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Doctoral Dissertation / 博士論文
室温硬化型樹脂用環境負荷低減硬化触媒の
開発と硬化体の耐熱性向上に関する研究
Study on the development of new hardeners with reduced
長, 広明
三重大学, 2013.
三重大学大学院工学研究科博士後期課程材料科学専攻
http://hdl.handle.net/10076/13848
室温硬化型樹脂用環境負荷低減硬化触媒の開
発と硬化体の耐熱性向上に関する研究
三重大学大学院工学研究科
博士後期課程 材料科学専攻
長 広明
2013年
2013年 3月
学位論文
室温硬化型樹脂用環境負荷低減硬化触媒の開
発と硬化体の耐熱性向上に関する研究
Study on the development of new hardeners with reduced
environmental risk for room temperature vulcanization polymers
and improvement of thermal endurance of RTV composites
三重大学大学院工学研究科
博士後期課程 材料科学専攻
長 広明
2013年 3月
第 1 章 序論
・・・
1
1-1 パワーエレクトロニクス分野の電気絶縁材料
・・・
1
1-2 RTV 樹脂の構成材料と市場規模
・・・
3
1-3 RTV 樹脂用硬化剤のスズフリーに向けた国内企業の動向
・・・
7
1-4 RTV 樹脂の硬化過程
・・・
8
1-5 本論文の目的
・・・ 12
第 1 章の参考文献
・・・ 13
第 2 章 試料評価方法
・・・ 15
2-1 機械的特性測定
・・・ 15
2-2 接着強度測定
・・・ 15
2-3 分子量分布測定
・・・ 16
2-4 フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)
・・・ 17
2-5 粘度測定
・・・ 17
2-6 ガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリー(GC/MS)
・・・ 17
2-7 耐熱性の評価
・・・ 18
2-8 貯蔵安定性試験
・・・ 18
第 2 章の参考文献
・・・ 18
第 3 章 チタンアルコキシドとカルボン酸エステルを組み合わせた
RTV 用硬化剤とそれを用いたシリコーン組成物
・・・ 19
3-1 本章の目的
・・・ 19
3-2 各種硬化触媒による PDMS の高分子化
・・・ 20
3-2-1 本節の目的
・・・ 20
3-2-2 本実験に用いた材料及び試料作製方法
・・・ 20
3-2-3 各種硬化触媒による PDMS の高分子化
・・・ 22
3-2-4 チタンアルコキシドとヒドロキシカルボン酸エステルの配位について
・・・ 32
3-3 硬化体に対する一座配位系硬化剤の効果
・・・ 36
3-3-1 本節の目的
・・・ 36
3-3-2 主剤と架橋剤との反応に対する各種硬化剤の寄与について
・・・ 36
3-3-3 本実験に用いた材料及び試料作製方法
・・・ 40
3-3-4 各硬化体の機械的特性
・・・ 42
3-3-5 各硬化体の開放乾燥高温下での重量減少
・・・ 51
3-3-6 各硬化体の密封高温高湿下での重量減少
・・・ 54
3-4 まとめ
・・・ 57
第 3 章の参考文献
・・・ 57
第 4 章 架橋点間分子量と各種充填材が硬化体に及ぼす影響
・・・ 58
4-1 本章の目的
・・・ 58
4-2 架橋点間分子量が硬化体の機械的特性に与える影響
・・・ 58
4-2-1 本実験に用いた材料及び試料作製方法
・・・ 58
4-2-2 実験結果と考察
・・・ 58
4-3 架橋点間分子量を変化させたときのフィラー充填効果
・・・ 66
4-3-1 本実験に用いた材料及び試料作製方法
・・・ 66
4-2-3 実験結果と考察
・・・ 66
4-4 各種フィラーの充填効果
・・・ 73
4-4-1 本実験に用いた材料及び試料作製方法
・・・ 73
4-4-2 実験結果と考察
・・・ 74
4-5 まとめ
・・・ 93
第 4 章の参考文献
・・・ 93
第 5 章 シリコーン組成物の接着性
・・・ 94
5-1 本章の目的
・・・ 94
5-2 架橋点間分子量と接着性
・・・ 94
5-2-1 本実験に用いた材料及び試料作製方法
・・・ 94
5-2-2 実験結果と考察
・・・ 94
5-3 各種フィラー充填を充填した硬化体の接着強度
・・・ 98
5-3-1 本実験に用いた材料及び試料作製方法
・・・ 98
5-3-2 実験結果と考察
・・・ 98
5-4 接着性付与剤の検討
・・・101
5-4-1 本実験に用いた材料及び試料作製方法
・・・101
5-4-2 実験結果と考察
・・・101
5-5 まとめ
・・・116
第 5 章の参考文献
・・・116
第 6 章 二座配位系硬化剤の設計とその触媒能の評価
・・・117
6-1 二座配位系硬化剤の設計
・・・117
6-1-1 背景
・・・117
6-1-2 硬化剤の設計
・・・118
6-2 本実験に用いた材料及び試料作製方法
・・・120
6-3 実験結果と考察
・・・121
6-3-1 チタンキレート剤の効果
・・・121
6-3-2 チタンアルコキシドと各種配位剤
・・・130
6-3-3 硬化助剤 TMG の検討
・・・130
6-3-4 各種主剤に二座配位系硬化剤を適用した結果
・・・138
6-4 まとめ
・・・142
第 6 章の参考文献
・・・142
第 7 章 総括
・・・143
謝辞
・・・145
業績リスト
・・・146
第1章 序論
1-1 パワーエレクトロニクス分野の電気絶縁材料
日本における総使用電力量は年々増加し、これに伴って電力化率も増加してきており今後も
電力の需要は増していくと思われる[1]。送・配電網においてはこの需要の増加に対応するた
め送電電圧が上昇し、現在最大で 50 万 V が用いられている。送電電力の電圧の上昇はすなわ
ち、送電電力系統において用いられる電気機器にかかる電圧の上昇を意味しており、電気機器
の高電圧化も同時に進むことになる。高電圧化によって電気機器は絶縁距離などの設計におい
てスケールアップを余儀なくされ機器が大型化するが、近年では電力自由化に伴う競争もあっ
て電力会社は設備投資を控える傾向があり、大規模な機器を置く用地の取得は避けたいのが現
状である。さらに、環境負荷とコストの観点から用いる部品はなるべく少なくすることが求め
られ、電圧の上昇に反して電気機器はより小さくすることが望まれている。電気機器は一般に
頻繁に交換されるものではなく長期間にわたって使用されるため、将来を見据えた設計と耐用
年数の長さ、それに加えて故障のないことが要求され、その要求はパワーエレクトロニクスの
分野まで拡大してきている。電気が現代の生活において果たす役割は非常に大きく、電気機器
において信頼性は欠くことが出来ない性能といえる。
電気機器において絶縁は最も重要であり、過去の電気機器の事故の大半は絶縁に関わる事故
であった[2]。絶縁破壊は即ち電気機器の故障を意味しており、最悪の場合復旧できない損傷
を負う。よって、絶縁材料は電気機器の寿命と信頼性に深く関わっていると言える。絶縁材料
の寿命は使用環境によって大きく左右される。絶縁材料の劣化に関係する因子と負荷の形態を
表 1-1 に示す[3]。表に示されているように、寿命を早めてしまう大きな要因の一つに温度が
挙げられる。前述のように電気機器にかかる電圧は増加してきており、それに伴って電力量も
増加し電気機器がより発熱するようになってきている。電気機器は耐久性・信頼性を保つ必要
があるため、より耐熱性の高い材料が望まれている。また電気機器には高効率化も求められて
おり、その方法の一つとして機器におけるエネルギー密度を増加させることが挙げられる。エ
ネルギー密度の増加には高電圧化あるいは大電流化の手法が取られる。例えば大電流化によっ
ては抵抗成分によるジュール熱が増加するため、より耐熱性の高い絶縁材料が望まれる。近年
では都市近郊において電気機器の設置場所が困難になってきており、一般に地表より湿気が多
く換気しづらい地下に埋没し設置するようになっている[4]。湿気もまた絶縁材料の劣化に関
わる因子の一つである。また世界経済の発展に伴い、今まで電気の通っていなかった砂漠や寒
冷地、最も極端な例としては宇宙などの周囲環境の厳しい場所で電気が使用され、電気機器の
使用が増加していくことが予想される。このように近年の電気機器の絶縁材料には、高い温度
のみならず劣化が早まってしまう多数の要因が複合的に加わるようになってきている。絶縁材
料としての初期値も重要ではあるが、電気機器の長期的な信頼性を保つために、特に劣化に対
して耐性の高い材料、言いかえれば、長期間使用できる材料が望まれようになってきている。
1
表 1-1 電気絶縁の劣化影響因子と負荷の形態[3]
電気機器の一つである変圧器には、大きく分けて乾式と湿式の2種類がある。乾式のモール
ド変圧器の巻線の絶縁にはエポキシ樹脂によるモールドが行われるものがある。これはエポキ
シ樹脂が機械的特性と絶縁特性に優れ、また安価だからである。エポキシ樹脂は JIS C4003 で
耐熱クラス F の 155℃に分類される材料である。エポキシ樹脂は高強度であるが、硬度が非常
に高く熱応力緩和性に欠ける。変圧器動作時には巻線の導線が最も温度が高く、モールドして
いる絶縁物は鉄心に接触しているため比較的温度が低く、導線との温度差は大きくなっている。
導線が加熱されることによってエナメルが軟化し樹脂との接着力が弱くなり、使用中に起こる
熱サイクルによりエナメル巻線との間で接着剥離を起こすことがある。この剥離は導線とエナ
メルの間、エナメルと樹脂の間が考えられる。あるいは、熱サイクルを受けることによってエ
ポキシ樹脂にクラックが入ることもある。剥離、あるいはクラックによって出来た空間で部分
放電が起こると、エナメルあるいはエポキシ樹脂が激しく劣化し絶縁破壊に至ってしまう。そ
のためより熱応力緩和性に優れた材料が望まれている。また前述のとおり近年では電気機器の
動作電圧が上昇する傾向にあり、より耐熱性の高い材料が望まれるようになってきている。現
在でもエポキシ樹脂の耐熱性の向上に向け、ガラス転移温度の向上や、ベースポリマーの改質、
硬化剤の検討など様々な研究が行われている[4][5][6]。大型電気機器の絶縁において非常に
有効であった SF6 が温室効果ガスに指定されその削減が求められ、また環境負荷の観点からも
固体絶縁による電気機器の開発が期待されており[7]、有用な固体絶縁材料の開発が今後も電
気機器の信頼性を保っていく上で欠かせない課題となっている。
本論文では、絶縁材料としても用いられる室温硬化型(RTV)樹脂の硬化剤について論じる。
RTV 樹脂の主要な主剤はシリコーン、変成シリコーン及びウレタン樹脂の 3 種類である。特に、
シリコーン樹脂は、後述するように耐熱性に優れる[8][9]がエポキシ樹脂に比べて高価である
ために、用途が限定される傾向にある。シリコーン樹脂は高温硬化型(HTV)と RTV とに大別
できるが、エポキシ樹脂の耐熱ランクを越えるシリコーン樹脂を対象にしたとき、RTV 型が製
造コストが安くなり、コスト面で有利となる。この材料は、充填材としての炭酸カルシウムな
どの添加による増量効果により、材料コストを低減し、かつ意匠性などを出しながら接着剤、
シーリング材や塗料として製品化されている。現状では、パワーエレクトロニクス分野での応
用展開は先の話と思われるが、接着強度、耐熱性や耐久性の向上に伴い情報端末、自動車、ソ
ーラーセルや LED に代表される電気・電子部品の封止材など使用用途は確実に拡大している。
また、絶縁材料として用いられる RTV 樹脂は他用途(接着剤やシーリング材)にもそのまま転
用可能である[10][11] ことからも、その適用範囲が拡大していくことは想像に難くない。
RTV シリコーン組成物について、C.P.Wong らは半導体素子の封止材として研究を行っている
[12][13]。半導体素子において水分と空気は素子の寿命を短縮させる大きな要因となるため、
2
封止材の果たす役割は大きい。この C.P.Wong らによって研究されたシリコーン組成物は Dow
Corning の封止材として実際に使用され、その有効性が実証されている[12]。また Goudie らは
碍子のコーティング材料としての RTV シリコーン組成物についてのレビューを報告している
[14]。Gourdie によれば 1950 年代には既に絶縁材料としてシリコーンの耐候性、対コロナ性、
耐熱性が認められており、屋外の高電圧絶縁用途に応用された。その後もシリコーン組成物は
碍子のコーティング材料として開発され、現在でも使用されている。このような電気分野にお
ける絶縁材料は高温にさらされる機会が頻繁にある。よって絶縁材料として用いるためには電
気的な評価に加えて耐熱性の評価が不可欠となる。上記に挙げた[12]、[13]、[14]のいずれの
文献においてもシリコーンの耐熱性評価が検討されている。
1-2 RTV 樹脂の
樹脂の構成材料と市場規模
構成材料と市場規模
RTV 樹脂の製品応用としては、1−1節で既述したように、絶縁材料や封止材はもとより、接
着剤、シーリング材や塗料として建材用に製品化されている。接着強度、耐熱性や耐久性の向
上に伴い、情報端末、自動車、ソーラーセルに代表される電気・電子部品の封止材など使用用
途は拡大している[15]。幅広い産業用途に用いられる RTV 樹脂からなる製品の構成材料は表
1-2 のように分類できる。主剤は主にシリコーン、変成シリコーン及びウレタン樹脂である。
架橋剤は硅素原子にメトキシ基やエトキシ基に代表される加水分解性官能基が2つ以上結合
した化合物が用いられる。
表 1-2 RTV 用樹脂を用いた製品の材料構成と用いられる材料
構成材料
用いられる材料
シリコーン
変性シリコーン
ウレタン
メチルメトキシシラン
メチルエトキシシラン
有機スズ化合物
チタン酸エステル
有機アルミニウム化合物
カルボン酸金属塩
脂肪族第一アミン類
カルボン酸
ルイス酸
ハロゲン化金属
ハロゲン化ホウ素
アミノシラン化合物
シリカ、炭酸カルシウム
ヒンダードフェノール系化合物
モノフェノール系化合物
ビスフェノール系化合物
ポリフェノール系化合物
テレフタル酸エステル化合物
非フタル酸エステル化合物
エポキシ系化合物
高分子系可塑剤 等
主剤
架橋材
硬化剤
硬化助剤
接着助剤
充填材
添加材(酸化防止剤、可塑剤)
これらの構成から成る樹脂を室温で硬化させるため、ほぼ例外なく硬化剤(硬化触媒)及び
3
併用硬化剤が用いられる[16][17]。硬化剤は、主剤と架橋剤からなる架橋ネットワークと化学
的に結合し取り込まれるものと、ネットワークには取り込まれないものに大別でき、RTV 樹脂
では硬化剤は主として後者のネットワークに取り込まれないものが用いられている。すなわち
硬化触媒としてその役割を果たしている。
RTV 樹脂に使用される硬化触媒が果たすべき役割としては、当然ながら硬化反応の促進であ
るが、同時に、材料自体が持つ特性に悪影響を与えないことや環境負荷が小さいこと等の性能
も求められる。前述の通り、本論文における RTV 樹脂は対象を、シリコーン樹脂、変性シリコ
ーン樹脂、ウレタン樹脂としており、これらの硬化反応を促進する必要がある。
RTV 樹脂用の硬化剤として最も多用されているものが、有機スズ化合物である。この有機ス
ズ化合物系硬化触媒としては、例えばジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、
ジオクチルスズジラウレートなどが挙げられる。有機スズ化合物の最大の特徴としては、その
触媒能の高さが挙げられる。有機スズ化合物が RTV シリコーン樹脂に適用された際の反応機構
は Weij によって提案されており、図 1-1 に示すような反応を生じる[18]。反応機構は以下の
順序で行われる。(A)有機スズ化合物は待機中の水分によって加水分解される。
(B)Sn-OH が
Si-OR と反応し、(C)Si-O-Sn 結合を形成する。
(D)Si-O-Sn 結合が Si-OH と反応し Si-O-Si 結
合を生じる。この反応を繰り返すことにより、Si-OH 結合が Si-O-Si 結合となり、架橋ネット
ワークを構築し硬化に至る。また、ウレタン樹脂に対しては図 1-2 に示すような反応メカニズ
ムが提案されている[19]。有機スズ化合物の問題点としては、環境影響が懸念されており、近
年の環境規制により、使用が制限されることである。例えば、有機スズ化合物は欧州委員会決
定(2009/425/EC)[20]において、特にジブチルスズ化合物及びジオクチルスズ化合物につい
て、2012 年 1 月 1 日以降は一般公共に供給される製品への含有量に基準を設ける規制が出され、
RTV シーリング材及び接着剤に関しては 2015 年から基準を設ける要求が出された。また、有機
スズ化合物が環境・生態に及ぼす影響については、世界各地で広範囲に調査されており[21]、
[22]、今後このような規制が進んでいくことが予期される。よって、有機スズ化合物の代替材
料が望まれている。
=
O
Sn - OCCH3
(A)
H2O
=
O
CH3COH
SiOR
Sn-OH
(B)
ROH
Si - O - Si
(D)
Sn - O - Si
Si - OH
(C)
図 1-1 有機スズ化合物を RTV シリコーンに用いた時の反応メカニズム[18]
4
図 1-2 ポリウレタンに有機金属触媒を用いた場合の反応メカニズム[19]
次に、有機スズ化合物以外の硬化剤として、有機金属化合物のチタン酸エステルや有機アル
ミニウム化合物が挙げられる。具体例としては、テトラブチルチタネート、テトラプロピルチ
タネート、テトラエチルチタネートやアルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウ
ムトリスエチルアエトアセテートなどが挙げられる。また、チタン酸エステルと有機化合物を
反応させ変性した、チタンキレート系触媒も挙げられる。チタンキレート系触媒の例としては、
ジイソプロポキシチタンビスアセチルアセトナート、チタンテトラアセチルアセトナート等が
挙げられる。これらの有機金属化合物を用いた場合の反応機構は、有機スズ化合物と同様のメ
カニズムであると考えられている。これらの硬化剤の課題としては、有機スズ化合物ほどの触
媒活性を有していないことや、水に対して反応性が高く、触媒失活しやすいことが挙げられる。
水に対する反応性改善(抑制)のため、有機金属化合物に対して配位子を結合させる手法が用
いられ、チタンキレート触媒が実現されているが、有機スズ化合物と比較して触媒活性が低い
ことから代替までは至っていない。しかし一方で、環境負荷が低く、環境規制対象となってい
ないという利点も挙げられる。
その他、カルボン酸ビスマスなどのカルボン酸金属塩、メチルアミン、エチルアミンなどの
脂肪族第一アミン類などが硬化剤として挙げられる。これらの硬化触媒も、触媒活性の低さ等
から有機スズ化合物代替までには至っていないのが現状である。
表 1-2 に示す硬化助剤としては、
カルボン酸、ルイス酸またはルイス酸の錯体を併用したり、
ハロゲン化金属、ハロゲン化ホウ素など、特に三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体が選ばれ
ている[23]。また、接着助剤[23]としてアミノシランカップリング剤が多用されている。特に
接着性付与剤として、ウレタン基またはウレア基を有するシランカップリング剤を使用するこ
とで、アミン化合物由来の液状化合物のブリードアウトを抑制している。
可塑剤[24]は、硬化性組成物の粘度やスランプ性及び硬化物の引張り強度、伸びなどの機械
的特性の調整に用いる。可塑剤の具体例として、ジブチルフタレート、ジイソノニルフタレー
ト(DINP) などのフタル酸エステル化合物、ビス(2−エチルヘキシル)−1、4−ベンゼンジカ
ルボキシレートなどのテレフタル酸エステル化合物や非フタル酸エステル化合物などやエポ
キシ化大豆油などのエポキシ系可塑剤などがある。また高分子系可塑剤もあり、硬化体の物性
を長期にわたり維持する場合に添加される。高分子系可塑剤としてビニル系重合体、ジエチレ
ングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエートなどのポリアルキレン
グリコールのエステル類、セバン酸、アジピン酸などの2塩基酸、エチレングリコール、ジエ
チレングリコール等の2価アルコールから得られるポリエステル系可塑剤などである。リン化
合物、特にリン酸エステルは一般に高分子材料の可塑剤、酸化防止剤、防黴剤、難燃剤として
使用されている。
5
酸化防止剤(老化防止剤)を使用すると硬化物の耐候性を高めることができる[24]。酸化防
止剤としては、ヒンダードフェノール系、モノフェノール系、ビスフェノール系、ポリフェノ
ール系がある。具体的には、チヌビン6221LD、チヌビン144などの商品が例示される。
前節に置いて絶縁材料としての RTV 樹脂について述べたが、絶縁材料として用いられる RTV
樹脂は他用途にもそのまま転用可能であり[10][11]、接着剤、シーリング材としての基本的な
性能を満足することは重要である。そこで、市場規模の観点から表 1-2 に掲げる RTV 樹脂の製
品応用を接着剤、シーリング材及び塗料に限定する。図 1-3 に示すように、接着剤は合板、現
場施行用の建築、包装、自動車など幅広い用途に使用され、2008 年統計で 85 万トンの出荷量
である[25]。また建築用シーリング材については、2008 年度統計より、使用される主剤ごとに
数値が出ている[26]。図 1-4 より、建築用シーリング材に限ると、シリコーン、変成シリコー
ン及びウレタン樹脂でほとんどの割合を占めている。
図 1-3
接着剤用途別出荷量[25]
図 1-4 建築用シーリング材の主剤別構成比[26]
6
RTV 樹脂組成物の一つである両末端 OH 変性ポリジメチルシロキサン(PDMS)は自然界で分解
され、水やシリカ、そして二酸化炭素に分解される[27]。このことより PDMS は低環境負荷の
材料と言える。しかしながら、硬化剤には有機スズ化合物がよく用いられ、上述したように環
境や生態系への悪影響が報告されている。すなわち、RTV シリコーン組成物の環境負荷を高く
している要因は硬化剤として使用される有機スズ化合物である。未充填およびシリカ充填のシ
リコーン組成物の逆硬化反応によるリサイクルに関する報告もあり[28]、[29]、有機スズ化合
物を含まなければ低環境負荷の材料となり得る。有機スズ化合物は 35 年以上も両末端 OH 変性
PDMS の縮合反応に用いられている[30]ことから実績も高く広く普及しており、現在でもその産
業的な価値は高い。しかしながら、スズフリー硬化剤への取組みが一部企業でなされている。
1-3 RTV 樹脂用硬化剤の
樹脂用硬化剤のスズフリーに向けた
スズフリーに向けた国内企業の
フリーに向けた国内企業の動向
国内企業の動向
本論文研究の動機は、スズフリー硬化剤を用いたグリーンマテリアルとしての RTV 樹脂組成
物を作り上げることである。2009 年に発行された EU 規制に対応した日本国内企業の取組みを
以下に紹介する[31]。
本節における特許調査は、硬化剤としての有機スズ化合物規制に対応する技術を主に 2007
年以降の出願特許について調べ、環境負荷低減に積極的に取り組んでいる企業並びに技術を明
らかにし、本論文で得られた大学発技術を移転する際に有効なデータとなるように行った。こ
の特許調査は、製品応用が量的に多い接着剤、シーリング材及び塗料に限定した。特許調査に
おける検索式は次のようにした。IPC(International Patent Classification)おける塗料、
接着剤に関係するクラス C09 と有機高分子に基づく組成物に関連するクラス C08 を採用した。
それらのサブクラスを用いて、C08G+C08K+C08L+C09D+C09J と出願年を用いた。データベースは
NRI(Nomura Research Institute)である。
調査対象企業の選択は、資本金が 3 億円以上の 9 社とした。内訳としては資本金が 100 億円
以上の企業が 4 社、10 億円以上が 3 社、3 億円以上が 2 社である。これらの企業は上述の製品
応用に主に関係する企業である。これら企業 9 社の内 8 社は、三重大学知的財産統括室と既に
訪問、面談などのコンタクトを行った企業である。三重大学社会連携研究センターが今後技術
移転する際に問題にならないように企業名は伏せてある。しかしながら、環境負荷低減に取り
組む姿勢は、企業名がなくても論じることができる。
2012 年 9 月現在で、検索式に限定した 1992 年から 2012 年の 21 年間に調査対象企業 9 社が
出願した公開並びに登録特許数は、18,317 件である。特に EU 規制が発行した 2009 年の 2 年前
2007 年から 2012 年 9 月までの出願数は、対象全社で公開・公表・再公表特許出願数は 3,064
件ある。この 3,064 件の特許を、特許要約、請求項1と適宜明細書をチェックすることにより、
製品用途(接着剤、シーリング材及び塗料)に関する特許のみに限定すると、211 件となった。
2007 年以降に出願された 211 件において、接着剤、シーリング材及び塗料に限定された出願が
30%を越える企業は、資本金が 100 億円以下の2社の川中企業(いわゆるフォーミュラ産業)
であった。
次に、この 211 件の出願特許を、EU 規制より一層厳しく、本論文の目的と合致したスズフリ
ー環境負荷低減型硬化剤に関する特許に絞り込んだ。そのために、スズフリー硬化剤を請求項
に含む特許を、特許要約、請求項1と明細書より抽出した。その結果、53 件の出願があった。
図 1-5 は 2007 年度以降における、これら 53 件の特許の推移を示す。図 1-5 より、EU 規制(2009
年)に対応する出願は 2008 年以降急激に増加したと結論される。一方、調査対象企業の 2007
年以降の取り組みを示すのが図 1-6 である。この図より、EU 規制に対応したスズフリー硬化剤
を使用する接着剤、シーリング材及び塗料関係特許は、cAK 及び bIK の2社が突出して行って
いることが判明した。各会社のアルファベットの最初の小文字は資本金の大きさを示す。資本
金が 100 億円を越える川上企業 cAK が、積極的に EU 規制対応特許を出願していることは、川
中企業への材料供給に優位に作用すると思われる。一方、川中企業 bIK の環境負荷低減への努
7
環境負荷低減徳教出願数
力は、エンドユーザーに対して、多数の川中企業群の中で優位性をアピールしていくと思われ
る。
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
2007
図 1-5
2008
2009
2010
出願年
2011
2012
スズフリー硬化剤を使用した接着剤、シーリング材及び塗料の特許出願数の変化[31]
30
出願数
25
企業の最初のアルファベット
3億円以上:a
10億円以上:b
100億円以上:c
20
15
10
5
0
cAK
図 1-6
cUS
cUY
cCD bIK bAA
調査対象企業
bNC
aOT
aIT
スズフリー硬化剤を使用した接着剤、シーリング材及び塗料に関する
調査対象企業の特許出願数[31]
1-4 RTV 樹脂の
樹脂の硬化過程
本節では、主要な RTV 樹脂であるシリコーン、変成性コーン及びウレタンについて概説する
とともに硬化過程を記述する。
(1)シリコーン
シリコーンは第3章、第4章及び第5章で対象とする材料である。シリコーン樹脂は、骨格
がシロキサン結合(-Si-O-)と有機基から成り立っているため、無機と有機の特性の両方を持つ
材料であり、無機に由来する耐熱性と有機に由来する反応性や溶解性を兼ね備えている[8]。
シリコーンはポリオルガノシロキサンとも言われる。その代表としてポリジメチルシロキサン
の分子構造を図 1-7 に示す。主鎖であるシロキサン結合は実際には螺旋構造をとっており、こ
れがシリコーンに柔軟性を与える要因となっている。シリコーンの耐熱性の良さは主鎖に含ま
れる Si-O 結合の結合エネルギーに起因し、このエネルギーは 106kcal で、有機材料の主鎖で
ある C-C 結合の 85kcal と比較して高い[9]。単純なポリジメチルシロキサン(PDMS)は官能基を
8
持たないためシリコーンオイルとして熱媒体や、離形剤として使用される。シリコーン組成物
に用いられるポリジメチルシロキサンは 3 次元ネットワークを形成するために官能基を持たせ
たものが使用される。シリコーン組成物のベースポリマーとしてよく使用される両末端 OH 変
性 PDMS の分子構造を図 1-8 に示す。以下、単純に PDMS と書いたときは両末端 OH 変性 PDMS の
ことを示すこととし、両末端が CH3 の PDMS は CH3 末端 PDMS と表記する。
CH3
-
-
-
-
Si-O
CH3
CH3
Si - CH3
-
-
CH3
H3C - Si - O
CH3
n
CH3
図 1-7 ポリジメチルシロキサン(PDMS)の分子構造
CH3
-
-
-
-
Si-O
CH3
CH3
Si - OH
-
-
CH3
HO - Si - O
CH3
n
CH3
図 1-8 両末端 OH 変性 PDMS の分子構造
RTV シリコーン組成物の形成過程(a)と硬化過程(b)を図 1-9 に示す。なお、図 1-9 では架橋
剤として室温硬化型シリコーン組成物において良く用いられるメチルトリメトキシシラン
(MTMS)を用いている。図中で、反応に関与する官能基はヒドロキシル基と MeO で示すメトキ
シ基である。また、図 1-9 (b)では D と A が反応できるため、多数の分子間の D と A 間で脱ア
ルコール反応が起こり 3 次元ネットワークを形成し硬化にいたる。
CH3
Si-O
CH3
MTMS
-
-
-
HO
MeO
H MeO - Si - CH3
MeO
-
-
-
MeO
H3C - Si - OMe
MeO
n
PDMS
MTMS
-2MeOH ↑
硬化剤:
(縮合)触媒
MeO
Si - CH3
n MeO
-
-
-
-
-
-
CH3
Si-O
CH3
MeO
H3C -Si - O
MeO
MeO = CH3O
(a) RTV シリコーン組成物の形成過程
図 1-9 室温硬化型シリコーン組成物の形成過程と硬化過程
9
-
n
+ H2O
硬化剤:
(縮合)触媒
-
D
D
HO
Si - CH3
MeO
A
-
-
-
CH3
Si-O
CH3
-
-
A
MeO
H3C - Si - O
HO
MeO
Si - CH3
MeO
-
-
-
CH3
Si-O
CH3
-
-
MeO
H3C - Si - O
MeO
n
(b) 室温硬化型シリコーン組成物の硬化過程(A と D が反応し硬化)
図 1-9 室温硬化型シリコーン組成物の形成過程と硬化過程(続き)
RTV シリコーン組成物の耐熱性は、ベースポリマーであるポリオルガノシロキサンに大きく
依存する。現在までに、ベースポリマーとして最も一般的なポリジメチルシロキサンについて
の熱劣化が熱心に研究されてきた。Thomas らは不純物の入っていない CH3 末端 PDMS について
の熱劣化を研究し、空気中での昇温過程での CH3 末端 PDMS の劣化は約 320℃で側鎖のメチル基
から始まり、その後 390~410℃で始まる主鎖の分解が起こると報告している[32]。また真空中
で 420℃と 320℃の等温試験も行い、420℃ではシロキサン再配列は起こらず、シラノールの縮
合が起こっているとしている。末端封止 PDMS の側鎖のメチル基の一部をフェニル基に置換す
ることによって耐熱性が向上することは良く知られており[33]、末端封止 PDMS の熱劣化は側
鎖のメチル基から始まることを支持している。以上のようにポリジメチルシロキサンは高い耐
熱性を有している。
一方で、Rode らは PDMS の熱劣化を研究しており、真空下の実験で 200℃以上にさらされる
と熱劣化が始まると報告している[34]。そして末端の OH 基に誘導される熱劣化メカニズムを
提案している。図 1-10 にそのメカニズムを示す。この末端の OH 基に誘導される熱劣化は
Grassie らによっても報告されている[35]。以上のように末端の OH 基によって誘導される熱劣
化も存在する。
また、ポリジメチルシロキサンあるいはシリコーン組成物中に存在する酸、アルカリ等の硬
化剤の成分が、熱劣化と機械的特性に与える影響についても報告されている。Grassie らはシ
ラノールの縮合触媒である KOH の存在下ではポリジメチルシロキサンの熱劣化温度が著しく低
下することを報告している[34]。また、Stein らは硬化剤として有機スズ化合物を用いた室温
硬化型シリコーン材料において、30℃で主鎖のシロキサン結合転換を原因とする応力緩和が起
こることを報告している[36]。Osthoff も酸の存在下で 130℃において加熱硬化型シリコーン
の応力緩和が起こること示しており[37]、ポリジメチルシロキサンは不純物が入ることによっ
て熱劣化しやすい状態になると考えられる。
以上に述べたように、RTV シリコーン組成物は主剤のポリオルガノシロキサンの耐熱性は優
れているものの、ポリオルガノシロキサン自身の末端基や、硬化剤に用いられる酸やアルカリ、
金属化合物などの物質によってその熱劣化が促進されてしまう。
10
図 1-10
PDMS 末端の OH 基に誘導される熱劣化のメカニズム[36]
(2) 変成シリコーン
変成シリコーンは、第6章にてシリコーン及びウレタン樹脂とともに対象となる材料である。
オリゴマーの末端に反応性シリル基が導入され、主骨格はポリオキシアルキレンなどの非シロ
キサン結合からなるオリゴマーは変成シリコーンと呼ばれる。主鎖に C-C 結合を有することか
ら、結合エネルギーのより高い Si-O 結合のみからなるシリコーンに対して、耐熱性は劣る。
図 1-11 に変性シリコーンの一例を示す。この場合、片末端に2個のメトキシ基が硅素原子に
結合していることから、2官能の変成シリコーンとなる。
CH3
-
CH3
CH2CH2CH2 Si - (OMe)2
-
-
CH3
CHCH2O
(MeO)2 - Si CH2CH2CH2O
n
MeO = CH3O
主骨格:ポリオキシアルキレン
図 1-11 変成シリコーンの一例
主骨格は異なるものの、図 1-11 に示す反応に関係する官能基は図 1-9 (b)と全く同じである。
従って、図 1-9 (b)もしくは図 1-11 の硬化過程は脱アルコール及び脱水を伴う縮合反応である。
すなわち、図 1-12 のようにメトキシ基とヒドロキシル基の縮合反応からなる。
-
CH3
Si - OMe
硬化剤:
(縮合)触媒
H2O
-MeOH ↑
CH3
-
Si - OH
Si - OH
-
-
-
CH3
CH3
-
-
-H2O ↑
CH3
Si - OMe
-
-
CH3
-MeOH ↑
Si - O -Si
-
-
図 1-12 変性シリコーン樹脂の硬化過程
11
MeO = CH3O
(3)ウレタン樹脂
ウレタン樹脂は、第6章にて検討する材料である。ウレタン樹脂は、カルボニル基を介して
アミノ基とアルコール基が脱水縮合した化合物であり、ウレタン結合を含んでいる。通常イソ
シアネートとアルコールを反応させて合成され、反応式は次のように表される。
R-N=C=O + ROH -> R-NHC(=O)OR’
ROH として、ポリオールを用いる。ウレタン樹脂はイソシアネートとポリオールの重付加反応
により作られる。
イソシアネート基 R-N=C=O は、酸素原子が電子リッチで、炭素原子が電子不足状態である。
活性水素化合物は、電子不足状態の炭素原子を攻撃して一層電子不足とし、反応性を高める。
3 級アミンを硬化剤とする一例として、図 1-13 にイソシアネート基と水酸基の反応メカニズム
を示す[17]。
図 1-13 イソシアネート基と水酸基との反応への 3 級アミン化合物の寄与[17]
ポリウレタン硬化触媒としては、第3級アミン触媒、あるいは金属系触媒(水銀系触媒、鉛
系触媒、亜鉛系触媒およびスズ系触媒等)が知られており、金属系触媒では、特に有機スズの
ジブチルスズ化合物が安定で高活性のため多用されている。しかし、人体への安全性や環境へ
の負荷が大きい点で問題視されており、これに代わる触媒が要望されている。金属系触媒は主
に NCO の酸素にカルボニル基の求電子性を高める。また第三級アミンは、ルイス塩としての NCO
のカルボニル炭素またはポリオールの OH 基に配位して反応を活性化させる。
イソシアネートは構造より、脂肪族系、芳香造形、脂環式の3種類に分類される。第 6 章で
用いたイソシアネートは脂肪族系である。ポリオールも大きくひまし油、ポリエーテル系、ポ
リエステル系の3系統に分類される。主として、ポリエーテルポリオールとポリエステルポリ
オールであるが、約90%がポリエーテルポリオールである。このポリエーテルポリオールは、
耐加水分解性に優れ、安価である。特に、ポリ(オキシプロピレン)グリコールが最も多く利
用されているため、俗に PPG と総称されている。第6章で用いたポリオールは、PPG である。
1-5 本論文の目的
12
シリコーン、変成シリコーン及びウレタン樹脂で代表される RTV 樹脂は、建材用途として接
着剤、シーリング材及び塗料に多量に使用されている。木材、金属に留まらず各種プラスチッ
クなどの幅広い材料に対して高接着性が得られるようになったことや、接着における硬化性レ
ベルが「速硬化」から「即硬化」レベルに到達した[15]ことから、製造ライン上の電気電子部
品の接着や封止材料、さらには耐候性や耐久性が必要とされる自動車、LED やソーラーセル封
止材まで使用範囲を広げている。現状、パワーエレクトロニクス分野では、高圧端子部や電気
自動車などにおけるポッテング材程度に留まっているが、耐熱性、耐候性等に優れていること
から、用途の拡大が期待される。
RTV 樹脂の硬化剤には主に有機スズ化合物が用いられている。一方で、有機スズ化合物は人
の健康、特に子供への危険性や環境への悪影響が確認されており、欧州委員会決定
(2009/425/EC)[20]においてジブチルスズ化合物及びジオクチルスズ化合物は、2012 年(RTV
シーラントに関しては 2015 年)1 月 1 日以降は一般公共に供給される製品への含有量に基準を
設ける要求が出された。今後もこの類の規制は進んでいくと予想され、代替材料が強く望まれ
ている。実際に、RoHS 指令(電子・電気機器における特定有害物質の使用制限)、WEEE 指令(電
気・電子機器におけるリサイクル、回収目標を制定)などの法規制により、多くの有害物質が
指定されているため、今や環境に配慮していない製品は市場から排除される傾向すらある。有
機スズ化合物は RTV 樹脂の硬化剤や、ポリ塩化ビニルの安定剤などに幅広く用いられている有
用性の高い物質であるため、規制が開始される今後数年間の内に代替材料への転換を行う必要
に迫られている。
本論文は、このような産業的課題を解決するために、シリコーン、非シロキサン骨格変成シ
リコーンやウレタンに効果のあるスズフリー硬化剤の開発を目的としている。以降、2 章では、
試料評価方法について記述した。3 章では新規に考案した硬化剤の分析評価と、その硬化剤と
従来硬化剤との触媒能の比較を行った結果を述べ、新規硬化剤の優位性を示した。4 章では、3
章で示した新規な硬化剤を用いて、シリコーン樹脂としての機械的特性、耐熱性について検討
した。これにより、用途に応じた所望の特性を有する材料を得るための材料設計の指針を得た。
5 章では、3 章で示した新規な硬化剤を用いて、シリコーン接着剤としての接着特性、機械的
特性、耐熱性について検討した。使用する材料構成の違いによる各種評価特性を把握し、接着
剤として最適の材料構成を得る指針を示した。6 章では、3 章において示した新規硬化剤の製
品展開を視野に入れて評価し、その課題を抽出した。課題解決のために、再び新たな硬化剤を
考案し、その硬化剤の評価を実施した。さらに、従来硬化剤と比較した際の優位性を示した。
以上の結果より、従来型の有機スズ化合物硬化剤を用いた場合に対して、優れた耐熱性・耐久
性、接着性を有する RTV 樹脂を作製可能な、低環境負荷の RTV 樹脂用硬化剤を開発することに
成功した。
第1章の参考文献
第1章の参考文献
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[7] 特開 2007-82288, 高電圧変電装置
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13
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14
第 2 章 試料評価方法
2-1 機械的特性測定
機械的特性の評価からは、弾性率、破断点強度、破断点伸び率がわかるり、試料のマクロな
物性を評価できる。本論文での、硬化体の弾性率、破断点強度及び破断点伸び率の評価は、JIS
K6251 に従い、試料をダンベルで打ち抜き、AUTO GRAPH(AGS-J、島津製作所㈱)にて図 2-1
に示した方法で 500 [mm/min]の速度で引っ張り試験を行った。
弾性率、破断点応力及び破断点伸び率の計算方法を以下に示す。
k=
Sm
Em
(1)
Sm =
Fm
(2)
A
Em =
Lm − L0
(3)
L0
ここで k は弾性率 [MPa]、Sm は破断点応力 [MPa] 、Em は破断点伸度 [%]、Fm は破断時の引っ
張り強度 [N]、A は試料断面積 [mm2]、Lmは破断時のダンベル間距離 [m]、L0 は初期のダンベ
ル間距離 [m]である。
厚さ
つかみ具間距離
幅
図 2-1 機械的特性測定方法
2-2 接着強度測定
接着強度測定は、試料の接着強度の評価のため実施した。接着強度測定に用いた試料形態を
図 2-2 に示す。被着体はアルミ材質の板を用いた。2 枚のアルミ板に接着面積が 20 [mm]×20
[mm] = 400 [mm2]になるように、混合溶液を塗布し、接着層の厚みを一定にする目的で直径 200
[μm]のステンレスワイヤーを接着層に置き、図 2-2(b)のように 2 枚のアルミ板を固定した。
測定は AUTO GRAPH を使用し、5 [mm/min]の速度で引っ張りせん断方式にて行った。
接着強度 SA [MPa]の計算方法を以下に示す。
SA =
Fm
(4)
A
ここで、Fm は破断時の引っ張り強度 [N]、A は接着部分の面積 [mm2]である。
15
20mm
50mm
20mm
接着部分
(a) 接着強度測定に用いたアルミ板の寸法及び接着部分
接着層
(厚さ200μm)
(b) 接着試料
図 2-2 接着試料の形態
2-3 分子量分布測定
試料の分子量分布の測定にはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いた。分子量分布の
測定により、試料が時系列的な高分子化を評価した。GPC 測定の原理は、まず定流量ポンプか
ら、充填剤(ゲル)が充填されたカラムに溶媒(溶離液)が送られる。ポンプとカラムの間よ
り試料溶液を注入し、試料溶液がカラムへ運ばれる。カラムでは、充填剤を用いて試料が分離
されカラムより順次排出される[1]。このとき、図 2-3 に示すように、大きなサイズのポリマ
ーは多孔質充填剤の深部へは到達できないため、短い流路を通り最も早く出口に到達する。一
方、小さいポリマーほど深部へ到達できるため流路が長くなり、カラムの出口に到達するのが
遅くなる。この原理により分子サイズの大きな成分から順次溶出する。ただし、同一分子量で
あっても分子構造が異なれば分子サイズが異なるため、同一時間に溶出されるとは限らない。
そして、カラム出口に接続された検出器により濃度を測定し、予め分子量既知の標準試料につ
いての分子量と溶出時間との関係をプロットした較正曲線(検量線)を用いて分子量を計算す
る。
本研究では、機器に HLC-8220GPC(東ソー㈱)
、カラムに TSK-GEL SUPER HZM-M(東ソー㈱)
、
標準物質に POLYSTYRENE(Polymer Laboratories Ltd)、溶媒にトルエン(キシダ化学㈱)を用
いて測定を行った。また、すべての測定において試料 15 [mg]に対して 1 [cc]のトルエンの割
合で試料を溶かし、測定を行った。
16
ポリマー
充填剤(ゲル)
図 2-3 カラム充填剤によるポリマー分離原理
2-4 フーリエ変換赤外分光法(FT
フーリエ変換赤外分光法(FTIR)
FT-IR)
本論文では主に新規な触媒の分子構造を評価するために FT-IR 測定を行った。FT-IR 測定は、
有機・無機化合物の赤外吸収スペクトルを測定し、分子構造を解析する装置である。最大の特
長は、非破壊で迅速、スペクトルライブラリが豊富な点である。また、樹脂の硬化挙動をリア
ルタイムで分析できる。原理は、化合物に赤外線を照射すると、分子構造に依存して特定波長
の光が吸収され、その物質の「分子振動」に起因する赤外吸収スペクトルが観測できる。その
赤外吸収スペクトルから、化学構造を同定することが可能である。化学構造によってスペクト
ルの形状が異なるため、しばしば定性分析に利用される。また赤外光の吸収強度は、成分の濃
度に比例するので、定量分析も可能となる[2]。
本研究で用いた機器は、FT/IR-4100(日本分光㈱)で、付属品の ATR PRO450-S を用いて全
反射(ATR)法にて測定を行った。分解能は 4 [cm-1]で、積算回数は 16 回、測定波数範囲は 400
~4,000 [cm-1]とした。
2−5 粘度測定
粘度測定は RE-85R(東機産業㈱)を用いて行った。測定時には 30℃に保った温水をポンプ
を用いてサンプルカップを通して循環させることにより、試料の温度を一定にした。校正は、
JIS 規格のシリコーンオイルを用いて行った。
2-6 ガスクロマトグラフィー/
ガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリー(GC
マススペクトロメトリー(GC/
GC/MS)
MS)
GC/MS はガスクロマトグラフィー(GC)とマススペクトロメトリー(MS)を統合一体化した
複合分析装置で、揮発性物質の分析に使用される。本論文では、熱劣化に伴う生成物の評価に
用いた。GC の基本的な原理は、ガス状態にした測定試料をキャリアガスを用いてカラムへ注入
し、カラムの充填剤と試料の相互作用等で物質を分離するものである。MS 分光計は測定試料に
電子を衝突させ、正イオンのフラグメントを定性的に記録するものである。このフラグメント
は物質によって特徴的なものであり、これにより物質の同定ができる。
測定はガスクロマトグラフィー質量分析計(GC-MS:GCMS-QP2010 Plus: 島津製作所㈱)で行い、
キャリアガスにはヘリウム、カラムにはキャピラリーカラム(30m×0.25mmID Rtx®-5MS:RESTEC)
を用いた。試料導入部にはダブルショットパイロライザー(PY-2020iD:Frontier Laboratories
LTD.)を用いた。また試料がカラムに導入される際に、拡散して導入されると分離が悪くなる
ため、マイクロジェットクライオトラップ(MJT-1030E:Frontier Laboratories LTD.)を用い
て一度分解物をトラップしてからカラムに導入した。ダブルショットパイロライザーの温度制
17
御やマイクロジェットクライオトラップからの試料のカラムへの導入は自動制御である。試料
の熱分解過程については、1 回目の熱分解は 40℃~200℃で 2 分間行い昇温速度は 50℃/min と
した。2 回目の熱分解は 300℃で 5 分間行った。カラムは、50℃で 2 分保持した後 300℃まで
15℃/min で昇温する温度プログラムとした。
2-7 耐熱性の評価
耐熱性の評価は 200℃の恒温槽に試料を保持し、その重量減少から評価した。また、耐熱性
の評価として、200℃・20 日間保持後の機械的特性を測定した。高温・高湿雰囲気での耐久性
の評価として、試料を純水と共に密封容器に入れ、120℃の恒温槽にて 5 日間保持したときの
重量減少を測定した(以下、高温高湿試験とする)
。
2-8 貯蔵安定性試験
乾燥窒素ガスにて相対湿度 10 %RH 以下に保持されたグローボックス内で調整した試料を温
度 23±2℃の環境でそのまま 1 時間以上放置した後、グローブボックス内でシリンジ
(Disposable Reservoir System, EFD, 30cc)に充填し、完全密封した。密封したシリンジ内試
料を 50℃に維持した乾燥炉内にて 1 週間放置した後再び取り出し、この試料を対象として TFT、
接着強度を測定した。
第 2 章の参考文献
[1]「樹脂の硬化度・硬化挙動の測定と評価方法」、pp. 570-571、サイエンス&テクノロジー
株式会社(2007)
[2]「樹脂の硬化度・硬化挙動の測定と評価方法」、pp. 277-278、サイエンス&テクノロジー
株式会社(2007)
18
第3章 チタンアルコキシドとカルボン酸エステルを組み合わせた RTV 用硬化剤
とそれを用いたシリコーン組成物
3-1 本章の目的
本章では、有機スズ化合物に代わる新たな硬化剤としてチタンアルコキシドと有機添加物の
カルボン酸エステルを組み合わせたものを見出し、その新規硬化剤の効果についての検討を目
的とする。
本章で述べる新規な硬化剤は、チタン酸エステルをベースとして、組み合わせる有機化合物
により新規性を創出している。すなわち、チタン酸エステルと反応して従来硬化剤とは異なる
分子構造を持つことである。従来から使用されているチタン酸エステル反応物の硬化触媒とし
てチタンキレート化合物が挙げられる。これは、チタン酸エステルとカルボキシル基を有する
有機化合物との組み合わせからなり、図 3-1 に示すように分類できる[1]。これらは、いずれ
もカルボキシル基が配位結合に寄与している。ここで、チタンキレート触媒として用いられて
いるのは図中で Chelating bidentate と示される二座配位系のものである。二座配位系の一例
として図 3-2 にチタンテトラアセチルアセトナートの分子構造を示す[2]。
図 3-1 カルボキシル基を有する有機化合物とチタン酸エステルとの配位結合[1](M=Ti)
図 3-2 チタンテトラアセチルアセトナートの分子構造[2](M=Ti)
本研究では、チタン酸エステル系の触媒活性の低さは中心金属の Ti の電子状態に起因する
と考えられ、配位させる有機化合物を検討することによって Ti の電子状態をコントロールし
触媒活性を高められるのではないかと考えた。本章で提案する新規触媒はチタン酸エステルに
反応させる有機化合物として、ヒドロキシカルボン酸エステルを用いる。ヒドロキシカルボン
酸エステルもカルボキシル基を有するが、配位結合には水酸基が寄与し、一座座配位系である
と考えられ、従来のチタンキレート触媒とは分子構造が異なる。分子構造としては図 3-3 に示
すような構造であると考えられる。なぜカルボキシル基ではなく、ヒドロキシル基を介して配
位結合をするのかについては、以下のように推測している。図 3-3 に示すヒドロキシカルボン
酸の C-OH 結合に置いては、C よりも O の方が電気陰性度が高いことから、隣のカルボニル基の
影響を受け、OH に結合している C は負に帯電している状態と推測される。このことより、OH
の H がより脱離しやすい状態になっており、このヒドロキシル基が高い反応性を有すると考え
られる。
19
=
-
OH O
+
- -
-C - C-O-R
RO- Ti -OR
OR
-C - C-O-R
O O
Ti
=
-
OR
図 3-3 ヒドロキシカルボン酸エステルとチタン酸エステルとの反応
以下、上記した新規な硬化剤についての検討評価および新規な硬化剤を用いたシリコーン組
成物の機械的特性、耐熱性について論じる。
3-2 各種硬化触媒による PDMS の高分子化
3-2-1 本節の目的
本節では新規な硬化剤の、RTV シリコーンの硬化反応である脱水縮重合反応への寄与を評価
することを目的とする。第1章で示した通り、RTV シリコーンでは主剤および架橋剤から成る
系において、主剤と架橋剤との反応で硬化に至る。本節では反応系の評価のため、硬化反応を
最も単純化した系として、PDMS の両末端 OH 基同士の脱水縮重合反応による高分子化を指標と
して評価を行った。以下、評価方法および評価結果を示す。
3-2-2 本実験に用いた材料及び試料作製方法
本実験に用いた材料及び試料作製方法
本実験に用いた材料は、PDMS の中に含まれる低分子成分を取り除くために 200℃の恒温槽
(DRX420DA ADVANTEC㈱)
で 10 分間精製した平均分子量 1,000 の両末端 OH 変性 PDMS(X-21-5841、
信 越 シ リ コ ー ン ㈱ )、 チ タ ン ア ル コ キ シ ド と し て 、 チ タ ニ ウ ム テ ト ラ エ ト キ シ ド
(Tetraethoxytitanium: TTE、メルク㈱)、チタニウムテトラ-n-ブトキシド(Titanium Tetra
n-Butoxide: TTnB 、 関 東 化 学 ㈱ )、 チ タ ニ ウ ム テ ト ラ イ ソ プ ロ ポ キ シ ド ( Titanium
tetraisopropoxide: TTiP、関東化学㈱)である。有機添加物としては、DL-リンゴ酸ジエチル
エステル(DL-malicacid diethyl ester: MA、東京化成㈱)、DL-リンゴ酸ジブチルエステル
(DL-malicacid dibutyl ester: MADb、東京化成㈱)、乳酸エチル(Ethyl lactate: EL、東京
化成㈱)、酒石酸エチル(L-(+)-diethyl tartarate: TAdE、東京化成㈱)、クエン酸トリブチ
ル(Tributyl citrate: CAtB、東京化成㈱)、クエン酸トリエチル(Triethyl citrate: CAtE、
東京化成㈱)を用いた。また、従来触媒との比較のため、有機スズ化合物のジラウリン酸ジブ
チルスズ(Dibutyltin Dilaurate: Sn、東京化成㈱)またはチタンキレート化合物の TC-750
(マツモトファインケミカル㈱)を用いた。表 3-1 に用いた材料の一覧を示す。
20
表 3-1 用いた材料
主剤
チタンアルコキシド
有機添加物
従来硬化剤
材料名
PDMS(平均分子量1,000)
チタニウムテトラエトキシド
チタニウムテトラ-n-ブトキシド
チタニウムテトライソプロポキシド
DL-リンゴ酸ジエチルエステル
DL-リンゴ酸ジブチルエステル
乳酸エチル
酒石酸エチル
クエン酸トリブチル
クエン酸トリエチル
ジラウリン酸ジブチルスズ
TC750
略称
PDMS
TTE
TTnB
TTiP
MA
MADb
EL
TAdE
CAtB
CAtE
Sn
TC750
試料作製方法は以下の通りである。PDMS 1mol に対してチタンアルコキシド 0.05mol と有
機添加物 0.05mol をスクリュー管の中で温度 25℃で 30 分間撹拌したものを用意しておき、乾
燥窒素ガスを流した状態のグローブボックス内にて、PDMS 1mol を投入して、スクリュー管の
蓋を閉めた。次に、スクリュー管内の溶液の温度が 60℃になるように加熱しながら、磁器撹拌
子を用いて撹拌した。2 時間撹拌後(この試料を 60℃ close 2h と表記する)に、シャーレに
注ぎ入れ、温度 25℃、相対湿度(RH)50±10%の雰囲気下に保たれたボックス内にて所定時間
放置し、溶液の変化を GPC 及び FT-IR を用いて調べた。比較として公知の硬化剤であるチタン
アルコキシド、チタンキレート化合物や有機スズ化合物を用いた試料も同様に、PDMS 1mol に
対してそれぞれ 0.05mol の配合比として、上述の方法で作製し評価を行った。ただし、チタン
アルコキシドとチタンキレート化合物の場合は、反応性評価のため、60℃で撹拌後に連続して
さらに温度を上げて撹拌を行った試料もある。
21
3-2-3 各種硬化触媒による PDMS の高分子化
はじめに、チタンアルコキシドのみとチタンキレート化合物が PDMS の高分子化に与える影
響を調べた結果を示す。PDMS 1mol に対して TTE を 0.05mol 加えた試料を PDMS-TTE 系混合溶液、
同様に TC-750 を 0.05mol を加えた試料を PDMS-TC-750 系混合溶液とする。
PDMS-TTE 系混合溶液を温度 25℃、RH50±10%の雰囲気に保ったボックス内にて 168 時間放
置したときの分子量分布と赤外吸収スペクトルの測定結果を図 3-4 に示す。図中、close は密
閉雰囲気であることを示し、以下すべての図で同じである。図 3-4(a)より、25℃・168 時間後
には PDMS に起因する分子量分布はほとんど変化していないことがわかる。図 3-4(b)より、
920cm-1 付近に Si-O-Ti 結合に起因する吸収ピーク[3]が見られる。これは PDMS 末端の OH 基に
TTE が結合していることを示唆している。25℃・168 時間後には Si-O-Ti 結合の変化はほとん
ど見られない。したがって、TTE 0.05mol のみは 25℃の雰囲気下では PDMS 同士の脱水縮重合
による高分子化に寄与しないことが確認された。
RIU [a.u.]
60℃ close 2h
25℃ RH50 48h
25℃ RH50 168h
1000000
100000
10000
molecular weight
1000
100
(a) 分子量分布の変化
60℃ close 2h
absorbance [a.u.]
25℃ RH50 48h
25℃ RH50 168h
1000
950
900
850
wave number [cm-1 ]
800
(b) 赤外吸収スペクトル変化
図 3-4 PDMS-TTE 系混合溶液の分子量分布(a)と赤外吸収スペクトル(b)の変化
次に、PDMS-TTE 系混合溶液を 60℃・2 時間撹拌後にシャーレに注ぎ入れ、25℃・RH50±10%
のボックスの中と 100℃および 150℃の恒温槽の中にそれぞれシャーレを入れ 336 時間後に測
定を行った結果である。図 3-5 より PDMS の高分子化には 150℃の加熱が必要であることが確認
された。
22
RIU [a.u.]
60℃ close 2h
25℃ RH50 336h
100℃ open 336h
150℃ open 336h
1000000
100000
10000
molecular weight
1000
100
(a) 分子量分布の変化
absorbance [a.u.]
60℃ close 2h
25℃ RH50 336h
100℃ open 336h
150℃ open 336h
1000
950
950
900
900
850
-1 ]
wavenumber
number [cm
[cm-1]
wave
800
(a) 赤外吸収スペクトル変化
図 3-5 PDMS-TTE 系混合溶液の分子量分布(a)と赤外吸収スペクトル(b)の変化
次に PDMS-TC-750 系混合溶液を温度 25℃、RH50±10%の雰囲気に保たれたボックス内にて
168 時間放置したときの分子量分布と赤外吸収スペクトルの変化を図 3-6 に示す。図 3-6(a)よ
り、25℃・168 時間後には PDMS に由来する分子量分布の変化は観測されなかった。図 3-6(b)
より、920cm-1 付近に Si-O-Ti 結合に起因する吸収ピークが見られる。これは PDMS 末端の OH
基に TC-750 が結合していることを示唆している。さらに 25℃・168 時間後には Si-O-Ti 結合
の変化はほとんど見られない。したがって、TTE 0.05mol のみと同様に TC-750 0.05mol のみは
25℃の雰囲気下では PDMS の高分子化に寄与しないことが確認された。
23
60℃ close 2h
RIU [a.u.]
25℃ RH50 168h
1000000
100000
10000
molecular weight
1000
100
(a) 分子量分布の変化
absorbance [a.u.]
60℃ close 2h
25℃ RH50 168h
1000
950
900
850
950
900
850
wave
wave number [cm-1]
[cm-1 ]
800
(b) 赤外吸収スペクトル変化
図 3-6 PDMS-TC-750 系混合溶液の分子量分布(a)と赤外吸収スペクトル(b)の変化
次にチタンアルコキシドに有機添加剤を加えた新規硬化剤が、PDMS の高分子化に与える影響
を検証した。表 3-2 に各種チタンアルコキシドと各種有機添加物の組み合わせ及び試料名を示
す。
表 3-2 チタンアルコキシドと有機添加物の組み合わせ及び試料名
organic
Ti alkoxide
試料名
molar ratio
additives
TTE
TTnB
TTiP
MA
MADb
EL
TAdE
CAtB
CAtE
MA
MA
PDMS-TTE-MA 系混合溶液
PDMS-TTE-MADb系混合溶液
PDMS-TTE-EL 系混合溶液
PDMS-TTE-TAdE 系混合溶液
PDMS-TTE-CAtB 系混合溶液
PDMS-TTE-CAtE 系混合溶液
PDMS-TTnB-MA 系混合溶液
PDMS-TTiP-MA 系混合溶液
1-0.05-0.05
1-0.05-0.05
1-0.05-0.05
1-0.05-0.05
1-0.05-0.05
1-0.05-0.05
1-0.05-0.05
1-0.05-0.05
PDMS-TTE-MA 系混合溶液を 60℃・2 時間撹拌後にシャーレに注ぎ、25℃・RH50±10%の雰囲気
下に 168 時間放置したときの分子量分布と赤外吸収スペクトルの変化を図 3-7 に示す。図
24
3-7(a)より、放置時間の増加に伴い PDMS が高分子化していることがわかる。図 3-7(b)より、
PDMS の高分子化に伴い 920cm-1 付近の Si-O-Ti 結合と PDMS の OH 基に起因する Si-OH 結合(850
~900 cm-1)の減少が確認された。
RIU [a.u.]
60℃ close 2h
25℃ RH50 48h
25℃ RH50 168h
1000000
100000
10000
molecular weight
1000
100
(a) 分子量分布の変化
absorbance [a.u.]
60℃ close 2h
25℃ RH50 48h
25℃ RH50 168h
1000
950
950
900
850
850
-1 ]
wave
number [cm
[cm-1]
wave number
800
(b) 赤外吸収スペクトル変化
図 3-7 PDMS-TTE-MA 系混合溶液の分子量分布(a)と赤外吸収スペクトル(b)の変化
PDMS-TTE-MADb 系混合溶液を 60℃・2 時間撹拌後にシャーレに注ぎ、25℃・RH50±10%の雰囲
気下で 168 時間放置したときの分子量分布と赤外吸収スペクトルの変化を図 3-8 に示す。図
3-8(a)より、放置時間の増加と伴に PDMS は大きく高分子化しているのがわかる。図 3-8(b)よ
り、PDMS の高分子化に伴い 920cm-1 付近の Si-O-Ti 結合と PDMS の OH 基に起因する Si-OH 結合
(850~900 cm-1)の減少が確認された。
PDMS-TTE-EL 系混合溶液を 60℃・2 時間撹拌後にシャーレに注ぎ、25℃・RH50±10%の雰囲気
下に 168 時間放置したときの分子量分布と赤外吸収スペクトルの変化を図 3-9 に示す。図
3-9(a)より、48 時間後に PDMS が高分子化しているのがわかる。図 3-9(b)より、PDMS の高分子
化に伴い 920cm-1 付近の Si-O-Ti 結合と PDMS の OH 基に起因する Si-OH 結合(850~900 cm-1)
の減少が確認された。
25
RIU [a.u.]
60℃ close 2h
25℃ RH50 48h
25℃ RH50 168h
1000000
100000
10000
molecular weight
1000
100
(a) 分子量分布の変化
absorbance [a.u.]
60℃ close 2h
25℃ RH50 48h
25℃ RH50 168h
1000
950
950
850
900
-1 ]
wave number
number [cm
[cm-1]
wave
800
(b) 赤外吸収スペクトル変化
図 3-8 PDMS-TTE-MADb 系混合溶液の分子量分布(a)と赤外吸収スペクトル(b)の変化
RIU [a.u.]
60℃ close 2h
25℃ RH50 48h
25℃ RH50 168h
1000000
100000
10000
molecular weight
1000
100
(a) 分子量分布の変化
図 3-9 PDMS-TTE-EL 系混合溶液の分子量分布(a)と赤外吸収スペクトル(b)の変化
26
absorbance [a.u.]
60℃ close 2h
25℃ RH50 48h
25℃ RH50 168h
1000
950
950
900
850
-1 ]
wave number
number [cm
[cm-1]
wave
800
(b) 赤外吸収スペクトルの変化
図 3-9 PDMS-TTE-EL 系混合溶液の分子量分布(a)と赤外吸収スペクトル(b)の変化(続き)
RIU [a.u.]
PDMS-TTE-TAdE 系混合溶液を 60℃・2 時間撹拌後にシャーレに注ぎ、25℃・RH50±10%の雰囲
気下で 336 時間放置したときの分子量分布と赤外吸収スペクトルの変化を図 3-10 に示す。図
3-10(a)より、放置時間の増加と伴に PDMS が高分子化していることがわかる。図 3-10(b)より、
PDMS の高分子化に伴い PDMS の OH 基に起因する Si-OH 結合(850~900 cm-1)の減少が確認さ
れた。
1000000
60℃ close 2h
25℃ RH50 48h
25℃ RH50 168h
25℃ RH50 336h
100000
10000
molecular weight
1000
100
(a) 分子量分布の変化
absorbance [a.u.]
60℃ close 2h
25℃ RH50 48h
25℃ RH50 168h
25℃ RH50 336h
1000
950
900
850
850
wave number [cm-1]
[cm-1 ]
800
(b) 赤外吸収スペクトルの変化
図 3-10 PDMS-TTE-TAdE 系混合溶液の分子量分布(a)と赤外吸収スペクトル(b)の変化
27
RIU [a.u.]
PDMS-TTE-CAtB 系混合溶液を 60℃・2 時間撹拌後にシャーレに注ぎ、25℃・RH50±10%の雰囲
気下で 336 時間放置したときの分子量分布と赤外吸収スペクトルの変化を図 3-11 に示す。図
3-11(a)より、放置時間が 336 時間までには PDMS は高分子化していない。
図 3-11(b)より、920cm-1
付近の Si-O-Ti 結合と PDMS の OH 基に起因する Si-OH 結合(850~900 cm-1)の変化は確認され
なかった。
1000000
60℃ close 2h
25℃ RH50 48h
25℃ RH50 168h
25℃ RH50 336h
100000
10000
molecular weight
1000
100
(a) 分子量分布の変化
absorbance [a.u.]
60℃ close 2h
25℃ RH50 48h
25℃ RH50 168h
25℃ RH50 336h
1000
950
950
900
850
900
-1 ]
number [cm
[cm-1]
wave number
800
(b) 赤外吸収スペクトルの変化
図 3-11 PDMS-TTE-CAtB 系混合溶液の分子量分布(a)と赤外吸収スペクトル(b)の変化
PDMS-TTE-CAtE 系混合溶液を 60℃・2 時間撹拌後にシャーレに注ぎ、25℃・RH50±10%の雰囲
気下で 336 時間放置したときの分子量分布と赤外吸収スペクトルの変化を図 3-12 に示す。
PDMS-TTE-CAtB 系混合溶液と同様に図 3-12(a)より、放置時間が 336 時間までには PDMS は高分
子化していない。図 3-12(b)より、920cm-1 付近の Si-O-Ti 結合と PDMS の OH 基に起因する Si-OH
結合(850~900 cm-1)の変化は確認されなかった。
次にチタンアルコキシドを TTnB に変えた、PDMS-TTnB-MA 系混合溶液を 60℃・2 時間撹拌後
にシャーレに注ぎ、25℃・RH50±10%の雰囲気下で 168 時間放置したときの分子量分布と赤外
吸収スペクトルの変化を図 3-13 に示す。図 3-13(a)より、放置時間の増加と伴に PDMS は大き
く高分子化しているのがわかる。図 3-13(b)より、PDMS の高分子化に伴い 920cm-1 付近の Si-O-Ti
結合と PDMS の OH 基に起因する Si-OH 結合(850~900 cm-1)の減少が確認された。
28
RIU [a.u.]
1000000
60℃ close 2h
25℃ RH50 48h
25℃ RH50 168h
25℃ RH50 336h
100000
10000
molecular weight
1000
100
(a) 分子量分布の変化
absorbance [a.u.]
60℃ close 2h
25℃ RH50 48h
25℃ RH50 168h
25℃ RH50 336h
1000
950
950
900
850
900
850
-1 ]
wave number
number [cm
[cm-1]
wave
800
(b) 赤外吸収スペクトルの変化
図 3-12 PDMS-TTE-CAtE 系混合溶液の分子量分布(a)と赤外吸収スペクトル(b)の変化
RIU [a.u.]
60℃ close 2h
25℃ RH50 48h
25℃ RH50 168h
1000000
100000
10000
molecular weight
1000
100
(a) 分子量分布の変化
図 3-13 PDMS-TTnB-MA 系混合溶液の分子量分布(a)と赤外吸収スペクトル(b)の変化
29
absorbance [a.u.]
60℃ close 2h
25℃ RH50 48h
25℃ RH50 168h
1000
950
950
900
850
900
850
-1 ]
number [cm
[cm-1]
wave number
800
(b) 赤外吸収スペクトルの変化
図 3-13 PDMS-TTnB-MA 系混合溶液の分子量分布(a)と赤外吸収スペクトル(b)の変化(続き)
またチタンアルコキシドに TTiP を用いた、PDMS-TTiP-MA 系混合溶液を 60℃・2 時間撹拌後
にシャーレに注ぎ、25℃・RH50±10%の雰囲気下で 168 時間放置したときの分子量分布と赤外
吸収スペクトルの変化を図 3-14 に示す。図 3-12(a)より、25℃・48 時間後には PDMS が大きく
高分子化しているのがわかる。図 3-12(b)より、PDMS の高分子化に伴い 920cm-1 付近の Si-O-Ti
結合と PDMS の OH 基に起因する Si-OH 結合(850~900 cm-1)の減少が確認された。
RIU [a.u.]
60℃ close 2h
25℃ RH50 48h
25℃ RH50 168h
1000000
100000
10000
molecular weight
1000
100
(a) 分子量分布の変化
60℃ close 2h
absorbance [a.u.]
25℃ RH50 48h
25℃ RH50 168h
1000
950
950
900
850
900
-1 ]
wavenumber
number[cm
[cm-1]
wave
800
(b) 赤外吸収スペクトルの変化
図 3-14 PDMS-TTiP-MA 系混合溶液の分子量分布(a)と赤外吸収スペクトル(b)の変化
30
比較として PDMS-Sn 系混合溶液も同様に、60℃・2 時間撹拌後にシャーレに展開し、25℃・
RH50±10%の雰囲気下で 168 時間放置したときの分子量分布と赤外吸収スペクトルの変化を測
定した。それらの結果を図 3-15 に示す。図 3-15(a)より、25℃・48 時間放置後には PDMS が高
分子化しているのがわかる。図 3-15(b)より、PDMS の高分子化に伴い 25℃・48 時間放置後に
は PDMS の OH 基に起因する Si-OH 結合(850~900 cm-1)の減少が確認された。
RIU [a.u.]
60℃ close 2h
25℃ RH50 48h
25℃ RH50 168h
1000000
100000
10000
molecular weight
1000
100
(a) 分子量分布の変化
60℃ close 2h
absorbance [a.u.]
25℃ RH50 48h
1000
25℃ RH50 168h
950
950
900
850
-1 ]
number [cm
[cm-1]
wave number
800
(b) 赤外吸収スペクトルの変化
図 3-15 PDMS-Sn 系混合溶液の分子量分布(a)と赤外吸収スペクトル(b)の変化
以上の結果より、PDMS に TTE 0.05mol、TC-750 を 0.05mol を添加しても、室温に置いて PDMS
の高分子化には寄与しなかった。一方、PDMS に TTE-MA、TTE-MADb、TTE-EL、TTE-TAdE、TTnB-MA、
TTiP-MA を添加したものは、室温で PDMS が高分子化している。同様に PDMS に Sn を添加したも
のも、室温で PDMS が高分子化している。よって、チタンアルコキシドのみやチタンキレート
化合物は室温で脱水縮重合反応をほとんど促進しないが、チタンアルコキシドに各種有機添加
物を添加することによって、室温で脱水縮重合反応を促進する作用を高めることができると結
論される。また、RTV の硬化剤として実績のある有機スズ化合物も室温で脱水縮重合反応を促
進する作用があることが確認された。
31
absorbance [a.u.]
3-2-4 チタンアルコキシドとヒドロキシ
チタンアルコキシドとヒドロキシカルボン酸エステルの配位について
ヒドロキシカルボン酸エステルの配位について
チタンアルコキシドと各種有機添加物の配位について検討した結果を以下に示す。チタンア
ルコキシドと各種有機添加物の mol 比は 1:1 である。チタンアルコキシドと各種有機添加物を
スクリュー管の中で 25℃で 30 分間撹拌した後に FT-IR 測定を行った。
配位状態の比較のため、
硬化剤の一種として市販されている、アセト酢酸エチル(EAcAc)が mole 比にて TTiP:EAcAc=1:2
で配位した TC-750 を用いた。
図 3-16 に TTiP、EAcAc、TC-750 の赤外吸収スペクトルを示す。図 3-16 において、EAcAc の
1730cm-1 付近の吸収ピークはカルボニル基(C=O)を表している[1]。TC-750 の 1500cm-1 付近と
1600cm-1 付近の吸収ピークは錯体の六員環による C-C 結合とチタンアルコキシドと結合する
C-O 結合をそれぞれ表している[2]。
2000
TTiP
EAcAc
TC750
1500
1730
1600
950
1600
900
850
1200
800
wave
wave number [cm-1]
[cm-1 ]
400
図 3-16 TTiP、EAcAc、TC-750 溶液の赤外吸収スペクトル
図 3-17 に TTE、MA、TTE-MA の赤外吸収スペクトルを示す。図 3-17 において、MA の 1730cm-1
付近の吸収ピークはカルボニル基(C=O)を表している。MA の 1730cm-1 付近の吸収ピークが
TTE-MA では吸収ピークが 2 つに分裂していることが観測された。図 3-18、3-19、3-20、3-21、
3-22 に TTE、各種有機添加物(MADb、EL、TAdE、CAtB、CAtE)
、TTE-各種有機添加物溶液の赤
外吸収スペクトルをそれぞれ示す。図 3-18~22 より、すべての有機添加物において 1730cm-1
付近の吸収ピークが存在し、TTE と有機添加物の混合溶液において 1730cm-1 付近の吸収ピーク
が 2 つに分裂していることが観測された。またチタンアルコキシドを TTE から TTnB と TTiP に
変えた場合の赤外吸収スペクトルを図 3-23、3-24 にそれぞれ示す。図 3-23、3-24 より、図 3-17
と同様に TTnB-MA 溶液及び TTiP-MA 溶液の場合も MA 溶液の 1730cm-1 付近の吸収ピークが 2 つ
に分裂していることが観測された。これらことから、MA に2つ含まれているカルボニル基はい
ずれも残存しているが、その内1つの結合状態が変化したことで、赤外吸収スペクトルがシフ
トしたと考えられ、これは MA がカルボニル基近傍の OH 基を介して TTE に配位していることに
よって生じたと推測される。
32
absorbance [a.u.]
TTE
MA
TTE-MA
1730
2000
1600
950
1200
800
900
850
wave
wavenumber
number[cm-1]
[cm-1 ]
400
図 3-17 TTE、MA、TTE-MA 溶液の赤外吸収スペクトル
absorbance [a.u.]
TTE
MADb
TTE-MADb
1730
2000
1600
950
1200
800
900
850
-1 ]
wave number
number [cm
[cm-1]
wave
400
図 3-18 TTE、MADb、TTE-MADb 溶液の赤外吸収スペクトル
absorbance [a.u.]
TTE
EL
TTE-EL
1730
2000
1600
950
1200
800
900
850
-1 ]
wave number
number [cm
[cm-1]
400
図 3-19 TTE、EL、TTE-EL 溶液の赤外吸収スペクトル
33
TTE
absorbance [a.u.]
TAdE
TTE-TAdE
1730
2000
1600
950
1200
800
900
850
wavenumber
number[cm
[cm-1]
-1 ]
wave
400
absorbance [a.u.]
図 3-20 TTE、TAdE、TTE-TAdE 溶液の赤外吸収スペクトル
2000
TTE
CAtB
TTE-CAtB
1730
950
1600
900
850
1200
800
-1 ]
wave number
number [cm
[cm-1]
wave
400
absorbance [a.u.]
図 3-21 TTE、CAtB、TTE-CAtB 溶液の赤外吸収スペクトル
2000
TTE
CAtE
TTE-CAtE
1730
950
1600
900
850
1200
800
wave
wave number [cm-1]
[cm-1 ]
400
図 3-22 TTE、CAtE、TTE-CAtE 溶液の赤外吸収スペクトル
34
absorbance [a.u.]
2000
TTnB
MA
TTnB-MA
1730
950
1600
900
850
1200
800
-1 ]
wave number
number [cm
[cm-1]
400
absorbance [a.u.]
図 3-23 TTnB、MA、TTnB-MA 溶液の赤外吸収スペクトル
2000
TTiP
MA
TTiP-MA
1730
950
1600
900
850
1200
800
-1 ]
number [cm
[cm-1]
wave number
400
図 3-24 TTiP、MA、TTiP-MA 溶液の赤外吸収スペクトル
35
3-3 硬化体に対する一座配位系硬化剤の効果
3-3-1 本節の目的
本節では前節で評価した新規硬化剤を用いて RTV シリコーン硬化体を作製する。その硬化体
の機械的特性と耐熱性の評価を行うことで、従来硬化剤に対する優位性を示すことを目的とす
る。
3-3-2 主剤と架橋剤との反応に対する各種硬化剤の
主剤と架橋剤との反応に対する各種硬化剤の寄与
各種硬化剤の寄与について
寄与について
前節では、PDMS 同士の脱水縮重合反応により硬化反応を模擬した。ここでは、主剤として
PDMS、架橋剤としてシリコンアルコキシドを用いて、主剤と架橋剤との反応への硬化剤の寄与
について検討した。その結果を以下に示す。
本節で用いた材料は、主剤として PDMS の中に含まれる低分子成分を取り除くために 200℃の
恒温槽(DRX420DA ADVANTEC㈱)で 10 分間精製した平均分子量 1,000 の両末端 OH 変性 PDMS
(X-21-5841、信越シリコーン㈱)
、架橋剤として TEOS、硬化剤として TTE、有機添加物として
は、MA をそれぞれ用いた。また従来硬化剤として Sn と TC-750 を用いた。
評価試料は、乾燥雰囲気下で、所定量の硬化剤を PDMS とシリコンアルコキシドの混合溶液
に加えて、40℃で撹拌して作製した。TTE と MA からなる硬化剤(モル比 1:1)は乾燥窒素雰囲
気下にて、TTE と MA を 25℃で 30 分間撹拌して作製した。PDMS-TEOS-硬化剤の混合溶液の mole
比は 1-1-0.05 mol である。ただし、硬化剤として Sn を用いたものは PDMS-TEOS-Sn 1-1-0.016
mol と 1-1-0.008mol の 2 種類を評価した。PDMS と TEOS の反応を検討する方法として GPC と
FT-IR を用いて、所定の時間撹拌した溶液を測定した。
PDMS-TEOS-Sn 系混合溶液 1-1-0.016 mol と 1-1-0.008mol の分子量分布と赤外吸収スペクト
ルの変化を図 3-25 と図 3-26 にそれぞれ示す。図 3-25(a)、3-26(a)の分子量: 1,000 付近のピ
ークと分子量: 200 付近のピークはそれぞれ PDMS と TEOS に起因する。図 3-25(a)、3-26(a)よ
り撹拌時間の増加に伴い TEOS のピークが減少し、PDMS のピークが高分子側にシフトしている
のが確認された。また図 3-25(b)、3-26(b)より PDMS の Si-OH 基に起因する Si-OH 結合(850
~900cm-1)の減少が確認された。この結果は、PDMS の末端に TEOS が反応し高分子化が進んで
いることを示唆している。また Sn の添加量の増加に伴って PDMS と TEOS の反応速度も速くな
っている。
RIU [a.u.]
40℃ close 1h
40℃ close 24h
100000
10000
1000
molecular weight
100
(a) 分子量分布の変化
図 3-25 PDMS-TEOS-Sn 系混合溶液(1-1-0.016 mol)の分子量分布(a)
と赤外吸収スペクトル(b)の変化
36
absorbance [a.u.]
40℃ close 1h
1000
40℃ close 24h
950
950
900
850
900
850
wave
wave number [cm-1]
[cm-1 ]
800
RIU [a.u.]
(b) 赤外吸収スペクトルの変化
図 3-25 PDMS-TEOS-Sn 系混合溶液(1-1-0.016 mol)の分子量分布(a)
と赤外吸収スペクトル(b)の変化(続き)
1000000
40℃ close 24h
40℃ close 48h
40℃ close 72h
40℃ close 96h
40℃ close 120h
100000
10000
molecular weight
1000
100
(a) 分子量分布の変化
absorbance [a.u.]
40℃ close 24h
40℃ close 48h
40℃ close 72h
40℃ close 96h
40℃ close 120h
1000
950
850
900
850
wave
wave number
number [cm-1]
[cm-1 ]
800
(b) 赤外吸収スペクトルの変化
図 3-26 PDMS-TEOS-Sn 系混合溶液(1-1-0.008 mol)の分子量分布(a)
と赤外吸収スペクトル(b)の変化
37
次に PDMS-TEOS-TTE-MA 系混合溶液、PDMS-TEOS-TTE 系混合溶液、PDMS-TEOS-TC-750 系混合
溶液の分子量分布と赤外吸収スペクトルの変化を図 3-27 と図 3-28 及び図 3-29 にそれぞれ示
す。図 3-27、図 3-28 及び図 3-29 より、硬化剤の違いによって PDMS と TEOS の反応速度が異な
っているのがわかる。チタンアルコキシドも加水分解により生成された水和物が硬化剤として
作用することが考えられている[4]ことからも、チタンアルコキシドの加水分解性の違いによ
るものであると思われる。TTE-MA と TTE を用いた混合溶液は 72 時間後には TEOS のピークと
Si-O-Ti 結合(920cm-1)の吸収ピークがほとんど存在していないが、TC-750 を用いた混合溶液
は 96 時間後までは TEOS と Si-O-Ti 結合のピークは存在し、120 時間後にほとんど消滅してい
ることがわかる。
RIU [a.u.]
40℃ close 2h
40℃ close 48h
40℃ close 72h
40℃ close 96h
40℃ close 168h
1000000
100000
10000
molecular weight
1000
100
(a) 分子量分布の変化
absorbance [a.u.]
40℃ close 2h
40℃ close 48h
40℃ close 72h
40℃ close 96h
40℃ close 168h
1000
950
950
900
850
850
-1 ]
wave number
number [cm
[cm-1]
800
(b) 赤外吸収スペクトルの変化
図 3-27 PDMS-TEOS-TTE-MA 系混合溶液の分子量分布(a)と赤外吸収スペクトル(b)の変化
38
RIU [a.u.]
40℃ close 2h
40℃ close 48h
40℃ close 72h
40℃ close 96h
40℃ close 168h
1000000
100000
10000
molecular weight
1000
100
(a) 分子量分布の変化
absorbance [a.u.]
40℃ close 2h
40℃ close 48h
40℃ close 72h
40℃ close 96h
40℃ close 168h
1000
950
900
850
850
-1 ]
wave number
number [cm
[cm-1]
800
RIU [a.u.]
(b) 赤外吸収スペクトルの変化
図 3-28 PDMS-TEOS-TTE 系混合溶液の分子量分布(a)と赤外吸収スペクトル(b)の変化
1000000
40℃ close 2h
40℃ close 72h
40℃ close 96h
40℃ close 120h
40℃ close 144h
40℃ close 168h
100000
10000
molecular weight
1000
100
(a) 分子量分布の変化
(b) 図 3-29 PDMS-TEOS-TC-750 系混合溶液の分子量分布(a)と赤外吸収スペクトル(b)の変化
39
absorbance [a.u.]
40℃ close 2h
40℃ close 72h
40℃ close 96h
40℃ close 120h
40℃ close 144h
40℃ close 168h
1000
950
900
850
-1 ]
wave number
number [cm
[cm-1]
800
(c) 赤外吸収スペクトルの変化
図 3-29 PDMS-TEOS-TC-750 系混合溶液の分子量分布(a)と赤外吸収スペクトル(b)の変化(続
き)
以上より TTE-MA、TTE、Sn のいずれの硬化剤を用いた場合でも、主剤と架橋剤とが反応する
ことが分かった。PDMS 同士の反応には寄与しなかった TTE が、今回は反応に寄与した理由とし
ては、モノマーであるため高い反応性を有する TEOS を用いたことが一因として考えられる。
これらのことから、いずれの硬化剤を用いても RTV シリコーン硬化体が作製可能であることが
示唆された。3-3-3 節以下に、これらの硬化剤を用いた RTV シリコーン硬化体を評価した結果
を示す。
3-3-3 本実験に用いた材料及び試料作製方法
本実験に用いた材料は、主剤として PDMS の中に含まれる低分子成分を取り除くために 200℃
の恒温槽(DRX420DA ADVANTEC㈱)で 10 分間精製した平均分子量 1,000 の両末端 OH 変性 PDMS
(X-21-5841、信越シリコーン㈱)、架橋剤としてシリコンアルコキシドの一種である、テトラ
エトキシシラン(Tetraetoxysilane: TEOS、関東化学㈱)もしくはテトラメトキシシラン
(Tetramethoxysilane: TMOS、信越シリコーン㈱)、硬化剤としチタンアルコキシドの一種で
あるチタニウムテトラエトキシド(Tetraethoxytitanium: TTE、メルク㈱)、有機添加物とし
ては、DL-リンゴ酸ジエチルエステル(DL-malicacid diethyl ester: MA、東京化成㈱)、DLリンゴ酸ジブチルエステル(DL-malicacid dibutyl ester: MADb、東京化成㈱)、乳酸エチル
(Ethyl lactate- EL、東京化成㈱)、酒石酸エチル(L-(+)-diethyl tartarate: TAdE、東京
化成㈱)、クエン酸トリブチル(Tributyl citrate: CAtB、東京化成㈱)
、クエン酸トリエチル
(Triethyl citrate: CAtE、東京化成㈱)をそれぞれ用いた。また有機添加物の比較物質とし
チタンアルコキシドと錯体を形成するアセト酢酸エチル(Ethyl Acetoacetate: EAcAc、関東
化学㈱)を比較として用いた。従来硬化剤として有機スズ化合物のジラウリン酸ジブチル錫
(Dibutyltin Dilaurate: Sn、東京化成㈱)を用いた。表 3-3 にこれらの材料および略称を示
す。
40
表 3-3 用いた材料とその略称
主剤
架橋剤
硬化剤
有機添加物
従来硬化剤
材料名
PDMS(平均分子量1,000)
テトラエトキシシラン
テトラメトキシシラン
チタニウムテトラエトキシド
DL-リンゴ酸ジエチルエステル
DL-リンゴ酸ジブチルエステル
乳酸エチル
酒石酸エチル
クエン酸トリブチル
クエン酸トリエチル
ジラウリン酸ジブチルスズ
TTE+アセト酢酸エチル
略称
PDMS
TEOS
TMOS
TTE
MA
MADb
EL
TAdE
CAtB
CAtE
Sn
TTE-EAcAc
試料作製方法は図 3-30 に示すように、TTE と有機添加物を乾燥窒素雰囲気下にて 25℃で 30
分間撹拌後、PDMS とシリコンアルコキシドの溶液の中に添加した。この混合溶液を乾燥窒素雰
囲気下にて 40℃で撹拌を行った。混合溶液については、GPC および FT-IR 測定により、シリコ
ンアルコキシドの分子量ピークと Si-O-Ti 結合の吸収ピークの消滅を確認後、シャーレに注ぎ
入れる。これは PDMS 末端の OH 基と Si アルコキシドが反応したことを確認するためである。
シャーレに注ぎ入れた後、25℃・RH50±10%の雰囲気下で 7 日または 14 日間放置して硬化体を
得た。
PDMS、Si alkoxide
TTE+organic additives
(TTEとMAは25℃で30分間撹拌)
PDMS+Si alkoxide+(TTE+organic additives)系混合溶液
40℃で撹拌
GPC測定によるSi alkoxideの分子量ピークとFT-IR測定によるSi-O-Ti結合
の吸収ピークが消滅したのを確認後、シャーレに展開
25℃・RH50%±10%の雰囲気下で7日または14日間放置して硬化体を得た
図 3-30 試料作製方法
41
3-3-4 各硬化体の機械的特性
DL-リンゴ酸ジエチルエステル(MA)を有機添加剤として用いた硬化体の機械的特性評価を
行った。評価試料は PDMS-TEOS-TTE-MA 1-1-0.05-0.05 mol 系硬化体(TTE-MA 系硬化体)を作
製した。比較として、チタンアルコキシド系硬化剤を用いた PDMS-TEOS-TTE 1-1-0.05mol 系硬
化体(TTE 系硬化体)
、TTE にアセト酢酸エチルを配位させたチタンキレート系硬化剤を用いた
PDMS-TEOS-TTE-EAcAc 1-1-0.05-0.05mol 系硬化体(TTE-EAcAc 系硬化体)をそれぞれ作製した。
各硬化体は、25℃・RH50±10%の雰囲気下で 7 日間放置して得られたものである。各硬化体の
機械的特性を図 3-31 に示す。図 3-31 より、TTE-MA 系硬化体は、TTE 系硬化体及び TTE-EAcAc
系硬化体に比べて、弾性率及び破断点強度が高く、破断点伸び率は同等である。これは、TTE-MA
系硬化体が他の硬化体と比べて、架橋密度が高く、機械的な欠陥が少ないことを示唆している。
elastic modulus [MPa]
5.0
4.0
3.0
2.0
TTE
TTE-EAcAc
1.0
TTE-MA
0.0
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
0.5
0.4
0.3
0.2
TTE
0.1
TTE-EAcAc
TTE-MA
0.0
(b) 破断点強度
図 3-31 各硬化体の機械的特性
42
elongation at break [%]
20
15
10
TTE
5
TTE-EAcAc
TTE-MA
0
(c) 破断点伸び率
図 3-31 各硬化体の機械的特性(続き)
次に、各種有機添加物を用いた硬化体の機械的特性評価を行った。用いた有機添加物は DLリンゴ酸ジブチルエステル(MADb)、乳酸エチル(EL)、酒石酸エチル(TAdE)、クエン酸トリ
ブチル(CAtB)
、クエン酸トリエチル(CAtE)である。硬化体はすべて PDMS-TEOS-TTE-organic
additives(1-1-0.05-0.05 mol)で作製した。この配合割合で有機添加物として、MADb、EL、
TAdE、CAtB、CAtE を加えたものを、それぞれ MADb 系硬化体、EL 系硬化体、TAdE 系硬化体、CAtB
系硬化体、CAtE 系硬化体とする。比較として PDMS-TEOS-TTE 系硬化体(ref 系硬化体)を作製
した。
各硬化体は 25℃・RH50±10%の雰囲気下で 7 日間と 14 日間放置して得られたものである。
7 日間と 14 日間硬化させた各硬化体の機械的特性を図 3-32 と図 3-33 にそれぞれ示す。図 3-32
と図 3-33 より、各種有機添加物を加えて作製した硬化体は、有機添加物を加えずに作製した
ref 系硬化体よりも高い破断点強度及び弾性率を有していた。また、有機添加物として MADb
を用いて作製した硬化体は、他種の有機添加物を用いて作製した硬化体よりも高い弾性率及び
破断点強度を有していた。図 3-32 と図 3-33 を比較すると、14 日放置して作製した硬化体は、
7 日放置したものと比べて同等以上の破断点強度及び弾性率を有していた。これは、7 日間の
硬化では硬化反応が完全に進行していないためと考えられる。
図 3-31、図 3-32 及び図 3-33 より、特に架橋密度の高い硬化体を作製できるヒドロキシカル
ボン酸エステルとして、DL-リンゴ酸ジエチルエステル(MA)、DL-リンゴ酸ジブチルエステル
(MADb)およびクエン酸トリエチル(CAtE)が挙げられる。
43
elastic modulus [MPa]
4.0
3.0
2.0
1.0
ref
EL
CAtB
0.0
MADb
TAdE
CAtE
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
ref
EL
CAtB
0.0
MADb
TAdE
CAtE
(b) 破断点強度
elongation at break [MPa]
20
15
10
5
ref
EL
CAtB
MADb
TAdE
CAtE
0
(c) 破断点伸び率
図 3-32 各硬化体の機械的特性(硬化日数:7 日間)
44
elastic modulus [MPa]
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
ref
EL
CAtB
0.0
MADb
TAdE
CAtE
(a) 弾性率
0.6
stress at break [MPa]
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
ref
EL
CAtB
MADb
TAdE
CAtE
ref
EL
CAtB
MADb
TAdE
CAtE
(b) 破断点強度
elongation at break [MPa]
20
15
10
5
0
(c) 破断点伸び率
図 3-33 各硬化体の機械的特性(硬化日数:14 日間)
次に TTE と MA を mol 比で 1:1 の割合で混合した硬化剤の量を変化させた場合の、各硬化体
の機械的特性評価を行った。作製した試料は PDMS-TEOS-TTE-MA 系硬化体(TEOS-TTE-MA 系硬化
体)と PDMS-TMOS-TTE-MA 系硬化体(TMOS-TTE-MA 系硬化体)である。比較として、チタンアル
コキシド系硬化剤として TTE を用いた PDMS-TEOS-TTE 系硬化体(TEOS-TTE 系硬化体)と
PDMS-TMOS-TTE 系硬化体(TMOS-TTE 系硬化体)を作製した。このとき、PDMS-TEOS または
PDMS-TMOS の mol 比はすべて 1:1 である。
45
図 3-34、図 3-35、図 3-36 及び 3-37 に TEOS-TTE-MA 系硬化体、TEOS-TTE 系硬化体、TMOS-TTE-MA
系硬化体、TMOS-TTE 系硬化体のそれぞれの機械的特性を示す。各図の横軸は TEOS(1mol)も
しくは TMOS(1mol)に対する TTE と MA の添加量もしくは TTE の添加量を表している。図 3-34
と図 3-35 より TEOS-TTE-MA 系硬化体は TEOS-TTE 系硬化体よりも高い弾性率及び破断点強度を
有していることがわかる。また図 3-29 より、TEOS-TTE-MA 系硬化体を 14 日間放置した試料は
TTE-MA の mol 比によらず、ほぼ一定の弾性率となっている。図 3-35 より TEOS-TTE 系硬化体は
TTE の mol 比の増加に伴って、弾性率及び破断点強度が僅かに増加している。
elastic modulus [MPa]
5.0
4.0
3.0
2.0
RH50 7d
1.0
RH50 14d
0.0
0
0.025
0.05
0.075
0.1
molar ratio of (TTE-MA) to TEOS
0.125
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
0.6
RH50 7d
RH50 14d
0.4
0.2
0.0
0
0.025
0.05
0.075
0.1
molar ratio of (TTE-MA) to TEOS
0.125
(b) 破断点強度
elongation at break [%]
20
15
10
5
RH50 7d
RH50 14d
0
0
0.025
0.05
0.075
0.1
molar ratio of (TTE-MA) to TEOS
0.125
(c) 破断点伸び率
図 3-34 TEOS-TTE-MA 系硬化体の機械的特性
46
elastic modulus [MPa]
4.0
3.0
2.0
1.0
RH50 7d
RH50 14d
0.0
0
0.05
0.1
0.15
0.2
molar ratio of TTE to TEOS
0.25
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
0.5
0.4
0.3
0.2
RH50 7d
0.1
RH50 14d
0.0
0
0.05
0.1
0.15
0.2
molar ratio of TTE to TEOS
0.25
(b) 破断点強度
elongation at break [%]
20
15
10
5
RH50 7d
RH50 14d
0
0
0.05
0.1
0.15
0.2
molar ratio of TTE to TEOS
0.25
(c) 破断点伸び率
図 3-35 TEOS-TTE 系硬化体の機械的特性
図 3-36 と図 3-37 に示す TMOS 系硬化体の機械的特性において、TMOS-TTE-MA 系硬化体は
TMOS-TTE 系硬化体よりも高い弾性率及び破断点強度を有していることがわかる。また図 3-36
より TTE-MA(0.01-0.01mol)では弾性率、破断点強度ともに低く、TTE-MA(0.05-0.05mol)と
TTE-MA(0.025-0.025mol)とでは、同等の機械的特性であることがわかる。図 3-34 と図 3-36 よ
り、TMOS に TTE-MA を 0.025mol ずつ加えた試料の方が TEOS に同量の TTE-MA を加えたものより、
47
高い破断点強度及び弾性率を有している。これは TMOS 系硬化体の方が TEOS 系硬化体よりも架
橋密度が高いことを示唆している。また図 3-37 より、TTE の mol 比を 0.025mol から 0.08mol
に増加させると、弾性率、破断点強度ともに増加していることがわかる。
elastic modulus [MPa]
6.0
5.0
4.0
3.0
2.0
RH50 7d
1.0
RH50 14d
0.0
0
0.01
0.02
0.03
0.04
0.05
molar ratio of (TTE-MA) to TMOS
0.06
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
0.8
RH50 7d
0.6
RH50 14d
0.4
0.2
0.0
0
0.01 0.02
0.03
0.04
0.05
molar ratio of (TTE-MA) to TMOS
0.06
(b) 破断点強度
elongation at break [%]
20
RH50 7d
RH50 14d
15
10
5
0
0
0.01
0.02
0.03
0.04
0.05
molar ratio of (TTE-MA) to TMOS
0.06
(c) 破断点伸び率
図 3-36 TMOS-TTE-MA 系硬化体の機械的特性
48
elastic modulus [MPa]
4.0
3.0
2.0
RH50 7d
1.0
RH50 14d
0.0
0
0.02
0.04
0.06
0.08
molar ratio of TTE to TMOS
0.1
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
0.5
RH50 7d
0.4
RH50 14d
0.3
0.2
0.1
0.0
0
0.02
0.04
0.06
0.08
molar ratio of TTE to TMOS
0.1
(b) 破断点強度
elongation at break [%]
20
RH50 7d
15
RH50 14d
10
5
0
0
0.02
0.04
0.06
0.08
molar ratio of TTE to TMOS
0.1
(c) 破断点伸び率
図 3-37 TMOS-TTE 系硬化体の機械的特性
図 3-38 に TMOS-Sn 系硬化体の機械的特性を示す。硬化体は TMOS-Sn 系混合溶液を 40℃にて
24 時間撹拌後にシャーレに注ぎ入れ、7日間あるいは 14 日間の放置後に得られたものである。
添加した Sn の量は PDMS1mol に対して 0.01mol の割合である。図 3-38 より、14 日間の硬化体
が 7 日間硬化より僅かに弾性率が増加している。図 3-36 に示した TMOS-TTE-MA 系硬化体、図
3-37 に示した TMOS-TTE 系硬化体及び図 3-38 に示した TMOS-Sn 系硬化体の機械的特性を比較す
49
ると、TMOS-Sn 系硬化体は最も弾性率が高く、高い架橋密度を有していることが示唆される。
elastic modulus [MPa]
8.0
6.0
4.0
RH50 7d
2.0
RH50 14d
0.0
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
0.5
0.4
0.3
0.2
RH50 7d
0.1
RH50 14d
0.0
(b) 破断点強度
elongation at break [%]
20
RH50 7d
15
RH50 14d
10
5
0
(c) 破断点伸び率
図 3-38 TMOS-Sn 系硬化体の機械的特性
50
3-3-5 各硬化体の開放乾燥高温下での重量減少
TEOS-TTE-MA 系硬化体、TMOS-TTE-MA 系硬化体、TEOS-TTE 系硬化体、TMOS-TTE 系硬化体、
TEOS-TTE-EAcAc 系硬化体から 10mm×10mm(厚さ約 1.5mm)
にそれぞれ切り出した試験片を 100℃
と 200℃に保持された恒温槽(ETAS OFW-300、AS ONE㈱)に 20 日間(480 時間)保持した場合
の重量変化を図 3-39、図 3-40 及び 3-41 にそれぞれ示す。図 3-39 と図 3-40 より、TEOS-TTE-MA
系硬化体及び TMOS-TTE-MA 系硬化体において TTE-MA 添加量が増加すると重量減少率が増加し
ている。図 3-41 より、TEOS-TTE 系硬化体、TMOS-TTE 系硬化体及び TEOS-TTE-EAcAc 系硬化体
においても同様に、TTE の添加量が増加すると重量減少が増加している。図 3-34 と図 3-36 よ
り、TEOS-TTE-MA 系硬化体と TMOS-TTE-MA 系硬化体は TTE-MA の添加量を少なくしても、
TMOS-TTE-MA 1-0.01-0.01 系硬化体を除き、機械的特性に大きな差は無く、TTE 系硬化体や
TTE-EAcAc 系硬化体より弾性率および破断点強度が高い。よって、TTE と MA からなる硬化剤を
適量添加すると、耐熱性を損なうことなく、高い架橋密度を有する硬化体を得ることができる
と考えられる。
100
residual weight [%]
90
80
70
60
50
40
TEOS-TTE-MA 1-0.025-0.025
TEOS-TTE-MA 1-0.05-0.05
TEOS-TTE-MA 1-0.1-0.1
30
20
0
100
200
300
400
aging time at 100℃ [h]
500
(a) 保持温度:100℃
100
residual weight [%]
90
80
70
60
50
40
TEOS-TTE-MA 1-0.025-0.025
TEOS-TTE-MA 1-0.05-0.05
TEOS-TTE-MA 1-0.1-0.1
30
20
0
100
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
(b) 保持温度:200℃
図 3-39 TEOS-TTE-MA 系硬化体の開放乾燥高温下での重量変化
51
residual weight [%]
100
98
96
94
TMOS-TTE-MA 1-0.01-0.01
TMOS-TTE-MA 1-0.025-0.025
TMOS-TTE-MA 1-0.05-0.05
92
90
0
100
200
300
400
aging time at 100℃ [h]
500
(a) 保持温度:100℃
residual weight [%]
100
90
80
70
TMOS-E-MA 1-0.01-0.01
TMOS-TTE-MA 1-0.025-0.025
TMOS-TTE-MA 1-0.05-0.05
60
50
0
100
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
(b) 保持温度:200℃
図 3-40 TEOS-TTE-MA 系硬化体の開放乾燥高温下での重量変化
residual weight [%]
100
98
96
94
TMOS-TTE 1-0.025
TMOS-TTE 1-0.08
TEOS-TTE 1-0.05
TEOS-TTE 1-0.1
TEOS-TTE-EAcAc 1-0.05-0.05
92
90
0
100
200
300
400
aging time at 100℃ [h]
500
(a) 保持温度:100℃
図 3-41 TEOS-TTE 系硬化体、TMOS-TTE 系硬化体及び TEOS-TTE-EAcAc 系硬化体の開放乾燥高
温下での重量変化
52
residual weight [%]
100
90
80
70
TMOS-TTE 1-0.025
TMOS-TTE 1-0.08
TEOS-TTE 1-0.1
TEOS-TTE-EAcAc 1-0.05-0.05
60
50
0
100
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
(b) 保持温度:200℃
図 3-41 TEOS-TTE 系硬化体、TMOS-TTE 系硬化体及び TEOS-TTE-EAcAc 系硬化体の開放乾燥高
温下での重量変化(続き)
次に、TMOS-TTE 系硬化体、TMOS-TTE-MA 系硬化体、TMOS-Sn 系硬化体から 10mm×10mm(厚さ
約 1.5mm)にそれぞれ切り出した試験片を 100℃と 200℃に保持された恒温槽に 20 日間(480 時
間)保持した場合の重量変化を図 3-42 に示す。TMOS-TTE-MA 系硬化体は、TTE と MA の添加量
が増えると、100℃、200℃ともに重量減少率が大きくなっている。TMOS-TTE 系硬化体について
は、100℃では添加量による重量減少率に差はないが、200℃では添加量の増加にともない重量
減少率が大きくなっている。一方、図 3-42 より、TMOS-Sn 系硬化体は 100℃、200℃ともに高
い耐熱性を示している。これは硬化に作用したスズ水和物が、不活性なスズ酸化物に変化して
いるためと考えられる[5]、[6]。チタンアルコキシドについては、線状のポリジアルキルシロ
キサンは 1 級と 2 級のアルキルラジカルを持つアルキルオルソチタネートと共に加熱されるこ
とでシロキサン結合が開裂され、その反応は Si 原子に結合しているラジカルの構造、分子量、
末端基の種類とは無関係であると報告されている[7]。開放乾燥高温下の試験、特に 150℃と
200℃保持の結果より、TTE がシロキサン結合の開裂を引き起こしていることが示唆され、添加
量の増加に伴い重量減少が増加していると考えられる。
3-2 節で示したように、TTE-MA は室温でも PDMS の高分子化に寄与することから、とても活
性である。そのため、硬化体の中に TTE-MA の添加量が多いものほど、耐熱性に悪い影響を与
えたと考えられる。一方、TTE のみでは 100℃では PDMS が高分子化せず反応性が乏しいことか
ら、TTE の添加量による重量減少率の差がなかったと示唆される。しかし、200℃では TTE が活
性な状態になるため、添加量の増加に伴って重量減少率は大きくなっていると考えられる。
53
residual weight [%]
100
98
96
TTE-MA 0.01-0.01
TTE-MA 0.025-0.025
TTE-MA 0.05-0.05
TTE 0.025
TTE 0.08
Sn 0.01
94
92
90
0
100
200
300
400
aging time at 100℃ [h]
500
(a) 保持温度:100℃
residual weight [%]
100
90
80
TTE-MA 0.01-0.01
TTE-MA 0.025-0.025
TTE-MA 0.05-0.05
TTE 0.025
TTE 0.08
Sn 0.01
70
60
50
0
100
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
(b) 保持温度:200℃
図 3-42 TMOS-TTE-MA 系硬化体、TMOS-TTE 系硬化体及び TMOS-Sn 系硬化体の開放乾燥高温下
での重量変化
3-3-6 各硬化体の密封高温
各硬化体の密封高温高湿下での重量減少
高温高湿下での重量減少
TMOS-TTE 系硬化体(TTE 0.025, 0.08mol)、TMOS-TTE-MA 系硬化体(TTE-MA 0.025-0.025mol)
、
TMOS-Sn 系硬化体(Sn 0.01mol)から 10mm×10mm(厚さ約 1.5mm)にそれぞれ切り出した試験
片を高温高湿試験に供した場合の重量変化を図 3-43 に示す。図 3-43 より TMOS-TTE 系硬化体
及び TMOS-TTE-MA 系硬化体は重量減少率がすべて 10%以内であるが、TMOS-Sn 系硬化体は 20%
以上の重量減少率を示している。
54
weight loss [%]
30
25
20
15
10
5
0
TTE
0 .02
5
02 5
0 .08
5 -0.
2
TTE
0
.
0
-M A
TTE
.01
Sn 0
図 3-43 TMOS-TTE-MA 系硬化体、TMOS-TTE 系硬化体及び
TMOS-Sn 系硬化体の密封高湿高温下での重量変化
これは図 3-42 で示した開放乾燥高温下での試験結果とは対照的である。このような開放乾
燥高温下と密封高温高湿下での重量減少率の違いは、硬化剤に用いた有機スズ化合物とチタン
アルコキシドの影響であると考えられる。有機スズ化合物は加水分解されて活性なスズ水和物
となり硬化に作用し[8]、硬化後はスズ水和物の多くが不活性な錫酸化物に変化すると報告さ
れている[5]。このことから、開放乾燥高温下において有機スズ化合物は不活性な錫酸化物に
変化したため重量減少にほとんど影響しなかったと考えられる。しかしながら、密封高温高湿
下においては活性なスズ水和物の状態で存在したために TMOS-Sn 系硬化体は逆硬化反応により
著しい重量減少を示したと考えられる。図 3-44 に TMOS-Sn 系硬化体の高温高湿試験前後の赤
外吸収スペクトルの変化を示す。図 3-44 より、1090cm-1 付近の Si-O-Si 結合[1]に起因するピ
ークが試験後にはブロードになっている。また 850cm-1 付近と 440cm-1 付近のピーク強度が増加
している。これは Mackenzie らにより報告されている、ジメチルジエトキシシラン(DEDMS)
と TEOS が共重合体を形成したときに観測されるピーク[9]とほぼ一致している。このことから、
850cm-1 付近と 440cm-1 付近のピーク強度の増加は、PDMS の Si-O-Si が開裂したときに生成され
た分子量の小さい PDMS と TEOS との結合を示していると考えられる。したがって、高温高湿試
験における TMOS-Sn 系硬化体の重量減少はスズ水和物による PDMS の主鎖の分解に起因するも
のであると結論される。
absorbance [a.u.]
Sn 0.01 before
water aged
Sn 0.01 after
water aged
1400
950
900
1200
1000
800 850 600
-1 ]
wave number
number [cm
[cm-1]
wave
400
図 3-44 密封高湿高温試験前後における TMOS-Sn 系硬化体の
赤外吸収スペクトルの変化
55
有機スズ化合物の酸素雰囲気下での変化は Yokoyama らによって、図 3-45 に示すようにジラ
ウリン酸ジブチル錫が酸素雰囲気下での加熱により最終的には錫酸化物(SnO2)になると報告
されている[5]。この報告を基に、有機スズ化合物の酸化状態を確認するため、開放乾燥高温
試験において 100℃と 200℃の恒温槽で 480 時間放置した後の TMOS-Sn 系硬化体(Sn 0.01mol)
と TMOS-TTE-MA 系硬化体(TTE-MA 0.025-0.025mol)を高温高湿試験に供した。そのときの結
果を図 3-46 に示す。図 3-43 と図 3-46 を比較すると、TMOS-Sn 系硬化体は 200℃に 480 時間放
置された硬化体の方が著しく重量減少が少ない。また 100℃に 480 時間放置された硬化体も重
量減少が 10%程度に減少している。この結果から、200℃に放置された TMOS-Sn 系硬化体中の有
機スズ化合物はほとんどスズ酸化物に変化していることが示唆される。TMOS-TTE-MA 系硬化体
においても、100℃と 200℃に保持したそれぞれ硬化体の方が重量減少は僅かであるが少なくな
っている。これは 100℃と 200℃に保持されることによって硬化体の未反応成分が少なくなる
ためであると考えている。
図 3-45 ジラウリン酸ジブチルスズの変化[5]
weight loss [%]
15
10
5
0
h)
h)
h)
h)
・ 4 80
・ 4 80
・ 4 80
・ 4 80
℃
℃
℃
℃
0
0
0
0
10
20
( 20
( 10
Sn (
Sn (
-M A
-M A
E
E
T
T
T
T
図 3-46 密封高湿高温下での重量変化(開放乾燥高温試験後の試料)
56
3-4 まとめ
本章では、チタンアルコキシドと有機添加物としてヒドロキシカルボン酸エステルとを組合
わせた新規な硬化剤について、その新規性と進歩性を示した。結果を以下にまとめる。
(1) チタンアルコキシドとヒドロキシカルボン酸エステルからなる硬化剤は、既知のチタン
キレート触媒が有する二座配位系とは異なる一座配位系を有する分子構造を持つ、新規
な硬化剤であることを示した。
(2) 新規な硬化剤は、室温で脱水縮重合反応を促進する高い触媒能を有していた。
(3) 新規な硬化剤を用いて作製した RTV シリコーン硬化体は、既知のチタンアルコキシド系
硬化剤を用いた硬化体に比べて、高い架橋密度を有しており、耐熱性も同等以上の特性
を有していた。高温高湿試験においては、有機スズ化合物硬化剤と比較して重量減少が
著しく少なく、高い耐熱性を有していた。
(4) チタンアルコキシドの触媒活性を高め、特に架橋密度が高い硬化体を作製できるヒドロ
キシカルボン酸エステルとして、DL-リンゴ酸ジエチルエステル、DL-リンゴ酸ジブチル
エステルおよびクエン酸トリエチルが選択された。
第 3 章の参考文献
章の参考文献
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p. 557 (1989)
57
第4章
第4章 架橋点間分子量と各種充填材が硬化体に及ぼす影響
4-1 本章の目的
本章では、架橋点間分子量(主剤の分子量)の変化に伴う硬化体の物性、特に機械的特性に
ついての検討とシリコーン組成物の補強性充填剤として主に用いられる煙霧質シリカと炭酸
カルシウムを充填させた硬化体の機械的特性及び耐熱性を評価する。これより、前章で考案し
た新規な硬化剤を用いた RTV シリコーン組成物において、多種多様な応用用途に応じて最適な
機械的特性および耐熱性を有する材料を設計可能とする指針を得ることを目的とする。
4-2 架橋点間分子量が硬化体の機械的特性に与える影響
架橋点間分子量が硬化体の機械的特性に与える影響
4-2-1 本実験に用いた材料及び試料作製方法
本実験では材料に、PDMS の中に含まれる低分子成分を取り除くために 200℃の恒温槽
(DRX420DA ADVANTEC㈱)
で 10 分間精製した平均分子量 1,000 の両末端 OH 変性 PDMS(X-21-5841、
信越シリコーン㈱)
、平均分子量 3,000 の両末端 OH 変性 PDMS(KF-9701、信越シリコーン㈱)、
平均分子量 6,000 の両末端 OH 変性 PDMS(DMS-S21、Gelest㈱)、平均分子量 30,000 の両末端
OH 変性 PDMS(DMS-S31、Gelest㈱)、平均分子量 50,000 の両末端 OH 変性 PDMS(DMS-S35、Gelest
㈱)、架橋剤としてシリコンアルコキシドの、テトラメトキシシラン(Tetramethoxysilane: TMOS、
信越シリコーン㈱)もしくはメチルトリメトキシシラン(Methyltrimethoxysilane: MTMS、信
越 シ リ コ ー ン ㈱ )、 硬 化 剤 と し て チ タ ン ア ル コ キ シ ド の チ タ ニ ウ ム テ ト ラ エ ト キ シ ド
(Tetraethoxytitanium: TTE、メルク㈱)
、有機添加物として、DL-リンゴ酸ジエチルエステル
(DL-malicacid diethyl ester: MA、東京化成㈱)を用いた。用いた材料および略称を表 4-1
に示す。
試料作製方法は 3-3 節に示した図 3-30 と同じである。
表 4-1 用いた材料および略称
材料名
主剤
架橋剤
硬化剤
有機添加物
略称
PDMS
(平均分子量 1,000、3,000、6,000、 PDMS
30,000、50,000)
テトラメトキシシラン
メチルトリメトキシシラン
チタニウムテトラエトキシド
DL-リンゴ酸ジエチルエステル
TMOS
MTMS
TTE
MA
4-2-2 実験結果と考察
PDMS(分子量: 1,000)と TMOS を mol 比にて 1:1 とし、TTE と MA の添加量をそれぞれ
0.01-0.01mol、0.025-0.025mol、0.05-0.05mol としたときの機械的特性を図 4-1 に示す。図
4-1 より、TTE-MA の添加量が 0.01-0.01mol では弾性率、破断点強度ともに低く、0.05-0.05mol
で は 0.025-0.025mol と 変 化 が な い 。 こ の こ と か ら 、 TTE-MA の 添 加 量 の 最 適 値 は
PDMS(1000)-TMOS 1-1mol に対してそれぞれ 0.025mol であると推定される。このときの TTE-MA
の質量は PDMS 100 質量部に対して 1.05 質量部(TTE の含有量: 0.57 質量部)である。
58
elastic modulus [MPa]
6.0
5.0
4.0
3.0
2.0
RH50 7d
1.0
RH50 14d
0.0
0
0.01
0.02
0.03
0.04
0.05
molar ratio of (TTE-MA) to TMOS
0.06
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
0.8
RH50 7d
0.6
RH50 14d
0.4
0.2
0.0
0
0.01
0.02
0.03
0.04
0.05
molar ratio of (TTE-MA) to TMOS
0.06
(b) 破断点強度
elongation at break [%]
20
RH50 7d
15
RH50 14d
10
5
0
0
0.01
0.02
0.03
0.04
0.05
molar ratio of (TTE-MA) to TMOS
0.06
(c) 破断点伸び率
図 4-1 PDMS(1000)-TMOS-TTE-MA 系硬化体の機械的特性
次に PDMS(分子量: 3,000)、TMOS を mol 比にて 1:1 または 1:2 とし、TTE と MA の添加量を
それぞれ 0.025-0.025mol、0.05-0.05mol、0.075-0.075mol としたときの機械的特性を図 4-2
に示す。それぞれの硬化体は 25℃・RH50%±10%の雰囲気下で 14 日間放置して得られたもので
ある。図 4-2 より、TMOS 1mol より TMOS 2mol の方が弾性率が高いことがわかる。TTE と MA の
添加量を比較すると、TMOS 1mol 及び 2mol ともに 0.025-0.025mol では弾性率、破断点強度は
低く、0.075-0.075mol では 0.05-0.05mol と変化が見られない。
59
elastic modulus [MPa]
4.0
TMOS 1mol
3.0
TMOS 2mol
2.0
1.0
0.0
0
0.025
0.05
0.075
molar ratio of (TTE-MA) to PDMS
0.1
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
0.6
TMOS 1mol
TMOS 2mol
0.4
0.2
0.0
0
0.025
0.05
0.075
molar ratio of (TTE-MA) to PDMS
0.1
(b) 破断点強度
elongation at break [%]
60
TMOS 1mol
50
TMOS 2mol
40
30
20
10
0
0
0.025
0.05
0.075
molar ratio of (TTE-MA) to PDMS
0.1
(c) 破断点伸び率
図 4-2 PDMS(3000)-TMOS-TTE-MA 系硬化体の機械的特性
PDMS(3000)-TMOS-TTE-MA 系硬化体をトルエンに 25℃にて 2 日間浸し、抽出した成分の分子
量分布を図 4-3 に示す。図 4-3 より、PDMS(3000)-TMOS-TTE-MA 1-1-0.025-0.025mol 系硬化体
ではトルエンに抽出した成分が非常に多く、架橋に寄与しなかった成分が多いことが示唆され
た 。 PDMS(3000)-TMOS-TTE-MA 1-1-0.05-0.05mol 及 び 1-1-0.075-0.075mol 系 硬 化 体 で は
PDMS(3000)-TMOS-TTE-MA 1-1-0.025-0.025mol 系硬化体に比べ、抽出した成分が著しく少ない。
これは TTE-MA の添加量の増加に伴い架橋が進んだためと考えられる。また、TMOS を 2mol にす
60
ることで、TTE と MA のすべての添加量において TMOS 1mol よりも高い架橋密度を有する試料と
なっていることが示唆される。
よって、図 4-2 と図 4-3 より TTE-MA の添加量の最適値は PDMS(3000)-TMOS 1-2mol に対して
それぞれ 0.05mol であることがわかる。このときの TTE-MA の質量は PDMS 100 質量部に対して
0.70 質量部(TTE の含有量: 0.38 質量部)である。
RIU [a.u.]
1-0.025
1-0.05
1-0.075
2-0.025
2-0.05
2-0.075
1000000
100000
10000
molecular weight
1000
100
図 4-3 PDMS(3000)-TMOS-TTE-MA 系硬化体のトルエン抽出成分の分子量分布
次に、PDMS(3000)、MTMS を mol 比にて 1:1 または 1:2 とし、TTE と MA の添加量をそれぞれ
0.05-0.05mol としたときの機械的特性を図 4-4 に示す。図 4-4 には架橋剤の違いによる機械的
特性を比較するために、PDMS(3000)-TMOS-TTE-MA 1-2-0.05-0.05mol 系硬化体の結果をともに
記載した。PDMS-MTMS-TTE-MA 1-1-0.05-0.05mol 系混合溶液では硬化体を得られなかったので、
図 4-4 は PDMS(3000)-MTMS-TTE-MA 1-2-0.05-0.05mol 系硬化体と PDMS(3000)-TMOS-TTE-MA
1-2-0.05-0.05mol 系硬化体の結果である。それぞれの硬化体は 25℃・RH50%±10%の雰囲気下
で 14 日間放置して得られたものである。図 4-4 より、4 官能の架橋剤(TMOS)を用いた硬化体
では弾性率が 3 [MPa]、伸びが 10 [%]程度であるのに対して、3 官能の架橋剤(MTMS)を用い
た硬化体は弾性率が 1 [MPa]、伸びが 40 [%]程度である。これは 4 官能と 3 官能の違いにより、
異なる架橋ネットワークを構築したためと考えられる。
4.0
elastic modulus [MPa]
TMOS 2mol
3.0
MTMS 2mol
2.0
1.0
0.0
(a) 弾性率
図 4-4 MTMS 系硬化体と TMOS 系硬化体の機械的特性の比較
61
stress at break [MPa]
0.6
0.4
0.2
TMOS 2mol
MTMS 2mol
0.0
(b) 破断点強度
elongation at break [%]
50
40
30
20
TMOS 2mol
10
MTMS 2mol
0
(c) 破断点伸び率
図 4-4 MTMS 系硬化体と TMOS 系硬化体の機械的特性の比較(続き)
表 4-2 PDMS(1000)-TMOS-TTE-MA 系混合溶液の mol 比(かっこ内は添加量)
PDMS(1000)
TMOS
TTE-MA
TTE の含有量
1(100 質量部)
1(15.2 質量部)
0.01(0.42 質量部)
0.23 質量部
1(100 質量部)
1(100 質量部)
1(15.2 質量部)
1(15.2 質量部)
0.025(1.05 質量部)
0.05(2.09 質量部)
0.57 質量部
1.14 質量部
表 4-3 PDMS(3000)-TMOS-TTE-MA 系混合溶液の mol 比(かっこ内は添加量)
PDMS(3000)
TMOS
TTE-MA
TTE の含有量
1(100 質量部)
1(100 質量部)
1(100 質量部)
1(100 質量部)
1(100 質量部)
1(100 質量部)
1(5.07 質量部)
1(5.07 質量部)
1(5.07 質量部)
2(10.15 質量部)
2(10.15 質量部)
2(10.15 質量部)
0.025(0.35 質量部)
0.05(0.70 質量部)
0.075(1.05 質量部)
0.025(0.35 質量部)
0.05(0.70 質量部)
0.075(1.05 質量部)
62
0.19 質量部
0.38 質量部
0.57 質量部
0.19 質量部
0.38 質量部
0.57 質量部
表 4-4 PDMS(3000)-MTMS-TTE-MA 系混合溶液の mol 比(かっこ内は添加量)
PDMS(3000)
MTMS
TTE-MA
TTE の含有量
1(100 質量部)
1(4.54 質量部)
0.05(0.70 質量部)
0.38 質量部
1(100 質量部)
2(9.08 質量部)
0.05(0.70 質量部)
0.38 質量部
表 4-2、
表 4-3 及び表 4-4 に PDMS(1000)-TMOS-TTE-MA 系混合溶液と PDMS(3000)-TMOS-TTE-MA
系混合溶液及び PDMS(3000)-MTMS-TTE-MA 系混合溶液の mol 比と添加量をそれぞれ示す。図 4-1
から図 4-4 の結果より、高い架橋密度を有する硬化体を得るためには、架橋剤の Si アルコキ
シドと TTE-MA のそれぞれの添加量が重要であることがわかる。
以下に PDMS の分子量を 6,000、30,000、50,000 と変化させて実験を行った結果を示す。材
料の構成は、PDMS 100 質量部に対して TMOS と MTMS の添加量はそれぞれ 10.15 質量部、9.08
質量部とし、TTE-MA の添加量は 1.05 質量部または 0.70 質量部とした。
ここで、線上分子鎖と架橋点からなる高分子の弾性率 Ec は、架橋密度を考慮することで説明
されている[1]。本試料において考える架橋構造を図 4-5 に示す。図 4-5 において、架橋点は
点線で囲われた部分であり、線上分子鎖は実線で囲われた部分である。βは Vp と VL の比で表
され、Vp=34.7X10-30 m3 と VL=72.1X10-30 m3 は、それぞれ架橋点と繰り返し単位のファンデ
ルワールス体積である。これらを用いて、弾性率 Ec は
Ec=(Et)0×2(n+β)/(φn2),
(1)
で与えられる。ここで、(Et)0 は任意の温度における弾性率であり、本試料系において、25℃で
は 197MPa で与えられる[1]。nは架橋点と繰り返し単位に対する線上分子鎖の分子量の比であ
り、φは官能基数である。本章においては、φ=4 とβ=0.481 を用いて、nの値を変化させ
て計算を行った。
表 4-5 に PDMS の分子量が 3,000、6,000、30,000 及び 50,000 のときの TTE と MA の添加量、
図 4-6 に表 4-5 に示した混合溶液を 25℃・RH50±10%の雰囲気下で7日間放置して得られた硬
化体の機械的特性結果を示す。ここで架橋点の役割を担う TMOS と線上分子鎖の役割を担う
PDMS とのモル比が、図 4-5 で考慮したモデルネットワークで想定した比と異なるが、これは、
TMOS を過剰量として作成しなければ硬化体を得られなかったためである。このため、ネットワ
ークの形成に寄与できない TMOS が系の中に存在することとなるが、これらは架橋にほとんど
寄与しないため、機械的特性への影響は小さいと考えられる。図 4-6(a)より、実験値と理論値
に良い一致が見られることから、図1に示したようなネットワークが形成されていることが示
唆される。また、PDMS の分子量の増加とともに、弾性率は減少し、伸び率は増加している。こ
れは PDMS のらせん構造に依存していると考えられ、架橋点間分子量が大きいほど柔軟性の高
い材料を得られることを示唆している。また図 4-4 の結果と同様に、TMOS 系と MTMS 系では、
MTMS 系硬化体の方が弾性率が低く、破断点伸び率が大きい傾向が見られる。
63
図 4-5 PDMS と TMOS からなるモデルネットワーク
Si alkoxide
表 4-5 混合溶液の合成量
PDMS の分子量
TTE-MA
TMOS
MTMS
TTE の含有量
3,000
0.70 質量部(0.05mol)
6,000
30,000
3,000
6,000
30,000
50,000
1.05 質量部(0.15mol)
1.05 質量部(0.75mol)
0.70 質量部(0.05mol)
1.05 質量部(0.15mol)
1.05 質量部(0.75mol)
1.05 質量部(1.25mol)
0.38 質量部
0.57 質量部
0.57 質量部
0.38 質量部
0.57 質量部
0.57 質量部
0.57 質量部
3.0
elastic modulus [MPa]
TMOS
MTMS
2.0
theoretical value
1.0
0.0
0
20000
40000
60000
average molecuar weight between crosslinks(Mc)
(a) 弾性率
図 4-6 架橋点間分子量を変化させたときの機械的特性
64
0.6
stress at break [MPa]
TMOS
MTMS
0.4
0.2
0.0
0
20000
40000
60000
average molecuar weight between crosslinks(Mc)
(b) 破断点強度
elongation at break [%]
200
150
100
TMOS
50
MTMS
0
0
20000
40000
60000
average molecular weight between crosslinks(Mc)
(c) 破断点伸び率
図 4-6 架橋点間分子量を変化させたときの機械的特性(続き)
以上の結果より、架橋点間分子量が硬化体の機械的特性に与える影響を把握できた。特に、
弾性率及び破断点伸び率の架橋点間分子量への依存性、架橋剤の官能基数の機械的特性への影
響が把握できた。また、実験で得られた弾性率は理論値と同じ傾向を示した。
65
4-3 架橋点間分子量を変化させたときのフィラー充填効果
架橋点間分子量を変化させたときのフィラー充填効果
4-3-1 本実験に用いた材料及び試料作製方法
本実験の材料には、PDMS の中に含まれる低分子成分を取り除くために 200℃の恒温槽
(DRX420DA ADVANTEC㈱)
で 10 分間精製した平均分子量 1,000 の両末端 OH 変性 PDMS(X-21-5841、
信越シリコーン㈱)
、平均分子量 3,000 の両末端 OH 変性 PDMS(KF-9701、信越シリコーン㈱)、
平均分子量 6,000 の両末端 OH 変性 PDMS(DMS-S21、Gelest㈱)、平均分子量 30,000 の両末端
OH 変性 PDMS(DMS-S31、Gelest㈱)、平均分子量 50,000 の両末端 OH 変性 PDMS(DMS-S35、Gelest
㈱)、架橋剤にはシリコンアルコキシドの、テトラメトキシシラン(Tetramethoxysilane: TMOS、
信越シリコーン㈱)もしくはメチルトリメトキシシラン(Methyltrimethoxysilane: MTMS、信
越シリコーン㈱)、硬化剤であるチタンアルコキシドとしてチタニウムテトラエトキシド
(Tetraethoxytitanium: TTE、メルク㈱)、有機添加物には、DL-リンゴ酸ジエチルエステル
(DL-malicacid diethyl ester: MA、東京化成㈱)を用いた。硬化剤の比較物質として、錫化
合物のジラウリン酸ジブチル錫(Dibutyltin Dilaurate: Sn、東京化成㈱)を用いた。フィラ
ーとしては AEROSIL R972(R972、日本アエロジル㈱)を用いた。表 4-6 に用いた材料の一覧と
略称を示す。
試料作製方法は 3-3 節に示した図 3-30 と同じである。フィラーの混合方法については、混
合溶液を合成するときに R972 を混合溶液に対して 15wt%混合して撹拌を行った場合と、反応し
た混合溶液をシャーレに注ぐ前に混練機(thinky㈱)を用いて R972 を混合溶液に対して 10wt%
混合した場合の 2 種類がある。混練機による混合は mixing: 2000rpm×5min で遊星撹拌を行っ
た。
表 4-6 用いた材料と略称
材料名
略称
PDMS
主剤
(平均分子量 1,000、3,000、6,000、 PDMS
30,000、50,000)
テトラメトキシシラン
TMOS
架橋剤
メチルトリメトキシシラン
MTMS
硬化剤
チタニウムテトラエトキシド
TTE
有機添加物
DL-リンゴ酸ジエチルエステル
MA
従来(比較)硬化剤 ジラウリン酸ジブチルスズ
Sn
充填材
AEROSIL R972
R972
4-3-2 実験結果と考察
図 4-7 に PDMS(1000)-TMOS-TTE 1-1-0.025mol 系硬化体及び PDMS(1000)-TMOS-TTE-MA
1-1-0.025-0.025mol 系硬化体に R972 を 15wt%混合したときの機械的特性を示す。各硬化体は
25℃・RH50±10%の雰囲気下で7日間放置して得られた。図 4-7 より R972 を混合しなかった硬
化体(non filler)に比べ、R972 を混合した硬化体は弾性率及び破断点強度が増加している。
また R972 を混合後も、PDMS(1000)-TMOS-TTE-MA 系硬化体は PDMS(1000)-TMOS-TTE 系硬化体に
比べ、弾性率及び破断点強度が高い。これは、PDMS(1000)-TMOS-TTE-MA 系硬化体が高い架橋密
度を有していることで、より高いフィラー充填効果が得られたためと考えられる。
66
14
elastic modulus [MPa]
12
10
8
TTE non filler
TTE-MA non filler
TTE R972 15wt%
TTE-MA R972 15wt%
6
4
2
0
(a) 弾性率
1.0
stress at break [MPa]
TTE non filler
0.8
TTE-MA non filler
TTE R972 15wt%
0.6
TTE-MA R972 15wt%
0.4
0.2
0.0
(b) 破断点強度
20
elongation at break [%]
TTE non filler
TTE-MA non filler
15
TTE R972 15wt%
TTE-MA R972 15wt%
10
5
0
(c) 破断点伸び率
図 4-7 PDMS(1000)-TMOS-TTE 1-1-0.025mol 系硬化体及び
PDMS(1000)-TMOS-TTE-MA 1-1-0.025-0.025mol 系硬化体の機械的特性
次に、R972 を 15wt%混合した PDMS(3000)-TMOS-TTE-MA 1-2-0.05-0.05mol 系硬化体及び
PDMS(3000)-MTMS-TTE-MA 1-2-0.05-0.05mol 系硬化体の機械的特性を図 4-8 に示す。各硬化体
は 25℃・RH50±10%の雰囲気下で7日間放置して得られた。図 4-8 より、TMOS 系硬化体と MTMS
系硬化体を比較すると、弾性率は TMOS 系硬化体の方が高いが、破断点強度と破断点伸び率は
MTMS 系硬化体の方が高いことがわかる。この結果から、TMOS 系硬化体では脆性の高い材料と
67
なり、MTMS 系硬化体では靭性の高い試料となることが結論される。
8.0
elastic modulus [MPa]
7.0
6.0
5.0
4.0
3.0
2.0
TMOS
MTMS
1.0
0.0
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
2.5
2.0
1.5
1.0
TMOS
0.5
MTMS
0.0
(b) 破断点強度
elongation at break [%]
100
80
60
40
TMOS
20
MTMS
0
(c) 破断点伸び率
図 4-8 PDMS(3000)-TMOS-TTE-MA 1-2-0.05-0.05mol 系硬化体及び
PDMS(3000)-MTMS-TTE-MA 1-2-0.05-0.05mol 系硬化体の機械的特性
図 4-9 に R972 を 15wt% 混 合 し た PDMS(3000)-MTMS-TTE-MA 1-2-0.025-0.025mol 、
1-2-0.05-0.05mol 及び 1-2-0.025-0.05mol 系硬化体の機械的特性を示す。各硬化体は 25℃・
RH50±10%の雰囲気下で7日間放置して得られた。図 4-9 より、TTE と MA の添加量が
68
0.025-0.025mol では、0.05-0.05mol に比べ弾性率、破断点強度ともに低い。MA の添加量を増
やした硬化体(0.025-0.05mol)では、0.025-0.025mol よりは弾性率、破断点強度ともに僅か
に増加しているが、0.05-0.05mol と比べると低い。このことから、ベースとなる硬化体の機械
的特性はフィラー充填によって紛れることは無く、高い機械的特性を有する硬化体を得るため
には、硬化体の架橋が重要であると考えられる。
elastic modulus [MPa]
4.0
TTE-MA
TTE-MA 0.025-0.05
3.0
2.0
1.0
0.0
0
0.025
0.05
molar ratio of TTE-MA to PDMS
0.075
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
2.5
2.0
TTE-MA
TTE-MA 0.025-0.05
1.5
1.0
0.5
0.0
0
0.025
0.05
molar ratio of TTE-MA to PDMS
0.075
(b) 破断点強度
elongation at break [%]
100
80
60
40
TTE-MA
TTE-MA 0.025-0.05
20
0
0
0.025
0.05
molar ratio of TTE-MA to PDMS
0.075
(c) 破断点伸び率
図 4-9 PDMS(3000)-MTMS-TTE-MA 系硬化体(R972: 15wt%充填)の機械的特性
69
次に、フィラー充填における新規硬化剤(TTE-MA)の添加効果を調査するため、従来硬化剤
で あ る TTE を 用 い た 硬 化 体 と Sn を 用 い た 硬 化 体 を 作 製 し た 。 作 製 し た 硬 化 体 は
PDMS(3000)-MTMS-TTE-MA 1-2-0.05-0.05mol 系硬化体、PDMS(3000)-MTMS-TTE 1-2-0.05mol 系
硬化体及び PDMS(3000)-MTMS-Sn 100-10-0.5 質量部系硬化体である。それぞれ硬化体における
フィラー充填量は 15wt%である。Sn 系硬化体は 40℃にて 24 時間撹拌後にシャーレに展開して
得られた。その機械的特性を図 4-10 に示す。各硬化体は 25℃・RH50%±10%の雰囲気下で7日
間放置して得られた。図 4-10 より TTE-MA 系硬化体は TTE 系硬化体に比べ、弾性率及び破断点
強度が高いことがわかる。また Sn 系硬化体と比べても、同等の機械的特性を示している。こ
の結果より、フィラー充填時においても新規硬化剤は従来硬化剤と同等以上の高い触媒活性を
有することが確認された。
elastic modulus [MPa]
4.0
3.0
2.0
TTE
1.0
TTE-MA
Sn
0.0
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
3.0
2.0
1.0
TTE
TTE-MA
Sn
0.0
(b) 破断点強度
図 4-10 PDMS(3000)-MTMS-TTE 系硬化体、PDMS(3000)-MTMS-TTE-MA 系硬化体及び
PDMS(3000)-MTMS-Sn 系硬化体(R972: 15wt%充填)の機械的特性
70
elongation at break [%]
100
80
60
40
TTE
TTE-MA
20
Sn
0
(c) 破断点伸び率
図 4-10 PDMS(3000)-MTMS-TTE 系硬化体、PDMS(3000)-MTMS-TTE-MA 系硬化体及び
PDMS(3000)-MTMS-Sn 系硬化体(R972: 15wt%充填)の機械的特性(続き)
表 4-8 に PDMS の分子量が 3,000、6,000、30,000 及び 50,000 のときの TTE と MA の添加量を
示す。また、図 4-11 に表 4-8 に示した混合溶液を 25℃・RH50±10%の雰囲気下で7日間放置し
て得られた硬化体の機械的特性を示す。このとき架橋剤として用いた MTMS の添加量はすべて
PDMS 100 質量部に対して 9.08 質量部である。
Si alkoxide
表 4-8 混合溶液の合成量
PDMS の分子量
TTE-MA
MTMS
3,000
0.70 質量部(0.05mol)
6,000
30,000
50,000
1.05 質量部(0.15mol)
0.70 質量部(0.5mol)
0.70 質量部(0.83mol)
TTE の含有量
0.38 質量部
0.57 質量部
0.38 質量部
0.38 質量部
elastic modulus [MPa]
3.0
2.0
1.0
0.0
0
20000
40000
60000
average molecular weight between crosslinks(M c)
(a) 弾性率
図 4-11 架橋点間分子量を変化させたときの機械的特性(R972: 10wt%充填)
71
stress at break [MPa]
3.0
2.0
1.0
0.0
0
20000
40000
60000
average molecular weight between crosslinks(M c)
(b) 破断点強度
elongation at break [%]
300
200
100
0
0
20000
40000
60000
average molecular weight between crosslinks(M c)
(c) 破断点伸び率
図 4-11 架橋点間分子量を変化させたときの機械的特性(R972: 10wt%充填)
(続き)
図 4-11 より、PDMS の分子量の増加とともに、弾性率は減少し、伸び率は増加する傾向があ
る。このことから架橋点間分子量は硬化体の弾性率および破断点伸び率に大きく寄与するが、
破断点強度にはほとんど寄与しないことがわかった。
以上の結果より、フィラー充填効果を得るためには硬化体の架橋が重要であることがわかっ
た。またフィラー未充填時と同様に、フィラー充填時においても弾性率及び破断点伸び率は架
橋点間分子量に大きく依存することがわかった。
72
4-4 各種フィラーの充填効果
4-4-1 本実験に用いた材料及び試料作製方法
本実験の材料には、平均分子量 30,000 の両末端 OH 変性 PDMS(DMS-S31、Gelest㈱)、架橋剤
であるシリコンアルコキシドとしては、メチルトリメトキシシラン(Methyltrimethoxysilane:
MTMS、信越シリコーン㈱)、硬化剤であるチタンアルコキシドとしてチタニウムテトラエトキ
シド(Tetraethoxytitanium: TTE、メルク㈱)
、有機添加物としては、DL-リンゴ酸ジエチルエ
ステル(DL-malicacid diethyl ester: MA、東京化成㈱)を用いた。フィラーにシリカ系フィ
ラーの AEROSIL R972(R972、日本アエロジル㈱)
、AEROSIL R8200(R8200、日本アエロジル)
と、炭酸カルシウム系フィラーの Viscolite-OS(Viscolite、白石カルシウム㈱)
、白艶華 CCR-S
(白艶華、白石カルシウム㈱)、スーパー#1700(#1700、丸尾カルシウム)、SSB-red(白石カ
ルシウム㈱)、SSB-blue(白石カルシウム㈱)を用いた。表 4-9 に用いた材料と略称を示す。
表 4-9 用いた材料と略称
主剤
架橋剤
硬化剤
有機添加物
シリカ系充填材
炭酸カルシウム系
充填材
材料名
PDMS
(平均分子量 30,000)
メチルトリメトキシシラン
チタニウムテトラエトキシド
DL-リンゴ酸ジエチルエステル
AEROSIL R972
AEROSIL R8200
Viscolite-OS
白艶華CCR-S
スーパー#1700
SSB-red
SSB-blue
略称
PDMS
MTMS
TTE
MA
R972
R8200
Viscolite
白艶華
#1700
SSB-red
SSB-blue
試 料 作 製 方 法 は 3-3 節 に 示 し た 図 3-30 と 同 じ で 、 混 合 溶 液 の 合 成 量 は す べ て
PDMS-MTMS-(TTE-MA) 100-9.08-0.70 質量部である。フィラーの混合方法は、始めに PDMS とフ
ィラー(シリカ系フィラーもしくは炭酸カルシウム系フィラーを用いた場合とシリカ系フィラ
ーと炭酸カルシウム系フィラーを同時に混合して用いた場合の 2 種類がある)を混練機(thinky
㈱)を用いて混合後(2000rpm×5min)、ミキサー(セルマスター、AS ONE㈱)を用いてせん断
応力を加え混合を行った(5000rpm×10min)。このようにして得られたフィラーを含む PDMS 混
合溶液を図 3-30 に示した PDMS の代わりに用いて試料を作製した。
すべての硬化体は 25℃・RH50
±10%雰囲気下で 7 日間放置して得られたものである。
表 4-10 に平均分子量 30,000 の両末端 OH 変性 PDMS に R972 を PDMS に対して 10wt%混合した
ときの粘度を示す。表 4-10 より、ミキサー使用後の方が各回転数において粘度が低いのがわ
かる。これはミキサーの使用によりフィラーの分散が良くなったためと考えられる。
表 4-10 ミキサー使用前と使用後の粘度
viscosity
rotation number [rpm]
[Pa・s]
1.0
12.27
混練機のみ
0.5
15.06
2.5
5.06
混練機+ミキサー
1.0
4.78
0.5
5.00
73
4-4-2 実験結果と考察
図 4-12 と図 4-13 にR972 とR8200 の充填量を変化させたときの硬化体の機械的特性をそれ
ぞれ示す。R972 はジメチルシランで表面処理された疎水性シリカ(粒径 16 [nm]、比表面積
、R8200 はトリメチルシランで表面処理された疎水性シリカ(粒径 12 [nm]、比表
130 [m2/g])
2
面積 200[m /g])である。図 4-12 と図 4-13 より、R972 とR8200 の充填量が増加すると弾性
率及び破断点強度が増加している。これはシリカ表面の OH 基とポリマーの残留 OH 基またはシ
リコーンポリマー分子の中の酸素原子の水素結合による補強効果が得られるためである[2]。
elastic modulus[MPa]
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0
2
4
6
8
filler loading level [%]
10
(a) 弾性率
stress at break[MPa]
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
0
2
4
6
8
filler loading level [%]
10
(b) 破断点強度
elongation at break[%]
200
150
100
50
0
0
2
4
6
8
filler loading level [%]
10
(c) 破断点伸び率
図 4-12 R972 の充填量を変化させたときの機械的特性
74
elastic modulus [MPa]
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
0
5
10
15
filler loading level [%]
20
25
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
0
5
10
15
filler loading level [%]
20
25
20
25
(b) 破断点強度
elongation at break [%]
250
200
150
100
50
0
0
5
10
15
filler loading level [%]
(c) 破断点伸び率
図 4-13 R8200 の充填量を変化させたときの機械的特性
次に、R972 系硬化体とR8200 系硬化体の機械的特性を比較した結果を図 4-14 に示す。図
4-14 より 10wt%のフィラー充填量における機械的特性は R972 の方が R8200 よりも弾性率及び
破断点強度が高いことがわかる。また R8200 の充填量を 20wt%に増加させると、R972 と同等の
弾性率及び破断点強度を有している。この結果から、R8200 は R972 と同等の補強効果を得るた
めには、より高充填が必要であると結論される。これは、ジメシルシランによって表面処理さ
れた R972 よりも、トリメチルシランによって表面処理された R8200 の方が、シリカ表面の OH
75
基が少ないため、シリコーンポリマー分子との相互作用が弱いことを示唆している。
elastic modulus[MPa]
2.0
1.5
1.0
R972
0.5
R8200
0.0
0
5
10
15
20
filler loading level [%]
25
(a) 弾性率
elastic modulus[MPa]
2.0
1.5
1.0
R972
0.5
R8200
0.0
0
5
10
15
20
filler loading level [%]
25
(b) 破断点強度
elastic modulus[MPa]
2.0
1.5
1.0
R972
0.5
R8200
0.0
0
5
10
15
20
filler loading level [%]
25
(c) 破断点伸び率
図 4-14 各種充填量におけるR972 系硬化体とR8200 系硬化体の機械的特性の比較
次に R972 系硬化体と R8200 系硬化体から 10mm×10mm(厚さ約 1.5mm)にそれぞれ切り出し
た試験片を 100℃と 200℃に保持された恒温槽(ETTAS OFW-300、AS ONE㈱)に 20 日間(480
時間)保持した場合の重量変化を図 4-15 に示す。また、R972 系硬化体と R8200 系硬化体から
10mm×10mm(厚さ約 1.5mm)にそれぞれ切り出した試験片を高温高湿試験に供した場合の重量
変化を図 4-16 に示す。図 4-15 より、100℃及び 200℃保持において R972 の充填量の増加に伴
い重量減少率が大きくなっている。また R8200 は充填量による重量減少の差は少ないが non
filler 硬化体に比べて重量減少は大きい。同様に図 4-16 より、高温高湿試験において R972
76
の充填量の増加に伴い重量減少率が大きくなっている。R8200 は充填量による重量減少の差は
少ないが non filler 試料に比べて重量減少は大きい。以上より、シリカ充填された硬化体は
開放乾燥高温試験及び密封高湿高温試験において、未充填試料よりも重量減少率が大きくなる
ことが観測された。この原因としてはシリカ表面の OH 基が主剤として用いた PDMS の劣化に寄
与している可能性が考えられる。
100
residual weight [%]
95
90
non filler
R972-5wt%
R972-8wt%
R972-10wt%
R8200-10wt%
R8200-20wt%
85
80
0
100
200
300
aging time at 100℃ [h]
400
500
(a) 保持温度:100℃
100
residual weight [%]
95
90
non filler
R972-5wt%
R972-8wt%
R972-10wt%
R8200-10wt%
R8200-20wt%
85
80
0
100
200
300
aging time at 200℃ [h]
400
(b) 保持温度:200℃
図 4-15 R972 系硬化体と R8200 系硬化体の開放乾燥高温下での重量変化
25
weight loss [%]
20
15
10
5
0
f
non
r
il le
t%
t%
t%
t%
t%
0w
0w
0w
5w
8w
1
2
1
2
2
0
0
7
7
72
20
20
R9
R9
R9
R8
R8
図 4-16 R972 系硬化体と R8200 系硬化体の密封高湿高温下での重量変化
77
次に、#1700 と Viscolite の 2 種類の炭酸カルシウムをそれぞれ充填させた硬化体の機械的
特性を図 4-17 に示す。図 4-17 より、#1700 と Viscolite の充填量の増加に伴って、弾性率及
び破断点強度が増加している。#1700 と Viscolite を比較すると、#1700 の方が弾性率が低く
伸びが増加し、破断点強度も増加している。しかし、炭酸カルシウムを充填した硬化体はシリ
カを充填した硬化体ほど、著しい補強効果は得られなかった。したがって、室温硬化型シリコ
ーン組成物の補強にはシリカフィラーは非常に有効であると考えられる。
elastic modulus [MPa]
1.0
0.8
0.6
0.4
non filler
Viscolite
#1700
0.2
0.0
0
5
10
15
filler loading level [%]
20
25
20
25
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
1.0
non filler
Viscolite
#1700
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0
5
10
15
filler loading level [%]
(b) 破断点強度
図 4-17 各種充填量における#1700 系硬化体と Viscolite 系硬化体の機械的特性の比較
78
elongation at break [%]
250
non filler
Viscolite
#1700
200
150
100
50
0
0
5
10
15
filler loading level [%]
20
25
(c) 破断点伸び率
図 4-17 各種充填量における#1700 系硬化体と Viscolite 系硬化体の機械的特性の比較(続き)
#1700 系硬化体と Viscolite 系硬化体から 10mm×10mm(厚さ約 1.5mm)にそれぞれ切り出し
た試験片を 100℃と 200℃に保持された恒温槽に 20 日間(480 時間)保持した場合の重量変化
を図 4-18 に示す。また、#1700 系硬化体と Viscolite 系硬化体から 10mm×10mm(厚さ約 1.5mm)
にそれぞれ切り出した試験片を高温高湿試験に供した場合の重量変化を図 4-19 に示す。
100
residual weight [%]
98
96
non filler
#1700-10wt%
#1700-20wt%
Viscolite-10wt%
Viscolite-20wt%
94
92
90
0
100
200
300
aging time at 100℃ [h]
400
(a) 保持温度:100℃
100
residual weight [%]
90
80
non filler
#1700-10wt%
#1700-20wt%
Viscolite-10wt%
Viscolite-20wt%
70
60
0
100
200
300
aging time at 200℃ [h]
400
(b) 保持温度:200℃
図 4-18 #1700 系硬化体と Viscolite 系硬化体の開放乾燥高温下での重量変化
79
weight loss [%]
10
8
6
4
2
0
nf
no
r
il le
t%
t%
t%
t%
0w
0w
0w
0w
1
2
2
1
e
e
00
00
li t
li t
#17
sco
sco
#17
Vi
Vi
図 4-19 #1700 系硬化体と Viscolite 系硬化体の密封高湿高温下での重量変化
図 4-18 より、100℃保持においては、non filler、#1700、Viscolite の各硬化体の重量減少
率にほとんど差は見られない。一方、200℃保持においては non filler、#1700 の重量減少率
にほとんど差はないが、Viscolite のみが著しく重量減少率が大きい。Viscolite は脂肪酸で
表面処理された合成炭酸カルシウムで、#1700 は無処理の乾式粉砕品である。Viscolite が
200℃保持において重量減少が大きくなった要因としては、表面処理に使用された脂肪酸の遊
離が考えられる。シリコーンは中性雰囲気下では非常に高い耐熱性を示すが、酸や塩基が存在
すると容易に分解することがある[3]。すなわち、200℃に長期間さらされることで遊離した脂
肪酸により、分解が促進されたと考えられる。また図 4-19 より、密封高湿高温下試験におい
ては、non filler 硬化体より#1700 と Viscolite が充填された硬化体の方が重量減少率が小さ
い。これは、無機成分の充填によって、分解される有機成分(硬化体)が試料に占める割合が
減少したためと考えられる。
図 4-18 に示した開放乾燥高温試験において炭酸カルシウム系フィラーの表面処理の有無に
より重量減少率に違いが見られた。熱劣化メカニズムの検討のため、熱分解した成分に違いが
あるかを、GC-MS を用いて調査した。測定した硬化体は開放乾燥高温試験前の#1700 系硬化体
と Viscolite 系硬化体、開放乾燥高温試験後(100℃と 200℃にそれぞれ 480 時間放置したもの)
の#1700 系硬化体と Viscolite 系硬化体である。図 4-20 と 4-21 に開放乾燥高温試験前の#1700
系硬化体と Viscolite 系硬化体の熱分解結果をそれぞれ示す。また図 4-22 と 4-23 に開放乾燥
高温試験後の#1700 系硬化体と Viscolite 系硬化体の熱分解結果をそれぞれ示す。
図 4-21、22 より#1700 系硬化体と Viscolite 系硬化体を比較すると、揮発成分にはほとんど
差がない。200℃熱分解と 300℃熱分解による揮発成分には Cyclotrisiloxane(D3)がほとん
ど含まれておらず、Cyclotetrasiloxane(D4)、Cyclopentasiloxane(D5)
、Cyclohexasiloxane
(D6)
、D7、D8・・・の環状シロキサンで構成されている。D3 は揮発性が高く、シリコーンポ
リマー中に含まれていない成分である。D3 以降の D4、D5、D6、
・・・は最初からシリコーンポ
リマーの中に含まれている可能性がある。このことから開放乾燥高温試験前の硬化体は、ごく
初期の段階では 200℃と 300℃の熱分解ではほとんど分解は起こらず、シリコーンポリマー中
に最初から含まれていた環状シロキサンが揮発成分として検出されたと考えられる。
80
absolute intensity [a.u.]
2.0E+06
#1700 20wt%-200℃熱分解
1.5E+06
D6
1.0E+06
D5
5.0E+05
D4
0.0E+00
0
5
10
15
retention time [min]
20
25
(a) 200℃熱分解による揮発成分
absolute intensity [a.u.]
2.0E+06
#1700 20wt%-300℃熱分解
1.5E+06
1.0E+06
5.0E+05
0.0E+00
0
5
10
15
retention time [min]
20
25
(b) 300℃熱分解による揮発成分
図 4-20 開放乾燥高温試験前の#1700 系硬化体の熱分解結果
absolute intensity [a.u.]
2.0E+06
Viscolite20wt%-200℃熱分解
D6
1.5E+06
1.0E+06
D5
5.0E+05
D4
0.0E+00
0
5
10
15
retention time [min]
20
(a) 200℃熱分解による揮発成分
図 4-21 開放乾燥高温試験前の Viscolite 系硬化体の熱分解結果
81
25
absolute intensity [a.u.]
2.0E+06
Viscolite20wt%-300℃熱分解
1.5E+06
1.0E+06
5.0E+05
0.0E+00
0
5
10
15
retention time [min]
20
25
(b) 300℃熱分解による揮発成分
図 4-21 開放乾燥高温試験前の Viscolite 系硬化体の熱分解結果(続き)
次に#1700 系硬化体において開放乾燥高温試験前後の硬化体の熱分解結果を比較すると、図
4-20 と図 4-22 より開放乾燥高温試験後(200℃・480 時間後)の硬化体の方が、300℃熱分解
時の揮発成分が少なくなっている。これは 200℃に保持されたことで、ポリマーの中に含まれ
ていた環状シロキサンが揮発したためと考えられる。一方、Viscolite 系硬化体において開放
乾燥高温試験前後の硬化体の熱分解結果を比較すると、図 4-21 と図 4-23 より開放乾燥高温試
験後の硬化体の方が、開放乾燥高温試験前ではほとんど検出されていなかった D3 が検出され
ている。特に、200℃に 480 時間保持された硬化体からは D3 が非常に多く検出されている。こ
れは図 4-19 において 200℃に長時間保持されたときに重量減少率が著しく大きくなっている
要因が D3 の生成を伴う熱分解であることを示唆している。
absolute intensity [a.u.]
2.0E+06
#1700 20wt%-100℃20d-300℃熱分解
1.5E+06
1.0E+06
5.0E+05
0.0E+00
0
5
10
15
retention time [min]
20
(a) 100℃・480 時間後の硬化体の 300℃熱分解による揮発成分
図 4-22 開放乾燥高温試験後の#1700 系硬化体の熱分解結果
82
25
absolute intensity [a.u.]
2.0E+06
#1700 20wt%-200℃20d-300℃熱分解
1.5E+06
1.0E+06
5.0E+05
0.0E+00
0
5
10
15
retention time [min]
20
25
(b) 200℃・480 時間後の硬化体の 300℃熱分解による揮発成分
図 4-22 開放乾燥高温試験後の#1700 系硬化体の熱分解結果(続き)
absolute intensity [a.u.]
2.0E+06
Viscolite20wt%-100℃20d-300℃熱分解
1.5E+06
1.0E+06
5.0E+05
D3
0.0E+00
0
5
10
15
retention time [min]
20
25
(a) 100℃・480 時間後の硬化体の 300℃熱分解による揮発成分
absolute intensity [a.u.]
1.0E+07
D3
Viscolite20wt%-200℃20d-300℃熱分解
7.5E+06
5.0E+06
2.5E+06
D4
0.0E+00
0
5
10
15
retention time [min]
20
25
(b) 200℃・480 時間後の硬化体の 300℃熱分解による揮発成分
図 4-23 開放乾燥高温試験後の Viscolite 系硬化体の熱分解結果
次に、R972 と炭酸カルシウム系フィラーの両方を充填した硬化体を作製するにあたって、ま
ず混合方法について検討を行った。混合方法として以下の2つを検討した。1つ目は、ミキサ
ーによる混合を行う前の混練機による撹拌時に、PDMS に R972 と#1700 を同時に入れて混練機
で混合する方法(同時混合)である。もう一つは、#1700 を先に PDMS に入れて混練機で混合後
83
に、R972 を入れ、もう一度混練機で混合する方法(別々混合)である。この同時混合と別々混
合のそれぞれの方法で硬化体を作製し、硬化体の機械的特性の比較を行った結果を図 4-24 に
示す。図 4-24 より、別々混合で作製した硬化体の方が同時混合で作製した硬化体よりも破断
点強度及び破断点伸び率がそれぞれ 1.6 倍及び 2.0 倍高い。これは、R972 と#1700 が、より均
一に分散したためと考えられる。
elastic modulus [MPa]
1.5
1
0.5
同時混合
別々混合
0
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
3.0
2.0
1.0
同時混合
別々混合
0.0
(b) 破断点強度
elongation at break [%]
300
200
100
同時混合
別々混合
0
(c) 破断点伸び率
図 4-24 R972-#1700 系硬化体の混合方法の違いによる機械的特性
別々混合を用いて作製した、R972 が 5wt%と各種炭酸カルシウムが 15wt%混合された硬化体の
84
機械的特性を図 4-25 に示す。図 4-25 より炭酸カルシウムの種類により、機械的特性に大きな
差は見られなかった。
elastic modulus[MPa]
2
1.5
1
#1700
Viscolite
白艶華
SSB-red
SSB-blue
0.5
0
(a) 弾性率
stress at break[MPa]
3.0
2.0
#1700
Viscolite
白艶華
SSB-red
SSB-blue
1.0
0.0
(b) 破断点強度
elongation at break[%]
300
200
#1700
Viscolite
白艶華
SSB-red
SSB-blue
100
0
(c) 破断点伸び率
図 4-25 各種炭酸カルシウム充填による機械的特性
図 4-25 に示した各種炭酸カルシウム充填硬化体から 10mm×10mm(厚さ約 1.5mm)にそれぞ
れ切り出した試験片を、100℃と 200℃に保持された恒温槽に 20 日間(480 時間)保持した場
合の重量変化を図 4-26 に示す。また、各種炭酸カルシウム混合の硬化体から 10mm×10mm(厚
85
さ約 1.5mm)にそれぞれ切り出した試験片を、高温高湿試験に供した場合の重量変化を図 4-27
に示す。図 4-26 より、100℃保持においては炭酸カルシウム違いによる重量減少に大きな差は
見られない。200℃保持においては、Viscolite と白艶華の硬化体のみに著しい重量減少が観測
された。Viscolite と白艶華は脂肪酸で表面処理をされたフィラーであり、脂肪酸の影響によ
り劣化が促進されたと考えられる。図 4-27 より、密封高温高湿試験においては炭酸カルシウ
ムの種類による重量減少の差はほとんど見られなかった。
residual weight [%]
100
98
96
#1700
Viscolite
白艶華
SSB-red
SSB-blue
94
92
90
0
100
200
300
aging time at 100℃ [h]
400
(a) 保持温度:100℃
residual weight [%]
100
90
#1700
Viscolite
白艶華
SSB-red
SSB-blue
80
70
0
100
200
300
aging time at 200℃ [h]
400
(b) 保持温度:200℃
図 4-26 各種炭酸カルシウムの開放乾燥高温下での重量変化
weight loss [%]
10
8
6
4
2
0
0
70
#1
l i te
sco
i
V
華
白艶
e
B- r
SS
d
ue
- bl
B
SS
図 4-27 各種炭酸カルシウムの密封高温高湿下での重量変化
86
次に別々混合を用いて R972 を 5wt%と炭酸カルシウム(#1700、SSB-red、SSB-blue)を 15wt%
混合した硬化体を作製した。その硬化体から機械的特性測定用のダンベル試料を打ち抜き、
200℃に保持した恒温槽に 10 日間(240h)と 20 日間(480h)吊るしたときの機械的特性を測
定した。その結果を図 4-28 に示す。図 4-28 より、R972-#1700 系硬化体、R972-SSB-red 系硬
化体及び R972-SSB-blue 系硬化体はすべて、200℃に 10 日間保持後の機械的特性は破断点強度
はほぼ一定であるが、弾性率が低下し、破断点伸び率は増加する傾向にある。200℃保持 10 日
後と 20 日後を比較すると、弾性率、破断点強度及び破断点伸び率に大きな変化は見られない。
elastic modulus [MPa]
1.5
1.0
0.5
#1700
SSB-red
SSB-blue
0.0
0
100
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
3.0
2.0
1.0
#1700
SSB-red
SSB-blue
0.0
0
100
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
(b) 破断点強度
elongation at break [%]
400
300
200
#1700
SSB-red
SSB-blue
100
0
0
100
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
(c) 破断点伸び率
図 4-28 200℃保持における R972-(#1700、SSB-red、SSB-blue)系硬化体の機械的特性の変化
87
次に別々混合を用いて R972 を 5wt%と Viscolite を 15wt%充填した硬化体を作製した。その
硬化体からダンベル試料を打ち抜き、200℃に保持した恒温槽に 10 日間(240h)と 20 日間(480h)
吊るしたときの機械的特性を測定した。
その結果を図 4-29 に示す。図 4-29 より R972-Viscolite
系硬化体は、200℃保持時間の増加に伴って弾性率が著しく増加し、破断点伸び率には大きな
変化はなく、破断点強度は僅かに増加する結果となった。4-2 節で示したように、架橋点間分
子量が小さいほど弾性率は高く、判断点伸び率は低い。また、Viscolite を含む硬化体は図 4-18
と図 4-26 に示すように 200℃保持において大きな重量減少を示す。さらに、その主要な分解物
は図 4-23 に示したように、環状シロキサンの D3 成分であるため、PDMS の低分子化が生じてい
ると予期される。以上より、Viscolite を含んだ試料は PDMS の低分子化により架橋点間分量が
低下したことで、弾性率の増加と破断点伸び率の低下が観測されたと考えられる。
elastic modulus [MPa]
3.0
2.0
1.0
0.0
0
100
200
300
aging time at 200℃ [h]
400
500
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
0
100
(b) 破断点強度
図 4-29 200℃保持における R972-Viscolite 系硬化体の機械的特性の変化
88
elongation at break [%]
300
200
100
0
0
100
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
(c) 破断点伸び率
図 4-29 200℃保持における R972-Viscolite 系硬化体の機械的特性の変化(続き)
R972 のみを 10wt%充填した硬化体からダンベル試料を打ち抜き、200℃に保持された恒温槽
に 10 日間(240h)と 20 日間(480h)吊るしたときの機械的特性を測定した。その結果を図 4-30
に示す。図 4-30 より、R972 系硬化体においては 200℃に 20 日間保持しても、機械的特性に大
きな変化は見られなかった。
elastic modulus [MPa]
2.0
1.0
0.0
0
100
200
300
aging time at 200℃ [h]
400
500
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
3.0
2.0
1.0
0.0
0
100
(b) 破断点強度
図 4-30 200℃保持における R972 系硬化体の機械的特性の変化
89
elongation at break [%]
300
200
100
0
0
100
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
(c) 破断点伸び率
図 4-30 200℃保持における R972 系硬化体の機械的特性の変化(続き)
次に、同時混合にて疎水性シリカの R972 と炭酸カルシウムの#1700 または Viscolite を充填
場合の硬化物の機械的特性を図 4-31 に示す。図 4-31 より、R972 のみを 5wt%、10wt%充填した
硬化体と R972 と#1700 または Viscolite をそれぞれ 5wt%、10wt%充填した硬化体はほとんど同
じ機械的特性である。これは、一般的に言われているように、炭酸カルシウム充填材が、補強
材ではなく、嵩増し剤と呼ばれることを支持する結果である。
elastic modulus [MPa]
2.0
1.5
1.0
R972
R972-#1700
R972-Viscolite
R972-#1700 5-15wt%
0.5
0.0
0
5
10
filler loading level [%]
15
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
2.5
2.0
1.5
R972
R972-#1700
R972-Viscolite
R972-#1700 5-15wt%
1.0
0.5
0.0
0
5
10
filler loading level [%]
15
(b) 破断点強度
図 4-31 疎水性シリカと炭酸カルシウム混合時の機械的特性
90
elongation at break [%]
200
150
100
R972
R972-#1700
R972-Viscolite
R972-#1700 5-15wt%
50
0
0
5
10
filler loading level [%]
15
(c) 破断点伸び率
図 4-31 疎水性シリカと炭酸カルシウム混合時の機械的特性(続き)
R972 系硬化体、R972-#1700 系硬化体及び R972-Viscolite 系硬化体から 10mm×10mm(厚さ約
1.5mm)にそれぞれ切り出した試験片を 100℃と 200℃に保持された恒温槽に 20 日間(480 時間)
保持した場合の重量変化を図 4-32 に示す。また、R972 系硬化体、R972-#1700 系硬化体及び
R972-Viscolite 系硬化体から 10mm×10mm(厚さ約 1.5mm)にそれぞれ切り出した試験片を高温
高湿試験に供した場合の重量変化を図 4-33 に示す。図 4-32 より、100℃保持において、
R972-#1700 系硬化体と R972-Viscolite 系硬化体の方が R972 系硬化体より重量減少率が小さい。
200℃保持においては、R972-#1700 系硬化体は R972 系硬化体に比べ重量減少率が小さい。一方、
R972-Viscolite 系硬化体は図 4-26 の結果と同様に著しく重量減少率が大きい。これは
Viscolite の表面処理に使用された脂肪酸によるものと考えられる。また図 4-33 より、密封高
温高湿試験においては R972-#1700 系硬化体と R972-Viscolite 系硬化体は R972 系硬化体より
も重量減少率が小さく、高い耐熱性を有すると考えられる。
residual weight [%]
100
95
R972-5wt%
R972-10wt%
R972-#1700 5-5wt%
R972-#1700 5-15wt%
R972-#1700 10-10wt%
R972-Viscolite 10-10wt%
90
85
80
0
100
200
300
400
aging time at 100℃ [h]
500
(a) 保持温度:100℃
図 4-32 R972 系硬化体、R972-#1700 系硬化体及び R972-Viscolite 系硬化体
の開放乾燥高温下での重量変化
91
residula weight [%]
100
90
R972-5wt%
80
R972-10wt%
R972-#1700 5-5wt%
R972-#1700 5-15wt%
70
R972-#1700 10-10wt%
R972-Viscolite 10-10wt%
60
0
100
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
(b) 保持温度:200℃
図 4-32 R972 系硬化体、R972-#1700 系硬化体及び R972-Viscolite 系硬化体
の開放乾燥高温下での重量変化(続き)
weight loss [%]
25
20
15
10
5
0
%
%
%
%
%
t%
wt
wt
wt
wt
wt
-5w
-10
-10
5-5
-1 5
-10
0
2
72
5
0
0
7
9
1
1
R
70
R9
700
00
li te
-#1
-#1
#17
sco
i
72
2
9
7
2
7
-V
R
R9
72
R9
R9
図 4-33 R972 系硬化体、R972-#1700 系硬化体及び R972-Viscolite 系硬化体
の密封高温高湿下での重量変化
92
4-5 まとめ
本章では、新規な硬化剤を用いた RTV シリコーン組成物において、多種多様な応用用途に応
じて最適な機械的特性および耐熱性を有する材料を設計可能とする指針を得ることを目的と
し、架橋点間分子量の変化させる、あるいは各種充填材を充填した際の硬化体の機械的特性と
耐熱性を評価した。以下に結果をまとめる。
(1) 架橋点間分子量は硬化体の機械的特性に大きく影響した。特に、弾性率及び破断点伸び率
は架橋点間分子量に大きく依存し、架橋点間分子量が小さいほど弾性率が高く、破断点伸
び率が小さい硬化体が得られた。破断点強度は架橋点間分子量にほとんど依存しなかった。
また架橋剤の官能基数も硬化体の機械的特性に影響を与え、3官能の架橋剤を用いると、
4官能の架橋剤を用いた硬化体よりも、弾性率が低く破断点強度が高い硬化体が得られた。
(2) 架橋点間分子量を変化させて作製した未充填の RTV シリコーン硬化体の弾性率は、理論値
とほぼ同じ値を示した。ことことから、作製した硬化体はマクロ的には理想的なネットワ
ークを構築していると考えられ、新規硬化剤の高い触媒能が示唆された。
(3) フィラー充填時の硬化体においても硬化体の架橋が機械的特性に大きく影響することが
わかった。またフィラー充填時においても弾性率及び破断点伸び率は架橋点間分子量に大
きく依存していることが確認された。
(4) 室温硬化型シリコーン組成物においては、疎水性シリカの R972 や R8200 は炭酸カルシウ
ム系の充填材と比較して高い補強効果が得られた。炭酸カルシウム系充填材単独ではシリ
カフィラーほどの補強効果は得られなかった。
(5) 疎水性シリカを充填した硬化体は開放乾燥高温下及び密封高湿高温下においては無充填
の硬化体よりも耐熱性に劣ことが明らかとなった。炭酸カルシウムを充填した硬化体は密
封高湿高温下においては無充填の硬化体より耐熱性が高いが、開放乾燥高温下では脂肪酸
で表面処理をされた Viscolite や白艶華を充填させた硬化体は 200℃保持において著しく
耐熱性が低いことがわかった。
(6) 疎水性シリカと炭酸カルシウム(無処理の乾式粉砕品: #1700、SSB-red、SSB-blue)を組
み合わせることで、高い補強効果を示し、かつ開放乾燥高温下及び密封高湿高温下におい
て高い耐熱性を有する硬化体が作製可能である。
第 4 章の参考文献
章の参考文献
[1] A. A. Askadskii, PHYSICAL PROPERTIES OF POLYMERS-Prediction and Control, Chap. 1
and Chap. 8, Gordon and Breach Publishers (1996)
[2] B. B. BOONSTRA, H. COCHRANE, E. M. DANNENBERG, Rubber Chemistry & Tech, Vol. 48,
p. 561 (1975)
[3] 谷村正満、「シリコーン材料ハンドブック」、p. 12、東レ・ダウコーニング・シリコーン
株式会社s(1993)
93
第 5 章 シリコーン組成物の接着性
5-1 本章の目的
本章では、架橋点間分子量、各種フィラー充填および各種接着性付与剤が、主に接着性に与
える影響について検討を行う。これらの結果より、接着剤としての最適な材料設計の指針を得
ることを目的とする。
5-2 架橋点間分子量と接着性
5-2-1 本実験に用いた材料及び試料作製方法
本実験には、平均分子量 3,000 の両末端 OH 変性 PDMS(KF-9701、信越シリコーン㈱)、平均
分子量 6,000 の両末端 OH 変性 PDMS(DMS-S21、Gelest㈱)
、平均分子量 30,000 の両末端 OH 変
性 PDMS(DMS-S31、Gelest㈱)、平均分子量 50,000 の両末端 OH 変性 PDMS(DMS-S35、Gelest㈱)
、
架橋剤としてシリコンアルコキシドの、テトラメトキシシラン(Tetramethoxysilane: TMOS、
信越シリコーン㈱)もしくはメチルトリメトキシシラン(Methyltrimethoxysilane: MTMS、信
越 シ リ コ ー ン ㈱ )、 硬 化 剤 と し て チ タ ン ア ル コ キ シ ド の チ タ ニ ウ ム テ ト ラ エ ト キ シ ド
、有機添加物としては、DL-リンゴ酸ジエチルエステ
(Tetraethoxytitanium: TTE、メルク㈱)
ル(DL-malicacid diethyl ester: MA、東京化成㈱)を用いた。比較として、有機スズ化合物
のジラウリン酸ジブチルスズ(Dibutyltin Dilaurate: Sn、東京化成㈱)を硬化剤として用い
た。充填材には AEROSIL R972(R972、日本アエロジル㈱)を用いた。用いた材料と略称を表
5-1 に示す。
表 5-1 用いた材料と略称
材料名
PDMS
主剤
(平均分子量 3,000、6,000、
30,000、50,000)
テトラメトキシシラン
架橋剤
メチルトリメトキシシラン
硬化剤
チタニウムテトラエトキシド
有機添加物
DL-リンゴ酸ジエチルエステル
従来(比較)硬化剤 ジラウリン酸ジブチルスズ
シリカ系充填材
AEROSIL R972
略称
PDMS
TMOS
MTMS
TTE
MA
Sn
R972
試料作製方法は 3-3 節に示した図 3-30 と同じである。フィラーの混合方法については、混
合溶液を合成するときに R972 を混合溶液に対して 15wt%混合して撹拌を行った場合と、反応し
た混合溶液をシャーレに注いで硬化過程に供する前に混練機(thinky㈱)を用いて R972 を混
合溶液に対して 10wt%混合した場合の 2 種類がある。混練機による混合は mixing: 2000rpm×
5min とした。
5-2-2 実験結果と考察
PDMS(3000)-MTMS-TTE-MA 1-2-0.05-0.05mol 系混合溶液、PDMS(3000)-MTMS-TTE 1-2-0.05mol
系混合溶液及び PDMS(3000)-MTMS-Sn 100-10-0.5 質量部系混合溶液を用いて接着試料を作製し
た。Sn 系混合溶液については 40℃で 24 時間撹拌後に接着試料を作製した。各混合溶液には R972
が 15wt%充填されている。硬化は 25℃・RH50±10%の雰囲気下で 7 日間放置とした。接着試験
の結果を図 5-1 に、同時に作製した硬化体の機械的特性を表 5-2 に示す。図 5-1 より TTE 系接
着試料が最も接着強度が高い。一方、機械的特性は表 5-2 より TTE 系硬化体に比べ、TTE-MA
系硬化体及び Sn 系硬化体の方が弾性率及び破断点強度ともに高い。TTE 系接着試料は硬化体の
機械的特性が劣るために界面ではなくバルク体が破壊した(凝集破壊)。また、TTE-MA 系硬化
94
体及び Sn 系硬化体は硬化体の機械的特性が優れるために、バルク体ではなく界面が破壊(界
面破壊)した。
adhesive strength [MPa]
1.0
0.8
TTE
TTE-MA
Sn
0.6
0.4
0.2
0.0
図 5-1 PDMS(3000)-MTMS-TTE 系混合溶液、PDMS(3000)-MTMS-TTE-MA 系混合溶液及び
PDMS(3000)-MTMS-Sn 系混合溶液(R972: 15wt%)の接着強度
表 5-2 PDMS(3000)-MTMS-TTE 系硬化体、PDMS(3000)-MTMS-TTE-MA 系硬化体及び
PDMS(3000)-MTMS-Sn 系硬化体(R972: 15wt%)の機械的特性
elastic modulus [MPa] stress at break [MPa] elongation at break [%]
TTE
TTE-MA
Sn
1.3
3.1
2.8
0.7
1.8
1.7
56.7
70.4
77.6
次に PDMS の分子量が 6,000 の、PDMS(6000)-TMOS-TTE-MA 1-4-0.15-0.15mol 系混合溶液、
PDMS(6000)-MTMS-TTE-MA 1-4-0.15-0.15mol 系 混 合 溶 液 及 び PDMS(6000)-MTMS-TTE-MA
1-4-0.1-0.1mol 系混合溶液で作製した接着試料の接着強度を図 5-2 に示す。各混合溶液におい
て R972 を 10wt%充填している。硬化条件は 25℃・RH50±10%の雰囲気下で 7 日間放置とした。
PDMS(6000)-TMOS-TTE-MA 1-4-0.15-0.15mol 系 接 着 試 料 及 び PDMS(6000)-MTMS-TTE-MA
1-4-0.1-0.1mol 系接着試料は凝集破壊の割合が多かった。一方、PDMS(6000)-MTMS-TTE-MA
1-4-0.15-0.15mol 系接着試料は 1 つのサンプルを除き界面破壊であった。破壊形態が凝集破壊
のときは接着強度が高く、界面破壊のときは接着強度が低かった。
95
TMOS-TTE-MA 4-0.15-0.15
MTMS-TTE-MA 4-0.15-0.15
MTMS-TTE-MA 4-0.1-0.1
adhesive strength [MPa]
1.5
1.0
0.5
0.0
図 5-2 PDMS(6000)-TMOS-TTE-MA 1-4-0.15-0.15mol 系混合溶液、PDMS(6000)-MTMS-TTE-MA
1-4-0.15-0.15mol 系混合溶液及び PDMS(6000)-MTMS-TTE-MA 1-4-0.1-0.1mol 系混合溶液
(R972:
10wt%)の接着強度
PDMS の分子量として 30,000、50,000 を用いた混合溶液の接着強度を図 5-3 及び図 5-4 にそ
れぞれ示す。この混合溶液の合成量を表 5-3 に示す。各混合溶液において R972 を 10wt%充填
している。硬化は 25℃・RH50±10%の雰囲気下で 7 日(7d)または 14 日(14d)間放置して行
った。図 5-3 及び図 5-4 より接着強度にばらつきはあるものの、概ね 1 [MPa]の接着強度を有
しており、より低い分子量の PDMS を用いた場合よりも接着強度が高い傾向がある。図 4-11 に
示したように、架橋点間分子量を大きくすると弾性率は低下し、破断点伸び率は大きく増加す
る。接着剤は破壊前に多くのエネルギーを吸収する必要があるため、高いひずみエネルギー密
度を持っていなければならない[1]。そのためシリコーン組成物の場合は高分子量の PDMS を用
いて、バルク体が高いひずみエネルギー密度を持つような材料設計にする必要があると考えら
れる。
Si alkoxide
TMOS(10.15 質量部)
表 5-3 混合溶液の合成量
PDMS の分子量
TTE-MA
30,000
30,000
MTMS(9.08 質量部)
50,000
試料名
1.05 質量部(0.75mol)
P30000-TMOS 1st
1.05 質量部(0.75mol)
0.70 質量部(0.5mol)
1.05 質量部(1.25mol)
0.70 質量部(0.83mol)
P30000-MTMS
P30000-MTMS
P30000-MTMS
P30000-MTMS
96
1st
2nd
1st
2nd
P30000-MTMS 1st 7d
P30000-MTMS 2nd 7d
P30000-TMOS 1st 7d
P30000-MTMS 1st 14d
P30000-MTMS 2nd 14d
P30000-TMOS 1st 14d
adhesive strength [MPa]
1.5
1.0
0.5
0.0
図 5-3 分子量 30,000 の PDMS を用いた混合溶液の接着強度
P50000-MTMS 1st 7d
P50000-MTMS 2nd 7d
P50000-MTMS 1st 14d
P50000-MTMS 2nd 14d
adhesive strength [MPa]
1.5
1.0
0.5
0.0
図 5-4 分子量 50,000 の PDMS を用いた混合溶液の接着強度
97
5-3 各種フィラー充填を充填した硬化体の
各種フィラー充填を充填した硬化体の接着強度
を充填した硬化体の接着強度
5-3-1 本実験に用いた材料及び試料作製方法
本実験の材料には、平均分子量 30,000 の両末端 OH 変性 PDMS(DMS-S31、Gelest㈱)、架橋剤
としてシリコンアルコキシドの、メチルトリメトキシシラン(Methyltrimethoxysilane: MTMS、
信越シリコーン㈱)、硬化剤としてチタンアルコキシドのチタニウムテトラエトキシド
(Tetraethoxytitanium: TTE、メルク㈱)
、有機添加物としては、DL-リンゴ酸ジエチルエステ
ル(DL-malicacid diethyl ester: MA、東京化成㈱)を用いた。フィラーとしてはシリカ系フ
ィラーの AEROSIL R972(R972、日本アエロジル㈱)
、AEROSIL R8200(R8200、日本アエロジル)
と、炭酸カルシウム系フィラーの Viscolite-OS(Viscolite、白石カルシウム㈱)、スーパー#1700
(#1700、丸尾カルシウム㈱)を用いた。表 5-4 に用いた材料と略称を示す。
表 5-4 用いた材料と略称
主剤
架橋剤
硬化剤
有機添加物
シリカ系充填材
炭酸カルシウム系
充填材
材料名
PDMS(平均分子量 30,000)
メチルトリメトキシシラン
チタニウムテトラエトキシド
DL-リンゴ酸ジエチルエステル
AEROSIL R972
AEROSIL R8200
Viscolite-OS
スーパー#1700
略称
PDMS
MTMS
TTE
MA
R972
R8200
Viscolite
#1700
試 料作製 方法は 3-3 節に 示した 図 3-30 と同じ である 。混 合溶液 の合 成量は すべて
PDMS-MTMS-(TTE-MA) 100-9.08-0.70 質量部とした。フィラーの混合方法については、始めに
PDMS とフィラー(シリカ系フィラーもしくは炭酸カルシウム系フィラーを用いた場合とシリカ
系フィラーと炭酸カルシウム系フィラーを同時に混合して用いた場合の 2 種類がある)を混練
機(thinky㈱)を用いて混合後(2000rpm×5min)
、ミキサー(セルマスター、AS ONE㈱)を用
いてせん断応力を加え混合を行った(5000rpm×10min)。得られた混合溶液を図 3-30 に示した
PDMS の代わりに用いて試料を作製した。すべての硬化体は 25℃・RH50±10%雰囲気下で 7 日間
放置して得られたものである。
5-3-2 実験結果と考察
図 5-5 及び図 5-6 に R972 と R8200 の充填量を変化させたときの接着強度をそれぞれ示す。
adhesive strength [MPa]
3.0
凝集
凝集+界面
2.0
1.0
0.0
0
2
4
6
8
filler loading level [%]
10
図 5-5 R972 の充填量を変化させたときの接着強度
図 5-5 より、R972 の充填量の増加に伴って接着強度が増加している。これはバルク体の機械
98
的特性の向上に伴って増加したと考えられる。各接着試料の破壊形態を見ると、凝集破壊のみ
の場合と凝集破壊と界面破壊が混在している場合があり、破壊形態の違いにより接着強度が大
きく異なっていることがわかる。凝集破壊の場合の方が高い接着力を得られていることから、
さらなる接着力向上には、界面での接着力を向上させるような手法の適用が有効と考えられる。
図 5-6 より、R972 の結果と同様に R8200 の充填量の増加に伴って接着強度が増加している。
しかし、R8200 を 20wt%充填した接着試料においては R8200 を 10wt%充填した接着試料と同等か
それ以下の接着強度となっている。破壊形態を比較すると、10wt%充填接着試料は凝集破壊の
割合が多いのに対して、20wt%充填接着試料は凝集破壊と界面破壊が混在したものか界面破壊
のみである。
adhesive strength [MPa]
3.0
凝集
凝集+界面
界面
2.0
1.0
0.0
0
5
10
15
filler loading level [%]
20
25
図 5-6 R8200 の充填量を変化させたときの接着強度
次に、
炭酸カルシウムの#1700 あるいは Viscolite を充填させた接着試料の接着強度を図 5-7
に示す。図 5-7 より、#1700 と Viscolite の充填量の増加に伴って接着強度は僅かに増加して
いるが、シリカ系充填剤と比較して高い接着強度は得られなかった。これは図 4-17 で示した
通り、弾性率および破断点強度の値が、シリカ系充填剤を用いた試料よりも低いことから、高
い接着強度が得られなかったと考えられる。
adhesive strength [MPa]
1.0
#1700
Viscolite
nonfiller
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0
5
10
15
filler loading level [%]
20
25
図 5-7 各種充填量における#1700 系接着試料と Viscolite 系接着試料の接着強度
次に、R972 と#1700 の両方を混合した接着試料の接着強度を図 5-8 に示す。図 5-8 より、R972
及び#1700 の充填量の増加に伴って接着強度が増加している。
また R972 が 5wt%と#1700 が 15wt%
充填させた接着試料の方が R972 と#1700 をそれぞれ 5wt%充填させた接着試料より僅かに接着
99
強度が高い。
adhesive strength [MPa]
P972-#1700
R972-#1700 5-15wt%
3.0
2.0
1.0
0.0
0
5
10
filler loading level [%]
図 5-8 R972-#1700 系接着試料の接着強度
100
15
5-4 接着性付与剤の検討
5-4-1 本実験に用いた材料及び試料作製方法
本実験には、平均分子量 30,000 の両末端 OH 変性 PDMS(DMS-S31、Gelest㈱)
、架橋剤として
シリコンアルコキシドのメチルトリメトキシシラン(Methyltrimethoxysilane: MTMS、信越シ
リ コ ー ン ㈱ )、 硬 化 剤 と し て チ タ ン ア ル コ キ シ ド の チ タ ニ ウ ム テ ト ラ エ ト キ シ ド
(Tetraethoxytitanium: TTE、メルク㈱)
、有機添加物としては、DL-リンゴ酸ジエチルエステ
ル(DL-malicacid diethyl ester: MA、東京化成㈱)を用いた。フィラーとしては AEROSIL R972
(R972、日本アエロジル㈱)、スーパー#1700(#1700、丸尾カルシウム㈱)を用いた。接着性
付与剤としては 3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(メルカプト、信越シリコーン㈱)、
3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(グリシド、関東化学㈱)、3-アミノプロピルト
リメトキシシラン(アミノ、東京化成㈱)を用いた。表 5-5 に用いた材料と略称を示す。
表 5-5 用いた材料と略称
主剤
架橋剤
硬化剤
有機添加物
シリカ系充填材
炭酸カルシウム系
充填材
接着性付与剤
材料名
PDMS(平均分子量 30,000)
メチルトリメトキシシラン
チタニウムテトラエトキシド
DL-リンゴ酸ジエチルエステル
AEROSIL R972
略称
PDMS
MTMS
TTE
MA
R972
スーパー#1700
#1700
3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン
メルカプト
3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン グリシド
3-アミノプロピルトリメトキシシラン
アミノ
試 料作製 方法は 3-3 節に 示した 図 3-30 と同じ である 。混 合溶液 の合 成量は すべて
PDMS-MTMS-(TTE-MA) 100-9.08-0.70 質量部である。フィラーの混合方法については、始めに
PDMS とフィラー(R972 のみを用いた場合と R972 と#1700 を別々に混合した場合の 2 種類があ
る)を混練機(thinky㈱)を用いて混合後(2000rpm×5min)
、ミキサー(セルマスター、AS ONE
㈱)を用いてせん断応力を加え混合を行った(5000rpm×10min)。このようにして得られた混
合溶液を図 3-30 に示した PDMS の代わりに用いて試料を作製した。接着性付与剤はシャーレに
注ぐ前もしくは接着試料作製前に、PDMS 100 質量部に対して 0.5 質量部添加し、その後 40℃
で 15 分間撹拌したものを接着性付与剤添加試料とした。すべての硬化体は 25℃・RH50±10%
雰囲気下で 7 日間放置して得られたものである。
5-4-2 実験結果と考察
始めに、メルカプトを添加した R972 系硬化体(R972: 10wt%充填)と R972-#1700 系硬化体
(R972-#1700: 5-15wt%充填)の機械的特性を図 5-9 に、その接着強度を図 5-10 にそれぞれ示
す。比較として、
メルカプトを添加していない R972 系硬化体と R972-#1700 系硬化体を示した。
図 5-9 より、R972 系硬化体及び R972-#1700 系硬化体の両方において、メルカプトを添加し
たもの添加していないものでは機械的特性に差はほとんど見られない。図 5-10 より、メルカ
プトを添加した接着試料はメルカプトを添加していない接着試料に比べて、接着強度が向上し
ている。また接着試料の破壊形態を見ると、メルカプトを添加した接着試料はすべて凝集破壊
であったのに対して、メルカプトを添加していない接着試料は凝集破壊と界面破壊が混在した
ものや界面破壊のみのものが数多く存在した。このことから、メルカプト基含有アルコキシシ
ランは接着性向上に寄与したと考えられる。
101
elastic modulus [MPa]
1.5
1.0
0.5
R972-10wt%+メルカプト
R972-10wt%
R972-#1700 5-15wt%+メルカプト
R972-#1700 5-15wt%
0.0
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
3.0
2.0
1.0
R972-10wt%+メルカプト
R972-10wt%
R972-#1700 5-15wt%+メルカプト
R972-#1700 5-15wt%
0.0
(b) 破断点強度
elongation at break [%]
300
200
100
R972-10wt%+メルカプト
R972-10wt%
R972-#1700 5-15wt%+メルカプト
R972-#1700 5-15wt%
0
(c) 破断点伸び率
図 5-9 メルカプトを添加した R972 系硬化体及び R972-#1700 系硬化体の機械的特性
102
adhesive strength [MPa]
R972-10wt%+メルカプト
P972-10wt%
R972-#1700 5-15wt%+メルカプト
R972-#1700 5-15wt%
3.0
2.0
1.0
0.0
図 5-10 メルカプトを添加した R972 系硬化体及び R972-#1700 系硬化体の接着強度
R972-10wt%+メルカプト系硬化体、R972-10wt%系硬化体、R972-#1700 5-15wt%+メルカプト系
硬化体及び R972-#1700 5-15wt%系硬化体から 10mm×10mm(厚さ約 1.5mm)にそれぞれ切り出し
た試験片を、100℃と 200℃に保持された恒温槽に 20 日間(480 時間)保持したときの重量変
化を図 5-11 に示す。また、R972-10wt%+メルカプト系硬化体、R972-10wt%系硬化体、R972-#1700
5-15wt%+メルカプト系硬化体及び R972-#1700 5-15wt%系硬化体から 10mm×10mm(厚さ約 1.5mm)
にそれぞれ切り出した試験片を高温高湿試験に供した場合の重量変化を図 5-12 に示す。
図 5-11 より、R972 系硬化体及び R972-#1700 系硬化体の両方において、メルカプトを添加し
た硬化体は添加していない硬化体に比べて 100℃保持、200℃保持ともに重量減少が大きくなっ
ている。特にメルカプトを添加した R972 系硬化体は著しい重量減少を示している。また、図
5-12 より、密封高湿高温試験においてメルカプトを添加した硬化体と添加していない硬化体を
比較すると、重量減少に大きな差は見られなかった。
residual weight [%]
100
90
80
70
R972-10wt%+メルカプト
R972 10wt%
R972-#1700 5-15wt%+メルカプト
R972-#1700
60
50
0
100
200
300
400
aging time at 100℃ [h]
(a) 保持温度:100℃
103
500
residual weight [%]
100
90
80
70
R972-10wt%+メルカプト
R972 10wt%
R972-#1700 5-15wt%+メルカプト
R972-#1700
60
50
0
100
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
(b) 保持温度:200℃
図 5-11 R972-10wt%+メルカプト系硬化体、R972-10wt%系硬化体、R972-#1700+メルカプト系
硬化体及び R972-#1700 系硬化体の開放乾燥高温下での重量変化
weight loss [%]
25
20
15
10
5
0
ト
プト
wt%
wt%
カプ
ルカ
2-10
5-15
メル
7
メ
0
+
+
9
0
R
7
t%
wt%
2-#1
15w
2-10
R97
0 50
R97
7
2-#1
R97
図 5-12 R972-10wt%+メルカプト系硬化体、R972-10wt%系硬化体、R972-#1700+メルカプト系硬
化体及び R972-#1700 系硬化体の密封高湿高温下での重量変化
図 5-11 に示した開放乾燥高温試験において重量減少に違いが見られたことから、GC-MS を用
いて硬化体からの熱分解揮発成分を調査した。測定した硬化体は開放乾燥高温試験前後の
R972-10wt%+メルカプト硬化体である。図 5-13 と図 5-14 に開放乾燥高温試験前と試験後の
R972-10wt%+メルカプト硬化体の熱分解結果をそれぞれ示す。
図 5-13 より、200℃熱分解と 300℃熱分解による揮発成分には D3 がほとんど含まれていない。
D4 以降の環状シロキサンはポリマーの中に最初から含まれていた可能性がある。以上のことか
ら、開放乾燥高温試験前の R972-10wt%+メルカプト系硬化体は 200℃と 300℃の熱分解ではほと
んど分解は起こらず、ポリマーの中に最初から含まれていた環状シロキサンが揮発成分として
検出されたと考えられる。
104
absolute intensity [a.u.]
2.0E+06
R972 10wt%+メルカプト-200℃熱分解
1.5E+06
D6
1.0E+06
5.0E+05
D4
D5
0.0E+00
0
5
10
15
retention time [min]
20
25
(a) 200℃熱分解による揮発成分
absolute intensity [a.u.]
2.0E+06
R972 10wt%+メルカプト-300℃熱分解
1.5E+06
1.0E+06
5.0E+05
0.0E+00
0
5
10
15
retention time [min]
20
25
(b) 300℃熱分解による揮発成分
図 5-13 開放乾燥高温試験前の R972-10wt%+メルカプト系硬化体の熱分解結果
absolute intensity [a.u.]
2.0E+06
R972 10wt%+メルカプト-100℃20d-300℃熱分解
1.5E+06
1.0E+06
5.0E+05
D3
D4
0.0E+00
0
5
10
15
retention time [min]
20
(a) 100℃・480 時間後の硬化体の 300℃熱分解による揮発成分
105
25
absolute intensity [a.u.]
2.0E+06
R972 10wt%+メルカプト0.5-200℃20d-300℃熱分解
1.5E+06
1.0E+06
5.0E+05
D4
D3
0.0E+00
0
5
10
15
retention time [min]
20
25
(b) 200℃・480 時間後の硬化体の 300℃熱分解による揮発成分
図 5-14 開放乾燥高温試験後の R972-10wt%+メルカプト系硬化体の熱分解結果
図 5-14 より開放乾燥高温試験後の硬化体からは D3 成分が検出されている。これは図 5-11
の 100℃保持、200℃保持ともに重量減少が他の硬化体より大きくなっている要因が D3 の生成
を伴う熱分解であることを示唆している。
次に、R972-10wt%+メルカプト系混合溶液及び R972-#1700 5-15wt%+メルカプト系混合溶液を
25℃・RH50±10%に 7 日間放置して得られた硬化体からダンベル試料を打ち抜き、200℃に保持
した恒温槽に 7 日間(168h)と 20 日間(480h)吊るしたときの機械的特性を図 5-15 に示す。
ただし、R972-#1700 5-15wt%+メルカプト系硬化体は 200℃・7 日間のみの機械的特性結果であ
る。図 5-15 より、R972-10wt%+メルカプト系硬化体は 200℃保持時間の増加に伴って弾性率が
増加し、破断点強度は 7 日後と 20 日後に変化は見られないが 200℃保持前よりは増加している。
破断点伸び率には変化は見られない。また、R972-#1700 5-15wt%+メルカプト系硬化体は 7 日
後には弾性率は僅かに減少し、破断点強度は少し増加し、破断点伸び率は大きく増加している。
R972-10wt%+メルカプト系硬化体において弾性率と破断点強度が増加したのは、硬化反応が
進行したことによると考えられる。これは、熱劣化前の試料の GC-MS の結果から、熱劣化の際
の主成分と言われる D3 成分がほとんど検出されないことから推測される。この試料の高温保
持時の重量減少は大きいことは、機械的特性の低下を伴わない劣化、すなわち、架橋に寄与し
ない遊離したシリコーンの劣化によるものと考えられる。
elastic modulus [MPa]
2.0
1.5
1.0
0.5
R972-10wt%+メルカプト
R972-#1700 5-15wt%+メルカプト
0.0
0
100
200
300
aging time at 200℃ [h]
(a) 弾性率
106
400
500
stress at break [MPa]
4.0
3.0
2.0
1.0
R972-10wt%+メルカプト
R972-#1700 5-15wt%+メルカプト
0.0
0
100
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
(b) 破断点強度
elongation at break [%]
400
300
200
100
R972-10wt%+メルカプト
R972-#1700 5-15wt%+メルカプト
0
0
100
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
(c) 破断点伸び率
図 5-15 200℃保持における R972-10wt%+メルカプト系硬化体及び
R972-#1700 5-15wt%+メルカプト系硬化体の機械的特性の変化
R972-10wt%+メルカプト系接着試料と R972-10wt%系接着試料を 25℃・RH50±10%に 7 日間放
置してから、200℃に保持された恒温槽の中に 10 日間(240)と 20 日間(480)放置した場合
の接着強度の変化を図 5-16 に、同様の試験をした R972-#1700 5-15wt%系接着試料の接着強度
変化を図 5-17 にそれぞれ示す。図 5-16 より、R972-10wt%+メルカプト系接着試料と R972-10wt%
系 接 着 試 料 は と もに 200 ℃ に 保 持 さ れ て も 接 着強 度 に 変 化 は 見 ら れなか っ た 。 ま た 、
R972-10wt%+メルカプト系接着試料の破壊形態は 200℃保持前と保持後ともにすべて凝集破壊
であったが、R972-10wt%系接着試料の破壊形態は凝集破壊と界面破壊が混在したものや界面破
壊のみのものが数多く存在した。そのため、メルカプトを添加した接着試料は添加していない
接着試料より接着強度が高い。図 5-17 より、R972-#1700 5-15wt%+メルカプト系接着試料も同
様に 200℃に保持されても接着強度に大きな変化は見られなかった。破壊形態は、凝集破壊の
ものが比較的多かったが、凝集破壊と界面破壊が混在したものも少し存在していた。そのため、
接着強度に少しばらつきが見られた。
107
adhesive strength [MPa]
3.0
2.0
1.0
R972-10wt%+メルカプト
R972-10wt%
0.0
0
100
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
図 5-16 200℃保持における R972-10wt%+メルカプト系硬化体及び
R972-10wt%系硬化体の接着強度の変化
adhesive strength [MPa]
3.0
2.0
1.0
R972-#1700 5-15wt%+メルカプト
0.0
0
100
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
図 5-17 200℃保持における R972-#1700 5-15wt%+メルカプト系硬化体の接着強度の変化
次にグリシドを添加した R972 系硬化体(R972: 10wt%充填)と R972-#1700 系硬化体
(R972-#1700: 5-15wt%充填)の機械的特性を図 5-18 に、その接着強度を図 5-19 にそれぞれ
示す。
比較として、グリシドを添加していない R972 系硬化体と R972-#1700 系硬化体を用いた。
図 5-18 より、R972 系硬化体及び R972-#1700 系硬化体の両方において、グリシドを添加した硬
化体と添加していない硬化体では機械的特性に差はほとんど見られない。図 5-19 より、グリ
シドを添加した接着試料は接着強度にばらつきはあるものの、グリシドを添加していない接着
試料よりも接着強度が高い傾向にある。また破壊形態を見ると、グリシドを添加したもの接着
試料は凝集破壊の割合が比較的多かったが、グリシドを添加していない接着試料は凝集破壊と
界面破壊が混在したものや界面破壊のみのものがほとんどであった。このことから、グリシド
基含有アルコキシシランは接着性向上に寄与したと考えられる。
108
elastic modulus [MPa]
2.0
1.5
1.0
R972-10wt%+グリシド
R972-10wt%
R972-#1700 5-15wt%+グリシド
R972-#1700 5-15wt%
0.5
0.0
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
3.0
2.0
1.0
R972-10wt%+グリシド
R972-10wt%
R972-#1700 5-15wt%+グリシド
R972-#1700 5-15wt%
0.0
(b) 破断点強度
elongation at break [%]
300
200
100
R972-10wt%+グリシド
R972-10wt%
R972-#1700 5-15wt%+グリシド
R972-#1700 5-15wt%
0
(c) 破断点伸び率
図 5-18 グリシドを添加した R972 系硬化体及び R972-#1700 系硬化体の機械的特性
109
adhesive strength [MPa]
R972-10wt%+グリシド
R972-10wt%
R972-#1700 5-15wt%+グリシド
R972-#1700 5-15wt%
3.0
2.0
1.0
0.0
図 5-19 グリシドを添加した R972 系硬化体及び R972-#1700 系硬化体の接着強度
次に、R972-10wt%+グリシド系硬化体、R972-10wt%系硬化体、R972-#1700 5-15wt%+グリシド
系硬化体及び R972-#1700 5-15wt%系硬化体から 10mm×10mm(厚さ約 1.5mm)にそれぞれ切り出
した試験片を 100℃と 200℃に保持された恒温槽に 20 日間(480 時間)保持し、そのときの重
量変化を図 5-20 に示す。
また、R972-10wt%+グリシド系硬化体、R972-10wt%系硬化体、R972-#1700
5-15wt%+グリシド系硬化体及び R972-#1700 5-15wt%系硬化体から 10mm×10mm(厚さ約 1.5mm)
にそれぞれ切り出した試験片を高温高湿試験に供した場合の重量変化を図 5-21 に示す。
図 5-20 より、R972 系硬化体及び R972-#1700 系硬化体の両方において、グリシドを添加した
硬化体は添加していない硬化体に比べて 100℃保持、200℃保持ともに重量減少が少なくなって
いる。また図 5-21 より、密封高温高湿試験においてグリシドを添加した R972 系硬化体は添加
していない硬化体に比べて、重量減少が小さくなる傾向がある。
residual weight [%]
100
90
R972-10wt%+グリシド
R972 10wt%
R972-#1700 5-15wt%+グリシド
R972-#1700
80
0
100
200
300
400
aging time at 100℃ [h]
(a) 保持温度:100℃
110
500
residual weight [%]
100
90
R972-10wt%+グリシド
R972 10wt%
R972-#1700 5-15wt%+グリシド
R972-#1700
80
0
100
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
(b) 保持温度:200℃
図 5-20 R972-10wt%+グリシド系硬化体、R972-10wt%系硬化体、R972-#1700 5-15wt%+グリシ
ド系硬化体及び R972-#1700 5-15wt%系硬化体の開放乾燥高温下での重量変化
weight loss [%]
25
20
15
10
5
0
%+
0w t
1
2
R97
t%
シド
シド
wt%
グリ
-15w
2-10
+グリ
5
7
0
%
9
t
R
70
-15w
2-#1
00 5
R97
7
1
#
2R97
図 5-21 R972-10wt%+グリシド系硬化体、R972-10wt%系硬化体、R972-#1700 5-15wt%+グリシ
ド系硬化体及び R972-#1700 5-15wt%系硬化体の密封高湿高温下での重量変化
R972-#1700 5-15wt%+グリシド系混合溶液及び R972-#1700 系混合溶液を 25℃・RH50±10%に
7 日間放置して得られた硬化体からダンベル試料を打ち抜き、200℃に保持した恒温槽に 10 日
間(240h)と 20 日間
(480h)
吊るしたときの機械的特性を図 5-22 に示す。図 5-22 より、R972-#1700
5-15wt%+グリシド系硬化体と R972-#1700 系硬化体はともに 200℃に 10 日間保持後の機械的特
性は破断点強度はほぼ一定であるが、弾性率が減少し、破断点伸び率は増加する傾向にある。
200℃保持 10 日後と 20 日後を比較すると、弾性率、破断点強度及び破断点伸び率に大きな変
化は見られない。また R972-#1700 系硬化体の方が弾性率が低く、破断点伸び率が大きくなっ
ている。
111
elastic modulus [MPa]
2.0
R972-#1700 5-15wt%+グリシド
R972-#1700 5-15wt%
1.0
0.0
0
100
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
(a) 弾性率
stress at break [MPa]
3.0
2.0
1.0
R972-#1700 5-15wt%+グリシド
R972-#1700 5-15wt%
0.0
0
100
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
(b) 破断点強度
elongation at break [%]
400
300
200
100
R972-#1700 5-15wt%+グリシド
R972-#1700 5-15wt%
0
0
100
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
(c) 破断点伸び率
図 5-22 200℃保持における R972-#1700 5-15wt%+グリシド系硬化体及び
R972-#1700 5-15wt%系硬化体の機械的特性の変化
R972-#1700 5-15wt%+グリシド系接着試料を 25℃・RH50%±10%に 7 日間放置してから、200℃
に保持された恒温槽の中に 10 日間(240)と 20 日間(480)放置した後の接着強度の変化を図
5-23 に示す。図 5-23 より、200℃に保持されても接着強度に大きな変化は見られなかった。破
壊形態は、凝集破壊のものが比較的多かったが、凝集破壊と界面破壊が混在したものも少し存
112
在していた。そのため、接着強度に少しばらつきが見られた。
adhesive strength [MPa]
3.0
2.0
1.0
R972-#1700 5-15wt%+グリシド
0.0
0
100
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
図 5-23 200℃保持における R972-#1700 5-15wt%+グリシド系硬化体の接着強度の変化
次にアミノを添加した R972 系硬化体(R972: 10wt%充填)の機械的特性を図 5-24 に、その
接着強度を図 5-25 にそれぞれ示す。比較として、アミノを添加していない R972 系硬化体を用
いた。図 5-24 より、アミノを添加した硬化体はアミノを添加していない硬化体よりも、弾性
率及び破断点強度ともに低い結果となった。図 5-25 より、同様にアミノを添加した接着試料
はアミノを添加していない接着試料よりも、接着強度が低い。この結果から、チタンアルコキ
シドを用いた室温硬化型シリコーン組成物にアミノ基含有アルコキシシランを添加すると、硬
化阻害を引き起こすことが示唆される。
elastic modulus [MPa]
1.5
1.0
0.5
R972-10wt%+アミノ
R972-10wt%
0.0
(a) 弾性率
113
stress at break [MPa]
3.0
2.0
1.0
R972-10wt%+アミノ
R972-10wt%
0.0
(b) 破断点強度
elongation at break [%]
300
200
100
R972-10wt%+アミノ
R972-10wt%
0
(c) 破断点伸び率
図 5-24 アミノを添加した R972 系硬化体の機械的特性
adhesive strength [MPa]
2.0
R972-10wt%+アミノ
R972-10wt%
1.0
0.0
図 5-25 アミノを添加した R972 系硬化体の接着強度
次に、R972-10wt%+アミノ系硬化体、R972-10wt%系硬化体から 10mm×10mm(厚さ約 1.5mm)
にそれぞれ切り出した試験片を 100℃と 200℃に保持された恒温槽に 20 日間(480 時間)保持
し、そのときの重量変化を図 5-28 に示す。図 5-26 より、R972-10wt%+アミノ系硬化体の方が、
R972-10wt%系硬化体よりも 100℃保持と 200℃保持ともに重量減少が少なくなっている。これ
は図 5-24 と 5-25 の結果より、アミノ基含有アルコキシシランが添加されると硬化阻害を引き
114
起こすことから、活性なチタンアルコキシドが減少し分解に寄与するものが少なくなったため
と考えられる。
residual weight [%]
100
90
R972-10wt%+アミノ
R972 10wt%
80
0
100
200
300
400
aging time at 100℃ [h]
500
(a) 保持温度:100℃
residual weight [%]
100
90
R972-10wt%+アミノ
R972 10wt%
80
0
100
200
300
400
aging time at 200℃ [h]
500
(b) 保持温度:200℃
図 5-26 R972-10wt%+アミノ系硬化体及び R972-10wt%系硬化体
の開放乾燥高温下での重量変化
115
5-5 まとめ
本章では、架橋点間分子量の変化に伴う接着性の変化、各種フィラー充填による接着性の変
化及び各種接着性付与剤に関する検討を行った。その結果を以下にまとめる。
(1) 架橋点間分子量の変化に伴って接着強度は増加する。これは PDMS の分子量が増加するこ
とで破断点伸び率が増加し、バルク体が高いひずみエネルギー密度を持つようになるため
であると考えられる。
(2) 疎水性シリカの R972 や R8200 の充填量を増加させると、バルク体の機械的特性が向上す
るために接着強度は大きく増加する。一方、炭酸カルシウムは充填量を増加させても、バ
ルク体の機械的特性向上にあまり寄与しないために接着強度は増加しない。また、R972
や R8200 の充填量の増加に伴いバルク体の機械的特性が向上すると、界面との接着性が重
要になる。
(3) チタンアルコキシドと有機添加物を硬化剤に用いた室温硬化型シリコーン組成物におい
ては、メルカプト基含有アルコキシシランとグリシド基含有アルコキシシランは接着性向
上に寄与したが、アミノ基含有アルコキシシランに関しては硬化性を阻害した。
第 5 章の参考文献
[1] Alphonsus V. Pocius,「接着剤と接着技術入門」, p. 136,日刊工業新聞社 (1999)
[2]「室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物」, 特開平 9-241509
116
第6章
第6章 二座配位系硬化剤の設計とその触媒能の評価
6−1 二座配位系硬化剤の設計
6−1−1 背景
本章では、前章までに評価した一座配位系の硬化剤にかわって二座配位系の硬化剤を設計し、
その評価を行った。二座配位系の硬化剤を検討した理由を以下に示す。
3 章で開発したチタンアルコキシドにカルボン酸エステルが配位した、いわゆる一座配位系
硬化剤は、硬化体における接着性、機械的性質並びに高温高湿環境下における特性が、従来型
硬化触媒に比べて優れていた。この一座配位系硬化剤を、実用化を目指して RTV 樹脂(シリ
コーン、変成シリコーンやウレタン樹脂)に適用した場合、より製品状態に近い視点が重要に
なる。一般に、RTV 樹脂は主に接着剤、シーリング材や塗料に応用される。このような分野
では、商品陳列期間にてカートリッジ内で既に硬化が生じたり、初期硬化速度が得られなくな
るなどの事象は、品質保証の視点で問題となる。このような品質保証を行うために、2つの指
針がある。一つは指触乾燥時間(tack-free-time: TFT)[1]である。これは、調合材料が湿気を
含む空気中に晒されたとき、材料表面に触れた指に材料がつかなくなるまでの時間のことであ
り、硬化剤の活性の目安となる。一方、貯蔵安定性は、統一的な試験法が無く、メーカーごと
に試験条件が決められている。多くは、調合材料を 50℃以上の高温状態に1週間前後保持し
た後の TFT の変化を指標とする。この貯蔵安定性試験負荷は1年程度の商品陳列を想定した
条件である。当然のことながら、好ましくは貯蔵安定性負荷試験後でも TFT が全く変化しな
いことである。
RTV 樹脂用硬化剤の製品への適用を考えた場合、上記2点に目線を置いた開発が重要であ
る。この観点から、前章までに開発した一座配位系硬化剤を用いて貯蔵安定性を評価した結果
を図 6-1 に示す。主剤として、変性シリコーンの一種である反応性シリル基末端ポリアクリレ
ートを含有したアルコキシシリル末端ポリオキシプロピレンを使用し、チタンアルコキシドと
してチタニウムテトライソプロポキシド(TTiP)、ヒドロキシカルボン酸エステルとしてクエ
ン酸トリエチル(CAtE)を用いた。図 6-1(a)に示すように、貯蔵後の TFT が悪化しているこ
とがわかる。さらに、図 6-1(b)に示すように、貯蔵後の液状物を硬化させたものは、接着強度
が低下することが分かる。
initial
tack free time [min]
60
stored
50
40
30
20
10
0
0
1
2
molar ratio of CAtE to TTiP
(a) TFT の貯蔵安定性
図 6-1 一座配位系の硬化剤を用いた硬化体の貯蔵安定性の評価
117
adhesive strength [MPa]
initial
1
stored
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
1
molar ratio of CAtE to TTiP
2
(b)接着強度の貯蔵安定性
図 6-1 一座配位系の硬化剤を用いた硬化体の貯蔵安定性の評価(続き)
貯蔵安定性の悪さは、用いた一座配位系の硬化剤の安定性に関係していると考え、一座配位
系の硬化剤の安定性について検討した。図 6-2 は作製した硬化剤を空気中に曝した際の FT-IR
の測定結果を示す。図 6-2 より、空気中に 5 分間曝しただけで、一座配位を形成した際に観測
される 1680cm-1 のピークが減少し、カルボニル基に起因する 1700cm-1 付近のピークが増加し
ていることがわかる。このことから、チタンアルコキシドから有機化合物が遊離し、フリーな
有機化合物が増加したことが示唆される。以上より、試料作製中に入り込んだ微量の水により、
硬化剤が加水分解することで触媒能を失活したことが、貯蔵安定性の悪化を引き起こしたと推
定され、一座配位系硬化剤の水に対する反応性の高さが、触媒失活を引き起こすという課題が
明らかとなった。
TTE-MA=1:1
absorbance [a.u.]
TTE:MA=1:1 exposed to air for 5min
2000
1800
1600
1400
1200
1000
800
600
400
Wavenumber [cm-1 ]
図 6-2 一座配位系硬化剤を空気中に曝した場合の FT-IR スペクトル
以上を踏まえて、製品への応用を考えた場合、より水に対して安定である二座配位系の硬化
剤が望ましいとの考えのもと、次に示す硬化剤の設計を行った。
6−1−2 硬化剤の設計
硬化剤の設計
背景で記述したように、チタンアルコキシドを基本とする硬化剤において、一座配位系硬化
剤は貯蔵安定性が悪い。先ず、貯蔵安定性を保証するには、チタンキレート系硬化剤が市販さ
れているように、アセト酢酸エチル(EAcAC)等の二座配位子をチタンアルコキシドに配位させ、
硬化剤が吸湿して失活することを防ぐことが重要と考えた。
しかし、
第 3 章で検討したように、
118
二座配位したチタンアルコキシドは一座配位系の硬化剤と比較して触媒活性が低い。これは、
第 3 章で示したように、二座配位系硬化剤が PDMS の高分子化に寄与するために必要な、配
位・脱離の過程のうち、脱離の性能に課題を残すからと考えられる。一座配位系の触媒活性の
高さは、求電子攻撃を強める中心金属の Ti の電子欠乏状態に起因すると考えられるが、これ
が硬化剤の不安定さも引き起こしていると考えられる。このジレンマを解決する手段として、
硬化助剤の添加を検討した。図 6-3 に二座配位系の硬化剤の設計思想を示す。
有機スズ系化合物とその硬化助剤アミノシランの組み合わせが、優れた貯蔵安定性と高い触
媒活性を有する理由は、アミノシラン化合物にあると考えた。6−2 節で述べるアミノシラン化
合物として、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(amSi)を対象として、アミノシラン化合物
の役割を表 6−1 のように考えた。3 つのメトキシ基末端は水分と反応することから、貯蔵安定
性に寄与し、他端にある 1 つのアミノ基は反応場の pH 調整の役割をし、触媒活性を高めてい
る可能性がある。従って、図 6−3(c)に示す硬化助剤を適切に選択することにより、貯蔵安定性
と触媒活性を制御する、すなわち二座配位系硬化剤の課題と考えられる脱離の過程を促進する
ことが可能であると考えた。この場合、貯蔵安定性を得るための物質として、硅素にメトキシ
基やエトキシ基が結合したメチルトリエトキシシラン(MTES)やメチルトリメトキシシラン
(MTMS)が候補として考えられる。pH 調整もしくは触媒活性を高めるために、チタンキレ
ート系硬化剤を失活させない酸として蟻酸、また塩基性化合物としてグアニジン化合物が挙げ
られる。本論文では塩基性のグアニジン化合物を用いた。
次節以降に、二座配位系硬化剤と硬化助剤との組み合わせを検討した結果を示す。
Me Me Me: Ti, Zrなどの金属 :エチルアセトアセテート :アルコキシド (a) 金属アルコキシド (b) キレート化した金属アルコキシド Me + 硬化助剤 :エチルアセトアセテート (c) 貯蔵安定性と触媒活性を有する二座配位硬化剤 図 6-3 貯蔵安定性と触媒活性を有する二座配位硬化剤の設計に向けて
表 6−1 アミノシラン化合物の役割と適切な硬化助剤の選択に向けて
119
6−2 本実験に用いた材料及び試料作製方法
第 6 章で対象とする主剤は、シリコーン、変成シリコーンおよびウレタンポリマーである。
・主剤
(1)シリコーン
平均分子量(Mw)が 1,000 である両末端シラノール変性ポリジメチルシロキサン(「PDMS、
X-21-5841、信越シリコーン株式会社製」を用いた。架橋剤は、メチルトリメトキシシラン
(MTMS、信越シリコーン株式会社製)である。
(2)変成シリコーン(反応性ケイ素基を有する有機重合体)
Mw が 2,900 であるアルコキシシリル基含有アクリル系ポリマー(ARUFON US-6170、Si
基数:0.5/MN、東亞合成株式会社製)あるいは、反応性シリル基末端ポリアクリレートを含
有したアルコキシシリル末端ポリオキシプロピレンを用いた。前者は、耐久性(耐候性、耐熱
性、耐繰返し弾性疲労)、耐汚染性、耐ブリード性、破断点伸び率を向上させるアクリル系可
塑剤として製品化されているものである[5]。
(3)ウレタン樹脂
二液混合型粘着性無黄変低硬度ウレタン(商品名:セフタック A30-NY)を対象とした。こ
のウレタン樹脂は、ポリオールがポリプロピレン系ポリオール(PPG、ウレタン技研工業株式
会社製)であり、イソシアネートが脂肪族系イソシアネートを主成分とする(DIC、ウレタン
技研工業株式会社製)ものである。
・硬化剤
チタンアルコキシドには、チタニウムテトライソプロポキシド(TTiP、関東化学株式会社製)
を用いた。チタンアルコキシドに配位するキレート化剤として、アセト酢酸エチル(EAcAc、
関東化学株式会社製)、アセチルアセトン(acac、関東化学株式会社製)およびマロン酸ジメ
チル(DM、東京化成工業株式会社製)を用いた。グアニジン化合物として、1、1、3、3-テト
ラメチルグアニジン(TMG、東京化成工業株式会社製)を用いた。
比較のため、既存の硬化剤として、ジラウリン酸ジブチル錫(DBTDL、東京化成工業株式
会社)およびチタンジイソプロポキシドビスエチルアセトアセテート(商品名:オルガチック
ス TC-750、マツモトファインケミカル株式会社製)を用いた。一座配位系硬化剤を比較と
して用いるために、一座配位系剤としてカルボン酸エステルであるクエン酸トリエチル(CAtE、
東京化成工業株式会社製)を用いた。用いた硬化剤とそれらを構成する材料を表 6−2 に掲げる。
表 6-2 用いた硬化剤、キレート剤および硬化助剤
二座配位系硬化剤
チタンアルコキシド 配位するキレート剤
TTiP
EAcAc
acac
DM
有機スズ硬化剤
硬化助剤
TMG
DBTDL
一座配位系硬化剤
一座配位系剤
CAtE
・供試試料の作製
供試試料の作製方法
作製方法
図 6-4 は供試試料の作製手順を示す。乾燥窒素ガスを流した状態のグローブボックス内にて
チタンアルコキシド 1 mol と配位子 2 mol をスクリュー管に投入し、温度 25 ℃で 30 分間撹
拌する。その後、再びグローブボックス内にて硬化助剤として TMG を所定量添加し、さらに
30 分間撹拌したものを硬化剤とした。この硬化剤を所定の主剤と配合した後、必要に応じて
硬化助剤を添加し、混練機により mixing: 2000 rpm×5 min、 defoaming: 1500 rpm×2 min
で遊星撹拌を行った。この混合物を温度 23±2 ℃の雰囲気下で 1 時間以上静置したものを供
試試料とした。
120
図 6-4 硬化剤の作成と供試試料の作製方法
6−3 実験結果と考察
実験結果と考察
6−3−1 チタンキレート剤の効果
TTiP(1 mol)と acac (2 mol)または EAcAc(2 mol)からなる二座配位系の(TTiP+ acac)系及び
(TTiP+EAcAc)系硬化剤に硬化助剤として TMG を併用したとき、主剤の高分子化に寄与する
効果を明らかにすることとした。準備した硬化剤に MTMS または PDMS を投入し、乾燥窒素
ガス中もしくは空気に晒したとき、反応に係る官能基の変化を FT-IR を用いて調べた。実施し
た3つの実験を以下に示す。
【実験1】
硬化剤の作製方法と同様に、乾燥窒素ガスを流した状態のグローブボックス内にて、TTiP
と配位子 EAcAc または acac を容積 13.5cc のガラス製スクリュー管に投入し、温度 25 ℃で
30 分間マグネット撹拌子によって撹拌したものを硬化剤とした。
【実験1】では、この硬化剤にシリコンアルコキシドとしてメチルトリメトキシシラン
(MTMS, 信越シリコーン㈱)5 g を投入し、更に 30 分撹拌した。
【実験1】に用いた MTMS
5 g に対する(TTiP+ligand)の配合量を表 6−3 に掲げる。
表 6−3 実験その 1 に用いた MTMS 5 g に対する(TTiP+ligand)の配合量
分子量
モル比率
重量[g]
MTMS
136.2
1
5
TTiP
284.232
0.025
0.261
EAcAc
130.14
0.05
0.239
acac
100.13
0.05
0.184
作製した混合溶液を FT-IR の測定部に展開(open:空気に晒す)し、反応挙動をリアルタイム
に追跡した。すなわち、【実験1】は大気暴露雰囲気下(open)におけるアルコキシシリル基
と硬化剤の振る舞いを模擬しており、主に系の反応速度の検証を目的とした。
図 6-5 に、MTMS-TTiP 系、MTMS-(TTiP+acac)系及び MTMS-(TTiP+EAcAc)系試料の FT-IR
測定結果を示す。全体を通して、アルコキシシリル(Si-OR)基の存在に起因する 800 cm-1 前
後及び 1090 cm-1 付近のピーク[6]が減少し、Si-O-Si 結合に起因する 1030 cm-1 付近のピーク
が増大しているが、同時に着目すべきは Si-O-Ti 結合に起因する 920 cm-1 付近のピーク[7]で
ある。チタン系硬化剤を適用したシリコンアルコキシドの縮合反応は、チタンアルコキシドの
加水分解と Si-O-Ti 結合の形成を介して進行する[8]。よって、
上述のような Si-OR 基と Si-O-Si
基のピークの変化と Si-O-Ti 結合の形成は架橋反応の進行を意味する。よって、Si-O-Ti 結合
の形成度合いが系の反応速度を支配しているとも考えられる。空気中に放置された解放時間に
対して、Si-OR 基による吸収ピークの減少と Si-O-Ti 結合の吸収ピークの増加が早いほど反応
121
速度が速いと考えられる。比較のため、図 6-5 の各混合溶液の、開放 5 分後の FT-IR 測定結果
を図 6-6 にまとめる。920 cm-1 付近のピークに着目すると、その強度は MTMS-TTiP 系
>MTMS-(TTiP+EAcAc)系>MTMS-(TTiP+acac)系試料の順で弱くなっている。
TTiP_1min
TTiP_20min
absorbance [a.u.]
TTiP_0min
TTiP_5min
850 900
900 950
950 1000
1000
1000 1050 1100 1150
700 750 800 850
-1]
wave number
number [cm-1]
wave
[cm-1]
(a) MTMS-TTiP 系
TTiP-acac_1min
TTiP-acac_20min
absorbance [a.u.]
TTiP-acac_0min
TTiP-acac_5min
1000
1000 1050 1100 1150
700 750 800 850
850 900 950 1000
-1]
wave number [cm-1]
wave
[cm-1]
(b) MTMS-(TTiP+acac)系
TTiP-EAcAc_1min
TTiP-EAcAc_20min
absorbance [a.u.]
TTiP-EAcAc_0min
TTiP-EAcAc_5min
950 1000
1000
1000 1050 1100 1150
700 750 800 850
850 900
900 950
-1]
wave number [cm-1]
wave
[cm-1]
(c) MTMS-(TTiP+EAcAc)系
図 6−5 実験1:MTMS-(TTiP+ligand)系試料の室温放置経過時間に対する赤外線吸収スペク
トルの変化(Ligand: (a) なし、(b) acac、 (c) EAcAc ただし TTiP:ligand= 1:2(モル比))
122
absorbance [a.u.]
TTiP_5min
TTiP-EAcAc_5min
TTiP-acac_5min
700 750 800 850
850 900
900 950
950 1000
1000 1050 1100 1150
-1]
wavenumber
number[cm-1]
wave
[cm-1]
図 6-6 実験 1:MTMS-(TTiP+ligand)系試料の室温放置 5 分後における赤外線吸収スペクトル
(ligand: なし、 acac、 EAcAc)
なお、MTMS-(TTiP+acac)系試料において 1100 cm-1 付近にアルコキシシリル基あるいはシ
ラノール基に起因するピーク[9]が新たに形成されている。MTMS-(TTiP+ acac)系試料は、よ
り短い時間間隔で吸収ピークの変化を調べた。既存のアルコキシ基に起因する 1080 cm-1 のピ
ークが消失する開放後 2 分以降から、時間とともにこの吸収ピークが増大していることが判明
した(図 6−7)
。さらに、本系を MTMS の赤外線吸収スペクトルと比較したところ、これらの
吸収ピークはいずれも MTMS にもともと存在する吸収ピークと一致していることから、Si-OR
基吸収における Si 原子の周りの OR 基の数に起因していると考えられる。
absorbance [a.u.]
TTiP-acac_0min
TTiP-acac_1min
TTiP-acac_2min
TTiP-acac_3min
TTiP-acac_5min
TTiP-acac_10min
TTiP-acac_20min
MTMS
700
750
800
850
950 1000
1000 1050 1100 1150
850 900 950
1000
-1]
wavenumber
number [cm-1]
[cm-1]
wave
図 6-7 実験 1:MTMS-(TTiP+ acac)系試料及び MTMS の室温放置経過時間に対する赤外線吸
収スペクトルの変化
123
【実験 2】
用いた試料の作製方法、条件は上記【実験 1】と同じである。MTMS 投入後、更に 30 分間
の撹拌後の混合溶液を FT-IR で測定した。本実験において、混合溶液は常時窒素充てん雰囲気
下にあり、FT-IR 測定用混合液はグローボックス内に置かれたスクリュー管よりスポイトで、
所定の時間(0 h、 24 h、 168 h)のときに取り出した。
従って、不活性ガス雰囲気下(close)におけるアルコキシシリル基と硬化剤の振る舞いを想
定しており、主に系の貯蔵安定性の検証を目的とした。
図 6-8 に、MTMS-(TTiP-acac)系試料と MTMS-(TTiP-EAcAc)系試料の FT-IR 測定結果を示
す 。 ま た 比 較 と し て 、 配 位 子 を 添 加 し な い MTMS-TTiP 系 試 料 の 測 定 結 果 も 示 す 。
MTMS-(TTiP+EAcAc)系及び MTMS-TTiP 系試料において、920 cm-1 の Si-O-Ti 結合の形成が
確認できる。この試料系で Si-O-Ti 結合が生成するということは、低湿度雰囲気下にも関わら
ずチタンアルコキシドが加水分解され、MTMS との間で縮合が起きたことを示唆している。3
つの試料系を比較すると、MTMS-(TTiP+acac)系試料は撹拌後 168 h の間、上述のピークがほ
とんど生成しないため、加水分解に対して非常に高い耐性を有していると考えられる。
MTMS-(TTiP-EAcAc)系試料は配合後 24 時間以内に上述のピークが生成した後、168 h 後まで
残存している。また MTMS-TTiP 系試料は、配合直後に 920 cm-1 付近のピークが生成したあ
と徐々に減少し、168 h 後には完全に消失した。168h 後のこの溶液は白濁しており、TiO2 の
形成が示唆された。MTMS-TTiP 系試料は配位子が存在しないため TTiP が不安定な状態にあ
り、低湿度雰囲気下においても MTMS とチタンアルコキシドの縮合反応が進行してしまい、
その結果、時間とともに TiO2 を形成し、以後 Si-O-Ti 結合を形成することなく失活している
と推定される。一方、MTMS-(TTiP+EAcAc)系試料は、168 h 後にも Si-O-Ti 結合が残存して
いることから、系内でチタン系硬化剤が安定して存在していると推察される。この結果は、貯
蔵安定性の改善への示唆となる。
124
absorbance [a.u.]
800
MTMS-TTiP-acac
MTMS-TTiP-acac_24h
MTMS-TTiP-acac_168h
1000
1000
900 850
950 900
1000950
1050
1100 1150 1200
-1]
wave number
number [cm-1]
[cm-1]
850
(a) MTMS-(TTiP+acac)系試料
absorbance [a.u.]
MTMS-TTiP-EAcAc
MTMS-TTiP-EAcAc_24h
MTMS-TTiP-EAcAc_168h
800
900 850
950 900
1000950
1050
1100 1150 1200
1000
1000
-1]
wave number
number [cm-1]
[cm-1]
850
absorbance [a.u.]
(b) MTMS-(TTiP+EAcAc)系試料
800
MTMS-TTiP
MTMS-TTiP_24h
MTMS-TTiP_168h
850
1000
1000
900 850
950 900
1000950
1050
1100 1150 1200
-1]
wavenumber
number [cm-1]
wave
(c) MTMS-TTiP 系試料
図 6-8 実験 2:アルコキシシラン-硬化剤 MTMS-(TTiP+acac)系、MTMS-(TTiP+EAcAc)系及
び MTMS-TTiP 系試料の室温放置時間に対する赤外線吸収スペクトルの変化
125
【実験 3】
用いた試料は、【実験 1】に既述した硬化剤を準備し、平均分子量 1,000 の両末端 OH 変性
PDMS(X-21-5841、信越シリコーン㈱)10 g を投入し、溶液の温度が 60℃になるように加熱
しながら、磁気撹拌子を用いて 2 時間撹拌した。硬化剤等の配合量を表 6−4 に掲げる。硬化剤
としては TTiP 1 mol に対して EAcAc を 2 mol 配合したもの (TTiP+EAcAc)、acac を 2 mol
配合したもの(TTiP+acac)、さらに比較として配位子を配合しない TTiP をそれぞれ使用した。
PDMS と硬化剤の混合溶液を撹拌後に、内径 96 mm、深さ 12 mm のテフロン製シャーレ
に注ぎ入れ、温度 23±2 ℃・RH50±10 %の雰囲気下に保たれたボックス内にて 168 時間放
置した。その間の溶液の変化を GPC 及び FT-IR を用いて評価した。
本実験では、PDMS の末端シラノール基と硬化剤の振る舞い及び脱水縮合による重合作用の
有無を確認すること目的とした。
図 6-9 に PDMS-(TTiP+acac)系試料、図 6-10 に PDMS-(TTiP+EAcAc)系試料の測定結果を
示す。それらの図(a)には FT-IR 測定結果を、(b)には GPC 測定結果を示す。920cm-1 付近に注
目すると、PDMS-(TTiP+acac)系試料はシャーレに注いだ直後の状態では Si-O-Ti 結合は存在
していないが、168 時間後には該当するピークが表れており、Si-O-Ti 結合の形成が示唆され
る。一方、PDMS-(TTiP+EAcAc)系試料においては、注いだ直後から Si-O-Ti 結合が形成され、
168 時間後も残存している。また GPC 測定結果より、双方ともシャーレに注いだ後に大気中
に放置しても分子量分布にほとんど変化がない。PDMS-(TTiP+EAcAc)系試料において、赤外
線吸収スペクトルの Si-O-Ti 結合に起因するピークにほとんど変化が無かったことから、チタ
ンアルコキシドは Si-OH 基と一部結合するが、その状態で系が平衡に至り、以後は反応が進
行しなかったと推察される。比較として図 6-11 に、配位子を使用しない PDMS-TTiP 系試料
の実験その3の結果を示す。PDMS-TTiP 系試料も FT-IR 及び GPC に経時変化は見られず、
チタンアルコキシドは PMDS のシラノール同士の脱水縮合重合には作用しないと考えられる。
表 6-5 に、【実験2】と【実験3】の結果から推察される、各種配位子を用いたチタンアル
コキシドの、Si-OR 基及び Si-OH 基に対する振る舞いを整理した。【実験2】において、
TTiP+EAcAc 系試料は Si-O-Ti 結合を形成することから、低湿度雰囲気下で硬化剤と MTMS
の 縮 合 が 生 じ て い る こ と が わ か る 。 ま た 、【 実 験 3 】 の シ ャ ー レ に 注 い だ 直 後 に 、
PDMS-(TTiP+EAcAc)系試料ではすでに Si-O-Ti 結合が形成していたことから、Si-OH 基とも
結合できると考えられる。ただし、その状態からは大気中においても Si-O-Ti 結合に変化はな
く、平衡状態に至ると推察される。一方、(TTiP+acac)系硬化剤は【実験2】で Si-O-Ti が観
測されず、MTMS とは結合していないことがわかる。また、
【実験3】においても混合直後は
Si-O-Ti 結合が観測されなかった。ただし、大気暴露後に Si-O-Ti 結合が形成されており、
(TTiP+acac)系硬化剤は低湿度雰囲気下ではアルコキシシリル基及びシラノール基と結合しに
くいことが窺える。 (TTiP+acac)系硬化剤は加水分解に対する耐性が非常に高く、Si-O-Ti 結
合の形成が遅くなることが示唆される。
以上の結果から、チタンアルコキシドの加水分解及びそれにともなった縮重合の速度は
TTiP >(TTiP+EAcAc)>(TTiP+acac)であり、配位子によってチタンアルコキシドの加水分解速
度が異なることが判明した。この加水分解速度は樹脂の硬化速度に反映されると考えられる。
硬化速度の向上には大気接触後における硬化剤の加水分解に伴う Si-O-Ti 結合の形成を促進す
る必要があると考えられる。
表 6−4 実験 3 に用いた PDMS 10 g に対する(TTiP+ligand)の配合量
分子量
モル比率
重量[g]
PDMS
1000
1
10
TTiP
284.232
0.05
0.142
126
EAcAc
130.14
0.1
0.13
acac
100.13
0.1
0.1
absorbance [a.u.]
PDMS-TTiP-acac
PDMS-TTiP-acac_168h
800
920 cm-1
900 850 900
1000950 1000
1100
1000
-1]
wave number [cm-1]
wave
[cm-1]
1200
(a)赤外線吸収スペクトルの経時変化
RU[a.u.]
PDMS-TTiP-acac
PDMS-TTiP-acac_168h
100
1000
10000
100000
molecular weight
1000000
(b) 分子量分布の経時変化
図 6-9 実験 3:PDMS-(TTiP+acac)系試料における FT-IR および GPC 測定結果
absorbance [a.u.]
PDMS-TTiP-EAcAc
PDMS-TTiP-EAcAc_168h
800
920cm-1
900 850 900
1000950 1000
1100
1000
-1]
wave number
number [cm-1]
[cm-1]
1200
(a) 赤外線吸収スペクトルの経時変化
図 6-10 実験 3:PDMS-(TTiP+EAcAc)系試料における FT-IR および GPC 測定結果
127
RU[a.u.]
PDMS-TTiP-EAcAc
PDMS-TTiP-EAcAc_168h
100
1000
10000
100000
molecular weight
1000000
(b) 分子量分布の経時変化
図 6-10 実験 3:PDMS-(TTiP+EAcAc)系試料における FT-IR および GPC 測定結果(続き)
absorbance [a.u.]
PDMS-TTiP
PDMS-TTiP_168h
800
920cm-1
1000
900 850 900
1000950 1000
1100
-1]
wavenumber
number [cm-1]
wave
1200
(a) 赤外線吸収スペクトルの経時変化
RU[a.u.]
PDMS-TTiP
PDMS-TTiP_168h
100
1000
10000
100000
molecular weight
1000000
(b) 分子量分布の経時変化
図 6-11 実験 3:PDMS-TTiP 系における FT-IR および GPC 測定結果
128
表 6-5 MTMS や PDMS に対するチタンキレート硬化剤の効果
(TTiP+acac)
(TTiP+EAcAc)
hardener
hardener
condensation
with Si-OR
condensation
with Si-OH in
N2
condensation
with Si-OH in
air
dehydration
condensation
×
○
×
○
○
×
×
×
129
6−3−2 チタンアルコキシドと各種配位剤
図 6-12 は、TTiP の配位子に DM、acac、EAcAc を使用した(TTiP+DM)系、(TTiP+acac)
系及び(TTiP+EAcAc)系硬化剤の FT-IR スペクトルを示す。TTiP1mol に対して配位子は 2mol
の割合で添加した。図 6-12 より、(TTiP+DM)系硬化剤においてはキレート構造に起因する
1500 cm-1 付近と 1600 cm-1 付近の吸収ピークが他の2種類の硬化剤に比べて弱いことがわか
る。これより DM は TTiP にほとんど配位せず系内に残存していると推察される。
TTiP-EAcAc(2)
DM
absorbance [a.u.]
TTiP-acac(2)
TTiP-DM(2)
1200
1300
1400
850 900
1500950 1600
1000
1000
-1]
wave number [cm-1]
wave
[cm-1]
1700
1800
図 6-12 二座配位系 (TTiP+DM)系、(TTiP+acac)系及び(TTiP+CAtE+EAcAc)系硬化剤
及び DM の赤外線吸収スペクトル
6−3−3 硬化助剤 TMG の検討
テ ト ラ メ チ ル グ ア ニ ジ ン TMG の 添 加 効 果 を 検 証 す る た め 、 (TTiP+EAcAc)-TMG
(TiEAc-TMG)系と(TTiP+acac)-TMG (Tiac-TMG)系硬化剤に対し、6−3−1にて記載した【実
験3】の実験を行った。用いた材料の配合を表 6-6 に示す。
最初に、(TTiP+EAcAc)系硬化剤(TiEAc)および(TTiP+acac)系硬化剤(Tiac)に TMG を添加し
た際の FT-IR 測定結果を図 6-13 に示す。これらの硬化剤の配合割合は表 6-5 に掲げてある。
1700~1800 cm-1 付近に注目すると、TMG 添加前後で未配位のカルボニル基(C=O)に起因す
る 1730 cm-1 付近のピークが生成していないことがわかる。TMG を添加しても、チタンアル
コキシドの配位状態は変化しないことが推察される。このことが、低湿度雰囲気における系の
安定性に寄与する可能性が考えられる。
分子量
モル比率
重量[g]
表 6-6 用いた材料と配合量
PDMS
TTiP
EAcAc
1000
284.232
130.14
1
0.05
0.1
10
0.142
0.13
130
AcAc
100.13
0.1
0.1
TMG
115.18
0.05
0.058
TiEAc-TMG
absorbance [a.u.]
TiEAc
1200
1300
1400
15009501600
1700
850 900
1000
1000
-1]
wave number
number [cm-1]
wave
1800
(a)アセト酢酸エチル系
Tiac-TMG
absorbance [a.u.]
Tiac
1200
1300
850 900
1000
1000 1700
1400
1500 9501600
-1]
wave number [cm-1]
[cm-1]
1800
(b)アセチルアセトン系
図 6-13 チタン系硬化剤(TTiP+EAcAc)系及び(TTiP+acac)系硬化剤に対する
TMG 添加による赤外線吸収スペクトルの変化
図 6-14 に、Tiac-TMG 系と TiEAc-TMG 系硬化剤を用いて【実験 1】を実施した場合の赤外
線吸収スペクトルの変化を示す。共通している点として、短時間における 1080 cm-1 のピーク
の消失と 920 cm-1 前後の幅広いピークの形成が挙げられる。これは6−3−1でも述べたとおり、
縮合反応によるアルコキシ基の消失と Si-O-Ti 結合の形成に起因すると推測できる。このピー
クは非常に強く表れており、TMG を添加しない配合系と比較しても明確である(図 6-15)
。
131
TiEAc-TMG_1min
TiEAc-TMG_20min
absorbance [a.u.]
TiEAc-TMG_0min
TiEAc-TMG_5min
1000
1000 1050 1100 1150
700 750 800 850 900 950 1000
-1]
wave number [cm-1]
wave
[cm-1]
(a) TiEAc-TMG 系
Tiac-TMG_1min
Tiac-TMG_20min
absorbance [a.u.]
Tiac-TMG_0min
Tiac-TMG_5min
1000
1000 1050 1100 1150
700 750 800 850 900 950 1000
-1]
wave number [cm-1]
wave
[cm-1]
(b) Tiac-TMG 系
図 6-14 MTMS-硬化剤系(open)における赤外線吸収スペクトルの経時変化
TiEAc_5min
TiEAc-TMG_5min
absorbance [a.u.]
Tiac_5min
Tiac-TMG_5min
number
[cm1100 1150
850 900
900 wave
950 1000
1000 1050
700 750 800 850
950
-1]
wave
wave number[cm-1]
number [cm-1]
図 6-15 MTMS-硬化剤系(open 5 分後)における赤外線吸収スペクトルの比較
132
図 6-16 に、MTMS-(TTiP+EAcAc)-TMG 系試料及び MTMS-(TTiP+acac)-TMG 系試料を用
いて【実験 2】を行った場合の FT-IR 測定結果を示す。24 時間以内に、900 cm-1~1000 cm-1
の間でやや幅広いピークが形成されており、同時にわずかに 1030 cm-1 付近に変化が見られる。
これらはチタンアルコキシドと MTMS 間の一部の縮合反応にともなうピーク変化であると考
えられる。しかし 24 時間後から 168 時間の間に目立った変化はなく、TMG 添加系において
も低湿度雰囲気下でアルコキシ基と硬化剤の反応は進行しにくく、安定していることが示唆さ
れた。
absorbance [a.u.]
TiEAc-TMG
TiEAc-TMG_24h
TiEAc-TMG_168h
800
850
900
850 1000
900 950
1000
950
10501000
1100
1150 1200
-1]
wave number
number [cm-1]
[cm-1]
(a)TiEAc-TMG 系
absorbance [a.u.]
Tiac-TMG
Tiac-TMG_24h
Tiac-TMG_168h
9501050
1000
800 850 9008509509001000
10001100 1150 1200
-1]
wave number
number [cm-1]
[cm-1]
(b) Tiac-TMG 系
図 6-16 MTMS-硬化剤系(close)における赤外線吸収スペクトルの経時変化
また、TMG 添加による影響を明確にするため、MTMS とチタン系硬化剤を配合した後に
TMG を投入し、
結合状態の変化を確認した。
これは図 6−4 に示す作成手順では、硬化剤と TMG
を混合した後に、その混合物を MTMS に加えた。今回は、{硬化剤+MTMS}を準備し、30 分
間の撹拌後 TMG を投入し、その後更に 30 分間撹拌した。配合割合は表 6−6 に掲げる通りで
ある。その結果を図 6-17 及び図 6-18 に示す。図 6-17 に示す TiEAc 系において、TMG 添加
によりアルコキシ基に起因する 800 cm-1 前後の 2 つのピークおよび 1080 cm-1 のピークが減
少し、さらに 900 cm-1~1000 cm-1 のピークが急激に増大している。これは TMG を添加するこ
とでアルコキシ基の加水分解が生じ、それに伴って縮合反応により Si-O-Ti 結合が形成された
ことを示唆している。ただし図 6-19 に示すその後の経時変化に注目すると、Si-O-Ti 結合は時
133
間とともに徐々に減少しており、図 6-8 で示した TTiP 系と同じく失活する傾向にあると考え
られる。TMG はチタンアルコキシド(あるいはキレート)と先に配合してから硬化剤として
使用することで、高い安定性が得られることが判明した。
一方、図 6-18 に示す Tiac 系においては、
上述するピークに顕著な変化が観測されなかった。
Tiac 系の加水分解に対する高い抵抗力を強調する結果となった。
absorbance [a.u.]
MTMS-TiEAc before TMG
MTMS-TiEAc after TMG
1000
1000 1050 1100 1150
700 750 800 850
850 900 950 1000
-1]
wave number [cm-1]
wave
[cm-1]
(a)TiEAc 系
absorbance [a.u.]
MTMS-Tiac before TMG
MTMS-Tiac after TMG
1000
1000 1050 1100 1150
700 750 800 850 900 950 1000
-1]
wave number
number [cm-1]
wave
(b) Tiac 系
図 6-17 TMG 添加による赤外線吸収スペクトルの変化
134
absorbance [a.u.]
MTMS-TiEAc after TMG
MTMS-TiEAc after TMG close-24h
MTMS-TiEAc after TMG close-168h
700 750 800 850
1050 1100 1150
850 900
900 950
9501000
1000
1000
-1]
wave number [cm-1]
[cm-1]
図 6-18 Ti-EAc 系における TMG 添加後の経時変化
次に、TMG 添加系硬化剤に対して【実験 3】を行った結果について記述する。配合は6−3
−3節の表 6−6 に掲げる。図 6-19 に PDMS-(TTiP+EAcAc)-TMG 系試料(TiEAc-TMG 系)を、
図 6−20 に PDMS-(TTiP+acac)-TMG 系試料(Tiac-TMG 系)の測定結果を示す。なお、本実
験においては PDMS と硬化剤を撹拌後、シャーレに注いで放置する系(open)に加え、密封
状態のまま常温で撹拌する系(close)を用意した。GPC 測定結果より、TiEAc-TMG 系、
Tiac-TMG 系共々、open 状態において PDMS が著しく高分子化していることがわかる。これ
は大気中において脱水縮重合が進行していることを意味し、図 6-9、図 6-10 で示した TMG を
添加しない系では発現しなかった作用である。またこの高分子化した PDMS の分子量は、図
6−21 に示すように、有機スズ化合物系硬化剤を使用して同様の実験を行った場合に形成され
る PDMS の 分 子 量 と ほ ぼ 同 程 度 で あ る こ と が 判 明 し た 。 新 規 硬 化 剤 で あ る
(TTiP+EAcAc)-TMG 系硬化剤や(TTiP+acac)-TMG 系硬化剤は、有機スズ化合物相当の触媒能
を有している可能性が示された。
なお、close 状態においては、多くても数量体程度の PDMS が形成される程度であった。大
気中の水分が硬化剤を活性化するトリガーであることが示唆された。
135
absorbance [a.u.]
PDMS-TiEAc-TMG
PDMS-TiEAc-TMG close-168h
PDMS-TiEAc-TMG open-168h
800
850
1000
900 850
950 900
1000950
1050
1100 1150 1200
1000
-1]
wave number [cm-1]
wave
[cm-1]
(a)赤外線吸収スペクトルの経時変化
RU[a.u.]
PDMS-TiEAc-TMG
PDMS-TiEAc-TMG close-168h
PDMS-TiEAc-TMG open-168h
100
1000
10000
100000
molecular weight
1000000
(b) 分子量分布の経時変化
図 6-19 PDMS-TiEAc-TMG 系における FT-IR および GPC 測定結果
absorbance [a.u.]
PDMS-Tiac-TMG
PDMS-Tiac-TMG close 168h
PDMS-Tiac-TMG open 168h
850 900
900 950
9501000
1000
1000
700 750 800 850
1050 1100 1150
-1]
wave number
number [cm-1]
[cm-1]
(a)赤外線吸収スペクトルの経時変化
図 6-20 PDMS-Tiac-TMG 系における FT-IR および GPC 測定結果
136
RU[a.u.]
PDMS-Tiac-TMG
PDMS-Tiac-TMG close 168h
PDMS-Tiac-TMG open 168h
100
1000
10000
100000
molecular weight
1000000
(b) 分子量分布の経時変化
図 6-20 PDMS-Tiac-TMG 系における FT-IR および GPC 測定結果(続き)
absorbance [a.u.]
PDMS-DBTDL
PDMS-DBTDL open-168h
800
850
1000
900 850
950 900
1000 950
10501000
1100
1150 1200
-1]
wave
wave number
number[cm-1]
[cm-1]
(a) 赤外線吸収スペクトルの経時変化
RU[a.u.]
PDMS-DBTDL
PDMS-DBTDL open-168h
PDMS-TiEAc-TMG open-168h
PDMS-Tiac-TMG open-168h
100
1000
10000
100000
molecular weight
1000000
(b) 分子量分布の経時変化
図 6-21 PDMS-DBTDL 系における FT-IR および GPC 測定結果
137
以上の結果より、硬化剤 TiEAc-TMG および Tiac-TMG は、低湿度雰囲気ではアルコキシシ
リル基およびシラノール基と一部反応するものの著しい反応の進行は示さず、大気接触と同時
にチタンアルコキシドの加水分解およびアルコキシシリル基との縮合反応が急激に進行する
と考えられる。またシラノール基同士の縮合反応を可能とするため、未反応官能基の低減と架
橋密度の増加に寄与すると考えられる。上述した特性は、硬化剤として貯蔵安定性および触媒
能が高いことを意味しており、反応性シリル基を末端に有する一液性室温硬化型樹脂の硬化剤
として優れた性能を有する可能性がある。
6−3−4 各種主剤に二座配位系硬化剤を適用した結果
各種主剤に二座配位系硬化剤を適用した結果
二座配位系硬化剤を適用した主剤は3種類であり、6−2−1で記述した順に従って結果を述
べる。
(1)シリコーン
図 6-22 は (TTiP+EAcAC)-TMG 系二座硬化剤、または比較として DBTDL を PDMS に添
加したときの分子量分布を示す。硬化剤を添加後、室温・相対湿度およそ 50%の雰囲気に1週
間放置し、GPC によって分子量を測定した。それらの硬化剤の添加量は 3phr(per hundred
resin)である。図 6-22 より、(TTiP+EAcAc)-TMG 硬化剤を用いた系は DBTDL を用いた系
よりも、高分子化していることがわかる。
10000
100000
molecular weight
図 6-22 PDMS に硬化剤を適用した結果
次に、PDMS 硬化体の機械的性質および高温・高湿環境に晒されたときの耐久性を比較する
ために、表 6-7 に掲げ得る組成にて、硬化体を作成した。硬化耐は、硬化剤を添加後、25±2℃・
RH 約 60%の雰囲気に1週間放置することにより得られた。このようにして得られた硬化体の
機械的性質を図 6-23 に示す。二座配位硬化剤で作成したシリコーン硬化体は、DBTDL で作
成した破断点強度および破断点伸び率が高く、柔らかくて強い。
表 6-7 PDMS 硬化体作成の組成
主剤
架橋剤
PDMS (mol)
MTMS (mol)
1
1
1
1
硬化剤
試料名
PDMS-MTMS-(TTiP+2EAcAc)-TMG
PDMS-MTMS-DBTDL
硬化助剤
スズ硬化剤
TMG (mol)
DBTDL (mol)
TTiPに配位する分子
TTiP (mol)
0.05
EAcAc (mol)
0.1
0.05
0.05
また、図 6-24 は高温高湿試験後の重量減少率を示す。DBTDL に比べて、二座配位系
(TTiP+EAcAc)-TMG 硬化剤は数分の一程度の重量減少率である。
138
図 6-23 (TTiP+EAcAc)-TMG 硬化剤と有機スズ硬化剤で作製したシリコーン硬化体の
機械的特性
図 6-24 (TTiP+EAcAc)-TMG 硬化剤と有機スズ硬化剤で作成したシリコーン硬化体の
高温高湿試験後の重量減少率
(2)変成シリコーン
硬化剤の量は、 (TTiP+EAcAc)-TMG 硬化剤並びに DBTDL はおよそ 4.4 phr である。この
変成シリコーンは可塑剤として利用されていることから、硬化体を作成することは難しく、
30℃における高分子化にともなう粘度変化より、重合反応の進展を推定した。その結果を図
6-25 に示す。前者の硬化剤は高分子化に伴う増粘速度が速いことがわかる。図中△印は、
DBTDL に併用硬化剤として amSi を DBTDL とほぼ同量併用し、DBTDL と amSi の合計 8.7
phr とした。この場合、粘度変化は(TTiP+EAcAc)-TMG 硬化剤より速い傾向にある。
139
図 6-25 (TTiP+EAcAc)-TMG 硬化剤と有機スズ硬化剤を変成シリコーンに適用したときの
相対的粘度変化
図 6-26 は、二座配位硬化剤((TTiP+EAcAc)-TMG 硬化剤)と従来型有機スズ硬化剤(併用
硬化剤はアミノシランカップリング剤)を用いた場合の TFT とその貯蔵安定性を示す。主剤
として、変性シリコーンの一種である反応性シリル基末端ポリアクリレートを含有したアルコ
キシシリル末端ポリオキシプロピレンを使用した。図 6-26 より、TFT は 5 分であり、貯蔵試
験後でもその値の変化がない。これらの値は、比較として用いた有機スズ化合物 DBTDL 硬化
剤と同一である。図 6-27 は接着強度を示す。二座配位硬化剤を用いた場合、従来型有機スズ
硬化剤に比べて高い接着強度を示している。
図 6-26 二座配位硬化剤と従来型有機スズ化合物硬化剤を用いた場合の
TFT と貯蔵安定性
140
adhesion strength (MPa) 2
初期値 1.5
貯蔵試験後 1
0.5
物
0
二座配位硬化剤 有機スズ化合 +アミノシ
ランカップリング剤 図 6-27 二座配位硬化剤と従来型有機スズ化合物硬化剤を用いた場合の接着強度とそ
の貯蔵安定性
(3)ウレタン
硬化剤は、ポリオールに対して、0.08 phr である。実際の配合条件を模擬した。粘度は、テ
フ ロ ン シ ャ ー レ に 注 い だ 後 の 経 過 時 間 に 対 し て 調 べ た 。 図 6-28 は そ の 結 果 で あ る 。
(TTiP+EAcAc)-TMG 硬化剤は、所定の配合量の半分でも、DBTDL より、増粘は速く、重合
反 応 の 進 展 の 早 さ が 示 唆 さ れ る 。 ま た 、 TC-750 や TMG 単 独 配 合 に 比 べ て 、
(TTiP+EAcAc)-TMG 硬化剤は増粘が早く、優位性を示している。
図 6-28 各種硬化剤をウレタンに適用したときの粘度変化の比較
141
6−4 まとめ
本章では、RTV 硬化樹脂用の硬化剤として高い貯蔵安定性を実現できる2座配位を有する
チタンアルコキシドを提案し、硬化剤としての機能について検討した。さらに、速硬化性を実
現するため、硬化助剤としてテトラメチルグアニジン(TMG)を添加した系についても、硬
化性についての検討を行った。以下に結果をまとめる。
(1) チタンアルコキシドは微量の水分の存在下であっても、TiO2 を形成し失活する一方
で、2つの2座配位チタンアルコキシド系硬化剤は、高い耐加水分解性を示し、優れ
た貯蔵安定性を与えることを示唆した。
(2)各種配位剤の検討の結果、acac および EAcac を用いたキレート化合物と比較して、
DM はほとんどキレート化合物を形成しないことを見出し、有効な配位子として acac
および EAcac が選択された。
(3)硬化助剤として TMG を用いて、PDMS の脱水縮重合反応に対する硬化剤の寄与を検
証した結果、硬化剤+TMG は脱水縮重合反応に寄与し、DBTDL と同等の性能を有
していることが結論された。
(4)TTiP+EAcAc-TMG 硬化剤はシリコーン、変性シリコーン、ポリウレタンに対して、
DBTDL と同等以上の触媒能を有することを示した。
第6章の参考文献
第6章の参考文献
[1] 指触乾燥時間の試験方法 JIS K 5600-1-1
[2] 特開平8-41358号公報
[3] 特開平5-39428号公報
[4] 公開番号 WO2007-094272
[5] 東亞合成(株)製品案内 web より
http://www.toagosei.co.jp/business/acryl/products/arufon01.pdf
[6] Toshiharu Goto, Takanori Yamazaki: Recycling of Silane Cross-linked Polyethylene
Insulated Cables by Supercritical Alcohol, Hitachi Cable Review, No. 23, 2004
[7] N. YAMADA, I. YOSHINAGA, S. KATAYAMA: J. Sol-Gel. Sci. Tech., Vol. 17, p.
125(2000)
[8] JEAN-MARC PUJOL and CHRISTIANE PREBET: Functional silanes: crosslinkers for
silicone elastomers, J. Adhesion Sci. Technol., Vol. 17, No. 2, pp. 261-275(2003)
[9] Nobuyuki Gotoh, Toshinari Nakajima, LI Janho: Silylation of Aromatic Imide,
Departmental Bulletin Paper, Vol. 23, No. 3, PP. 114-116(1971)
142
第7章 総括
電気電子機器の高密度化・高エネルギー化に伴い耐熱性・機械的応力緩和性・熱伝導性など
の機能性を持つ材料が望まれている。そのような材料の 1 つの候補として、耐熱性と柔軟性を
備えた室温硬化型(RTV)樹脂が挙げられ、硬化剤には主に有機スズ化合物が用いられている。
この有機スズ化合物は人の健康、特に子供への危険性が確認されており、EU において規制対
象となる。今後もこの類の規制は進んでいくと予想され、代替材料が望まれている。
本論文は、このような社会的背景をもとに、RTV 樹脂用スズフリー硬化剤の開発を目的と
したものであり、総括を含め全体は7章からなる。以下に、各章ごとに得られた知見をまとめ
る。
第1章では、パワーエレクトロニクス分野における耐久性・耐熱性の優れた絶縁材料が望ま
れている背景を述べ、RTV 樹脂がその一候補と考えられることを記述した。また、RTV 樹脂
の硬化剤について記述し、環境負荷低減の観点から、RTV 樹脂に用いられる有機スズ化合物
系硬化剤の代替が望まれること述べた。さらに、日本国内代表的企業9社を選択し、これらの
企業の EU 規制に対する取り組み状況を特許出願より調査した。それより、スズフリー硬化剤
を用いた接着剤、シーリング材並びに塗料に関する特許は 53 件であり、これらは川上企業と
川中企業それぞれ 1 社のみであったことを明らかにした。
第2章は、第3章から第6章までの RTV 用オリゴマーや硬化体の評価方法を述べた。評価
は、弾性率、破断点強度及び伸び率に関する機械的特性測定、引張り接着強度測定、RTV 樹
脂の分子量分布変化を調べるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定、硬化剤と添加物の結
合や反応場に係る官能基の変化を調べるためのフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)測定、熱分
解生成物を調べるガスクロマトグラフィーマススペクトロメトリー(GC-MS)測定などの方
法について記述した。
第3章は、各種チタンアルコキシドと添加剤としての各種ヒドロキシカルボン酸エステルを
組み合わせた新規な硬化剤の触媒としての特性を評価した。さらに、シリコーン樹脂を対象と
して、最も触媒能の高い組み合わせを見出し、従来硬化剤に対する優位性を示した。FT-IR の
結果より、チタンアルコキシドとカルボン酸エステルが一座配位しており、従来硬化剤とは分
子構造が異なると結論された。最も触媒能の高い組み合わせとして、チタンアルコキシドとし
てエトキシ基を有するもの、ヒドロキシカルボン酸エステルとして、DL-リンゴ酸ジエチルエ
ステル、DL-リンゴ酸ジブチルエステル、クエン酸トリエチルが選択された。
第4章は、主剤である PDMS の分子量を市販の RTV シリコーン並みのレベルまで採用し、
充填材を加えることにより、3章で開発した硬化剤を適用した実用レベルまでの RTV シリコ
ーン樹脂の機械的特性や接着強度の評価を行った。その結果、主剤、架橋剤および新規硬化剤
からなる RTV シリコーン樹脂において、主剤と架橋剤が理想的に結合した場合の弾性率と測
定値がほぼ一致することから、用いた硬化剤が触媒として効果的に働いていることが結論され
た。また、応用用途に合わせた機械的特性を得るための材料設計の指針を示した。
第5章では、接着剤、シーリング材等への応用を視野に、新規硬化剤を使用した RTV シリ
コーン樹脂の各種フィラー充填による接着性の変化、並びに各種接着性付与剤に関する検討を
行った。架橋点間分子量の変化に伴って接着強度は増加する。これは PDMS の分子量が増加す
ることで破断点伸び率が増加し、バルク体が高いひずみエネルギー密度を持つようになるため
である。疎水性シリカの充填量を増加させると、バルク体の機械的特性が向上するために接着
強度は大きく増加する。
新規硬化剤を用いた RTV シリコーン樹脂に対する接着付与剤として、
メルカプト基含有アルコキシシランとグリシド基含有アルコキシシランは接着性向上に寄与
したが、アミノ基含有アルコキシシランに関しては硬化を阻害することを見出した。
。
第6章では、新規な硬化剤の製品への応用展開を考えた際の課題を見出し、スズフリー硬化
剤を新たに考案し、硬化剤の触媒能の評価を行った。チタンアルコキシドを二座配位系とし、
安定な配位子を選択し、貯蔵安定性を付与した。反応場の pH 制御をするための添加剤として
塩基性グアニジンを用いた。結果として、機能相反する触媒活性と貯蔵安定性が両立する硬化
143
剤と添加材の組み合わせを得ることができた。シリコーン、変成シリコーンやウレタンを対象
として、この硬化剤を適用した結果、従来硬化剤と同等以上の硬化性能と貯蔵安定性を示すこ
とを明らかにした。
本研究で得られた新規な硬化剤は、従来から硬化剤として多用されており、環境負荷が高い
有機錫系硬化剤の代替品として適用可能なレベルに達していると考えられる。今後さらに、環
境規制が強まるなかで、環境負荷低減に貢献できる RTV 樹脂用硬化剤はニーズが高まってい
くことが予想される。本知見をもとに、今後は企業への技術移転を含めて、製品への適用に向
けた取り組みを行う予定である。
144
謝辞
本研究の遂行ならびに本論文の作成にあたり、終始有益なご指導、ご意見を賜りました三重大
学工学部中村修平教授並びに信州大学繊維学部村上泰教授に謹んで感謝いたします。また、本論
文の構成内容に関して、有益なご指導、ご議論を頂きました飯田和生教授並びに畑浩一教授に深
く感謝いたします。本論文の作製にあたって、実験について多くのサポートをしていただいた、
三重大学大学院卒業生の芦田恭典氏並びに横山翔太氏、独立行政法人科学技術振興機構研究員、
田中義身博士並びに宮田和代氏に深く感謝申し上げます。また、第1章に記述した特許調査に関
する内容に置いては、三重大学社会連携研究センター狩野幹人博士並びに三重大学大学院博士課
程の川北忠氏に多大なるご協力を頂きましたことに深く感謝申し上げます。
最後に、これまで大学での学習・研究活動を行うにあたって、常に支えてくれた家族、両親に感
謝いたします。
2013年
145
3月
長
広明
関連論文
(ア)査読のある雑誌等
(1) 長 広明,芦田 恭典,中村 修平,清水
化型シリコーン複合体の機械的特性と耐熱性」
航,村上 泰:「環境負荷低減室温硬
電気学会論文誌 A
第 132 巻
第 4 号
pp.319-324 (2012)
(2) Hiroaki CHO, Yasunori ASHIDA, Shuhei NAKAMURA, Wataru SHIMIZU and Yasushi
MURAKAMI:“Improvement of Heat-resistance of RTV Silicone Elastomers with Reduced
Environmental Impact by Loading Selective Fillers”, 日本接着学会誌第 48 巻,第 7
号,pp. 237-247(平成 24 年)
(イ)査読のある国内,国際会議のプロシーディングス
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Symposium on Electrical Insulating Materials (ISEIM 2011), P. 99, Kyoto, Sept. 6-11,
2011, MVP2-5
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11 月 15 日-17 日, 秋田(2010 年)
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硬化剤の開発」
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航,村上
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146
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集
(9)長 広明,佐野史人,中村修平,宮田和代,清水 航,村上 泰:「新規耐熱性シリコ
ーン組成物の開発」,電子情報通信学会技術研究報告,vol. 108, No. 387, OME2008−90、
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(10)芦田恭典,北村真哉,長 広明,中村修平,清水 航,村上 泰:「新規低温硬化型
シリコーン組成物の開発」
,電子情報通信学会技術研究報告,vol. 108, No. 387, OME2008−90、
pp.49-54(2009-01)
2.特許
(1)特願 2008-273368,
「ポリオルガノシロキサン組成物およびその硬化体」
(2)特願 2008-273370,
「ポリオルガノシロキサン組成物およびその硬化体」
(3)PCT/JP2009/005533,「ポリオルガノシロキサン組成物およびその硬化体」
(4)特願 2009-139256,
「ポリオルガノシロキサン組成物およびその硬化体」
(5)PCT/JP2010/003242,「ポリオルガノシロキサン組成物およびその硬化体」
(6)特願 2009-153639,
「ポリオルガノシロキサン組成物およびその硬化体」
147
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