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政治経済体制の変容一韓国の事例

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政治経済体制の変容一韓国の事例
1
7
9
政治経済体制の変容一韓国の事例
AStudyont
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a
lEconomy
大津健登
K
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u
目 次
1.はじめに
2
. 韓国社会性格論争について
アン・ヒョニョの議論
3
. 韓国の政治経済的発展類型をめぐる近年の視角
4
. 韓国における政治経済構造の現実
5
. むすびに代えて一一韓国市民社会の発展
cl::l韓関係の進展にむけて
1.はじめに ω
2
0
1
4年,韓国は「ギャラクシー・ショック J
,1
サムスン・ショック」と捕附された。サムス
ン電子の 4月期以降の減収減益をめぐって,韓国が形容されたのである。その実態は議論される
ところではあるが,今や多間籍企業「サムスン」に代表される財閥の影響力ば,帳めて大きい状
況となっている。
これまで,韓国経済の成り立ちをめぐっては多くの論争が展開されてきた。その画期は「韓国
資本主義論争」であり,また日本国内においても,戦後韓国の奇跡的な経済成長について検討さ
れ
, (理論・論争に対する研究地平というよりかは)韓国経済の現実および実証的分析に問題意
識がおかれ,考究されてきた。
最近の代表的な(日本国内における)韓間終済研究を挙げておこう。政策論としての奥田聡
(~韓国の FTA-10 年の歩みと第三国への影響一一』アジア経済研究所,
2
0
1
0什:),産業論の
吉岡英美(~韓同の工業化と半導体産業:世界におけるサムスン電子の発展』有斐閣,
2
0
1
0年),
労働市場構造を分析する横田伸子(~韓国の都市下層と労働者一一労働の非正規化を中心に』
ネルヴァ書房, 2
0
1
2年),国際経済・世界経済論の枠組みを重視する佐野孝治 (
1韓国のグロー
パル化志向輸出主導型成長モデル
日本は『韓国モデル」に学ぶべきか J~経済」新日本出版
社
, 2013 年 6 月号[第 213 巻]),国家と財閥(企業)の役割を論究する高龍秀(~韓国の企業・
(1) 本稿における文献の参照・引用について,韓国語の文献および資料の著者はカタカナ・フルネームで
記しており,日本語文献の韓国論者は,漢字姓名で記している。ただし,韓国における政府機関をはじ
め,日本圏内でも一般的に把握されている場合は,漢字を使用している。
1
8
0
『明大商学論叢』第 97 巻 ti~
金融改革』東洋経済新報社.
3号
(460)
2
0
0
9年 〉 な ど , 鋭 い 視 点 が 多 L
、。また,政治学や社会学,経営学
といった分野からも,様々な論点が提供されている。
韓国経済研究は主に一一国家・財閥・外資.ここに!1iを史や民族,宗教,文化などが交錯する。
近年では,グローパリゼーションや新自由主義が位置づけられており,韓国社会に対する視点は
多様である。
本稿では,こうした動向をふまえ一一理論・論争自体の検討ではないが,その現在性につい
て一一韓国における政治経済体制の視角と現実を考察する。
2
.韓国社会性格論争についてーアン・ヒョニョの議論
戦後の韓国社会は,いかにして捉えられているのかへ先行研究のなかで繰り広げられてきた
視点は,韓国資本主義論争(社会構成体論争,韓国社会性格論争)を契機とした国家独占資本主
義論(朴玄採らが主張する民族経済論)と周辺部資本主義論(李大根らが主張する従属論や世界
システム論)に集約されるであろう。すなわち,前者は資本主義の一般規定を分析視角として労
働と資本の階級対立を強調し,後者は資本主義の一般法則よりも特殊な変形化として従属性を強
調したのである九しかしながら,こうした体系的論争は.
1
9
8
9
1
9
9
1年 の 冷 戦 体 制 崩 壊 お よ び
1
9
9
7年 ア ジ ア 通 貨 金 融 危 機 に よ る 急 速 な 社 会 変 化 の な か で 応 え ら れ ず , 下 火 と な っ て い っ た 。
1
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0
1
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J
1
9
9
7
l
戸「一司、
出用一一一一一一一一主
一一一一ーーー一一ーー一一←パー外因
'
開発独裁-一一一一一一一←
│
新自由主義 l期
│ 新自由主義 2期
次受動的草創
経済理念
産業構造
o
wr
o
a
d戦略(二極化戦略)
包摂と排除の l
高負債.高投資,高成長,低賃金
政治理念
‘産業化・勢力(保守主義)
支配ブロック
保守大連合(移行期)
民主化'勢力(向向主義
a
国家(軟性)+財閥+国際金融資本
国家(硬性)+財閥+銀行
京
論
義
本l+l
資
ぃ
・中
民族主義イデオロギー
(右派民族主義)
、
民族経済論
る
保守派
噺右派「、
悦にノ
2次受動的革命令
出所:アン・ヒョニョ「韓国社会性格論争の現在性一一 N
LPDRから新自由主義までーー」
0
1
1年
, 1
3ページ,図 l
。
大郎大学現代思想研究所『現代思想』第 9号. 2
図 1 韓国経済に関する社会性格論争・政治経済体制の変容
(2) 本章は,アン・ヒヲニョの一連の論考 (
1‘民族終済論'と新自由主義時代の韓間経済学一一‘社会性格
論争'の再解釈
」韓国社会科学研究所『動向と展望』第 7
2号. 2
0
0
8年. ~新自由主義時代以後,韓
国経済の政治経済学』ヨルリンギル. 2
0
1
1年. 1
韓国社会性絡論争の現在性一一 NLPDRから新自由主
義まで一一」大郎大学現代思想研究所『現代思想」第 9
号. 2
0
1
1年)を要約および参照しているため,
本章本文における内容については同氏が展開する表現や文脈が多分に含まれていることに留意されたい。
もちろん,明示的な引用は,詳細に記している。
(
3
) アン・ヒ自ニ盟,向上論文 (1韓国社会性格論争の現在性一一 NLPDRから新自由主義まで一一J
)
.3
一
4ページ。
(
4
6
1)
政治経済体制の変容ー韓国の事例
1
8
1
とは L、ぇ,各論者が経済的現象(局面および変化)を精轍に捉えており,今日に引き継がれてい
0
0
8年リーマンショックの影響による(世界的〉経済危機を背景に,
る課題である。とりわけ 2
同国の社会経済状況に対する問題提起が再度なされている。
かかる状況下,韓国の経済学者アン・ヒョニョは,このような論争の過程をふまえ,社会性格
論争の再解釈および体系化を試み,積極的な考察を行っている。本章では,アン・ヒョニョの議
論を手がかりにして,同国における社会性格論争の現在性を検討する。
1
9
9
7年以後まで捉えたその趨勢は,図 lに示される。アン・ヒョニョは,これまでの社会構
9
8
7年(いわゆる民主化宣言を転機とした r
8
7年 体 制 J
) を政
成体論争を精織に再考しつつ円 1
治的・経済的次元で重要な分岐点としており,
r
民主化による政治権力の弱体化は,結果的に朴
正照政権からつづいていた特徴的な体制,すなわち国家・財閥・金融の三角支配フ*ロックの解体
を促し,韓国資本主義の将来をめぐる闘いを引き起こした」 ω と言及した。その意味が決定的に
付されるのは, 1
9
9
7年の経済危機であった。
(4) この点について,アン・ヒョニョは,民族経済論の論点整理を中心に,次のように論及した。以下は,
1‘民族経済論'と新自由主義時代の韓国経済学一一‘社会性格論争'の再解釈一一J
),
同氏,前掲論文 (
3
8
3
9ページ。
朴玄採が提起した論点ではじまった‘社会構成体論'は,民族経済論をめぐって遂行したが,民族
経済論を超えた問題提起,すなわち民族問題と階級問題の結合といった問題意識を超えた問題提起が
現れているということを知ることができた。これは,最初には階級意識を一般的に強調する最大限綱
領主義的傾向を示したものとして,またこれは 1
9
9
0年になって労働運動の退潮ととともに破綻に至っ
たものであった。一方では,ポストマルクス主義的傾向と市民社会論の復興によって,この論点は理
論地形で完全に忘れられるようになった。 1
9
9
7年の経済危機以後,新たに提起された代替経済 (
a
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r
n
a
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i
v
ee
c
o
n
o
m
y
) を模索する流れは,多分に民族経済論の意義をもう一度考える契機にもなった
が,本卜玄採の民族経済論が生んだ種と萌芽を,正しく評価できなければ,新しい問題意識は過去の論
点、の無視によって退歩しやすくなる。
わたしは,この論点をポスト近代,ポスト植民地主義の問題意識と呼ぶことができると示した。と
ころで(しかし),発展概念と近代概念をこのように批判するとき,かえってマルクス主義の根本的
な変革論も批判されるという問題提起がある。ポスト植民地主義的観点がポスト近代主義的観点と連
動し,提起される質問,すなわちポスト近代主義(ポストモダニズム)をどのように解釈するのかと
いった問題だが,これはマルクス主義の再解釈の問題として,簡単な問題ではない。
(
・
・
・
省
略
・
・
・
)
われわれが,‘社会構成体'論争で発見したポスト近代の論点の萌芽とは,階級問題自体の提起では
ない。階級問題の提起はポスト近代的論点ではない。われわれが発見しようとするものは,階級問題
を民族問題に接合させることによって,一定の理論的緊張が発生し,ここで現れた民族主義批判の過
程がポスト近代的要素の萌芽というものである。また一方で,ポスト植民地主義,ポスト近代主義は
近代観の否定的側面を批判するところは成功したが,資本主義の歴史のなかで,その代替を再構成し,
代替の主体を形成することには寄与することができなかったという批判同様,それは相当部分あって
いる。階級の強調は,旧社会運動の核心要素のひとつであり,ポスト近代の要素というのは非階級的
側面で構成されるとすれば,それは間違いなく民族問題と階級問題の同時的棄却である。これはひと
つの問題である。新しい反体制運動が民族運動と社会(主義)運動と明確に違う環境,少数者,人権
などの問題で散発化されて現れているが,求心力の中心となる点なしに流れていくことも事実である。
けれども,われわれの今までの論議で発見したことは, もうこれ以上一国主義的観点ではなくグ‘ロー
パルな観点,エティエンヌ・パリバールの表現によれば, ‘代替の世界化'の観点のみで代替的主体
の形成を考慮しなければならない点である。このような未来的認識のなかで見るとき,民族経済論の
民族主義は,継続して批判されて訂正しなければならな L
聞
、
(5) アン・ヒョニョ,前掲論文 (
1
韓国社会性格論争の現在性一一 NLPDRから新自由主義まで一一J
),1
1
ページ。
1
8
2
『明大商学論叢」第 9
7巻第 3号
(
4
6
2)
アン・ヒョニョはベ 11997年の経済恐慌は,朴正県体制(1962-1987年)の有意性一一民族
経済論一ーも否定するだけでなく,移行期であった保守大連合の‘世界化'論(1987-1997年
〉
一一新自由主義第 1期一ーも否定するものであった。しかしながら,経済危機以後の政策は,驚
くべきほどの新自由主義の変形版(新自由主義 2期)として強固になった。いわば,金大中政府
の経済政策は秩序自由主義(より介入主義的)と民族的市場経済(より放任主義的)のなかで新
自由主義により近い民主的市場経済を指向したものであり,虚武鑑政府の経済政策もまた,初期
には社会政策的指向であったのにもかかわらず新自由主義的構造調整を継続して推進したのであ
るJ'
7
) と論じた。それは,
I
‘新自由主義'の世界的普遍化に起因するものでもある」 ω外国と, I
韓
国内の政治指向における階級的進歩勢力が効果的に進出できなかった結果でもある」 ω 内因によ
るもの,とアン・ヒョニョは指摘し,進歩勢力内での足並みがそろわないまま,新自由主義が体
制jとして固まり,誰が新自由主義のかじ取りをするのかという問題になった,と述べる。そこ
で,保守派のなかで新自由主義を掲げた勢力,‘新右派'が登場することになる。新右派は,政治
イデオロギーが複雑で,過去の民主化勢力とそのうえ新北左翼勢力まで転向し結合したという特
異性があると Lサ。そのなかには,市場主導的,財閥容認的,民族主義的であり世界化論者といっ
た捉え方などみられるが,本質は変わらない。すなわち,
I
国家一銀行一財閥」から, 1
9
9
7年の
危機を通じて「国際金融ー財閥ー市場経済国家」という形で,国家と財閥は強 L、影響力をもちつ
づけている。今のところ,この過程では,朴正鼎体制の矛盾を根本的には解決できていないので
ある。
また (10) 虚武鑑のような左派的政権であっても,北朝鮮問題と韓米 FTAを結合させるといっ
た左派民族主義と新自由主義をあわせた動向がみられ,結局のところ,構造化された韓国の社会・
政治・経済的問題に改善の余地はみられなかった。すなわち,韓国鰻済は,転換ではなく,同じ
地平で変容しつづけているのである。とりわけ,いずれの政権になっても二極化を解決できない
ところに最大の問題がある。二極化は,基本的に所得の二極化と捉えられるが,産業構造の二極
化,労働者階級の二極化,大一中小企業の二極化,輸出ー内需企業のニ極化などによって深化し
ている。
さらにアン・ヒョニョは,民主化の意味について問題視する。少々長いが引用する。「わが国
9
8
7年を重要な起点にして劇的に変化した。すなわち 1
9
8
0年の光州民衆抗争は,
の民主化運動は 1
1
9
6
0年代からはじまった権威主義的資本主義発展の支配ブロックに一定の亀裂を加えたが,決
9
8
7年に頂点に達した民主化運動は,労働運動と結
定的に消誠させられなかった。そうして, 1
合し,民衆抗争的性格を帯びることになった。民衆抗争によって,危機におかれた軍事独裁政権
の支配フ。ロックは‘保守大連合'を通して‘受動的革命'に成功し,軍事独裁政権の権威主義は新
(6) 本段落は,同上論文, 1
3
1
6ページを参照・引用。
(7) 岡上論文, 1
3
1
4ページ。
(8) 向上論文, 1
4ページ。
(9) 同上論文, 1
4ページ。
(
10
) 本段落は,向上論文, 1
5
1
9ページを参照・引用。
政治経済体制の変容一韓国の事例
(463)
1
8
3
自由主義的政策の路線をとることになった。この過程で生まれた民主化勢力の離合集散は結果的
に権威主義の独裁時代にはじまった民衆的民主主義運動に分裂をもたらし,民主主義自体が危機
に直面しているという今日の状況にまでなった。これは, 1997年経済危機を経た単純な力比べ
ではなく,構造化した制度として定着したものである。よって, 1987年に頂点に達した民衆的
民主化運動は,新自由主義的民主主義下で新しい目標と手段を検討しなければならない状況,す
なわち 20世紀的戦略と方向を修正しなければならない状況におかれている,のである。結局,
20世紀末まで進行した韓国の民主化は,失敗したと診断しなければならないだろう」 ω。
) ①民主化の推進勢力として,労働者階級の(大衆の)力量に問題があっ
その原因としては(l2
たこと,その主導性が確認できなかった点,②つまり,労働者階級が民主化運動内で政治的指導
力を確保できなかった点で,組織的・体系的に対応できなかった点,③わが国の急進的民主主義
勢力の思想的基盤が非常に虚弱だった点,その共通意識がまとまらなかった点,である。
以上の諸相から,アン・ヒョニョは,グラムシやグラムシ主義者であるコックスの知見を引合
いにだしつつ,
I
現在の複雑に分化した階級」問題を精織に捉えることを,その課題として提起
している。同時に,その問題は,一国主義的ではなくグローパルに連動した視角でもって把握す
ることが重要であると述べている。
3
. 韓国の政治経済的発展類型をめぐる近年の視角
韓国社会はこのような歪な流れを内包しているのだが,近年ではとりわけ新自由主義によせて
位置づけられている。本章では,新自由主義と韓国経済について,いくつかの議論をもとに,論
点を抽出してみよう。
まず,韓国社会における新自由主義的段階とヘゲモニー状況を捉えるイム・ウンテクは,圏内
で貫徹されている新自由主義の普遍性および特殊性を理解するために,ネオグラムシの理論の分
析枠組みに基づいて,現在の韓国社会で発展した新自由主義の様相を,政治経済的・社会文化的
現象との関連で,分析を試みている制。ちなみに,ネオグラムシ論は,
I
ヘゲモニーを階級関係,
イデオロギ一関係,支配および合意構造を含んだ,合意にもとづいた超国家的社会変化
C
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r
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l
s
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h
a
f
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u
n
g
) の類型J'叫とみなし,歴史性と同時に,国家的特性および地域特性を含み
ながら全地球的性格の獲得を示唆しており (15) この視点から捉えた新自由主義は単純な市場の自
然法則で理解されるものではなく,具体的な政治的プロジェクトの産物である(ベと述べている。
(
1
1
) 向上論文, 2
0
2
1ページ。
(
1
2
) 本段落は,向上論文, 2
1
2
2ページを参照・引用。
(
1
3
) イム・ウンテク「韓国社会における新自由主義の発展段階とヘゲモニー戦略に関する理念型的分析」
批判社会学会「経済と社会」通巻第 8
8号
, 2010年
, 303ページ。
(
14
) 向上論文, 3
0
6ページ。
(
15
) 向上論文, 3
0
6
3
0
8ページ。
(
16
) 向上論文, 3
3
0ページ。
『明大商学論叢』第 9
7巻第 3号
1
8
4
(464)
表 l 新自由主義の多様な発展類型(理念型)
教条的一保守主義的
脱市民的資本主義
新自由主義
社会民主主義的金融
市場の資本主義
新自由主義に対する
目標:社会的・生態的持
続可能性,社会正義,解
目標:経済的・政治的反
目標:巨大資本の供給権
目標:成長と社会部分間
応に対する権威主義的支
力強化,下から上への再
分配
の均衡調整
手段:露骨約な‘経済の
手段:社会の脱規制化,
テロ'と強力な軍事的・
警察国家的統制,法ポピュ
世界市場の自由化,世界
手段:世界市場の圧力に
対する適応,‘競争国家
ア犠造,新自由主義と
私有化
配
改革代案の領域
放,民主化
市場の圧力に対する適応; 中産層支援,職業訓練み
wandO
r
d
e
r
), 労働柔軟下政策,急進的 労働柔軟化政策の連繋,
リズム Oa
極右主義,類似のマフィ 産業構造調整,脱規制,
生産的福祉
手段:参与民主主義,社
会的・生態的・民主的に
統制される混合経済
ー私生児的ケインズ主義'
の混合
ヘゲモニーブロック:経
ヘゲモニープロック:多
権力プロック:新自由主
済,政治,軍隊内の権威
国籍企業,国際金融市場
義の権力ブロックで広範 会的中産層の市開士会的・
固な中産層のだきこみ,
民主的行為者,社会的疎
ヘゲモニーブロック:社
主義的エリート集団,ポ
のグローパル・プレイヤー,
ピュリズム的に動員され
保守的エリート,上流階
下層階層 (W
o
r
k
i
n
gp
o
o
r
) 外階層
た社会階層
級,アメリカの支配追従
一部の機能的統合
典型:チリのピノチ
典型:レーガノミクス,
典型:クリントン/プレ
ト/フジモリ政権;ジョー
サッチャリズム,金大中
ア/リオネル・ジョスパ
ジ
政府の受動的革命
L
.w・プッシュ政府と
李明博政府などは傾向的
ン政府:1
藍武鉱政府の受
動的革命
に類似性向
出所:イム・ウンテク「韓国社会における新自由主義の発展段階とヘゲモニー戦略に関する理念型的分析」批判社会学
会『経済と社会』通巻第 8
8号
, 2
0
1
0年
, 3
0
9ページ,表 l
。
表 lに は , ネ オ グ ラ ム シ 的 観 点 で , 国 内 外 的 に 関 連 し あ っ て 新 自 由 主 義 が 貫 徹 さ れ て い く 普 遍 的
特性と具体的特性を段階的に比較しながら,局面別に新自由主義がもっ特性について示されてお
り
(
17) 韓国も位置づけられている。
また,より一国の具体的把握におとして韓国の国家の性格に焦点をあてて考察したソ・ジョン
ミ ン , キ ム ・ ヒ ョ ン ジ ュ ン に よ れ ば , 韓 国 は 「 民 族 主 義 的 新 自 由 主 義 」 だ と し て い る 〔ω。 同 国 に
対する国家の研究は,
r
国家を‘国家一体系
C
s
t
a
t
e
s
y
s
t
e
m
)" す な わ ち 社 会 と は 区 別 さ れ る 制 度
(
19) されており,
的 に 実 践 さ れ る 体 制 お よ び 国 家 構 造 で 把 握J
r
政策決定者と社会構成員の聞に新
自由主義の制度的導入に対する‘自発的同意'がどのように形成されているのか,についての分
析が不十分」仰であるという。そこに国家一観念 C
s
t
a
t
e
i
d
e
a
) の視角を取り入れること,つま
り「特定の領土の構成員が国家の制度と社会に対して包括的にもっている観念あるいは象徴的ア
(
1
7
) 向上論文, 3
0
8ページ。
(
18
) ソ・ジョンミン,キム・ヒョンジュン「新自由主義の大韓民国?:経済力のある国家一一観念と韓国
, 2
0
1
3年
。
の政治経済」西江大学現代政治研究所「現代政治研究」第 6巻第 2号
) 向上論文, 1
5
9ページ。
(
19
(
2
0
) 向上論文,問ページ。
政治経済体制の変容韓国の事例
(465)
イデンティティ
1
8
5
C
s
y
m
b
o
l
i
ci
d
e
n
t
i
t
y
)J
'2Ilの検討が必要であると主張する。「国家一体系と国家一
観念で成り立った国家の両面性は一群の政治経済的過程のなかであらわれるふたつの様相であり,
国家の制度的変化には特定の国家一観念の構成と調整過程が伴うJ'
2
2
l といった認識のもと,
I
韓
国の新自由主義が社会(市場)に対する国家の制度的後退とは別に発展国家から持続されてきた
“競争力のある国家一観念"の維持または強化を伴った“民族主義的新自由主義"を特徴とす
る」附と述べている。それは. 1997年の経済危機後に韓嗣において新自由主義という意味合いを
深めた金大中政府と虚武鉱政府の動向から言及できる。つまり, IMFの構造調整政策を実行し
つつも金大中が展望していた第二の建国運動であり(ベ直武鉱政府で受容された韓米 FTAの推
進と東北アジア時代構想の同時的追求の形姿であるほ九言い換えれば,韓国的新自由主義の「最
大の特徴は,韓国の国家一観念で国家と市場,さらに国家と市民社会聞の二分化された観念が強
くな L¥点を指摘できることでii)る。すなわち,市場の秩序も国家と民族のために,または市場の
秩序を維持することが国家と民族のためという認識のなかで,国家の調整
(
r
e
g
u
l
a
t
i
o
n
) が行わ
れる。ここに市場の自律性を強調する新自由主義的な談論が移植されるときも,政策的には発展
主義戦略の脈絡を克服するとともに社会認識の側面では既存の民族主義的観念を充足させる限り
で受容することができたJ'26l のである。「国家と社会,市場と個人が市場中心の倫理に再編成さ
れる新自由主義の収容が‘競争力のある国家一観念'という既存の国家の統治性の確保のための
戦略的脈絡のうえで進行されるという点,また逆に,個人,市場,社会の新自由主義的倫理の習
得が既存の国家主義的民族主義を媒介にして成り立つという点が,韓国の“民族主義的新自由主
2
η である。
義"の特徴J'
他方,韓国をめぐる発展モデルについて,新自由主義のグローパル化を問題にするホ・チョル
へンは,以下のように述べている倒。まず,グローパリゼーションについて附. I
世界化は,現
在の経済的側面での世界的相互作用である。よって,全世界は巨大な単一市場化が進んでおり,
同上論文,同ページ。
同上論文,同ページ。
向上論文,同ページ。
1"""第二の建国」とは, 1"""“民主主義と市場経済の並行発展および生産的福祉の実現"を.gj.[念とし,自由
(政治的参与および市場競争,人権).正義(腐敗一掃および生産的福祉).効率(勤勉性および経済強
力化,高効司君,市場自律性および生産性向上)を 3大原理として掲げた。また,具体的に 7大課題とし
て,①参与民主主義実現,②自律的市場経済完成,③社会正義の実現,④普遍的世界主義の具現,⑤創
造的知識基接凶家の銭設.⑥協力的新労使文化創出,⑦尚北闘交流協力時代の閉幕を提示しながら大統
領直属の“委員会"を中心に公共団体,民間団体が参加するが,国民が主体となって政策的制度化およ
6
8
び意識,生活改革を実行して新しい国家のアイデンティティを確立する汎国民的運動J(向上論文, 1
ページ)であった。
(
2
5
) 同上論文. 1
6
8
1
7
5ページ。
(
2
6
) 向上論文, 1
7
6ページ。
(
2
7
) 向上論文, 1
7
9ページ。
(
2
8
) ホ・チョルヘン[韓国の国家発展モデル
発展岡家論会中心にー」霊山大学東洋文化研究院『東
3号. 2
0
1
3年
。
洋文化研究』第 1
(
2
9
) 韓国で把握される「世界化」を,日本では「グローパリゼーション」と呼ぶ。ただし,蜂国では政治
経済研究領域において,どちらの表現も使うので. (とはいってもやはり厳密な定義はないが)本稿に
おける引用筒所のなかでは出来るだけ原文のニュアンスのままで「世界化」を採用している。
(
21
)
(
2
2
)
(
2
3
)
(
2
4
)
1
8
6
「明大商学論叢」第 9
7巻第 3号
(466)
これに伴って世界的次元の市場経済力がある実体だけ生き残ることができている。一言でいえば,
世界化は‘世界的市場経済戦争体制化'である」酬と指摘している。つづけて,その「問題は経
済世界化の時代に入った今日の状況で発展国家論がはたして国家発展の戦略として,変わらず価
値をもつことができるのかという点である。万が一,発展国家論が効用の限界に到達したならば,
韓国型発展国家は,これ以上,国家発展のための核心的戦略として用いてはならないものであり,
発展国家を超える新しい国家運営ノ fラダイムが提示されなければならな Lリ則と捉えている。こ
うした問題意識に,韓国の経済発展においては政府の主導性を強調しつつ, 1997年経済危機に
対する新自由主義の影響を位置づけている。韓国の経済成長をものみこむ新自由主義の世界化の
特性については,①新自由主義は, 19世紀にみられた「小さな政府 j,第二次産業革命を通じて
深化した資本蓄積の様相を経済的自由主義として基盤にしている点,②とはいえ,新自由主義が
1
9世紀の‘旧'自由主義と違うこと,すなわち EUのような地域統合や経済ブロックの形成,他
方で自由貿易協定の進展など,国民国家の機能に影響を及ぼしながら経済的自由主義が世界的次
元で広く作動している点,をあげている(担)。今日の韓国は,発展国家と新自由主義国家,福祉国
家の 3つの志向形態が混在しており,現状では貧富の格差,財閥による経済力集中と労使問題,
環境汚染などの問題が顕著である刷。その展望について,
I
それにも関わらず,この 3つのパラ
ダイムの絶妙な調和が必要な変な状況である。福祉国家を志向しながらも輸出指向的国家運営方
式を放棄することはできない。輸出指向的で対外指向性に立脚した国家であるため,新自由主義
の世界化という環境での適応が必須である。よって韓国は持続的に国家聞の自由貿易協定
(FTA) を追求し,これによって世界市場を先占し先導しようと努力しなければならな L、。その
ような意味で新自由主義の世界化体制の克服を志向できないが,新自由主義の世界化によって発
生するかもしれない世界的次元の経済危機や短期性投機資本の圧迫などを耐え抜くために,発展
国家戦略を用いらなければならない。危機に陥った中小企業を育成するべきであり,世界経済戦
争の主力ということができる大企業の士気を高めさせて L、く機能を遂行しなければならないので
あるj<制と論じている。
だが,歴史的にも,論理的にも,このようなパラダイムでもって社会問題まで克服して結実し
サムスン共和国」と形容されるなかで, 1997年経済
た事例などない。韓国が「財閥共和国 j,I
企業国家」だと主張するキム・ドンチュンは,韓国型新自由主義
危機後の同国を「企業社会 j,I
の把握をめぐって以下のように問題提起している (3九要点は,
I
結局,韓国の場合,新自由主義
は自由もしくは市場原理についての内的な論議や哲学的価値に関する検討もなく,実用的な目的,
ホ・チョルへン,前掲論文, 9
5ページ。
向上論文,同ページ。
向上論文, 107-108ページ。
向上論文 110-114ページ
向上論文. 1
1
4ページ。
キム・ドンチュン「韓国型新自由主義と企業国家への変化一一李明博政府下の韓国の政治経済」セオ
ル文化財団『黄海文化」第 66巻. 2010年
。
(
3
0
)
(
31
)
(
3
2
)
(
3
3
)
(
3
4
)
(
3
5
)
(467)
政治経済体制の変容一韓国の事例
1
8
7
すなわち国家・企業競争力という名のもとで,一般的に導入・強調・立案されたということが,
もっとも大きな特徴である」仰とし,韓国の新自由主義はアメリカやヨーロッパで認識されてい
る新自由主義とは大きく違うもので,開発独裁の変形型新自由主義に類すると述べている(町〉。つ
まり,李明博政府が推し進めた新自由主義は,韓米 FTA,規制緩和,財閥企業に対する出資総
額制限限度の廃止,福祉の市場化と予算削減,法人税および総合不動産税の引き下げ,公企業の
私有化,医療の市場化などで,加えて脱税や不動産投機,兵役忌避などの犯則・脱法・違法の前
歴をもった人たちを,忠誠度・縁故・親企業的性向を重視し長官として起用,また,こうしたこ
とも相まって事実上,脱規制の名目で大企業に対する脱法行為を容認し公正取引委員会の企業の
副
2
)
不公正取引行為に対する調査にもブレーキをかけ,大企業に対する規制をとり払つたのである〈ω担紛8
ゆえに, 1
新自由主義を独裁の方式,すなわち反自由主義の方式で推進J<制したのである。韓国
では,こうした新自由主義の両義性をあわせもつ。同氏は,以上のような文脈で,
1
つまり,開
発独裁の時代から,韓国は企業支配構造の改革,企業に対する労働組合や政府の適切な規制と法
人税の賦課などを通じて消費者株主など経済主体の初歩的‘自由'や経済‘民主'主義の入り込む
余地がなく,市場に対する公的規制が非常に脆弱であった。これは,開発独裁が変形し‘自由の
ない'新自由主義が導入されることを可能にした歴史的土台になった」仰と論ずる。 1989-1991
年にかけて冷戦体制が崩壊し,グローパリゼーションおよび新自由主義が一層進展するなか,
「韓国で新自由主義は, 1990年代以後,着実に導入されてきて, 1997年経済危機を通して全面化
し
, 2007年に当選した李明博政府の集権で明白にこの時代の支配的価値,政策,イデオロギー
になった。それは,‘反'新自由の方法を動員した新自由主義,‘│日'自由のない新自由主義,封建
主義と疑似フアシズムの性格をもつた新自由主義ということができるだろうJ<印加削
“
4
川
リ
l
}
こうした政治経済的要因が捉えられるなかで'韓国の対外依存は著しく進行している。「輸出
主導型」としての資本蓄積体制論である。 1997年以後のこの状況を考察し,同年以降の構造調
整政策の実行によって韓国の蓄積体制が大きく変容したと捉えたイ・ピョンチョンは,以下のよ
うな脈絡で述べている(へこの時期以降の韓国経済は,
1
企業経営では,以前の‘高負債一高投
資一低収益'の追求モデルから,‘低負債一収益志向'の経営とその制約下での投資行為を調整す
るモデルに変わった。(…〉また,‘輸出指向'は,韓国型成長体制における長い間の特徴であっ
たが, 1997年以後には単に輸出指向を超えて,それこそ s輸出主導'型モデルに転換した。金融
部門では,国家によって統制され誘導されていた金融から急進的な金融自由化と開放化が行われ
た。(…)労働部門は,従来の‘暗黙的な雇用安定'の慣行から抜け出し,急激な数量的柔軟化を
同上論文, 2
5
7ページ。
岡上論文, 2
5
6ページ。
同上論文, 253-254ページ。
向上論文, 254ページ。
向上論文, 258ページ。
向上論文, 2
6
2ページ。
イ・ビョンチョン「通貨金融危機以後における韓国の蓄積体制:輸出主導の利益追求蓄積体制の特性
1号
, 2
0
1
1年
。
と低進路の毘」韓国社会科学研究所「動向と展望』第 8
(
3
6
)
(
3
7
)
(
3
8
)
(
3
9
)
(
4
0
)
(
4
1
)
(
4
2
)
(
4
6
8)
「明大商学論叢」第 9
7巻第 3号
1
8
8
推進しながら,大量の非正規職労働者を生みだしただけでなく,投資不振とともに‘雇用なき成
長'が韓国経済の最も脆弱な連環的特徴となってしまった。公共部門でも,やはり大々的な民営
化を断行する大きな変化が起こった」仰と指摘し,
1このような変化は,その基本線でアメリカ
型資本主義を準拠モデルとした,韓国型開発資本主義のアメリカ型市場経済化と呼ぶことができ
る
」 ω とした。だが,いわゆるアメリカ型金融資本主義とは違う点として,①韓国経済はアメリ
カ型金融資本主義と同様な金融分野における経済力をもっていないこと,端的にいえばアメリカ
経済が金融強固であるのに対し,韓国経済は製造業に経済力をもった製造業強固という点,②韓
国経済には,アメリカのウオール街と同様な金融権力が存在しないこと,確かにサムスンを筆頭
にいくつかの財閥が強い影響力をもっているが,そのベースはやはり製造業にある点,があげら
れる L制。ゆえに, 11997年以後の韓国経済が以前の開発資本主義の基本的特性ぞ脱却し,アメリ
カ型市場化,アングロサクソン化の道を進んでいるが,他方でアメリカと大きく異なって製造業
強国の経済力基礎と財閥体制という制度一一権力形態をもっており,またそのため,規模拡大を
追求する開発主義の経路依存性も一定程度もちあわせている」柵のである。韓国は,輸出主導と
/ノ
ヘ¥
I~~r!ïti I
銀行
出所:イ・ピョンチョン「通貨金融危機以後における韓国の蓄積体制:輸出主導の利益追求蓄積体制
の特性と低進路の毘」韓国社会科学研究所『動向と展望J第 8
1,
巻 2
0
1
1,
年 4
5ページ,図 2
6
0
図 2 輸出主導一利益追求体制と低進路の昆
(
4
3
) 向上論文,
(
4
4
) 向上論文,
(
4
5
) 向上論文,
(
4
6
) 向上論文,
9
1
0ページ。
1
0ページ。
1
0
1
1ページ。
1
1ページ。
(
4
6
9)
1
8
9
政治経済体制の変容ー韓国の事例
利益追求システムを,貿易・投資・資金調達・株式価値の向上などにおいて取り組み,経済発展
を実現し,いわばハイブリッド的特性を構築している〈判。しかし,そこにはやはり悪循環が存在
する。そのメカニズムの骨格の構成は,図 2に示したが,輸出,投資,内需における二極化が関
連しあい,分配の悪化と消費の停滞がもたらされる。さらに言及すると.経済システムを構成す
る各部門,つまり資本,産業,企業,金融,労働,教育・訓練などにおける体制およびシステム
が相互共存的に献身一協力 Ccommitmentandc
o
o
p
e
r
a
t
i
o
n
) するといった補完関係にあるの
ではなく,流動性と離脱(liq
u
i
d
i
t
yande
x
i
t
) の関係に変質した,と指摘している倒。その状
況は,国家による規律・統制が弱体化しているなかで,旧態依然とした財閥と新たな国内外の金
(
4
九同氏は,こうした構造的矛盾を「低進路の畏」とした(問。
融資本で展開されている側面が強 L,
4
. 韓国における政治経済構造の現実
戦後韓国の政治経済的発展は,著しかった。 GDP C
名目, 2
0
0
5年基準〉は 1
9
7
0年 8
1億ドル→
2
0
1
2年 1兆 1
,
2
9
2億ドル(以下,同期間)で 1
3
9.
4
倍
, 1人あたり GNIは 2
5
5 ドル→2万 2
,
7
0
8
ドルで 8
9
.
0倍,輸出は 8億ドル→ 5
,
5
5
2億ドルで 6
9
4
.
0倍,輸入は 2
0億ドル→ 5
,
2
4
4億ドルで
2
6
2
.
2倍,対外直接投資は 1
9
8
0年 1億ドル→2
0
1
2年 2
8
0億ドルで 2
8
0
.
0倍,という数値を記録し
た刷。この間,図 3にも示したとおり, 1
9
8
7年民主化宣言を受けて軍事政権から民主政権にも
9
9
6年には,
移行した。 1
OECD加盟も実現した。 1
9
9
7年アジア通貨金融危機/IMF構造調整政
策を経て,貿易・投資はさらに拡大し,近年では韓米 FTAや韓 EUFTAなどの締結・発効に
みられるように自由貿易推進にも積極的である。こうした過程および今日において,発展する契
機や画期となった要因は,表 2および表 3に示されよう。
軍事政権
う
ヲ扇う
民主政権
診
ラ
出所:青瓦台 (
h
t
t
p
:
/
/
w
w
w
.
p
r
e
s
i
d
e
nt
.g
o
.
k
r
/
),韓培浩(木宮正史・磯崎典世訳)
「韓国政治のダイナミズム』法政大学出版局, 2 4年を参照,作成。
∞
図 s韓国の歴代大統領・政権
(
4
7
) 同上論文. 1
1
1
2ページ。
(
4
8
) 向上論文, 4
4
4
6ページ。
(
4
9
) 向上論文,同ページ。
(
5
0
) 向上論文, 4
6ページ。
(
51
) 数値は,統計庁(国家統計ポータル, h
t
t
p
:
/
/
k
o
s
i
s
.
k
r
/
),韓国貿易協会 (
h
t
t
p
:
/
/
w
w
w
.
k
i
t
a
.
n
e
t
/
)
.
韓国輸出入銀行 (
h
t
t
p
:
/
/
k
e
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.
i
k
o
r
e
a
e
x
i
m
.
g
o
.
k
r/),参照。
ι
メ!
1961-1987年
9
7年)
(
19
(
4
7
0)
『明大商学論叢』第 9
7巻第 3号
1
9
0
表 2 世界と韓国の政治経済的発展過程
韓
国
財閥国家+財関連合
地
域
冷戦,米同のヘゲモニー,
強力な民主主義
地球/世界
ブレトンウッズ体制の崩壊
管理された危機
一地球的水準での過剰蓄積
政経癒 M,地代追及,情
構造的限界,危機の
実資本主義‘道徳的弛緩' 米ドルに固定された為替
金融自由化と世界化
傾向と残浮
ードイツ,日本,新興工業
一高負債に依存した危険な
休制
一金融部門と企業部
投資と多角化
一地域における政治協力の
国の台頭(進入)によっ│
門の脆弱性
て激化する製造業部門の
一持続的な賃金上昇
欠知と地域水準での通貨・
国際競争
慢性的な経常赤字 一外国市場,資本,技術に
金融強力の不在
と外債
対する依存
1988-1996年
管理されていない構
造的危機+戦略的矛
盾(局面)
体制危機+視空間の
不一致+国際収支危
機
財閥国家体制の終鳶:人民
的権威主義十財閥主導体制
の収益性低下・
低付加価値生産
(‘学習'経済の限界)
一高負債・高金融費用
一高賃金
経常収支赤字累積
(-1996年):
一事実上の固定為替性の運
営とウォンの価値の過大
評価
一輸出競争
設備・建
過剰投資,過剰j
設,過剰生産
視空間の不一致:
一O
ECD加 入 と 過 少 に 規
制された金融自由化・世
界化
一短期対外借入の対長期投
資・貸付
(
19
9
5年-)
低廉な労働力を基礎とした
東アグア地域における‘輪
出主義'体制の膨張,地域
的過剰設備と過剰生産:
アメリカ,イギリス,他西│
欧諸国家における進歩主義,
通貨主義,新自由主義の成
長
プラザ合意(19
8
5年 〕 以 冷戦終息
後,東南アジアに対する日
本の資産バブルと資本輸出 ワシントン・コンセンサス
(
1
9
9
0年
〕
中国の世界資本主義市場へ
の参加・進入
東アジア地域に対するアメ
リカの市場開放と金融自由
逆プラザ合意(19
9
5年) 化圧力強化
以後,円の価値切り下げと
韓間などの通貨価値切り上
げ
1997-1998年
政治危機:
東アジアの‘金融インフル 米連邦準備銀行の金利引き
一経済改革(財閥・労働・ エンザ'伝染
上げ
構造十局面十偶発
金融改輩の失敗
投機攻撃,パニック,バン
95-1997年)
U本資本の回収と離脱
(
19
複合的危機・
時間的・空間的に重なった
クローン
企業・金融・外国為 危機
替・外債危機+危機
企業危機:収益悪化
アメリカの日本 AMF案拒
9
7 金融危機:不実債権
管 理 の 危 機 ( 19
否と韓国の IMF
年末)
一外国為替+外債危機
1997-1998年
金大中政府の財政緊縮延長
局面+偶発
高金利 +BIS自己資本基準
信用競争+健全な企業の倒
産ト大量失業
IMF危機:
過剰な萎縮と不況
(
19
9
7年末 -1998年
後半)
‘ウオールストリートーア
メリカ財務省一 IMF複 合
体'と IMFの標準的処方・
緊縮的通貨・財政政策
‘情実資本主義'談論
国際信用評価機関による韓
国の国家信用等級下総と迫
加的ノ fニック
出所・チ・ジュヒョン『務国新自由主義の起源と形成 1チヱケセサン. 2
0
1
1年. 1
6
4
1
6
5ページ,表 4
1。
l
(
4
7
1)
表 8 韓国新自由主義の特徴
(
2
0
0
8年グローパル金融危機前後)
空間的特徴
地
球
域
地
(東アジア)
1
9
1
政治経済体制の変容韓国の事例
政治経済体制
政治:(衰退する)アメリカのヘゲモニー
経済:ドルーウオールストリート体制および全地球的統合の資本市場
政治:中国対アメリカの対立構図湾上
経済:中凶の経済成長と日本の相対的衰退
中間, 日本,韓国などの地域生産量ネットワーク拡大と域内貿易拡大
新自由主義国家+金融中心的蓄積体制
新自由主義の政治と統治体制
1
) 政治
一権威的国家主義/ポスト民主主義
一中国/北朝鮮との対峠,韓米日同盟強化
2
) 統治
一韓国銀行および金融監督機能の独立,資本市場の統合とピックやバン
資本市場開放・外国人投資促進,東アジア金融ハブ,韓米 FTA
国
民
(韓国)
金融中心的努積体制
1
) 新自由主義官僚一財閥ー多国籍資本の寡頭権力
2
) 蓄積戦略:株主価値経営および金融化
A
. ROA. ROE. 株価重視と金融投資拡大
財閥財務:財務健全性. EV
労働力:労働柔軟化(整理解雇,非正規職,成果給など)
一生産手段および生産:グ‘ローパルネットワークと技術革新
販売:財閥主導の輸出拡大と圏内市場の独寡占
金融機関:家計貸出増加/株式,債権,派生商品の取引/ファンドおよび保険市場拡大
3
) 蓄積視空間の性格
‘時聞がかからない時間短期的収益性,資産価値上昇および割引現在価値
‘流れの空間'または非対称的開放空間:外国人投資および投資資本増加
地球的資本市場との統合
出所.チ・ジュヒョン『韓国新自由主義の起源と形成』チェクセサン. 2011年. 409ページ,表 7
8
。
最近の韓国の産業構造は,おおよその傾向および比率として,農業 I割 , 工 業 3割,サービス
業 6割となっており,サービス業による経済活動のシェアが大き L、。ただ,対外経済関係を重視
している韓国であるため,国際収支で検討すると,財貿易の位置づけが特徴的である。すなわち
1
9
9
7年以後,貿易収支は黒字に転換し増大しつづけ,賢易依存度は深化(19
9
0年 3
2
.
3
5
%→ 2
0
0
0
年
5
9
.
2
3
%→ 2
0
1
0年 81
.
48%→ 2
0
1
3年 8
2.
4
4%) しているのである (52)。輸出主導型経済と強調され
る点である。
では,強みを持っているといわれる,製造業部門における資本蓄積の現実(資本蓄積がもたら
,表 5
. 表 6から分析しよう。いずれの表も,世界システム論で韓国
されてきた動向)を,表 4
資本主義論争にも参画したチョン・ソンジン
c
rマルクスと韓国経済』チェクカルピ,
2
0
0
5年)
によるものであり,整理された統計を抽出した。同表から看取できるように,様々な計算式が関
(
5
2
) 数値は,統計庁(国家統計ポータル. h
t
t
p
:
/
/
k
o
s
i
s
.
k
r
/
)参照。
『明大商学論叢」第 97巻第 3号
1
9
2
(472)
連しあっている。しかし,ここでは理論(定義〉自体を証明するものではないため,同表から把
握できる傾向の要点を整理する。
表 4からは,圏内要素所得や利潤,総固定資本ストックといった指標が量的に伸びているのに
も関わらず,利潤率や利潤シェア,産出一資本比率は停滞していることがわかる。つまり,効率
的な生産や投資が行われておらず質的な利益があげられていないといったことや,分配の低調性
を考察できる。とはいえ表 5による GDPや固定資本ストック,年間総労働時聞をはじめとした
実質労働生産性,資本整備率,時間あたり生産物賃金は増大している。表 4にみられる雇用者所
得,従事者・被用者数,賃金等価も増加しており,経済は活性化しているように把握できる。だ
が,あわせて表 6の分析によると,確かに機械装備率は顕著であるものの,他の資本蓄積要素
(総資本投資効率,機械投資効率,労働生産性,剰余価値率,売上高経常利益率,総資本経常利
益率,総資本形成の成長率,製造業生産の成長率〕は質的に高度な発展に寄与する傾向ではなく,
不安定な動向および状況となっている。表 6に示されているが, 11970-1980年代における製造
業部門の搾取率は大体 400%を上まわり,アメリカやインドの同比率と比較するとおよそ 2倍近
くの水準」閣となり,表 4より「実際に生産的労働と非生産的労働の区別を考慮しない利潤ー賃
金比率 (P/W) で計算する搾取率は, 1996年 27%から 2000年に 61%に実に 2倍に上昇した。
これは 1997年以後,新自由主義的構造調整の核心が,他でもない労働者階級に対する搾取強化
を通じた資本の収益性の回復であった」刷ことを示唆していることと把握できる。差別化した構
造によって発展する韓国経済の歪みが,このような分析からも指摘できょう。こうして,上述し
た「新自由主義」が韓国社会で渦巻いているのである。劇的な発展を遂げたといわれる韓国社会
の矛盾が発現する。
表 4 製造業部門の利潤率,利潤シェア,産出ー資本比率(I 970~2000 年)
(
1
)
Y
圏 内
(
2
)
雇用者
要素所得 所 得
1
9
7
0
1
9
7
5
1
9
8
0
1
9
8
5
1
9
9
0
3
9
7
1
,
7
7
8
7
,
4
6
7
1
7,
2
9
9
3
7,
8
2
9
9,
6
6
6
1
9
9
5 7
1
5,
5
1
4
2
0
0
0 1
(
3
)
(
4
)
(
5
)
(
6
)
w
(
7
)
P
K
自営業主と
無給家族
被用者数
賃金等価
軍U
潤
従事者数
1
8
8
8
4
5
,
3
2
6
4
,
7
1
5
9
2
3,
9
1
5
4
0
1
4
8
3
6
2
0
5
1
0
6
4
9
2
1
8
5
0,
6
7
0
5
9,
7
2
4
7
2
9
8
8
5
,
7
2
2
1
2
,
3
5
1
,
9
9
5
2
4
,
1
9
8
4
,
0
9
3
3
,
5
6
4
2
7
2
1
,
0
8
2
,
46
6
5
1
1,
3
7
0
2
7,
6
1
2
5
9,
1
0
1
7
1,
8
7
5
1
2
4
6
9
6
2
,
0
0
1
,
9
3
0
5
1
0,
2
1
6
2
0,
5
6
5
4
3,
6
3
9
(
8
)
(
9
)
(
10
)
P/
K
p/Y
Y/K
利 潤 産出ー
純固定資本
利潤率
ストック
シェア 資本比率
7
0
0
3
,
6
9
5
1
9,
3
3
9
4
0,
3
1
4
9
7,
9
3
4
2
4
6
2
3
4,
9
4
6
3
8
4,
.
12
8
0
.
18
8
0
0
.
10
3
0
.
14
7
0
.
10
4
0
.
0
8
8
0
.
11
3
0
.
3
1
4
0
.
3
9
1
0
.
5
6
7
.
48
1
0
0
.
2
6
8
0
.
3
4
3
目
。2
7
0
目
。2
5
8
0
.
3
8
6
.
42
9
0
0
.
3
8
6
0
.
3
7
8
0
.
3
4
0
0
.
3
0
0
単位:(
1
)
, (
2
),(
5
),(
6
),(
7
)
は1
0億ウォン, (
3
),(
4
)
は
1
.0
0
0人
, (
8
),(
9
),(
10
)は比率
設:(
5
)=(2)+(
3
)x{
(
2
)
/
(
4
)
,
} (
6
)=(
1
)
ー(
5
)
出所:銀行,統計庁, ピョをもとに作成したチョン・ソンジン『マルクスと韓国経済」チェクカルピ, 2
0
0
5年
, 4
5ペ
ー
,
ジ <付表ト1)より援用。
(
5
3
) チョン・ソンジン「マルクスと韓国経済」チェクカルピ, 2005年
, 1
3
1ページ。
(
5
4
) 向上書, 2
2ページ。
(
4
7
3)
1
9
3
政治経済体制の変容ー韓国の事例
表 5 製造業部門の利潤シ zアと産出一資本比率の決定要因 (
1
9
7
0
2
0
0
0年)
(
1
)
(
2
)
(
3
)
(
4
)
(
5
)
Y
Y/Py
Py
K/Py
Pk
GDP
(経常価格)
GDP
(
6
)
純固定資本 固定資本 週あたり
ストック 平均労働
レーター
価格指数 時 間
GDPデフ
(
;
2
1
D
(
謀
議
)
(
7
)
H
年間
総労働
時間
(
8
)
(
9
)
(
10
)
(1)
Py/Pk (Y/P~)/H (
K
/
P
k
)
/
H (W/P~)/H
産出ー
固定資本 実質労働
ストック 生 産 性
相対価格
資本
装備率
時間あたり
生産物賃金
,
5
8
1
1
9
7
0
5
7
7
5
,
9
9
6
0
.
0
9
6
9
,
3
3
7
0
.
0
7
5
5
3.
4 3
1
.
2
8
3
1
,
1
5
1
2
,
6
0
7
7
9
0
2
0
5
,
6
4
6 1
.
19
2 2
,
8
0
6
1
.
14
1
1
9
7
5
8
0
9
0
1
1
0
.
16
8
5
0
.
5
,
5
9
8
3
,
7
9
1
9
7
3
3,
2,
1
0
.
3
8
2
5
31
6
6
4
0 2
5,
48
5
0
.
41
7 5
.
8
,
2
2
6
1
.0
9
4
,
1
5
9
0,
6
6
7
,
1
7
4
,
5
9
2
0,
2
1
1
9
8
0 1
。5
7
0 8
3,
7
2
0 4
1
9
8
5 2
8
6
0
1 目
3
1
8
0
.
5
2
0
5
3
.
8
9
,
8
3
3
1
.
13
6
,
1
6
9
1
,
0
2
8
1,
0,
,
0
8
6
3
0
.
6
9
7 1
0
.
6
9
6
4
9
.
8 1
2,
5
5
1 7
5
8
6
1
.0
0
2
1,
9
8
3
4
0,
7
8
3
,
3
1
3 1
1,
18
5
3
,
1
4
8
3,
4
1
9
9
0 5
1
0,
8,
8
2
7 1
1
0,
8
2
7
1
.0
0
0 2
3
4,
2
4
6
1
.0
0
0
4
9
.
2 1
2,
3
6
0
9
5
2
1
9
9
5 1
1
.0
0
0
6
,
4
4
5 1
,
7
8
2
4
1
.0
0
2 3
6
3,
2
8
3 1
6
3,
0
1
5
1
9
4
1
.
15
9
4
9
.
3 1
1,
0
3
6
0
.
8
6
4 1
0,
45
0 3
0,
1
0
2
3
2,
2
0
0
0 1
,
5
0
2
6
単位:(
1
)
, (
2
), (
4
)は 1
0億ウォン,(7)は 1
0
0万時間, (
9
), (
0
), (
1
1
) はウォン, (
3
), (
5
),(
8
)1
;
1
:
比
率
。
3
)Py=(
1
)/
(
2
),(
5
)
P
k
={
(
表4
>の (
7
)
)
/
(
4
),(
7
)H
=[{(表 4
>の (
3
)
)十 I
(表 4
>の (
4
)
)]x(
(
6
)x(
3
6
5
/
7
)
)/
注:(
1
0
0
0
出所:輯国銀行,韓国労働研究院,ピョ・ハクギル「韓国の産業別・資産別資本ストック推計」韓国金融研究院「韓国
号
, 2
0
0
3年,をもとに作成したチ冒ン・ソンジン「マルクスと緯国経済」チェクカル
経済の分析』第 9巻第 l
ピ
, 2
0
0
5年
, 4
6ページ, <付表ト2
>より援用。
表 6 製造業部門の資本蓄積(19
71-1995年 単 位 :
%)
(
1
)
(
2
)
(
3
)
総資本
機械装備率
投資効率
機 械
投資効率
.5
21
2
4.
4
2
8.
1
2
5
.
7
2
5
.
0
2
6
.
5
2
8.
1
3
0
.
8
31
.2
2
6
.
3
2
5
.
8
2
5
.
0
2
6
.
0
2
6
.
0
2
5
.
6
2
6
.
7
2
7
.
7
2
9
.
8
2
7
.
9
2
7.
1
2
5
.
8
2
4.
4
4
2
4.
2
5.
4
2
6.
4
9
1
1
1
7
1
3
4
1
3
1
1
3
0
1
4
4
1
4
0
1
8
1
1
6
4
1
4
0
1
3
6
1
3
1
1
3
9
1
5
9
1
7
2
1
9
3
1
8
1
1
8
7
1
8
3
1
7
5
1
8
2
1
7
1
1
5
7
1
7
5
1
9
5
(
4
)
(
5
)
4
7
9
4
9
7
5
0
2
4
5
7
4
9
2
4
5
2
4
2
5
4
0
3
3
3
0
3
7
3
4
1
3
4
0
6
4
2
4
4
2
4
4
1
4
4
3
1
4
1
0
3
8
4
3
5
4
4
0
8
4
3
7
4
4
6
4
4
8
4
6
6
4
9
7
注:(1)機械装備率(=機械装置/従業員数)の指数 0
990=1
0
0
)
(
2
)総資本投資効率=(付加価値/総資本)x1
0
0
l
0
0
(
3
)機械投資効率=(付加価値/機械装置)x
1
9
7
1
1
9
7
2
1
9
7
3
1
9
7
4
1
9
7
5
1
9
7
6
1
9
7
7
1
9
7
8
1
9
7
9
1
9
8
0
1
9
8
1
1
9
8
2
1
9
8
3
1
9
8
4
1
9
8
5
1
9
8
6
1
9
8
7
1
9
8
8
1
9
8
9
1
9
9
0
1
9
9
1
1
9
9
2
1
9
9
3
1
9
9
4
1
9
9
5
8
7
9
1
0
1
1
1
3
1
5
1
5
2
1
2
9
3
8
4
4
4
7
4
5
4
6
4
6
5
9
6
9
8
6
1
0
0
1
1
6
1
4
0
1
6
9
1
8
1
1
9
9
(
6
)
(
7
)
(
8
)
(
9
)
労 働 剰余価値率 売 上 高 総 資 本 総資本形成 製造業生産
の成長率
生 産 性 (搾取率) 経常利益率 経常利益率 の成長率
1
7
.
9
1
6
.
6
4
2
.
0
9
.
5
1
5
.
0
2
5
.
1
1
4
.
0
2
7
.
8
2
7
.
2
1
9
.
3
2
8
.
2
1
2
.
2
1
3.
4
9
.
5
9
.
3
1
3
.
4
1
7
.
7
21
.
1
1
9
.
4
1
8
.
8
1
5
.
2
1
2
.
6
1
4
.
0
1
8.
1
1
9
.
2
1
.2
0
3
.
9
0
7
.
5
0
4
.
8
0
3
.
40
3
.
9
0
3
.
5
0
4
.
0
0
2
.
7
0
0
.
2
0
0
.
0
1
0
.
8
7
2
.
6
8
2
.
7
2
2
.
47
3
.
6
3
3
.
5
8
4
.
0
5
2
.
5
0
2
.
3
2
1
.7
5
1
.
4
8
1
.7
0
2
.
7
4
3
.
6
6
1
.0
0
3
.
8
0
7
.
9
0
5
.
7
0
3
.
9
0
4
.
6
0
4
.
5
0
5
.
0
0
3
.
40
0
.
2
0
0
.
0
2
1
.0
3
3
.
2
7
3
.
41
2
.
9
7
4
.
47
.
44
4
4
.
9
2
2
.
7
2
2
.
42
1
.7
5
1
.
4
0
1
.5
9
2
.
6
4
3
.
5
9
2
9
.
0
一23.
1
8
4
.
0
1
1
.8
3
2
.
5
3
5.
1
41
.7
3
4
.
8
8
.
7
-28.
4
-7
.
5
3
.
9
3
.
0
3
5
.
8
1
9.
4
2
3
.
5
3
9
.
2
1
4
.
0
1
3
.
2
1
6
.
0
5
.
1
一11
.5
-5
.
7
3
2.
4
2
6
.
3
1
8
.
6
1
4
.
0
2
9
.
5
1
7
.
2
4
1
2.
2
3
.
5
1
5
.
3
2
2
.
2
1
1
0.
1
.6
1
0.
1
6
.
9
1
5
.
3
1
6
.
9
6
.
2
1
9
.
5
1
9
.
5
1
3
.
8
4
.
2
9
.
7
9
.
1
5
.
1
5
.
0
1
0
.
5
1
0
.
8
(4)労働生産性=(付加価値/従業員数)の成長率
(
5
)剰余価値率={(付加価値ー生産職労働者賃金)/生産職労働者賃金}x
1
0
0
0
0
(
6
)売上高経常利益率=(経常利益/売よ高)x1
(7)総資本経常利益率=(経常利益×総資本)x1
0
0
(
8
)総資本形成の成長率 0
9
9
0年不変価格)
(
9
)製造業生産の成長率 0
9
9
0年不変価格〕
出所:韓国銀行,統計庁をもとに作成したチョン・ソンジン「マルクスと韓国経済』チェクカルピ, 2
0
0
5年
, 1
3
0ペー
表4
3
)
。
ジ
, (
(474)
「明大商学論叢」第 9
7巻第 3号
1
9
4
中位所得の平均は年々増加しているものの,相対的貧困率は悪化の一途をたどっており,格差
2
0
0
0年 0
.
2
7
9→ 2
0
1
0年 0
.
3
1
5
)岡しつづけている。非正規雇
は拡大している。ジニ計数も上昇 (
用の増大,物価の上昇,家計負債の急増,少子高齢化などの問題も顕在化している。また,二極
化とはいっても,その内実を平面に語ることはできないだろう。日々の暮らしにおけるこうした
実感は,より生々しくリアルである。
表 2,表 3に立ちもどって,それはおよそ一国的問題ではない。グローパル化や新自由主義に
包摂された世界(空間〉で,ヘゲモニーなどをめぐってアメリカと中国をはじめとした大国が競
いあい, 日本を含む東アジア地域としての特性をもちつつ,韓国の発展は未だに分断国家という
枠組みで成長と危機が繰り返される。韓国は,歴史構造的なジレンマの現在性を如実に象ってい
る
。
こうした状況を背景にした社会の亀裂は,民主化・民主主義の意味さえ問う。この問題を研究
領域としてきた雀章集は,以下のように述べている制。握章集は, I
IMF金融危機から 1
0年も
経たない短い期間に,否,時が経てば経つほど,市場原理主義的な政策基調がいっそう急進的に
講じられるようになった。その結果,韓国の政治,経済,社会,文化,教育などすべての構造が,
激しい勢いで新自由主義的に再編成されている。新自由主義を急進的に推進するから民主主義で
はないとは言えないという点を考慮すると,韓国民主主義はむしろ「新自由主義的民主主義」と
定義するのが妥当だろう。(…)この言葉が意味することは,経済的民主化と実質的民主化の失
敗にほかならな L、」聞とし,
I
政治的民主化と経済的民主化,手続き的民主主義と実質的民主主
義が,互いに逆進的に展開する傾向」闘にある民主化以後の特徴的な韓国民主主義を位置づけた。
つづけて次のように主張する。「このように,民主化以後の政権が,成長至上主義の価値を中心
にして経済成長を政策の最優先としながら,市場競争と効率性の原理を全社会的拡大している聞
に,韓国社会は「社会の二極分化」という言葉が表すように,ふたつの社会へと急速に分化して
いる。今日の韓国民主主義は明らかに,階級構造と社会分裂を緩和するシステムの機能を喪失し
ているのだ。では韓国民主主義は,何のために機能しているのだろうか
?
J
刷
。
グローパル化や新自由主義を背景とした問題は,次から次へと回答を求められ眼前に追ってく
る。多層化し多重化した問題の本質を見誤らないためにも,一人ひとり営みがどのような状況に
第 l章でアン・ヒョニョが指摘しているように)その論証はやはり「現在の
なっているのか, (
複雑に分化した階級」構造を精轍に捉えることであろう (6ω 。
(
5
5
) 数値は,統計庁(国家統計ポータル, h
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.
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)参照。数値の対象は,都市 (
2人以上〉に
おける世帯での当初所得。
(
5
6
) 様章集(磯崎典世・出水薫・金洪樋・浅羽祐樹・文京株訳) ~民主化以後の韓国民主主義一一起源 k
危機」岩波書庖, 2
0
1
2年
。
(
5
7
) 向上書, 2
1
0
2
1
1ページ。
(
5
8
) 同上書, 2
1
1ページ。
(
5
9
) 同上書,同ページ。
(
6
0
) 紙幅の都合上,別稿に委ねる。
(
4
7
5)
1
9
5
政治経済体制の変容ー韓国の事例
5
. むすびに代えて一一韓国市民社会の発展と日韓関係の進展にむけて
2
0
1
5年は, 日韓国交正常化 5
0周年をむかえる年である。この 5
0年間, 日本においては,
r
対
米依存」のもとで,いざなぎ景気に見られる高度経済成長の時代から経済大国化へ,モノづくり
に特出した強みをもち,ジャパン・アズ・ナンバー・ワンと形容され,比類なき輸出競争力とと
0年あるいは失われた 2
0年
もにバブル景気がもたらされ, しかしその反動で今日では失われた 1
といわれるほどである。韓国においては,冷戦体制の局地的熱戦の場となり「分断国家」という
状況のなかで国づくりを行わければならず,開発独裁に財閥,輸出志向型政策,その発展過程は
r
r
9
8
7年に民主化を達成
「漢江の奇跡J 東アジアの奇跡J 開発モデル」として注目をあびつつ, 1
し
, 1
9
9
7年アジア通貨金融危機による国家破綻の窮地を, IMF構造調整政策によって脱した経
験をもっ。とはいえ,経済危機と
r
v字型回復」を繰り返す韓国社会は,きわめて不安定である。
9
6
5年に結ぼれた「日本国と大韓民国との
互いに発展してきた両国だが,戦後両国の関係は 1
聞の基本関係に関する条約J(日韓基本条約)からはじまる。同条約の前文には,
r
日本国及び大
韓民国は,両国民間の関係の歴史的背景と,善隣関係及び主権の相E尊重の原則に基づく両国間
の関係の正常化に対する相互の希望とを考慮し,両国の相互の福祉及び共通の利益の増進のため
並びに国際の平和及び安全の維持のために,両国が国際連合憲章の原則に適合して緊密に協力す
ることが重要であることを認め
J
6
ヘ条約を締結すると記されている。しかしながら,半世紀が
経っても未だに反目しあっている。
こうした課題は政治・外交的な問題ばかりがクローズアップされ,近視眼的状況をっくり出して
しまっている。確かに,文化・歴史的認識の相互確認は重要だが,その論証は難しいところである。
2
0
1
1年 1
0月,ソウル市長に与党を破って当選した朴元淳が政務をとることになった。 2
0
1
4年
6月には再選し,ソウル市民からの支持を得ている恰好となっている。朴元淳は,就任以前から
市民活動家として韓国の市民社会をリードしてきた。就任してからは,労働や教育における環境
改善に取り組み,成果もあげた。また,日本との交流も深めており,関係構築に積極的である。
0
0万人を超え,東アジア都市間(ソウル・東京・北京)のさらなる交流を
日本と韓国の往来は 5
展望している(倒。
韓国社会の地平を研究しつづけている文京旅の言葉をかりれば,
r
グローパル化を背景とする
新しい貧困や人間生活の寸断が共通の社会問題として顕在化している今日, 日韓市民社会の新し
聞にのではないか?
い次元での協働や学び合いの可能性が生まれている J
(
61
) 鹿島平和研究所編「日本外交主要文書・年表 第 2巻』原書房, 1
9
8
4年
, 5
6
9ページ。
(
6
2
) 朴元淳「インタビュー 民主主義の咲き誇る都市へ:東アジア都市間交流の展望J~世界」岩波書庖,
2
0
1
4年,第 8
6
0号
。
(
6
3
) 文京深「戦後日韓関係と市民社会の課題一一 1
0
0年の葛藤を超えて一一」藤田和子・松下例編著『新
自由主義に揺れるグローパル・サウス一一いま世界をどう見るか一一』所収, ミネルヴァ書房, 2
0
1
2年
,
3
6
5ページ。
1
9
6
(
4
7
6)
『明大商学論叢』第 9
7巻第 3号
狭い視野にとらわれず,本稿で考察してきたような大きな枠組みと位置づけをふまえればこそ,
社会に投げかけるわれわれの問題意識は活きてくるといえよう。
参考文献
(日本語文献)
奥田聡『韓国の FTA-I0年の歩みと第三国への影響一一』アジア経済研究所, 2
0
1
0年
。
鹿島平和研究所編『日本外交主要文書・年表 第 2巻』原害房, 1
9
8
4年
。
高龍秀『韓国の企業・金融改革」東洋経済新報社, 2
0
0
9年
。
佐野孝治「韓国のグローパル化志向輸出主導型成長モヂル一一日本は『韓国モデル』に学ぶべきか Jr
経
済』新日本出版社. 2
0日 年 6月号,第 2
1
3巻
。
握章集(磯崎典世・ 1
中¥7l<青空・金洪極・浅羽祐樹・文京株訳) r
民主化以後の韓国民主主義一一起源と危機』
岩波書庖, 2
0
1
2年
。
朴元淳「インタビュー
民主主義の咲き誇る都市へ:東アジア都市間交流の展望 J~世界』岩波書庖,
2
0
1
4年,第 8
6
0号
。
文京沫「戦後日韓関係と市民社会の課題
1
0
0年の葛藤を超えて一一」藤田和子・松下例編著『新自由
主義に揺れるグローパル・サウス一一いま世界をどう見るか
」所収,
ミネルヴァ書房. 2
0
1
2年
。
横田伸子『韓国の都市下層と労働者一一労働の非正規化を中心に』ミネルヴァ書房, 2
0
1
2年
。
0
1
0年
。
吉岡英美『韓国の工業化と半導体産業:世界におけるサムスン電子の発展」有斐閣, 2
(韓国語文献)
アン・ヒョニョ「‘民族経済論'と新自由主義時代の韓国経済学
‘社会性格論争'の再解釈一一」韓国社
会科学研究所「動向と展望』第 7
2号. 2
0
0
8年
。
一一一一『新自由主義時代以後,韓国経済の政治経済学」ヨルリンギル, 2
0
1
1年
。
一一一一「韓国社会性格論争の現在性 -NLPDRから新自由主義まで
」大郎大学現代思想研究所
0
1
1年
。
『現代思想』第 9号. 2
イ・ビョンチョン「通貨金融危機以後における韓悶の蓄積体制:輸出主導の利益追求蓄積体制の特性と低
1号. 2
0日年。
進路の民」斡同社会科学併究所『動向と展望J第 8
イム・ウンテク「韓国社会における新自由主義の発展段階とヘゲモニー戦略に関する理念型的分析」批判
8号. 2
0
1
0年
。
社会学会『経済と社会』通巻第 8
キム・ドンチュン「韓国型新自由主義と企業国家への変化
李明博政府下の韓国の政治経済」セオル文
6巻
, 2
0
1
0年
。
化財団「黄海文化J第 6
ソ・ジョンミン,キム・ヒョンジュン「新自由主義の大韓民国?:経済力のある国家一一観念と韓国の政
0
1
3年
。
治経済」西江大学現代政治研究所『現代政治研究』第 6巻第 2号. 2
チョン・ソンジン『マルクスと韓国経済』チェクカルピ, 2
0
0
5年
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0
1
1年
。
チ・ジュヒョン『韓国新自由主義の起源と形成』チ ι クセサン. 2
ホ・チョルヘン「韓国の厨家発展モデル
発展国家論を中心に一一J霊山大学東洋文化研究院『東洋文
化研究』第 1
3号
, 2
0
1
3年
。
(ウェブサイト)
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韓国輸出入銀行 h
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統計庁国家統計ポータル h
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韓国銀行
韓国貿易協会
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