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ロシア:サハリン-ハバロフスク-ウラジオストック・パイプラインの将来展望

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ロシア:サハリン-ハバロフスク-ウラジオストック・パイプラインの将来展望
更新日:2009/08/6
調査部:本村真澄
公開可
ロシア:サハリン-ハバロフスク-ウラジオストック・パイプラインの将来展望
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7月31日、プーチン首相が参列し、ハバロフスクでサハリン-ハバロフスク-ウラジオストック・パイプ
ライン(口径 48”,1220mm)が起工された。首相は天然ガスの国内供給優先を強調した。
第1期工事は、2012 年秋に開催予定のAPECに間に合う様に、2011 年3Q までに、ウラジオストック
に向けて 1,350km を建設し 60 億 m3/年の天然ガス供給を行うというもの。
供給ガスとしてはサハリン-1を期待しており、Gazprom は ExxonMobil と協議中である。追加のガス
供給にあたっては、サハリン-1側はガスの生産井、陸上処理プラント等大規模な投資が必要であ
り、ガスプロム側もそれに見合う経済性を提示しなくてはならない。両者の論点は経済性である。
第 2 期工事では、サハリン-ハバロフスク間の拡充及び、サハリン-3やサハ共和国チャヤンダ・ガ
ス田からのラインの繋ぎ込みにより、輸送量は 300 億 m3、最大 472 億 m3 に拡大される見込み。
2020 年の沿海地方の需要が 190 億 m3 と見積もられることから、天然ガスの輸出余力が生じ、「東方
ガスプログラム」では中国・韓国へのパイプラインの延伸が、その他ウラジオストックからの LNGによ
る輸出が検討されている。
世界的な経済危機のもとでの大規模投資となるが、これは危機を克服した後に急増すると見られる
エネルギー需要を見越してのもので、その時点での優位性の確保を目指している。
1. はじめに
7 月31 日、サハリン-ハバロフスク-ウラジオストック(SKV)パイプラインの起工式がハバロフスクの南
方約80kmに位置するゲオルギエフカ(Georgievka)村で執り行われた。実際の工事は22日から開始され、
メドヴェージェフ大統領からの祝電まで披露されたが、プーチン首相が臨席できるタイミングとして、改め
てこの日が選ばれた。会場にヘリコプターで到着したプーチン首相は、約 5 分間の演説を行った後、演
壇を降りて口径48“(1220mm)のパイプラインに近づき、用意してあった自動溶接機を3分間操作して最
初の溶接を行い、パイプの外側にサインをした。演説の概要は以下の通り1。
「本件は『東方ガスプログラム』の一部をなす産業プログラムの一つであり、このプログラムは、ボルガ=
ウラル、西シベリアの油田開発、ヤマル自治管区における天然ガス開発と並ぶ大事業である。極東・東
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Kommersant, 2009/8/03、IOD, 2009/8/03
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Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
シベリアにおける新たなガス生産センターを立ち上げることは非常に重要であり、我が国東部における
ガス輸送インフラの発展は、輸出先の多様化とアジア太平洋市場における地位の強化を我々にもたらす。
東シベリアと極東の天然ガスはまずは国内市場に優先的に供給されるべきものである」
この後首相は、ハバロフスク市において「極東地域の発展に関する会議」に参加し、世界経済危機下
でも連邦政府による『極東・ザバイカルの経済社会発展』プログラムは堅持され、同プログラムで計画さ
れているエネルギー発展プロジェクトやAPECサミット準備への財政拠出が削減されないと明言した2。
翌 8 月 1 日には、プーチン首相はバイカル湖畔のバイカリスク(Bikalisk)にあるオレグ・デリパスカの製
紙工場を視察して操業再開の可能性に触れた後、潜水艇「ミール1」に乗り込んでバイカル湖底まで潜
水し、ガス・ハイドレートの存在を確認した。潜水艇による調査は、7 月から実施されているもので、湖底
に炭化水素の兆候である泥火山(mud volcano)の存在が既に報告されている。これは、東シベリアにおけ
る炭化水素ポテンシャルを印象付けるためのパフォーマンスと思われる。なお、このミール1とは 2007 年
8 月には北極点にまで潜水して話題を集めた潜水艇である
写真: パイプラインの最初の溶接を行うプーチン首相(ガスプロムwebsiteより。右の人物はAnanenkov副
社長)http://www.gazprom.com/press/news/2009/july/article66851/
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Government.ru, 2009/7/31
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
図1 サハリンからウラジオストックへの天然ガスルートと、稼働開始したの原油、LNGの輸出
ターミナル(予定も含む)
2. サハリン-ハバロフスク-ウラジオストック(SKV)パイプラインの概要
サハリン-ハバロフスク-ウラジオストック(SKV)パイプライン(図1)は、ロシア極東におけるガス化
(gasification)、即ち民生と発電について石炭からガスへの燃料転換を図るものであり、国内ガス供給
量を増大させる一方で、併せてアジア諸国向けガス輸出も目的としている。エネルギー相Sergei
Shmatkoは極東ガスP/L事業の総費用を$110 億と見積もっており、当該コストは国内のガス輸送タリフを
引上げることにより回収する可能性があるとした。パイプライン計画の概要は以下の通り3。
(1)第1段階
・総延長:1,350km。ハバロフスク→ウラジオストック間は約 1,000km。ウラジオストックのルスキー島までの
支線が 122km。よって、残りの 200km はウラジオストックの南方のザルビノ(Zarbino)一帯までを含む区
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IOD, 2009/8/03
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
間と思われる。
・輸送能力:60 億 m3/年(一部の報道では 70 億 m3/年)。
・事業費:66 億ドル4、2009 年分は 500 億Rb(16 億ドル)、
・完成時期:2011 年第 3 四半期。2012 年秋の APEC の前に沿海地方におけるガス化を完了させる。
(2)第2段階
・総延長:1800km となり、恐らくはサハリン→ハバロフスク間の新規ライン併走による容量拡大と思われる。
東シベリアの Chayanda ガス田からの繋ぎ込みも 2012 年着工される計画であるが、この距離は約
3,000km あり Yakutia-Khabarovsk-Vladivostok パイプラインと呼ばれる。
・
輸送能力:300 億 m3/年に拡大される見込み。最終的には 472 億 m3/年となる可能性がある。
48”(1220mm)という口径はこの輸送能力まで持てる。
・
後背地の生産能力:
・サハリン-3、特にキリンスキー鉱区は 2020 年に 230-240 億m3、2030 年に 280-300 億m3 まで
拡大の見込み5(鉱区位置は図2参照)。ウェーニンを除くサハリン-3鉱区は6月にガスプロム
がライセンスを取得。
・Chayanda ガス田(サハ共和国)の生産能力は約 200 億 m3。埋蔵量は 1.24 兆 m3。
・ガス輸出:Gazprom は当該 P/L の終着点である Vladivostok 付近にアジア諸国向けの輸出用 LNG プラ
ントを建設する計画。
・事業費:総事業費が110 億ドルとされていることから、第1期の 66 億ドルを引くと 44 億ドルとなる。
・完成時期:明記されておらず。
(3)Ananenkov副社長発言に見る 2020 年の予測に関する情報6
・天然ガス供給能力:極東・東シベリア地域で 1,500 億 m3/年
・需要予測: ハバロフスク地方;76 億 m3、沿海地方;174 億 m3
極東合計;250 億 m3。但し、これは
この地域における新規産業への投資がなされた場合である。
(4)周辺国の需要(後述)
・中国:CNPC は 2010 年から 80 億 m3 を輸入することで合意。
・韓国:Kogas は 2015 年から 100 億 m3 を 30 年間輸入することで合意。
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PON, 2009/8/03
Argus FSUE, 2009/8/07
Kommersant, 2009/8/03
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図2 サハリン 1~9 の鉱区位置と既往パイプライン
3. サハリン・東シベリア天然ガスの輸出計画について
(1) 『東方ガスプログラム』に規定された輸出計画
プーチン首相の談話にあるとおり、ウラジオストック向けのパイプライン建設は 2007 年 9 月に承認を受
けた『東方ガスプログラム』(図3参照)に基づくものであり、その原型は 1990 年の”Vostok Plan”にまで遡
り得る。プログラムの正式な名称は『中国その他のアジア太平洋諸国へのガス輸出を考慮した東シベリ
ア及び極東における統一ガス生産・輸送・供給システム構築計画』といい、2002 年 7 月 16 日付けロシア
連邦政府令第 975-R 号に基づきガスプロムを東シベリア、極東における全ての天然ガス事業のコーディ
ネーターに指名し、計画の策定にあたらせることとした。
プログラムは5年掛かってようやく政府承認となった。まず、2007 年6 月15 日、政府燃料エネルギー部
門委員会の承認を経て、6 月 19 日に閣議で承認、そして 9 月 3 日に産業エネルギー省省令第 340 号で
承認された。
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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
その概要は、表1及び図3に示したように、サハリン、東シベリアに4つの天然ガス生産センターを確立
し、イルクーツク、クラスノヤルスクは主に域内と統一ガス供給システム(UGSS)への供給に向け、域内供
給と太平洋諸国に対する輸出をサハリンとヤクーチャ地域が担うというものである。サハリンからはハバロ
フスク、沿海地方まで供給される。その輸出量を表2に示す。総投資額は 2.4 兆 Rb($940 億)と見込まれ
る。
表 1. 4つの天然ガス生産センターでの事業計画
各センター
サハリン
ヤクーチャ
イルクーツ
ク
クラスノヤ
ルスク
主要ガス田
チャイボ、オドプト
ピルツゥンアストフ
ルニ
チャヤンダ
事業内容
サハリン大陸棚から サハリン州・ハバロフスク地方・沿海
地方・ユダヤ自治州向け供給。パイプライン・LNG によるア
ジア太平洋諸国向け輸出。
チャヤンダ・ガス田(2016 年生産開始)からサハ共和国南部・
アムール州向け供給。パイプラインによるアジア太平洋諸国
向け輸出。
コビクタ
イルクーツク州内ガス田からイルクーツク州・チタ州・ブリ
ヤート共和国向け供給。必要に応じて統一ガス供給システム
(UGSS)へ供給。
ユルブチェノタホモ クラスノヤルスク州内のガス田から域内供給。必要に応じて
統一ガス供給システムへの供給。
表2. 天然ガスの輸出量(単位:10 億 m3)
P/L による韓国・中国向け天然ガス輸出
アジア太平洋諸国向け LNG 輸出
2020 年
25-50
21(1,500 万 t)
2030年
同左
28(2,800 万 t)
更に、輸出ルートに関しては 15 の計画に関して比較検討がなされたが、その中では「Vostok-50」
(表3)案が採用された。これは、中国へは「東方から」、即ち沿海地方側から天然ガスをパイプ
ラインで輸出するというもので、Ussuriysk-綏芬河経由ルートが推奨されている(図3)。これは、
Zabaikalsk-満州里(西方)、Blagoveshchensk-黒河(中央) は通らず、黒竜江省主部を迂回するという
考えである。このソースとなる天然ガスはサハリンとヤクーチャからで、ヤクーチャからのパイプラインは
東シベリア・太平洋(ESPO)パイプラインに併走する。韓国へは日本海経由の海底パイプラインで直接供
給する。輸出量は対中国・韓国で 2020 年までに 500 億 m3、この「50」 billion m3 が名称の由来である。
内訳は中国が 380 億 m3、韓国が 120 億 m3 である。
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表3.
Vostok-50 の概要 (Vedomosti, 2007/9/07)
統一ガス供給システムへの供給
2030 年までの年間ガス生産量 /10 億 m3
国内販売
輸出
以下、内訳
-中国向け
-韓国向け
なし
120.8
70.8
50
38
12
あり
162.3
112.3
50
38
12
図3 「東方ガスプログラム」に記された主要な天然ガス生産センターとパイプライン計画(2008 年版)
(2) 中国
東方ガスプログラムの中の「Vostok-50」案によれば、中国へは 380 億m3、韓国へは 120 億m3、合計
500 億m3 を輸出する計画である。既に中国に対しては、2006 年 3 月 21 日のプーチン訪中の際に、アル
タイ経由の 300 億m3 とともに、東方からの 380 億m3 の輸出で合意されている7。但し、アルタイ・ルートに
関しては天然ガス価格で歩み寄れず、2007 年 6 月に交渉が中断した状態になっている。
2009 年 6 月 16 日から 18 日まで、胡錦涛主席がモスクワを訪問し、メドヴェージェフ大統領と会談した
7
CNPC website, 2006/3/21, International Oil Daily, 2006/3/22
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が、天然ガスの輸出問題に関しては、ロシア側が欧州との連動価格を主張したのに対して、中国側が大
幅な割引価格を要求して物別れに終わった。これにより、2006 年の合意事項である 2011 年からの天然
ガス輸出は見送られる形となった 8 。 但し、中国側へのガス供給の見返りにロシア側が融資を受け
る”Laons for gas”の可能性も議論された模様である。本年 10 月、プーチン首相が北京を訪問して、ロシ
アからのガス輸出とその価格に関して交渉する予定となっている9。
一方、東方ガスプログラムとは別に、サハリン-1のオペレーターであるExxonNegtegazがCNPCと天然
ガス輸出に関して協議している。2004 年 11 月 1 日、ExxonMobilのレイモンドCEOは、日本に対する天然
ガス輸出交渉が進捗しないことから中国とも交渉を開始する旨を小泉首相(当時)に伝えた。同じ 11 月、
ExxonNeftegazとCNPCとの間でMOUが締結された。更に 2006 年 10 月 19 日にCNPCと天然ガス販売に
関する予備的合意に署名した。ここでは、ExxonNeftegazが自前のパイプラインを建設して年間 80 億m3
のガスを中国東北部に供給するというものである10。但し、これに関してもその後の大きな展開はなく、更
にGazpromによるウラジオストックまでのパイプライン計画の始動により、大きな変更を迫られている(後
述)。
(3) 韓国
韓国では、李明博大統領が 2008 年 9 月 28 日から 4 日間、モスクワを訪問し、29 日午後にはメドヴェ
ージェフ大統領との間で両国関係を「相互信頼の包括的パートナー」から「戦略的パートナー」に格上げ
することで一致し、従来の経済を中心にした協力関係から、政治、外交、安全保障など全ての分野に拡
大された。これを含めた 10 項目の露韓共同声明を発表した11。
また同日、両国のエネルギー分野におけるいくつかの覚書を交わした。主なものは以下の通り。
・
KNOC とカルミキア共和国による同共和国西部の油田探鉱に係る FS を共同で実施する仮協定
・
Kogas とGazpromとの間の、PL による天然ガスの輸入に係る覚書
李大統領のロシア訪問団に随行した Kogas が Gazprom と交わした上記の覚書には、2015 年から 30
年間、ガスを韓国に供給することが盛り込まれており、具体的にはパイプライン輸送で 100 億 m3/年、又
は LNG 輸送で 750 万t/年を見込んでいるという。輸送するガスはウラジオストックから北朝鮮を経由し韓
IOD, 2009/6/18
The Moscow Times, 2009/6/18
10 PON, 2006/10/25
11 中央日報、2008/9/30
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国に輸送する陸上ルートを想定しており、この建設は 2 年間の FS を経た 2011 年から 2014 年の間に行う
ことが検討されている。
本件に係る本契約は 2010 年に締結される見通しとされていたが12、現状では、北朝鮮経由での陸路
のパイプラインは政治的理由により実現性は全くない。また、Gazpromによる東方ガスプログラムの図で
は、2007 年の図では海底パイプラインが描かれていたが、日本海ルートでは水深が 3,000m級となって
おり技術的にも困難が予想される。黒海のブルーストリームが世界記録となる最大水深 2,150mで竣工し
たことを考え併せると、3,000mの水深は技術的には未踏のレベルであり、実現性には大いに疑問が持た
れる。その後の 2008 年版となると(図3参照)、ウラジオストックからは北朝鮮経由のパイプラインの他に
韓国を含む複数地域へのLNG輸出が描かれており、海底パイプライン案は取り下げられた感がある。
その後 2009 年 8 月 7 日に、ロシアのエネルギー省Sergei Shmatko大臣と韓国の知識経済部 李
允鎬(Lee Youn-ho)長官がモスクワで会談を行った際の議題には、露韓間で引続きロシアから韓
国向けのガス輸送方法について検討され、李長官はCNGまたはLNGでの輸出を希望すると発言し
た13。大勢は、LNG輸出に傾いて来ている様子である。
(4) LNG 計画
ウラジオストックにおける LNG 計画に関しては最近頻繁に言われはじめたが、2009 年5 月12 日、プー
チン首相は日ロ経済フォーラムにおいて講演し、サハリン-2の成果を賞賛した後に続いて、ウラジオス
トックまでのガス・パイプライン建設計画及びガスプロムによるガス化学プラント建設計画とともに、このL
NG計画に関する提案がなされた。その後、伊藤忠-石油資源開発(JAPEX)がスタディを請け負うこと
になった。
この経済性に関しては、詳細なスタディの結果を経て明らかになると思われるが、近年 LNG 計画は数
多く存在し、それらの実現性は各 LNG 計画間の経済性を巡る競争のもとにある。東南アジア、大洋州だ
けについて見ても、最終投資決定(FID)を待っている LNG 計画が 10 近くもある(図4の緑丸)。これらの
殆どが海洋ガス田或いは海岸に近接した陸上ガス田であるのに対し、ウラジオストックにおける LNG は
1,800km ものパイプラインを経由して液化するもので、パイプライン建設投資を背負った上で、他の LNG
計画と競争しなくてはならない。天然ガス埋蔵量における有利さとパイプラインにおける不利さとの相互
比較が重要である。
12
PON, 2008/9/30
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図4 ウラジオストックへの天然ガス・パイプラインと周辺の供給ソース
4. サハリンからの天然ガス供給における問題点
本パイプラインはサハリンから伸びて来る。当面の供給ソースはサハリン-1を置いてない。しかし、現
在も ExxonMobil と Gazprom の間で交渉が続いており、合意に達した訳ではない。以下に考え得る問題
点を記す。
(1)PS 法とPS契約におけるコントラクターの輸出権
サハリン-1の PS 契約は 1995 年 6 月に締結され、『PS 法』自体は 1996 年 1 月 11 日に成立した。この
法律は遡及して先行したPS契約に及ぶと定められている。
13
Interfax, 2009/8/07, IOD, 2009/8/11
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PS契約におけるコントラクターの輸出権に関して、PS 法第9条で「PS 契約の諸条件に基づいて投資
家の所有となる鉱物原料はこの契約で規定された条件と手続きによりロシア連邦の関税領域から持ち出
すことができる」とされている。
一方、『外国貿易活動国家規制法』の第 15 条で「輸出入の量的制限は以下の目的を例外として連邦
政府によって導入しうる」とし、①国家安全保障の確保、②国内商品市場の状況を考慮したロシア連邦の
国際的義務の履行、③国内市場の保護、が例外として挙げられている。即ち、PS プロジェクトであっても、
ロシア政府は生産物の輸出に関しては制限する法的根拠を有していることになる。
但し、1999 年 1 月 27 日に承認された PS 関連法制修正法の第3条では、『外国貿易活動国家規制法』
の第 15 条に第 3 節として「輸出の量的制限の導入は、『PS 法』に従って締結された契約による義務のう
ち、上記の契約の条件によって投資家の所有物である鉱物原料の輸出を保障するとする部分はロシア
連邦が履行することを考慮に入れてなされる」との文を追加した。これは、PS契約のコントラクター側をよ
り保護する規定である。
また、天然ガスの輸出権に関しては、『ガス輸出法』の第3条に、統一ガス供給システムの所有者にの
み排他的なガス輸出権があるものの、第1条の第2項に PS 契約に基づいて生産されたガスに関しては
同法は適用されないと定めている。よって、サハリン-1が天然ガスを輸出する権利を有することは、若
干のグレーゾーンを残してはいるものの、ほぼ明白であって、ExxonNeftegaz が殊更にこのような法的な
次元で Gazprom と論争しようということではない。
サハリン-1が自前のパイプラインを建設して輸出するのならば、特段問題は生じないが、Gazsprom
の保有するパイプラインを通すという状況にある場合には、通常はガスを Gazprom に対して売り切る契
約となり、ExxonNeftegaz 側が供給天然ガスにおいてGazpromに対して仕向地条項(Destination Claus
e、第3者へのガス転売を禁ずる規定)を付けて、再輸出を規制することは困難である。また、Gazprom の
保有するパイプラインに対する第3者アクセスが部分的に認められ出しているものの、極東での認可に
は時間を要するものと思われる。
よって、ExxonNeftegaz と Gazprom の議論は法的な次元ではない。純粋に経済性を巡る議論である。
(2)ExxonNeftegaz の考え得る対応
前述の通り ExxonNeftegaz は、2006 年 10 月 19 日に CNPC と天然ガス販売に関する予備的合意に署
名した。ここでは、ExxonNeftegaz が自前のパイプラインを建設して年間 80 億 m3 のガスを中国東北部に
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任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
供給するというものであるが、現状は進展していない。
サハンリン-1に対するAnanenkovガスプロム副社長の発言は以下の通り:「この新規ガス・パイプライ
ンは、ExxonNeftegaz率いるサハリン-1 事業からのガス(80-100 億m3/年)を必要としており、Gazpromは
その取得に向けてExxonとの交渉に集中的に取り組む必要がある。ExxonNeftegazとの交渉が年内に成
立することを期待している。Gazprom側は市場価格による取引を提案しているとしながらも、ガスの仕向
け先は国内であるため、国内価格での取引となることをExxonMobil側は理解するべきである。2012 時点
でガスの買取り価格は国際価格の 2.5-3 分の1となる見通しである」14
但し、これに関するガスプロム側の姿勢も非常に慎重であるように見える。同パイプラインの建設を報
じた 7 月 31 日付けの同社のwebsite15では、ガスの主要なソースはサハリン-3であり、現在キリン
スキー鉱区で掘削中で 2014 年から生産開始になると述べている。同じ頁には 2011 年第3四半期
に稼働開始と書いてあり、明らかに矛盾しているのだが、現在協議中であるサハリン-1に関して
は明言を避けるなど、一定の配慮が伺える。
また、ガスプロム側も一方的にExxonMobilに対して国内価格でのガス買取りを強行できない面がある。
2008 年 1 月時点でのサハリン-1随伴ガスのピーク生産レートは 21 億m3 である16。当初の目標である
80-100 億m3 を生産するためには、チャイボ、オドプト両構造のガス分布域である構造中心部に新規に
ガス生産井を掘削しなくてはならない(図5)。即ち、外資側の追加投資が必要で、当然投資に見合う収
入が確保されなくてはならない。ロシア側としては追加投資を要求しつつ、かつガス買取り価格の水準を
提示する必要があるが、サハリン-1のコンソーシアムは採算が取れことが第一条件である。これで合意
できない限り追加の投資はありえず、コンソーシアム側はある意味での「拒否権」を持っていると言える。
仮に、厳密に国内ガス価格を適用する他なく、ガス開発の採算性に疑問符が付くような場合には、ロ
シア側は、天然ガスの買取り価格について合意するためには、なにがしかの別の見返りを用意する必要
があり、現在進められている交渉は、このような「条件」に関するものである可能性もある。
Argus FSU Energyは、ExxonMobilの意図は恐らく、サハリン-3鉱区への参入と見ている17。かつて
ExxonMobilは東オドプト・アヤシ鉱区に 66%、キリンスキー鉱区に 33.3%の優先的交渉権を有していたが、
これは 2004 年1月にロシア政府により一方的に破棄された。これらの鉱区のライセンスは、2009 年 6 月
14
15
16
17
Reuters, 2009/7/31
http://www.gazprom.com/press/news/2009/july/article66851/
Sakhalin 1 Project website, http://www.sakhalin1.com/en/
Argus FSUE, 2009/8/07
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま
れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責
任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
にガスプロムに付与された。キリンスキー鉱区は 6 月27 日にプーチン首相が訪問したシェルの首脳にた
いして参加を要請した。これはサハリン-2の成功を高く評価してのものである。そして、キリンスキー鉱
区は、サハリン-2のルニ・ガス田の沖合にある。
ExxonMobil にとって、オドプト油ガス田の沖合にある東オドプロ鉱区、チャイボ・アルクトン=ダギ油ガ
ス田の沖合にあるアヤシ鉱区は地質的な近接性からいっても当然関心の高い地域である。更に、氷海
での開発に当たって、海底仕上げで、既存油ガス田のプラットフォームに繋ぎ込みという開発コンセプト
を採用できる可能性もある(表4参照)。
サハリン-1にとって、中国への輸出が困難な中で、当面の販売可能な相手はガスプロムのみである。
天然ガスの供給問題では依然として交渉が継続しており、ExxonNeftegazの発言は「サハリン-1 事業か
ら生産されるガスの販売先として全ての選択肢を検討している」18という非常に慎重なものである。
図5 サハリン-1の鉱区の鉱床分布。緑色が油層、赤色がガス層の広がりを示す。チャイボやオドプト
のガス層を開発するためには鉱床中央部に対して新たなガス生産井のための掘削投資が必要である
18
Reuters, 2009/7/30
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任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
鉱 区
東オドプト
アヤシ
ウェーニン
キリンスキー
埋蔵量
権
益
Gazprom 100%
Gazprom 100%
活動状況
近隣油ガス田
オドプト
チャイボ、アルクト
ン=ダギ
Sinopec25.1%,Rosneft74.9% 1 坑試掘今年 2 坑
ガス 7,000 億 m3 Gazprom 100% Shell?
評価井掘削中
ルニ
表4 サハリン-3鉱区(4 ブロック)の現状
(3)ガスプロムの対応方針-サハリン-2へのガスプロム参加問題を検討する
一部には、
ExxonNeftegazに対してガスプロムが非常に強硬な対応するとの見方もある。
これは、
2006 年のサハリン-2の事例からの類推であるが、これに関する報道は牽強付会が目立つ内容で
ある。この件は、2006 年の出来事であるが、ロシア政府とガスプロムが環境問題を口実に、同プ
ロジェクトの経営権を奪取したもとのとして、ジャーナリズムを騒がせた。但し、この件は、エネ
ルギー産業関係者の間では通常の有償権益譲渡にすぎないと看做されており、一般紙の報道との落
差が大きい。以下に、実態を整理した。
2006 年夏に発生した一連の問題を、前後の年も含めて図 6 に時系列的に示した。まず一番重要
な点は、シェルの保有する権益の一部をガスプロムに譲渡する件は、2006 年の環境問題を巡る騒
動が起こる1年前の 2005 年 7 月に既に合意しており、発表されているということである。この時
のシェルの権益は55%もあり、
米系2社が撤退した時の権益を引き受けざるを得なかったとは言え、
明らかに過大であった(図7)。
勿論、全て上手く行くという保証があれば権益は多い方が得になるが、事業というものは一寸先
が闇である。過剰な権益は譲渡し、それによって得た資金を別の有望プロジェクトに投資すること
は、資源の世界では基本的なリスク分散の手段である。
メジャーの標準的な参加形態は、サハリン-1におけるエクソン・モービルのように 30%程度の
権益を引受け、オペレーターシップを獲得するというものである。シェルにとっても過剰な権益の
譲渡は焦眉の急であり、一方ガスプロムにとっては LNG や氷海技術の取得という点で、サハリン-
2は是非参加したい事業であった。
権益譲渡は、当初はシェルの保有するサハリン-2の権益 25%とガスプロムの保有する西シベリ
アのザポリヤルノエ・ガス田の下部白亜系ネオコム層のガスの 50%を資産交換するというものであ
った。埋蔵量で比較すると、シェル側がガスと液分でそれぞれ提供する量の約3倍を手に入れると
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いうディールである。
図6 サハリン-2問題を巡る時間的展開
しかし、この合意の1週間後に、シェルはサハリンの総事業コストが 100 億ドルから 200 億ドル
に増加することを発表した。これは資産価値の減耗を意味するものであり、ガスプロム側は態度を
硬化し、権益譲渡の条件は練り直されることとなった。また、PS 契約では掛かったコストは企業
側が回収できることとなっているが、2倍に膨れあがったコストを企業側が丸々回収できるという
ことは、産油国側が損失を蒙るということであり、PS 契約は産油国側にとって不平等条約のよう
なものではないかとの不満がロシア政府側から噴出した。
2006 年夏の環境問題はこの議論とは別個に、主としてこの時パイプライン建設用地で地滑りが
発生したことに始まる。土木工事においては、地滑りは大変に厄介な問題である。石油パイプライ
ンの破壊が懸念される状況にありながら、これに対する安全基準が策定されていなかった。天然資
源省は対策を講じるために工事を差し止め、1年掛けて地滑りに関する安全基準を作ることとした。
権益については 2006 年 12 月、既往投資 120 億ドルの事業の 50%の権益、つまり 60 億ドルの既
即ち 14%のプレミアム付きで有償譲渡することで最終的に合意した。
往支出に対して 74.5 億ドル、
これは、主たる投資が比較的近い時期に集中していることを勘案すると、金利水準に引き比べても
ほぼ中立的な内容と言える。この権益譲渡で、環境問題が取引に使われたという証拠は特に報じら
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れていない。逆に、フリステンコ産業エネルギー相は PS 契約が同省の所管である旨、環境問題を
所管するトルトネフ天然資源相に対して警告する公開書簡を発表している。その後、天然資源相は
経済問題には踏み込まないと発言した。環境問題は権益譲渡に影響を与えていない。
問題になったのは、2倍となったコストオーバーランの扱いである。PS 契約においては、投資
分は優先的にコスト回収出来るが、ロシア側はインフレ等によるコスト増は不可避であり認めるも
のの、オペレーター側の計画変更によるコスト増をホスト国が負うことはないと拒絶の姿勢を示し、
最終的に、総事業費の内 36 億ドルに関してはコスト回収の対象としないことで、これも 2006 年
12 月に合意した。これは両者痛み分けの処置と言える。この譲歩の結果、既往の PS 契約が変更さ
れることはなかった。
図7 サハリン-2の権益の変遷
2002 年 7 月 16 日付けロシア連邦政府令第 975-R 号に基づきガスプロムを東シベリア、極東における全
ての天然ガス事業のコーディネーターに指名、計画の策定にあたる。
権益譲渡が合意した 2006 年 12 月 21 日、3 社代表はクレムリンにプーチン大統領を訪ねた。一
般紙の報道によれば、この時の大統領発言は「これでサハリン2のすべての環境問題は解決した」、
「工事停止などの理由とした環境破壊の問題についても基本的な問題は解決した」といった驚くも
ので、
「やはり環境破壊は単なる口実で、ロシアの本当の狙いは、サハリン2の権益拡大だった(石
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油業界団体幹部)」といった反発が出た。しかし、大統領府公式ページ(2006 年 12 月 21 日付け)
で確認すると、 「大統領は、ロシアの環境当局と投資家が当該プロジェクトに付随する根本的な
環境問題を解決するため、協調的な歩み寄りに至ったことに満足の意を表した」と至極常識的な発
言であり、記事ではかなりの脚色がなされていることが覗われる。更に、3社がその足で天然資源
省を訪ねると、トルトネフ天然資源相は「ロシアの法規と環境基準には何ら変更はない。コンソー
シアムは違反の事例については対策を講じなくてはならない」と釘を刺し、厳しい姿勢を示した。
天然資源省がサハリン-2コンソーシアムの提出した環境改善計画を承認したのは、1年後の 10
月 26 日のことである。
本件は、ロシア政府が資源ナショナリズムを行使したものとして、大きく報道されたが、実態は
石油ガス産業では通常に行われている権益売却に過ぎない。環境問題は全く別個に発生した事象で
ある。
今回もガスプロムが強権を発動するとの観測は、事実関係に即していないと見るべきであろう。
(了)
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