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No.449

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No.449
岡山県工業技術センター
2001
No.449
<ビジュアルノート>
備前焼の模様の厚さは μm
備前焼を堅い物で強くこすると、表面の色が落ち、
素地の白っぽい色になってしまうことをよく経験す
る。備前焼の破断面の SEM 写真では、完全に焼結し
た厚さ 15 μm 前後の表層 ( B ) と、完全には焼結しない
で気孔が残っている層 ( C ) とがはっきりと認められる
が、釉薬を用いない備前焼では、表面の着色層 ( A ) の
厚さはたいへん薄く 2 μ m 程度である。このため、少
しの摩擦でかんたんに色落ちする。写真では、表面の
開口気孔も確認できる。
C
(備前陶芸センター
沼本
一成)
主な内容
●ビジュアルノート
備前焼の模様の厚さはμm
●研究紹介
①ハイブリッドフィラー(炭酸カルシウム/タルク)充填
ポリプロピレン ( P P ) の力学特性
②超臨界流体を用いた染色技術
③酵母の機能未知遺伝子の機能を探る
●技術解説
① FPGA/CPLD と電子回路
②破壊事故を無くする設計のために
●機器の紹介
Ⅰ. 走査型プローブ顕微鏡
Ⅱ. 高温高圧流体染色装置
Ⅲ. 熱分析装置
●受賞等のお知らせ
- 1 -
B
A
20µm
岡山県工業技術センター・
技術情報・No.449
研 究 紹 介 - ① -
ハイブリッドフィラー(炭酸カルシウム/タルク)充填ポリ
プロピレン (PP)の力学特性
1.は じ め に
高分子へのフィラー充填は高分子材料の剛性
タルク
タルク
(弾性率)、強度、耐衝撃性、耐熱性など特性改善
の目的で幅広く行われている。タルクやマイカな
CaCO 3
どの板状フィラーの充填は弾性率を改善させ、エ
2 . 1 8μ m
2 . 1 8μ m
ラストマー成分や微粒子炭酸カルシウム ( C a C O3 )
ブレンド
などの球形に近い不定形フィラーの充填は衝撃強
ハイブリッド
図 1. 混合粉体(
CaCO 3 /タルク= 1/1)
のSEM写真
度を向上させることが知られている。複合材料に
おいて弾性率と衝撃強度は相反する関係にあるこ
おいてはタルク配分比増加とともに大きく低下し
とから、要求特性に合わせそれぞれの充填材を混
たが、ハイブリッド化することにより、CaCO3 単
合することが多く、エラストマー / 板状フィラー
独充填試料の衝撃強度より大きく向上し、 CaCO 3 /
充填 PP は自動車部品などに広く利用されている。
タルク= 1 / 3 までタルク配分比が増加しても
しかし、要求特性を満足するためには高コストの
CaCO3 単独充填とほぼ同等の衝撃強度が得られる。
エラストマーを多く必要とし、これに代わる複合
3000
50
性率と高衝撃強度とを両立させるフィラーとして、
ハイブリッド
曲げ弾性率 / MPa
CaCO3 /タルク混合フィラーの開発を行った。
2.研 究 事 例 紹 介
重質CaCO3(平均粒子径1.4μm)とタルク( 3.2μm)
混合粉体を脂肪酸表面改質を行いながら高速混合
40
2000
30
20
ブレンド
1000
することにより、フィラーを製造する方法(ハイ
10
ブリッド法)について検討した結果を紹介する。
0
図 1に CaCO 3 / タルク = 1 / 1 混合粉体の SEM 写
0
0
20
真を示す。ミキサーを用いず単にブレンドした粉
アイゾット衝撃強度 kJ・m-2
材料の開発が望まれている。当研究室では、高弾
5
15
体ではタルクの凝集塊が観察されるが、回転速度
10
10
15
5
20
0
CaCO3
タルク
フィラー充填量 / %
2,500r.p.m.以上で高速混合して得られたハイブリ
図 2. 混合粉体(
CaCO3 /タルク= 1/1)充填PP の粉体充填量と力学特性の関係
ッド粉体ではタルクの凝集塊は解砕されている。
これは、強い力で CaCO3 粒子とタルク粒子が衝突
3.お わ り に
することにより、タルク及び CaCO3 の凝集塊が解
当研究室では、フィラーのハイブリッド化技術
砕され、さらに、表面改質剤ならびに形状の異な
が複合材料の性能、機能を制御する有効な手法で
る粉体の組合せが微粒子の凝集を防止しているた
あると考え、本手法を活用した研究開発に取り組
めと考えられる。
んでいる。
図 2 に配分比の異なる CaCO 3 / タルク混合粉体
本研究は、ものづくり試作開発支援事業の一環
を PP に二軸押出機にて 20% 充填した複合材料の
として、三共精粉株式会社、水菱プラスチック株
弾性率、衝撃強度と粉体配分比との関係を示す。
式会社の協力の下で行ったものです。
タルクの配分比増加とともに複合材料の弾性率は
(界面化学研究室
上昇している。複合材料の衝撃強度はブレンドに
- 2 -
日笠
茂樹)
岡山県工業技術センター・
技術情報・No.449
研 究 紹 介 -
②
超臨界流体を用いた染色技術
1.は じ め に
繊維染色加工業は水を大量に消費、排出する産
業の一つであり、その排水中には未固着染料、の
り剤、界面活性剤等の物質が含まれ、そのまま排
出すれば環境に大きな負荷を与える要因となる。
このため各企業は膨大なコストをかけ、排水処理
を行っているのが現状である。
1991 年にドイツの Schollmeyer らが超臨界二酸
超臨界二酸化炭素に対する親和性の方が大きくな
ったためであると推察される。また油溶染料につ
いても、分散染料による染色条件と同条件で、ポ
リエステルの染色が可能であることが分かった。
200
染料:C.I.Disperse Red 60
分散剤なし
150
Total K/S
化炭素を媒体とした染色方法に関する論文を発表
し 1) 注目を集めた。この染色方法は、ポリエステ
ルやナイロン繊維をはじめ、難染色性繊維である
ポリプロピレン等の染色を可能とするものであっ
た。また、排液が出ない、未固着染料の回収が可
能である等の優れた特徴を有し、次世代の染色方
法として期待されている。
50
8 0℃
0
5
20
25
圧力(MPa)
30
35
潤性の増大によるものと考えられる。
各種インジゴ系染料による染色検討を行ったが、
今回の染色条件では、ポリエステル繊維を若干汚
染する程度であった。これは超臨界二酸化炭素に
対するインジゴ系染料の溶解度が低いためである
と推察される。
ストップバルブ
4.お わ り に
超臨界二酸化炭素を利用した染色方法は、ポリ
エステル等の合成繊維の染色に関しては有効であ
るが、衣料用素材の代表であるセルロース系繊維
への適用は難しく、その染色技術は確立されてい
ない。そこで NEDO の地域コンソーシアム研究開
発事業「セルロース系繊維製品の高圧流体による
無廃液染色加工システムの開発」の中で、実用化
高圧ポンプ
染色槽
被染物
スターラー
共溶媒添加ポンプ
共溶媒タンク
15
分散染料による各種素材の染色性について検討
した結果、ポリエステル、アセテート、ナイロン
等の合成繊維は、今回の染色条件で染色可能であ
ることが分かった。さらに少量の n- ブタノールを
共溶媒として添加することで、ナイロン、ビニロ
ンの染色性は改善されることが確認された。これ
は共溶媒添加による染料溶解度の増大と繊維の膨
背圧弁
ストップバルブ
10
図2 ポリエステルの染色性に及ぼす染色温度・圧力の影響
株式会社製 Super201-3 )を使用した。装置の概要を
図1に示す。染料およびビームに巻付けた被染物
を、あらかじめ染色温度に加熱した染色槽(容量
50ml )に入れ密閉後、高圧ポンプにより炭酸ガスを
目的の染色圧力まで導入し、スターラーにより撹
拌しながら 1 時間染色した。共溶媒は、ストップ
バルブを開け、炭酸ガス導入と平行して一定量添
加した。
炭酸ガスボンベ
1 4 0℃
100
1 0 0℃
2.実 験 方 法
2.1. 試料および染料
試料としては、ポリエステルおよび多繊交織布
(JIS L0803 記載の添付布)を使用した。また染料と
しては、分散染料( C.I.Disperse Red 60 )、各種油溶
染料およびインジゴ系染料を使用した。
2.2. 実験装置および染色方法
今回の染色実験には超臨界流体抽出装置(日本分光
ストップバルブ
1 2 0℃
図1 実験装置
に向けて検討を進めている。
3.結 果 及 び 考 察
ポリエステルの染色性に及ぼす染色温度、染色圧
力の影響について図 2 に示す。温度、圧力の増大
に伴い染色性は改善されるが、120 ℃以上、25MPa
以上の条件では、染色性は逆に低下することが確
認された。これは染料の繊維に対する親和性より、
- 3 -
5.参 考 文 献
1) K. Poulakis, M. Spee, G. Schneider, D. Knittel,
H. Buschmann, E. Schollmeyer, Chemie
Fasern/Textilind., 41/93, 142 (1991)
(繊維加工研究室
前田進悟)
岡山県工業技術センター・
技術情報・No.449
③
酵母の機能未知遺伝子の機能を探る
a)
現在、ヒトをはじめとして様々な生物において
破壊用
プラスミド
全ゲノム配列が明らかにされている。そして、こ
れらの有用な情報をもとに、様々な遺伝子(及びそ
Sal Ⅰ
Sal Ⅰ
の産物)の機能や役割を探る研究(ポストゲノム研
C
R1AU
1.は じ め に
SalⅠ
SalⅠ
YOL075C
究)がいよいよ本格的になってきている。ところで、
probe
ヒトの癌細胞は、抗癌剤の投与により、多剤耐性
Sal Ⅰ
(生物が構造や作用機序の異なる複数の薬剤に対し
破壊株
6.3kbp
野生株
b)
細胞膜に高発現した薬剤排出ポンプによる細胞内
AUR R
Sal Ⅰ
SalⅠ
Sal Ⅰ
AUR1-C
マーカー
知られている。多剤耐性を獲得した癌細胞では、
野生株
9.6kbp
3.3kbp
て同時に耐性を示すことをいう)を獲得することが
AUR S
破壊株
研 究 紹 介 -
薬剤濃度の低下により耐性を示す。排出ポンプの
実体は12の膜貫通領域と2つの ATP 結 合 領 域
9.6 kbp
6.3kbp
( ABC)を持つ糖蛋白質であり、 ABC スーパーファ
3.3kbp
ミリーに属し、ABC トランスポーターと呼ばれて
いる。一方、出芽酵母でも、ヒト同様、酵母薬剤
排出ポンプの高発現による複数の薬剤(シクロヘキ
シミド、スルホメツロンメチル、オリゴマイシン、
図1 YOL075C の破壊とサザン解析
セルレニン、クロラムフェニコール、クロトリマ
様の生育を示したことから、 YOL075C は通常の生
ゾールなど)に対する多剤耐性機構が存在する。そ
育に必須の遺伝子ではないことが判る。
して、興味深いことに、こうした多剤耐性株の発
次に、 YOL075C 遺伝子産物が多剤耐性に関与し
酵力が高くなることなどから醸造特性との関連性
ているなら、破壊株は複数の薬剤に対して、感受
が示唆されている。
性を示すことが考えられる。そこで、これら薬剤
本研究では、出芽酵母全ゲノム配列の決定によ
の内、シクロヘキシミドとクロラムフェニコール
り明らかとなった ABC スーパーファミリーに属す
に対する感受性を調べたが、野生株との違いは見
ると思われる全29∼32の遺伝子のうち、機能
られなかった。
未知な遺伝子 YOL075C の破壊を行い、その機能を
さらに、温度感受性(37℃)、ヒートショッ
探ることを試みた。
ク耐性(40℃、5分→30℃)についても調べ
2.破壊用プラスミドの作成
てみたが、野生株との違いは見られなかった。
YOL075C 遺伝子の一部( 500bp)を PCR で増幅し、
オーレオバシジン耐性遺伝子 AUR1-C をマーカー
5.おわりに
今回の各予備的な知見では、 YOL075C 破壊株は、
に持つ染色体組込型プラスミド pAUR101 ( Takara )
何も特徴的な性質を示さず、その機能を示唆する
に組み込んだ。
ことはできなかった。今後、他の薬剤に対する感
3.破壊と確認
受性や、高発現による耐性獲得の有無などについ
て検討していく必要がある。
作成した破壊用プラスミドを挿入断片内で切断
し線状にした後、野生株に形質導入し、オーレオバシジ
また現在では、より効率的な遺伝子破壊法や
ン耐性株を得た(図1a)。そして得られた耐性株のゲ
DNA マイクロアレイなどによる発現解析、プロテ
ノム DNA を YOL075C 遺伝子の一部をプローブと
オーム解析などによって、さらなる網羅的な遺伝
してサザン解析を行い破壊を確認した(図1b)。
子産物の機能解析が進んでいる。今後も、このよ
うなポストゲノム研究がより一層進むと思われる。
4.破壊株の予備的性質
(微生物利用研究室
まず、 YOL075C 破壊株は栄養培地で野生株と同
- 4 -
三宅
剛史)
岡山県工業技術センター・
技術情報・No.449
技 術 解 説 -
① FPGA/CPLD と 電 子 回 路 設 計
1.は じ め に
通常 の L SI の作 成
F PG Aを 用 い た 場 合
近年の急速に進む技術革新や個人の嗜好の広が
電子回 路設 計(論理設 計)
りに伴い、各種製品内に用いられる電子回路にお
数 日か ら
数週 間
いても多品種少量生産への移り変わりや、製品開
発期間の短縮が求められている。このような状況
回路 図で の設計
数時間
において、多くの製品に FPGA (Field Programmable
回 路の構 成情報 (ネット リス ト)の生成
修正
数時間
Gate Array )や CPLD(Complex Programmable Logic
Device)と呼ばれる LSI が用いられるようになって
数日
( 外注)
きている。 FPGA や CPLD は設計者が自由に機能
変更できる LSI であり、これらを用いることで設
数 日から
数週間
( 外注)
計段階からの動作確認が容易に行えるうえ、製品
数日から
数週間
HD L を 用 い た 設 計
数時間
修正
シ ミュ ーレー タによ る動 作確認
レイ アウト パタ ーン生 成
数時間
F P GA 書 き 込 み 用
パタ ーンフ ァイ ル生成
(レイ アウト 変更)
シ リコン ウェハ に
焼 き付け チップ 化
数 時間
F PG A へ の 書 き 込 み
数分
修正
出荷後の機能変更なども可能となることから、開
動 作確 認
修正 時には
作 り直し
発期間の短縮化や多品種少量生産時のコストの削
減をはかることが可能となる。
図:電子回路のLSI化
2 . FPGA/CPLD の 特 徴
通常の LSI (カスタム LSI やゲートアレイなど)が、
4.近年の電子回路設計の傾向
シリコンウェハ上にその製品に特化した回路を焼
FPGA/CPLD に書き込むための電子回路を設計す
き付けてからパッケージングされ出荷されるのに
る場合,HDL( Hardwere Discription Language)と呼
比較して、 FPGA/CPLD は、シリコンウェハ上に多
ばれる回路記述言語を用いて設計されることが一
数の回路構成要素を焼き付けてパッケージングさ
般的になってきている。 HDL を用いることより、
れ出荷される。そして、FPGA/CPLD を用いて製品
従来の回路図で設計を行う場合と比較して柔軟に
に特化した回路を実現するには、構成要素の組み
設計変更を行えることや、一度設計した回路を他
合わせパターンを外部から FPGA/CPLD に書き込
の回路に流用し易いというメリットが生じる。
むことで内部の構造を変更する。 FPGA/CPLD には、
また、HDL による設計をより容易に行うことを
この書き込みを何度でも行える方式のものや、一
目的として、フローチャートなどから HDL を生成
度しか書き込みを行えないが高速に動作する種類
するグラフィカル設計ツールや、C/C++言語や UML
のものなどがあるが、近年の製品では、ネットワ
(Unified Modeling Language)などを用いて設計し、
ーク製品などのように規格の変更に伴い出荷後に
これをもとに HDL を生成するためのツールの開発
回路変更をする必要があるものが多いことから、
も進められている。
複数回の書き込みを行える種類のものがよく用い
5.当センターにおける取り組み
られる。
当センターでは、これらの状況のもと、各種装
3 . FPGA/CPLD を 用 い た 電 子 回 路 の 設 計
置の充実や研究会の支援などを進めている。特に、
FPGA/CPLD を用いる場合の電子回路の設計は、
FPGA/CPLD を用いた試作支援のためのシステムに
基本的には通常の LSI を設計する場合と大きな違
は力点を置いており、グラフィカル設計ツールや
いはない。通常の LSI と同様に論理設計を行った
シミュレータはもちろん、 FPGA 実装基盤を中心
後、シミュレーションソフトウェアで論理検証し、
として、各種パーツと組み合わせることで画像処
FPGA/CPLD専用の変換ソフトウェアで FPGA/CPLD
理をはじめとする様々な電子回路システムを試作
に書き込むパターンファイルを生成する。そして、
これを FPGA/CPLD に書き込むことで所望の電子
し、動作確認することのできるシステムなどを設
回路を実現する。なお、高速動作を行わせる場合
いる企業の方はもちろん、初めて電子回路の設計
や、小規模の FPGA/CPLD に比較的大規模な回路
を行おうとされる企業の方もお気軽にご相談、ご
を組み込む場合には、通常の LSI の設計同様、レ
連絡ください。
イアウト変更的な作業が必要となる。
備開放の予定である。現在電子回路を作成されて
(生産システム研究室
- 5 -
高原
祥充)
岡山県工業技術センター・
技術情報・No.449
技 術 解 説 -
② 破壊事故を無くする設計のために
1.は じ め に
一般機械・輸送用機械から各種の構造物・化学プ
ラントなど、機械・構造物は最善の技術を尽くして
ここに、da/dN :き裂伝播速度
ÄK Ⅰ :応力拡大係数範囲
C , m :材料定数
このような Fail Safe の手法は ASME では設計基
準としてはないまでも、破壊力学の考慮を義務づ
けている。しかし日本では設計基準もそのような
設計・製造されるが、破壊事故は後を絶たない。そ
れらは疲労による破壊が大部分を占め、設計にあ
たってはその殆どが疲労限度曲線( S-N curve )を基
礎とした疲労設計の概念によるものである。
ここでは従来からの疲労設計と、今日特定分野
で適用されつつある破壊力学設計について、それ
ら設計手法の概念を概括し、さらに先導的な知的
(スマート)構造・材料にふれる。
義務づけも無いのが現状である。
(応用:航空機、車両、橋梁、船舶、化学プラントな
どの構造材)
2.疲労設計から破壊力学設計へ
−破壊させない設計から、
損傷・破壊はあり得る認識の設計へ−
設計にあたってはその寿命推定が必要であるが、
寿命推定手法では、き裂発生前と発生後の取り扱
いが大きく異なってくる。
き裂発生までの潜伏期間に対しては累積損傷則
が適用され、変動荷重に対しては修正式が提案さ
れている。またき裂発生後の、長い連続的成長性
のき裂に対しては破壊力学が適用できる。
3.モニタリングと損傷許容設計
(DamageToleranceDesign)
使用中の損傷を信頼性工学及び破壊力学的手法
により予測すると同時に、部材に長期間作用する
変動応力をモニタリングすることで安全性を確保
する手法である。現在歪みゲージによる測定法が
あるが、最近、変動応力の負荷過程を疲労損傷と
して蓄積させる「犠牲試験片」によるモニタリン
グ法が開発されている。
4.新時代の知的(スマート)構造・材料へ
知的構造・材料の研究では下図に示す知的構造物
が究極の目標となる。つまり人間の神経網のよう
にセンサを配置して、構造物が自分自身をモニタ
リングすれば、き裂などの損傷発生のほか、温度
変化、異常負荷、異常振動や部材の部分的破壊な
どを直ちに検出でき、予防処置を採ることができ
る。
2.1 疲 労 設 計
疲労き裂の発生防止を目的とした従来からの疲
労設計(安全寿命設計、Safe Life Design)ではその
寿命推定に、
線形累積損傷則( Miner 則):Ón i /N i=1 が適用さ
れる。ここに、
脳
ni/Ni :応力σiが付加された時の疲労損傷
ni
:くり返し回数
Ni
:疲労寿命
神経組織
(他に修正 Miner 則、 Corten-Dolan 、 Haibach の 修
正式がある)
(応用:回転軸、歯車、車軸、バネ、軸受など)
又、低サイクル疲れの場合は
Manson-Coffin 則: Äå p N f m =C が適用される。
中央情報
処理装置
埋込みセンサ
・ 自己診断機能
・自己修復機能
・実時間損傷評価
ここに、 Äå p :塑性ひずみ幅
Nf
:き裂発生までの繰り返し回数
C, m :材料定数
(応用:圧力容器、配管、土木・建設機械、橋梁、
船舶、海洋構造物など)
構造健全性監視形航空機の概念
Gerardi T., J. ofIntelli. Mater. Syst. & Struc., 2-1('91)
5.お わ り に
現状では安全寿命設計が主流であるが、特定分
野では損傷安全設計の概念が導入され始めている。
来るべき新時代は構造設計と材料設計の融合化が
図られ、知的(スマート)構造・材料の概念が実現するで
あろう。
2.2 破 壊 力 学 設 計
発生したき裂の安定的成長を仮定する破壊力学
設計(損傷安全設計、 Fail Safe Design)ではその
寿命推定に、 Paris 則:da/dN=CÄK Ⅰ m が適用でき
る。
(プロジェクト室
- 6 -
藤井
修三)
岡山県工業技術センター・技術情報・
No.449
機
器
の
紹
介
本年度、国の地域産業集積活性化対策事業費補助金を受けて新たに購入・設置した開放試験研究機器の概要に
ついて紹介します。これらの機器は、企業等の研究者の方々に広く開放していますのでご利用下さい。
Ⅰ.走査型プローブ顕微鏡
Ⅱ.高温高圧流体染色装置
日本電子(株)JPSM-4200
(株)アイテックIC-0.5型
「装置の概要」
「装置の概要」
高分子や金属、セラミックスなど、各種材料の
高温高圧の二酸化炭素流体を用いて、各種繊維
表面微細構造を観察するための装置。鋭利な先端
素材の染色加工を行うための装置。本装置は、こ
を有するプローブで試料表面を走査しながら原子
れまで困難とされていた素材の染色加工を可能と
レベルの分解能で試料の表面形状を測定する。大
する。また、高温高圧流体の溶解力を活用した洗
気、ガス、真空、溶液中の各雰囲気のもとで観察
浄処理、添加物の分離抽出などへの応用も可能。
可能。また、ダイヤモンド圧子によるナノインデ
染色に用いた二酸化炭素と余剰の染料は回収再
ンテーション測定が可能で、基板上の薄膜や金属
利用できるため、環境負荷の少ない染色法の開発
の表面改質層など、材料の最表層における硬さ評
が期待される。
価を行うことができる。
「仕
「仕
様」
構
様」
成
:液化炭酸ガス送液用高圧ポンプ、染
色槽、染料溶解槽、循環ポンプ、染
測定方法:AFMコンタクトモード測定(凹凸像、FEM
料分離槽、高圧液体供給ポンプ
像、フォースカーブ)、AFM共振モード測
定(凹凸像、位相像)、横振動FEM測定、
染色槽仕様:容量 500ml、最高使用温度 200℃、
粘弾性測定、AFM液中測定、表面電位測
最高使用圧力 30MPa、攪拌機最大回
定(KFM法)、ナノインデンテーション測
転数 750rpm
定、マイクロスクラッチ測定
試料形状:10mm角、厚さ3mm(最大)
循環ポンプ
-3
雰 囲 気:大気、真空(10 Pa以下)、液中、ガス置
液体供給
ポンプ
撹拌機
撹拌機
染料分離槽
換可能
予熱部
液
化
炭
酸
ガ
ス
測定温度:室温∼300℃
担当部署
材料技術部金属材料研究室)
染料溶解槽
(窓付き)
高圧ポンプ
染色槽(窓付き)
(担当部署
- 7 -
製品開発部繊維加工研究室)
岡山県工業技術センター・技術情報・
No.449
機
器
の
紹
介
Ⅲ.熱 分 析 装 置
セイコーインスツルメンツ(株)TG/DTA6300
「装置の概要」
有機、無機材料等を加熱したときの、吸発熱挙
動と質量変化を調べる装置。ゴム・プラスチック材
料の熱分解や燃焼挙動の評価、無機化合物の脱水、
熱分解反応など、大気もしくは各種雰囲気ガス中
で試料を最高1,500℃まで加熱したときの挙動を把
握することができる。
「仕
様」
測定方式
:水平作動式
測定温度
:室温∼1,500℃
試 料 量
:最大200mg
昇温速度
:最大100℃/分
(担当部署
材料技術部無機化学研究室)
受 賞 の お 知 ら せ
平成12年度中国地域公設試験研究機関功績者表彰
・ 試験研究功労賞 :材料技術部長
業
守谷
岡 山 県 職 員 表 彰
安治
・知 事 表 彰 :騒音・振動評価解析グループ
績:環境に係わる分析技術の高度化及
(システム技術部
び資源のリサイクル化技術の開発
・ 研 究 業 績 賞:研
業
究
員
章
業
明、章
忠)
績:騒音の評価・解析技術を駆使して、
忠
従来機に比べて小型で低騒音な医療
績:計測診断技術の開発とその応用に
用酸素濃縮装置を山陽電子工業(株)
関する研究
・ 研 究 奨 励 賞:技
業
真田
と共同で開発した。開発した技術は、
師
窪田 真一郎
各種機器の騒音低減化に役立つこと
績:特殊加工法による微細加工技術に
から、地域産業への幅広い貢献が期
関する研究
待される。
学
位
の
取
得
当センター製品開発部の河野勇人研究員は、平成12年6月15日広島大学より博士(工学)の学位を授与され
ました。学位論文名「静菌作用を利用した食品工業における微生物制御に関する研究」。
技術情報
編集/岡山県工業技術センター研究企画室
発行/岡山県工業技術センター
〒701-1296 岡山市芳賀5301
TEL(086)286-9600(代)
FAX(086)286-9631
http:/www.okakogi.go.jp
印刷/西尾総合印刷 株式会社 横井支店
〒701-1145 岡山市横井上90
TEL(086)254-9001(代)
No.449
平成13年3月15日発行
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