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環境負荷を最小化する切削条件の決定方法

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環境負荷を最小化する切削条件の決定方法
日本機械学会誌 2012. 3 Vol. 115 No. 1120
180
環境負荷を最小化する切削条件の決定方法
1. はじめに
環境問題への関心の高さから,日常
生活の多くの場面でエコや節電といっ
た言葉をよく耳にする.生産技術も例
外ではなく環境対応が迫られているも
のの,生産性や精度,コストと異なり,
具体的な数値としての評価が難しいと
いう問題があった.
本稿では,上記の問題を解決するた
めに開発された,加工プロセスに起因
する環境負荷を具体的な数値で事前に
評価するシステムについて紹介し,そ
の応用例として環境負荷が最小になる
切削条件の探索の例を示す.また,こ
こではわかりやすくするため環境影響
項目を地球温暖化として,等価 CO2
排出量を環境負荷として話をする.
2.環境負荷評価システム
図 1 に加工プロセスを対象にした
環境負荷算出システムの実行例を示
す(1).このシステムでは,LCA(Life
Cycle Assessment)に基づいて環境
負荷を予測するもので,NC プログラ
ムを解釈して加工プロセスをシミュ
レートし,加工時間やサーボモータ・
主軸モータへの負荷を計算し,消費電
力や工具摩耗(工具寿命)
,切削油剤
の量,潤滑油の量,切屑の量から環境
負荷を自動的に算出している.
3.解析例
環境負荷が最小になる切削条件につ
いて検討する.工作機械の電力量消費
と切削油剤の量,潤滑油の量は,加工
時間や機械の稼働時間に比例する項目
であり,また切屑量は,被削材と加工
形状が決まれば一定である.しかし,
工具摩耗は加工時間を短くする高速加
工の場合は激しくなり,工具寿命を短
くしてしまう.この関係から,図 2 の
ように環境負荷が最小になる点がある
ことが予想される.そこで切削速度に
対する環境負荷の変化を 2 次関数で近
似し,同じ加工をする場合でも環境負
荷が最小になる切削条件を導出するア
ルゴリズムを,システムに実装して解
析を行った(2).
解析にあたり,使用する工作機械は
縦型マシニングセンタとし,工具は 2
枚刃の R10 の超鋼ボールエンドミル,
被削材は PX5 である.検討した切削
条件は,半径方向切込みが 0.5mm,
軸方向切込みが 0.5mm,下向き切削,
工具
切削油剤
切屑
潤滑油剤
主軸・
サーボ
周辺装置
環境負荷
全体の環境負荷 46.18
27.54
1.04
0.02
主軸・サーボ
潤滑油
切削油剤 0.00
4.82
12.76
工具
切屑
加工プロセスシミュレーション
17354.
製品生産数[個] 総コスト [Euro] 4.01
工具
潤滑洞
切削油剤
周辺機器の
電力消費量
スピンドル&
サーボモータの
電力消費量
切削速度(m / min)
図 2 切削速度と環境負荷の関係
環境負荷(g−CO2)
環境負荷(g−CO2)
図 1 環境負荷の評価システムの実行図
切屑
4.おわりに
加工プロセスを対象にした環境負荷
算出システムを紹介し,その応用例と
して環境負荷が最小になる切削条件の
探索の例を示した.今後さまざまな解
析を行い,切削条件や加工精度,加工
コストに対する環境負荷の影響を調べ
ていくことで,加工技術の体系化に寄
与するものと考えている.アジア地域
の工業技術の発達は周知のとおりであ
り,本紙で紹介したような取り組みは,
製造分野における日本の国際競争力を
強化するためのキーテクノロジーにな
ると期待している.
環境負荷の予測結果
周辺装置
水溶性切削油剤を使用した条件下で切
削距離が 56.25m である.また,一刃
あたりの送りを 0.15mm/tooth と固定
し, 切 削 速 度 50,100,200,300,
425,550m/min のときの実際の工具
摩耗データを利用して解析を行った.
ただし工具寿命の判定は,外周での工
具 摩 耗 を 用 い, そ の 最 大 摩 耗 幅 は
0.8mm としている.
解析結果を図 3 に示す.切削速度
に対する環境負荷の変化が放射線状に
なっており,環境負荷が最小になる点
が存在するのがわかる.この結果を基
に近似曲線を求め,環境負荷が最小に
なる切削速度をシミュレータで求め
た.求められた近似曲線は図に示され
ているとおりで,決定係数 R2 値は 0.91
となり近似が妥当であることがわか
る.この曲線から環境負荷が最小にな
る 切 削 速 度 を 求 め た と こ ろ,398.9
m/min となった.工具摩耗のデータ
は,工具メーカが提供している場合が
多く,今回の例のように同じ加工をす
る場合でも,環境負荷が最小になる点
を事前に,自動的に求めることが可能
であることがわかった.
6 000
(原稿受付 2011 年 11 月 28 日)
5 000
〔成田浩久 藤田保健衛生大学〕
近似曲線
−2 2
=3.38×10
4 000
−27.0 +6.02×10
3
3 000
2 000
1 000
0
0
200
400
600
切削速度(m / min)
図 3 切削速度に対する環境負荷の変化と
近似曲線
─ 56 ─
●文 献
( 1 )Narita, H., Kawamura, H. , Norihisa, T.,
Chen, L.Y., Fujimoto, H. and Hasebe, T.,
Development of Prediction System for Environmental Burden for Machine Tool Operation(1st Report, Proposal of Calculation Method of Environmental Burden),
JSME International Journal C, 49-4(2006),
1188-1195.
( 2 )成田浩久,切削加工時の環境負荷予測シス
テムを利用した効果的な CO2 削減法,ツー
ルエンジニア,51-4(2010),46-49.
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