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資源国通貨としてのカナダドル相場 ~高値更新

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資源国通貨としてのカナダドル相場 ~高値更新
みずほマーケットインサイト
Market
2007/6/14
資源国通貨としてのカナダドル相場
~高値更新が続く為替相場と資源
価格の関係~
みずほ総合研究所 経済調査部
シニアエコノミスト 吉田 健一郎
(03-3201-0505)
[email protected]
○ カナダドル相場は対ドルで約 30 年ぶりの高値圏にて推移
○ 原油市況とカナダドル相場の連動性は 2002 年以降に高まっている模様
○ 原油価格の高止まりが続く状況下、カナダドル相場も高原状態での推移となる見込み
カナダドル相場は約 30 年ぶ
カナダドル相場はカナダドル高圧力が強い展開が続いており、6 月初旬には 1 米
りのカナダドルの高値まで
ドル=1.05 カナダドル台半ばの水準までカナダドルが増価した。足元では小幅値を
上昇
戻してはいるものの約 30 年ぶりの高値圏での推移であることに変わりは無く、一
部にパリティ(1 米ドル=1カナダドル)近しとの声も聞こえ始めている。
現在こうしたカナダドル高の背景の一つとして、同通貨がいわゆる「資源国通貨」
であることが挙げられている。資源国通貨とは、石油や鉱物と言った天然資源の輸
出額が大きい国の通貨のことであり、カナダドルのほかにも豪ドルや、南アフリカ
ランドなどがよく引き合いに出される。
資源国通貨としての側面を
2006 年のカナダの品目別輸出をみると、石油関連輸出や、鉱物・非鉄製品を含む
工業品・素材価格の輸出金額が全輸出金額の約 4 割を占めている(図表 2)
。更に足
持つカナダドル
元の推移をみても、今般の素材価格の上昇とともに原油や金属など一次産品の 2006
年の輸出金額は前年比 20%を越える高い伸びを示している。1997 年に世界銀行が
実施した天然資源埋蔵量の国別ランキングによれば、カナダは世界 92 カ国中、国
民一人当たりの石油埋蔵量で第 3 位を獲得しており1、まさにカナダは代表的な資
源国の一つと言えそうである。
ではカナダドル相場と資源価格の間にはどのような関係があるのだろうか。以下
では、両者の推移と相関についての考察を加える。結論としては、価格が高騰した
2002 年以降にカナダドル相場は資源価格との相関性を高めているということと、資
源価格のなかでも特に原油価格との連動性が最近強まったということだ。
【 図表 1 カナダドル/米ドル相場の推移 】
【 図表 2 カナダの品目別輸出シェア(2006) 】
(USD/CAD)
1.7
エネル
ギー
その他
1.6
農業・漁業
品
1.5
1.4
1.3
自動車
1.2
1.1
1
林産物
0.9
75
80
(資料)Bloomberg
85
90
95
00
05
(資料)カナダ統計局
機械・装備
工業品・素
材
当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料
は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものでは
ありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。
以下では、カナダドルの相場変動と資源価格との相関性を確認するために、カナ
カナダドル相場と原油・銅・
ダで産出されている天然資源のうち代表的な、①原油、②貴金属(金)
、③非鉄(銅)
金価格の関係
の 3 種類をピックアップしてカナダドル相場の推移との比較を行った。
上記①~③のコモディティは、いずれもカナダドルが増価していく局面で価格が
上昇していることが分かる(図表 3~5)
。一方で、1990 年代前半においては、カナ
ダドルが減価するなか、商品市況はほぼ横ばいに近い推移となっており、両者の間
にはあまり強い相関はみられないようだ。
計量的に商品市況とカナダドル相場の関係性の高まりを確認するべく、カナダド
ル/米ドル相場が高値(カナダドルの安値)をつけた 2002 年1月を境にして、Ⅰ期:
1990 年 1 月~2002 年 1 月、Ⅱ期:2002 年 2 月~2007 年 5 月とし、それぞれの各商
品市場(原油・金・銅)とカナダドル相場の関係性を最小二乗法によって推計した
(図表 6)。この結果、Ⅱ期においてはいずれも回帰式の決定係数が大きく高まり、
商品市況の動きとカナダドル相場の動きが連動性を強めているということが、やは
り確認出来た。
もっとも、原油とそれ以外の商品では、決定係数の変化に違いがみられる。金価
02 年以降高まる原油相場と
格や銅価格については、Ⅰ期も全体で 3、4 割程度の負の相関関係がカナダドル相
カナダドル相場の相関
場との間にはあり、係数も有意なものとなっていた。一方で、原油相場については、
Ⅰ期は全く有意な結果が得られなかったのに対して、Ⅱ期に入り、急速に負の相関
関係を強めていたことが分かる。この理由の一つとして、これまで「カナダのコモ
ディティ」としてはあまり注目されてこなかったカナダ産原油が、
「オイルサンド」
という非在来型原油の開発進展に伴い注目され始め、更に高油価の継続によって
【 図表 3:カナダドル相場とWTI価格の推移 】
(CAD/USD)
1.7
WTI期近物価格(右目盛・上下逆)
(ドル/バレル)
0
10
1.6
20
1.5
30
1.4
【 図表 4:カナダドル相場と金価格の推移】
(ドル/トロイオンス)
100
(CAD/USD)
1.7
金期近物価格(右目盛・上下逆)
1.6
200
1.5
300
1.4
400
1.3
500
40
1.3
50
1.2
カナダドル相場(左目盛)
1.1
1
90
92
94
(資料)Bloomberg
96
98
2000
02
04
60
1.2
70
1.1
80
1
06
700
800
90
92
94
(資料)Bloomberg
【 図表 5:カナダドル相場と銅価格の推移】
(CAD/USD)
1.7
銅期近物価格(右目盛・上下逆)
600
カナダドル相場(左目盛)
98
2000
02
04
06
【 図表 6:カナダドル直近安値前後の商品市況との
相関 】
(セント/ポンド)
0
log(カナダドル相場)=α*log(商品価格)+β
50
1.6
96
Ⅰ期:'90年1月~'02年1月 Ⅱ期:'02年2月~'07年5月
100
1.5
150
1.4
200
1.3
250
1.2
300
カナダドル相場(左目盛)
1.1
決定係数
α
決定係数
α
原油
▲ 0.00
▲ 0.02
0.85
▲ 0.30
金
0.46
▲ 0.48
0.85
▲ 0.44
銅
0.35
▲ 0.27
0.86
▲ 0.20
350
1
90
92
94
(資料)Bloomberg
商品
400
96
98
2000
02
04
06
(注)色つきセルは優位水準5%
(資料)みずほ総合研究所
2
自国経済への好影響も意識され始めたことなどがあるのではないかと考えている。
オイルサンド由来の非在来
オイルサンドとは「高粘度の原油を含む砂岩層」のことで、従来はオイルサンド
型原油の生産拡大が支援材
から原油を精製することは、技術的にもコスト的にも厳しいものがあった。しかし、
料
最近の原油価格の高騰を受けて、不採算が改善されたことに加えて2、技術的にも
in-situ 法の一つである SAGD 法3と呼ばれる新工法が開発され、生産性が拡大した。
更に注目されるのはオイルサンドを含めた場合のカナダ原油の確認埋蔵量の多
さだ。オイル&ガスジャーナル誌によれば、カナダ原油の確認埋蔵量は、オイルサ
ンドを含めると 1,790 億バレルと、一気にイランを抜いて世界第 2 位に踊り出る
(図
表 7)。カナダ石油生産者協会(CAPP)によれば、同国の原油生産はオイルサンド由
来の原油を中心として増加傾向が見込まれており、2020 年には日量約 490 万バレル
まで拡大する見込みだ(2005 年実績は同 250 万バレル、図表 8)
。米国との近さや
地政学的リスクの低さから考えても同国の原油供給が特に米国にとって重要であ
ることは明確で、それがひいてはカナダドルの強さに結びついている可能性がある。
カナダドルは今後も高止ま
りする可能性あり
なお、商品市況の先行きから判断した場合、カナダドル相場は底堅い推移が続く
可能性が高いと予想している。原油価格(WTI)については需給で説明できる水
準は大体 1 バレル=40 ドル程度で、投機資金の影響を勘案したとしても中期的に見
た場合の下限価格は 1 バレル=50 ドル程度ではないかとみている。また、金価格に
しても上場投資信託(ETF)の拡大の流れのなかで需要は旺盛である。銅など非
鉄相場も中国などの経済成長が続くなかで基本的には底堅い。2002 年以降の資源価
格とカナダドルの関係性が続くのだとすれば、カナダドルは過去の低水準には戻り
づらいだろう。
勿論、資源価格の変動は、カナダドル相場変動の一要因に過ぎないため、それだ
けで相場変動の全てを論じることは出来ない。しかし、どちらにしても資源価格の
上昇はカナダドルの増価要因にはなりそうだ。
以上
1.カナダ大使館HP(http://www.canadanet.or.jp/enr/index.shtml)参照
2.現在のオイルサンド由来原油の生産コストは
1 バレル=25~40 ドル程度と言われる。
3
SAGD とは Steam Assisted Gravity Drainage の頭文字であり、オイルサンド層の中に 2 本の水平
坑井を上下に堀り、上の坑井から水蒸気を当ててビチューメンを溶かし下の坑井でそれを受け止める方
法のこと(石油天然ガス・金属鉱物資源機構「石油天然ガスレビュー」2005 年 11 月号より)
。
【 図表 7:国別原油の確認埋蔵量 】
【 図表 8:カナダの原油生産見通し 】
(Kb/d)
サウジアラビア
6,000
カナダ
イラン
オイルサンド(露天堀り)
オイルサンド(in-situ法)
在来型軽質
在来型重質
ペンタン
東海岸オフショア
5,000
イラク
クウェート
4,000
UAE
3,000
ベネズエラ
2,000
ロシア
リビア
1,000
ナイジェリア
0
500
1000
1500
(注)カナダはオイルサンドを含む (資料)IEA
0
2000
2005
2010
2015
(資料)Canadian Association of Petroleum Products
2500
3000
(億バレル)
3
2020
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