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高知工科大学 物質・環境システム工学科 1060018 奥田祐子

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高知工科大学 物質・環境システム工学科 1060018 奥田祐子
平成 17 年度卒業論文
無細胞タンパク質合成系を用いた
コレラ毒素様蛍光タンパク質複合体作製の試み
Attempt of the construction of cholera toxin-like fluorescent protein complex by the use of
cell-free protein synthesis system
高知工科大学
物質・環境システム工学科
1060018
指導教員
奥田祐子
榎本恵一
《要約(Abstract)》
コレラ毒素 (CT)は毒性のある A サブユニット(CTA) と細胞表面の受容体(糖脂質ガングリオシ
ド GM1)に結合するための B サブユニット(CTB)から成るタンパク質毒素である。CTA は、毒性
のある A1 部分と、A サブユニットの C 末端部分を占め、CTB5量体との会合に必要な A2 部分か
ら成っている。また、CTB は5量体を形成してガングリオシド GM1 に結合し、エンドサイトー
シスで毒素を細胞内に送る。同時に CTB には抗原に対する特異免疫応答を高めるアジュバント活
性があり、免疫増強物質として利用が期待されている。そこで CTA の代わりに別のタンパク質を
CTB5量体と会合させることができれば細胞内へのタンパク質輸送体や強力な抗原タンパク質と
して利用ができると考えられる。
本研究では毒性のある A1 の代わりに緑色蛍光タンパク質(GFP)が CTB に会合したタンパク質
を作製することを試みた。GFP を CTB5量体に会合させるため、GFP の C 末端に A2 を付加し
たタンパク質遺伝子を設計した。しかし本来、CTA と CTB5量体の会合はタンパク質の折りたた
みに伴って起こるため、GFP、CTB 両方をどのようにして同時に発現させるかが課題となった。
そこで、本研究ではその対策として、細胞を破砕した抽出液中で DNA や mRNAからタンパク
質を合成する in vitro 系である無細胞タンパク質合成系を用いてタンパク質合成を行った。結果、
大腸菌及びコムギ胚芽の系を用いた実験において、CTB と GFP は大腸菌の無細胞系での発現に
成功した。しかし、GFP の C 末端に A2 を付加した GFP-A2 は、大腸菌、コムギ胚芽の系共に発
現を試みたが GFP 単体で発現する時よりも小さい分子量のタンパク質しか得られなかった。この
原因について考察した。
《はじめに(Introduction)》
Vibrio cholerae が分泌し、ヒトに下痢を起こす毒素タンパク質にコレラ毒素 cholera toxin (CT)
がある。コレラ毒素は、CTA、CTB2つのサブユニットから構成されている。CTB は非共有結合
で会合し5量体を形成しており、この CTB5量体は腸細胞表面の成分である糖脂質のガングリオ
シド GM1 に結合して CTA を細胞内に送り込む役目がある。さらに CTB は免疫増強作用であるア
ジュバント活性をもっている。これらのことから CTB を用いた毒素様複合体はタンパク質の輸送、
目的タンパク質を会合させたタンパク質抗原としての利用が期待できる(Walmsley et al., 2003;
Yu and Langridge, 2001)。しかし複合体形成のためには、A2 を付加した目的のタンパク質と CTB
とを同時に発現させる必要がある。これは両者による複合体形成がタンパク質の折りたたみに伴
って起こると考えられるからである(Hatic et al., 2001)。しかし細胞内(in vivo)での複合体形
成例はあるが(Tinker et al., 2005)、試験管内(in vitro)ではまだ成功例はない。そこで本研究
では試験管内で複合体をつくることを目指し、人為的に手が加えやすい無細胞タンパク質合
成系を用いることにした。無細胞タンパク質合成系は 細胞を破砕した抽出液中で DNA や
mRNAからタンパク質を合成する技術だが、現在は真核生物ではコムギ胚芽系、原核生物では
大腸菌系が実用化されている。
今までの経過だが大腸菌で CTB の発現を行うと封入体を形成してしまった(磯貝, 2004; Xia et
al., 2003)。また、いったん変性後、再生させた CTB はガングリオシドに結合しないことがわか
った(磯貝, 2004)。しかし大腸菌由来の無細胞系を用いた発現では、CTB は 5 量体をつくり、
1
ガングリオシドに結合した。GFP の発現は大腸菌系で成功したが、GFP-A2 はその分子量が予想
より小さいという結果が得られている(鄒、未発表)。
そこで GFP-A2 の分子量が小さいのは発現系の問題があると考え、本研究ではそれを確かめる
ため、コムギ胚芽由来無細胞タンパク質合成系で発現を試みることにした。
《材料と方法(Materials and Methods)》
1.遺伝子
CTB の遺伝子は V. cholerae 569B 株由来のものを用いた。GFP の遺伝子として EGFP
(Clontech 社)の遺伝子を用いた。GFP-A2 の遺伝子は本研究室の鄒
艶霜が作製したものを使用
した。
2.試薬
コムギ胚芽由来無細胞タンパク質合成系は Proteios(東洋紡)を用いた。mRNA の合成には
ScripMAX Thermo T7 Transcription Kit(東洋紡)を用いた。PCR は KOD DNA polymerase kit
(東洋紡)を用いて行った。
3.pEU3-NⅡベクターへの発現遺伝子のサブクローニング。
発現しようとする遺伝子の両端にそれぞれ EcoRV、BamHⅠ制限酵素部位を付加するため、
それぞれの制限酵素部位をもつプライマーを用いて目的遺伝子を PCR 法によって複製したのち、
PCR 産物を EcoRV、BamHⅠ制限酵素と共に 37℃、6時間反応させ、DNA 両端を切断した。次
にこの DNA を無細胞系での発現に使用する pEU3-NⅡベクターへサブクローニングした。ベク
ターもあらかじめ EcoRV、BamHⅠ制限酵素で切断したものを使用した。DNA の結合には
TaKaRa、Promega、Roche3種の Ligation kit を用いた (TaKaRa kit−プロトコールに基づき
16℃で overnight。 Promega kit−プロトコールに基づき室温で 15 分。Roche kit−プロトコー
ルに基づき 25℃で 5 分。)。サブクローニングを終えたベクターで E. coli
JM109 コンピーテン
トセルを形質転換した。形質転換体の選択にはアンピシリンを含む LB 培地を用いた。そしてコ
ロニーPCR で挿入配列の確認を行った。
2
4.DNA 鋳型の調製
挿入配列を含む pEU3-NⅡベクターを抽出し、フェノール/クロロホルム処理、エタノール沈
殿を行い、挿入配列部分を PCR で増幅した後、QIAquick PCR Purification Kit を用いて DNA
を精製した。
5.mRNAの調製
環状プラスミド、直鎖状 DNA をそれぞれ鋳型とし、ScripMAX Thermo T7 Transcription Kit
を用いて 40℃でインキュベートして mRNA を合成した。mRNA のエタノール沈殿の後、変性ゲ
ルで電気泳動を行った。
6.タンパク質の合成と発現タンパク質の検出
無細胞系でのタンパク質合成は、Proteios を用いて重層法により 26℃で 24 時間反応させた。
タンパク質の SDS ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分離後、ウエスタンブロッティングに
よるタンパク質の検出を行った。抗体は、抗コレラ毒素抗体と抗 GFP 抗体を用いた。
《結果(Results)》
それぞれ EcoRV、BamHⅠ制限酵素部位をもつプライマーを用いて目的遺伝子(GFP-A2)を
PCR 法で複製したのち、PCR 産物を EcoRV、BamHⅠ制限酵素で処理し、その DNA の両端を
切断した。そしてこの DNA を発現ベクターである pEU3-NⅡベクターへサブクローニングした。
ベクターもあらかじめ EcoRV、BamHⅠ制限酵素で切断しておいた。DNA の結合には TaKaRa、
Promega、Roche3種の kit を用いた。サブクローニングを終えたベクターで E. coli JM109 コン
ピーテントセルを形質転換した。そしてコロニーPCR で挿入配列の確認を行った。
挿入配列を含む pEU3-NⅡベクターを抽出し、フェノール/クロロホルム処理、エタノール沈殿
を行い、挿入配列部分を PCR で増幅した後、QIAquick PCR Purification Kit を用いて DNA 鋳
型の調製を行った。
環状プラスミド、直鎖状 DNA をそれぞれ鋳型とし、ScripMAX Thermo T7 Transcription Kit
を用いて mRNA を合成した。mRNA のエタノール沈殿の後、変性ゲルで電気泳動を行い、mR
NAを調製した。
そして無細胞系でのタンパク質合成を Proteios を用いて重層法で行った。タンパク質の SDS
ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分離後、ウエスタンブロッティングによるタンパク質の
3
検出を行った。抗体は、抗コレラ毒素抗体と抗 GFP 抗体を用いて発現タンパク質を検出した。
SDS ポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果
1 マーカー
2
no plasmid(negative control)
3
DHFR(positive control)
4
GFP(大腸菌内で発現)
5
GFP-A2 (from プラスミド)
6
CTB(from プラスミド)
7
GFP-A2 (from プラスミド)+CTB(from プラスミド)
24
mix
8
20
14.2
6.5
GFP-A2 (from プラスミド)+CTB(from プラスミド)
1 2 3 4 5 6 78 9
co-expression
9 標準 CTB(非組換え)
図 1 SDS-PAGE による発現タンパク質の解析
図1は発現されたタンパク質を SDS-PAGE で分析したものである。この結果からは目的タンパク
質が微量のため発現は確認できないが3レーンのポジティブコントロールでは発現タンパク質
DHFR が確認できた。ことからタンパク質合成系自体に問題のないことが分かった。
ウエスタンブロッティングの結果
抗CT抗体
←5.5KDa
1 マーカー
←1.1KDa
2
no plasmid(negative control)
3
DHFR(positive control)
4
GFP(大腸菌内で発現)
⑥
⑨
5
GFP-A2 (from プラスミド)
発現CTB
標準CTB
6
CTB(from プラスミド)
7
GFP-A2 (from プラスミド)+CTB(from プラスミド)
抗GFP抗体
mix
8
GFP-A2 (from プラスミド)+CTB(from プラスミド)
co-expression
9
④⑤
⑦ ⑧
大腸菌発現
GFP
標準 CTB(非組換え)
←図2抗 CT 抗体と抗 GFP 抗体によるウエスタンブロティング
無細胞系発現
GFP-A2
4
図2は SDS-PAGE で分離したタンパク質をブロッティング膜に転写し、コレラ毒素と反応する抗
体(抗 CT 抗体)または GFP タンパク質と反応する抗体(抗 GFP 抗体)と膜上で反応させたも
のである。この結果、抗 CT 抗体を使ったウエスタンブロッティングでは9レーンの標準 CTB は
検出できたが、6レーンの発現 CTB は検出できなかった。抗 GFP 抗体を使ったウエスタンブロ
ッティングの方は、4レーンに大腸菌発現の GFP が確認できた。しかし5,7,8レーンの GFP-A2
は4レーンの大腸菌発現 GFP よりも分子量が小さいことがわかった。
コムギ胚芽由来の無細胞系では CTB は発現しなかった。GFP-A2 は発現したが大腸菌無細胞系
の時と同様に、GFP だけよりも分子量が小さいことがわかった。
《考察(Discussion)
》
これまでの実験で CTB は大腸菌では発現するものの封入体を形成し、機能できなかったが、大
腸菌抽出液由来の無細胞系では発現された CTB は 5 量体を形成したこと、GFP は大腸菌、大腸
菌抽出液由来の無細胞系で発現できたこと、GFP-A2 は大腸菌、大腸菌抽出液由来の無細胞系で
発現はしたが GFP だけよりも分子量が小さかったことがわかっている。さらに本実験ではコムギ
胚芽抽出液由来の無細胞系を用いて実験を行い、CTB は発現できなかったこと、GFP-A2 はこれ
までの結果と同様で、発現はしたが GFP だけよりも分子量が小さいことがわかった。これらのこ
とから本実験の目的である A1を GFP に置き換えた、CTB5 量体とのホロ毒素様構造の作製は大
腸菌抽出液由来の無細胞系の方が向いているようである。CTB の発現が大腸菌抽出液由来の無細
胞系では成功し、コムギ胚芽抽出液由来の無細胞系ではできなかったことから CT の発現はコレ
ラ菌と同様に細菌である大腸菌のほうが酵素やコドン使用頻度などの点で近いため、コムギなど
の真核生物よりも適していると考えるからである。GFP-A2 のサイズが予想よりも小さい理由は
GFP の C 末端に A2 が結合したことによって、GFP のコンフォメーションがうまくとれずプロテ
アーゼでその部分が切られたという可能性、GFP-A2 のmRNA が二次構造を形成し、タンパク質
の合成が途中で停止したという可能性が考えられる。
《謝辞(Acknowledgements)》
本研究を進めるにあたり、実験においてご指導頂きました高知工科大学の榎本恵一教授、鄒
霜さん、実験に協力していただいた韓
梅梅さんに感謝申し上げます。
5
艶
《文献(References)
》
1. 磯貝京子(2004) “コレラ毒素Bサブユニット遺伝子の発現とその解析”高知工科大学大学院
修士課程学位論文
2. Hatic, S.O. 2nd, McCann, J.A., Picking, W.D. (2001) “In vitro assembly of novel cholera
toxin-like complexes” Anal. Biochem. 292, 171-177.
3. Tinker J.K., Erbe, J.L., Holmes, R.K. (2005) “Characterization of fluorescent chimeras of
cholera toxin and Escherichia coli heat-labile enterotoxins produced by use of the twin
arginine translocation system. Infec. Immun. 73, 3627-3635.
4. Walmsley, A.M., Alvarez, M.L., Jin, Y., Kirk, D.D., Lee, S.M., Pinkhasov, J., Rigano, M.M.,
Arntzen, C.J. and Mason, H.S. (2003) “Expression of the B subunit of Escherichia coli
heat-labile enterotoxin as a fusion protein in transgenic tomato” Plant Cell Rep. 21,
1020-1026.
5. Xia, X.P., Yan, J. and Zhao, S.F. (2003) “Cloning, expression and identification of
Escherichia coli LTB gene and Vibrio cholerae CTB gene” Zhejiang Da Xue Xue Bao Yi Xue
Ban 32, 17-20.
6. Yu, J., Langridge, W.H.R. (2001) “A plant-based multicomponent vaccine protects mice from
enteric diseases” Nature Biotech. 19, 548-552.
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