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大阪府の水害履歴と小学校社会科副読本における 水害

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大阪府の水害履歴と小学校社会科副読本における 水害
大 阪 教 育 大 学 紀 要 第 E部 門 第5
4巻 第 2号
1-11頁 (
2
0
0
6年 2月)
大阪府の水害履歴と小学校社会科副読本における
水害に関する記述
ゃま
だ
しゅう
じ
しかがわ
この
み
山田周二・鹿川紅美
'社会科教育講座.・*修士課程社会科教育専攻
(平成 1
7
年8
'
月1
8日 受 付 )
大阪府で 1
9
6
1年から 2
0
0
3年に発生した水害および小学校中学年で地域学習に用いられる各市町村で
作成した社会科副読本における水害に関する記述について調査を行った。その結果,豊能町を除くす
べての市町村でこれまでに水害が発生しており,特に平野部に位置する市町では,大規模にあるいは
高い頗度で水害が発生していることがあきらかになった口しかし. 1
9
9
0
年以降は,池田市を除いて大
規模な水害は発生していないため,多くの住民は大規模な水害が発生した時にどこが危険でどこが安
全であるかを把握していない可能性が高い口一方,小学校社会科の副読本では,最近の水害や歴史的
な水害,水害時の防災体制について記述されているものもあるものの,水害時に危険な場所や安全な
場所を具体的に示したものはなかった。これらの結果から,地域の水害時の情報を示した地図が必要
G
I
S
)およびイン
な教材であると考えられる口このような地図の作成,配布には地理情報システム (
ターネットが有効であろう白
キーワード:水害,供水,社会科副読本.災害教育
I はじめに
日本では,梅雨前線や台風による豪雨によって頻繁に水害が発生する D 最 近 で は
t
2
0
0
4
年台風2
3号による水害が記憶に新しい。この水害では,兵庫県を中心として日本全国で死
者 ・ 行 方 不 明 者8
4名,住家被害4
7
.
1
9
8棟におよぶ大きな被害がもたらされた(国土交通省,
2
0
0
4
)。このように大きな災害は,毎年発生するわけではないものの,極端に稀な 7
]
<害と
9
9
0
年から 1
9
9
9年までの 1
0年間で水害による死者・行方不明者は6
6名
,
いうわけではない o 1
住家被害は 1
4
9,
0
0
0
棟におよんでいるが, この数字は 1
9
5
0年以降では最も小さいもので,
1
9
5
0年から 1
9
5
9年までの 1
0年間では死者・行方不明者は 1
,
7
0
0名 , 住 家 被 害 は 6
0
0,
6
0
0棟 に
0
0
4
)。
およんでいる(末次. 2
このように水害が頻繁に発生する条件下で‘安全に生活するためには,水害に対する知識
や情報が重要である D 水害は河川の氾j
監等によって発生するが,たとえ河川が氾濫しでも
適切な対処をすれば被害を小さくすることができる o 例えば,家屋の水害対策の有無や水
害時に避難するまでの時間は,水害経験に強く影響を受けることが示されている(山崎,
1
9
9
4;末次
t
2
0
0
4
)。
水害に対する知識を普及させるためには学校教育における災害教育が必要である o 日本
全体で見れば,毎年水害が起こっているものの,地域によっては毎年水害が発生している
とは限らない。そうすると,水害経験のない住民が地域の多数を占める場合もある o 特に,
干供は水害経験が少ない場合が多いと考えられる o このため,小学校の社会科では中学年
2
山田周二・鹿川紅美
において地域の災害に関する教育が行われてきた。ただし,学習指導要領では,災害につ
いては,火災,風水害,地震などの中から選択して取り上げることになっており,必ずし
も水害に関する教育が行われているとは限らない。
本研究では,大阪府を対象として,まず,府内の市町村においてこれまでにどのような
水害がどのくらいの頻度で発生したかを調査し,つぎに,小学校社会科の地域学習で用い
られる副読本に水害に関してどのように記述されているかを調査した。それらの結果を基
に,地域の水害に関する教育を行うにはどのような教材が必要であるかを考察した。
H 対象地域の概要と方法
対集とした大阪府は, 日本の都道府県の中で 2
番目に面積が小さいものの,他府県に広
い流域を有する淀川および大和川といった大きな河川が流れている(図 1)。大阪府の中
央に広がる大阪平野には,周囲の山地を流域とする中小の河川だけではなく,奈良県に広
い流域を有する大和川や京都府,滋賀県,奈良県,三重県に広い流域を有する淀川が流入
している o したがって,大阪平野には大和川や淀川を通して,非常に多くの水が集中する
ことになる o さらに,大阪平野は,最近数千年の聞に形成された沖積低地が大部分を占め
るため(高橋,
1
9
9
9
),河)1と土地との聞の標高差が小さいところが多い。これらは,河
川の氾濫時には浸水しやすい場所が多い,すなわち潜在的に水害の危険度が高いことを示
す
。
人口密度(人 /
k
r
r
l
)
コ
亡
1
3
5-3500
盤璽 3501. .7
0
0
1-11830
2
0
km
図 1 大阪府の地形と人口密度
大阪府の水害履歴と小学校社会科副読本における水害に関する記述
3
大阪府の面積は日本で 2番目に小さいものの,人口は約8
8
4万人と日本で 2番目に多く,
)。大阪府の人口密度は 1km2あたり 4
6
6
8
それは大阪市とその周辺に集中している(図 2
人と東京都についで 2番目に高く, 日本全体の人口密度である 3
4
3人/km2の1
0
倍を超える。
0
0
0人 /km2を 超 え , そ の 周 辺 部 に は
特に,大阪市とその周辺部では,人口密度は 7
3
5
0
0人/km2を超える市町村が分布する口これら人口密度が高い市町村の多くは,大和川
もしくは淀川と隣接した地域にあたる。このような大阪府の人口密度が高いという特徴は,
小規模な氾濫でも大きな被害をもたらしやすいことを示す。
以上のような地域である大阪府を対象として,水害および小学校杜会科副読本の調査を
行った。水害に関しては,国土交通省河川局が毎年発行している「水害統計 J(国土交通
9
6
2
2
0
0
5
)を利用した。小学校社会科の副読本については,市町村教育委員会
省河川局 1
が作成したものおよび教科書出版会社である大阪書籍が作成したものを利用した。
9
6
1年から現在に至るまで当該年の詳細な水害情報を記載した統計書である o
水害統計は 1
この統計書には,浸水があった地域の浸水面積,浸水世帯数等が記載されており,市町村
ごとに浸水面積等を読み取ることができるものの,年によっては以下のような制約がある o
1
9
7
0年以降はすべての水害が記載されているが, 1
9
6
9年以前は浸水面積 10ha0上 か 浸 水 被
0棟以上のものしか記載されておらず,水害の内容も 1
9
6
9年以前は被災世帯数に
害家屋が 3
9
6
1年 の 水 害
関するものはなく,浸水面積と浸水被害家崖の棟数が記載されている o また, 1
に関しては,浸水があった市町村については記載されているものの,市町村別の浸水面積
等は記載されておらず. 1
9
9
8年の水害については,大阪府全体の浸水面積等のみ記載され
ている O
この水害統計を基に, 1
9
6
1年から 2
0
0
3年まで‘の水害について大阪府の市町村単位で、浸水
9
6
9年以前については浸水世帯数の代わりに
面積および浸水世帯数を集計した。ただし 1
9
6
1年および 1
9
9
8年の市町村別の値が得られなかっ
浸水被害家匡の棟数を用いた。また, 1
3年間ではあるがデータは 4
1年分になる o 得られたデータから,
たため,対象とした期間は 4
各年の水害があった市町村の数,各市町村の水害があった年の数,浸水面積率,浸水世帯
率をそれぞれ算出した。浸水面積率は各市町村の浸水面積を各市町村の面積で割った値と
し,浸水世帯率は各市町村の浸水世帯数を当該年の各市町村の世帯数で割った値とした。
なお,各市町村の面積および世帯数は,大阪府発行の「大阪府統計年鑑 J (大阪府 2
0
0
5
)
および「大阪府の人口動向 J(大阪府, 2
0
0
2
) に記載されている植を用いた。
, 4年 生 の 地 域 学 習 で
一方,ここで調査対象とした小学校社会科の副読本は,小学校 3
,;
4年生の社会科では,その小学校が設置されている市
用いられる教材である。小学校 3
町村および.都道府県について学習するため,教科書も発行されているものの,市町村独自
9
8
9
;守田ほか,
の教材として作成されている副読本が主に利用されている(森脇ほか, 1
1
9
9
8;古同, 2
0
0
3
)。大阪府においては,全 4
4
市町村の 91%にあたる 4
0市町村で副読本を
市については教科書出版会社である大阪書籍が各地域用に作成し
作成しており,残りの 4
たものを利用している。これらの副読本を収集して水害に関する記述を分類,整理した。
ただし,羽曳野市については副読本を収集することができなかった。
E 大阪府の水害履涯
9
6
1年から 2
0
0
3
年までの推移をみる(図 3
)。 大 阪 府
まず,大阪府全体の水害についで 1
4市町村の中で水害によって被災した市町村の数は, 1
9
8
0年以降の方がそれ以前よ
内の全 4
山田周二・鹿川紅美
4
りも多い傾向にある() 1
9
6
1年から 1
9
7
9年までの 1
9
年間では,被災市町村数は最大でも 2
0
市
町村で. 1
0
市町村以上が被災した年は4
回しかなかったが, 1
9
8
0
年から 2
0
0
3年までの 2
3年
9
8年はデータ無し)では最大で3
2
市町村が被災し, 2
0市町村以上が被災した年が
間(19
6回
, 1
0市町村以上が被災した年が 1
5固と. 1
9
8
0年以降の方が被災した市町村の数が多い
年が多い。一方,水害の規模を表す浸水面積率および浸水世帯率は,その傾向とは一致し
ない。浸水面積率が 1%を超える大規模な水害は, 1
9
6
1年から 1
9
7
9年までの 1
9年間で 4回
9
7
0年以前に発生している o これに対して, 1
9
8
0
年から 2
0
0
3年ま
あり,それらはいずれも 1
での 2
4年間では 1
9
8
2
年に 1回発生したのみで,それ以降は 1
9
9
8年の 0.6%が最高でおおむ
ね0
.1%程度の小規模な水害しか発生していない。浸水世帯率の推移も同様の傾向を示し,
浸水世帯率が 1%を超える大規模な水害は, 1
9
6
1年から 1
9
7
9年までの 1
9年間で 3回発生し
ているのに対して, 1
9
8
0
年から 2
0
0
3年までの 2
4
年間では 1
9
8
2年に 1回発生したのみである o
以上の結果は,かつてはある限られた市町村に大規模な水害が発生していたものの,最近
は小規模な水害が多くの市町村で発生していることを示唆する o ただし. 1
9
7
0年以前は小
規模な水害は調査されていないため,実際にはより多くの市町村で水害が発生していた可
能性がある。
kdnuEunut-vnUEdhυ
qd
qL
被災市町村数
司
d
~ ~ ~ーー EJ- ーーーーーーーー ---j-k-------j-- ーーーーーーーーー -i-- ー- --
-ーーー-
司
4
141
噌
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1
9
7
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1
9
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9
6
0
1
9
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ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
d
内 n4
(%)
-ーーーーーーーー__.J~ーーーーー
0
1
9
6
0
1
9
7
0
1
9
8
0
1
9
9
0
図 2 大阪府の水害の推移
2
0
0
0
大阪府の水害履歴と小学校社会科副読本における水害に関する記述
5
つぎに,空間的な水害の分布をみる。まず,水害があった年の数をみると,対象とした
1
9
6
1年から 2
0
0
3
年までの 4
2
年間 0998
年はデータなし)で l度も水害が発生しなかったの
は豊能町だけで,それ以外の市町村は少なくとも 1回は水害が発生しており,特に淀川,
大和川周辺の市町村では多くの水害が発生したことが分かった(図
辺および大阪府南部の市町村では
1
4
)。 淀 川 , 大 和 川 周
4
2年間で 1
1回以上の水害が発生しており,これはほぼ
4年に l回以上水害が発生していることになる o 特に,淀川│と大和川にはさまれた大阪市
1回以上,すなわち. 2年に l回以上水害が発生していることになる o
と東大阪市では 2
十
水害があった年の数‘
陸題。
仁ご]1-10
副鴎 11-20
. .21-24
2
0
km
図 3 大阪府内の市町村において 1
9
6
1年から 2
0
0
3年までに水害があった年の数
1
9
6
1年から 2
0
0
3
年までの 4
1年間 (
1
9
6
1年および 1
9
9
8
年はデータなし)で最も規模が大き
かった水害の分布を浸水面積率および浸水世帯率からみると,水害があった年の数の分布
0 大阪府全体
と同様,淀川,大和川周辺および大阪府南部の市町で高い値を示す(図 5)
.6%および7.7%であったが,市町
の浸水面積率および浸水世帯率は,最大でもそれぞれ 3
4市町あり. 20%を超えるものが
村ごとでみるとそれらのいずれかが 5%を超えるものが 2
7市町ある。最大浸水面積率もしくは最大浸水世帯率が 5%を超える市町は, 淀 川 , 大 和
川周辺および大阪府南部に分布し,水害があった年の数の分布と同様の傾向を示すものの,
0
必ずし'も一致するわけではない。最大浸水面積率もしくは最大浸水世帯率のどちらかが 2
%を超える市町は,茨木市,豊中市,寝屋川市,門真市,松原市,泉大津市,忠岡町の 7
市町であるが,
これらの中に水害があった年の数が 2
1以上の市町は 1つもなく,反対に 1
0
田以下であった市町は茨城市,豊中市,松原市,泉大津市,忠岡町の 4市町ある o また,
0回以上であった大阪市と東大阪市は,いずれも最大浸水面積率,
水害があった年の数が 2
最大浸水世帯率ともに 20%に達していないことからも,頻繁に水害が発生する市町村で大
規模な災害が発生しているわけではない。
山田周二・鹿川柾美
6
十
十
最大浸水面積率(%)
最大遣水世帯率(%)
霞習 o
陸罰 o
Eコ
0-5
C
二]0-5
"5-20
. .20-49
"5-20
"20-36
o 5 10
2
0
20
km
km
図 4 大阪府内の市町村において 1
9
6
1年から 2
0
0
3年までに発生した水害による浸水面積率および
浸水世帯率の最大値
つに分類した(図 6
)0 規 模 は 最 大 浸
以上のような水害の規模と頻君主とから,市町村を 5
水両積率もしくは最大浸水世帯率が 5%を基準として,いずれもそれ以下の市町村を親模
小とし,いずれかがそれより大きいものを規模大とした。頻度は,水害があった年の数が
1
0を基準として,それ以下のものを頻度小,それより大きいものを頻度大とした。これら
つに 1
9
6
1年以降まったく水害がなかったものを加えて 5つのタイプ
の組み合わせでできる 4
6
に市町村を分類した。その結果,水害無しあるいは規模・頻度ともに小であったのは, 1
市町村のみで,残りの 2
8
市町は規模か頻度のどちらかあるいはどちらも大きい。水害なし
6市町村は,大阪府の南東部や南部,北部に位墨し,
あるいは規模・頻度ともに小であった 1
いずれも平野が少なく山地や丘陵が多い市町村である o これは,大阪府の平野部に広がる
市町村は,いずれも水害の危険性が高い地域であることを示す。
以上のように大阪府の多くの市町村は水害の危険性が高いことが示されたものの,多く
9
9
0年から 2
0
0
3年に発生した
の住民が水害経験があるとは限らない口図 7に示すように, 1
9
6
1年から 2
0
0
3年のそれとを比較すると, 1
9
9
0年以降に発生した災害が著し
水害の規模と 1
。
、 1
9
9
0年以降に全期間を通じて最大の水害が発生したのは池
く小さい市町村が非常に多 L
9
6
1年から 2
0
0
3年の聞に水害が l
回も発生していない豊能町以外の 4
2
田市のみで,それと 1
市町村は,いずれも 1
9
8
9年以前にそれ以降よりも大きな水害が発生しており, 1
9
9
0年以降
つある o 浸水面積率でみると,
は I回も水害が発生していない市町村も 5
1
9
8
9年以前にそ
れ以降よりも 1
0倍以上大きな水害が発生した市町村が全体の 85%を占めるおあり,全体の
48%を占める 2
1市町村では 1
9
8
9年以前にそれ以降よりも 1
0
0倍以上大きな水害が発生して
いる C また,浸水世帯率でみると,
1
0倍以上大きな水害が発生した市町村は 2
3, 1
0
0倍以
7
大阪府の水害履歴と小学校社会科副読本における水害に関する記述
十
水害の規模と頻度
怪週水害おし
仁コ規模,頻度ともに小
盟圃規制頻度大
田園規模大.頻度小
~量規模,頻度ともに大
2
0
km
国 5 大阪府内の市町村において 1
9
6
1年から 2
0
0
3
年までに発生した水害の規模と頻度
上大きな水害が発生した市町村は 8と浸水面積率よりは小さな値ではあるものの,多くの
市町村では 1
9
8
9年以前により大きな水害が発生したことを示す。これは,たとえ水害の頻
度が大の市町村であっても, 1
9
9
0年以降にはそれ以前よりも著しく小さな水害しか経験し
ていない場合が大部分を占めることを意味する。したがって,大阪府の大部分の市町村で
0年程度居住していたとしても,最大規模の水害が発生した場合にどこが危険である
は
, 1
かを知らない場合が多いことになる。
W
小学校社会科副読本における水害に関する記述
小学校社会科副読本の水害に関する記述は,最近の水害に関する記述,歴史的な水害に
関する記述,防災体制に関する記述の 3つの内容に分けられ,それぞれ全ての市町村の副
)。最近の水害に関する記述は, 8市町の副読本
読本に記述されているわけではない(図 8
にのみ記述されており,この 8市町のうち 7市町が水害の規模が大か規模・頻度ともに大
の市町村である白これは,過去に大規模な水害があったことが教育内容に反映されている
ことを示唆する o ただし,規模か頻度のどちらかあるいはどちらも大きい 2
8
市町のうちで
1市町では最近の水害についてはまったく触れられていな L
、。最近の水害に関する
残りの 2
記述の内容として,氾濫時の写真の掲載や大南が降ると河川が氾濫することがあることを
文章で記述しているものの,具体的に市町内のどこで被害が発生しやすいか, といったこ
とを示した地図や文章は掲載されていない。歴史的な水害に関する記述は,最近の水害に
関する記述よりも多い 2
6市町で掲載されており, このうち淀川に関して 1
0市町,大和川に
関して 1
6市町,淀川,大和川両方に関して 4
市町,その他の河川に関して 4市町が,
それ
,
e
8
山田周二・鹿川紅美
十
十
o5
10
20
20
km
km
1
9
9
0年以降の最大農水面積率と全期聞のそれとの比
1
9
9
0年以降の最大農水世帯率と全期聞のそれとの比
盛 罰 金 期 間 で 浸 水 面 積0
匿罰金期間で浸水世帯。
巴E
J0-10
思
園冨
1
0-1
0
0
回目 10-100
圏直
E翠
1
0
0-1
1
5
6
圏直 100-190
E翠 1990年以降の漫水世帯。
1
9
9
0年以降の漫水面積0
0-10
国 6 大阪府内の市町村において 1
9
9
0
年から 2
0
0
3
年までに発生した水害による浸水面積率および司
9
6
1年から 2
0
0
3
年までに発生した水害によるそれらの値との比
浸水世帯率の最大値と 1
ぞれ掲載している o 淀川に関する内容を掲載している 1
0市町はいずれも淀川周辺に位置し,
淀川,大和川両方に関する内容を掲載している 4市町は淀川│と大和川の間に位置している o
これに対して,大和川に関する内容は,大和川周辺の市町だけでなく,その流域外のかな
り離れた大阪府南西部の市町においても掲載されている o これは,大和川に限らず歴史的
な水害に関する記述の目的が,必ずしも災害から身を守るためのものではなし郷土の歴
史の教育に主眼がおかれているためであると考えられる o 歴史的な水害に関する記述の内
容は,主に江戸時代の水害による苦難の歴史とそれを防ぐために尽くした人々の活動を記
したもので,必ずしもその歴史が現在につながるような内容にはなっていない。過去の人々
の努力によって水害を防ぐことができるようになった,という内容のものが多いため,現
在:では水害からは安全であるような印象を与えるものもある o 一方,防災体制に関する記
述は, 3市町でのみ掲載されている。その内容としては,地震や水害があった場合の役場
の役割を図や文章で記述し τいるものの,避難所の位置や避難経路は地図や文章で示され
。
、
ていな L
大阪府の水害届歴と小学校社会科副読本における水害に関する記述
最近の水害に闘する記述
防災体制に関する記述
こコ記述なし
盟国記述あり
こコ記述なし
匿習未入手
霞週末入手
9
盟国記述あり
国 7 大阪府内の市町村において利用されている社会科副読本における水害に関する記述
V、 考察および結論
地域の水害に対する知識を普及させるために,必要ではあるものの現在不足している教
材は,水害時に危険な場所や安全な場所(避難所や避難経路)を示した地図であろう o 大
阪府では,豊能町を除くすべての市町村でこれまでに水害が発生しており,特に平野部に
位置する市町では,大規模にあるいは高い頻度で水害が発生している。しかし最近 1
0数
0数年間の 1
0
年間には大規模な水害は池田市を除いて発生しておらず,それ以前には最近 1
倍以上の水害が発生した市町村が多くを占める o したがって,多くの住民は大規模な水害
が発生した時にどこが危険でどこが安全であるかを把握していない可能性が高い。特に小
中学生はまったく水害経験がない場合がほとんどであろう O 水害による死亡時の行動を調
査した結果によると,子供の場合,遊んでいる時に死亡した例が半分近くを占める(末次,
2
0
0
4
)
0 これは,遊んでいる場所が危険であるという知識がなかったためと考えられる o
このような被害を最小限にするためには,身近な地域のどこが危険でどこが安全であるか
を子供たちに認識させる必要がある。そのための教材としては,地図が最も適しているで
あろう o 水害時に危険な場所や避難所等を示した地図は洪水ノ、ザードマップ等と呼ばれ,
大阪府のいくつかの市町村において作成されているものの,全市町村ではまだ完成してい
ない。これらが完成すれば,教材としての価値は高い。また,大阪府の水害に大きな影響
がある淀川,大和川については,匡i
土交通省近畿地方整備局によって洪水時の浸水想定区
1
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山田周二・鹿川紅美
域を示した地図が 2
0
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2年に作成された。これらを利用すれば有用な教材が作成できるであ
ろう o ただし,身近な地域の詳細な情報を読み取るためには 1:
1
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0程 度 の 大 縮 尺 の 地
図が必要であるが,このような地図を市町村単位で作成すると非常に大きなものになる場
合が多く,作成や配布にあたって費用面の困難があるかもしれない。このような問題を解
決するには,インターネットの利用が適切である。近年のインターネットの普及およびコ
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)の 進 歩 は , 大 縮 尺 の
ンビュータを利用した地図作成技術である地理情報システム (
地図を配布するのを容易にした。 GISを利用して地域の水害情報を示した地図を作成し,
これをインターネットで配布すれば,容易に学校で利用することができる o 今後の課題は,
このような教材となるべき地図を作成し配布していくことであろう o
謝 辞
小学校社会科副読本を収集するにあたっては,各市町村教育委員会の方々には大変お世話になりま
した口記して感謝します。
文 献
2
0
0
2大阪府の人口動向基礎資料編。
2
0
0
5平成 1
6
年度大阪府統計年鑑。
国土交通省 2
0
0
4台風 2
3号について(第 5報:最終報)。国土交通省何川局防災課災害対策室. 4
6
p
.
国土交通省河川局 1
9
6
2
2
0
0
5水 害 統 計 昭 和3
6
年版 平成 1
5年版。
末次官、司 2
0
0
4河川の減災マニュア Jレ。山海堂. 3
7
5
p
.
高橋彦治 1
9
9
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と平野の地学・第四紀層。山海堂, 2
6
8
p
.
古岡俊之 2
0
0
3小学校中学年社会科副読本の改善への提言一兵庫県における小学校社会科副読本の活
1
.2
8
3
7
.
用場面分析を過して-。新地理, 5
守田優・増穂栄作・安宅裕子・大庭里美・中山梅乃・山内くに子 1
9
9
8大阪府における小学校地域
7
.(
1
)
.2
5
38
.
(郷土)学習副読本の素材と利用。大阪教育大学紀要第 V部門. 4
森脇健夫・石川一恵・臼井正幸・中井重勝 立花昇 1
9
8
9大阪府下の小学校 3・4年生社会科副読本
8
,(
2
), 1
5
7
1
7
4
.
の比較研究(第一報)口大阪教育大学紀要第 V部門, 3
山崎憲治 1
9
9
4都市型水害と過酷地の水害。築地書館, 1
8
3
p
.
大阪府
大阪府
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大阪府の水害履歴と小学技社会科副読本における水害に関する記述
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