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紙資源を考慮したペーパーレス行動∼IT 革命がもた らす「はず」の福音

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紙資源を考慮したペーパーレス行動∼IT 革命がもた らす「はず」の福音
紙資源を考慮したペーパーレス行動∼IT 革命がもたらす「はず」の福音∼の現状とあり方
紙資源を考慮したペーパーレス行動∼IT 革命がもた
らす「はず」の福音∼の現状とあり方
田中
貴秀
<目次>
1. はじめに
2. 急進的な IT の拡大と、環境問題への関連付け
2-1. IT−Wings の偏ったアピール
2-2. IT と環境問題
3. ペーパーレスへの期待の変遷
3-1. 手書き∼OA∼LAN∼環境対策の一環としてのペーパーレス
3-2. 「LAN=ペーパーレス」という勘違い
3-3. 情報用紙の需要拡大
3-4. 情報化によるペーパーレスへの取り組みとその問題
3-5. 近未来に望まれる中期的展望
4. 将来の完全に近いペーパーレスへの長期的展望 ∼欠点(対ペーパー)
の克服への道のり
環境と貿易に関する報告書
―student initiative による報告―
紙資源を考慮したペーパーレス行動∼IT 革命がもたらす「はず」の福音∼の現状とあり方
1.
はじめに
電気通信インフラがインターネットの登場で急速な発展をし始めたことは、幼いときか
ら通信に興味を持っていた私には、広く人と人との間のコミュニケーションを促進する存
在として、その貢献に大きな希望を持てるものであった。それまでも、短波帯でのアマチ
ュア無線による遠距離通信や、もちろん一般的な電話でも、国境を超える遠距離通信の手
段として存在してはいたが、資格やコストが「広く一般的な」通信手段として普及するこ
とを難しくさせ、新たなコミュニティの創造を行うには力不足な面も否めなかったゆえ、
インターネットの登場は新たな世界の創造を髣髴とさせる存在であった。
しかし、近年地球規模で抱える問題としての環境問題の大半は、産業革命以降の技術革
新と、それに伴うエネルギー消費の拡大であったことを考えると、このサイバーネットワ
ーク化をもろ手を挙げて喜ぶことができるものなのかという疑問が生じる。将来的に、持
続可能な社会の一部としてこのインターネットが社会に織り込まれていくのだろうか。あ
るいは、単に、資本主義上のグローバル社会における、資本を流すただのパイプに成り下
がってしまうのだろうか。
これまでの科学技術の発展に伴う社会の発展は、必ずそのカオスの拡大の一部としての
環境負荷の増大をもたらしてきており、その進行は加速してきている。たが、この地球環
境の危機的状況においては、社会変化と抱えるであろう問題を、早期段階で十分に見据え
た上での、予防的な社会変化を創造していく必要性が増してきているといえよう。
この観点から、IT に関しても、近未来予測を前提とした、明確なソル−ションの提示を
もって取り組む必要性が求められていると考え、本報告書では、序章として近年における
IT と地球環境問題の関連性を提示し、そのなかでも、情報機器がもたらすとされてきたペ
ーパーレス効果について検証することとした。
2.
急進的な IT の拡大と、環境問題への関連付け
2-1.
IT−Wings の偏ったアピール
日本が 90 年代「失われた 10 年」を経ているときに、「最も健全な 10 年」(New York
Times、99 年 11 月 28 日)を経験したアメリカの経済発展には IT 投資が大きく貢献してい
るといわれる。以降、IT 産業の発展とネットワーク拡大のなか、一般消費者向けには電子
メールと WWW 閲覧、ビジネス消費者向けには経営、マーケティングなどの領域で様々な
アプリケーションが、その効率性が評価され多く導入されてきている。
近年においては、高速・大容量の安定したネットワークインフラ利用を前提とした、よ
り多様なアプリケーションが実現しようとしている。遠隔医療、遠隔教育、あるいは後に
述べる仮想イントラネット(VPN: Virtual Private
Network)にもとづく多地点でセキ
ュアな LAN といった代表的なアプリケーションは、「物理的な場所の概念を越えて、現状
の効率化と、これまでできなかったことを実現する」という観点から提起されているもの
である。
環境と貿易に関する報告書
―student initiative による報告―
紙資源を考慮したペーパーレス行動∼IT 革命がもたらす「はず」の福音∼の現状とあり方
中でも、遠隔医療や遠隔教育、電子公共サービスといった公共性の高いアプリケーショ
ンの提示は、政府からも強くその可能性を実現すべく提案されているものである。これら
は、国内政策にとどまらず援助開発目的でもその可能性が、国際部門においても広く検討
されはじめている。(世界銀行報告、日本ギガビットネットワーク、他)
国内においても、特に 2000 年の沖縄サミットでの IT 憲章の採択以降、
「e-Japan 構想」
に見られるような行政の取り組みが激化している。同構想では 2005 年までに光ケーブルの
全上分岐点までの設置を計画しているが、これはかつて日本政府が「日本全国どこでも 1
時間でインターチェンジに乗れる」高速道路建設を展開してきた流れを髣髴させるもので
ある。これは、高速道路が高速ネットワークインフラ=光ケーブル、人・物の流れがパケ
ットの流れにそのまま置き換えられたような「非物質化」概念に強く基づいているものと
考えられる。
このような傾向の中、「IT 革命」の言葉にも包含される「IT 社会」への過剰な期待が、
特に社会学的アプローチを欠いた楽観的すぎる、あるいは現状の加速しつづけている変化
に追随していない現状予測を生み出していることも事実である。
「2005 年に向けた超高速ネ
ットワーク整備指標」
(21 世紀における情報通信ネットワーク整備に関する懇談会、総務省)
においては、
2005 年までには月額 6000 円程度で 10Mbps 程度のネットワークが提供され、
そのなかでバーチャル旅行・在宅プロダクション・五感バーチャルリアリティが実現され
うるとあるが、現状の法制度の変遷、ネットワークおよび端末以外の科学技術の変遷およ
び予測をかんがみれば、ただの夢物語としかいいようがない。
また、現在大きく展開しつつある DSL ベースで実現可能なサービスとして電子申請を含
む行政サービスを挙げているが、従来型の行政サービスに適応している認証制度をはじめ
とした制度上の変化がほとんど見られていない。この変化には、一定のセキュリティの確
保が最重要となるが、政府関連ネットワークのネットワークの脆弱性は、最近のウィルス
被害が省庁に多く発生している現状に見られるように、依然として非常に大きいものであ
る。
IT 革命への過剰な期待は、国内の行政においては、各省庁の予算獲得競争がその引き金
になっている面が非常に強い。この傾向は、IT 産業界においてはさらに強く見られるもの
である。
2-2.
IT と環境問題
この強い期待は、当初の効率化目的から、近年において最も重要な政策課題の一つとな
ってきた環境問題にも広がってきている。大きな視点で例示すると、人の移動は遠隔会議
に大半を取って代わられる可能性や、企業内ネットワークの効率化による消費資源削減な
どである。
NTT グループは、その環境への取り組みの中で、「IT 革命が環境保全に役立つのではな
いかと考えます」としている(http://www.ntt.co.jp/kankyo/2001report/、NTT グループウ
環境と貿易に関する報告書
―student initiative による報告―
紙資源を考慮したペーパーレス行動∼IT 革命がもたらす「はず」の福音∼の現状とあり方
ェブサイト)
。これは、IT がもたらす大きな変化として、人・物の移動が少なくなること、
空間を効率的に利用できるようになること、ものを電子化して利用できる(非物質化)の
三つを挙げている。
これの大きなよりどころとなっているのが、アメリカの環境シンクタンク CECS(エネ
ル ギ ー・ 地球 気 候変 動解 決 セン ター ) の報 告書 ”The Internet Economy and Global
Warming”(CECS,1999)である。この報告書は、前に述べた IT 投資の増加した 90 年代
アメリカにおいて、一人あたり GDP あたりのエネルギー消費量(Energy Intensity)が
大きく減少している原因として、当時の IT 革命がその大きな原因の一つとして挙げられる
としている。
図1 日米のエネルギー消費と実質 GDP
図2 日米の一人あたり GDP あたりのエ
の関連
ネルギー消費量の比較
同報告書は大きく、建造物の非物質化(電子店舗・電子オフィス化)、製造部門での影響、
物流の非物質化の三点を挙げて、エネルギー消費削減にともなう温室効果ガス削減による
環境負荷軽減の可能性をいくつかの企業における例を踏まえながら広く示唆しているが、
インターネットとそのインフラ拡大にともなう重金属汚染や、インターネット(端末およ
びネットワークインフラ含む)単独で生み出すエネルギー消費の拡大といった環境負荷増
大の要素を十分考慮に入れておらず、その他の効率化に伴う弊害の予測を欠いている部分
も大きい。
図3 米国内におけるコンピュータによる電力消費
環境と貿易に関する報告書
―student initiative による報告―
紙資源を考慮したペーパーレス行動∼IT 革命がもたらす「はず」の福音∼の現状とあり方
(出典:http://fossilfuels.org/Electric/summary.htm)
エネルギー消費拡大については、消費者が単位時間あたりに消費できるメディア・情報は
限られており、今までのテレビや新聞を見たり、あるいはオフィスで働いたりする時間が
インターネット上の活動一つにとって変わられるだけだとしている。しかし、ネットワー
クの高速・大容量化の過渡期においては、インターネットが取って代われる部分は、その
サービスの拡大も含め時系列的に拡大していくものであり、他の物理的な移動を伴う活動
や、従来型のメディア利用と並存してしまう部分が非常に多い。国内での Windows95 出現
までの電力消費量内訳を見ると、動力が 75%、照明・コンセントが 25%の割合であった。
しかし、新築のビルでは動力 90%、照明・コンセント 30%、IT 関連 30%で、全体で 50%
増加(http://www5a.biglobe.ne.jp/~tokyomit/kankyou_it.htm)していることがわかる。こ
れらの事柄から、中期的にはこの並存効果による電力消費拡大はさけられないであろう。
(参考: The Center for energy and Climate Solutions, http://www.cool-companies.org/)
しかし、長期的には、高速・大容量インフラと経済社会活動やライフスタイルの変化を
伴ってうまれうる各種アプリケーションによる環境負荷軽減は、大きく期待できる面もあ
る。「情報通信による地球環境保全のための政策提言」
(http://www.yusei.go.jp/policyreports/)の中では、それぞれのアプリケーションが、どの
ような変化をもたらし、CO2 排出削減効果をどれほど持つか試算されている。
表4
ネットワークシステムとその CO2 排出削減効果例
(塗りつぶし部分は特にペーパーレスに関する項目)
システムメニュ
ー
テレワーク
システムの概要
CO2 排出削減効果例
情報通信を利用し、通
通勤交通の代替、オフィス
勤等を排除し効率的な
ビル増築の削除、都市の分
ワークスタイルを形成
散
関連エネルギー
消費部門
運輸・民生
するシステム
ITS
運輸
高度なナビゲーション
交通流の円滑化による渋滞
等の高度な交通システ
の解消
ム
LANシステム 産業・運輸
・民生
オフィスや工場内に分
伝票・帳票類等の紙の削減
散しているコンピュー
、紙廃棄物の削減
タ等を接続する情報通
環境と貿易に関する報告書
―student initiative による報告―
紙資源を考慮したペーパーレス行動∼IT 革命がもたらす「はず」の福音∼の現状とあり方
信システム
電子メールシス
テ
ム等インターネ
運輸・民生
ッ
通信回線を通じ、コン
業務交通の代替、無駄な紙
ピュータリーダブル情
使用の削減、都市の分散化
報をやりとりするシス
ト・アプリケー
テム
シ
ョン
ビル管理情報シ 民生
高度情報通信によって
業務環境の効率化による省
ス
、オフィス環境を自動
エネルギー効果
テム
制御するシステム
電子出版・電子
新
聞
産業・運輸
CD-ROM 等の電子媒体 紙使用(製造・流通)の削
・民生
により、雑誌、書籍、新 減、紙廃棄物の削減
聞等を出版するシステ
ム
遠隔教育・在宅
教
運輸・民生
育システム
過疎地等の教育機関
通学交通の代替、学校設備
(分校等)の充実、社
の効率化
会人や中退者等の教育
のためのシステム
CALS/ED
I
産業・運輸
電子データの活用によ
製造段階でのペーパーレス
・民生
り、製造・流通・消費
化、流通・消費段階での効
といった経済活動を効
率化
率化するシステム
遠隔生産管理
廃棄物・リサイ
ク
ル情報システム
遠隔地から工場での生
無駄な生産の削減、オペレ
産を制御するシステム
ータ移動の代替
産業・運輸
廃棄物の管理や、リサ
リサイクルの効率化
・民生
イクル情報の発信を行
産業・運輸
共同輸配送シス 運輸
うシステム
統合納品や混載など、
貨物車の交通量の減少
環境と貿易に関する報告書
―student initiative による報告―
紙資源を考慮したペーパーレス行動∼IT 革命がもたらす「はず」の福音∼の現状とあり方
テ
効率化による積載率向
ム
上のためのシステム
遠隔検針システ
ム
運輸
電気・ガス・水道等の
職員訪問の省力化、移動の
メータを情報通信を用
代替
い自動的に検針するシ
ステム
自販機POSシ
ス
運輸
自販機の中身の情報を
輸送車の無駄な走行の削除
各営業所に発信し、適
テム
切な補充を行うための
システム
TV会議システ
ム
運輸・民生
企業の拠点を通信回線
出張・業務交通の代替
で結び、会議を行うた
めのシステム
電子窓口
運輸・民生
行政手続きのための窓
行政機関までの交通の代替
口を近隣に配置し、利
、ペーパーレス化による紙
用しやすくするための
使用の削減
システム
遠隔医療・在宅
医
運輸・民生
専門医の足りない地域
通院・往診交通の代替
での検診、高齢者や動
療
きの取れない病人への
検診のためのシステム
オンラインショ
ッ
運輸・民生
ピング
インターネット等によ
買い物交通の代替、通販カ
り、自宅にいながら、
タログ等の紙使用の削減
海外を含む様々な店で
様々な製品を購入でき
るシステム
オンライン予約 運輸・民生
インターネット等によ
予約のための移動の代替、
り、自宅にいながら乗
結果として無駄な移動の削
環境と貿易に関する報告書
―student initiative による報告―
紙資源を考慮したペーパーレス行動∼IT 革命がもたらす「はず」の福音∼の現状とあり方
り物、演劇、コンサー
減
ト等のチケットを予約
できるシステム
電子決済システ
ム
運輸・民生
オンラインショッピン
決済のための金融機関まで
グ等の小口決算や電子
の移動の代替
マネーによる決済等を
可能にするシステム
バーチャル・エ
ン
運輸・民生
タテイメント
仮想空間等を用いて、
レクリエーション移動の代
あたかも実体験をした
替
ように思わせるシステ
ム
電子モール
運輸・民生
実際の店舗を使用せず
店舗維持・増設の削減、在
商品を販売するシステ
庫置き場維持・増設の削減
ム
電子図書館
民生
図書館にある蔵書を電
図書館への移動の代替、図
子化し、各家庭で閲覧
書整理、維持のためのエネ
できるようにするシス
ルギー削減
テム
エネルギー需給
管
民生
理システム
表5
地域のエネルギー需給
エネルギーの平準化、需給
を管理するためのシス
の最適化
試算結果(平成22年(2010 年)の CO2 削減量)の概要
シ
ス
テ
ム
名
CO2削減量(炭素換算)
テレワーク
129万トン
ITS
110万トン
LANによる紙の削減
53万トン
インターネット等
50万トン
ビル管理情報システム
36万トン
電子出版・電子新聞
25万トン
環境と貿易に関する報告書
―student initiative による報告―
紙資源を考慮したペーパーレス行動∼IT 革命がもたらす「はず」の福音∼の現状とあり方
遠隔教育・在宅教育システム
削
減
量
合
計
3万トン
406万トン
(出典:http://www.yusei.go.jp/policyreports/)
このように、IT と地球温暖化問題をふくむ環境問題との関連性についての研究は、あら
ゆるセクターですすんでいる。しかし、アプリケーションごとにエネルギー消費を追跡し
て評価していかなければならないこの取り組みはまだ始まったばかりで、予測可能性の実
現に困難も少なくない。
中でも、情報機器と LAN 活用によるペーパーレス化が与える紙資源削減は、最も大きな
ものの一つとして、さまざまなセクターから大きく期待されている。
(上表中の塗りつぶし
部分はペーパーレスに関連している事項を示す。)本報告書では、さらにこのペーパーレス
化の取り組みと現状、課題と展望について掘り下げていく。
3.
ペーパーレスへの期待の変遷
3-1.
手書き∼OA∼LAN∼環境対策の一環としてのペーパーレス
ペーパーレスという言葉が広がり始めたのは 80 年代であるが、その当時ではワープロの
普及によるオフィスの OA 化が始まり、書類を電子保管する動きが始まった。90 年代には
インターネットの急速な普及に伴い、ネットワーク化が急速に進行し、95 年の Windows3.1
登場以来その動きは、統一されたプラットフォームの利点を生かした形で広まっていった。
98 年には「電子帳簿法」制定により、国税関係の書類を電子保存することが認められた。
(行政の動きについては、http://www.amy.hi-ho.ne.jp/kido/gyousei.htm でその経緯が概観
できる。)近年においては、企業内 LAN の急速な広がりの中で、書類が特に作成過程で電
子化されることが一般的になってきている。
OA 化のみの段階では、主に内部の作業効率を上げるために導入されていったが、ネット
ワーク化の段階では、企業活動の形態全体を効率化するために導入された経緯がある。大
きな特徴としては、内部業務の効率化、情報伝達の効率化・非物質化などによる労働削減、
及びネットワークを活用した市場規模拡大などが挙げられる。
そして、近年の環境重視志向の潮流の中で、ペーパーレスは、業務の煩雑さを取り除く
ツールとしてのみではなく、環境対策として紙を減らすことに、古紙回収対策と共にその
重点がおかれてきた。
3-2.
「LAN=ペーパーレス」という勘違い
例えば、光ファイリングの導入でペーパーレス、電子掲示板を活用して回覧書類の削減
などによる効果が期待された。しかし、実際は紙が完全に電子媒体に転化されることはな
く、紙の消費量が増加する結果を招くことも少なくなかった。
環境と貿易に関する報告書
―student initiative による報告―
紙資源を考慮したペーパーレス行動∼IT 革命がもたらす「はず」の福音∼の現状とあり方
東京都清掃局の分析によれば、ゴミ排出全体の 64%はオフィス、商店などから排出され
る事業系ごみで、OA 危機の普及にとって紙類の増加が目立っているという。オフィスビル
の集中する丸の内周辺から排出されるごみの約八割は紙類で、その大半は OA 用紙だとい
う統計が出ている。
(『地球環境白書∼今「ゴミ」が危ない、UTAN「驚異の科学シリーズ』)
その原因には、次のようなものが挙げられる。
1.ワープロで作った文書は、画面だけではレイアウトが確認しにくいため、何度も印刷・
修正を繰り返す。
2.電子メールや電子掲示板の文書を、画面ではなく、必ず印刷して読む。
3.情報を収集、整理する場合、入手できる情報量は激増しており、これらを印刷・コピ
ーして手元に置くため、紙の書類もこれに応じて増加。
4.コピーが手軽にでき、安易にコピーして配布する。
3-3.
情報用紙の需要拡大
このような現状のもと、情報機器の需要拡大はそのまま情報用紙の需要拡大につながっ
ている。
カナダの紙・パルプ製造の最大手ドムターで生産された高品質印刷用紙の生産量は需要
の急速な増加に伴い 2000 年で約 140 万トンにのぼった。これは、前年度比では 6.3%、5
年前の 1.8 倍の延びである。(朝日新聞、2001 年 6 月 1 日付)
下図は、97 年までの情報用紙と電子計算機の需要の相関を示したものである。
図7
情報用紙と電子計算機の出荷の推移
(出典:
http://www.amy.hi-ho.ne.jp/kido/kami.htm)
環境と貿易に関する報告書
―student initiative による報告―
紙資源を考慮したペーパーレス行動∼IT 革命がもたらす「はず」の福音∼の現状とあり方
また、とくに近年普及しているパソコン用機器と用紙も同様に消費が増加している。
図8
PPC 用複写機と PPC 用紙の出荷の推移
(出典:
http://www.amy.hi-ho.ne.jp/kido/kami.htm)
1999 年度の紙・板紙の生産量合計は 3,063 万トン。内訳は、紙 1,839 万トン(合計の 60%)、
板紙 1,224 万トン(40%)で、紙の占める割合が高い。これは 10 年前より 14.5%増、20
年前より 46%増。板紙は 10 年前より 9.4%増、20 年前より 36%増、と板紙より伸び率が
高い。
図9
紙・板紙の生産の推移
(出典:http://www.jca.ax.apc.org/jatan/woodchip-j/production.html)
環境と貿易に関する報告書
―student initiative による報告―
紙資源を考慮したペーパーレス行動∼IT 革命がもたらす「はず」の福音∼の現状とあり方
紙の生産量の内訳において印刷用紙を含めた印刷情報用紙が全体の 61%を占める。印刷
用紙はその中でも一番多い。
図10 紙の生産量の推移(品目別)
(出典:
図11 99年の紙生産量(品目別)
http://www.jca.ax.apc.org/jatan/woodchip-j/production.html)
この動きは、ペーパーレス対策に取り組む際に、経営の効率化と紙消費の削減を融合さ
せた対策を明確に取っていないことが原因と考えられる。
3-4.
情報化によるペーパーレスへの取り組みとその問題
情報化によるペーパーレスには、元来次のような利点が挙げられる。
1.作成プロセスでの紙減少
2.保管目的のもとの紙減少
3.交換目的のもとの紙・紙の流通減少
4.煩雑な運搬業務などの減少
ペーパーレスに取り組む側はこれらの利点を生かしながら、経営の効率化と紙資源削減
による経費削減と環境負荷軽減に努めようとしているが、これには次のような問題が生じ
てきたと考えられる。
1.
情報化(OA 化)のみに終始した結果、文書閲覧・校正・認証などのプロ
セスにおける印刷が増大した。
2.
結果的には紙で処理しなければならないような、書き込みを要する媒体
が、発信点では電子情報であるも、受信点では紙となってしまう「紙の分散化」
を考慮に入れない電子化、および、企業・組織・建屋内の目に見える範囲のみ
環境と貿易に関する報告書
―student initiative による報告―
紙資源を考慮したペーパーレス行動∼IT 革命がもたらす「はず」の福音∼の現状とあり方
でのペーパーレス化に終始していた。
3.
2.の受信側=末端側(社員・顧客)の消費コストを考慮に入れないコ
スト削減計算が優先された。
4.
「とにかく電子媒体で」的な対策が先行したため、紙と電子媒体の明確
な評価なしの対策が進行しつづけ、結果的に紙消費を増大させる結果となった。
5.
認証をあらゆるレベルで必要とする文書については、従来の印鑑による
認証がそのまま受け継がれたために、一旦電子化された文書が再び紙になるプ
ロセスを一定に持ってしまった。
6.
一定のセキュリティを必要とする文書については、ネットワークへの不
信から従来型の紙媒体による伝達が行われていた。
7.
電子ファイル化された文書を保管する際に、保存するフォーマットがソ
フトの向上や多様化にともない時系列的に変化してきており、一旦保存した情
報が一定期間後には閲覧できなくなるといった問題を引き起こしてきた。これ
は、記録媒体についても大型媒体についてはデファクトスタンダードが存在し
ないため、同様のことが言える。
3-5.
近未来に望まれる中期的展望
以上のことから、紙を可能な限り減らす、という意識的なアプローチのみでの体系だっ
ていないペーパーレス対策が生み出す問題は、認証を含むセキュリティの問題と、媒体と
しての紙と電子機器・ネットワークのそれぞれのもつ有用性と欠点を明確に評価していな
いことから生じるものであるということができる。
ここで、メディアとしての紙とディスプレイの再評価が必要となってくる。現時点では、
保管・伝送上のセキュリティを主眼にした紙媒体と電子媒体の使い分けの試みは一部では
じまっている。
(参考:http://www.moj.go.jp/PRESS/000323-1/000323-1.html) しかし、
これからはむしろ情報の取り扱いやすさという観点から再評価する必要がある。これには、
情報学的な見地からの考察と具体的な方針が必要とされてくる。(参考:「情報の探索から
利用における紙と電子媒体の違い」
http://www.slis.keio.ac.jp/~ueda/sotsuron99/kasamoto99.html、笠本瑠美、1999) 例と
して、下に、簡易な紙とディスプレイの評価を示す。
表12
メディアとしての紙とディスプレイの評価
ディスプレイ
長所
紙
・特定の語の検索が容易
・携帯性に優れる
・動画に対応
・電源は不要
・情報量が多い
・目の疲れは少ない
環境と貿易に関する報告書
―student initiative による報告―
紙資源を考慮したペーパーレス行動∼IT 革命がもたらす「はず」の福音∼の現状とあり方
・データそのものは持ち運びが容 ・複数枚並べて見ることが容易
・パラパラめくりがしやすい
易
・大きいサイズの全体を把握しながら部
分も詳細に見ることができる
・置く場所、見る場所の選択の自由度が
高い
・装置の持ち運びが不便
・特定の語は目で探す必要あり
・表示には電源が必要
・静止画のみに対応
・ちらつきなどで目が疲れやすい ・情報量が少ない
短所
・複数ページの表示が不便
・大量のデータは重く、持ち運びが不便
・パラパラめくりに不向き
・大きいサイズは、全体か部分か
どちらか一方しか見れない
・設置場所に制限
これらのことを考慮した上で、オフィスの紙は決して0にならないという前提のもと
でのペーパーマネジメントが必要となってくるであろう。フローとしては下のようなもの
が挙げられると考える。
(参考: 「電子ファイリングの導入でオフィスの効率は何倍も向
上する」
住吉正勝、オフィスマーケット東京、99年9月号)
ファイル化する基準を作成する。
↓
実態的なメディア評価に基づき、デジタル化するものと、ペーパーベースで取り扱うも
のの区別化をする。
↓
紙情報も、デジタル情報も、管理を一元化する。
↓
媒体に関係なく情報を共有するためのシステムづくり。
くわえて、保管や手続きに十分なセキュリティについては、電子認証システムの確立と
ネットワークセキュリティの向上が必要となってくる。
電子認証については、94 年 8 月に高度情報通信推進本部が設置されて以来、その計画の
中で諸手続きに関する電子化の検討を進める中、ネットワーク化促進の観点から e-Japan
計画の中でも、2004 年までに行政事務を電子化するにあたっての電子認証システムの技術
的な確立が目標とされているところである。(総務省)
環境と貿易に関する報告書
―student initiative による報告―
紙資源を考慮したペーパーレス行動∼IT 革命がもたらす「はず」の福音∼の現状とあり方
ネットワークセキュリティに関しては、2000 年度の金融サービスに関する規制緩和の中
で、金融業務のオンライン化が認められ、2001 年時点においては、128 ビットの暗号強度
上での取引が行われている。しかし、高度のセキュリティを伴った通信はその強度にとも
なって送受信するパケット量が増大するため、大量のデータをやり取りするためには、(通
信速度 384kbps 以上を目安とできる)高速・大容量のブロードバンド環境が求められる。
したがって現時点に於いては、LAN をのぞいてセキュアな文書の交換は多くみられないの
が現状である。
これらのアプリケーションを伴った上で、前に述べた「紙の分散化」を防ぐための、ネ
ットワーク・サイクル・ペーパー・アセスメントの必要性がでてくる。ペーパーレスに関
しては、Internet をはじめとしたネットワークが普及する前から一つの事業所内での消費
を抑えることが主眼とされてきたことを受け、各企業が環境 ISO14000 シリーズ取得に向
けた環境への取り組みのなかで、LAN=ペーパーレスという図式が、ネットワークを通し
て再物質化=紙になることを十分考慮していない。したがって、サービスや手続き全体で
紙を消費しないサービスのあり方を、サービス提供者が責任を持って構築していかなけれ
ばならない。そのためにも、サービスのネットワーク全体での紙消費のコントロールを前
記のセキュリティのスタンダードの変化に合わせた形で考慮し、サービスの提供を再構築
していく必要がある。
4. 将来の完全に近いペーパーレスへの長期的展望
の克服への道のり
∼欠点(対ペーパー)
ペーパーレスが理想的にすすんでいくためには、単一のオフィス内のみに限らず、多地
点にある複数のオフィス間、あるいはネットワークの末端である消費者との間でもペーパ
ーレスの概念が浸透していく必要がある。したがって、一定のデータを紙と同じように早
く取り込み、また、大量の処理を伴う高度なセキュリティをスムーズに実現するためにも、
高速・大容量(ブロードバンド)のネットワークインフラの拡大は必要不可欠である。
現在は、主に単一の建造物内での高速ネットワーク(LAN)、及びある一定の地域内にお
ける複数の建造物を結ぶネットワーク(WAN)がある。WAN は広くは普及していないが、
代表的なものとしては、国内の省庁間の業務処理に利用されている霞ヶ関 WAN が挙げられ
る。これらは、外部ネットワークにもゲートウェイを介して一部開かれているが、ネット
ワークそのものは独立したものであるため、その安全性は高く保たれるものである。しか
し、専用線で広いエリアを結んでいくことには高いコストが生じ、ゆえに多地点間での実
現は難しい。
そこで、近年注目されているのが、仮想イントラネット(VPN)である。これは、仮想
イントラネット(Virtual Private Network: VPN)とは、物理的にはオープンなネットワ
ークを使いながら、暗号技術(トンネリング)を用いて仮想的な(Virtual)専用線網(Private
Network)を実現するサービスである。
環境と貿易に関する報告書
―student initiative による報告―
紙資源を考慮したペーパーレス行動∼IT 革命がもたらす「はず」の福音∼の現状とあり方
図13
(出典:『ブロードバンドビジネス』
VPN の概念図
日本興業銀行産業調査部編、日本経済新聞社)
インターネット回線を利用するので、専用線よりコストが低く、モバイルユーザなどの
リモートユーザが、インターネット上の任意の個所からアクセスできるなど、拡張性に優
れている。しかし、従来までの低速ネットワークでは、暗号化のプロセスに伴う処理時間
が大きくなり、ネットワークに負荷をかけることとなるので、高速ネットワークでの構築
が不可欠となる。地上の専用線はコストも大きく、企業の支社間ネットワークに代表され
るような遠隔地間を結ぶ VPN 構築は難しい。したがって、ネットワークのブロードバンド
化が不可欠なのである。
データのセキュリティ確保と、多地点間でのデータ交換をスムーズに行うことのできる
この技術がペーパーレス化を促進していく可能性は非常に大きい。
また、個人(消費者)ユーザのブロードバンド化も、同様の観点から、セキュアなデジ
タル文書交換に大いに貢献する。
さらに、先に述べたメディアとしてのディスプレイ、あるいはキーボードのもつ紙に対
する劣位性の克服のため、これら入力・出力インターフェイスが改良されていくことも必
要不可欠であろう。
ディスプレイに関しては、前に述べた紙との評価をかんがみると、大型で軽量、かつ目
に負担をかけないものの開発が、紙と比較したときの違和感を解消していくものと思われ
る。
キーボードに関しては、タイプライタの出現以来長年にわたって主インターフェイスの
地位を占めつづけてきた。これだけの技術革新を経た現在でもその地位が衰えないのは奇
異でさえあるように思われるが、それは新たなインターフェイス開発の難しさを物語って
いる。手書きインターフェイスは存在しているものの、主入力インターフェースとしての
地位を占めるには不十分な面が多い。音声入力インターフェイスに関しても同様である。
これらインターフェイスについては、ATR などの知覚研究機関などで積極的に研究されて
おり、あらゆる面で完成度の高いものの開発が期待されるところである。
環境と貿易に関する報告書
―student initiative による報告―
紙資源を考慮したペーパーレス行動∼IT 革命がもたらす「はず」の福音∼の現状とあり方
近年コンピュータ自体の処理能力の向上と共に、CPU やその他のコンポーネントを含め
たトータルでの消費電力は増大している。これゆえ、改良の大きな一つの原動力として、
携帯可能な電源の改良も避けてとおれないもののひとつである。電源に関しては、ボルタ
の電池発明以降、Ni-Cd 式に始まる蓄電池の開発がすすんできてはいるが、大きな変革は
未だ成し遂げられていない。特に電子情報メディアが紙に大きく取って代わる前提条件と
して、携帯可能なモバイル端末普及を考えたときに、電源革命はその必要条件の中で最も
困難と考えられるものの一つである。この点は、まさに「発明」とよべる技術革新を待つ
しかない面があり、理想的なペーパーレス化への当面の大きなネックとなる部分であろう。
これらを総じて考えると、ネットワークとインターフェイスが足並みをそろえて社会に
出現していないことがわかる。したがって、中期的な展望と共に、部分的な紙資源の削減
を目的とした電子情報媒体の拡大を、ネットワークベースでその環境負荷を考慮しながら
進めていくことが、最も現実的なありかたといえるであろう。
参考 URL:
The Internet Economy and Global Warming (Joseph Romm, The Global Environment
and Technology Foundation, http://www.cool-companies.org/)
The Internet Begins with coal (http://www.fossilfuels.org/Electric/summary.htm)
『情報化は省資源につながるか(企業の情報化と紙の消費を考える)』(斎野
将孝、
http://www.senshu-u.ac.jp/~the0350/saino.htm)
『電子ファイリングの導入でオフィスの効率は何倍も向上する』(住吉正勝、オフィスマー
ケット東京、99年9月号)
『電子ファイリング』(http://www.amy.hi-ho.ne.jp/kido/syudan.htm)
『情報の探索から利用における紙と電子媒体の違い
紙 の 将 来 』( 笠 本 留 美 、
http://www.slis.keio.ac.jp/~ueda/sotsuron.html)
『情報通信による地球環境保全のための政策提言』
(http://www.yusei.go.jp/policyreports/)
『IT と環境』(NTT グループ、http://www.ntt.co.jp/kankyo/2001report/)
『IT 導入による二酸化炭素排出削減効果分析の成果』
(NEC プレスリリース、2001 年 3 月
21 日、http://www.nec.co.jp/press/ja/0103/2104-01.html)
『田町地区環境アニュアルレポート 2001』(NEC、http://www.nec.co.jp/)
Adobe Systems ウェブサイト(http://www.adobe.co.jp/)
『日本の紙・板紙消費量の移り変わり』
http://www.minnanomori.com/use/u_info05/u_502.html)
「紙の博物館」_紙の講座第 12 回『日本の製紙産業の状況』
(http://www.papermuseum.jp/kouza21.htm)
環境と貿易に関する報告書
―student initiative による報告―
紙資源を考慮したペーパーレス行動∼IT 革命がもたらす「はず」の福音∼の現状とあり方
参考文献:
『紙・パルプ統計』(経済産業省、http://www.meti.go.jp/statistics/)
『インターネット取引は安全か』(五味俊夫、文芸春秋、2000年)
『ブロードバンドビジネス』
(日本興業銀行産業調査部編、日本経済新聞社)
『IT 経済入門』(藤崎彰彦、日本経済新聞社)
『IT 時代も印字主義』(朝日新聞、2001 年 6 月 1 日付)
環境と貿易に関する報告書
―student initiative による報告―
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