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知りたかった繊維ビジネスのキーポイント
CAD/CAM
坂口 昌章 客員研究員 有限会社シナジープランニング 代表取締役
ワープロと CAD/CAM
アパレル CAD もワープロと同様の進化を遂げ
CAD とは、Computer Aided Design の略語で
ている。高価なアパレル CAD システムは、CAD
あり、コンピュータを用いてデザイン設計するこ
専門のオペレーターにより操作され、パターンの
とを指す。アパレル CAD は、コンピュータによる
清書マシンとして使われた。
「パターンメーキング(パターン制作)」「グレー
次に CAD データをインターネット回線で通信
ディング(サイズ展開)」「マーキング(裁断の差
できるようになり、アパレルで作成した CAD デー
し込み)
」等を行う機械あるいはシステムである。
タを工場に送り、工場のプロッターでパターンを
CAM は、Computer Aided Manufacturing の略
出力するという使い方がなされるようになった。
語で、コンピュータの支援による製造の意味。ア
日本におけるアパレル CAD の現状は、この段
パレル CAM は、アパレル CAD と連動した自動
階に留まっている。
裁断機及びそのシステムを指す。
今回は、日本と欧米の CAD/CAM 事情の違い
と、今後のアパレルシステム活用について解説し
縫製工場のパターン修正と CAD/CAM 分離
欧米では、基本的に CAD/CAM はセットで扱
たい。CAD の現状を理解するために、ワープロ
われるが、日本では CAD/CAM は分離している。
との比較をしてみたい。
これは、日本のアパレル企業が縫製工場を持たな
高価なワープロが世に誕生した当初は、清書
い問屋業態からスタートしており、アパレル企業
マシンとして使われた。手書きの原稿をワープロ
と縫製メーカーが分離していることによる。欧米
で打ち直しただけで、簡単にゲラが完成すること
のアパレル企業は製造機能を持つメーカー業態か
に興奮を覚えたのを昨日のことのように思い出
らスタートしており、少なくともサンプル生産ま
す。当時の執筆者のほとんどは手書きであり、ワ
でを企画と考え、その機能を有している企業が多
ープロは専門のオペレーターが扱っていたのだ。
い。そのため、欧米アパレルの多くは、CAD で
その後、原稿そのものをワープロで書くよう
パターンメーキングしたデータをそのまま CAM
になり、打ち出した原稿を FAX で送るようにな
った。その次には、ワープロに通信機能が付き、
で裁断する。
一方、日本のアパレル企業が制作したパター
モデム経由でワープロから直接相手の FAX に出
ンは、縫製工場で修正されることが多い。優秀な
力するようになった。やがて、ワープロ専用機か
縫製工場はイメージを損なうことなくパターンを
らパソコンのワープロソフトの時代が来る。通信
修正し、製品の完成度を上げる。従って、
もパソコン通信の時代を経て、インターネット回
CAD/CAM を有効に使えるのはアパレル企業よ
線を利用した電子メールが普及するようになり、
りもむしろ縫製工場なのだ。
ようやくテキストデータとして原稿そのものを相
そのため、欧米に比べて日本アパレル企業の
手に直接送信できるようになった。これにより、
CAD 導入は著しく遅れている。欧米アパレル企
版下を作る作業が著しく軽減し、入稿から印刷ま
業の多くが一人一台の CAD 環境を整備している
での時間が大幅に短縮されるようになった。
のに対し、多くの日本アパレル企業は、未だに
80
繊維トレンド 2006.7・8 月号
CAD/CAM
CAD を清書マシン、出力マシンとしてしか使っ
ていないのである。
企画経費削減がアパレル企業の課題
高価な CAD システムもパソコンで扱えるよう
になり、価格も下落している。システム側では完
欧米アパレル企業のパターンメーキング
全に一人一台の体制が整っているのだが、日本の
次に、欧米アパレル企業のパターンメーキン
アパレル企業の CAD 整備は遅々として進んでい
グの流れを紹介したい。イタリア人のパターンメ
ない。その原因の一つは、欧米と日本で企画経費
ーキングは日本人の 2 倍の効率と言われるが、こ
に対する認識の違いがあるように思える。
れは個人の能力ではなく業務システム、業務フロ
ーの違いといっていい。
日本の経営者の多くは営業出身であり、製品
を見ないと判断できない。そのため、サンプル制
まず、欧米ではデザイナーとチーフ・パター
作はやむを得ない経費と認識しているし、展示会
ンメーカーが話し合い、プロトタイプが設定され
等でサンプルが没になるのもやむを得ないと考え
る。製品のディテールではなく、そのシーズンに
ている。
展開する商品の基本的なシルエット、スタイリン
グを設計するのである。
欧米のアパレル企業は、責任の所在がはっき
りしており、売れない商品を作ったデザイナーは
プロトタイプを設計するに当たっては、デザ
契約を打ち切られる。従って、営業と企画が何度
イナーのテーマ設定によって、そのブランドのマ
も企画会議や MD 会議を開くこともない。営業
スターパターンにシーズン変化を加えていく。こ
から前シーズンのブリーフィングは受けるが、あ
の作業はチーフ・パターンナーのみが行う。この
くまで商品企画の責任はデザイナーにあるのだ。
段階は、CAD を使わずに原寸大のパターンを手
欧米ではサンプルを確認したいのは営業ではなく
で引くことも多い。それをトワルに組み立てて、
デザイナーである。そのため、デザイナーは数多
デザイナー、プロダクトマネージャーと話し合い
くのデザインを行い、サンプルを作りたがる傾向
ながら決定する。
にある。しかし、チーフ・パターンメーカーやプ
シーズンで 5 ∼ 8 体程度のプロトタイプを設
定し、そのプロトタイプを元に、デザイナーはデ
ザインバリエーションを展開していく。
ロダクトマネージャーは、無駄なサンプルを作ら
ないようにコントロールするのである。
無駄なサンプルを作ることは、多額の経費の
チーフ・パターンメーカーが制作したプロト
無駄遣いであり、企業の経営を圧迫する。サンプ
タイプのパターンは、CAD に入力され、パター
ルを確認する前の段階で、十分にイメージがつか
ンメーカー全員が共有する。プロトタイプからデ
めないようではプロではないという認識もあるの
ザインバリエーションが展開され、プロトタイプ
だろう。
のマスターパターンからパターン展開を行うの
日本のアパレル企業は、どれほどの無駄なサ
で、作業は合理的に進む。ブランド内のシルエッ
ンプルを作っているのだろうか。そしてその経費
トも統一感を持たせることができるし、パターン
はどれほどになるのだろう。役割と責任を明確に
チェックの際も、デザイナーやチーフ・パターン
し、その無駄をデザイナーの報酬や CAD に振り
ナーはバリエーションの部分だけをチェックして
向けることで、企業は競争力を強化することがで
いくので作業時間も短縮される。
きるはずである。営業出身の経営者にとって、企
こうした作業工程を考えると、パターンメー
カーには一人一台の CAD を与えなければならな
画はブラックボックスかもしれないが、いつかは
メスを入れなければならないだろう。
いし、CAD が扱えないパターンメーカーは職を失
うことになるのもやむを得ないのかもしれない。
繊維トレンド 2006.7・8 月号
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