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MIZUHO CHINA MONTHLY<2015年06月号>(PDF

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MIZUHO CHINA MONTHLY<2015年06月号>(PDF
MIZUHO CHINA MONTHLY
みずほ チャイナ マンスリー
2015 年 6 月号
中国経済
1
中国の地方政府債務問題を巡る改革の進展
~改革過渡期には地方財政悪化のリスクも~
産業・地域政策
7
拡大する中国対外直接投資の現状と展望 ㊦
-中国企業の多国籍化戦略実施の成果と課題-
中国アドバイザリーの現場から
11
改革の“実験場”が拡大
~新たな FTZ の発足と資本開放の“実験”~
中国戦略
非常時の危機管理対応と解決能力
-備えは万全ですか?-
15
法務
21
食品安全法及び広告法の改正について
税務会計
27
国外関連者への支払費用(その 1)
税務会計
32
海外勤務にかかわる人事、社会保険、給与、税務の詳細解説
みず ほ銀 行
みずほ銀行(中国)有限公司
その②
中国営業推進部
中国アドバイザリー部
0
MIZUHO CHINA MONTHLY
2011 年9 月号
- Executive Summary 中国経済
中国の地方政府債務問題を巡る改革の進展
中国では、地方政府債務の問題が経済・金融に不安定をもたらしうる火種として燻り続けているが、2014 年以
降、同問題の解消に資する制度等の整備が進んだ。本稿では、その概要について、これまでと比べ変化した点
を中心に紹介するとともに、新たな制度の運用が始まった 2015 年の注目点として、新制度の円滑な運用開始
や、制度改変に伴う経済への悪影響の回避といった課題について考察する。また、地方財政に関わる改革の今
後も展望する。
産業地域政策
拡大する中国対外直接投資の現状と展望 ㊦
世界第 2 の外国直接投資の受け入れ国として大量の外資導入を行ってきた中国は、対外直接投資の新しいプ
レイヤーとしても急速に成長し、2013 年に米日に次ぐ世界第 3 位の対外直接投資国に躍り出た。本稿は拡大し
ている中国対外直接投資の実態を浮き彫りにし、中国企業の国際展開の要因と戦略志向を考察し、中国対外
直接投資の成果と課題を明らかにする。これを踏まえ「新常態」を迎えた経済転換期における中国の対外投資
拡大による国内外経済への効果と影響を展望する。
中国アドバイザリーの現場から
改革の“実験場”が拡大~新たな FTZ の発足と資本開放の“実験”~
国務院は 2015 年 4 月 20 日、広東省、天津市、福建省に設立する新たな自由貿易試験区(FTZ)の基本計画案
と 2013 年 9 月に開設した中国(上海)自由貿易試験区の拡張に伴う改革深化計画案を公表した。これら 4FTZ
は、それぞれ独自色を打ち出しながら、規制緩和や市場開放等の経済構造改革を進めている。本稿では、各
FTZ の基本方針と、上海 FTZ で本格的な活用が始まっている自由貿易口座について解説する。
中国戦略
非常時の危機管理対応と解決能力
サイバー攻撃、テロ、パンデミックや災害など、ビジネス市場の広範囲に影響を及ぼす緊急事態・事故への、企
業の危機管理対応と問題解決能力の重要性が高まっている。企業のトップや危機管理担当者は、緊急時対応
計画や事業継続計画を準備するだけでなく、実践的なトレーニングを受け、突然起きる事態に備えなければなら
ない。世界各国では、関係当局も含め業界全体で非常時対応訓練が実施されている。2015 年は香港でも同様
の訓練が予定されている。
法務
食品安全法及び広告法の改正について
本年 4 月に、中国食品安全法及び広告法の全面的な改正法が公布された。今後、日系企業の中国ビジネ
スにも幅広い影響を与えると思われる改正内容が含まれている。これらの改正内容のうち、実務的に重
要と思われる改正点を紹介する。
税務会計
国外関連者への支払費用(その 1)
国家税務総局は今年 3 月に中国国外の関連者(外国親会社等)に支払うサービスフィーとライセンスフィーにつ
いての租税回避対策規定を公表した。この新規定は、従来から存在する租税回避規定等の税務文献を踏まえ
て OECD の移転価格ガイドラインの討論稿の内容を導入したものである。第 1 回目の本稿では、公告発表の背
景とサービスフィーの基本原則を紹介する。
税務会計
海外勤務にかかわる人事、社会保険、給与、税務の詳細解説
その②
企業の国際化に伴い身近な存在となった海外勤務であるが、その実践においては、人事、社会保険、給与福
利、税務等あらゆる面での十分な検討及び準備が必要である。前回の人事、社会保険につづき、今回は給与、
税務について、海外勤務にかかわる制度的観点から取扱いを解説する。
MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
中国経済
中国の地方政府債務問題を巡る改革の進展
みずほ総合研究所
アジア調査部
~改革過渡期には地方財政悪化のリスクも~
主任研究員
中国室
三浦
祐介
[email protected]
中国では、2008 年末から実施された 4 兆元の景気刺激策を契機に、地方政府の債務が増大した。
その残高は、審計署(会計検査院に相当)の調査結果によれば、2010 年末時点で 10.7 兆元、2013
年 6 月末時点で 17.9 兆元1と、4 兆元の景気刺激策終了後も拡大を続けており(図表 1)、将来的
な財政悪化やデフォルト多発による金融市場の混乱など、中国経済に不安定をもたらしうる火
種として燻りつづけている。
このような地方政府債務問題がもたらすリスクに対して、習近平政権も危機意識を抱いてお
り、問題解消に向けた取り組みに着手している。とくに 2013 年 11 月に中国共産党第 18 回中央
委員会第 3 回全体会議(三中全会)が開催されて以降、その動きは加速しているようにみえる。
そこで本稿では、地方政府債務に係る問題解消の方針を紹介するとともに、新たな制度の運用
が始まった 2015 年の注目点や、地方財政の今後の展望について考察する。
1.地方政府債務問題解消への道筋が示された 2014 年
地方政府債務問題に関する対策については、2014 年中にその枠組みが概ね作られた。具体的
には、
「予算法」の改正(全国人民代表大会(以下、全人代)常務委員会、同年 8 月)、
「地方政
府債務の管理強化に関する意見」
(財政部、同年 9 月)、
「地方政府債務の予算管理編入による整
理・審査規則」(財政部、同年 10 月)の公表などが挙げられる。これらの法規等で示された方
針を要約すると、①新たに発生する債務を規範化し、野放図な債務増大を抑制する、②既存の
債務を段階的に処理していく、の 2 点
図表 1 地方政府債務残高の推移
に集約できる。
(兆元)
(1)新たに発生する債務を規範化
20
①について、以前と比べて変化した
点の概要は次頁図表 2 の通りで、借入、
(%)
偶発債務(左目盛)
政府債務(左目盛)
対GDP比(右目盛)
40
15
30
10
20
5
10
使用・管理、返済の各段階で規範化を
図る方針だ。
まず「借入」について、これまでは、
旧予算法の規定のもと地方政府による
起債や借入は、原則禁止されていた。
しかし、財政制度上、地方政府に課せ
られている行政事務に対し、その財源
が不足する傾向にあるため、地方政府
0
0
2010年末
2011年末
2012年末
2013年6月末
(注)1.2011 年末の残高は不明のため、2010 年末と 2012
年末の残高の平均値を掲載。
傘下の融資平台と呼ばれる法人 や、学
2.2013 年 6 月末の債務残高対 GDP 比は、2012 年 7 月
校や病院等の公益・社会サービス事業
~2013 年 6 月までの名目 GDP を用いて算出。
(資料)中国審計署により作成
2
1
調査対象(政府や債務種類)範囲は、2010 年末時点に比べ、2012 年末及び 2013 年 6 月末時点のほうが広い。
地方政府融資平台は、地方政府が公共投資プロジェクトの資金調達・実施等を目的として、財政資金や土地使用権等で出資
して設立した機関。
2
1
MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
中国経済
関連機関(事業単位)等が、暗黙の政府保証のもと、地方政府に代わって銀行借入等により資
金調達を行ってきたのが実情であった。これに対して今後は、地方政府の資金調達の主体は地
方政府本体のみ、調達手段も起債に限定されることとなった。具体的には、収益源がない公益・
社会サービス事業については一般債券、一定の収益が見込める公益・社会サービス事業につい
ては特別債券を発行することとされた3。
また、
「使用・管理」について、これまで借入資金の使途には厳格な規定はなかった。このた
め、収益性を重視せずに借入を行い、返済不能リスクの増大を招いた。また、債務の管理につ
いても各借入主体が個別に行うのみで、地方政府が統一して行っていなかったため、地方政府
債務の全体像の把握が難しくなり、中央政府が 2 度にわたる悉皆調査を行ったという経緯があ
る。こうした無規範な状況を改善するため、今回の制度改革では、使途が公益性の高い資本支
出と既存債務の返済に限定され、債務残高は地方政府予算に計上して管理されることとなった。
そして「返済」に関しては、融資平台など借入主体がその責任を負うのか、地方政府が負う
のか、また場合によっては中央政府が引き受けるのか等について明確な規定が存在せず、返済
責任の所在が曖昧という問題が存在していたため、新制度では「地方政府が返済責任を負い、
中央政府は救済しない」との原則が明確にされた。
図表 2 新規の地方政府債務に関する制度改革方針
これまで
借入
使用・管理
返済
今後(2015年以降)
○ 傘下の融資平台等を通じて間接的に借り入れ
○ 調達手段は主に銀行借入。社債や信託なども
利用
○ 借入主体は地方政府本体のみ
○ 調達手段は地方債発行のみ
○ 使途に関する規定は存在せず
○ 予算計上されず、各借入主体が個別に管理
○ 使途は公益性の高い資本支出と既存債務返
済に限定
○ 債務は、地方政府予算に計上して一括管理
○ 返済責任の所在が曖昧
(借入主体か、地方政府か、等)
○
地方政府の返済責任範囲を明確化。また「地
方政府が返済責任を負い、中央政府は救済
しない」との原則を明示
(資料)中国国務院により作成
(2)既存の債務を段階的に処理
既存の債務については、まず 2014 年末時点での債務残高を確定し、財政部に報告するよう地
方政府に下達された。審計署による前回の調査時点(2013 年 6 月末)で報告をしていなかった
り、その後新たに増えている可能性があったりするためで、実際、2015 年 5 月 25 日時点で唯一
暫定調査結果が公表されている海南省の場合、前回に比べて約 20%増加している。
そのうえで、主に借入を行った事業等が生む収入の有無や多寡に基づき、地方政府が返済責
任を負うものと、融資平台などその他の借入主体が返済責任を負うものに峻別し、返済を進め
ることとされた。このうち、地方政府が返済責任を負う債務については、利払い負担の軽減や
返済の期間構造の最適化のため、上述のように地方債発行による借り換えも認める方針が示さ
れた。
3
なお、融資平台自身の起債等は禁止されていない。ただし、企業債の管理を主管する国家発展改革委員会は、2015 年 2 月に
「企業債発行業務の更なる改善・規範化に関する何点かの意見」を公表し、企業は主に自社の信用力に依拠して起債をしなけ
ればならない旨を示し、融資平台は今後、起債時に政府による暗黙の保証を受けられないことを示唆している(「发改委规范
企业债 不能新增政府债务」(『财新网』2015 年 2 月 26 日))
。
http://economy.caixin.com/2015-02-26/100785629.html
2
MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
中国経済
2.新制度運用の初年度となる 2015 年の注目点:①地方債の円滑な発行を実現できるか
地方政府債務に関する新たな枠組みが 2014 年中に整ったことを踏まえ、李克強首相は、2015
年 3 月に開催された全人代の政府活動報告の中で「債務管理と安定的成長の関係を首尾よく扱
う」と強調し、地方政府債務に関する新制度のもとでの安定成長の実現に対して意気込みをみ
せた。
こうした意気込みに対して、実際の取り組みが順調か否かを判断する第一のポイントは、2015
年から適用される新制度が円滑に機能し、地方政府が債券発行を通じて計画通りに資金調達を
行えるかだ。
地方債発行に向けては、まず全人代で承認された 2015 年度の予算案で、一般債 5,000 億元と
特別債 1,000 億元の合計 6,000 億元を発行する計画が示された。また、2015 年に返済期限が到
来する債務(地方政府が責任を負う債務約 1.9 兆元)の返済負担を軽減するために、1 兆元分の
借換債の発行を認める方針が財政部により明らかにされた。このほか、社会保障基金の運用対
象を拡大し、同基金が従来の銀行預金や国債等に加えて地方債にも投資できるようにした。
その後、5 月 18 日に 2015 年の第一弾となる地方債(一般債 214 億元と借換債 308 億元の合計
522 億元)が江蘇省により発行されたが、その過程は必ずしも順調ではなかった。同政府が計画
していた金利が金融機関の要求水準に対して低かったことや、地方債の流動性が不十分など、
投資家にとっての保有のメリットが少ないことがネックとなり、一時頓挫したのだ。これを受
け、財政部・人民銀行・銀行業監督管理委員会の 3 部門が、発行を円滑化するための対策を打
ち出した。具体的には「(公募発行ではなく)特定の銀行等に対して発行する方式も採用する」
として、地方政府が金融機関と個別に協議を行い、機動的に起債できる方法を新たに設けたほ
か、
「地方債を、商業銀行が人民銀行から再貸出等の金融政策の適用を受ける際の担保として認
める」として、商業銀行等に対して借換債を購入するインセンティブを与えた。
こうした紆余曲折を経て、江蘇省での地方債発行が実現したが、その額は当初の計画(648 億
元)よりも小さくなった。資金調達を急ぎたい地方政府と、地方債の過度な保有に慎重な金融
機関との間での駆け引きが影響した模様だ。上述の 3 部門合同の施策は、8 月末までに現在予定
している 1 兆元の借換債の発行を完了する方針を示すとともに、追加の借換債発行も示唆して
いるが、同様の事情から、今後の地方債起債が地方政府の思惑通りに進まない可能性もある。
地方債の発行動向には引き続き注視が必要だろう。
3.新制度運用の初年度となる 2015 年の注目点:②地方財政に生じうる財源不足を補えるか
第二のポイントは、地方財政を取り巻く環境が厳しいことに加え、今回の一連の改革により
地方政府の資金調達が滞る可能性があるなか、いかにその悪影響を緩和できるかだ。
(1)改革がもたらす地方財政の悪化リスク
中国の地方政府は目下、財政支出の増加圧力にさらされている。景気下支えに必要なインフ
ラ投資の実施や、新型都市化政策の推進に伴う公共サービスの拡充4などが求められているため
だ。一方、地方政府の主要財源である税収と土地使用権売却収入については、景気減速や営業
4
農村から都市への出稼ぎ労働者(農民工)は、都市で仕事や生活をしているにもかかわらず、都市部の公共サービスを十分
に享受することができていない。こうした問題を解消するため、新型都市化計画では農民工の都市市民化を進め、農民工への
公共サービスを拡充することが重点とされている。
3
MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
中国経済
税から増値税への転換(「営改増」
)5、不動産市況の低迷等を受けて伸び悩む見込みだ。実際、1
~3 月期の財政収入は前年比▲6.2%と収入の減少が顕著で(図表 3)、地方政府の財源不足はこ
れまで以上に深刻になる恐れがある。
これまでであれば、その不足分は予算外での資金調達によって補うことができた。上述の審
計署の調査結果の数値に基づくと、
債務の増加ペースは、2010 年末から 2013 年 6 月までの間で、
年平均約 1.7 兆元にのぼる。これに対して、地方政府の唯一の資金調達手段と定められた地方
債の 2015 年の発行予定額は、先述の通り 6,000 億元だ。これまで外部から調達してきた資金と
同等規模の額を、起債だけで 2015 年以降も調達することは困難とみられる。
また、融資平台の資金繰りにも不安が残る。今回の制度改革によって暗黙の政府保証を後ろ
盾とした資金調達を禁じられ、調達可能額が抑制される可能性があるためだ。
「地方政府債務の
管理強化に関する意見」が 2014 年 9 月に公表されて以降、城投債(融資平台が発行する債券等
の総称)の新規発行額の減少が続いている(図表 4)ことも、それを示唆している。
こうした環境下、地方政府や融資平台が、不足する資金を外部から十分に調達できず、その
結果、インフラ投資や既存債務返済が滞り、景気の悪化や金融市場の混乱を招く可能性も否定
できない。
図表 3 財政収入の推移
図表 4 城投債の発行額および発行本数
(前年比%)
25
(億元)
7,000
(本)
1400
財政収入
20
6,000
15
5,000
10
4,000
3,000
5
0
土地使用権譲渡収
入以外(税収など)
▲5
2011 12 13
14
1000
発行額
(左目盛)
800
発行本数
(右目盛)
600
2,000
400
1,000
200
0
2011/1
土地使用権譲渡収入
▲ 10
1200
15 (年)
2012/1
2013/1
2014/1
0
2015/1 (年/月)
(注)1.2011 年、12 年は年次。13 年以降は四半期。 (注)四半期毎のデータ。
2.財政収入は、一般予算収入と政府性基金(大 (資料)Wind により作成
半は土地使用権譲渡収入)の合計。
(資料)中国財政部により作成
(2)財源確保策が相次いで打ち出されるも実効性は不透明
以上のような懸念が存在するなか、中国政府はリスクの顕在化を回避するために様々な対策
を打ち出している。例えば、輸出増値税の還付に関する地方負担分の軽減等によって財政収支
を改善させるとともに、未使用のまま蓄積されている余剰財政資金や政府保有資産の売却益な
どのストックも活用しようとしている。また、インフラ投資に際しては PPP(Public-Private-
5
中国では、物品に対して課せられる増値税と、サービスに対して課せられる営業税という流通税が存在している。これらの
税金は、課税ベースの違い等により、製造業に比べサービス業の税負担が重いという問題を招いてきた。このため、負担を公
平にしてサービス産業の発展を促すため、習近平政権のもと、営業税を廃止して増値税に一本化する改革(「営改増」)が進め
られている。営業税収入は全額地方に配分され、地方税収の 31.8%(2013 年)と最大のシェアを占める主要税源となってい
るのに対し、増値税は総額の 75%が中央の税収となるため、同改革に伴い地方政府の税源が縮小する可能性が高い。
4
MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
中国経済
Partnership:官民連携)方式の導入を促すことで民間資金を活用する姿勢を度々強調しており、
導入円滑化に資する規則なども打ち出されつつある。このほか、財政制度改革の一環として見
直しが行われた中央から地方への財政移転制度も、地方財政への支援となりうる。
加えて、既に着工されている融資平台の投資プロジェクトに対しては、既存債務処理の過渡
期の間、資金ショートの発生による計画の中断を避けるための具体策も明らかにされた。同施
策によれば、
「地方政府債務の管理強化に関する意見」の公表前に着工されたプロジェクトのう
ち、2014 年末までに結ばれた融資契約については、銀行に貸出を継続するよう求めたり、返済
が滞る場合には借り換えを認めたりしているほか、追加資金が必要な場合には、PPP 方式の採用
や地方債で調達した資金等を利用し、プロジェクトを継続するよう地方政府に求めた。
これらの取り組みによってどの程度の効果が見込めるだろうか。現在明らかになっている情
報から判断すると、全ての措置を総動員すれば一定規模の財源は確保できるかもしれない(図
表 5)。しかし、実効性について不透明な点もまだ多い。例えば、PPP のプロジェクトに対して、
民間参入を期待通りに実現することができるか、仮に地方全体でみて十分な額が確保できたと
しても全ての地方政府が十分に調達できるか、資金の調達が支出の必要なタイミングに間に合
うか等である。また、財政移転制度についても、地方政府による既存債務の返済負担までは考
慮しているわけではなく、既存債務の返済を巡る不安が払拭されるまでの間の中央政府の対応
も注目される。
図表 5 地方政府の財源確保に資する主な政策
政策内容
財政収支
の改善
財政ストック
の活用
備考
輸出増値税還付に関する 地方から中央への2014年の上納額は1,380億元(ただし、輸出
地方負担の軽減
増値税還付に関する地方負担額以外も含む)
余剰財政資金の活用
審計署による9省、9市および18県に対する重点監査結果によれ
ば、7,673億元が未使用のまま留保
政府保有資産の売却益
の活用
例えば山東省の郭樹清省長が、資産売却による返済資金調達
の可能性について言及
PPPの導入促進
2015年1月までに公表された中央政府および地方政府による
PPPモデルプロジェクトの総額は、約1兆元(中央1,800億元、地
方8,223億元。ただし、調達済みの金額ではなく、主に資金を募
集するプロジェクトの規模)
銀行借入の継続
2014年9月21日前に着工し、2014年12月末までに貸借契約が
結ばれたプロジェクトのうち、①返済期限が到来していない貸出
については、一定の条件のもと貸出を継続、②返済期限が到来
したものの、元利金返済が難しいものについては、契約額を超え
ない限りにおいて再契約を許可
外部資金の活用
(資料)中国政府資料等により作成
4.地方財政健全化に求められる税財政改革の加速
このように、地方政府債務の管理を巡る動きは 2014 年以降、大きく進展した。ただ、同問題
を根本的に解決するためには、地方政府が債務を必要以上に増やさなくても済むような財政制
度を構築する必要があり、そのためには、地方政府の財源の拡充や、中央政府と地方政府間で
の行政事務分担の最適化など、残された改革を仕上げる必要がある。
一連の財政制度改革については、2020 年を目途として、①予算制度の改善、②税制の整備、
③中央・地方関係の見直し、の順番で完了させていく方針が、財政部の楼継偉部長により示さ
れている。2013 年 11 月から 2015 年 3 月までの約 1 年半の間の進捗を振り返ると、次頁図表 6
の通りで、概ねこの順番に則り取り組みが進められている。
5
MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
中国経済
①については、三中全会で採択された「改革の全面的深化における若干の重大な問題に関す
る中共中央の決定」で挙げられた改革は既に概ね網羅されており、これまでのところ順調に進
んでいると評価できる。
他方、②と③についてはまだ道半ばだ。例えば②については、営改増や資源税の改革が比較
的速いペースで進んでいる一方、今後、地方政府の主要財源になると目されている消費税や不
動産税に関しては、まだ改正案・制定法案を検討している段階のようだ。改正・導入までに 2、
3 年を要するとの見方もあり、地方政府の財政基盤は当面脆弱なものとならざるを得ないだろう。
また、③についても、税制整備や政府機能の見直しといった諸改革をある程度完了し、国全体
としての財政収入および財政支出の規模感を把握できるようになって初めて、中央・地方間で
の分担について本格的な検討が進められるものと思われる。
こうした進捗状況を踏まえると、改革完了の目途とされている 2020 年までの 5 年間は、地方
政府の資金調達を巡るリスクが残存するとみられる。改革の過渡期において、新制度の定着を
促すとともに、改革の副作用が顕在化しないように適切に対処できるか否か、地方政府債務問
題への対応の巧拙は、習政権が改革と安定の両立を実現できるかを占ううえでの試金石となる
だろう。
図表 6 中国の税財政改革の進捗状況
改革の方針
①予算管理制度の改善
・予算関連制度の改善・構築
・財政移転制度の改善
②税制の整備
・地方税システムの整備、直接税比率の引き上げ
・税制改正、新税導入
- 増値税、消費税、個人所得税、不動産税、
資源税、環境保護税
・地方独自の税優遇規範化、国税・地方税の
徴税体制の整備
③中央・地方関係の見直し
・中央・地方間の行政事務の職責
及び支出分担責任の見直し
・中央・地方間の収入配分の合理化
これまでの主な成果
進捗状況の評価
・「予算法」改正
◎
・「地方政府債務の管理強化に関する意見」公表
(改革リストに対し、
・「発生主義に基づく政府総合財務報告制度改革プラン」公表
主要な法制度が出
・「中期財政計画管理の実施に関する意見」公表
揃う)
・「中央の対地方移転支出制度の改革・整備に関する意見」公表
・営業税から増値税への切り替え対象業種拡大
・資源税改革の品目拡大
・消費税改正案、環境保護税草案を国務院に提出
・「租税等の優遇政策の整理・規範化に関する通知」公表
○
(税目等によって進
展がまちまち)
△
・財政部長から、中央・地方間での税収および支出見直しの方向
(正式な方針は示さ
性について言及あり
れておらず)
(資料)中国政府資料等により作成
以
6
上
MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
産業・地域政策
みずほ銀行
拡大する中国対外直接投資の現状と展望 ㊦
中国営業推進部
-中国企業の多国籍化戦略実施の成果と課題-
研究員
邵
Ph.D.
永裕
[email protected]
6.中国対外直接投資の成果と課題
表6 中国の対外直接投資に対する促進・管理策の強化
本稿㊤・㊥では中国の対外直接投資拡大の要因背景
時間(年月)
と対象地域及び産業を概観し、海外展開と多国籍化の
動機と競争優位を考察、その多国籍化の特徴と競争優
位性を確認した。総じて言えば、中国は非常に短い期
商務部
2009年5月
商務部
商務部
商務部
2012年5月
商務部ほか
国外の中国企業文化建設に関する若干意見
国家発展改革
“十二五”外資利用と国外投資計画
委員会
中国保険監督
保険資金の海外投資管理暫定弁法実施細則
管理委員会
中国企業・機関の対外投資合作経営行為に関する
商務部
通知
外貨管理局
直接投資に関する外国為替管理の簡素化通知
商務部
対外投資合作国・地区別ガイドライン
商務部・環境
対外投資合作環境保護ガイドライン
保護部
商務部
対外投資合作分野の競争行為規範規定
“走出去”情報送達業務を強化することに関する通
商務部
知
対外投資合作及び対外貿易分野の不良信用記録
商務部
試行弁法
対外投資合作在外人員の分類管理業務に関する通
商務部
知
商務部、国家 海外経済貿易合作区建設発展を支持する関係問題
開発銀行
に関する通知
商務部、国家
国外投資管理弁法(2009年公布分の改訂)
開発銀行
対外直接投資に関する外国為替管理政策の更なる
外貨管理局
簡素化と改善の通知
国籍化を進め、世界第 2 の経済大国にふさわしい資本
2012年10月
の国際輸出を実現した。これ自体、中国政府の「走出
2012年10月
2012年11月
2012年12月
2013年2月
2013年3月
2013年4月
企業成長に積極的な役割を果たしてきたと言える。そ
2013年9月
の効果は多方面にわたり、エネルギー資源を主とする
大陸企業の台湾への投資進出に関する管理弁法
サービス・アウトソーシング企業による海外企業買収
に関する奨励・支援の若干意見
国外の中資企業従業員安全管理指南
2012年2月
2012年7月
れまでの対内直接投資と並行して中国経済の発展と
政策名称
国外投資管理弁法
2010年10月
間に積極的な国際投資を通じて企業の国際展開や多
去」戦略の成果と見ることができ、対外直接投資はこ
公布部門
2009年1月
2013年11月
国内資源の不足緩和、海外市場開拓、国際収支不均衡
2013年12月
の是正、対外貿易摩擦の緩和、中国企業の実力増加や
2014年9月
競争力のある多国籍企業の育成、国内産業技術の進歩
2015年2月
資料)中国政府のWEBサイトなどより作成。注)対象としたのは2009年以降の関連対策であ
るが、すべてを含むわけではない。
などに寄与してきた。また賃上げ、元高による国内生
産コスト増に対する企業の生き残り、国内の過剰生産設備の解消や成熟産業の海外展開及び中
国産業の構造改善にも一定の効果があったことも評価できる。そして積極的な国際 M&A によっ
て世界 500 社に匹敵する企業を比較的早い段階で輩出し、世界における中国企業のプレゼンス
を高めてきた。
これらのことは表 6 に示す中国政府の主要政策担当部門による積極的な対外投資促進策の展
開や強化と深く関係しており、本稿㊥で見た国家政策支援に対する企業への調査結果とも合致
する。対外直接投資の関連政策は広範に及び、支援・奨励に加え在外企業のリスク管理や対外
投資における環境保護などにおいても政府は指導的な役割を果たしており、国家主導による企
業の対外投資と多国籍化のイメージを際立たせている。
一方、中国企業の対外展開水準の高度化(図 20)や
国際競争激化、また国有企業が投資の主体であることも
あって、中国企業の海外経営の収益率は一般的に低く、
図20 中国企業国際展開の漸進的方式(イメージ図)
高
い
リ
ス
ク
現地法人の設立、
M&A実施による多国
経営
技術移転、ライセン
ス経営、管理契約、
ターンキー契約等
10
欧米系企業の半分にも及ばないとする研究が複数あり 、
また主要な対外投資方式である M&A においても取引完
外国代理店や海
外販売会社への
委託販売
成率が比較的低く、買収先企業の事業継承や経営統合な
どでも色々な困難に直面していることも指摘されてお
り 11、中国企業の国際経営は現在必ずしも成功している
低
い
リ
ス
ク
貿易会社、輸出管
理会社等による販
売促進
低レベルの支配
資料)中国社会科学院工業経
済研究所『中国工業発展報告
(2008)』より加工・引用。
高レベルの支配
10
何帆「中国の対外投資の特徴とリスク」、
『季刊 中国資本市場研究』2013 Summer。鈔鵬「中国企業対外投資的経営効果分
析」、
『当代経済管理』第 36 巻第 3 期、2014 年 3 月などの研究が挙げられるが、㊥編に取り上げた中国業界団体の複数のアン
ケート調査に逆に企業の収益状況を示すデータが記載されていない。
11
例えば『財経』2015 年第 14 期に中国のクロスボーダーM&A 投資の実情に関する調査論文が掲載され、多くの問題点や対応
策が指摘されている。
7
MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
産業・地域政策
とは言えない状況である。
図21 中国企業のCSR報告書作成数の増加
1,600
また製造業が未だ主要な対外投資分野になっていないこと
や中国製造業の構造転換がそれほど進んでいない現状から、対
外直接投資は中国産業構造の転換や国内一般企業の技術進歩
に大きな効果をもたらしていない。民営企業のリスク管理や進
単
1,400位
:
1,200本
数
1,000
800
600
出先での安定経営、現地化においても様々な障害やリスクに直
400
面しており、現地で良い企業市民のイメージを樹立するために
200
様々な課題を克服する努力が求められている。
資料)中国社会科学院WEBサイ
トより作成。
0
年中国でも社会的責任の重視や企業イメージの改善に
ガバナンス
様々な努力が払われるようになりつつあることは確かで
腐敗防止
ある。図 21 のように CSR 報告書を作成する企業数も顕著
従業員安全衛生
57.10%
に増加しているが、内容は社会貢献方針と対策及び企業の
サプライチェーン管理
56.90%
ガバナンスに最も力点が置かれており、大気や水汚染防止
大気汚染防止
に対してはまだ低い水準にとどまっている(図 22)。これ
水汚染防止
は主に中国国内環境問題の実情を反映しているが、対外投
0%
76.70%
62.70%
34.90%
33.90%
10%
20%
30%
40%
資料)前図に同じく中国社会
科学院WEBサイトより作成。
50%
60%
70%
資や国際経営においても今後大きな課題として留意する
べきと考えられる。特に今後製造業分野の対外投資拡大が見込まれる状況に対し、中国企業は
今まで以上に現地への雇用創出や技術移転の推進に加え、生産・経営面での地球環境問題への
対応や現地社会への貢献が求められよう。
7.経済転換期に入った中国企業対外投資のチャンスと試練
本稿㊤で触れたこれまでの対外直接投資拡大の背景要因は今後も基本的に存続が見込まれ、
企業の対外展開の成果や多国籍化の経験蓄積、中国政府の促進策の継続(個人投資家の対外直
接投資も一部都市で試行予定)により、中国の対外直接投資は今後も拡大するものと見られて
いる。また、国際投資の理論においても、国民 1 人当り GDP 水準と対外直接投資の間にプラス
12
ータをプロットした。図 23 のように、1 人当り GDP と対
外・対内直接投資の間に極めて強い相関関係が見られる。
1 人当たり GDP と対外直接投資額の相関係数(r=
図23 中国1人当りGDPと対外・対内直接投資の関係
1,400
対
外
・
1,200
対
内
直
1,000 接
投
資
800 額
[1人当りGDPと対内直接投資]
y = 0.1369x + 320.34
R2 = 0.9596 r=0.9767
(
0.9915)は対内直接投資のそれ(r=0.9767)より高く、
[1人当りGDPと対外直接投資]
y = 0.18x - 285.61
R2 = 0.9831 r=0.9915
400
移しており、近いうちに対内直接投資を上回りフローベ
ースでは中国が資本純輸出国になることが予測される
億
ド
600 ル
)
中国の対外直接投資は対内直接投資よりも強い勢いで推
13
。
200
1人当りGDP(ドル)
0
0
1,000
2,000
3,000
4,000
5,000
資料)中国国家統計局公
表データより作成。
6,000
7,000
12
経済発展と直接投資の関係に着目する理論にはダニング(J. H. Dunning)の折衷理論がよく引用されるが、同理論に基づ
く国民所得水準からすれば、中国の対外直接投資はすでに第 4 段の拡大期に入っていると言える。
13
中国商務部の予測分析によれば、2014 年、中国の対外直接投資は金融分野・進出企業の海外での再投資を含め対内直接投
資を上回った。なお中国では今後の対外直接投資拡大の推進力として、対外投資許認可制度の緩和(案件登録を主、審査認可
を従とする)
、近隣諸国を巻き込む「一帯一路」戦略、及び人民元国際化の加速を含む金融改革の深化などが挙げられている。
8
年
77%
社会貢献方針と対策
、中国の関連デ
14
年
年
年
13
12
年
年
年
11
10
09
年
年
図22 2014年の中国CSR報告書にみる内容構成
による経営資源の移転効果などが強調されており、また近
の相関関係が認められていることから
20
20
20
20
20
20
08
07
06
対外投資企業による現地社会への雇用創出や現地化推進
20
20
20
無論、中国商務部『対外投資協力発展報告』などでは、中国
MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
8,000
80%
産業・地域政策
表7 「一帯一路」共同建設ビジョンとアクションの国際投資事業
一方、昨年以来、習近平国家主席による新シルクロ
関連分野
主要な投資可能事業
ード戦略構想の現実化や関連事業の実施に伴い、国内
交通インフラ ➢基幹ルートと重点施設に注力し、欠落区間を優先的に連結させ、ネック区
接続
間を解消する。
外の環境整備が今までにない規模で拡大される見込
➢石油、天然ガスパイプラインなど輸送ルートの安全を共同で守り、国境に
エネルギーイ
跨がる電源開発と送電ルート建設を進め、地域電力網のグレードアップ・改良
ンフラ接続
のための協力を積極的に拡大する。
みであり、中国対外直接投資の推進にとって多くのチ
通信インフラ ➢光ケーブルなど国境を越えた通信幹線網建設を共同で進め、国際通信の
接続
相互接続をレベルアップし、情報のシルクロードを円滑にする。
ャンスと好条件が作り出されている。
国際貿易分 ➢貿易分野を広げ、貿易構造を改善し、新しい成長点を掘り起こし、貿易均衡
野の協力推 を促す。貿易の方法を刷新し、クロスボーダー電子商取引などの新業態を発
進
展させる。
表 7 に今年 3 月下旬に中国政府が発表した「一帯一
➢相互の投資分野を広げ、農林牧畜漁業、農業機械、農産物生産・加工など
国際投資分
の分野の国際協力を拡大し、海面養殖、遠洋漁業、水産物加工、海水淡水
野の協力推
化、海洋バイオ製薬、海洋エンジニアリング技術、環境保護産業及び海上観
進
光などの分野の協力を積極的に推進する。
路」のビジョンとアクションで提唱される対外直接投
資関連事業を抜粋した。各種のインフラ事業を始め、
戦略的新興 ➢新興産業の協力を進め、優位性相互補完、互恵・ウィンウィンの原則で沿
産業の協力 線諸国による新世代情報技術、バイオ、新エネルギー、新素材など新興産業
協力推進 分野での協力を促進する。
国際貿易や国際投資及び新興産業の国際連携及び国
際産業サプライチェーンの改善など幅広い内容にな
➢川上・川下産業チェーンと関連産業の協同発展を促進し、研究開発、生産
産業チェーン 及び営業販売体制づくりを奨励し、地域の産業協力能力と総合競争力を高め
配置の改善 る。サービス業の相互開放の拡大や地域サービス業発展の促進、共同投資
の新しいモデルの模索を行う。
っており、中国企業だけでなく、「一帯一路」関連諸
国の企業にとっても多くの投資機会が見込まれる。ア
➢金融協力を深化させ、アジアの通貨安定体制、投融資体制と信用体制づく
資金の融通 りを進める。沿線諸国の二国間の自国通貨交換・決済の範囲と規模を拡大
し、アジア債券市場の開設と発展を促進する。AIIB、ブリックス諸国開発銀行
促進
の設立準備を共同で進める。
ジアインフラ投資銀行(AIIB)正式発足や習近平主席
の近隣関連諸国への公式訪問に伴い、新シルクロード
資料)中国国家発展改革委員会、外交部、商務部「シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロー
ドの共同建設を推し進めるビジョンとアクション』(2015.3.30)より抜粋。
戦略構想に関する国際関連事業の実施は予想以上
動が活発なアセアン諸国(図 24)や BRICS を主と
300,000
する新興国(図 25)との協力事業拡大の追い風に
250,000
なり、今後これらの地域に対する中国企業の進出
200,000
が更に拡大し、
「一帯一路」建設にも相乗効果が期
150,000
待される。
100,000
新常態に入った中国経済の転換期において、国
シンガポール
シンガポール
インドネシア
インドネシア
ラオス
ラオス
ベトナム
ベトナム
折 れ 線 グラフ= ア ジ ア へ の 投 資 額 に占 め るシ ェア
に早くなっている。特に、もともと中国の投資活
棒 グ ラフ= 投 資 額 (万 ドル )
図24 中国の対アセアン主要国への投資額推移 (2005~2013)
350,000
マレーシア
マレーシア
資料)中国商務部ほか『2013年度中
国対外直接投資統計公報』より作
成。
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0
の拡大は、中国の国際市場拡大につながり、経
企業の過度な海外展開による国内雇用の減少や
90%
50,000
際インフラ投資や製造業の海外への工場移転投資
済成長の減速に歯止め効果が期待される。半面、
100%
120,000
2005年
2006年
2008年
2009年
2010年
2011年
2012年
2013年
0%
図25 中国対主要新興国への直接投資の推移
ロシア
100,000
2007年
モンゴル
インド
パキスタン
ブラジル
資料)図24に同じく、中国商務部ほか『2013年
度中国対外直接投資統計公報』より作成。
地域経済の停滞、民間企業の対外投資拡大に伴
う経営リスクの増大、あるいは国際投資事業機
会不均等による国際摩擦などの問題も予想され
80,000
60,000
る。国内の産業構造調整と国内経済の安定成長
を両立させながら国際経済協力や国際関係協調
のかじ取りも的確に捉える必要に迫られ、大き
40,000
20,000
な試練が待ち受けている。
0
2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年
8.中国対外直接投資の将来展望(結びに代えて)
2004 年ごろから急速に増加を続けてきた中国の対外直接投資は、外国からの対中直接投資及
び中国の対外貿易と同じく、中国経済の国際化、グローバル化を推進するうえで極めて重要な
役割を果たしてきた。今後は、新常態を目指す中国経済の構造転換と産業の高度化に伴う投資
規模の継続拡大と共に、質の面におけるレベルアップも期待される。第 13 次 5 カ年計画(2016
~2020)始動に向け、様々な地域開発計画や産業促進計画が制定・発表されているが、中でも
9
MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
産業・地域政策
先月中旬に発表された 2 つの政府文書(①「生産能力と装置製造分野における国際協力の推進
に関するガイドライン(「指導意見」)
」、②「『中国製造 2025』に関する国務院通達」)が最も関
心が高く、今後の中国対外直接投資の方向性を見る上でも重要な意味を持つと考えられる。
①は今年 5 月 18 日付で、②がその翌日 19 日付で公布されており、政策の重要性と関連性が
うかがえるが、①に発展途上国への中国の直接投資を促進する効果があるとすれば、②は日米
欧をはじめとする先進国への中国の直接投資を促す効果が見込まれる。
①では、市場主体としての企業の役割を十分に生かし、市場の原則を守り、商業原則と国際
慣例に照らして装置製造分野における国際協力を積極的に進め、伝統的な工事請負経験の優位
性を生かすと同時に、資金や技術分野における中国の優位性を十分に生かして、条件の整って
いるプロジェクトでは BOT 方式や PPP 方式などの導入を奨励することなどが提起されている。
途上国への投資事業において以前より柔軟な対応ができるようになり、発展途上国の企業にと
っても中国企業との国際提携事業でこれまでよりも条件が改善すると考えられる。
②では、「世界の工場」
「製造大国」となった現状からステップアップし、2025 年までに技術
力や開発力を伴う「製造強国」の一員に加わる目標を掲げている。その後 2035 年には「世界の
製造強国の中等水準」へ上昇、最終的に中華人民共和国成立 100 周年(2049 年)までに「総合
的実力で世界の製造強国の先頭グループ」へ躍進という 3 段階の目標が設定されている。当面
の「戦略任務」として、情報化と工業化の融合、工業基礎能力の強化、品質とブランドの強化、
環境に配慮したものづくりの推進、製造業の構造調整、サービス型製造業と生産性サービス業
の発展、製造業の国際化水準の向上などが提起され、また飛躍的発展を図る重点分野には、産
業用ロボットやエコカー、先進軌道交通設備など
図26 中国の対日米欧などの主要先進国への直接投資額の推移
450,000
アメリカ
の 10 業種提起されている。
ドイツ
フランス
イギリス
スウェーデン
2008年
2009年
イタリア
オーストラリア
日本
韓国
400,000
目標実現のため、国際協力の深化と中国企業の
350,000
海外進出の加速を強調している。これら 10 業種
300,000
は基本的に先進国で進んでおり、今後日米欧の企
250,000
業と協力を進める必要性と可能性が高く、製造業
200,000
を中心に中国企業による先進国地域への直接投
150,000
資も今まで以上に活発化することが予想される。
特に、日本は近隣の韓国とともに、2013 年も先
資料)図25に同じく、中国商務部ほ
か『2013年度中国対外直接投資統
計公報』より作成。
100,000
50,000
0
2005年
進国の中でも中国企業の直接投資受け入れ実績
が小さい(図 26)14 ものの(目下日本の投資環境
2007年
2010年
2011年
2012年
2013年
図27 中国統計にみる中国の対日直接投資の推移
50,000
フ
45,000ロ
ストック
フロー
資料)図24に同じく『中国対外直接
投資統計公報』より作成。
ー
ー
も改善し、中国の対日投資も近年増加。図 27)
、
2006年
200,000
180,000
の改善に伴い拡大する可能性が高く、ハイエンド
35,000万
ド
30,000ル
分野での日中企業の提携事業増加も期待され、中
25,000
国対外直接投資の質の面におけるレベルアップに
20,000
80,000
15,000
60,000
10,000
40,000
5,000
20,000
(
新情勢下における中国企業の対日投資が日中関係
ベ
40,000
[付表] 日本統計にみる中国対日直接投資の年末残高
ス
アジア 中国
中国本土 韓国の
年 次
小 計 本土
4,522
96
7,873 120
18,975 325
20,689 435
24,099 476
25,822 607
1,722
1,635
1,838
1,864
2,170
2,395
2,018
3,068
3,297
3,556
4,976
5,742
123
367
1,576
1,726
2,461
2,190
のシェア
2.1%
1.5%
1.7%
2.1%
2.0%
2.4%
シェア
2.7%
4.7%
8.3%
8.3%
10.2%
8.5%
160,000
140,000
120,000
100,000
資料)日本銀行統計より作成。単位は億円。シェアはアジア小計に占めるもの。
も重要な役割を果たすであろう。
以上
0
0
2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年
14
中国による日本への直接投資は日中両国の公式統計とも小さいシェアに留まるものの、実績的には増加傾向にある。会社設
立や M&A 関連の進出が主体で、業種的にはシステム開発関連が多いとされている(大木博己/清水顕司『続中国企業の国際
化戦略』ジェトロ、2014 年 8 月)が、今後製造業などの分野への進出拡大が予測されている。
10
MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
ストックベース(万ドル)
)
2000年
2005年
2010年
2011年
2012年
2013年
台 湾 香 港 韓 国
中国アドバイザリーの現場から
改革の“実験場”が拡大
みずほ銀行(中国)有限公司
中国アドバイザリー部
~新たなFTZの発足と資本開放の“実験”~
月岡 直樹
[email protected]
1.新たな FTZ が発足、上海 FTZ も拡張
改革の“実験場”である自由貿易試験区(以下「FTZ」という)が拡大しています。国務院は
2015 年 4 月 20 日、広東省、天津市、福建省に設立する新たな FTZ の基本計画案1と 2013 年 9 月
に開設した中国(上海)自由貿易試験区の拡張に伴う改革深化計画案2を公表しました。全国人
民代表大会常務委員会が 2014 年 12 月 28 日、3FTZ の新設と上海 FTZ の拡張を決定3しており、
各 FTZ の計画案の発表が待たれていました。これを受けて、広東、天津、福建の3FTZ が翌 21
日に発足し、上海 FTZ も 27 日、正式に拡張しています。
自由貿易試験区の地理範囲
設置エリア
含まれる主な区域
総面積
広州南沙新区エリア
南沙保税港区の一部
中国(広東)
深圳前海・蛇口エリア 前海深港現代サービス業合作区、蛇口工業区
自由貿易試験区
珠海横琴新区エリア
横琴新区の一部
116.2
k㎡
天津港エリア
中国(天津)
天津空港エリア
自由貿易試験区
濱海新区 CBD エリア
119.9
k㎡
平潭エリア
中国(福建) アモイ市エリア
自由貿易試験区
天津港保税区、東疆保税港区
天津空港経済区、濱海新区総合保税区
平潭総合実験区の一部
両岸貿易センターコア区(象嶼保税区、象嶼保
税物流園区等)、東南国際航運センター海滄港 118.04
区(海滄保税港区等)
k㎡
福州市エリア
福州経済技術開発区(福州保税区・福州輸出加
工区等)、福州保税港区
陸家嘴金融エリア
陸家嘴金融貿易区、上海万博跡地
金橋開発エリア
中国(上海)
張江ハイテクエリア
自由貿易試験区
保税区エリア
(旧上海 FTZ)
金橋経済技術開発区
張江ハイテクパーク
外高橋保税区、外高橋保税物流園区、洋山保税
港区、浦東空港総合保税区
120.72
k㎡
(中国アドバイザリー部作成)
上海、広東、天津、福建の4FTZ は、それぞれ独自色を打ち出しながら、規制緩和や市場開放
等の経済構造改革を進めています。本稿では、各 FTZ の基本方針と、上海 FTZ で本格的な活用
が始まっている自由貿易口座(以下「FTA 口座」という)について解説します。
1
『中国(広東)自由貿易試験区総体方案の印刷・配布に関する通達』
(国発[2015]18 号)、
『中国(天津)自由貿易試験区総体
方案の印刷・配布に関する通達』
(国発[2015]19 号)、
『中国(福建)自由貿易試験区総体方案の印刷・配布に関する通達』
(国
発[2015]20 号)
2
『中国(上海)自由貿易試験区における改革開放のさらなる深化方案の印刷・配布に関する通達』
(国発[2015]21 号)
3
『全国人民代表大会常務委員会による中国(広東)自由貿易試験区、中国(天津)自由貿易試験区、中国(福建)自由貿易
試験区および中国(上海)自由貿易試験区拡張区域において関連法律が規定する行政審査・批准の一時的な調整を国務院に授
権することに関する決定』
11
MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
中国アドバイザリーの現場から
2.共通目標をベースに独自戦略を掲げる
4FTZ に共通する発展目標は、投資・貿易の利便性が高く、市場監督管理が効率的で、法治環
境の整った先進的な自由貿易区域を建設し、政府機能の転換と経済構造の転換・高度化を促進
し、地域の経済発展と市場改革を牽引することです。行政手続の簡素化や市場の対外開放、資
本取引の開放を進めて“複製可能、普及可能”な改革経験を形成し、その経験を全国に横展開
することを目指しています。新たな3FTZ は、この共通目標をベースにそれぞれ独自の戦略目標
を掲げています。
自由貿易試験区の戦略的位置付けと各エリアの機能特性
戦略的位置付け
各エリアの機能特性
粤港澳(広東・
香港・マカオ)
中国(広東) 経済協力のモデ
自由貿易試験区 ル地域、21 世紀
海上シルクロー
ドの重要枢軸
【南沙エリア】航運・物流やハイエンド製造業の発展、総合サ
ービスターミナルの建設 【前海・蛇口エリア】戦略的新興サー
ビス 4 業種(金融、情報等)の発展、金融業の対外開放モデル
窓口、サービス貿易の重要基地 【横琴エリア】ビジネス金融や
ハイテク産業の発展、文化教育の開放先導区、ビジネスサービ
スと観光レジャー基地、マカオ経済の多元的発展促進の担い手
京津冀(北京・
天津・河北)共
中国(天津)
同発展のための
自由貿易試験区
対外開放プラッ
トホーム
【天津港エリア】現代サービス業(航運・物流やファイナンス
リース等)の発展 【天津空港エリア】ハイエンド製造業(航空
宇宙産業や設備製造、次世代情報技術等)と生産性サービス業
(研究開発・設計、航空物流等)の発展 【濱海新区 CBD エリア】
金融を中心とする現代サービス業の発展
両岸経済協力の
モデル地域、21
中国(福建)
世紀海上シルク
自由貿易試験区
ロードの核心地
域
【平潭エリア】国際観光島の建設、両岸の投資・貿易自由化促
進 【アモイエリア】両岸の新興産業・現代サービス業協力モデ
ル区域、東南国際航運センター、両岸の金融・貿易センター 【福
州エリア】先進製造業基地、21 世紀海上シルクロード沿線国家・
地域との協力推進プラットホーム、両岸サービス貿易・金融革
新協力モデル区域
(中国アドバイザリー部作成)
広東 FTZ は、経済緊密化協定に基づくサービス貿易の開放や広東・香港・マカオ間での人民
元クロスボーダー使用の拡大等に取り組みます。具体的には、香港・マカオ資本に対する国際
船舶運輸、自費海外留学仲介、内地住民の出国団体旅行(台湾向けを除く)といったサービス
分野の市場開放、区内企業による香港・マカオからのオフショア人民元借入やインターバンク
のクロスボーダー人民元借入の解禁等を推進するとしています。
天津 FTZ は、サービス業(ファイナンスリース、航空物流等)やハイエンド製造業(航空宇
宙産業、設備製造業等)の発展を図ります。具体的には、ファイナンスリース企業によるファ
クタリング業務やフォーフェイティング業務の展開を認めるほか、区内へのハイエンド産業の
集積と京津冀地域での産業配置の最適化を進める方針です。
福建 FTZ は、台湾企業に対するサービス業の市場開放や両岸貿易の自由化等を推進します。
具体的には、台湾資本に対する電信付加価値業務、道路運輸、福建住民の台湾団体旅行、建設
業、認証・検査機構といったサービス分野の市場開放を進めるほか、区内企業による台湾から
のオフショア人民元借入や台湾資本 51%の証券会社の設立(1 金融機関 1 社のみ)を認めると
12
MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
中国アドバイザリーの現場から
しています。また、平潭エリアのみを対象に、台湾の免許を持つ建設・医療・旅行サービス機
構によるエリア内での業務展開や対台湾輸出入貨物に対する検査免除(危険品等を除く)等の
特別措置を打ち出しています。
拡張で外資系企業の集中する浦東新区の中心区域が加わった上海 FTZ は、改革措置を拡張区
域へと展開させつつ、市場開放等の改革をさらに進めていくことになります。改革深化計画案
は金融改革について、中国人民銀行が別途、具体的な計画案を制定するとのみ記しています。
中国人民銀行上海本部副主任の張新氏は、同行機関誌の『中国金融』に論文を発表し、適格国
内個人による国外投資(QDII2)の試行や銀行・証券・保険業の対外開放等を進める考えを明ら
かにしています。
3.「政府機能の転換」を重要視
4FTZ の共通目標のうち、中国政府が特に重視しているのが「政府機能の転換」です。企業設
立の「一括受理」サービスや貿易手続の「単一窓口」といった行政簡素化を進め、外商投資の
届出管理等で事前認可・批准手続を減らす一方、企業に対する事後的な監督管理体制の強化を
図り、市場経済に適した効率的で透明度の高い行政管理体制の構築を目指すものです。具体的
な施策としては、天津や福建が第三者専門機関への資産評価・鑑定・認証・検査等の委託を盛
り込む一方、広東は法治環境整備のため、第三者への規定起草の委託や粤港澳の専門家による
行政諮問委の設置を打ち出しています。
4FTZ に共通する重要施策として挙げられるのは、外商投資に対するネガティブリスト管理で
す。FTZ では、外商投資のプロジェクトや企業設立に関する認可・批准手続を原則不要とする規
制緩和措置が実施されており、届出・登記手続のみで外商投資企業を設立できるようになって
います。ただし、ネガティブリスト掲載業種については参入が禁止されるか、参入に一定の制
限条件や認可手続が課されます。従来のネガティブリストは、上海市人民政府が公布し、上海
FTZ のみで適用していましたが、新たな3FTZ の発足に伴い、国務院弁公庁が公布し、4FTZ で
同一リストを運用する形へと変わりました。国務院弁公庁は、基本計画案の公表に合わせて、
新たなネガティブリストを発表しています4。
4.資本開放の“実験”もいよいよ開始へ
新たな3FTZ 発足の翌 22 日、中国人民銀行上海本部は FTA 口座において外貨の取扱を開始す
ると発表しました。同行は 2014 年 5 月、FTA 口座に関する実施細則を公布5し、その開設を認め
たものの、当初は試験段階ということで取扱を人民元に限定していました。外貨取扱の開始に
より、資本取引開放の“実験”に向けた準備が整った形となります。
FTA 口座は、上海 FTZ における金融改革の一環として、
「第一線(国外と上海自由貿易区の境)」
のさらなる開放と「第二線(上海自由貿易区とその他の国内との境)
」の安全で高効率な管理の
4
『自由貿易試験区における外商投資参入特別管理措置(ネガティブリスト)の印刷・配布に関する通達』
(国弁発[2015]23 号)
『「中国(上海)自由貿易試験区分離記帳勘定業務実施細則(試行)
」および「中国(上海)自由貿易試験区分離記帳勘定業
務リスクプルーデンス管理細則(試行)
」の印刷・配布に関する通達』(銀総部発[2014]46 号)
5
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MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
中国アドバイザリーの現場から
両立を図るため構想された新しい銀行口座です。FTA 口座と国外口座(国内非居住者口座を含む)
の自由な資金振替が可能となる一方、FTA 口座と国内の既存の銀行口座との資金移動はクロスボ
ーダー扱いとなります。上海自由貿易区専用の勘定系システム「自由貿易勘定(分離記帳勘定
ユニット)」
(以下「FTU」という)により既存の銀行口座と勘定を分けて独立管理され、区内企
業や国外企業は FTU を構築した金融機関で FTA 口座を開設することができます。
FTA 口座の特徴は、人民元と外貨、経常取引と資本取引のすべてを一つの口座で取り扱えるよ
う設計されていることです。現行の外貨管理規定によれば、人民元と外貨は別々の口座を開設
しなければならず、取扱業務に応じて専用の口座を開設する必要もあります。例えば、直接投
資であれば外貨資本金口座等の専用口座を開設しなければなりません。中国人民銀行は、上海
FTZ における金融改革の一環として、FTA 口座を通じて投融資革新業務(区内中国人による国外
証券投資、区内外国人による国内証券投資、区内企業による国内証券・先物取引、区内企業の
親会社によるパンダ債の発行等)の取扱を解禁する形で、資本取引開放の“実験”を行う考え
を示しています6。
FTA 口座では現在、経常取引の決済や直接投資資金の入金・使用が可能となっています。直接
投資資金については、企業が自社の都合により自由なタイミングで、全額まで一度に元転する
こともできる自由元転制が適用されています。また、中国人民銀行上海本部が 2015 年 2 月に公
布した実施細則7を受け、新モデルによる国外資金の調達(外債借入)も可能となっています。
新モデルは、従来の外債枠(投注差)管理ではなく、資本金(払込資本金+資本積立金)の 2
倍を上限(非金融企業の場合)とする総規模の範囲内で、返済後に調達枠を再度利用可能な残
高管理を実行する管理方法で、外債マクロプルーデンス管理モデルと呼ばれています。外商投
資企業がより柔軟に資金を調達できるようになっているほか、現行の外貨管理規定において当
局の個別認可が必要な内資企業による外債借入に大きく道を開いています。ただし、調達資金
のリスク因数によって総規模に計上される金額が変わってくることや、現行の外貨管理規定で
は外債扱いされない外貨建てトレードファイナンスも一部の額が計上される等、実務において
注意が必要な点もあります。
5.進出検討時に政策措置の比較を
中国政府は今回、改革の“実験場”を 4 ヵ所に拡大しました。各 FTZ にとっては、“実験場”
としての優位性・独自性が薄れた形となるため、今後どのように差別化を図っていくのかが課
題になりそうです。特に広東、福建 FTZ は、設置エリアが地理的にも離れていることから、政
策の一貫性と各エリアの特色ある発展をどう調和させるのかに腐心しそうです。FTZ への進出を
検討する外資企業は、FTZ 管理当局へのヒアリング等を通じて各 FTZ、各エリアの特色、政策措
置を十分に見極めることが必要となるでしょう。
以
上
6
『金融による中国(上海)自由貿易試験区建設の支持に関する意見』(銀発[2013]244 号)
『中国(上海)自由貿易試験区における分離記帳勘定業務の国外融資とクロスボーダー資金流動のマクロプルーデンス管理
実施細則(試行)
』の印刷・配布に関する通達』
(銀総部発[2015]8 号)
7
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MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
中国戦略
非常時の危機管理対応と解決能力
KPMG Advisory(China)編
厚谷
―備えは万全ですか?―
禎一
監訳
www.kpmg.com.cn
www.kpmg.or.jp/jp/china
事業の継続を脅かす緊急事態・事故、いわゆるインシデントは、それが起きるまで待つので
はなく準備万端で臨むことが重要です。企業はますますテクノロジーに依存するようになり、
一方で政治などの事業環境は変化し続けています。こうした中で、サイバー攻撃や広範囲に影
響を及ぼす障害に起因して市場全体でインシデントが発生する危険性が日増しに高まっていま
す。多くの組織は緊急時対応計画を準備していますが、これらの戦略の多くは机上論に過ぎず、
実際の条件のもとで徹底的に検証されたわけではありません。
現在の対応計画に自信はありますか?
市場全体を襲う障害は思ったより身近に
企業のレジリエンス(非常時の問題解決能力)とインシデントレスポンス(緊急事態への対
応)が、ホットなテーマとして注目を浴びるようになっています。危機シナリオでは、サービ
スの停止や支社・支店の閉鎖などを含め、企業全体の業務が影響を受ける可能性があり、通常
の事業活動を維持するために、在宅勤務やバックアップオフィスでの勤務といった非常事態プ
ランが発動されます。企業によっては、現実の危機が、非常事態プランの有効性を試す初めて
の機会になることもあるでしょう。
規制当局は、かねてから各組織の事業継続の必要性を重視しています。概して企業組織は情
報システム技術に大きく依存しているため、サイバー脅威やサイバー攻撃を受ける可能性も高
まっています。最近も有名な金融機関や大手企業など世界有数の大企業が、高度な技術を持つ
ハッカーの標的にされるケースがあり、大規模なサービス障害や情報漏えいが発生しています。
企業のシステムは、そのシステムを支える各種の機関といろいろな形で密接につながってい
ます。どの企業も「“もし”起きたら」ではなく「“いつ”起きるか」の視点で市場全体の障
害を考える時期に来ています。企業トップや危機管理担当者を含む主要スタッフ全員がトレー
ニングを受け、事態に備えるべきです。
現行の事業継続演習に共通する問題点(事業継続計画と緊急時対応手順)
ほとんどの組織は、インシデントに備えるために事業継続計画(BCP)と緊急時対応手順を定
めていますが、事業継続計画や緊急時対応手順の多くは不明確であったり曖昧であったりする
ため、インシデント発生時に危機管理責任者が適正な決断を下すことができない可能性があり
ます。例えば、多くの組織はインシデント発生時に決定を下すとき、危機管理チーム(CMT)を
頼りにします。しかし、既存の事業継続計画と緊急時対応手順では発生し得る多数のシナリオ
を網羅できないことがあるため、危機管理チームの担当者が迅速な決定を下すために必要な知
識を得られなかったり、重要な要因を見逃す恐れがあります。
多くの組織は、管理責任者の意識を高め、組織の緊急時対応能力を検証するために定期的な
BCP 訓練を計画しています。一般に、次のような訓練が定期的に実施されています。
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MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
中国戦略
(1)IT 障害復旧訓練、(2)BCP(事業継続)訓練、(3)火災避難訓練
しかし、ほとんどの場合これらの訓練は、実際のインシデントにおける複雑さを考慮するこ
となく行われています。それでは、これらの訓練について説明しましょう。
演習
IT障害復旧訓練
主な目的
問題点
メインシステムのデ
・この訓練はITシステムのみに焦点を当てており、より幅
ータセンターに障害
広いオペレーション(顧客や監督機関との連絡の取り合
が発生した際、バック
いなど)にあまり重点を置いていない。
アップデータセンタ
ーがITシステムを有
・一般に、IT障害復旧訓練は確実に成功させなければなら
効にサポートできる
ないため綿密に計画されるが、現実の危機状況で発生し
かどうかを検証する
うる「想定外」の要素を考慮に入れていない。
・サイバー脅威の高まりは、従来の障害時復旧手順が有効
かどうかの問題を引き起こす。メインシステムのデータ
センターとバックアップデータセンターは複製された
IT環境に置かれることが多いが、サイバー攻撃状況で
は、同じテクノロジーを配備する2つの環境はどちらも
同じサイバー脅威に対して脆弱なので、メインとバック
アップ環境の両方が実行不能になる。
BCP(事業継続) 所定の事業継続計画
訓練
(BCP)の有効性を検
証する
この訓練は一般に部署ごとに実施され、複数の部門に同時
に影響を及ぼす可能性のある組織全体のシナリオを考慮
していない。そのため、訓練における多部署間の相互協力
がしばしば軽視される。
火災避難訓練
火災発生時の対応を
検証する
一般に火災避難訓練は事前に計画され、1時間未満で終了
する。火災後のオフィス機器の実害や、事故による事業へ
のその他の影響の可能性を考慮していない。
現実のインシデントにおける所見
すでに経験した組織もあるかもしれませんが、現実のインシデントが計画どおりに進行する
ことは稀です。インシデントは状況により異なるので、考えられる全てのシナリオの条件を満
たす計画を作ることは非常に困難です。万全の緊急時対応を機能させるためには、一人ひとり
の知識と経験が不可欠です。そして、訓練の頻繁な実施とさまざまな種類の実地訓練への参加
を通して、初めて知識や経験が蓄積できます。
そして、現実に起こったインシデントについて考察した結果、一般的に次のような状況が見
られることがわかりました。これらは、事前に完璧に計画することも、定期的な訓練で学習す
ることも不可能です。
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MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
中国戦略
現実のインシデント
共通する結果
インシデントは予期せず発生し、緊急な対処を
危機管理チームが経験不足のために自信を持
要する。従って、不完全な情報をもとに速やか
って「直ちに」決定を下すことができず、危機
に決定を下す必要が生じる。
管理に遅れが生じる。
インシデントは複数の事業部門に同時に影響
事業部門の各責任者が、危機的状況において協
を及ぼす恐れがある。危機に対処するために
力し合う訓練を受けていないため、危機への対
は、各部署が 1 つのチームとなって協力する必
応にあたって責任が不明確になり混乱が生じ
要がある。
る。
組織は、果てしなく押し寄せるメディアや顧客
プレスリリースの入念な調査にかなりの時間
からの問合せに直ちに対応することが求めら
を要するため、メディアの憶測を呼び、否定的
れる。所定・既存のプレスリリースでは全ての
な報道がなされる可能性がある。
問合せに対応できない。
監督機関は早急なインシデント報告を要求す
インシデントの詳細が解明されていない状態
る。その後も、インシデントが解決されるまで、 では、コンプライアンス部門は規定上の報告義
定期的な状況報告が要求される。
務を履行することができない。
上記の共通する結果の多くは、担当部署に充分な知識と経験がないことが原因で生じます。
そして、これらの欠点は現実の非常事態状況や現実的な危機管理訓練の中でしか明らかにする
ことができません。危機管理にあたる全ての当事者が態勢を整えられるように十分な訓練を受
けることが重要です。
世界における危機管理訓練
Waking Shark Ⅰ(2011 年)
Quantum Dawn 1(2011 年)
サイバー攻撃、テロ攻撃シ
ミュレーション。約 25 の金
融機関が参加。
Quantum Dawn 2(2014 年)
サイバー攻撃シミュレーシ
ョン。金融機関、取引所、
公益事業者、米国財務省、
サイバー攻撃シミュレーシ
ョン。33 の金融機関が参加。
Waking Shark Ⅱ(2014 年)
投資銀行、金融市場インフラ
サービス・プロバイダー、英
国金融当局など 22 の団体に
よるサイバー攻撃シミュレ
Exercise Raffles Ⅲ(2011 年)
ーション。
137 の金融機関によるサイバー攻
撃、テロ攻撃シミュレーション。
米国証券取引委員会、米国
Exercise Raffles Ⅳ(2014 年)
国土安全保障省、連邦捜査
サイバー攻撃シミュレーション。
局など 50 団体が参加。
141 の金融機関、シンガポール証
券取引所、金融市場インフラサー
ビス・プロバイダーとシンガポー
ル金融管理局(MAS)が参加。
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MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
中国戦略
金融サービス業界では、監督機関を含む業界の主要関係者が市場全体にわたる現実的な訓練
の必要性を認識しています。市場全体で障害が生じた際に、金融機関の危機管理能力の有効性
を高めるための訓練です。このような市場全体で行われる訓練は、ロンドン、ニューヨーク、
シンガポールなど、世界中の多数の金融センターで実施されています。
香港でも「WISE 2015」と呼ばれる同様の訓練を 2015 年第 4 四半期に予定しています。WISE 2015
の主眼は、市場全体で障害が発生したときに、市場の秩序と機能を維持し、顧客を保護するた
めに、個々の金融機関と金融機関全体が緊急時対応計画を検証できるようにすることです。WISE
2015 を計画するのは、「香港金融服務界業務持続管理協会」です。香港金融服務界業務持続管
理協会は事業継続マネジメントの専門家で構成されています。金融サービスのさまざまな部門
の企業に属する、責任ある立場の専門家たちです。KPMG はこの活動を支援しています。
WISE 2015
「危機とは、想定外の、経験のない、切迫した、複雑な、リスクの大きい状況をいう。危機発
生時には時間の余裕がない。状況がはっきりせず、情報が錯そうする中で決定を下さなければ
ならない。そして、最悪の決定とは、危機発生時に何も決定を下さないことだ」
-香港金融服務界業務持続管理協会会長、ウィリアム・フークストラ
香港の金融業界に携わる約 20 人の事業継続マネジメント(BCM)の専門家が WISE 2015 の企
画に協力しています。WISE 2015 は、まさに業界全体の危機管理訓練です。参加するあらゆる組
織の危機管理チームが大規模な危機状況を共に経験し、危機対応能力を実践することができま
す。
WISE 2015 には以下のような目的があります。
・サイバーセキュリティ脅威など大規模なオペレーション中断が発生している間に、金融業界
が直面するシステミックリスクに関して理解を深める。
・危機状況の発生中に組織の責任者が的確に決定を下せるように、具体的なマネジメントスキ
ルを高める。
・各組織が設定している危機管理手順や非常事態プランの有効性、並びに金融業界同士やその
他のステークホルダーとの連絡体制の有効性を検証する機会を組織に与えることによって、金
融サービスの準備態勢を整える。
・金融業界の対応計画と危機対応を関係するステークホルダーと一体化することによって業界
全体の態勢を整える。
2015 年 10 月 9 日、香港で「障害状況」が 4 時間にわたって展開されます。これは現実を想定
したシミュレーションです。参加組織の経営上層部で構成される危機管理チームが全員集合し
ます。次に、シミュレーションチームが暗号化されたインターネットポータルサイトを使って、
いわゆる「インジェクト攻撃」を発信します。これらの攻撃は本物のように設計されており、
ウェブサイトを通じた模擬ニュースレポート、シンプルな紙ベースの状況報告書、ビデオ、あ
18
MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
中国戦略
るいは模擬電話やニュース付き電子メールであったりします。さらにシミュレーションチーム
は、金融当局、メディア、緊急サービス、政府等の第三者の役割を演じ、現実のような危機状
況を作ります。危機管理チームは専用電話回線と電子メールアドレスを使って、これら第三者
と連絡をとることができます。また、チーム内で連絡をとり調整を行うことも可能です。例え
ば、ある組織が先頭に立って、全ての危機管理チームのリーダーに電話会議への参加を呼びか
けることもできます。
実際の状況下で出現するであろう想定外の状況や不確定性の要素をシミュレートするため、
訓練本番までシナリオは公表されません。
危機管理チームは、あたかも実際に起きているように状況に対応し、切り抜ける必要があり
ます。また、組織内外への連絡や事業継続計画発動の可能性等の対策を決定しなければなりま
せん。例えば、事業継続計画を実行することによって、スタッフの社外からの業務継続、他支
店への業務移転、バックアップエリアの利用、IT 障害復旧ソリューションの起動、あるいは最
終的には特定業務の停止を実行することもできます。
ただし、この訓練は一定の範囲内で行われます。例えば、実際に建物から避難したり、実際
の IT 障害復旧措置を起動したりするわけではないので「机上訓練」と呼ばれます。
多くの企業は自社向けに危機シミュレーションや特定シナリオの「机上リハーサル」をすで
に毎年実施していますが、WISE 2015 は、危機状況の管理能力を参加機関が合同で演習・実践・
開発するまたとない機会を提供するものです。参加者は皆、事故の影響が尾を引いたり醜態を
演じたりするリスクを負うことなく、事業の継続や場合によっては企業の存在自体すら脅かす
ような重大な出来事を、実際の状況に近い条件で体験することができます。そして、もし現実
にこうした出来事が起きた時は、自信と専門意識を持って状況に対処できるでしょう。
この訓練は、専門家や当局と緊密に協力しながら、業界が業界のために企画するものです。
業界全体訓練は、すでに他のグローバルな金融ハブでも珍しくなくなっています。英国やシ
ンガポールでも、金融当局と業界が同様の訓練を計画しています。多くの場合、実施するのは
コンサルタント会社です。取り扱われるシナリオはパンデミックやテロなどですが、最近は大
規模なサイバー攻撃も取り入れられるようになりました。米国でも証券業金融市場協会(SIFMA)
が訓練を企画しています。米国の訓練は、机上訓練の範囲を超える実践的な性格が強いものに
なっています。
今できることは?
各組織の危機管理チームは、自社の危機管理手順に精通し、危機発生時に迅速な決定を下す
ことができなければなりません。2015 年 10 月 9 日の WISE 2015 は、各社の危機管理手順、事業
継続計画、金融業界と他のステークホルダー間の連絡の有効性を検証する絶好の機会を組織に
提供するものです。
一例として、弊社 KPMG でも、人材・方法・技術の観点から、重大な危機に対処するための現
行ポリシーや実務指針の確立、更新に関するサポートを行っています。実際の活動としては、
リスク評価、事業への影響の分析、戦略の選定と開発、危機管理・事業継続・IT 障害復旧計画
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MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
中国戦略
の開発と実施(検証、トレーニング、継続的メンテナンス戦略を含む)を網羅するアプローチ
を試行し、検証してきました。実際的には、幅広いスキルを持ち、さまざまな業界で得た事業
継続マネジメントとリスクマネジメントの経験を生かし、実践的で効果的な事業継続ソリュー
ションの開発経験を持つ、専門の情報セキュリティコンサルティング・グループなどを事業継
続マネジメントに活用するのも非常に有効であると思われます。
厚谷 禎一
KPMG Advisory (China) Limited
ディレクター
東京工業大学理学部卒業・同大学理工学部修士課程修了(情報科学専攻)
米国ペンシルバニア大学ウォートン校経営学修士(財務専攻)
これまで 20 年以上にわたり、日本、米国、カナダ、英国、韓国にて経営コンサル
ティング会社及び会計事務所に勤務、各国企業顧客に戦略・M&A・オペレーション
等の分野でのアドバイザリー・サービスを提供。
2003 年より KPMG LLP(米国)ニューヨーク事務所に勤務、主に日本企業顧客に対
して事業デュー・ディリジェンスを中心とした M&A 支援サービスを提供。
2008 年より現職、KPMG 中国の上海事務所にて同じく日本企業顧客に対して M&A 支
援サービスを提供。
専門は市場評価、事業計画の精査、M&A 実施後の統合支援等を含む事業デュー・
ディリジェンスだが、日本企業顧客に対しては広く、財務・税務デュー・ディリジ
ェンス、企業価値評価、不正調査、リストラクチャリング支援等を含む、M&A 支援
サービス全般のプロジェクト・マネジメント・サービスを提供する。
+86 10 8508 7111
[email protected]
20
MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
法務
食品安全法及び広告法の改正について
西村あさひ法律事務所
弁護士
野村
上海事務所
高志
はじめに
本年 4 月、食品安全法及び広告法の全面的な改正法が公布されました。いずれも日系企業の
中国ビジネスに幅広いインパクトを与えると思われる重要な法改正であり、今回は、これらの
改正法の内容のうち、実務上重要と思われる改正点を紹介します。
第1
食品安全法の改正
中国で食の安全問題への関心の高まりを契機に、2009 年「食品安全法」
(以下「現行法」とい
います)及び同実施条例が制定・施行されましたが、その後も食品メーカー等による食の安全
に関する事件が後を絶たないため、同法の改正作業が進められていました。数次のパブコメ募
集草案の公表を経て、改正「食品安全法」
(以下「新法」といいます)が 4 月 24 日に公布され、
本年 10 月 1 日から施行される予定です(現行法が計 104 条のところ計 154 条に増加)1。
1
監督管理部門及び許可制度の統合
食品安全に関する監督管理部門について、現行法では、①国務院品質監督部門、工商行政管
理部門、国家食品薬品監督管理部門の三部門がそれぞれ、食品の製造、販売(流通を含む)
、飲
食サービスの管理を担当しており、②国務院衛生行政部門が安全基準や検査制度を制定してい
ました(4 条)。
新法では、①上記三部門が統合され、国務院食品薬品監督管理部門による管理に一元化され
ました。また、②国家食品安全基準の制定は、国務院食品薬品監督管理部門と国務院衛生行政
部門が、共同して制定することとされました(5 条)。
また、食品の製造、販売事業に従事するための許可制度につき、現行法では、製造業、販売
業(流通業を含む)、飲食業がそれぞれ、国務院品質監督部門、工商行政管理部門、国家食品薬
品監督管理部門の許可を得る必要があった(29 条)のに対し、新法では上記三部門が統合され、
国務院食品薬品監督管理部門が「食品の製造・販売」の許可申請部門とされました(35 条)
。な
お、直接食品に接触する包装材料等の製造に対する許可制度は「工業製品生産許可証管理」の
規定に従うと規定されています(41 条)。
2
食品製造業者・販売業者の責任加重
新法では、食品製造業者及び販売業者(以下両者を総称するときは「食品製造・販売業者」
といいます)に対し、以下の通り安全管理責任を加重しており、企業にとって事務的な負担が
増大することが予想されます。
まず、
「食品安全トレーサビリティシステム」が導入され、食品製造・販売業者に対し、食品
安全トレーサビリティシステムを構築し、トレーサビリティを保証するよう義務づけており、
1
改正法の全文については以下のサイトを参照:
http://www.npc.gov.cn/npc/cwhhy/12jcwh/2015-04/25/content_1934591.htm
21
MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
法務
また、国務院食品薬品監督管理部門が国務院農業行政等の関連部門と協力して、食品及び食用
農産物の全行程トレーサビリティ連携メカニズムを構築すると規定しています(42 条)。
次に、食品製造・販売業者に対し、
「食品安全管理制度」の構築・強化を求めており(会社の
責任者がその実施の全面的な責任を負うと規定)、具体的には、従業員に対する食品安全知識の
研修の実施のほか、社内に「食品安全管理者」を配置し、それに対する訓練と審査を強化し、
審査の結果、食品安全管理能力がないと判断された場合は職務から外すこと、食品薬品監督管
理部門が食品安全管理者に対する無作為抽出・審査を行い、結果を公表することなどが規定さ
れています(44 条)。
更に、食品製造・販売業者に対する「食品安全自己審査制度」の構築も規定されています。定
期的に食品安全状況の検査評価を実施し、生産販売条件が変化して食品安全の要求に符合しな
くなった場合に直ちに是正措置を取ること、食品安全事故の潜在的リスクが発生した場合に直
ちに製造・販売活動を停止して食品薬品監督管理部門に報告することが義務付けられています
(47 条)。
また、食品製造業者に対し、社内の管理要件が具体化されており、①原料購買、原料検収、
原料投入等の原料管理、②製造工程、設備、貯蔵、包装等の製造における重要な過程の管理、
③原料検査、半製品検査、完成品出荷検査等の検査管理、④輸送、引渡管理等の事項について、
コントロールの要件を策定・実施し、製造する食品が安全基準に合致するよう保証することが義
務付けられています(46 条)。
いずれも社内に一定の管理制度の導入と日常的な運用を求めており、今後は当局から、これ
らを実施していることの書面報告やエビデンスの提供を求められることが予想されます。日系
の食品関連業者の場合、日本国内並みの厳格な品質基準を実施している会社も多いと思われま
すが、それが具体的な社内制度として整備され、実施結果が書面化されるには至っていないケ
ースも多いのではと推察されます。その場合、早急な社内管理体制の見直しと再構築が必要と
なると考えられます。
3
リコール制度に関する改正
リコール制度については以下の改正がなされました。食品製造業者によるリコールにおいて、
ラベル、表示又は説明書が食品安全基準に合致せずリコールされた食品については、食品製造
者は救済措置を取り、食品の安全が保証可能な状況で引き続き販売することができますが、販
売の際には消費者に対して救済措置であることを明示することが義務付けられています。また、
食品製造業者がリコール無害化処理、廃棄を行う場合、事前に食品医薬品監督管理部門に日時
と場所を報告しなければならず、必要と判断した場合は現地での監督が実施されると規定され
ています(63 条)。
4
飲食サービス業者の責任
新法では、飲食店等の飲食サービス業者にも様々な責任を課しています。最近は中国人の間
でも日本料理が好まれるようになっており、日系資本の飲食サービス企業も増えていることか
ら注意を要します。
飲食サービス業者に対し、原料購買コントロール要件の策定・実施を義務付け、食品安全基準
に合致しない原料の購入を禁じています。また、加工過程の開示や原料及びその出所の公表を
22
MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
法務
推奨しています。また、製造・加工過程において加工前の食品及び原料を検査し、腐敗変質し
た食品、油脂が酸化した食品、カビが生え虫がついた食品・食品添加物、汚れて不潔な食品、
異物が混入した食品・食品添加物、不純物が混ざった食品・食品添加物又は感覚的に異常な食
品・食品添加物を発見した場合、加工又は使用が禁止されています(55 条)。
また、飲食サービス業者は、定期的に食品加工、貯蔵、陳列等の施設・設備のメンテナンス、
保温設備及び冷蔵・冷凍設備の洗浄、点検を行い、また食器、飲用食器の洗浄・消毒を行わな
ければならず、洗浄・消毒を経ていない食器、飲用食器を使用してはならないと規定していま
す(56条)。
5
ネット事業者の責任
ネット販売市場の急速な拡大を踏まえ、新法では、タオバオ、京東商城などのネット事業者
の責任を加重しています。ネット食品取引第三者プラットフォーム提供者は、オンラインでの
食品販売業者に対し、実名登録制を実施し、かつ法律上必要とされる許可証を審査するよう義
務づけています。また、販売業者による違法行為を発見した場合、制止するとともに食品薬品
監督管理部門に報告すること、重大な違法行為を発見した場合、直ちにオンライン取引プラッ
トフォームの提供サービスを停止することが規定されています(62 条)。
上記の義務を怠った場合、違法所得の没収、5 万元以上 20 万元以下の過料、営業停止、許可
証取消しなどの行政処罰を受けます。また、消費者に損害が生じた場合、ネット食品販売業者
又は製造者に対して賠償請求ができ、ネット食品取引第三者プラットフォーム提供者が、ネッ
ト食品販売業者の名称・住所・有効な連絡方法を提供できない場合、賠償義務を負うと規定し
ています(131 条)。
6
保健食品/乳幼児用配合食品
保健食品及び乳幼児向け食品については、今後の市場の拡大が見込まれることから日系企業
の間で関心が高いと思われますが、新法では厳格な規制を設けています。
保健食品が謳う保健機能については、科学的な根拠を備えなければならないとされ、保健食
品原料リスト及び保健食品として保健機能を謳えるリストを、国務院食品薬品監督管理部門が、
国務院衛生行政部門、国家中医薬管理部門と共同で策定、調整、公表すると規定されています
(75 条)。また、初めて輸入される保健食品は、輸出国で市販許可を取得したものでなければな
らないとされています(76 条)。保健食品の登録・届出手続についても詳細が規定されていま
す(77 条)。
また、保健食品のラベル、説明書で、疾病予防、治療効能に言及してはならず、「本製品は
薬品の代わりにならない」と声明しなければならないこと(78 条)、保健食品の広告でも「本
製品は薬品の代わりにならない」と声明しなければならず、かつ広告の内容について、食品薬
品監督管理部門の審査許可を経て、保健食品広告許可を取得しなければならないことが規定さ
れています(79 条)。
乳幼児用配合食品や調整粉乳に関しても管理監督が強化されており、乳幼児用配合食品につ
いての出荷時のロット毎の検査義務、原料、添加物や配合成分等の食品薬品監督管理部門への
届出義務が規定されており、乳児用調製粉乳についても配合成分の食品薬品監督管理部門への
登録義務が規定されています(81 条)。
23
MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
法務
7
食品の輸入に関する改正
日本からの食品の輸入も今後益々増加すると思われますが、食品の輸入に関しても改正がさ
れています。
まず、外国の輸出業者、食品製造業者は、中国に向けて輸出する食品、食品添加物が本法及
びその他の関連法令、食品安全国家基準の要件に合致することを保証し、食品のラベル、説明
書に記載された内容に責任を負うとされています。また、中国の輸入業者は、外国の輸出業者、
食品製造・販売業者の審査制度を構築し、上記事項を審査する義務を負い、不合格の場合は輸
入してはならないとされています。輸入食品が中国の食品安全国家基準に適合しないことが確
認され或いは健康危害の可能性が論拠をもって証明された場合、輸入業者は速やかに輸入を停
止し、かつリコール(63 条参照)を実施するとされています(94 条)。
8
社会世論
食品の安全問題に対する社会世論の関心の高まりを踏まえた規定や、当局への通報者の保護
に関する規定も見られ、現在の社会状況が伺われます。
いかなる組織・個人も、虚偽の食品安全情報を捏造、拡散させてはならず、食品薬品監督管
理部門が、消費者/社会世論を誤らせる可能性のある食品安全情報を発見した場合、直ちに関連
部門、専門機関、関連食品製造販売者等を組織して、事実確認、分析を行い、結果を速やかに
公表するとされています(120 条)。虚偽の食品安全情報を捏造・流布した場合、公安が治安管
理処罰し、メディアが虚偽の食品安全情報を捏造・流布した場合は主管部門が処罰し、第三者
に損害を与えれば民事責任を負うと規定しています(141 条)。
また、食品薬品監督管理、品質監督等の部門は、通報窓口制度を構築し、調査の結果、通報
が事実と判断された場合は、通報者に奨励を与えること、関連部門は通報者の情報を守秘し、
通報者の権益を保護することが規定されています(115 条)。
9
法的責任の加重
新法では、違法行為に対する各種の法的責任が全面的に加重されています。紙数の関係で詳
細は割愛しますが、一例を挙げますと、無許可で食品を製造・販売し、食品添加物を製造した
場合、現行法では、①食品等の価値が1万元未満の場合は 2 千元~5 万元の罰金、②食品等の価
値が1万元以上の場合はその金額の 5 倍~10 倍の罰金と規定していたのに対し、新法では、①
食品等の価値が1万元未満の場合は 5 万元~10 万元の罰金、②食品等の価値が1万元以上の場
合はその金額の 10 倍~20 倍の罰金を課すとしています(122 条)
また、違法行為に対する将来に向けたペナルティとして、①許可証が没収された食品製造・
販売業者、その法定代表者、直接責任を負う主管人員、その他の直接責任者は、処罰決定が下
された日から 5 年間、食品の製造・販売許可を申請し、又は食品製造販売の管理業務に従事し
たり、食品製造販売業者の食品安全管理人員を担当することはできないこと、②食品安全犯罪
によって有期懲役以上の刑罰の判決を受けた場合、生涯、食品製造販売の管理業務に従事して
はならず、又は食品製造販売業者の食品安全管理人員を担当してはならないことが規定されて
います(135 条)。
消費者の損害賠償請求についても保護が強化されており、消費者が食品安全基準に符合しな
い食品で損害を受けた場合は、販売業者にも製造業者にも損害賠償を請求することが可能とさ
24
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2015 年6 月号
法務
れ、賠償請求を受けた製造業者ないし販売業者は、先責任負担制により先行して賠償を支払い、
他人に転嫁してはならず、製造者の責任に属するものは、販売者が賠償後に製造者に求償請求
でき、販売者の責任に属するものは、製造者が賠償後に販売者に求償請求できると規定されて
います。更に、食品安全基準に適合しない食品を生産し、又はそれを知りながら販売した場合
の懲罰的賠償につき、現行法から存在する「代金の 10 倍」のほか「損失の 3 倍」という事由が
追加され、そのいずれかの賠償を請求できること、また追加賠償の金額が千元未満の場合は千
元に増加すること、但し食品の表示、説明に食品安全に影響せずかつ消費者の誤解を招かない
瑕疵がある場合は除くことが規定されています(148 条)。
虚偽広告宣伝の責任につき、新法では、①広告経営者、発布者が、虚偽の食品広告を設計・
制作・公表し、消費者の合法的な権利を侵害した場合に、食品製造・販売者と連帯責任を負う
こと、②食品について虚偽の宣伝を行い、かつ状況が深刻な場合、食品薬品監督管理部門が暫
定的に食品の販売停止を決定し、かつ社会に公表し、依然として当該食品が販売されている場
合は違法所得及び違法に販売する食品を没収し、併せて 2 万元以上 5 万元以下の罰金を課すこ
となどが新たに規定されました(140 条)。
第2
広告法の改正
昨年、Mizuho China Monthly(2014 年 8 月号)2 で、「広告法」の国務院によるパブコメ用改
正草案の要点をご紹介しました。その後、「広告法」の改正法が 4 月 24 日に公布され、本年 9
月 1 日から施行される予定です(旧現行法が計 49 条のところ計 75 条に増加)3。概ね上記改正
草案の内容を踏襲したものとなっていますが、一部に同改正草案に比べて義務や責任を加重し
た点も見られます。改正された広告法では、
「広告推薦証明者」に関する規定が注目を集めてい
ることから、今回は「広告推薦証明者」に関する上記改正草案からの追加点について紹介しま
す。
広告法を遵守する義務・責任を負う主体として、現行の「広告主、広告代理店(原文は「広
告経営者」)
、広告媒体運営者(原文は「広告発布者」)」に加えて、新たに「広告推薦証明者」
(原
文は「広告代言人」)が取り入れられ(2 条 5 項)、この「広告推薦証明者」は、
「広告主の他に、
自分の名義又はイメージより広告において商品、サービスにつき推薦又は証明を行う自然人、
法人又はその他の組織」と定義されています(例えば、日本の広告の中でイメージキャラクタ
ーなどとして登場する芸能人・著名人や、商品の品質・性能等についてコメントを述べる学者・
知識人などを指すと解されます)。実際、中国の広告では、中国企業も外国・外資系企業も、中
国で人気のある芸能人等を起用することが広く行われています。
この広告推薦証明者について、改正「広告法」では、国務院の改正草案でも規定されていた
「広告推薦証明者が広告において商品、サービスについて推薦、証明をする場合、事実に基づ
かなければならない。」
、
「広告推薦証明者は、使用したことのない商品又は受けたことのないサ
ービスのために証明を行ってはならない。」(38 条 1 項)といった義務に加え、以下の義務・責
2
Mizuho China Monthly(2014 年 8 月号)については以下のサイトを参照:
http://www.mizuhobank.co.jp/corporate/world/info/cndb/economics/monthly/pdf/R512-0059-XF-0105.pdf
3
改正法の全文については以下のサイトを参照:
http://www.npc.gov.cn/npc/cwhhy/12jcwh/2015-04/25/content_1934594.htm
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MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
法務
任が追加されています。
①
まず、医療、薬品、医療器械の広告は、広告推薦証明者を利用して推薦・証明をしては
ならないとされています(16 条 1 項 4 号)。これに違反した場合、工商行政管理部門が
違法所得を没収し、違法所得の 1 倍以上 2 倍以下の過料を併課するとされています(62
条 1 項)。
②
保健食品の広告は、広告推薦証明者を利用して推薦・証明をしてはならないとされてい
ます(18 条 1 項 5 号)。これに違反した場合、工商行政管理部門が違法所得を没収し、
違法所得の 1 倍以上 2 倍以下の過料を併課するとされています(62 条 1 項)。
③
10 歳未満の未成年を広告推薦証明者にしてはならず(38 条 2 項)、これに違反した場
合、広告掲載の停止、10 万元~100 万元以下の過料、営業許可証の取消し、1 年以内
の広告申請の受理拒否などの処罰が設けられています(58 条 1 項)。
④
虚偽広告において推薦、証明を行ったことにより、行政処罰を受けてから 3 年未満の
自然人、法人又はその他の組織を広告推薦証明者にしてはならず(38 条 3 項)、これ
に違反した場合の処罰は上記同様です(58 条 1 項)。
⑤
消費者の生命健康に関わる商品又はサービスの虚偽広告が、消費者に損害をもたらし
たときは、その広告推薦証明者が連帯責任を負うとされています(56 条 2 項)。
⑥
消費者の生命健康に関わらない虚偽広告が消費者に損害をもたらしたときは、広告推
薦証明者が、広告が虚偽であることを明らかに知り又は知り得べきでありながら、広
告の中で、商品・サービスについて推薦、証明を行った場合、連帯責任を負うとされ
ています(56 条 3 項)。
日系企業が、中国における広告で広告推薦証明者を起用する場合には、上記に留意する必要
があると思われます。
野村 高志
弁護士
西村あさひ法律事務所
カウンセル
上海事務所代表
早稲田大学法学部卒業。1998 年弁護士登録。2001 年より西村総合法律事務所に勤務。2004
年より北京の対外経済貿易大学に留学。2005 年よりフレッシュフィールズ法律事務所(上
海)に勤務。4 年半の中国滞在を経て 2010 年に現事務所復帰、2014 年より現職。
専門は中国内外の M&A、契約交渉、知的財産権、訴訟・紛争、独占禁止法等。ネイティブ
レベルの中国語で、多国籍クロスボーダー型案件を多数手掛ける。
2012 年~2014 年 東京理科大学大学院客員教授(中国知財戦略担当)。
主要著作に「中国での M&A をいかに成功させるか」(M&A Review 2011 年 1 月)、
「模倣対
策マニュアル(中国編)」(JETRO 2012 年 3 月)、等多数。
Tel:+86-21-6178-3748
Email:[email protected]
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MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
税務会計
近藤公認会計士事務所
国外関連者への支払費用(その 1)
公認会計士
近藤 義雄
[email protected]
http://homepage2.nifty.com/kondo-cpa/
1. 租税回避対策規定と移転価格税制
国家税務総局は、2014 年 12 月に「一般租税回避対策管理弁法(試行)」を公布し、2015 年 2
月に「非居住企業の財産間接譲渡」の租税回避対策規定を発表し、2015 年 3 月には「国外関連
者への支払費用」の租税回避対策規定を発表しました。
国家税務総局が 2015 年 3 月 18 日付で発布した「企業の国外関連者に支払う費用に係る企業
所得税問題に関する公告」
(国家税務総局公告 2015 年第 16 号)は、中国国内の企業が国外の関
連当事者に支払うサービスフィー(役務費用)またはライセンスフィー(特許権使用料)につ
いて、移転価格税制の独立企業原則に従わないで支払われた場合は、国内企業の企業所得税の
課税所得計算で費用(損金)として控除することはできないという規定です。
この 16 号公告は、サービスまたはライセンスの提供を受けてその支払った費用が独立企業原
則、すなわち独立した第三者間の取引価格に従っていない場合には、企業所得税の減少を意図
する租税回避行為として課税所得計算での損金算入(税務上の費用計上)を否認するというも
のです。
租税回避対策規定の国外関連者とは、移転価格税制でいう支配関係または経済的利益関係を
有する中国国外の当事者、例えば中国国外の親会社、関連会社等をいいます。ただし中国の移
転価格税制は、日本とは異なり関連者には国外関連者だけではなく国内関連者も含まれます。
中国の移転価格税制における国内関連者とのサービスフィーについては、すでに 2008 年 8 月
14 日付で「親子会社間で提供する役務支払費用に関わる企業所得税処理問題に関する通知」
(国
税発[2008]86 号)が発布されています。この通知では、中国国内に所在する親子会社間で役
務が提供されてそのサービスフィーが独立企業原則に従っていない場合には、税務機関がその
サービスフィーの価格を修正することが規定されています。
また、この 86 号通知では、国内の親子会社はサービスの契約書、協議書を締結し、親会社が
子会社にサービスを提供して発生した実際のコストに一定割合(マークアップ)の利益を加算
したサービス費用総額を、サービスを受益した子会社各社に配分することができると規定され
ています。このように中国では親子会社間の役務提供取引の対価については、コスト・プラス・
マークアップの実務が行われています。
さらに、86 号通知では、親会社が管理費用の形式で子会社から費用を受け取る場合には、子
会社はその管理費(マネジメントフィー)を費用に計上することができないことも規定されて
います。これは企業所得税法実施条例第 49 条で、企業間で支払った管理費は費用控除できない
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MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
税務会計
と規定されているからです。ここでは管理費を株主活動に関する費用として投資家と投資先企
業との関係で発生するものは費用性がないとしています。
今回発布された 16 号公告は、移転価格税制に関連する租税回避対策規定ですので、86 号通知
のような移転価格算定方法に関連するコスト・プラス・マークアップの規定はありません。ま
た、マネジメントフィーについては、国内の親子会社間取引のように株主活動としてその全て
が否認されるのではなく、株主活動以外のサービス提供については、あくまでも移転価格税制
の独立企業原則に従って税務処理されるべきことが規定されています。
なお、16 号公告の第 2 条では移転価格調査に関連して、税務機関が契約書または協議書、さ
らには取引が真実に発生したことかつ独立企業原則に適合していることを証明する資料を、企
業に届出(備案)させることを要求することができるとも規定しています。
すなわち、中国国内の企業は国外関連者とのサービス提供とライセンス供与に関する契約書、
協議書、その他の証明書類をいつでも要求があれば税務機関に提出しなければなりません。
2. 16 号公告の背景
国家税務総局は、この公告を発布する前の 2014 年 7 月 29 日に各地方の税務局に「対外支払
高額費用の租税回避対策調査に関する通知」(税総弁発[2014]146 号)を発遣して、サービス
フィーとライセンスフィーの実態調査を行いました。この 146 号通知による実態調査の結果を
受けて上記 16 号公告が発表されていますので、両者の記載内容にはかなり類似したものが含ま
れています。
これに関連して中国国外の国際税務の動向について言えば、国家税務総局は国連の要請を受
けて 2014 年 3 月頃に「サービスフィーとマネジメントフィーに関する所見」(国連提出文書)
を国連に提出しています。この国連提出文書は、国連の移転価格実務マニュアルの多国籍企業
グループ内の役務(サービス)提供について、中国税務当局の見解を紹介したものです。
この国連提出文書の中のサービスフィー(役務費用)とマネジメントフィー(管理費用)と
は、多国籍企業グループ内で提供される役務(サービス)の対価であり、両者ともに 16 号公告
でいうサービスフィーに含まれるものです。
また、中国政府は OECD(経済開発協力機構)の租税委員会が進めている「税源浸食と利益移
転」(Base Erosion and Profit Shifting, BEPS)の行動計画の正式メンバーとなっています。
今回発布された 16 号公告は、BEPS 行動計画の公開討論稿と関係しています。
BEPS 行動計画 8 無形資産-価値創造に対応する移転価格の実績(成果)
BEPS 行動計画 9 リスクと資本-価値創造に対応する移転価格の実績(成果)
BEPS 行動計画 10 その他のハイリスク取引-価値創造に対応する移転価格の実績(成果)
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MIZUHO CHINA MONTHLY
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税務会計
行動計画 8 については、2014 年 9 月 16 日に討論稿「無形資産の移転価格局面のガイダンスー
無形資産」(無形資産討論稿)が発表されました。行動計画 10 については、OECD 移転価格ガイ
ドライン第 7 章の「多国籍企業グループ内役務についてのガイドライン」改定案が検討されて
います。2014 年 11 月 3 日に討論稿「低付加価値グループ内役務と関連する移転価格ガイドライ
ン第 7 章の改定案」(グループ内役務討論稿)が発表されました。
さらに、行動計画 8,9,10 に共通する問題として、移転価格ガイドラインのリスク、再特性化、
特別手法についての検討が行われており、2014 年 12 月 19 日に討論稿「移転価格ガイドライン
第 1 章改訂
リスク、再特性化、特別手法」が発表されました。なお、再特性化とは、移転価
格取引の特徴付けを改めて行うことであり、特別手法とは、移転価格の基本原則である独立企
業原則の範囲内またはその範囲を超えて特別手法としてのオプションが採用されることを意味
しています。
これら BEPS の討論稿の流れを受けて、国家税務総局は 2015 年 3 月に 16 号公告を発布してい
ますが、むしろその基本的な性格は中国固有の租税回避対策規定です。したがって 16 号公告の
特徴を理解するには、国家税務総局が発表した 2014 年 3 月の国連提出文書と 2014 年 7 月の 146
号通知を詳細に検討する必要があります。
その上で、16 号公告は BEPS 行動計画の討論稿で検討されている OECD 移転価格ガイドライン
の多国籍企業グループ内役務と無形資産とリスクに関連する規定ですので、これらの討論稿の
該当部分についても検討を要します。
3. 機能リスク分析と真実性テスト
16 号公告 3 条は、サービスフィーとライセンスフィーに共通する原則として、企業が機能を
遂行していない場合、またはリスクを引受けていない場合、または実質的な経営活動を行って
いない場合には、国外関連者に支払った費用は損金に算入することができないことを規定して
います。
すなわち、移転価格税制の機能リスク分析を行って企業の機能とリスクに見合わない費用、
または租税回避対策規定の経済的実質基準を適用して真実性に欠ける費用は、その損金性が否
認されます。
事前調査を行った 146 号通知でも、次のように租税回避に疑義のある行為が調査対象とされ
ていました。これらは 16 号公告第 3 条に連なる内容です。
①
サービスフィー
1 国内企業自身が引き受ける機能とリスクに関係がないか、または引き受けた機能とリスクと
関係があるが、その経営と相応しないことにより、その経営する取引段階のサービスに該当
しないで支払うサービスフィー
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MIZUHO CHINA MONTHLY
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税務会計
②
ライセンスフィー
1 租税回避地(タックスヘイブン)に支払うライセンスフィー
2 機能を引受けないかまたは簡単な機能しか引受けない国外関連者に支払うライセンスフィ
ー
4. サービスフィーとベネフィット・テスト
16 号公告 4 条はサービスフィーに関する条項であり、次のように規定されています。
企業が国外関連者の提供する役務を受領することにより費用を支払う場合は、当該役務は企
業に直接または間接に経済利益を獲得させることができるものでなければならない。企業が下
記の役務を受領して国外関連者に支払う費用は、企業の課税所得額を計算する時に控除するこ
とはできない。
第1号
企業が引き受ける機能リスクまたは経営と関係のない役務活動
第2号
関連者が、企業の直接または間接の投資者の投資利益を保障するため、企業に対して
行う支配、管理および監督等の役務活動
第3号
関連者が提供するもので、企業が第三者から購入した役務活動または自ら行った役務
活動
第4号
企業がある集団に従属することにより価額外の収益を獲得したが、集団内の関連者が
特に当該企業に対して行う具体的な役務活動を受領していない場合
第5号
その他の関連取引において補償を獲得した役務活動
第6号
その他の企業に直接または間接に経済利益をもたらすことができない役務活動
上述の「経済利益」とはベネフィット(benefits、日本語で便益ともいう)のことであり、
上記の条項によって、国外関連者に支払う費用について OECD 移転価格ガイドライン(2010 年版)
第 7 章「グループ内役務についての特別な配慮」で定められている「ベネフィット・テスト」
(benefits test、中文では受益性原則、ベネフィットルール)が採用されていることが明らか
となっています。
ベネフィット・テストとは、多国籍企業のグループ内で役務(サービス)が提供されたかど
うかを判定する時に、その役務提供活動がサービスを受領した企業に経済的または商業的な価
値を提供したかどうかで決定することをいいます。
独立企業原則に従えば、比較可能な状況にある独立企業であったならば、その役務に対して
対価を支払う意思を持っている場合、または企業自らその役務を実施する意思を持っている場
合には、その役務提供は企業に直接的または間接的に経済利益(ベネフィット)をもたらすも
のと判定されますので、その支払には費用性(税務上の損金算入)があるものと判断されます。
国家税務総局が 2015 年 3 月 19 日付で発表した 16 号公告の解説では、次のように述べていま
す。
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MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
税務会計
企業が国外関連者の提供する役務を受領した時は、受益性原則(ベネフィット・ルール)を
基礎として、当該役務に対して受益性分析を行う、すなわち当該役務が企業のために直接また
は間接に経済利益をもたらすことができるかどうかを分析する。受益性役務を受領した場合は、
独立企業取引原則に従って費用を支払うことができる。非収益性役務を受領することにより支
払う費用は、企業の課税所得額を計算する時に控除することができない。
上記の受益性役務とは、企業にベネフィット(経済利益)をもたらすサービスであり、非収
益性役務とは、企業にベネフィットをもたらすことのないサービスをいいます。このように 16
号公告 4 条はサービスフィーについて OECD のベネフィット・テストを原則的に採用したことを
示しています。次月号では、このサービスフィーに関連する諸問題について検討します。
近藤
義雄
近藤公認会計士事務所
所長 公認会計士
早稲田大学大学院商学研究科の修士課程を卒業後、監査法人に勤務して公認会計士として登録、
上場会社等の監査業務に 23 年ほど従事した。1986 年から 2 年ほど北京の国際会計事務所に日本
人初の駐在員として勤務し、日系企業に幅広いコンサルティング業務を提供。帰国後に「中国
投資の実務」(東洋経済新報社 1990 年)を出版し、現在まで中国の投資、会計、税務分野の専門
書を 25 冊ほど出版。2001 年に近藤公認会計士事務所を開設して中国専門のコンサルティング業
務を提供している。
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MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
税務会計
海外勤務にかかわる
人事、社会保険、給与、税務
の詳細解説 その②
MAZARS Mochizuki
パートナー
公認会計士
望月一央
http://www.mazars.com
前回の人事、社会保険につづき、今回は給与、税務について、海外勤務にかかわる制度的観
点から取扱いを解説する。
I 給与の基本概念
1.国内給与と海外給与の違い
まず、前回述べたように、海外の現地法人等への在籍出向については、著しい労働条件の変
更や生活環境の変化により社員が被る不利益の度合いが大きく、また、制度上、海外勤務によ
る社会保険上の不利益を完全に回避することが難しいことからも、実務的には給与福利等の面
で不利益を補うことが求められる。
従って、日本国内における雇用を前提とした海外勤務の場合は、実務上、日本国内における
勤務に比較して高額の給与福利を提供することが求められることになる。
但し、近年ますます一般化しつつある日本国内における雇用を前提としない日本国外におけ
る現地採用については、このような要請を受けず、当該地の状況に応じた給与福利体系を採用
することができる。
以下では、日本国内雇用を前提とした海外勤務にかかわる給与福利体系について解説したい。
2.海外基本給の設定方法
海外給与の類型については、一般に以下の 3 つがある。
①併用方式(海外本給方式)、②別建方式、③購買力補償方式
これらの類型は専門家により形成されたというよりは、単純に日本とは異なる給与福利体系
を採用するにあたって、日本の給与体系を基準とするのか(①併用方式)、当該国の給与体系
を基準とするのか(②別建方式)、日本でも当該国でもないより普遍的な世界標準によるのか
(③購買力補償方式)といった根本的方法論に基づき形成されたものである。
従って、多くの企業にとって最も理解しやすいのは①併用方式であり、ある意味で現地採用
型に近いものが②別建方式である。複数の国に展開しており人事制度を統一的に運営しなけれ
ば従業員間に不公平感が生まれやすい企業においては、③購買力補償方式の採用が必要とされ
る。
なお、賞与については基本的に国内と同様の方法で計算し、国内払いとするのが一般的であ
るといえる。
①併用方式(海外本給方式)
併用方式とは、日本勤務時の給与を海外での基本給とし、これに海外に赴任することによる
追加コストを別途手当として支給する方法をいう。
ここでは、上述の海外勤務による不利益を回避するという観点からも、基礎となる日本勤務
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MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
税務会計
時の給与は日本での手取額とされる場合が一般的であり、海外赴任者が納得しやすい方式とい
える。また、計算方法が簡易なため、赴任者にも事務担当者にも分かりやすく、国内勤務時の
手取額が保証されるため、国内給与との平等性が保ちやすい。
但し、逆に海外基本給が円貨で固定されるため、為替変動に左右されることがデメリットと
して想定されるが、現在さまざまな手法で為替変動のデメリットを受けにくくすることが可能
となっている。
また、後述するみなし控除及びグロスアップ計算が必要となるのは併用方式を採用している
ことが背景にある。
②別建方式
別建方式とは、日本の給与体系とは別に、全く異なる形で給与体系を決定する方式である。
別建方式には決まったルールはないため、会社の状況に合わせて自由に設計できる。
但し、ここでも注意点として、本人の個人所得税や社会保険を加味したとしても、手取額が
手元に多く残るように設計する必要がある。
別建方式のメリットは、海外赴任者の従前の給与額に影響を受けることなく、海外要員のコ
ストを導き出せる点にある。
その反面、本人のこれまでの働きが反映されない可能性がある点がデメリットとして挙げら
れる。複数名の海外赴任者がいる場合は、日本本社の賃金制度とは別に海外独自の賃金制度を
構築する必要があるが、これについての独自調査が難しく、他社動向を見ながら基本給を設定
することになるため、設定根拠が曖昧になることがある。
③購買力補償方式
購買力補償方式とは、一般的に、一定期間を海外で勤務し本国へ帰ることを前提とし、海外
派遣によって経済的な損失や利益が発生することのないよう(No Loss,No Gain)に本国と同
等の購買力を補償するという考え方に基づく方法である。
この考え方を基礎に、海外の特殊性という観点から、現地の住宅の補助や、いわゆる海外勤
務手当やハードシップ手当などのインセンティブ部分については区別して対応するものである。
ここでは、外部コンサルティング会社が提供する生計費指数を利用することで、人事担当者
が海外赴任先のデータを収集する労力を軽減できるだけでなく、他社でも使用されている客観
的な指数に基づくため不公平感が薄まり、海外赴任者や経営者に対して給与設定への説得力が
増すことが大きなメリットとなる。また、進出拠点が多い大企業にとっては、地域格差を是正
できる方法の 1 つでもある。
但し、「生計費」は「物価」とは違い、海外でも日本並みの生活ができるための生活コスト
であって、輸入品に頼らざるを得ない地域や、安全面に配慮すべき地域になればなるほど生計
費は高くなる。アジア地域では一般に、物価水準とかけ離れて生計費が高くなる傾向にある。
3.みなし控除計算及びグロスアップ計算
採用する給与決定方式の如何にかかわらず、企業は海外赴任者に対して最終的には「手取保
証」を行うことが一般的である。
とりわけ併用方式を採用する場合には、日本ではまず総額(グロス)ありきで、その中から
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2015 年6 月号
税務会計
日本における税金や社会保険料を支払っていることから、海外勤務者の給与はまず日本におけ
る総額から日本での税金及び社会保険料をみなし控除することにより手取額を設定し、その手
取額から海外における税金、社会保険料を逆算(グロスアップ)して海外における総額を計算
するのが一般的である。
①社会保険料負担
海外の社会保険料は全額会社負担が一般的である。これは、国ごとに制度が異なり保険料が
ばらばらであることや、掛け捨てのおそれがあることなどから、社員に費用負担させると赴任
地によって不公平が生じるためである。日本国内の社会保険料はそのようなことはなく、個人
負担部分については個人負担とすることが一般的といえる。
但し、社会保障協定のある国への赴任、社会保障協定はないものの非永住者についての還付
制度が存在する国への赴任等様々なケースがあることから、社内における不公平感がないよう
に調整する必要がある。
②税金
社会保険と同様に国によって税額が異なるため、社員に不公平とならないように海外での給
与にかかる所得税等の税金は、全額会社負担とするのが一般的である。さらに、日本での役職
が役員である場合や海外赴任前年の住民税など、赴任後も日本で何らかの税金が発生すること
もあるため、日本国内の税金についても負担者を決めておく必要がある。
4.手当
海外勤務には以上のような諸手当がある。
①職務関連手当
(1)海外勤務手当
海外勤務に対するインセンティブとなるものであり、国内払いが一般的である。
(2)海外職務手当
役職手当に相当するものであり、国内払いが一般的である。
(3)ハードシップ手当
特に環境が厳しい国・地域に勤務する際に支給されるものであり、国内払いが一般的である。
②生活関連手当
(1)帯同家族手当
海外勤務に家族を帯同する場合に支給されるものであり、海外払いが一般的である。
(2)残留家族手当
家族を日本に残した場合に支給されるものであり、国内払いが一般的である。
(3)教育手当
子供の教育には特別な費用がかかることが想定されるため、それを支給するものであり、
海外払いが一般的である。
(4)海外別居手当
家族との別居に伴う諸費用分として支給するものであり、国内払いが一般的である。
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5.給与支給及び負担方法
①給与支給方法
支給区分の観点として、従業員から見た場合の入金口座(及び通貨)による区分と、会社側
から見た支給法人(出向元日本法人または出向先海外現地法人)による区分がある。
前者は、海外赴任においては海外と日本との二重生活になるケースが多く、帯同家族の有無
や人数によってそれぞれの生活費も大きく異なるため、社員ごとの実態に応じて海外支給額と
国内支給額の割合を選択するものである。海外送金を組み合わせることにより、比較的自由に
設定することができる。これに対して後者は、日本の社会保険料算定上の従業員側の不利益回
避の問題、後述する給与負担金にかかわる日本の税制上の問題、現地国における外貨管理及び
税制上の問題等様々な要素が絡むことから、自由に設計できない場合が多く、総合的な判断が
求められる。
②給与負担方法
給与負担方法については、基本的には負担と支給を一致させることが妥当(実務処理が簡便)
であるといえる。しかしながら、以下に見られるような多数の要素により、現実には、負担方
法について多面的な検討が必要となる場合が多い。
(1)応益負担の原則
享受する利益(人的役務)に応じて費用を負担させるべきという考え方。
上述の給与支給先の区分に伴い、応益負担の原則による負担額と支給額が異なる場合があり、
当該差異を調整するために「給与負担金」が授受される場合がある。
(2)給与負担金
給与負担金とは、日本親会社が海外子会社に社員を出向させた場合、日本親会社が従来通
り出向者に給与支給する代わりに海外子会社が自己負担すべき給与相当額をいう。給与負
担金は応益負担を原則としているため、出向者本人へ支払われる給与はどこが負担すべき
かについては、当該出向者の提供する人的役務をどこが享受しているのかを考えなければ
ならない。従って、出向者が海外子会社でのみ労務提供しているのであれば、出向者の給
与の全額を海外子会社が給与負担金として負担するのが原則である。ただし、日本の税制
上は、日本親会社が海外子会社との間の給与の差の部分として負担した金額については、
両者の給与条件の較差を填補するものとして合理的な金額(給与格差補填)についてのみ、
日本親会社の損金に算入されることが認められている(法人税法基本通達 9-2-47)。
当該給与格差補填には、出向先の法人が海外にあるため出向元の法人が支給する留守宅手
当も含まれることになる。
(3)寄付金課税及び移転価格税制の関係
無償取引の場合は国外関連者への寄付金の規定(租税特別措置法第 66 条の 4 第 3 項)が適
用される。一方、移転価格税制では、国外関連取引の支払いを受ける対価や支払う対価の
額が問題にされており、有償取引が前提とされている。但し、有償取引であったとしても
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2015 年6 月号
税務会計
寄付金と認定される場合もある。また、国内子会社に対する一定の寄付金は、一定の限度
内で損金算入できるが、海外子会社に対する寄付金は移転価格税制との整合性を図るため、
全額損金不算入として扱われる。
(4)寄付金として否認される背景
日本親会社が出向者に対して給与を支給しているケースが一般的であるが、海外子会社が
負担すべき給与負担金の額が少ないことにより、課税当局から指摘を受けることが多くな
っている。日本親会社と海外子会社との給与条件の具体的な格差の判断については、給与
条件自体が多面的なものであり、それぞれの個別事例ごとに決定されるものであるから、
一般的な基準として示すことは困難であるものの、実際の運用に当たっては次の事項を考
慮し総合的に判断する必要がある。
• 海外子会社における職責別の給与水準
• 出向者が有する特別な能力または技術
• 給与較差の算出に関する具体的な数値例
• 検討結果の証拠化
• 出向契約における給与負担金の範囲の明確化と目的の記載
以上のように給与支給及び負担方法の判断については、応益負担の原則を基礎とし、必要に
応じて、日本親会社と海外子会社との給与条件の具体的な較差に基づく給与較差補填を採用し
つつ、給与の負担先を決定するとともに、給与支給区分に基づき給与負担金を決定することが
必要となる。
極めて多様な要素を考慮する必要があるものの、海外に赴任することの労苦がどのような見
返りとなって現れるかは、海外赴任者にとって重要なことである。赴任後の給与をどのように
組み立てるかについては、細心の注意を払って決めていく必要がある。
Ⅱ税務の概念
1.税の基本概念
①租税法律主義
税金は公共の目的に強制的に課されるものであることから、一般にそれぞれの国の憲法にお
いて国民の納税義務が規定されるとともに、住民の総意が反映される立法過程を通じて法律に
より定められなければならないとされており、これが租税法律主義と呼ばれる。
②税法の適用範囲
税金は法律に定められてはじめて徴収されるものであることから、税金が適用される範囲は、
当該国の法律(国内税法)が適用される範囲、すなわち領域内に限られることになる。従って、
国外(外国だけでなく、どの国にも属さない公海等も含めて)においては、当該国の税金の徴
収は行われない。これは同時に、原則として他国における税金納付の有無は、当該国における
納税義務に何らの影響を与えるものでないことを意味する。
ここでの国内の概念には、一般に人を基準とするものと物理的位置を基準とするものがあり、
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MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
税務会計
前者は居住者の概念として、後者は源泉地の概念として具体的に規定される。
居住者の概念は、日本を例に挙げると、日本国内に「住所」があり、または、現在まで引き
続いて 1 年以上「居所」がある個人をいうとされている。このような居住者については、その
所得の発生場所が日本国内であるか否かにかかわらず、日本において納税を行う(全世界所得
納税)ものとされている。
逆に、源泉地の概念とは、所得の発生地が日本国内にある場合は、所得を稼得するものが日
本国内にいるか否かにかかわらず、日本において納税を行うものとする概念をいう。
ここでも日本を例にとると、以下のように所得源泉地の概念(所得税法第 161 条抜粋)が規
定されている。
・国内において行う事業又は国内にある資産の保有・運用あるいは譲渡により生ずる所得
・国内の土地、土地の上の権利、建物、建物の附属設備、構築物の譲渡による対価
・国内で人的役務の提供を事業とする者の、その人的役務提供に係る対価
・自由職業者又は科学技術、経営管理等の専門的知識や技能を持つ人の役務対価
・国内にある不動産や不動産の上の権利等の貸付けにより受け取る収入
・内国法人から受ける利益の配当や剰余金の分配等
・国内での勤務に対する俸給、給料、賃金、歳費、賞与、退職手当や公的年金等
これは、当該国において何らかの公共サービスを享受する活動により収益を得る場合(国内
源泉所得)は、その範囲内で非居住者に対しても課税権を行使するべきという考え方に基づく
ものである。
居住者の概念と源泉地の概念は、ある意味では裏腹の関係にあり、日本の居住者が外国を源
泉地とする所得を得ている場合は、日本においては居住者の概念に基づき課税が行われ、一方
で、当該外国においては居住者としての課税は行われないものの、源泉地の概念に基づき課税
が行われるものといえる。
2.国際税務の基本概念
①国際的二重課税
税金はそれぞれの国が独自の法
律によりその国の領域内で徴収す
るものであるため、その国の居住
者以外の非居住者がその国を源泉
地国とする収益を得ている場合は、
複数国において課税される国際的
二重課税という状況が発生する。
②国際的経済活動進展の阻害
このような国際的二重課税が発生する場合、企業は税負担の重い国際取引を敬遠することと
なり、社会全体として国際的経済活動の進展が阻害され、ひいては自国の経済活動自体にも悪
影響を及ぼすことになる。そのため、国際的二重課税の排除を行う必要がある。
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MIZUHO CHINA MONTHLY
2015 年6 月号
税務会計
③国際的二重課税の排除
国際的二重課税の排除には一般に免除法と控除法がある。免除法とは、主に源泉地の概念の
みを採用することにより、居住者が国内から稼得する所得以外についての課税を免除すること
で国際的二重課税を排除する方法である。控除法とは、一旦全世界所得について課税を行った
上で、外国を源泉地として発生した外国税額について自国の税額から控除することにより国際
的二重課税を排除する方法である。
3.租税条約
租税条約とは、国際的二重課税を排除することを目的として 2 国間で結ばれる条約をいい、
居住地の概念及び所得項目ごとの源泉地の概念が規定されている。また、世界的な調和を図る
目的から OECD 等の国際組織によりその統一化・標準化の努力が図られている。
4.給与及び役員報酬にかかわる基本概念
国内税法において、例えば日本における所得区分は次のような 10 種類となっている。
利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、
一時所得、雑所得。
一方、国際税務においては次のような所得分類が行われている。
給与所得、役員報酬所得、自由職業所得、配当所得、利子所得、使用料所得、事業所得、年
金所得。
ここで、日本国内税法と国際税務の間で、とりわけ個人の所得に関して最も重要な相違点と
して挙げられるのは、日本の区分における「給与所得」が、国際税務上の分類では「使用人給
与」と「役員報酬」に区分されていることである。具体的には、使用人給与は勤務地(勤務期
間)が源泉地の判断とされるのに対して、役員報酬は会社所在地がその源泉地の判断基準とさ
れる。
(1)国を跨ぐ雇用形態
国を跨ぐ雇用形態については、国内税法ではなく、先に国際税務の考え方に従った所得項
目により源泉地の判断を行った上で課税関係を処理する必要がある。その上で二重課税が
発生する場合は、居住地において外国税額控除の適用を受けることになる。
従って、例えば中国企業の役員が日本で勤務を行う場合は、国際税務(日中租税条約)の
所得分類及び源泉地区分に従い、その者が日本の居住者でない限りは日本における課税は
発生しない。但し、その者が日本における居住者となる場合は、日本において全世界所得
納税を行った後、中国で発生した税額について外国税額控除の適用を受けることになる。
(2)外国税額控除
外国所得税額控除限度額の範囲内で、海外で支払った外国税額を日本の税額から控除する
ことが認められている。
その年度に発生した国外所得(日本以外を所得の源泉地国とする所得)に関して納付する
その年度の外国税額について、その年度における日本の税額から控除することが原則とさ
れている。
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2015 年6 月号
税務会計
外国所得税額控除限度額 =その年分の所得税の額 × (その年分の国外所得総額 / その
年分の所得総額)
5.具体的取扱い
①日本出国に伴う取扱い
所得税基本通達(212-3)により「給与等の計算期間の中途において居住者から非居住者とな
った者に支払うその非居住者となった日以後に支給期の到来する当該計算期間の給与等のうち、
当該計算期間が 1 月以下であるものについては、その給与等の全額がその者の国内において行
った勤務に対応するものである場合を除き、その総額を国内源泉所得に該当しないものとして
差し支えない。」とされている。従って、非居住者に該当する場合については、出国後最初に
支払う給与については非課税となる。
②帰国に伴う取扱い
海外勤務者が帰国した場合は帰国の日から居住者として扱われる。居住者は全世界所得が課
税の対象であることから、帰国後最初に支払われる給与については、給与計算期間に国外勤務
があってもその全額が対象となる。従って、出国時の取扱いと異なるので注意が必要である。
帰国後最初に支払われる賞与についても、支給時は居住者として扱われるため、その計算期
間にかかわらず、全額が課税の対象となる。
③年末調整等の取扱い
所得控除の種類
赴任時
社会保険料控除、生命保険料控除、 居住者であった期間
帰任時
居住者であった期間
地震保険料控除
配偶者控除、配偶者特別控除、扶養
出国の日の現況により
帰国した年の最後に給与を支
控除、寡婦・寡夫控除、障害者控除
判断
給する日の現況により判断
雑損控除、医療費控除、寄付金控除
適用を受ける場合は確
適用を受ける場合は確定申告
定申告必要
必要
④住民票の転出との関係
所得税及び住民税の納税義務判断の基準となる「居住者」または「非居住者」を判定する際
の「住所」(各人の生活の本拠となる場所)の概念は、住民票の有無とは直接の関係がない。
厳密には、契約等によりあらかじめ予定された海外勤務の期間が 1 年以上であるかどうかによ
り居住者、非居住者の判断が行われる。
以上
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望月一央
MAZARS Mochizuki
瑪澤諮詢(中国)有限公司/上海瑪澤会計師事務所
パートナー
日本公認会計士
望月コンサルティングは 2014 年にフランス系国際会計事務所である MAZARS と統合
いたしました。
MAZARS は世界 72 ヵ国に 13,500 名のスタッフを有するワンファーム型国際会計事務
所であり、MAZARS 中国は上海、北京、広州、香港に総勢 700 名を擁し、今後も内陸
部へ事務所の開設を予定しております。また、アジア地域においては、インド、シ
ンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、ベトナム、ミャンマー等に拠点を
有し、ワンファームならではの緊密な連携により複合的なサービスを提供しており
ます。
MAZARS – Homepage
http://www.mazars.com
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みずほ銀行の中国ビジネスネットワーク
みずほ銀行(中国)有限公司
◎ 上海本店
● 大連支店
● 青島支店
上海市浦東新区世紀大道100号
上海環球金融中心
21階(業務窓口)、23階(来賓受付)
遼寧省大連市西崗区中山路147号
森茂大厦23階、24階-A
Tel:(86-411)83602543
山東省青島市市南区香港中路59号
青島国際金融中心44階
Tel:(86-532)80970001
中国営業第一部・第二部
● 大連経済技術開発区出張所
遼寧省大連市大連経済技術開発区
紅梅小区81号ビル古耕国際商務大厦22階
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● 無錫支店
● 武漢支店
江蘇省無錫市新区長江路16号
無錫科技創業園B区8階
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湖北省武漢市漢口解放大道634号
新世界中心A座5階
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中国アドバイザリー部
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中国営業開発部
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人民元国際化関連(ex.1219)
トレードファイナンス関連(ex.1220)
CMS関連(ex.1230)
シンジケーション関連(ex.1250)
外為関連(ex.1271)
その他商品(含債券)関連(ex.1203)
● 上海自貿試験区出張所
上海市浦東新区基隆路55号 上海国際信貿ビル7階
Tel:(86-21)38558888
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北京市朝陽区東三環中路1号
環球金融中心 西楼8階
Tel:(86-10)65251888
広東省広州市天河区珠江新城
華夏路8号合景国際金融広場25階
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● 蘇州支店
広東省深圳市福田区金田路
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江蘇省昆山市昆山開発区春旭路258号
東安大厦18階D、E室
Tel:(86-512)67336888
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新成東路20号濱海新区金融街
(東区)写字楼E2座ABC楼5階
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天津市和平区南京路75号
天津国際大厦1902室
Tel:(86-22)66225588
● 常熟出張所
江蘇省常熟高新技術産業開発区
東南大道333号科創大廈7階
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安徽省合肥市包河区馬鞍山路130号
万達広場7号写字楼19階
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○ 香港オフィス
○ 台中支店
東京都千代田区大手町1-5-5
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金鐘道88號太古廣場2座17階
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江蘇省南京市広州路188号
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