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地域医療の方向性(10うつ) (PDFファイル 305.8KB)

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地域医療の方向性(10うつ) (PDFファイル 305.8KB)
10 うつ対策
【現状と課題】
〔現状〕『
増え続ける自殺!!』
自殺による死亡者の約半数がうつ病と言われており、うつ対策と関連が深い自殺について、
現状をみてみました。
要 旨
○ 自殺による死亡者数は平成10年から急増しました。岩手中部圏域でも年間70名~80
名近くの自殺者数となっています。特に花巻の50代~64歳代男性の死亡率が高率です。
○ 自殺の原因・動機は、健康問題、その中でもうつ病に関するものが多くなっています。
○ 自殺に関連の深いうつ病の治療の6~7割は、内科をはじめとする一般診療所が担ってい
ます。
○
自殺による死亡者数は、平成 10 年から急増し、全国では3万人を超え、岩手県でも全
国同様、10 年に急増しはじめて 500 人を超えました。岩手中部圏域でも、平成 10 年から
急増しています。特に男性では、花巻市、北上市で急増し、平成 15 年~16 年をピークに
花巻では年間 40 名近く、北上では 30 名近くの自殺者数となっています。
粗死亡率 自殺 ( H1 4 -1 8平均/ H1 8人口)
総数
男
女
(人口 10 万人のうち何人死亡したか?)
80.0
70.0
人
口
十
万
対
60.0
50.0
40.0
76.6
68.1
61.2
54.1
39.0
36.0 35.6
全国
18.6
岩手県
18.9
18.3
盛岡
花巻
51.4 51.6
47.7
37.7
34.1
32.6
59.1
56.2
50.4
48.2
30.0
24.2
20.0
13.0
10.0
0.0
59.1
34.3
31.4
18.3
北上
17.8
奥州
43.6
16.2
一関
38.6
32.9
14.8
16.3
12.8
大船渡 釜石
29.6
29.3
宮古
久慈
二戸
岩手中部圏域 自殺死亡数(男)
40
花巻市
遠野市
35
北上市
西和賀町
30
25
20
15
10
5
0
平成7年
平成8年
平成9年
平成10年
平成11年
平成12年
平成13年
平成14年
平成15年
平成16年
平成17年
平成18年
花巻市
20
21
14
32
30
30
21
23
38
35
27
23
遠野市
9
12
8
6
12
7
8
14
9
9
9
10
北上市
11
14
19
25
27
23
22
25
27
29
16
21
西和賀町
3
1
2
0
1
1
1
2
3
0
0
3
- 63 -
岩手中部圏域 自殺死亡数(女)
25
20
花巻市
遠野市
北上市
西和賀町
15
10
5
0
○
花巻市
平成7年
13
平成8年
7
平成9年
9
平成10年
16
平成11年
9
平成12年
14
平成13年
21
遠野市
3
7
2
2
北上市
6
6
4
9
西和賀町
1
0
1
1
2
平成14年
8
平成15年
18
平成16年
9
5
5
11
10
1
平成17年
7
平成18年
4
4
4
7
7
12
5
4
3
3
6
15
0
0
3
6
0
0
0
最近5年の平均死亡数を、年齢・性別にみると、花巻の男性は高率です。特に、50 歳代
~64 歳代での死亡数が高率となっています。
○
自殺既遂者の死亡票から見てみると(花巻市分
平成 14 年~19 年
238 名)うつ病等
の精神疾患について記入のある方は、ごく少数となっています。死亡届には、ほとんど基
礎疾患の記載はなく、自殺既遂者のそれ以上の追跡調査をしていないのが現状です。しか
し、現在、岩手医大附属病院精神科学講座では、自殺既遂者の追跡調査を施行し、その傾
向と原因の調査を開始したところである。今後は自殺既遂者の詳細な検討が、自殺予防、
うつ病の発病や悪化抑制に大きく寄与するものと思われます。
○
警察庁
原因・動機別自殺数(平成 19 年)では、健康問題が 10 代を除く各年代で原因・
動機の1位となっています。健康問題では、60 歳以上の年代を除く各年代で病気の悩み(う
つ病)が1位、20 歳~49 歳ではついで統合失調症となっており、60 歳以上では、身体の
病気の悩み、ついでうつ病の悩みとなっています。
年齢階級別死亡数(H14-18年総数) 花巻保健所管内
H14-18合計(男)
H14-18合計(女)
30
25
20
15
10
5
○
85
-
4歳
-8
9歳
80
-7
4歳
75
-7
9歳
70
-6
4歳
65
-6
9歳
60
-5
4歳
55
-5
9歳
50
-4
4歳
45
-4
9歳
40
-3
4歳
35
-3
9歳
30
-2
4歳
25
-2
9歳
20
-1
4歳
15
-1
10
59歳
04歳
0
日本では、うつ病の罹患率は女性のほうが男性より2倍高いという状況です。その一方
で、うつ病による自殺は、未遂が女性に多く、既遂では男性に多いという結果があります。
(参考:自殺未遂者に関する基礎調査:岩手県精神保健福祉センター)
また、全国の心療内科では、うつ病の女性患者数は男性患者数より 1.5~4.5 倍も多いと
- 64 -
いう推計があります。
(千田恵美:シリーズ「ストレスと病気」④
○
岩手の保健
194:2008)
自殺者の少なくとも 55%が過去に精神科受診歴を有し、46%が自殺時に精神科治療を
継続しており、さらに、26%が最後の1ヶ月以内に精神科を受診していたという結果は欧
米のそれに匹敵します。しかし、精神障害に対する偏見がもたらす影響もうかがえます。
それは高齢になるほど受診率が減少したことと、男性のほうにその傾向が強かったこと
です。
(張賢徳:「自殺既遂者中の精神障害と受診行動」日本医事新報
○
自殺者の多くは、亡くなる前の3ヶ月以内に精神科以外の身体科を受診していた。
(張賢徳:「自殺既遂者中の精神障害と受診行動」日本医事新報
○
3789:1996)
3789:1996)
うつ症状群の患者が初診診療科として受診した科は、内科が最も多く 64.7%でした。こ
の調査からも分かるように、うつ症状を呈する患者の多くが身体症状を主訴に内科を受診
しています。
(三木治:心身医学
○
42(9):586、2002)
身体的慢性疾患を1つ以上有する患者のうち、平均 9.3~23%がうつ病にも罹患する。
社会経済的因子、および健康状態で補正すると、うつ病は他の慢性疾患に比べ、平均健康
スコアを悪化させる効果が一番大きかった。
(Moussavi Set al.2007;370:851-858.LANCET)
○
一般診療所医師の約7割がうつ治療を経験している。うつ病を疑った患者への対処とし
て一般診療科医師の 31.1%は経過観察をしている。診療上の課題として挙げられた上位項
目は「診断に時間がかかる」
「うつ病の診療経験が乏しい」
「カウンセラーや心理士の人材
がない」「精神科に患者が行きたがらない」であった。
体制として必要なこととして挙げられた上位項目は、「一般診療科と精神科医師の連携」
「職場の理解とサポート」「一般診療科での早期発見のシステム」「職場や地域での早期発
見システム」「医療機関以外での相談できる場所」であった。
(三野善央ほか
○
大阪府立大学教授
平成 19 年度厚生労働科学研究)
岩手中部圏域の精神医療については、精神科病床を有する病院 4 か所で 724 人に入院医
療が提供され、また病院・診療所等で 2,083 人に自立支援医療(精神通院)が提供されて
います。気分障害で自立支援医療(精神通院)を利用している人は、花巻市 231 人、遠野市
60 人、北上市 273 人、西和賀町 15 人となっています。計 579 人で自立支援医療の 27.8%
となっています。気分障害で入院している人(任意入院)は、岩手中部圏域の精神科病床
を有する病院で 15 人となっています。
(平成 19 年度精神保健福祉資料、厚生労働省)
- 65 -
うつ病の生涯有病率は、うつ病 6.5-7.5%、過去 12 ヶ月間の有病率 2.2%
(川上憲人
岡山大学教授
平成 14 年度厚生労働科学研究)
そこから推計されるうつ病患者数からみるとこの数字はごく一部の数と考えらます。
〔課題〕
(うつ病の啓発普及)
○
うつ病の治療のために必要時、精神科を受診できる環境づくりのため、住民への啓発普
及が必要です。
① うつ病は病気であることを啓発普及する必要があります。
② うつ病のサインを「わかりやすいキーワード」で表現・広報するなどの工夫を行う必要
があります。
③ うつ病を早期に発見し専門的な治療に結びつけるため、健診や相談の場における取組
を促進する必要があります。
(うつ病の治療)
○
増え続ける自殺の背景には、うつ病の問題があり、うつ病をどのように治療するかが重
要です。
① うつ病は全年代を侵します。特に注意すべきは、中高年男性の未受診とうつ病を背景
とした自殺が多いことです。
② うつ症状の方の多くは、身体症状で内科を受診しています。
③ 内科医師にも、うつ病治療のプライマリーケア(病気の初期治療)を担ってもらい、
うつ病の重症化を予防するため、一般診療所と精神科医療機関との連携体制を構築する
必要があります。
④ 県土が広大で、交通アクセスの不便さ、精神科医療機関の偏在化など受診しにくい環
境についても考慮が必要です。
【必要な医療連携体制】
(うつ病治療体制)
今後の取組み:最終目標(医療連携の望まれる姿)
○
うつ病のプライマリーケアと重症化予防を目的にかかりつけ医(一般診療所)と精神科
医療機関の連携体制の構築を進めます。
短期目標・具体的活動
○
うつ病治療のための一般診療所・精神科医療連携の必要性について、関係者の理解を深
めます。
・
一般身体科・薬局・精神科等関係者相互交流研修会を開催します。
・ 医療連携体制をめざした検討委員会を設置します。
(連携に係る意見を検討、自由な意
見交換の場として充分な機能を果たす。)
(参考)大津G-Pネット※
※
G-Pネットとは、一般診療科-精神科(General-psychiatrist)ネットワークの略
- 66 -
○
医療連携を協同関係で成り立つしくみにします。
・
連携を実行可能なものにするため具体的に連携のための用紙や窓口、共通の約束事等
のツールの準備(検討委員会での検討事項)をします。
・
連携のための指針を作成します。
(啓発普及)
今後の取組み:最終目標(啓発普及の目指す姿)
○
うつ病で困った時、精神科を受診しやすい環境をつくります。
短期目標・具体的活動
○
保健所等が中心となり、上記、検討委員会で、啓発普及の方針を検討します。
○
うつ病の治療のために必要時、精神科を受診できる環境づくりのため、住民への啓発普
及を行います。精神科受診の敷居を低くするため、働き盛り年代への広報活動:うつ病の
サインを「わかりやすいキーワード」を用いた広報活動を展開します。
⇒
参考
「冨士モデル」睡眠キャンペーン
うつ病に必発で、気づきやすい「不眠」をキーワードに広報を展開した事例
⇒
参考
わかりやすい3つの症状
①
抑うつ気分(憂鬱・落ち込み・気が晴れない等)、
②
興味と喜びの喪失(普通は楽しいと感じる活動に喜びや興味を失う等)、
③
易疲労性(身体がだるくてきつくて億劫・ほんの少し活動しただけで酷く疲労を感じ
る等
- 67 -
うつ対策医療体制 (連携イメージ図)
早期発見・早期対応
ハイリスク者の発見から早期治療
地域で
◆
発
うつスクリーニングの実施
○ 健康教育の場で
見
診療依頼
診療相談
相互
連携
精神科医
職場で
○
うつスクリーニングの実施
出前講座の場で
必要に応じ
入院治療
家庭で
◆
プライマリーケア
一般診療所(かかりつけ医・産業医)薬剤師
◆ 相談活動を通じて
○ 市町村の窓口で
○(精神科医師による)精神
保健相談で
○ 自殺予防関係機関の相談
窓口で
◆
と
( ゲ ー ト キ ー パ ー )( 初 期 治 療 )
うつのパンフレット等を通
じて
アドバイス
情報提供
精神病床のある精神科病院
国立病院機構花巻病院
花北病院
本舘病院
六角牛病院
精神科診療所
さいとう心療内科医院
ちば心療内科クリニック
なるいクリニック
◆ かかりつけ医等医療関係者研修会開催
◆ 薬剤師を対象にした研修会 など
住民
(こころの健康)
相互
連携
相互
連携
心理的孤立を防ぎ、ともに支え合う地域づくり
市町村
民生委員協議会
保健所
保健推進員協議会
医師会
社会復帰施設
精神科病院
薬剤師会
職場
学校
花巻・遠野/北上
地域自殺対策ネットワーク会議
うつ病治療連携検討委員会
・ かかりつけ医と精神科の連携の
方策について検討する
・ かかりつけ医と精神科医師の自
由な意見交換の場
青年期メンタルヘルス支援連絡会議
青年期のうつ・自殺対策につい
ての検討
社会福祉協議会
住民ボランティア
精神保健ボランティア
官民一体となった
自殺予防対策の推進
傾聴ボランティア
弁護士
地域で、職場で、家庭で「うつ」や自殺に関する正しい知識の啓発
○
・
・
・
住民に対する啓発・普及
こころの健康づくり等講演会
健康まつり、地区健康教室等
広報の活用
○職場での啓発
○ 啓発普及教材の作成配布
・ 事業所への出前健康講座
・ パンフレット作成・配布
・ 労働関係団体主催の健康 (うつの適正受診について等)
講演会等
- 68 -
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