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問題雑草の変遷と除草剤の評価手法 - 公益財団法人 日本植物調節剤

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問題雑草の変遷と除草剤の評価手法 - 公益財団法人 日本植物調節剤
[雑草と作物の制御]vol.8
2012 p 21~25
問題雑草の変遷と除草剤の評価手法
(公財)日本植物調節剤研究協会研究所
水稲作における問題雑草の遷移
濱村謙史朗
草が削減・省略されたこと、さらに水稲の作期が
水稲作における問題雑草は、除草技術の進歩と
早まったことも重なりホタルイ、ウリカワ、ミズ
ともに常に遷移し続けている。除草剤が開発され
ガヤツリ、ヒルムシロ、オモダカなどの草種が増
るずっと以前、湛水移植栽培そのものが雑草害を
加することとなった。
回避する大きな目的と言われたそうである。その
昭和 47 年、当協会は農業改良普及協会の協力
当時は、発生する全ての雑草が問題雑草であろう。
を得て、発生雑草に関する全国的な調査(以降、
江戸時代から明治・大正にかけては、手取り除草
全国雑草調査と略記)を行った。その結果、多年
はもちろん雁爪、田打車、回転式人力除草機、畜
生雑草の発生面積は延べ 110 万 ha に達している
力除草機など効率的な除草用具が考案され、次第
ことが判明した。中でもウリカワの発生が最も多
に普及した。しかし、重労働の‘田の草取り’から開
く温暖地以西を中心に 30 万 ha、次いでミズガヤ
放されたわけではなく、ノビエをはじめコナギや
ツリが 29 万 ha、オモダカは寒地や高冷地中心に
キカシグサなどの一年生広葉雑草が問題とされた。
26 万 ha、ホタルイは寒冷地を中心に 23 万 ha と、
終戦後、我が国に 2,4-D が紹介され研究開発が
それぞれ水稲作付面積の約1割に及んでいた。
始まった。本剤は、昭和 25 年に農薬登録され広
昭和 48 年にはクロメトキシニルやブタクロー
く普及した。
つづいて同様の作用性を有する MCP
ルといった比較的効果の持続期間が長くホタルイ、
が登録されたが、これらはノビエには効果が無く、
ミズガヤツリにも作用を示す初期剤が登録された。
有効分げつ終止期から幼穂形成期前までに使用す
昭和 49 年にはモリネート・シメトリン・MCPB
る後期除草剤であったため、使用面積が拡大する
の混合剤としてマメット SM 粒剤が登録され、全
につれノビエや水稲生育初期の一年生雑草が問題
国に体系処理が定着していくことになった。この
とされるようになった。
後、昭和 50 年にベンタゾンが登録され、枯れ残
昭和 34 年に PCP、昭和 40 年に CNP が登録さ
した多年生雑草に対しベンタゾンが使用され始め
れ、田植え前後の雑草発生前処理により一年生雑
た。当時の農家は、一年生雑草から多年生雑草ま
草の防除が軽減された。しかしノビエに対する効
で、一本も残さず防除することが習慣とされてい
果の持続性が短くマツバイへの効果が劣るなどか
たようであり、除草剤を通常2~3回、寒地や寒
ら、それら草種が問題とされた。
冷地など雑草の発生が不斉一な地域では3~4回
昭和 44 年にベンチオカーブ・シメトリンの混
使用することが一般的となっていた。
合剤であるサターン S が登場したことで、初期剤
この後、水稲除草剤は大きな転換点を迎えるこ
→中期剤の体系処理の原形が作り上げられた。し
とになる。一発処理剤の誕生である。当協会では、
かし、これら除草剤は多年生雑草に劣ること、除
当時、除草剤の使用回数すなわち投下成分量が多
草剤利用が一般化し、従来の手取り除草や機械除
いことから、河川への流亡など周辺環境への影響
[雑草と作物の制御]vol.8
2012 p 21~25
を危惧し、併せて農作業の省力化やコストダウン
草の生育を停止、枯死させるとともに、生育初期
を図るため、体系是正剤すなわち一発処理剤の開
の雑草に対しては著しい生育抑制作用を示し、効
発に着手することとなった。
果の持続性が長いことを特徴としていたが、難防
昭和 50 年に「体系是正剤利用開発研究会」が
除雑草のオモダカ、クログワイに対しては、発生
作られ、①除草効果の持続性が 45~50 日程度と
前~発生始期処理で約 20 日間の発生抑制効果を
長いこと、②ノビエ、コナギなどの一年生雑草は
示した。そこで、ベンタゾン剤との組み合わせに
もちろん、ホタルイ、ミズガヤツリ、ウリカワ等
よる徹底防除剤の開発に重点を置き、昭和 62 年
の多年生雑草の同時防除が可能なこと、③ノビエ
からオモダカ、クログワイ、コウキヤガラ、シズ
1.5~2葉期まで有効であること、④水稲に対する
イ等を対象に、自然発生圃場で有効な防除法を確
薬害がないこと、⑤環境に対する影響が少ないこ
立するための検討が行われた。その結果、オモダ
とという条件を設定し、これらを満たす薬剤が選
カ、クログワイに対し、次に示す実用性の判断基
抜された。官・民一体の一大プロジェクトであっ
準が設定された。
た。その結果、昭和 57 年にクサカリン 25 粒剤、
1.
有効剤として実用化可能(オモダカ、クログ
同 35 粒剤、オーザ粒剤など、体系是正剤すなわ
ワイ)
;処理後 30 日あるいはそれ以降の調査段
ち一発処理剤が誕生した。
階で(体系処理の場合、後処理剤の散布時の抑
制程度の調査が必要)20~30%程度以下に抑制
一発処理剤の普及が始まった当時の発生雑草を
昭和 57 年に行った全国雑草調査から見ると、ホ
タルイ 90 万 ha(要防除面積 75 万 ha)、ウリカ
する。
2.
体系防除、連年施用による効果向上について
ワ 83 万 ha(同 67 万 ha)、ミズガヤツリ 54 万 ha(同
実用化可能(オモダカ、
クログワイ)
;オモダカ、
41 万 ha)、オモダカ 45 万 ha(同 33 万 ha)と 10
クログワイに有効剤であって、他剤(初期剤、一
年前の調査より大幅に増加していた。さらに、ヘ
発処理剤、後期剤等)との体系処理の単年、あ
ラオモダカ 35 万 ha(同 26 万 ha)、クログワイ 22
るいは2~3年の連年施用により、処理後約 50
万 ha(同 16 万 ha)、ヒルムシロ 14 万 ha(同 9
日の調査段階で5%程度以下に抑制する。
万 ha)、セリ 25 万 ha(同 12 万 ha)と、新たな
多年生雑草が防除対象として挙げられている。
3.
徹底防除剤として実用化可能(クログワイ);
クログワイに有効剤であって、供試薬剤1~2
このような背景の中、当協会は昭和 59 年に、
回処理の単年、あるいは2~3年の連年施用(従
これら多年生雑草の徹底防除を図るため「多年生
来の初期剤は使用)により、処理後約 50 日の
難防除雑草研究会」を立ち上げ、有効な除草剤の
調査段階で5%程度以下に抑制する。
選抜と防除技術確立のための検討を行うこととな
上記判断基準は、その後コウキヤガラ、シズイ
った。注目したのは、昭和 57 年に適用性の検討
にも適用されたが、一発処理剤の多くは、いずれ
が始まったベンスルフロンメチル、昭和 59 年に
の草種に対してもベンタゾン剤との体系処理で実
開発が始まったピラゾスルフロンエチルなどスル
用化が判断され、同薬剤の組み合わせでの連年施
ホニルウレア系化合物(以降、SU 剤と略記)お
用による効果向上が認められている。
よびベンタゾン剤である。SU 剤は、一年生雑草
SU 剤はノビエを除く雑草全般に効果が高かっ
及びミズガヤツリ、ウリカワなど一部の多年生雑
たことから、一発処理剤の混合母材として大いに
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2012 p 21~25
活用され、多くの混合剤が登録された。ベンスル
ナギ、キカシグサ、ミズアオイ、アブノメ、ヘラ
フロンメチル・メフェナセット混合剤のザーク粒
オモダカが挙げられ、平成 16 年には新たにタイ
剤が登録された昭和 62 年以降の、SU 剤の推定使
ワンヤマイ、キクモ、オモダカ、マツバイが加わ
用面積をみると、翌年の昭和 63 年は 50 万 ha、
った。発生を確認した都道府県数は、平成 12 年
2年目の平成元年には 100 万 ha を突破し、ピー
から 16 年にかけてホタルイ類(イヌホタルイ、
クは平成7年で約 220 万 ha に達した。
タイワンヤマイ)が9県から 32 府県へ、コナギ
一発処理剤全盛の中、当協会では平成 10 年に
が2県から 19 府県へ大幅に増加していた。ちな
水田の雑草発生状況について、全国の農業試験場
みに、現在は 18 草種で SU 抵抗性バイオタイプ
へのアンケート調査(以降、全国雑草アンケート
が確認されている。
調査と略記)を実施した。これによると、既に問
当協会では、上記アンケート調査に先立ち、平
題となっているまたは今後問題となりそうと回答
成 11 年から SU 抵抗性バイオタイプのミズアオイ、
のあった草種はクログワイが最も多く、キシュウ
ホタルイ、コナギについて、自然発生条件下で除
スズメノヒエ、ノビエ、オモダカ、アゼナ、クサ
草剤の適用性試験を開始した。これまでにミズア
ネム、ホタルイ、アメリカセンダングサ、タウコ
オイ対象に 72 剤、コナギ対象に 22 剤、ホタルイ
ギ、イボクサ、コウキヤガラの順に多かった。こ
対象に 61 剤について実用性が判断されている。
れら草種の中には、平成7年以降発生が確認され
平成 21 年、最近の水田における問題雑草を把
た SU 抵抗性バイオタイプも含まれるであろう。
握するため、再度全国雑草アンケート調査を実施
この結果から、一発処理剤が開発されベンタゾン
した。その結果、今後問題となる雑草は以下のよ
剤との組み合わせによる難防除雑草対策が提案さ
うに整理できた。これら雑草の中には、適切な水
れた以降も、クログワイ、オモダカなど難防除雑
管理など耕種的方法で十分防除できる草種も含ま
草の問題は解消されておらず、依然としてノビエ
れるが、今後も引き続き注視していくことが重要
やホタルイは問題であり、加えてキシュウスズメ
で、必要に応じ防除対策を議論する必要があろう。
ノヒエ、クサネムやイボクサなど、新たな雑草が
・ ノビエ;タイヌビエ、イヌビエ、ヒメタイヌビ
問題化しつつある状況が示された。
SU 抵抗性雑草の発生状況については、当協会
エ
・ 畦畔から侵入する雑草;イボクサ、キシュウス
は、独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究
ズメノヒエ、アシカキ、エゾノサヤヌカグサ、
機構中央農業総合研究センターとの共同事業とし
アゼガヤ
て、平成 12 年と 16 年に SU 抵抗性雑草を対象と
した全国雑草アンケート調査を行った。全国的な
傾向を見ると、平成 12 年には北海道、東北地域
を中心に発生が目立っていたが、平成 16 年には
・ 大型広葉雑草;クサネム、アメリカセンダング
サ、タウコギ
・ 多年生難防除雑草;オモダカ、クログワイ、コ
ウキヤガラ、シズイ
北陸から九州にまで拡大しており、全域の問題と
・ SU抵抗性雑草;アゼナ類、ホタルイ類、コナ
捉えるべきと判断された。草種は平成 12 年がア
ギ、ミズアオイ、オモダカ、ヘラオモダカなど
ゼナ類(アゼナ、アメリカアゼナ、タケトアゼナ)、
イヌホタルイ、ミゾハコベ、アゼトウガラシ、コ
[雑草と作物の制御]vol.8
2012 p 21~25
表-1 特殊雑草(オモダカ、クログワイ)の基本設計と実用性判定の目安
注1)残草量は、無処理区対比%
注2)最終調査時は、体系処理後の調査時期を指すため、+70
~+80が目安
1.一発処理剤の評価
1)後処理剤との体系(設計例)
区1 本剤(発生前)→後期除草剤(+40~+50)
区2 本剤(発生始)→後期除草剤(+40~+50)
2)初期除草剤との体系(設計例)
判定の目安
・後期除草剤処理時の残草量が20%程度以下、かつ最終調査
時が10%程度以下。
・連年施用は、後期除草剤処理時の残草量が10%程度以下、
かつ、最終調査時が5%程度以下。
判定の目安
・本剤単用処理で処理後30日頃(+45日頃が目安)の残草量が
区1 本剤(発生前または発生始)
10%程度以下、かつ、初期除草剤との体系処理で、最終調査時
区2 初期除草剤(発生前)→本剤(発生前または発
の残草量が10%程度以下。
生始)
・連年施用は、最終調査時が5%程度以下。
3)単用(設計例)
区1 本剤(発生前)
区2 本剤(発生始)
判定の目安
・本剤単用処理で、最終調査時の残草量が10%程度以下。
・連年施用は、本剤単用処理で、最終調査時の残草量が5%程
度以下。
2.初期除草剤の評価
1)一発処理剤および中期除草剤との体系(設計例)
区1 本剤(発生前)
区2 本剤(発生前)→一発処理剤(発生始)
区3 本剤(発生前)→中期除草剤(+20~+30)
判定の目安
・一発処理剤との体系が前提の場合、本剤単用処理で処理後1
5~20日頃の残草量が10%程度以下、かつ、一発処理剤との
体系処理で、最終調査時の残草量が10%程度以下。
・中期除草剤との体系が前提の場合、本剤単用処理で処理後2
0~30日頃の残草量が10%程度以下、かつ、中期除草剤との
体系処理で、最終調査時の残草量が10%程度以下。
・連年施用は、体系処理時の残草量が10%程度以下、かつ、最
終調査時が5%程度以下。
3.中期除草剤の評価
1)初期除草剤との体系(設計例)
区1 本剤(時期A)
区2 初期除草剤(発生前)→本剤(+20~+30、
草丈15cm以下)
判定の目安
・単用処理で草丈15cmまで生育した個体を枯殺し、処理後30
日頃の残草量(後次発生を含む)が10%程度以下、かつ、初期
剤またはとの体系処理で、最終調査時の残草量が10%程度以
下。
・連年施用は、最終調査時が5%程度以下。
4.後期除草剤の評価
1)一発処理剤との体系(設計例)
区1 本剤(時期B)
区2 一発処理剤(発生始)→本剤(+40~+50、
草丈30cm以下)
判定の目安
・単用処理で草丈30cmまで生育した個体を枯殺し、処理後15
~20日頃の残草量(後次発生は含まない)が10%程度以下、か
つ、一発処理剤との体系処理で、最終調査時の残草量が10%
程度以下。
・連年施用は、最終調査時が5%程度以下。
[雑草と作物の制御]vol.8
2012 p 21~25
問題雑草に対する除草剤の適用性評価
引用および参考文献
当協会では、SU 抵抗性雑草や難防除雑草に対
する実用性を判断するため、‘特殊雑草対象’という
特別なカテゴリーを設けて試験を実施している。
個々の雑草について、より適切な防除を検討する
ためであり、試験は草種毎に組み立てられた設計
に基づいて実施される(表-1)。現在このカテゴ
川島良一・中川恭二郎・宮原益次 1968.除草剤
二十年のあゆみ
3-37.
宮原益次(監修)1987.[図解]水田多年生雑草の
生態(デュポンジャパン)
財団法人日本植物調節剤研究協会 1984.植調二
十年史
リーで検討されている雑草はイボクサ、エゾノサ
吉沢長人 1995.除草剤開発の想い出
ヤヌカグサ、オモダカ、キシュウスズメノヒエ、
財団法人日本植物調節剤研究協会 1995.植調三
クサネム、クログワイ、コウキヤガラ、シズイ、
十年史
ミズアオイ、SU 抵抗性コナギ、SU 抵抗性ホタル
森田弘彦 2001.植調 Vol.35.No.1
イ、雑草イネ(赤米)などである。
田中十城・金久保秀輝・濱村謙史朗・高橋宏和・
近年開発される除草剤は、有効成分の除草活性
が向上したこと、巧みな混合剤化や製剤技術の向
上により高活性化している。したがって、有効剤
の判定基準は、従来に比べより厳しく除草効果を
判断するよう見直され、クログワイ、オモダカに
対する評価は、現在は表-1に示す基準を目安に
実用性が判断されている。また、コウキヤガラや
3-10.
竹下孝史 2001.植調 Vol.35.No.5
19-27.
児嶋 清・川名義明 2007.最新除草剤・生育調節
剤解説<追補> 18-23.
橋本仁一 2011.平成 23 年度雑草生態及び除草剤
試験に関する研修テキスト 77-96.
http://www.japr.or.jp/
財団法人日本植物調節剤
研究協会 Web ページ
シズイについても概ね同様の考え方が適用されて
いる。
コラム
長野県の食文化
現在の長野県の麦の作付面積は大小麦合わせ
現在勤務している須坂市の試験場に異動になり、
て約 2500ha で、水稲の作付面積の 1 割にも満
お茶の時間に初めて「おやき」をいただいた時
たない長野県ではマイナーな作物です。それな
の感動はいまだに忘れることがありません。長
のに長野市の 1 家庭あたりの小麦の消費量は日
野県は地域ごとに色々な食文化があり、仕事で
本一だそうです。
県内出張の昼食はできるだけその地域特産のも
長野市を含む北信地方では昔から「おやき」、
「す
のを食べるようにしています。子供を連れて出
いとん」といった粉食の文化があり、長野駅で
かけると、どうしてもありきたりの食事になっ
も「おやき」はお土産として売っています。し
てしまいがちですが、これからは子供たちにも
かし私が生まれ育った南信地方の諏訪では「お
地域の食文化に触れる機会を作っていきたいと
やき」などは全くといっていいほど食べません。
思っています。
細野
哲(長野県)
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