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追いつめられる母親たち

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追いつめられる母親たち
社会病理・逸脱(2)
追い詰められる母親たち
貧困と児童虐待
大阪市立大学大学院都市文化センター
UCRC 研究員
秋風 千惠
1.目的
2000 年に児童虐待の防止等に関する法律が施行されて以来、この法律が謳っている児童虐待に係る通
告をもとに虐待報告件数は、法施行前に比して増加していると言われている。ラベリング理論による効
果なのか、そもそも増加しているというのは事実なのか、検討する。また、児童虐待を行う虐待者の半
数以上が母親であるという現状のなか、なぜ母親が虐待者になってしまうのか、その原因を探る。
2.方法
調査の方法としては、公的統計と文献調査が主である。
3.結果
内田らの検証によっても、児童虐待は増加しているとは言えない。そんな中で母親が虐待に向かって
しまうのは、子どもを育てるのは女性の仕事であるというジェンダーバイアスと、ひとり親家庭の貧困
というふたつの大きな問題がある。日本の相対的貧困率は、2000 年代中ごろから一貫して上昇傾向にあ
り、OECD 平均を上回っている。2012 年版「厚生労働白書」によれば、日本は相対的貧困率が高く増加
傾向にあり、ジニ係数も OECD 諸国の平均より高く推移している。また、就業率の男女差が大きく、長
期失業者の比率も OECD 平均より高く、男女間賃金格差が大きいことがわかった。家族関係社会支出に
ついても、フランス 3.00%、イギリス 3.27%、スウェーデンは 3.35%であり、これら3国では合計特殊出
産率が回復している。しかし、日本は 1.04%に過ぎず、安心して子どもを産めない、育てられないとい
うのが現状である。この貧しい社会保障の中で、女性たちは「よい母」であろうとしてかえって追い詰
められていく。
4.結論
ジェンダーバイアスが「よい母」になることを強要し、母親を圧迫している現状がある。そのうえひ
とり親であれば貧困に陥ることが多く、こういった事情が母親をネグレクトに向かわせる原因となって
いる。これを打破するには、社会保障の在り方の変更が必要である。また草の根的な広がりを見せる社
会関係資本のますますの充実が望まれる。
【参考文献】
阿部彩,2008,『子どもの貧困』岩波新書.
子どもの貧困白書編集委員会,2009,『子どもの貧困白書』明石書店.
杉山春,2013,『ルポ虐待―大阪二児置き去り死事件』ちくま新書.
中島さおり,2005,『パリの女は産んでいる』ポプラ社.
辻京子
「児童虐待リスクとしての母子家庭――社会的排除とジェンダーの視点
http://www.jsrsai.jp/Annual_Meeting/PROG_50/AbstractC/aC07-3.pdf
湯浅誠,2008,『反貧困―「すべり台社会」からの脱出』岩波新書.
内田良,2009,『児童虐待へのまなざし―社会現象はどう語られるか』世界思想社.
上野加代子,1996,『児童虐待の社会学』世界思想社.
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