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自然排尿を促すリラクセーション

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自然排尿を促すリラクセーション
特集
排尿ケアを極める−床上での排泄ケア∼ベストプラクティスを探る
自然排尿を促すリラクセーション
小林しのぶ KOBAYASHI Shinobu
小板橋喜久代 KOITABASHI
Kikuyo
群馬大学医学部保健学科
排泄行為とリラクセーション
*日常生活のなかで快感を伴ういくつかの行為(睡眠や食事など)に共通することは,交感神経の緊張を
解いて副交感神経優位の体制によってコントロールされるものである.
*リラックスして落ち着いた状態を確保することが排尿の基本要件となる.
*尿の排出のコントロールには,
「漏れないように」の外括約筋と「放尿そのもの」の内括約筋の2 種類
の括約筋がかかわる.
どんな環境・姿勢がリラックスできるのか
*必要最小限のプライバシーが確保されなければ,ストレスを高めることになる.
*膀胱内の尿を察知し,尿道内括約筋が弛緩するためには,下腹部の過緊張を引き起こすような姿勢でな
く,基本的には腹筋が緩んだ姿勢(前屈位で股関節や膝を屈曲)が適している.
*排尿用具とのフィット性が高まるような排尿姿勢の調整がリラックスを促進する.
文献検討からみた排尿に関するリラクセーション法のエビデンス
*自然排尿についてリラクセーション法を検証した文献の該当はなかった.
*排尿障害の症状緩和(頻尿,尿失禁,尿閉,疼痛など)におけるリラクセーション法の有用性の検討は
少数報告があった.現状では,エビデンスレベルは低く,リラクセーション法の効果を立証していると
は言い難い.
排尿ケアにおけるリラクセーション法適応の可能性
*排尿障害を引き起こす疾患の多くは,その一因としてストレスがあるとされる.
*現在のところは抗不安薬などの処方による改善が認められるとの報告であるが,リラクセーション法に
よるセルフコントロールの指導について,臨床検証を進め有効性を検討していく必要がある.
排泄行為とリラクセーション
生命維持にとって欠かすことのできない行為には,それが確実に実行されるために,
“快感”
というプレミアムがついているといった意見がある.排泄行為も体内の老廃物を排出するとい
う欠かせない行為であり,快感(放尿時のあの感覚)を伴うものである.それと同時に,場合
●
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によっては命がけになる.排泄の最中に襲われないように,トイレは人目につきにくい場所に
設置されるようになってきたともいえる.
日常生活のなかには快感を伴う行為(睡眠や食事など)がいくつかあるが,これらに共通す
ることは何かを考えると,
「交感神経の緊張を解いて,副交感神経優位の体制によってコント
ロールされるもの」であることが見出せる.しかも,ただコントロールされるだけでなく,十
分に副交感神経の働きが高められた状態を必要としている.尿の排出のコントロールには2 種
類の括約筋がかかわるが,体性神経支配の外括約筋は「漏れないように」
,副交感神経支配の
内括約筋は放尿そのものに関与することをみれば,リラックスして落ち着いた状態を確保する
ことが排尿の基本要件となることが納得できる.これらを念頭に,臨床の場で起こるいくつか
の排尿のトラブルを考えてみる.
どんな環境がリラックスできるのか
排尿時の落ち着ける環境には,見られない(隠されている,視覚的プライバシー)
,聞かれ
ない(音が漏れない,聴覚的プライバシー)
,できるだけ臭いが漏れない,一定の明るさがあ
りトイレ動作が安全にとれる,衛生的なスペースと床,便器(尿器)が欠かせない.
排尿は身体露出を伴う行為であり,安心な気持ちが担保され,排泄行為に気づかれない環境,
つまり身体的プライバシーが問題になる.そのため,必要なだけのプライバシーが確保されな
ければ,ストレスを高めることとなる.このようなことからみると,病室での排尿はまさに貧
環境にあるといえる.BGM はマスキング効果に加えて心理的な緊張を取り除き,リラックス
を促すためによい.
どんな姿勢がリラックスを促進するのか
膀胱内に溜まった尿を察知して,尿道内括約筋がスムーズに弛緩するためには,下腹部の過
緊張を引き起こすような姿勢は適さない.基本的には,腹筋が緩んだ姿勢が適している.歩行
ができ,座位姿勢が保てる人の場合にはさほど問題はないが,臥位姿勢での排尿となると,尿
器の性能とも関連して,尿器の受容口とのフィット性を高めて,漏れの心配が生じないような
姿勢に調節する必要がある.さらに音,臭いなどが周囲の人へ伝播することも緊張を生み出す.
「聞かれない」
「気づかれない」ことへの配慮が必要になる.
一方で排尿障害のある男性の場合では,立位より座位のほうが排泄しやすいことが示されて
いる 1).座位では腹筋が弛緩しており,かつ腹圧をかけることのできる姿勢がとりやすいから
である.
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自然排尿を促すための“リラクセーション法”の研究
報告
医中誌Web でキーワードを「排尿」and「リラクセーション」で全文検索を行った結果,
ヒットしたのは1 件であり,
「失禁」and「リラクセーション」では2 件がヒットした.キーワ
ードを「排尿」のみとし,原著論文・看護で絞り込み検索を行った結果,241 件の文献があり,
「尿失禁」を同条件で検索すると121 件であった.しかし,いずれもリラクセーション法を検
証した文献ではなかった.
海外文献については,PubMed で“urinary incontinence and relaxation technique”
で40 件,
“bowel and relaxation technique”で27 件であったが,自然排尿についてリラ
クセーション法を検証した文献として該当するものはなかった.
そこで,排尿障害の症状緩和にリラクセーション法は有効であるかについて検索した.ここ
では,排尿障害に関連した疾患の主な症状である,尿失禁,間質性膀胱炎などに多い痛み,頻
尿,尿閉 2)について取りあげる.
尿失禁
筋訓練とリラクセーション法
尿失禁に対する保存的療法として行動療法があり,介入や教育を含めた実践プログラムは数
多く報告されている.このプログラムに多く含まれている療法として,骨盤底筋訓練や膀胱訓
練がある 3).小松は,ストレスが失禁を助長するとして,ストレスそのものを緩和することと,
骨盤底筋の筋力を取り戻し,失禁の機会を減らす目的で,骨盤底筋訓練に筋電図バイオフィー
ドバックを用いている.骨盤底筋の緊張(収縮)感覚を知覚させるためには,目的以外の筋肉
を弛緩させることも重要な課題であり,筋弛緩法は緊張するべき筋肉とそのほかの筋肉を弛緩
させるための練習に適していると述べている 4).
尿失禁の治療に関して,National Institutes of Health では侵襲が少なく危険性の低い治
療法を最初に用いることとし,その一つとして骨盤底筋訓練を推奨している.骨盤底筋訓練は
WHO, ICI( International Consultation on Incontinence) で も 推 奨 さ れ て お り ,
Cochrane review でも膀胱訓練とともに効果が評価されている 5,6).骨盤底筋訓練と膀胱訓
練の研究について,ここでは詳細に触れないが,このプログラムにリラクセーション法を導入
するケースも存在している 5).
行動療法としてのリラクセーション法
尿失禁は発症頻度が高いうえに,その症状があることで患者は困惑し,羞恥心,孤立感とい
った感情を抱きやすく,自己価値の低下を招きかねない.精神的にもストレスフルになりやす
い 7).また長期的な治療を行っていく必要があり,それには,メンタルケアやサポートが不可
欠である.その一つのケアツールとして,行動療法としてのリラクセーション法が導入される
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排尿ケアを極める−床上での排泄ケア∼ベストプラクティスを探る 特集
ようになってきた.
具体的には,排尿機能に対する患者の知識と理解を助ける,コントロールに対する意識を助
長・促進し,成功体験を積み重ねるように支援する.特に重要なのが周囲の暖かい見守りの意
識である.身近な人も含めて環境の再調整を行うことで,尿失禁を改善する試みとして広く用
いられるようになっている.今のところ,尿失禁症状を抱える患者に対し,心理的サポートや
心身のセルフコントロール法としてのリラクセーション法の効果が検討された研究報告はない
が,
「症状への認知を変えていく」
「無駄な緊張の緩和(骨盤底筋の緊張弛緩)
」
「成功体験」な
どの効果を有するリラクセーション法の活用が期待される.
間質性膀胱炎
間質性膀胱炎については,ストレスによって症状が増悪することが知られている.Koziol
の調査で,間質性膀胱炎患者の61.1 %がストレスによって痛みが増悪すると答えている 8).精
神的要因は間質性膀胱炎の原因とはならないが,治療において考慮されるべきであるとされて
いる 9).
田口らは症例報告として,心理カウンセリングとイメージ法にて症状改善をみた1 例 10)につ
いて報告している.間質性膀胱炎の女性患者に対し,薬物治療と並行して心理カウンセリング
とイメージ法を実施した結果,間質性膀胱炎症状スコアおよび問題スコアが低下し,症状改善
が認められている.なお,イメージ法には,環境調整や病気との共存,ストレスを軽減させる
イメージを用いている.
海外の文献では,Carrico ら 11)による間質性膀胱炎の女性患者に対する誘導イメージ法の効
果についてのパイロットスタディがある.間質性膀胱炎の診断を受けた女性30 名を対象に行
った予備試験的RCT(ランダム化比較試験)を行った.実験群は1 日2 回,25 分間の誘導イ
メージ法を8 週間継続実施した.コントロール群は1 日2 回,25 分間の安静時間を設定した.
その結果,実験群でペインスケールと切迫感が顕著に減少し,IC-CIPI スコア(間質性膀胱炎
症状スコアおよび問題スコア)の改善がみられた.
頻尿
頻尿にはさまざまなケースがあり,いくつかのケースが混合している場合が多いが,心因性
頻尿の場合,特に精神的支援は重要である 12).牧之瀬ら 13)は神経性頻尿により通学が困難とな
った女子高校生の症例を報告している.4 か月間,行動論的カウンセリングを導入し,緊張緩
和を目的に呼吸法と自律訓練法を実施した結果,症状消失に至っている.
頻尿,特に夜間頻尿はメラトニンの合成が低下し,睡眠の質の低下,尿による覚醒閾値の低
下(少しの刺激にも目覚めること)
,腎臓の尿濃縮機能の低下,骨盤底筋の筋力低下,脳機能
の意識レベルの低下など,いくつかの要因が重複し,不眠との悪循環に陥っていく.高齢者や
更年期女性にとって生活の質へも影響を与える問題となっている 14).
夜間頻尿をきたす高齢者の睡眠妨害を改善するための方法として,呼吸法と骨盤底筋体操が
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推奨されている.リラックスのための呼吸法を練習することで,気持ちの落ち着きを図ること
ができ,結果として夜間排尿覚醒の回数が減少するという可能性がある.
尿閉
加藤ら 15)は,広汎性子宮摘出後に尿閉をきたした1 事例について報告し,そのなかでラザル
スのストレス理論,バンヂューラの自己効力理論を用いている.患者に自然排尿に対する行動
を実行できるという確信を得させるとともに,残尿を減らし,排尿自立への取り組みに対する
自己効力感を高めるための支援を行ったところ,残尿測定を行いながら自然排尿を達成できた.
尿閉は,前立腺肥大の影響を受けた高齢の男性に多い症状である.神経性に過緊張を引き起
こしてしまい,出したいが出ない状態が生じる.そのようなときにも,長息の呼吸法による下
腹部のリラクセーションが役立つ場合がある.無用な筋緊張を緩和するために,下腹部に意識
を向けて十分に腹筋をリラックスさせる.実施する際の姿勢は,自然な排尿姿勢を考えると座
位が適しているが,日ごろの呼吸法の練習であれば,臥位でも問題ない.
* * *
本稿では,排尿とリラクセーション法が関連した研究報告がなかったため,疾患に対する症
状緩和法としての効果を検証した.
田口らの研究と牧之瀬らによる研究は1 症例の報告であるが,イメージ法,呼吸法や自律訓
練法の効果があったと報告されている.Carrico らの研究は,パイロットスタディという設定
ではあるが,誘導イメージ法が間質性膀胱炎の女性患者の痛みと症状緩和のための介入法にな
りうる可能性を示唆しているといえよう.ストレス要因が大きいといわれている間質性膀胱炎
ではあるが,リラクセーション法を導入した研究報告はいまだ数少ない.
しかし,米国のInternational Cystitis Association のホームページには,代替療法など
も紹介され,具体的なストレス軽減法として,①リラクセーションの基本テクニックを学ぶ,
②瞑想やイメージ法を使う,③自己暗示術を学ぶ,④マッサージを受ける,⑤病気との共存
やストレス軽減のテクニックを学ぶための心理療法を受けることが挙げられている.今後,積
極的にリラクセーション法が導入され,効果が検証されていくことが期待される.
しかしながら,現状ではエビデンスレベルは低く,リラクセーション法の効果を立証してい
るとは言い難い.排尿障害を引き起こす多くの疾患のなかでも,その一因がストレスにあると
される心因性多尿症や神経性頻尿,心因性尿閉,尿道症候群などが増えてきているとの報告も
ある 2).現在のところは抗不安薬などによる改善が認められるとされているが,今後はリラク
セーション法によるセルフコントロールについても,臨床での検証を進め,有効性を検討して
いく必要がある.
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排尿ケアを極める−床上での排泄ケア∼ベストプラクティスを探る 特集
本稿で取り上げた文献の検索方法
1.検索方法
蘆医中誌 Web(1999-2009)
キーワード:リラクセーション,排尿,排尿障害,失禁,尿失禁,姿勢
蘆 PubMed
キーワード: urinary incontinence,bowel,relaxation technique
文献
1) 松本睦子,俵由美子,廣川聖子:排尿姿勢が残尿量と循環動態に及ぼす影響について―若年男性を対象とした検討.日
本看護研究会雑誌 2007 ; 30(3)
: 207.
2) 湯下芳明:前立腺炎を中心とする泌尿器科疾患に対するストレス緩和医療.総合臨床 2003 ; 52(8)
: 24752478.
3) 谷口珠実:骨盤底筋訓練を含めた行動療法の予防効果は? Nursing Today 2006 ; 10 月増刊号: 60.
4) 小松浩子:バイオフィードバック.荒川唱子,小板橋喜久代編:看護に活かすリラクセーション技法第 6 章.医学書院;
2001.p.88-101.
5) Norton P, Brubaker L : Urinary incontinence in women . Lancet 2006 ; 367(1)
: 57-67.
6) Sampselle CM, Brink CA : Pelvic muscle relaxation. Assessment and management. J Nurse Midwifery 1990 ; 35(3)
: 127-132.
7) 小松浩子:尿失禁改善の実践的アプローチ.小松浩子,菱沼典子編:看護実践の根拠を問う第 10 章.南江堂; 1999.
p.109-113.
8) Koziol JA, et al.: The natural history of international cystitis : A survey of 374 patients. J Urol
1993 ; 149(3): 465-469.
9) Keltikangas-Jarvinen L : Psychological factors related to international cystitis. Eur Urol 1988 ;
15 : 69-72.
10)田口裕基,山田哲夫:心理カウンセリングによって改善した間質性膀胱炎の 1 例.泌尿器外科 2008 ; 21(9)
:
1325-1327.
11)Carrico DJ, Peters KM, et al.: Guided imagery for women with international cystitis : results of a
prospective, randomized controlled pilot study.J Altern Complement Med 2008 ; 14(1)
: 53-60.
12)野崎洋子:排尿障害の種類別・対応とケア.Nursing Today 2006 ; 21(3)
: 11-15.
13)牧之瀬紀江,武井美智子,高山厳ほか:神経性頻尿の症例に対する行動論的アプローチ.心身医学 2004 ;44(7)
:
518.
14)宗田武,吉村耕治,小川修:夜間頻尿に対する生活指導の有用性.日本排尿学会誌 2008 ; 19(2)
: 223-227.
15)加藤昌代,柴田久美子,美和峰子:患者の排尿障害への取り組みと看護介入の検討−ラザルスのストレス理論,バンヂ
ューラの自己効力理論を用いて.Gifu Journal of Maternal Health 2004 ; 31 : 65-71.
参考文献
・Niewijk AH, Weijts WB : Effects of a multi-media course on urinary incontience.Patient Educ Couns
1997 ; 30(1)
: 95-103.
・ICA(Interstitial Cystitis Association) http://www.ichelp.org/
・荒川唱子ほか編:看護に生かすリラクセーション技法 ホリスティックアプローチ.医学書院; 2001. p.145.
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特集
排尿ケアを極める−床上での排泄ケア∼ベストプラクティスを探る
集尿器の特徴とエビデンス
西村かおる NISHIMURA Kaoru
コンチネンスジャパン株式会社
集尿器の分類
*手持ち集尿器と装着型集尿器の2 種類ある.
*男性用と女性用,男女兼用がある.
集尿器の評価
*ICI 基準に準じて評価する.
*QOL,健康への影響,製品の性能,経済的効率の項目で評価する.
手持ちの集尿器の特徴
*男性用:筒口の短いものと,ホースのついたものがある.また,尿がこぼれるのを防止する逆流防止弁
がついたものや,自動吸引できるものも出てきている.
*女性用:逆流防止機能のついたもの,受尿部の角度を変えることで肌にフィットさせるもの,座位で排
尿できるものなど工夫されている.
はじめに
できるだけオムツに頼らない排尿ケアをめざすとき,集尿器は最もよく使用される用具の一
つといえるが,残念ながら集尿器に関する論文は国内外で,ほとんどない.
2008 年7 月,第4 回国際失禁会議(International Consultation on Incontinence :ICI)
が開催され,排泄用具(management using continence products)グループによる論文
レビューの結果が発表された 1).
本稿はこのICI の結果に加えて,集尿器の分類と手持ち集尿器の紹介を目的としたい.
集尿器の分類
一般的に尿器(しびん:urinal)といえば,手に持つタイプ(handheld urinal)を示し,
運動機能的にトイレに行くことが困難な人,あるいは頻尿や切迫性尿失禁でトイレに行くまで
に間に合わない人に適合した用具として使用される.基本的には尿意がある人が対象である.
ICI では尿器をトイレ用具として位置づけている 1).
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手
持
ち
集
尿
器
男性用
装
着
型
集
尿
器
再利用型
女性用
座位用
兼用
使い捨て型
臥位用
再利用型
笊 集尿器の分類
しかし,福祉用具の試験評価などを行っている(財)テクノエイド協会による福祉用具分類
では集尿器(urine collectors)という分類のなかに,しびんも体幹に装着する装着型集尿器
(body worn urinal)も含まれる 2).この場合は尿意がある人だけではなく,原則として溢流
性尿失禁以外のすべての重度尿失禁をもつ人も対象となる.ICI では装着型集尿器をパッドや
オムツと同じように尿失禁用製品として位置づけている.最近では世界的に装着型集尿器の開
発が進んできている.
集尿器を分類すると笊のようになる.
集尿器は男性用と女性用,兼用に分かれ,女性用の手持ち集尿器は座位用と臥位用に分かれ
る.
男性用装着型集尿器は,再利用型と使い捨て型に分類される.
集尿器(排泄用具)の評価
ICI では排泄用具の評価を以下の項目ですることが適切としている 1).
①QOL
本人,家族,介護者がそれぞれどのように変化したか.
②健康への影響
感染やスキントラブルがない.
③製品の性能
使いやすさ,使用感,目立たないこと,漏れや臭いがないこと.
④経済的効率
購入費,洗濯代,サポートサービスなど.
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各集尿器の特徴と評価(手持ち集尿器)
男性用
男性の集尿器に関する研究論文は,国内ではみつけることができなかった.
男性用集尿器は短いものと,ホースがついていてタンク部分に貯留が可能なものがあり,こ
れらをまとめて手持ち集尿器と表現されている 2).
短い集尿器は筒口が女性より長い形であまり種類はない 3).ただ筒口に逆流防止弁がついた
ものがあり,振戦や筋力低下した人,軽い認知症があり取りこぼししやすい人には向いている
(笆)
.しかし,どのような条件でもこぼれないというわけではなく,尿器が逆になったり,空
気孔を塞ぐと尿が尿器内に入らず,こぼれることがある.だが,通常の使用であれば問題はな
い.
また,タンクにホースがついた集尿器には,高低差による自然落下で尿をタンクに落とすも
のと(笳)
,レシバー部分に尿感知センサーがついており,自動的に尿をタンクに吸引するも
のがある(笘)
.
自然落下の集尿器の場合,音は静かだが,ホースの部分がレシバーより位置が高いと,尿が
逆流するので注意が必要である.側臥位で使用すると操作しやすく,失敗が少ない.
自動吸引の集尿器の場合は,尿を感知して1 分間作動するため,取りこぼしにくい.しかし
自動吸引のため,モーター作動音と尿を吸引するときに音がでることから,周囲に人がいると
きには使用に問題が起こる可能性がある.また電源を必要とする 4).
研究報告
I C I が発表した国外の論文では,エキスパートレビューとして 1 点だけ報告されている
(Vickerman 2006 エビデンスレベル4 *)
.その結果,短い手持ち集尿器に関して笙のように
推奨している 1).
* エキスパートオピニオン
逆流防止機能をもつアダプターが筒口に装着
された尿器
ホースとタンクがついた男性用集尿器
レシバー部分が筒状となっている
笆 コボレーヌ
(ピップフジモト株式会社)
笳 安楽尿器男性用
(コンビウェルネス株式会社)
手持ち自動吸引集尿器の男性用レシバー
ボタン部分を押すと,自分でセンサーを作動
させることも可能.本体部分は女性用のとこ
ろで紹介する
笘 スカットクリーン
(パラマウントベッド株式会社)
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EBNURSING Vol.9 No.4 2009
排尿ケアを極める−床上での排泄ケア∼ベストプラクティスを探る 特集
分類 優先事項 背景(推奨の強さ)
推進
妨げ
切迫性,トイレ移動に問題がある男性(C)
いくらか巧緻性に問題がある男性(C)
デザインコンセプトは許容できる(C)
自分で尿を廃棄できない人(C)
バランスが悪い人(C)
腕の伸ばし,ウェストのひねりができない人(C)
,
認知に問題がある人(C)
C:グレードC.言い切れる根拠がない.
笙 ICI による手持ち集尿器がすすめられる人・すすめられない人(男性)
女性用
女性用手持ち集尿器は,臥位で使用するものと座位で使用するもの,臥位と座位の両方で使
用できるものがある.臥位で使用するものとして,一般的なしびんと逆流防止機能がついたも
の,またホースとタンクが一体化したものがある.
国内の論文では,女性用集尿器に関した論文はスカットクリーンに関して1 点あり,67 人の
女性高齢者が女性用のレシバーで座位と臥位で排尿した場合,各々の尿道口の位置の変化が報
告されているが,トライアルではない 4).
一般的なしびんは受尿部が容器に直接固定されたものと,取り外しができ,回転できるもの
がある(笞)
.女性の場合,尿道口の位置は個人差が大変大きいため,回転させることである
程度調整することが可能なもののほうが使いやすいだろうが,いずれにしてもうまく尿道口に
当てることができることと,取り終わった後,こぼさずに処理できる能力が必要である.
また,男性用と同様に,女性にもホースとタンクがついた集尿器がある(笵)
.女性用のレ
シバーは男性と異なり,尿道口の位置に差があっても調整できることが特徴である.
自動吸引手持ち集尿器も女性用のレシバーを使用する.臥位と座位で使用でき,仰臥位上部
のときはレシバーを腹部に当てるが,座位では取手をはずして使う(笨)
.
研究論文によると,座位ではレシバーの下方に,仰臥位ではレシバー上部に尿道口が集中す
受尿部を回すことで角度が変更できるしびん.
カバーをかけることで中を見にくくし,肌ざ
わりもよくすることができる
笞 ハビナース(ピジョン株式会社)
右方に L 字型についた取手は床側となるが, 笨 スカットクリーン 女性用
尿道口の位置が低かった場合,取り外して調
(パラマウントベッド株式会社)
整することができる.上についた取手をしっ
かり持って腹部に近づけることで,仰臥位で
も取りこぼししにくく,採尿できる
笵 安楽尿器女性用
(コンビウェルネス株式会社)
EBNURSING Vol.9 No.4 2009 (467)
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●
ることが報告されている 6).
逆流防止機能がついた尿器としては2 種類出ており,一つは座位でも対応が可能である(笶
筐)
.
座位用しびんは,ベッドサイドや車いす上などで排尿するための用具である(筺 笄 筍)
.座
位保持が安定していなければ使用できない.蓄尿バッグを接続すれば,すぐに捨てなくてもよ
い製品もある(笄)
.
研究報告
海外の論文では,1999 年に英国の37 の地域において,販売されていた13 の集尿器の使用
比較研究報告がある 1,5).ユーザーは33 ∼89 歳,平均年齢61 歳の女性で,結果はどの集尿器
もほぼ効果を得ることができた.使用時に重要なことは,ユーザーが容易に位置決めをするこ
とができ,こぼさないという安心感が重要であるとはっきりした.また,排尿姿勢として,座
レシバー部分に逆流防止弁がついており,そ
の部分は取り外しが可能.ベッド上で使用す
るもので,腰上げの必要はない
笶 ユリフィット(アロン化成株式会社)
幅が狭く,腰あげが浅くてすむ.膝関節が悪
く,トイレの便器に座れない場合は,便器に
立ち,この尿器に排尿し,バルブを解放して
尿を下に落とすことで処理が楽になる.
バルブがついているので,単体として,ある
いはその部分に蓄尿バッグをつないで使用す
ることもできる
笄 ユリナルズ
(ラックヘルスケア株式会社)
●
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EBNURSING Vol.9 No.4 2009
仰臥位,または座位で使用できる.上に乗る
形で使用する
上部突端が排出口になっており,こぼれにく
い
筐 コボレーヌ女性用
(ピップフジモト株式会社)
筺 サドルパン
(ラックヘルスケア株式会社)
使い捨ての携帯用として使用できる逆流防止
つきの集尿器.
一度入った尿がこぼれることはなく,臭いも
遮断するので持ち運びが可能.座位で使用で
きる
筍 ユニバック
排尿ケアを極める−床上での排泄ケア∼ベストプラクティスを探る 特集
分類 優先事項 背景(推奨の強さ)
推奨
妨げ
移動能力低下,切迫性のある女性(C)
クラッチを使って立つことができる人(B/C)
椅子の端まで体を動かすことができる人(B/C)
自分で尿を廃棄できない人(C)
バランスが悪い人(C)
腕の伸ばし,ウェストのひねりができない人(C)
認知に問題がある人(C)
B:グレードB.言い切れる根拠がある.
C:グレードC.言い切れる根拠がない.
B/Cは尿器により,推奨の強さ(グレード)が両方あるもの.
笋 ICI による手持ち集尿器がすすめられる人・すすめられない人(女性)
位,立位であれば失敗が少ないと報告されている.
加えてICI の報告では,エキスパートによる報告として5 つの研究があげられている.その
結果をもとに,推奨が示されている(笋)1).
男女兼用
論文はなく,一般的な集尿器とは異なるが,便利なものとして,腰上げせずに差し込み,尿
だけでなく便もとれるものと(筌)
,洋式便器にセットすることで簡単に採尿でき,尿量も同
時に計測できる集尿器がある(筅)
.
* * *
以上,手持ち集尿器について紹介をしたが,日本においてはどの手持ち集尿器が良いか,比
較評価した研究は皆無である.今後はユーザーの感想も含め,実際の効果に関する研究がなさ
ベッド上でまったく腰上げをせず差し込むこ
とで尿と便を採取できるため,大腿骨骨折患
者などに適応できる.尿意,便意がはっきり
としている人であれば,オムツと比べて,背
中側に排泄物が回らず,あと処理がしやすい.
浅いため,排泄後に静かに引き抜かないとこ
ぼれる可能性があるが,ポリマーを併用する
とリスクが少なくなる
筌 らくらくクリーン
(アイエムジー・ホスピタルサプラ
イ株式会社)
便器の中にセットすることで,両手が使えなくても簡単に採尿することができ
る.目盛りがついているので,尿量がすぐにわかる.自己導尿や認知症の人の
採尿に非常に便利である
筅 安心ユーリンパン(株式会社フジメディカル)
EBNURSING Vol.9 No.4 2009 (469)
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れ,それらの結果が介護保険対象になるように生かされることが望まれる.また,現在は集尿
器を使用するよりも,オムツ使用が優先されるようになっているが,集尿器使用とオムツ使用
が比較された研究があると,より現場で役立つと思われる.
本稿で取り上げた文献の検索方法
1.検索方法
蘆医中誌 WEB Ver.4
蘆 NACSIS Webcat
検索対象年は 1983 年∼ 2009 年
キーワード:集尿器,収尿器,尿瓶
海外文献
1st ∼ 4th International Consultation on Incontinence
文献
1) Cottenden A, Bliss D, Buckley B, et al.: Management using continence products. Incontinence :
4th International Consultation on Incontinence July 5-8, 2008. Health Publication ; 2009.
2) 財団法人テクノエイド協会:福祉用具分類コード95(CCTA95)
.財団法人テクノエイド協会; 1995. p.38.
3) Cottenden A, Fader M, Getliffe K, et al.: Management with continence products. Incontinence :
3rd International Consultation on Incontinence June 26-29, 2004. Health Publication 2005 :
p.158.
4) 石井賢俊:自動吸引式集尿器スカットクリーンの開発.福祉介護機器 Techno プラス(1882-7691)2009 ; 2
(1)
: 11-17.
5) Fader M, Petterson L, Dean G, et al.: The selection of female urinals : results of a multicentre
evaluation. Br J Nurs 1999 ; 8(14)
: 918-920, 922-925.
6) 宮前珠子:各種女性用集尿器の問題点.国立身体障害者リハビリテーションセンター研究紀要 1989 ; 10 : 168.
参考文献
石井賢俊,西村かおる:らくらく排泄ケア.メディカ出版; 2008.
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