビの価格は50%以 上 も下落 した [陳
(2005),10頁 ]。 低価格を競争武器 としなが ら,中 国家電企業は研究開発 にも力を入れた。 1999年
中国家電産業の全体を見 ると,研 究開発に投入する資金は平均売上高の 1%に 達 していて,過 去の
05%と 比 べ ,着 実 に増加 して きた
[谷 。日
(2002),4頁 ]。 そ して,中 国家電企業はプラン ドカ
の強化 に注力 し始めた。国内市場で消費者か ら自社ブラン ドに対する信頼を得るために,多 くの企
業が ISO認 証 な どのような国家及び国際の認証を獲得 し,公 的な証明を得 ることに注力 した [王
(2008),110頁 ]。
―- 23 -―
この よ うに ,中 国家 電 市 場 にお い て 中 国 の 家 電企 業 は かな りの競 争 力 を持 つ よ うにな った 。
1997年 に ,中 国家 電 ブ ラン ドの冷 蔵 庫 ,洗 濯機 とカ ラ ー テ レビの 国 内 の市 場 シ ェア は それ ぞ れ
94.6%,85.4%,80.0%に 達 し,圧 倒 的 な市場 シ ェア を占めて いた
[陳 (2005),10頁
]。
さ らに
,
企業間の買収や合併 が行 われ ,製 品や経営の多角化 を果 た した 巨大総合家電企業 が誕生 した。 ハ イ
アール ,TCL,美 的 の よ うな多地 域 に跨 り,複 数 の家電製 品生産 量 で同時 に上位 に立 ち ,家 電業
界のほ かに様 々な業界 に進 出す る大型家電企業 も この時期 に形成 された [陳 (2005),11頁 ]。
)W丁 0加 盟以降 (200i年 以降
“
2001年
に 中国 が WTO(国 際貿 易組織 )へ の加盟 を果 た した。 13億 の人 口を抱 え る巨大 な市場
)
を狙 い ,外 国企業 が中国での 直接投資 を拡大 し,進 出を よ リー 層進 めた。 その結果 ,中 国の家電市
場 におけ る競争 が よ り激 し くな った 。 中国国務 院研究 セ ン ター の2002年 中国都市部 家電 消費調 査
に よる と,2002年 現在 ,中 国の家電市場 において カラー テ レビは 国 内外 を含 めて30個 以上 の プ ラ
ン ドが競争 して い た こ とがわか る [王 (2008),112頁 ]。
一 方 ,政 府 の「 走 出去」政策 に促 され ,中 国の家電企業 は更 な る発展 を求め るため に,海 外投資
を積極 的 に実 施 した りして ,国 際競 争 へ本格 的 に参 戦 し始 めた。 2000年 か ら,多 くの 中国家 電 企
業 はア メ リカや ヨー ロ ッパ ,ア ジアな ど海外 に多 数の生産拠 点や販売拠 点を作 り,海 外の生産 や販
売 を拡 大 してい った。例 えばハ イアー ルはア メ リカ,イ ラン ,イ ン ドネシア ,マ レーシアな どで工
場 を設 立 し,格 力 はプ ラジル に工場 を設立 し,美 的 は ベ トナム ,エ ジプ トな どで工 場 を設立 した
[王 (2008),112-113頁
]。
昔 か ら海外 の消費者 は中国の製 品 に対 して 品質 が悪 い とい う印象 を持
って い るので ,中 国家電企業 に とって ,海 外市場 の競 争環境 は国内市場 の競争環境 よ り更 に厳 しか
ったが ,中 国家電企業 は低価格 を武器 に世 界の家電市場 で急速 に存在感 を増 やす こ とがで きた [宋
(2008),379頁
]。
しか し外 国企業 と互角 に渡 り合 える競争 力 を身 につけ るため に ,今 後 は国際市
場 で 自社 ブ ラン ドを構築 して ,長 期 的 な発 展 を図 らなければな らな い。
2.中 国家電企業 の ブラ ン ド戦略 の発展
1995年 に ,中 国 で最 も権威 の あ るプ ラン ド価値 の比較 研究 を行 う専 門機構 であ る「 北 京名牌 資
産評倍有 限公 司」 は中国企業 がプ ラン ド競争 の時代 に入 った と主 張 した1。 本節 では ,中 国家電 企
業 に よるプ ラン ド構築 の意識形成 ,プ ラン ド戦略 の発 展 を中心 に論 じる。
家電製 品の供給 が非 常 に不足 して いた発展初期 にお いては ,消 費者 が品 質 ,プ ラン ド名 な どに拘
らず ,家 電製品 を入手 で きれば満足 に繋 が った。 こ うした「 作 れば売 れ る」市場環境 の中で ,家 電
企業 もあま リプ ラン ド構築 に関心 を持 たず ,技 術 の導入 ,生 産規模 の拡大 だけに専念 していた。生
産拡大の実現 に伴 い,家 電市場 も売 り手市場 か ら買 い手市場 に転換 して ,家 電企業 間の競争 も現 れ
1「 北京名牌資産評倍
有限公司」ホームペ ージ http:〃 www mpScom cn,2011年 8月 18日 アクセス。
一- 24 -―
た。その時の競争 は品質競争 ,技 術競争 ,価 格競争のみに留まったが,こ の ような徐 々に厳 しくな
った競争 を通 じて,家 電企業はプラン ドの重要性を認識するようになった [王 峰 (2008)]。
1992年 ,郡 小平は南巡講話の際 ,「 われわれは自分の主力製品を持 つべ き」 と指摘 し,ブ ラン ド
戦略の重要性を訴 えた [柳 (2005),89頁
]。
一方 ,市 場開放の進展 に伴 い,世 界的に有名な家電
企業が中国市場に参入 し,海 外ブラン ドと中国ブラン ドは中国市場で熾烈な競争を繰 り広げた。 こ
れを受け,中 国家電企業のプラン ドヘの関心 ,プ ラン ド管理の意識 も急速 に高 まった。 1980年 代
から1990年 代の中頃まで ,商標登録を行 う家電企業が急速に増 えた。 1995年 までには,エ ア コン
業界において登録されたブラン ドは約400も あった [王 峰 (2008)]。 また,こ の時期か ら家電企業
が広告を通 し,ブ ラン ドを構築 し始めた。消費者の家電に対する認識 も製品からブラン ドヘ変わ っ
た。
激 しい競争 の中,一 部の中国系の家電企業は競争力を失 ったのに対 し,有 力な家電企業は外国家
電企業を抜 き,国 内市場において,高 い市場シェアを維持 していた。各家電業界 において,認 知度
が高い中国家電ブラン ドが確立されるようになった。例えば,カ ラーテレビ業界の長虹 ,熊 猫 ,冷
蔵庫業界のハ イアール ,科 龍 ,洗 濯機業界の栄事達 ,小 天鵡 ,エ ア コン業界の格力,美 的な どがあ
げ られる [王 峰 (2008)]。 さらに,企 業間の買収 ・合併が活発 に行われるようになった ことに伴
い,プ ラン ドの淘汰率 も高 くなった。 この結果 ,水 仙 ,威 力のような昔からよく知 られていたブラ
ン ドが淘汰 された。国家情報センターの統計 によれば ,1990年 代末 までに,カ ラー テレビ業界に
おいて,競 争力のあるブラン ドは50強 あったが,2008年 には10し か残 っていなかった。 エア コン
業界,冷 蔵庫業界,洗 濯機業界においても,競 争力のあ るプラン ドの数がそれぞれ110か ら 8ま で
,
75か ら10ま で,80か ら7ま で減少 した [王 峰 (2008)]。
多 くの家電企業が リスクを分散 し,更 なる成長を図るために,海 外進出を始めた。 しかし,海 外
市場に輸出された家電製品の中,中 国のプラン ドで流通 された家電製品はわずかであった。2001
年の米国向け エア コン輸 出量の75%強 が中国 に進 出して いる韓国,米 国, 日本の家電企業 によっ
て占め られて いた。中国家電企業のハ イアールがほぼ20%を 占め第 2位 だったが ,実 は米国企業
ブラン ドによる輸 出が中心で ,自 社ブラン ドによる輸 出は少なかった [江 原 (2002),73頁
]。
自
社のプラン ドで海外市場の拡大を 目指す中国家電企業が,海 外市場 で苦戦 して初めてブラン ド構築
の必要性を痛感 した。国内市場だけでな く国際市場において も,強 力なプラン ドを確立 しな くては
いけない意識 が高ま った。その後 ,中 国が WTO加 盟を果た し,外 国家電企業の中 国市場 への参
入や中国家電企業の海外展開の本格化 に伴 い,ブ ラン ドカの競争が次第 に厳 しくなって きた [宋
(2008),381頁
]。
現在 ,外 国家電企業 と比 べて中国家電企業のプラン ドカはまだ弱 いが,ブ ラン
ド競争 で勝ち残 るために中国家電企業のブラン ド管理意識 はますます強化 されてい くと思われる。
次節では,こ の ような歴史の流れを経て成長 してきた美的グルー プが,ど のようなプラン ド戦略
を実施 してい るかを分析する。
―- 25 -―
Ⅲ .美 的 グル ー プの 概況
美的 グループの前身は,1968年 広東省lly徳 の北沼鎮で23人 の住民から集めた5000元 の資金で設
立 された「北湾街道プラスチ ック生産チーム」 で,設 立当初はプラスチ ック製品を製造す る小 さな
町工場であった [諄 (2009),261頁
]。
1980年 ,金 属扇風機の試作の成功 をきっかけに,美 的は本
格的に家電生産に参入した。 1981年 か ら「 美的 Jを ブラン ド名 として登録 し,使 用 し始めた [胡
・張 (2009),19頁
]。
1992年 に美的は株式制 への改編を行 い,美 的グルー プ株式会社を設立 し
,
正式に「美的グループ株式有限会社」 となった。設立 してか ら約40年 が過 ぎ,美 的グループは中
国の大型家電企業 に成長 して きた。
美的 グル ー プの平均年成長率 が80年 代には60%に も達 し,90年 代 で も50%に 達 して いた。近年
で も20%超 の成長率を保 っている [胡 ・張 (2009),20頁
]。
2010年 には美的のグ ルー プ連結売 上
高は1150億 元に達 し2,前 年 より21%増 となった。その中,家 電製品の売上が745億 5900万 元を占
め,前 年 より58%増 となった2。 美的 グループの家電生産はそもそも扇風機の製造から始まったが
,
1985年 か らエア コン,冷 蔵庫 ,洗 濯機な どの生産にも参入して きた。現在 エア コン,冷 蔵庫 ,洗
濯機は美的電器の主 力家電製品であ り,2010年 それぞれの売上は総売 り上げの65%,13%,13%
を占めて いた
主力製品以外 に,生 活家電 では扇風機 ,電 子 レンジなど,キ ッチン家電 ではガス
'。
台,食 洗機など,個 人ケアー家電 では ドライヤ,ア イロンなど,さ らにエア コンの心臓部品 エア コ
ン ・コンプレッサーなども製造 してい る。
家電生産 で築 いた強力な経営基盤 をもとに,美 的グループは多角化経営に踏み出した。現在 ,美
的グループは制冷家電 , 日用家電 ,電 気設備 ,不 動産開発 4つ の産業 グループを有 し,家 電生産
を中心産業 としなが ら,業 務範囲 を物流 ,不 動産開発 ,金 融までに広げている [胡 ・張 (2009),
19頁 ]。
美的 の国内生産拠点は ,順 徳 ・広州
[胡 ・張 (2009),19頁
]。
中山 ・重慶 ・安徽 合肥 ・莞湖 ・江蘇 な ど14箇 所 にあ る
各拠点 で生産 された家電製品は,ア メ リカ,イ ギ リス, 日本など200の
国 と地域 に輸 出され ている。 また,企 業のグ ローバ ルな展開 に伴 い,美 的グルー プは積極的に海
外での現地生産を行 い,ベ トナム ・タイ・エジプ ト・ベ ラルーシに生産拠点を持 つ と同時 に,ア メ
リカ ・ イギ リス ・ フラン ス ・韓 国 ・ 日本な どに60以 上の海外販売 会社 を持 って い る [胡 ・張
(2009),19頁 ]。
美的 グループは2004年 か ら順次 ,広 州華澪 ・合肥栄事達 ・重慶美通な どを買収 し,「 美的」の ほ
かに,「 華澪」,「 栄事達」,「 美通」,「 春花」,「
Jヽ
天鶴」 とい うプラン ドを持 った。現在 ,美 的グルー
プの傘下に美的電器 ,小 天鶴 ,威 霊控股 とい う 3つ の上場会社がある [胡 ・張 (2009),95頁 ]。
2010年 美的のプラン ド価値は497億 8600万 元に達 し,「 北京名牌資産評倍有限公司」に より公表
2こ の項 目については,美 的グルー プ「年次報告 (2010年 )Jに 参照す る。
一- 26 -―
された『 2010年 度 中国ブ ラン ドランキン グ』 では ,美 的 が TCL,青 島を抜 き,6位 に ラン クされ
た3。 さ らに,2010年 2月 イギ リスの プ ラン ド価値 コンサル テ ィング会社 Brand Financeが 発表 し
た『世界最 も価値 のあ るブ ラン ド・500ラ ンキング』 の中 ,美 的 グル ー プは唯 一 選 出 された中国家
電企 業 であ った4。
Ⅳ .美 的 グ ル ー プ の ブ ラ ン ド戦 略 分 析
1.ブ ラ ン ド要素の選択 に よるブラ ン ド・エ ク イテ ィの創 出
ブ ラン ド要素 とは ,ブ ラン ド・ネ ーム ,ロ ゴ,キ ャラクター ,ス ローガン ,ジ ングル ,パ ッケー
ジ とい った ものであ る。 これは製 品の識別 や差別化 に役 立 つ情報 であ り,企 業 に とっては競合 ブ ラ
ン ドとの違 い を訴 える有効 な手段 とな る [青 木 ・恩蔵 (2004),142頁 ]。
美的 グル ー プは「 よ り良 い製 品やサ ー ビスを提 供す る こ とに よ り,人 々のため に よ り良 い生活 を
創造 して い くJと い う企業理 念 を明確 に消費者 に伝 え ,「 美 的」 を暖 かみのあ るプ ラン ドとして
,
消費者 に認知 され る ように5,ブ ラン ド・ネ ーム ,ロ ゴ ,イ メー ジ ・キ ャラ クター な ど一連 のプ ラ
ン ド要素 をデザ イン した。
まず ,プ ラン ド・ネームか ら見 よう。美的 グループが 1981年 か ら「美 的 J(英 語 では「 Midea」 )
をブ ラン ド・ネーム として使 い始 め ,現 在 で も製 品のプ ラン ド名 としてだけでな く,企 業名 として
も使用 し続 けてい る。 中国語 では「 美的Jは 「 美 しい ,良 い」 を意 味 して い る。 ブ ラン ド名の「美
的」 と製 品 名を組 み合 わせ る と,例 えば ,「 美的 エ ア コン」 は ,「 良 いエ ア コン」 とい う意味 を持 っ
てい る言 葉 に もな ってい る。
「 美的 Jと い うシン プル で ,特 別 な意 味 を持 ってい るプ ラン ド・ネ ー
ムは ,美 的 グルー プの「 良 い製 品 で ,良 い生活 を創造 す る」5と ぃ ぅ理 念 と一致 して い て ,消 費者
におけ る高 い プ ラン ド認知度 を もた らして い る。
一 方 ,ブ ラン ド・ネ ー ム と同 じ年 に登録 した企業 ロゴ (図 表 1の 左 の方 )は 複 雑 で ,か つ扇風
機 の イ メー ジが 強 す ぎて ,扇 風機 以外 の製 品 に使 い に くい とい う問題 があ った [諄 (2009),82
頁 ]。 また ,国 際的 な事業 展開 に伴 い ,世 界 中の人 々 にブ ラン ド名 を認識 して も らう必要 が生 まれ
た。 その ため ,美 的 グル ー プは ロゴ の変 更 を数 回行 い ,1999年 に企業 ロゴ を 図表 1の 右 の ロゴ に
図表
獨
(出
!
美的グループの最初の ロゴと現在の ロゴ
ID築 籐
欝蛛薇 総醸
所 ):美 的グ ルー プホ ームペー ジ (http://www.
midea com.cn/zh/app/home/index htm,
2011年 8月 18日 アクセス)。
3「 北京名牌資産評倍有限公司
」ホームページhttp://www mpscom.cn,2011年 8月 18日 アクセス。
8月 18日 アクセス。
4 Brand Financeホ ームページ http:〃 wm″ .brand6nance com,2011年
5美 的グループホームページ http://w― midea.com cn/midea/index.do2011年 8月
―- 27 -―
18ア
クセス。
変 え った5。 ロゴの 中 ,丸 い 円 と英文字 の「 M」 と繋 が る こ とは ,美 的 グル ー プ が 日々の技 術 の革
新 で ,人 々に よ り良 い生 活 を創造 す る こ とを象徴 して い る。 また美的 グル ー プの穏 や かな企業 イ
メー ジ と一致 す るように,コ ー ボ レー ト・カ ラー をブル ー に して い る。 ブル ー の イメージは人間 に
安全 ,幸 せな生 活 とい った 印象 を提供 す る。変 更 した後 の ロゴは様 々な家電製 品の外 に,不 動産 開
発 ,物 流 な どあ らゆ る製品あ るいはサー ビスに移転可能 とな った。 また海外進 出す る場合 も,英 語
の「 Midea」 をブ ラン ド名 としてその まま使 う こ とがで きる。
美 的 グルー プはキ ャラ クター の利 用 に も力 を入 れて い る。美 的 グルー プは 1985年 か らエ ア コン
の生産 を始 めたが ,「 美的 Jに は扇風機 のプ ラン ドとい うイメー ジが強 か った。 そのた め 7年 間 の
発展 を経 て も,美 的 エ ア コンの認知 度 は低 い ままであ った。美 的 エ ア コンの知 名度 を上 げ るため
に ,美 的 グル ー プは 1992年 に世 界 で活 躍 して い る中国の人気女優輩刑 を エア コンの イメー ジ ・キ
ャラクター として起用 した。美的 はキ ャラクター を禾1用 してプ ラン ド製 品を宣伝 す る最初 の中国家
電企業 とな った [諄 (2009),266頁
)]。
輩悧 の美 し くて ,国 際 的 な イメー ジは美的 グル ー プに望
ま しい
「 美 し くて ,国 際的 なプ ラン ド・ イメー ジJと フ ィッ トす る。 また輩■llの 高 い影響 力に よ り
,
美 的 エア コンが多 くの消費者 に知 られ るようにな った。 それに よって「 美的」 の家電 ブ ラン ドとし
ての認知 度 もかな り向上 した。 中国家 用電器協会 の統 計 に よれば ,1993年 に ,美 的 エ ア コンの生
産量 と売上 高 は 国内 3位 にラン クされた [諄 (2009),55頁
)]。
ブ ラン ド
イメー ジ宣伝 の一貫性
を維持するために,美 的グループは2007年 ・2008年 に,再 び登悧を冷蔵庫 ,洗 濯機 ,生 活家電の
イメージ ・キャラクター として起用 した [諄 (2009),55頁
]。
20代 ,30代 の若者が家電の主流消
費者群 にな りつつある こ とを考 え,美 的グルー プは量悧の ほかに,2003年 には韓国の俳優 ・全智
賢 ,2011年 には新鋭 ・周冬雨や実暁 をイメージ ・キャラクター として起用 した6。
実在の人物の他に,美 的グルー プは1998年 か ら北極熊「 美的熊」 をデザ イン し,エ ア コンのマ
ス コ ットとして使用 して きた [諄 (2009),56頁
]。
「美的熊」 を見 ると,消 費者が「かわいいJと
思 いつつ,自 然 に涼 しさとい うエア コンの属性 を想起できる。
「美的熊」 をエア コンの属性 と結 び
つける ことで,美 的 エア コンの認知度 も高 くなった。
最後 に,美 的グルー プのス ローガンを見 てみ よう。 1999年 に事業部制改革を行 った美的グルー
プは事業部によって,そ の広告ス ローガンが異な る。 エア コン事業部のス ローガンは「原来生活可
以更美的」 (生 活は,よ り美 しくなれる)で あ り,家 庭電器事業部の スローガンは「 里里外外 ,美
的全面J(内 か ら外まで ,全 面的に美 しく)で あ り,キ ッチン事業部 のス ローガンは「体的家 ,美
的家」 (あ なたの家 ,美 しい家)で あった。 ス ローガンを統一 しないこ とは,消 費者のプラン ドに
対す る認知 へ の障害や一 貫 したブラン ド・ イメージ形成 に困難 を もた らす恐れがあ る と考 え
,
2000年 か ら美的 グループは企 業 のス ローガンを「 原来生活可以更美的 Jに 統 一 した [胡 ・張
(2008),8頁 ]。 この短 いフレーズの中に,プ ラン ド・ネーム「美的」 が含まれてい るため,ブ ラ
6美 的グループホームページ http://mvw.midea.com cn,2011年 8月 18日 アクセス。
―- 28 -一
ン ド認知 を確保 で きる し,美 的 グルー プの美 し くて ,良 い生活 へ の追求 とい ったブ ラン ド・ コンセ
プ トが染 み込 まれて い る。 そのため ,プ ラン ド・ イメー ジの構築 に も役立 って い る。
美的 グルー プは一 連 のプ ラン ド要素 をデザ イン し,組 み合 わせ る こ とで ,製 品の販売 を促進 す る
マーケテ ィング活動 やブ ラン ド構築戦略 におけ る展 開の基盤 を提供 した。
2.買 収 による多ブラ ン ド戦略 の展 開
現在 ,美 的 グル ー プは 自社 ブ ラン ド「 美 的」 の他 に ,「 華澪」,「 栄事達 」,「 美通J,「 春 花J,「 小
天鶴 」 な ど とい った企 業 買収 に よ り使 用権 を獲 得 したプ ラン ドを使 い ,事 業展 開 を して い る。即
ち,多 ブ ラン ド戦略 を実施 してい る。
美的 グル ー プは 1980年 か ら1985年 までの 5年 間 にわた って ,扇 風機 二 品 目だけを生産 して いた。
1985年 か ら美 的 グルー プが扇 風機 で培 った ブ ラン ドカ を生 か し,エ ア コン の生産 を した り, 日本
の三 洋 と提 携 して炊 飯器 の生 産 を始 めた りして ,製 品 ラインの拡充 を し始 めた [諄 (2009),263-
265頁 ]。 その後 ,美 的 グル ー プは「 白物 家 電企業 として ,国 内 3位 ,世 界 5位 に」 とい う戦略的
な 目標 を確定 し,一 連 の家電 企 業 を買収 した [諄 (2009),94頁
]。
図表 2で 示 した ように ,1999
年 か ら美的 グループは東芝 ・万家楽 な ど一連 の企業 の買収 を行 って ,エ ア コン ・ コン プ レ ッサ ー
,
冷蔵庫 ,洗 濯機 ,掃 除機 な どの家電事業 に進 出 した。
美的 グル ー プが洗濯機 事 業 や 冷 蔵庫事 業 へ参 入 し,短 期 間 で その二 つ の業界 の トップ 3に まで
入 る こ とが で きた の は ,買 収 ,ま た は 買 収 後 の 多 ブ ラン ド戦 略 の 実 施 の 結 果 で あ る [胡 ・張
(2009), 62Jミ
]。
広州 華澪 は洗濯 機や エ ア コン を生 産 す る大型 家電企 業 であ り,中 国家電企業の 中で最初 に香港 で
上場 した企業 であ る。 華南地域 において ,企 業 プ ラン ド「 華澪」 の認知度 は非 常 に高 い。美的電器
は発展初期 に ,「 華澪 Jの
OEM製 品 も生産 して いた。冷 蔵庫事 業 へ の参 入 を図 ろ う として ,2004
年美的 グルー プは 2億 3450万 元 で広州 華澪 の42.4%の 株 を買収 した [黄 (2009)]。
合肥栄事達 は中国国内で最 も先進 的な洗濯機 の生産 ライン を持 ってお り,洗 濯機 や冷蔵庫 の国内
図表 2 近年美的グループが買収 した企業
年
度
2008
買収企業
影
響
東芝 万家楽
エアコン・コンプレッサー事業に参入
広州華澪
冷蔵庫事業 に参入
合肥栄事達
洗濯機事業 に参入
重慶美通
大型 セン トラル ・エア コン事業に参入
清江電機
大型工業電機事業に参入
江蘇春花
掃除機事業に参入
無錫小天鶴
洗濯機事業をさらに拡大
(出 所):美 的グル ープホームペー ジの各種公告により筆者作成。
一- 29 -―
市場 シ ェアはそれぞれ 3位 や 10位 を保 ってい る。 企業 ブ ラン ドの「栄事達 Jは 「 中国名牌」,「 中
国馳名商標」 と評価 されて い る。美的 グル ー プは冷蔵庫 の生産能 力の拡大や洗濯機事 業 へ の参 入 を
目指 し,3回 にわた る栄事 達 の買収 を行 った 後 ,2008年 12月 には ,美 的 グ ルー プが栄事達 の全 株
を所有 す る ようにな った [諄 (2009),94頁 ]。
無錫小天鶴株式有限会社 は中国洗濯機業 界の リー ダであ り,全 自動 , ドラム式 ,攪 拌式洗濯機 が
生産 で きる三 大洗濯機 メー カーの一 つ であ る。
「 小天鶴 J洗 濯機 は1996年 か ら13年 連続 で中国 国内
市 場 シ ェアの トップ を獲得 した [諄 (2009),3頁
]。
ヽ
2010年 現在 ,「 ′
∫
天鶴 Jの プ ラン ド価 値 は
150億 1600万 元 に達 した7。 2008年 に ,美 的 グル ー プが 小天据 の 24.01%の 株 を買 収 した。 美的 グ
ル ー プの海 外子 会社 Titoniが その前 に買収 した 小天鶴 の 5.63%の 株 に加 え ,美 的 グル ー プは合計
小 天鶴 の 29.64%の 株 を所 有 して ,小 天鶴 の筆頭株 主 とな った。 小 天鶴 を傘 下 に加 え る こ とに よ
り,美 的 グル ー プの洗濯機業 界 におけ る位置 が確保 で きた [胡 ・張 (2009),96頁 ]。
買収後 も,華 澪 ,栄 事達 ,小 天鶴 は独立法 人企業 として ,自 主経営 を続 けてい るが ,美 的 グル ー
プ と買収 され た各会社 との 間で は資源 の共 有 を行 ってい る。 つ ま り,美 的 グル ー プが華澪 ,栄 事
達 ,小 天鶴 の企 業 ブ ラン ド,研 究 開発技 術 ,販 売 ネ ッ トワー クな どに使用権 を持 つ の に対 し,華
澪 ,栄 事達 ,小 天鶴 も美的 グル ー プの企業 ブ ラン ド,物 流配送 ネ ッ トワー クな どを利用 で きる。 こ
の ような資源の共有 の実現 に よ り,美 的 グル ー プは順調 に「 美的」,「 華澪 」,「 栄事達J,「 小天鶴 」
な ど 4つ の プ ラン ドで多ブ ラン ド戦略 を展 開 す る こ とがで きる。 買収 した 会社 の ブ ラン ドをその
ま ま使用 し続 け ,多 ブ ラン ド戦 略 を実 施 す る こ とは美 的 グル ー プ に とって 2つ の メ リ ッ トが あ
る。 まず ,冷 蔵庫 や洗濯 機市場 にお い て新規 ブ ラン ドの「 美的」 よ り,消 費者 に熟知 されて い るブ
ラン ド「 華澪」,「 栄事達J,「 小天鶴 Jで 市場 に進 入 したほ うが短時間で冷蔵庫 ,洗 濯機 の市場 が打
開す るこ とがで きる。 そ してそれぞれの既 に構築 されて い るプラン ド影響 力を最大限 に利用 す る こ
ともで きる。
美的 グル ー プの 多ブ ラン ド戦略 は 図表 3に 示 した よ うに展 開 され てい る。要 す るに ,洗 濯機 事
業 におい ては ,ハ イェン ド市場 に 向 け ,主 に「 美的」 の製 品を出 し,ハ イエン ドや ミ ドル レンジ市
場 に向けては ,「 小天鶴 Jの 製 品 を主 力製品 として販売 して い る。 そ して ミ ドル レン ジや ローエン
図表 3 美的グループの多ブラン ド戦略実施の枠組み
ハ イエン ド
│ハ
「美的J
イエン ド&ミ ドル レン ジ
「 小天鶴」
「美的」,「 華澪」
匡≡亘ヱ亜を菱亜 「 美的」
(出 所):筆 者作成。
7小 天据ホームページ http:〃 wm″ littleswan.com,2011年 8月 18ロ アクセス。
―-30-
ミ ドル レンジや ローエン ド
「栄事達」
=市 場 では ,「 栄事達」 の製 品 を販売 す る。 冷蔵庫事業 では ,「 美的 Jや 「 華澪」 の 二 つのプ ラン ド
.「
製品 が生産 され ,販 売 されて い る。美的 グル ー プの主要産業 であ るエ ア コン事業 や小型 家電事業
な どでは ,従 来の ように企 業 プ ラン ド「 美的」 を用 いて ,製 品 を製造販売 す る。
美的 グループは「美 的J,「 小天鶴」 を全 国ブ ラン ドとし,そ れぞれのプ ラン ド・ イメージを「 フ
マ ッシ ョン性 が高 く,若 者 向けの イメー ジ」や「 専 門性の高 い イ メー ジJに ポジシ ョンニ ング して
.る 。 そ して ,「 栄事達」 や「華 澪」 を ロー カル ・プ ラン ドとして い る。「栄事達 」 の製品 は主 に安
薇 な どの地域 で販売 され ,「 華澪 Jの 製 品は広東地域 で販売 されて い る [胡 ・張 (2009),62頁 ]。
多ブ ラン ド戦 略 を通 じ,美 的 グル ー プの洗濯 機 や冷 蔵庫 事業 は2004年 か ら飛躍 的 に成 長 し続 け
ている。 2004年 は洗 濯機 や 冷 蔵庫事業 に参入 したば か りであ ったが ,2007年 に美 的 グルー プの洗
濯機や冷 蔵庫 の売上 高 はそれぞれ17億 8100万 元 や24億 3900万 元 に達 し,総 売上 の 5.35%や 7.33%
を占めて いた8。 2008年 に,小 天鶴 の買収 が成 功 した後 ,洗 濯機 や冷蔵庫 事業 は更 に早 いス ピー ド
て成長 し続 けてい る。 2010年 に美 的 グル ー プの洗濯機 や冷蔵 庫 の売上 高 はそれぞれ 97億2900万 元
や99億 3900万 元 に達 し,2007年 の 4倍 や5.5倍 とな った。総売 上 におけ る比 率 を見 てみ る と,洗 濯
機事業 は2007年 の5.35%か ら2010年 の 13%に な り,冷 蔵庫 は7.33%か ら13%に な った9。
洗濯機 事業 や冷 蔵庫事 業 は ,美 的 グル ー プの支柱事業 とな りつ つ あ る。 2010年 美的や ハ イアー
=レ
の上半 期 の報 告 に よれば ,美 的 の洗濯機 の売上 高 は48億4000万 元 に達 し,初 めて洗濯機 トップ
メー カーの ハ イアールの47億 1000万 元 を上回 った [黄 (2009)]。 また ,中 国の「 ZDC互 朕 朋消費
調研 中心」(イ ン ターネ ッ ト消費調査研究 セ ン ター)の「 2010年 の冷蔵庫市場 の年 次報告」に よ り
,
美的 は105.58の 成長指数 10で 成 長ス ピー ドが最 も速 い冷蔵庫 ブ ラン ドとな った
[
程程 (2010)]。
中国の最 も権威 のあ る家電業界 の研究機構 や マー ケテ ィング ・コンサル テ ィング会社 であ る奥雛
答 i17(AVC)が 最近 公表 した2011年 第 29週 洗濯機市場 や冷蔵 庫 市場 の市場 シ ェアの ランキ ン グで
は ,洗 濯機 市場 において も,冷 蔵庫 市場 において も,美 的グル ー プ傘下 のプ ラン ドがハ イアール に
次 ぎ,2位 に ラン クされた こ とが分 か った11。 特 に,洗 濯機市場 で ,「 小天鵬J,「美的」,「 栄事達 J
の販売量市場 シ ェアの合 計 は27.39%に 達 し,1位 のハ イアール よ り高 い シ ェアを獲得 して い た。
図表 4は 百 度 デー タ研究 セ ン ター に よ り公表 されて い る中国 家電市場 におけ る消 費者 か らの家
電 ブ ラン ドの関心度 ランキングであ る。 図表 か ら,美 的 が9.3%の 関心度 で 3位 にラン クされた格
力 に大 き く上 回 り,ハ イアール に次 いで 2位 に ラン ク されて い る こ とが分 か る。 この よ うに ,買
収 に よ り多 ブ ラン ド戦略 で洗 濯機 や冷蔵庫事業 にお いて成功 を収 めた美的グルー プが一 躍 してハ イ
8美 的グループ「年次報告 (2007年 )」 。
9美 的グループ「年次報告 (2010年 )J。
Ю 成長指数は100を 基準 とし,100よ り大 きければ成長 していることを して い る。逆 に
,100よ り小 さけれ
表
ば,後 退 してい ることを表 してい る。
H奥 雛呑洵 (AVC),「 2011年 第29週 洗濯機市場や冷蔵庫市場の市場 シ ェアの ランキング」,http://tech.qq
com/household/heanews/jdsi htm♯ tOp,2011年 8月 18日 アクセス。
-31-
図表 4 20!0年 中国国内家電ブラン ド関心度 ランキング
゜
ロ フ イリッフ ス 回 ハ イ センス
ロ ソニー
ロ サ ムスン
□ 格力
田 美的
ロ松下
日 九陽
ロ ハ イアー ル
(出 所 ):百 度データ研究 センター
「 2010年 中国国内家電ブラ
ン ド関心度 ランキ ン グ」,(http://data baidu com/
content/2011-0310/1306972761.htm12011年 9月 11
日アクセス)。
アールに次 ぎ,中 国国内第 2の 自物家電企業にな りつつある [胡 ・張 (2009),65頁 ]。
3.各 種の活動によるプラン ド・エクイテ ィの構築
美的グルー プは中国市場でブラン ドの認知度を確立するために,様 々な活動に力を入れてい る。
(1)広 告宣伝活動
広告宣伝活動は,マ ーケティング手段 として二 つの役割がある。一つは,プ ラン ド名を認知させ
る こ とである。 もう一 つは ,ブ ラン ドについて良 い イメージを創造するとい う役害1で ある [小 川
(2001),134頁 ]。 そのため ,小 川は新 プラン ドの創造 には ,企 業の コ ミュニ ケーシ ョン活動の
中,広 告の役割が一番重要 になると指摘する [134頁 ]。 また,プ ラン ドを維持する方法 として
CMな
,
どの広告活動が消費者の注意喚起の役割を果たしてい る [小 川 (2001),149頁 ]。
美的グループは多額の広告予算を使 い,広 告活動に力を入れてい る。広告費用の差異はプラン ド
価値の差異 をもた らす重要な要因の一つで もある [李 曜 (2006),59頁
]。
図表 5は 美的電器 と格
力電器 ,美 菱電器 ,科 龍電器な どの上場家電企業の広告費や広告費 とそれに関連する要素を比較 し
た ものである。毎年の広告費をみると,美 的電器の広告費 は年 々増加 し,2004年 には 4億 6000万
元に達 した こ とが分かる。美的の広告費用 は他 3会 社の より遥 かに高 い。そ して,広 告費関連の
比率を見 よう。格力電器 と科龍電器 の広告費 が製品やサービスを提供することによって得 た現金収
入に占める比率や広告費が主要製品の売上 に占める比率は 6年 間,平 均 1%に も満ちなかった。美
菱電器 におけるその 2つ の比率は平均 2%に 達 したが,毎 年減少す る傾向にある。それに対 し,美
的電器のその 2つ の比率は両方 とも毎年 2%以 上ある。また,美 的電器の広告費が管理費 と営業費
に占める比率はほぼ13%-17%の 区間の中に変化 してい るのに対 し,格 力や科龍は 3%-6%の 間で
―- 32 -―
図表 5 美的 ,格 力,美 菱 ,科 龍の広告費 と関連要素の比較
26147
30719
44728
46611
00244
0.0217
00241
00284
0.0209
00271
00234
00248
00283
00325
00243
D
0.2105
01688
01320
01327
0.1754
01594
A
15291
7164
5006
B
00276
0.0037
0.0051
00096
00055
0.0116
C
0.0296
00041
00055
00102
00050
0.0053
D
02382
0.0185
0.0318
00636
00336
00370
3133
4949
2115
A
15178
B
00337
C
格 力電器
美菱電器
A
00051
00508
00209
0.0304
00117
C
00053
00656
00248
00358
00147
D
00386
0.2013
01332
01307
0.0899
B
NA
科龍電器
A 1
84 「
9064
17667
B
1
00001
00171
00379
C
1
0.0001
0.0205
0.0374
D
1
0.0007
00651
00834
3505
1
3484
1
4337
00046
0.0047
00072
00056
0.0051
00412
0.0255
注 :A=広 告費用 (万 元),B=広 告費/製 品やサービスを提供することによってもらった現金収 入,C=広 告
費/主 要製品の販売売上,D=広 告費/(営 業費用 +管 理費用),NAは 未知データ。
(出 所):李 曜 (2006),58頁 。
変化 してい る。更 に,美 菱 のその比 率 は減 少す る傾 向が見 られ る。
美的 グルー プの広告方式 は主 にテ レビ広告 ,新 聞や雑誌 の広告 ,ウ ェブサ イ トの広告 ,屋 外広告
な どがあ る。 テ レビ広 告 の宣伝 中 ,美 的 グル ー プは「 中国春 節聯歓 晩 会」 の時報 広告枠 を 8年 連
続 で獲 得 した こ とが 注 目を浴 び た。 CCTV(中 国中央 テ レビ局 )の 毎年 ,旧 暦 の元 旦 に開催 す る
「 春節聯歓 晩会」(日 本の NHKの「紅 白」に当た る)は ,視 聴率 が90%に も達 してい る番組 であ る。
さ らに年 越 しの午 前零 時 の時報 の時 は ,番 組 の中 ,視 聴 率 が最 も高 い時 で あ り,美 的 グル ー プは
2003年 か ら 8年 連続 で「 春 節聯歓 晩 会」 の時報 広告枠 を獲 得 して い る12。 「 美的 グル ー プ」 の企業
名付 きの時報 を放送 す るの には ,わ ず か10秒 しかな いが ,こ れ は中国だ けでな く,海 外 で も見 る
こ とがで きるので ,「 美 的」 の製 品の販売 を促進 す るため に も,ブ ラン ド名 の認知 度 を高 め るため
12美 的グループホームページ http:〃 www midea com.cn,2011年 8月 18日 アクセス。
一- 33 -―
にも非常に高 い効果 がある。
「春節聯歓晩会」は既に「美的」のプラン ド連想の一部 とな り,「 美的J
のプラン ド・認知度 が高 くなれば,良 いブラン ド・イメージも構築できる。
美的はテ レビ広告 だけでな く,新 聞 ,雑 誌 やウェブサ イトでの広告掲載 ,バ ス,電 車や地下鉄の
車内広告 や看板広告な ども積極的 に行ってい る。2008年 北京オ リンピックの期間,香 港の500台 以
上のバスで美的グルー プは中国水泳チームや水泳飛び込みチームのスポンサーであるとい う車体広
告を行 った [胡 ・張 (2009),164頁
]。
どのような方式の広告で も,「 美的」を素敵 な自物家電ブ
ラン ドとして市場 に浸透 させなが ら,「 革新 ,高 品質 ,信 頼 で きる,健 康安全」 とい うプラン ド・
イメージを確立すること狙 っている。 このように継続的 で,消 費者の身近 な ところで行われる広告
活動は,消 費者の
「美的」に対する認知度を高め,ロ イヤルティを維持するのに非常に効果 がある。
(2)ス ポンサ ー活動
アーカーは「広告は押 しつけがましく,明 らかに説得することや意識 を変化 させることを 目的 と
した有償のメッセー ジであるが,ス ポンサー活動は人 々の生活の一部に溶け込みうるものである」
[ア ーカー
(2000)邦 訳 ,260頁 ]と 述 べた。中国家電企業がプラン ドを構築する上で,ス ポンサー
活動がますます重要な一部 となっている。美的 グループもブラン ド・エクイティを高める有効な手
段 としてスポンサー活動を行 ってい る。
2005年 ,美 的グルー プの主要競争相手 ハ イアールが2008年 に開催 される北京オ リンピックの公
式スポンサー となった。 しかし美的グループは,ハ イアール とは別の方法を選び,世 界範囲でのブ
ラン ドの存在感を築 くチャンスを掴んだ。それは,中 国水泳チームや水泳飛び込みチームの スポン
サー となることである。様 々なチームの 中で この 2つ のチームを選んだ理 由 としては,2つ の理由
がある。まず水泳や水泳飛込みの動作 は美 しくて,人 々に柔軟で,優 美な印象を与 える。それは
,
「美的Jの プラン ド・パー ソナ リテ ィー と一致 してい る。そ して,水 泳の飛込み競技 で金 メダルを
獲得するためには,絶 えずに肉体を革新 させる ことが何 よりも必要である。それも美的グルー プの
「革新 によって消費者を満足させる」理念 と合致すると考えられている [諄 (2009),116頁 ]。
2007年 4月 23日
,美 的は中国水泳協会 と公式提携をし,中 国水泳チームや水泳飛び込ふチーム
のスポンサー となった。中国水泳チームや水泳飛び込みチームのスポンサー として,美 的グルー プ
は以下のように 4つ の利益を享受 してい る [胡 ・張 (2009),163頁
]。
① 「 中国国家水泳チームや水泳飛び込みチームの主要 スポンサー」,「 中国水泳協会公式 パー ト
ナーJ,「 中国国家水泳チームや水泳飛び込みチームの専用製品Jな ど 3つ の名称を製品パ
ッケー ジやあ らゆる製品の宣伝資料で表示することができる。そうする ことで,美 的のプラ
ン ド知名度が非常に高 くなった。
②
中国国家水泳チームや水泳飛び込みチームの選手の肖像使用権がある。
③
特別な広告宣伝ができる。例えば,水 泳や水泳飛び込みの会場 で美的 グループのデ ィスプ レ
イが配置される。そして,中 国国家水泳チームや水泳飛び込みチームの記者会見の背景ボー
―- 34 -―
ドで美的グルー プの ロゴが表示 され る。 また ,チ ーム選手 の服 や タオル な どの用品 に
「 美的」
の ロゴ が 目立 つ ように付 け られ る。
Э 最後に,マ ーケティング活動において,中 国国家水泳チームや水泳飛び込みチームからの支
援がもらえる。例えば,2つ のチームの選手が美的グループの製品の販売促進活動 に参加す
る。
中国国家 水泳 チームや水泳飛 び込 みチ ームのスポンサー活動 を活用 す るため に,美 的 グル ー プは
大規模 な マ ー ケ テ ィン グ ・プ ロモ ー シ ョン を行 った 。 2008年 ,美 的 グル ー プ は 2億 1000万 元 で
CCrVの オ リンビ ック期 間の広告 セ ッ トを獲得 した
[胡 ・張
(2009),163頁 ]。 「 水泳飛込 み女王 J
と評価 されて い る郭 晶晶や水泳飛込 ふ界の新鋭選 手 ・異敏霞 な どをポス ターや広告 に起用 した り
,
本人 を販促 の会場 に登場 させ た りした。 また ,チ ーム の選手 ポス ターや記念 ス タン プを景品 とした
プ ロモー シ ョン も行 った 。美的 グル ー プブ ラン ド開発 総監督 であ る董 小華 に よれば ,2008年
的 グル ー プの オ リン ピ ック
,美
マー ケテ ィン グに投 じた資 金 は一 年 でプ ラン ド発 展の ため に投 じた資
金 7∼ 8億 元の約半分 を 占めて い る [胡 ・張 (2009),164頁 ]。
中国国家水泳 チームや水泳飛 び込 ふチ ームのスポンサー とな った こ とは ,美 的 グループに高 い効
果 を もた らした。 製 品 の面 か らみ る と,こ の 2つ チー ムの影響 力 に よって ,美 的電器 の新 製 品 が
素早 く多 くの消費者 に認 め られ る ようにな った。 ブ ラン ド構 築の面 か らみ る と,高 い露 出度 に よっ
て ,「 美的」 ブ ラン ドの 認知度 が確立 で きた。 そ して ,国 家水泳 チ ーム や水泳飛 び込 ゑチー ム に結
び ついた「 グ ローバル で ,活 力のあ る,優 れて い る」な ど とい った連想 も獲得 で きた [諄 (2009),
117]。
中国国家水泳 チ ーム や水泳飛 び込 みチ ームの スポンサ ー とな った こ とに よって ,Jヒ 京 オ リン ピ ッ
ク期 間 だけでな く,2009年 に ローマ で開催 された世 界 水泳選 手権期 間 も,2010年 に広 州 で開 催 さ
れ た ア ジ ア競 技 大会 期 間 も,こ の 2つ の チ ー ム が大 会 に参 加 す る限 り,美 的 グル ァ プ は一 連 の
マー ケテ ィング活動 やプ ラン ド宣伝活動 がで きた。
2010年 11月
,美 的 グルー プは国際 水泳連盟 (FINA)の 初 めての中国籍 公式提携 パ ー トナ ー とな
った 13。 国際水泳連盟
(FINA)は 水 泳界 で最 も権威 や影響 力の あ る国際組織 であ る。 オ メガ ,ニ
コンな どの国際的 なプ ラン ドも国際水泳連盟 の長期的 な提携 パ ー トナ ーで あ る。 国際水泳連盟 との
提携 に よ り,美 的 グル ー プは世界水泳運動 の発 展 を促進 す る とともに,も う一 つ重要 な 目標 を達成
しよう として い る。 それは ,国 際水泳連盟の 巨大で国際的な影響 力 を利 用 し,「 美的」 ブ ラン ドを
世 界の人 々に紹介す る とともに,プ ラン ドの ワール ドワ イ ドイメー ジを確立 し,強 化 す るこ とであ
る。
13美 的グループホームペ ージ http:〃
―
midea com cn,2011年 8月
一- 35 -―
18日
アクセス。
(3)イ ベ ン ト活動や社会公益活動
広告やスポンサー活動の他に,美 的は消費者の情熱 とロイヤルティを引 き起 こすためにインタラ
クテ ィブなイベ ン トにも力を入れてい る。
「『美的 カ ップ』全国大学生工業デザイン大会」,「『美的
カップ』炊飯器 デザイン大会」,「『美的カ ップ』扇風機デザイン大会」,な どのイベ ン トがあげ られ
る。去年開催 した「『美的 カップ』全国大学生工業 デザイン大 会」のテーマは「個性 のある家電を
設計 しよう」 であった。優秀賞を受賞 した作品は,美 的グループが再設計 し,生 産 し,市 場に出す
可能性 もあるので,全 国180学 校 か らの大学生が積極的に大会に参加 した。大会の中,1164の 家電
作品が誕生 し,韓 国,ア メリカ, 日本からの作品が美的グループ内部の専門家によって高 く評価 さ
れた。 このよ うな イベン トを通 じ,美 的グループの「生活を美 しくするJと い う企業文化を宣伝す
ることがで きるし,イ ベ ン トに参加する人たち,ま たはイベン トに関心を持 つ人たちの「美的」家
電 に対する認識を深め,「 美的」家電 への ロイヤルテ ィを高めることもで きる。 今後美的 グルー プ
はこのようなイベン トの規模や影響力を更 に拡大 し,国 際的なイベ ン トにまで発展させ ようと努力
している。
また美的グループは,大 企業 としての社会的責任 を果たし,社 会公益活動 に積極的 に参加 してい
る。 1998年 から現在 まで,美 的グ ループは各種の公益事業に約 2億 2000万 元の義捐金を寄付 した
[中 国家電網 (2011)]。 社会公益活動 への積極的な参加で,美 的グ ループの大企業 としての イメー
ジが確立でき,「 美的」プラン ドの知名度 も高 くな りつつある。
「美的」 ブラン ドをアピールする社
会公益活動は既 に美的グルー プがプラン ドを構築する上で欠かせない部分 となってい る。
4.ブ
ラ ン ドの グ ローバ ル化
1986年 ,当 時扇風機 を主力製品 として生産 していた美的は香港 に向け輸出を始めた。その後
,
美的の輸 出額は伸び続けて いる。2001年 ,中 国が WTOに 加盟するに従 って,美 的グル ー プの輸
出額は増加 し,よ り積極的に海外事業を開拓するようになった。2001年 に美的グルー プの海外売
上高 は 2億 ドルに達 していなかったが,2009年 には34億 ドルにまで増加 した [胡 ・張 (2009),87
頁]。 美的グルー プの輸出高の推移を表 した図表 6か ら,美 的グルー プの海外売上高が年 々増加 し
てきてい ることが分 かる。2010年 には50億8000万 ドルに達 し,前 年 より49.41%増 となった。 そ し
て美的電器の海外売上高比率の拡大が続 き,2011年 の上半期には27%と なった14。
2010年 ,美 的グルー プの総売上高が初めて1000億 元を超 え,1150億 元に達 した。そ こで,美 的
グループの CEO何 亨健は新 しい 目標を掲げた。それは,2015年 までに,総 売上高を2000億 元にま
で増加させ,も う一 つの美的を造 ることである。その 目標を実現するためには,中 国国内の市場シ
ェアを確保するだけでは足 りない。2010年 美的グループのグ ローバ ル
マー ケティング大会にお
いて,美 的電器の理事長である方洪波 は「 今後美的グループの国際化は,ま すます重要な役害Jを 果
口 美的電器「中期業績説明 (2011年 )」 。
―- 36 -―
図表 6
6000
美的グル ープの輸 出高の推移
単位
:
5080
フドル
自ソ
74
260
1998 2001 2004 2007 2010
(出 所 ):美 的 グルー プ各年年報 に よ り著
者作成。
す ようにな ってい く」 と発言 した [李 (2011)]。
海外市場 に進 出 し,海 外売 上 高 を拡大 す るために ,美 的 グルー プは以下 の ような戦略 を定 めた。
第一 歩 目 として ,中 国市場 で は「 美 的 Jブ ラン ドで市場 シ ェア を高 めて い きなが ら,海 外市場 ヘ
OEM製 品 を中心 に輸 出す る。第 二 歩 目は ,外 国の 企 業 を買収 す る こ とであ る。 ロー カル な企業 を
実際 に経 営す るこ とに よ り,海 外 の経営経験 を積 み ,海 外市場 の販売 を拡大 す る。 それ と同時 に
美
,
的」 ブ ラン ドを海 外市場 で少 しず つ浸透 させ る。第 三 歩 目は世界範 囲で「 美 的 Jを 自物家電 ブ
バ ル に販売 す る [諄 (2009),89頁
ラン ドとして確立 し,「 美 的」 の家電製 品 をグ ローー
]。
第 三歩 目
に至 るまで長 い時間がかか る と美的 グル ー プ は予想 して い るが ,同 社 は確実 に努 力 して きて い る。
今 まで ,美 的 グルー プは米州 ,欧 州 ,中 東 ,ア ジア太平洋 ,南 米 な どの 6つ の地域 に60以 上 の
海外販売会社 を持 ち ,200カ 国 ・地域 に進 出 して い る。
グ ロー バ ルな販売ネ ッ トワー クを構築 す る と共 に,美 的グルー プは海外 工 場 の設立 に も力 を入れ
て い る。 2006年 東南 アジア諸 国
(AsEAN)で 事業 の開拓 を狙 い ,美 的 グル ー プは2500万
トナム に生 産 工 場 を設立 した [諄 (2009),98頁
工 場 とな った 。 2007年
]。
ドルでベ
ベ トナムの 工 場 が美 的 グル ー プの最初 の海外
,美 的 グ ル ー プ は ベ ラ ル ー シ で 地 元 の HOrizont株 式 会 社 と「 Midea―
Horizont」 合併会社 を設立 し,ロ シア地域 や カザ フ スタン ヘ「 美的」の電子 レンジを供給 し始 めた。
その後 ,合 併会社の製品 も電子 レンジか ら掃除機 ,扇 風機 な どといった 日用家電 にまで広げて きた。
2010年 に,美 的 グル ー プは5748万 ドルで エ ジプ トの エ ア コン企業 Miracoの 32.5%の 株 を買収 し
,
アフ リカでの工場 を設立 す る こ とがで きた。 この工 場 がで きた こ とに よ り,美 的 グルー プは比較的
に低 い コス トや リスクでエジプ ト市場 を開拓 で きただけでな く,ア フ リカ ,中 東 ,南 コー ロ ッパ な
どの地域 で「 美 的」製 品 を宣伝 し,「 美 的」 のプ ラン ドをア ピールす る こ ともで きる ようにな った
[諄 (2009),98頁
]。
さ らに ,2011年 8月 6日 美 的 グルー プは 2億 2330万 ドル で ア メ リカの エ ア
コン大手 キ ャ リアのプ ラジル ,ア ルゼ ンチン ,チ リな ど とい った南米地域 におけ る事業 を買収 す る
と発表 した。 買収 決定 の 公告 の 中 で ,美 的 グ ル ー プ は 今 回の 買収 を「 エ ジプ トの エ ア コ ン企 業
Miracoの 買収 の成功 に次 ぎ,美 的 グル ー プの グ ローバル 化戦略 を推進 し,南 米市場 での 販売 を拡
大 し,海 外 で『 美的』 ブ ラン ドを普及 す るための重要 な一 歩」 と明確 に位置 づ けた。
―- 37-―
図表 7 美的グループのグ ローバルな展開
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(出
が 、
所):筆 者作成。
図表 7は 美 的 グ ルー プが今 まで設 立 した 4つ の海外 工 場 とそ れぞれの工 場 が輻 射 す る地域 を表
した ものである。美的グループは新興 国を中心 に海外事業の拡大 を進 めているこ とが明 らかであ る。
南米 ,ア フ リカ ,東 南 アジア ,ロ シアな どの地域 で ,美 的 グル ー プは依然 として一 部 の OEM製
品を販売 して い る。 その一 方 で ,同 社 は「 美的 Jブ ラン ド製 品の販売 を拡大 しよう としてい る。 ベ
トナムの ような東 南 ア ジアにおいては ,「 美的 Jブ ラン ド製 品の販売 が70%を 超 えた。 2006年 ,ベ
トナ ム で炊 飯器 ,ホ ッ トポ ッ トな どの 「 美 的」 ブ ラン ド製 品 の売 上 は 1000万 ドル を超 えた [諄
(2009),98頁 ]。 ベ トナムで「 美的」 ブ ラン ドの認知度 が あ る程 度確立 で きた こ とが明 らかにな っ
た。 今後 ,東 南 アジア諸 国では ,全 面的 に「 美的」ブ ラン ドの製 品 を生産 し,販 売 す る。
欧米 , 日本 ,韓 国の よ うな発展 して い る地域 では,無 理矢理 に 自社 ブラン ド構築 に力 を注 ぎ,自
社 ブ ラン ドを貫 くので はな く,OEM製 品 を中心 として輸 出 して い る。
以上の ように,新 興 国では ,美 的 グルー プは海外進 出戦略 を「 第 一 歩」 か ら「 第 二 歩」 へ と転換
して い るが ,先 進 国で は ,ま だ戦略 の「第一歩 」 を実施 して い る ところであ る。美的 グループは一
歩 一 歩計画通 りに海外進 出を行 い ,進 出先市場 で 自社 ブ ラン ドを浸透 させて い く。
「 美 的」をグ ロー
バル ・プ ラン ドとして世界 各地 の消費者 へ 訴求す るこ とは 美的 グル ー プの最終 な 目標 であ る。
V.美
的 グ ル ー プ の ブ ラ ン ド戦 略 の 成 果 や 成 功 要 因
様 々な面 か らブ ラン ド構築 に力 を注 いだ結 果 ,美 的 グ ルー プの プ ラン ド価値 が年 々 と上昇 して き
た。美的 グルー プのプ ラン ド価値 を表 した図表 8を 見 る と,2004年 以降 ,「 美的」 の プ ラン ド価値
が よ り高 い伸 び率 で上 昇 して きた こ とが分 か る。 中国家電 トッププ ラン ドと言 われ る
「 ハ イア ール 」
の プ ラン ド価値 は「 美 的 Jの 2010年 ブ ラン ド価値 の約 2倍 であ ったが ,プ ラン ド価値 の伸 び率 で
比較 してみ る と,「 美的 Jの 1/2に 過 ぎな い。
中国国 内 では ,「 美的」 は かな りの知 名度 を確立 し,ま す ます「 家電名牌」 として 消費者 に認識
され る ようになって きた。 しか しなが ら,美 的 グルー プの海外市場 に おけ るブ ラン ド構 築 は まだ始
ま ったば か りだ と言 って も過 言 ではな い。 い かに国内市場 でブラン ドの影響 力や知 名度 を確保 しな
- 38-―
二
03
00
54
1
60
20
翫0
図表 8 美的グループのブラン ド価値
中国水泳チームや水泳飛込みチーム
のスポンサーとなつた
華澪、栄事達を買1又 し、冷
蔵庫、洗濯機事業に参入
小天場を買収 し、冷蔵
庫、洗濯機事業を拡大
国際水泳連盟 lFIM)の
初 めての中国籍 公式提
携パー トナー となった
゛SSSヾSSSSSSSSSS
出所):「 美的グループ年次報告J(2007年 2010年 )に より作成。
・つ ・
・
¨
.
一︵、
一一
u.終
海外市場 でブ ラン ドの知 名度 を上 げ るか とい う こ とは美的 グループが直面 して い る課題 であ
わ りに
中国家電産業 は参入 メー カー が多 く,競 争 が最 も激 しい業界 であ る。 その競争優位性 の源泉 は
,
当初の価格 か ら品質優位 の確立 ,マ ー ケテ ィング諸構成 の各要 因におけ る優位 の確立 へ ,さ らに現
在 ではプ ラン ドカ の構 築 へ と推移 して きた。顧 客 の心 にブ ラン ドを確立 すれば ,製 品 の機 能 や品
質,価 格 を多少 犠牲 に して も買 う顧 客 は多 い とい う [伊 丹 。加護 野 (1989),52頁
]。
美的 グル ー
プ を含む多 くの中 国家電 企 業 は ,ま す ます こ うい うプ ラン ドの魅力 を認識 す るようにな り,ブ ラン
ド構築 の重要性 を意識 す る ようにな って きた。 中国の家電企業 のプ ラン ド構築現状 を概観 す る と
,
それぞれ手段 は異 な るが ,独 自のプ ラン ド戦略 を実行 し,プ ラン ドを構築 しよう とい う目標 は どの
企業 で も同 じであ る。
本稿 では ,美 的 グル ー プが現段階 で実施 して い るプ ラン ド戦略 を明 らかに した。美的 グループは
自身の資源 力 に適合 す るプ ラン ド戦略 を通 じ,中 国国内ではかな りのプ ラン ドカ を構築 で きた。 し
か し,海 外市場 におけ るブ ラン ドの認知度 が極 めて低 いの も事実 であ る。海外市場 において中 国市
場 と同 じようなプ ラン ド影響 力を持 っては じめて ,世 界 のプ ラン ドになれ るのであ る。 い かに海外
市場 でブ ラン ドを構築 す るかは ,美 的グルー プだけでな く,あ らゆ る中国家電企業 が 直面 して い る
課題 であ る。本 稿 は,手 に入 れた美的グル ー プの海外事業 に関す る文献 や資料 は少 なか ったため
,
海外市場 のプ ラン ド戦略 を深 く分析 で きて い な い。美的 グル ー プの海外市場 におけ るプ ラン ド戦略
の展開 を よ り詳 し く分析 す る こ とを今後 の課題 とした い。 そ して ,美 的 グル ー プのプ ラン ド戦略 の
分析 を踏 まえ,中 国家電 企業 におけ るプ ラン ド戦略 の特徴 を明 らかに して い きた い。
【
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