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要旨集 - 日本農芸化学会関西支部

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要旨集 - 日本農芸化学会関西支部
日本農芸化学会関西支部
第495回講演会・ミニシンポジウム
講 演 要 旨 集
平 成 2 8 年 7月9日( 土 )
大阪府立大学 学術交流会館
日本農芸化学会関西支部
支部賛助企業
関西支部の活動は、下記の支部賛助企業様からのご支援により支えられています
アース製薬株式会社
東洋紡株式会社
植田製油株式会社
ナカライテスク株式会社
株式会社ウォーターエージェンシー
日世株式会社
江崎グリコ株式会社
株式会社日本医化器械製作所
株式会社カネカ
日本新薬株式会社
菊正宗酒造株式会社
ヒガシマル醤油株式会社
黄桜株式会社
不二製油株式会社
月桂冠株式会社
松谷化学工業株式会社
甲陽ケミカル株式会社
三井化学アグロ株式会社
三栄源・エフ・エフ・アイ株式会社
株式会社三ツワフロンテック
サントリーホールディングス株式会社
安井器械株式会社
住友化学株式会社
大和酵素株式会社
株式会社第一化成
理研化学工業株式会社
大日本除虫菊株式会社
和研薬株式会社
宝酒造株式会社
和光純薬株式会社
築野食品工業株式会社
50 音順 敬称略
日本農芸化学会関西支部例会第 495 回講演会・ミニシンポジウム
平成 28 年 7 月 9 日 大阪府立大学 学術交流会館
プ ロ グ ラ ム
l
ミニシンポジウム(13:00∼15:05)
『食の機能性を追究する:細胞応答を介した生体調節機能に関する新知見』
1
「膵β細胞機能応答を介したS-エクオールの作用」
4
原田 直樹(大阪府大院・生命環境)
2
「難消化性ポリフェノールの高血糖・肥満抑制効果に関わる
新奇分子ターゲット」
6
山下 陽子(神戸大院・農)
3
「イソチオシアネート化合物による炎症制御」
柴田 貴広(名古屋大院・生命農)
l 一般講演(15:20∼16:35)
8
*1
代謝改変した組換え大腸菌による1-プロパノール発酵生産
○山田 尚平,松原 充,浦野 信行,片岡 道彦(大阪府大院・生命環境)
14
*2
酵母に見出したフラボタンパク質Tah18依存的な一酸化窒素合成の制御機構
○吉川 雄樹,那須野 亮,渡辺 大輔,高木 博史(奈良先端大・バイオ)
15
*3
ビフィズス菌の抗炎症作用に関する特性解析
○川畑 球一,馬場 信行,萩原 光太,村上 茂,石井 剛志(神戸学院大・栄養)
16
*4
骨格筋線維タイプの違いによるカロテノイドトランスポーターCD36の発現について
○北風 智也,杉平 貴史,原田 直樹,山地 亮一(大阪府大院・生命環境)
17
*5
天然型幼若ホルモン類の合成と幼若ホルモン受容体発現酵母を用いた活性の評価
1
1
1
2
2
2
○名部 拓 ,横井 大洋 ,幌岩 真理 ,原島 小夜子 ,松浦 麻衣 ,高田 英治 ,
2
1
1
1
2
八木 孝司 ,中川 好秋 ,宮川 恒 ( 京大院・農, 大阪府大院・理)
18
*6
カーラクトン型ストリゴラクトンのアーバスキュラー菌根共生におけるシグナル機能の解析
1
2
2
1
○森 愛美 ,謝 肖男 ,米山 弘一 ,秋山 康紀
1
2
( 大阪府大院・生命環境, 宇都宮大・バイオサイエンス)
19
*7
ヒトRNase H2の活性と安定性に対する塩の効果
1
1
2
1
3
○兒島 憲二 ,馬場 美聡 ,今井 翔太 ,山崎 朋美 ,Robert J. Crouch ,
1
1
1
2
3
滝田 禎亮 ,保川 清 ( 京大院・農, 京大・農, NIH・NICHD)
20
*「農芸化学会関西支部若手優秀発表賞・賛助企業特別賞」対象講演
l
特別講演(17:00∼17:30)
農芸化学奨励賞受賞講演
『酵母における環境応答と代謝調節に関する分子遺伝学的研究
とその応用』
渡辺 大輔(奈良先端大・バイオ)
l
l
若手優秀発表賞・支部賛助企業特別賞表彰式(17:30∼17:40)
懇親会(17:40∼18:40)会費 3,000 円(学生無料)
̶ 1 ̶
21
MEMO
̶ 2 ̶
●●●
ミニシンポジウム
13:00 15:05
●●●
多目的ホール
食の機能性を追究する:
細胞応答を介した生体調節機能に関する新知見
「膵β細胞機能応答を介したS-エクオールの作用」
原田 直樹(大阪府大院・生命環境)
「難消化性ポリフェノールの高血糖・肥満抑制効果に
関わる新奇分子ターゲット」
山下 陽子(神戸大院・農)
「イソチオシアネート化合物による炎症制御」
柴田 貴広(名古屋大院・生命農)
̶ 3 ̶
膵β細胞機能応答を介した S-エクオールの作用
原田 直樹 (大阪府立大院・生命環境)
【目的・背景】2型糖尿病は、膵β細胞から分泌されるインスリン量と、インスリンの
肝臓での糖新生抑制作用や筋肉・脂肪組織での糖取込み促進作用のバランスが崩壊し
て相対的なインスリン不足に陥ることで生じる。インスリンの分泌能と感受性は人種
によって相違がある。2型糖尿病発症機序についても、西洋人では肥満を伴ったイン
スリン感受性の低下を主徴とするタイプが多いのに対して、日本を含む東アジア人で
はインスリン分泌低下を主徴とするタイプが多い。一方で、2型糖尿病患者では、人
種を問わず健常者と比較して膵β細胞量が少ないことが明らかになってきており、東
アジア人型のみならず西洋人型の2型糖尿病にも膵β細胞機能低下が関係することが
明らかになってきた。このような背景から、膵β細胞からのインスリン分泌低下を防
ぐことは、2型糖尿病の予防における本質的な課題の1つと考えられる。 インスリン分泌機能の発達・維持には、膵β細胞の量および質(グルコース応答能)
の2つを考える必要がある。膵β細胞のcAMP/protein kinase A(PKA)シグナルは、膵β
細胞の量と質の両方を向上させるシグナルであり、PKAの活性化に続く転写因子
cAMP response element-binding protein(CREB)のリン酸化に伴う活性化が量的制御の
中心となる。このシグナルはインクレチンホルモンであるグルカゴン様ペプチド-1
(GLP-1)がGタンパク質共役受容体(GPCR)を刺激することで活性化されることが
知られる。GLP-1分解酵素であるdipeptidyl peptidase-4の阻害薬が、現在、我が国の糖
尿 病 患 者 の 75% に 処 方 さ れ て い る 現 状 か ら も 、 2 型 糖 尿 病 に 対 す る 膵 β 細 胞 の
cAMP/PKAシグナルの重要性が伺える。
2型糖尿病の予防を目的として、日常的な摂取が可能な食事に関連したビタミンや
ポリフェノール類の膵β細胞機能への作用に関するさまざまな研究が進められている
1,2)
。本研究では、膵β細胞におけるcAMP/PKA/CREB経路の活性化能を持つ物質とし
て、大豆イソフラボンであるダイゼインから腸内細菌によってエナンチオ選択的に産
生されるS-エクオールを見出したので以下に紹介する。
【方法・結果】膵β細胞株であるINS-1細胞の増殖を促進する物質として、S-エクオー
ルを見出した。S-エクオールは、0.5 µM以上でINS-1細胞の増殖を亢進したが、鏡像立
体異性体であるR-エクオールは、増殖促進作用を示さなかった。S-エクオールは、雄
̶ 4 ̶
性マウスの膵β細胞におけるKi67(細胞増殖マーカー)陽性細胞の割合を増加させた
ことから、個体レベルでの作用も認められた。INS-1細胞では、膵β細胞に酸化障害を
もたらすアロキサンによる細胞死に対しても、S-エクオールはエナンチオ選択的に抑
制作用を示した。細胞死抑制作用は、直接的なラジカル除去によるものではなく、抗
酸化に寄与するタンパク質の発現亢進が関与することが示唆された。さらに、S-エク
オールは、INS-1細胞やマウス単離膵島においてグルコースによるインスリン分泌を
促進した。
INS-1細胞におけるS-エクオールの作用機構を明らかにするために、細胞内シグナル
伝達におよぼす影響を検討した。その結果、S-エクオールはエナンチオ選択的に細胞
内cAMPを増加させ、PKAの基質となるCREBのリン酸化し、CREを介した転写活性を
促進した。S-エクオールによるCREBのリン酸化は、マウス単離膵島においても認め
られた。cAMP/PKA/CREBシグナルの活性化は、S-エクオールのもつエストロゲン様
作用とは異なる機構で活性化された。さらに、細胞増殖促進作用、細胞死抑制作用、
インスリン分泌亢進作用はすべて、PKA阻害剤であるH89により抑制された。 エクオールがcAMP/PKAシグナルを活性化する機構を検討した結果、S-エクオール
は細胞膜画分でcAMP産生を促進することが判明した。GPCRに共役する三量体Gタン
パク質のGαsサブユニットをsiRNAによりノックダウンした結果、S-エクオールによ
るCREレポーター活性の上昇が抑制された。また、Gαsを活性化させるコレラ毒素は、
S-エクオールとは相乗的にCREレポーター活性を増加させた。一方、コレラ毒素とフ
ォルスコリン(アデニル酸シクラーゼの活性化剤)との作用は相加的であった。リガ
ンド依存的にGPCRを脱感作するGPCRキナーゼ3
または6をノックダウンすると、S-エクオールによ
るCREレポーターの活性化がさらに上昇した。
本研究の結果から、膵β細胞においてS-エクオー
ルは、直接あるいは間接的にGPCRを活性化させ、
cAMP/PKAシグナルを介して、膵β細胞の量および
質を向上させる作用を持つと考えられた(図1)。
膵β細胞機能を亢進させる機能性食品は、2型糖尿
病予防への有益性が期待される。
1)
堀内寛子, 原田直樹, 山地亮一, ビタミン, 88, 530–534, 2014.
2)
堀内寛子, 原田直樹, 山地亮一, ビタミン, 89, 341–347, 2015.
̶ 5 ̶
難消化性ポリフェノールの高血糖・肥満抑制効果に関わる新奇分子ターゲット
○山下 陽子,光橋 雄史, 芦田 均 (神大院・応生化)
【目的】肥満に伴う糖尿病や心血管疾患患者の増加は深刻な課題であり、これらの疾
患を抑制する食品因子の探索およびその作用機構の解明が求められている。本研究で
は、カカオ豆、黒大豆種皮、ブドウ種子などを代表とする食品に多く含まれるポリフ
ェノールの一種である、プロシアニジンの機能性に着目した。プロシアニジンは、エ
ピカテキンが重合した構造を持つ難消化性のポリフェノールである(図 1)。すでに、
エピカテキンをはじめとする単量体のカテキン類が高血糖や肥満を抑制する報告は
あるが、プロシアニジンは重合度が高くなると体内へ吸収されないことから生体利用
性が低く、機能性が十分に解明されていない。本シンポジウムでは、高血糖と肥満に
対する予防効果の検証とその作用機構について、私たちの研究で明らかにした成果を
紹介する。
【方法】実験動物を用いて、プロシアニ
ジン4量体までの化合物あるいはプロシ
アニジンを高含有する組成物を強制経口
投与にて単回投与した際の血糖調節効果
を検証し、糖輸送担体(GLUT4)の細胞膜
移行量とそれに関わるシグナル伝達経路
を検証した。また、これらについて、投
与するタイミングを変化させた際の血糖
調節やエネルギー代謝、ならびに時計遺
伝子に及ぼす効果も検証した。
次に、食餌誘導性肥満モデルマウスに、
プロシアニジン高含有組成物を 13 週間
与えた場合の高血糖・肥満予防効果とその作用機構を検証した。
【結果】ICR マウスにプロシアニジンやそれを多く含む抽出物を単回投与した場合、
糖負荷後の高血糖を抑制することを明らかにした。その作用機構の一端は、インクレ
チンホルモンの GLP-1 活性の亢進により、インスリン分泌が増加することが関与して
いることが明らかとなった。また、特に4量体のシンナムタンニンの効果が強いこと
を確認した。この作用に伴って、筋肉組織においてインスリン伝達経路が活性化され
̶ 6 ̶
て、GLUT4 の細胞膜移行が促進された。ポリフェノールで GLP-1 分泌亢進効果を明
らかにしたのは本研究が初めてである。この時、インスリン非依存的経路の AMPK
経路も同時に活性化し、GLUT4 の細胞膜移行促進に関与していることを確認した。
以上の結果より、プロシアニジンは、腸管でのインクレチン効果と AMPK 活性化効
果の両方の作用を発揮することで、筋肉における GLUT4 の細胞膜移行を介して、血
糖調節に寄与すると考えた。テアフラビン類も同様の経路を介して、血糖上昇抑制に
寄与していることも明らかにした。
次に、プロシアニジン高含有組成物を投与するタイミングを変えてみたところ、上
述の糖代謝促進作用が、朝投与では認められたが、夕方に投与すると効果が認められ
ないという現象を確認した。つまり、朝投与した時の効果が高いことが判った。また、
時計遺伝子やそれに制御されるエネルギー産生因子の発現量も、投与するタイミング
で変化することが明らかとなった。
プロシアニジン高含有組成物を食事誘導性肥満モデルマウスに 13 週間摂取させ、
高血糖や肥満に及ぼす効果を検討した。その結果、プロシアニジンは高脂肪食摂取に
よるインスリン抵抗性の惹起を抑制することを明らかにした。この効果にも、筋肉組
織における AMPK の活性化を介した、GLUT4 の細胞膜移行促進が寄与していること
を確認した。さらに、プロシアニジンは AMPK の活性化により制御される、熱産生
関連因子の UCP やミトコンドリア発生に関わる PGC-1αの発現を上昇させた。すな
わち、プロシアニジン類はこれらのタンパク質の発現を増加させ、エネルギー産生を
促進し、高脂肪食摂取による脂肪蓄積予防に寄与すると推察した。以上の結果から、
プロシアニジンは GLP-1 分泌促進を介するインスリン分泌増強効果(インクレチン効
果)と AMPK の活性化効果を介して、筋肉における GLUT4 の細胞膜移行を促進作用
L cell
させることで血糖上昇を抑制
するとともに、肝臓、筋肉、な
らびに脂肪組織において、熱産
GLP-1
ศἪ
Insulin
ศἪ
GLUT4
⣽⬊⭷⛣⾜
生やエネルギー消費を亢進さ
⮅⮚!
䜾䝹䝁䞊䝇
ྲྀ䜚㎸䜏
㧗⾑⢾ᢚไ
せることで、脂肪蓄積を抑制す
AMPK
る効果を持つことが明らかと
なった。
➽⫗!
䝥䝻䝅䜰䝙䝆䞁
AMPK
ᾘ໬⟶!
⫢⮚䞉➽⫗䞉⬡⫫!
UCP, PGC-1!
Ⓨ⌧
̶ 7 ̶
䜶䝛䝹䜼䞊⏘⏕䞉
⇕⏘⏕
⫧‶䞉⬡⫫⵳✚
ᢚไ
イソチオシアネート化合物による炎症制御
柴田貴広 (名大院・生命農、JST・さきがけ)
【目的】炎症は生体が内外から有害な刺激を受けた時に生じる生体防御反応であり、
パターン認識受容体である Toll 様受容体 (Toll-like receptor: TLR) の発見と機能解析
を契機として、微生物感染に対する自然免疫応答の重要性が明らかにされている。一
方で、過度の慢性的な炎症は様々な疾患に関与することも報告されており、その制御
は疾患予防の観点からも重要であると考えられる。
我々の研究グループでは、食品による健康維持機能として、特に炎症応答の制御活
性に注目し、炎症を抑制する食品成分の探索とその炎症抑制メカニズムの解明を行っ
てきた。本発表では、特にキャベツに多く含まれているイソチオシアネート化合物で
あるイベリンに関して、その炎症抑制と作用メカニズムについて紹介したい。
【方法・結果】炎症抑制活性の評価方法として、TLR4 遺伝子および炎症誘導に関与
する転写因子 NF-κB のルシフェラーゼレポーター遺伝子を HEK293 細胞に導入して
樹立した安定発現細胞を用いたルシフェラーゼアッセイ系を構築した。
この細胞に、23 種類の野菜抽出物を 30 分間前投与した後に、TLR4 リガンドである
リポ多糖 (LPS) 刺激を行い、24 時間後にルシフェラーゼアッセイにより NF-κB の活
性化を評価した。その結果、いくつかの野菜抽出物の投与によって TLR シグナル活
性化の抑制が確認され、その中でもキャベツ抽出物に強
い抑制活性が確認された。そこでキャベツ抽出物中に含
まれる活性物質を単離・精製し、質量分析、NMR、IR
測定などの化学構造解析を行ったところ、キャベツに含
まれる炎症抑制物質として、イソチオシアネート化合物
であるイベリンを同定した。
このイベリンは、TLR4 発現 HEK293 細胞だけでなく、マウスマクロファージ様細
胞 RAW264.7 細胞においても、その処理濃度依存的に炎症応答を抑制することが明ら
かとなった。また、in vivo におけるイベリンの効果を検討するため、イベリンを経口
投与したマウスに LPS を腹腔投与し、4 時間後の血液を採取し、炎症性サイトカイン
の定量を行った。その結果、LPS 投与による TNF-αおよび IL-6 の発現上昇は、イベ
リンの前投与により有意に抑制することが確認された。
次に、イベリンの炎症抑制効果について、その作用メカニズムを明らかにするため
̶ 8 ̶
に LPS-TLR4 シグナル伝達経路に関して解析を行ったところ、
NF-κB の核移行や MAP
キナーゼ類の活性化、IRAK4 のリン酸化などを阻害するだけでなく、さらに上流のシ
グナルである TLR4 のダイマー化を阻害していることが判明した。そこで、イベリン
が TLR4 に直接相互作用することにより TLR4 のダイマー化を阻害していると予想さ
れたため、イベリンのアルキン誘導体を調製し、クリックケミストリーによる解析を
試みた。アルキニルイベリンを TLR4 発現細胞に投与したのち、細胞ライセートを回
収し、クリック反応によりビオチンアジドを付加させた。このサンプルに対し、TLR4
に対する免疫沈降を行い、アビジンによる検出を行ったところ、イベリンと TLR4 の
相互作用が確認された。また、アビジンビーズによるプルダウンを行ったのち、TLR4
について免疫ブロットを行った場合も、同様に相互作用が確認された。
【結論】キャベツに含まれているイベリンは、TLR に直接修飾することにより、その
ダイマー化を抑制し、結果として炎症応答を抑制していることが明らかとなった。こ
れらの結果から、炎症抑制活性を示す食品成分の作用点のひとつとして、TLR の関与
が示唆された。
̶ 9 ̶
● 演者プロフィール
名前:原田大直樹(Naoki Harada)
連絡先:〒599-8531 大阪府堺市中区学園町 1-1
連絡先:大阪府立大学大学院生命環境科学研究科応用生命科学専攻
E-mail:[email protected]
略歴:2002 年 3 月大大阪府立大学農学部応用生物化学科卒業
略歴:2007 年 4 月大日本学術振興会特別研究員
略歴:2007 年 9 月大大阪府立大学大学院農学生命科学研究科修了,博士(農学)
略歴:2008 年 10 月 大阪府立大学大学院生命環境科学研究科助教
1
略歴:2015 年 4 月大大阪府立大学大学院生命環境科学研究科講師
略歴:2007 年 3 月大現在に至る
主な研究テーマ:膵 β 細胞機能を標的とした食品因子や男性ホルモンの作用
今後の展望:糖・脂質代謝における食品因子や男性ホルモンの作用とクロストーク
名前:山下大陽子(Yoko Yamashita)
連絡先:〒657-8501 神戸市灘区六甲台町 1-1
連絡先:神戸大学大学院農学研究科応用生命科学専攻
E-mail:[email protected]
略歴:2007 年 3 月大神戸女子大学大学院家政学研究科食物栄養学専攻
略歴:2007 年 3 月大博士前期課程修了
略歴:2007 年 4 月大神戸女子大学家政学部管理栄養士養成課程助手
略歴:2009 年 9 月大神戸大学自然科学系先端融合研究環重点研究部
略歴:2007 年 3 月大教育研究補佐員
略歴:2013 年 3 月大神戸大学大学院農学研究科博士後期課程修了,博士(学術)
略歴:2013 年 4 月大神戸大学大学院農学研究科特命助教
略歴:2007 年 3 月大現在に至る
主な研究テーマ:食品成分の生活習慣病予防効果とその作用機構解明
̶ 10 ̶
今後の展望:さまざまな食品の機能性、特に重合体ポリフェノールのプロシアニジン
について、分子標的の究明ならびに体内時計との関係性を明らかにしていきたいと考
えている。また、得られた成果について、正しく効果的な一般への普及・応用へと活
用していきたい。
名前:柴田大貴広(Takahiro Shibata)
連絡先:〒464-8601 愛知県名古屋市千種区不老町
連絡先:名古屋大学大学院生命農学研究科応用分子生命科学専攻
E-mail:[email protected]
略歴:2006 年 3 月大名古屋大学大学院生命農学研究科博士後期課程修了,
略歴:2007 年 3 月大博士(農学)
略歴:2006 年 4 月大同志社大学医工学研究センター特別研究員
略歴:2007 年 1 月大名古屋大学大学院生命農学研究科助手
略歴:2007 年 4 月大名古屋大学大学院生命農学研究科助教
略歴:2013 年 10 月 JST さきがけ「疾患代謝」研究者(兼任)
1
略歴:2016 年 1 月大名古屋大学大学院生命農学研究科准教授
略歴:2007 年 3 月大現在に至る
主な研究テーマ:食品の機能性に関する研究、脂質メディエーターに関する研究 今後の展望:食品成分や内因性低分子化合物とタンパク質との相互作用の解析を通し
て、健康科学に少しでも貢献できればと考えている。 ̶ 11 ̶
MEMO
̶ 12 ̶
●●●
一般講演
15:20 16:45
●●●
多目的ホール
(講演時間 9 分、質疑応答3分)
*1 代謝改変した組換え大腸菌による1-プロパノール発酵生産
○山田 尚平,松原 充,浦野 信行,片岡 道彦(大阪府大院・生命環境)
*2 酵母に見出したフラボタンパク質Ταη18依存的な一酸化窒素合成の制御機構
○吉川 雄樹,那須野 亮,渡辺 大輔,高木 博史(奈良先端大・バイオ)
*3 ビフィズス菌の抗炎症作用に関する特性解析
○川畑 球一,馬場 信行,萩原 光太,村上 茂,石井 剛志(神戸学院大・栄養)
*4 骨格筋線維タイプの違いによるカロテノイドトランスポーターCD36 の発現
について
○北風 智也,杉平 貴史,原田 直樹,山地 亮一(大阪府大院・生命環境)
*5 天然型幼若ホルモン類の合成と幼若ホルモン受容体発現酵母を用いた活性の評価
○名部 拓1,横井 大洋1,幌岩 真理1,原島 小夜子2,松浦 麻衣2,高田 英治2,
八木 孝司2,中川 好秋1,宮川 恒1(1京大院・農,2大阪府大院・理)
*6 カーラクトン型ストリゴラクトンのアーバスキュラー菌根共生における
シグナル機能の解析
○森 愛美1,謝 肖男2,米山 弘一2,秋山 康紀1
(1大阪府大院・生命環境,2宇都宮大・バイオサイエンス)
*7 ヒトRNase H2の活性と安定性に対する塩の効果
○兒島 憲二1,馬場 美聡1,今井 翔太2,山崎 朋美1,Robert J. Crouch3,
滝田 禎亮1,保川 清1(1京大院・農,2京大・農,3NIH・NICHD)
*「農芸化学会関西支部若手優秀発表賞・賛助企業特別賞」対象講演
̶ 13 ̶
*
1
代謝改変した組換え大腸菌による 1-プロパノール発酵生産
○山田尚平,松原充, 浦野信行, 片岡道彦
(大阪府大院・生命環境)
【目的】 1-プロパノール(1-PrOH)は多目的な溶媒や、代表的な汎用ポリマーであるポ
リプロピレンの原料として注目を集めている化合物である。先行研究により、下図の解
糖系中のジヒドロキシアセトンリン酸から1-PrOHへ至る人工生合成経路を導入した組
換え大腸菌を用いることにより、グルコースから1-PrOHの発酵生産が可能となった。本
研究ではグルコース代謝経路の改変や、培養の通気条件を検討することで、1-PrOH
生産量・対糖収率の向上を目指した。
【方法】 1-PrOH生合成経路中間物質を代謝するなど、収率低下の原因と考えられる
gloA, aldA, ldhA, tpiA遺伝子の破壊株を作製した。これら遺伝子破壊株と野生株を宿
主として用いて1-PrOH発酵生産を行い、生産量・対糖収率を比較した。さらに、300
ml容ジャーファーメンターを用い、空気と窒素を混合して通気することで1-PrOH発酵
生産に適した通気条件を検討した。
【結果】 gloA, aldA, ldhA, tpiAの4つの遺伝子破壊株であるNPA105株を宿主とした嫌
気培養において野生株と比較して、生育度、グルコース消費量、1-PrOH生成量は減
少(16.2→12.2 mM)したが、対糖収率は上昇(0.44→0.57 mol/mol)した。一方、好気培
養においては、NPA105株の嫌気培養時と比較して、生育度、グルコース消費量、
1-PrOH生成量が増加(12.2→22.3 mM)した。しかし、対糖収率は減少(0.57→0.44
mol/mol)し、中間生成物であるヒドロキシアセトンの蓄積が多く見られたため、培養時
の通気条件が1-PrOH発酵生産の効率に大きな影響を与えることが示された。そこで、
空気と窒素の混合比を変えた通気条件を検討した結果、空気/窒素=75/25の条件に
おいて1-PrOH生成量が最大67.5 mMとなった。さらに、培養開始24時間で通気条件
を 切 り 替 え る 培 養 を 行 っ た と こ ろ 、 1-PrOH 生 成 量 が 85.6 mM ま で 上 昇 し た 。
̶ 14 ̶
*
2
酵母に見出したフラボタンパク質 Tah18 依存的な一酸化窒素
合成の制御機構
○吉川雄樹,那須野亮,渡辺大輔,高木博史
(奈良先端大・バイオ)
【目的】
当研究室では、酵母Saccharomyces cerevisiaeにおいて、高温処理に伴いアルギニ
ン依存的に一酸化窒素(NO)が合成され、このNO合成酵素(NOS)様活性にフラボタ
ンパク質Tah18が関与すること、および生成したNOが細胞の高温耐性に寄与すること
を明らかにした。哺乳類のNOSは、NADPHからの電子を受け渡すレダクターゼドメイ
ンと基質を結合するオキシゲナーゼドメインから構成される。しかし、酵母のゲノム上に
はNOSのオルソログが保存されておらず、またTah18にはNOS活性に必須のオキシゲ
ナーゼドメインが欠落しているため、Tah18が関与するNO合成の詳細な分子機構は
不明である。本研究ではTah18依存的なNO合成とその制御機構について解析した。
【方法・結果】
まず、野生型株とTah18発現抑制株を用いて、NO特異的な蛍光プローブDAF-FM
DAを処理した細胞内の蛍光強度をフローサイトメーターによって測定・比較した。そ
の結果、過酸化水素処理下で、Tah18発現抑制株における細胞内NO量は野生型株
と比較して顕著に低下したため、高温処理だけでなく過酸化水素処理においても
Tah18依存的なNOS様活性が示された。また、Tah18と複合体を形成することが報告さ
れている鉄硫黄クラスタータンパク質Dre2の発現誘導株を用いて、Dre2がNO合成に
及ぼす影響を検討した。その結果、Dre2発現誘導の停止時間に伴い、細胞内NO量
が増加したため、Dre2はNO合成を抑制することが示唆された。次に、過酸化水素処
理下でのTah18とDre2の相互作用を共免疫沈降実験によって解析した。その結果、非
ストレス条件下ではTah18とDre2の相互作用に変化は見られなかったが、過酸化水素
処理後5分の時点でTah18に結合しているDre2のタンパク質量が明瞭に減少した。こ
の結果から、Tah18とDre2の複合体は酸化ストレスに応答して、速やかに解離すること
が示唆された。さらに、Dre2とTah18の融合タンパク質を発現する株を作製したところ、
野生型株と比較してストレス応答的な細胞内NO量が顕著に低下したことから、Tah18
とDre2の相互作用によってTah18依存的なNO合成が抑制されることが示された。
以上の結果から、Tah18とDre2は複合体を形成することで電子伝達を介して鉄硫黄
タンパク質合成に関与するだけでなく、Dre2がTah18から伝達される電子の優先的な
アクセプターとなることで、Tah18依存的なNOS様活性を抑制していると考えられる。
̶ 15 ̶
*
3
ビフィズス菌の抗炎症作用に関する特性解析
○川畑球一 1,2,馬場信行 1,萩原光太 1,村上 茂 1,田村 明 3,
夏目みどり 3,石井剛志 2
(1 福井県大・生物資源、2 神戸学院大・栄養、3 株式会社 明治)
【目的】
ビフィズス菌は腸内フローラにおける主な構成菌種であり、ヒトの健康維持に大きく
貢献している。我々はプロバイオティクスとポリフェノールの機能的な相互関係につい
て研究を進めており、これまでにフラボノイドとともに培養したビフィズス菌
(Bifidobacterium adolescentis)の培養上清が強力な一酸化窒素(NO)産生抑制活性
を発揮することを見出しており、フラボノイドがB. adolescentisの活性成分産生を増強
することも確認している。また、有機酸産生にも影響を与えることを明らかにしており、こ
れらの知見はフラボノイドが腸内においてビフィズス菌の機能性を向上させる可能性を
強く示唆している。本研究では、ケルセチンによって増強されるB. adolescentisの抗炎
症活性について詳細に解析するとともに活性成分の分離精製を試みた。
【方法および結果】
B. adolescentic JCM1275T株は理研BRCより購入し、GAM培地にて嫌気条件下で
培養した。B. adolescentis(108 cfu/mL)は、ケルセチン(終濃度25 µM)もしくは溶媒
(DMSO)を添加したDMEMにて嫌気条件下で3時間培養し、2回の遠心により菌体を
除去して培養上清を得た。これをマウスマクロファージRAW264細胞に添加してLPS刺
激し、培地中の炎症性メディエーター(tumor necrosis factor-α、interleukin-1βおよび
prostaglandin E2)をELISA法により測定した結果、いずれも顕著に減少していたことか
ら、B. adolescentic JCM1275T株が産生する抗炎症活性成分はLPS刺激による炎症性
シグナル伝達を抑制することが示唆された。一方、inducible NO synthaseの発現に変
動は見られず、培養上清に含まれる成分がNO消去能を有している可能性が示唆され
たが、NOドナー(NOC7)を用いた実験ではNO消去活性は認められなかった。次に、
抗炎症活性成分に関する情報を得るため培養上清を限外ろ過した結果、活性成分は
分子量3 kDa以下であることが明らかとなった。さらに、酢酸エチルにより培養上清を分
配し、有機層を濃縮してNO産生抑制活性を評価したところ、有機層には活性がほとん
ど認められなかった。そこで、培養上清のpHを変化させ、再度、酢酸エチル分配およ
び活性評価を行った結果、酸性条件での分配により有機層に活性が認められたことか
ら、活性成分は強酸性物質である可能性が強く示唆された。 ̶ 16 ̶
*
4
骨格筋線維タイプの違いによるカロテノイドトランスポーター
CD36 の発現について
○北風智也,杉平貴史,原田直樹,山地亮一
(大阪府大院・生命環境)
【目的】骨格筋を構成する筋線維は主に遅筋線維と速筋線維の2種に区別される。速
筋線維から主に構成される速筋は収縮力が強く、嫌気的な解糖系によりエネルギーを
産生し、一方で、遅筋線維からに主に構成される遅筋は持久力に富み、好気的にエ
ネルギーを産生する。我々はプロビタミンAであり、抗酸化作用をもつβ-caroteneを摂取
したマウスでは、速筋ではなく、遅筋で過酸化脂質量が減少し、筋重量が増加すること
を見出した1)。これらの結果から、β-caroteneが遅筋に選択的に蓄積し、筋重量の増加
に寄与すると考えられた。本研究では骨格筋線維タイプの違いによるカロテノイドトラン
スポーターの発現を解析し、その発現調節機構を検討することを目的とした。
【方法・結果】雄性マウスの骨格筋を採取し、3つのカロテノイドトランスポーター
(CD36、SR-B1、NPC1L1)の発現レベルを解析した結果、Cd36の発現レベルは速筋
(長趾伸筋、腓腹筋の速筋部位)に比べて遅筋(ヒラメ筋、腓腹筋の遅筋部位)で顕著
に高かったが、Scarb1とNpc1l1の発現レベルは速筋と遅筋で有意な差がなかった。
β-caroteneは細胞内に取り込まれるとビタミンA(all-trans retinoic acid, ATRA)に代謝さ
れ、転写因子であるレチノイン酸受容体(RAR)を活性化する。マウス筋芽細胞
(C2C12細胞)において、ATRAと同様にβ-carotene はRARの転写活性を活性化した
が、siRNAでCD36をノックダウンしたC2C12細胞ではATRAと異なりβ-caroteneはRAR
の転写活性を活性化しなかった。また遅筋(ヒラメ筋)のCD36をノックダウンしたマウス
では、β-caroteneによりヒラメ筋重量が増加しなかった。これらの結果から、β-caroteneは
CD36を介して遅筋に取り込まれ、筋重量の増加に寄与することが明らかとなった。さら
に遅筋におけるCD36の発現調節機構を評価した。遅筋では速筋よりも毛細血管の酸
素分圧は高いが、ミトコンドリアが多いことから酸素消費量がむしろ多く、酸素が不足し
た低酸素状態にあると仮説をたてた。そこで低酸素状態で発現が増加する低酸素誘
導因子(HIF-1α)の発現を遅筋と速筋で評価した。その結果、速筋よりも遅筋で
HIF-1αの発現量が顕著に高かったことから、遅筋の方が低酸素状態であると示唆され
たので、低酸素状態がCD36の発現量に影響を与えるかを検証した。C2C12細胞を低
酸素状態で培養し、CD36の発現量を検討した結果、低酸素によりHIF-1αと同様に
Cd36の発現量も増加した。以上のことから、遅筋と速筋における酸素環境の違いが
CD36の発現レベルの違いに反映している可能性が示された。
1) Kitakaze T., et al., J. Nutr. Sci. Vitaminol. (2015) 61, 481-487.
̶ 17 ̶ *
5
天然型幼若ホルモン類の合成と幼若ホルモン受容体発現
酵母を用いた活性の評価
○名部 拓 1,横井大洋 1,幌岩真理 1,原島小夜子2,松浦麻衣2,
高田英治2,八木孝司2,中川好秋 1,宮川 恒 1
(1 京大院・農,2 大阪府大院・理)
【目的】 昆虫の脱皮変態は幼若ホルモンと脱皮ホルモンの 2 つの抹消ホルモンによっ
て制御されている. 脱皮ホルモンの研究は分子レベルで詳しく研究されていて,その
受容体の立体構造およびホルモンとの相互作用まで明らかにされている.一方,幼若
ホルモンに関しては,その受容体 Methoprene torelant (Met)の存在が明らかになった
ものの,その結合様式は不明であり、コンピューターシミュレーションを用いたインシリ
コでの結合予測が行われているのみである[1]. われわれはこれまでに,酵母レポータ
ーアッセイ系を用いて,幼若ホルモンや脱皮ホルモンの活性を定量的に評価できるこ
とを報告してきた.本研究では JH-III 以外の天然型 JH である JH-0, I, II を立体選択
的に合成し,活性評価を行うとともに,受容体モデルを作って幼若ホルモン類との相互
作用を検討した.
【方法】 Manabe らの方法[2]に従って,出発原料にアセト酢酸メチルを用い JH-0,
JH-I, JH-II を合成した.トシル化、クロスカップリングによる分岐鎖のアルキル化、エス
テルの還元、臭素化、炭素鎖伸長という一連の反応を繰り返し行うことで基本骨格を
構築した.経路の中盤に Sharpless 不斉ジヒドロキシ化反応によりジオール化した後一
度保護した.その後, 経路の最後に脱保護し, メシル化に続く分子内求核置換反応に
よってエポキシ部を構築した. 幼若ホルモンアッセイ用酵母株は, キイロショウジョウバ
エの Met 発現プラスミド,Met の coactivator である Tai 発現プラスミド,Met 応答配列
をもつ lacZ レポータープラスミドを、酢酸リチウム法により野生酵母株 W303a に導入す
ることで作製した. 96 穴マイクロプレートに被験化合物, 酵母菌液, 培地を加え 18 時
間培養後,その一部と発色基質溶液とを新しいプレートに混合して 37℃で 1 時間イン
キュベートした. レポーターの発色 OD405 と酵母濁度 OD595 を測定した後, それぞれの
化合物について濃度応答曲線から幼若ホルモン活性を算出した.
【結果】 アセト酢酸メチルを出発物質として,収率 4
5 %で目的の天然型 JH-0, I,II を
合成することができた.酵母系レポーターアッセイ系において活性を評価したところ,
これらの天然型幼若ホルモン類の活性は, methoprene よりは高かったが, JH-III や農
業用殺虫剤である pyriproxyfen には及ばなかった.
[1] Charles et al. PNAS, 21128-21133 (2011)
[2] Manabe et al., Synlett,1213-1216 (2012)
̶ 18 ̶
*
6
カーラクトン型ストリゴラクトンのアーバスキュラー菌根共生に
おけるシグナル機能の解析
○森 愛美 1,謝 肖男 2,米山 弘一 2,秋山 康紀 1
(1 大阪府大院・生命環境,2 宇都宮大バイオサイエンス教研センター)
【目的】 アーバスキュラー菌根菌 (arbuscular mycorrhizal fungi,AM 菌) はリンを宿主
植物に供給する有用微生物であり,80%以上もの陸上植物と共生している。AM 菌は
宿主植物の根から分泌されるストリゴラクトン (strigolactone,SL) を認識することによ
って共生の初期応答である菌糸分岐を起こす。SL は β-carotene から二環性の
carlactone (CL),その酸化誘導体である carlactonoic acid (CLA) を経て生合成される
四環性テルペノイドである。近年,AM 菌の宿主であるエンバクとヒマワリから CL 型の
骨格を持つ SL が単離された。これらの植物は根から典型的な四環性 SL を分泌してい
ないため,CL 型 SL を AM 共生シグナルとして利用している可能性が強く示唆された。
そこで本研究では,化学合成した CL 酸化誘導体およびミヤコグサとトウモロコシから
単離した新規 CL 型 SL について AM 菌に対する菌糸分岐誘導活性を評価し,これら
CL 型 SL が新規 AM 共生シグナルとして機能する可能性について検証した。
【 方 法 及 び 結 果 】 CL , 19-hydroxycarlactone (19-HO-CL) , CLA お よ び methyl
carlactonoate (MeCLA) は既に確立した合成法により調製した。また,水酸化修飾が
菌糸分岐活性に与える影響を調べるため,天然水酸化 SL である strigol および
orobanchol に対応した部位に水酸基を持つ 4-HO-CL および 18-HO-CL を新規に合
成した。これら CL 酸化誘導体を AM 菌 Gigaspora margarita を用いた菌糸分岐アッセ
イに供したところ,CL はごく弱い活性しか示さなかったが,CLA は四環性 SL の strigol
と同等の強い活性を示した。MeCLA は CLA の 10 分の 1 程度の活性を示した。水酸
化誘導体では,19-HO-CL が CL と CLA の中間程度の活性であったのに対し,
4-HO-CL と 18-HO-CL は CL と同等のごく弱い活性しか示さなかったことから,19 位
の酸化が CL の菌糸分岐活性を強めることが明らかとなった。
これまでに CLA と MeCLA が根内に存在していることは確認されているが,根からの
分泌については調べられていない。そこで,いくつかの植物根分泌物について
LC-MS/MS 分析を行ったところ,CLA はトウモロコシ,セイタカアワダチソウ,ヒマワリ,
MeCLA はポプラにおいて存在が確認され,これらの植物では CLA や MeCLA が AM
共生シグナルとして働くことが示唆された。
現 在 , ミ ヤ コ グ サ と ト ウ モ ロ コ シ か ら 単 離 し た 新 規 CL 型 SL で あ る methyl
lotuslactonoate および methyl zealactonoate の菌糸分岐活性評価を行っている。
̶ 19 ̶
*
7
ヒト RNase H2 の活性と安定性に対する塩の影響
○兒島憲二 1,2,馬場美聡 1,中瀬理保子 2,今井翔太 2,山崎朋美 1,
Robert J. Crouch3,滝田禎亮 1,2,保川清 1,2
(1 京大院・農,2 京大・農,3NIH・NICHD)
【目的】 リボヌクレアーゼ H(RNase H)は,RNA/DNA ハイブリッドの RNA 鎖を加水分
解する酵素である.本酵素は,全ての生物細胞に存在し,RNase H1 と RNase H2 に大
別される.RNase H1 は 2 本鎖 DNA に 1 塩基だけ取り込まれたリボヌクレオチドを切断
しないが,RNase H2 はこれの 5 側のホスホジエステル結合を切断する.近年,細胞内
で DNA にリボヌクレオチドが,多い場合には 1000 塩基に 1 塩基の割合で取り込まれ
ていることや,RNase H2 がこれを除去してゲノムの安定化に寄与していることが報告さ
れた 1).本研究では,ヒト RNase H2 を大腸菌で発現させ,その酵素活性と安定性に対
する塩の影響を検討した.
【方法】 6 残基のヒスチジンをそれぞれの N 末端に付加したヒト RNase H2 のサブユニ
ット A(33 kDa),B(35 kDa),C(18 kDa)の遺伝子を大腸菌でポリシストロニックに発現
させた.その菌体内可溶性画分から HiTrap Heparin HP カラムおよび HisTrap HP カラ
ムを用いて精製した 2).RNase H2 の活性測定には,3 -フルオレセイン修飾 18 塩基
RNA ( 5 -gaucugagccugggagcu-3
) と
5 -Dabcyl
修 飾
18
塩 基
DNA
(5 -AGCTCCCAGGCTCAGATC -3 )から成る二本鎖を基質として用い,その加水
分解に伴う反応液の蛍光(励起波長 490 nm,蛍光波長 515 nm)の増大を連続測定し
た.
【結果】 RNase H2 活性は,NaCl あるいは KCl 濃度が 0−60 mM では塩濃度の増加に
伴い増加したが,60−200 mM では塩濃度の増加に伴い減少した.60 mM NaCl あるい
は KCl 存在下での RNase H2 活性は,塩非存在下での活性のそれぞれ 390%,310%
であった.10 mM NaCl 存在下で 30℃,35℃あるいは 40℃で熱処理を行ったときの一
次の熱失活速度定数(kobs)は,塩非存在下で熱処理を行ったときのそれぞれ 92%,
63%,67%であり,10 mM NaCl により熱失活が抑制された.ヒト細胞内において、NaCl
および KCl は RNase H2 の酵素活性および安定性を向上させていると考えられる.
1. M. A. M. Reijns et al. (2012) Cell 149, 1008‒1022
2. M. Figiel et al. (2011) J. Biol. Chem. 286, 10540‒10550
̶ 20 ̶
●●●
特別講演
17:00 17:30
●●●
多目的ホール
農芸化学奨励賞受賞講演
『酵母における環境応答と代謝調節に関する分子遺伝学
的研究とその応用』
渡辺 大輔(奈良先端大・バイオ)
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酵母における環境応答と代謝調節に関する分子遺伝学的研究とその応用
渡辺 大輔 (奈良先端大・バイオ)
細胞は,外界の栄養環境を感知し,そのシグナルに応答して遺伝子発現を制御し,
代謝のリモデリングを行うことによって,自らにとって必要なエネルギーや物質を生
産する.したがって,環境応答と代謝調節は,細胞の生存・生育にとって最も根幹を
成し,細胞を「生命」たらしめる必須な機能の一つである.私は,真核モデル生物で
ある出芽酵母 Saccharomyces cerevisiae を主に用いて,その全体像の解明に挑むと共に,
得られた知見の産業への応用を目指している.
1. 酵母の細胞形態形成シグナル伝達経路に関するゲノムワイド解析
出芽酵母は,細胞表層の特定の一箇所から芽と呼ばれる構造を形成し成長させ,適
切なサイズに達するとそれをくびり切ることで増殖を行うが,環境ストレスを受ける
と芽の形成・成長を停止させる.私は,この形態形成プロセスに必須な,細胞壁の主
要構成成分である 1,3-β-グルカンの合成酵素 Fks1p の上流因子の遺伝学的スクリーニ
ングを行い,多機能分子スイッチとして知られる低分子量 GTPase Rho1p の活性化・
不活性化に関与するシグナル伝達経路の同定に携わった.さらに,形態形成の調節に
関わる新規因子を明らかにするために,出芽酵母の全遺伝子破壊株ライブラリー約
5,000 株の細胞形態を網羅的に観察するプロジェクトに参画した.出芽酵母細胞の微
細な形態の差を定量的に解析するために,顕微鏡画像から自動的に形態情報を抽出す
るための CalMorph ソフトウェアの開発に携わり,これを用いて全遺伝子破壊株の細
胞形態に関する SCMD データベースを構築した.これらの成果により,各遺伝子破
壊株における 1 細胞レベルでの詳細な形態情報の記述をシステマティックに行うこと
が可能となり,出芽酵母の形態学的研究の精度が飛躍的に向上した.
2. 酵母のアルコール発酵調節因子の同定
清酒酵母と呼ばれる菌株群は,多様な出芽酵母菌株の中でもアルコール発酵力が非
常に高いことで知られているが,その原因は謎に包まれており解明が望まれていた.
私は,清酒酵母と実験室酵母(生命科学研究に広く用いられるモデル菌株)の比較オ
ミクス解析に携わり,清酒酵母において機能が欠損している複数のシグナル伝達経路
を同定し,それらが高発酵力をもたらしていることを明らかにした.中でも,出芽酵
母の環境ストレス応答において中心的な役割を果たす Greatwall ファミリープロテイ
ンキナーゼ Rim15p とその下流で働く転写因子 Msn4p の機能欠失変異が清酒酵母にお
̶ 22 ̶
いて同定された点は驚くべき発見であり,「ストレスに対応できない『働き者』酵母
が高い発酵力を有する」という新しい概念を確立するに至った.さらに,Rim15p の
機能欠損は,UDP-グルコース合成を介した糖質同化経路の抑制により,相対的に解
糖系・アルコール発酵への代謝フラックスを増大させるというメカニズムも,炭素代
謝プロファイルの解析により明らかにした.本研究成果は,実用酵母菌株の高発酵原
因変異の発見に世界で初めて成功したという意義を有することに加え,微生物の代謝
に関する研究分野全体にも新たな洞察をもたらすものとなった.
3. 酵母ユビキチンリガーゼを介した環境応答に関する分子基盤の解析
以上のテーマに加えて,真核生物に広く保存されたタンパク質翻訳後修飾として知
られるユビキチン化に着目した研究も行っている.ヒト Nedd4 のオルソログであり,
出芽酵母において生育に必須な唯一の HECT 型ユビキチンリガーゼである Rsp5p は,
様々な基質タンパク質を認識しユビキチン化することで,タンパク質の分解や活性を
調節し,多様な細胞機能に関与している.私達の研究グループは現在までに,Rsp5p
とストレスによる変性などによって生じる異常タンパク質との選択的な相互作用に
関わるアダプタータンパク質の存在を明らかにした.このことにより,Rsp5p が,近
年注目を集める,タンパク質の品質管理と呼ばれるメカニズムにおいて中心的な役割
を果たすことが示された.また,Rsp5p は基質タンパク質との相互作用に関わる WW
ドメインを 3 つ有しているが,それぞれの推定上のリン酸化部位が基質認識の特異性
に関与するという新しい分子メカニズムも発見した.将来的には,これらの研究成果
の活用により,ストレスによって生じる異常タンパク質が酵母の生存・生育に及ぼす
悪影響を効率的に除去し,酵母の発酵生産力を高めることが可能になると考えている.
酵母は,先史時代から人類に活用されてきた最も身近な微生物であるにも関わらず,
「酵母の細胞はなぜ丸いのか?」,「酵母の発酵力を高めるにはどうすれば良いの
か?」,
「単細胞生物である酵母はどのように傷害を癒すのか?」といった素朴な疑問
の多くが未解決のまま残されていることに気付いた.これらの疑問に対する解答を探
究する中で,酵母の未知なる可能性が開拓され,酵母機能を活用した産業利用の促
進・効率化に資する有用な知見に辿り着くことができた.
【謝辞】学生時代から今日に至るまでたえず温かいご指導と励ましを賜り,酵母研究者として一から育成して下さった東京大
学大学院新領域創成科学研究科教授 大矢禎一先生,研究人生の転機となった清酒酵母との出会いを与え,豊富な知識に基づき
的確に研究を導いて下さった独立行政法人酒類総合研究所醸造技術基盤研究部門長 下飯仁先生(現・岩手大学),高いアクティ
ビティを維持し続けることの重要性を教え,基礎と応用の垣根を越えた多彩なテーマに携わる貴重な機会を提供して下さった奈
良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科教授 高木博史先生をはじめ,本研究に携わり多大なるご指導・ご助力を賜
りました全ての先生方,先輩方,スタッフ・学生の皆様,共同研究者の皆様に対し,心より感謝申し上げます.最後になります
が,本奨励賞にご推薦下さいました日本農芸化学会関西支部長 安達修二先生ならびに関係の先生方に厚く御礼申し上げます.
̶ 23 ̶
● プロフィール
名前:渡辺 大輔(Daisuke Watanabe)
連絡先:〒630-0192 奈良県生駒市高山町 8916-5
連絡先:奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科
E-mail:[email protected]
略歴:2004 年 3 月大東京大学大学院 新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻
博士課程修了,博士(生命科学)
2004 年 4 月大国税庁 財務技官
2007 年 7 月大国税庁 在外研究員(コーネル大学食品科学部)
2008 年 7 月大独立行政法人酒類総合研究所 醸造技術基盤研究部門 研究員
2013 年 9 月大奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 助教
現在に至る
主な研究テーマ:酵母の代謝・環境応答メカニズムとその応用
今後の展望:単純な実験室条件だけでは見つけることが難しい、酵母という単細胞生
物の真の
生きざま
を解明することで、生命システムの精巧さ・複雑さを実感し、
感動しながら研究を続けていきたいです。
̶ 24 ̶
MEMO
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次回のお知らせ
2016 年度日本農芸化学会関西支部大会
(第 496 回講演会)
日時:平成 28 年 9 月 16 日(金)∼ 17 日(土)
会場:ピアザ淡海(1日目),滋賀県立大学(2日目)
プログラム(予定)
第1日目
・支部参与会(12:00 ‒ 12:50)
・基調講演(13:00 ‒ 13:40)
・シンポジウム(13:55 ‒ 15:40)
・受賞講演(15:50 ‒ 17:00)
・懇親会(17:30 ‒ 19:30)
第2日目
・一般講演(10:00 ‒ 16:00)
講演申込締切:8月 12 日(金)
講演要旨締切:8月 19 日(金)
問合せ先:滋賀県立大学人間文化学部 福渡
E-mail: [email protected]
努
詳細についてはホームページをご覧下さい。
http://kansai-jsbba.or.jp
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お 知 ら せ
○ 支部参与会は、12:00 より学術交流会館小ホールにて開催します。
○ 懇親会を 17:40 より同会館サロンにて開催します。
奮ってご参加ください。
日本農芸化学会関西支部
http://kansai-jsbba.or.jp/
〒606-8502
京都市左京区北白川追分町
京都大学大学院農学研究科内
庶務幹事:橋本 渉
E-mail: [email protected]
TEL: 0774-38-3756、FAX: 0774-38-3767
会計幹事:安部 真人
E-mail: abe@ kais.kyoto-u.ac.jp
TEL: 075-753-6405、FAX: 075-753-6408
発行日
平成28 年 7 月 8 日
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