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Page 1 京都大学 京都大学学術情報リポジトリ 紅
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労働市場の制度的調整とマクロ経済の安定性との連関-マクロ動学モデルによる理論的分析 (特集 経済制度の補
完性とマクロ経済的安定性)
藤田, 真哉
経済論叢別冊 調査と研究 (2005), 31: 15-29
2005-10
https://doi.org/10.14989/68992
Right
Type
Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
経済論叢別冊
調査 と研究 (
京都大学)第3
1
号 ,2
0
0
5
年1
0月
(
経済制度の補完性 とマクロ経済的安定性)
労働市場の都度的調整 と▽夕闇経済の安定性 との連関
-
マクロ動学モデルによる理論的分析-
藤
Ⅰ は じめ に
本稿 の 目的は,「
労働市場 の制度的調整」1
)
が
田
真
哉
動 いた ものの,7
0年代後半以降では労働生産性
と名 目賃金のあいだの相関性が弱 くなった。実
際,5
0年代 か ら70年代半 ばまでは,労働生産性
マ クロ経済の安定性 にどの ような影響 を与 える
が 1パーセ ン ト上昇す る と,名 目賃金 は0.
2
9
か をマ クロ動学モデルを用いて明 らかにす るこ
パーセ ン ト上昇 していたのに対 し,それ以降は
とである。 本稿で考察す る労働市場の制度的調
名 目賃金がわずかに0.
0
9パーセ ン トしか上昇 し
整 は 3つある。 まず,第 1の制度的調整 は,雇
な くなった3)。 3つ 目の制度的調整 は,物価上
用保障制度 にもとづ くものであ り,産出量の変
昇 に応 じた名 目賃金の上昇 (
名 目賃金の物価 イ
化 に対す る雇用の弾力性の低下である。雇用の
ンデクセ-シ ョン)である。 物価 と名 目賃金 と
弾力性 に関 して言 えば,2
0世紀後半 において,
の連関に関 しては,戦後の 日本経済で一貫 して
米国経済でかな り高 く, 日本経済では低いこと
強い相関性が見 られる。 例 えば,物価が 1パー
が良 く知 られている。 例 えば,1
9
6
0年代末か ら
セ ン ト上昇するのに対 して,7
0年代半 ばまでは
8
0年半 ばまで において,産出量の 1パ-セ ン ト
名 目賃金 は0.
82
パーセ ン ト上昇 し,8
0年代後半
の上昇 に対す る雇用の変化率 (
すなわち雇用の
0年代 にかけて も0.
7
7パーセ ン ト上昇 して
か ら9
弾力性) は,米国で0.
61
パーセ ン トであるのに
いる。 本稿 ではこの ような調整パ ター ンの国別
対 し, 日本 では0.
2
0パーセ ン トに過 ぎない2
)
0
の差異や時系列的な変化がマ クロ経済の安定性
2つ 目の制度的調整 は,労働生産性の上昇 に応
にどの ような影響 をもた らすかを考察す る4)。
じた名 目賃金の上昇 (
名 目賃金の労働生産性 イ
また,本稿では労働市場の制度的調整 とマ ク
ンデ クセー シ ョン)である。5
0年代か ら7
0年代
ロ経済の安定性 との連関についての問題 と平行
半 ばまでの 日本経済 においては,労働生産性の
して,金融 システムが有す る不安定性 に も注 目
変化率 と名 目賃金の変化率 はある程度連動 して
す る。 企業の資金調達構造 に注 目した場合,各
国の金融 システムは資本市場主導型金融 システ
1
) 制度的調整 とは,法律 によって明文化 された経済的諸
規制や労使間の様 々な協約や協定,例えば,労働基準法
や団体交渉の諸制度などを指す。他方,制度的調整 と対
するもの として市場的調整がある。需給の不均衡 を是正
する価格調整や賃金決定に影響 を及ぼす産業予備軍効果
な どが市場的調整 に該当する。制度的調整 と市場的調整
の最 も大 きな違いは,交換 される情報の量 と質である。
例 えば,市場的調整の代表格である価格調整においては
供給者 と需要者 とのあいだで交換 される情報 は主に価格
情報であるが,制度的調整では価格だけでな く,製品の
質や生産 コス トの構成,生産方法など様 々な情報がや り
とりされる。
2
) 各国経済の製造業部門における雇用の弾力性 に関する
比較 は,字仁 [
2
0
0
0
]を参照のこと。
ム と銀行主導型金融 システム に類型化 され る
(
Sc
ha
be
r
g[
1
9
9
9
] Cha
p.2,Ama
bl
e[
2
0
03
]
3) 日本の製造業の労働生産性 インデクセーシ ョンと物価
インデクセーションに関する実証は,字仁 [
2
0
0
1
]を参
照のこと。
4
) 拙稿 [
2
0
0
4
]において,労働市場の制度的調整 を組み
込んだグッ ドウイン型景気循環モデルを構築 し,マ クロ
経済の安定性 を吟味 した。 しか し, このモデルは第 1に
金融的要因を完全 に捨象 した点で,第 2に利潤主導型お
よび賃金主導型 とい う成長 レジームの成立条件 を明示的
に示 さなかった点で,限定的であると言わざるを得 ない。
本稿 は, これ らの欠点 を排除 した ものである。
1
6
調査 と研究
第31号 (
2005.10)
Cha
p.4
)。前者の金融 システムは,資金調達が
相対的に株式市場や債券市場 に依存 しているも
る」 とい うことである。 また,前述 した資本市
場主導型金融 システムを表すモデル として,本
ので,米国や英国な どがそれにあたる。後者 は, 稿 で は Ta
yl
ora
ndO'
Conne
l
l[
1
9
85
] の負債
デ フレー シ ョンモデル (
以下,TOモデル) を
資金調達が主 に銀行借入 によるもので, 日本や
ヨーロッパの大陸諸国が該当す る。本稿では,
用いる。 このモデルは,実物経済の停滞が金融
前者の資本市場主導型金融 システムを念頭 にマ
資産の代替関係 を介 して利子率 を上昇 させ,景
クロ経済の安定性 を考察することになる。 この
気 を さらに悪化 させ る過程 を措 い た ものであ
金融 システムの特徴 の 1つ として, 「
金融資源
る6
)
。 このモデルを利用す ることで得 られる本
の配分 は主 に金利変動 な どの市場諸力の圧力 を
稿 の第 2の結論 は,「
貨幣 と株式 の代替性が高
1
9
9
5
]
介 してお こなわれる傾 向が強い」 (
野下 [
い場合 に生 じる利子率 の変化 が労働市場 の制
1
6
2ページ) とい うこ とが挙 げ られ る。 この こ
度 的調 整 の不備 を通 じて, マ クロ経 済の不安
とを踏 まえ,本稿 では次の ようなマ クロ経済の
定性 を高 め る可 能性 が あ る」とい うこ とであ
フィー ドバ ックメカニズムをモデル化 し,その
る。
安定性 を検討す る。 まず,労働市場の制度的調
Ⅰ節では,
本稿 は以下の節で構成 される。 第 Ⅰ
整がマ クロ経済の実物面, とりわけ所得分配 に
本稿で提示す るモデルの背景 にある幾つかの基
影響 を及ぼす。所得分配の変化 は,資産の再配
H節で
本的な仮定 とモデルの展 開 を記す。第 Ⅰ
分お よび利子率の変動 を引 き起 こす。利子率の
は,主要変数 を本稿のテーマに沿 った形で個別
変動 は投資 を通 じてマ クロ経済の需要 にフィー
に定式化 し,それ らをもとに労働市場の制度的
ドバ ックす る。 以上の ような労働市場の制度的
調整 と課税制度 とを考慮 に入れた動学方程式体
調整 を始点 としたフィー ドバ ックメカニズムに
系 を導 出す る。第 Ⅰ
Ⅴ節 で は,第 HⅠ節 で構築
よって,マ クロ経済が安定化するか どうか を検
したモ デルの定常状 態 とその安 定化 (
不安定
討す る。
化) プロセス を考 える。 第 Ⅴ節 で は,本稿 の
本稿では経済の実物面 を捉 えるモデル として,
結論 とその現実的な含意 を簡単 に述べ る。 なお,
R.ブ レッカー (
Bl
e
c
ke
r[
2
0
0
2
]
) の カ レツキ
安定性 に関す る数学的証明は,本稿の補論で提
アンモデルを応用す る。 このモデルは,産出量
示す る。
の成長が賃金主導型 になるか利潤主導型 になる
かが利潤所得 に対す る課税率 と賃金所得 に対す
Ⅰ
Ⅰ モデルの諸仮定および展開
る課税率 とのバ ランス (2つの税率 に大 きな格
本稿で提示するモデルの理論的背景 を述べ て
差がある場合 は累進的課税制度,格差が小 さい
お こう。 第 1に,企業の生産活動 によって生み
場合 を逆累進的課税制度 と呼ぶ) に依存す るこ
出 される所得 は利潤所得 と賃金所得 に分かれる。
とを示 した。 このモデルを用いることで得 られ
利潤所得 を受 け取 るものを便宜上資本家階級,
る第 1の理論的帰結 は,「
特定 の課税制度 と特
賃金所得 を得 るものを労働者階級 と呼ぶ ことに
定の労働市場制度の組み合 わせ (
すなわち,刺
する。 資本家 は資産保有者であ り,財 を消費 し,
度 的補 完 性 5)
) が マ クロ経 済 の安 定性 を高 め
資産 を購入す る。 労働者は消費す るだけであ り,
5
) レギュラシオン学派のアマーブルによれば,制度的補
完性は 「ある領域の制度の存在,あるいはその特定の形
態が他 の領域の制度の存在,機能,効率性 を強化する」
(
Ama
bl
e[
2
0
0
3
〕p.6
0) ことと定義 される。 しか し,本
稿ではこの用語 をより広義の意味で用いる。つ まり,あ
る領域 の制度がマ クロ経済のパフォーマ ンスにマイナス
の影響 を与 えるとき,その影響 を打 ち消す別の領域の制
度が存在すれば,広義の意味での制度的補完性が存在す
ると呼ぶ。
資産 を保有 しない。第 2に,政府 は資本家お よ
び労働者の所得 に対 して異なる税率で課税 し,
また, (
資本 ス トックに対 して)一定比率 で財
政支出 をお こなうもの とす る。 なお,本稿では
簡単化のために財政の均衡 は考慮せず,一定比
6
) 類似 したモデルは,Ta
yl
or[
1
9
8
5
〕,Ta
yl
or[
1
9
91
]に
おいて も提示 されている。
労働市場 の制度的調整 とマ クロ経済の安定性 との連 関
第 1図
1
7
モデルの展 開
率 の財 政支 出が常 に可能であ る と仮定す る。 第
か ら生 じる労働生産性 の上昇 は名 目賃金 や物価
3に,本稿 のモデルは閉鎖経 済 を前提 とす る。
第 4に,生産 の技術 は 「
基本的 に」線形 であ る
「
基本的 に」 とい うのは,次 の ような意味 にお
を変動 させ る (
矢 印③)。 したが って,労働 市
場 の制度 的調整 (
雇周 の弾力性 ,労働 生産性 イ
いてであ る。線形 の生産方法 を想定 した場合,
は,所得分配 を決定す る重要 な要 因であ る と言
産 出量成長 率 が 1パ ーセ ン ト増加す る と,雇欄
え る。 なお, ∂
。は名 目賃 金 の労働 生 産性 イ ン
。
ンデ クセー シ ョン,物価 イ ンデ クセー シ ョン)
も技術 的 な要件 として 1パ ーセ ン ト増 える こ と
デ クセー シ ョンの強 さを, ∂少は名 目賃 金 の物
になる。 しか し,現実 には雇用 の成長率 は産 出
価 イ ンデ クセ ー シ ョンの強 さ を表 す外 生 パ ラ
量 の成長率 と必ず しも一致 しない。 これは,雇
メー タであ る。 所得分配の変化 は消費水準 と投
用 それ 自体 が技術 的 な条件以上 に各国経 済の制
資水 準 に影響 を及 ぼす (
矢 印(
彰)。矢 印⑤ は政
度 的条件 に大 き く依存 してい る ことに よる。 こ
府が各所得 に対 して課税す るこ とを表 してい る。
の こ とを踏 まえ,本稿 では,雇用 の弾力性 とい
吊 ま利潤所得 に対す る税率,t
wは賃金所得 に対
う概 念 を用 いて,雇周 (
労働 需要) の成長率 を
す る税率 であ る。 矢印⑥ は課税制度 (
税率 の格
再定式化 してい る。 第 5に,利子率が弾力 的 に
差)が成長 レジーム を決定す る一 因 となるこ と
変化 し,貨幣供給 が外生 的 に与 え られ る, LM
を意味す る。 矢 印⑦ は財政支 出 を表す。矢 印⑧
型金融 モデル を用 い る7)。
は所得分配の変化 を受 けて,資産保有者が資産
第 1図は本稿 で提示す るモデルの展 開 を示 し
選択 を行 うことを示 してい る。資産選択 は利子
てい る。矢 印① は財 の消費,投 資,財 政支 出か
率 を変動 させ,利子率 の変動 は投 資 に影響 を与
ら有効需要が生み出 され, その需要 に応 じて産
える (
矢印⑨)。
出量成長率 (
所得 の成長率) が決定 され るこ と
Ⅰ
I
I モ デ ル
を表 してい る. 矢印(
参お よび③ は労働市場 の制
度 的調整 を表す。雇用量 (
労働 需要) は産出量
1
.定 義 式
成 長 率 と雇 用 の弾 力性 ¢ とに よって決定 され
経 済全体 の産 出量 (
所 得) を X, 資 本 ス
(
矢 印(
む),産 出量 や雇用量 の変化, さらにそ こ
トック を K, この資 本 ス トックが完 全 に稼 動
した ときに得 られ る産 出量 を 度 で表す な らば,
7
) 貨幣に対する (
節)古典派的アプローチ とポス ト古典
派的アプローチ (
内生的貨幣供給論 を含む) との対比 に
関 しては,La
voi
e[
1
9
9
2
]cha
p.4を参照のこと。
稼 働 率 は X/
X
-, 潜 在 的 産 出資 本 比 率 は T(-
x
-/K)で表 され る 潜在 的産 出資 本比率 は資本
。
1
8
調査 と研究
第3
1
号 (
2
0
0
5
.
1
0
)
1単位当た りの限界的な生産力 を表す ものであ
政府の収入は,利潤所得 に対す る課税分 と賃
るか ら,純粋 に技術的な要因である と言 える。
金所得 に対する課税分 との和で表 される。 政府
本稿ではこれ を一定 と仮定す る。 産出資本比率
の税収 γは,次の ようになる。
u(
-X/
K)は稼働 率 と (
本稿 で一定 と仮 定 し
た)潜在 的産出資本比率 との積で表 されるか ら,
T-(
t
,
r
+t
w
7
T
u)
K
t
wは賃金所得 に対す る税率であ り,定数 とする。
政府支出 Gは次式の ように表 される。
産出資本比率 自体 を稼働率 とみなす ことがで き
G-c
g
K
る。 また,名 目賃金率 を W,価格 (
物価水準)
をp,労働 需要 を lで表す な らば,実質賃金率
(4)
cg
(5)
は定 数 であ る。 なお,本稿 で は簡単化 のた
-W/
A)
,賃金 シェアは 7
T
(
-Wl
/
PX),利潤
は W(
1-7
r
)u)と表 される。
率 は r(-(
めに,財政の均衡 は考慮せず, (5)式で表 され
経済の総資産 は貨幣 M,債券 B,株式 E か
(4)式 と(5)
式 か ら,政府貯蓄 Sgは次 の よう
b
(
-1)
ら構成 される もの とす る。債券価格 を p
(
ニュメ レール と仮定),株価 を夢eで表す な ら
ば,総資産の名 目値 射 ま,
A-M+B+Pe
E
(1)
となる。 政府 の負債 F は貨幣 と債券 か らなる
(
F-M+B)と仮定する。
る財政支出が常 に成立可能である と想定する。
になる。
Sg
-[
(
t
r
y
+t
w
7
ru)- Cg
]
K
(6)
3.産出量成長率 ・貸本蓄積率
財市場の需給不均衡 は,数量調整 によって是
正 されるもの とす る。 数量調整方程式 は,次式
で表 される。
-S♪
-Sg
X-I
2.財 市 場
まずは,民 間部 門の投資お よび貯蓄の水準 を
求めるこ とに しよう。本稿ではカ レツキ-シュ
タイン ドル塑投資関数 を用いる。 この関数 は,
投資が利潤率お よび産出資本比率 と比例 し,秦
(7)
求, (6)
式 を代入す ると,
(7)式 に(2)式, (3)
次式が求 まる。
k- ト U,
(
i-7
E
ト t
w方+Pu
]
X
+(
α+c
g-
β
i
t
)
K
(7′
)
目債券利子率 (
以下,利子率) と反比例す るこ
ここで,gr- (
S
,-βr
)(
1- i
r
)+t
rとおいた。数
とを表す ものである8)。投資関数 Iは次式 で表
量調整の安定条件 は, -c
r
,
(
1-7
r
)-g
u
,
7
汗 Bu<0
であ るか ら, た とえロ ビンソニ ア ン安定条件
される。
I-[
α+β,
(
巨
t
,
)
r
-β
i
t
+Buu]K
(2)
S
,-βr
>0が満 た され なかった と して も, なお
αは投 資 の トレン ドを表 す定数項 で あ り,βγ
数量調整が安定的に作用す る可能性があるとい
は投資の税引 き後利潤率 に対す る反応係数,βu
うことが分かる。
は産 出資 本比率 に対す る反応係数 ,β i は利子
率 に対す る反応係数である。 また,吊 ま利潤所
得 に対す る税率9
)
であ り,定数 とす る。
(7′
)式 の両辺 を X で割 る と,産 出量成長率
が求 まる。
度-(
qr
-t
w
)
方・ (
a+c
g-Bi
t)
豊-a
,
・B
u
民間貯蓄 は資本家の貯蓄か らなる (
労働者 は
(8)
貯蓄 しない)。資本家の貯蓄率 を srで表す な ら
産 出量 成 長 率 を賃 金 シェ ア で微 分 す る と,
ば,民 間貯蓄 SPは資本家の可処分所得 に貯蓄
d
k/
d方-gr
-t
w- (
S
,
-βr
)(
1- i
,
)+
i
,
-t
wとなる。
したが って, もし,投資関数の利潤率 に対す る
率 をかけた もの となる。
S♪-S,
(
1-t
γ
)r
K
(3)
8) 通常,投資 は名 目利子率ではな く実質利子率 (
-名 目
利子率 一物価上昇率) と反比例するもの として定式化 さ
れるが,本稿 では簡単化のためにこれを捨象 した。
9
) もし,資本家 と企業 を同一視で きるのならば,t
,を法
人税率 と解釈 しうる。
β
高揚 論 レ
反応 係 数 ,が大 き く, sr-β,<0 (
ジー ム e
xhi
l
a
r
a
t
i
oni
s
tr
e
gi
me
) が成 り立 つ と
きに,貸金所得 に対す る税率が十分 に高 く,刺
潤所得 に対す る税率が十分 に低 ければ,d
k/
d方
<oとな り,賃金 シェア と産出量成長率 は負 の
1
9
労 働 市 場 の制 度 的調 整 とマ ク ロ経 済 の安 定 性 との連 関
相 関関係 を持 つ 10
)(
以下, このケース を利潤主
導型成長 レジーム と呼ぶ11))。 また,投資 関数
まる。
sr-
(9)
(9)式が満 た され る とき,利潤 主導型成長 レ
β,
>o (
停滞論 レジーム s
t
a
gna
t
i
oni
s
tr
egi
me)
ジームの もとで数量調整が安定的であると言 え
が成 り立つ ときや,賃金所得 に対す る税率が十
る。 (9)式 を整理す ると,次式 を得 る。
β
の利潤率 に対す る反応係数 ,が小 さ く,
分 に低 く,利潤所得 に対す る税率が十分 に高い
C,
(
1-7
r
)+t
w
7
r
-βu>gr
-t
w
g
r-i,+t
w
]7
r
+i
u
,
-Bu
>0
ト (
sr- β,
)(
1- )
場合 には,賃金 シェアと産出量成長率 は正の相
(9′
)
関関係 をもつ (
以下, このケースを賃金主導型
利潤主導型成長 レジームが成立す る とい うこと
成長 レジーム と呼ぶ)。 ブ レッカーは,剰潤主
は, (9′
)式左辺 第 1項 が正億 を とる こ とを含
導型成長 レジームが成立す るような課税制度 を
>0であれば, この
意す るか ら,あ とは t
w-βu
税率の格差が小 さい とい う意味で 「
逆累進的課
不等式は満た されることになる。 したがって,
e
gr
es
s
i
vet
axs
ys
t
e
m」,賃金主導型成
税体系 r
長 レジームが成立す るような課税制度 を税率の
投資の産 出資本比率 に対す る反応係数 βuが十
分 に小 さければ,利潤主導型成長 レジームの も
格差が大 きい とい う意味 で 「
累進 的課 税体系
とで も数量調整は安定的に作用す ると言 える。
最後 に,本稿では投資 と貯蓄 を独立 に設定 し
pr
ogr
es
s
i
vet
axs
ys
t
em」 と呼ぶ12)。
ところで,従来のカレツキアンモデルでは,
たので,現実の資本蓄積 を投資で表すか,ある
産出量 と賃金 シェアが負の相関関係 をもつ とき
いは貯蓄で表すかを選択 しなければな らない。
には数量調整が不安定であることが合意 されて
本稿では現実の資本蓄積率 gは投資 才に依存す
るもの と仮定す る13)。
い た (
Dut
tl
1990], Ma
r
gi
i
n and Bhadur
i
[
1
990],植村 ほか [
1998] 4章)。何故 な ら,
産出資本比率 と賃金 シェアが背反関係 をもつ と
きには, ロビンソこアン安定条件が常 に満た さ
れないか らである。 しか し,本稿のモデルでは産
出量が利潤主導型であるときで も数量調整が安定
になる可能性が存在する。以下,このことを示す。
いま,利潤主導型成長 レジームが成立 してい
)r
-B
i
i
・Bu
u
g-意 -α+鋸 - ,
i.資産 選択
本稿 で は TOモ デル を用 い て,資産選択 を
資産保有者)のバ ラン
考 える。 企業 と資本家 (
スシー トは,次の第 1表で示 される。
第 1泰
る状況 を想定 し, dk/
d7
r-Ur
-i
w< 0とお く。
数量調整 の安 定条件 は o
・
,(
1-冗)+t
w7
r-Bu>0
であるか ら, これ ら 2つの不等式か ら次式が求
,「逆累進的課税」 を 「賃金お よび利潤
(
1
0)
企
バ ラ ンス シー ト
業
資本ストック 株式 Pe
E
資
株 式 pe
E
本
家
資 産A
1
0) ブ レッカーは
所 得 が 相 対 的 に 同 じ よ う な 比 率 で 課 税 さ れ る」
(
Bl
e
c
ke
r[
2
0
0
2
]p.1
41
) ことと定義す る。本稿 におい
て もこの定義 に従 うが,利潤所得 に対する税率が賃金所
得に対する税率 より低い場合 を含めて も,本稿の結論 は
変わ らない。
ll
) 賃金主導型 レジーム,利潤主導型 レジームとい う用語
は,本来資本蓄積率 を対象 としたものであるが,本稿で
は産出量成長率がそれ らの用語の指示対象であるとす る。
1
2) ブレッカーのモデルでは,労働者は貯蓄 しない とい う
仮定は排除 されている。その場合,産出量が利潤主導型
になるか賃金主導型 になるかは,労働者の貯蓄率 にも依
存す ることになる。本稿のモデルでは S
,
-β,
<0の とき
のみ利潤主導型 レジームが成立 しうるが,労働者が貯蓄
しない とい う仮定 を排 除す ることでその条件 は被 め ら
れる。
簡単化のために,本稿では株式 は新規 に発行 さ
れない もの とす る。 したが って,株式の需給不
均衡 は,株価の変動 によって調整 されることに
1
3
) Chi
a
r
e
l
l
aa
n
dFl
a
s
c
h
e
l[
2
0
0
0
]Cha
p.3では,現実の
資本蓄積 を次のような形で定式化 されている。
g-x(
I
/
K)+(
1-x)
(
S♪+SG
)
/
K
ここで,xは 0か ら 1の範囲をとる外生変数であるOす
なわち, この式 においてほ,現実の資本蓄積が投資関数
と貯蓄関数の中庸で定式化 されている。本稿の定式化は
x-1とおいた場合に該当する
。
20
調査 と研究
第31号 (
2005.10)
なる。 また,貨幣お よび債券の増加分 は資本家
シェア (
以下,貨幣負債比率) を表す 。 (
1
5
)求
の貯蓄 によってすべて購入 されるもの と仮定す
を全微分す ると,次の ようになる。
る。 以上の仮定か ら,資産の変化 は次の ように
恥di
+7
7
r
dr
-(
1-e
)
dl
(
1
6
)
ただ し, 7
7
i
-∂m/
ai
+)(∂e/ai), 7
7
,
-∂m/
ar+)
表 される。
A-βe
g +虚+磨βe
g +s
r
pK
(
ll
)
ここで,資本家の資産選択 を考 えよう。 資本
(
∂e
/
ar
)とおいた。 (
1
2
)求, (
1
3)式 よ り, 77i<0
で あ るこ とはす ぐに分 か るが, 恥 の符号 は明
家 は,利潤率 と利子率 とい う 2つの変数 を基準
らかではない。資産保有者がポー トフォリオを
に して,資産 を振 り分 ける もの と仮定す る14)0
考 え る 際, 貨 幣 と株 式 との 代 替 性 が 高 い
この仮定 に よ り,総資産 A に対 す る貨幣の保
(
cl
os
es
ubs
t
i
t
ut
e)場 合 に は,∂
e
/
ar可 ∂m/
arl
とな り, さらに,)は 1以上 にはならないので,
有比率 を m,株式の保有比率 を e
,債券の保有
比率 を あで表すならば,それぞれが利潤率 と利
7
7
r
<0となる. 逆 に,貨幣 と株式 との代替性 が
子率の関数 として表 されることになる。 ここで,
低 い (
l
ow s
l
l
bs
t
i
t
ut
e
) と き に は, ∂e
/
ar>
ある資産の収益率の増加 はそれ 自身の需要 を増
I
∂m/
ar
lとな り,かつ ,)が十分 に大 きな値 を
加 させ るが,他の資産 に対す る需要は低下 させ
とれば,7
7
,
>0となる。 い ま, (
1
6
)
式 において,
ると仮定す る。 株式 をどれだけ保有するか とい
貨 幣 負 債 比 率 が 一 定 で あ る場 合 (
す なわ ち
う決定 に関 して,資産保有者 は経済の ファンダ
d1-0である場合) を考 えよう 貨幣 と株式 と
。
メ ンタルズ を重視 す る もの と想定す る。 した
7
,
<0となるか ら,刺
の代替性が高い場合 には 7
が って,本稿では株式の収益率 は利潤率で,倭
潤率の上昇 (
下落) は利子率の下落 (
上昇) を
券の収益率の基準 は利子率で表 されることにな
もた らす こ とになる。す なわち di
/
dr<0 とな
る。 また,貨幣 に対す る需要は,利潤率お よび
る1
5
)
。 また,貨幣 と株式 との代替性が低 い場合
利子率の どちらに対 して も背反関係 をもつ もの
とす る。 これは,貨幣の取引需要 を捨象す るこ
には 7
7
,
>0となるか ら,一般 的 な右 上 が りの
LM 曲線 di
/
dr>0を措 くことになる。
とを合意す る。 以上の ことを踏 まえると,貨幣
次 に, (
1
6
)
式 において利潤率が所与である場
の需給均衡式,株式の需給均衡式,債券の需給
合 (
す なわち dr-0である場合) を考 え よう。
均衡式 はそれぞれ次の ように定式化 される。
いま,貨幣供給量 を増加 させ るような市場操作
m(
i
,r
)
A-M-0
%
<0,%
<0(12)
がお こなわれる とす る と,)は増加す ることに
なるが, これは利子率が下落することにつなが
る。 す なわち di
/
dA<0となる。 これはケ イ ン
e(
i
,r
)
A-PC
E-0
i
<0,% ,o (
1
3
)
b(
i
,r
)
A-B-0 % ,0,% <0
(
1
4)
なお,m+e
+b-1であ り,上の 3本の方程式
の うち, 2本が独立である。 (
1
2
)
求, (
1
3
)
求,
(
1
4)式 よ り,貨 幣市場 の超過需要方程式 が求
まる。
m(
i
,r
)-Al
1-e(
i
,r
)
]-0
(
1
5
)
ここで,)(
-M/
F)は負債 に含 まれる貨幣量 の
1
4
) TO モデルでは,各資産に対する需要は利潤率だけで
な く,期待利潤率にも依存 している。 また,資産選択の
決定要 因 として物価上昇率 も考慮 されるべ きものである
が,本稿では簡単化のために捨象 した。
ズ効果 16)を表す。
1
5
) 足立 [
1
9
9
4
〕1
2章では,銀行の信用創造 を考慮 し,質
幣供給が内生化 されたモデルを提示 している。そこでは,
貨幣 と株式が代替的であることに加え,利潤率 に対する
銀行貸付の弾力性が高い とい う条件が満たされるとき,
LM 曲線が右下が りになることが示 されている。
1
6) ケインズ効果は静学で一般的に知 られている概念であ
i
a
r
e
l
l
aa
ndFl
a
s
c
he
l[
2
0
0
0
〕 で は, ケ イ ンズ効
る。Ch
果の動学的作用,すなわち動学 システムの安定化機能が
明 らかにされている。この効果は次の ような安定的な連
鎖 を内包 している。いま,なんらかの要因によって資本
蓄積率が大幅に低下 した としようO この とき,資本 1単
位あた りの実質貨幣残高は増加することになる。 しか し,
これは利子率 を引 き下げることにつながる。何故 なら,
貨幣の需給不均衡は利子率の低下によって是正 されるか
らである。このような利子率の低下は,企業の投資 を誘
発 し,産出量成長率および資本蓄積率 を引 き上げる。
21
労働市場 の制度 的調整 とマ クロ経済の安定性 との連 関
ここで,TOモデルにおいて論 じられた負債
デフレーシ ョンの動学的過程 を確認 してお こう。
率 を表す式 は,次の ようになる。
そ こで は, (
本稿 では捨象 した)期待利潤率 と
l
-¢X-¢
(
1
8
)
なお,本稿では雇用の弾力性がいかなる億 をと
利子率 との相互作用が問題 となる。い ま,期待
ろうとも,生産が常 に可能である と仮定する。
利潤率が なん らかの外的要因によって低下 した
また,雇用の弾力性 に関 して現実的にあ りうる
としよう。 上述 した ように,貨幣 と株式 との代
範囲は 0<¢≦1である。
替性が高い場合 には, これは利子率が上昇する
ことにつ なが る。 この際,TOモデルでは利子
率が (
資本家の)期待のシグナルにな りうると
6
.賃金 ・価格
名 目賃金 は, 2つの規則 に従 って変動す る も
仮定 し,期待利潤率の変化 を利子率 と負の関係
の と想定す る。 1つ 目の規則 は,名 目賃金の労
で結 びつ くように定式化 す る。 この定式化 に
働生産性 イ ンデクセーシ ョンである18)。 ここで
よって,利子率の上昇 は期待利潤率 をさらに引
は, 「
現 実 の労働 生産性」の上昇率 (
康 一l
'
)と
き下げることになる。 したが って,期待利潤率
名 目賃金の変化率が正の関係 を持つ と仮定す る。
の断続的な下落 は株価 の下落 17)と投資の低下 を
2つ 目の規則 は,名 目賃金の物価 インデクセー
引 き起 こ し,経済は停滞す ることになるのであ
シ ョンである。次の式 は, これ ら 2つの規則 を
る。 ここで注意すべ きは,TOモデルでは期待
導入 した名 目賃金の変化率 を表 した ものである。
(
利潤率) と利子率 の背反関係が直接 的 に負債
i
b-∂
a
(
X一g)+∂
♪
p
'
(
1
9
)
ここで, ∂
〟は名 目賃金 の労働 生産性 イ ンデ ク
デフレーシ ョンを引 き起 こす とい うことである。
の高い代替性 をもつ場合 に生 じる利子率の変化
♪は名
セー シ ョンの強 さを表すパ ラメー タ, ∂
目賃金の物価 インデクセーシ ョンの強 さを表す
がいわば間接 的に,すなわち労働市場の制度的
パ ラメータである。 なお,本稿では名 目賃金の
調整のプロセスを通 じて,マ クロ経済の不安定
労働生産性 インデクセーシ ョンの強 さの範囲に
性 を高める可能性 を指摘す る。
関 して,0<∂
α
≦1と仮定す る。
本稿で提示す るモデルにおいては,貨幣 と株式
企業 はマ-クア ップを通 じて価格設定 をお こ
5,労働生産性 。労働需要 。労働供給
本稿 は労働生産性が上昇 している経済 を想定
な うと想定す る。 マー クア ップ率 を ∂(
>1)で
表 し,価格変化 を次の ように定式化す る。
。「技術 的な労働需要」を IieC,「技術 的 な
する
労働生産性 」 を atec(
-X/
l
t
e
c
)で表 す もの とす
。
拒
B
p
(
媛一
夕
)
(
2
0)
技術 的 な労働生産性 」 は一定率 ¢で上昇
る 「
する と仮定す る。
β♪は価格調整速度 を表すパ ラメー タであ り,
Wl
/
X は生産物 1単位 当た りの平均可変費用で
a
^
t
e
c
-度」 t
e
c
-¢
(
1
7
)
(
1
7)式 か ら,技術 的 な労働 需要 の変化率 は,
ある。 両辺 をPで割れば,物価上昇率が求 まる。
^
E
e
c
-度-¢となる。 しか し,雇用保障制度 を通
l
現実の労働需
じた雇用 の非弾力化 に よって 「
,
,「技術 的 をそれ」 とは異 なっ
要」 の変化率 は
て くる。産出量成長率 に対す る雇用の弾力性 を
¢で表す とす る と, 「
現実の労働需要」の変化
p
'
-β♪
(
0
7
r 1)
(
2
0′
)
7.動学 システム
まずは,賃金 シェアの動学方程式 を求め よう。
賃金 シェア 7
r
(
-u
J
l
/
PX)を対数微分 し, (
1
8
)式
1
9
)
式 を代入 して整理す ると,賃金 シェアの
と(
動学方程式が求 まる。
1
7) 利潤率 (
TO モデルでは期待利潤率)が断続的に低下
す ると,株式需要が小 さ くな り,株式市場が超過供給 の
状態 に陥る。 この不均衡 を是正す るために,株価 は下落
す ることになる。
1
8) 名 目賃金の労働生産性 インデクセーシ ョンを考慮 に入
れたモデル としては,Ta
yl
or[
2
0
04
]Cha
p.7がある。
2
2
調査 と研究
第3
1
号 (
2
0
0
5
.
1
0
)
尤ニー(
巨∂
a
)
(
巨 ¢)
&-(
ユー∂
p
)
1
'
-
¢(
1
-∂a)
(
21
)
次 に,産出資本比率の動学方程式 を求める。
産出資本比率 u(
-X/
K)を対数微分す る と,吹
式が求 まる。
(
2
2
)
最後 に,貨幣負債比率 )を次 の ように変形
u
^
-X-g
¢お よび 〟が十分 に小 さな億 を とれ ば,賃 金
シェアの定常億 は有意 な値 をとる。 産出資本比
-i
L
-P^,磨-i
l
-P^ぉ
率 と利子率の定常億 は,g
2
5
)
式か ら求 まる。
よび (
u
*
=
c
g+t
L
万*
o
・
,
(
i
-7
T
*
)+t
w
7
T
+B,
(
1
1,
)
(
卜7
r
*
)
+pT
i
*
(
2
6
)
卜t
,
)
(
1-7
r
*
)
u*
+
β
u
u*
-(
P
P
'
*
)(27)
i
*
=α+βr(
す る。
∴:
:
,L
:
:
:-:_
I
::
-
f
(
-F/
1
)
K)は負債資本比率 を表 し, TOモデル
ここで,
P
'
*は定常状態 にお ける物価上昇率 を
表 し, (
20′
)式 に (
25
)式 を代入す るこ とで求 ま
と同様,本稿 では一定 と仮定す る。 ここで,)
る。賃金 シェアの定常値が有意であれば,定常
は貨幣資本比率,あるいは,資本ス トック 1単
状態 における物価上昇率が極端 に大 きな億 をと
位 当た りの実質貨幣残高 を表す ことになる。)
らない限 り、産出資本比率の定常値 も正億 をと
を対数微分す ると,次式 を得 る。
廟1 ^
一g
る。 また,賃金 シェアお よび産出資本比率の定
(
2
4)
本稿 では,貨幣供給量 の成長率 A
狛 ま定数 両 二
常値 が有意 で あれ ば,貨 幣供給量 の成長率 声
が極端 に大 きな傍 をとらない限 り,利子率の定
等 しい と仮定する19)。本稿で考察す る動学 シス
常値 も有意である。賃金 シェアの定常値お よび
テムは, (
21
)式,(
2
2
)
式, (
2
4
)式か ら構成 され
産出資本比率の定常健 か ら決定 される利潤率 と,
)^-
る。 また,産 出量成長率 度 は (8)求,資 本蓄
(
2
7
)
式で与 えられる利子率が定 まれば, (
1
5
)
求
1
0)求,物価上昇率 か ま(
20′
)式 で与
積率 gは (
え られる。
よ り資本 1単位 当た りの実質貨幣残高の定常値
Ⅰ
Ⅴ 定常状態
1
.定 常 偵
)*が求 まる。
望。諸制度 とマクロ経済の安定性 との連関
本稿 で は動学 システムの定常状 態 (
7
E
*,u*,
動学 システムの定常状態 (痩-0
,滋-0,1
0)において, 自明解 を除 く一意 的 な定常値 の
)
*
)が局所的に安定的であるか どうか を調べ る
た め に, ラ ウ ス ニ フ ル ヴイツ ツ の 判 別 法
級(
7
r
*
,u*
,l
*
)が存在 す る こ とを示 す。定常
(
Rout
hHur
wi
t
zcr
i
t
er
i
on) を用 い て い る。 た
2
4)式 よ り g-i
1-黍, これ と
状 態 にお いて, (
だ し,安定性の証明は補論で記す ことに して,
(
22
)式 よ り度i
1
-9^ヵ号求 まる。 これ ら 2つの
ここでは経済の安定性 (
あるいは不安定性)の
21)式 に代入 して整理す ると,賃金 シェア
式 を(
要因お よびその過程 を明 らかにす ることに留め
の定常値 を求めることがで きる。
ることにする。
(
巨 ∂a
)[
¢+(
i-¢)
p]
2
5
)
βp[
∂a(
i-¢)+ ¢ - ∂
♪
]) (
1
9
) 浅田 [
1
9
9
7
〕 4章では,貨幣供給量の増加率が一定の
場合 (
マネタリス ト ルール) と,現実の利子率 と目標
の利子率 との乗離幅に比例 して増加する場合 (
アクテ ィ
ビス ト・ルール) とに分けて,動学 システムの安定性 に
対するそれぞれの政策的インプリケーシ ョンを引 き出 さ
れてい る。本稿で もこのような定式化 をお こなうことは
可能ではあるが,本稿の主題 は諸制度 とマ クロ経済の安
定性 との連関性 を考察することであるか ら, これを捨象
した。
制度 に関連 したマ クロ経済の安定化 (
不安定
化)のプロセスは,以下 に示す ように 6つ存在
する. まず第 1に,物価 インデクセーシ ョンの
強さ∂
少が 1よ り大 きい億 をとる場合 には,吹
の ような累積的な不安定性が生 じる。
物価 上昇率 の上昇 (
低 下)
=
⇒物価 イ ンデ ク
セー シ ョンに よ り名 目賃 金 率 の上 昇 (
低
下)
⇒賃金 シェアの増加 (
低下)
⇒物価上昇
率の上昇 (
低下)
=
⇒--
労働 市 場 の制 度 的調 整 とマ クロ経 済 の安 定性 との連 関
23
これ は,貸金物価 スパ イラル と して よ く知 られ
加 (
低 下)
⇒ 貨 幣 の超過需 要 (
超過供給)
⇒
てい る もので あ る。 このスパ イラル を避 け るた
利 子 率 の上 昇 (
低 下)
⇒ 産 出量 成 長 率 の低
め には,物価 イ ンデ クセ ー シ ョンの強 さは少 な
くとも 1よ り小 さ くなけれ ば な らない20)。
第 2に,投 資 の利 潤 率 に対 す る反 応 係 数
β
γ
が十分 に大 き く,政府 が逆 累進 的課税制度 を選
下 (
上昇)
=
⇒- い ま,産 出量成長率 が何 らかの理 由 に よって低
下 した局面 を考 え よ う。 この とき,労働 生産性
イ ンデ クセ ー シ ョンや雇用 の弾力性 が小 さい こ
択 した と しよう。 この と き,労働 市場 の制度 的
とは,賃金 シェア を上昇 させ,利潤率 を引 き下
調整 に関 して,労働 生産性 イ ンデ クセ ー シ ョン
げ る こ とになる。 資産保有者 は株式 か ら離 れ て
の強 さ ∂
αと雇 用 の弾 力性 ¢が と もに小 さな値
貨幣 を多 く保 有 しよう と し,貨幣市場 を超過需
を とれ ば,次 の ような不安 定性 が強 く働 くこ と
要の状態 に陥 らせ る。 貨幣 の需給不均衡 を調 整
になる。
す るため に利子 率 は上昇 す る ものの, この こ と
利 潤 シェ アの増 加 (
低 下)
=寺産 出量 成 長率
が産 出成長率 を さ らに下落 させ る こ とにな り,
の上昇 (
低 下)
=
⇒賃金 シェアの低 下 (
増加)
経 済 は最終 的 に不 安 定化 す る。 したが って, こ
お よび利 潤 シェアの増 加 (
低 下)⇒ --
の ような金融不安 定性 をな くす ため には,労働
この不安定性 は,産 出量 が逆 累進 的課税制度 に
生産性 イ ンデ クセ ー シ ョンや雇用 の弾力性 が十
よって利潤 主導型 になる こ とに起 因 してい る。
分 に大 き くなけれ ば な らない。例 えば,雇用 の
労働 生産性 イ ンデ クセ ー シ ョンや雇用 の弾力性
弾力性 が 1であ る場合 を考 え よう。 雇用 の弾力
が小 さい こ とは, (
21
)式 を見 れ ば分 か る ように,
性 が 1であ る とい うこ とは,産 出量成長率 が低
産 出量成長率 の上昇 が賃金 シェア を相対 的 に低
下 して も利潤 シェアが低 下 しない こ とを意味す
下 させ ,利潤 シェア を さ らに増加 させ てい くこ
る。 また, この と き利 潤率 も低 下 しないので,
とを意味す る。 そ して,利潤 シェアの増加 は,
資産選択 に変化 が起 こ らず,上述 した不安定 な
産 出量成長率 を さらに上昇 させ,経 済 を不安 定
連鎖 は断 ち切 られ る。 したが って,労働 生産性
化 させ るので あ る。 も し,労働 生産性 イ ンデ ク
イ ンデ クセー シ ョンと雇用 の弾力性 が ともに小
セ ー シ ョンか雇用 の弾力性 の どち らかが 1であ
さい こ とは, それ 自体 が (
利潤主導型 レジーム
るな らば,所 得 の シェアは産 出量成長率 の変化
の もとで) 実物 的 な不安 定性 要 因 となるだけで
に対 して変動 しない こ とにな る21)0
第 3に,経 済 は利子率 の変動 に よって も不安
は な く,金融不安 定性 を生 み出す こ とに もなる
のであ る。
定 化 す る。 貨 幣 と株 式 との 代 替 性 が 高 く,
第 4に,今度 は政府 が 累進 的課税制度 を選択
∂i
/
87
r
>0とな る場 合 に は, 次 の よ うな不 安 定
し,賃 金主導型成 長 レジー ムが成立 す る場合 を
な連鎖 が生 じる。
産 出量 成 長 率 の低 下 (
上 昇)
=⇒賃 金 シェ ア
考 え よう。 労働 生 産性 イ ンデ クセー シ ョンや雇
用 の弾 力性 が小 さい ときに賃金主導型 レジーム
の増加 (
低 下)
⇒ 利潤率 の低 下 (
上昇)
⇒株
が成立 す る こ とは, それ 自体 として安定 的 な作
式需要 の低 下 (
増加) お よび貨 幣需要 の増
用 を生 み出す。
産 出量 成 長 率 の低 下 (
上 昇)
⇒ 賃 金 シェア
2
0) 同様 の結論 は,Fl
a
s
chel[
1
99
3
]Cha
p.4において も
導かれている。
21
) 字仁は,賃金シェアが一定に保たれることを 「
所得分
配のレギュラシオン」 と呼ぶ (
宇仁 [
1
9
9
8
])。本稿では,
賃金シェアが一定に保たれる要因 として,雇用の弾力性
と貨幣賃金の生産性インデクセーションを上げたが,そ
こでは 「
所得分配率の中長期的安定 をもたらしている
要因としては,労働組合の広範な組織化,団体交渉にお
ける賃金決定基準,賃金上昇の社会的波及メカニズムな
2
ページ) としている。
どがあげられる」 (
同上書,1
,
の増 加 (
低 下)
⇒ 産 出量 成長 率 の上 昇 (
低
下)
=
⇒-い ま,何 らかの夕摘勺要 因 に よって,産 出量成長
率 が低 下 した場合 を考 える。 産 出量成長率が低
下 した ときに,雇 用 が非弾力 的で あ り,労働 生
産性 イ ンデ クセー シ ョンも小 さい ような場合 に
は,賃金 シェアは増 加 す る。 賃金主導型 レジ-
調査 と研究
24
第3
1
号 (
2
0
0
5
.
1
0
)
ムの もとでは賃金 シェアの増加 は産出量成長率
幣保有者が利潤率の変化 に敏感であればあるほ
を上昇 させ るので,実物的な観点か ら見れば労
ど株式需要の低下はよ り大 きくな り, (
1
5
)式 を
働生産性 インデクセ←シ ョンと雇用の弾力性が
見れば分かるように貨幣市場 は超過供給 に陥る。
ともに小 さい ことは経済の安定性要因にな りう
この とき,利子率 は下落 し,最終的に産出量成
ると言 える。 また,先 に述べ た利子率の変動か
長率 を上昇 させ ることになる。 したがって,貨
ら生 じる金融不安定性 も賃金主導型成長 レジー
幣 と株式 との代替性 が低 い場合 には
,「逆累進
ムによって生 じる実物的な安定化機能 によって
的課税制度 による利潤主導型成長 レジーム」 と
相殺 され うる。 したが って,累進的課税制度 に
「
労働生産性 インデクセーシ ョンお よび雇用の
よって成立す る賃金主導型成長 レジームの もと
弾力性が ともに小 さい こと」の組み合わせか ら
では,労働生産性 インデクセーシ ョンや雇用の
生 じる実物的不安定性が利子率の変化 とい う金
弾力性が小 さい ことが必ず しも経済の不安定性
融 的 な要 因 に よってある程 度抑 制 され るので
要因 とはな らないのである22)0
ある。
第 5に,貨幣 と株式 との代替性が低い場合 を
最後 に,労働生産性 インデクセーシ ョンお よ
考えることにす る。 いま,投資の利潤率 に対す
び雇用の弾力性が ともに小 さい ときに,価格調
る反応係 数 γが十分 に大 き く,政府が逆 累進
整速度 β♪が非常 に大 き くなる と,次 の ような
的課税制度 を選択 した としよう。 この とき,労
不安定性が支配的になる可能性がある。
β
働生産性 インデクセーシ ョンや雇用の弾力性が
賃金 シェアの増加 (
低 下)
二手物価上昇率の
小 さいことは経済の不安定性要因 となることは
急激 な上昇 (
低 下)
=
⇒実質貨幣残高 の低下
先 に述べ た。 しか し,貨幣 と株式の代替性が低
(
上昇)
⇒ ケインズ効果 による利子率の上昇
く,且つ,利潤率の変化 に対 して株式需要が大
(
低下)
⇒ 産 出量成長率 の低 下 (
上昇)
⇒賃
i
/
87
Tの絶対値 が大 き くなる
きく変動すれば, ∂
金 シェアの増加 (
低下)
=
⇒--
か ら,先の不安定性要因を弱めることがで きる。
いま,賃金 シェアが増加 した局面 を考 えよう。
つま り, この場合 には利子率が経済の安定化機
価格調整速度が非常 に大 きな値 をとると,賃金
能 を果たす ことになるのである。例 として,吹
シェアの増加 は物価上昇率の急激 な上昇 を引 き
のような安定的な連鎖が挙げ られる。
起 こす。 この ような物価上昇率の上昇 は実質貨
産 出量成長率 の低下 (
上昇)
⇒ 賃金 シェア
幣残高 を低下 させ, これはケインズ効果 による
の増加 (
低下)
⇒利潤率の低下 (
上昇)
=手株
利子率の上昇 をもた らす。利子率 の上昇 は産出
式 需 要 の低 下 (
上 昇)
=
⇒貨 幣 の超 過 供 給
量成長率 の低 下 と (
労働 生産性 イ ンデ クセー
(
超過 需要)
⇒ 利子率 の低下 (
上昇)
⇒ 産出
シ ョンと雇用の弾力性が どちらも小 さい ときに
量成長率の上昇 (
低下)
⇒ --
は)賃金 シェアの さらなる増加 につながる。 し
産出量成長率が低下 した場合,労働生産性 イン
たが って,労働生産性 インデ クセーシ ョンと雇
デクセーシ ョンや雇用の弾力性が小 さい ことは,
用の弾力性が どちらも小 さい ときに価格 を非常
賃金 シェアを相対的に上昇 させ,利潤率 を引 き
に速 く調整することは必ず しも経済の安定性 と
下げるこ とになる。 経済の ファンダメンタルズ
結 びつかないのである24)0
を重視す る (と想定 した)資産保有者は利潤率
の低下 を受 けて,株式 を手放す。他方で,利潤
率の低下 は貨幣需要の増大 をもた らすが2
3
)
,質
22) 補論で示す ように, A l
+(A 3-β♪
0
)
/
u*>0, A IA 4A 2A 。
>0とい う 2つの不等式が成 り立つ限 り,労働生
産性 インデクセーションや雇周の弾力性が小 さいことは
マクロ経 済の安定化 と完全に両立 しうる。
2
3
) 本稿では,簡単化のために貨幣の取引需要 を捨象 し/
\ている。 もし,取引需要を考慮 に入れるならば,利潤率
の低下は貨幣の取引需要を低下 させるので,貨幣市場の
超過供給 はさらに拡大するだろう。
2
4) もちろん,価格調整速度が十分 に大 きいことは経済の
安定化 に正の効果 ももたらす。いま,賃金 シェアが上昇
した局面 を考 えよう。貸金 シェアが上昇すると,価格調
整が十分 に早い場合には物価上昇率の急激な上昇 をもた
らし,実質賃金率 を低下 させ るか ら,最終的に貸金 シェ
アは低下することになる。
労働市場の制度的調整とマクロ経済の安定性 との連関
2
5
第 2表 労働市場の制度的調整 と課税制度 との補完性
逆累進的課税制度
(
利潤主導型成長)
労働生産性 イ
ンテ○
クセ-シ
ヨンおよび雇
用の弾力性
累進的課税制度
(
賃金主導型成長)
∂a㍍ 1 か ¢2
= 両方 とも小 さいとしても,経済が安定化する
どちらかが十分に大 きいとき (
1が成 り立つ とき)
,経済の不安定性要因は 可能性があるoまた,完全な資本市場が存在
排除される○両方とも小さいときには,経済 し,貨幣と株式の代替性が高い場合において
が不安定化する可能性があるoただし,その ち,賃金主導型成長 レジ-ムそれ自体が,刺
場合でも資本市場規制などにより貨幣と株式 子率の誤調整から生 じる金融不安定性を抑制
その不安定性はある程度抑制
の代替性が低いときは,利子率の変動により
されるo
する○
物価インデク
セーション
十分に大 きいとき (
∂♪
>1のとき)
,経済が不安定化する可能性があるo
Ⅴ あ わ りに
本稿 で は,労働市場 の制度 的調整がマ クロ経
らとも小 さい場合 に逆累進 的課税制度 を採用す
る と,利子率 の誤調整 は経 済の不安定化 をさら
に強め る。 しか し,貨幣 と株式 の代替性 が低 い
済の安定性 に どの ような影響 を もた らすか とい
ときには,利子率 の変動 は経 済 を安定化 させ る。
う問題 を考 察 した。本稿 で明 らか になった点 は,
他方,累進 的課税制度 の もとでは賃金主導型 の
第 2表 の通 りである。
成長 レジームそれ 自体 が,利子率 の誤調整 か ら
まず,課税制度が累進 的であるか逆累進 的で
生 じる金融不安定性 を抑制す る。 最後 に,物価
あるか に よって,産 出量成長率が賃金主導型 に
イ ンデ クセー シ ョンが十分 に大 き くなる と,質
なるか利潤主導型 になるかが決定 され る。 労働
金物価 スパ イラル を招 き,経 済 は不安定化す る。
生産性 イ ンデ クセー シ ョンと雇用の弾力性 が ど
本稿 を締 め くくるにあたって,上記 の理論 的
ち らとも小 さい こ とは,逆 累進 的課税制度 (
刺
帰 結 が現 実経 済 に対 して どの よ うな イ ンプ リ
潤主導型成長) の もとで は経 済の不安定性 要因
ケー シ ョンを もつか を簡潔 に記 してお こう。 ま
となる。反対 に,累進 的課税制度 の もとで は,
ず,米 国経 済 を例 に とる と,その課税制度 とし
産出量 の成長が賃金主導型 になるか ら,労働 生
ては もともと法 人税率が低 い (
課税率 の累進性
産性 イ ンデ クセー シ ョンと雇用 の弾力性 が とも
が小 さい) こ とが,その資金調達構造 と しては
に小 さ くとも経 済が安定化す る可能性 が あ る。
資本市場主導型金融 システムが成立 してい るこ
以上 の こ とか ら,労働 生産性 イ ンデ クセー シ ョ
とが挙 げ られ る。 前者 の制度的特 質 は利潤主導
ンが強い賃 金制度お よび雇周 の弾力性が大 きい
型成長 レジーム を成立 させ,後者 は 自由な資本
雇用制度 と,逆累進 的課税制度 とのあいだには
市場 の活性化 とともに貨幣 と株式 の代替性が高
制度 的補完性 が存在す る と言 える。 さらに, た
まるこ とにつ なが る。 しか し,米 国経 済 におい
とえ労働生 産性 イ ンデ クセー シ ョンと雇周 の弾
ては,雇用 の弾力性が相対 的 に高 い とい う労働
力性 が ともに小 さか った と して も,累進 的課税
市場 の制度 的調整パ ター ンが成立 してい るので,
制度か ら生 じる賃金主導型成長 レジームが その
「
本稿 で明 らか に した実物 的お よび金融不安定
実物 的不安 定性 を打 ち消すので,それ らの諸制
性 」はあ る程 度抑 制 され て い る もの と考 え ら
度のあいだ に も補完性 は存在 す る。 また,完全
れ る。
な資本市場 が存在す れば,貨幣 と株式 は代替 的
0年代後半
また, 日本経 済 に目を向 ければ,7
にな り,利子率 に誤調整が生 じる。 労働 生産性
以降は名 目賃金が労働 生産性 と連動 しな くな り,
イ ンデ クセ ー シ ョンお よび雇用 の弾力性 が どち
雇用 の弾力性 も低 い ままである とい う労働市場
2
6
調査 と研究
第31
号 (
2
0
05.1
0
)
の調整パ ター ンが成立 している。 この ような状
が成熟す るならば,貨幣 と株式の代替性が高 ま
況の もとで,80年代後半以降の税制度改革や金
るか ら,経済の金融不安定性が生 じる もの と考
融 システム改革 を推進す ることはマ クロ経済の
え られる。 したがって,上記の ような税制度改
安定性 に次 の ような影響 をもた らす。第 1に,
革 と金融 システム改革が今後 も推進 されるなら
80年代後半か ら政府 によって推進 された法人税
ば,労働生産性 インデ クセ-シ ョンか雇用の弾
率の引き下げは,課税率の逆累進性 を高め,刺
力性の どち らか を十分 に高めるような労働市場
潤主導型成長 レジームが成立す る基盤 になると
の制度的改革が必要になる と言 える。
考 えられる。 この成長 レジームが成立す ると,
労働市場 の調整パ ター ンが変化 しない限 り,経
補論 :定常状態の局所 的安定性の証明
済の実物 的不安定性が顕在化す ることになるだ
ラウス=フル ヴイツツの判別法 を用 いて,定
ろうO 第 2に,金融 システム改革の一環 として
常状態が局所的に安定であるための条件 を吟味
資本市場 を自由化 し (
あるいは, 日本の金融 シ
21
)
式,
する。 正の均衡点において評価 した, (
ステムが銀行主導型か ら資本市場主導型 に転換
(
22
)求, (
2
4
)式か ら成 る動学 システムのヤ コビ
し),それ に伴 って資産保有者 の資産選択行動
*は,次の ように表 される。
行列 J
-[
(
1-∂
a
)(
1-¢)A l
+(1-∂♪)β90]7
T
*(
巨 ∂
a
)(
1-¢
)A2
m* (
卜 ∂
a
)(
1-¢
)
β意 志
(A l
+ A 3)u*
-(A2
+ A 4)u*
(A 3- β♪
0)
)*
- d 4A*
が
-βL
・
% (
去 -1)u*
灘*
β
>0とす る。 次 に,貨 幣 と株式 の代替性 が
ただ し,
』 2
低 い 場 合 を考 え る。 この場 合 は (
す なわ ち
A1
-a,
-g
w-β意 志
A 2- (
α+ cg-
i +βt
・
%
βi
t
)
di
/
dr>0であれば), ∂i
/
87
T<0, ∂i
/
au>0とな
る。 したが って,βiが どの ような値 を とるか
去
によって, 』 2, 』 3, 右 の符号 が決定 され る
β
濃
-β,
(
ll ,
)
u*+
A3
ことになる。 以下では,投資の利子率 に対す る
反応係数 β Zが投資の トレン ドを表す定数項 α,
A4
-βr
(
1"r
)(
1-が ト β老 雄
u
とおいた。 ここで, 』 2, 』 3, 』 4 の符号 を確
認 してお こう (』 1 の符号 は後 に確認す る)。
まず,貨幣 と株式が高い代替性 をもつ場合 を
β
利潤率 に対す る反応係 数 ,お よび産出資本比
率 に対す る反応係数 β"に比 して十分 に小 さい
, A 3>0
, A 4>0となる (
限
と仮定 し, A 2>0
定的な)場合 を考 えることにす る。 また,前述
考 える こ とにす る。 ∂i
/
87
r- (
∂i
/
ar
)(
∂r
/
87
r
)で
したように ∂i
/
81は負債 をとる。 これはいわゆ
∂
タ
ノ
∂7
r
<0であ るか ら,貨幣 と株式 との
るケインズ効果 を表 し,その絶対値が大 きけれ
あ り,
代替 的が 高 ければ (
す なわ ち di
/
dr<0であれ
ば大 きいほ ど動学 システムが安定的になること
ば),∂i
/
87
T
>0となる。 また,同様 の類推 によ
が知 られている。
/
au- (
∂i
/
ar
)(
∂r
/
au)<0 となる。 以上の こ
り ∂i
ヤコビ行列 J
*の固有値 を pで表す とすれば,
固有方程式 は以下の ようになる。
とか ら, 』 3>0
, 』 4>0であることは分かる。
A 2 に関 しては,利子率 に対す る反応係数 β
,
・
が
投資 の トレン ドを表す定数項 αや財政支 出 を
表す定数項
cg
に比 して十分 に小 さい と仮定 し,
p3+ zI
P2+ 22
P+ Z3- 0
(
2
8)
均衡点が局所的な安定性 を有す るための条件 は,
(
2
8)式 の係数 zl, 22, Z3お よび zIZ2- 23が正 の
2
7
労働市場の制度的調整 とマ クロ経済の安定性 との連関
値 をとることである。
22-
係数 z3は以下の ようになる。
d
e
t
J
*
(
A
2
+A
4
#)
[
∂
a
(
巨 ¢)
Z
3
・軒 ∂b
]
89
0
B
i
仁 窓 )がu*
l* (
2
9
)
(
2
9
)式 か ら,物価 イ ンデ クセー シ ョンの強 さ
∂
Pが十分 に小 さ く,∂a(
1-¢)+¢-∂
♪
>0とな
れば, 23> 0 が常 に成 り立つことが分かる。
係数 zlは次式で与 えられる。
(
A
2
+症 )
βi
仁 窓 )u*
^*
・((卜 ∂a)(1-¢
)l
+
慕(
lA
♪
0
)
]
A 3- β
B
i
(
一
意)
が ^*
・(
巨 ∂
b
)
Bb
O
i
+(
(
1-∂a
)(
1-¢)[
A IA 4-
A 2A 3]
+(
1-∂
♪
)(A2+ A4
)
晶の7
r
*
u*
(
31
)
(
31
)式右辺第 1項は正億 をとるが,第 2項お よ
び第 3項の符号は明 らかではない。第 2項が正
l
三一t
r
a
C
e
J
*-[
(
1-∂
a
)(
1-¢
)Al
であるための十分条件 は, Al
>0, A3
-β♪0>
z
+(
1-∂
b
)
払0
]7
T
*+ (A 2+A4
)
u*
0お よび 1-∂
♪>0である。 もし,累進的課税
制度 の もとで Al
>0が成立 し,且 つ, A3-
B
i
仁
意)
}
*
・
(
30)
(
3
0)式右辺第 2項お よび第 3項は正値 をとるが,
第 1項の符号 は明 らかではない。第 1項の符号
β♪
β>0で あ れ ば,労働 生 産性 イ ンデ クセー
αや雇用の弾力性 ¢が小 さ くと
シ ョンの強 さ ∂
もよいが,逆累進的課税制度の もとで 』 1<0
が正 であ るため の 1つ 目の条件 と して, 1-
となるか, または 晶 が非常 に大 きな億 をとれ
∂
♪
>Oであることが必要である。 もし,物価 イ
0
)
/
u*<0となるか ら,∂
a
方1
ば, Al+ (A3-β9
ンデクセ-シ ョンの強 さ ∂
少が 1よ り大 きけれ
ば,賃金物価 スパ イラルを招 く可能性がある。
あるいは ¢㍍1が成立 しなければならない。 ま
>0の ときには労働生産性 イ ンデ
第 2に, dl
クセーシ ョンの強 さ ∂
βや雇用の弾力性 ¢が と
もに小 さ くと も よいが, d l<0の と きには
∂
a
疋1または ¢先1が成立す ることが必要 にな
る。 Al(- 5,- t
w- B i
(
∂i
/
87
r
)
/
u*
)の符号の決定
課税制度の選択」 と 「
貨幣 と株式の
要因は 「
,
代替性」の 2つである。 もし,投資の利潤率 に
β
た, 1-∂
♪
>0とい う条件 か ら物価 イ ンデ ク
セーシ ョンは十分 に小 さくなければならない と
31
)式右辺第 3項が
い うことが言える。 次 に, (
正値 を とるためには, dld。- 』2』3>0が成
り立たなければならない。 しか し, この不等式
は必ず しも成 り立つ とは言 えない。なぜ なら,
前述 したように投資の利潤率 に対する反応係数
β
γが十分 に大 きく,政府が逆 累進 的課税制度
対す る反応係数 γが十分 に大 きく,政府が逆
累進 的課税制度 を選択 す るな らば, 6,-i
w-
を選択 す るな らば, Al<0とな り, AIA4-
(
S
,-βr
)(
1-才
,
)+i
,
-t
w<0 とな り,利子率の変
化 を考慮 しなければ 』 1<0が成立する。 また,
定性要因を失 くすためには,∂
α
だ1あるいは ¢
㍍1であることが必要 になる。 逆 に,政府が累
i
』2』3<0 となるか らである。 この ような不安
貨幣 と株式 との代替性 が高 く, ∂/87
T>0 とな
進的課税制皮 を採用 し, A lの億が大 きくなれ
る場合で も, dl<0 となる可能性がある。逆
ば, AIA4- A2A3>0が成立す る可能性 があ
に,政府が累進的課税制度 を選択 し, (
S
,- β,
)
(
1-t
,)+
i
,
-t
w>0 となれば, Al
>0が成立す
。
る。 この不等式が満たされる限 りにおいて,∂
㌶1あるいは ¢㍍1である必要がな くなる。
る可能性が高 くなるだろう。 さらに,貨幣 と株
ラウスニフルヴイツツの学帽り
法の最後の条件
式 との代替性が低 い場合 には, ∂i
/
aTC<0とな
である zIZ2- Z3> 0 に関 しては,次 の こ とが言
り, Alの値 を正の方向に導 くことになる。
える。いま,
係数
れる。
Z2 は余 因子 行 列 の
トレー スで与 え ら
Cl
-(
1-∂
a
)(
1-¢
)Al
7
r
*+(A2
+A4
)
u*
β
i
(
一
意)
}*
・
2
8
第31
号 (
2005.
1
0)
調査 と研究
去]
C2-(
(
卜 ∂
a
)(
1-¢)lA l
+(A 3- 品 0)
)
β
b
・(
巨∂
♪ c)Bi仁
意)
W*
}
*
ver
s
i
t
yPr
es
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c
r
o
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y
nami
c
s
:I
n
c
o
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s
Fl
as
c
hel
,P.[
1993〕 Ma
t
r
i
b
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n, Eue
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al
Gr
o
wt
h
,Fr
ankf
ur
tam Mai
n,Pe
t
erLang.
+(
(
1-∂a
)(
1-¢)[A IA 4- A 2A 3]
+(1-∂♪)(A 2+ A 。)β♪ehT
*
u*
とお くと, z -Cl
+(1-∂♪)
β♪
0
7
T
*, 22=C2+
(A 2+ A4
/
u*
)
βi(- ∂
i
/
a
l
)
u*
)*となる。 これ ら
er[
1
99
7
]
Fl
as
chel
,P.
,Fr
a
nke,氏.andW.Semml
を利用す る と, zIZ2- Z3は次の ようになる。
藤 田真哉 [
20
04] 「
労働市場 の制度的調整 をともな
l
+A4去 )β
i
仁意 )
zI
Z2- g3-C1
C2+Cl(A 2
Dy
na
mi
cMac
r
o
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c
o
no
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c
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,Cambr
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Mas
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T Pr
es
s‥
」『季刊経 済
うグ ッ ドウイン型循 環成長 モデル
理論』 第41
巻 第 2号。
u*
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*+C2(
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-∂♪)BPO7r*
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1
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A 2+ A 4
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fCa
pi
t
al
i
s
m,eds.byMar
gl
i
n,S.A.
上述 した z
lお よび Z2が正億 をとる条件が満 た
and I
.B.Sc
hor
,Oxf
or
d,Oxf
or
d Uni
ver
s
i
t
y
されるな らば, Clお よび C2 が正値 をとるか ら,
磯 谷 明 徳 ・植 村 博 恭 ・海老 塚 明監 訳
Pr
es
s
.(
『
資本主義 の黄金時代 :マルクス とケイ ンズを
zI
Z2- Z3> 0となる。
超 えて』東洋経 済新報社 ,1
993年)0
監
付記3 本稿 は,文部科学省科学研 究費補助金 ・基
BXl
汗経済制度の補完性 と経 済調整の
盤研 究(
3-1
5年度,研
安定性 との関連の研究」 (
平成 1
究代 表 者, 字仁 宏幸) の研 究 成 果 の一 部 で
ある。
1
9
95
] 「金融構造 と金融不安定性 の諸類
野下保利 [
型」 (
青木達彦編 『
金融脆弱性 と不安定性 :バ
ブルの金融 ダイナ ミズム』 日本経済評論社)。
Schaber
g,M.[
1
999] Gl
o
b
al
i
2
=
at
i
o
nan
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