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主要国の対印投資の動向と今後のインド事業の展望

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主要国の対印投資の動向と今後のインド事業の展望
平成 17 年(2005 年)11 月 16 日
NO.15
主要国の対印投資の動向と今後のインド事業の展望
近年、インドの対内直接投資が緩やかながらも拡大傾向をみせており、日本企業の
今後の有望投資先としての位置づけも年々高まりつつある。もっとも、対外開放の歴
史は 10 年余と短く、主要国の対外投資における実績はまだ低い水準にとどまってい
る。以下では、インドの直接投資受入れの状況について、主要投資国の特徴を中心に
分析したうえで、今後のインド事業の展望とポイントなどについてまとめてみたい。
1. 直接投資受入れ動向
(1)投資の現状∼2 年連続で過去最高を更新
インドへの外国直接投資は、1991 年の経済自由化への転換を契機に拡大し、90 年
代後半は核実験に対する経済制裁措置などを背景に低迷したものの、ここ数年は再び
拡大基調で推移している。2004 年は前年比 25%増の 53 億ドルと 2 年連続で過去最高
を更新した(第 1 図)。中国の 606 億ドルに比べると 10 分の 1 に満たないものの、ア
ジア(日本を除く)では、中国、香港(340 億ドル)、シンガポール(161 億ドル)、
韓国(77 億ドル)に次ぐ第 5 位の投資受入国となった(第 2 図)。
第 1 図:インドの直接投資受入額
第 2 図:アジア主要国の直接投資受入額
(100万ドル)
6,000
中国
香港
シンガポール
韓国
インド
マレーシア
台湾
インドネシア
タイ
ベトナム
フィリピン
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04
(資料)UNCTAD資料より東京三菱銀行調査室作成
03
04
(100万ドル)
0
10,000 20,000 30,000 40,000 50,000 60,000 70,000
(資料)UNCTAD資料より東京三菱銀行調査室作成
1
投資国別にみると、モーリシャス、米国、オランダ、日本、英国の上位 5 カ国で全
体の約 6 割強を占める(第 1 表)
(注)
。業種別では、電子(機器及びソフトウェア)
、
輸送機器、通信、サービス、エネルギーなどが全体の 4 割強を占める(第 2 表)。近
年、投資上位国に大きな変動はみられないものの、投資の中核分野は、従来の通信や
エネルギーなどのインフラ部門から、近年は、電子、輸送機械などの製造業に移って
いるほか、薬品・医薬品やコンサルタント・サービスなどへの投資の伸びも目立つ。
輸送機器については、2002 年に「自動車政策」の廃止により、外資系自動車メーカー
に対する最低出資額や現地調達率(5 年以内に 70%の国内部品調達率の達成)の義務
や輸出入均衡(輸出義務達成度に応じた輸入部品の輸入量規制)などの規制がなくな
ったことも追い風となり、各外資系の組立あるいは部品メーカーが、国内市場の拡大
や今後の成長性を睨んだ新規あるいは事業拡大の投資を活発化させている。
(注)モーリシャスは、インドとの二重課税防止条約により、10%以上の出資比率で投資を行う場合は配当税率
が 5%に軽減されるため、欧米企業が同国に持ち株会社を設立してタックスヘイブンとして活用する迂回投資の事
例が多い。また、オランダは、海外現法からの配当は非課税扱いのため、インド現法をオランダ持ち株会社の子
会社にするケースが多い。
第 1 表:インドの投資受入額(国別)
(100万ルピー)
累計
2005
シェア
(1-6月) シェア
(%)
(%)
1 モーリシャス
46,162
36,282
45.0 416,530
29.3
2 米国
29,792
11,625
14.4 192,106
13.5
3 オランダ
22,779
2,764
3.4
82,164
5.8
2,334
2.9
81,336
5.7
4 日本
5,337
5 英国
6,585
1,847
2.3
71,983
5.1
6 ドイツ
7,275
1,888
2.3
52,630
3.7
6,876
8.5
32,689
2.3
7 シンガポール
2,855
8 フランス
5,289
1,005
1.2
32,244
2.3
9 韓国
1,227
405
0.5
26,461
1.9
10 スイス
3,137
1,986
2.5
23,533
1.7
その他
42,226
13,691
17.0 407,956
28.7
合計
172,665
80,704 100.0 1,419,633 100.0
(注)累計は情報公開を始めた1991年8月から2005年6月まで。
(資料)インド商工省資料より東京三菱銀行調査室作成
2004
(通年)
2
第 2 表:インドの投資受入額(業種別)
(100万ルピー)
累計
2005年
構成比
(1-6月) 構成比
(%)
(%)
1 電子(機器およびソフトウェア)
39,667
12,231
12.4
15.2 176,357
2 輸送機器
8,064
3,369
8.8
4.2 125,330
3 通信
6,088
1,316
8.0
1.6 113,671
4 サービス
11,456
18,438
7.7
22.8 109,736
5 エネルギー(電力・石油精製)
7,160
1,716
7.5
2.1 106,057
6 化学(除く肥料)
8,677
3,634
69,153
4.9
4.5
7 食品加工業
3,690
1,738
46,733
3.3
2.2
8 薬品・医薬品
15,711
313
35,712
2.5
0.4
9 セメント・石膏
7
18,474
31,088
2.2
22.9
10 冶金
8,584
1,887
22,516
1.6
2.3
11 コンサルタント・サービス
11,844
1,074
19,753
1.4
1.3
その他機械・エンジニアリング
12
717
797
17,850
1.3
1.0
その他
51,001
15,717
38.4
19.5 545,678
合計
172,665
80,704 100.0 1,419,634
100.0
(注)累計は情報公開を始めた1991年8月から2005年6月まで。
(資料)インド商工省資料より東京三菱銀行調査室作成
2004年
(通年)
(2)今後の投資期待分野
今後、投資の拡大が期待される分野としては、すでに投資が活発化している情報通
信関連や輸送機械関連のほか、鉄鋼、製薬などがあげられる。
鉄鋼については、経済成長に加え政府が進めるインフラ整備に伴い国内での鋼材需
要が増大しつつある。こうした需要増加と世界第 8 位の埋蔵量を誇るインドの鉄鉱石
資源を確保する狙いなどから、今年に入り、韓国の鉄鋼大手ポスコが東部オリッサ州、
鉄鋼世界大手ミッタル・スチール(オランダ)も隣接する東部ジャルカンド州にそれ
ぞれ総投資額 5,100 億ルピー(約 120 億ドル)、総投資額 4,000 億ルピー(約 93 億ド
ル)といずれも過去最大規模の投資計画を相次いで発表するなど、同分野への投資が
活発化しつつある。新日本製鉄も、インド鉄鋼大手タタ・スチールがオリッサ州で進
める一貫製鉄所建設への技術協力計画を発表している。
製薬業については、化学系の知識を持ち、かつ低コストの人材が豊富であることに
加え、期間 7 年の「製法特許」のみを保護する特許法の存在により、これまで製法の
みを変えた医薬品や、特許期間満了後のいわゆるジェネリック医薬品を安く生産、輸
出する拠点としての比較優位性を発揮してきた。既に主な欧米系多国籍企業がインド
に進出し、生産量で世界第 4 位、生産額では世界第 13 位に位置している。しかし、
2005 年 1 月に特許制度が製法特許から物質特許に変わり、最終製品そのものに対する
開発側の権利が保護されることになったため、今後は、低価格生産拠点としてばかり
でなく、研究開発拠点としてのインドの活用の拡大など投資分野の高度化に期待が高
まっている。
3
2. 主要国の対印投資の特徴
インドへの投資受入額は徐々に拡大傾向にあるが、主要国の対外投資全体の中でみ
ると、投資実績は依然小規模にとどまっている。これは、多くの企業は 1991 年の経
済自由化後に新規進出、あるいは既進出合弁企業に対する追加出資によりインド事業
を本格化してきているが、インドの規制緩和のテンポが極めて緩やかだったことや、
インフラの未整備など投資環境上の問題などから、投資拡大が慎重に行なわれてきた
ことが背景にあるとみられる。
以下では、主な投資国の対印投資の特徴について詳しく分析してみたい。
(1)日本∼輸送機を中心に国内販売向け投資が中心
現状、日本から対印直接投資は、累積投資額(約 2,735 億円)で対外投資全体の 0.4%
と、中国向け(4.6%)に比べて極めて低い水準にあり、進出企業数は、中国の約 5,000
社に対し、インドは約 300 社と慎重な動きにとどまっている(第 3 図)(注)。
業種別にみると、輸送機が全体の 38%を占めるほか、化学、電気、機械など製造業
が全体の 8 割を占める(第 4 図)。また、進出企業の輸出比率(売上高に占める輸出
の比率が 70%以上の企業の割合)が 8.4%と他のアジア諸国と比べて低水準であるこ
とから(第 5 図)、進出の主たる目的は現地市場での販売にある様子が窺える。最近
の動きとしては、引き続き二輪・四輪関連の投資が目立つとともに、機械、製薬など
のインド事業強化の動きも活発化しつつある(第 3 表)。
(注)累積投資額は 1991∼2004 年度の合計。進出日系企業数は、2004 年 11 月現在の日本側出資比率 10%以上の
現地法人と海外支店・事務所の合計。
第 3 図:日系企業のアジア主要国への進出動向 第 4 図:日本の業種別対印直接投資
中国
タイ
香港
シンガポール
台湾
マレーシア
インドネシア
韓国
フィリピン
ベトナム
インド
その他
商業 11%
3%
サービス業
5%
金融・保険
4%
現地法人数
-
1,000
2,000
3,000
その他
製造業
16%
海外支店・事務所数
4,000
5,000
輸送機
38%
6,000
(注)2004年11月時点。日系現地法人は日本側出資比率(現地法人経由
も含む)の合計が10%未満を除く。
(資料)東洋経済「海外進出企業総覧」より東京三菱銀行調査室作成
4
機械
4% 電機
8%
化学
11%
(注)届出ベース、1990∼2004年度の累積投資額。
(資料)財務省資料より東京三菱銀行調査室作成
第 5 図:各国進出日系企業に占める輸出比率が 70%以上の企業の割合
シンガポール
フィリピン
ベトナム
マレーシア
香港
中国
韓国
インドネシア
タイ
台湾
インド
0
10
20
30
40
50
60
70
(%)
(注)売上高に占める輸出の比率。ASEAN各国とインドは2005年
2月時点、中国は2004年3月時点、その他は2004年1月時点。
(資料)JETRO資料より東京三菱銀行調査室作成
第 3 表:最近の日系企業のインド事業強化の動き
企業名
トヨタ自動車
内容
子会社のダイハツ工業と共同で小型乗用車の新工場を建設、2007年に生産開始予定
ホンダ
インド合弁会社ヒーロー・ホンダのオートバイの生産・販売規模の拡大に向け、第3工場の建
設する計画。販売店も現在の約590から来年3月までに690に拡大
スズキ
2005年末からインドで二輪車の現地生産を開始するために工場を建設
日産自動車
2月にムンバイに販売子会社設立
小糸製作所
インド拠点(IJL)を通じ自動車照明機器の第二工場を建設する予定
コマツ
鉄鉱石運搬に使う大型ダンプトラックを生産するため2つ目の生産拠点をチェンナイに建設
ファナック
インド子会社ファナックインディアで工作機械用の数値制御(NC)システムの現地生産を
拡大(2006年までに現在の約2倍)、保守管理サービス拠点を年内に4カ所新設
横川電機
プラント制御システムの設計エンジニアを増員
千代田化工建設
プラント設計のコスト削減のため、バローダの合弁でエンジニアを増員
東洋エンジニアリング ムンバイに現地法人、プラント設計の受注拡大に対応し、エンジニアを増員
アンリツ
8月1日にバンガロールに駐在員事務所を開設、携帯電話機向け測定器の需要増に対応
NEC
6月にIT大手のHCLテクノロジーズと合弁会社を設立、通信ソフトなどを開発
沖電気工業
バンガロールに半導体事業のマーケティング拠点を開設、7月に業務開始
京セラ
2005年度中に携帯電話機の研究開発拠点の従業員を500人体制に
日立製作所
インドのIT大手サティアムおよびインテリグループ(米国に本社を置くインド系企業)と業
務提携。バンガロールとハイデラバードにオフィスを開設、ソフトウェア開発や保守サービ
スなど受託事業を強化
現地メーカーとのエアコン合弁会社を03年に子会社化したのに続き、三大都市を中心に高所
得者層を顧客とする約50の販売店を開設。2006年3月をめどとした本格参入を視野にタイの
工場で製造・輸入した冷蔵庫と洗濯機のテスト販売を開始
三菱重工業
2月にニューデリーに現地法人を設立。ガスタービンや工作機械など市場開拓
三共
現地合弁企業(ユニ三共)がスウェーデンのバイオガイアとインドでの栄養補助食品の製造
販売契約を締結
エーザイ
ジュビラント・バイオシス(バンガロール)から医薬データベースのライセンスを取得、英
グラクソ・スミスクラインとも提携し、エーザイの抗潰瘍剤をインドで販売
ヤクルト本社
仏食品大手ダノンと共同で2005年中に販売会社を設立する計画
味の素
コルカタの製薬会社アルバート・デビットとアミノ酸製品の生産技術供与と製品の販売権供
与で業務提携
(資料)各種報道等より東京三菱銀行調査室作成
5
(2)米国∼公益分野の大型投資やサービス分野でのインド活用が中心
米国は、インドにとって最大の投資国受入国であるが、多くの企業は、日本と同様、
経済自由化後の 90 年代に投資が本格化しており、
なかには IBM やコカ・コーラなど、
政府の外資規制などを背景に 1970 年代に一旦撤退した企業が 90 年代に再進出したケ
ースもみられる。米国の対外投資(ストック・ベース、2004 年末時点)に占めるイン
ドのシェアは 0.3%程度、在インド米国商工会議所の会員数は約 320 と日系企業の投
資実績と大差ない状況となっている。
業種別にみると、公益事業への投資が全体の 15%を占める。これは、CMS ジェネ
レーションの石炭火力発電(95 億ルピー)やパブリック・パワー・インターナショナル
(114 億ルピー)など電力・通信分野を中心に 50 億∼100 億ルピー(約 1,000 億∼2,200
億ドル)規模の大型投資が多くなされてきたことが背景にある。製造業は、コカ・コ
ーラ(252 億ルピー)やペプシコ(57 億ルピー)など米系多国籍企業による大型投資
のほか、機械、化学等を中心に全体の 25%程度となっている。このほか専門サービス、
金融、情報通信などのサービス部門が全体の半分近くを占める。近年のソフトウェア
を含む IT 関連サービス(IT Enabled Service: ITES)およびビジネス・プロセス・アウト
ソーシング(BPO)の分野での投資の活発化が、同分野拡大の一因といえよう。BPO
の例としては、データ入力などやコールセンターなどの労働集約的なものから、金融・
会計処理、R&D など知識集約的なものにまで広範に及ぶ。インドは、低コストで英
語が通じる IT 技術者が豊富であることなどから、米国で活躍する印僑に対する高い
評価もあって、米系企業のインド活用が拡大する要因になっているとみられる。
第 6 図:米国の業種別対印直接投資
公益事業
14%
その他
13%
情報通信
3%
化学
7%
一般機械
8%
金融
9%
コンピューター・
電気製品
4%
卸売業
9%
専門サービス
12%
倉庫
14%
食品
1%
その他製造
業
6%
(資料)米国商務省より東京三菱銀行調査室作成
6
(3)英国∼食品加工、資源開発分野の大型投資が中心
英国は、かつてインドの宗主国であった関係から、HSBC(1853 年進出)やスタン
ダード・チャータード銀行(1858 年進出)
、BP(1919 年進出)など早くから進出して
いる企業もみられ、経済自由化以前は最大の投資国としての地位を維持していた。し
かし、自由化後は米国に比べて投資が伸び悩み、相対的に投資国としての存在感が低
下している。なお英国の対外投資先としては、欧州(65%)と米州(26%)だけで 9
割を占め、アジア向けは 5%程度と小さく、対印投資額(ストック・ベース、2003 年
末時点)は、対外直接投資全体の 0.2%程度にとどまっている。
業種別にみると、約 6 割が食品加工によって占められている。これは、ユニリバー
(Unilever PLC)が、古くからインド子会社 Hindustan Lever などを通じ紅茶など食品
加工分野で幅広い事業展開を手掛けていることなどが背景にあると考えられる。経済
自由化後は、92 年の両国のパートナーシップ協定締結(93 年発効)などを追い風に、
英 GE 社の電力事業(85 億ルピー)、ロイヤル・ダッチ・シェル社の LNG 事業(58
億ルピー)
、タージ・テレフォン&ケーブルの通信事業(340 億ルピー)など資源開発
分野での大型投資が目立っている。また、従来から Deliotte Touche Tohmatsu や
Pricewaterhouse Coopers など会計・法律事務所、コンサルティング企業などの事務所
が多く設置されていることも英国の対印投資の特徴となっており、さらに近年は、米
国と同様、金融機関や情報通信関連企業などによる ITES-BPO 関連の投資が増えてい
る。最近では、通信事業への外資出資比率規制が 49%から 74%に緩和されたことを
受けて、ボーダフォンが、インド携帯最大手ブハルティ・テレベンチャーズへの出資
(約 656 億ルピー)による通信分野としては過去最大規模の投資計画が発表されてい
る。
第 7 図:英国の業種別対印直接投資
運輸・通信
4%
金融サービス
3%
その他
非製造業
3%
その他
製造業
2%
鉱業(含む
石油・ガス)
5%
金属・機械
6%
繊維、木材、
印刷・出版
6%
食品加工
58%
石油化学
13%
(資料)英National Statisticsより東京三菱銀行調査室作成
7
(4)韓国∼後発ながらエレクトロニクス・自動車分野で積極投資
韓国企業の対印投資は、90 年代後半以降と、欧米や日本に比べて後発だが、対外投
資全体(累積ベース、申告基準、2004 年末時点)に占めるインドのシェアは 1.5%と
他の主要国に比べて大きい。もっとも韓国の投資先としては、中国向け(21.5%)が
最大で、インドは、アジアの中では、中国、香港、インドネシア、ベトナム、日本、
シンガポールに続く 7 位と低い水準にとどまっている。進出企業数(2004 年 10 月時
点)は、現地法人、リエゾン・オフィス(連絡事務所)等を含めて 136 件と、日米の
約半分程度にとどまっている。
韓国企業は、90 年代後半以降、製造業、なかでも電気・電子および自動車関連を中
心とした積極投資で存在感を高めてきた。代表的な企業として、現代自動車(1996
年設立、総投資額 6 億ドル)をはじめ、LG 電子(1997 年)、サムスン(1995 年 12 月
設立)などがいずれも 100%出資の現地子会社を設立し、現地 R&D 拠点における徹
底的な市場調査に基づく製品投入と、積極的な広告・宣伝活動の展開により、市場シ
ェア拡大に成功している。
3.今後の展望と成功例から得られる示唆
(1)今後のインド事業の展望
日系企業のアンケート調査結果によると、インド事業への関心は年々高まる傾向に
ある(第 4 表)。ただし、今後、インド事業において強化すべき分野として、生産機
能よりも販売機能をあげる企業が圧倒的に多く、今後のインド活用の方法としては、
必ずしも現地生産とは限らず、日本あるいは周辺アジア諸国からの輸入販売という選
択肢もありうることが分かる。近年、インドの貿易自由化や周辺アジア諸国との FTA
締結により関税率は低下傾向にあるため、業種によっては、現地生産よりも既にまと
まった生産を行なっている周辺アジア諸国の拠点からの輸入販売の方が合理的なケ
ースも想定される。実際、家電メーカーの中には、インド現地生産を中止し、FTA を
活用したタイからの輸入販売に切り替えているケースも出ている。
第 4 表:日系企業の中期的有望事業展開先
2000年度
2001年度
2002年度
2003年度
2004年度
2005年度
順位
1
中国
中国
中国
中国
中国
中国
2
米国
米国
タイ
タイ
タイ
インド
3
タイ
タイ
米国
米国
インド
タイ
4
インドネシア インドネシア インドネシア ベトナム
ベトナム
ベトナム
5
マレーシア インド
ベトナム
インド
米国
米国
6
台湾
ベトナム
インド
インドネシア ロシア
ロシア
7
インド
台湾
韓国
韓国
インドネシア 韓国
8
ベトナム
韓国
台湾
台湾
韓国
インドネシア
9
韓国
マレーシア マレーシア マレーシア 台湾
ブラジル
10 フィリピン シンガポール ブラジル
ロシア
マレーシア 台湾
(注)複数回答
(出所)国際協力銀行「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」各年
8
(2)成功例から得られる示唆
これまでのインド事例成功例から、インドでの製造あるいは販売拠点を設立するう
えで重要なポイントとしては、①100%出資または慎重な合弁パートナーの選定、②
現地スタッフの積極活用、③徹底した市場調査などがあげられる。
第一に経営形態としては、100%出資の重要性が指摘される。他のアジア諸国に比
べてインドの地場資本は経営に対する関心が非常に高く、日本流のやり方が尊重され
難い。このため、100%出資子会社あるいはできるだけ高い出資比率を確保すること
は、柔軟で迅速な意思決定と実行のために、重要なポイントとなる。日系を含め進出
企業のなかには、当初、技術提携または資本参加によりインドに進出後、既進出合弁
企業に対する追加出資や合弁相手からの株式買収などで段階的にマジョリティを獲
得しているケースが多い。韓国の LG についても、当初合弁でインド事業を開始した
が不振に終わり、100%出資子会社を設立した経緯がある。なお合弁の場合には、現
地企業のもつ技術や国内販売網などの点でメリットがあり、慎重なパートナーの選定
と良好な信頼関係の構築・維持が成功のポイントといえよう。この場合、現地化を推
進し、「経営権・技術面は日本、会社運営はインド」と役割分担を明確化することな
どが信頼関係の構築や効率的な会社運営にとって有効とされる。
第二に、100%出資、合弁いずれの場合でも、現地スタッフの積極活用が重要なポ
イントとなる。インドの場合、他のアジア諸国と比べて、事業の主たる目的が現地販
売にあり、かつ、国内競合が多い。従って、国内仕様・デザイン、国内広告、代金回
収などあらゆる面での現地スタッフの活用が、現地市場で受け入れられるためには欠
かせない条件の一つとなる。
第三に、徹底的な市場調査が重要である。インドでは、国内競合が強いことに加え、
マーケットが広く、かつ地域差も大きい。現地販売を行うためには、所得階層別や地
域別の嗜好の違いなど、徹底した市場調査に基づく市場ニーズを的確に捉えた製品投
入と、バランスのとれた価格設定が求められる。これまで、高品質・高機能の日本製
がインド国産の廉価品に苦戦を強いられたケースは多い。後発でありながら比較的短
時間で成功しているとみられる韓国の現代自動車などについても、1980 年代から徹底
した市場調査を行い、時宜を捉えた参入と製品投入により市場シェア拡大に成功した。
また、積極的な宣伝・広告活動は、韓国のサムスンの例にみるように、ブランドイメ
ージ構築を通じて市場に受け入れられるための有効な手段といえよう。
このほか、インドでは、インフラや税体系など投資環境に関わる様々問題や購買行
動の特徴など様々な要因から、他のアジア諸国に比べて、収益を確保できるまでに多
くの時間と労力を要するとされる。こうした点を踏まえたうえで、腰を据えた投資姿
勢が中長期的な成功につながるといえよう。
(H17.11.16 福地
9
亜希)
以 上
当資料は情報提供のみを目的として作成されたものであり、何らかの行動を勧誘するものではありません。ご利用に関しては、すべてお客様御
自身でご判断下さいますよう、宜しくお願い申し上げます。当資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、当室はその正
確性を保証するものではありません。内容は予告なしに変更することがありますので、予めご了承下さい。また、当資料は著作物であり、著作
権法により保護されております。全文または一部を転載する場合は出所を明記してください。
発行:株式会社 東京三菱銀行 調査室
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