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7.栓をし忘れ浴槽に水(ルンゲ・クッタ法) 数年前のある中学校の入試

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7.栓をし忘れ浴槽に水(ルンゲ・クッタ法) 数年前のある中学校の入試
環境シミュレーション
7.栓をし忘れ浴槽に水(ルンゲ・クッタ法)
平方根に比例し,高さ h から落下する物体の落下速
「いまさら流体力学?」木田重雄著(丸善株式会社)より
度 2 gh と等しくなる.
数年前のある中学校の入試問題である.下図に示
す浴槽は蛇口から一定の割合で水を入れると 2 時間
で満杯になる.また,排水口は満杯の浴槽を空にす
るのに 3 時間かかる.ある日,浴槽に水を張ろうと
して,うっかり排水栓を閉じるのを忘れてしまった.
浴槽は蛇口を開いてから何時間で一杯になるだろ
う?
では,栓をし忘れて浴槽に水を張るという問題を
考えてみよう.先ず,浴槽の容積 V は 1 m 3 (底面積
S = 1 m 2 ,深さ h = 1 m)とする.問題の蛇口からは,
1 時間に浴槽全体の 2 分の 1 に相当する水が入るこ
とから,単位時間あたりの給水量(給水流量) Qin は,
浴槽容積を給水の所用時間で割った 1 2 m 3 h とな
る.この給水流量は一定である.
次に,満杯の浴槽を排水栓を抜いて空にする場合
を考えてみる.ある微小な時間 Δt の間に流れ出す
水の量は,「トリチェリの定理」から排出流量を
− α h とおけば,両者の積 − α h Δt となる(ここで h
は,その時点(時間 t )における浴槽の水深である).
注意:理論的に言えば,流速が 2 gh となることから,こ
れに排出口の断面積をかけてやれば排出流量が求まるは
ずであるが,現実には,縮脈といって,流れ出す水の断面
積が排出口の断面積より小さくなる現象が現れる.また,
その小さくなる比率(縮脈率)も排水口の形状や粗度によ
って一様でないことから,理論式はそのままでは使うこと
ができない.ただ,排出流量が水深の平方根に比例すると
いう事実だけは残る.
正解?
一方,これだけの水が流れ出した結果として減少
した浴槽の水深を Δh とおけば,減少した浴槽容積
は, Δh に底面積をかけて SΔh となる.この減少し
た浴槽容積と排出された水の量は等しいはずであ
る か ら , SΔh = −α h Δt . 式 を 変 形 す れ ば
Δh Δt = − α h S .ここで Δt の極限 Δt → 0 を考えれ
この問題の出題者はおそらく次のような解答を
受験生に期待していたのであろう.
この蛇口からは 1 時間に浴槽全体の 2 分の 1 に相
当する水が入る.一方,排水口からは 1 時間につき
浴槽の 3 分の 1 に相当する水がでていく.したがっ
て,蛇口と排水栓の両方を開くと 1 時間に浴槽の
1 2 − 1 3 = 1 6 に相当する水がたまっていく.したが
ば,次の微分方程式が得られる.(ちなみに微分方程
式は上記のように,浴槽への水の出入り,すなわち水とい
う物質のある系(浴槽)への収支から導き出されることか
ら「物質収支式」とも呼ばれる.)
って,浴槽は 6 時間で満杯になる.答え 6 時間.
一見これで良さそうに思われるが,この問題はそ
う単純ではなかった.実はこの場合「浴槽はいつま
....
でたっても一杯にならない」が正解である.
dh
α
=−
dt
S
正解
h
ここで上式は,変数分離法で解析的に解くことが
できる.
この問題を解く鍵は,排水口から流れ出す水の速
さにある.君たちもお風呂(浴槽)の水を抜いたこと
があるだろうが,排水口から流れ出す水の速さは決
して一定ではない.浴槽が満杯に近いときは,流れ
出す水の速度は速く,空っぽに近くなるとそれにつ
れて速度も遅くなっていく.なぜそうなるかの詳し
い解説はしないが,結論だけをいうと,排出口にお
ける水の流速 v は次式のようになる.
dh
α
=−
dt
S
h → -
dh
h
=
α
S
dt → -∫ h −1 2 dh =
α
S
∫ dt
満杯の浴槽をからにするのに排水栓を抜いてか
ら 3 時間かかるという題意より,次のように α が求
まる.
v = 2 gh
0
α
H
S
− ∫ h −1 2 dh =
3
[ ]
∫ dt → − 2 h
0
0
H =1
=
α
S
[t ]
t =3
0
→ 2 1 = 3 α 1 → α = 2 3 = 0.6666... [m 5 2 h]
上式は「トリチェリの定理」と呼ばれ,ここでの g
は重力加速度, h は浴槽の水深である.つまり,水
深 h の浴槽から流れ出す水の速度は,浴槽の水深の
最後に,排水栓を閉じずに蛇口を開いた場合の時
- 37 -
環境シミュレーション
上式をもとに Excel で,水深 h に対して,その深
さの水を溜めるのに必要な時間 t をプロットしてみ
たのが下図である.
間 t に対する浴槽の水深 h を考えてみよう.先ほど
と同様に,ある微小な時間 Δt を考える.その間に流
れ出す水の量は − α h Δt ,また蛇口から流れ込む水
の量は,給水流量が Qin ( 0.5 m 3 h )より +Qin Δt .そ
れら両者の結果としての,浴槽の水深の変化を Δh
とおけば,変化した浴槽容積は, Δh に底面積をか
けた SΔh となり,この変化した浴槽容積は,給水さ
れた水の量から排出された水の量を引いた値は等
しいはずである:SΔh = Qin Δt − α h Δt .式を変形し,
Δt の極限 Δt → 0 を考えれば,
dh
dh 1 2
= Qin − α h → 1
= −
h
dt
dt 2 3
S
この微分方程式をやはり変数分離法で解いてやる.
dh
→
1 2−2 3 h
= dt → ∫
dh
1 2−2 3 h
= ∫ dt
限大となる.つまりこの問題の場合は,浴槽の水は
水深 0.5625 m までは溜まるが,それ以上は時間が
無限に経過しても溜まらない.すなわち浴槽は永遠
に満杯とはならないのである.
この場合は,さらに h = x と変数を置換してやる
ことが必要になる.積分範囲は 0 ≤ h ≤ h に対して
0 ≤ x ≤ h .ここで h = x の辺々を微分すると
この理由は簡単である.水を張りはじめてある水
深までは水の給水流量が排出流量を上回る
( dh dt = 1 2 − 2 3 h > 0 )ために,水は溜まっていく
1 dh
1 dh
= dx →
= dx → dh = 2 xdx
2 h
2 x
これを元の微分方程式に代入して,
dt =
=(
dh
1 2−2 3 h
=
図が示すとおり,浴槽に水を張っていくために必
要時間は,浴槽の水深が 0.5 m を過ぎたあたりから
急 激 に 長 く な る . 理 論 的 に は ,
dh dt = 1 2 − 2 3 h = 0 となる h = 9 / 16 = 0.5625 で無
2 xdx
12 xdx 9 − 3(3 − 4 x )
dx
=
=
1 2 − 2 3 x 3 − 4x
3 − 4x
9
− 3)dx
3 − 4x
が,水深が高くなるにつれて,給水流量が一定なの
に対して排出流量が徐々に大きくなっていき,ある
水深( h = 0.5625 m )になった時点で,排出流量が給水
流量と等しくなり( dh dt = 1 2 − 2 3 h = 0 ),それ以
上の水が浴槽にたまらなくなるのである.
ルンゲ・クッタ法によるシミュレーション
では同じ問題(微分方程式 dh dt = 1 2 − 2 3 h )
辺々をそれぞれ 0 ≤ t ≤ t と 0 ≤ x ≤ h の範囲で積分
すると,以下のようになる.
h
t
を数値計算で解いてみる.ここでは差分法のひとつ
であるルンゲ・クッタ法で解いてみよう.前の章で
の少し触れたように,差分法としてはルンゲ・クッ
タ法のほうがオイラー法よりも精度がよく,実際の
コンピュータ・シミュレーションで利用されている
差分法のほとんどがルンゲ・クッタ法である.
9
∫ dt = ∫ ( 3 − 4 x − 3)dx
0
0
h
⎡ 9
⎤
ln(3 − 4 x) − 3 x ⎥
0 = ⎢−
⎣ 4
⎦0
9
9
= − ln(3 − 4 h ) − 3 h + ln(3)
4
4
9
3
∴t = ln
−3 h
4 3− 4 h
[t ]
t
ただし解説としては,サンプルプログラム全般の
説明からはじめ,ルンゲ・クッタ法については,そ
の後で説明する.
サンプルプログラムの概要
下図がこの問題のために作成したサンプルプロ
グラムの外見である.
残念ながら h(t ) = のように,時間 t の関数として
の浴槽の水深 h を求めることはできないが,逆に水
深 h に対する(水深 h の水を溜めるのに必要な)時間
t は求めることができる.
- 38 -
環境シミュレーション
次のような Sub プロシージャで定義されている.
Option Explicit
Dim qin, alpha As Double
'ルンゲ-クッタ法(Runge-Kutta Method)
Sub Sub_RKM()
Dim t, k1, k2, k3, k4 As Double
Dim i As Long
Dim h1, del_t, t_end As Double
UserForm1.TextBox1 = 0.5
UserForm1.TextBox2 = 0.1
UserForm1.TextBox3 = 10
UserForm1.TextBox4 = 0.666
UserForm1.TextBox5 = 0
このプログラムでは,B8:C9 にある「シミュレー
ション・スタート」というコマンドボタンを押すこ
とで,シミュレーションが開始する.すると経過時
間 t が A6 に,その時点での浴槽の水深 h が B6 に,
C6 には水槽の深さ 1 m から水深を引いた値が表示
され,その結果をうけて右の図の水色部分があたか
も浴槽中の水のように上下する.
UserForm1.Show
qin = UserForm1.TextBox1
del_t = UserForm1.TextBox2
t_end = UserForm1.TextBox3
alpha = UserForm1.TextBox4
h1 = UserForm1.TextBox5
t=0
Cells(6, 1) = t
Cells(6, 2) = h1
If MsgBox(Prompt:="Ready?", Buttons:=vbOKCancel) <>
_ vbOK Then Exit Sub
For i = 1 To t_end / del_t
t = t + del_t
k1 = dhdt(t, h1)
k2 = dhdt(t + del_t / 2, h1 + del_t * k1 / 2)
k3 = dhdt(t + del_t / 2, h1 + del_t * k2 / 2)
k4 = dhdt(t + del_t, h1 + del_t * k3)
h1 = h1 + del_t * (k1 + 2 * k2 + 2 * k3 + k4) / 6
Cells(6, 1) = t
Cells(6, 2) = h1
ActiveSheet.Calculate
If t > 0 And (h1 <= 0 Or h1 >= 1) Then Exit For
Next i
MsgBox ("シミュレーション終了")
End Sub
では実際,スタートボタンを押してみよう.する
と上図のようなダイアログボックスが現れる.
ここでは, Qin = 給水流量 Qin [ m 3 / h] ,del_t =
差分法のタイムステップ Δt [h] ,t_end = シミュレ
ーションの終了時間[h],alpha = 排出流量の速度係
数 α [m 5 2 h] ,h(0) = 時間 t = 0 での水深 h(0) [m]
Function dhdt(t As Double, h1 As Double) As Double
If h1 < 0 Then h1 = 0
dhdt = qin - alpha * h1 ^ (1 / 2)
End Function
を設定するようになっている.なお,図中ボックス
内のそれぞれの値はデフォールトとして与えてい
るものである.このようなダイアログボックスの作
成のしかたと,ダイアログボックスからの値を数値
計算へ取り込む方法については後述する.
また,この「Sub_RKM」がマクロとしてサンプ
ルプログラムの「シミュレーションスタート」ボタ
ンにリンクされている.(コマンドボタンへのマク
ロ登録はモンテカルロ法を参照)
またこのプログラムでは,ダイアログボックスで
パラメータを設定した後,シミュレーションの開始
前と終了後にそれぞれ下図のようなメッセージボ
ックスを表示させるようにしている.
ではプログラムの詳細をみていこう.
プログラムの詳細
Option Explicit
Dim qin, alpha As Double
'上記は,給水流量(qin)と排出流量の速度係数 α の 2 変数を倍精
'度で宣言したものである.このようにモジュールの先頭でデ
'ータ型を宣言すると,モジュール内のすべてのプロシージャが
'適用範囲となる.このような変数を「モジュールレベル変数」
'とよび,各プロシージャ内で宣言され,そのプロシージャ内だ
'けで有効なローカル変数と区別される.
VBA プログラム
では上記のようなサンプルプログラムを動かし
ているプログラムを見てみよう.このプログラムは
- 39 -
環境シミュレーション
t = t + del_t
'ルンゲ-クッタ法(Runge-Kutta Method)
'i がカウントされる度に,シミュレーション・クロックを del_t
'だけ進めている.
Sub Sub_RKM()
'この Sub...から End Sub までが「Sub_RKM」と名づけた Sub プ
'ロシージャである.
k1 = dhdt(t, h1)
k2 = dhdt(t + del_t / 2, h1 + del_t * k1 / 2)
k3 = dhdt(t + del_t / 2, h1 + del_t * k2 / 2)
k4 = dhdt(t + del_t, h1 + del_t * k3)
h1 = h1 + del_t * (k1 + 2 * k2 + 2 * k3 + k4) / 6
Dim t, k1, k2, k3, k4 As Double
Dim i As Long
Dim h1, del_t, t_end As Double
'上記 3 行は「Sub_RKM」内でのデータ型宣言部分である.ちな
'みに t はシミュレーション時間,k1,k2,k3,k4 はルンゲ・
'クッタ法で使用する変数,i は For...Next ステートメントのた
'めのインデックス,h1 は浴槽の水深,del_t がタイムステップ,
' t_end がシミュレーションの終了時間を表している.
UserForm1.TextBox1 = 0.5
UserForm1.TextBox2 = 0.1
UserForm1.TextBox3 = 10
UserForm1.TextBox4 = 0.666
UserForm1.TextBox5 = 0
'パラメータを設定するユーザフォーム
'にデフォールト値を入れるための行である.「UserForm1」とは
'そのダイアログボックスがその名称のユーザフォーム (後述
'する)に定義されていることを示す.また「TextBox(1,2,
'3,...)」は,数値を代入する場所がダイアログボックスで何番
'めのテキストボックス(後述する)になるかを示している.
'まず変数 k1 では,シミュレーション時間 t とその時点での水深
'h1 の値を下で定義している Function プロシージャ「dhdt()」
'に手渡し,その時点の dh/dt の値を返り値として k1 に受け取る.
'変数 k2 では,シミュレーション時間 t に del_t/2 を足した値
'と,さきほどの水深 h1 に del_t*k1/2 を足した値を「dhdt()」
'に手渡し,その時の dh/dt を返り値として k2 に受け取る.
'同様に変数 k3 では,シミュレーション時間 t に del_t/2 を足
'した値と,水深 h1 に del_t*k2/2 を足した値を「dhdt()」に手渡
'し,その時の dh/dt を返り値として k3 に受け取る.
'変数 k4 では,シミュレーション時間 t に del_t を足した
'値と,水深 h1 に del_t*k3 を足した値を「dhdt()」に手渡し,そ
'の時の dh/dt を返り値として k4 に受け取る.
'最後にルンゲ・クッタ法の仕上げとして,上記のようにして得
'られた変数 k1,k2,k3,k4 から,その平均を 1:2:2:1 の重み
'で求め,重み平均に del_t をかけた値を,そのシミュレーショ
'ンステップ内での h1 の変化量として,前ステップの h1 に加え,
'その結果を新たな h1 とする.
Cells(6, 1) = t
Cells(6, 2) = h1
UserForm1.Show
'「UserForm1」に定義されたダイアログボックスを画面に表示
'せよと命令している.
'更新された t と h1 を,シートのセル A6 と B6 にそれぞれ表示
'する.
qin = UserForm1.TextBox1
del_t = UserForm1.TextBox2
t_end = UserForm1.TextBox3
alpha = UserForm1.TextBox4
h1 = UserForm1.TextBox5
ActiveSheet.Calculate
'ワークシート上のグラフを描き直す.
If t > 0 And (h1 <= 0 Or h1 >= 1) Then Exit For
'ダイアログボックスに打ち込まれた数値をプログラム内のパ
'ラメータとして取り込む.
'もし(If)t が 0 より大きく(t>0),かつ h1 が 0 以下(h1<=0)(浴
'槽から水がなくなる)かあるいは(Or)h1 が 1 以上(h1>=1)(浴槽
'から水があふれるよう)であれば(Then),For...Next ステート
'メントを抜ける(Exit For).
t=0
'シミュレーション・クロックを 0 に初期化する.
Next i
Cells(6, 1) = t
Cells(6, 2) = h1
'次の i で For...Next ステートメントを繰り返す.
MsgBox ("シミュレーション終了")
'現在アクティブなシートのセル(6 行 1 列目つまり A6)に変数 t
'の値を,セル(6 行 2 列目つまり B6)に h1 の値を表示する.
'「シミュレーション終了」のメッセージボックスを画面に表示させる.
If MsgBox(Prompt:="Ready?", Buttons:=vbOKCancel) <>
_ vbOK Then Exit Sub
End Sub
'「Sub_RKM」という Sub プロシージャの終わり.
'MsgBox(メッセージボックス)関数を続く()の条件で画面表示
'し,もし(If)それに対する回答が O.K.ボタン(vbOK)以外(<>)
'なら (Then),この Sub プロシージャを終了する.ちなみに
' MsgBox 関数の表示条件は Prompt 文が”Ready?”で,ボタンが
'「O.K.」と「Cancel」である(先に示したメッセージボックスを見
'よ).
Function dhdt(t As Double, h1 As Double) As Double
'「dhdt」という Function プロシージャの定義開始
If h1 < 0 Then h1 = 0
'さて以下の For...Next ステートメントの中がこのプログラム
'の核心部,ルンゲ・クッタ法による微分方程式の数値計算であ
'る.
'もし(If)h1 が 0 より小さい(h1<0)場合(Then)は,h1 を 0 と置
'く.
For i = 1 To t_end / del_t
dhdt = qin - alpha * h1 ^ (1 / 2)
'問題の微分方程式(dh/dt)の値を与えられた条件で計算して返
'す.
'以下の Next 行までの計算を 1 から,シミュレーション時間
't_end をタイムステップ del_t で割った回数だけ繰り返す.
- 40 -
環境シミュレーション
End Function
選択する.カーソルが「+」字に変わるので,フ
ォーム上でこれをドラッグして,コントロール
の配置場所とサイズを確定する.
ユーザフォームの作成方法
サンプルプログラムではシミュレーションをス
タートさせると,下図のようなダイアログボックス
(ユーザフォーム)が現れ,ここでさまざまなシミ
ュレーション条件を設定変更できるようになって
いた.
コントロールボタンの内容
[ツールボックス]にはさまざまなタイプのコントロ
ールボタンが用意されている.しかし,本授業で使
用する以下の 3 つのボタンのみである.ここでは,
それらのボタンのみについて紹介し,それ以外のボ
タンについては説明を省略する.興味のある者は,
オンラインヘルプなどで調べてほしい.
以下,Excel VBA におけるダイアログボックス
(ユーザフォーム)の作成方法を簡単に説明してお
く.
ユーザフォームの作成には先ず,[ユーザフォー
ム]シートが必要である.新規にこのシートを挿入す
るには[標準モジュール]と同様に,[Visual Basic
Editor]の[挿入]から[ユーザフォーム]を選ぶ.する
と下図のような新規の[ユーザフォーム]シートが現
れる.プロシージャと異なり,一つの[ユーザフォー
ム]シートに定義できるダイアログボックスは一つ
きりである.
1. [ラベル]:フォーム上に文字列を書き込むため
のコントロール.
2. [テキストボックス]:文字列,数値などを入力
するためのコントロール.ちなみにここに入っ
た値を VBA では,「UserForm1.TextBox1」の
ように参照する.
3. [コマンドボタン]:マクロ実行のボタンコント
ロール.
[テキストボッ
クス]で定義し
た入力ボックス
[ラベル]で書き込んだ文字列
上図のように[ユーザフォーム]シートで定義でき
るダイアログボックスはユーザが自由に作成・編集
できることからユーザフォームと呼ばれ,VBA の
定義済みのダイアログボックス(例えば,MsgBox
関数によるメッセージボックスなど)と区別される.
ちなみに 1 変数だけの入力を求めるのなら
「InputBox」コマンドが簡単で便利である.
この画面では,ダイアログボックスのタイトルや
サイズを変更したり,希望のボタン(正確にはコント
ロールと呼ぶ)をボックス上に配置したりすること
ができる.
1.タイトルの変更:ボックスのタイトルバーの見
出しを変更するためには,フォーム上部の文字
列(初期状態では「UserForm1」となっている)
を選択して,新しい名前に書き換える.
2.サイズの変更:フォームの端をクリックすると,
「Ⅱ」印のハンドルと呼ばれるものが四隅と四
辺上に現れるので,これをフォームが適当な大
きさになるまでドラッグする.
3.コントロールの配置:[ツールボックス]からフ
ォーム上に配置したいボタン(コントロール)を
コマンドボタンの設定方法
1) [ツールボックス]から[コマンドボタン]を選択.
「+」カーソルをドラッグしてダイアログボック
ス上に適当な大きさのコマンドボタンを作成す
る.
2) ボタン上の文字列「CommandButton1」をクリ
ックして,これを「OK」と書き換える.書き換
えたら,ダイアログボックスの他の場所をクリッ
クして編集から抜ける.
3) 「OK」と書き換えたボタンを右クリックして,
ドロップダウンメニューから[コードの表示]を選
択する.すると次のような Private Sub プロシー
ジャが現われるので,間に「UserForm1.Hide」
を書き加え,「UserForm1」のアイコンをクリ
ックして,元のダイアログボックスのデザイン画
面に戻る.
Private Sub CommandButton1_Click()
UserForm1.Hide
End Sub
- 41 -
環境シミュレーション
ここで「UserForm1.Hide」は,同ボタンがクリ
ックされたときに,UserForm1 を隠せ(Hide)と
の意味である.
k 1 = f (t j , Y j ), k 2 = f (t j +
Δt
Δt
, Yj +
k 2 ), k 4 = f (t j + Δt , Y j + Δtk 3 )
2
2
1
1
{Y j +1 − Y j } = ( k 1 + 2 k 2 + 2 k 3 + k 4 )
6
Δt
k 3 = f (t j +
シミュレーション演習
出来上がったプログラムによって,以下のような
数値実験を行ってみよう.
ではなぜこのような差分方法(ルンゲ・クッタ法)
がオイラー法よりすぐれた O (( Δ t ) 4 ) の(累積打切り)
誤差をもつのであろうか?
1.給水流量 Qin [ m 3 / h] の変更:ダイアログボック
スで,排出流量速度係数 alpha = 0(排水口に栓
をした状態),時間 t = 0 での水深 h(0) = 0 とお
いて,給水流量 Qin にいろいろな値を入れ,給
水流量によって浴槽が満杯になる時間がどの
ように変わるかを見てみよう.
2.排出流量速度係数 α [m
52
Δt
Δt
, Yj +
k1 )
2
2
河川の自浄モデル dL / dt = − K L をもとに,ルン
ゲ・クッタ法の局所打切り誤差が O (( Δ t ) 5 ) (すなわち
累積打切り誤差が O (( Δ t ) 4 ) )になることを示そう.
まず,自浄モデルの解析解は L ( t ) = L ( 0 ) e − Kt であ
るから,時間 t = t + Δ t におけるテイラー展開は以下
のようになる.
h] の変更:ダイアロ
グボックスで,給水流量 Qin = 0(給水がない状
態),時間 t = 0 での水深 h(0) = 1(浴槽が満杯の
状態)とおいて,排出流量速度係数 alpha にい
ろいろな値を入れ,速度係数によって浴槽がか
らになる時間がどのように変わるかを見てみ
よう.
L (t + Δt ) = L (t ) +
+
3.栓をし忘れて浴槽に水を張りはじめた場合:デ
フォールト値のままでシミュレーションを行
い,本当に浴槽がいつまでたっても一杯になら
ないのか,浴槽の最高水位は理論値どおりかを
確認しよう.
Δ t ( 1)
( Δt ) 2 (2)
( Δ t ) 3 ( 3)
L (t ) +
L (t ) +
L (t )
1!
2!
3!
( Δt ) 4 (4)
L (t ) ⋅ ⋅ ⋅
4!
ここで,
L(1) (t ) = − KL(0)e − Kt = − KL(t )
L( 2 ) (t ) = − KL(1) (t ) = K 2 L(t )
L( 3) (t ) = K 2 L(1) (t ) = − K 3 L(t )
4.タイムステップ Δt [h] の変更:タイムステップ
del_t をいろいろ変えてみて,シミュレーショ
ンの実行速度への影響を見てみよう.
L( 4 ) (t ) = − K 3 L(1) (t ) = K 4 L(t )
より
Δt
(Δt ) 2
(K 2 )
(− K ) +
1!
2!
(Δt ) 4
(Δt ) 3
+
( K 4 ) ⋅ ⋅⋅)
(− K 3 ) +
3!
4!
L ( t + Δ t ) = L ( t )(1 +
参考書
「理工系の基礎数学-数値計算」高橋大輔著(岩波書
店)
次にルンゲ・クッタ法のアルゴリズムに従って演
算を行ってみる.
ルンゲ・クッタ法
ここでルンゲ・クッタ法について説明する.ルン
ゲ・クッタ法による差分方法は,オイラー法による
差分方法を
1
{Y j +1 − Y j } = f (t j , Y j )
Δt
とおけば(ここで Y j はステップ j 時点での差分解;
Y j +1 は次のステップ j+1 時点での差分解――すなわ
ち求めたい解,f (t j , Y j ) は時間 t j での与えられた微
分方程式の微分係数),以下のように表すことができ
る.
- 42 -
環境シミュレーション
f (t , L(t)) = − KL(t )
k1 = f (t , L(t)) = − KL(t )
Δt
Δt
Δt
, L(t) +
k1 ) = − K ( L(t) +
k1 )
2
2
2
Δt
Δt
(− KL(t ))
k1 = − KL(t) − K
= − KL(t) − K
2
2
Δt
= (− K + K 2 ) L(t )
2
Δt
Δt
Δt
k3 = f (t + , L(t ) +
k2 ) = − K ( L(t ) +
k2 )
2
2
2
Δt
Δt
Δt
k2 = − KL(t ) − K
(− K + K 2 ) L(t )
= − K L(t ) − K
2
2
2
2
t
(
t
)
Δ
Δ
) L(t )
= (− K + K 2
− K3
2
4
k4 = f (t + Δt , L(t) + Δtk3) = − K ( L(t) + Δtk3 )
k2 = f (t +
= − KL(t) − KΔtk3
(Δt )2
Δt
) L(t )
− K3
2
4
(Δt )2
(Δt )3
) L(t )
= (− K + K 2 Δt − K 3
+ K4
2
4
Δt
Δt
k1 = − K
L( t )
6
6
Δt
( Δt ) 2
2 Δt
) L(t )
k2 = ( − K
+ K2
6
3
6
2 Δt
Δt
( Δt ) 2
( Δt ) 3
+ K2
− K3
) L(t )
k3 = ( − K
6
3
6
12
= − KL(t) − KΔt (− K + K 2
( Δt ) 2
( Δt ) 3
( Δt ) 4
Δt
Δt
+ K2
− K3
+ K4
) L( t )
k4 = ( − K
6
6
6
12
24
Δt
( k1 + k2 + k3 + k4 )
L( t ) +
6
= L ( t )(1 +
+
(Δt ) 2
(Δt ) 3
Δt
(− K ) +
(K 2 ) +
(− K 3 )
1!
2!
3!
(Δt ) 4
( K 4 ))
4!
となり,確かにルンゲ・クッタ法の局所打切り誤差
は O (( Δ t ) 5 ) となる.
別の角度からルンゲ・クッタ法の局所打切り誤差
が O (( Δ t ) 5 ) となることを示そう.下の表は,5 つの
関数 f ( t ) = t , t 2 , t 3 , t 4 , t 5 について, f (1) の値を,初
期値 t = 0 , Δ t = 1 で,3 つの差分(オイラー,ホイン,
ルンゲ・クッタ)法で求めてみたものである.
表よりも,ルンゲ・クッタ法では f ( t ) = t ~ t 4 ま
で誤差なく計算できるが, f ( t ) = t 5 より高次な関
数ではエラーが生じることがわかる.すなわちこの
ことこそ,ルンゲ・クッタ法の局所打切り誤差が
O (( Δ t ) 5 ) となることと同値である.
- 43 -
環境シミュレーション
オイラー,ホイン,ルンゲ・クッタの比較
f (t )
t
t2
t3
t4
t5
f ′(t )
1
2t
3t 2
4t 3
5t 4
0 + 1 ⋅ (1) = 1
0 + 1 ⋅ (2 ⋅ 0 ) = 0
0 + 1 ⋅ (3 ⋅ 0 2 ) = 0
0 + 1 ⋅ (4 ⋅ 0 3 ) = 0
0 + 1 ⋅ (5 ⋅ 0 4 ) = 0
オイラー
ホイン
0 + 1⋅
1
(1 + 1) = 1
2
ルンゲ・クッタ
0 + 1⋅
1
{
6
1+1+
4 ⋅ (1)}
=1
0 + 1⋅
0 + 1⋅
0 + 1⋅
0 + 1⋅
1
( 2 ⋅ 0 + 2 ⋅ 1) = 1
2
1
3
( 3 ⋅ 0 + 3 ⋅ 1) =
2
2
1
4
( 4 ⋅ 0 + 4 ⋅ 1) =
2
2
1
5
( 4 ⋅ 0 + 5 ⋅ 1) =
2
2
0 + 1⋅
1
{
6
2 ⋅ 0 + 2 ⋅1 +
0 + 1⋅
1
{
6
3 ⋅ 0 2 + 3 ⋅1 2 +
0 + 1⋅
1
{
6
4 ⋅ 0 3 + 4 ⋅13 +
1
{
6
4
5 ⋅ 0 + 5 ⋅1 4 +
1
4 ⋅ ( 2 ⋅ ( ) )}
2
=1
1
4 ⋅ ( 3 ⋅ ( ) 2 )}
2
=1
1
4 ⋅ ( 4 ⋅ ( ) 3 )}
2
=1
1
4 ⋅ ( 5 ⋅ ( ) 4 )}
2
100
=
96
0 + 1⋅
最後に,Sub プロシージャを用いず,全てをワークシート上でシミュレーションするプログラム例を示し
ておく.
G3
=G2+$B$5/6*(H2+2*I2+2*J2+K2)
H3
=$B$1-$B$2*G3^(1/2)
I3
=$B$1-$B$2*(G3+$B$5*H3/2)^(1/2)
J3
=$B$1-$B$2*(G3+$B$5*I3/2)^(1/2)
K3
=$B$1-$B$2*(G3+$B$5*J3)^(1/2)
- 44 -
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