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サービスは7Pでうまくいくのか 歴史的経緯から見る東京ディズニー

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サービスは7Pでうまくいくのか 歴史的経緯から見る東京ディズニー
サービスは7P でうまくいくのか
~歴史的経緯から見る東京ディズニーリゾートの集客力~
指導教員名:水越
康介准教授
氏名:友部
碧
枚数:26 枚
1
目次
1.はじめに
2.サービス移行化の背景
2-1 サービスとは
2-2 サービスの特性
2-3 サービス化社会確立の要因
3.先行研究
3-1 サービスのプロ
3-2 サービス・エンカウンター
3-3 サービス品質
3-3-1 サービス品質の重要性
3-3-2 サービス品質の測定
3-4
インターナル・マーケティングとインタラクティブ・マーケティング
3-5 サービス・マーケティング・ミックス
3-6 先行研究まとめ
4.東京ディズニーリゾートのサービス・マーケティング
4-1 東京ディズニーリゾートについて
4-2 ディズニーのサービス基準
4-3
7Pとの照らし合わせ
5.東京ディズニーリゾートの歴史的分析
5-1
1983~2001 年の活動から見えた 3 つの発見
5-2 数値から見る変化
5-2-1 入園チケットの変化について
5-2-2 顧客の変化について
6.まとめ
7.参考文献
2
1. はじめに
本稿の目的は、東京ディズニーリゾートがなぜ圧倒的人気を誇っているのか、また、独
自の強みを、サービス・マーケティングの観点から確認することである。東京ディズニー
リゾートのサービス・マーケティングは、サービス・マーケティングの中で重要な7つの
戦略、7P に当てはまるが、本稿では、それのみでは成立しないということを見ていく。
最近、情報化が進むにつれて、日本はサービス化社会に入ってきた。例えば、iphone の
ようなスマートフォンなどの普及も高まり、携帯電話やパソコンなしの生活は考えられな
くなった。交通情報、ネットショッピング、用語のチェックなど、情報提供サービスはわ
れわれにとって身近なものとなり、その時々に必要な情報を生産している。また、これ以
外にコンビニ、医療、教育、レジャーなど毎日の生活において様々なサービスを購入し利
用しているのである。最近は、テーマパークや遊園地などのレジャー消費が好調である。
東日本大震災による昨年の反動増もあるが、エコカー補助金や地上デジタル放送移行など
に伴う特需が一服。これまで「モノ」に向かっていた個人消費がレジャーなどの「サービ
ス」に流れていることが背景にある(『日経 MJ』、2012 年 10 月 19 日、p.16)。
サービス業に就く人は、働いている人全体の約 6 割強にも達し、日本で生産されている
富の約 7 割がサービス関係から生み出されている。総務庁(現総務省)
『事業所・企業統計
調査報告』によると、事業所数の産業別構成(民営)は、1975 年から 1999 年にかけて、
サービス業は 21.0%から 26.7%へと増加しているという。また、従業員数も製造業の 1039
万人に迫る、942 万 5 千人に達している(南方・堀 2005p.1-2)。
現代では、日本は物質的に豊かになり、経済先進国になることができた。物質的に豊か
になると人間は、次に、教育、レジャー、医療といったサービスの消費へ関心を向けるよ
うになり、進学率や医療水準は高まり、海外旅行などのレジャーを楽しむ人の数も伸びて
いったのである。このように、物質的条件が揃い、より快適なサービスが提供されるよう
になったのだ。
本稿では、様々なサービスの中でも、人々により快適さ・至福を与えるレジャー施設、
特にテーマパークに注目した。1990 年代中頃から 5 年ほどの間に、続々とできたテーマパ
ークが、東京ディズニーリゾートや大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンなど少数の
テーマパークを除いて、その多くが撤退・廃業した。魅力的な施設を作れば集客できると
考えた安易な発想が、方向性や特色を見失わせたのである。また、事故が原因で客が減少
し、廃業に至ったところもある。
3
≪図1:各テーマパーク別入場者数・売上高表≫
施設名
入場者数(人)
売上高(百万円)
所在地
東京ディズニーリゾート
25,347,000
360,060
千葉県
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン
8,500,000
66,069
大阪府
東京ドームシティ
3,153,700
49,274
東京都
ナムコナンジャタウン
1,778,032
38,564
東京都
鈴鹿サーキット
1,957,105
ナガシマリゾート
6,371,000
26,000
三重県
富士急ハイランド
1,950,000
23,467
山梨県
(帝国データバンク
三重県
『遊園地・テーマパーク企業 126 社の実態調査』2012 を基に作
成)
図1はテーマパークごとに入場者数・売上高をまとめたものである。ここから、東京デ
ィズニーリゾートが入場者数・売上高共に、圧倒的に高いことがわかる。東京ディズニー
リゾートを経営するオリエンタルランドの収入は業界全体の 46.5%を占めている。リピー
ト率は約 9 割にも及んでおり、顧客満足度も高いことが考えられる。日本で最も成功して
いるテーマパークであることは間違いないが、世界的に見ても営業的に最も成功している
テーマパークと言える(近藤 2010p.257)。
本稿ではまず、サービス・マーケティングについて論じていく。そして、テーマパーク
の中でも、顧客満足度が最も高い東京ディズニーリゾートを取り上げ、サービス・マーケ
ティングの観点から、なぜ圧倒的に人気があり、顧客満足度が高めているのかを考察して
いく。
2.サービス移行化の背景
2-1
サービスとは
まず、そもそもサービスとは何なのか。近藤(2010p.52)によると、個人や組織にとって何
らかの便益(ベネフィット)をもたらす活動そのものが、市場取引の対象となるときにサービ
ス(商品)と呼ぶことができるという。また、アメリカ・マーケティング協会(AMA)の定義に
よれば、「サービスとは、販売のために提供される、もしくは、財の販売と結びついて提供
される諸活動、便益、満足」という(和田・恩蔵・三浦 2005p.283)。私たちがサービス活動
を消費している状況の例を上げると、レストランで美味しい食事を味わう、スポーツクラ
ブに通って身体を鍛える、歯医者で痛む歯の治療をしてもらう、などがある。こうした状
況に共通しているのは、私たちの心や身体に直接何か良い効果を生む(価値のある)活動が行
4
われている、ということだ。サービスの対象は、私たちの心や身体だけではない。自動車
の修理、服のクリーニング、会計士による収支の会計処理、コンピュータのセッティング
など、私たちが所有するモノやお金に対する付加価値活動もサービスなのだ(近藤 2010p.50)。
では、「モノ」と「サービス」の違いは何なのか。「モノ」は有用な機能を果たす働きを
内包し、それ自身で存在できるのに対し、「サービス」はサービス主体からサービス対象に
提供される機能のフローであり、それ自身では存在できない(南方・堀 2005p.18)。つまり、
サービスでは、機能そのものを購入することになる(近藤 2010p.61)。
また、「モノ」は機能を内包しているため、時間と空間を超えて存在し、好きな時に利用
できるが、「サービス」はサービス主体、サービス対象間の機能のフローであるため、ある
限られた時間及び空間でしか利用できない。そして、「モノ」は、供給者の「提供」、言い
かえれば需要者の「購入」時点で、所有権は移転する。需要者は時間・空間を超えてその
機能を享受し、効用実現を図ることが可能である。これに対し、「サービス」はサービス主
体の機能提供と、サービス対象の機能享受が同時・同所で行われ、したがって機能享受は
時間・空間的に特定される(南方・堀 2005p.18-17)。
「サービス」が存在するためには、主体と対象がなくてはならないということだが、対
象には、「人」と「モノ」の 2 つがある。本稿では、東京ディズニーリゾートのサービス・
マーケティングを取り上げるので、東京ディズニーリゾートの顧客、つまり対象は「人」
である。
2-2
サービスの特性
前節で、「モノ」と「サービス」の違いを比較したことで、以下のような「サービス」の
特性が見いだせる(近藤 2010p.63-69)。
①無形性
モノの場合は、購入すれば、自宅であろうと他の場所であろうと好きな場所で利用で
きる。しかし、サービスは活動であるため、物理的な形を持たない。このことは、サー
ビス商品を生産場所から他の場所に移動することができないことを意味している。所有
することはできないが、一時的に利用することができる。
②一過性
モノの場合は、標準化された製品を継続して提供が可能である。しかし、サービスは
特定された時間・空間の中での 1 回きりであり、まったく同一のサービスを受けること
はできない。
③不可逆性
一度サービスが提供されると元の状態に復元されることができない。
④異質性
サービスは人の活動が主なため、サービス提供者と需要者によって、サービスの品質
がその度ごとに異なる。
5
⑤同時性
サービスは活動であるため、対人サービスの場合には、活動の対象つまり顧客は、活
動の行われるその場に同時に存在していなければならない。このことを「生産と消費の
同時性」という。例えば、床屋で、髪を切られる顧客は理容サービスを消費し、切って
いる理容師はサービスを生産しているといったものだ。この特性としては、顧客がサー
ビス提供者の活動をつぶさに観察できるという点がある。
このように見ると、サービスは、顧客を対象とする活動であることから、実際のサービ
ス活動は、顧客とサービス提供者との相互作用の形をとることがわかる。このことはモノ
の生産に比べて、顧客がより積極的な役割を担わなければならないことを示す、つまり、
サービスは顧客との共同生産が重要なのである。
2-3
サービス化社会確立の要因
第 1 章で述べたように、日本は物質面の充実化が実現したこともあり、サービス化を推
し進めていった。推し進めた要因として、環境要因と消費者の意識があると考える。
まず環境要因は 4 つある。1 つ目として、高齢化が上げられる。高齢化によって、医療、
介護などのサービス需要が高まっている。また、消費者の約 3 割が 65 歳以上であることか
ら、小売り、外食、交通機関等も高齢者に適したサービスに転換してきている。2 つ目に、
女性就労者の増加である。このことによって、家事の外部化が起きる。よって、コンビニ、
ネットショッピングなどの利用を増加させるのだ。3 つ目に、環境問題と健康への関心の高
まりである。エコロジーが大きな問題意識としてでてきたことで、グリーン・サービサイ
ジングが登場した。これは、カーシェアリングのように、モノ製品への消費をサービスへ
の消費に振り替えることである。サービスで代替できる消費を拡大することで、モノ生産
の生産量を抑えて、エネルギー消費量も削減しようというアプローチを行うのだ。4 つ目に、
情報化である。例として、ウェブ上での販売、医療サービスにおける電子カルテによる患
者の待ち時間の短縮などがある。最後に、国際化である。サービスに限って言えば、新し
いサービス商品やサービス提供の仕組みは海外からやってきたといっても過言ではない。
コンビニ、ホテル、宅配等々が先行事例である。今日でもモノ製品については、対米貿易
は輸出超過だが、サービスについては輸入超過になっている(近藤 2010p.34-42)。
次に、最近の消費者の観点から、サービス化を推し進めた要因について述べる。モノの
飽和状態が出現したことで、日常生活においてモノの持つ機能性への必要度が低下し、消
費マインドが以前より強く働くようになった。その特徴的な消費マインドを作り上げてい
るのは 5 つの傾向がある。時間感覚重視、利便性重視、個性化充実化重視、体験重視、合
理性重視である。現在のサービス企業はこうした消費マインドに対応したサービスの提供
が求められるのである(近藤 2010p.44)。
6
3.顧客との関係
3-1
サービスのプロ
サービスは、顧客と同時に生産されることから、サービス提供者 1 人ひとりの知識、技
能、などの仕事遂行能力が大切である。また、サービス環境など、品質の高さも求めら
れてくる。ここで、サービス担当者に焦点を当ててみる。
サービス活動の過程における担当者の役割は、大きく 2 つに区分できる。1 つは接客態
度といわれる側面であり、もう 1 つはサービスの内容に関わる部分である。態度が悪け
れば、いくらサービス内容が立派であっても顧客は満足しないし、反対にサービス内容
が幾分お粗末でも、担当者の態度が良いとそれなりに満足するといったことが起こる。
サービス活動は、態度という衣服を着て顧客へ渡される。なので、顧客の満足を増進で
きるように、担当者に親しみや好感が持てるような、状況に適した態度が求められるの
だ(近藤 2010p.87-90)。
近藤(2010)によると、新しい時代の接客態度には、
① 顧客の立場に立ち、顧客の視点から状況を把握する
② 礼儀正しく、丁寧な言葉づかいをする
③ 安心感を与える
④ 顧客の自尊心を尊重する
⑤ 公平の原則を守る
以上の5つが含まれるという。サービス担当者は、これら 5 つの原則に基づく接客態
度が自由にとれるようにする必要がある。サービスのプロとは、顧客に対する行動とし
て表される業務と接客態度の 2 つの領域で、形式を越えた自然の振る舞いとしてその能
力が高い水準で発揮できるような人である。
3-2
サービス・エンカウンター
近藤(2010)によると、サービス・エンカウンターとは、顧客が企業の提供する具体的なサ
ービスに直接接する場面のことである。サービスの特性でも述べたように、顧客はその場
でサービスを消費し、評価をつけることから、そのサービス全体についての満足感を決め
る可能性が高い、顧客とサービスの接点であるサービス・エンカウンターが重要なのであ
る。顧客への個別のサービスはここで生産され消費され完結する。サービス組織のシステ
ム的特徴は、サービス・エンカウンターにおいて集約的に現れるのだ。サービス・エンカ
ウンターは、その意味でサービス提供プロセスの決定的瞬間であり、クライマックスとも
いえるのだ。
サービス・エンカウンターの例として映画館を見てみよう。上映時間の確認のために映
画館に電話をして時間を尋ねる。映画館に行き、切符売り場で切符を購入する。入口で係
員に切符を切ってもらう。売店で飲み物を購入する。席について映画を見る。映画が終わ
7
って、係員にあいさつをされる。映画の鑑賞で、5 回もエンカウンターが起きているのであ
る。
映画の例でもわかるように、私たちは 1 種類のサービス商品を購入する際にいくつもの
連続するサービス・エンカウンターを経験することが多い。このような、人間対人間の相
互作用が、ディズニーランドでは、1 人の入場者が入場券の購入に始まって、平均 74 回(近
藤 2010p.99-100)、ディズニーリゾート全体でゲストとキャストが接触する機会は年間 25
億回以上ものサービス・エンカウンターを経験するといわれている(ディズニー・インステ
ィチュート 2007p.67)。
サービス・エンカウンターにおいても、従業員によって、サービスの内容が異なってく
るので、従業員 1 人ひとりの役割が重要となってくる。
3-3 サービス品質
3-3-1 サービス品質の重要性
サービス品質がなぜ重要であるのか。モノ製品では、生産された結果が、予定された規
格に適合しているかどうかで判断される。だが、サービス商品では、その場で生産される
ため、顧客に提供する前にその品質をあらかじめ用意していくことは難しい。準備はでき
ても、実際のサービスはその場で生産されるからだ。また、サービスの品質は、サービス
の性質から、提供されるその場、その時に顧客によって主観的に判断される。このことが、
サービス・マーケティングにおいて、サービス品質に注目し重視しなければならない最大
の理由である。サービス商品はモノ製品のように、事前にその品質について正確な情報を
得ることもできず、実際に試すこともできないのである。よって、モノを買うよりも大き
なリスク(購買リスク)をともなう。そこで、サービスを消費するその場その時に素晴ら
しいサービスを体験させることによって、顧客を満足させ、リピーターになってもらい、
また知人友人に薦めてもらう(口コミ)。これがサービス・マーケティングの唯一の本道な
のだ。モノ・マーケティングでは品質はある意味所与の条件であるが、サービス・マーケ
ティングでは、品質の高さとその価値を顧客に印象づけることは、最も重要な課題なので
ある(近藤
2010 p.143-144)。
サービス・エンカウンターでも見たように、サービスは、品質が異なる分、やり取りさ
れるその場その時が重要であることがわかる。
3-3-2 サービス品質の測定
モノであれ、サービスであれ、その品質を顧客がどのようにして判断するかを基準にす
ると次の 3 種の品質に分類することができる。
1 つ目に、探索品質。消費者が商品を購入する前に評価できるような品質のことである。
例えば、洋服や自動車など、実際に使ってみたりして検討ができるので、比較的簡単に評
8
価することができる。
2 つ目に、経験品質。商品の購入時または購入後にその商品を使用することによって判断
される。例えば、レストランでの食事、などのように、実際に利用し体験することで初め
て評価できる。多くのサービス商品がここに含まれる。
3 つ目に、信用品質。実際にそのサービスを経験した後でも、そのサービスが期待された
効果を生じるかどうか不明な場合の品質を指す。例えば、医療サービスや法律相談が上げ
られる。つまり、サービスの結果が後になるまでわからないために、サービスを受ける時
点では、サービス提供者を信頼して購入を決めざるを得ない商品である。
ここで大事なのは、今までサービスの特性の 1 つとして述べてきたように、顧客にとっ
て、サービスは結果のみならず、サービス提供のプロセスも重要である、ということだ。
結果についてすぐに評価できないときは、過程品質を求める傾向がある。それを測定する
のが、①企業が約束したサービスを正確に提供することができるかどうかの信頼性、②積
極的かつ迅速に顧客の求めに応じて対応できるかどうかの反応性、③従業員が顧客に対し
てしっかりとした礼儀を持っているかどうかの確信性、④顧客の個人的問題や気持ちを理
解し、一緒に解決しようとする姿勢の共感性、⑤建物の外観などサービスが提供される環
境を作り上げる物的要素である。私たちはこうした 5 つの基準によってサービスの質を判
断することができるが、実際に判断する際にどの基準が重要となるかは、対象となるサー
ビスによって異なる。ここで、品質の評価を、顧客が抱く「期待」と「実際の経験」の一
致または不一致によって行う、
「GAP 分析」を取っている。私たちがサービス商品を購入す
る時に立てる予測が「期待」であって、それを上回っていれば、その品質は高く評価され
るのである(近藤 2010p.145-154)。
以上から、東京ディズニーリゾートでのサービスは、そこで過ごしたという経験、非日
常空間での体験であるため、特に信用品質によって判断されると言える。過程も重要なの
で、キャストとのサービス・エンカウンターや、ディズニーリゾート内の空間が評価の対
象となる。ディズニーリゾートは現在、テーマパーク内で圧倒的人気を誇り、メディアに
も取り上げられることが非常に多い。未だに訪れたことがない人はその分大きな期待を持
っているだろう。また、リピーターも新アトラクションやイベントが完成されるたびに、
「デ
ィズニーならきっと楽しい、素晴らしい」という期待が出てくる。ディズニーは、そのよ
うな期待を上回るサービスができているに違いない。
3-4
インターナル・マーケティングとインタラクティブ・マーケティング
和田・恩蔵・三浦(2005)は、サービス業のマーケティングについて、次のように述べてい
る。マーケティング戦略を考えるときに、重要なのは、マーケティング・ミックスである
Product, Price, Promotion, Place の 4Pを検討することである。
サービス業においては、この 4Pを中心とする伝統的なマーケティングに加えて、別の次
元におけるマーケティングも重視しなければならない。伝統的なマーケティングをエクス
9
ターナル・マーケティングとすれば、別の次元のマーケティングとはインターナル・マー
ケティングとインタラクティブ・マーケティングと呼ぶ。
まず、エクスターナル・マーケティングについて。ここでは、顧客のサービス商品への
「期待」を形成し、購入を動機付ける役割を持っている。サービス商品、価格、立地、プ
ロモーション、物的要素などを統一した理念のもとに組み合わせ、企業独自の強みとなる
ような戦略を立てなければならない(近藤
2010
p.335-336)。
次に、インターナル・マーケティングについて。サービスを提供する企業は、高い顧客
満足度を得るために、顧客と接するあらゆる従業員を訓練し、彼等を動機づけしなければ
ならない。従業員のトレーニングに多くの時間と資金を投資し、従業員の士気を高めるこ
とが非常に大切なのである。ディズニーリゾートでも、全ての従業員がキャストと呼ばれ、
全員がディズニーワールドにおけるひとつのショーを演じるメンバーとして位置づけられ
ている。こうしたマーケティングは、企業とその従業員との間の問題であり、組織内部の
マーケティングであるために、インターナル・マーケティングと呼ばれている。また、近
藤(2010)によると、エクスターナル・マーケティングで形成された顧客の期待を実現す
るために必要なサービス組織の体力向上が主な役割であると言う。
最後に、インタラクティブ・マーケティングについて。有形財の知覚品質は、その財が
どのように入手されたかということにそれほど左右されないが、サービスの知覚品質は、
売り手と買い手との相互作用に大きく依存している。そこで、従業員と顧客との間に位置
するマーケティングとして、サービス業では、インタラクティブ・マーケティングが重視
されている。ディズニーリゾートでも、顧客と従業員の接点が重視されている。これは、
第 3 章 2 節で述べたサービス・エンカウンターが多いことも関係している。顧客から常に
見られているという意識も高く、従業員には厳しい身だしなみの規定が設けられているの
である。
《図2:サービス・マーケティングの体系》
会社
インターナル・
エクスターナル・
マーケティング
マーケティング
従業員
顧客
インタラクティブ・
マーケティング
10
3-5
サービス・マーケティング・ミックス
企業が市場に商品を提供する際に、販売活動に関連して決定しておくべき主要な要因の
まとまりを「マーケティング・ミックス」と呼ぶ。一般に4P、
「Product:製品」、
「Place:
流通」、
「Promotion:販売促進」、
「Price:価格」が、主要な要因としてあげられる。普通、
企業はモノ製品やサービスを生産するために、ヒト、モノ、金、情報といった経営資源を
動員して生産のための組織を作る。一方マーケティングは、組織が生産する商品を市場へ
提供するための働きかけの手段とするものである(近藤 2010p.187-188)。
では、サービス企業でのマーケティングにおいてはどうなのか見てみよう。先にあげた
ように、4P は、顧客がその商品を購入するかどうかの決定に影響する主要な要因であり、
したがってサービス・マーケティングにおいても重要な要因となる。しかし、さらに要因
が存在する。まず、接客態度など、
「ヒト」の問題である。2番目に、サービス提供の場を
構成する「物的な要素」
、最後に、サービス企業の「サービス提供過程」の問題だ。これら
の3つをザルタムルとビットナーは「サービスの証拠」と呼んでいる。顧客のサービスの
体験を構成して、サービスの結果というよりも、主に「過程」の側面での質を左右して顧
客の満足感に大きな影響を与える要素なのだ。顧客の体験を作り上げる要素であるから、
初めてのサービスの購入時よりも、すでに一度経験した2回目以降、つまりリピート消費
の意思決定に大きな影響を与える要素だといえる(近藤 2010p.189)。
したがって、サービス・マーケティングにおいては、モノ中心のマーケティングの 4P に
加えて、「People:ヒト」、「Physical evidence:物的環境要素」、「Process:過程」の3つ
の P が必要になる。サービス・マーケティング・ミックスは「7P」になるわけである。
ここで、サービス・マーケティングで重要となる要素の「ヒト」、「物的環境要素」、「過
程」について見る。
まず、サービス生産における最重要の要因といえる「People:ヒト」
。その理由は、ヒトが
人にサービスを提供するというパターンのサービス活動が最も一般的だからだ。約束した
サービスを確実に実行し、知識、経験、マナーを備え、迅速に顧客の要求に応え、顧客の
気持ちに共感できる能力を備えた人材は、顧客を深く満足させることができる(近藤
2010p.215)。
2番目に、
「Physical evidence:物的環境要素」。これは、サービスの生産に関係するすべ
ての物理的事物を意味する。建物、景観、部屋、レイアウト、備品、ユニフォームなどが
あげられる。経験の一部になるという機能に加えて、物理的要素の持つもう一つの基本的
役割は、サービスの質を顧客にコミュニケートするということにある。サービスは実際に
経験しなければその内容はわからないのだが、サービスにおける物的な要素はサービス内
容を示す手がかりになっている(近藤 2010p.219)。
最後に、
「Process:提供過程」。顧客の立場からのサービス提供過程とは、サービスが活動
であることから、顧客が実際に体験する活動プロセスを指すことになる。顧客の立場から
見た提供過程は主に2つの尺度に分類ができる。第1に、サービス過程が標準化されたも
11
のか、それとも顧客の要求に対応する個客化したものかということ。第2に、そのサービ
ス過程に顧客の参加が求められる程度である。この2つの軸は、サービスがそれらの軸の
どこに位置するかで、顧客にまったく違った経験を与えるという意味で、重要な要素であ
る(近藤 2010p.223-225)。
3-6
先行研究まとめ
以上のように、先行研究では、今日のサービスの必要性やサービスそのもの、サービス
の特性、品質について、サービス・エンカウンターを取り上げた。モノと異なり、サービ
スとは、サービス主体からサービス対象に提供される機能のフローであり、それ自身のみ
では存在することはできない。ここで、重要なことは、サービスを提供する主体である「従
業員の役割」である。従業員によって、品質が変わってくるサービス・エンカウンターの
機会が多く、やり取りされるその時その場が大切なのだ。これを、本稿で扱うテーマに当
てはめると、サービス商品は「東京ディズニーリゾート」を指す。この商品には、サービ
スの特性である無形性、一過性、不可逆性、異質性、同時性を持つと考えられる。また、
品質は「東京ディズニーリゾートでの体験」である。これは、事前に正確な情報を得るこ
とはできず、実際にその場その時にならないと価値を確かめることができないので、購買
リスクを伴うのである。
また、サービス業のマーケティングにおいて重要となる顧客と従業員の間に位置するイ
ンタラクティブ・マーケティングについても見ていった。東京ディズニーリゾートでも買
い手と売り手の相互依存が高いので、顧客と従業員の接点が重要視されている。
最後に、サービス・マーケティング・ミックスについて述べた。マーケティング・ミッ
クスと呼ばれる4P に加えて、
「ヒト」、
「物的環境要素」、
「過程」の3つの要因がサービス・
マーケティングにおいて主要であるということだ。
以上を踏まえて、次章からは、東京ディズニーリゾートのサービス・マーケティングが
成り立っているのかを分析、考察していく。
4.東京ディズニーリゾートのサービス・マーケティング
ここでは、テーマパークで圧倒的1位を誇る東京ディズニーリゾートについて見ていく。
4-1 東京ディズニーリゾートについて
株式会社オリエンタルランドが所有するディズニーアンバサダーホテル・東京ディズニ
ーシー・ホテルミラコスタ・東京ディズニーランドホテルの 3 つのホテル、140 店舗のショ
ップやレストラン、16 スクリーンのシネマコンプレックスで構成される複合型商業施設イ
クスピアリや、舞浜エリア内各施設を結ぶモノレールのディズニーリゾートライン、国内
最大級のディズニーショップであるボン・ヴォヤージュを含めたエンターテイメントに満
ち溢れているエリア全体のことを指す(オリエンタルランドグループホームページより)。
12
東京ディズニーリゾートは、年間 2700 万人を超える入場者数をもち、その規模と内容は、
本家本元のアメリカに勝るとも劣らない(草地 2010p.14)。入場者1人あたりの消費額はア
メリカのディズニーランドの約 2.5 倍であり、入園者のリピート率は約 9 割にもなっている
(近藤 2010p.257)。1983 年に東京ディズニーランド、2001 年には東京ディズニーシーをグ
ランドオープンさせた。その間にも、長い年月と多くの投資をかけ、続々と新しいアトラ
クションやショーなどを開発していった。
4-2 ディズニーのサービス基準
ディズニー・インスティチュート(2007)によると、
“Happiness の提供”というのがディ
ズニーのテーマである。それを実現するための具体的な行動を“グッドショー”の4つの
要素へと発展させ、ディズニーのサービス基準を明確に定義した。これは、ディズニーの
理念でもある。それが、SCSE、つまり、Safety(安全)、Courtesy(礼儀)、Show(ショー)、
Efficiency(効率)の4つである。
①Safety(安全)
安全の保持は最も重要と言える。全てのキャストが、安全維持のための手順と現場独
自の安全ルールの遵守を教え込まれている(ディズニー・インスティチュート 2007p.52)。
救護室が3ヶ所あり、医者も待機している(近藤 2010p.264)。
②Courtesy(礼儀)
親しみのある礼儀が大切だとされている。服装や身だしなみについても厳しい規定が
あり、ディズニースマイルといわれる自然な笑顔で接することが求められている。また、
挨拶は「いらっしゃいませ」ではなく、「こんにちは」を用いることで、ゲストとの双方
向のやりとりを促す(ディズニー・インスティチュート 2007p.80)。
③Show(ショー)
ディズニーリゾート全体が舞台で、顧客に継ぎ目のないエンターテイメントを提供す
ることである。ゲストの注意がそれたり、妨げられたりせずに、常にグッドショーが提
供できるようにした。
④Efficiency(効率)
効率よく楽しんでもらうことを重視する。だから入場者で混雑していたら、入場制限
を行う。また、飽きさせないように、行列は直線ではなく、クネクネ曲がらせて並ばせ
るなど、工夫する。ディズニーは「楽しい思い出」をつくってもらうことが大事である
ので、業務上の効率は、サービステーマを実現するための、4 番目の原動力として置かれ
ている。
こうした、優れたサービス提供システムが整っている。しかしディズニーには、
「ディズ
ニーは常に未完成だ」という創設当初から持ち続けられてきた発想がある。つまり、より
高度なサービスを提供するために努力し続けている、これはディズニーリゾートが進化し
13
続ける大きな要因と言える。
4-3 7P との照らし合わせ
約9割のリピート率を持ち、顧客満足度が高い東京ディズニーリゾートでは、どのよう
なサービス・マーケティングが行われているのか。ここでは、サービス・マーケティング・
ミックスで述べた7Pと照らし合わせて見ていく。
① Product:製品
東京ディズニーリゾートという架空の独立空間が商品で、トレードマークはミッキー
マウスである(岩田 2006p.53)。商品コンセプトは、「非日常的な経験」の提供である。
ディズニーでは、この非日常的経験の内容を「ファンタジーとノスタルジー」を中心に
構成し、それを「ファミリー・エンターテインメント」の形で提供しようとしている。
子供にはファンタジーを、大人にはノスタルジーを与えようということである。大人も
子供の心を失ったわけではないので、ミッキーマウスなどの多くのキャラクターに会い、
子供の頃の懐かしい記憶を蘇らせるのだ。実際に、入園者の 69%が大人であり、その
うちの 74%が女性である(近藤 2010p.p.259-260)。また、非日常的空間の演出のために、
内側から外側が見えない、外側からも内側が見えないようになっている。こうすること
で、現実との区切りをつけているのである(岩田 2010p.54-55)。
② Place:流通
ここでは、どこの立地を選択して集客をはかったのか、ということとする。東京ディ
ズニーリゾートから半径 50km 以内(日帰り可能)に滞在顧客が 3000 万人以上住んでい
る。
「世界でも類まれな巨大マーケットを近隣に有しています(オリエンタルランドの株
主・投資家用 HP)」とオリエンタルランドもその立地条件の良さを認めている(岩田
2010p.53)。
③ Promotion:販売促進
第1に、トレードマークであるミッキーマウスをあらゆる場面に登場させている。し
かし、パーク内では、ミッキーマウスは1人しかいないので、ミッキーマウスのぬいぐ
るみが同時に2ヶ所に現れることはないようになっている(岩田 2010p.53)。また、パー
ク内には、隠れミッキーというものが多くあり、それを見つけることもゲストにとって
の楽しみの一つになっている。
第2に、ディズニーストアをキャラクター商品の販売店としてではなく、東京ディズ
ニーリゾートの顧客開拓の地として活用している。店内の音響と光で、疑似体験ができ
るようになっている(岩田 2010p.54)。また、グッズだけではなく、入園チケットの販売
も可能であり、来園を助長させている。
第3に、常にゲストの身近にいることである。テレビを見ると、朝はディズニーアニ
14
メの番組があり、番組の間には CM が流れ、情報番組やレジャー関連の雑誌の中では、
ディズニーリゾートの楽しみ方が紹介されている。こう考えると、常にディズニーリゾ
ートを意識せざるを得ないような状態にある。行ったことがない人も、現在パーク内で
行われていることを目や耳から情報として得ており、ゲストとの接触回数が非常に多い
のである(河野 2005p.67-68)。また、首都圏と地方で放送される CM は、多少異なる。
首都圏のゲスト向けには、期間限定のスペシャルイベントを取り上げている CM を流し、
地方のゲスト向けには、旅行の計画を立てるのに時間が掛かるため、不変的なパークの
魅力を訴えた CM を流す、などターゲットに合わせた活動を行っている。
④ Price:価格
2011 年 4 月 23 日より、入園チケットの値上げを行った。例えば、1 デーパスポート
だと、大人は 5800 円から 6200 円へ 400 円の値上げ、小人は 3900 円から 4100 円へ
200 円の値上げとなった。入園代の他に、食事代やお土産代も含むと、約 10000 円程度
と想定される。
⑤ People:ヒト
ゲストに接するフロント従業員は 3000 人から 5000 人の間であり、登録従業員(アル
バイト)は約 1.2 万人である。フロント従業員は「キャスト」と呼ばれる。園内の仕事場
は舞台であり、従業員は常に顧客から見られているという気持ちで仕事をする。キャス
トはどのように行動し、顧客に接するか、言葉遣い、態度、動作など細かく決められて
いる。こうした行動パターンや態度を身につける訓練は、ディズニー・ユニバーシティ
で行われる(近藤 2010p.262-263)。
また、キャストは顧客に高いサービスを与えてくれるが、それにはサービスに専念で
きる環境にあるからといことがある。というのも、各自の役割を確実に果たすことで構
成された、完璧な分業体制ができあがっているからだ。ディズニーは 1 年契約のスタイ
ルをとり、自身の役割を早くマスターできる仕組みと、マンネリを防ぐ仕組みができて
いる。キャストに対する鮮度チェックを重要視していることがわかる(河野
2005p.185-187)。
さらに、顧客自身もサービスの構成要因と言える。園内で過ごす内に、ゲストは様々
な体験をするが、その中でも最も心に残る大切なものが「人との心の触れ合い」、つま
り「コミュニケーション」である。それは、ゲストとキャストはもちろん、ゲスト同士
などさまざまである。パーク内は触れ合いの場なのだ。だから、ディズニーのあの楽し
い雰囲気は、ハッピーな気持ちになっている人同士の触れ合いが生み出しているのだ。
パークの雰囲気は 1 人のためのものではないので、お互いにテーマ性を阻害するよう
な破天荒な身嗜みは控えてもらっている。例えば、奇異な身なりで来園した場合には、
ディズニーの制度の趣旨をよく話して、その日の入園は遠慮してもらっている。服装の
15
乱れはゲストが共有し合っている秩序ある健全な園内の雰囲気にとって、好ましくない
からだ。このように、同じ場に居合わせたゲスト同士の身なりや態度も顧客満足に関わ
ってくるのである(上澤 2003p.143-157)。
⑥ Physical evidence:物的環境要素
製品の説明のところでも触れたように、非日常空間を演出するための工夫が行われ
ている。建物は下が大きく、上の部分は小さく作られている。ゲストは明確に意識で
きるほどにこうした変形には気付かない。しかし、「どこか変だ」という気持ちを潜在
的に感じ、非日常の世界へ入る心の準備を作り上げているのだ。その他、トイレの洗
面所には原則、鏡が置いていない。これは利用の回転を良くするためと、鏡に写る自
分を見て、現実に引き戻されないようにするためである。また、ディズニーランドの
地下には、商品や食材などを運ぶトラックを顧客に目撃されないようにするための外
部から直接入れる 600mに渡る地下通路がある。このように、全ての物的要素は、ゲス
トを徹底して非日常の世界で遊ばせるように設計されている(近藤 2010p.261-262)。
⑦ Process:提供過程
ディズニーでは、標準化よりも、個客化したサービスが多いであろう。大人、子供、
外国人、障害者などによって求めるサービスは異なる。ディズニー・インスティチュー
ト(2007)によると、例えば、文化の異なる外国人に対しては、その文化や行動様式を学
んだキャストがつき、より良いサービスを提供できるようになっている。また、身長制
限がある乗り物に乗れなかった子供に対しては、身長が乗り物に乗れる高さになった時
に、待ち時間なしで乗れることを約束した証明書をあげるのである(p.158-161)。
以上のことから、東京ディズニーリゾートのマーケティングは、第3章の先行研究で述
べた7P に当てはまっていることとなり、サービス・マーケティングが成り立っていること
がわかる。
しかし、この7つを満たせばうまくいくというのであれば、ほとんどのサービスはうま
くいくように思われる。ディズニーを基準にして、自らの業務も改善しているサービスは
たくさんあるに違いないが、ディズニーと同じようにうまくいっているところは限られて
いるはずである。つまり、何年も高い集客率を誇ってきた東京ディズニーリゾートでこの
ようなサービスレベルが高いマーケティングが行われているのは、あくまで結果にすぎな
いのではないだろうか。7P を満たしたからうまくいっているのではなくて、うまくいくよ
うに試行錯誤してきた結果、7P が満たされるようになった。今や7P 以上に問われるべき
は、歴史的な試行錯誤のプロセスである。
16
5.東京ディズニーリゾートの歴史的分析
5-1
1983~2012 年の活動から見えた 3 つの発見
ここでは、開業した 1983 年から現在の 2012 年までの新聞記事を基に、ディズニーがど
のような活動をして顧客にアプローチしていったのか。また、どのような影響がでたのか
を見る。
●1983 年
4 月 15 日オープン予定に向け、1 月から個人向けの入場予約券を発売した。他の遊園地
より入場料が高いにも関わらず、販売枚数は予想を上回る好調な出足となった。販売後約 1
週間で予約は 807000 人にも達した(『日経産業新聞』、1983 年 1 月 6 日、p.12)。その後も、
爆発的に売れ、当初目標としていた年間 1000 万人動員は間違いない、と関係者は見ていた
程である(『日本経済新聞』、1983 年 3 月 20 日、p.23)。ただ、飲食施設が少ない、交通が
不便、という問題点も上がっていた。オープン前の招待客のプレビューによると、特に、
食事は「待ち時間が長い」と不満の声が多かった。大金を払って食事も、交通面でも長時
間待たされてはフラストレーションがつのる。早い段階での改善が求められた(『日経産業
新聞』、1983 年 4 月 6 日、p.14)。
混雑を避けるため、日本初となる入場予約制度をとった。また、日本人の行楽に弁当は
つきものであるが、東京ディズニーランドの場合は、外部からの持ち込みは御法度とした
(『日本経済新聞』、1983 年 2 月 3 日、p.8)。ゲストにより快適に、より非日常性を感じて
もらうためである。
訪れる客は、国内のみならず、韓国からの客が増加した。アメリカのディズニーより近
く、都心にも近いことが受けたようだ(『日本経済新聞』、1983 年 1 月 11 日、p.26)。
東京ディズニーランド開業で、新しい旅行需要を生み出した。ホテル業界の客室稼働率
増加にも影響した(『日経産業新聞』
、1983 年 4 月 8 日、p.11)。
大きな特色として、施設を作るのにスポンサー制をとったことだ。スポンサー料を払う
代わりに、ディズニーのキャラクター、ロゴマーク、入場予約券などが販促手段として使
える。これは、ディズニー側も良い広告として、消費者に訴えることができる(『日経産業
新聞』、1983 年 4 月 9 日、p.8)。
●1988 年
開園 5 周年を迎え、パレードを一新し、このパレードをそのまま CM に採用した。この
CM は主にリピーターを対象としており、「夢の演出」をしながら、同時に客を呼び込むた
めの「きっかけづくり」をしている。ディズニーは広告予算の7割を TVCM に使用。もと
もとアニメから生まれた遊園地であり、色と音の動きは不可欠な要素、キャラクターが生
きているという存在感を伝えるのには TV が最適であるとの判断であった(
『日経産業新聞』、
17
1988 年 7 月 19 日、p.7)。自社にあった販促活動を行っていることがわかる。
●1993 年
営業時間の延長に踏み切った。延長することで、来場しやすくする一方、滞在時間を伸
ばして客単価の上昇に繋げた(『日経産業新聞』
、1993 年 4 月 1 日、p.16)。
●1994 年
敬老の日に、60 歳以上のカップルが参加するダンスパーティーを開催した。初めて中高
年以上の年齢層をターゲットにしたイベントが開かれた。子育ての終わった夫婦など来園
者数を増やし、顧客層の拡大を増やした(『日経流通新聞』
、1994 年 8 月 25 日、p.5)。
●1998 年
東京ディズニーシー完成後の集客に向けて、関西地区の旅行会社などへの販売促進活動
を強化する狙いで、オリエンタルランドが大阪事務所を開設した(『日本経済新聞』、1998
年 1 月 22 日、p.39)。集客の上で関西の重要性を強調していた。
●2000 年
複合商業施設「イクスピアリ」と初の直営ホテル「ディズニーアンバサダーホテル」を
開業した。新施設の開業でこれまで来なかったゲストを呼び込んだ(『日経産業新聞』、2000
年 7 月 5 日、p.18)。
●2001 年
東京ディズニーシー開業。東京ディズニーランドと性格の異なる 2 つのパークを用意し、
これまでディズニーランドに来なかった客を呼び込み、アジアからの誘致につなげていっ
た(『日経 MJ』、2001 年 8 月 30 日、p.3)。
両パークの性格の違いを出すことで、“食い合い”を防止させるようにした。実際、ディ
ズニーシーでは、ディズニーランドに比べてキャラクターの露出を意図的に控えている(『日
経金融新聞』
、2001 年 9 月 4 日、p.7)。
●2002 年
東京ディズニーシーが開業して間もない。リゾートのイベントやホテルの状況の提供、
その他情報を CM などで広めることで、情報が行き渡りにくい地方から訪れる客を集めた
(『日経 MJ』、2002 年 9 月 19 日、p.7)。
●2003 年
東京ディズニーシーでは、東京ディズニーランドと違い、コンセプトが大人も楽しめる
18
テーマパークである。多少大人向けにシフトするため、飲酒を解禁し、中高年男性の心も
掴んだ(『日経 MJ』、2003 年 2 月 28 日、p.7)。
また、入場チケットを、インターネットを通じて販売開始した(『日経産業新聞』、2003
年 8 月 25 日、p21)。
●2004 年
2003 年度にディズニーを訪れなかった人の理由を尋ねたところ、以下の結果が出た(『日
経産業新聞』
、2004 年 2 月 19 日、p.29)。
1 位:時間的余裕がなかったから
2 位:混雑しているから
3 位:料金が高いから
面白くない等、サービス面での不満は少なかった。では、今後期待することを尋ねると、
最も多かったのは、値下げの希望、混雑の解消であった。以上から、いかにゲストのスト
レス、負担をいかにして減らすかが重要であることがわかる。
●2005 年
企業や学校向けにディズニー流のおもてなしやコミュニケーションを現役キャストが紹
介するワークショップ形式で行う、ディズニーアカデミーを開講した(『日経産業新聞』、
2005 年 8 月 16 日、p.9)。
●2007 年
全国の 16~69 歳の日経リサーチインターネットモニターを対象に 2006 年 8 月下旬に実
施された「ブランドから得られる感動体験(経験価値指数)ランキング」で3年連続となる 1
位に輝いた。心地よさなど感情に訴える魅力を示す「エモーション」
、独自性や話題になる
などの「プレゼンス」の値が突出して高く、2 位以下を大きく引き離した(『日経 MJ』、2007
年 6 月 13 日、p.3)。
●2008 年
シニアパスを定番化(『日本経済新聞』、2008 年 2 月 20 日、p.11)。45 歳以上の方を対象
にした「45PLUS フレンズパスポート」も販売した(『日経 MJ』、2008 年 8 月 8 日、p.9)。
また、ディズニーアカデミーの影響もあり、シニア層、30~40 代層を獲得した。さらに、
国内市場はますます縮小していくため、新規顧客獲得のためには、さらに海外も攻める姿
勢を見せた。
●2010 年
東京ディズニーシーは、小さな子供を連れた家族客の呼び込みを強化した。従来、飲酒
19
ができるレストランを設けるなど、大人の集客に力を入れてきたが、身長制限のないアト
ラクションなどの新規導入によって、ファミリー客を誘致することとした(『日経 MJ』、2010
年 5 月 12 日、p.9)。
●2011 年
震災の影響で自粛ムードが続き、入場者は減少した(『日経産業新聞』、2011 年 8 月 25
日、p.15)。ここで、特別チケットの販売、新アトラクションの建設やショーイベントの刷
新を進め、集客回復に努めた。
●2012 年
少子高齢化に伴い、40 歳以上の集客化を進める(『日経 MJ』、2012 年 2 月 10 日、p.9)。
また、スマートフォン、アプリ、SNS を活用して、ヤング層への販促も行った(『日経 MJ』、
2012 年 7 月 2 日、p.1 『日本経済新聞』、2012 年 9 月 13 日、p.7)。
これより、歴史的に見て、ディズニーが試行錯誤してきたポイントとして、以下の 3 つ
が上げられる。
① 集客力
シニア向け、おとな向けのパスポートやイベントを続々と出しているのと同時に、さ
らにヤング層の集客力をあげるために、アトラクションの待ち時間が把握できるスマー
トフォンのアプリを出すなどした。これによって、顧客のイライラ解消に繋がった。常
に新しいモノを求めるヤング層向けに新アトラクションの建設や新しいグッズの販売
を行い、おとな向けにはサービスの面を充実させた。
② スピード
震災の影響にも、特別チケットの販売や、気候に合わせたイベントなどの素早い対処
で集客を維持した。次第に人々もネットに触れる機会も増え、自宅で HP から購入する
ことができるパスポート、e-チケットの販売開始など、時代に合わせたサービスの提供
を行った。
③ 先読み力
リピーター維持のために、新しいモノやサービスをつくっても、現状に満足せずに次
のことを考えている。また、少子高齢化に伴い、40 歳以上の集客化を進めている。こ
れは、ライバルである、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンよりも早い試みであった。
このように、3 つの発見をしたわけであるが、②のスピードと、③の先読み力は、テーマ
パーク業トップを走るだけに、やはり当然のことだと言えるであろう。この中で、①の集
客力について、決して常にうまくいっていたわけではなく、顧客の不満も含め、試行錯誤
20
があったようにみえる。そこで、入園チケットの変化と顧客の変化を確認してみよう。デ
ィズニーは幼児、ヤング層、おとな、シニア層と、広い層から受けている。セグメンテー
ションがマスになっても成功している理由を探っていく。
5-2
数値から見る変化
5-2-1 入園チケットの変化について
開園当初は、1 日パスポートはなく、入園料とアトラクション乗車 10 回がセットになっ
た「ビッグ 10」という券を大人 3700 円、子供 2500 円で売り出していた。東京ディズニー
ランドは遊園地業界初の予約制、日付指定を敷いていた。だが、平日入場者動員に力を入
れるため、平日向け乗り物乗り放題の「パスポート」を 3900 円で売り出し、平日に限って
当日券を認めた(『日本経済新聞』、1983 年 3 月 20 日、p.23)。1984 年には、夜間のみ入園
可能である割安な「スターライトチケット」を値上げし、大人は 2500 円から 2800 円、中
人は 2000 円から 2200 円、子供は 1500 円から 1600 円になった(『日経産業新聞』、1984
年 6 月 8 日、p.12)。1985 年には、60 歳以上の方を対象としたシニアパスを発売。1988 年
には、今では定番となっている、2 月から 3 月にかけて学生を対象に割引をした「キャンパ
スデーパスポート」が発売された(『日経産業新聞』、1988 年 1 月 28 日、p.4)。また、初め
てのパスポートの値上げも行われたと共に、5 周年を記念して、年間パスポートと 2day パ
スポートを限定販売した(『日経流通新聞』、1988 年 3 月 1 日、p.4)。1989 年には、消費税
導入に伴い、パスポートの値上げが行われた(『日本経済新聞』、1989 年 2 月 23 日、p.25)。
1992 年は、パスポートの利用が 7 割であったことより、需要が低くなった「ビッグ 10」を
廃止した(『日本経済新聞』、1991 年 9 月 26 日、p.5)。顧客の滞在時間が増え、ゆっくり楽
しむ人が多く、パスポートの割安感が高まったのである。1992 年には、3 年振りのパスポ
ートの値上げ、1996 年、97 年には消費税率引き上げに伴い値上げが行われた。1999 年に
は、
「アフター6 パスポート」を発売、会社帰りに立ち寄る客の増加を見込んだ(『日本経済
新聞』、1999 年 3 月 9 日、p.16)。さらに、60 歳以上の方とその同伴者を対象とした「グラ
ンドファミリーパスポート」も発売された(『日経流通新聞』、1999 年 6 月 24 日、p.22)。4
月から、チケットを入園料やすべてのアトラクションの利用料金を含む「パスポート」に
統一した(『日本経済新聞』、1999 年 12 月 1 日、p.15)。2000 年には、アトラクション増設
により、東京ディズニーランド全体の価値も上がったため、値上げされた(『日本経済新聞』、
2000 年 5 月 16 日、p.11)。そして、2011 年に、現在の料金体系となる、大人 6200 円、中
人 5300 円、小人 4100 円へと値上げした(『日経 MJ』、2010 年 12 月 12 日、p.9)。
21
《図3:パスポート料金体系の変化》
年
1983
1985
1989
1992
1996
1997
2001
2006
2011
大人
3900円
4200円
4400円
4800円
5100円
5200円
5500円
5800円
6200円
中人
3600円
3800円
4000円
4400円
4500円
4590円
4800円
5000円
5300円
小人
2800円
2900円
3000円
3300円
3500円
3570円
3700円
3900円
4100円
(新聞記事を基に著者作成。)
5-2-2 顧客の変化について
価格を上げることは、当然顧客の変化を伴う。開園当初は、ファミリーエンターテイメ
ントをコンセプトとして、家族をターゲットとした。日本の地方客や海外、特にアジアか
らの顧客を、わざわざアメリカまで行かなくてもいい、ということで、多く取り込んだ。
1984 年の入場者動向を見ると、18 歳以上の大人は 75%、12-17 歳の学生は 9%、4-11 歳
の子供は 16%であった。また、地域別区分では、関東 62%、関西 8%、海外 10%という結
果になった。男女比は、男性 43%、女性 57%であった(『日経産業新聞』、1984 年 4 月 16
日、p.14)。狙い通り、家族連れ、海外から訪れる人が多かった。開園 3 年目の 1986 年に
は、リピーターが 30%に達した。子供よりもむしろ大人‐魅力があれば何度も訪れる、財
力と決定力を持った層‐を惹きつけていることがわかった。従来では、「子供連れ」が多い
テーマパークであるが、その常識を覆した。地域別区分では、関東 63%、関西 6%、海外 9%
となり、海外から訪れる人は 10%前後に定着している(『日経産業新聞』
、1986 年 4 月 1 日、
p.1)。90 年代に入り、リピーターは 80%にまで上昇した。しかし、92~93 年は、景気低迷
の影響により、地方客が減少した(『日経産業新聞』、1992 年 9 月 2 日、p.18)。そこで、元
から集客が弱かった学生を呼び込むため、夜間営業強化やイベント、ショーの強化を行っ
た(『日経産業新聞』、1993 年 4 月 1 日、p.16)。こうしてヤング層にリピーターになっても
らうことで、大人になっても、さらに子供が生まれても、次の世代に繋げてもらうのであ
る。96 年には、幼児向けエリアであるトゥーンタウンを設置し、大人が安心して幼児を連
れてこられる場にした(『日経流通新聞』、1996 年 4 月 16 日、p.15)。これは、例年落ち込
む集客を安定させることに繋がった。2001 年には、東京ディズニーシーが完成した。ディ
ズニーランドとディズニーシー、周辺のホテルを含めて「東京ディズニーリゾート」と命
名され(『日経産業新聞』
、1998 年 10 月 23 日、p.17)、滞在型テーマリゾートとして、変貌
を遂げ、落ち込んでいた地方客の取り込みをした。東京ディズニーシーでは、飲酒が可能
22
なこともあり、大人中心のパークとなっている。だが、「マーメイドラグーン」や「アラビ
アンコースト」など、幼児が遊ぶ場所の設置も欠かさず、家族全員が楽しむことのできる
構造となり、どの世代も逃さないようにつくられている(『日経 MJ』、2001 年 8 月 30 日、
p.3)。ディズニーランドよりも広いので、再来園を促すこともできる。また、ロマンチック
な夜景も見ることができ、カップルの集客にも繋がっている。
《図 4:地域別来園者比率》
100
90
80
70
62
63
11
8
9
10
6
12
10
1984
67.7
70.2
9
11.3
7.2
10.2
3.6
1986
2006
11.2
6.8
10.5
1.3
2011
%
60
50
40
30
20
10
0
年
海外
国内その他
関西
中部
関東
(オリエンタルランドホームページ 『日経産業新聞』、1984 年 4 月 16 日 p.14 『日本経済
新聞』、1986 年 4 月 16 日 p.11 を基に作成)
図4より、地域別来園者比率を見ると、関東から訪れる人が開園以来徐々に増加してい
ることがわかる。その反面、開園当初はアジア方面から訪れる人が多かったものの、1992
年にディズニーランド・パリ、2005 年には香港ディズニーランドが開園した影響もあって
か年々減少している。
23
《図 5:男女別来園者比率》
100
80
57
53
43
47
1984
1986
%
60
72.6
69
27.4
31
2006
2011
40
20
0
年
男性
女性
(オリエンタルランドホームページ 『日経産業新聞』、1984 年 4 月 16 日 p.14 『日本経済
新聞』、1986 年 4 月 16 日 p.11 を基に作成)
図 5 より、
男女別来園者比率を見ると、80~90 年代前半はファミリー向けを全面に出し、
財力を持った層を惹きつけたことから、父親が多かったのではないか。しかし、90 年代後
半~2000 年代に入ると女性がグループで訪れることが増加した。2001 年には、ディズニー
シーが開業し、大人の男性も取り込むように飲酒を解禁したことで、その後は男性の比率
も上がってきている。
%
《図 6:年代別来園者比率》
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
16.2
17
17.9
17.7
19.1
18.6
52
51.8
52.2
53.1
52.4
51.2
11.8
11.3
10.7
11.1
10.1
11.9
20
19.9
19.2
18.1
18.4
18.3
2006
2007
2008
2009
2010
2011
年
小人
中人
(オリエンタルランドホームページ
大人(18-39歳)
大人(40歳以上)
ゲストプロフィールより)
24
図 6 より、年代別来園者比率を見ると、40 歳以上の大人が徐々に増加していることがわ
かる。それと比較して、小人は減少している。1990 年は全体の 25%もあったことから(『日
経産業新聞』
、1990 年 9 月 3 日 p.22)、それは明らかである。少子高齢化が進み、ディズニ
ーもその対策として、40 歳以上のゲストへの集客にも力をいれたことが、この結果に繋が
ったのではないか。
6.まとめ
以上のように、入場チケットと顧客の変化を辿ることでわかったことは、顧客の東京デ
ィズニーリゾートに対する考え方ではないか。7P だけで上手くマーケティングを行ってい
たのではないのである。80~90 年代は大人や家族(財力や決定力を持つ大人がいる)が観
光地として遊びに行くところだった。総理府の「国民生活に関する世論調査」によると、
“モ
ノの豊かさ”より“心の豊かさ”を求める率が、全体の平均値で上回った時点が 1979 年。
80 年代には心の豊かさ志向は年々上昇し、モノの豊かさを求める率との格差は拡大の一途
を辿っていった。つまり心の豊かさ志向が社会的コンセンサスとなった 80 年代に快適市場
は開かれたといえる。また、同調査で、生活の力点をレジャー・余暇生活とする率がトッ
プになったのは 83 年。
“将来に備える”よりも、
“毎日の生活を充実させる”が上回った 86
年。これによって消費が生活文化として成熟し、勤労一辺倒から毎日の生活を楽しむこと
が善との社会風潮が急激に高まっていった。特に 29 歳以下の女性が特に快適志向が強かっ
たようだ。1 人でいる楽しさを充実すると、みんなと集う満足を求めたくなる。その両方の
快適さを満足させてくれるのが 1 人で来たゲストにも、どんな気分で来た人にも快い気分
に乗せる魔法のようなハードとソフトがあるディズニーランドであった(『日経流通新聞』、
1989 年 6 月 3 日、p.8)。さらに、ちょっと手の届かない存在だったシティーホテルが、90
年代に入ると普通の人々にとっては日常的なものになりつつあった。アーバンリゾートを
楽しむ客が増えたのである(『日経産業新聞』、1990 年 11 月 21 日、p.20)。1992 年の東京
ディズニーランドの年間入場者数を見ると、外国人や地方からの客は減ったが、関東から
の客はわずかながら増えている(『日本経済新聞』、1993 年 4 月 15 日、p.39)。これは、デ
ィズニーが、消費者にとって、比較的近場のリゾートとなりつつあったということではな
いか。
そして、2000 年代に入り、東京ディズニーシーが開業した。ホテルも含め、ディズニー
側が意識した通り、全体が滞在型リゾート地になったことで、行く目的が、楽しさを求め
る観光から、癒しや現実逃避を求める観光になったのである。例えば、富士急ハイランド
のように絶叫系アトラクションをメインとするテーマパークには、スリルという楽しみを
目的に行くヤング層が多い。癒しや現実逃避は、どの年代も関係なく求めているのである。
東京ディズニーリゾートでは、アトラクションで楽しむ以外にも、従業員の高いサービス
や、敷地内やパレードで感じる雰囲気など、楽しさのみならず、味わうものが多くあるの
である。なので、顧客が満足するために、アトラクションの増設などで値上げが続いても、
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お金は惜しまないのではないか。89 年に、29 歳以下の女性に快適志向が強いとあったが、
その年代の人が現在では 40~50 歳になっている。ディズニーは今、さらに 40 歳以上の大
人の集客に力を入れ、様々なキャンペーンを出しているので、全体の集客の成功に繋がっ
ているのではないか。
2013 年 5 月には新アトラクションが開業される。2014 年 3 月末までには新たな事業拡
大計画の発表も予定している。第 3 のテーマパークが登場し、さらに集客を進めるのでは
ないか。今後、さらなる変貌を遂げるために、新アトラクションやイベントが出てくると
予想するが、それに伴ってさらに値上げをしていくのか、どのようなアプローチをしてい
くのか、注目したいところである。
7.参考文献
岩田隆一(2006)「なぜ東京ディズニーランドは人気があるのか。サービス・マーケティング
からの分析」筑波学院大学紀要第1集
51~59 頁。
上澤昇(2003)『ディズニー・テーマパークの魅力‐「魔法の王国」設立・運営の 30 年‐』
実践女子大学生活文化学科生活文化研究室。
河野英俊(2005)『ディズニーランド
お客様を感動させる魔法の接客サービス』ぱる出版。
草地眞(2010)『オリエンタルランドに学ぶ「先を読む」企画力』ぱる出版。
近藤隆雄(2010)『サービス・マーケティング[第 2 版]―サービス商品の開発と顧客価値の創
造―』生産性出版。
ディズニー・インスティチュート(2007)『ディズニーが教えるお客様を感動させる最高の方
法』日本経済新聞出版社。
南方建明/堀良(2005)『IT 革命時代のサービス・マーケティング』ぎょうせい。
和田充夫/恩蔵直人/三浦俊彦(2005)『マーケティング戦略[新版]』有斐閣。
オリエンタルランドグループホームページ http://www.olc.co.jp/index.html。
帝国データバンク
『遊園地・テーマパーク企業 126 社の実態調査』2012。
http://moneyzine.jp/article/detail/204571
東
京
デ
ィ
ズ
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リ
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http://tdl-web.blogspot.jp/2011/03/blog-post.html。
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雑
予
想
カ
レ
ン
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