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Express アルツハイマー型認知症の薬物治療

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Express アルツハイマー型認知症の薬物治療
学ぶ
Express
No. 3
アルツハイマー型認知症の薬物治療
順天堂大学医学部精神医学講座
教授
新井 平伊
KEY WORD
【アセチルコリン仮説】
間が環境との接触の中で示すさまざま
しかし、アセチルコリン補充療法は、
な精神症状や行動障害は行動・心理
①患者の脳内にはアセチルコリンに反
(N-methyl-D-aspartic acid)受 容 体
症 状(Behavioral and Psychological
応する神経細胞が必ずしも十分に残
が持続的に活性化されている。その
酸受容体のサブタイプであるNMDA
わが国の認知症高齢者は2011年
アルツハイマー型認知症では、大脳皮質や海馬へ投射するアセチルコリ
Symptoms of Dementia:BPSD)と
存していない場合があること、②アセ
ため、シナプティックノイズ(持続的な
現在、200万人を超えているが、今後
ン神経系の起始核であるマイネルト基底核の神経細胞が変性・脱落し、
いわれる。BPSDの出現は、中核症
チルコリン作動性ニューロンのみなら
電気シグナル)が発生し、記憶を形成
さらに増加し、厚生労働省高齢者介
本領域におけるコリンアセチルトランスフェラーゼやアセチルコリンエス
状以上に介護者の介護負担となる場
ず、入力を受けている皮質や海馬の
する神経伝達シグナルが隠されてしま
護 研究会 報告書『2015年の高齢 者
テラーゼの活性が有意に減少している。一方、マイネルト基底核を破壊
合が多く、入所・入院の危険因子で
標的部位にも障害がみられること、③
い、記憶・学 習機能が障害される。
介 護』によると2025年には300万人
したラットで学習・記憶障害がみられることなどから、アセチルコリン作
ある。
アセチルコリン作動系以外にも、ドパ
また、NMDA受容体はカルシウムチ
を超えると推計されている。従来、わ
動系は記憶障害に深く関与すると考えられている。ただし、老年発症群
ミンやセロトニンなどの生体アミン、
ャンネルと連動しており、グルタミン
が国の認知症患者は脳卒中後に発
と初老発症群では、コリンアセチルトランスフェラーゼ活性やアセチルコ
神経ペプチド(ソマトスタチンやサブ
酸が結合すると、カルシウムチャンネ
症する血管性認知症が多かったが、
リンエステラーゼ活性が異なる。このことは、アルツハイマー型認知症
スタンスPなど)、グルタミン酸など
ルが開き、カルシウムイオンが細胞内
現在ではアルツハイマー型認知症が
の神経伝達物質障害における多様性を示唆するものであり、アセチルコ
種々の神経伝達物質の障害も認めら
に流入してカルシウム依存性酵素が
約半数を占めると考えられている。
リン補充療法の反応性にも影響すると考えられている。
アルツハイマー型認知症では脳組
れること(表)などから、その治療効
活性化される。このため、グルタミン
織の萎縮、大脳皮質における老人斑
果には限界もあると考えられる。
酸による過剰な興奮が生じると、カル
アルツハイマー型認知症の薬物治
療ではコリンエステラーゼ阻害薬で
アセチルコリン補充療法の
効果と限界
(アミロイドβの沈着)の出現がみられ
【NMDA受容体】
シウムイオンが大量に流入して必要以
あるドネペジルが用いられているが、
興奮性アミノ酸であるグルタミン酸は、重要な神経伝達物質の一つで、
る。これらの所見などから、アルツハ
最近、他のコリンエステラーゼ阻害
その受容体の一つであるNMDA受容体は大脳皮質や海馬に高密度に存
イマー型認知症の発症機序として、ア
薬やNMDA受容体拮抗剤がわが国で
在する。アルツハイマー型認知症では大脳皮質、海馬、脳脊髄液中のグル
ミロイド前駆体蛋白からセクレターゼ
も製造承認され、薬物治療における
タミン酸濃度およびNMDA受容体が減少しており、アルツハイマー型認
によって切り出されてくるアミロイドβ
選択 肢が広がりつつある。そこで、
知症の記憶障害にはNMDA受容体の減少が関与すると考えられている。
蛋白が、何らかの原因で脳内に沈着し、 アルツハイマー型認知症における
認知症における記憶・学習機能障害
この過程で神経障害を引き起こし、
記憶障害には、グルタミン酸作動性
および神経細胞障害を抑制する目的
最終的には神経伝達物質異常や神経
神経系も関与すると考えられている。
でNMDA受容 体拮抗剤が開発され
2002年に日本神経学会Ad Hoc委員会編集「痴呆疾患治療ガイドライン
細胞死に至り、さまざまな認知機能障
アルツハイマー型認知症では、シ
た。
2002」が作成されたが、その後、
「痴呆」の用語が「認知症」に変わるとともに、
害やBPSDを呈する、とするアミロイド
ナプス間隙のグルタミン酸濃度が持
NMDA受容 体に対する非競合的
認知症を取り巻く状況が大きく変化したことから、2010年に日本神経学会
仮説が提唱され、現在もっとも有力な
続的に上昇しているため、グルタミン
拮抗薬であるメマンチンは、持続的で
監修、
「認知症疾患治療ガイドライン」作成合同委員会編集による「認知症
発症機序に関する仮説となっている。
疾患治療ガイドライン2010」が発行された。
また、アルツハイマー型認知症では
認知症を生じる原因疾患は多様で
本ガイドラインでは、認知症の定義や疫学、治療など総論的内容から、アル
アセチルコリン系ニューロンに強い変
あるが、アルツハイマー型認知症やレ
ツハイマー型認知症やレビー小体型認知症といった個別の原因疾患ごとの
性が認められることから、アルツハイ
・アセチルコリン
↓↓↓
ビー小体型認知症、前頭側頭型認知
具体的な特徴や診断基準、薬物・非薬物療法などの各論的な内容までを、
マー型認知症の中核症状にはアセチ
・セロトニン
↓↓↓
症のような神経変性疾患によるものや、
クリニカル・クエスチョン方式で解説している。
ルコリン系障害が深く関与することが
・ノルアドレナリン
血管性認知症のような脳血管障害に
示唆される(アセチルコリン仮説)。そ
・ドーパミン
よるものなどが代表的である。これら
こで、アセチルコリン系の賦活を目的
・グルタミン酸
↓↓
↓↓
アルツハイマー型認知症における記
憶機能障害の発症メカニズムや薬物
治療について概説する。
アルツハイマー型
認知症の症状
【『認知症疾患治療ガイドライン2010』】
上に酵素が活性化され、細胞毒素を
NMDA受容体を介した
神経細胞死と
NMDA受容体拮抗剤
誘発して細胞死が起こると考えられて
いる。そこで、NMDA受容 体を阻害
することによって、アルツハイマー型
表 アルツハイマー型認知症における
神経伝達物質関連障害
↓↓
↓
のうちアルツハイマー型認知症は、主
め、確固たる根本的治療法は確立さ
記憶障害だけでなく、判断能力、見
に、アセチルコリン補充療法として、
・ソマトスタチン
として初老期・老年期に進行性に認
れていないのが現状である。しかし、
当識、実行機能、そして言語機能や
ドネペジルなどのコリンエステラーゼ
・コルチコトロピン放出因子
↓
知症をきたす代表的な脳の変性疾患
近年の研究の飛躍的な進歩によって、
計算能力などの障害も含まれ、これら
阻害薬が臨床応用され、アルツハイ
・サブスタンスP
↓
があるが、その原因や病態機序はい
その病態解明は確実に進んでいる。
は認知症の中核症状といわれる。一
マー型認知症の中核症状に対して優
・ガラニン
↑
まだ全容の解明には至っていないた
認知症における認知機能障害には
方、このような認知機能障害をもつ人
れた効果が得られている。
11 P&P SPRING 2011
(新井 平伊:精神科 2007 ; 11(5)
:356-360)
SPRING 2011
P&P 12
学ぶ Express
No.3
P &P
Re s t a u ra n t
もっと
野 菜と WIN-WIN!!
Vo l .
比較的低濃度のグルタミン酸の遊離
対して介入するため、セクレターゼ切
マー型認知症の早期発見の手法がさ
による神経細胞障害に対して保護作
断を阻害する薬剤やアミロイドβ凝集
らに発展して軽度認知機能のレベル
用を発揮し、またシナプティックノイズ
を阻害する薬剤、脳内のアミロイドβ
で、さらにはそれより早い段階で検出
の発生を抑制する。一方、記憶を形
を取り除くワクチン療法など、他の薬
できれば未発症のレベルで介入するこ
成する高濃度のグルタミン酸が一過
理学的アプローチをもつ薬物の開発も
とで、その後のアルツハイマー型認知
性 に 遊 離 され ると、メマン チンは
進んでおり、次世代の抗認知症薬とし
症への進展が阻止できるのではないか
NMDA受容体から速やかに解離する
て期待されている(図1)
。アルツハイ
との期待ももたれている(図2)
。
ため、神経伝達シグナルが伝達され、
記憶・学習機能障害を抑制すると考え
8
スーパーマー ケットで見 かけるお なじみ の 野 菜 たちの 素 敵 な お 話 。
野 菜 のパワーを存分 に生 かして、楽しくおいしくいただきましょう!
監修
辻学園栄養専門学校 教授
管理栄養士
太 陽に育まれたエネルギ ー・ボ ール
「たまねぎ 」
加福 文子
図1 アルツハイマー型認知症の発症機序と治療の関係
られている。
遺伝子と環境
治療 発症させない
薬物治療の現状と将来展望
アミロイド沈着
アルツハイマー型認知症の治療法
治療 進行を止める
は薬物療法と、日常生活機能をその
細胞変性
個人に応じて最大限に広げることをめ
治療 進行を遅くする
ざした非薬物療法に大別され、患者
の状態に応じて両者を組み合わせて
原線維変化
施行される。
伝達物質異常
【主な栄養素】
アルツハイマー型認知症の治療薬
症状
として、これまでわが国ではコリンエ
治療 症状を抑える
みが使用可能であったが、最近、コリ
ンエスラーゼ阻害薬であるガランタミ
ンや、NMDA受容体拮抗剤であるメ
(新井 平伊:精神科 2007 ; 11(5)
:356-360)
図2 新しい治療薬に期待される臨床効果
性がグレードAとして示されており、
ける各種神経伝達物質異常の上流に
13 P&P SPRING 2011
に報酬として支払われ、人々の健康を支えたそうです。ま
や鼻を刺激するからです。切る前にたまねぎを冷やしておく、包丁
やたまねぎの切り口を水で濡らしておくといった方法で緩和され
ます。新たまねぎは柔らかく甘味があるため、生でもおいしくいた
だけます。また、辛みの強いたまねぎほど加熱すると甘みとこくが
でます。
【保存方法】
を単剤投与または作用機序の異なる
また、アルツハイマー型認知症にお
●頭部からいたむので、ここがしっかりとしているもの
鼻がつんとし、涙が出てきますが、これは硫化アリルが発生し目
患者の状態に応じて、これらの薬剤
薬剤を併用投与することが望ましい。
てきました。エジプトではピラミッドを築いた労働者たち
皮と芯は味をそこなうので、取り除いて使いましょう。切ると目や
治療薬開始
るドネペジルやメマンチンなどの有効
●皮に傷などがなくツヤがあり、黒くなっている部分がないもの
【調理のポイント】
発症
では、アルツハイマー型認知症に対す
前駆状態
『認知症疾患治療ガイドライン2010』
物忘れなどの程度
療における選択肢が広がりつつある。
す。その歴史は古く、各国で滋養のある野菜として活躍し
貯蔵性が高く、一年中出回るが、新たまねぎは4月∼5月
リンエスラーゼ阻害薬リバスチグミン
たまねぎの原産地は中央アジア、西アジアなど諸説ありま
●手にもったとき固く、重みのあるもの
【旬】
マンチンが製造承認された。また、コ
も承認申請が行われており、薬物治
糖質、ビタミンC、ビタミンB1、カリウム、硫化アリル
【選び方】
ステラーゼ阻害薬であるドネペジルの
豆知識
ネットなどに入れて涼しく風通しのよい乾燥した場所に。ただし、
た、14世紀にペストが流行した際、ロンドンで玉ねぎとニ
ンニクを売っていた店は感染からまぬがれたことから、ヨ
ーロッパ全域に広まったといわれています。日本では明治
中期以後に本格的に栽培されるようになりました。
調理の際に涙が出る原因となる硫化アリルですが、疲労回
復やスタミナ補強に効果があるビタミンB1の吸収を助ける
働きがあります。この滋養強壮効果が期待され、たまねぎ
が世界各地に広まったのかもしれません。
球形をしたたまねぎですが、私たちが食べているのは葉に
あたります。成長するにしたがって、葉の下の葉鞘とよばれ
る部分が厚みを増し、重なり合って球形にふくらんでいく
のです。日差しを受けて育ったたまねぎは、春から初夏に
収穫されます。そして、貯蔵されたものが順次出荷されて、
私たちに力強い栄養を届けてくれます。
新たまねぎは傷みやすいのでなるべく早めにいただきましょう。
時間
(新井 平伊:精神科 2007 ; 11(5)
:356-360)
SPRING 2011
P&P 14
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