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生物多様性の現状と COP の 成果・課題

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生物多様性の現状と COP の 成果・課題
特集
生物多様性問題
相互に関連性を持つ要素から構成され,その構成要
1-2
素が減少し十分な機能を担えなくなると、システム
生 物 多 様 性 の 現 状 と COP の
成果・課題
の機能が低下しシステム全体が影響を受けることも
ある。生態系は、その構成要素である生物種と物理
化学的な環境要因から構成されているため、環境要
因の悪化や生物種に悪影響を及ぼす人間活動は、生
態系を構成する生物種の消滅や減少を招く結果、健
小堀洋美 1
全な生態系の機能が損なわれることになる。生態系
の劣化によって、食物や木材などの自然資源の供給、
大気や水の浄化など、私たちにとって有益な多くの
生態系サービスも悪化し、社会・経済活動や私たち
はじめに
億年前に海の中で生命が誕生し、海洋の光合成
の日々の暮らしも大きな影響を受けることになる。
植物が生産する酸素からオゾン層が形成された。オ
このような生態系の劣化、種多様性の減少とそれに
ゾン層は有害な宇宙線から生命を守る防護服として
伴う種内の遺伝的な多様性の減少は「生物多様性損
の役割を果たしたため、
失」と呼ばれ、地球規模の深刻な環境問題の一つと
億年前には多くの生命は
海から陸へと生育・生息域を拡大し、それ以来多種
なっている。
地球規模の生物多様性の減少を食い止めるため
多様な生物が海と陸上で繁栄し、進化してきた。新
たな環境に適応する過程で、その環境に適した新種
に、
が誕生し、適応できなかった種は滅びたが、多くの
連環境開発会議(地球サミット)で、生物多様性条
地質時代で新種の誕生が絶滅する種の数を上回った
約が採択された。この条約では、
ため、地球上の生物種の数は徐々に増えた結果、種
保全、
の多様性が高まり、現在では地球上にほぼ
伝資源の利用から生ずる利益の公正な配分(ABS)
万種
が生存していると見積もられている。しかし、長い
地質年代を遡ると過去に
り、現在は
回の大量絶滅の時代があ
度目の大量絶滅の時代と呼ばれている。
を
年にリオ・デ・ジャネイロで開催された国
)生物多様性の
)その構成要素の持続可能な利用、
)遺
つの主な目的としている。日本をはじめ世界の
の国と地域(
年
月現在)が条約に批准し
ている。条約に批准した締約国は、自国の生物多様
過去の大量絶滅は隕石の衝突や地球の寒冷化など、
性の保全と持続可能な利用を目的とする「国家戦
自然現象が絶滅の原因であったが、現在の大量絶滅
略」
、または行動計画の作成を義務づけられている。
は、人間活動の拡大が原因であり、またその絶滅速
年にドイツのボンで開催された生物多様性条
度は人為による影響がない場合の絶滅速度と比較し
約の第
て
物多様性損失を大幅に減少させるために、生物多様
倍も高いことが、過去
回の大量絶滅とは異
回締約国会(COP
)では、地球上 の 生
なる[ ]。その結果、世界中で多くの生物種が絶滅の
性条約の戦略計画が採択され、「
危機に瀕している。
多様性の損失速度を顕著に減少させる」ための「
地球上には海洋、森林、湿地、河川、湖沼などの
多様な生態系が形成されてきた。生態系は英語では
年までに生物
年目標」が設定された。
今年 月に名古屋で開催された第 回の締約国会
エコシステム(ecosystem)と呼ばれ、システムの
議(COP
)は、この達成度を検証する節目の年
一つであることが明示されている。システムとは、
であり、また、新たな
年度目標を定める重要な
会議であった。この会議に向けて、生物多様性条約
東京都市大学環境情報学部教授
12
事務局では、本年
月に「生物多様性条約
年目
年にその成果を報告書にまとめ公表した。この
標」の達成状況を評価し、「地球規模生物多様性概
[ ]
)
」 を公表し
生態系評価では、人々が生態系から得ることのでき
月に日本全
る、自然資源の提供(食糧、木材、医薬品など)
、
国 を 対 象 と し た 初 め て の「生 物 多 様 性 総 合 評 価
制御機能(気候の安定化、水の制御や自然災害の制
況
版 Global Biodiversity Outlook
た。また、日本も締約国として、本年
[ ]
(JBO : Japan Biodiversity Outlook)
」報告書 を公
御など)
、文化的機能(審美的価値やリクレーショ
ンなど)の便益に着目し、生態系がもつサービス機
表した。
本稿では、地球規模での生物多様性の現状につい
能(ecosystem service)を に 分 類 し、そ の お の
て今世紀になって公表された複数の報告と、条約事
おの機能について地球規模での状態や変化の傾向を
務局による世界の生物多様性総合評価から把握す
評価している(表
る。また、日本の全国レベルでの生物多様性の現状
た のサービスのうち、向上しているものはわずか
を環境省による生物多様性総合評価(JBO)から把
とともに、
項目で、 項目では低下し、変化なしが
項目で
あった。したがって、持続的でない方法で利用され
握する。
また、COP
)
。その結果、評価の対象となっ
では、
年目標の達成度の 評 価
年後の新戦略計画(
ていることが示され、地球の健康状態は過去 年間
年目標)と
表
ABS の合意が主な課題であった。これらの議論を
機
含めた COP の主要な成果と課題についても述べ
生態系機能の世界的状況
能
区
分
状況
穀
物
↑
家
畜
↑
漁
獲
↓
自然資源の提供機能
る。
食
料
世界規模の生物多様性・生態系の現状
水産資源
地球全体の生物多様性と生態系の現状について包
括的に調査し、地球の健康状態を評価する試みが開
野生化の食物
繊維・木材
木
材
↑
↓
+/­
始されたのは、今世紀になってからである。このよ
綿、麻、絹
+/­
うな評価が必要となった背景には、地球全体の環境
木質燃料
↓
容量の限界が明らかとなり、地球規模の環境問題が
深刻化し、これに対する取り組みの優先課題や有効
遺伝子資源
↓
生物化学品、自然薬品、医薬品
淡
な保全政策を検討するためには、地球規模の生物多
様性や生態系の状態を把握することの重要が認識さ
れたためである。本項では
年に公表された国連
制
土壌侵食の制御
現状について明らかにする。
↓
地域全体
)
「ミレニアム生態系評価」
国連では、
年から
年間の年月をかけ、世界
の ヵ国の , 人の専門家が参加して、地球規模
の生物多様性や生態系に関する評価をおこない、
↑
↓
+/­
↓
水の浄化と廃水処理
↓
疫病の制御
+/­
害虫の制御
↓
受
↓
粉
自然災害の制御
(
↓
能
地域および地方
[ ]
Assessment(MA)
」
、「Living Planet Report : 生
版」から、地球規模の生物多様性・生態系の
機
気候の制御
水の制御
概況
御
水
大気質の制御
の「ミレニアム生態系評価:Millennium Ecosystem
[ ]
きている地球レポート」
と「地球規模生物多様性
↓
水
↓
文
化
的
精神的および宗教的価値
審美的価値
レクリエーションおよびエコツーリズム
機
能
↓
↓
+/­
(MA2005を改変)
13
で急速に悪化していることが裏付けられた。生態系
(EF : Ecological Footprint)で示している。
サービスで向上しているのは、穀物の生産量、家畜
LPI は、鳥類、哺乳類、生類、爬虫類および魚類
の生産量、水産養殖の生産量と気候制御機能のみで
を含む約 , 種の脊椎動物のそれぞれの種個体群
あった。
について年変化率を計算し、次にデータの収集が始
特に深刻な悪化が認められたのは、沿岸域の生態
まった
年からデータが入手できる最新年まで
系の持つサービス機能で、沿岸漁業による漁獲量も
の、各年における全個体群を通した平均変化率を計
急激に減少している。生態系サービス機能の評価、
算して求めている[ ]。その結果、
生物多様性の幅広いデータ、シナリオ分析を用いた
タを用いた最新の全世界の LPI は、
将来予測などから、以下の主な結論が導き出されて
年の 間におよそ パーセント低下したことが明ら
いる。
かにされた[ ]。さまざまな生態系に生息する生物の
年までのデー
年∼
)過去 年間で、人間活動により生物多様性に大
種数や個体数が減少していることは、地球環境の豊
規模で不可逆的な人為的変化が発生した。
かさが急速に損なわれていることを意味する。LPI
)生態系の改変は人間に多くの利益をもたらして
は地域による差が著しく、北米やヨーロッパなどが
きたが、多くの生態系サービスの悪化、加速度的
位置する温帯域では、環境の保全活動や汚染の改善
かつ不可逆的な変化が生じるリスクが増加した。
といった取り組みによって、LPI が回復している兆
これらは貧困の悪化という形での代償を伴ってお
候が見られる。しかし、生物多様性の豊かな赤道付
り、解決の努力をしなければ将来世代が得る利益
近のアフリカ諸国をはじめとした熱帯地域では、こ
が大幅に減少する。
の 年足らずで、LPI が %も低下している。この
)この生態系サービスの悪化の傾向は 世紀前半
ことは、低所得国が多い熱帯域で、生物多様性の急
にさらに増加する。
激な劣化と深刻な環境悪化が起きていることを示し
「ミレニアム生態系評価」は、私たちの生活は、
ている。
健全な生物多様性を基盤とする各種の生態系サービ
EF は、現在一般的に普及している技術と資源管
スに支えられていること、さらには、食料や淡水の
理の方法の下で消費する資源を生産し、廃棄物を吸
供給などの生態系サービスが変化すると、私たちの
収するのに必要な生物学的な生産性を持つ陸域と海
生活基盤が不安定となり、選択と行動の自由も影響
域の面積を合計した値で表わされる。
を受けることを示している。
人類の自然資源に対する需要が世界全体で倍増し、
年以降、
この消費を支えるために必要とされる地球の生物生
(
)
「Living Planet Report」
「Living Planet Report」は、
産力は、
度、WWF
ている生産可能な資源力と廃棄物の回収力の限界を
がロンドン動物学協会、およびグローバル・フット
超えた消費が続いていることが示された。この過剰
プリント・ネットワークと共同で発行しており、
な消費分は、地球の「原資」を取り崩す形で進行し
最新版は、COP の開催中に公表された。「Living
ている。EF も、LPI と同様、地域や国による大き
Planet Report」では、地球生態系の健全性と人類
な違いがあり、世界全 体 の EF の 約 %は、先 進
が生態系にかけている負担の大きさを
つの相互補
国を中心とした、OECD 加盟国の カ国に集中し
完的な手法を利用して、評価している。地球生態系
ており、これらの高所得国の EF は、平均して低
の 健 全 性 は「生 き て い る 地 球 指 数(LPI : Living
所得国の
Planet Index)」で示し、人類が生態系にかけてい
る持続可能でない消費活動の多くが、特に熱帯の貧
る負担の大きさをエコロジカル・フットプリント
しい国々にある自然資源に支えられていると言え
14
年に
年間で地球 .個分となり、地球の持っ
倍となっている。これらの高所得国によ
る。図
には、世界各 国 の EF を 示 す。日 本 を 初
カ並の消費生活をすれば、地球は .個必要になり、
めとする先進国の多くは、EF の債務国であるのに
日本並みの消費をすると地球 .個が必要になると
対し、熱帯域の発展途上国の多くは、EF の債権国
試算されている。
であることを示しており、先進国の豊かな暮らしは、
南の国の自然資源を消費して成立していることが如
実に示されている。世界中の人々が、現在のアメリ
(
)
「地球規模生物多様性概況」
「地球規模生物多様性概況第
は、
版(GBO
)
」で
年目標達成のための のゴール、
および各々
のゴールを達成するための具体的な個別目標とその
達成状態を評価した(図
)
。この結果から、
年目標のために設定された の個別目標の中で、地
球規模で達成された目標は
項目もないことが示さ
れた。生物多様性の損失の直接的原因である生息地
変化、乱獲・乱開発、汚染、侵略的外来種、気候変
図
各国のエコロジカルフットプリント[ ]
動などは依然として継続もしくは増加しているた
め、生物多様性を構成する遺伝子、種、生態系の
図
個別目標の達成状況(出典:地球規模生物多様性概況第 版
を改変)
15
つのレベルで損失が継続していることが明らかにさ
れた。特に過去 年間に野生の脊椎動物は平均で約
分の
失われたことは、絶滅危惧種の増加も含め
で、その損失は現在も続いている。
「第
の危機」をもたらしている開発・改変が、
過去 年間で最大の生物多様性の損失の要因となっ
ており、全ての生態系に悪影響をもたらしている。
て、深刻な事態である。
年目標を設定したことにより以下の
現在は大規模な開発は減少しているが、小規模な開
望ましい効果が見られたことも評価すべきであろ
発や地域的な開発は依然として続いており、過去に
う。
生じた大きな損失は回復されていない。
しかし、
)保護区が拡大し、特定種の保全が進展した。
「第
の危機」とは、自然に対する人間の働きかけ
)汚染や外来種などへの取り組みが増加した。
が縮小撤退することによる里地里山などの環境の質
)世界の
の変化、種の減少などによって生じている生物多様
か国が生物多様性国家戦略や行動計
性の減少である。この第
画を策定した。
)保全のための資金の増加がみられた。
の危機は人間の利用不足
(underuse)による生物多様性の損失であり、諸外
)生物多様性の研究・観測・科学的評価が進展し
国と比較して、日本で特に顕在化している生物多様
た。
性損失の要因を言うことができよう。その主な原因
として、エネルギー供給構造の変化、農業・農法の
(
変化、農村部の過疎化・高齢化などによる生物資源
)日本の生物多様性・生態系の現状
日本全国を対象とした初めての「生物多様性総合
[ ]
評価」報告書 は COP に向けて環境省が生物多
様性総合評価検討委員会を設置し、
名の専門家
の利用の縮小や植生遷移が挙げられ、その影響は増
加していることが懸念されている。
「第
の危機」とは、外来種、化学物質など人為
年度から
年間にわたって作成
的に持ち込まれたものによる生態系の撹乱による生
したものである。評価期間は
年代後半から現在
物多様性の減少である。外来種が在来生物や生態系
までの 年間とし、生物多様性の損失の要因(影響
に与える影響は近年急速に顕在化しており、特に陸
力の大きさ)と状態(損失の大きさ)等を、 の指
水生態系や島嶼生態系における影響と侵略的外来種
標と
の急速な分布拡大が懸念されている。
の協力を得て、
のデータを用いて評価している。その総合
評価結果の概要を図
に示す。この図から分かるよ
「地球温暖化の危機」はすでに顕在化している。
うに、評価軸として生物多様性の損失の要因を用い
種のレベルでは生物季節の変化、生態系レベルでは、
ており、「第
高山、サンゴ礁、島嶼生態系などは温度や海面の上
の危機(開発・改変、直接的利用、
水質汚濁)
」
、「第
の危機(里地里山等の利用・管
昇による影響がすでに顕在化している。また、稲作、
理の縮小)
」
、
「第
の危機(外来種・化学物質)
」
、
「地
茶畑、ミカンやリンゴの生育適地の北上、海流の変
球温暖化の危機」の
ている。これらの
つの危機に区分して、評価し
つの危機に基づく生物多様性の
損失を「森林生態系」
、
「農地生態系」
、
「都市生態系」
、
「陸水生態系」
、「沿岸・海洋生態系」
、「島嶼生態系」
の
つの全国の生態系を対象として動向を総括して
いる。その結果、人間活動に伴う日本の生物多様性
の損失は全ての生態系で見られ、その損失は続いて
いることが明らかにされた。特に損失が大きかった
生態系は陸水生態系、沿岸・海洋生態系、島嶼生態
16
化による魚種の収穫量の変化などを通じた、温暖化
による社会的・経済的な損失が一部顕在化しており、
その影響の拡大が懸念されている。
図
日本の全国レベルでの生物多様性総合評価(出典:環境省 生物多様性総合評価報告、
申する決議案に関する調整が進められた。本会議と
COP の成果と課題
COP は、本 年 月 日 か ら
名古屋市で開催され、
)
週 間 の 日 程 で、
の締約国、関連国際機関、
作業部会は公開で行われ、その内容は web でも公
開された。意見の対立や隔たりの大きい文案につい
NGO 等から , 人以上が参加した。我が国はホ
ては、その部分だけを検討するコンタクト・グルー
スト国として、関係省庁と連携し、愛知県、名古屋
プと呼ばれる下部会議体で集中審議がなされ、それ
市、経済団体等からなる COP 支援実行委員会や
でも紛糾する場合は、非公開の ICG(Informal Con-
生物多様性条約事務局と協力し、会議は、松本環境
sulting Group 非公式協議グループ)あるいはコン
大臣が COP の議長を務め、最後の
日間は COP
タクト・グループの議長が招集する少人数のグルー
ハイレベルセグメント(閣僚級会合)が開催され
プが招集されて文案を練り上申する作業が行われ
た。また、今回の COP では、過去最大となる約
た。サイドイベントでは、多くのテーマが取り扱わ
のサイドイベントが開催され、また隣接する会
れ有意義であったが、大半の参加者は日本人であり、
場では「生物多様性交流フェア」が開催され、 万
本会議場へ参加している海外からの参加者や NGO
千人の市民などが参加し盛り上がりを見せた。
などへの呼びかけや連携がきわめて少ないことが、
筆者は COP の本会議、作業部会(WG)
、サイ
残念であった。このような機会を最大限に生かして、
ドイベント、生物多様性フェアーに参加する機会を
国益のぶつかり合いでない、多様なセクターが生物
得たので、その様子を簡単に紹介する。本会議では、
多様性の本質的な議論を展開できる場を用意するこ
多岐にわたるテーマごとに設けられている各作業部
とは、今後の課題であろう。
会での決議案について、審議し確定する作業が行わ
週間続いた交渉の中で、最終的に締約国のすべ
れた。作業部会では、各国代表団の間で本会議に上
てが合意して、ABS 議定書(名古屋議定書)
、新戦
17
略計画(
年目標)
、それを達成するための資金
具体的な金額目標(官民全てのかつ世界全体での資
動員計画の
つの決議が採択された。会議は難航し
金フローについての目標)の明記を強く求めたのに
たが、最終的には、国際社会が協調して生物多様性
対し、先進国側は、しっかりとした指標無しに目標
の問題に取り組んで行くという政治的意思を示すこ
を設定する議論に応じられないとの立場をとった
とができ、我が国も議長国としての役割を果たした
が、最終的に、途上国側は具体的目標の要求を取り
と評価できよう。しかし、南北問題、各国が抱える
下げ、指標についての議論に応じ、 )COP
問題、国益のぶつかり合いも表面化し、今回の決議
は、目標を採択し、
にもとづき問題の解決に向けて前進することは平た
向けて、
んな道のりでないことも鮮明となった。
フローを増加させる目標を検討する、との決定が採
)条約の
で
つの目的の達成へ
年までに途上国への毎年の国際的資金
択された。
)持続可能な利用
( )COP の主な成果
生物多様性条約はその条約の性質上、広範囲な
ブッシュミート(食用の野生鳥獣等)の適正な利
テーマが議論されたが、主な成果の概要を述べる。
用、アジスアベバ原則・ガイドラインの実施、日本
)新戦略計画・愛知目標(ポスト
∼
「
年目標(
が提案した SATOYAMA イニシアティブの推進な
どを含む決定が採択された。
年)
)
年までに生態系が強靱で基礎的なサービス
)バイオ燃料と生物多様性
を提供できるよう、生物多様性の損失を止めるため
バイオ燃料の生産及び使用は、食料やエネルギー
に、実効的かつ緊急の行動を起こす」ことが採択さ
の安全保障を含む社会経済的状況に影響を及ぼし得
れた。難航した保護地域については、最終的に陸域
ることを認識し、その正の影響を促進し負の影響を
%、海域 %を保護地域とするなど、 の個別目
最小化するため、バイオ燃料の生産に適した又は不
標が合意された。中長期目標(「自然との共生」
)に
適な土地を適切に見極めること、次世代バイオ燃料
ついては、「
の生産に使用され得る合成生物学とバイオ燃料に関
年までに、生態系サービスを維持
し、健全な地球を維持し全ての人に必要な利益を提
する情報提供を行うこと等が決定された。
供しつつ、生物多様性が評価され、保全され、回復
)海洋と沿岸の生物多様性
され、賢明に利用される」ことが合意され「愛知目
生態的及び生物学的に重要な海域(EBSA)の設
標」として採択された。
定の基準の適用に関する理解の向上を図るととも
)ABS(遺伝資源のアクセスと利益配分)に関
に、海洋生物資源についても、生物多様性に配慮し
する名古屋議定書
て持続的に利用するための適切な措置をとるよう各
最終日まで、資源提供をする途上国側と利用する
国に促すことなどが決定された。
先進国側による意見対立があったが、議長案が「名
)農業の生物多様性
古屋議定書」として採択された。名古屋議定書の採
水田農業の重要性を認識するとともに、ラムサー
択は非常に大きな成果であり、生物多様性条約がそ
ル条約の決議 X. 「水田決議」を歓迎し、その実
の目的を達成するための基本的な体制がようやく
施を求めることなどが決定された。
整ったと言えよう。
)資源動員戦略
COP
)気候変動と生物多様性
年の国連持続可能な開発会議(RIO+ )を
で決定された「資源動員戦略」の進捗状
見据えた他のリオ条約(気候変動枠組条約及び砂漠
況をモニターするための指標(indicators)と目標
化対処条約)との共同活動の検討を行うことが決定
(targets)
についての議論は紛糾した。 途上国側は、
された。また、森林の減少及び劣化に由来する温室
18
効果ガスの排出の削減等(REDD+)の活動に関す
れる。外来種の影響はさらに顕在化し、温帯と熱帯
る生物多様性の保全措置や生物多様性への影響評価
域の森林、沿岸域、熱帯草地への影響が懸念されて
について、生物多様性条約事務局が助言や検討を行
いる。
国内においても、過去の開発・改変による影響が
うことが決定された。
)多様な主体との協力
継続すること(第
の危機)
、里地里山などの利用・
締約国によるビジネスと生物多様性の連携活動や
管理の縮小が深刻さを増していくこと(第
の危
民間部門による具体的な参画の奨励、国レベル・地
機)
、一部の外来種の定着・拡大が進むこと(第
域レベルでのビジネスと生物多様性イニシアティブ
の危機)
、気温の上昇等が一層進むこと(地球温暖
や国際的な連携を図るためのグローバルプラット
化の危機)などが、さらなる損失を生じさせると予
フォームの設置の奨励等が採択された。
想される。
我が国が提案している「国連生物多様性の 年」
を国連総会で採択するよう勧告することが決定され
た。
生物多様性の保全―持続可能な社会形成に向けて
現在の日本の物質的に豊かで便利な生活は、過去
年の国内の生物多様性の損失と国外からの生態系
世紀の生物多様性のゆくえ
「地球規模生物多様性概況第
サービスの供給の上に成り立ってきた。しかし、こ
版」では、 世紀
のような生活や社会の在り方は国内的にも国際的に
の生物多様性の未来予測をおこなっている。 世紀
も持続可能ではない。しかし、今後も生態系サービ
は過去のいかなる時代よりも速い速度で種の絶滅が
スへの需要の増加は続くことが予想されるため、需
進行することが予測されている。野生動植物の生息
要の増加に対応しつつ、生物多様性の価値や生態系
地が失われ、種の分布と豊かさが変化すると予測さ
のサービス機能の劣化を減らす方策を探ることが求
れている。生態系によっては転換点(tipping point)
められている。そのためには、国際的課題(貧困、
を越え、地域スケールもしくは地球規模で、生物多
健康、繁栄、安全保障、気候変動)の取り組みや政
様性と生物多様性が支える生態系サービス機能に甚
策に生物多様性への配慮を組み込むことは重要であ
大な変化が生ずる可能性が指摘されている。陸水生
る。
態系、島嶼生態系、沿岸生態系における生物多様性
我が国では、 世紀環境立国戦略のもとで、持続
の損失の一部は、今後、不可逆な変化を起こす恐れ
可能な社会を構築するために、低炭素社会、循環型
がある。
社会、自然共生型社会という
つの社会目標が提案
世紀に生物多様性の損失をもたらす量も大きな
されている。いずれも生物多様性の損失や生態系
要因は土地利用の改変、温暖化と汚染で、すべての
サービス機能を失わない方策としてもすぐれた目標
生態系が影響を受けると予測されている。土地利用
であるといえよう。自然共生社会の形成には、生物
の改変は特に熱帯雨林、淡水生態系の生物多様性を
多様性がもつ多様な価値や豊かさを尊重するとの
著しく減少させることが懸念されている。温暖化に
メッセージが込められている。低炭素社会の形成は、
よる気温の上昇は動植物相のさらなる変化を引き起
温暖化による生態系や生物多様性への悪影響を軽減
こし、海水温度の上昇は沿岸生態系、サンゴ礁、マ
し、また、森林の炭素の固定・吸収能を高めること
ングローブ、極域生態系に大きな変化を引き起こす
にもつながる。また、日本の里山でみられた生物多
と予想されている。人為による窒素の生態系への負
様性豊かな資源循環型の社会の在り方は新たな循環
荷による水域の汚染や富栄養化は、漁業資源の減少
型社会の形成のモデルになりうる。
をもたらし、甚大な経済的損失をもたらすと考えら
私たちの生活や経済活動の基盤となっている生物
19
多様や生態系サービスの恩恵を今後も持続的に甘受
するためには、現在の人間活動、社会システムのあ
り方、政策・制度・慣行の大幅な見直しと転換を早
急に行うと共にグローバルな生物多様性の損失を防
ぐために世界各国が協力していくことであろう。そ
の意味からも COP における新たな国際協調の今
後に期待したい。
参考文献
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のすすめ改訂版.文一総合出版,
.
[
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[
]環境省生物多様性総合評価検討委員会.生物多様性
総合評価.環境省,
版.環境省,
.
.
[ ]Millennium Ecosystem Assessment Organization.
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