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ビジネスゲームによる数理的社会認識の育成

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ビジネスゲームによる数理的社会認識の育成
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
ビジネスゲームによる数理的社会認識の育成 : 中学校社会科におけ
る「ベーカリーゲーム」の場合
Author(s)
福田, 正弘
Citation
長崎大学教育学部紀要. 教科教育学. vol.45, p.1-13; 2005
Issue Date
2005-06-30
URL
http://hdl.handle.net/10069/5974
Right
This document is downloaded at: 2017-03-29T19:57:02Z
http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
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ビジネスゲームによる数理 的社会認識 の育成
一 中学校社会科 にお ける 「ベーカ リーゲーム」 の場合 一
福
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正
弘*
(
平成 1
7
年 3月1
5日受理)
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)
1 研究 目的
本研究 は, シ ミュ レー ションゲームを用 いた中学校社会科 (
公民的分野)授業 の数理 的
社会認識育成上 の有効性 を検証 す る ものであ る。
これ まで, われわれ は社会科及 び社会系教科 における数理教育 の実践的展開 につ いて研
究 を重 ね,社会的文脈で数理的思考が働 いて形成 され る社会認識 を数理的社会認識 と呼 び,
0
05
)
。社会 の数理 モデル とは,社会事象
その認識 内容 を社会 の数理 モデル と した (
福 田2
間の関係 を数量 や論理 の関係 (
論理数学的関係) と して捉え る認識枠組 の ことであ る。
この数理的 モデルを発達的 に無理 な く育成す るためには,社会理解 の中で数理的感覚 を
身 に付 ける段階,社会理解 の中で数理 的モデルを獲得す る段階,数理 モデルを構築 し社会
に当て はめる段階の 3段階の学習段階が必要 であ る。本研究 は, この第
2段階の数理的 モ
デルの獲得 を目指す段階を対象 に した ものである。
ところで,社会事象 には多 くの要素が絡 み合 い, その関係 は複雑 な ものであ る。 複雑 な
関係 は単純 な関係 の組 み合わせであ った り,単純 な関係が成立す る前提条件が当て はま ら
ない特殊 な場合であ った りす る。 こうした複雑 な関係 を把握す るためには, まず単純 な関
係 を把握 してい る必要 がある。 単純 な関係 の把握 を済 ませずに,社会 を複雑 なままに捉 え
させ よ うと して も無理 であ る。 これ まで社会科 は,児童生徒 に社会 の総体 を見せ, それを
い きな り把握 させ よ うと して,結局児童生徒 の認識 を非科学的な ドグマ的な認識か,表層
*
初等教育講座 (
社会科教育)
2
長崎大学教育学部紀要
教科教育
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.
4
5(
2
0
0
5
)
的な常識的認識 に留 ま らせて きた。 こう した学習上 の困難 を克服す るためには,社会 を単
純 な要素間関係 と して捉 え させてい く訓練が必要 であ る。
社会 を単純 な要素間関係 と して捉 え させ る方法 と して シ ミュ レー ションゲームによる学
習が適切であろ う。 シ ミュ レー ションゲームは,社会 を単純 な要素間関係 と して再構成 し,
擬似的な社会状況 を作 り出 し, その中でプ レイヤーに意思決定 を させ るものである。 プ レ
イヤーは意思決定 を しなが ら,ゲームに込 め られたモデルを把握 してい く. つま り, シ ミュ
a
r
ni
ngby doi
ngの学習方 法 を取 りなが ら, ゲ ームの中で具体
レー シ ョンゲ ームは, Le
的な状況 と して再現 され る実証的 な社会 モデルをプ レイヤーに把握 させ る学習 システムで
あ るといえ る。
わが国の社会科教育 におし
.
、
て, こうした シ ミュ レー ションゲームの教授学習機能 に着 目
0
0
3
)
。 しか しなが ら,
し, その効用 の分析 を試 みて きた研究 は少数 なが ら存在す る (
福 田2
その多 くが社会科教育 の対象者 であ る児童生徒 を被験者 と した実証的研究 で はない。児童
生徒が シ ミュ レー シ ョンゲームを用 いた学習 を通 じて どんな認識 をどの程度形成 したのか
を きちん と実証 的 に示 した研究 は少 ないのである。
そ こで,本研究 では,数理的 モデルの把握 の観点 か ら, シ ミェ レー ションゲームを用 い
た学習 の効果 を明 らか に してみたい。本研究で明 らかにす るのは以下 の諸点 である。
(
D経済初学者 (
中学校 3年生) のゲームパ フォーマ ンス
②学習者が形成 した社会 の数理的 モデル
③学習者 の数理 的モデル とゲームパ フォーマ ンスの関係
④学習方法 と しての シ ミュ レー シ ョンゲームの適切性
2 研究方法
2
.
1 使用ゲ-ム
本研究では,子 どもが社会を数理的モデルで見 るのに適 した事例を取 り上 げているシ ミュ
レ- シ.
ヨンゲームを選択 し, そ こでの子 どもの数理 的社会認識 の様子 を研究対象 にす るこ
とに した。子 ど もが社会 を数理的 モデルで見 るのに適 しているのは, ゲームその ものが数
値 を問題 に し,数値 を巡 って意思決定 を迫 るゲームであろ う。 子 ど もの思考が無理 な く数
理的な方 向に向 きやす いか らであ る。
この観点か ら, われわれ は,企業 の経営 を シ ミュ レー トす る ビジネスゲームに着 目 し,
その中で も,意思決定要素が少 な く,単純 な構造 を持っゲームを選択 した. こう してわれ
横浜国立大学 ビジネスゲーム)が提供 している 「ベーカ リーゲーム」 を
われは, YBG (
使用 ゲームと した。
ベーカ リーゲームは, ベーカ リー (
パ ン屋) の経営 シ ミュ レー シ ョンを行 うゲームで,
2-3人 のプ レイヤーが チームを組 み,1
0
前後
(
人数 によ って異 なる) のチ-ムが収益 を
競 うゲームであ る。
ベーカ リーゲームのゲーム シナ リオは,概略次 のよ うである。 まず, ベ-カ リーは,パ
ンの材料 と して冷凍のパ ン生地 を購入 し, それを 1日寝か して翌 日に焼 く作業 に入 り,翌々
日に焼 き上が ったパ ンを販売 す る。つ ま り材料購入 ・製造指示 ・製 品販売 の過程 が 3日か
けて進行す る訳 であ る。 ベーカ リーの経営 は 1日 1ラウ ン ドで展開 していき, プ レイヤー
材料購入数,製造指示数,製品販売価格 の決定) を同時 に
は,毎 日この 3つの意思決定 (
ビジネスゲームによる数理的社会認識の育成
福田 :
一 中学校社会科 における 「ベーカ リ-ゲーム」 の場合 -
3
しな ければな らない。費用構成 は,パ ン生地及 び製造費用 がそれぞれ 1個 あた り4
0
0円,
1
0
0円であ り,パ ンの製造単価 は5
0
0円 とな っている。 また,固定費用 と してベーカ リーの
テナ ン ト料が
1日あた り 2万 円 とい う設定 にな っている。
また, このゲームは, ゲームに参加 しているチームが市場 での供給側 とな ってお り,各
チームが決定す るパ ンの価格 と供給量が市場 への供給量 とい うことにな って いる。一方,
総需要 は コンピュー タに予 め登録 されてお り,各 チームの需要数 は,各 チームが設定 した
パ ンの価格 やそれ までにそのチームが出 した品切れ数 (それによ って顧客信頼係数が計算
され る) によ って割 り当て られ るよ うにな って いる。
このよ うに, ベ-カ リ⊥ゲームは単純 なゲームであ り,一見非常 に簡単 そ うに見え るが,
その実,各 チームの意思決定 を リアルに反映す る力動性 を持 ってお り,容易 には勝 てない。
なお, ベーカ リーゲームの意思決定 モデル (
図 1) を掲載 してお く。
利益極大化 (
損失極小化)
概念
S>D--売れ残り発生-廃棄損失
S<D..-品切れ発生 -機会損失
損益分岐点概念
損益分岐量=間接車用/
単位利益
1
図 1 ベーカ リーゲームの意思決定 モデル
2
.
2被験者
今回,被験者 と して選んだのは, 中学校 3年生 であ る。 それ は,つ ぎの 2つの理 由によ
る。 1つ は,中学校公民的分野で経済学習 の単元があるとい う学習指導要領上 の妥 当性で
あ る。本実験授業 は,実験 的要素 を含みつつ も,学習指導要領上 の正統 な社会科授業 と し
て行 われた ものである。 2つめは,参加 した生徒 は経済 を正規 の授業 で きちん と学習 して
いるとい う被験者 のゲーム参加 のための適格性 であ る。 これ は,初学者 であ りなが らも,
経済的知識 を身 に付 けていることをゲーム参加 の前提条件 と考 えたか らであ る。
4
長崎大学教育学部紀要
教科教育
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4
5(
2
0
0
5
)
2
.
3実験授業
0
分授業 を 2時間
実験授業 は長崎市 内の 2中学校 で実施 した。授業時間 は特別 に通常 の5
続 きで確保 して もらい,学校の コンピュータ室を借 りて実施 した。授業者 (コン トローラー)
は,福 田本人が務 めた。 また,生徒 にゲーム内容 の周知 を徹底化す るため,事前 に生徒 に
ゲーム シナ リオを配布 してお き, また授業前 に も解説 した。今回の授業実施 の概要 は以下
の通 りであ る。 また,一部,授業 中の様子 を写真 で示 してお く。
写真 1 教室の全体風景
写真 2 ア ンケー ト記入
写真 3 意思決定風景 (
電卓で計算)
写真 4 結果発表
実施校 ・実施 日
長崎市 内の公立 中学校 A, B2校
対象学年 ・教科
参加生徒数
授業時間
使用 ゲーム
第
(
2
0
0
5
年1
月2
5日,1
月2
8日)
3学年社会科
3
名
各3
2時間 (
1
1
5
分連続 ・休憩含む)
ベーカ リー
(
1
2
チーム仕様)会計情報 は一部標記 を平易化 した
配布資料
ゲーム シナ リオ
(
B4版 1枚,大学 で配布す る もの と同 じもの,事前 に配布)
ンケー ト用紙 (
B4版 1枚)
授業構成
事前説明 ・ア ンケー ト3
5
分
・ア
ビ.
ジネスゲームによる数理的社会認識の育成
福田 :
一 中学校社会科 における 「ベーカ リーゲーム」 の場合 -
5
ゲーム6
0
分
0
分
結果集計 ・ア ンケー ト1
0分
結果発表 ・解説 1
実施体制
その他
コ ン トロー ラー :福 田,補助 1名,教員 は適宜指導
企業活動 は学習済み。 また 1校 には電卓 を準備 させた。
2
.
4データ収集方法
上記 4項 目それぞれの研究 目的を実現す るため,次のよ うな手法 を とった。
①
経済初学者 (
中学校 3年生) のゲームパ フォーマ ンスの評価 デー タ
ベーカ リーゲームで は, ゲームに参加 しているチームの入力 デー タやゲーム成績が コ
ンピュー タ上 に保存 されてお り, その記録 を取 りだ し,解析す ることがで きる。 ここで
は,
2校 それぞれのゲーム成績 を大学生 のそれ と比較す ることによ って,生徒 のゲーム
パ フォーマ ンスを評価 した。
②
学習者が形成 した社会 の数理的 モデル
ここで は求 め る数理的 モデルを, ベーカ リーの ビジネスモデル,損益 モデル,経営学
の概念 (ルール) の 3つ と し, それぞれ以下 の方法でデータを取得 した。
・ビジネスモデル
ビジネスモデルの理解度 を見 るために, ベーカ リーゲームに登場す る人物 ・業者 の関
係 を図で描写 させた。 図の要素 は,店,客,材料業者,製造従業員,大家,金融業者 の
5点 である その描画数 をチーム毎 にカウ ン トし,理解度 を算 出 した。 図 は, ゲーム前
。
のア ンケー トで描かせ, ゲーム後 に加筆 ・修正 も認 めた。
・損益 モデル
次 に,損益 モデルの理解度 を見 るために, ベーカ リーの経営戦略を 自由記述 させ る中
で,利益式 を書 かせた。 これ もア ンケー トの中で実施 した。 ただ し, この記述 は自由記
述 であ ったために,全員か らデー タが得 られたわけで はなか った。
・経営学 の概念
最後 に,経営学的概念 の理解 であ るが, これ は各 チームの意思決定 の記録 を解析 し,
彼 らの意思決定が経営学 の概念 (ル丁ル) に合致 した決定か と'
うかを算 出 した。 その手
続 きは次 の通 りであ る。
図 1に示す よ うに,本 ゲームで経営成績 に寄与す る概念 は,損益分岐点概念 と利益極大
化 (
損失極小化)概念 であ る。 損益分岐点 は,経営 で利益 を出すための売上額 の最低条件
である。本 ゲームで はパ ンの製造数が先行 して決 まるので, プ レイヤーはその製造数 を完
e
より
売 す るよ う価格決定 す ることにな る。 従 って,損益分岐点概念 は,損益分 岐価格 P
も販売価格 Pを高 く設定で きるかの判断 において用 い られ ることになる。 そ こで,本研究
(
Pe
)と実際 に決定 した価格 (
P)
との遊離比率P
比 (
1
Pe
/
P)を求 め,損益分岐点概念 の理解度 と した。図 1に示すよ うに,
P比 が 0以上 であればPは損益分岐価格以上 で あ り,利益 を生 み出す ことが可能 で あ る
で は,各 チームにつ いて,計算 で求 めた損益分岐価格
。
逆 に 0未満であれば,絶対 に利益 は生 まれない。
一方,利益極大化 (
損失極小化)概念 につ いて は,廃棄損失 と機会損失 の極小化が実 は
利益 の極大化 に繋が っているとい う本 ゲームの構造 に由来 している。 すなわち,本 ゲーム
6
長崎大学教育学部紀要 教科教育
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5
)
のルールで,製造 したパ ンが売 れ残 ればそのまま廃棄す る しかないよ うにな ってお り, そ
0
0円) が全 くの損失 にな る。 また,機会損失
の分 の売上原価 (
原材料費 と製造費用 の計 5
とは,需要 に対 して供給が不足 した状態で,販売機会 を逸 した利益 の ことである。 これ は
会計上実際の損失 と して は計上 され ないが,・この値 が大 きい と, ゲ ーム遂行上
客 の信頼
度が低下 し,客が店 に寄 り付かな くな るよ うにな っている。 本研究で は,各 チームの製品
S) と実際の受注数 (
D) との遊離比率Ds比 (
1
D/S) を ラウ ン ド毎 に求 めた.
供給量 (
③
学習者 の数理的 モデル とゲームパ フォーマ ンスの関係
①② で得 られたデータを リンクさせ, チームのゲーム成績 と数理的 モデル理解 との関
連 を調 べた。
④
学習方法 と しての シ ミュ レー シ ョンゲームの適切性
ベーカ リーゲームが生徒及 び教師 に適切 な学習方法 と して受 け入れ られているか どう
かを明 らか にす るため, ゲーム終了後,両者 にア ンケー トを実施 した。 ア ンケー トは,
質問項 目に対す る反応を 5段階尺度で応える方法を取 った。質問項 目は,生徒用が,ゲー
ムの楽 しさ, ゲームへの興味,参加 の積極性,参加 の真面 目さ, チームの協力 の様子,
ゲームの難 しさ,店 の仕組 み理解,利益構造理解,情報 の見方,経済 の知乱
経済理解
3
項 目,教師用がゲーム
の有効性,経済への興味, ゲームの授業への取 り入れの要望 の1
の楽 しさ, ゲームへの興味,参加 の積極性,参加 の真面 目さ, チームの協力 の様子,店
の仕組 み理解,利益構造理解,情報 の見方,経済 の知識 の 8項 目であ る。
3 中学校 3年生 のゲームパ フ ォーマ ンス
授業で, ゲームは 8ラウ ン ドまで進行 で きた。 その結果 は以下 の図の通 りであ る。
ラウンドごとの剰余金の変化
ラウンドごとの剰余金の変化
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ラウンド
図 2 A校の成績
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図 3 B校の成績
ビジネスゲームによ る数理 的社会認識 の育成
一 中学校社会科 にお け る 「ベーカ リーゲー ム」 の場 合 -
福田 :
7
これ らは各 チームの剰余金 (
累積利益) 香
ベ丁力リー 剰余金
示 した ものだが∴最初赤字 を出す チームが結
構見 られ るが,殆 どのチームが 4ラウ ン ドく
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らいか ら右肩上 が りに上昇 している。 また,
最高位 チームの剰余金額 は 4万 円程度 で両校
とも似 ている。 こう した両校 のゲーム成績 の
傾向か ら,今回のゲームの実施方法 による中
学生
3年生 のゲームパ フォーマ ンスはこの程
度 と推測 され よ う。
また, この中学 3年生 のゲームパ フォーマ
ー\\こ
ンス は, 大 学生 に対 して行 った ゲ ー ム結 果
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(
図 4, この場合 は需要条件 を厳 しくして い
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一
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Ⅷ
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m
2
∝
mⅨ)
刀
図 4 大学生の成績
るため剰余金額 は小 さい) と比べてみて も,
決 して劣 って はいず,大幅な赤字 チームが少
ないとい う点でむ しろ勝 って いる くらいであ
る。大学生 の場合 は, ゲーム シナ リオを事前 に配布 していないな ど実施面 で若干不利 な点
もあ るが, その ことを考慮 に入れて も,中学生 の出来 の良 さが傑 出 して いる。
この結果か ら,中学 3年生 のベーカ リーゲームのゲーム遂行能力 は充分 であ り,経済初
学者 で も充分 にゲームがで きることが確証 された。
4 生徒の数理的モデル理解 とゲームパ フ ォーマ ンス
ここで は,本研究 の研究課題②学習者 が形成 した社会 の数理 的モデル と③学習者 の数理
的 モデル とゲームパ フォーマ ンスの関係 を同時 に掲載す る。
4
.1 ビジネ スモデルの理解 とゲームパ フ ォーマ ンス
生徒 の ビジネスモデル理解 は,パ ン屋経営
の概念図を描かせ ることによ って把握 した。
描画要素 は,店 の他,客,材料業者,製造従
業員,大家,金融業者 の 5点 であ る。生徒が
記述 した概念図は,図 5のような ものである。
これ らの図に描かれた経営要素 を集計 した。
.
9
7(
A校), 1
.
7
6
その結果, 平均記 入数 は2
(B校) であ った。 次 に記入数 の各 チームの
平均記入数 を算 出 し,各 チームのゲーム成績
。その結果,
(
順位)を散布図に表 した (
図 6)
両者 には相関が見 られなか った。
図 5 生徒 の描画例
8
長崎大学教育学部紀要
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教科教育
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9
11
図 6 ゲーム成績 (
GP:ゲームの順位) とビジネスモデル理解 (
BM)
(
◆ :A校, ● :B校)
4
.
2 損益モデルの理解 とゲームパ フ ォーマンス
生徒が経営戦略を自由記述 した中で,利益 の計算式 をほぼ正 しく記述 した例 は 7例 あ っ
た。 その うち典型的な ものを例示す ると以下 のよ うである。
・(
代金 -5
0
0
) ×売れた数 -2
0
0
0
0-利益
0
0
0
0
・(
パ ンの値段 - (
材料費 +人件費)) ×売れた数 -2
・生地代 +人件費 +テナ ン ト代 <売 りあげ
0
0
)-(
4
0
0×パ ン生地注文数)-2
0
0
0
0
・(
パ ンの代金 ×売れた数)-(
パ ンの製造個数 ×1
しか しなが ら, これ らの利益計算式 を記述 した生徒の所属す るチームのゲーム成績 を見
ると,上か ら順に, 6, 7,l
l
,1
0
位であ った。その他の例 も, 4, 7, 8位で しかなか っ
た。 この結果か ら,利益式 を正 しく書 くことが,必ず しもゲームのよき遂行には繋が らな
いことが判明 した。
4
.
3 経営学概念の理解 とゲームパフ ォーマンス
損益分岐点概念 と利益極大化 (
損失極小)概念の理解 は, P比 と D s比で判定 した。 B
校 の各 チームの P比 とDs比 を算 出 し, チームの成績 によ り,上位層 (1- 4位), 中位
2
位) の 3グループに分 け, グラフ表示 した (
図 7, 8,
層 (5- 8位),下位層 (9-1
9)
0
ビジネスゲームによる数理的社会認識の育成
一 中学校社会科 における 「ベーカ リーゲーム」 の場合 -
福田 :
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図 7 B校の P比 ・Ds比 (
上位チーム) [P比 :◆右目盛,Ds比 :『左 目盛]
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図 8 B校の P比 ・Ds比 (
中位チーム) [P比 :◆右目盛,Ds比 :■左 目盛]
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図 9 B校の P比 ・D s比 (
下位チーム) [P比 :◆右 目盛, Ds比 :■左 目盛]
このゲームでは,P比が正で大 きいほど, またDs比がゼロに近 いほど,利益が大 きく
なることが理論的に明 らかだ。従 って, それぞれのチームのP
比,Ds比の動 きを見れば,
それぞれのチームの概念理解 の進展 を見 ることがで きる。図 7
, 8, 9か ら,次のよ うな
傾向を指摘で きる。 すなわち,上位 チームは, Ds比が安定的にゼロ付近 にあ り, P比が
プ ラスに増大 している。 それに対 し,中位 チームは, P比 もDs比 も大 きくゼ ロか ら離れ
た極端 な値 を取 ることがあ って も,徐 々にDs比がゼロに接近 し,P比がプ ラスに転 じて
いる。 下位 チームは,P比 もDs比 も大 きく変動 を繰 り返 し,安定 していかない傾向にあ
る。
これ らの傾向か ら,上位 チームは最初か ら概念理解 に到達 してお り,ゲームの進行 によ
り判断の精度 を高めていき,中位 チームは最初 は唆味だ った概念理解がゲーム進行 によ り
確かな ものにな り,判断を修正 していっている,それに対 し,下位 チームは概念理解の途
上 にある中間的な段階ない しは無理解 によるあてず っぽ うの意思決定の段階にあるといえ
る。総 じて,ゲーム進行 と概念理解の進展が見事 なまでに相関 していることが分かる。本
ゲームの意思決定 において, それまで ランダムに動 いていたDs比,P比が安定化 に向か
うよう変 じた点 こそ,生徒が概念理解を達成 したターニ ング ・ポイ ン トといえる。
5 学習方法 と しての シミュレーシ ョンゲームの適切性
本研究の研究課題④ シミュレーションゲームの学習方法 としての適格性 は,本ゲーム学
習に対す る印象を生徒及 び教師にア ンケー ト調査す ることによって明 らかに した.調査内
容 は,上述の通 りである。 以下,調査結果を両校で一括 して集計 し,分析す る。
ビジネスゲームによる数理的社会認識の育成
福田 :一 中学校社会科における 「ベーカリーゲーム」の場合 -
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.
1 生徒のゲーム学習 に対する評価
まず,生徒 に対す るア ンケー トの集計結果
0
の通 りであ る。
は,図 1
ゲームの楽 しさ, ゲームへの興味,参加 の
積極性,参加 の真面 目さ, チームの協力の各
項 目はいずれ も満点 に近 い高得点である。 ゲー
ムを用 いることによ って,生徒が楽 しく積極
的 に, しか もチームで協力的 に授業 に参加す
ることがで き;授業が活性化す ることを生徒
自 らが証明 している。
しか しなが ら, ゲームの難 しさ,店 の仕組
みや利益構造,会計情報 の見方,経済 の知識
とい った認知的側面 で はやや評価 が厳 しい。
ゲームが難 しく,生徒 自身,経済理解 につ い
て はやや控 えめな評価 を したのだろ う。
とはいえ,生徒 は, ゲームが経済理解 に役
図1
0 生徒のゲーム学習 に対する評価
立っ (
経済理解 の有効性) と認 め,大 いに経済 に興味 を持 つよ うにな った と している。生
.
9
7
) と願 って いることが分
徒 は,授業 に もっとゲームを導入 して ほ しい (ゲームの要望 4
か った
。
これ らの ことか ら総 じて,生徒 にとってベーカ リーゲームを用 いた学習 は,情緒面,礼
会面,認知面 のいずれにおいて も優 れた学習 とい うことがで きる。
5
.
2 教師のゲーム学習 に対する評価
の通 りである。 参観す る教師が少数であ っ
教師に対 して行 ったア ンケー トの結果 は,図 11
たのでサ ンプル数 と しては少 なす ぎるが,掲示 してお く。
生徒対象 のア ンケー トとは若干項 目数 が少
ないが,生徒の反応結果 と驚 くほど似ている。
つ ま り, ゲームの楽 しさ,参加 の積極性,参
加 の真面 目さ, チームの協力 の各項 目はいず
れ も高得点 であ り,店 の仕組 みや利益構造,
会計情報 の見方,経済 の知識 の認知面で は,
若干慎重 な評価 にな っているのであ る。
以上 2つのア ンケー トの結果か ら,生徒教
師 ともに情緒的印象 (
ゲームの楽 しさ, ゲー
ムへの興味,参加の積極性,参加の真面 目さ,
1 教師のゲーム学習 に対する評価
図1
チームの協力 の様子)及 び認知 的効果 (
店の
仕組 み理解,利益構造理解,情報 の見方,経済 の知識) の両方 につ いて高 い評価 を与 えて
いることが分か る。 すなわち,今回実施 したベーカ リーゲームは,授業 の活性化 とともに
学習内容 の習得, さ らには学習動機 の喚起 において も優 れた学習方法 であ るとみなされた
のであ る。
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長崎大学教育学部紀要 教科教育
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)
6 結論
本研究 の研究課題 は次 の 4点であ った。
①
経済初学者 (
中学校 3年生) のゲームパ フォーマ ンス
②
学習者が形成 した社会の数理的 モデル
③
学習者 の数理的 モデル とゲームパ フォーマ ンスの関係
④
学習方法 と しての シ ミュ レー ションゲームの適切性
これ までの結果か ら, これ らの課題 に対 す る結論 は以下 のよ うにな る。
(
訂
中学 3年生 のゲームパ フォーマ ンスは充分 であ る。
②'③l ビジネスモデル,損益 モデル理解 とゲームパ フォーマ ンスとの関係 は明 らか にで
きなか ったが,経営学概念理解 とゲームパ フォーマ ンス との関係 は明 らか にな った。
④ ' シ ミュ レー ションゲームは適切 な学習方法であ る。
以上 よ り, シ ミュ レー シ ョンゲームは生徒 の学習意欲 を喚起 し,経営学 の概念 を意思決
定活動 の中で習得 させ る広 い意味での数理的思考 を育 て る優れた学習方法 であ ると結論 づ
けることがで きる。
7 新 たな課題
しか しなが ら,本研究遂行途上 で新 たな課題 も浮上 して きた。以下,列挙す る。
・社会科学習 の寄与 の問題
今回,社会科公民的分野で経済の学習を終えている中学校 3年生 を対象 にベーカ リーゲー
ムを実施 した。 中学校
3年生 を選択 したのは,企業経営 の シ ミュ レー シ ョンゲームを行 う
のに基礎的な経済的知識が不可欠であろ うとい う判断があったか らである。,しか しなが ら,
ビジネスモデルの描画や利益式 の記述 で表 出 させ た知識がゲームパ フォーマ ンス と必ず し
も相関関係 を持 たない とい う結果 にな っている。 この ことか ら,社会科 の授業で生徒が獲
得す る経済の知識がゲームでの意思決定 の必須条件 にな ってい るか ど うか とい う疑問が生
じる。 つ ま り, ベーカ リーゲームは中学校
3年生 でないとうま くで きないのか, とい う検
証課題が生 じる。
・意思決定能力 の決定要素 の問題
しか し,問題 はこれだけに留 ま らない。描画や記述 によ って表 出 された知識 とゲームパ
フォーマ ンスの相関関係が否定 された とい う事実 は何 を物語 るだ ろ うか。 ビジネスモデル
や利益式 は, ベーカ リーゲームで意思決定 を進 めて い く上で決定的な意味 を持っ知識であ
るよ うに思 われ る。 その知識 の有無がゲームパ フォーマ ンスに寄与 しない ことは理解 に苦
しむ。 もしこの事実を受 け入れ,両者の間に相関関係がないとす るな らば,ゲームパ フォー
マ ンスを決定す る要素 は何か。概念図や数式 で表 され るもの とは別 な種類 の能力 なのだ ろ
うか。 これは シ ミュ レー ションゲームで育つ学力 とは何か とい う問題 に も連 なる,最 も本
質的で基本的な問題 であ る。本 当に,描画や記述で表 出 され る知識がゲームパ フォーマ ン
スと相関 しないのか,再検証す る必要があ る。
・知識 の測定方法 の問題
これ らの検証課題 に入 る前 に, よ り技術的な問題があ る。 本研究 で は,生徒 の数理的 モ
デルの把握方法 と して, ア ンケー トによる概念図描画や数式記述 の方法,生徒 の意思決定
記録 の分析 による方法 の 2つを採用 した。
ビジネスゲームによる数理的社会認識 の育成
福田 :
一 中学校社会科 における 「ベーカ リーゲーム」 の場合 -
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前者 で は,任意記述 のために充分 な記述数 を得 られていない うらみがあ った。 同 じ無回
答 であ って も,記述 しない ことと分か っていない ことの 2種類があ り,両者 を同 じよ うに
取 り扱 って,結果 を解釈すれば,結論 を誤 ることに もな る。 ど うい う表現方法 を とるのが
最適 な知識表出方法 なのかを見極 めて調査す る必要があ る。
後者 で は,生徒 の意思決定記録 か らP比 とDs
比 を算 出 し, その変動軌跡 を見て,損益
分岐点概念 ・利益極大化 (
損失極小化)概念 の達成状況 を推定 した。 しか し, それ は意思
決定 の結果 を見ての推定であ って,概念 その ものの表現で はない。概念 その ものの表現 は
説明 とい う作業で行われ るが, シ ミュ レー ションゲームでは意思 の決定 を行 うのであ って,
事後 で しか説明 は しない。説明で はな く,意思決定 の結果 と して概念 の表現 とな りうるの
か どうか,究明 しなければな らない根本的な問題 である。
これ ら 2つの問題 は,知識 の測定方法 とい う技術的問題 であるが,評価 の根本 に関わ る
根源的問題 であ る。
いずれ にせよ, シ ミュ レー ションゲーム学習 の結果が示す よ うに,生徒 は社会的事象 と
の応答関係 の中か ら社会 を認識す るために数理 的モデルを獲得 してい っていることが明 ら
か にな った。生徒 は,従来 の社会科授業で教 えていた事実的知識 や概念的知識 とは違 った
新 しい知識 を学んだのであ る。 この種 の知識 の育成 こそが新世紀社会科 に要請 され る任務
であ り,課題である。今後,われわれ はこの課題 の解決 に向 け,研究 を推進 していきたい。
(
追記)本研究 は,文部科学省科学研究費補助金特定領域研究 (
領域名 :新世紀型理数科
系教育 の展開研究)
,研究課題名 :社会科及 び社会系教科 における数理教育 の実践 と評価,
5
0
2
0
2
51
による研究成果 の一部 であ る。
研究代表者 :福 田正弘,課題番号 :1
文
献
福 田正弘 ・山下英 明 (
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):数理的思考 を活用 した歴史授業,長崎大学教育学部紀要教
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福 田正弘 (
2
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5
):社会科 における数理的 モデル認識,長崎大学教育学部紀要教科教育学,
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福 田正弘 (
2
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0
3
):シ ミュ レー シ ョンゲームに もとづ く社会科授業,社会認識教育学会編,
社会科教育 のニ ューパ ースペ クテ ィブ,
明治図書 ,
2
3
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.
福 田正弘 (
2
0
0
3
):社会科及 び社会系教科 にお ける数理教育 の可能性,平成 1
4
年度科学研
究費補助金特定領域研究 (
2
)(新世紀型理数科系教育 の展開研究)研究成果報告書.
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