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心理学科公開講座感想

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心理学科公開講座感想
帝京大学 心理学紀要
2008. No.12, 107-108
心理学科公開講座感想
帝京大学心理臨床センター公開講座
「心理療法でできること・できないこと
∼しつけや教育・クスリとどこが違うの!?∼」
初夏の訪れも感じ始めた 2007 年 5 月 26 日(土)、帝京大学心理臨床センター公開講座が、
八王子キャンパス 1181 教室にて開催されました。今回の公開講座は「心理療法でできること・
できないこと∼しつけや教育・クスリとどこが違うの!?∼」と題され、講師として池田政俊
先生(帝京大学文学部心理学科教授)をお招きしました。その内容としては、パンフレットか
らそのまま抜粋させて頂ければ、
「カウンセリングや心理療法は万全ではないが、無意味でも
ない。何が期待できるのか、何を期待してはいけないのか。その目標や機序、方法について、
教育・しつけや薬物療法との異同を交えて、演者なりの視点でわかりやすく解説する」といっ
た内容でした。私個人としても、カウンセリングや心理療法に関連させて、教育や薬物療法と
の対比がどのように述べられるのか、池田先生の視点からどのようにお話が展開されていくの
か、非常に興味の湧く講演であり、数日前から楽しみにさせて頂いていました。
当日の会場は、開始 30 分前から早くも訪れる人が見え始め、もうすぐ講演が開始されると
いう頃には、大学構内の中でも比較的大きな教室である 1181 教室が、多くの聴衆で埋められ
ている程になっていました。講演に足を運んで下さった方々の様子を見渡してみると、おそら
く中学校や高校に通われているお子さんがいらっしゃると思われるご夫婦の方々、心理学に関
心が深いと思われる高校生や大学生ぐらいの方々など、多彩な年齢層が見受けられました。ど
の方も開始までの間、会場入場時に手渡された資料に目を通すなど、この講演に向けられた期
待や熱意が感じられる様子が窺えました。
開始時間丁度に、春日喬先生(帝京大学文学部心理学科教授)から今回の講演に当たっての
挨拶、講師の紹介などが行われました。春日先生は、帝京大学心理学科の紹介と本日の講師で
ある池田先生の紹介を行い、来場して下さった方々への謝辞を述べておられました。
そして、春日先生による挨拶が終了し、本日の講師である池田先生の講演が開始されました。
池田先生はスクリーンに映し出されたパワーポイントを用い、精神分析を基軸にした講演をさ
れていました。
最初に心理療法と教育、しつけの定義を行い、親子関係について触れていきました。「母親
は子どもに去られるために、そこにいなければならない」という Furman,E. の言葉を引用し、
そこから親にもたらされる“分離の痛み”について述べられ、それによって親には抑うつが
生じるといった話が展開されていきました。会場を埋めていた聴衆の方々、特に子育てに関わ
る親御さんにとっては、このような具体例をあげた理論的枠組みが、自身の感じる不安や戸惑
いに一定の解釈を与えるものであったように感じました。
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講演は、ここから抑うつについて述べられていきました。抑うつといった状態には、どのよ
うな経緯を経てなるのか、精神分析的観点や社会的観点からその発生機序について触れ、抑う
つの悪循環のシステムについて解説し、抑うつと薬物治療との関係性について展開されていき
ました。
こうした観点の解説を踏まえ、本日のメインテーマである心理療法的アプローチに、講演の
内容は移っていきました。池田先生からは、
“心理療法でできること”として、
(1)発散・リラッ
クス、
(2)自我の強化、
(3)発達の促進、
(4)洞察、(5)治療関係の内在化・その他の 5 つの
ポイントがあげられ、それに沿った講演がなされていました。(1)発散・リラックスでは、漸
進的弛緩法や自律訓練法などといった手法の紹介がなされ、(2)自我の強化では、自我強化と
認知との関係から、特に認知行動療法についての紹介が行われていました。
その内容としては、認知行動療法についての一般的定義を説明し、さらに学校や職場、人間
関係等の具体的な不適応状態の例などを取り上げながら、どのような分野を取り扱うのが得意
なのかといった紹介をされていました。そして、より詳しい説明として ABC モデルの紹介、
治療パッケージの紹介が行われていました。特に後者では、具体的な臨床問題としてパニック
障害や摂食障害などに対する治療パッケージの構成要素について述べられていました。私は特
に、うつ病について関心が高かったのですが、うつ病性障害に関する認知療法や行動療法の例
がその後に詳しく述べられていることで、初めてこの言葉に触れた方々にも理解しやすく、興
味を抱きやすい内容であったように思えました。
その後、講演は心理療法における発達の促進の役割について、クライエントの洞察に心理療
法がどのように関わるのか、
乳児と母親のコンティニングモデルを例にした治療関係の内在化、
といった内容について述べられていました。私個人としても、子どもの発達をどのように捉え
るかという、乳児と母親のコンティニングモデルの説明が印象深く、また会場を埋めた方々に
とっても自分自身に置き換えられる身近な例であったせいでしょうか、聴衆の方々の関心もひ
ときわ高いように感じられました。
講演は最後に“
「自分」らしく”あること、自分の人生を生きることはどういうことかに
ついて、池田先生ご自身の提言でまとめられ、終了を迎えました。
講演終了後は帝京大学の施設である心理臨床センターの見学も行われました。講演に参加さ
れた方々に、本学の地域的臨床活動の一端を紹介する良い機会になったようです。今後もこの
ような講座を通じ、帝京大学における地域に開かれた心理臨床活動が期待されます。
文責:高橋恵一(帝京大学大学院文学研究科 臨床心理学専攻 修士課程)
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帝京大学 心理学紀要
2008. No.12, 109-110
心理学科公開講座感想
帝京大学心理臨床センター公開講座
「最近の青少年の心のうちとそと 不適応行動を起こした子どもたち」
帝京大学公開講座として、平成 18 年 10 月 28 日に白倉憲二先生の講演が行われた。タイト
ルは、
「最近の青少年の心のうちとそと 不適応行動を起こした子どもたち」である。内容は、
長年家庭裁判所調査官として少年たちとかかわってこられた白倉先生の経験を交えながらの、
近年の非行少年の特徴や、少年たちの立ち直りへの支援のあり方に関するお話であった。私自
身、非行臨床に携りたいという志を持って帝京大学大学院の門を叩いたので、大変興味をもっ
て拝聴させていただいた。
講演の中で特に印象に残った部分は、少年の立ち直りを左右する要因についてである。その
要因の中でも、最も大切であると感じたものは、「少年は、必ず変わる」と信じることである。
少年の立ち直りの道のりは必ずしも平坦な道ではない。立ち直ったかに見えて何度も失敗を繰
り返すこともある。行きつ戻りつする少年を信じ、周囲が少年のゆっくりとした歩みに付き合
うことで、少年はやがて周囲の人々との心的つながりを取り戻し、立ち直っていくのではない
だろうか。大学院で様々な矯正施設や児童福祉施設に見学に行ったが、そこで働く職員の方た
ちの話の中にも随所に「決して少年を見捨てない」という強い想いが感じられた。少年の立ち
直りへの支援は、彼らを信じることから始まると再認識した。
変わるのは、少年だけではない。白倉先生の講演では、
「親が変わると少年も変わる」と、親
が変わり成長することの重要性も指摘されていた。親は、子どもの動揺につきあい、どうした
らよいか分からなくなっている少年の気持ちをうけとめなければならない。親自身のそれまで
の生き方や夫婦関係の修正を求められることもある。少年の立ち直りの過程は、少年と親が本
気でぶつかり合うことによってお互いに成長し、親子関係を作り直してゆく過程でもあると思
う。白倉先生が講演でおっしゃっていたように、
親子関係の作り直しの過程は苦しい作業である。
それには多くのエネルギーが必要であり、また親と子だけではなかなか解決の糸口が見出せな
いこともあると思う。少年や親が息切れしない為にも、地域の理解と協力が必要であろう。
今回の講演には、子どもたちの健全育成や、不適応への支援に対し関心をもった大勢の地域
の皆様にご参加いただいた。子どもたちに対する地域の方々の関心の高さがうかがえ、うれし
い限りである。また講演後、心理臨床センターに対する問い合わせや相談件数が増加したこと
から、今回の講演によって、地域の方々のメンタルヘルスに対する関心を喚起することにも貢
献できたのではないかと感じる。
今後は、地域全体が少年を必ず変わる存在であると信じ、地域ぐるみで少年の立ち直りを支
援していけたらすばらしいと思う。
文責:籔内秀樹(帝京大学大学院文学研究科 臨床心理学専攻 修士課程)
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